マルティン=カレロの「El llanto」*サンセバスチャン映画祭2024 ④2024年07月25日 16:21

        マルティン≂カレロの「El llantoセクション・オフィシアル

    

     

 

★セクション・オフィシアルのノミネート2作目、ペドロ・マルティン≂カレロのデビュー作「El llanto」の紹介です。当ブログ初登場の若い監督、1983年バジャドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督。音楽産業、広告会社で働く。本作はロドリゴ・ソロゴジェンの共同脚本家としての実績豊富なイサベル・ペーニャと共同で脚本を執筆した。ホラー映画がコンペティションにノミネートされたのは2021年、パコ・プラサが初めてSSIFFに登場した「La abuela」でした。1973年バレンシア生れ、ジャウマ・バラゲロと共同監督した『RECレック』(07)や『エクリプス』(17)などで知名度もあるベテラン監督でしたが、マルティン≂カレロは私たちにとって全く未知の監督、どんなホラーなのでしょうか。

La abuela」の紹介記事は、コチラ20210812

 

 El llanto / The Wailing

製作:Caballo Films / Setembro Cine / Tandem Films / Tarea Fina / 

   Noodles Production / El Llanto AIE   協賛RTVE / プライムビデオ

監督:ペドロ・マルティン≂カレロ

脚本:イサベル・ペーニャ、ペドロ・マルティン≂カレロ

音楽:オリヴィエ・アルソン

撮影:コンスタンサ・サンドバル

編集:ヴィクトリア・ラマーズ

キャスティング:マチルド・スノッドグラス、アランチャ・ベレス

プロダクションデザイン:ホセ・ティラド

美術:ルチアナ・コーン

メイクアップ&ヘアー:(ヘアー)フェデリコ・カルカテリ、ノエ・モンテス、(メイク主任)サライ・ロドリゲス、(特殊メイク)ナチョ・ディアス

プロダクションマネジメント:アルバロ・ディエス・カルボ、ベレン・サンチェス≂ペイナド

製作者:エドゥアルド・ビジャヌエバ、クリスティナ・スマラガ、フェルナンド・デル・ニド、ジェローム・ビダル、イサベル・ペーニャ、ナチョ・ラビリャ、他

 

データ:製作国スペイン、フランス、アルゼンチン、2024年、スペイン語、サイコ・ホラー、107分、撮影地マドリード、ブエノスアイレス、ラプラタ、期間7週間、資金提供ICAA及びマドリード市議会、配給ユニバーサル・ピクチャーズ、海外販売フィルム・ファクトリー、公開スペイン20241025日、メキシコ1025

映画祭・受賞歴SSIFF2024セクション・オフィシアル正式ノミネート

 

キャスト:エステル・エクスポシト(アンドレア)、マチルド・オリヴィエ(マリー)、マレナ・ビリャ(カミラ)、アレックス・モネル、ソニア・アルマルチャ、トマス・デル・エスタル、ホセ・ルイス・フェレル、リア・ロイス、クラウディア・ロセト、ラウタロ・ベットニ、ピエール・マルキーユ、他

 

ストーリー:時間の異なる瞬間に無意識に繋がり、自分たちを超えた脅威に直面する3人の女性のポートレート。何かがアンドレアをストーカーしているが、それを誰も彼女自身でさえも肉眼で見ることはできません。20年前、1万キロ離れた場所で同じ存在がマリーを恐怖させていた。それが何なのかカミラだけが理解できたのだが、誰もそれを信じなかった。その重苦しい脅威に直面したとき、3人は同じ抑圧的な泣き叫んでいるような音を聞きます。

    

    

 (左から、イサベル・ペーニャ、マルティン≂カレロ監督、エステル・エクスポシト

 

★監督紹介:ペドロ・マルティン≂カレロは、1983年バジャドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督。マドリード映画学校ECAMで撮影演出を専攻、第1作ビデオクリップ「Blanc」がメディナ・デル・カンポ映画祭2014で審査員賞を受賞、インターネットで注目を集める。受賞は広告制作やロンドンのビデオクリップ制作会社 Blink Productions、バルセロナのCANADAの仕事に役立った。

   

     

   (審査員賞の受賞スピーチをする監督、メディナ・デル・カンポFF2014ガラ)

 

主なフィルモグラフィー紹介は以下の通り:

2008年「5 segundos」短編13分、撮影。監督ジャン・フランソワ・ルゼ

2010年「ImparesTVシリーズ28話、脚本

201011年「Impares premiumTVシリーズ10話、脚本

2016年「Julius Caesar: Shakespeare Lives」短編3分、英語、監督

2017年「You Are Awake」短編4分、英語、監督、脚本、撮影

2017年「The Weeknd: Secrets」ミュージックビデオ3分、英語、監督

2018年「Who Stole the Cup」ビデオ3分、英語、監督

2024年「El llanto」長編デビュー作、107分、監督、脚本(共同)

 

★脚本共同執筆者のイサベル・ペーニャ(サラゴサ1983)は、ロドリゴ・ソロゴジェンのデビュー作「Stockholm」(13)以来、SSIFF2016コンペティション部門ノミネートの『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』(16、審査員賞)、同2018の「El reino」(ゴヤ賞オリジナル脚本賞)、同2022ペルラク部門の『ザ・ビースト』(公開タイトル『理想郷』)、他にベネチア映画祭2019オリゾンティ部門の『おもかげ』を監督と共同で脚本を執筆している。マルティン≂カレロとの接点は、マドリードの映画学校ECAMの同窓生、彼女もTVシリーズ「Impares」の脚本を17話執筆している。

イサベル・ペーニャのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20190719

 

     

   (オリジナル脚本賞のトロフィーを手にしたイサベル・ペーニャ、ゴヤ賞2019ガラ)

 

★音楽を担当したオリヴィエ・アルソンは、1979年パリ生れ、ペーニャと同様『ゴッド・セイブ・アス マドリード~』、『ザ・ビースト/理想郷』、他にカルロタ・ペレダの「PIGGY」(22)などを手掛けている。製作者の一人エドゥアルド・ビジャヌエバは脚本家でもあり、TVシリーズのImpares」や「Impares premium」の脚本を執筆している。ソロゴジェンの「Stockholm」、『おもかげ』、『ザ・ビースト/理想郷』をプロデュースしている。クリスティナ・スマラガ1990)は、ビクトル・エリセの新作『瞳をとじて』のほか、アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』(06)とイシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』(10)でそれぞれゴヤ作品賞を受賞しているスペインを代表する女性プロデューサーである。

 

キャスト紹介:主役のアンドレアを演じたエステル・エクスポシト(マドリード2000)は、女優、モデル。人気TVシリーズ『エリート』(182024話)のカルラ・ロソン役で人気に火がついた。映画デビューはミゲル・アンヘル・ビバスの「Tu hijo」(18、『息子のしたこと』)にホセ・コロナドと共演している。しかしジャウマ・バラゲロのヒット作「Venus」(22)でゴーゴーダンサーに扮してホラー映画デビューを果たした。今回の抜擢にも繋がったようです。2023フォトグラマス・デ・プラタ(映画部門)女優賞を受賞。

    

       


     (アンドレア役のエステル・エクスポシト、フレームから)

 

★共演者マリー役のマチルド・オリヴィエ(パリ1994)はフランスの女優、モデル、製作者。代表作はジュリアス・エイヴァリーのホラーSF『オーヴァーロード』(18米国、プライムビデオ)、TVシリーズのスリラー『1899』(228Netflix)のクレマンス役。もう一人の共演者カミラ役のマレナ・ビリャ(ブエノスアイレス1995)は、アルゼンチンの女優、歌手、作曲家。代表作はサンセバスチャン映画祭2015でマルコ・ベルヘル監督がセバスチャン賞を受賞した「Mariposa」、彼女も銀のコンドル新人賞にノミネートされた。実話をベースにしたルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』(18、公開19)、フアン・シュニットマンの「Rompiente」(20)、サンティアゴ・フィロルのホラーミステリー「Matadero」(22)など。若手アレックス・モネルソニア・アルマルチャトマス・デル・エスタルのベテランが脇を固めている。

   

    

            (マリー役のマチルド・オリヴィエ、フレームから)

  

    

   

        (カミラ役のマレナ・ビリャ、フレームから)

 

ボレンステインの『安らかに眠れ』鑑賞記*ネットフリックス配信2024年04月30日 16:56

      アルゼンチン1990年代の政治経済危機をバックにしたサスペンス

 

     

 

セバスティアン・ボレンステイン(ブエノスアイレス1963『安らかに眠れ』のネットフリックス配信が始まりました。マルティン・バイントルブの同名小説の映画化、マラガ映画祭2024の銀のビスナガ主演男優賞、同助演男優賞受賞作品、『明日に向かって笑え!』の監督作品、などなど期待をもって鑑賞しました。


★主役のホアキン・フリエルの熱演は認めるとして、1994718日に実際にブエノスアイレスで起きたアルゼンチン・イスラエル相互協会AMIA爆破事件までのスピード感が、後半失速してしまった印象でした。国民にとっては90年代にアルゼンチンを襲った政治経済の危機的状況、ユダヤ系移民のアルゼンチンでの立ち位置などは周知のことでも、知識がない観客には主人公の短絡的な行動が分かりにくいのではないか。また後半にまたがる20011223日の史上7回目となる債務不履行〈デフォルト〉という国家破産についてもすっぽり抜け落ちていました。

 

AMIA爆破事件1994718日、ブエノスアイレスのアルゼンチン・イスラエル相互協会(共済組合)AMIAAsociacion Mutual Israelita Argentina)本部ビルの爆破事件、死者85人、負傷者300人という大規模なテロ事件。イスラエルと敵対関係にあるイランの関与が指摘されているが真相は今以って未解決。1992年のイスラエル大使館爆破事件(死者29人、負傷者242人)に続くテロ事件。アルゼンチンにはユダヤ系移民のコミュニティーが多く存在し、ラテンアメリカでは最大の約30万人が居住している。シリアやレバノンからのアラブ系移民のコミュニティーの中心地でもあることから両国は複雑な政治的関係にある。

   

    

(左から前列製作者フェデリコ・ポステルナクとチノ・ダリン、後列ホアキン・フリエル、

  ボレンステイン監督、グリセルダ・シチリアニ、ラリ・ゴンサレス、マラガFF2024

 

セバスティアン・ボレンステインのキャリア&フィルモグラフィー紹介

『コブリック大佐の決断』の作品紹介とフィルモグラフィーは、コチラ20160430

『明日に向かって笑え!』の作品紹介は、コチラ20200118

 

 『安らかに眠れ』原題「Descansar en paz」英題「Rest in Peace」)

製作:Benteveo Producciones / Kenya Films

監督:セバスティアン・ボレンステイン

脚本:セバスティアン・ボレンステイン、マルコス・オソリオ・ビダル

   (原作:マルティン・バイントルブ)

