『笑う故郷』のデュオ監督のコメディ*サンセバスチャン映画祭2021 ⑳2021年09月10日 14:18

    ペルラス部門の開幕作品「Competencia oficial」はベネチアでプレミア

    

     

               (ペルラス部門のポスター)

 

★アルゼンチンのガストン・ドゥプラットマリアノ・コーンCompetencia oficialは、ベネチア映画祭コンペティション部門でワールドプレミアされ、サンセバスチャン映画祭では「ペルラス」部門のオープニング作品に選ばれたブラック・コメディ。キャストにスペインを代表するアントニオ・バンデラスペネロペ・クルス、両人ともドノスティア栄誉賞受賞者、アルゼンチンからはベネチアFF2016男優賞ヴォルピ杯の受賞者オスカル・マルティネスと豪華版、大ヒットした『笑う故郷』を超えられたでしょうか。ベネチアでは既に上映され、緊張と皮肉がミックスされた不愉快なコメディは、概ねポジティブな評価のようでした。かつて見たことのないバンデラスやクルスを目にすることができるか楽しみです。

『笑う故郷』(「名誉市民」)関連記事は、コチラ201610131023

   

          

      (カンヌ映画祭を揶揄した?「Competencia oficial」のポスター)

   

        

    (赤絨毯に現れたクルスをエスコートするバンデラス、ベネチアFF2021

   

    

    (勢揃いした左から、マリアノ・コーン監督、アントニオ・バンデラス、

   ペネロペ・クルス、オスカル・マルティネス、ガストン・ドゥプラット監督)

 

ペルラス部門はスペイン未公開に限定されますが、既に他の国際映画祭での受賞作品、評価の高かい作品が対象です。従って本作に見られるようにベネチア、カンヌ、ベルリン、トロント各映画祭の作品が散見されます。日本からはカンヌ映画祭で脚本賞を受賞した濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』がアウト・オブ・コンペティションで特別上映、ベルリン映画祭で審査員大賞を受賞した『偶然と想像』がコンペティションに選ばれています。ドノスティア(サンセバスチャン)市観客賞に5万ユーロ、ヨーロッパ映画賞に2万ユーロの副賞が出る。

 

 Competencia oficial / Oficial Competition

製作:The MediaPro Studio

監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン

脚本:アンドレス・ドゥプラット、ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン

撮影:アルナウ・バルス・コロメル

編集:アルベルト・デル・カンポ

プロダクション・デザイン:アライン・バイネ

美術:サラ・ナティビダ

セットデコレーション:クラウディア・ゴンサレス・カルボネル、ソル・サバン、パウラ・サントス・サントルム

衣装デザイン:ワンだ・モラレス

メイクアップ&ヘアー:マリロ・オスナ、エリ・アダネス、アルバ・コボス、パブロ・イグレシアス、(ヘアー)セルヒオ・ぺレス・ベルベル、他

プロダクション・マネージメント:ジョセップ・アモロス、アレックス・ミヤタ、他

録音:アイトル・ベレンゲル

製作者:ジャウマ・ロウレス、(エグゼクティブ)ハビエル・メンデス、エバ・ガリド、他

 

データ:製作国スペイン=アルゼンチン、スペイン語、2021年、ブラックコメディ、114分、撮影地スペイン、配給ブエナビスタ・インターナショナル・スペイン、公開スペイン2022114日、アルゼンチン120日、ロシア310

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2021コンペティション94日、トロント映画祭914日、サンセバスチャン映画祭ペルラス部門オープニング作品917

 

キャスト:ペネロペ・クルス(映画監督ロラ・クエバス)、アントニオ・バンデラス(ハリウッド俳優フェリックス・リベロ)、オスカル・マルティネス(舞台俳優イバン・トレス)、ホセ・ルイス・ゴメス(製薬業界の大物)、イレネ・エスコラル(大物の娘)、ナゴレ・アランブル、マノロ・ソロ、ピラール・カストロ、コルド・オラバリ、カルロス・イポリト、フアン・グランディネッティ、ケン・アプルドーン、他

 

ストーリー:超越と社会的名声を求めて、大富豪の実業家は自分の足跡を残すため映画製作に乗り出します。それを実行するため最高のものを雇います。監督には有名なロラ・クエバス、俳優にはこれまた超有名で才能あふれる2人を選びます。しかしハリウッドスターのフェリックス・リベロと過激な舞台俳優イバン・トレスはエゴの塊り、二人ともレジェンドになっていますが、正直のところ友人同士とは言い難いのです。クエバス監督によって設定され、どんどんエキセントリックになっていく一連の試練を通して、フェリックスとイバンはお互いだけでなく、自分自身の過去とも直面することになる。誇大妄想狂の億万長者から傑作を依頼されるロラの冒険物語であり、映画産業の危険性についての妄想的な解説でもある。

 


    (数トンもあるダモクレスの剣ならぬ岩の下で危険に命をかけている3人)

 

 

     映画産業についての少し悪意のこもったコメディ

 

★今年のベネチアのペネロペ・クルスは、アルモドバルのオープニング作品に選ばれたMadres paralelasと本作の主役で大忙し、よく働くと感心する。彼女が扮するロラは、非凡な才能をもっているがノイローゼ気味の独裁者、アーティストでプリマドンナだが壊れやすい。そしてこれ以上のキャスティングはないと思われる2人の俳優を選ぶが、二人は共演したことがない。アントニオ・バンデラス扮するフェリックス・リベロはハリウッド映画界きっての大スター、軽薄なファンに囲まれたセレブ、インターナショナルな商業映画では水を得た魚のように泳げるが・・・。片やオスカル・マルティネス扮するイバン・トレスは、スタニスラフスキー演技法を学んだ演劇界の大御所、インテレクチュアルなマエストロである。ただし揃いもそろってエゴの塊だ。

 

  

      (打ち合せ中のバンデラス、クルス、マルティネスとデュオ監督)

 

★脚本家のアンドレス・ドゥプラットは、ガストン・ドゥプラットの実兄、『笑う故郷』の執筆者、彼は建築家でアート・キュレーター、その経験を活かして執筆したのが『ル・コルビュジエの家』(09)、2012年に公開されたとき来日している。アンドレスは「最良の意味で、詐欺がアートにとって優れており不可欠なもの。無駄で利己的であることは、普通の人が行かないところへアーティストを行かせる」とラ・ナシオン紙のインタビューに語っている。マルティネスは「自我がなければ映画や本、政治的なものさえ存在しない。勿論、それをマスターしなければならない」と主張する。エゴはロバと同じで飼いならさなければならない。クルスは「虚栄心は飼いならさなければただの野生動物です」と。バンデラスは慎重に「エゴは金庫に入れておかねばならない」と。ロラ・クエバスのモデルはアルゼンチンの「サルタ三部作」や『サマ』の監督ルクレシア・マルテルの分身と言うのだが・・・

   

     

     (フェリックスとライオン・ヘアーの鬘がトレードマークのロラ)

 

★大富豪だが映画産業には精通しているとは思えないプロデューサーの野望のまえで危険に晒される。80歳になる依頼主は、イレネ・エスコラル扮する娘を主役にする条件で歴史に残る傑作を要求する。ホセ・ルイス・ゴメスは、アルモドバルの『抱擁のかけら』で若い愛人P.P.を繋ぎとめるために映画出演させる実業家に扮した俳優、誇大妄想狂な実業家ということで目配せがありそうです。この映画のプロットはいただけませんでしたが、過去の映画やシネアストたちへのオマージュ満載で大いに楽しめた。デュオ監督の新作にも期待していいでしょうか。

    

      

(カンヌらしき映画祭の赤絨毯に現れたロラ、フェリックス、大富豪の娘、大富豪、

ロラの衣装はSSIFF2020開幕司会者カエタナ・ギジェン・クエルボの衣装と同じか?)

