セクション・オフィシアルに追加発表7作*サンセバスチャンFF26⑥ ― 2026年08月04日 10:39
パブロ・ラライン「Mis muertos tristes」他、アルゼンチン映画

★7月28日、セクション・オフィシアルに7作の追加発表がありました。ニコール・ガルシア(アルジェリア)、マハ・ハラダ(日本)のデビュー作、パブロ・ラライン(チリ)、マイク・リー(イギリス)、ハンス・ペッター・モランド(ノルウェー)、ベンハミン・ナイシュタット(アルゼンチン)、イェシム・ウスタオル(トルコ)の7監督が、金貝賞に参戦します。既に発表になっていた3作に加えて10作が明らかになり、これで約半分です。詳細は別途アップするとして、簡単な作品紹介をしておきます。
*セクション・オフィシアル追加7作品*
4)「7:40 ce matin-là / Milo」(仮題「マイロ」)
データ:製作国フランス、2026年、フランス語、ドラマ、114分
監督・脚本:ニコール・ガルシア(アルジェリア、オラン1946)、監督、脚本家、女優
キャスト:マリオン・コティヤール(アリス)、テオドール・ペレラン(マイロ)、アルトゥス、ロール・カラミー、アレクシス・マネンティ、アンヌ・ブロシェ、エリック・エルモスニーノ、シャルル・ベルリング
ストーリー:出所したアリスは静かな地方の都市に到着し、地元のカフェでウエイトレスとして働きはじめます。自分のものではない生活に自然に溶け込んでいきますが、彼女が此処にいるのは偶然ではありません。それは近くのガレージで働く若い整備士マイロのせいです。しかし彼にとってアリスは他人、しかし彼女にとってマイロは決して離れることのできない過去に縛られた存在なのです。埋もれていた緊張が表面化し、マイロが不確かな境地へ深く入り込むと、二人は岐路に立たされます。何十年も前に壊れた絆を再び取り戻すことはできるでしょうか。

(母マリオン・コティヤールと息子テオドール・ペレラン)

(ニコール・ガルシア監督)

5)「Artakalan / What Remains」
データ:製作国トルコ=フランス=ルクセンブルク=ブルガリア、2026年、ドラマ、130分、
監督:イェシム・ウスタオウル(トルコ、1960)、サンセバスチャンFF2008で『パンドラの箱』が金貝賞を受賞、主演のツィラ・シェルトンが女優賞を受賞している。
キャスト:オイク・カラエル、メティン・アクデュルガー、アリ・カイラ・クル、イリヤス・サルマン
ストーリー:女性詩人は、内なる声と良心に再び向きあうため息苦しい生活の秩序から抜けだします。伝統的な家族の概念や人生の意味に疑問を投げかけ、自身と家族のために新たな道を切り開こうとします。


(イェシム・ウスタオル監督)

6)「Glaxo」(仮題「グラクソ」)
データ:製作国ブラジル=アルゼンチン、2026年、スペイン語、ドラマ、106分、トロント映画祭正式出品
監督・脚本:ベンハミン・ナイシュタット(アルゼンチン、ブエノスアイレス1986)
キャスト:ラリ・エスポシート、マルセロ・スビオット、エステバン・ビリアルディ、エステバン・ラモテ、マヌ・ファネゴ、アラン・サバグ
ストーリー:チビルコイ、1957年、グラクソの工場がある静かなアルゼンチンのの町で、引退した不吉な警察署長とその魅力的な妻の登場が、若者4人の永遠の友情を断ち切ってしまう。数十年後、過去が再び蘇り、彼らは古傷や罪悪感、そして無垢を失った国での復讐の可能性と向きあわざるを得なくなる。エルナン・ロンシノの同名小説の映画化。
◎監督キャリア&フィルモグラフィー紹介を予定しています。


(ベンハミン・ナイシュタット監督)

7)「Markens Grode / Growth of the Soil」(仮題「土壌の成長」)
データ:製作国ノルウェー=デンマーク=ドイツ、2026年、ノルウェー語、ドラマ、155分、撮影地:ノルウェー、2025年6月~12月。トロント映画祭特別プレゼンテーション部門でワールドプレミアされる。公開ノルウェー8月28日、デンマーク、スウェーデン10月30日
監督・脚本:ハンス・ペッター・モランド(ノルウェー、オスロ1955、監督、脚本家)、原作はクヌート・ハムスンの同名小説(1920年刊)の映画化、ガード・B・エイズウォルトが脚本を共同執筆。
キャスト:ハーバート・ノードルム(イサク・セランラー)、アスタ・カンマ・アウグスト(インゲル・セランラー)、ガード・B・エイズウォルト(ガイスラー)
ストーリー:山の向こうに彼独特の決断を携えた一人の見知らぬ男が現れる。過去をもたないイサクは、土地を耕しながら人生を切り開き、定住する場所を探しています。木立の上方の高い場所に、彼は厳しく不毛ながらも約束の土地を見つけます。この過酷な土地が彼を限界まで試しますが、やがて彼はインゲル(インガー)という孤独な女性に出会います。彼女は強靭さと静かな秘密主義に鍛えられています。二人は一緒に自然に耐え、季節の移り変わりに合わせて土壌と家族を築いていきます。しかし年月が過ぎ、世界が狭まるにつれ、時間と困難、欲望が彼らを作り変えていきます。


(ハンス・ペッター・モランド監督)

8)「Mis muertos tristes / My Sad Dead」
データ:製作国アルゼンチン=チリ、アルゼンチン映画、2026年、スペイン語、TVミニシリーズ(4話186分)、心理的ホラー、ファンタジー。撮影のロケ地はアルゼンチン、室内はチリ、2025年6月クランクイン、Netflix日本語字幕入り配信決定
監督・脚本:パブロ・ラライン(チリ、サンティアゴ1976、監督、脚本家、製作者)、共同脚本:アナスタシア・アヤジ、ギジェルモ・カルデロン、原作マリアナ・エンリケスの短編4作
キャスト:メルセデス・モラン(エマ)、ドロレス・フォンシ(ジュリー)、アレハンドラ・フレッチェネル、カロリナ・サンチェス・アルバレス、カルロス・ポルタルッピ、ヘルマン・デ・シルバ、カルロス・ドノソ、ルス・ヒメネス
ストーリー:母親の死後、引退した医師エマは姪のジュリーの予期せぬ訪問を受けます。姪はエマと同じ不穏なギフトを共有しています。家族の再会が癒えることのなかった秘密や傷を再び浮上させることになるが、同時に誰も無傷で生きられない奇妙な現象も現れます。近隣全体が彼方からの気配を感じとり、自分たちの死者の特徴的な声を聞くことになります。生と死の境界が曖昧になり、社会が隠している恐怖が語られることになるだろう。死者の姿を見聞きできるエマを描いた、アルゼンチンの作家マリアナ・エンリケスの作品を原作としている。
◎作品詳細、原作者、監督キャリア&フィルモグラフィー紹介を予定しています。

(エマ役メルセデス・モラン)

(ジュリー役ドロレス・フォンシ)

(パブロ・ラライン監督)

9)「Muyou no Hito / In My Father’s Room」『無用の人』
データ:製作国日本、2026年、ドラマ、109分、デビュー作、公開2027年1月予定
監督・脚本:原田マハ(東京都小平市1962、作家、キュレーター、大学教員、監督デビュー作)、著書『リボルバー』(2023年刊)、2024年『坂上に咲く』で第52回泉鏡花文学賞受賞、他受賞歴多数
キャスト:蒼井優(羽島聡美)、イッセー尾形(父唯一)、永山瑛太(古道具屋店主タク)、渡辺えり(母柊子)
ストーリー:聡美は美術館で監視員として働いていたが、美術館に謎の「鍵」が入った封筒が届いた。亡き父がかつて所有していた見知らぬ部屋へと聡美を導いていきます。父は1ヵ月前に一人で他界していた。この小さな物に引き寄せられ、彼女は父の最期の日々を辿ることになります。社会に忘れられたかのように見えながら、言葉や茶道芸術、そして繊細な美への献身に支えられていた。孤独の痕跡を通して、聡美はゆっくりと自分が住む世界の静かな優雅さを発見していきます。『あなたは、誰かの大切な人』収録作「無用の人」の映画化。


(聡美役の蒼井優)

(原田マハ監督)

10)「Tender Loving Care」
データ:製作国イギリス=米国=シンガポール、2026年、英語、コメディ・ドラマ、トロント映画祭正式出品、公開米国2026年12月4日予定
監督・脚本:マイク・リー(ブロケット・ホール1943、監督、脚本家、舞台監督)、SSIFF2024セクション・オフィシアルに「Hard Truths」(『ハード・トゥルーズ 母の日に願うこと』)で登場以来、本作で戻ってきました。『ネイキッド』(93)、『秘密と嘘』(カンヌFF1996パルムドール)、『人生は、時々晴れ』(カンヌFF2002ノミネート)、『ヴェラ・ドレイク』(ベネチアFF2004金獅子)など。
キャスト:マリオン・ベイリー、ポール・ジェッソン、ケイト・オフリン、アリス・ベイリー・ジョンソン
ストーリー:カンヌ映画祭のパルムドール受賞者にして、複数回オスカー賞ノミネートのマイク・リーの新作、現代世界への洞察に満ちた探求を続けています。本作が最後の作品となる可能性を示唆している。
*『ハード・トゥルーズ 母の日に願うこと』の作品紹介は、コチラ⇒2024年08月08日


(マイク・リー監督)

ドロレス・フォンシの2作目「Belén」*ゴヤ賞2026 ➅ ― 2026年02月17日 17:57
イベロアメリカ映画賞ノミネート――ドロレス・フォンシの「Belén」

★アルゼンチンのドロレス・フォンシの第2作「Belén」は、サンセバスチャン映画祭2025セクション・オフィシアルでプレミア上映され、3月15日に開催される第98回アカデミー賞(国際長編映画賞部門)にアルゼンチン代表作品に選ばれていました。ショートノミネート15作には残りましたが、残念ながらノミネートは逃しました。ちなみにスペイン代表作品のオリベル・ラシェの 「Sirāt」は、映画賞と音響賞の2部門に踏みとどまりました。サンセバスチャン映画祭では作品紹介をしませんでしたが、ゴヤ賞イベロアメリカ映画賞にノミネートされましたので、遅ればせながらアップいたします。

(左から、フリエタ・カルディナリ、ドロレス・フォンシ、カミラ・プラーテ、
ラウラ・パレデス、サンセバスチャン映画祭2025フォトコール、9月22日)
★本作はおよそ10年前の2014年、アルゼンチン北西部トゥクマンで実際に起きた「乳児殺害(中絶)」の冤罪事件をベースにしています。アナ・エレナ・コレアのノンフィクション小説 “Somos Belén” (プラネタ社、2019年刊)を原作として、アルゼンチンで中絶法案成立に繋がった法廷での激しい対立を描いています。〈ベレン〉という名前は本名ではなく、この冤罪事件をきっかけに女性の人権運動が広がるにつれ、シンボル的に付けられた名前です。本名を明かすことは家族に危険が及ぶ可能性を考慮して、映画ではカミラ・プラーテ扮するフリエタの名前で登場します。監督自身が演じるソレダード・デサは、トゥクマン出身の実在の弁護士です。オスカー賞ノミネートのプロモーションに現地を訪れたデサ弁護士と監督は、メディアからの多くのインタビューを受けましたが、それはテーマが世界中の女性の権利闘争と共鳴しているからで、今の瞬間を象徴する映画だからです。

(自著 “Somos Belén” を手にしたアナ・コレアとドロレス・フォンシ)