音楽:フェデリコ・フシド

撮影:ロドリゴ・プルペイロ

編集:アレハンドロ・カリーリョ・ペノビ

美術:ダニエル・ヒメルベルグ

製作者:フェデリコ・ポステルナク、リカルド・ダリン、チノ・ダリン、エセキエル・クルプニコフ、(エグゼクティブ)フアン・ロベセ

 

データ:製作国アルゼンチン、2024年、スペイン語、サスペンス・ドラマ、107分、撮影地ブエノスアイレス、パラグアイの首都アスンシオン、撮影期間9週間、2023325日クランクイン。公開アルゼンチン2024321日、Netflix 配信2024327

映画祭・受賞歴:第27回マラガ映画祭2024セクション・オフィシアル上映、銀のビスナガ主演男優賞(ホアキン・フリエル)、同助演男優賞(ガブリエル・ゴイティ)受賞

 

キャスト:ホアキン・フリエル(セルヒオ・ダシャン/ニコラス・ニエト)、グリセルダ・シチリアニ(妻エステラ・ダシャン)、ガブリエル・ゴイティ(高利貸しウーゴ・ブレンナー)、ラリ・ゴンサレス(ゴルドの妻イル)、ラウル・ドマス/ダウマス(エル・ゴルド電器店主ルベン/愛称ゴルド)、マカレナ・スアレス(セルヒオの娘フロレンシア)、ソエ・クニスキ(フロレンシア12歳)、フアン・コテット(セルヒオの息子マティアス)、ニコラス・Jurberg(マティアス/マティ)、アルベルト・デ・カラバッサ(フロレンシアの夫アリエル)、エルネスト・ロウ(セルヒオの弟ディエゴ)、ルチアノ・ボルヘス(セルヒオの友人ラウル)、サンティアゴ・サパタ(役人)、アリシア・ゲーラ(ベアトリス/愛称ベア)、他多数

 

ストーリー1994年ブエノスアイレス、多額の借金に追い詰められたセルヒオは、偶然AMIA本部ビルの爆破事件に遭遇する。軽い怪我を負ったセルヒオは、この予測不可能な状況を利用して姿を消すことを決意する。自分の死を偽装したセルヒオは、ニコラス・ニエトという偽りの身分でパラグアイの首都アスンシオンに脱出する。過去を封印した15年の歳月が流れるが、ネットで偶然故国に残してきた家族を発見したことで望郷の念に駆られ、それは強迫観念となっていく。安定しているが偽りの人生を続けるか、危険を冒して故国に戻るか。人間は一つの人生を永遠に消し去り、別の人生を生きることができるのか。ネット社会の功罪、現実逃避などが語られる。

     

   

    (爆破されたAMIA本部ビルの瓦礫に佇むセルヒオ、フレームから

 

 

   「映画は映画、文学は文学であって別物」と語る原作者バイントルブ

 

A: 冒頭で本作は同名小説の映画化と書きましたが、マラガ映画祭のプレス会見でボレンステイン監督は「小説にインスパイアされたものだが、同じテーマの2冊の作品を土台にしている」と語っております。作家からは「映画と小説は別物であってよい」と、脚本に一切口出しは控えてくれたようです。

B: 小説の映画化でも「映画は映画、文学は文学であって別物」が原則です。作家によっては違うと文句いう人いますが。

 

A: 監督によると「小説の主人公はもっと嫌な人物で、映画のように頭に怪我を負っていない。想定外のテロ事件を利用して姿を消す決心をして、証拠となるようカバンを投げ捨て遁走する。

B: アリバイ工作をするわけですが、映画では意識が戻ったとき、カバンは持っていなかった。

A: 妻エステラも嘘つきのうえ夫に不実な女性で、総じて夫婦関係は壊れている。どちらかというと二人とも互いに憎みあっていたという人物造形のようです。

 

B: エステラが既に夫を愛していなかったのは映画からも読み取れます。贅沢が大好きで、夫を睡眠薬漬けにして苦しめた高利貸しブレンナーとちゃっかり再婚している。

A: 字幕はブレナーでしたが、この高利貸しの人物造形も一筋縄ではいかない。苗字から類推するにドイツからのユダヤ系移民のように設定されている。裏社会に通じていることは明白ですが、主人公を脅迫してまで容赦なく返済を迫っていた彼が、彼の妻エステラには借金を棒引きにしている。

B: これがユダヤ式のルールなのでしょうか。実父セルヒオをスーパーマンのように尊敬していたマティ少年をアブナイ道に誘い込んでいる。

 

A: ブレンナーを演じたガブリエル・ゴイティは、俳優のほかコメディアンとして〈El Puma Goity ピューマ・ゴイティ〉として知られています。本作の危険な男の役柄で「新境地を拓いた」と評価を高めています。マラガ映画祭には不参加でしたが、銀のビスナガ助演男優賞を受賞している。

B: 敵役のホアキン・フリエルが代理でトロフィーを受けとった。

  

A: 本作に登場する人物では主人公が第二の人生を送るパラグアイの人々に比して、アルゼンチン人はこの国特有の嫌らしい気質で描かれていて面白かった。

B: 劇中、アルゼンチンでの仕事をゴルド社長から頼まれたセルヒオに「アルゼンチン人は注文が多くて行きたくない」と言わせており、図星をさされたアルゼンチンの観客は大笑いしたことでしょう。実態とかけ離れた特権意識が強いアルゼンチン人は、近隣諸国からはおしなべて嫌われていている。

        

     

  (笑顔で脅迫する不気味なブレンナー役のガブリエル・ゴイティ、フレームから)

  

A: 主人公の過去を不問にして闇の身分証明書IDを入手してくれたエル・ゴルドをサンタクロースの衣装で急死させている。少し都合がよすぎて笑えましたが、このゴルド役ラウル・ダウマスは、映画データバンクによれば映画初主演です。舞台俳優かもしれない。

    

       

            (エル・ゴルド役のラウル・ダウマス)

 

B: エル・ゴルドの話の分かる賢い妻イルを演じたラリ・ゴンサレスの演技が光っていましたが。

A: パラグアイ出身、1986年アスンシオン生れ、映画、舞台、TVシリーズで活躍するベテラン女優、弁護士でもある。フアン・カルロス・マネグリア&タナ・シェンボリの「7 cajas」で映画デビュー。本作はゴヤ賞2013スペイン語外国映画賞にノミネートされ脚光を浴びることになった。映画市場の小さいパラグアイでは活躍の場が少なく、本作のようにアルゼンチンや国外の映画に出演している。他の代表作は「Luna de cigarras」(14)、「El jugador」(16)など、ロマンス、アクション、スリラーなど演技の幅は広い。

7 cajas」の紹介記事は、コチラ20151213

    

          

         (イル役のラリ・ゴンサレスとホアキン・フリエル)

 

B: ベッドシーンは監督とカメラマンのみで行われ、監督の配慮に感謝したとか。

A: ラテンアメリカ諸国は数は減少しているとはいえ多くがカトリック信者です。すっぽんぽんには抵抗感があるからでしょう。

 

      ストーリーのありきたり感を救ったホアキン・フリエルの演技

 

B: 主人公は前半を借金で首の回らないセルヒオ・ダシャンとして、後半を遁走中に乗ったタクシーの運転手の名前ニコラス・ニエトとして二つの人生を生きる。

A: まず名前から分かるように主人公の家族もユダヤ教徒のアルゼンチン人であることです。だから借金まみれでもユダヤ教徒に欠かせない女子の成人式を祝うバトミツワーのパーティーをしたわけです。本作はユダヤ系アルゼンチン人社会を背景にしたドラマであることを押さえておく必要があります。

   

  

  (娘の12歳の成人式バトミツワーのパーティーで幸せを演出するダシャン一家)

 

B: ホアキン・フリエルが演じたセルヒオの苗字Dayanは、イスラエルではダヤンが一般的と思いますが、字幕も発音もダシャンでした。

A: スペイン語の〈y〉と〈ll〉の発音は国や地域によって違いがあり、アルゼンチンでもブエノスアイレス周辺では、日本語のシャ行に近い音になる。同じスペイン語とはいえ、先住民やそれぞれの移民コミュニティーの言語の影響を受けて違いが生じるのは当り前です。

 

B: 金貸しウーゴ・ブレンナーのBrennerはドイツ系の苗字、アルゼンチンはドイツからの移民も多く、第二次世界大戦後にはニュルンベルク裁判を逃げおおせたナチス戦犯を含めたナチの残党、反対にヒットラーに追われたユダヤ系ドイツ人の両方を受け入れている。

A: アウシュビッツ強制収容所でユダヤ人大量虐殺に関与したアドルフ・アイヒマンや、戦時中にユダヤ人に人体実験を行っていた医師ヨーゼフ・メンゲレがアルゼンチンに潜伏できたのも、この強固なドイツ人コミュニティーのお蔭です。この歴史的事実は幾度となくドキュメンタリーやドラマ化されており、監督がAMIA爆破事件を取り入れた理由のひとつではないでしょうか。

 

B: 移民国家であるアルゼンチンは、セルヒオ同様、やむなく偽りの人生を送っている人が多いのかもしれない。裏社会に通じているブレンナーの謎の部分は詳しく語られないが、彼がユダヤ教徒であることは、フロレンシアとアリエルの結婚式ではっきりします。

 

A: ホアキン・フリエルは、1974年ブエノスアイレス生れの俳優、舞台俳優としてスタートを切る。最初はTVシリーズ出演が多く、映画デビューは実話をベースにしたセバスティアン・シンデルの「El patrón, radiografía de un crimen」(14)、本作で銀のコンドル賞、グアダラハラ映画祭男優賞、アルゼンチン・アカデミー主演男優賞などを受賞した。その他同監督の「El hijo」(19)と公開されたダニエル・カルパルソロの『バンクラッシュ』(16)で、アルゼンチン・アカデミー賞にノミネートされている。最近は映画にシフトしており、Netflix配信の『シャチが見える灯台』(16)、フリオ・メデムの『ファミリー・ツリー、血族の秘密』(18)などが字幕入りで観ることができます。

          

       

       (クロリンダ市から国境線パラグアイ川を越えるセルヒオ)

      

        

   (銀のビスナガ主演男優賞のトロフィーを手に、マラガ映画祭2024ガラ)

 

B: 妻エステルを演じたグリセルダ・シチリアニは、メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(22)に出演しています。

A: ダニエル・ヒメネス・カチョ扮する主人公の妻役、サンセバスチャン映画祭2022に監督たちと参加しています。1978年ブエノスアイレス生れの女優、TV女優として出発、2012アルマンド・ボーの『エルヴィス、我が心の歌』で銀のコンドル賞にノミネート、スペインのセスク・ゲイの「Sentimental」で、ゴヤ賞2021新人女優賞ノミネートの他、サン・ジョルディ賞とモンテカルロ・コメディ映画祭の主演女優賞を受賞している。

『エルヴィス、我が心の歌』の作品紹介は、コチラ20160622

    

       

