オリソンテス・ラティノス部門ノミネート作品*サンセバスチャンFF26 ⑨ ― 2026年08月17日 14:37
ソトマヨールの「La Perra」はカンヌ「監督週間」のパルム・ドッグ受賞作品
★オリソンテス・ラティノス部門には、前回の3作以外にチリ、メキシコ、ブラジル、米国の4作がノミネートされています。ドミンガ・ソトマヨール(チリ)の「La Perra」は、昨年のオープニング作品「Limpia」に続いての登場、ピラール・キンタナの同名小説の映画化です。アレッサンドラ・サンギネッティ(米国)のドキュメンタリー「La ilusión de un verano sin fin / The Illusion of an Everlasting Summer」、ブルーノ・サンタマリア・ラソ(メキシコ)の「Seis meses en el edificio rosa con azul / Six Months In a Pink & Blue Building」、リカルド・アルヴェス・ジュニア(ブラジル)の「A professora de frances / The French Teacher」の4作、合計12作になりました。
*オリソンテス・ラティノス部門ノミネート作品 ③*
9)「La Perra」(仮題「仔犬のユリ」)
データ:製作国ブラジル=チリ、2026年、ドラマ、スペイン語、113分、撮影地チリ。カンヌ映画祭併催の「監督週間」でパルムドッグ賞受賞作品、カルロヴィ・ヴァリFF(7月)、メルボルンFF(8月)、ブラジルのグラマドFF(8月)、ピラール・キンタナの同名小説に着想をえている。
監督・脚本:ドミンガ・ソトマヨール(チリのサンティアゴ、1985)、監督、脚本家、キャリア&フィルモグラフィーは、前作「Limpia」(『そこから泳いで、私の方へ』)で紹介しています。
キャスト:マヌエラ・オヤルン(シルビア)、ダビ・ガエテ(マリオ)、セルトン・メロ、パウラ・ルクシンガー・エスコバル、パウラ・ディナマルカ、ラファエラ・グリムバーグ
*マヌエラ・オヤルスンはチリでは有名な舞台女優、監督の説得で映画初主演、セルトン・メロはブラジルのベテラン俳優、マヌエラと仔犬は1ヵ月前からの繋がりだったと監督。
ストーリー:チリ南部、遠く離れた風の強い島で、シルビアは海藻穫りで生計を立て、パートナーと穏やかに人生を送っています。捨てられた仔犬のユリを引き取ると、彼女の日々は喜びと愛情と優しさ、それは長いあいだ抑えこんできた母親になるという願いを呼び起こすことになります。しかしユリの突然の失踪は、シルビアが苦しみ続けてきた幼少期のトラウマを再び搔きたて、まだ完全に立ち直れない過去と向き合うことを強いることになります。ピラール・キンタナの同名小説に着想を得て自由に脚色して映画化した。
*「Limpia」(『そこから泳いで、私の方へ』)の紹介記事は、コチラ⇒2025年10月24日


(シルビアとマリオ、仔犬のユリ)

(ドミンガ・ソトマヨール監督)

10)「La ilusión de un verano sin fin / The Illusion of an Everlasting Summer」(仮題「永遠の夏の幻想」)
データ:製作国アルゼンチン=アメリカ合衆国、デビュー作、ドキュメンタリー、93分
監督・脚本:アレッサンドラ・サンギネッティ(ニューヨーク1968)、写真家、監督。ロカルノ映画祭でワールドプレミアされる。25年にわたる撮影期間を経て、アルゼンチンのパンパスで暮らす従姉妹ギレルミナとベリンダを描いています。2007年からマグナム・フォトのメンバーであるサンギネッティの作品は、ニューヨークのMoMA、サンフランシスコ近代美術館、ヒューストン美術館、ブエノスアイレス美術館のコレクションの一部になっています。グッゲンハイム・フェローシップ他を受賞している。ニューヨーク生れだが、1970年から両親とブエノスアイレスに移り、2002年まで32年間暮らした。現在はカリフォルニア在住、国籍は米国。
解説:ドキュメンタリーは1999年から始り、監督が9歳の隣人ギレルミナとベリンダという少女に幻想を共有するよう誘い、数十年にわたるコラボレーションが続きます。二人の子供時代が終わると、彼女たちのゲームは重みを帯びていくことになります。時間の経過が最も強烈な緊張感として、この映画は二人の友情の記録となり、仕事や結婚、母親業、そして将来の進むべき道は分かれていきます。本作は女性の視点からアルゼンチンのパンパス地方の男性によって神話化された地域についてが語られます。

(左ギレルミナ、ベリンダ、「ネックレス」1999)

(ベリンダが結婚する、2007)

(アレッサンドラ・サンギネッティ監督)

11)「Seis meses en el edificio rosa con azul / Six Months In a Pink & Blue Building」(仮題「ピンクとブルーのビルでの6ヵ月」)
Foro de Coproducción Europa-América Latina 2022
データ:製作国メキシコ=ブラジル=デンマーク、2026年、スペイン語、初のフィクション、104分、カンヌ映画祭併催「批評家週間」でワールドプレミア、メルボルン映画祭(8月)上映
監督・脚本・編集:ブルーノ・サンタマリア・ラソ(メキシコシティ1986)、撮影監督、監督、脚本家、編集者、ドキュメンタリー監督として記憶、秘密、子供時代を探求している。代表作「Cosas que no hacemos」(20)や「Margarita」(16)などが国際映画祭で多数受賞している。当ブログでは、共同撮影監督として参加した、アイ・ウェイウェイの「Vivos」(『ビボス~奪われた未来~』)をアップしています。
キャスト:ジェイド・レイエス(ブルーノ)、ソフィア・エスピノサ、ラサロ・ガビノ・ロドリゲス、エドゥアルド・ゴメス、バレリア・バネガス、アヌアル・ベラ、テレサ・サンチェス、他
ストーリー:メキシコシティ、1990年代初頭。ブルーノは11歳の誕生日に、親友のウラジミルに恋をします。その夜、父親は家族の生活を一変させるHIV陽性の診断を受けます。サルサの歌のように、家族は痛みを和らげるために歌ったり踊ったりします。30年後、ブルーノは子供のころに理解できなかった記憶を撮影し再び思い起こします。
*『ビボス~奪われた未来~』の紹介記事は、コチラ⇒2020年12月21日


(ブルーノ役のジェイド・レイエス)

(ブルーノ・サンタマリア・ラソ監督)

12)「A professora de frances / The French Teacher」(仮題「フランス語教師」)
Proyecta 2018
データ:製作国ブラジル=フランス=ポルトガル、2026年、心理スリラー、ホラー、96分、長編4作め
監督・脚本:リカルド・アルヴェス・ジュニア(ブラジルのベロ・オリゾンテ1982)は監督、脚本家、製作者、舞台演出家。実験映画、フィクションとノンフィクション映画でキャリアを積み、本作が長編4作め。
キャスト:グレイセ・パソー(グラサ)、ジェニー・ベス(クララ)、エリサ・ルシンダ、バルバラ・コーレン、ロムロ・ブラガ、エドゥアルド・モレイラ、イタロ・ラウレアノ、ロジャー・ロジェリオ(グラサの父)、ペドロ・ゴイフマン(トマス)
*グラサ役のグレイセ・パソーは女優、監督、劇作家、『千の父より生れ紙息子』(25)に出演、クララを演じたジェニー・ベスは、カンヌ映画祭2023のパルムドールを受賞したジュスティーヌ・トリエの『落下の解剖学』にマルジュ役で出演、父親役のロジャー・ロジェリオやバルバラ・コーレンは、クレベール・メンドンサ・フィリオの『バクラウ』(19)に出演している。
ストーリー:グラサはベロ・オリゾンテに住んでフランス語の個人教師をしている。フランス人のガールフレンドと一緒に暮らしている。しかし父親の健康にかかわる緊急事態のため、子供時代に過ごした郊外の実家に戻ることにしました。地元の宗教団体を率いる隣家の家族が支援してくれますが、彼女を「自分の居場所」に連れ戻そうとする。グラサはアイデンティティと分別を危うくする不寛容と狂信の世界に囚われ、次第に不穏な道を進んでいくことになる。ブラジルの伝統的な家族の内部に潜む暴力が描かれる。

(グラサ役のグレイセ・パソー)

(リカルド・アルヴェス・ジュニア監督)

ニューディレクターズ部門14作ノミネート発表*サンセバスチャンFF26 ⑦ ― 2026年08月07日 17:26
クチャバンク賞を競うニューディレクターズ部門全14作のノミネート発表

★7月30日、ニューディレクターズ部門の全14作が出揃いました。この部門はデビュー作を含む2作めまでが対象で、クチャバンク新人監督賞には50.000ユーロが副賞として授与されます。既にスペインが主製作国の映画3作が発表になっており、ラテンアメリカ諸国(メキシコ、チリ)、アジア(日本、韓国、台湾、イラン、カザフスタン)、ヨーロッパ(ドイツ、ノルウェー、イギリス、ブルガリア、ウクライナ)が各1作ずつノミネートされています。スペイン語映画を中心に以下5作を紹介いたします。
*ニューディレクターズ部門(スペイン映画)*
1)「El mal hijo / The Bad Son」
オープニング作品
データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、106分
監督・脚本:ハイメ・ロレンテ(ムルシア1991)、共同脚本サルバドール・S ・モリーナ、撮影エリアス・M・フェリックス、音楽ルイスミ・グレス・ベドマル、編集レヒノ・エルナンデス
キャスト:ウーゴ・アルブエス(ルーベン)、ミゲル・アンヘル・プーロ(父)、スシ・サンチェス(祖母パスクアラ)、オスカル・デ・ラ・プエンテ(伯父ファンジ)、アベル・デ・ラ・プエンテ(少年時代ルーベン)、ナイアラ・カルモナ(母)
ストーリー:11歳のルーベンの父親が謎の失踪をして、少年はほとんど会ったことのない祖母と暮らため引っ越さねばなりません。時が止まったかのような田舎の環境で、子供は家族の傷が代々受け継がれていることを学び、成長する過程で傷を癒そうと努力するだろう。


(ミゲル・アンヘル・プーロ、アベル・デ・ラ・プエンテ)