 

★ガストン・ドゥプラット監督によると、クランクインはスペインで2020年の2月、しかしパンデミックで7ヵ月間中断してしまった。しかしその期間に創造性を推敲する時間がもてたと述べている。アルゼンチンとイタリアを行き来するには10日間の隔離期間をクリアーしなければならないから、合間に仕事をするのは難しいとも語っている。アドリア海に浮かぶリド島には、『笑う故郷』(当ブログでは原題の『名誉市民』)で訪れている。主役のオスカル・マルティネスが男優賞ヴォルピ杯を受賞している。デュオ監督はヤング・ベネチア賞スペシャル・メンション他を受賞している。

 

     

       (男優賞受賞のオスカル・マルティネス、ベネチアFF2016

 

ジャウマ・ロウレス(バルセロナ1950)は、制作会社メディアプロのCEO、バルセロナ派を代表する製作者、昨年のSSIFF開幕作品、ウディ・アレンRifkins Festivalほか、『それでも恋するバルセロナ』、『ミッドナイト・イン・パリ』などを手掛けている。フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』でスタート、ハビエル・バルデムを主役にセクション・オフィシアルにノミートされているEl buena patrón、最後のガローテ刑の犠牲者サルバドール・プッチ・アンティックを主人公にしたマヌエル・ウエルガの『サルバドールの明日』、ハビエル・フェセル『カミーノ』ゴヤ賞2009作品賞を受賞している。アレックス・デ・ラ・イグレシアのドキュメンタリー『メッシ』、ドゥプラット作品ではMi obra maestra18)をプロデュースしている。バルセロナに彼の名前を冠した通りがあるとかで、本作の大富豪と何やら共通点がありそうなのでアップしました。

   

      

         (ドゥプラットの「Mi obra maestra」のポスター)

 

★劇中ではいがみ合った3人も、撮影中は笑いが絶えなかったという主演者、「こんなに笑ったことはないし、笑いは体制をも転覆させる。演技中も楽しかった」とバンデラス、「ロラは解放者で滑稽、魅力的な精神病質者、素晴らしいアイディアのインテリ、ただしおバカで自己中心的」とクルス。サンセバスチャン映画祭出席のリストにクルスと、「El buena patrón」主演のハビエル・バルデムの出席はアナウンスされています。ペルラス部門はメインでないからアルゼンチン組の現地入りの可能性は少ない。いずれにしても本作は字幕入りで鑑賞できますね。

 

開幕作品はアルゼンチンの「Jesús López」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑯2021年08月30日 13:41

       4弾――マキシミリアノ・シェーンフェルドの「Jesús López

 

      

 

★ホライズンズ・ラティノ部門オープニング作品に選ばれたJesús Lópezは、アルゼンチンのマキシミリアノ・シェーンフェルドの長編第3作目、サンセバスチャン映画祭がワールドプレミアです。他に長編ドキュメンタリー2作、短編を数本撮っている。アルゼンチンのエントレリオス州クレスポ生れの監督、脚本家、作家。新作はレーシングドライバーだった従兄ヘスス・ロペスのアイデンティティを引き継ぎたい10代の若者アベルの物語。WIP Latam 2020作品。

 

Jesús López(アルゼンチン=フランス)

製作:Murillo Cine(アルゼンチン)/ Luz Verde(フランス)

監督:マキシミリアノ・シェーンフェルド

脚本:マキシミリアノ・シェーンフェルド、(原作)セルバ・アルマダのChicas Muertas

撮影:フェデリコ・ラストラ

音楽:ハビエル・ディス

編集:アナ・レモン

録音:ソフィア・ストラフェイス

製作者:ヘオルヒナ・Baish、セシリア・サリム(Murillo Cine)、マキシミリアノ・シェーンフェルド、ルセロ・ガルソン(Luz Verde

 

データ:製作国アルゼンチン=フランス、スペイン語、2021年、ドラマ、90分、WIP Latam 2020作品、撮影地エントレリオス州バジェ・マリア、期間20192月~202012月。エントレリオス地域基金、メトロポリタン基金、フランスのシネ・ナショナル・センターCNC基金、INCAA他の協力を得ている。販売代理店Pluto Film

映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭2021ホライズンズ・ラティノ部門ノミネート、オープニング作品。

 

キャストルカス・シェル、ホアキン・スパン、ソフィア・パロミノ、イア・アルテタ、アルフレッド・セノビ、パウラ・ランセンベルク、ロミナ・ピント、ベニグノ・レル、他

 

ストーリー:若いレーシングドライバーのヘスス・ロペスが交通事故で亡くなり、町はショック状態に陥った。目的のないティーンエイジャーであるヘススの従弟アベルは、彼の身代りになりたいと次第に思うようになった。ヘススの両親の家に落ちつき、彼の服を着て友人や元のガールフレンドと一緒に出かけたりした。最初は町の人もそれを受け入れ、アベル自身もこの役が気に入っていた。しかし従兄とそっくりであることが彼を不安にさせ、ヘスス・ロペスに変身するほどまでになる。町ではヘススに敬意を表してレースが企画され、アベルは従兄の精神に勇気づけられ故人の車を走らせる。このレースの結果は、変身が本物だったのかどうかを決定するだろう。

 

      

          (アベル役のルカス・シェル、フレームから)


      

   

 

★監督紹介:マキシミリアノ・シェーンフェルドSchonfeld (アルゼンチン、エントレリオス州クレスポ1982)は、監督、脚本家、製作者。コルドバ国立大学で映画とTVの制作を3年間学んだ後、国立映画実験制作学校ENERCを卒業。2007年短編数本を撮った後、2011年にTVシリーズ「Ander Egg」、2012TVミニシリーズ「El lobo」で高い評価を得る。長編劇映画デビュー作Germaniaがブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICI 2012特別審査員賞とFEISAL賞を受賞、同年ハンブルク映画祭で初監督作品に贈られるヤング・タレント賞を受賞、リオやハバナなど国際舞台にデビューした。コペンハーゲン・ドキュメンタリー映画祭から招聘され、カドリー・コーサールと中編Auster14)を共同監督する。

 

★ミステリアスな長編2作目La helada negraがマル・デル・プラタ映画祭2015、次いでベルリン映画祭2016パノラマ部門にノミネート、トゥールーズ、ハバナ、香港、ハイファなどの映画祭に正式出品された。第3作にも起用されたルカス・シェルベニグノ・レルがクレジットされている。長編3作目が本作「Jesús López」である。国内外の映画祭審査員を選ばれるなど活躍の場を広げている。

     

       

     (主演のアイリン・サラスを配したLa helada negra」のポスター)

 

2016年、初めてドキュメンタリーLa siesta del tigreがドク・リスボア映画祭にノミネート、コスキン音楽祭ドキュメンタリー賞を受賞した。2019年ドキュメンタリーLuminumを撮っている。

       

    

           (マキシミリアノ・シェーンフェルド)

 

セルバ・アルマダ(エントレリオス1973の恐怖のクロニクル Chicas Muertas2014年刊)がベースになっているということでしたが、原作はアルゼンチンで1980年代にそれぞれ別の州(チャコ、コルドバ、エントレリオス)で実際に起きた若い3人の女性殺害事件のノンフィクション。作家が初めてノンフィクションに挑戦して、当時ヒホンのノンフィクション賞などを受賞している話題の作品。テーマはジェンダー差別にもとづく暴力が無処罰に終わることへの怒りが原動力になっている。本作「Jesús López」とどのようにリンクするのか分かりません。アベルの物語とありますが、タイトルになった事故死したヘスス・ロペスの物語かもしれません。

 

   

       (セルバ・アルマダと Chicas Muertas の表紙

 

★本作はエントレリオス州バジェ・マリアで20192月にクランクイン、翌年の3月まで間隔をおいてバジェ・マリアとその近郊で撮影された。しかしコロナウイリス感染拡大で中断、再開されたのは202012月、1ヵ月で終了させた。従ってWIP Latam 202063分)で上映されたのは最終部分が含まれていないことになる。バジェ・マリア市は前作La helada negraの撮影地でもあり今回が2度目になる。19世紀末にドイツ移民によって開拓され、現在は観光地になっているが、小さな市町村にとってロケ地になることの経済効果は大きい。エキストラ募集、輸送、ケータリング、宿泊施設の提供、更にはバジェ・マリアの景観や文化を世界に紹介して貰えることで、監督以下クルーに感謝状のオマケがついた。

 

        

             (バジェ・マリアでの撮影風景)

  

アルゼンチンのイネス・マリア・バリオヌエボの新作*サンセバスチャン映画祭2021 ⑦2021年08月02日 16:58

       コンペティションにイネス・バリオヌエバの「Camila saldrá esta noche

 

     

               (主人公のカミラ)

 

★セクション・オフィシアルの第一陣としてアナウンスされたイネス・バリオヌエバの第4作目Camila saldrá esta nocheは、サンセバスチャン映画祭 SSIFF コンペティション部門に初参加した3作の一つです。この朗報は「目が眩むほどでした。部屋の中をスキップして走り回りしました。Julia y el zorro  SSIFF に行ったことはありますが、魅了されているテレンス・デイビスと同じセクションだなんて、もうクレージーよ」と、アルゼンチンはコルドバ生れの監督は喜びを隠さない。どんな映画なのでしょうか。

 

Camila saldrá esta noche / Camila Comes Out Tonight

製作:Aeroplano Cine / Gale Cine

監督:イネス・マリア・バリオヌエボ

脚本:アンドレス・アロイ(オリジナル脚本)、イネス・マリア・バリオヌエボ

撮影:コンスタンサ・サンドバル

編集:セバスティアン・シュヤーSchjaer

音楽:リベラ・ムシカRivera Música

製作者:セバスティアン・アロイ(Aeroplano Cine)、ルイス・フェルナンド・ブスタマンテ(Gale Cine)、マルティン・ブルリッヒ

   

データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、2021年、ドラマ、100分、製作費65万ドル(推定)

映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭2021セクション・オフィシアル正式出品

 

キャスト:ニナ・ジエンブロウスキーDziembrowski(カミラ)、アドリアナ・フェレール(ビクトリア)、カロリナ・ロハス(マルティナ)、マイテ・バレロ(クララ)、フェデリコ・サック(パブロ)、ディエゴ・サンチェス

 

ストーリー:未熟だが激しい気性の少女カミラの物語。ブエノスアイレスで暮らす祖母が重病になり、一人娘である母親が介護することになった。カミラはラプラタのリベラルな公立高校から魅力的なレコレタ地区にある私立の伝統的なカトリック校に転校する。突然の友人たちとの別れ、シングルマザーの家庭に起きる問題に巻き込まれる。カミラの未熟だが激しい気性は、状況の急激な変化に試練を受けるが、大都会で彼女を待ち受けていた可能性と体験が組になって彼女を魅惑する。

 

      

              (公立高校の友人たち、映画から)

 

イネス・マリア・バリオヌエボ(コルドバ1980)は、監督、脚本家。マラガ映画祭2020ZonaZineソナチネ部門に出品されたガブリエラ・ビダルと共同監督した3作目Lxs chicxs de las motitos20)が、イベロアメリカ映画賞銀のビスナガを受賞、主演のカルラ・グソルフィノが同女優賞を受賞している。長編デビュー作Atlántidaは、ベルリン映画祭2014年のジェネレーション14plus部門と初監督作品賞にノミネート、アルゼンチン映画批評家連盟2015(銀のコンドル)のオペラ・プリマ賞にノミネートを受けている。第2作目「Julia y el zorro」はSSIFF2018(ニューディレクターズ部門)とアトランタ映画祭2019にノミネートされ、後者では撮影監督エセキエル・サリナスが特別審査員賞を受賞した。「未だコロナウイリスがなかった時だったが、今回も皆で出かけられ、一緒に映画を見られますように」と監督。

   

    

           (撮影中のイネス・マリア・バリオヌエボ監督)

   

    

            (デビュー作「Atlántida」のポスター)

 

★サンセバスチャン映画祭の朗報は715日にもたらされ、正式には19日に発表された。アルゼンチンのフリア・モンテソロのインタビューに「カミラはラプラタで暮らす17歳の高校生、フェミニストで行動派に設定した。オリジナル脚本はアンドレス・アロイだが、私の視点を加えて完成させた。アンドレスと一緒に猛スピードで働き、撮影は2020年の1月にクランクイン、3月に終了したときには私はへとへとでした」と応えている。思春期にある若者たちの混沌に魅了されているとも語っている。デビュー作の「Atlántida」も同じ思春期がテーマだった。

  

      

   (SSIFFニューディレクターズ部門ノミネートの「Julia y el zorro」のポスター)

 

アルゼンチン映画 『明日に向かって笑え!』*8月6日公開2021年07月17日 16:26

           ダリン父子がドラマでも父子を共演したコメディ

     

          

                             (スペイン語版ポスター)

 

セバスティアン・ボレンステインLa odisea de los giles(英題「Heroic Losers」)が明日に向かって笑え!の邦題で劇場公開されることになりました。いつものことながら邦題から原題に辿りつくのは至難のわざ、直訳すると「おバカたちの長い冒険旅行」ですが、無責任国家や支配階級に騙されつづけている庶民のリベンジ・アドベンチャー。リカルド・ダリンとアルゼンチン映画界の重鎮ルイス・ブランドニが主演のコメディ、2年前の2019815日に公開されるや興行成績の記録を連日塗り替えつづけた作品。本当は笑ってる場合じゃない。公開後ということで、9月にトロント映画祭特別上映、サンセバスチャン映画祭ではアウト・オブ・コンペティション枠で特別上映された。ダリンの息チノ・ダリンがドラマでも息子役を演じ、今回は二人とも製作者として参画しています。

 

      

         (ドラマでも親子共演のリカルド・ダリンとチノ・ダリン)

 

La odisea de los giles」の作品紹介は、コチラ20200118

ボレンステイン監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20160430

リカルド・ダリンの主な紹介記事は、コチラ20171025

チノ・ダリンの紹介記事は、コチラ20190115

 

★公式サイトと当ブログでは、固有名詞のカタカナ起しに違いがありますが(長音を入れるかどうかは好みです)、大きな違いはありません。リカルド演じるフェルミンの友人、自称アナーキストのバクーニン信奉者ルイス・ブランドニ、フェルミンの妻ベロニカ・リナス(ジナス)、実業家カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセ、などのキャリアについては作品紹介でアップしています。悪徳弁護士フォルトゥナト・マンツィ役アンドレス・パラ、銀行の支店長アルバラド役ルチアノ・カゾー、駅長ロロ・ベラウンデ役ダニエル・アラオスなど、いずれご紹介したい。

 

     

            (監督と打ち合わせ中のおバカちゃんトリオ)

 

★原作(La noche de la Usina)と脚本を手掛けたエドゥアルド・サチェリは、大ヒット作『瞳の奥の秘密』09)でフアン・ホセ・カンパネラとタッグを組んだ脚本家、ボレンステイン監督とは初顔合せです。大学では歴史を専攻しているので時代背景のウラはきちんととれている。

『瞳の奥の秘密』の作品紹介は、コチラ20140809

 

★作品紹介の段階では、受賞歴は未発表でしたが、おもな受賞はアルゼンチンアカデミー賞2019(助演女優賞ベロニカ・リナス)、ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞、ホセ・マリア・フォルケ賞2020ラテンアメリカ映画賞、シネマ・ブラジル・グランプリ受賞、ハバナ映画祭2019、アリエル賞2020以下ノミネート多数。

 

      

     (ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞のトロフィーを手にした製作者たち)

 

ネット配信、ミニ映画祭、劇場公開、いずれかで日本上陸を予測しましたが、一番可能性が低いと思われた公開になり、2年後とはいえ驚いています。公式サイトもアップされています。当ブログでは原題でご紹介しています。

  

13県の公開日202186日から順次全国展開、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、ほか。新型コロナウイリスの感染拡大で変更あり、お確かめを。

アルゼンチン映画「Karnawal」*マラガ映画祭2021 ⑱2021年06月13日 18:38

        フアン・パブロ・フェリックスのデビュー作「Karnawal

 

      

 

フアン・パブロ・フェリックスのデビュー作Karnawalは、昨年トロント、グアダラハラ、オスロなど既に国際映画祭巡りをしてマラガにやってきました。アルゼンチン映画とはいえブラジル、チリ、メキシコ、ボリビア、ノルウェーとの合作。キャストにチリのベテラン俳優アルフレッド・カストロ、ガウチョ起源のタップダンス「マランボ」のダンサーに、マランボ・ワールドチャンピオンを連覇しているマルティン・ロペス・ラッチを起用、二人は複雑な父子関係を演じます。ボリビアと国境を接するアルゼンチン最北西部の州フフイで撮影された。マラガFFでは3日めの65日に上映され、監督以下主演演者二人も来マラガしてプレス会見に臨んだ。特に過去の暗部に縛られた父親を演じたカストロは、同じセクション・オフィシアルにノミネートされているクラウディア・ピントLas consecuenciasにも主演していることから、メディアのインタビューに追われているようでした。

   


      

     

  (マルティン・ロペス・ラッチ、監督、アルフレッド・カストロ、65日フォトコール)

 

Karnawal2020

製作:Bikini Films(アルゼンチン)/ Moinhos Produçoes Artisticas(ブラジル)/

   Picardia Films(チリ)/ Phottaxia Pictures(メキシコ)/ Londra Films(ボリビア)/

   Norsk Filmproduksjon(ノルウェー)

監督・脚本:フアン・パブロ・フェリックス

音楽:レオナルド・マルティネリ、Tremor

撮影:ラミロ・シビタ

編集:エドゥアルド・セラーノ、ルス・ロペス・マニェ

キャスティング:マリア・ラウラ・ベルチ

プロダクション・デザイン:セサル・モロン

美術:ダニエラ・ヴィレラ

衣装デザイン:レジナ・カルボ、ガブリエラ・バレラ・ラシアル

メイクアップ:ナンシー・マリグナク

プロダクション・マネージメント:マリア・カルカグノCalcagno

製作者:アレクシス・ロディル、フリーダ・トレスブランコ、(エグゼクティブ)エドソン・シドニー、ほか多数

 