     (死んだはずの夫の姿を目撃して驚愕するエステラ、フレームから)

 

           伏線の巧みさと高利貸しの深慮遠謀

 

B: 幸い軽傷ですんだ爆破事件に遭遇した後、姿を消す決心をする引き金はどの辺でしょうか。セリフは全くありません。

A: 公衆電話でどこかに電話しますが繋がらない辺りでしょうか。失ったカバンはいずれ瓦礫の中から発見され、遺体が見つからなくても犠牲者の証拠品となる。伏線でブレンナーに返済すべき現金はカバンでなくウエストポーチに入れたと確認するシーン、好況だったときに掛けた高額な生命保険金で借金が完済できることなどが観客に知らされている。

 

B: 姿を消す条件は揃った。夫の苦悩より子供の授業料やクラブ費を優先する妻にはもはや未練はないが、二人の子供と別れるのは辛い。しかし子供の幸せには代えられない。

A: 伏線を張るのが好きな監督です。犬を連れた路上生活者が冒頭のシーンに出てくるが、これなんかもその一例。主人公は自分の将来の姿と重ねて怯えている。パラグアイで野良犬を名前も付けずに15年間飼い続けている。犬は心を許せる友であって唯の犬ではないのです。

 

B: 成長した娘フロレンシアをネットで偶然目にしたことで、偽りの人生に疲れ始めていた彼は自制心を失っていきます。

A: ネット社会の功罪が語られるわけですが、これは発火点にしか過ぎない。果たして人間は過去の人生を永遠に消し去ることができるのかという問い掛けです。このあたりから結末は想像できますが、管理人の場合、大筋では合っていましたが少し外れました。

 

B: お金が絡むと兄弟喧嘩はつきものだし、主人公は娘の養父が自分の運命を狂わせた高利貸しだったことに驚愕するわけですが、アルゼンチンのように政治経済や社会が常に不安定だと何でもありです。

A: ストーリーには多くの捻りがあり、それなりに魅力的でしたが、後半の継ぎはぎが気になりました。しかしセルヒオに欠けていた高利貸しの深慮遠謀や素早い行動力は、社会が常に不安定な国家では褒めるべきでしょう。現実逃避だけでは解決できません、悪は存在していますから。


アルゼンチン映画『安らかに眠れ』*ネットフリックス配信2024年04月16日 11:30

       セバスティアン・ボレンステイン新作――ホアキン・フリエルの熱演

    

        

★しばらく休眠しておりましたが近所のサクラ並木も葉桜になり、お花見団子も食べたことだし、そろそろ再開します。オスカー賞にノミネートされていたフアン・アントニオ・バヨナの『雪山の絆』もイギリス代表のジョナサン・グレイザー『関心領域』(5月24日公開)に軍配があがり、メイク・アップ&ヘアー賞は『哀れなるものたち』に、パブロ・ベルヘルの『ロボット・ドリームズ』は宮崎駿作品に、マイテ・アルベルディの長編ドキュメンタリーはウクライナ=アメリカ合作の『マリウポリの20日間』(426日公開)にと、軒並み賞を逃しました。特にロシアによるウクライナ侵攻開始からマリウポリ壊滅までの20日間の実録に勝つのは難しかったことでしょう。本作がウクライナ映画史上初のオスカー受賞作ということでした。

 

★マラガ映画祭で紹介予告をしていたセバスティアン・ボレンステインの新作『安らかに眠れ』(「Descansar en paz)も、気づけば配信されていたのでした。まだ一度しか観ていないので詳細は次回に回しますが、個人的にはリカルド・ダリンルイス・ブランドニのベテラン二人を起用したコメディ『明日に向かって笑え!』(「La odisea de los giles192021年公開)のほうが好みでしょうか。ただ主演のホアキン・フリエルがマラガ映画祭2024主演男優賞、ガブリエル・ゴイティが助演男優賞を受賞しており、紹介を兼ねてアップしたい。

La odisea de los giles」の作品紹介は、コチラ20200118

 


          (ホアキン・フリエル、フレームから)

 

    

                   (ガブリエル・ゴイティ、フレームから)

 

★当ブログ紹介のロドリゴ・モレノの「Los delincuentes」が東京国際映画祭2023の好評もあってか、邦題『ロス・デリンクエンテス』で公開されることになりました。公開、ネット配信の違いはありますが、アルゼンチン映画が字幕入りで観る機会が増えたことを素直に喜びたい。

Los delincuentes」の作品紹介は、コチラ20230511

    

   

★カンヌ映画祭もコンペティションと「ある視点」部門のノミネート作品が発表になりました。ポルトガルのミゲル・ゴメスの『グランド・ツアー』(2025年公開予定)ほか、コッポラ、クローネンバーグ、アンドレア・アーノルドなど大物監督の名前がずらり、もしかしたらと期待していたフリオ・メデムやルクレシア・マルテルのドキュメンタリーは姿を消し、スペイン語映画はお呼びでないようです。


フアン・アントニオ・バヨナの『雪山の絆』*キャスト紹介2023年11月14日 15:20

      死者にも声をあたえた La sociedad de la nieve がバヨナを動かした

    

   

(ウルグアイ空軍機571便フェアチャイルドFH-227D、『生きてこそ』で使用された)

 

★『雪山の絆』は、ベネチア映画祭2023のクロージングでワールドプレミアされ、その後サンセバスチャン映画祭にやってきた。ベネチアにはJ. A. バヨナ監督やプロデューサー、出演者の他、遭難事故の生存者16名のうち、愛称カルリートスのカルロス・パエス・ロドリゲス、愛称ナンドのフェルナンド・パラッド、19歳だった医学生ロベルト・カネッサなど大勢で参加した。サンセバスチャン映画祭の上映はオープニングの922日、現地入りした数は減ったが、エンツォ・ヴォグリンチッチ(マヌ・トゥルカッティ役)、シモン・ヘンぺ(ホセ・ルイス〈コチェ〉・インシアルテ役)、エステバン・ビリャルディ(ハビエル・メトル役)、生存者のグスタボ・セルビノ、製作者ベレン・アティエンサ、サンドラ・エルミダなどが参加した。以下に製作スタッフとキャストのトレビアをアップしておきます。

    

   

 (サンセバスチャン映画祭の参加者、ビクトリア・エウヘニア劇場、922日)

   

   

          (エンツォ・ヴォグリンチッチと監督、同上)

 

   

『雪山の絆』(原題「La sociedad de la nieve / Society of the Snow」)

製作:Misión de Audaces Films / Apaches Entertainment / Benegas Brothers Productions

    / Cimarrón Cine Telecinco / Netflix  

監督:フアン・アントニオ・バヨナ

脚本:ベルナト・ビラプラナ、ハイメ・マルケス、ニコラス・カサリエゴ、J. A. バヨナ

原作:パブロ・ヴィエルチ(原作「La sociedad de la nieve2009年刊

撮影:ペドロ・ルケ

編集:ジャウメ・マルティ

音楽:マイケル・ジアッキーノ

録音:オリオル・タラゴ

キャスティング:マリア・ラウラ・ベルチ、イアイル・サイド、ハビエル・ブライアー

セット・デコレーション:アンヘラ・ナウム

製作者:ベレン・アティエンサ、サンドラ・エルミダ、J. A. バヨナ、(エグゼクティブ)サンティアゴ・ロペス・ロドリゲス、ハスミナ・トルバティ(Netflix)、他

 

データ:製作国スペイン=ウルグアイ=チリ=米国、2023年、スペイン語、ドラマ(実話)、144分、撮影地はスペインのシエラネバダ山脈、ウルグアイのモンテビデオ市、実際の墜落現場を含むアンデス山脈のアルゼンチンとチリ、撮影日数は138日間、製作費は6500万ユーロ以上。 配給Netflix(スペイン、米国)、Pimienta Films(メキシコ)、公開20231215日、Netflix 配信202414

 

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2023アウト・オブ・コンペティション閉幕作品、サンセバスチャン映画祭(ペルラス部門)観客賞受賞、ミルバレー映画祭観客賞受賞、ミドルバーグ映画祭観客賞受賞、Camerimage カメリマージュ映画祭(ポーランドのトルン)監督賞・撮影賞(ペドロ・ルケ)ノミネート、ハリウッド・ミュージック・イン・メディア賞2023オリジナル・スコア(マイケル・ジアッキーノ)、ホセ・マリア・フォルケ賞2023ノミネート、他

 

   

★主なキャスト紹介(順不同、ゴチック体は生存者、年齢は遭難時):

エンツォ・ヴォグリンチッチ(ヌマ・トゥルカッティ、法学部24歳、1211日没)

アグスティン・パルデッラフェルナンド〈ナンド〉・パラッド、機械工学部学生23歳)

マティアス・レカルトロベルト・カネッサ、医学部学生19歳)

トマス・ウルフ(グスタボ・セルビノ、医学部学生19歳)

ディエゴ・ベゲッツィ(マルセロ・ペレス・デル・カスティリョ、ラグビーチーム主将、

    25歳、10月29日雪崩で没)

エステバン・ククリチカ(アドルフォ〈フィト〉・ストラウチ、農業技術者24歳)

フランシスコ・ロメロ(ダニエル・フェルナンデス・ストラウチ、農業技師26歳)

ラファエル・フェダーマンエドゥアルド・ストラウチ、農業技術者23歳)

フェリペ・ゴンサレス・オターニョカルロス〈カルリートス〉・パエス

    畜産技術学部学生18歳)

アグスティン・デッラ・コルテアントニオ〈ティンティン〉・ビシンティン

    法学部19歳)

バレンティノ・アロンソ(アルフレッド・パンチョ・デルガド、法学部卒業生25歳)

シモン・ヘンペホセ・ルイス〈コチェ〉・インシアルテ、農業技術学部学生24歳)

フェルナンド・コンティジャーニ・ガルシア(アルトゥロ・ノゲイラ、経済学部学生

    25歳、1115日没)

ベンハミン・セグラ(ラファエル・エチャバレン、畜産学部学生26歳、1118日没)

ルチアノ・チャットン(ホセ・ペドロ・アルゴルタ、経済学部21歳)

アグスティン・ベルティ(ボビー・フランソワ、農業技術学部学生20歳)

フアン・カルーソアルバロ・マンジノ、畜産技術学部学生19歳)

ロッコ・ポスカ(モンチョ・サベリャ、農業技術学部学生21歳)

アンディ・プルスロイ・ハーレイ、工学部学生20歳)

エステバン・ビリャルディハビエル・メトル、事業者37歳)

パウラ・バルディニ(リリアナ・メトル、ハビエル・メトルの妻34歳、1029日雪崩で没)

サンティアゴ・バカ・ナルバハ(ダニエル・マスポンス、20歳、1029日雪崩で没)

アルフォンシナ・カロシオ(スサナ・パラッド、ナンドの妹20歳、1021日没)

イアイル・サイド(フリオ・セサル・フェラダス大佐、機長39歳、1013日没)