(インタビューを受けるデサ弁護士と彼女を演じたドロレス・フォンシ、ロサンゼルス)
「Belén」
製作:Amazon MGM Studios / K & S Films
監督:ドロレス・フォンシ
脚本:ラウラ・パレデス、ドロレス・フォンシ、アグスティナ・サン・マルティン、
ニコラス・ブリトス (原作:アナ・コレア “Somos Belén” )
撮影:ハビエル・フリア
編集:アンドレス・ペペ・エストラーダ
衣装デザイン:ルシア・ガスコニ
メイクアップ & ヘアー:ディノ・バランチノ、アンヘラ・ガラシハ、フロレンシア・グロッソ
プロダクションマネジメント:ニコラス・ポラストリ
製作者:レティシア・クリスティ(K & S)、マティアス・モスティリン、ウゴ・シグマン、ロドリゴ・カラ、ディエゴ・コペリョ(コペラ)、(エグゼクティブ)アルトゥール・デル・リオ(Amazon Studios)
データ:製作国アルゼンチン、2025年、スペイン語、法廷ドラマ、105分、第98回アカデミー賞アルゼンチン代表作品(ショート15作ノミネート)、配給米アマゾンMGMスタジオ、公開アルゼンチン2025年9月18日、プライムビデオ配信:英・米・カナダ・スウェーデン・シンガポール、ウルグアイ(シネマティカ)、視聴地域が限られ、現在日本では視聴できません。
映画祭・映画賞:サンセバスチャン映画祭2025セクション・オフィシアル(助演俳優賞カミラ・プラーテ、RTVE「もう一つの視点賞」スペシャル・メンション受賞)、リオデジャネイロFF、オランダのライデンFF、シカゴFF、フォルケ賞2025ラテンアメリカ映画賞受賞、ハバナFF2025音響賞、ローズ・ドール・ラティノス2025TVストリーミング賞受賞、2026年パルマ・スプリングスFF、
キャスト:カミラ・プラーテ(ベレン/フリエタ)、ドロレス・フォンシ(弁護士ソレダード・デサ)、ラウラ・パレデス(バルバラ)、フリエタ・カルディナリ(公選弁護人ベアトリス・カマニョ)、セルヒオ・プリナ(ディエゴ)、ルイス・マチン(判事ファリア)、セサル・トロンコソ(アルフォンソ)、リリ・フアレス(マベル)、ルス・プラーテ(メチャ)、ガイア・ガリバルディ(フローラ)、マリア・マルル(クリス)、他多数
ストーリー:2014年、アルゼンチン北部トゥクマンで流産したにも拘わらず、違法な中絶〈乳児殺害〉の罪で告発、収監されたフリエタ(通称ベレン)の実話に基づいています。本作は、彼女を救うため立ち上がった勇敢な弁護士ソレダード・デサとの激しい法廷闘争が、やがて女性の権利を求める中絶合法化の大きな社会運動へと発展していく様子が語られ、法的な壁と社会の偏見に立ち向かうため連帯した女性たちを描いています。アナ・コレアの優れたノンフィクション小説がベースになっている。

(アナ・コレアと “Somos Belén” の表紙)
★本作は弁護士視点の法廷闘争がメインと推察されますが、まだ作品が視聴できないためフリエタの流産がどうして乳児殺害になったのかという経緯がよく分かりません。トゥクマン州(州都サン・ミゲル・デ・トゥクマン)は、アルゼンチンでも家父長制的な法制度が根を張った保守的な地域といわれ、女性の地位は低い。フリエタは激しい腹痛のため救急外来に搬送され、自身が妊娠22週目で流産したことを知らされます。当時彼女は27歳で妊娠していることを知らなかったという。医療従事者はフリエタが中絶を試みた可能性を疑い、警察に通報する。フリエタは目が覚めると退院どころか手錠がはめられ収監されたという、我が耳を疑う言語道断な事件です。
★監督、脚本、出演のドロレス・フォンシ(ブエノスアイレス1978)の2作目となる本作は、自身が企画して制作会社を探したというわけではなかった。ベレン事件には最初からコミットしていたが、自身で撮る予定はなかったと語っている。制作会社K & S Filmsのレティシア・クリスティから打診があり、引き受けたと語っている。
★女優としての経歴が長く、パートナーのサンティアゴ・ミトレの『パウリーナ』以下クラウディア・リョサの『悪夢は苛む』までの代表作4作を当ブログで紹介しています。監督デビュー作「Blondi」は、サンセバスチャン映画祭2023オリソンテス・ラティノス部門にノミネート、アルゼンチン映画アカデミーとコンドル賞2024初監督作品賞を受賞しています。優れた法廷闘争を描いた映画にはアカデミー賞2023国際長編映画賞にノミネートされたミトレの『アルゼンチン、1985』が記憶に新しい。比較しても始まりませんが、いずれ視聴できた折には改めてアップしたい。
*ドロレス・フォンシのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2023年07月21日
*『パウリーナ』は、コチラ⇒2015年05月21日

(デサ弁護士役ドロレス・フォンシとフリエタ役のカミラ・プラーテ、フレームから)
★ソレダード・デサ、トゥクマン州都サン・ミゲル・デ・トゥクマン生れ、トゥクマン国立大学卒、著書に ”Libertad para Belén: Grito nacional” がある。時代遅れの法律によって女性の健康やプライバシーが脅かされている現実と闘う弁護士の一人。地元トゥクマン裁判所の「8年の禁固刑」という深刻な不正義に驚愕して、フリエタの弁護を前任者から引き継いだ。デサは自分が闘っているのがフリエタだけでなく、時代遅れの法律によって長年苦しめられてきた全女性のためであることに気づいたという。激しい社会運動のさなか、2017年にデサ弁護士の努力の甲斐あって州最高裁判所は「禁固3年」に減刑、フリエタは釈放され、最終的には無罪を勝ち取った。デサ弁護士は「映画ベレンは、ハンディキャップで組み立てられた自由の物語ですが、それは多くの人々の頑張りと団結についての物語でもある」とコメントしている。

(ソレダード・デサ弁護士)

(中絶法案合法化のデモ行進)
★アナ・エレナ・コレア、ブエノスアイレス生れ、作家、弁護士、政治的コメンテーター、活動家、フェミニスト、“Somos Belén” の著者。2019年11月にブエノスアイレス大学法学部で行われた出版記念イベントにまだ就任前だったが、次期大統領アルベルト・フェルナンデス(任期2020年12月~2023年12月)も出席して、「私がここにいるのは、彼女たちの要求を支持するため」とスピーチした。就任した翌年合法化された。イベントには、アナ・コレアの他、ソレダード・デサ弁護士、中絶闘争の先駆者ネリー・ミニエルスキー弁護士(サン・ミゲル・デ・トゥクマン1929)やフォンシ監督の姿もあった。

(左から2人目、デサ弁護士、アナ・コレア、次期大統領アルベルト・フェルナンデス、
ミニエルスキー弁護士、ドロレス・フォンシ、中絶合法化のイベント、2019年11月15日)
★カミラ・プラーテ(ベレン/フリエタ)は、アグスティン・トスカノの「El Motoarrebatador / The Snatch Thief」(18)でデビュー、アルゼンチン映画アカデミー賞2019新人女優賞にノミネートされた。本作はカンヌ映画祭併催の「監督週間」でプレミアされ、同年サンセバスチャン映画祭オリソンテス・ラティノス部門にもノミネートされた。バイクひったくり犯の心の遍歴が語られる。トスカノはサン・ミゲル・デ・トゥクマン出身の監督です。2019年リリアナ・パオリネリのコメディ「Margen de error」、TVシリーズ「Tafí Viejo, verdor sin tiempo」(25)などが代表作。
*「El Motoarrebatador / The Snatch Thief」紹介記事は、コチラ⇒2018年09月07日

(「Belén」の法廷シーンから)

(銀貝助演俳優賞のトロフィーを手にしたカミラ、SSIFF2025授賞式にて)
★同じテーマの作品として、ドキュメンタリーだがSSIFF2019でご紹介したRTVEスペイン国営ラジオ・テレビが選ぶ「もう一つの視点」を受賞したフアン・ソラナスの「La ola verde(Que sea ley)」がある。カンヌ映画祭2019アウト・オブ・コンペティションで特別上映された。妊娠中絶合法化のシンボルである緑のハンカチやスカーフを身に着けてカンヌやサンセバスチャンに大挙して参加した。翌2020年、フェルナンデス大統領によってに合法化された。しかし、アルゼンチンのトランプと揶揄される現大統領ハビエル・ミレイは、中絶法の復活を豪語している。
*「La ola verde(Que sea ley)」の記事は、コチラ⇒2019年08月11日/同年10月03日
アルゼンチンのコメディ『27夜』鑑賞記*SSIFF2025 ㉒ ― 2025年11月06日 16:19
ダニエル・エンドレルの『27夜』ネットフリックスで配信開始

★第73回サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル開幕作品、ダニエル・エンドレルの長編4作め「27 noches / 27 Nights」が『27夜』の邦題でストリーミング配信が始まりました。エンドレル監督はモンテビデオ生れのウルグアイ出身ですが、主にアルゼンチン映画で俳優として活躍しています。本作では脚本も手掛け、さらに主役マルタ・ホフマンを演じるマリル・マリニに振り回される司法調査官役で出演、三面六臂の大活躍です。今年はオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた3作め「Un cabo suelto」がオリソンテス賞(スペシャル・メンション)を受賞するなど大忙しでした。纏まった監督キャリア&フィルモグラフィー、キャスト紹介を後述します。

(ダニエル・エンドレル、サンセバスチャン映画祭2025,9月19日フォトコール)
「27 noches / 27 Nights」
製作:La Unión de los Ríos
監督:ダニエル・エンドレル
脚本:ダニエル・エンドレル、マルティン・マウレギ、アグスティナ・リエンド、
マリアノ・リナス
原作:ナタリア・シトの小説“Veintisiete noches”(2021年11月刊)
撮影:フリアン・アペステギア
編集:ニコラス・ゴールドバード
音楽:ペドロ・オスナ
録音:サンティアゴ・フマガリィ
メイク&ヘアー:マリサ・アメンタ
衣装デザイン:ロベルタ・ペスシ
製作者:アグスティナ・ジャンビ・キャンベル、サンティアゴ・ミトレ
データ:製作国アルゼンチン、2025年、スペイン語、コメディドラマ、108分、配給元ネットフリックス(ストリーミング配信10月10日)、公開アルゼンチン10月9日
映画祭・受賞歴:第73回サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル開幕作品
キャスト:マリル・マリニ(マルタ・ホフマン)、ダニエル・エンドレル(レアンドロ・カサレス)、ウンベルト・トルトネーゼ(ベルナルド・ヒルベス)、フリエタ・ジルベルベルグ(アレハンドラ・コンデ)、カルラ・ペテルソン(マルタの長女ミリアム)、パウラ・グリンシュパン(マルタの次女オルガ)、エル・ルイサ・リベラ(家政婦デリア)、リカルド・メルキン(レアンドロの父親)、エゼキエル・ディアス(Dr. オルランド・ナルバハ)、ヘルマン・デ・シルバ(フリオ)、ロベルト・スアレス(カサレスの上司ボローニャ判事)、ロシオ・ムニョス(バネ/バネッサ)、マリアナ・ショード(Dra. グロリア・フスコ)、アレハンドラ・フレヒナー(マルタの精神科医ロトマン)、アラン・サバグ(クリニック所長)、他多数
ストーリー:風変わりで裕福な83歳になるマルタ・ホフマンの物語。マルタは認知症を患っていると主張する二人の娘たちの要請で突然精神科クリニックに入院させられる。一方、司法調査官レアンドロ・カサレスは、マルタが本当に病気なのか、それとも残された人生を単に自由奔放に生きたいためだけなのか調査するよう裁判所から派遣される。調査を始めたカサレスは、入院が保護行為のためというより、ただ母親の財産をコントロールしたいだけなのではないかと疑い始める。アルゼンチンの造形アーティストで作家のナタリア・コーエンが、2005年ピック病(前頭側頭型認知症)と誤って診断され、自分の意思に反して精神科クリニックに入院させられた実話に基づいて書かれたナタリア・シトのフィクション小説にインスパイアされている。
「正気とは何か?」――奇行と狂気の境界線
A: 2005年のナタリア・コーエン事件の経緯は、彼女の娘たちが神経科医で急進市民連合党の議員でもあるファクンド・マネスの「ピック病を患っているという診断書」を添えて精神科クリニックに入院させた事案。その後の司法手続きにより、コーエンの健康状態が良好であると判断された。
B: 映画は退院後に直ぐ始まった自称アーティストたちを招いてのパーティ三昧や散財に業を煮やした娘たちが、再度の入院申立てをしたところから始まる。

(ミリアム、マルタ、オルガ、母娘バトルの勝敗は?)
A: カサレスの調査とマルタの27日間に及んだ入院中のシーンが往ったり来たりするので、分かりにくいかもしれない。マルタの老化は否めないが、奇行と狂気は別、正常なのは冒頭で分かってしまうから、正気かどうかがテーマじゃない。
B: 高齢者の自立と尊厳、意思決定権、社会的偏見、壊れてしまった親子関係のドタバタが語られます。親の健康より相続できる財産の多寡を心配する子供たちは万国共通、国籍を問わない。
A: 自由を満喫している自称芸術家が、パトロンの援助を受けるのは正当なことだと豪語するブエノスアイレスでは、財産の目減りを怖れる相続者は生きた心地がしない。マルタの二人の子供たちも例外ではない。
B: 夫の死後、再婚もしかねないぶっ飛んだ母親とあっては、なまじ財産があるだけに娘たちにも同情する。背景には親子の対立、他人が母親の財産を横取りしているという不安や不満がある。認知症にして病院送りにするとはやりすぎです。
ナタリア・シトの小説“Veintisiete noches”に着想をえる
A: 前述したように2005年、メンドサ出身の造形アーティストで作家のナタリア・コーエン(1919~2022)の身に降りかかった実話をもとにしている。精神分析医でもある作家のナタリア・シト(ブエノスアイレス1977)が、この実話に着想を得た小説“Veintisiete noches”を2021年に上梓した。それを映画化したのが「27 noches」です。小説とはいえ、作家は1年半がかりで約50人に取材した証言をもとに執筆したが、勿論取材拒否をした人もいた。
B: コーエンの享年は103歳、刊行時には存命していたことになるが、作家はモデル保護のため「サラ・カッツ」の偽名で登場させている。