(ハイメ・ロレンテ監督)

2)「Bloques erráticos / Erratics」(仮題「不規則なブロック」)
データ:製作国チリ=フランス=ドイツ、2026年、デビュー作、スペイン語、ドラマ、ファンタジー、92分、ロッテルダム映画祭2026でプレミア
監督・脚本:トマス・ウッドロフ(サンティアゴ1995,監督、脚本家)、エリアス・ケレヘタ・シネ・エスコラの映画アーカイブコース修了、短編「Fiebre austral」がSSIFF2019ネスト部門の特別賞を受賞、ベネチアFFオリゾンティ、トロントFF短編部門で上映された。共同脚本ヴァレリア・ホフマンアントニオ・ルコ、撮影エミリア・マルティン、製作者パスクアル・メナ、ロドリゴ・ディアス
キャスト:デニス・ラヴァン(リシュアン)、ダニエル・ムニョス
参加者:フランチェスカ・ボッツァーノ(シネマテーク・ドゥ・トゥールーズのコレクション責任者)、ドミニク・ルグピル(フランス国立科学研究センター、作家)、レイナルド・カロ(俳優)、ドミンガ・ソトマヨール(チリの監督)、フェリペ・ガルベス(チリの監督)
ストーリー:100年間パタゴニアの氷河に閉じ込められた後、自らを解放した映画監督リュシアン・カステルノーの亡霊は、未来のパタゴニアを彷徨います。そこは技術の進歩が忘れられた物語と激しく衝突しています。彼の映画遺産が見られずにいるあいだ心が休まらず、記憶から消し去られた世界を横断して、歴史のなかの場所と観客を求めて、遂に失われた作品を生き返らせる。

(フランスの名優デニス・ラヴァン)

(トマス・ウッドロフ監督)

3)「Esta soledad / This Solitude」(仮題「この孤独」)
データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、110分、単独監督デビュー作、公開2026年10月30日
監督・脚本:ハビエル・ギネル(ビスカヤ県バラカルド1977)、監督、脚本家、製作者。2024年、本祭アウト・オブ・コンペティションでコメディ「Yo,adicto / I, Addict」(TVシリーズ全6話の3話)をアイトル・ガビロンドと共同監督して、特別上映枠で上映された。監督自身のビオピックで主役ハビエルをオリオル・プラが演じた。短編「El amor me quedad grande」でシネフォリア賞2016監督賞、観客賞受賞、ほか短編多数。
キャスト:オリオル・プラ(レオ)、マリナ・サラス(ロレア)、ジェンマ・マルティネス(イラティ)、カイ・エチャニス、イツィアル・ラスカノ(ロレアの母親)、フアン・ビアダス(レオの父親)
ストーリー:ビルバオ、レオとロレアは愛しあっていた。もしかしたら今も愛しあっているかもしれない。しかし二人のなかで何かが壊れてしまった。5年に及ぶ二人の関係は終わってしまった。彼は病気の父親を介護しており、その責任と重くのしかかる虚ろな感情に捕らわれている。彼女は低賃金の仕事や個人的な危機に巻き込まれ、どこから手を付ければいいのか分からず、やみくもに人生を立て直そうとしている。彼らは疲れはてた孤独な二つの体であり、不安定で、解決されない、そして全てがいつも遅れてやってくるように思える或る世代の感情的な遺産が横たわっている。例えば、愛、安定、成熟、静寂、個人的な満足感など。
*「Yo,adicto」の紹介記事は、コチラ⇒2024年10月09日

(マリナ・サラス、ハビエル・ギネル監督、オリオル・プラ)

4)「Morro」(仮題「モロ」)
データ:製作国メキシコ、2026年、2作め、スペイン語、ドラマ、95分
監督・共同脚本・製作者:ロドリゴ・ガルシア・サイス(メキシコシティ生れ、監督、脚本家、製作者)、
短編「El hombre que murio de rumor」がアリエル賞1997ノミネート、2023年デビュー作「Lluvia / Rain」がマラガ映画祭2024でプレミア、マイアミ、モレリア、ハバナ、ロスアンゼルスなど各映画祭巡りをした。本作が長編2作めでサンセバスチャンにやってくる。音楽ラミロ・デル・レアル、撮影アルフォンソ・エレラ・サルセド、編集フェルナンダ・デ・ラ・ペサ
キャスト:グスタボ・サンチェス・パラ(獣医マテオ)、アンナ・ディアス(イサベル)、エルネスト・メレンデス(ポンチョ)、アルフォンソ・エスコベド(ダニ)、ホセ・サビノ(ロヘリオ)
ストーリー:獣医のマテオは息子が亡くなって以来、静かな悲しみのなか、譬えようもない罪悪感に満ちた人生を送っている。小さな町の暴力は、終わりのない木霊のように、そこに潜んで直ぐには目に見えない。この壊れやすいバランスは、マテオが地元のマフィアのボスの負傷した犬モロを治療することで崩れます。この動物の日常的な世話は思いがけない絆を生みだし、判断も言葉もない関係を築き、彼は人生の意味を再び取り戻すことになるだろう。
*マラガFF2024ノミネート「Lluvia」の紹介は、コチラ⇒2024年03月04日


(グスタボ・サンチェス・パラとモロ)

(ロドリゴ・ガルシア・サイス監督)

5)「Sieben tage februar / February, Seven Gays / Siete días de febrero」(仮題「2月の7日間」)
WIP Europa 2025
データ:製作国ドイツ=オーストリア=スペイン、2026年、デビュー作、ドラマ、ドイツ語、ロシア語、ウクライナ語
監督・脚本:タチヤナ・ムチニク(ウクライナ、キーウ1988、ドイツ系ウクライナ人、監督、脚本家)、2014年、本祭ネスト部門に短編「Der letzte kuss / The Last Kiss」で参加している。短編、TVミニシリーズ(22)を手がけている。
キャスト:セルゲイ(セルヒー)・コルシコフ(アルカディ)、ヴォロディミル・ホロスニャク、マリア・シュトファ(マリナ)、アルセニ・マルコフ、モイセイ・バジジャン(グランパ・グリシャ)、ダリア・ギトブート(ダシャ)
ストーリー:ウクライナ戦争が勃発する前日のこと、ドイツのシュトゥットガルトに暮らすアルカディは、オデッサから疎遠だった兄とその息子の訪問を受けます。母親の埋葬をするためです。家族の素性についての二つの考え方の違いで対立が生じてしまいます。ロシアによる自国侵攻を背景に、ドイツで再会する兄弟の確執が語られる。

フォト

(タチヤナ・ムチニク監督)

コンペティション他ノミネーション発表*サンセバチャンFF26 ③ ― 2026年07月23日 14:50
サンセバスチャン映画祭コンペティション部門にスペイン映画が3作ノミネート

★第74回サンセバスチャン映画祭2026(9月18日~26日)のセクション・オフィシアル以下、特別上映、ニューディレクターズ、オリソンテス・ラティノス、サバルテギ-タバカレア、ペルラス(ペルラク)、ベロドロモ各部門のスペイン製作の25作(長編23作、TVシリーズ2作)が発表になりました。スペインはワールドカップ2026で二度目のチャンピオンになり、目下のところ興奮の坩堝です。フィリップ6世国王もサルスエラ宮殿でお出迎え、サンチェス首相は「二度あることは三度ある」と次回の優勝を示唆、200万人が出迎えるなど大騒動です。メディアもラミネ・ヤマルはメッシでなくブラジルのペレを手本にしていると皮肉り、ゴールを決めたフェラン・トーレスは「スペイン国民4700万のゴール」と饒舌、しかし一番褒められていいのは、わずか1失点におさえた19歳のDFクバルシではないか? 取りあえずしばらくは失業も金欠も忘れて過ごせそうです。

★セクション・オフィシアル(金貝賞を競うコンペ部門)には、ハビエル・ルイス・カルデラ(ビラデカンス1976)の「5 minutos más / 5 more minutes」(ハビエル・カマラ主演)、ロベルト・ブエソ(バレンシア1986)の3作め「El mal padre」(エドゥアルド・フェルナンデス主演)、ミケル・グレア(サンセバスティアン1985)の「Sants / Saints」(ビクトリア・ルエンゴ主演)の長編3作がノミネートされました。順次紹介記事をアップしていきます。
1)「5 minutos más / 5 more minutes」
データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、87分
監督:ハビエル・ルイス・カルデラ(バルセロナ県ビラデカンス1976)
キャスト:ハビエル・カマラ、ベルト・ロメロ、ベレン・クエスタ、カルロス・ベルナルディノ、マルク・ソレル、クラウディア・メロ
ストーリー:危機にある夫婦が、人里離れた田舎で週末を過ごすことにする。到着すると仲介業者が家を案内し鍵を手渡すと、奇妙なことに時間が5分巻き戻り・・・

2)「El mal padre」
データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、コメディドラマ、120分
監督:ロベルト・カルロス・サンチェス・ブエソ(バレンシア1986)
キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(サンティアゴ・バルメス)、アダム・Jezierski、フランセスコ・カリル、メリチェル・カルボ、クリスティナ・プラサス
ストーリー:子供たちと長年疎遠だった著名な作家で学者のサンティアゴ・バルメスは、最後に三人の子供たちを呼び戻します。かつて子供たちと夏の休暇をとった別荘でクリスマスを過ごそうとします。

3)「Sants / Saints」
データ:製作国スペイン=イタリア、2026年、ドラマ、103分
監督:ミケル・グレア(サンセバスティアン1985)
キャスト:ビクトリア・ルエンゴ(ラリ)、アリアドナ・ヒル、エウラリア・ラモン、コジモ・フスコ
ストーリー:さし迫る母親の死を逃れるように、ラリは宗教的な遺物を盗む或る窃盗団に加わります。