マキシミリアノ・デ・ラ・クルス

カルロス〈カルリートス〉・パエス(カルリートスの父親カルロス・パエス・ビラロ)

 

★原作と映画は同じ必要はないが、本作はエンツォ・ヴォグリンチッチ扮するヌマ・トゥルカッティが重要な役を担っている。ベネチアでもサンセバスチャンでも脚光を浴びていた。彼は遭難後60日目に足の怪我が原因で敗血症により生還できなかった人物で最後の死者になった。カニバリズムの嫌悪感から体力が急激に衰え、体重も25キロに落ちていた。トゥルカッティのように証言が叶わなかった犠牲者を軸にしていることが『生きてこそ』との大きな違いかもしれない。彼の死去は、ただ救助を待つのではなく危険を冒してでもアクションを起こすべきという結論を導き出す切っ掛けになった。


ヴォグリンチッチは1993年ウルグアイのモンテビデオ生れ、ヴォグリンチッチはイタリアの隣国スロベニアに多い苗字。当ブログ紹介のウルグアイ大統領ホセ・ムヒカのビオピック『12年の長い夜』(18)の警官役で映画デビュー、代表作は名プロサッカー選手の孤独を描いた「9」でグラマド映画祭2022とバリ映画祭で主演男優賞を受賞している。TVシリーズにも出演して目下売り出し中。

   

        

             (ヌマ・トゥルカッティを演じたエンツォ・ヴォグリンチッチ)

  

アグスティン・パルデッラは、フェルナンド〈ナンド〉・パラッドに扮した。1994年アルゼンチン生れ、Pinamar」でグラマド映画祭2017男優賞受賞、アルゼンチン映画批評家協会賞にノミネートされた。ホラー『ブラッド・インフェルノ』(17、「Los olvidados」)が公開されている。遭難後61日目にロベルト・カネッサとティンティンと共に救援隊を組織してチリに向かった立役者の一人、『生きてこそ』ではイーサン・ホークが扮した。遭難時に22歳だったナンド・パラッドはプロデューサー、テレビ司会者、作家と活躍しており、ベネチア映画祭にも出席している。

 

マティアス・レカルト(医学生ロベルト・カネッサ役)は、アルゼンチンの俳優、2019TVシリーズ「Apache: La vida de Carios Tevez」(8話)でデビュー、「Ciegos」(19)が長編デビュー作、本作が2作目。人肉を食しても生きるべきと説得したロベルト・カネッサは、「命を救うのが私の使命だったし、遭難で得た教訓が医者になるというモチベーションを高めた」と語っている。現在ウルグアイの小児心臓外科医で、ナンドとともにベネチアFFに姿を見せている。

 

★アルゼンチンのラファエル・フェダーマン(エドゥアルド・ストラウチ役)は俳優のほか、短編「Luis」(1618分)をパウラ・ブニと共同で監督している。2014年「Dos disparos」でデビュー、アルゼンチン映画批評家協会賞2015シルバーコンドル新人賞にノミネート、2016年フランシスコ・マルケス&アンドレア・テスタのデビュー作「La larga noche de Francisco Sanctis」に出演、本作はカンヌ映画祭「ある視点」に正式出品され、SSIFF オリソンテス・ラティノス部門にもノミネートされた。軍事独裁政権時代をバックにしたスリラー、「Los sonámbulos」でアルゼンチン映画アカデミー賞2019新人俳優賞にノミネート、本作はパウラ・エルナンデス監督の4作目、各国の映画祭で受賞歴を重ねた映画で、こちらもSSIFFにノミネートされた。話題作の出演本数は多いがフェダーマン(フェデルマンで紹介)は賞に恵まれていない。

La larga noche de Francisco Sanctis」の作品紹介は、コチラ20160511

    

       

               (Dos disparosから)

 

シモン・ヘンぺホセ・ルイス〈コチェ〉・インシアルテ)は、1998年ブエノスアイレス生れ、TVシリーズ「Go! Vive a Tu Manera」(1930話)でスタート、『2人のローマ教皇』(19)にドラッグ・ディーラー役で長編デビュー、本作が2作目。〈コチェ〉インシアルテは完成前に鬼籍入りしてしまい、生前に「最初のバージョンを見せた」とバヨナ監督。シモン・ヘンぺはSSIFF に参加している。

     

         

       (左から、エンツォ・ヴォグリンチッチ、グスタボ・セルビノ、

  エステバン・ビリャルディ、シモン・ヘンぺ、SSIFF 2023922日フォトコール)

 

フェルナンド・コンティジャーニ・ガルシアアルトゥロ・ノゲイラ役)は、ラファエル・フェダーマンと同じ「Dos disparos」で長編デビューしている。サンティアゴ・ミトレの『アルゼンチン1985~歴史を変えた裁判』22)で証言者パブロ・ディアスを演じた他、『サミット』17)にも出演、他に実話を映画化したルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』18)にも出演している。アルトゥロ・ノゲイラは34日目の1115日、足の怪我の炎症が原因で壊疽になり生還できなかった。当ブログではミトレやオルテガの作品紹介をしているが、彼については触れていない。         

『アルゼンチン1985』の主な作品紹介は、コチラ20221123

    

  

           (『アルゼンチン1985』から)

    

アンディ・プルスロイ・ハーレイ役)は、イネス・マリア・バリオヌエボの「Camila saldra esta noche」(21)の小さな役でデビュー、2023マリア・サネッティの長編デビュー作「Alemania」に出演、両作ともSSIFFオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた折、作品紹介をしているが、プルスについては触れていない。今後が期待される新人の一人。

  

エステバン・ビリャルディハビエル・メトル役)は、1973年ブエノスアイレス生れ、ベテラン俳優、ロドリゴ・モレノの「Un mundo misterioso」(11)に主演、「Reimon」(14)、最近では『犯罪者たち』23)のロマン役で東京国際映画祭2023ワールド・フォーカス部門に登場した。モレノ監督のお気に入りです。他にサンティアゴ・ミトレの『エストゥディアンテ』(11)、リサンドロ・アロンソの『約束の地』(14)などに出演しているベテラン。SSIFF にも現地入りしている。

『犯罪者たち』の作品紹介は、コチラ20230511

      

   

           (『犯罪者たち』でロマン役に扮した)

 

アルフォンシナ・カロシオスサナ・パラッド役)は、ウルグアイの監督ギジェルモ・カサノバの「Otra historia del mundo」(17)でデビュー、ホラー・スリラー『ヴァーダラック呪われた血族』(20)、メルセデス・コスコの監督第1作「Nina & Emma」(23)で主演するなど作品に恵まれている。本作では20歳で亡くなったナンド・パラッドの妹スサナ・パラッドを演じている。兄妹の母親も乗っていたが墜落時に即死している。

 

パウラ・バルディニリリアナ・メトル役)は、ディエゴ・カプランのロマンス・コメディ「22」(12)、『愛と情事のあいだ』としてDVDで発売された。TVシリーズ出演が多いが、セバスティアン・デ・カロのコメディ「Claudia」(19)でドロレス・フォンシと共演している。リリアナ・メトルは、夫ハビエルとは異なって人肉を拒否していたが、1029日の雪崩で死去している。

 

イアイル・サイドフリオ・セサル・フェラダス大佐役)は、アルゼンチンの俳優、キャスティング・ディレクター。本作では機長役とキャスティングも手掛けている。『犯罪者たち』やアリエル・ウィノグラードの「Sin hijos」(15)に出演、「Dos disparos」のキャスティングを担当している。フェラダス機長はアンデス越え29回のベテランだったが、悪天候にもかかわらず副操縦士の操縦訓練をしていたことも事故の原因のひとつだった。

 

アグスティン・デッラ・コルテアントニオ〈ティンティン〉・ビシンティン役)は本作がデビュー作、ティンティンは、救援隊の一人としてナンドとカネッサとチリに向かうが、足りなくなりそうな食料を二人に託して途中で引き返している。

 

カルロス〈カルリートス〉・パエス(カルリートスの父親カルロス・パエス・ビラロ役)は、生存者の中で唯一人、息子の生還を待ちわびる父親役でほんの少しだけ出演している。1953年生れのカルリートスは遭難時には18歳だったが山中で誕生日を迎えている。現在ライターの仕事をしている。カルリートス役はフェリペ・ゴンサレス・オターニョが演じている。2020年に映画デビュー、TVシリーズに出演している。

 

★リストではっきりするのは生存者が一人を除いて体力のある若いラグビー選手たちだったことが分かる。ラグビーのクラブチームの仲間同士で絆はすでに固く結ばれていた。同じ言語を話し、少年時代からの友達だった。二人の医学生(カネッサとSSIFF に現地入りしたグスタボ・セルビノ)が治療に当たったことやカニバリズムが関係していたのは事実ですが、それだけでは生き残れなかったことは想像に難くありません。「私が死んだら、生きのびるために私の体を使ってかまわない」ということが関係していると思います。

            

       

    (医学生だったグスタボ・セルビノ、SSIFF 2023922日フォトコール)

 

★バヨナ監督は「人生を肯定する映画」と、サンセバスチャン映画祭で語っています。またパブロ・ヴィエルチの原作 La sociedad de la nieve は、辛くて一気に読み通せなかったが、「とても内省的な作品」と評している。原作と映画の大きな違いは、原作では救出後モンテビデオに戻った生存者の苦しみも書かれているが、映画は救出されたところで終わっている。 

   

トレビア:撮影ユニットは3チーム、メインはバヨナが率いるスペインのシエラネバダ山脈(2022110日から429日まで)、第2ユニットはアルゼンチンの監督アレハンドロ・ファデルが率いてチリの風景を撮影した(20218月)。第3ユニットが最も危険な山岳地帯のシーンを任された。胴体の残骸のレプリカは3個作製され、1個は駐車場に建てられた格納庫に置かれ、2個目は人工雪に埋もれた胴体を移動できるようクレーンに支えられていた。もう一つは激突したとき氷河に滑落した機体の片割れのレプリカが、海抜約3000mのタルン(tarn氷河によって作られた山中の小さな湖)の上に置かれた。3チームのスタッフは300人に及んだということですから半端なお金ではありません。果たして資金が回収できるでしょうか。来年14日に配信後、観賞記を予定しています。

  

オリソンテス・ラティノス部門③*サンセバスチャン映画祭2023 ⑪2023年08月31日 11:11

       ルシア・プエンソの新作「Los impactados」がノミネート

 

★オリソンテス・ラティノス部門の最終グループで、SSIFF がプレミアというのはアルゼンチンのルシア・プエンソの5作目「Los impactados」のみ、他はベルリンとかカンヌでプレミアされている。本祭は三大映画祭と言われるカンヌ、ベネチア、ベルリンのほか、トロントの後ということもあって、どうしても新鮮味に欠けます。ルシア・プエンソは4作目「La caída」(22)がプライムビデオで『ダイブ』という邦題で目下配信中です。2007年に『XXY』で鮮烈デビューを果たして以来、問題作を撮り続けている監督の成長ぶりが見られる力作です。新作は本祭がプレミアということもあり賞に絡むのではないかと予想しています。他にリラ・アビレスの「Tótem / Totem」は、世界の映画祭巡りで受賞歴多数です。

