クラウディア・リョサの「Distancia de rescate」*サンセバスチャン映画祭2021 ④ ― 2021年07月28日 11:58
サマンタ・シュウェブリンの同名小説「Distancia de rescate」の映画化
(クラウディア・リョサ、主演のマリア・バルベルデとドロレス・フォンシ)
★クラウディア・リョサの長編4作目「Distancia de rescate」(仮題「救える距離」)は、監督初となるNetflix 作品、年内に鑑賞できる可能性が出てきました。リョサ監督は2作目「La teta asustada」がベルリン映画祭2009の金熊賞と国際批評家連盟賞を受賞、一躍国際舞台に躍りでた。日本では同じ年に開催された <2009 スペイン映画祭> に『悲しみのミルク』の邦題で上映された。さらにアカデミー賞外国語映画賞(現在の国際長編映画賞)のペルー初のノミネーション作品となった。当時は未だノーベル文学賞作家ではなかったが、伯父のマリオ・バルガス=リョサの知名度も幸いしたのか国際映画祭で引っ張り凧になった。
(ベルリナーレ2009の金熊を手にしたクラウディア・リョサ監督)
★サンセバスチャン映画祭SSIFFのセクション・オフィシアル部門にノミネートされるのは、「Distancia de rescate」が初めてですが、リョサはSSIFF 2010の審査員を体験している。2006年『マデイヌサ』で長編デビュー、3作目の「No llores, vuela」は英語映画で、原題は「Aloft」でした。本作はマラガ映画祭2014に正式出品されています。そして4作目となる本作でスペイン語に戻りました。リョサはマラガ映画祭2017の特別賞の一つ、現在は <マラガ才能賞―ラ・オピニオン・デ・マラガ> と改称されている <エロイ・デ・ラ・イグレシア賞> を受賞しています。1976年リマ生れ、国籍はペルーですが、2000年からバルセロナに拠点をおいています。キャリア&フィルモグラフィーは既に以下の項でアップしています。
*エロイ・デ・ラ・イグレシア賞&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2017年03月16日
*「No llores,vuela / Aloft」の紹介記事は、コチラ⇒2014年04月13日
(エロイ・デ・ラ・イグレシア賞のトロフィーを手にしたリョサ監督)
「Distancia de rescate」(英題「Fever Dream」)
製作:Gran Via Productions / Fabula / Wanda Films
監督:クラウディア・リョサ
脚本:クラウディア・リョサ、(原作)サマンタ・シュウェブリン
音楽:ナタリエ・ホルト
撮影:オスカル・ファウラ
編集:ギジェルモ・デ・ラ・カル
キャスティング:ロベルト・マトゥス
プロダクション・デザイン:エステファニア・ラライン
セット・デコレーション:アゴスティナ・デ・フランチェスコ
衣装デザイン:フェリペ・クリアド
メイクアップ:マルガリタ・マルチ
製作者:マーク・ジョンソン、トム・ウィリアムズ、(エグゼクティブ)サンドラ・エルミダ、ケン・メイヤー、ナターシャ・セルヴィ、(共同)フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、(ライン)エドゥアルド・カストロ
データ:製作国ペルー=スペイン=チリ=米国、スペイン語、2021年、ミステリー・ドラマ、93分、撮影チリ、期間2019年1月から3月、Netflix オリジナル作品
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2021コンペティション部門ノミネーション
キャスト:マリア・バルベルデ(アマンダ)、ドロレス・フォンシ(カロラ)、ギジェルモ・フェニング(アマンダの夫マルコ)、ヘルマン・パラシオス(カロラの夫オマール)、エミリオ・ヴォダノヴィッチ(カロラの息子、少年ダビ)、ギジェルミナ・ソリベス・リオッタ(アマンダの娘ニナ)、クリスティナ・バネガス(民間療法師)、マカレナ・バロス・モンテロ(幼女のママ)、マルセロ・ミキノー(幼児ダビ)
ストーリー:アマンダは家から遠く離れた病院のベッドで死に瀕していた。少年のダビがかたわらに付き添っている。アマンダは彼の母親ではなく、ダビも彼女の息子ではない。彼女の時が尽きようとしているので、少年は記憶するため矢継ぎばやに女性に質問をしている。アルゼンチンの片田舎の共同体を舞台に、壊れた精神の不安、待ち伏せしている未知の恐怖、子に対する母の愛の力、親と子を結びつけている細い糸についてが語られる。短編作家サマンタ・シュウェブリンが、初めて上梓した長編小説「Distancia de rescate」の映画化。