データ:製作国アルゼンチン、ブラジル、チリ、メキシコ、ボリビア、ノルウェー、スペイン語、2020年、ドラマ、95分、撮影地アルゼンチンのフフイ州、ボリビアのビリャソン、両国の国境地帯ほか

映画祭・受賞歴:トゥールーズ映画際2020正式出品、20216月アルフレッド・カストロ栄誉賞受賞、トロントTIFF、グアダラハラ映画祭、監督賞・男優賞(アルフレッド・カストロ)受賞、オスロ映画祭、サンタバーバラ映画祭2021、マラガ映画祭など

 

キャスト:マルティン・ロペス・ラッチ(カブラ)、アルフレッド・カストロ(カブラの父エル・コルト)、モニカ・ライラナ(母ロサリオ)、ディエゴ・クレモネシ(母の恋人エウセビオ)、他

 

ストーリー:カブラはボリビアの国境近くのアルゼンチン北部で母親と暮らしている。若者の夢はガウチョのフォルクローレのタップダンス、マランボのプロフェッショナルになることである。目前に迫ったカーニバルは、マランボ・ダンサーにとって最も重要な祭り、その準備に余念がない。ところが思いがけず詐欺師の父エル・コルトが数日間の休暇をもらって刑務所から戻ってくる。エル・コルトはカブラとその母親をミステリアスな旅に誘い出す。エル・コルトの真意が分からぬまま、母と息子は既に暴力と犯罪の危険に晒されていることに気づくだろう。カーニバルはディアブロも目覚めさせてしまうのだ。カブラはカーニバルのマランボ・コンクールに間に合うでしょうか。自分の夢を実現するために父を捨てることができるでしょうか。父と息子の境界線、父と母とその恋人との三角関係、アルゼンチンとボリビアの国境線、自由の息吹きとしてのアートの役割を織り交ぜて、ドキュメンタリーの手法を取り入れたロードムービー。

 

        

                 (再会した父と息子

 

 

      自由の息吹きとしての芸術の役割――ガウチョ起源の<マランボ>の魅力

 

★タイトル「Karnawal」は、先住民語のケチュア語とスペイン語の造語でカーニバルを指す。マランボMalamboというのは、アルゼンチン伝統の男性だけのフォルクローレ、もともとはガウチョ起源のタップダンスで、ガウチョの衣装とブーツ姿で踊る。映画に見られるように毎年マランボ・コンテストがあり、カブラを演じたマルティン・ロペス・ラッチはマランボ・チャンピオンを連覇しているプロフェッショナルだそうです。当ブログでは、ベルリン映画祭2018に正式出品されたサンティアゴ・ロサMalambo, el hombre buenoを紹介しています。こちらのダンサーはプロのガスパル・ホフレです。

Malambo, el hombre bueno」の紹介は、コチラ20180225

 

  

             (マランボを踊るマルティン・ロペス・ラッチ、映画から)

 

       

   

(カブラと母ロサリオ役のモニカ・ライラナ)

  

   

         (刑務所から戻ってきたエル・コルト役のアルフレッド・カストロ

 

★監督紹介:フアン・パブロ・フェリックスは、1983年ブエノスアイレスのアレシフェス生まれ、監督、脚本家、製作者。ENERC卒業、学位取得後7年間、FXスタントチームの総プロデューサーとして特殊効果やアクション・デザインを手掛ける。TVシリーズ、短編、コマーシャル(アルゼンチン、スペイン)を製作後、2020年「Karnawal」で長編デビューした。2021年ドキュメンタリーFuerzas vivasを撮る。

 

    

       (第35回グアダラハラ映画祭2020監督賞受賞のフアン・パブロ・フェリックス)

 

★プレス会見で、「カーニバルの重要性は、人々を解放し、変革をもたらす自由の息吹きを秘めているからです。この地域の人々は普段はそっ気なく控えめですが、カーニバルがやってくると、伝統に則った象徴性とメタファーを通して自由奔放になります。それはカーニバルの数日間は悪魔から解放されるからです」と監督。また「レゲトンの商業的攻勢にもかかわらず、世代を超えてこのように文化遺産が守られていることに感動する」ともコメントした。

 

         

                 (左から、ロペス・ラッチ、監督、カストロ、プレス会見)

 

★父親エル・コルト役のアルフレッド・カストロは、「この映画は女性の視点から見ると、とても優れた深遠な興味を起させる外観をもっている。この文脈からはほとんど気づかれませんが、男性のマチスモが反映されています。というのも男性は驚くほど何もしません。毎日働くのは女性たち、商いをするのも、国境を越えるのも、すべて女性です」とコメントした。

 

      

     (息子を危険に晒す父親エル・コルト、アルフレッド・カストロ)

 

★授賞発表が迫ってきていますが、カストロの男優賞受賞はかなりの確率でアリでしょうか。最優秀作品賞の金のビスナガは、スペイン映画とイベロアメリカ映画から1作ずつ選ばれます。後者は8作と作品数も少ないから、もしかしたら受賞するかもしれない。


エドゥアルド・クレスポの「Nosotros nunca moriremos」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑰2020年10月04日 10:30

          セクション・オフィシアル部門にノミネートされたアルゼンチン映画

   

      

 

★ラテンアメリカ諸国からコンペティション部門に唯一ノミネートされた、エドゥアルド・クレスポの第3作目Nosotros nunca moriremosは、賞には絡めませんでしたが評価の高かった作品でした。上質のロードムービーのようで、主役の母親を演じたロミナ・エスコバルがトランスセクシュアルということも話題のようでした。クレスポは撮影監督でもあり、昨年のホライズンズ・ラティノ部門のオリソンテス受賞作品ロミナ・パウラDe nuevo otra vezを手掛けています。新作はラテンアメリカ映画の登竜門的セクションであるホライズンズ・ラティノではなくコンペティション部門ということで、コロナ禍の状況下にしては監督以下大勢が現地入りしていました。今年は中止と諦めかけていたラテンビート2020がオンラインで開催されるということで、もしかしたらと期待してアップしておきます。

De nuevo otra vez」の作品紹介は、コチラ20190910

    

         

     (ロミナ・エスコバルとエドゥアルド・クレスポ、923日のフォトコール)

 

 Nosotros nunca moriremos(「We Well Never Die」)2020

製作:SANTIAGO LOZA / RITA CINE / PRIMERA CASA / EDUARDO CRESPO

監督:エドゥアルド・クレスポ

脚本:エドゥアルド・クレスポ、サンティアゴ・ロサ、リオネル・ブラベルマン

撮影:イネス・ドゥアカステージャ

音楽:ディエゴ・バイネル

編集:ロレナ・モリコーニ

製作者:サンティアゴ・ロサ、エドゥアルド・クレスポ、ラウラ・マラ・タブロン

 

データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、ドラマ、83分、スペイン公開20213月予定

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020セクション・オフィシアル部門正式出品、スペイン協力賞ノミネート

 

キャスト:ロミナ・エスコバル(母)、ロドリゴ・サンタナ(次男ロドリゴ)、ジェシカ・フリッケル(消防士)、ジョヴァンニ・ぺリツァーリ(消防士)、ブライアン・アルバ(長男)、セバスティアン・サンタナ、他

 

ストーリー:母親はロドリゴを連れて、22歳になる長男が死んだばかりという小さな町を訪れている。息子の遺体を確認し埋葬するためである。この穏やかな土地で服喪の最初の時間が流れる。次男ロドリゴは大人たちの痛みを垣間見ながら、それとは気づかれずに子供時代に別れを告げるだろう。母親は息子の死の謎を明らかにしたいと思っているが、それは彼の過去の人生を辿ることでもあった。この透明な映画は、愛を捧げようとする孤独な人々のメランコリックで控えめなユーモアに溢れている。家族間で露わになる記憶の合流をパラレルに描くことで、それぞれが自身と向き合うことになるだろう。時が止まったような忘れられた土地を彷徨う上質のロードムービー。 

 

 

エドゥアルド・クレスポ紹介、1983年アルゼンチンのエントレ・リオス州クレスポ生れ、監督、脚本家、撮影監督、製作者。2012年、長編Tan cerca como pueda(マル・デル・プラタ映画祭正式出品)、2016年、生れ故郷クレスポについてのドキュメンタリーCrespoLa continuidad de la memoria、サンティアゴ・ロサと共同監督したTVシリーズDoce casas : historia de mujeres devotas14)は、マルティン・フィエロ賞ほかを受賞した。撮影監督としては上記のDe nuevo otra vez」の他、サンティアゴ・ロサBreve historia del planeta verde19)、イバン・フンドHoy no tuve miedo11)などが挙げられる。

     

       