(原書と作家ナタリア・シト)
A: さらに映画では「マルタ・ホフマン」になり、その他の登場人物、娘たちや精神科医たちもすべて仮名のようです。特にピック病の診断書を提出したナルバハ医師など実名では名誉棄損になりかねない。取材拒否をした人です。
ホフマン姉妹の正義 vs 母親マルタの意思決定権
B: 映画では今年のサンセバスチャン映画祭に監督と参加していたカルラ・ペテルソン(1974)扮する気の強い長女ミリアムが主導権を握っているが、実際はダリの彫刻を盗み出していた妹クラウディア(映画ではオルガ)とその夫が主に画策して、看護師たちも加担していたという。
A: ミリアム役のペテルソンはTVシリーズのコメディ出演が多く、受賞歴もテレビに偏っているが、 サンセバスチャン映画祭2023でドロレス・フォンシが監督デビューした「Blondi」に共演している。本作では他人が母親に取り入って財産を横取りするので、日に日に目減りしていくのが耐えられない。ましてや再婚などされたら万事休すである。
B: 二言目に口にする「ママのためよ」が空虚に聞こえるが、子供のときから母親に愛されていないと思っていて、自由奔放に生きるマルタが許せない。夫婦仲もイマイチらしく幸せそうでない。

(長女ミリアム役のカルラ・ペテルソン)
A: ドイツのコンテンポラリーダンスの振付師で舞踊家のピナ・バウシュの経歴を調べて、マルタのお気に入りベルナルド・ヒルベスの作り話を突いたりして利口ぶりを発揮するのは、そちらの知識には不案内な調査員カサレスの鑑定結果を有利にしようとする作戦らしい。
B: 劇中アルゼンチン人の軽薄ぶりを随所に振りまき笑わせてくれる。ピナ・バウシュはパリではなくニューヨークのジュリアード音楽院ダンスコースで学んでいるからミリアムの言う通りかも。アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』に出演して日本でもファンは多い。

(右から、カサレス役のエンドレル、ヒルベス役のウンベルト・トルトネーゼ)
A: TVシリーズでは、人気ラブコメ「Lalola」(2007~08)でブレイク、クラリン賞やマルティン・フィエロ賞を受賞しているベテランです。「Guapas」(14)では、マリル・マリニと共演している。一方、妹オルガを演じたパウラ・グリンシュパンの猫かぶりぶりが随所に見られて楽しめた。主に脇役が多いので出演本数は多いが、当ブログにアップしたディエゴ・レルマンの『UFOを愛した男』ではテレビ局職員アリシア役を演じていた。

(次女オルガ役のパウラ・グリンシュパン)
B: 威勢のいいミリアムの陰に隠れているが、担保としてダリの彫刻をちゃっかり失敬している。自分のほうが賢いと思っている姉と、長女より優しく母親想いと勘違いしているマルタの両方を騙しているのが可笑しい。
A: 本作ではオルガが盗んだダリの彫刻をミキサーの空き箱に入れて返しにきたり、挙句落として折れた腕を接着剤でくっつければバレないとカサレスに言わせたり、ヒルベスに「ダリの作品など興味がないから盗むなどありえない」など、元の宗主国スペインをおちょくっている。「私は悪くない、悪いのはお前」というアルゼンチン気質がちりばめられている。ウルグアイ人監督は、常に上から目線のアルゼンチン人をチクチクやらずにいられない。
B: 肝心のマルタ役のマリル・マリニ(マル・デル・プラタ1940)は、当ブルグ初登場、モデルとなったナタリア・コーエンに見事に化けていた。
A: コンテンポラリーダンサーとして、アルゼンチンとフランスで人生のスタートをきる。1975年パリに居を移し、サミュエル・ベケット、ジャン・ジュネ、ユキオ・ミシマなどの舞台に立っている。映画はどれも未見ですが70年代からで、フランスではクレール・ドニとタッグを組んでいる。映画出演は今世紀に入ってからに限ると、代表作としてディエゴ・サバネスの「Mentiras piadosas」(08)に主演している。エンドレル監督と共演した「Los sonámbulos」は、オスカー賞2020のアルゼンチン代表作品になった。


(モデルになったナタリア・コーエンとコーエンに化けたマリル・マリニ)
B: 演劇、映画、TVシリーズの受賞歴も多く、ナタリア・コーエンに負けず劣らずのキャリアです。加齢とともに評価が高くなるというのは、祖父母世代にこれほどチャンスは巡ってこないから、ハリウッドや日本では考えにくい。
A: カサレスの助手として資料調べや事情聴取に参加する、カサレスより有能なアレハンドラ・コンデ役のフリエタ・ジルベルベルグは、字幕入りで観られる女優の一人です。
B: ルクレシア・マルテルの2作め『ラ・ニーニャ・サンタ』の脇役でデビューしている。
A: ディエゴ・レルマンが主役に抜擢して撮った『隠れた瞳』が東京国際映画祭2010コンペティション部門にノミネートされた折り、監督と来日してQ&Aに参加している。翌年、銀のコンドル賞を受賞した。『人生スイッチ』にも出演、ダニエル・ブルマンの「El rey del Once」に新作でクリニック所長を演じたアラン・サバグとタッグを組んだ。

(アレハンドラ・コンデ役のフリエタ・ジルベルベルグ)
B: ダニエル・エンドレル扮するもう一人の主役、真面目だが不器用、凝り性で調査に深入りしすぎて停職をくらう司法調査官レアンドロ・カサレス、マルタに翻弄されながらも最終的には信頼されていたらしく失業を免れる。マリル・マリニとは「Los sonámbulos」で共演している。
A: ウルグアイはブラジルとアルゼンチンに挟まれて「ボカディージョのツマ」などと揶揄される小国、ほとんどの俳優が市場の狭い自国だけでは食べていけないからアルゼンチンに出稼ぎに行く。エンドレルもダニエル・ブルマンの「アリエル三部作」の第1部『救世主を待ちながら』でデビューしている。主人公アリエルはブルマン監督の分身と言われている。

(弥次さん喜多さんのエンドレルとマリル・マリニ)
B: 第2部の『僕と未来とブエノスアイレス』、第3部は未公開の「Derecho de familia」でした。
A: 第2部でベルリン映画祭2004銀熊主演男優賞を受賞した。アドリアン・カエタノの犯罪スリラー『キリング・ファミリー』にレオナルド・スバラリアやアンヘラ・モリーナと共演、簡単なキャリア紹介をしています。また「アリエル三部作」についても「El rey del Once」で紹介しています。
B: 経歴をみると、建築家になりたかったのでウルグアイ建築大学で5年も学ぶが、かたわら演劇にのめり込み、さらにミュージシャンを目指したりしている。
A: 逡巡するカサレスのキャラクターに似ているところがある。結局俳優になったわけですが、それには1998年、ウルグアイでのブルマンとの出会いがあるのではないか。ウルグアイ製作の映画は少ないが、モンテビデオのシネマテークには格安のパスがあって世界の映画が見放題だったから、シネマニアの目は肥えていた。
B: エンドレルが主演したコメディ『25ワッツ』や『ウィスキー』を観た日本人は、ウルグアイ映画のレベルの高さにびっくりした。
A: フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストールの名コンビ、国際映画祭での数々の賞に輝きながらもレベージャは2年後自死してしまった。エンドレルは『ウィスキー』に後に結婚することになったアナ・カッツと出演している。以後、両国で引っ張りだこになりラプラタ河を往復する人生が始まった。キャリア&フィルモグラフィーは以下に紹介しておきますが、既に70作を越えているので代表作品に限ります。
監督紹介:ダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976)。司法調査官レアンドロ・カサレス役。映画、TV、舞台俳優、監督、脚本家、ユダヤ系ウルグアイ人、ウルグアイ建築大学で学ぶかたわら演劇活動にのめり込む。2007年、アルゼンチンの監督アナ・カッツと結婚したが、2018年離婚してしまった。国籍はウルグアイのみ、ブエノスアイレス在住だが取得していない。
◎フィルモグラフィーは主な作品に限ります(ゴチックが監督作品)
2000「Esperando al mesias」『救世主を待ちながら』ダニエル・ブルマン、
クラリン新人賞受賞
2001「25 Watts」『25ワッツ』フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストール
BAFICI男優賞受賞
2003「El fondo del mar」ダミアン・シフロン、銀のコンドル賞主演男優賞ノミネート、
リェイダ・ラテンアメリカFF男優賞
2004「El abrazo partido」『僕と未来とブエノスアイレス』ダニエル・ブルマン、
ベルリンFF銀熊主演男優賞、クラリン賞、銀のコンドル賞ノミネート
2004「Whisky」『ウィスキー』フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストール
2006年「Derecho de familia」ダニエル・ブルマン、スール賞、銀のコンドル賞ノミネート
2009「Los paranoicos」ビアリッツFF男優賞、リマ・ラテンアメリカFF男優賞受賞
2010「Fase 7」ニコラス・ゴールドバード、CinEuphoria賞主演男優賞受賞
2011「Norberto apenas tarde」監督デビュー作、脚本
BAFICIシグニス賞スペシャル・メンション、メキシコ市FF脚本賞受賞、
イベロアメリカ作品銀のコンドル賞ノミネート他
2015「El candidato」監督2作目、マイアミFF監督賞、ニューヨーク・ハバナFF脚本賞受賞
2017「El otro hermano」『キリング・ファミリー 殺し合う一家』イスラエル・カエタノ
2019「Los sonámbulos」パウラ・エルナンデス
2020「El Prófugo」ナタリア・メタ、アルゼンチンのアカデミー賞助演男優賞ノミネート
2025「Un cabo suelte」監督3作目、ベネチアFF観客賞ノミネート、SSIFFオリソンテス賞受賞
2025「27 noches」監督4作目、脚本、出演
*『キリング・ファミリー 殺し合う一家』紹介は、コチラ⇒2017年02月20日
*「El rey del Once」の作品紹介は、コチラ⇒2016年08月29日
*「El Prófugo」の作品とエンドレル紹介は、コチラ⇒2020年02月27日
キャスト紹介:
マリル・マリニ(マル・デル・プラタ1940)主人公マルタ・ホフマン役、ブエノスアイレスでコンテンポラリーダンスを学び、1970年代からアルゼンチンとフランスで舞踊家として人生のスタートを切る。1975年にパリに居を移し、フランスで活躍していたアルゼンチンの舞台演出家アルフレッド・アリアスの劇団の舞台にたつ。1986年モリエール賞を受賞している。
*映画出演では、ディエゴ・サバネスがフリオ・コルタサルの短編”La salud de los enfermos”を映画化した「Mentiras piadosas」(09)に主演、銀のコンドル賞にノミネート、スペインのビリャベルデ映画祭で女優賞を受賞している。またビオイ・カサレスの同名小説を映画化したアレハンドロ・マチの政治スリラー「Los que aman, odian」(17)では助演にもかかわらず銀のコンドル賞を受賞した。続いて2019年、SSIFFにエントリーされたパウラ・エルナンデスの「Los sonámbulos」ではエンドレル監督と共演、アルゼンチンのアカデミー賞助演女優賞にノミネートされている。本作はオスカー賞のアルゼンチン代表作品に選ばれた話題作。ゴンサロ・カルサダのホラーサスペンス「Nocturna: La noche del hombre grande」がブラジルのファンタスポア映画祭2021主演女優賞を受賞、銀のコンドル賞にノミネートされている。
カルラ・ペテルソン(ピーターソン、1974)マルタの長女ミリアム・ホフマン役、最近ではドロレス・フォンシのデビュー作「Blondi」(23)でアルゼンチン映画芸術科学アカデミーの助演女優賞にノミネート、過去にはディエゴ・カプランの「Dos más dos」(12)では主演女優賞にノミネートされた。後者はヌード・シーンのサービスが功を奏したラブコメディだったせいか『愛と情事のあいだ』という邦題でDVDが発売された。コメディ出演が多く、TVシリーズの人気ラブコメ「Lalola」で2007年と2008年、連続でクラリン主演女優賞を受賞、マルティン・フィエロ賞2008に受賞、主演したテレノベラ「Guapas」がマルティン・フィエロ2015年の金賞を受賞している。
*「Blondi」の作品紹介は、コチラ⇒2023年07月21日
パウラ・グリンシュパン(グリュンシュパン、19)マルタの次女オルガ・ホフマン役、『UFOを愛した男』の他、違いを受け入れる人々の友情を語ったサンティアゴ・ロサの「Breve historia del planeta verde」のダニエラ役、ダミアン・シフロンの辛口コメディ『人生スイッチ』(第6話「死がふたりを分かつまで」)での花嫁の友人役など。このオムニバス映画は各国際映画祭巡りをしたヒット作、受賞歴で一番多かったのが観客賞、SSIFF 2014でも受賞しています。
*『UFOを愛した男』の作品紹介は、コチラ⇒2024年10月31日
*「Breve historia del planeta verde」の作品紹介は、コチラ⇒2019年02月19日
*『人生スイッチ』の主な作品紹介は、コチラ⇒2015年07月29日
フリエタ・ジルベルベルグ(シルベルベルク、ブエノスアイレス1983)カサレスの助手アレハンドラ・コンデ役。1995年、子役としてキャリアをスタートさせる。映画、TV、舞台女優、ルクレシア・マルテルの「La niña santa」(04)でデビュー、ラテンビートで『ラ・ニーニャ・サンタ』の邦題で上映された。ディエゴ・レルマンの「La mirada invisible」(TIFF 2010『隠れた瞳』)に主演、翌年、銀のコンドル賞を受賞した。ダミアン・シフロンのヒット作「Relatos sarvajes」(14、『人生スイッチ』)の第2話に出演、アナ・カッツの「Mi amiga del parque」(15)と「El perro que no calla」(21)に出演、前者にはエンドレル監督が共演している。2016年、ダニエル・ブルマンの「El rey del Once」に新作でクリニック所長を演じたアラン・サバグとタッグを組んだ。2023年、ブエノスアイレス大学の哲学部を舞台にしたマリア・アルチェ&ベンハミン・ナイシュタットの「Puan」など。
*『隠れた瞳』の紹介記事は、コチラ⇒2014年05月11日
*『人生スイッチ』の主な作品紹介は、コチラ⇒2015年07月29日
*「El rey del Once」の作品紹介は、コチラ⇒2016年08月29日
*「Puan」の作品紹介は、コチラ⇒2023年07月15日
ルクレシア・マルテルの「Nuestra tierra」*SSIFF2025 ⑪ ― 2025年09月13日 11:01
オリソンテス・ラティノス部門――マルテルの初長編ドキュメンタリー