 

 

          オリソンテス・ラティノス部門

 

9)Heroico / Heroic」メキシコ

監督ダビ・ソナナ(メキシコ・シティ1989)は、2019年デビュー作「Mano de obra / Workforce」がセクション・オフィシアルにノミネートされている。今回2作目「Heroico / Heroic」がオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた。サンダンス映画祭でプレミア、ベルリン映画祭パノラマ部門正式出品のあとSSIFFにやってきました。より良い未来を求めて軍人学校に入学した反戦主義者の青年を軸にドラマは展開します。現代メキシコに蔓延する体系的な暴力が語られる。

     

       

     

 (ダビ・ソナナ監督、サンセバスチャン映画祭2019にて)

  

データ:製作国メキシコ、2023年、スペイン語・ナワトル語、ミステリードラマ、88

キャスト:サンティアゴ・サンドバル・カルバハル(ルイス)、フェルナンド・クアウトル、モニカ・デル・カルメン、エステバン・カイセド、カルロス・ヘラルド・ガルシア、イサベル・ユディセ

 

ストーリー:アメリカ先住民のルーツをもつルイス・ヌメズは18歳、よりよい未来を確実にするため軍人学校への入学を申し込む。彼と同じような新入生は、やがて完璧な兵士に変身させようと設計された、暴力が日常的である残酷なヒエラルキー・システムに自分たちが放り込まれたことを理解するだろう。

    

  

 

10)「Los colonos / The Settlers」チリ=アルゼンチン=オランダ=フランス=イギリス=デンマーク=台湾=スウェーデン、8ヵ国合作映画

監督フェリペ・ガルベス(サンティアゴ1983)のデビュー作。1901年から1908年のパタゴニアを舞台にしたティエラ・デル・フエゴ島の先住民セルクナム虐殺が物語られる。

★本作はカンヌ映画祭2023「ある視点」でプレミアされたおり、作品&監督紹介を既にアップ済みです。オスカー賞2024のチリ代表作品。

作品&監督紹介記事は、コチラ20230515

   

      

      

     (フェリペ・ガルベス監督)

   

 

11)Los impactados」アルゼンチン

監督ルシア・プエンソ(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、作家、製作者。父ルイス・プエンソは、『オフィシャル・ストーリー』(85)でアルゼンチンに初めてオスカーをもたらした監督。ルシアは2001年脚本家としてキャリアをスタートさせる。2013年のオリソンテス・ラティノス部門に長編3作目「El médico alemán  Wakolda」(邦題『ワコルダ』)がノミネートされている。第2次世界大戦中、多くのユダヤ人をアウシュビッツで人体実験を繰り返して「死の天使」と恐れられていたナチスの将校ヨーゼフ・メンゲレ医師の実話を映画化した作品。久しくTVシリーズに専念していて、4作目が待たれていたのが上述の『ダイブ』でした。メキシコで起きた実話に着想を得て製作された。製作にも参画している主役のカルラ・ソウサの魅力もさることながら、性加害者のコーチにエルナン・メンドサを迎えるなどかなり見ごたえがあります。勝利が究極の夢である高飛込競技の少女がコーチから性被害を受けていた実話をもとに、ヒロインの栄光と挫折、最後に勝ち取る解放が語られる。

 

★今回の5作目「Los impactados」は、嵐で雷に打たれことで心身に変化をきたした少女の物語という定義は表層的で、かなり政治的なメッセージが込められているサイコスリラーです。プエンソに影響を与えた監督は、デイヴィッド・リンチを筆頭に、フランソワ・オゾン、オリヴィエ・アサイヤス、ミヒャエル・ハネケ、クレール・ドニなどの作品ということです。主役アダのキャラクターは複雑で、超自然的な要素が設定されており、彼女を苦しめる幻覚や爆発が心的外傷後に起きるストレスなのかどうかは明らかにされない。プエンソの当ブログ登場は、以下にアップしています。

監督キャリア&『ワコルダ』(ラテンビート2013)紹介は、コチラ20131023

『フィッシュチャイルド』(ラテンビート2009)紹介は、コチラ20131011

   

 

        

                        (ルシア・プエンソ監督)

 

データ:製作国アルゼンチン、2023年、スペイン語、サイコスリラー、90

キャスト:マリアナ・ディ・ジロラモ(アダ)、ヘルマン・パラシオス(フアン)、ギジェルモ・プフェニング(ジャノ)、オスマル・ヌニェス(コーエン)、マリアナ・モロ・アンギレリ(オフェリア)

 

ストーリー:アダが野原で雷に打たれた5週間後に昏睡から目覚めると、彼女はすっかり変わってしまっていた。身体的にも精神的にもバランスを崩して苦しんでいます。さらに目に見える明らかな後遺症があり、制御できない一連の奇妙な症状、例えば視覚や聴覚を通しての幻覚、時間の混乱は、彼女を以前の生活から遠ざけ、彼女が愛する人々からの孤立へと駆り立てます。落雷の衝撃を受けた人たちのグループの支援、落雷によって引き起こされる身体的精神的な影響を理解することに専念する医師との信頼を通して、アダはリターンできない旅に誘い出されることになるだろう。

 

 

      

  (アダ役で飛躍的な成長を遂げたと高評価のマリアナ・ディ・ジロラモ)

 

 

4)Tótem / Totem 」メキシコ

監督リラ・アビレス(メキシコ・シティ1982)は、監督、脚本家、製作者。2018年ニューディレクターズ部門に「La camarista / The Chambermaid」が選ばれている。2020年オリソンテス賞の審査員として現地入りしている。脚本リラ・アビレス、音楽トマス・ベッカ、撮影ディエゴ・テノリオ、編集オマール・グスマン。ドイツを皮切りに、米国、アジア、アフリカ諸国の映画祭巡りをしている。

*受賞歴:ベルリン映画祭2023コンペティション部門、エキュメニカル審査員賞受賞、香港映画祭ヤングシネマ部門金の火の鳥賞、北京映画祭監督賞・音楽賞、エルサレム映画祭監督賞、リマ映画祭作品賞・撮影賞などの受賞歴多数。

   

   

 (リラ・アビレス監督と主役のナイマ・センティエス、ベルリン映画祭2023

    

 

 

データ:製作国メキシコ=デンマーク=フランス、2023年、スペイン語、ドラマ、95分、撮影地メキシコシティ

キャスト:ナイマ・センティエス(ソル)、モンセラト・マラニョン(叔母ヌリア)、マリソル・ガセ(叔母アレハンドラ)、サオリ・グルサ(エステル)、マテオ・ガルシア(父トナティウ)、テレサ・サンチェス(クルス)、イアスア・ラリオス(ルチア)、アルベルト・アマドル(ロベルト)、フアン・フランシスコ・マルドナド(ナポ)、他多数

 

ストーリー7歳になるソルは、父親を驚かすびっくりパーティーの準備を手伝うため、祖父の家に来ています。日が経つにつれ、状況はゆっくりと不思議なカオスの大混乱の雰囲気に包まれ、家族の絆をたもつ土台が砕かれていく。ソルは彼女の世界が劇的な変化を遂げるところにちょうどさしかかっていることをやがて理解するでしょう。人生を祝うことで神秘的な道が開かれていく。7歳の少女の視点で生と死、時間が語られる。

 

       

      

        (ソルを演じたナイマ・センティエス、フレームから)

 

 

     

 (左から、ダビ・ソナナ、フェリペ・ガルベス、ルシア・プエンソ、リラ・アビレス)


オリソンテス・ラティノス部門 ②*サンセバスチャン映画祭2023 ⑩2023年08月23日 14:51

         タティアナ・ウエソが2作目「El eco / The Echo」で戻ってきた!

 

★サンセバスチャン映画祭 SSIFF も開幕1ヵ月をきり、連日のごとくニュースが配信されています。例えばセクション・オフィシアルのオープニング作品は宮崎駿の『君たちはどう生きるか』、クロージング作品はイギリスの監督ジェームズ・マーシュの「Dance First」、マーシュ監督は英国史上、最高額、最高齢の金庫破りだったオールドボーイ窃盗団の実話に基づいて描いた『キング・オブ・シーヴズ』(18)が2021年に公開されている。両作ともアウト・オブ・コンペティション部門ノミネート作品であるため金貝賞には絡みません。さらに「ペルラク」部門18作品、「ネスト」部門12作品も相次いで発表されました。更に822日にはドノスティア栄誉賞の二人目の受賞者にビクトル・エリセがアナウンスされるなど急に慌ただしくなってきました。エリセはともかくとして、今年は時間的余裕がなく、アップはスペイン語、ポルトガル語映画に限らざるを得ません。今回はオリソンテス・ラティノ部門の続き、ドラマ2作、ドキュメンタリー2作の合計4作をアップします。

 

          オリソンテス・ラティノス部門

 

5)Clara se pierde en el bosque / Clara Gets Lost in the Woods

  アルゼンチン

監督カミラ・ファブリ(ブエノスアイレス1989)、監督、脚本家、戯曲家、女優として多方面で活躍しているアルゼンチン同世代の期待の星。女優としてミゲル・コーハン、ベロニカ・チェン、フアン・ビジェガスの「Las Vegas」(18)、アレハンドロ・ホビックやルシア・フェレイラの短編に主演している。

 

     

                       

                           

                                            (カミラ・ファブリ監督)

 

データ:脚本はカミラ・ファブリとマルティン・クラウトが共同執筆、2023年、スペイン語、ドラマ、86分、長編デビュー作。

キャスト:カミラ・ペラルタ(クララ)、アグスティン・ガリアルディ(ミゲル)、フリアン・ラルキエル・テラリーニ(イバン)、フロレンシア・ゴメス・ガルシア(エロイサ)、ソフィア・パロミノ(フアナ)、マイティナ・デ・マルコ(パウリナ)、ペドロ・ガルシア・ナルバイツ(フアン)、マルティア・チャモロ(マルティナ)、カミラ・ファブリ(イネス)、フリアン・インファンティノ(マルティン)、ほか

 

ストーリー:クララは都会を離れて郊外に家族と小旅行中に、幼馴染の友人マルティナからの母性のアイディアを前面に押し出したメッセージを受けとった。マルティナとはレプブリカ・クロマニョン・クラブで起きた悲劇の一夜を共にしていた。一連のWhatsApp Messengerのテキスト、ホームビデオ、家族とランチする現在と現実のショット、危機と悲劇によって荒廃した都会での彼女自身や友人たちの思春期がつぶさに語られる。レプブリカ・クロマニョン・クラブの悲劇というのは、20041230日の夜にブエノスアイレスのオンセ地区で開催されていたロック・イベント中に193人の命が奪われた大火災をさす。