★オリソンテス・ラティノス(ラテンアメリカ諸国の作品)には、カンヌ映画祭から2作、ベルリン映画祭から3作と、既にワールドプレミアされた5作品が選ばれています。メキシコのフェルナンド・エインビッケの「Moscas / Flies」、ディエゴ・ルナの6作め「Ceniza en la boca / Ashes」、チリのマヌエラ・マルテッリの「El deshielo / The Meltdown」(カンヌ「ある視点」)など当ブログで一番関係ある部門です。
1)「Ceniza en la boca / Ashes」
データ:製作国メキシコ=スペイン、2026年、ドラマ、
監督:ディエゴ・ルナ(メキシコシティ1979)
キャスト:アンナ・ディアス、アドリアナ・パス、ルイサ・ウエルタス、ギジェルモ・リオス、セルヒオ・バウティスタ、ベニー・エマニュエル、テレサ・ロサノ、アドリアナ・ハコメ(ジャコメ)
ストーリー:より良い生活を求めて、ルシラは兄ディエゴとともにメキシコを離れ、8年間不法滞在している母親の住むマドリードを目指します。遂に到着するが、母親にに支えられながらも、想像以上に厳しい現実が待ち受けていた。

2)「Chicas tristes / Sad Girlz」
データ:WIP Latam 2025、Proyecta 2022
製作国メキシコ=スペイン=フランス、2026年、ドラマ、90分
監督:フェルナンダ・トバル(メキシコシティ1991、メキシコ系スペイン人)、デビュー作
キャスト:ロシオ・グスマン(ラ・マエストラ)、ダラナ・アルバレス(パウラ)
ストーリー:16歳のラ・マエストラとパウラは、メキシコ・チームのなかで最高の泳ぎ手であり親友でもあった。しかしあるパーティでの出来事がすべてを変えてしまった。激しい気性のラ・マエストラは、親友の変化に気づき悲しんでいる。真実が明らかになると、二人は不可能な決断を迫られる。パウラは沈黙を守りたい、ラ・マエストラは正義を求めたい。かつての友情は試練にさらされる。

3)「El deshielo / The Meltdown」
データ:Proyecta 2022、製作国チリ=USA=スペイン=メキシコ、2026年、スリラー、110分
監督:マヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ・デ・チリ1983)
キャスト:マヤ・オロウルケ、サスキア・ローゼンダール、マイア・ラエ・ドマガラ、ヤクブ・ギエルザル、パウリナ・ウルティア
ストーリー:チリ、1992年。祖父母の山のホテルに滞在しているあいだ、イネスはドイツ人スキーヤーのハンナと友達になります。ハンナが跡形もなく姿を消したことで、彼女の隠された真実が明らかになっていく。

4)「Moscas / Flies」
データ:WIP Latam 2025、製作国メキシコ=スペイン、2026年、ドラマ、99分
監督:フェルナンド・エインビッケ(メキシコシティ1970)
キャスト:テレシタ・サンチェス(オルガ)、バスティアン・エスコバル
ストーリー:オルガは大きな喪失以来、自分の世界に閉じこもっている。しかし足の親指の手術代を払うお金がなく、オルガが住んでいる大型アパートの部屋を妻が近くの医療センターに入院したという男トゥリオに部屋を貸すことにする。彼が数日間留守にすることになったとき、秘かに9歳になる息子クリスチャンを住まわせていたことが分かる。オルガと少年が交わることになり、オルガの人生が変化していく。

5)「Narciso」
データ:ヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラム2020
パラグアイ=西=ウルグアイ=ブラジル=ポルトガル=独=仏、2026、ドラマ、101分
監督:マルセロ・マルティネッシ(パラグアイのアスンシオン1973)
キャスト:ディロ・ロメロ(ナルシソ)、モナ・マルティネス(ネヌチャ)、ナウエル・ペレス・ビスカヤルト(ミスター・ウエッソン)
ストーリー:パラグアイ、1959年。息苦しい軍事政権のもと、ナルシソはブエノスアイレスからロックンロールの熱を帯びて帰国する。神秘的でカリスマ性のある彼は、男女双方の欲望の対象になる。やがてラジオのスターとなり、自由のシンボルとなる。しかし最後のショーの後、遺体となって発見される。沈黙が支配し恐怖が真実を覆い隠す国で、誰がナルシソを殺害したのか。


(左から、フェルナンド・エインビッケ、ディエゴ・ルナ、マヌエラ・マルテッリ、
マルセロ・マルティネッシ、フェルナンダ・トバル、各監督)
★監督を含めてスタッフ、キャストなど、賞に絡みそうな作品を紹介していく予定です。次回はサバルテギ-タバカレア部門を予定しています。
イベロアメリカ映画金のビスナガ*マラガ映画祭2026 ⑧ ― 2026年04月17日 16:36
メキシコ映画―ホアキン・デル・パソの「El jardín que soñamos」

★イベロアメリカ映画部門の金のビスナガ作品賞を受賞した「El jardín que soñamos」は、ホアキン・デル・パソ(メキシコシティ1986)の長編3作目、他に銀のビスナガ監督賞、銀のビスナガ撮影賞(ギョクハン・ティリヤキ)を受賞した。撮影監督のティリヤキは、1972年イスタンブール生れ、トルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督とタッグを組んで数々の話題作を送り出している。既にベルリン映画祭パノラマ部門でワールドプレミアされており、何らかの賞に絡むことは予想されていた。監督キャリア&フィルモグラフィは、簡単に以下にアップしています。
*監督キャリア&フィルモグラフィ紹介は、コチラ⇒2026年03月12日

(金のビスナガ作品賞受賞のホアキン・デル・パソ、マラガFF2026ガラ)

(ホアキン・デル・パソとカルロス・エスキベル、マラガFFフォトコール)
「El jardín que soñamos / The Garden We Dreamed」
製作:Amondo Cine / Cárcava Cine / Atomica Films / Espiral Films ほか
監督:ホアキン・デル・パソ
脚本:ホアキン・デル・パソ、ルーシー・パウラック
撮影:ゲクハン・ティリヤキ
音楽:ロヘリオ・ソーサ、カイル・ディクソン、マイケル・スタイン
編集:ラウル・バレラス、ホアキン・デル・パソ、アンドレス・タンボルニーノ
美術:フェデリコ・カントゥ、ニコル・セイグス
衣装デザイン:ガブリエラ・ガルシアンディア
メイクアップ:リッチ・ゲラ、ホルヘ・フエンテス
キャスティング:セルヒオ・ディアス・オチョア
製作者:フェルナンダ・デ・ラ・ペサ、ホアキン・デル・パソ、エドゥアルド・ディアス・カサノバ、フアン・パブロ・レイノソ、イツェル・シエラ、他エグゼクティブ、共同プロデューサー多数
データ:製作国メキシコ、2026年、スペイン語、ハイチ・クレオール語、ドラマ、102分、配給ピミエンタ・フィルムズ(メキシコ)
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2026パノラマ部門観客賞ノミネート、第29回マラガ映画祭2026イベロアメリカ映画部門金のビスナガ作品賞、銀のビスナガ監督賞(ホアキン・デル・パソ)、銀のビスナガ撮影賞(ゲクハン・ティリヤキ)各受賞、フランクフルト映画祭、トゥールーズ・シネラティノ・リコントル・デ・フェスティバル正式出品
キャスト:ネヘミエ・バスティアン(エスタル)、フォースタン・ピエール(ジュニオル)、キマエレ・ホリー・プレヴィレ(フロール)、ルス・アイチャ・ピエール・ネルソン(アイチャ)、カルロス・エスキベル(トーニョ)、ほか
ストーリー:ハイチからエスタルとジュニオルの夫婦はより良い未来を求めて、二人の娘フロールとアイチャを連れてアメリカ大陸の旅に出ます。メキシコでは自分たちの土地ではない、人里離れた繊細なオヤメルモミの森の中に居を定めます。家族がこの見知らぬ環境で自分たちの居場所を探すなか、ジュニオルは過去の重みと向き合い、エスタルは支えとなり、周りの世界が崩れ始めるなかでも平和と思いやりを育みます。モナーク蝶に囲まれた家族は、違法伐採で消えゆく森の中で、繊細な温もりの空間をつくり、愛がまだ根を張ることのできる儚い希望の庭を築こうとします。 (文責:管理人)

(カナダ南部から南米大陸北部に分布するモナーク蝶オオカバマダラ)



★監督紹介:ホアキン・デル・パソ Joaquin del Paso、1986年メキシコシティ生れ、監督、撮影監督、脚本家、製作者。キューバの国際映画テレビ学校、ポーランド国立映画学校で学んでいる。2008年、短編ドキュメンタリー「Dialogue about an image」(イメージに関する対話、製作国ドイツ、言語スペイン語)で監督デビュー、製作国はポーランドが多く、米国、ドイツ、メキシコ、英国と多国籍、言語もポーランド語、スペイン語、英語、ドイツ語、ジャンルもドラマ、ドキュメンタリー、ファンタジー、SF、アドベンチャーと、受賞歴多数の短編12本の後、新作「El jardín que soñamos」が3作目となる長編を撮っている。

(金のビスナガ、銀のビスナガをゲットした)
★撮影監督作品としては、製作者キム・ヘンドリクソンのドキュメンタリー「A conversation with Carlos Reygadas」(カルロス・レイガダスとの対話、米国、スペイン語、2019)を共同で撮影している。レイガダスの長編デビュー作『ハポン』についてのアマ・エスカランテとの対話。レイガダスのパートナーであるナタリア・ロペス・ガジゃルドのデビュー作「Manto de gemas」(宝石のマント、22)の製作を共同で手掛けている。以下に代表作、受賞歴のある作品をアップしておきます。