★今年は時間的に余裕をもってご紹介できると思っていましたがダウン、開幕が目前になってしまいました。全部門の審査員メンバー発表、ジェニファー・ローレンス(ケンタッキー州ルイスビル1990)の若干35歳にしてのドノスティア栄誉賞受賞、サバルテギ-タバカレア部門、メイド・イン・スペイン部門、短編部門Nest、ベロドロモ部門、バスク映画部門など、ほぼ全作品が出揃いました。カンヌ映画祭2025で「ある視点」賞を受賞したチリのディエゴ・セスペデスの長編デビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」が、第6回目を迎えたLGBTIQA+作品に与えられるセバスティアン賞 Gehitu を受賞したことも発表になっています。13作がノミネートされ、オリソンテス・ラティノス部門からは、本作とブラジル映画、マリア・クララ・エスコバル&マルセロ・ゴメスの「Dolores」の2作が対象作品でした。

(セバスティアン賞受賞作「La misteriosa mirada del flamenco」)

(ブラジル映画「Dolores」)
★前回の続きとして、オリソンテス・ラティノス部門ノミネートのルクレシア・マルテルの初長編ドキュメンタリー「Nuestra tierra」から再開します。2009年に起きたアルゼンチン北部チュシャガスタの先住民コミュニティのリーダー、ハビエル・チョコバル殺害と、植民地主義のルーツ、真実の不正義の物語を記録したものです。既にベネチア映画祭2025アウト・オブ・コンペティションで、8月31日ワールド・プレミアされています。類似作品として、チリのフェリペ・ガルベス(サンティアゴ・デ・チレ1983)の「Los colonos / The Settlers」がある。東京国際映画祭2023で『開拓者たち』の邦題で上映された。1901年から1908年のパタゴニアを舞台にしたティエラ・デル・フエゴ島の先住民セルクナム虐殺をテーマにしている。

(ルクレシア・マルテル、ベネチア映画祭2025にて)
「Nuestra tierra / Landmarks」
製作国:アルゼンチン、米国、メキシコ、フランス、オランダ、デンマーク
監督:ルクレシア・マルテル(アルゼンチンのサルタ1966)
脚本:ルクレシア・マルテル、マリア・アルチェ
撮影:エルネスト・デ・カルバーリョ
編集:ジェロニモ・ペレス・リオハ、ミゲル・シュアードフィンガー
音楽:アルフォンソ・オルギン
録音:グイド・ベレンブルム、マヌエル・デ・アンドレス、他
製作:Rei Pictures(アルゼンチン)/ Louverture Films(米国)
共同製作:Piano / Lemming Film(オランダ)/ Pio & Co / Snowglobe
継続時間:122分、スペイン語
キャスト:ハビエル・チョコバル、他コミュニダード・チュシャガスタ
ストーリー:2009年、アルゼンチン北部のチュシャガスタの先住民コミュニティのメンバーを立ち退かせようと武装した3人の男がやってきた。彼らは対立のなか、土地の所有権を主張するリーダーであるハビエル・チョコバルを殺害する。このあからさまな犯罪の様子はビデオに収録されていたが、犯人は野放しのまま、裁判にかけられるまでに9年もの年月を擁しました。この象徴的な殺人事件をとりまくドキュメンタリーは、コミュニティの声と写真を法廷の映像と組み合わせて、ラテンアメリカにおける植民地主義のルーツ、殺人、不平等、土地の収奪の何世紀にもわたる歴史を探ります。


映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭8月31日ワールドプレミア、トロント映画祭9月8日、サンセバスチャン映画祭9月、カムデン映画祭9月11日、バンクーバー映画祭10月4日、ニューヨーク映画祭10月7日、BFIロンドン映画祭10月16日、他
★監督紹介:ルクレシア・マルテル、1966年アルゼンチン北部サルタ出身、代表作は「サルタ三部作」といわれる『沼地という名の町』(2001、La Ciénaga)、『ラ・ニーニャ・サンタ』(2004、La niña santa)、『頭のない女』(2006、La mujer sin cabeza)の他、第4作が約十年ぶりに撮った話題作『サマ』(2017、Zama)がある。寡作な映像作家だが、アルゼンチン映画を代表する作品を手掛けている。詳細については当ブログに紹介記事をアップしています。また東京国際映画祭2022に短編『ルーム・メイド』(12分、Camarera de piso)が上映されている。咀嚼に時間のかかる気難しい監督で万人向きではないが、ファンは多い。短編、ドキュメンタリー、テレビシリーズ、アンソロジーなども手掛けている。

(撮影中のルクレシア・マルテル)

(ダニエル・ヒメネス=カチョがサマを演じた「Zama」のポスター)
★マルテル監督は、深く共感的でありながら根本的に感傷的ではないアプローチで展開させ、不公平さを描いている。2009年の殺害事件を追ってプロジェクトを起ち上げ、翌年から殺害犯の裁判に出席、2018年、サンダンス・ドキュメンタリー・プログラムとインスティテュート・オブ・コンテンポラリーアーツの助成金を授与された。コロナウイルス感染症パンデミックの影響で未完成のまま、ロカルノ映画祭2020フィルム・アフター・トゥモロー部門でパルド賞を受賞している。
★撮影監督エルネスト・デ・カルバーリョ、フィルム編集のペレス・リオハ、ミゲル・シュアードフィンガー、録音のグイド・ベレンブルム、マヌエル・デ・アンドレスなどとは、前作『サマ』でタッグを組んでいる。
*『サマ』関連記事は、コチラ⇒2017年10月13日/同年10月20日
*『ルーム・メイド』関連記事は、コチラ⇒2022年10月19日
セクション・オフィシアル(イベロアメリカ映画)*マラガ映画祭2025 ⑤ ― 2025年03月23日 21:20
チリのビンコ・トミシックの「El ladrón de perros」が金のビスナガ受賞
★作品紹介が終わらないうちに受賞作が発表になってしまいました。作品賞「金のビスナガ」は、イベロアメリカ映画賞がビンコ・トミシックの単独監督デビュー作「El ladrón de perros」、スペイン映画賞はエバ・リベルタードの「Sorda」、本作は観客賞もゲットしました。他、ベレン・フネスの「Los tortuga」が銀のビスナガ審査員特別賞と脚本賞、ヘラルド・オムスの「Molt lluny」が銀のビスナガ批評家審査員特別賞を受賞しました。全受賞作は授賞式を含めて後日アップ予定。
*セクション・オフィシアル(イベロアメリカ映画)*
1)「Culpable cero」アルゼンチン=スペイン、2024年、110分、コメディドラマ
監督:ヴァレリア・ベルトゥチェリ(ブエノスアイレスのサンニコラス1969、長編2作目)、舞台女優としてスタートを切る。TVや映画に出演、2018年「La reina del miedo」で監督デビュー、サンダンス映画祭女優賞を受賞する。モラ・エリサルデ(デビュー作)、ブエノスアイレス大学で映像&音響デザインを専攻卒業する。2012年広告編集者としてキャリアを切り、TVシリーズの編集(「Morko y Mali」)やビデオクリップを制作する。2018年、宣伝広告と並行して映画プロジェクトの監督や脚本も手掛けている。
*ベルトゥチェリ監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2018年04月10日
脚本:ヴァレリア・ベルトゥチェリ、モラ・エリサルデ、マレナ・ピチョト
製作:Pampa Films / Gloriamundi Producciones
キャスト:ヴァレリア・ベルトゥチェリ(ベルタ・ミュラー)、セシリア・ロス(カローラ)、ユスティナ・ブストス(マルタ)、ガイア・ガリバルディ(オリビア)、マルティン・ガラバル(ラミロ)、メイ・スカポラ(グレース)、マラ・ベステッリ(サンドラ)、ルシア・マシエル(グアダ)他

(左からヴァレリア・ベルトゥチェリ、モラ・エリサルデ、2025年03月18日)

2)「El diablo en el camino」メキシコ=フランス、2024年、108分
監督・脚本:カルロス・アルメリャ(メキシコシティ、長編3作目)、イギリスの映画学校(CCC)とロンドン映画学校で学ぶ。短編「Tierra y pan」がベネチア映画祭2008短編部門の金獅子賞を受賞、そのほか受賞歴多数。ドキュメンタリー「Toro negro」は共同監督だが、サンセバスチャン映画祭2005でオリソンテス賞、ハバナ映画祭サンゴ賞を受賞、モレリア映画祭でも上映された。長編デビュー作「En la estancia」(15)はロッテルダム映画祭でプレミアされ、グラマドやサンディエゴなど国際映画祭で受賞している。2作目「Animo juventud !」(20)はモレリアFF、釜山青少年映画祭にノミネートされた。TVシリーズ多数。
製作:CIMA / B Positivo Producciones / Tita B Producciones / Zensky Cine /The42Films 他
キャスト:ルイス・アルベルティ(フアン)、マイラ・バタジャ(イサベル)、アケツァリー・ベラステギ Aketzaly Verastegui、リカルド・ウスカンガ、オスワルド・サンチェス、ロベルト・オロペサ、他


3)「El ladrón de perros / The Dog Thief」ボリビア=チリ=メキシコ=仏=伊、2024年、
90分、トライベッカ映画祭2024上映
監督・脚本:ビンコ・トミシック・サリナス(サンティアゴ・デ・チリ1987、長編単独デビュー作)、監督、脚本家、製作者。2014年、制作会社 Calamar Cine を設立。フランシスコ・エビアとの共同監督作品「El fumigador」(16)が、PÖFFタリン・ブラックナイツでプレミア上映され、SANFIC 2016 でナショナルフィルム賞を受賞した。カンヌ映画祭シネフォンダシオンとベネチア・ビエンナーレ・カレッジ・シネマ・プログラムで企画された。マラガ映画祭2025イベロアメリカ映画賞金のビスナガ受賞。
製作:Color Monster / Zafiro Cinema / Calamar Cine
キャスト:アルフレッド・カストロ(セニョール・ノボア)、フランクリン・アロ(マルティン)、テレサ・ルイス(セニョリータ・アンドレア)、マリア・ルケ(グラディス)、フリオ・セサル・アルタミラノ(ソンブラス)、ニノン・ダバロス(セニョーラ・アンブロシア)


4)「Nunca fui a Disney」アルゼンチン、2024年、74分
監督:マティルデ・トゥテ・ヴィサニ(ブエノスアイレス1989、デビュー作)、ブエノスアイレス大学の映像&音響デザイナーとしての学位を得る。監督、脚本家、フィルム編集者。2017年「Rosa」で短編デビュー、長編第1作である「Nunca fui a Disney」は第25回BAFICI(ブエノスアイレス国際インディペンデントFF)で監督賞を受賞している。第2作の準備中。
脚本:マティルデ・トゥテ・ヴィサニ、アグスティナ・マルケス・メルリン
キャスト:ルシア・マルティネス・ラグ(ルシア)、アレハンドラ・ボルヘス、アルマ・フロレス、フランシスコ・アンテロ、ヘレミアス・サラテ、ルシアナ・ロメロ、ヤミラ・アスクアガ