          

   

                   (撮影中の監督とクララ役のカミラ・ペラルタ)

 

 

6)El castillo / The Castle」アルゼンチン=フランス=スペイン

  ドキュメンタリー

監督マルティン・ベンチモル(ブエノスアイレス1985)、作品紹介、監督のキャリア&フィルモグラフィーは、以下にアップ済みです。

作品紹介は、コチラ20230721

   

      

   

 

7)「El Eco / The Echo」メキシコ=ドイツ

監督タティアナ・ウエソ(サンサルバドル1972)監督、脚本家。監督のキャリア&フィルモグラフィーは、SSIFF 2021の同部門のオリソンテス賞以下3冠に輝いた「Noche de fuego」にアップしています。新作は、架空の要素が多く含まれているが、メキシコ高地にある村エルエコの子供たちを描いている。監督はメキシコ北部のある村に逗留して、ほぼ1年間掛けて撮影している。監督の子供時代の体験が投影されている。ウエソはエルサルバドル出身だが、4歳のとき両親に連れられてメキシコに移住している。2011年の「El lugar más pequeño」、2016年の「Tempestad」、新作「El Eco」をもって「痛みとトラウマ」三部作を完結したことになる。

Noche de fuego」の紹介記事は、コチラ20210819

     

         

データ:脚本タティアナ・ウエソ、2023年、スペイン語、ドキュメンタリー、102分。本作は既にベルリン映画祭2023でプレミアされ、エンカウンターズ部門の監督賞とドキュメンタリー賞を受賞している他、香港映画祭ドキュメンタリー賞ノミネート、シアトル映画祭ノミネート、カルロヴィ・ヴァリ映画祭、リマ映画祭ドキュメンタリー賞、エルサレム映画祭シャンテル・アケルマン賞を受賞している。

     

    

   (タティアナ・ウエソ、ベルリン映画祭2023ドキュメンタリー作品賞のガラから)

  

キャスト:モンセラ・エルナンデス(モンセ)、マリア・デ・ロス・アンヘレス・パチェコ・タピア(祖母アンヘレス)、ルス・マリア・バスケス・ゴンサレス(ルス)、サライ・ロハス・エルナンデス(サライ)、ウィリアム・アントニオ・バスケス・ゴンサレス(トーニョ)、他多数

 

ストーリー:メキシコ北部の人里離れた村エル・エコは、子沢山の家族が多く、生活は貧しく、子供たちは羊と年長者たちの世話をしています。孫娘は祖母が死ぬまで世話をしなければなりません。霜と旱魃が村を苦しめます。子供たちは両親の話す言葉と沈黙から、死、病気、愛を理解することを学びます。エコは魂のなかにあるもの、周りの人々からうける確実な暖かさ、人生で直面する反逆と眩暈について、成長についての物語です。

   

       

 

8)Estranho caminho / A Strange PathExtraño camino)」ブラジル

  WIP Latam 2022 作品

監督グト・パレンテ(セアラ州都フォルタレザ1983)は、監督、脚本家、撮影監督、俳優。長編10作目になる。WIP Latem 2022の最優秀賞作品賞受賞作。

脚本グト・パレンテ、撮影リンガ・アカシオ、美術タイス・アウグスト、録音ルカス・コエーリョ、編集ビクトル・コスタ・ロペス、ティシアナ・アウグスト・リマ、タイス・アウグスト、グト・パレンテ。トライベッカ映画祭2023では、父親ジェラルド役のカルロス・フランシスコが説得ある演技で主演男優賞を受賞している。

    

     

 

   

 (デビッド役のルカス・リメイラ)

 

データ:製作国ブラジル、2023年、ポルトガル語、ミステリー、85分、トライベッカ映画祭2023で国際コンペティション部門の作品賞、脚本賞、監督賞、カルロス・フランシスコ主演男優賞を受賞するなど4冠を制した。撮影地フォルタレザ。セアラ州文化省からの資金提供を受けている。

   

     

            (父親役のカルロス・フランシスコ)

 

キャスト:ルカス・リメイラ(デビッド)、カルロス・フランシスコ(父ジェラルド)、リタ・カバソ(テレサ)、タルツィア・フィルミノ(ドナ・モサ)、レナン・カピバラ(レナン)、アナ・マルレネ(マリアナ先生)、他多数

 

ストーリー:若い映画背作者デビッドは、映画祭で自作を発表するため生れ故郷のブラジルに向かっています。到着すると新型コロナのパンデミックが急速に全国に広がり始めていた。映画祭は中止され、空港が封鎖されたため帰国便もキャンセルされてしまう。デビッドは滞在先を必要としており、十年以上話していない風変わりな男である父親ジェラルドを訪ねることにする。彼が父親のアパートに到着すると、奇妙なことが起こり始めます。デビッドの軌跡を辿るドラマ。和解の痛み、不条理の喜びの表現などが描かれる。

 

 

    

 (カミラ・ファブリ、マルティン・ベンチモル、タティアナ・ウエソ、グト・パレンテ)


オリソンテス・ラティノス部門12作出揃う*サンセバスチャン映画祭2023 ⑨2023年08月16日 17:49

    オープニングはパウラ・エルナンデス&クロージングはカロリナ・マルコビッチ

   

      

 

★去る83日、第71回サンセバスチャン映画祭オリソンテス・ラティノス部門12作(2022年と同じ)が発表になりました。既にスペインが共同製作国になっている2作、アルゼンチンのドロレス・フォンシマルティン・ベンチモルはご紹介しておりますが、残る10作が発表になり、これですべてが出揃ったことになります。


★オープニング作品は、アルゼンチンのパウラ・エルナンデスの「El viento que arrasa / A Ravaging Wind」(スペイン語)、クロージング作品は、ブラジルのカロリナ・マルコヴィッチの「Pedágio / Toll」(ポルトガル語)と、共に女性監督作品が選ばれました。監督は男性4名、女性8名と、女性シネアストの元気のよさが際立っています。WIP Latam 2作、ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同フォーラム1作が含まれました。作品賞はオリソンテ賞、今回は全作品をご紹介する時間的余裕がなく、管理人が予想する賞に絡みそうな作品をつまみ食いすることになりそうです。一応全12作の作品名、監督、製作国、トレビア情報を列挙しておきます。3回に分けてアップします。

 

          オリソンテス・ラティノス部門

 

1)El viento que arrasa / A Ravaging Wind」アルゼンチン=ウルグアイ

 オープニング作品2023年、スペイン語、ドラマ、94

監督パウラ・エルナンデス(ブエノスアイレス1969)は、アルゼンチンの監督、脚本家、女優。本作はセルバ・アルマダの処女作(2012年刊)である同名小説の映画化。チリのアルフレッド・カストロ、スペインのセルジ・ロペスなど、本邦でも知名度のある演技派がクレジットされている。アルゼンチンのチャコ州が舞台。トロント映画祭2023でワールドプレミアされる。

    

   

             (パウラ・エルナンデス監督)

 

キャスト:アルムデナ・ゴンサレス(レニ)、アルフレッド・カストロ(父親ピアソン神父)、セルジ・ロペス、ホアキン・アセベド

ストーリー:父ピアソン神父の盲目的信仰にとらわれているレニは、父と福音主義の使命を共有しています。或るありふれた自動車事故が彼らをグリンゴの経営する修理工場に導いていきます。神父が整備士の息子タピオカの魂を救うことに取りつかれたとき、レニは自分の運命を受け入れることを理解する。

 

     

     

 

2)「Pedágio / Toll」ブラジル=ポルトガル

  クロージング作品2023年、ポルトガル語、ドラマ、101

監督:カロリナ・マルコヴィッチ(サンパウロ1982)は、監督、脚本家、製作者、フィルム編集者。2007年短編デビュー、短編6編の後、「Carvao / Charcoal / Calvón」)で長編デビューを果たした。これはサンセバスチャン映画祭2022の同セクションに選ばれており、2年連続のノミネートです。監督キャリア&フィルモグラフィーなどは、昨年既に紹介しています。本作も前作に続いて、テーマは宗教、生と死、義務とは何かです。高速道路の料金所で働いている女性がヒロイン、ゲイである息子を救済するため違法な行為に手を染めるようになっていく。製作はデビュー作を手掛けたカレン・カスターニョと再タッグを組み、監督自身も製作に参画、撮影はルイス・アルマンド・アルテアガ。

カロリナ・マルコヴィッチのキャリア紹介は、コチラ20220825

   

          

         

キャスト:メイヴ・ジンキングス(スエレン)、トマス・アキノ(アラウト)、アイザック・グラサ、カウアン・アルバレンガ(ティキーニョ)、カイオ・マセド(リック)、アリネ・マルタ・マイア(テルマ)

ストーリー:高速道路の料金所係員であるスエレンは、ゲイである息子のことで苦しんでいる。著名な外国人司祭が率いる高額なゲイの改宗ワークショップに息子を送るため、車で海岸に行く人々から金品を盗み取るマフィアの片棒を担ぐことにする。ただし、これは息子を入所させるという高貴な目的のためだけに必要な額だけです。LGBTQ+の現大統領派からは「不快な社会ドラマ」と揶揄されている。

   

   

  (カロリナ・マルコヴィッチ監督と主役を演じるメイヴ・ジンキングス)

 

 

3)「Alemania」アルゼンチン=ドイツ

 ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同フォーラム2021、スペイン語、ドラマ、87

監督:マリア・サネッティ(ブエノスアイレス1980)は、監督、脚本家、製作者。2021年、ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同フォーラムの国際アルテキノ賞を受賞、本作が長編デビュー作。2011年、短編「Ping Pong Master」(12分)を監督、脚本、製作している。監督は姉が患っている精神障害に直面している家族を中心軸に、ドラマを展開させている。

     

   

                       (マリア・サネッティ監督)

 

キャスト:マイテ・アギラル(ロラ)、ミランダ・デ・ラ・セルナ、マリア・ウセド、ウォルター・ジャコブ

ストーリー16歳のロラは、ドイツでのセメスターの可能性が出てきたことで、再受験の勉強に取りくむことにした。ロラはドイツに留学したいと思っているが、姉の精神医学的問題に行き詰っている家族は、ロラが断念してくれることを願っている。家族との軋轢に疲労して安定を失っているロラは、自分の考えを推し進めながら、自分自身と彼女を取り巻く状況の両方について、別の視点で見ることができる新しい経験を見つけようとしています。

 

        

   

              (再受験に取り組むロラ)

 

 

4)Blondi」アルゼンチン=スペイン=米国

監督:ドロレス・フォンシ

 作品紹介は、コチラ20230721

     

   



    

 (左から、パウラ・エルナンデス、カロリナ・マルコヴィッチ、マリア・サネッティ、

  ドロレス・フォンシの監督)

  

オリソンテス・ラティノス部門2作発表*サンセバスチャン映画祭2023 ⑤2023年07月21日 15:22

          オリソンテス・ラティノス部門――散発的なノミネート発表

    