2008「Dialogue about an image」短編
2009「Czarna Gora」短編、Camerimage、学生コンペティション部門ノミネート
2009「The Absolute Truth of Thomas Schviefel」短編21分、ファンタジー/SF、
ルーシー・パウラックと共同監督、ポーランド=英国、英語
2011「Moskwa」短編ドキュメンタリー、アドベンチャー、ポーランド、ポーランド語
2012「Dream of San Juan」中編45分、ドキュメンタリー、メキシコ=ポーランド、スペイン語
2013「Syjamscy」短編26分、犯罪ドラマ、ポーランド、ポーランド語、
ポーランドFF2014ヤングシネマ・コンペティション部門特別賞受賞
2016「Maquinaria Panamericana」長編デビュー作コメディ、
グアダラハラFFメスカル賞・PIPRESCI、デュランゴFF観客賞・特別審査員賞、
レインダンスFF脚本賞、モンテレイFF長編映画賞、グアナフアトFF映像賞、
メリダ&ユカタンFFオペラ・プリマ、トリノFFスペシャル・メンション観客賞、
アリエル賞2017脚本賞、各受賞
2021「El hoyo en la cerca」長編2作目スリラー、ベネチアFFオリゾンティ部門プレミア、
ワルシャワFF、モレリアFFノミネート多数、カイロFF作品賞ゴールデン・ピラミッド賞
2026「El jardín que soñamos」割愛
★撮影監督紹介:ギョクハン(ゴハーン)・ティリヤキ Gokhan Tiryaki、1972年イスタンブール生れ、国営テレビ局でカメラマンとして、ドキュメンタリーやドラマの制作に携わり、1996年から撮影監督になる。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督とタッグを組んだ『うつろいの季節』(06、トルコ=仏)、『スリー・モンキーズ』(08、トルコ=仏=伊)、『昔々、アナトリアで』(11、トルコ=ボスニア・ヘルツェゴビナ)、『雪の轍』(14、トルコ=仏=独=日本)、『読まれなかった小説』(18、トルコ=仏=独他)などが、公開されている。

(ギョクハン・ティリヤキ)
★受賞歴は、『スリー・モンキーズ』で国際撮影監督映画祭マナキ・ブラザーズ賞2008、イェシルカム賞2008、『昔々、アナトリアで』ドバイ映画祭2011撮影賞、アジア太平洋スクリーン賞2011、シネフィル協会賞、トルコ映画批評家協会賞2011、『雪の轍』トルコ映画批評家協会賞2014、「I am You」フローレンス映画賞2020、その他インド映画「Once Upon a Time in Calcutta」(仏=ノルウェー合作、ベンガル語)シルクロード映画祭中国2022撮影賞、「El jardín que soñamos」マラガ映画祭2026などがあり、ノミネート多数。

(主演のネヘミエ・バスティアンとフォースタン・ピエール、ベルリンFF2026)
ロドリゴ・ガルシアのメキシコ映画『逸す』*Netflix 鑑賞記 ― 2025年12月13日 11:54
ロドリゴ・ガルシアのスペイン語映画「Las locuras / The Follies」

★コロンビア生れのメキシコシティ育ちの監督、脚本家、製作者、撮影監督と多才なロドリゴ・ガルシア・バルチャに生涯ついて回るだろう「ノーベル賞作家『百年の孤独』のガボの息子」、有名な父親を誇りにも重荷にも思っているに違いない。長編デビュー作「Things You Can Tell Just by Looking at Her」が、サンダンス映画祭1999でNHK賞を受賞、翌年カンヌ映画祭「ある視点」でグランプリを受け、お蔭で『彼女を見ればわかること』の邦題で公開され話題となった。

(スペイン語版『彼女を見ればわかること』のポスター)
★監督紹介:映画に絞って駆け足でキャリアを紹介すると、1959年コロンビアのボゴタ生れのメキシコ育ち、コロンビアの映画・TV監督、脚本家、製作者。現在米国在住のようだが国籍はコロンビア、父親はガブリエル・ガルシア・マルケス、母親はメルセデス・バルチャ・パルド、ハーバード大学で中世史を専攻、後アメリカン・フィルム・インスティチュートで映画を学ぶ。
1989年、撮影監督としてキャリアをスタートさせる。『彼女を見ればわかること』の後、2005年「Nine Lives」(『美しい人』)でロカルノ映画祭の金豹・ユース審査員賞ほか、2008年には、「Passengers」(『パッセンジャーズ』)、「Mother and Child」(09、『愛する人』)、2010年メキシコ革命100周年を記念して製作された若手監督10人による『レボリューション』に参画、「Albert Nobbs」(11、『アルバート氏の人生』)でサンセバスチャンFFセバスティアン賞、「Last Days in the Desert」(12、『ユアン・マクレガー 荒野の誘惑』)、「Four Good Days」(20、『フォー・グッド・デイズ』)、「Raymond & Ray」(22、『レイモンド&レイ』)など。TVシリーズ化された『百年の孤独』(24、全16話)の製作者の一人として参画、昨年半分の8話がNetflixで配信されている。メキシコ現大統領クラウディア・シェインバウムは義姉に当たる。

(父親に似てきたロドリゴ・ガルシア監督)
★第1作から英語で撮りつづけてきたが、メキシコの名優ダニエル・ヒメネス=カチョを主役に、オリーブ農園の或る個性的な家族を描いた「Familia」(23)というスペイン語映画をNetflixで撮った。同年12月から『Familia 我が家』の邦題でストリーミング配信されている。キャストに、イルセ・サラス、カサンドラ・チャンゲロッティ、ナタリア・ソリアン、アンヘレス・クルス、ナタリア・プラセンシア、ヴィッキー・アライコなどが、スペイン語映画2作目となる『逸す』(「Las locuras / The Follies」)に重なって出演している。以下にキャスト紹介をしていますが、メキシコを代表する演技派をこれほど大勢起用できたことに驚きました。

(ネットフリックス『Familia 我が家』のポスター)
『逸す』(「Las locuras / The Follies」)
製作:Panorama
監督・脚本:ロドリゴ・ガルシア
撮影:イゴル・ハドゥエ(ジャドゥエ)・リロ
音楽:ハビエル・ヌーニョ、トマス・バレイロ
キャスティング:ルイス・ロサレス
美術・プロダクションデザイン:サンドラ・カブリアダ
衣装デザイン:マリア・エステラ・フェルナンデス
メイクアップ:イツェル・ペニャ・ガルシア
音響:ラウル・ロカテリ
製作者:ヘラルド・ガティカ・ゴンサレス、パブロ・シンブロン・アルバ、(エグゼクティブ)ヒメナ・カルボ、フアネロ・エルナンデス
データ:製作国メキシコ、2025年、スペイン語、ドラマ、121分、配給Pimienta Films、公開メキシコ11月13日限定、2025年11月20日Netflix配信開始
映画祭・受賞歴:第23回モレリア映画祭FICM 2025(10月11日)、第40回マル・デル・プラタ映画祭(11月15日)
キャスト:カサンドラ・チャンゲロッティ(レナタ、1・3・6話)
アルフレッド・カストロ(レナタ父イスマエル、1・6話)
ヴィッキー・アライコ(イスマエルのパートナー、カード占い師アルバ、1・3・6話)
ナイアン・ゴンサレス・ノルビンド(ペネロペ/ペニー、動物病院の獣医、1・2話)
ラウル・ブリオネス(アウレリオ・ガメス、同上、1・2話)
モニカ・デル・カルメン(犬の飼主リタ、2話)
ダニエル・トバル(リタの夫ガストン、2話)
イルセ・サラス(レナタの恋人ミランダ、1・3話)
アドリアナ・バラサ(ミランダの母イレネ、3話)
フアンキ・ドゥラン(タクシー運転手、3話)
アンヘレス・クルス(イルランダ精神科医セラピスト、1・4話)
ルイサ・ウエルタス(イルランダの母パス、4話)
ロベルト・ソサ(イルランダの元夫ファクンド、4話)
メルセデス・エルナンデス(イルランダの妹イタリア、4話)
テレサ・サンチェス(イルランダの妹ガリシア、4話)
ガビノ・ロドリゲス(ガリシアの夫オメロ、4話)
アナ・ソフィア・フェリックス(パウリナ、4話)
ナタリア・ソリアン(レナタの妹ソレダード舞台女優、1・5話)
フェルナンド・カットリ(バレンティン舞台俳優、5話)
ナタリア・プラセンシア(マルティナ演技指導者、5話)
フェルナンダ・カスティーョ(金融仲介業者セレナ・ロペス・レナ、6話)
他多数
ストーリー:メキシコシティに突然降り出した雨の一日、個人が自分に課した制約、社会的圧力、家族の期待に彩られた自己発見の旅を歩む6人の女性が語られる合唱劇。人間の感情が限界まで追い込まれたときの強烈さと本物らしさを受け入れるとき、本当の自由とは、勇気とは何かという問いが生まれます。個人のアイデンティティ、不安、自由が、予期せぬ困難に直面するなかで試される。
第1話『罪と罰』レナタの罪と罰
A: 全体が6話に分かれ、それぞれ著名な書籍のタイトルが付けられている。第1話はドストエフスキーの『罪と罰』、その他シェイクスピア、フローベール、カルペンティエルなどの代表作のタイトルがついている。それぞれ独立しているようだがレナタを通じて繋がっている。ロバート・アルトマンが生みの親と言われる群像劇またはアンサンブル劇、スペイン語映画では合唱劇と称している。
B: 無関係だった複数の登場人物が出たり入ったりして複雑に絡み合って展開していく。前作と同じようにセリフの多い映画です。
A: 合唱劇とはいえ核になる人物がいて、本作ではカサンドラ・チャンゲロッティが演じた躁鬱混合状態のレナタと、アルフレッド・カストロ扮する父親イスマエルの父娘である。サン・ミゲル・チャプルテペック地区にあるイスマエルの家のメインルームで始り最後には戻ってくる円環的な物語でもある。深い喪失を生きているレナタの右足にはGPS端末が装着されている。アクセルを踏み続けるレナタの罪が分かるのは最後の6話まで待たねばならない。

(カサンドラ・チャンゲロッティ扮するレナタ)
B: サン・ミゲル・チャプルテペックは、メキシコシティのチャプルテペック公園の南に位置する旧市街、歴史的な建造物が残っており、主に中産階級が住んでいる。第1話には「忙しくしてないと、おかしくなる」という金融仲介業のやり手セレナ以外の5人が手際よく登場する。