5)「Perros」ウルグアイ=アルゼンチン、2025年、102分
監督・脚本:ヘラルド・ミヌッティ(デビュー作)、社会コミュニケーションを専攻、10年間ジャーナリストだった。2013年ウルグアイ文化教育省の奨学金を得て映画を学んでいる。短編「Hogar」(18)は、ビアリッツ・ラテンアメリカ映画祭で審査員特別メンションを受賞、グアダラハラ映画祭コンペティション部門にノミネートされている。長編デビュー作は、
製作:Cinevinay / Cimarrón(The Mediapro Studio)
キャスト:ネストル・グツィーニ、マルセロ・スビオット、マリア・エレナ・ぺレス、ノエリア・カンポ、ロベルト・スアレス、カタリナ・アリジャガ、マヌエル・タテ、ソレダード・ペラヨ


6)「Sugar Island」ドミニカ共和国=スペイン、2024年、90分、ドキュメンタリー
テッサロニキ映画祭2024 WIFT 賞、ベネチア映画祭ヤング審査員賞ほか受賞、
マラガ映画祭2025銀のビスナガ撮影賞(アルバン・プラド)受賞
監督:ジョアンヌ(ヨハンヌ)・ゴメス・テレロ(ドミニカ共和国1985、ドキュメンタリー3作目)、ドキュメンタリー監督、脚本家、製作者、キューバの国際映画テレビ学校 EICTV の講座のコーディネーター。カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACで映画配給修士課程卒業。短編ドキュメンタリー「Bajo las carpas」(14、52分)で監督デビュー、2016年「Caribbean Fantasy」を発表している。
脚本:ジョアンヌ・ゴメス・テレロ、マリア・アベニア
製作:Tinglado Film / Guasábara Cine
キャスト:イェリダ・ディアス Yelida Diaz、フランシス・クルス、フアン・マリア・アルモンテ、ルス・エメテリオ、ヘネシス・ピニェイロ、ディオゲネス・メディナ


7)「Violentas mariposas」メキシコ、2024年、101分、モレリア映画祭2024、
メキシコ公開2024年10月
監督・脚本:アドルフォ・ダビラ(長編デビュー作)、監督、脚本家、製作者、メキシコシティのメトロポリタン自治大学 UAM でデザインを専攻した後、フルブライト奨学金を得て、ワシントンのアメリカン大学で映画を学び、ニューメキシコのサンタフェにある人類学フィルムセンターでも学んでいるなど多才。広告映画、ドキュメンタリー、ミュージックビデオ、短編5作を撮っており、現在長編2作目が進行中。
製作:Neural / Mandarina Cine
キャスト:ディアナ・ラウラ DI(エバ)、アレハンドロ・ポーター(ビクトル)、ノルマ・パブロ(テレ)、ソフィー・アレクサンダー・カッツ(ロラ)、ジェルマン・ブラッコ(マテオ)、レオナルド・アロンソ(ラウル)、フアン・ルイス・メディナ(ムニェコ)、ヤヨ・ビジェガス(レオン)、他


ディエゴ・レルマンの『UFOを愛した男』*ネットフリックスで鑑賞 ― 2024年10月31日 11:01
『UFOを愛した男』――現実と伝説化されたエピソードが衝突する

(メインキャストをちりばめたポスター)
★ディエゴ・レルマンの『UFOを愛した男』が、10月18日からネットフリックスで配信が始まりました。サンセバスチャン映画祭SSIFF 2024のセクション・オフィシアルにノミネートされた折、期待を込めて作品紹介をいたしました。フェイクニュースを演出する主人公ホセ・デ・ゼルの行動を批判することがテーマでないことは分かっていましたが、それでももう少し工夫が欲しかったと思いました。勿論、レオナルド・スバラリアの罪ではありません。混乱はアルゼンチンのアイデンティティーの基本、一貫性のないジグザクしたところを楽しむことをおすすめします。既に内容紹介をしておりますが、鑑賞したことではっきりしたところもありますので、データを加筆して再録します。謎の多いホセ・デ・ゼルの人物紹介記事は、以下にアップしております。
*『UFOを愛した男』内容紹介記事は、コチラ⇒2024年08月17日

(左から、レオナルド・スバラリア、ディエゴ・レルマン監督、レナータ・レルマン、
モニカ・アジョス、SSIFF2024、9月24日フォトコールにて)
『UFOを愛した男』(オリジナル題「El hombre que amaba los platos voladores」)
製作:El Campo Cine / Bicho Films 協賛Netflix
監督:ディエゴ・レルマン
脚本:ディエゴ・レルマン、アドリアン・ビニエス
音楽:ホセ・ビラロボス
編集:フェデリコ・ロットスタイン
撮影:ボイチェフ・スタロン
音響:レアンドロ・デ・ロレド、ナウエル・デ・カミジス、他
メイクアップ:ベアトゥシュカ・ボイトビチ
衣装デザイン:フェオニア・ベロス・バレンティナ・バリ
製作者:ニコラス・アブル、ディエゴ・レルマン
キャスト紹介:
レオナルド・スバラリア(TVレポーター&ジャーナリストのホセ・デ・ゼル)
セルヒオ・プリナ(カメラマン、カルロス・〈チャンゴ〉・トーレス)
オスマル・ヌニェス(チャンネル6ニュース部長サポリッチ/サポ)
レナータ・レルマン(ホセの娘マルティナ)
マリア・メルリノ(ホセの元妻ロキシ)
アグスティン・リッタノ(超常現象研究家シクスト・スキアフィノ)
パウラ・グリュンシュパン(TV局職員アリシア)
エバ・ビアンコ(宇宙人報道の依頼人イサドラ・ロペス・コルテセ)
エレナ・ゲレロ・ブリ(ラ・カンデラリア・ホテルの受付エレナ)
フリオ・セサル・オルメド(チーフ製作者グティエレス/グティ)
ノルマン・ブリスキ(チャンネル6のCEOチェチョ)
モニカ・アジョス(踊り子モニカ/モニ)
エドゥアルド・リベット(セロ採鉱組合理事長ペドロ・エチェバリアサ)
ダニエル・アラオス(消防署長レカバレン)
ギジェルモ・アレンゴ(精神科医ドメネク)
ほか多数
ストーリー:1986年、ジャーナリストのホセ・デ・ゼルとカメラマンのチャンゴは、うさん臭い2人の人物から奇妙な提案を受け取り、コルドバ県のラ・カンデラリアに向かうことにした。村に到着したが、丘の中腹に円形の焼け焦げた牧草地があるだけだった。しかし、その後に起きたことはアルゼンチンのテレビ史上最高の視聴率を誇ることになる。類まれな才能の持ち主にして虚言癖の天才デ・ゼルがやったことは、未確認飛行物体UFOの存在を演出することだった。実際に起きた1980年代の宇宙人訪問詐欺を題材にしたコメディ仕立てのドラマ。現実と伝説化されたエピソードの衝突。
「視聴率50パーセントでも家では一人でした」と娘
A: 監督は冒頭で主人公ホセ・デ・ゼルの人物像を明らかにする。ヘビースモーカー、一人暮らし、女性にはサービス精神旺盛のお豆ちゃん、根っからの迷信家で常に不安定、1967年に起きた第三次中東戦争、いわゆる「六日間戦争」に予備役少尉として従軍、シナイ砂漠を彷徨ったこと、どうやら宇宙人の存在を信じていることなどが、当時の予備知識ゼロの観客に知らされる。
B: シナイ砂漠の件は想像の産物だった可能性があり眉唾ものらしいです。要するにニュースを報道するジャーナリストというより、広く浅くエンターテイメントの報道をする芸能記者のアイコンだった。

(モニカ役のモニカ・アジョスとホセ・デ・ゼル)
A: 1982年4月、イギリスを向こうに回して戦ったマルビナス戦争、いわゆるフォークランド戦争の敗北は、1976年からの軍事独裁政権の崩壊、民政移管の引き金になりました。1985年には独裁政権歴代の指導者の裁判があり、国民は明るいニュースを欲していた。
B: 99パーセント捏造でも、宇宙人訪問は格好の話題だったに違いありません。あの白髪頭だがハンサムなホセ・デ・ゼルがホントだと言っているんだから。

(チャンネル6のマイクを手にフェイクニュースを届けるホセ・デ・ゼル)
A: 映画からは「UFO を愛した男」というより「視聴率を愛した男」という印象でしたが、実際のホセ・デ・ゼルは、家族のインタビュー記事などから「マイクをこよなく愛した男」のようでした。
B: 監督の娘レナータ・レルマンが演じたマルティナの本名は、パウラ・デ・ゼル(1971)、父親と同じチャンネル9のプロデューサーだったそうですが。

(父と一緒の写真をかざす娘パウラさん)
A: パウラさんによると、実は2歳のとき父親の女性問題が原因で両親は離婚していたので、劇中でのマルティナ登場はフィクション部分、パウラはコルドバには行ったことがない。マリア・メルリノ扮する元妻ロキシも同じだそうです。父親は時々パウラに会いにやって来たそうですが、母親はホセとの関係を断っていた。「パパは人生の90パーセントを仕事に費やし、視聴率50パーセントでも、家に帰れば一人、淋しい人生だった」、自分は一人娘というわけではなく、異母妹がいるとも語っている。撮影前にスバラリアが訪ねてきたので情報をいろいろ提供したようです。

(クリニックの受診を渋るホセ・デ・ゼル、娘マルティナ、元妻ロキシ)
見世物は真実より優位にある――チャンネル6はフィクション
B: まず映画では「チャンネル6」でしたが、本当は〈Nuevediario〉「チャンネル9」ですね。
A: やはりまだ実在している人が多いから差し障りを避けるためにも変更は必要です。監督は「9を180度回転させると6になる」と。
B: 最初、ホセが持ち込んだUFO ネタをガセネタとして即座に却下したオスマル・ヌニェス扮するニュース部長サポリッチ、「視聴者は政治問題の報道に飽きあきしている。視聴者が思い描くシナリオを物語るべき」と、ホセを援護する部下のアリシアも、モデルはいるとしてもフィクション部分。

(オスマル・ヌニェス演じるサポリッチ部長)

(サポ部長をけしかけるパウラ・グリュンシュパン扮するアリシア)
A: 視聴率低迷に悩んでいるサポ部長もアリシアの「他局に取られたら」に怖気づいて前言を翻す。真実より優位にあるのがショー、お茶の間も半信半疑で楽しんだのです。パウラさんの話では、父親も経済的に苦境にあり、どうしてもネタを手放したくなかったと語っています。
B: ノルマン・ブリスキが軽妙に演じていた「チェチョ」の愛称で呼ばれていたTV局オーナーもフィクションですか。
A: チェチョのモデルは、メディア界の大物アレハンドロ・ロマイで「チャンネル9の皇帝」と呼ばれていた人物。彼との出遭いが大きい、パウラさんによると父親の「長所と短所を認めて、ずっと目をかけてくれた」ということでした。

(チャンネル6のオーナー「チェチョ」役のノルマン・ブリスキ)
B: あるときは「バカ」、あるときは「天才」と言っていた。出番はここだけでしたが存在感があった。
A: 横道になりますが、つい最近マルティン・フィエロ賞2024のガラがあり、ブリスキは栄誉賞を受賞したばかり、文化軽視の現政権を皮肉たっぷりに批判したスピーチが話題になっている。芸術は政治とは無関係などくそくらえです。ついでですがレオナルド・スバラリアも2022年に製作された「Puan」で助演男優賞を受賞した。
フィクションと現実の境界をぼかした現代のエル・キホーテ
B: 実名が一致するのは、ホセ・デ・ゼルと、セルヒオ・プリナが演じたカメラマンのカルロス・〈チャンゴ〉・トーレスの二人だけのようですが。パウラさんは「叔父さんとして家族同然だった」と語っています。
A: ホセが現代のエル・キホーテなら、チャンゴはさしずめサンチョ・パンサです。二人は正反対のようにみえますが、実は深いところで似ているのです。チャンゴはホセを上から目線の男、しつこくてうざったく思っているのに離れない、彼もUFO の存在を信じているようだ。

(カメラマン〈チャンゴ〉役のセルヒオ・プリナ)
B: ホセの「ついて来い、チャンゴ、ついて来い!」の名セリフは、その年の流行語になった。
A: チャンゴを演じたプリナの淡々とした演技を褒めたいですね。どこかで見たことのある顔だなぁと思いながら観ていましたが思い出せないでいた。検索してみたら、アグスティン・トスカノの「El motoarrebatador」でバイク引ったくり犯を生業にしている男を演じていた俳優でした。当ブログでも紹介しているのでした。
*「El motoarrebatador」の作品紹介記事は、コチラ⇒2018年09月07日
★サンセバスチャン映画祭2018オリソンテス・ラティノス部門にノミネートされ、オリソンテス賞スペシャルメンションを受賞、主役のミゲルを演じたセルヒオ・プリナがリマ・ラテンアメリカ映画祭、ハバナ映画祭で男優賞を受賞している。なら国際映画祭2018で『ザ・スナッチ・シィーフ』の邦題で上映された。ほかにマラガ映画祭2021フアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」(20)にも出演している。
B: UFOが着陸したと思われる牧草地、円形の黒こげのある丘も、同じコルドバ県ですが実際とは違うということですが。
A: 劇中のホセが登っていくコメルナ山ではなく、実際は海抜1979mの Cerro Uritorco ウリトルコ山ということです。当時とは景観が変わってしまっていて撮影地には適さなかった。それに消防署長以下、一般住民も大勢インチキに関わっていましたから。
「メシア主義」の存在とフェイクニュースの関係
B: セロ採鉱組合の目的が、かつては金の採掘で活気があった土地を買い占めた不動産会社の観光事業のやらせだったことが分かってからも、ホセはUFOの存在を裏付ける証拠改竄にムキになる。
A: 監督は「メシア主義」」の存在とフェイクニュースが関係していると指摘しています。救世主の到来を信ずることは、ユダヤ教の信仰のなかでも重要です。シナリオには幾つも穴があるけれども、宇宙から到来する存在の根拠に乏しい信念が、ホセの合理主義的思考を蝕んでいると語っています。