★主役のロミナ・エスコバルとサンセバスチャンの散策も楽しんだ監督、「ここに来られることが夢でした」。その理由を言う必要はありませんね。ロミナのほうが注目されても彼女の傍らで静かに見守りながらにこやかに対応する監督、映画と同じように静謐で控えめな監督は、アルゼンチンの農村部で暮らす人々に敬意を表する映画を撮った。

 

       

       (クルサール会場近辺を散策するクレスポ監督とロミナ・エスコバル)

 

ロミナ・エスコバル(ブエノスアイレス1974)は、主役の母親に抜擢された。昨年のベルリン映画祭2019パノラマ部門に出品された「Breve historia del planeta verde」は、ロサ監督がテディー賞テディー・リーダー賞2冠を受賞した作品。本作ではロミナ・エスコバルはトランスセクシュアルのDJ役になった。アルゼンチンではかなり注目されているスターのようで、TVシリーズPequeña Victoria1949話)出演で人気があるようです。新作ではトランスセクシュアルでない役柄に抜擢され「トランスセクシュアルの役柄ばかりでうんざりしていました。今回の母親役で、私が尊敬し、人生で私を支えてくれたアルゼンチンのすべての女性に敬意を表します」と、サンセバスティアンで語っている。アルゼンチンのTV局ともスカイプでインタビューを受けるほどの人気ぶりです。2006年のドノスティア栄誉賞受賞者マット・デイモンのツーショットや大ファンのヴィゴ・モーテンセンにも会え、大いに映画祭を楽しんだようです。

Breve historia del planeta verde」の作品紹介は、コチラ20190219

   

      

                    (母親役のロミナ・エスコバル、映画から)

  

              

            (ロドリゴ役のロドリゴ・サンタナ)

 

   

(消防士に扮するなるジョヴァンニ・ぺリツァーリとジェシカ・フリッケル)

 

   

                          (母親とロドリゴ)

 

   

       (「Breve historia del planeta verde」のポスター)

 

 

★映画祭はとっくに終了してしまいましたが、気になりながら割愛していた作品を、1119日から開催されるラテンビートを視野に入れてアップできたらと思っています。


金貝賞を競うスペイン映画は2作*サンセバスチャン映画祭2020 ④2020年08月02日 12:49

     セクション・オフィシアルにパブロ・アグエロとアントニオ・メンデス・エスパルサ

 

                 

                    (セクション・オフィシアルのポスター)

 

730日、コンペティション部門、コンペティション外ほか、ニューディレクターズ部門、サバルテギ-タバカレラ部門などがアナウンスされました。スペイン映画はコンペにパブロ・アグエロAkelarreアントニオ・メンデス・エスパルサCourtroom 3H(「Sala del Juzgado 3H」)の2作が金貝賞を競うことになりました。他にアウト・コンペティションには、ロドリゴ・ソロゴジェンTVシリーズAntidisturbios(全6話のうち2話)、特別上映作品としてアイトル・ガビロンドPatriaがエントリーされた。コンペ外のウディ・アレンの新作Rifkin's Festivalはオープニング作品です(アップ済み)。

 

 

              セクション・オフィシアル

 

       

Akelarre  (スペイン=フランス=アルゼンチン)2020

製作:Sorgin Films / Kowalski Films / Lamia Producciones

監督:パブロ・アグエロ

脚本:パブロ・アグエロ、Katall Guillou

撮影:ハビエル・アギーレ

音楽:マイテ・アロタハウレギ、アランサス・カジェハ

編集:テレサ・フォント

録音:ウルコ・ガライ、ホセフィナ・ロドリゲス

特殊効果:マリアノ・ガルシア、アナ・ルビオ、他

製作者:フレド・プレメル、グアダルーペ・バラゲル・Trellez、(エグゼクティブ)コルド・スアスア、他

     

データ:製作国スペイン、フランス、アルゼンチン、言語スペイン語・バスク語、2020年、スリラー・ドラマ、90分、撮影地ナバラ州レサカ、公開予定スペイン10月2日、フランス2021年3月24日

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020セクション・オフィシアル

        

パブロ・アグエロ(メンドサ1977)は、本映画祭2009ニューディレクターズ部門に77 Doronshipで登場、同2015セクション・オフィシアルにEva no duerme、当ブログではノミネート紹介だけでしたが、ガエル・ガルシア・ベルナルやイマノル・アリアスなどが出演していて、今回のAkelarre」と同じくアルゼンチン西仏合作でした。アルゼンチンのメンドサ出身だがスペインやフランスとの合作が多く、バスクに軸足をおいている監督です。今回のノミネート作品も17世紀のバスクを舞台にした魔術による裁判のプロセスに着想を得た歴史ドラマで、長編第5作めになる。

 

      

                 (パブロ・アグエロ監督)

   

キャスト:アレックス・ブレンデミュール(ロステギ裁判官)、アマイア・アベラスツリ(アナ)、ジョネ・ラスピウル(マイデル)、ガラシ・ウルコラ、ダニエル・ファネゴ、ダニエル・チャモロ、他多数

   

ストーリー1609年バスク、この地方の男たちは海に出かけてしまっている。アナは村の娘たちと一緒に森で行われるフィエスタに出かけていく。この地方にはびこる魔術による裁判を浄化するよう国王フェリペ3世に依頼された裁判官ロステギは、彼女たちを逮捕して魔術を告発する。彼は魔術の儀式アケラーレについて知る必要があるだろうと決心、おそらく悪魔が操っているにちがいないと調査に着手する。17世紀初頭の為政者による、一つの考え方、一つの言語、一つの宗教を強制することを願った魔女狩り裁判、地方文化の否定が語られる。       (文責:管理人)

   

            

               (撮影中の魅力的な魔女たち)

 

ペドロ・オレア1984年に撮った同名の映画Akelarreの舞台は、バスク州の隣りナバラ州でした。ナバラもアケラーレが行われていた。アレックス・デ・ラ・イグレシア『スガラムルディの魔女』13)の舞台もナバラ州の小村スガラムルディ、親子三代にわたる魔女軍団の物語。

『スガラムルディの魔女』の作品紹介は、コチラ20141012

 

★アントニオ・メンデス・エスパルサのCourtroom 3H(「Sala del Juzgado 3H」)は次回にします。


マティアス・ピニェイロの「Isabella」*ベルリン映画祭20202020年03月11日 21:00

    マティアス・ピニェイロのIsabella」はシェイクスピア・シリーズの第5作目

   

      

マティアス・ピニェイロIsabellaは、今年新設された「エンカウンター部門」で上映された作品の一つ、スペシャル・メンションを受賞した。前回紹介したカミロ・レストレポ監督とマティアス・ピニェイロの二人は、ノミネーション段階からラテンアメリカの有望な監督として紹介されており、受賞は意外でなかったかもしれない。特にピニェイロ監督は、アテネ・フランセとアップリンク渋谷が共催したミニ映画祭が20149月と20176月に開催されており、監督来日もあった。「イザベラ」は彼のシェイクスピア・シリーズの第5作目に当たります。四大悲劇の一つ『オセロー』と同じ1604年に発表された『尺には尺を』(「Measure for Measure」)がベースになっている。監督は現在ニューヨーク在住のため、撮影は飛び飛び、20181月にクランクインしたものの最終は20198月だったそうです。

「マティアス・ピニェイロ映画祭2017」の記事は、コチラ20200302

 

     

    (製作者メラニー・シャピロとマティアス・ピニェイロ、ベルリン2020226日)

 

マティアス・ピニェイロ1982年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、アルゼンチン・ニューシネマの一人。国立映画大学で学び、後に同校で映画史、映画製作について教鞭をとる。2011年ハーバード大学のラドクリフ奨学金を得て渡米、現在は新たにニューヨーク大学の奨学金を受けてニューヨークに軸足をおいている。従ってコペンハーゲン・ドキュメンタリー・ラボでのスペインのロイス・パティーニョとの共同プロジェクトは断念している。

 

        

           (マティアス・ピニェイロ、226日)

 

2003年短編デビュー、数年助監督を務めたあと、2007年のEl hombre robadoで長編デビュー、チョンジュ映画祭でグランプリを受賞、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭 BAFICI ではスペシャル・メンションを受賞した。本作は2014年のミニ映画祭で『盗まれた男』の邦題で上映された。主なフィルモグラフィーは以下の通り。

   

     

                (デビュー作のポスター)

 

  フィルモグラフィー&主な受賞歴(邦題は映画祭2017を使用)