(躁状態で一睡もしないレナタの逃亡を心配するイスマエル)
A: 監督がモレリア映画祭で「この物語は、自分の友人たちが双極性障害の躁状態を経験していることに触発された」と語っているように、レナタの家族が核になっている。3歳年下の妹ソレダード(5話)、獣医のペネロペ(2話)、精神科医のイルランダ(4話)、レナタの恋人ミランダ(3話)と手際よく出揃う。
B: 双極性障害発症の原因は現在でもはっきりしないが、ラテンアメリカ映画に特徴的な「父親不在」でなく、「母親不在」が一因らしきことが暗示されている。精神的な病を抱えているレナタが他の女性を巻き込んでいくが、それは〈狂う〉でなく〈乱れる〉である。
A: チャンゲロッティは「レナタに対して抱く共感は、彼女が小さいときに母親が出て行ったという事実です」と語っているように、少なくとも彼女はそう解釈して演技したということです。一度壊れてしまった人間関係の修復は容易でない。
B: チャンゲロッティは、『Familia 我が家』でも、三姉妹のうち精神が不安定な次女を演じていたが、イルセ・サラス主演の『グッド・ワイフ』でも共演している。
A: 監督の一部が投影されているような父親を演じたアルフレッド・カストロについては、既にキャリア&フィルモグラフィーを紹介しております。本作の撮影終了後、文化に敬意をはらわないチリに愛想をつかして軸足をスペインに移した。チリの映画のみならず舞台芸術を牽引していただけに残念です。スペイン国籍も取得済みです。
B: 才能流出は止められないが、パブロ・ララインとのコラボは続けてほしい。イスマエルのパートナー役アルバに扮したヴィッキー・アライコの自然体の演技も魅力の一つ、前作では出番が少しで残念でしたが、本作では総じて脇役に重量級を起用している。
*アルフレッド・カストロのキャリア紹介は、コチラ⇒2024年05月23日
第2話『眠れる森の美女』、危機がエネルギーのペネロペ
A: 監督もカストロも70歳という年齢の壁を前にして、自身を解放する必要に迫られている。さて第2話、獣医のペネロペとアウレリオは恋人同士、開業資金を溜めるため死期の迫った動物の安楽死に走り回っている。アウレリオを演じたラウル・ブリオネスも重量級の脇役なら、飼い犬ペニーの安楽死を依頼したリタ役モニカ・デル・カルメンと夫役のダニエル・トバルも重量級です。
B: この日本贔屓らしい飼い主夫婦もかなり変わっていて、リタに手こずる夫ガストンも同類のようだ。我が子のように可愛がるのは分かるとして、自分たちが飼い犬の〈パパとママ〉とは尋常じゃない。しかしスター犬ペニーの名演技に感心した。

(愛犬ペニーを手離せないリタを宥めるペネロペ)
A: どんな名優も子供と動物には勝てません。今泣いたガラスよろしく、ライオンキングの仮装で浮き浮き出かける夫婦にぎょっとします。本作は女性の視点で描かれていますが、それは「最初からの意図ではなく、脚本執筆の過程で自然とそうなった」と監督。しかし「女性中心のアプローチになったが、登場する人物たち全員がたどる旅路についての映画だ」とも語っている。
B: モニカ・デル・カルメンの「アリガト、マタネ」は、なんの皮肉か。おかしな日本贔屓に笑ったけど複雑な気分です。男性優位が国是のメキシコもマッチョな男性は流行おくれなのか、見た目は〈婦唱夫随〉の家族に乾杯しよう。
A: 劇中、仮装した夫ガストンにはライオンの仮面を被らせて表情を視聴者に想像させている。写真のような笑顔でしょうか。ダニエル・トバルは、ロドリゴ・プラのデビュー作「La zona」(07)に少年役で出演した。スリリングな階級憎悪を描いた本作は、今のメキシコでは現実味を帯びてきている。
B: ガストンは中年男性だが、トバル本人は1989年生れです。

(リタ手作りのライオンキングの仮装の二人に挟まれた監督)
A: レナタに「生き物を楽にすることで死の不安を抑えている」と図星を指されたペネロペ、これから処置しようとする犬の名前が偶然自分と同じと分かってバランスを崩す。あまりに刺激的すぎる。レナタに「犬は最後に何を思う?」と尋ねられたことを思い出す。「私なら何を思うのだろうか」と。危機をエネルギーにしているペニーを演じたナイアン・ゴンサレス・ノルビンドもミシェル・フランコの『ニューオーダー』の主役を射止めて以来引っ張り凧。1992年メキシコシティ生れだが、ノルウェー系メキシコ人で教育はソルボンヌ大学、ロンドン音楽演劇アカデミーで学んでいる。メキシコでは異色の経歴、飛躍が期待できそう。因みに『或る終焉』に出演しているナイレア・ノルビンドは実母です。

(放心状態で座り込むペネロペ)
B: 『ニューオーダー』は、毀誉褒貶あるなかでベネチアFF2020銀獅子賞の審査員グランプリを受賞した作品、モニカ・デル・カルメンも出演している。最悪の偶然にアウレリオも動揺を隠せない。先ほどのレナタの分析が頭から離れないペネロペは、アウレリオに八つ当たり、我慢強い恋人も「またぞろ始まった」堂々巡りにうんざりする。でも二人は離れられない運命共同体。
A: ブリオネスは、デル・カルメンと共演したアロンソ・ルイスパレシオの『コップ・ムービー』(21)で紹介しているが、同監督の「La cocina」(24)が『ラ・コシーナ/厨房』の邦題で公開された。この2作でアリエル主演男優賞を受賞している。


(運命共同体のペネロペとアウレリオ)
*モニカ・デル・カルメンとラウル・ブリオネスのキャリア紹介は、コチラ⇒2021年08月28日
*『ニューオーダー』の紹介記事は、コチラ⇒2022年06月13日
第3話『感情教育』メンタルヘルスは恥ではない
B: 第3話のタイトルは、フローベールの『感情教育』、イルセ・サラス演じる仲介業者の妻ミランダ、母親とも家族とも上手くいってない。
A: 適応障害とは言えないが、夫の仕事関係のパーティで数日知り合ったばかりのレナタに執着している。レナタがペネロペの携帯から助けを求めていたお相手です。午前中に白内障のオペをしたばかりの病院帰りの母親とのあけすけなバトルが見もの。もう片方のオペがすんだら離婚して自由になるつもり、キューバかドミニカに出掛けてやり直したい。髪を金髪にしてまだ人生を諦めていない母親役のアドリアナ・バラサの人格設定も切実だから笑えない。バラサはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バベル』(06)出演で、オスカー賞とゴールデングローブ賞助演女優賞にノミネートされた。

(イルセ・サラス扮するミランダ)

(ミランダの母親役のアドリアナ・バラサ)
B: 夫の悪口に娘であるミランダもやりきれないが、レナタに早く会いたいミランダにはどっちでもいい。イルセ・サラスは、前作では麻酔医師をしている三姉妹の長女を演じていた。
A: アレハンドラ・マルケス・アベジャの公開作品『グッド・ワイフ』や、撮影監督ロドリゴ・プリエトの監督デビュー作『ペドロ・パラモ』など、カストロに次いで知名度が高い。当ブログでも紹介している作品が多く、他に夫アロンソ・ルイスパレシオスのデビュー作『グエロス』にも出演している。彼との間に子供が2人いる。

(レナタとミランダ)
B: 馬鹿げた金持ち母娘に悪乗りして、ちゃっかり稼いでいるタクシー運転手役フアンキ・ドゥランも笑えます。レナタ、ミランダ、イスマエルのほか、イルランダとアルバも登場、イルランダはアルバを見て火花を散らす伏線が張ってある。
A: 作品によっては回収されない伏線もありますが、ここは次の第4話で回収される。アルバは気づかないが、イルランダの元夫ファクンドとアルバは、かつて性的関係にあったことが暗示される。性的アイデンティティの抑圧が語られるわけですが、タブー視されてきたメンタルヘルスは誰にでも起こりうる。
*『グッド・ワイフ』の作品紹介は、コチラ⇒2019年04月14日
*『グエロス』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月03日
*『ペドロ・パラモ』作品紹介は、コチラ⇒2024年12月04日
第4話『種への旅』人生は死から誕生へと反対に語ったほうがいい
B: 第4話のタイトルは、アレホ・カルペンティエルの短編集『時との戦い』の1編「種への旅」、人生は死から誕生へと反対に語ったほうがいい。時は逆行して老人は若くなり、壮年時代、少年時代を経て幼児になり胎児となる。
A: 本エピソードの主人公はイルランダ、精神科医、今は症状が軽い患者のセラピーをしている。今日は生きてれば99歳になる父親の誕生日、母親が娘や知人を自宅に招いて食事会が行われる。しかし招待客のなかにイルランダのロベルト・ソサ扮する元夫ファクンドがいたことで不穏な空気になる。彼は『ペドロ・パラモ』で神父役を演じていた。

(かつての姑の信頼を受けているファクンド役、監督とのツーショット)
B: ファクンドが犯した罪の数々が暴露され、さらにイルランダと二人の妹との軋轢やら母親の一方的な非難など、彼女の家族の禁忌の過去に遡って行く過程で食事会は台無しになる。
A: 知的で成功した人々が冷静さを失う可能性が語られるわけですが、一番強烈なのは、愛されていたと思っていた父親が、実は「必死で愛しているフリをしていた」だけ、今日イルランダを招いたのも「慈悲の心から」という母親の言葉でしょう。

(頭がよい努力家、誰からも愛されないイルランダ)
B: 上から目線に苛立つのは分かるとして、「生意気で横柄、傲慢で自分勝手、親切心などかけらもない」などと責め立て、「結婚前からアルコール依存症だった」と追い打ちをかける。まるでファクンドの裏切りの責任が、あたかもイルランダだけにあると断罪する。母親が娘に対してこれほど残酷になれるものかと驚く。

(妹ガリシア、イルランダ、妹イタリア、母親)
A: 母や妹ガリシアの怒りの対象はイルランダ個人でないように感じますね。メキシコに根を下ろした人種差別、女性蔑視、同じ姉妹でも「勉強のできた」イルランダだけが大学教育を受けられたことへの不満、家族のお蔭で医者になれたのに偉そうに自分たちを見下している高慢さ、白人でない彼女たちの屈辱感や恨みは、対象が大きすぎるために社会ではなく身近な個人に向かっていく。
B: 自分たちが心のなかに溜めこんだ不満の捌け口を誤っている。いずれメキシコにはびこるマチスモやレイシズムは最終エピソードで語られることになる。
A: 家族の過剰な期待は、時として敵となりえます。重要なセリフが凝縮されている章でもあり、衝撃的な結末にやりきれないが、こんな復讐の仕方でよかったのでしょうか。私たちは「光のない暗闇で生きている」から、普通の人でも「悲しみや怒りを強く持つ人」にはセラピーは救いになる。それに「セラピーは自己発見に役立つ」と、イルランダは先ほど語っていたではないか。
B: 彼女は社会的弱者とはいえないが、6人のなかで唯一のメスティーソの女性です。前作ではオリーブ農園の家事を一手に引き受けて、農園主だけでなく家族全員の信頼を受けている役柄を好演していた。
第5話『響きと怒り』支配されることへの恐怖
A: タイトルはウィリアム・フォークナーの人生の虚無を描いた『響きと怒り』、シェイクスピアの戯曲『マクベス』にある彼の独白「愚か者の話は〈騒々しさと激しさ〉はなはだしく、他愛のないことです」から採られている。
B: ナタリア・ソリアン扮するレナタの妹ソレダードは女優で、今日はポスト・スタニスラフスキーのワークショップに参加している。演技指導者マルティナを演じたのは、ナタリア・プラセンシアです。