(UFO報道の仕掛け人、セロ採鉱組合役人を名乗るイサドラ役のエバ・ビアンコ)
B: 最後のシーンには唖然としました。本作は言うまでもなく、ホセ・デ・ゼルの人生を掘り下げるのがテーマではありません。
A: 深入りしたくありませんが、ホセは母親フローラがマイトレ劇場を経営していたので、後にアメリカに渡った女優の叔母さんに育てられたということです。その劇場のチケット売りをしていたが仕事が適当だったので辞めさせられた。その後、イスラエルのキブツにいた父親サミュエルに呼び寄せられてイスラエルに渡っている。謎が多くてどこまでが本当か分かりませんが、20代半ばで第三次中東戦争(1967)に従軍したのもそういう関係でしょうか。
B: その時まで父親がキブツにいたなんて知らなかったと言っている。ウイキペディア情報では、職業は「ジャーナリスト、軍人」です。帰国後、時期は不明ですが友人の紹介で「Gente」誌に就職している。ジャーナリスト誕生です。
A: 劇中でも息切れするほどの1日3箱のヘビースモーカー、そのうえコーヒー中毒者でもあり、1日12杯ぐらい飲んでいた。緊張からくるストレスで心も病んでいた。一番華やかだった時代は、チャンネル9に報道記者として在籍していた、1984年から1994年の10年間、1997年、罹患していたパーキンソン病と肺癌ではなく食道癌で56年の人生を駆け抜けた。旅立つときは「ママ、パパ、もう直ぐそっちに行くよ・・・行くから待ってて」と言ったとか。イスラエル人墓地に眠っている。

(妻殺害でサンタフェ刑務所に収監されていたミドル級チャンピオンのボクサー
カルロス・モンソンにインタビューするホセ・デ・ゼル、手にチャンネル9のマイク)
A: ホセになりきったレオナルド・スバラリア(ブエノスアイレス1970)は度々紹介しておりますが、マラガ映画祭2017の大賞マラガ-スール賞を受賞した折にキャリアをアップしております。『10億分の1の男』で鮮烈デビューして以来、リカルド・ダリンに継ぐ知名度を保っています。
B: 監督は以前からタッグを組みたかったらしく、レオもオファーを待っていた。
A: ホセ役に「体型は拘らないが白髪頭は譲れないと考えていた」と監督。脚本は未完成だったが、即座にOK の返事がきた。
B: 前述したように「Puan」でマルティン・フィエロ助演男優賞を受賞したばかり、2025年の主演を期待したい。
A: ほかに超常現象や心霊現象を調べているシクスト・スキアフィノに扮したアグスティン・リッタノはサンティアゴ・ミトレの『アルゼンチン1985』、レルマンの『代行教師』、フェリペ・ガルベスの『開拓者たち』、管理人は未見ですが、デミアン・ラグナのホラー『テリファイド』に出演している。消防署長のダニエル・アラオスはマリアーノ・コーン&ガストン・ドゥプラットの『ル・コルビュジエの家』の怪演でアルゼンチン・アカデミー賞2010の主演&新人男優賞のダブル受賞を果たし、レルマンの『家族のように』にも出演している。
B: いつの時代でも「信じたいものを信じ、見たいものを見る」のが人間のようです。

(本作撮影中のディエゴ・レルマン監督)
*主な監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2017年09月03日/10月23日
*主なレオナルド・スバラリアの紹介記事は、コチラ⇒2017年03月13日
オリソンテス・ラティノス部門第4弾*サンセバスチャン映画祭2024 ⑮ ― 2024年08月29日 15:11
アルゼンチン在住のドイツ人監督ネレ・ヴォーラッツの第2作
★オリソンテス・ラティノス部門の最終回は、変わり種としてアルゼンチン在住のドイツ人監督ネレ・ヴォーラッツが中国人の移民を主役にしてブラジルを舞台にした「Dormir de olhos abertos / Sleep With Your Eyes Open」、イエア・サイドの「Los domingos mueren más personas / Most People Die on Sundays」、ソフィア・パロマ・ゴメス&カミロ・ベセラ共同監督の「Quizás es cierto lo que dicen de nosotras / Maybe It’s True What They Say About Us」の3作、いずれも長いタイトルです。
*オリソンテス・ラティノス部門 ④*
12)「Dormir de olhos abertos / Sleep With Your Eyes Open」
ブラジル=アルゼンチン=台湾=ドイツ
イクスミラ・ベリアク 2018 作品
2024年、ポルトガル語・北京語・スペイン語・英語、コメディドラマ、97分、撮影地ブラジルのレシフェ。脚本ピオ・ロンゴ、ネレ・ヴォーラッツ、撮影ロマン・カッセローラー、編集アナ・ゴドイ、ヤン・シャン・ツァイ、公開ドイツ6月13日
監督:ネレ・ヴォーラッツ(ハノーバー1982)は、監督、脚本家、製作者。アルゼンチン在住のドイツ人監督。長編デビュー作「El futuro perfecto」がロカルノ映画祭2016で銀豹を受賞している。アルゼンチンに到着したばかりの中国人少女のシャオビンが新しい言語であるスペイン語のレッスンを受ける課程でアイデンティティを創造する可能性を描いている。第2作は前作の物語にリンクしており、主人公が故郷の感覚を失った人の目を通して、孤立と仲間意識の物語を構築している。3作目となる次回作はドイツを舞台にして脚本執筆に取りかかっているが、監督自身もドイツを10年前に離れており、母国との繋がりを失い始めているため距離の取り方に苦労していると語っている。新作に製作者の一人として『アクエリアス』のクレベール・メンドンサ・フィーリョが参加、偶然ウィーンで出合ったそうで、撮影地が『アクエリアス』と同じレシフェになった。
映画祭・受賞歴:ベルリンFF2024「エンカウンターズ部門」のFIPRESCI賞受賞、韓国ソウルFF、カルロヴィ・ヴァリFF、(ポーランド)ニューホライズンズFF、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:リャオ・カイ・ロー(カイ)、チェン・シャオ・シン(シャオシン)、ワン・シンホン(アン・フー)、ナウエル・ペレス・ビスカヤール(レオ)、ルー・ヤン・ゾン(ヤン・ゾン)ほか多数
ストーリー:ブラジルの或るビーチリゾート、カイは傷心を抱いて台湾から休暇をとって港町に到着する。故障したエアコンをアン・フーの傘屋に送ることにする。友達になれたはずなのに雨季がやってこないので店はしまっている。アン・フーを探しているうちに、カイは高級タワーマンションでシャオシンと中国人労働者のグループの存在を知る。カイは、シャオシンの話に不思議な繋がりがあるのに気づきます。ヒロインは監督の外国人の視点を映し出す人物であり、帰属意識を失う可能性のある人の物語。




13)「Los domingos mueren más personas / Most People Die on Sundays」
アルゼンチン=イタリア=スペイン
WIP Latam 2023 作品
2024年、スペイン語、コメディドラマ、73分、デビュー作、WIP Latam 産業賞&EGEDA プラチナ賞受賞、公開スペイン2024年10月4日、アルゼンチン10月31日
監督:Iair Said イエア(イアイル)・サイド(ブエノスアイレス1988)は、監督、脚本家、キャスティングディレクター、俳優。2011年俳優としてスタートを切り、出演多数。監督としては短編コメディ「Presente imperfecto」(17分)がカンヌFF2015短編映画部門ノミネート、ドキュメンタリー「Flora’s life is no picnic」がアルゼンチン・スール賞2019ドキュメンタリー賞受賞。長編デビュー作は監督、脚本、俳優としてユダヤ人中流家庭の遊び好きで無責任なゲイのダビを主演する。
映画祭・受賞歴:カンヌFF 2024 ACIDクィアパーム部門でプレミア、グアナフアトFF国際長編映画賞ノミネート、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:イエア・サイド(ダビ)、リタ・コルテス(母親)、アントニア・セヘルス(従姉妹)、フリアナ・ガッタス(姉妹)
ストーリー:ダビは叔父の葬儀のためヨーロッパからブエノスアイレスに帰郷する。母親が、長い昏睡状態にある父親ベルナルドの人工呼吸器のプラグを抜く決心をしたことを知る。ダビは、夫の差し迫った死の痛みに錯乱状態の母親との窮屈な同居と、自身の存在の苦悩を和らげるための激しい欲望とのあいだでもがいている。数日後、彼は過去と現在を揺れ動きながら、また最低限の注意を向けてセクシュアルな関係を保ちながら、車の運転を習い始める。さて、ダビは父親の死を直視せざるをえなくなりますが、呼吸器を外すことは適切ですか、みんなで刑務所に行くことになってもいいのですか。家族、病気、死についてのユダヤ式コメディドラマ。



14)「Quizás es cierto lo que dicen de nosotras / Maybe It’s True What They Say About Us」
チリ=アルゼンチン=スペイン
WIP Latam 2023 作品
2024年、スペイン語、スリラー・ドラマ、95分、脚本カミロ・ベセラ、ソフィア・パロマ・ゴメス、撮影マヌエル・レベリャ、音楽パブロ・モンドラゴン、編集バレリア・ラシオピ、美術ニコラス・オジャルセ、録音フアン・カルロス・マルドナド、製作者&製作カルロス・ヌニェス、ガブリエラ・サンドバル(Story Mediaチリ)、Murillo Cine / Morocha Films(アルゼンチン)、b-mount(スペイン)、公開チリ2024年5月30日(限定)、インターネット6月7日配信。
監督:カミロ・ベセラ(サンティアゴ1981)とソフィア・パロマ・ゴメス(サンティアゴ1985)の共同監督作品。ベセラは監督、脚本家、製作者。ゴメスは監督、脚本家、女優。前作「Trastornos del sueño」(18)も共同で監督、執筆している。意義を求めるような宗教セクト、口に出せないことの漏出、男性がいない家族、ヒメナのように夫を必要としない女性、これらすべてがこの家族を悲惨な事件に追い込んでいく。「私たちの映画は、どのように生き残るか、または恐怖にどのように耐えるかを描いており」、「この事件の怖ろしさがどこにあるのかを考えた」と両監督はコメントしている。
映画祭・受賞歴:SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:アリネ・クッペンハイム(ヒメナ)、カミラ・ミレンカ(長女タマラ)、フリア・リュベルト(次女アダリア)、マリア・パス・コリャルテ、アレサンドラ・ゲルツォーニ、ヘラルド・エベルト、マカレナ・バロス、他
*アリネ・クッペンハイムについては、マヌエラ・マルテッリのデビュー作『1976』が東京国際映画祭2022で上映され女優賞を受賞した折に、キャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。 コチラ⇒2022年11月06日
ストーリー:成功した精神科医のヒメナは、長らく或る宗派のコミュニティに入り疎遠だった長女タマラの思いがけない訪問をうける。タマラが母親と次女アダリアが暮らしている家に避難しているあいだ、タマラの生まれたばかりの赤ん坊がセクト内部の奇妙な状況で行方不明になったというので、ヒメナは赤ん坊の運命を知ろうと政治的な調査を開始する。実際に起きた「アンタレス・デ・ラ・ルス」事件*にインスパイアされたフィクション。
*アンタレス・デ・ラ・ルス「Antares de la Luz」事件とは、2013年、キリスト再臨を主張した宗教指導者ラモン・グスタボ・カステージョ(1977~2013)が、世界終末から身を守る儀式の一環としてバルパライソの小村コリグアイで、女性信者の新生児を生贄として焼いていたことが発覚した事件。当局の調査着手に身の危険を察知したカステージョは、逮捕に先手を打って逃亡先のクスコで首吊り自殺をした。チリ史上もっとも残忍な犯罪の一つとされる事件は、ネットフリックス・ドキュメンタリー『アンタレス・デ・ラ・ルス:光のカルトに宿る闇』(24)として配信されている。