       

 

★去る714日、製作国にスペインが参加している映画14作が発表になり、うちオリソンテス・ラティノス部門にはスペインとの合作であるアルゼンチン映画2作が含まれていました。例年ですと8月初めに一挙に全作が発表になるのですが、今年は散発的です。とりあえず発表順にアップしておきます。ホライズンズ・ラティノスを今回からオリソンテス・ラティノスとスペイン語読みに変更します。

 

          オリソンテス・ラティノス部門

 

1)Blondi(アルゼンチン=スペイン=米国)2023年、スペイン語、88

 20234月、BAFICI(ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭)でプレミアされ、アルゼンチンでは61日に公開されています。

監督ドロレス・フォンシ(ブエノスアイレス1978)は、女優としてたびたびサンセバスチャン映画祭に参加していますが、今回はデビュー作「Blondi」の監督として訪れることになります。監督だけでなく脚本、製作、出演とエネルギーを爆発させています。フォンシの監督デビューには誰も驚かないはずです。10代で母親になった女性とその息子の特殊な関係が描かれ、母親ブロンディをフォンシ自身が演じます。夫君サンティアゴ・ミトレ監督がプロデューサーの一人として参加しています。リタ・コルテセやレオナルド・スバラリアなど、アルゼンチン映画ではお馴染みさんが共演しています。

    

       

★本祭との関りは、セクション・オフィシアルにファビアン・ヒエリンスキーの「El aura」(05)、セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』(15)、クラウディア・リョサのサイコスリラー「Distansia de rescate」(21『悪夢は苛む』Netflix)、オリソンテス・ラティノス部門にはサンティアゴ・ミトレの『パウリーナ』(15)と『サミット』(17)などに出演しています。当ブログでは以下にキャリア&フィルモグラフィをアップしています。

『パウリーナ』の紹介記事は、コチラ20150521

『サミット』の紹介記事は、コチラ20171025同年0518

『しあわせな人生の選択』の紹介記事は、2016年01月09日コチラ20170804

『悪夢は苛む』の紹介記事は、コチラ20210728同年1103

 

キャスト:ドロレス・フォンシ(ブロンディ)、カルラ・ペターソン(マルティナ)、リタ・コルテセ(ぺパ)、トト・ロビト(ミルコ)、レオナルド・スバラリア(エドゥアルド)、他多数

ストーリー:ブロンディとミルコは親友同士である。彼らは一緒にいるのが楽しい、同じ音楽を聴き、同じ映画を観て、二人ともマリファナが好きで、リサイタルも一緒に行き、互いの友人も同じ、すべてがパーフェクトである。ただほとんど同年代に見えますが、ブロンディはミルコの母親だということです。

 

  

                   (ミルコ役のトト・ロビトと)


   

                             (ぺパ役のリタ・コルテセと)


 

2)El castillo / The Castle(アルゼンチン=フランス=スペイン)2023

 ドキュメンタリー、スペイン語、78分  WIP Latam & Egeda Platino

監督マルティン・ベンチモル(ブエノスアイレス1985)は、ドキュメンタリー監督、脚本家、撮影監督。本作はベルリン映画祭2023パノラマ部門観客賞ノミネート、香港FFヤングシネマ部門監督賞を受賞、グアダラハラFFで撮影監督のニコ・ミランダがドキュメンタリー撮影賞を受賞、ほかイスラエルの DocAviv 映画祭、テッサロニキ・ドキュメンタリーFF、カルタヘナFFなどに出品されている。製作者マイラ・ボテロ、共同製作者ハイディ・フライシャー、フリア・パラティアン。

    

    

 

  

     (左から、ニコ・ミランダ、ベンチモル監督、ハイディ・フライシャー、

    フリア・パラティアン、ベルリン映画祭2023219日フォトコール)  

 

2017年、パブロ・アパロと共同監督したドキュメンタリー・ミステリー「El espanto」(65分)は、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭の中編ドキュメンタリー賞を受賞しているほか、ラスパルマスFF、ドキュメント・バルセロナTV3賞にノミネートされている。2012年にパブロ・アパロと監督した「La gente del río」は、150人しか住んでいない川沿いのエルネスティナ村が舞台。住民は村を訪れる人々が川を楽しむだけでなく、破壊行為で汚していると訴えます。BAFICI 2013 で上映された。

 

出演者:フスティナ・オリボ、アレクア・カミノス・オリボ

解説:フスティナは人生のすべてを家政婦として働いてきた。彼女はアルゼンチンのパンパの奥深くに建つ大邸宅を、元の雇用主から生涯にわたる献身が報われて相続しました。条件は唯一つ、決して売ってはならないということだった。

 

        

       

  (相続した大邸宅でくつろぐフスティナ・オリボ、アレクサ・カミノス・オリボ

   

    

         (マルティン・ベンチモル、ドロレス・フォンシ)


コンペティション部門ノミネート7作品*サンセバスチャン映画祭2023 ②2023年07月15日 18:01

        セクション・オフィシアルのノミネート7作品発表   

      


 

77日、第71回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2023セクション・オフィシアル(コンペティション部門)の7作品のノミネート発表がありました。例年1620作くらいですから3分の1だけ、全体像が分かるまでには少し時間がかかりそうです。7作のなかにスペイン映画は含まれておりません。スペイン語映画としてはアルゼンチンの2作が選ばれています。昨年は最初にスペイン映画4作が発表になりましたが、今年は様子が違うようです。以下に公式サイトの発表順に、製作国、タイトル、監督名、キャスト、ストーリーなどを簡単に列挙しておきます。

 

              71SSIFF セクション・オフィシアル

 

1) All Dirt Roads Taste of Salt(米国)英語、97

 *イクスミラ・ベリアク2019

監督レイブン ・ジャクソン(米、テネシー1990)は、監督、詩人、写真家、製作者。長編デビュー作だが本祭との関係は深く、2018年のネスト部門に短編「Nettles」(仮題「イラクサ」24分、タコマFF審査員賞)が出品されている。ほかノミネート作はイクスミラ・ベリアク・プログラムで掘り下げ完成させている。サンダンスFF2023USドラマ・コンペに正式出品された。ミシシッピで暮らす一人の女性の人生がリリックに語られる。

キャスト:チャーリン・マクルーア、ジャヤ・ヘンリー、レジナルド・ヘルムズ・ジュニア、クリス・チョーク、シーラ・アテム、他多数

ストーリー:数十年にわたるミシシッピ州で暮らす黒人女性の人生を探求する物語。私たちを形作った何世代もの人々、場所、そして言葉では言い表せない瞬間への賛歌です。セリフは殆どなく、美しいビジュアル、視覚的なストーリーテリングが監督の才能を際立たせている。

   

    

   

2) Ex-Husbands (米国)英語、コメディ、98

監督ノア・プリツカー(米、サンフランシスコ1986)は監督、作家。長編第2作目、2015年「Quitters」でデビュー、本祭参加は初めてとなる。新作は同じ家族ながらさまざまな登場人物たちのセンチメンタルな変転が語られる。主役グリフィン・ダン以下芸達者が共演する。

 

キャスト:グリフィン・ダン、マイルズ・ハイザー、ジェームズ・ノートン、エイサ・デイビス、ロザンナ・アークエット

ストーリー:ピーターの両親は65年間暮らした後に離婚した。彼の妻は35年後に去り、息子のニックとミッキーはそれぞれ自分の人生を送っている。ピーターがトゥルムに飛んで、ミッキーがお膳立てしたるニックの独身さよならパーティをぶち壊したとき、危機に瀕しているのは自分だけでないことに気づきます。

   

      

 

3) La práctica / The Practice(アルゼンチン=チリ=ポルトガル)

  スペイン語、コメディ、90

監督マルティン・ライトマンRejtman(アルゼンチン、ブエノスアイレス1961)は監督、脚本家、作家、製作者。セクション・オフィシアルのノミネートは初めてだが、1999年「Silvia Prieto」(メイド・イン・スペイン)、オリソンテス・ラティノス部門に「Los guantes mágicos」(04)、「Dos disparos / Two Shots Fired」(14)、2019年にはネスト部門の審査委員長を務めた。最新ニュースとしては、SSIFF 2020でドキュメンタリー「El repartidor está en camino / Riders」を発表、ヨーロッパ-アメリカラテンの共同製作開発賞Eurimages を受賞した。夫婦の危機にあるエステバン・ビリャルディ扮するヨガ教師が主人公。「ヨガの世界についてのコメディです。ヨガを始めてから20年以上経ち、無意識のうちにこの映画を撮る準備してきた」と監督。

 

キャスト:エステバン・ビリャルディ(グスタボ)、ミルタ・ブスネリ(バネサ)、マヌエラ・オジャルスン、カミラHirane、ガブリエル・カニャス

ストーリー:グスタボとバネサは離婚したが、協力してプロジェクトを見直さなければならない。二人ともヨガ教師で、グスタボはアルゼンチン人でバネサはチリ人である。バネサは二人で共有していたスタジオに残り、グスタボは家無し子になった。グスタボは溜めこんだストレスによって膝を負傷し、ヨガを諦める。まず最初に大腿四頭筋を鍛え、その後ジムに行く。彼の人生は少しずつ軌道に乗り、再び練習に戻れるようになる。

別途に監督キャリア&フィルモグラフィ紹介を予定しています。

   

      

 

4) Lile rouge / Red Island / La isla roja (フランス=ベルギー)仏語、116

監督ロバン・カンピヨ(モロッコ、モハメディア1962)は、モロッコ系フランスの監督、脚本家、フィルム編集者。コンペティション部門ノミネートは初めてである。本作はマダガスカルのフランス領植民地を舞台にしている。2004年『奇跡の朝』で監督デビュー、『イースタンボーイズ』(ベネチアFF2013、オリゾンティ部門作品賞受賞)、BPMビート・パー・ミニット』はカンヌFF2017グランプリ国際批評家連盟賞SSIFFのペルラク部門で上映されセバスチャン賞などを受賞した。ローラン・カンテの『南へ向かう女たち』(05)、カンヌFF2008でパルムドールを受賞した『パリ20区、僕たちのクラス』(セザール賞脚色賞)や「Foxfire」(12、『フォックスファイア 少女たちの告白』)の共同脚本家でもある。

 

キャスト:ナディア・テレスツィエンキーヴィツ(コレット・ロペス)、キム・グティエレス(ロベール・ロペス)、チャーリー・ヴォゼル(トマス・ロペス)、ソフィー・ギルマン、デビッド・セレロ、他

ストーリー1970年代初頭のマダガスカルに我々は誘いだされる。フランスが統治していた植民地の一つでは、フランスの軍事基地に駐留する家族たちが植民地主義の最後のあがきを送っていた。トマスは10歳、冒険コミックの怖れを知らないヒロイン〈ファントメット〉の影響を受けた好奇心旺盛な少年である。一方、彼の視線は徐々に世界のもう一つの現実に開かれて始めていた。

    

     

 