(舞台女優に扮したナタリア・ソリアン、フレームから)
A: 二人とも前作に続いての出演、ソリアンは妊婦の三女、プラセンシアはその恋人役でした。もう一人重要な登場人物が、飛び入り参加という設定のフェルナンド・カットリ演ずるバレンティン、彼はモニ・ヤキム*に師事していたという聾啞者の俳優役を演じた。
B: ワークショップは「異質な人はいない」の唱和で始まる。マルティナは「舞台芸術の重要な要素は、予測していなかった事態への素直な反応」だと語る。
A: マルティナはソレダードとバレンティンに即興の仮面劇を演じさせる。二人は反対の性別で演技するが、ソレダードはバレンティンに組み伏せられレイプされる演技に怒って途中で演技を投げ出してしまう。なぜ投げ出したか、ソレダードはそれは「恐怖だ」と応じる。どういう恐怖か、それは「制御を失うこと」だ、制御を失うと、「支配されるのを好きになる」からである。
B: マルティナは彼女が「騒ぎすぎ」で「何かに縛られている」と分析していたが、マルティナの言う予測していなかった事態にソレダードは反応できなかった。それは彼女がバレンティンに惹かれているからでしょう。

(仮面劇で男性に扮したソレダード)

(バレンティンとソレダード)
A: 植民地時代の扇子言葉が生きてるなら、女性役のバレンティンは「わたくし、恋人募集中です、あなたが気に入りました」というサインを送っている。最近ソレダードのようなタイプの女性が増えたと思います。ナタリア・ソリアンは、先述したように前作の他、『グッド・ワイフ』、主役を演じたミシェル・ガルサ・セルベラのホラー「Huesera」では、アリエル賞2023女優賞にノミネートされた。ベネチア映画祭2022でプレミアされたカルロス・アイチェルマン・カイザーの「Zapatos rojas」は、マラガ映画祭でも正式出品されました。フェルナンド・フリアス・デ・ラ・パーラのコメディ「No voy a perdirle a nadie que me crea」は、日本語の字幕なしですがNetflixで配信されています。
B: メキシコ人俳優とはタイプの違うフェルナンド・カットリは、人気急上昇中とか。
A: 彼はメキシコシティを拠点にアメリカやヨーロッパでコラボレーションをしている監督、俳優、脚本家。ミュージックビデオ「Rubio: Nacimos llorando」(23、監督)、映画出演はウンベルト・イノホサの犯罪ドラマ「Principes salvajes」(24)でデビュー、米国のTVシリーズにも出演するなど多才なアーティストのようです。
*「Zapatos rojas」の紹介記事は、コチラ⇒2023年03月14日
*モニ・ヤキム Moni Yakim は、イスラエル出身のフランス人演技指導者、1968年ジュリアード音楽院の演技部門創設メンバーの一人、50年以上〈ムーブメント〉の指導を続けている。1987年、映画『ロボコップ』シリーズでは、ピーター・ウェラー扮するサイボーグの動きを指導して、映画の成功に貢献した。ドキュメンタリー「Creating a Character: The Mori Yakim Legacy」(20)で彼の指導方法が紹介されている。有名なハリウッドスターが指導を受けている。
第6話『テンペスト』内なる家父長制が語られる
B: 第6話のタイトル『テンペスト/あらし』は、シェイクスピア単独の執筆としては最後の戯曲と言われる作品。
A: 主役はフェルナンダ・カスティージョ扮するセレナ、父親の援助なしで事業を成功させている実力者。イスマエルのパートナーであるカード占い師アルバの顧客の一人、舞台は巡り巡って第1話のレナタが閉じ込められている居間に戻ってくる。

(男に頼らず成功を手にした実業家セレナ・ロペス・レナ)
B: レナタの右足首に装着されているGPS端末の経緯がやっと語られます。レナタの長い独白を「痛い」と感じた視聴者もいたはず。
A: レナタがスーパーマーケットの放火犯として逮捕された具体的な経緯が語られる。先住民差別というレイシズムが語られるわけですが、まだ「インディアン」という侮蔑語で先住民を差別する現実に視聴者は誘導される。
B: レナタは放火したことを「後悔していない」し、「差別主義者は地獄に落ちろ」と叫んでいる。本作で一番印象に残ったのは、興奮する娘を諫めるどころか「もっと激しく、燃やすべきだった」というイスマエルのセリフでした。彼には監督が投影されていると思う。
A: レナタとセレナは同じ「嘘と偽りに満ちた」クソのような金融業界で働いている。シカゴの大学で博士号を取ったセレナは、バックアップなしでリスク管理の仲介会社を起ち上げた。「忙しくしていないと落ち着かない」という強迫観念に駆られており、イスマエルが祖父母から受け継いだヴィンテージ感のある家を法外の値段で購入したい。そうやって「忙しくしているのが好きだから」である。
B: 思い通りの結果が出るまでアルバに3回もカードをきらせる。お金も知性もあるが、それだけでは人生の意味は分からない。
A: レナタの指摘通りセレナは自分が「内なる家父長制」に無意識に縛られていることを認めている。老境の入口に立って文無しになっているイスマエルも、アルバの経済的な支えは拒否している。本作は男に頼らず生きようとして傷つく女たちの物語ですが、自分に残された時間の少なさに立ちすくむ男の物語でもあります。

(自分たちの「内なる家父長制は許せない」セレナとレナタ)
B: 寝室が6部屋、5ヵ所のシャワールームは今や無用の長物、イスマエルはやり残したことの多さに愕然としている。70歳はもう目の前、監督も前作のダニエル・ヒメネス=カチョ扮するオリーブ農園主も同世代です。
A: 何世紀も続いた家父長制は手強い、私たちも内なる家父長制に無意識に縛られていることを認めざるをえません。さてセレナを演じたフェルナンダ・カスティージョ紹介、1982年メキシコシティ生れ、TVシリーズ出演で知名度高く、ファビアン・コレスの「Encontrando el Fin del Mundo」やラファエル・モンテロの「Rumbos paralelos」、Netflix配信中のサルバドル・エスピノサのコメディ、出番は少ないが『僕と、パパと、ホントのパパを見つけるまで』(原題「Lo mejor del mundo」)などに出演している。
セクション・オフィシアル(イベロアメリカ映画)*マラガ映画祭2025 ⑤ ― 2025年03月23日 21:20
チリのビンコ・トミシックの「El ladrón de perros」が金のビスナガ受賞
★作品紹介が終わらないうちに受賞作が発表になってしまいました。作品賞「金のビスナガ」は、イベロアメリカ映画賞がビンコ・トミシックの単独監督デビュー作「El ladrón de perros」、スペイン映画賞はエバ・リベルタードの「Sorda」、本作は観客賞もゲットしました。他、ベレン・フネスの「Los tortuga」が銀のビスナガ審査員特別賞と脚本賞、ヘラルド・オムスの「Molt lluny」が銀のビスナガ批評家審査員特別賞を受賞しました。全受賞作は授賞式を含めて後日アップ予定。
*セクション・オフィシアル(イベロアメリカ映画)*
1)「Culpable cero」アルゼンチン=スペイン、2024年、110分、コメディドラマ
監督:ヴァレリア・ベルトゥチェリ(ブエノスアイレスのサンニコラス1969、長編2作目)、舞台女優としてスタートを切る。TVや映画に出演、2018年「La reina del miedo」で監督デビュー、サンダンス映画祭女優賞を受賞する。モラ・エリサルデ(デビュー作)、ブエノスアイレス大学で映像&音響デザインを専攻卒業する。2012年広告編集者としてキャリアを切り、TVシリーズの編集(「Morko y Mali」)やビデオクリップを制作する。2018年、宣伝広告と並行して映画プロジェクトの監督や脚本も手掛けている。
*ベルトゥチェリ監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2018年04月10日
脚本:ヴァレリア・ベルトゥチェリ、モラ・エリサルデ、マレナ・ピチョト
製作:Pampa Films / Gloriamundi Producciones
キャスト:ヴァレリア・ベルトゥチェリ(ベルタ・ミュラー)、セシリア・ロス(カローラ)、ユスティナ・ブストス(マルタ)、ガイア・ガリバルディ(オリビア)、マルティン・ガラバル(ラミロ)、メイ・スカポラ(グレース)、マラ・ベステッリ(サンドラ)、ルシア・マシエル(グアダ)他

(左からヴァレリア・ベルトゥチェリ、モラ・エリサルデ、2025年03月18日)

2)「El diablo en el camino」メキシコ=フランス、2024年、108分
監督・脚本:カルロス・アルメリャ(メキシコシティ、長編3作目)、イギリスの映画学校(CCC)とロンドン映画学校で学ぶ。短編「Tierra y pan」がベネチア映画祭2008短編部門の金獅子賞を受賞、そのほか受賞歴多数。ドキュメンタリー「Toro negro」は共同監督だが、サンセバスチャン映画祭2005でオリソンテス賞、ハバナ映画祭サンゴ賞を受賞、モレリア映画祭でも上映された。長編デビュー作「En la estancia」(15)はロッテルダム映画祭でプレミアされ、グラマドやサンディエゴなど国際映画祭で受賞している。2作目「Animo juventud !」(20)はモレリアFF、釜山青少年映画祭にノミネートされた。TVシリーズ多数。
製作:CIMA / B Positivo Producciones / Tita B Producciones / Zensky Cine /The42Films 他
キャスト:ルイス・アルベルティ(フアン)、マイラ・バタジャ(イサベル)、アケツァリー・ベラステギ Aketzaly Verastegui、リカルド・ウスカンガ、オスワルド・サンチェス、ロベルト・オロペサ、他