2007El hombre robado」チョンジュ映画祭グランプリ受賞、ラス・パルマスFF1回作品賞

2009『みんな嘘つき』BAFICIスペシャル・メンション

2010『ロサリンダ』中編43分、シェイクスピア・シリーズ第1作、『お気に召すまま』

2012『ビオラ』シェイクスピア・シリーズ第2作、『十二夜』

   BAFICI の国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞、バルディビアFF特別審査員賞

2014『フランスの王女』シェイクスピア・シリーズ第3作、『恋の骨折り損』

   BAFICIアルゼンチン映画賞、カトリックメディア賞SIGNISなど受賞

2016『エルミア&エレナ』シェイクスピア・シリーズ第4作、『夏の夜の夢』

2020Isabella」シェイクスピア・シリーズ第5作、『尺には尺を』

   ベルリン映画祭2020エンカウンター部門スペシャル・メンション

(以上、他にロカルノやトロント映画祭などのノミネーションは割愛)

 

 

Isabella2020

製作:Trapecio Cine

監督・脚本:マティアス・ピニェイロ

撮影:フェルナンド・ロケット

編集:セバスティアン・Schjaer

音楽:ガブリエラ・サイドン、サンティ・グランドネ(ン)Grandone

録音:メルセデス・テンニナTennina

プロダクション・デザイン&衣装デザイン:アナ・カンブレ

製作者:メラニー・シャピロ

 

データ:製作国アルゼンチン、フランス、スペイン語、2020年、ドラマ、80分、撮影地ブエノスアイレス、コルドバ、クランクインは20181月、20198月にクランクアップ。

映画祭・受賞歴:第70回ベルリン映画祭2020エンカウンター部門(226日)スペシャル・メンションを受賞。

キャスト:マリア・ビジャール(マリエル)、アグスティナ・ムニョス(ルシアナ)、パブロ・シガル(ミゲル)、ガブリエラ・サイドン(ソル)他

 

ストーリー:ブエノスアイレス生れの女優マリエルは、シェイクスピアのコメディ劇『尺には尺を』のヒロイン、イザベラ役の獲得に挑戦している。マリエルはオーディションで何度も、避けられない運命のように、ルシアナを見かけます。ルシアナは影のように振舞うが、同時に彼女を照らし魅了する。シェイクスピア喜劇における女性の役割について、現代の欲望の定義の難しさについて、ピニェイロ映画常連のマリア・ビジャールとアグスティナ・ムニョスが火花を散らす。 

                                    (文責:管理人)

   

    

       (マリア・ビジャールとアグスティ・ムニョス、映画から)

 

★新作「Isabella」の情報は少なく、シェイクスピア劇『尺には尺を』の知識が若干あったほうが楽しめそうです。マリエル役のマリア・ビジャール1980)は、ピニェイロ映画には長編デビュー作以来、シェイクスピア・シリーズ全5作は勿論のこと、ほぼ全作に出演している。国立芸術大学演技科卒、同窓にマリア・オネットやリカルド・バルティスがいる。カルメン・バリエロがコーディネートする音楽グループのメンバー、他監督作品ではアレホ・モギジャンスキーの話題作「La vendedora de fosforos」やハビエル・パジェイロの「Respirar」に出演しているほか、舞台女優としても活躍している。同じくピニェイロ映画出演の多いロミナ・パウラとは親しく、最近彼女は監督デビューも果たした。

ロミナ・パウラの紹介記事は、コチラ20190910

 

(マリア・ビジャール)

    

★もう一人の主演者、ルシアナ役のアグスティナ・ムニョスは、女優、舞台演出家、劇作家と才色兼備。女優としては、2005年イネス・デ・オリベイラ・セサルのCómo pasan las horasで映画デビュー、「Extranjera」ほか同監督の作品に出演、マティアス・ピニェイロとのコラボはシェイクスピア・シーリーズ第1作からすべてに出演している。第2作目『ビオラ』ではマリア・ビジャールやロミナ・パウラとBAFICIの最優秀女優賞を一緒に受賞している。他監督作品では、サンティアゴ・パラベシノのAlgunas chicasが第70回ベネチア映画祭で上映され、監督と共演者たちと現地入りした。

 

    

          (アグスティナ・ムニョス『フランスの王女』から)

  

    

(左から、共演者アゴスティナ・ロペス、パラベシノ監督、ムニョス、ベネチアFFフォトコール)

 

★他にペパ・サン・マルティンのRaraに主演、本作は第66回ベルリン映画祭2016のゼネレーションKplus部門にエントリーされ審査員賞、ハバナFF特別審査員賞、バルデビアFF観客賞、サンセバスチャンFFホライズンズ・ラティノ部門グランプリを受賞した。ストーリーは2人の娘がいる女性とパートナーの4人家族、普通に見えながらフツーでないのはパートナーも女性であるから。主役が子供たち、特に長女の視点で語られる。

  

     

 (サンセバスチャンFF「ホライズンズ・ラティノ」グランプリ受賞作「Rara」から)

    

★ピニェイロ監督によると、第5作目に『尺には尺を』を選んだのは「女性を主役にして映画を撮る場合、シェイクスピアの喜劇はテーマが豊富だからだが、原作はコメディの要素が少なく問題劇の要素を持っているので、トーンを変えるのに適切だった」と語っている。さらに「一般的に悲劇は男性の権力を取り扱っているが、コメディは女性たちの英知が物を言うからです」とも語っている。イザベラは修道院で修練者として暮らしている。ところが兄が婚前交渉で恋人を妊娠させてしまい裁判官から死刑の宣告を受けてしまう。正義、慈悲、真実、プライドと屈辱が語られる。罠がかけられて、結局兄は助かるが大団円とは違うようです。

 

     

       (自作を紹介するマティアス・ピニェイロ監督、226日)

 

2013年、シェイクスピア・シリーズの第2作目『ビオラ』でベルリン映画祭のフォーラム部門に参加している。「今回はカルロ・チャトリアンやマーク・ペランソンの手に委ねられたエンカウンター部門にノミネートされた。とても興味をそそられる部門で興奮している。受賞というのは少し審査員の独断もはいるから、3人とか5人とかの人が決める一種の福引のようなものです」と受賞前に語っていましたが、運よく当たりました。またアルゼンチンでは独立系の映画が映画館に届くことは難しく、1週間とか10日間とか日数を限ってラテンアメリカ・アート美術館や国立映画協会の映写室で限定上映をしてもらっているということでした。

 

          

       

                 (元ロカルノ映画祭ディレクターのカルロ・チャトリアンと監督、226日)

   

     

(プログラミング主任のマーク・ペランソンと監督)

  

  

  (スペシャル・メンションの受賞スピーチをするメラニー・シャピロ、229日ガラ)

 

ナタリア・メタの第2作「The Intruder」*ベルリン映画祭20202020年02月27日 08:48

             ベルリン映画祭2020開幕、アルゼンチンからサイコ・スリラー

 

     

29日から始まっていたベネチアのカーニバルが途中で中止になりましたが、220日、ベルリン映画祭2020は開幕しました(~31日)。ドイツも新型コロナウイルスが無縁というわけではありませんが予定通り開幕しました。ドイツは19日、フランクフルト近郊のハーナウで起きた連続銃乱射事件で8名の犠牲者がでたりと、何やら雲行きがあやしい幕開けでした。天候もあいにくの雨続きのようですが既に折り返し点にきました。

   

     

        (左から、セシリア・ロス、ナタリア・メタ、エリカ・リバス) 

   

    

       (出演者とメタ監督、ベルリン映画祭2020、フォトコールにて)

 

★コンペティション部門18作のうち、スペイン語映画はアルゼンチン=メキシコ合作のEl prófugo(映画祭タイトルは英題The Intruder1作のみです。監督は『ブエノスアイレスの殺人』(ラテンビート2014)のナタリア・メタの第2作目です。ある外傷性の出来事によって現実に起きたことと想像上で起きたことの境界が混乱している女性の物語、悪夢や現実の概念の喪失がテーマのようですが、審査委員長ジェレミー・アイアンズ以下審査員の心を掴むことができるでしょうか、ちょっと難しそうですね。

『ブエノスアイレスの殺人』の作品&監督紹介は、コチラ201409291101

 

     

              (ナタリア・メタ、プレス会見にて)

 

 

 El prófugo(英題The Intruder2020

製作:Rei Cine / Barraca Producciones / Infinity Hill / Picnic Produccionas / Piano / Telefe

監督・脚本:ナタリア・メタ

原作:C. E.フィーリング「El mal menor」(1996年刊)

撮影:バルバラ・アルバレス

音楽:Luciano Azzigotti

編集:エリアネ・カッツKatz

視覚効果:ハビエル・ブラボ

製作者:ベンハミン・ドメネチ、サンティアゴ・ガジェリGallelli、マティアス・ロベダ、他

 

データ:製作国アルゼンチン=メキシコ、スペイン語、2020年、サイコ・スリラー、90分、撮影地ブエノスアイレス、メキシコのプラヤ・デル・カルメン、他。ベルリン映画祭2020コンペティション部門でワールド・プレミア。

 