★2018年、Netflix が2021年中に配信予定の70作の一つとして本作を選んだ。原作「Distancia de rescate」(2014年ペンギンランダムハウス刊)は、2015年にティグレ・フアン文学賞*を受賞している。母と子の間に広がる暗い隔たり、母と子を繋ぐピーンと張った糸、母子関係の暗闇は、作家が最も頻繁に取り上げるテーマということです。物語の舞台はアルゼンチンの地方の静かなコミューンであるが、実際の撮影はラライン兄弟の制作会社「Fabula」の参加でチリで行われた。主人公のアマンダとカロラ(小説ではカルラ)の目を通して、母性に包囲されている共同体の恐怖を掘り下げる。
*1977年に創設されたスペイン語で書かれた作品に与えられる文学賞、賞名ティグレ・フアンは、オビエド出身の作家ラモン・ぺレス・デ・アヤラ(1880~1962)の小説 ”Tigre Juan y El curandero de su honra” からとられている。
★キャスト紹介:
〇アマンダ役のマリア・バルベルデ(マドリード1987)のキャリア&フィルモグラフィーについては、既にチリの監督アンドレス・ウッドの「Araña」(19、『蜘蛛』ラテンビート)、マリア・リポルのロマンティック・コメディ「Ahora o nunca」(15、『やるなら今しかない』Netflix)で紹介済みです。私生活では、2017年にベネズエラの指揮者グスタボ・ドゥダメルと結婚した。
*『蜘蛛』の紹介記事は、コチラ⇒2019年08月16日
*『やるなら今しかない』の紹介記事は、コチラ⇒2015年07月14日
〇カロル役のドロレス・フォンシ(アルゼンチンのアドログエ1978)のキャリア&フィルモグラフィーについては、サンティアゴ・ミトレの「La Patota」(15『パウリーナ』ラテンビート)と「La cordillera」(17『サミット』同)で紹介しています。ミトレ監督とは『パウリーナ』撮影中は恋人関係だったが、完成後に結婚した。セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』(16)では、リカルド・ダリンの従妹役を演じた。
*『パウリーナ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年05月21日
*『サミット』の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月18日
(マリア・バルベルデとドロレス・フォンシ、2019年2月)
〇マルコ役のギジェルモ・フェニング(アルゼンチンのコルドバ1978)は、俳優、監督、脚本家。1998年俳優デビュー、映画、TVシリーズを含めると83作に及ぶ。代表作としては、カンヌ映画祭2013に出品されたルシア・プエンソの「Wakolda」(『ワコルダ』ラテンビート)で、アルゼンチン・アカデミー賞の助演男優賞、アルゼンチン映画批評家連盟賞2014助演男優銀のコンドル賞を受賞、フリア・ソロモノフの「Nadie nos mira」でトライベッカ映画祭2017のインターナショナル部門の審査員男優賞などを受賞している。イサベル・コイシェのTVシリーズ「Foodie Love」(19、8話、HBO Europe配信)主演でスペインのファンを獲得している。監督作品としては、ミトコンドリア病(全身の筋肉疾患や心臓機能低下)の兄弟ルイス(愛称カイ)を主人公にしたドキュメンタリー「Caito」(短編04、長編12)を撮っている。
(『ワコルダ』でカンヌ入りしたギジェルモ・フェニング)
(「Nadie nos mira」で審査員男優賞を受賞したフェニングと
フリア・ソロモノフ監督、トライベッカ映画祭2017授賞式)
〇少年ダビ役のエミリオ・ヴォダノヴィッチは、エドゥアルド・ピント&フェルナンダ・リベイスのホームドラマ「Natacha, la pelicura」(17)でデビュー、ミゲル・コーハンのスリラー「La misma sangre」(19)でドロレス・フォンシと共演している。
★原作者サマンタ・シュウェブリンは、1978年ブエノスアイレス生れの小説家、ブエノスアイレス大学で現代芸術論を専攻した。現在はベルリン在住。短編集「Pájaros en la boca」(2010年刊)が、『口のなかの小鳥たち』の邦題で翻訳されており(2014年)、解説によると「Distancia de rescate」はその一部と繋がっているということです。少年ダビが女性アマンダに質問するという対話形式で始り、大人と子供という二つの好奇心旺盛な声が対話している。物事をよく知っている声は大人でなく子供、大人は逆に無邪気である。少年は女性と話しているのだが、同時に私たちにも語りかけて読み手を不安にさせる。アマンダはどうして幼い娘のニナから切り離され、自分が死の床にあるのか理解できないので、記憶を辿り始める。他に「Siete casas vacias」(15)が『七つのからっぽな家』として翻訳されている。
(小説「Distancia de rescate」の表紙と作家)
*追加情報:『悪夢は苛む』の邦題で、2021年10月13日よりネットフリックスで配信開始。
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