3)「El ladrón de perros / The Dog Thief」ボリビア=チリ=メキシコ=仏=伊、2024年、
90分、トライベッカ映画祭2024上映
監督・脚本:ビンコ・トミシック・サリナス(サンティアゴ・デ・チリ1987、長編単独デビュー作)、監督、脚本家、製作者。2014年、制作会社 Calamar Cine を設立。フランシスコ・エビアとの共同監督作品「El fumigador」(16)が、PÖFFタリン・ブラックナイツでプレミア上映され、SANFIC 2016 でナショナルフィルム賞を受賞した。カンヌ映画祭シネフォンダシオンとベネチア・ビエンナーレ・カレッジ・シネマ・プログラムで企画された。マラガ映画祭2025イベロアメリカ映画賞金のビスナガ受賞。
製作:Color Monster / Zafiro Cinema / Calamar Cine
キャスト:アルフレッド・カストロ(セニョール・ノボア)、フランクリン・アロ(マルティン)、テレサ・ルイス(セニョリータ・アンドレア)、マリア・ルケ(グラディス)、フリオ・セサル・アルタミラノ(ソンブラス)、ニノン・ダバロス(セニョーラ・アンブロシア)


4)「Nunca fui a Disney」アルゼンチン、2024年、74分
監督:マティルデ・トゥテ・ヴィサニ(ブエノスアイレス1989、デビュー作)、ブエノスアイレス大学の映像&音響デザイナーとしての学位を得る。監督、脚本家、フィルム編集者。2017年「Rosa」で短編デビュー、長編第1作である「Nunca fui a Disney」は第25回BAFICI(ブエノスアイレス国際インディペンデントFF)で監督賞を受賞している。第2作の準備中。
脚本:マティルデ・トゥテ・ヴィサニ、アグスティナ・マルケス・メルリン
キャスト:ルシア・マルティネス・ラグ(ルシア)、アレハンドラ・ボルヘス、アルマ・フロレス、フランシスコ・アンテロ、ヘレミアス・サラテ、ルシアナ・ロメロ、ヤミラ・アスクアガ


5)「Perros」ウルグアイ=アルゼンチン、2025年、102分
監督・脚本:ヘラルド・ミヌッティ(デビュー作)、社会コミュニケーションを専攻、10年間ジャーナリストだった。2013年ウルグアイ文化教育省の奨学金を得て映画を学んでいる。短編「Hogar」(18)は、ビアリッツ・ラテンアメリカ映画祭で審査員特別メンションを受賞、グアダラハラ映画祭コンペティション部門にノミネートされている。長編デビュー作は、
製作:Cinevinay / Cimarrón(The Mediapro Studio)
キャスト:ネストル・グツィーニ、マルセロ・スビオット、マリア・エレナ・ぺレス、ノエリア・カンポ、ロベルト・スアレス、カタリナ・アリジャガ、マヌエル・タテ、ソレダード・ペラヨ


6)「Sugar Island」ドミニカ共和国=スペイン、2024年、90分、ドキュメンタリー
テッサロニキ映画祭2024 WIFT 賞、ベネチア映画祭ヤング審査員賞ほか受賞、
マラガ映画祭2025銀のビスナガ撮影賞(アルバン・プラド)受賞
監督:ジョアンヌ(ヨハンヌ)・ゴメス・テレロ(ドミニカ共和国1985、ドキュメンタリー3作目)、ドキュメンタリー監督、脚本家、製作者、キューバの国際映画テレビ学校 EICTV の講座のコーディネーター。カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACで映画配給修士課程卒業。短編ドキュメンタリー「Bajo las carpas」(14、52分)で監督デビュー、2016年「Caribbean Fantasy」を発表している。
脚本:ジョアンヌ・ゴメス・テレロ、マリア・アベニア
製作:Tinglado Film / Guasábara Cine
キャスト:イェリダ・ディアス Yelida Diaz、フランシス・クルス、フアン・マリア・アルモンテ、ルス・エメテリオ、ヘネシス・ピニェイロ、ディオゲネス・メディナ


7)「Violentas mariposas」メキシコ、2024年、101分、モレリア映画祭2024、
メキシコ公開2024年10月
監督・脚本:アドルフォ・ダビラ(長編デビュー作)、監督、脚本家、製作者、メキシコシティのメトロポリタン自治大学 UAM でデザインを専攻した後、フルブライト奨学金を得て、ワシントンのアメリカン大学で映画を学び、ニューメキシコのサンタフェにある人類学フィルムセンターでも学んでいるなど多才。広告映画、ドキュメンタリー、ミュージックビデオ、短編5作を撮っており、現在長編2作目が進行中。
製作:Neural / Mandarina Cine
キャスト:ディアナ・ラウラ DI(エバ)、アレハンドロ・ポーター(ビクトル)、ノルマ・パブロ(テレ)、ソフィー・アレクサンダー・カッツ(ロラ)、ジェルマン・ブラッコ(マテオ)、レオナルド・アロンソ(ラウル)、フアン・ルイス・メディナ(ムニェコ)、ヤヨ・ビジェガス(レオン)、他


ロドリゴ・プリエトの『ペドロ・パラモ』④*キャスト紹介 ― 2024年12月04日 13:09
PG13では撮れなかった『ペドロ・パラモ』

★メキシコで『ペドロ・パラモ』を読むのは大体高校生から、早い子供で中学生くらいから手にする。ネットフリックスからプリエト監督にオファーがきたときは「PG13」だった(担当者は原作を読んでいない?)。それでは殺人、近親相姦、ヌードは撮れない。R指定を条件に引き受けたと監督。こうしてスサナ・サン・フアンを演じたイルセ・サラスのヌードが可能になったようです。
★ハリスコ州の架空の田舎町コマラを舞台に、20世紀初頭に起きたメキシコ革命とクリステロ反乱を時代背景にした『ペドロ・パラモ』のキャスト・プロフィール、並びに各登場人物の立ち位置を含めてアップします。映画では採用されなかった語り手の重要なモノローグ、コマラは「去る人には上り坂、来る人には下り坂」(断片1)の町、閉じ込められてもがく人、不幸を予感しながら再び戻る人も描かれる。
マヌエル・ガルシア=ルルフォ(ペドロ・パラモ役)
1981年グアダラハラ生れ。初期にはアメリカ映画出演が多いので、ネットフリックス配信を含めると字幕入りで鑑賞できる作品多数。黒澤明の『七人の侍』他のリメイク版『マグニフィセント・セブン』(米、16)、ケネス・ブラナーの『オリエント急行殺人事件』(17)、トム・ハンクスと共演した『オットーという男』(21)、『スイートガール』(21)、最近公開されたカルロス・サウラの『情熱の王国』(西=メキシコ合作、21)で演出家マヌエルを主演、メキシコのマノロ・カーロの『巣窟の祭典』(24)と本作でも主演している。
★ペドロ・パラモ:コマラの繁栄と没落を象徴する権力者にして渇望と絶望の語り手、男性性の賛美、言葉による妻への暴力、家父長制主義の加害者にして犠牲者。荒んだペドロの唯一の救いだったスサナ・サン・フアンへの不毛の愛、彼はスサナを迎え入れるために絶大な権力を求めるが、彼女がどういう世界に住んでいたかを永遠に理解できない不幸な孤独者。ペドロはギリシャ語の pétros「石」より派生、パラモは「荒地」を意味する。

(ペドロ・パラモ役のマヌエル・ガルシア=ルルフォ)
テノッチ・ウエルタ・メヒア(フアン・プレシアド役、ペドロの息子)
1981年メヒコ州エカテペック生れ、ガエル・ガルシア・ベルナルの『太陽のかけら』(07)、キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』(09)、エベラルド・ゴウト『クライム・シティ』(11)に主演、エドゥビヘス役のドロレス・エレディアと共演、スペインのマヌエル・マルティン・クエンカの『小説家として』(17)、ベルナルド・アレジャノのホラー『闇に住むもの』(20)、ライアン・サラゴサのホラ―『マードレス、闇に潜む声』(21,米)、再びゴウトに起用されサスペンス・ホラー『フォーエバー・パージ』(21)、ライアン・クーグラーの『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(22)ではタロカン帝国の王に扮した。公開こそされなかったが、東京国際映画祭2014で上映されたアロンソ・ルイスパラシオスのデビュー作『グエロス』に主演、監督夫人であるイルセ・サラスと共演している。本作では出会うことはなかったが父親役のマヌエル・ガルシア=ルルフォと同じ年に生まれている。かつて交際していたマリア・エレナ・リオスへの性的暴行疑惑という残念なニュースも浮上している。
*『グエロス』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月03日
★フアン・プレシアド:前半の主な語り手、ペドロとドロリータスの息子、赤ん坊のときメディア・ルナを母親と去り、母との約束により父親から略奪された財産の代償を求めるという希望をもって、下るべきでない坂を下りて来る。やがてフアンは、権力と富への渇望が痛みと絶望の遺産を残した父親の正体に近づいていく。幻視と幻聴に悩まされ死者と交流するうち、自分が生きてるのか死んでるのか分からず、やがて絶望に至る。彼の罪は幻を求めて故郷を離れて坂を下ったことである。