キャスト:エリカ・リバス(イネス)、セシリア・ロス(母マルタ)、ナウエル・ぺレーズ・ビスカヤート(アルベルト)、ダニエル・エンドレル(レオポルド)、アグスティン・リッタノ(ネルソン)、ギジェルモ・アレンゴ(マエストロ)、他

 

ストーリー:女優のイネスは歌手として合唱団で歌っている。パートナーのレオポルドと一緒に出掛けたメキシコ旅行で受けたひどい外傷性の出来事により、現実に起きたことと想像上のことの境界が混乱するようになり、悪夢と日常的に襲ってくる反復的な音に苦しんでいる。イネスはコンサートのリハーサルで若いアルベルトと知り合うまで母親マルタと暮らしていた。彼とは問題なく過ごしているようにみえたが、ある危険な予感から逃れられなかった。夢からやってくるある存在が、彼女の中に永遠に止まりたがっていた。 (文責:管理人)

 

        豪華なキャスト陣を上手く泳がすことができたでしょうか

 

★主役イネスにエリカ・リバス(ブエノスアイレス1974)は、ダミアン・ジフロン『人生スイッチ』14)で、結婚式当日に花婿の浮気を知って逆上する花嫁を演じた。若い女性役が多いが実際は既に40代の半ば、銀のコンドル賞(助演『人生スイッチ』、女優賞「La luz inncidente」)、スール賞、クラリン賞、マルティン・フィエロ賞、イベロアメリカ・プラチナ賞などを受賞、映画以外にもTVシリーズ出演は勿論のこと、舞台でも活躍しているベテランです。フォード・コッポラのモノクロ映画『テトロ』09)、サンティアゴ・ミトレ『サミット』17)では、リカルド・ダリン扮するアルゼンチン大統領の私設秘書を演じた。2作ともラテンビート映画祭で上映されている。

 

   

 

      

 (母親役のセシリア・ロスとエリカ・リバス、映画から)

 

★イネスの恋人レオポルドには監督デビューも果たしたダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976)が扮した。ウルグアイとアルゼンチンで活躍、『夢のフロリアノポリス』のアナ・カッツ監督と結婚している。アドリアン・カエタノ『キリング・ファミリー 殺し合う一家』17)他で何回かキャリア紹介をしている。彼も銀のコンドル賞、スール賞以下、アルゼンチンのもらえる賞は全て手にしている。

キャリア&フィルモグラフィーの紹介は、コチラ201702200409日 

 

  

        (レオポルド役のダニエル・エンドレル、映画から) 

 

★イネスの新しい恋人アルベルト役のナウエル・ぺレーズ・ビスカヤート(ブエノスアイレス州1986)は、アルゼンチンとフランスで活躍している(スペイン語表記ナウエル・ペレス・ビスカヤルト)。ロバン・カンピヨBPMビート・パー・ミニット』(17)がブレイクしたので、フランスの俳優と思っている人が多いかもしれない。彼自身もセザール賞やルミエール賞の男優賞を受賞したことだし、公開されたアルベール・デュポンテル『天国でまた会おう』(17)もフランス映画だった。最初は俳優になるつもりではなかったそうですが、2003アドリアン・カエタノTVミニシリーズDisputas17歳でデビュー、2005年にはエドゥアルド・ラスポTatuadoで銀のコンドル新人賞を受賞している。アルゼンチンではTVシリーズ出演がもっぱらだが、トロント映画祭2014年で上映されたルイス・オルテガLulú / Lu-Luに主役ルカスを演じた。2016年に公開されるとヒット作となり、彼も銀のコンドル賞にノミネートされた。家庭の愛をうけることなく成長した車椅子のルドミラLudmiraとルカスLucasの物語、タイトルは二人の名前から取られた。

    

     

                   (アルベルト役のナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)

 

   

           (アルベルトとイネス、映画から)  

 

★ラテンアメリカ映画、特にラプラタ地域では悪夢や分身をテーマにすることは珍しくない。さらに特徴的なのが <移動> した先で事件が起きること。本作でも主人公はアルゼンチンからメキシコに旅行している。資金調達のために合作が当たり前になっているラテンアメリカでは都合がいい。原作はブエノスアイレス市内で起きた事件なのに、舞台をスペイン北部に移してしまう作品だって過去にはあった。賞に絡むことはないかもしれないが、『ブエノスアイレスの殺人』の監督、ナタリア・メタの第2作ということでご紹介しました。

 

ダリン父子が初共演の「La odisea de los giles」*ゴヤ賞2020 ⑬」2020年01月18日 17:25

    イベロアメリカ映画賞部門にアルゼンチンの「La odisea de los giles」が有力

 


   

★アルゼンチン興行成績史上初という快挙を遂げたセバスティアン・ボレンステインLa odisea de los gilesは、2019815日公開以来過去の記録を更新し続けている。しかしアドベンチャー・コメディ、スリラーなら何でも成功するというわけではない。アルゼンチン人なら誰一人として忘れることができない20011223日の<デフォルト>宣言に始まる<コラリート>を時代背景にしているからです。世界を震撼させた無責任国家の破産を舞台にして、煮え湯を飲まされた住民が反旗を翻す物語、それをリカルド&チノのダリン父子が初共演、ベテランのルイス・ブランドニリタ・コルテセを絡ませているから、何はともあれ映画館に足を運ばねばならない。第1週380館でスタートしたが、12月半ばには482館、180万枚のチケットが売れたそうです。地元紙は2018年のルイス・オルテガEl Angel(『永遠に僕のもの』354館)をあっさり抜いたと報じている。因みにコラリートとは預金封鎖のことで、銀行に預けた自分のお金が引き出せないということです。

 

        

  (現地入りしたダリン父子とブランドニ、サンセバスチャン映画祭2019フォトコールから)

 

★個人的には、アルゼンチン国民ほど近隣諸国から嫌われている国はないと考えていますが、このデフォルトによって中間層が貧困層に転落、それは国民の60%近くに及んだという。20世紀初頭には「南米のパリ」ともてはやされたブエノスアイレスも、夜中にゴミあさりをする人たちで、塵一つ落ちていない清潔な街になったと皮肉られた。アルゼンチン経済立て直しと称して、1990年にメネム政権が打ち出した1弗=1ペソ政策は見た目には成功しているかに思われたが、所詮錯覚に過ぎず、厚化粧が剥げれば経済だけでなく政治も社会も三つ巴になってデフォルトに直進した。相続・贈与税がそもそもなく、累進課税制度もないから、富める者はますます富み、貧しい人々はますます貧しくなる構図があり、自分さえよければよいという風潮が蔓延している。見た目と実態がこれほど乖離している国家も珍しい。そういう国で起きた騙されやすいオメデタイ人々が起こしたリベンジ・アドベンチャーです。

 

 La odisea de los giles(「Heroic Losers」)2019

製作:Mod Producciones / K&S Films / Kenva Films  協賛:TVE / Televisión FederaTelefe

監督:セバスティアン・ボレンステイン

脚本:セバスティアン・ボレンステイン、原作者エドゥアルド・サチェリ

音楽:フェデリコ・フシド

撮影:ロドリゴ(ロロ)・プルペイロ

編集:アレハンドロ・カリージョ・ペノビ

特殊効果:Vfx Boat

録音:ビクトリア・フランサン

製作者:フェルナンド・ボバイラ、ハビエル・ブライア、ミカエラ・ブジェ、レティシア・クリスティ、チノ・ダリン、リカルド・ダリン、シモン・デ・サンティアゴ、Axel Kuschevatzky、他

 

データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、2019年、アドベンチャー・コメディ、スリラー、116分、配給元ワーナーブラザーズ。第92回米アカデミー賞国際映画賞アルゼンチン代表作品(落選)。公開アルゼンチン815日、ウルグアイ同22日、パラグアイ同29日、以下ボリビア、チリ、コロンビア、ペルー、ブラジル、メキシコなどラテンアメリカ諸国、スペイン1129

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019特別上映、サンセバスチャン映画祭2019正式出品、パルマ・スプリングス映画祭2020外国語映画部門上映、など。

 

キャスト:リカルド・ダリン(フェルミン・ペルラッシ)、ルイス・ブランドニ(友人アントニオ・フォンタナ)、チノ・ダリン(息子ロドリゴ)、ベロニカ・リナス(妻リディア)、ダニエル・アラオス(駅長ロロ・ベラウンデ)、カルロス・ベジョソ(爆発物取扱いのプロ、アタナシオ・メディナ)、リタ・コルテセ(実業家カルメン・ロルヒオ)、マルコ・アントニオ・カポニ(カルメンの息子エルナン)、アレハンドロ・ヒヘナ&ギレルモ・ヤクボウィッツJucubowicz(エラディオ&ホセ・ゴメス兄弟)、アンドレス・パラ(弁護士フォルトゥナト・マンツィ)、ルチアノ・カゾーCazaux(銀行家アルバラド)、アイリン・ザニノヴィチ(弁護士秘書フロレンシア)、他