5) MMXX (ルーマニア=モルドバ共和国=フランス)ルーマニア語、コメディ、160

監督クリスティ・プイウ(ルーマニア、ブカレスト1967)は、監督、脚本家、俳優。カンヌFFやカルロヴィ・ヴァリFFに出品されている。ルーマニア医療の現実を切りとった2作目『ラザレスク氏の最期』(05)、本祭との関りでは2016年ペルラク部門に『シエラネバダ』を出品している。2020年『荘園の貴族たち』は、ベルリンFFに新設されたエンカウンターズ部門に選出され監督賞を受賞した。

 

キャスト:ビアンカ・ククリチ、ローレンティウ・ボンダレンコ、イゴール・バビアック、オティリア・パナイテ、ドリアン・ボグタ、ドラゴス・ブクル、ロクサナ・オグレンディル、他

ストーリー:若いセラピストのオアナ・フィファーは、患者の質問に少しずつ悶着を起こし始めている。オアナの弟ミハイ・ドゥミトルは誕生日の準備にとらわれ、オアナの夫セプティミウは新型コロナ汚染に怯え、組織犯罪検査官のナルシス・パトラネスクは一人の同僚の死に動揺しています。歴史の岐路に立ち往生している人々の放浪をとらえた瞬間を描いています。

   

  

 

6) Puan (アルゼンチン=イタリア=ドイツ=フランス=ブラジル)スペイン語、107

 *イクスミラ・ベリアク2022

監督マリア・アルチェ(ブエノスアイレス1983) 

    ベンハミン・ナイシュタット(ブエノスアイレス、1986

マリア・アルチェは、SSIFF 2018オリソンテス・ラティノス部門にデビュー作「Familia sumergida / A Famiiy Submerged」がノミネートされ作品賞を受賞しました。一方ベンハミン・ナイシュタットは、同年「Rojo」がセクション・オフィシアルにノミネート、監督賞(銀貝)を受賞しているほか、主役のダリオ・グランディネッティが男優賞(銀貝)、ペドロ・ソテロが撮影賞を受賞するなどした。デビュー作「Historia del miedo / History of Fear」は、2014年オリソンテス・ラティノス部門にが選出されており、両作とも簡単な作品紹介をしています。ベルリンやロカルノ映画祭に参加している。

Rojo」の作品紹介は、コチラ20180716

Historia del miedo」の作品&監督キャリア紹介は、コチラ20140224

 

キャスト:マルセロ・スビオット(マルセロ)、レオナルド・スバラリア(ラファエル)、フリエタ・ジルベルベルグ、アレハンドラ・フレッチェネル、マラ・ベステリ、アンドレア・フリヘリオ

ストーリー:「プアン」として知られるブエノスアイレス大学のユニークな哲学部を舞台にした物語。マルセロはブエノスアイレス大学で哲学を教えています。彼の指導教師のカセリ教授が突然亡くなり、マルセロは空席になった学部長の椅子を引き継ぐことを受け入れます。予想しなかったことは、カリスマ的で魅力的な同僚であるラファエル・スジャーチュクがこの学部長席を奪おうとヨーロッパの大学から戻ってくることでした。二人が学部長職をめぐって闘うはめになり、マルセロの人生もアルゼンチンもカオスになるでしょう。混乱はアルゼンチンのアイデンティティの基本です。

    


  

7) Un silence / A Silence (ベルギー=フランス=ルクセンブルク)仏語、100

監督ヨハヒム・ラフォセ(ベルギー、イクル1975)は、SSIFF 2015のセクション・オフィシアルに「Les chevaliers blancs / The White Knights」がノミネート、監督賞(銀貝)を受賞している。8年ぶりに本作で戻って来ました。本祭との関りはペルラク部門に「Leconomie du couple / After Love」(16)、「Les intranquilles / The Restless」(21)が出品されている。

 

キャスト:ダニエル・オートゥイユ、エマニュエル・デヴォス、マチュー・ガルー、サロメ・ドゥワエルズ、ラリッサ・フェイバー、デニス・シモネッタ、他

ストーリー:著名な弁護士の妻アストリッドは25年間沈黙したままだった。彼女の子供たちが正義を求め始めたとき、家族の安定に突然亀裂が生じます。

   


   

     

  

             (左から、マリア・アルチェ、ベンハミン・ナイシュタット、

              ロビン・カンピヨ、レイブン ジャクソン)

   

   

(左から、ヨアヒム・ラフォセ、ノア・プリツカー、

 クリスティ・プイウ、マルティン・ライトマン)


リサンドロ・アロンソの新作がカンヌ・プルミェールに*カンヌ映画祭20232023年05月19日 15:44

    『約束の地』から9年ぶりとなるリサンドロ・アロンソの「Eureka

    

      

 

★カンヌ・プルミェール部門に追加されたリサンドロ・アロンソの「Eureka」は、アルゼンチン、フランス、ポルトガルなど6ヵ国の合作。アロンソ監督はブエノスアイレス生れ(1975)、監督、脚本家。前作『約束の地』(「Jauja」14)以来、9年ぶりの新作。前作主演のヴィゴ・モーテンセンが新作でも主演、同じくモーテンセンの娘役で映画デビューした、デンマークのヴィールビョーク・マリン・アガーも出演して、同じ父娘に扮している。前作同様娘は失踪するようですが、もちろん続編ではありません。ほかにTVシリーズ『ナルコス:メキシコ編』でお馴染みのメキシコのホセ・マリア・ヤスピク、ポルトガルの監督でもあるベテラン女優マリア・デ・メデイロス、同じく舞台女優、ファドの歌手ルイーザ・クルス、ほかマルチェロ・マストロヤンニを父にカトリーヌ・ドヌーヴを母にもつフランスのキアラ・マストラヤンニなど錚々たるスターが共演している豪華キャストです。

『約束の地』作品 & 監督キャリア紹介は、

  コチラ2015070120140506

          

                

         (髪を短くした最近のリサンドロ・アロンソ監督)

 

 「Eureka

製作:4L(アルゼンチン)、Luxbox(フランス)、Rosa Film(ポルトガル)、

   Woo Films(メキシコ)、Komplizen Film(独)、Fortuna Films(オランダ)、

   Bord Cadre FilmsSlot Machine

監督:リサンドロ・アロンソ

脚本:リサンドロ・アロンソ、マルティン・カーマニョ、ファビアン・カサス

撮影:マウロ・エルセ、ティモ・サルミネン

編集:ゴンサロ・デル・バル

衣装デザイン:ナタリア・セリグソン

メイクアップ:エレナ・バティスタ

特殊効果:フィリペ・ペレイラ

製作者:カリーヌ・ルブラン、マリアンヌ・スロット、(エグゼクティブ)アンディ・クラインマン、アンドレアス・ロアルド、ダン・ウェクスラー、(共同)フィオレッラ・モレッティ、エディ・ザルディ、ほか多数

 

データ:製作国アルゼンチン=フランス=ポルトガル=メキシコ=オランダ=ドイツ、2023年、スペイン語、ドラマ、ウエスタン、140分、撮影アルメリア、20211111日クランクイン、カンヌ上映519

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2023カンヌ・プルミェール部門正式出品

 

キャスト:ヴィゴ・モーテンセン(マーフィー)、ホセ・マリア・ヤスピク、キアラ・マストラヤンニ(マヤ)、ヴィールビョーク・マリン・アガー(マーフィーの娘モリー)、ルイーザ・クルス(修道女)、ラフィ・ピッツ(無法者ランダル)、マリア・デ・メデイロス、サンティアゴ・フマガリ(受付係)、ナタリア・ルイス(娼婦)、ほか

 

ストーリー:ユーレカはアメリカ大陸のさまざまなところを飛びまわる鳥です。飛行中にタイムトラベルします。ユーレカは先住民が大好きです。運よく彼らの言葉を聞くと、人間になることが如何に難しいかを理解しようとします。1870年、アメリカとメキシコ国境地帯の無法者の町から始まり現在までの時間を、アメリカ、メキシコ、ブラジルのアマゾンのジャングルを縦断しながら、先住民文化の伝統と先祖伝来の知恵を守ることの重要性を探求する。4つのエピソードで構成され、異なる地域が描かれる。マーフィーは無法者ランダルに誘拐された娘を探すため町に到着する。

   

     

           (マーフィー役のヴィゴ・モーテンセン)

 

★パート1は、前作『約束の地』で父娘になったヴィゴ・モーテンセンとヴィールビョーク・マリン・アガーが、今回も同じ役を演じる。誘拐犯ランダルはイランの監督で俳優としても活躍するラフィ・ピッツが演じる。パート2「パインリッジ」は、サウスダコタ州にある現在の先住民居留地が舞台となっている。4部構成の最後「アマゾニア」はアマゾンのジャングルが舞台となる。先住民ではないUbirajaraウビラジャラは、アマゾンでは非常に脅かされていたので地元の金鉱山の探査に出発する。文字通りゴールドラッシュに苦しむことになる。パート3は目下情報が入手できていません。

   

     

           (前作『約束の地』のオリジナルポスター)

 

★アロンソ監督によると「北米の先住民部族と、南米の祖先伝来の伝統を守りたいと願い現代から逃れてきたアマゾンに住む部族を比較したいと思っています。1870年から始まりますが、まったくと言っていいほど現代を描いています。現代の悲劇、自然との断絶感、富の追求によって疎外された世界の過去を描いています」と、シネヨーロッパのインタビューでコメントしている。「私たち全員、特に南米の人々に、私たちが何処でどのように生きるべきか、よりよく生きるためにはどうすれば良いかを考えてほしい」とも語っている。アルゼンチンのパタゴニアを舞台にした『約束の地』で先住民の過酷な運命を描きたかったが、もっと時間をかける必要を感じたようです。そして今回の「Eureka」に繋げることができたわけです。

   

      

              (キアラ・マストラヤンニ)

 

ヴィゴ・モーテンセンのキャリア & フィルモグラフィー紹介は、既に『約束の地』あるいはサンセバスチャン映画祭2020ドノスティア栄誉賞受賞の折にアップしております。ストーリー及びキャストの立ち位置もはっきりせず隔靴掻痒なので、もう少し全体像が見えてから補足します。脚本家のファビアン・カサスは前作でも共同執筆しており、自分は脚本家というより「アロンソ専用の脚本家」だとコメント、確かに2作しか執筆していない。ほか俳優として「ある視点」ノミネートのロドリゴ・モレノの「Los delincuentes」に教師役で出演している。彼とアロンソ監督とモーテンセンの3人はサッカーファン、アルゼンチンのクラブチーム「サンロレンソ・デ・アルマグロ」の熱狂的なおじさんサポーターである。

ヴィゴ・モーテンセンのキャリア紹介は、コチラ⇒2020年07月08日

サンセバスチャン映画祭ドノスティア栄誉賞の記事は、コチラ⇒2020年09月26日

 

★最近カンヌ映画祭が発表したフォトから選んでおきます。