(ネレ・ヴォーラッツ、イエア・サイド、ソフィア・パロマ・ゴメス、カミロ・ベセラ)
★オリソンテス・ラティノス部門は、以上の14作です。スペイン語、ポルトガル語がメイン言語で監督の出身国は問いません。ユース賞の対象になり、審査員は18歳から25歳までの学生150人で構成されています。
オリソンテス・ラティノス部門第2弾*サンセバスチャン映画祭2024 ⑬ ― 2024年08月23日 14:41
過去の受賞者フェルナンダ・バラデス、ルイス・オルテガなどの新作
★オリソンテス・ラティノス部門第2弾は、アルゼンチンに実在した美少年の殺人鬼を映画化した『永遠に僕のもの』(18)のルイス・オルテガ、2020年のオリソンテス賞を受賞した『息子のの面影』のフェルナンダ・バラデスなどが新作を発表している。それぞれ4作ともカンヌ映画祭併催の「批評家週間」、ベネチア映画祭、ベルリン映画祭、サンダンス映画祭などでワールドプレミアされた作品ですが、スペインでは未公開なので選ばれています。本祭は開催時期が遅いこともあって二番煎じの印象が付きまとい分が悪い。第2弾として4作品をアップします。
*オリソンテス・ラティノス部門 ②*
5)「Simón de la montaña / Simon of the Mountain」
アルゼンチン=チリ=ウルグアイ=メキシコ
2024年、スペイン語、ドラマ、96分、公開アルゼンチン10月17日
脚本フェデリコ・ルイス、トマス・マフィー、アグスティン・トスカノ
監督:フェデリコ・ルイス(ブエノスアイレス1990)は、監督、脚本家。ブエノスアイレス大学で社会コミュニケーションを専攻、2013年卒業制作「Vidrios」を共同監督し、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭(Bafici)でプレミアされた。ほか短編がカンヌ、トロント、マル・デル・プラタ、アムステルダム・ドキュメンタリー(IDFA)など各映画祭で受賞している。本作が単独監督デビュー作である。
映画祭・受賞歴:カンヌFF2024併催の「批評家週間」グランプリ受賞、ゴールデンカメラ賞ノミネート、上海FF上映、ミュンヘンFFシネビジョン賞作品賞受賞、リマFFドラマ部門審査員俳優賞受賞(ロレンソ・フェロ)、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:ロレンソ・フェロ(シモン)、ペウエン・ペドレ、キアラ・スピニ、ラウラ・ネボレ、アグスティン・トスカノ、カミラ・ヒラネ
ストーリー:21歳になるシモンは、引っ越しのヘルパーをしている。なんとか現実を変えたいが料理もダメ、トイレ掃除もダメ、ただベッドメーキングはできる。最近、障害をもつ子供二人と友達になったことで変化の予感がしてきた。彼らは自分たちのために設計されていない世界を一緒にナビゲートし、愛と幸福のための独自のルールを発明していく。ルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』で実在した殺人鬼を演じたロレンソ・フェロがシモンを演じている。



6)「El jockey / Kill The Jockey」
アルゼンチン=メキシコ=スペイン=デンマーク=米国
2024年、スペイン語、犯罪ドラマ、97分、脚本ファビアン・カサス、ルイス・オルテガ、ロドルフォ・パラシオス。海外販売Film Factry Entertainment、公開アルゼンチン9月26日、Disney+でストリーミング配信される予定
監督:ルイス・オルテガ(ブエノスアイレス1980)、監督、脚本家。両親とも俳優、兄セバスティアンは映画製作者など、アルゼンチンでは有名なアーティスト一家。2002年、メイド・イン・スペイン部門に長編デビュー作「Caja negra」が選ばれている。公開された『永遠に僕のもの』はカンヌの「ある視点」のあと、本祭ペルラス部門にエントリーされた。監督キャリア&フィルモグラフィーは7作目となる『永遠に僕のもの』にアップしています。新作が8作目と若い監督ながらチャンスに恵まれている。
*監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年05月15日
映画祭・受賞歴:ベネチアFF2024コンペティションでワールドプレミア(8月29日)、トロントFF「センターピース」部門出品、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:ナウエル・ペレス・ビスカヤート(レモ・マンフレディーニ)、ウルスラ・コルベロ(レモの恋人アブリル)、ダニエル・ヒメネス≂カチョ(シレナ)、マリアナ・ディ・ジロラモ(アナ)、ダニエル・ファネゴ、ロリー・セラノ、ロベルト・カルナギ、アドリアナ・アギーレ、オスマル・ヌニェス
ストーリー:伝説の騎手レモ・マンフレディーニの自己破壊的な行動は、彼の才能に影を落とし始めている。恋人のアブリルとの関係も脅かしている。騎手であるアブリルはレモの子供を宿しており、子供か名声かを選ばなければならない。かつて命を救ってくれたマフィアのボスのシレナからの借金を精算しなければならない、彼の人生でも重要なレースの日、貴重な馬を死なせてしまう深刻な事故に遭ってしまう。病院から抜け出してブエノスアイレスの街路を彷徨います。自分のアイデンティティから解放されたレモは、自分が本当は誰であるべきなのか考え始める。一方シレナは生死にかかわらず彼を見つけだすための捜索を開始する。アブリルはシレナより先に彼を見つけようとする。


7)「Cidade; Campo」ブラジル=ドイツ=フランス
2024年、ポルトガル語、ミステリー・ドラマ、119分、脚本ジュリアナ・ロハス、製作者サラ・シルヴェイラ、音楽リタ・ザルト
監督:ジュリアナ・ロハスは、1981年サンパウロ州カンピナス生れ、監督、フィルム編集者、脚本家。サンパウロ大学の情報芸術学校で映画を専攻した。大学で出合ったマルコ・ドゥトラとのコラボレーションでキャリアをスタートさせ、数編の短編で注目を集める。2011年、ドゥトラとのデュオで長編デビュー作「Trabalhar Cansa / Hard Labor」を撮り、カンヌFF「ある視点」でプレミアの後、シッチェスFF新人監督賞、ハバナFFサンゴ賞3席、リマ・ラテンアメリカFFスペシャル・メンションなどを受賞した。2017年、ホラーファンタジー「As Boas Maneiras / Good Manners」でロカルノFF銀豹賞を受賞、翌年『狼チャイルド』の邦題で公開された。
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2024エンカウンターズ部門*監督賞受賞、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
*エンカウンターズ部門は2020年に新設されたインディペンデント作品を対象にしている。作品・監督・新人監督・審査員特別賞などがある。
キャスト:フェルナンダ・ヴィアナ(ジョアナ)、ミレッラ・ファサーニャ(フラヴィア)、ブルナ・リンツマイヤー(マラ)、カレブ・オリヴェイラ(ハイメ)、アンドレア・マルケー(タニア)、プレタ・フェレイラ(アンヘラ)、マルコス・デ・アンドラーデ(セリノ)ほか
ストーリー:都会と田舎に移住した二つの物語が語られる。一つ目はジョアナの物語、貯水池が決壊して生れ故郷の土地が浸水してしまうと、彼女は孫のハイメと暮らしている姉タニアを頼ってサンパウロに移住する。ジョアナは労働者の都会で成功するため闘うことになる。不安定な雇用のなかより良い仕事を求めて同僚と絆を深めていく。二つ目はフラヴィアの物語、疎遠にしていた父親の死後、フラヴィアは妻のマラと一緒に父の農場に移り住む。二人の女性は新たなスタートを切りますが、田舎の厳しい現実に直面してショックを受けます。自然が二人の女性をフラストレーションに向き合わせ、古い記憶と幻影に立ち向かうことを強います。


(ジョアナ、ハイメ、タニア)

(マラ、フラヴィア)

8)「Sujo / Hijo de sicario」メキシコ=米国=フランス
2024年、スペイン語、ドラマ、126分、脚本アストリッド・ロンデロ&フェルナンダ・バラデス、撮影ヒメナ・アマン、編集スーザン・コルダ、両監督、録音オマール・フアレス・エスピナ、衣装デザインはアレハ・サンチェス。スージョ役に『息子の面影』でデビューしたフアン・ヘスス・バレラが起用され、その演技が絶賛されている。
監督:アストリッド・ロンデロ(メキシコシティ1989)、監督、製作者、脚本家、共同監督のフェルナンダ・バラデスの『息子の面影』の脚本を共同執筆している。単独で監督した「Los días más oscuros de nosotras」(17)は、アリエル賞2019のオペラ・プリマ賞、主役のソフィー・アレクサンダー・カッツが女優賞にノミネートされたほか、ボゴタ、サンアントニオ、モンテレイ、サントドミンゴ・アウトフェスなどの国際映画祭で作品賞や脚本賞を受賞している。共同監督のフェルナンダ・バラデス(グアナフアト1981)は、上述したようにSSIFF 2020オリソンテス賞を受賞した『息子のの面影』を撮っている。キャリア&フィルモグラフィーについては、ロンデロ監督も含めて以下に紹介しています。両監督ともメキシコにはびこる暴力、麻薬密売、社会的不平等、女性蔑視などを映像を通じて発信し続けています。
*『息子の面影』の紹介記事は、コチラ⇒2020年11月26日
映画祭・受賞歴:サンダンスFF2024ワールドシネマ・ドラマ部門審査員グランプリ、ソフィアFFインターナショナル部門グランプリ、トゥールーズ・ラテンアメリカFFレールドック賞&シネプラス賞、スペイン・ラテンアメリカ・シネマ・フェスティバル作品賞他を受賞。ヨーテボリ、香港、マイアミ、ダラス、シアトル、シドニー、ミュンヘン、ウルグアイ、マレーシア他、各映画祭でノミネートされている。SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:フアン・ヘスス・バレラ・(スージョ)、ヤディラ・ペレス・エステバン(叔母ネメシア)、アレクシス・バレラ(ジャイ)、サンドラ・ロレンサノ(スーザン)、ハイロ・エルナンデス・ラミレス(ジェレミー)、ケヴィン・ウリエル・アギラル・ルナ(少年スージョ)、カルラ・ガリード(ロサリア)ほか
ストーリー:メキシコの小さな町、スージョが4歳だったとき、麻薬カルテルのヒットマンだった父親が残忍な方法で殺害されるのを目撃する。彼は叔母ネメシアの機転で間一髪で命を救われるが孤児となる。ネメシアは危険を避け、生れ故郷の暴力が届かないところでスージョを苦労を重ねながら育てていた。しかし彼の人生には暴力の影が付きまとい、成長するにつれ父親の過去の忘れられない暴力的な遺産にとらえられ、面と向かって立ち向かうことが自分の宿命のように思えてくる。カルテルがスージョとその友人たちを見つけだす。スージョ役に『息子の面影』でデビューしたフアン・ヘスス・バレラが起用され、その演技が絶賛されている。



(メキシコ版のポスター「Hijo de sicario」)

(アストリッド・ロンデロ、フェルナンダ・バラデス、サンダンスFF2024ガラにて)

(左から、フェデリコ・ルイス、ルイス・オルテガ、ジュリアナ・ロハス、
アストリッド・ロンデロ)
オリソンテス・ラティノ部門14作ノミネート発表*サンセバスチャン映画祭2024 ⑫ ― 2024年08月20日 15:14
オリソンテス・ラティノス部門14作、最多はアルゼンチンの5作

★8月8日、オリソンテス・ラティノス部門のノミネート14作が一挙発表になりました。スペイン語、ポルトガル語に特化した部門、例年だと10~12作くらいなので多い印象です。ラテンアメリカの映画先進国アルゼンチンの監督が5人と最多、チリ、メキシコ、ブラジル、パナマ、ベネズエラ、ペルーと満遍なく選ばれています。3回ぐらいに分けてアップします。オープニングはチリのホセ・ルイス・トーレス・レイバの「Cuando las nubes esconden las sombras」、クロージングはアルゼンチンのセリナ・ムルガの「El aroma del pasto recién cortado」です。新人登竜門の立ち位置にある部門ですが、「Pelo malo」で2013年の金貝賞を受賞したマリアナ・ロンドンの新作もノミネートされております。作品賞にあたるオリソンテス賞には副賞として35.000ユーロが与えられます。
*オリソンテス・ラティノス部門 ①*
1)「Cuando las nubes esconden las sombras / When Clouds Hide The Shadow」
チリ=アルゼンチン=韓国
オープニング作品 2024年、スペイン語、ドラマ、70分
監督:ホセ・ルイス・トーレス・レイバ(サンティアゴ1975)は、監督、脚本家、編集者。「El cielo, la tierra, la lluvia」がロッテルダムFF2008でFIPRESCI賞、ヒホン、ナント、サンタ・バルバラ、トライベッカ、全州チョンジュFFほか多くの国際映画祭にノミネートされている。「Verano」はベネチアFF2011オリゾンティ部門でプレミアされている。本祭関連ではSSIFF2019の「Vendrá la muerte y tendrá tus ojos」で金貝賞やセバスティアン賞を争った他、マル・デル・プラタ映画祭でスペシャル・メンションを受賞している。サバルテギ-タバカレア部門には、「El viento sepa que vuervo a casa」(16、カルタヘナFFドキュメンタリー賞)、短編「El Sueño de Ana」(17)、「Sobre cosas que me han happens」(18)が紹介されている。新作でセクション・オフィシアルに戻ってきた。
映画祭・受賞歴:全州チョンジュ市映画祭プレミア、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門
キャスト:マリア・アルチェ
ストーリー:マリア・アルチェは、映画で主人公を演じるために世界最南端の港町プエルト・ウィリアムズを訪れている女優です。激しい暴風雨が予定通りの撮影クルーの到着を阻んでおり、一人で待つしかありません。背中のひどい痛みの手当てを探しに、彼女は世界南端の村々を歩き回ることになるでしょう。彼女の人生で気がかりな物語の一つ、と同時に希望の物語であり、マリアと大陸の最南端の自然とその村人たちの間に起きる思いがけない出会いの物語である。