 

ストーリー20018月、アルシナはこれといった資源もない、アルゼンチン東部の寂れた小さな町である。元サッカー選手だったフェルミンと妻リディアは、廃業したサイロを購入して協同組合を立ち上げ、地域経済の活性化を図ろうと決意する。年長者の友人アントニオ・フォンタナ(自称アナーキストでバクーニンの信奉者)、駅長ロロ・ベラウンデ、実業家カルメン・ロルヒオ、爆発物のエキスパートのアタナシオ・メディナ、ゴメス兄弟などが資金を出し合ってグループ事業を計画する。フェルミンとリディアは、アルシナには銀行がなかったので、銀行家のアルバラドを信用して金庫ごと、近郊のビジャグラン市に運ぶことにする。一方銀行家は彼自身の銀行に金庫の中身を移し替えるよう二人を説得にかかる。果たしてマネーの行方は・・・? 破産させられた住民たちが彼ら独自の方法でリベンジできるチャンスを見つけるが、その方法とは? コラリートを生き延びるために隣人たちが乗り出したアドベンチャーが語られる。 (文責:管理人)

 

       『瞳の奥の秘密』の原作者エドゥアルド・サチェリの小説の映画化

 

★原作はエドゥアルド・サチェリ(カステラル1967)の小説 La noche de la Usina2016年刊)の映画化、サチェリは2個目のオスカー像をアルゼンチンにもたらしたフアン・ホセ・カンパネラ『瞳の奥の秘密』09)の原作者でもあります。大学では歴史学を専攻、現に高校や大学で教鞭を執っているから、時代背景などはきちんと裏が取れている。アルゼンチンの経済危機は1998年から2002年まで、多くの国が煮え湯を飲まされた。IMFの不手際も原因の一つだったから、日本も借金を棒引きして救済したのでした。彼らにしてみれば、返せる能力もない人にお金を貸すほうが悪いというわけで、ぼくたちは悪くない。

 

セバスティアン・ボレンステイン(ブエノスアイレス1963)は、2011年のヒット作Un cuento Chino(「Chinese Take-Away」)で、リカルド・ダリンの魅力を思う存分引き出した監督。あれはまさにリカルドのための映画だった。アルゼンチン映画アカデミーの作品・主演男優・助演女優賞(ムリエル・サンタ・アナ)を受賞、米アカデミー賞アルゼンチン代表作品にも選ばれた。更にゴヤ賞2012イベロアメリカ映画賞も受賞した。

 

     

 

★コメディとスリラーを交互に撮っている監督は、2015年にスリラーKóblic(スペインとの合作)を撮った。マラガ映画祭2016に正式出品、1977年の軍事独裁政権を時代背景に軍務と良心の板挟みになるコブリック大佐にリカルド・ダリンが扮した。悪玉の警察署長を演じたオスカル・マルティネスが助演男優賞、撮影監督ロドリゴ・プルペイロが撮影賞を受賞した(プルペイロはロドリゴの愛称Roloロロでも表記される)。スペイン側からインマ・クエスタが出演しているが、なかなかマネできないアルゼンチン弁に苦労した。翌年9月『コブリック大佐の決断』でDVDも発売されている。当ブログでは、詳細な監督紹介と時代背景をアップしています。

監督キャリア&フィルモグラフィー、「Kóblic」の紹介記事は、コチラ20160430

 

   

  (『コブリック大佐の決断』撮影中のボレンステイン監督とリカルド・ダリン)

 

     一癖も二癖もあるキャスト陣が大いに興行成績に寄与している?

 

★新作La odisea de los giles」出演の顔ぶれを見ると、なかなか味のあるキャスティング、主演のダリン父子は何回か登場してもらっているので、さしあたり自称アナーキストでバクーニンのファンというフォンタナ役を演じたルイス・ブランドニから。1940年ブエノスアイレス州の港湾都市アベジャネダ生れ、俳優で政治家、アルゼンチン映画界の重鎮の一人、UCR(ユニオン・シビカ・ラディカル)党員で国会議員に選ばれている。1962年舞台俳優としてデビュー、翌年TVシリーズ、映画デビューは1966年。1970年代から主役を演じている。1984年のアレハンドロ・ドリアのDarse cuentaで主役に起用された。本作は銀のコンドル賞の作品・監督賞他を受賞したことで話題になった。ブランドニはドリア監督のEsperando la carroza85)でも起用されている。『笑う故郷』のガストン・ドゥプラットMi obra maestra18)にギレルモ・フランチェラ(ギジェルモ・フランセージャ)と共演している。間もなく80代に突入だが依然として主役に抜擢されている。

 

     

  (ガストン・ドゥプラットのMi obra maestra」から、左側はギレルモ・フランチェラ

 

★長寿TVシリーズMi cuñado9396)で2回マルティン・フィエロ賞を受賞、他作でも2回、計4回受賞している。新作ではロシアの哲学者、無政府主義者の革命家ミハイル・バクーニン(181476)の信奉者という役柄、日本では教科書で習うだけの思想家バクーニンが、アルゼンチンでは今でもファンがいるというのがミソ、マルクスのプロレタリア独裁に対立した革命家でもあった。

リカルド・ダリンの主な紹介記事は、コチラ20171025

 

    

         (ラテンアメリカから初のドノスティア賞のリカルド・ダリン、SSIFF 2017

 

      

     (リカルド・ダリン、ベロニカ・リナス、ルイス・ブランドニの三人組、映画から)

 

チノ・ダリンは、1989年ブエノスアイレスのサン・ニコラス生れ、俳優、最近父親リカルド・ダリンが主役を演じたフアン・ベラの「El amor menos pensado」で製作者デビューした。本作はSSIFF2018のオープニング作品である。映画デビューはダビ・マルケスのEn fuera de juego11)、本邦登場はナタリア・メタの『ブエノスアイレスの殺人』Muerte en Buenos Aires14)の若い警官役、ラテンビートで上映された。翌年韓国のブチョン富川ファンタスティック映画祭で男優賞を受賞した。続いてディエゴ・コルシニのPasaje de vida15)で主役に抜擢されるなど、親の七光りもあって幸運な出発をしている。他にルイス・オルテガのEl Angel18、『永遠に僕のもの』)、ウルグアイの監督アルバロ・ブレッヒナーの12年の長い夜で実在した作家でジャーナリストのマウリシオ・ロセンコフを演じた。役者としての勝負はこれからです。

他にチノ・ダリンの紹介記事は、コチラ20190115

 

     

              (劇中でも父子を演じたリカルド&チノ・ダリン親子、映画から)

 

★女優軍は、フェルミンの妻リディア役のベロニカ・リナス1960年ブエノスアイレス生れ、女優、舞台、TVシリーズで活躍、映画監督、舞台演出家でもある。父は最近癌で鬼籍入りした作家のフリオ・リナス、母は若くして癌に倒れた画家のマルタ・ペルフォ、映画監督のマリアノ・リナス(1975)は実弟。自らラウラ・シタレジャと共同監督・主演したLa mujer de los perros15)撮影中に夫も癌で亡くしている。本邦では馴染みがないなかで、サンティアゴ・ミトレの『パウリナ』に出演している。コメディ出演が多いが、マルティン・フィエロ賞をコメディとドラマ部門で受賞、銀のコンドル賞も受賞するなどの演技派です。

   

     

         (デフォルトのニュースを聞いて気絶する夫フェルミンを支える妻リディア)

 

    

                                      (監督&主演したLa mujer de los perros」から

 

★実業家カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセは、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチで、同僚のウエートレスの家族を破滅に追い込んだお客に猫いらず入りの料理を出して殺害しようとする料理女(ゴリラ)、塀の中体験者で「刑務所暮らしのほうがシャバより余程まし」とうそぶく、アルゼンチンの社会的不公平を逆手にとって金持ちに復讐する迫力満点の料理人を演じた。パウラ・エルナンデスの『オリンダのリストランテ』0108年公開)で主役のオリンダに扮した。ここでも料理をしていた(笑)。物言う女優の一人、リタ・コルテセについては別の機会にご紹介したい。

    

                       (カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセ)

     

         

         (料理人に扮したリタ・コルテセ、『人生スイッチ』から) 

   

その他の出演者たち、アレハンドロ・ヒヘナ&ギレルモ・ヤクボウィッツが扮したゴメス兄弟、アンドレス・パラが扮したマンツィなど。

    

   

★いずれ何かの形で、つまりネット配信、ミニ映画祭、劇場公開、DVDなどで字幕入りで観られる機会があるのではないでしょうか。