2)「El aroma del pasto recién cortado / The Freshly Cut Grass」
アルゼンチン=ウルグアイ=米国=メキシコ=ドイツ
クロージング作品 2024年、ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同製作フォーラム 2020
ドラマ、114分、脚本ガブリエラ・ララルデ、セリナ・ムルガ、ルシア・オソリオ、他
映画祭・受賞歴:トライベッカFF 2024脚本賞受賞(6月)、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門
監督:セリナ・ムルガ(アルゼンチンのパラナ1973)は監督、脚本家、製作者。1996年映画大学で映画監督の学位を取得、制作会社「Tresmilmundos Cine」の共同設立者、映画研究センターで後進の指導に当たっている。本祭との関連では、話題のデビュー作「Ana y los otros」がオリソンテス2003、ボゴタFF作品賞、リオデジャネイロFFのFIPRESCI賞、ほか国際映画祭での受賞歴多数、「Una semana solos」がシネ・エン・コンストルクション2007、ミュンヘンFF2009 ARRI/OSRAM賞を受賞している。「The Side of The River」がオリソンテス・ラティノス2014にノミネートされている。
キャスト:ホアキン・フリエル(パブロ)、マリナ・デ・タビラ(ナタリア)、ルチアナ・グラッソ(ベレン)、アルフォンソ・トルト、ベロニカ・ヘレス(ルチアナ)、ロミナ・ペルフォ(カルラ)、オラシオ・マラッシ(ロベルト)、クリスティアン・フォント(マルセロ)、ロミナ・ベンタンクール(ソニア)、ほか多数
ストーリー:ブエノスアイレス大学の教授であるパブロは結婚していて2人の息子がいる。彼の学生であるルチアナと不倫関係にある。浮気が発覚すると仕事と家族を失うと脅されます。ここから同じ大学の教授であるナタリアの物語が始まります。彼女も結婚していて2人の娘がいる。彼女も生徒のゴンサロと不倫関係を始めます。二つの物語は、同じコインのウラオモテであり、男女間で確立された力関係と、事前に確立された性別の解体に向けた新たな道を問いかけることになる。ありきたりの倦怠期夫婦の危機が語られるが、新味がないのにパブロとナタリアの不倫が交差することはなく、その独創的な構成と達者な演技で上質のドラマになっている。



(左から、ホアキン・フリエル、ムルガ監督、マリナ・デ・タビラ)
3)「Reas」アルゼンチン=ドイツ=スイス
WIP Latam 2023 作品 ドキュメンタリー、ミュージカル、82分、
映画祭・受賞歴:ベルリンFF2024フォーラム部門ドキュメンタリーでプレミア、テッサロニキ・ドキュメンタリーFF金のアレクサンダー賞&マーメイド賞、ルクセンブルク市FFドキュメンタリー賞、シネラティノ・トゥールーズ2024ドキュメンタリー部門観客賞受賞、ほかノミネート多数、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門
監督:ロラ・アリアス(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、戯曲家、シンガーソングライター、舞台女優、演出家と多才、キャリア&フィルモグラフィーはドキュメンタリーのデビュー作「Teatro de guerra」(18)がサバルテギ-タバカレア部門にエントリーされた折、作品紹介とキャリアを紹介しています。新作は長編2作目で昨年のWIP Latamに選出され完成が待たれていた。
*監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年08月05日
キャスト:ヨセリ・アリアス、イグナシオ・ロドリゲス(ナチョ)、カルラ・カンテロス、ノエリア・ラディオサ、エステフィー・ハーキャッスル、パウラ・アストゥライメ、シンティア・アギーレ、パト・アギーレ、ハデ・デ・ラ・クルス・ロメロ、フリエタ・フェルナンデス、ラウラ・アマト、ダニエラ・ボルダ、ほか多数
ストーリー:麻薬密売が発覚して空港で逮捕された若いヨセリは、背中にエッフェル塔のタトゥーをしている。ヨーロッパ旅行を夢見ていたからだが、規則、制約、友情、連帯、愛で構成されたチームに参加することにした。ナチョは詐欺罪で逮捕されたニューハーフでロックバンドを結成している。もう使用されなくなっているブエノスアイレスの刑務所の敷地が、ドキュメンタリー、ミュージカル、ドラマを組み合わせた本作の舞台となる。過去に収監されていた人々が刑務所での記憶をフィクション化して再現します。控え目な人も荒っぽい人も、ブロンドも剃毛も、長期囚も最近入所した人も、シスもトランスも、ここには自分の居場所があります。このハイブリットなミュージカルでは踊り、歌い、フィクション化して自分の人生を追体験し、自身の可能性のある未来を創造します。



4)「Querido Trópico / Beloved Tropic」パナマ=コロンビア
2024年、スペイン語、ドラマ、108分、脚本アナ・エンダラ、ピラール・モレノ
映画祭・受賞歴:トロントFF2024「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門でプレミア(9月7日)、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門
監督:アナ・エンダラ・ミスロフ(パナマシティ1976)は、ドキュメンタリーを専門とする監督、脚本家、製作者。フロリダ州立大学で社会学を専攻、キューバの国際映画テレビ学校で映画を学んでいる。2001年、ドイツのケルンにある芸術メディア・アカデミーの奨学金を得る。広告代理店のプロとして、ドキュメンタリーやオーディオビジュアルのプロジェクトを制作している。2013年コメディ・ドキュメンタリー「Reinas」でトロントFFグロールシュ・ディスカバリー賞、2016年「La Felicidad de Sonido」でコスタリカFFの審査員賞、イカロFF2017のドキュメンタリー賞を受賞している。マドリード女性映画祭2023の審査員を務めている。本作が最初のフィクションです。
キャスト:パウリナ・ガルシア、ジェニー・ナバレテ、フリエタ・ロイ
ストーリー:トロピカルな庭園は、時を共にすることになる二つの孤独の出会いの舞台になります。過去のすべてが奪われていく裕福だが認知症を患う女性、その介護者はたった一人で怖ろしい秘密から逃れてパナマに移民してきた女性、監督は二人の孤独を痛烈に解き明かします。

(コロンビア女優ジェニー・ナバレテ、チリのベテラン女優パウリナ・ガルシア)


(左から、ホセ・ルイス・トーレス・レイバ、セリナ・ムルガ、ロラ・アリアス、
アナ・エンダラ・ミスロフ)
★トロント映画祭2024は、9月5日から15日までとSSIFFに先行して開催されます。
ディエゴ・レルマンの新作はコメディドラマ*サンセバスチャン映画祭2024 ⑪ ― 2024年08月17日 10:41
フェイクニュースの先駆けホセ・デ・ゼルの人生を描くコメディ

★セクション・オフィシアル紹介の最終回、アルゼンチンのディエゴ・レルマンの「El hombre que amaba los platos voladores」は、20世紀に実在したアルゼンチンのテレビレポーター、ホセ・デ・ゼルの人生が語られる。レルマンが初めてネットフリックスから資金援助を受けて製作した「UFOを愛した男」は、コメディドラマであると同時にファンタジックなビオピックでもあり、SFの要素も備えている。彼のデビュー作『ある日、突然。』(02、「Tan de repente」公開2004年)を、それこそトツゼンに思いだしました。ロカルノ映画祭銀豹を皮切りに新人が貰える国際映画賞を山ほど手にした映画でした。
★本名ホセ・カイゼルKeizer として1941年誕生したホセ・デ・ゼルは、アルゼンチンのエンターテインメントのジャーナリスト、テレビレポーター、ポップカルチャーのアイコンとして不思議な磁力で人々を引き付けていた。舞台は1986年のブエノスアイレス、ある人物から不自然で奇妙な提案を受けたホセ・デ・ゼルとその相棒カメラマンのチャンゴは、コルドバのラ・カンデラリアに旅立ちます。

「El hombre que amaba los platos voladores」
(英題「The Man Who Loved UFOs」)
製作:El Campo Cine / Bicho Films 協賛Netflix
監督:ディエゴ・レルマン
脚本:ディエゴ・レルマン、アドリアン・ビニエス
編集:フェデリコ・ロットスタイン(1983 BSAS)
美術:マホ・サンチェス・キアッペChiappe
録音:ナウエル・デ・カミジス、レアンドロ・デ・ロレド、ルベン・ピプット・サントス
製作者:ディエゴ・レルマン
データ:製作国アルゼンチン、2024年、スペイン語、コメディドラマ、ビオピック、106分、配給元ネットフリックス、配信10月18日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2024セクション・オフィシアル作品
キャスト:レオナルド・スバラリア(ホセ・デ・ゼル)、セルヒオ・プリナ(カルロス・〈チャンゴ〉・トーレス)、オスマル・ヌニェス、レナータ・レルマン、マリア・メルリノ、モニカ・アジョス(アヨス)、ダニエル・アラオス、エバ・ビアンコ、ノルマン・ブリスキ、アグスティン・リッタノ、ギジェルモ・プフェニング、他
ストーリー:1986年、ジャーナリストのホセ・デ・ゼルとカメラマンのチャンゴは、うさん臭い2人の人物から奇妙な提案を受け取り、コルドバのラ・カンデラリアに旅立った。村に到着したが、丘の中腹に焼け焦げた牧草地があるだけで取り立てて調査するようなものは見つからなかった。しかし引き続いて起きたことは、アルゼンチンのテレビ史上最高の視聴率を誇ることになる。隠された才能の持ち主で虚言癖の天才デ・ゼルがやったことは、地球外生命体エイリアンの存在を演出することだった。1980年代の宇宙人訪問詐欺を題材にしたコメディドラマ。

(ラ・カンデラリアの丘でライブ放送をするホセ・デ・ゼル、フレームから)
★ホセ・デ・ゼル(José de Zer 本名 José Bernardo Kerzer)は1941年、劇場の照明デザイナーの息子としてブエノスアイレスで生れた。エンターテインメントのジャーナリスト、テレビレポーター、軍人、1997年、罹患していたパーキンソン病と食道癌と闘ったが56歳の若さで鬼籍入りした。彼の報道したニュース同様、ポップカルチャーのアイコンとして短いが波乱万丈の人生だった。映画からはフェイクニュースのパイオニアみたいな印象を受けるが、当時あらゆるタイプの記事をカバーできる実力のあるジャーナリストの地位を確立していた。だからこそ眉唾のフェイクニュースにお茶の間は釘付けになったのでしょう。今日のようにフェイクが民主主義を脅かす政治的武器ではなく、無害でエキサイティングな娯楽だった時代には、お茶の間で楽しむ人々も共犯者だった。いつの時代でも私たち庶民は、信じたいものを信じ、見たいものを見るという、操作されやすい存在ということです。

★ユダヤ教徒のホセ・デ・ゼルは、第三次中東戦争(1967)に、予備役少尉としてイスラエルに派遣されている。別名「六日間戦争」と言われるようにイスラエルの圧倒的勝利で、たったの6日間の戦闘で終わった戦争なので、九死に一生を得るということではなかったと思うが、パタゴニアでの意識を失うほどの深刻な自動車事故を生きのびて以来、死を怖れるようになった。息切れするほどのヘビースモーカーでコーヒー中毒だったから長生は難しかったのではないか。1989年にゲリラによってブエノスアイレス州のラ・タブラダ軍事施設が襲撃されたときの現場報道、妻殺害でサンタフェ刑務所に収監されていたミドル級チャンピオンのボクサー、カルロス・モンソンのインタビューなど、堅実な報道も行っている。
★監督キャリア&フィルモグラフィーは紹介済み、主役のレオナルド・スバラグリア(スバラリア)は、マラガ映画祭2017の大賞マラガ-スール賞を受賞した折にキャリア&フィルモグラフィーをアップしています。公開、ミニ映画祭、ネット配信、DVDと電撃デビューした『10億分の1の男』(01)以来、20数作も字幕入りで鑑賞できる俳優はそんなに多くありません。
*主な監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2017年10月23日
*レオナルド・スバラグリア紹介記事は、コチラ⇒2017年03月13日
★ケイト・ブランシェットに続いて、二人目となるドノスティア栄誉賞受賞者ペドロ・アルモドバルの発表がありました。昨年授与式を延期していたハビエル・バルデムも今年は出席します。またオリソンテス・ラティノス部門、ペルラス部門、サバルテギ-タバカレア部門などのノミネートがアナウンスされ映画祭の全容が見えてきました。もう開催まで1ヵ月を切りましたので、バランスをとって作品紹介をしていく予定です。
追加情報:10月18日から『UFOを愛した男』の邦題で Netflix 配信が始まります。
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