(フアン・プレシアド役のテノッチ・ウエルタ)
ドロレス・エレディア(エドゥビヘス・ディアダ)
1966年、バハ・カリフォルニア・スル州の州都ラパス生れ、UNAMで演劇を学んだ本格派、1990年デビューしている。アレハンドロ・スプリンガル「Santitos」で、アミアンFF1999、カルタヘナFF2000の女優賞を受賞、カルロス・キュアロン『ルド and クルシ』(08)でルド&クルシ兄弟の母親役を演じた。ロドリゴ・プラがキルケゴールの日記にインスパイアされた「Decierto adentro」(仮訳「内なる砂漠」)でグアダラハラFF2008で主演女優賞を受賞した。クリス・ワイツ『明日を継ぐために』(11)、テノッチ・ウエルタと共演した『クライム・シティ』、エイドリアン・グランバーグの『キック・オーバー』(11)、カール・フランクリン『ウルティマ、ぼくに大地の教えを』(13)、ラシッド・ブシャールの『贖罪の街』(14)はフランス映画『暗黒街の二人』のリメイク版、アレハンドラ・マルケス・アベジャ『虚栄の果て』(22)、GGベルナルの監督2作めシリアスコメディ「Chicuarotes」(19)などTVシリーズ出演も含めて国際的に活躍している。ネット配信中の作品もあるが、受賞歴のある作品は見られない。
*「Chicuarotes」の作品紹介は、コチラ⇒2019年05月13日
★エドゥビヘス・ディアダ:コマラで売春宿を兼ねたバルを営んでいた女性、フアンの母ドロリータスの親友。パラモ家の管理人フルゴルに部屋の鍵を渡したことで、図らずも殺人に手を貸してしまう。神の許しを得るために善行を積んだが、耐えきれなくて自ら命をたつ。姉マリアが死後の救済をレンテリア神父に頼むが拒まれ、まだ此の世をさまよって死者と交流する。

(エドゥビヘス役のドロレス・エレディア)
イルセ・サラス(スサナ・サン・フアン)
1981年メキシコシティ生れ、映画、TV 、舞台女優。国立演劇学校で演技を学ぶ。夫のアロンソ・ルイスパラシオスの『グエロス』でテノッチ・ウエルタと共演、アレハンドラ・マルケス・アベジャの『グッド・ワイフ』に主演、既にキャリア紹介をしています。
*『グッド・ワイフ』での紹介記事は、コチラ⇒2019年04月14日
★スサナ・サン・フアン:ペドロのこども時代からの憧れの人であり、彼が愛した唯一人の女性。肺結核を患っていた母親の死後、父バルトロメ・サン・フアンとコマラを去る。革命前夜、母親の葬儀に誰一人として弔問に訪れなかった大嫌いなコマラに戻ってくる。父親との理不尽な性的関係で死後の救済を諦めている。神父も父も共に「パードレ」、パードレはスサナにとって権力者の象徴である。父とのトラウマ克服のため狂気の世界に逃げ込んでフロレンシオという謎の夫をつくりだしている。トラウマによる想像が記憶となっている。フアンの墓の近くに埋葬されており、二人は死後の世界で繋がっている。

(狂気の世界に安住を求めるスサナ・サン・フアン)
エクトル・コツィファキス(フルゴル・セダノ、パラモ家の管理人)
1971年コアウイラ州トレオン生れ、映画、TV ,舞台俳優。UNAMの演劇学校であるCUT(大学演劇センター、1962年設立)で学ぶ(1996~2000)。TVシリーズ出演が多いが、主な代表作はルイス・エストラダの『メキシコ 地獄の抗争』(10)、ダビ・ミチャンのアクションドラマ「Reacciones adversas」(11)で主演、ディエゴ・コーエンのホラー「Luna de miel」(15)で主演、ベト・ゴメスのコメディ「Me gusta, pero me asusta」(17)と「Bendita Suegra」(23)、ナッシュ・エドガートンのダークコメディ『グリンゴ最強の悪運男』(18)、アレハンドロ・イダルゴのホラー「El exorcismo de Dios」とアクション、ホラー、コメディとこなす。TVシリーズ『ナルコス メキシコ編』に出演している。
★フルゴル・セダノ:先代ルカス・パラモ以来の未婚の管理人、ペドロに代替わりしたとき54歳と年齢が分かる悪徳管理人。借金地獄のペドロを大地主にした立役者。彼の視点は重みがある。ペドロの指示によって不動産鑑定士トリビオ・アルドルテをエドゥビヘスの店で縛り首にして殺害する。しかしペドロの土地を貰いに来たという革命軍のリーダーにあっさり射殺される。ペドロからは「役に立つ男だったが、もう老いぼれの用なし」と一顧だにされなかった。

(フルゴル・セダノ役のエクトル・コツィファキス)
ロベルト・ソサ(レンテリア神父役)
1970年メキシコシティ生れ、俳優、TVシリーズのを監督を手掛けている。1976年に子役としてスタートを切り、TVシリーズ、短編含めると166作に出演。代表作は、セバスティアン・デル・アモのヒット作、ガリシア生れながらキューバに渡り、後にメキシコにやって来てB級映画の巨匠になるフアン・オロルの伝記映画「El fantástico mundo de Juan Orol」に主役を演じ、アリエル賞2013主演男優賞、ACE賞2014主演男優賞、ドン・ルイス映画祭2013男優賞などを受賞、アレックス・コックスの「El patrullero」(日本との合作、『PNDCエル・パトレイロ』1993公開)でサンセバスチャン映画祭1992男優賞、フランシスコ・アティエの「Lolo」でシカゴ映画祭1993男優賞、他受賞歴多数。
★レンテリア神父:コマラの町の唯一人の神父。神父としての誓いを果たせるという希望をもっていたが、ペドロの金貨に負けて彼の愚息ミゲルに祝福を与えてしまう。反対に自死したエドゥビヘスには与えない。父親をミゲルに殺されたうえ、レイプされた姪と暮らしている。クリステロ内戦では反乱軍に身を投じる。本作はメキシコにおける来世に関する一連の信仰を探求しており、彼のモノローグは重要である。

(レンテリア神父役のロベルト・ソサ)
マイラ・バタジャ(ダミアナ・シスネロス役)
1990年メキシコシティ生れ、女優、短編だが脚本を執筆している。2021年タティアナ・ウエソのデビュー作、もらえる賞をすべて制覇したという問題作「Noche de fuego」で、アリエル賞2022助演女優賞、ソニア・セバスティアンの短編「Above the Desert with No Name」(23、17分)で、ロスアンゼルス映画賞2024女優賞を受賞している。TVシリーズのダークコメディ「El Mantequilla」(23,8話)では女刑事に扮する。これからが楽しみな女優の一人。
*「Noche de fuego」の作品紹介は、コチラ⇒2021年08月19日
★ダミアナ・シスネロス:メディア・ルナのパラモ家の女中頭、赤ん坊のフアン・プレシアドを一時育てていた。コマラに戻って来たフアンをメディア・ルナから迎えに来る。ペドロをあの世に招き入れる女性でもある。原作と映画の違いの一つは、原作に登場するサン・フアン家の女中、フスティナ・ディアスを省いていることです。彼女は父娘とずっと行を共にしていて、スサナの育ての親でもあった。メディア・ルナで狂気のスサナを介護していたのは、映画のようにダミアナでなくフスティナである。ジャンルが違うのですから、この程度の変更は問題ありませんが、二人は同じ女中でも本質が異なる。フスティナも幻聴に怯えているが、ダミアナのように生死の境を超えられるわけではない。

(ダミアナ・シスネロス役のマイラ・バタジャ)
ジョバンナ・サカリアス(ドロテア〈ラ・クアラカ〉)
1976年メキシコシティ生れ、女優、監督。19歳のときクラシックバレエを止め演劇を学び始め、舞台女優としてスタートする。2001年ハイメ・ウンベルト・エルモシージョの「Escrito en el cuerpo de la noche」で映画デビュー。代表作は、2018年アレハンドロ・スプリンガルのウエスタン「Sonora」で主演、ドロレス・エレディアと共演、揃ってアリエル賞にノミネートされた。マーティン・キャンベルの『レジェンド・オブ・ゾロ』(25)でバンデラスと共演、ウォルター・サレスの『オン・ザ・ロード』(12)、ブレッド・ドノフー他「Salvation」でロスアンゼルス映画祭2013の女優賞を受賞している。監督作品としては、2015年コメディ「Ramona」(10分)でアリエル賞2013短編賞、2020年長編デビュー作「Escuela para Seductores」がある。
★ドロテア〈ラ・クアラカ〉:コマラにたどり着いたフアンにエドゥビヘスの店を教える語り手。産んでもいない赤ん坊を探してコマラをうろついている。神父は天国の門は閉じられているが、主は許されると諭す。教会の広場で倒れていたフアン・プレシアドを葬り、自分も一緒の墓に眠っており、フアンの語りを聞く。施し物欲しさにミゲル・パラモに売春斡旋をしていた罪人、ミゲル亡き後、神父に懺悔する。

(ドロテア役のジョバンナ・サカリアス)
イシュベル・バウティスタ(ドロレス・プレシアド)
1994年メキシコシティ生れ、ベラクルサナ大学演劇学部卒、国立美術館演技賞受賞、2018年バニ・コシュヌーディの「Luciernagas」で映画デビュー、2023年ルイス・アレハンドロ・レムスの「El sapo de cristal」でノエ・エルナンデスと共演、TVシリーズでは征服者エルナン・コルテスを主人公にした歴史時代劇「Hernan」(8話、19)にマリンチェ役で出演している。
★ドロレス・プレシアド、ドロリータス:メディア・ルナの女あるじ、ペドロの最初の妻、フアンの母親。借金を帳消しにするためのペドロの求婚を愛と錯覚して全財産を失う。夫の言葉によるDVに耐えかね、コリマにいる姉を頼ってコマラを去り、再び戻ることができなかった。露の滴る緑豊かなコマラを息子に言い残して失意のうちに旅立つ。

(ドロリータス役のイシュベル・バウティスタ)
ノエ・エルナンデス(アブンディオ・マルティネス、ペドロの息子)
1969年イダルゴ生れ、アリエル賞主演男優賞を4回受賞するなど受賞歴多数。ホルヘ・ペレス・ソラノの「La tirisia」(14)、ガブリエル・リプスタインの『600マイルズ』(15)、セルヒオ・ウマンスキー・ブレナーの「Eight Out of Ten」(18)、2020年に製作されたヘラルド・ナランホの「Kokoloko」が大分遅れて今年受賞した他、トライベッカ映画祭2020主演男優賞も受賞している。2018年グアダラハラ映画祭のメスカル賞を受賞している。脇役だが東京国際映画祭2015で上映されたロドリゴ・プラの『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』、ラテンビートFF2011で上映されたヘラルド・ナランホの『MISS BALA/銃弾』に出演している。父親ペドロを演じたマヌエル・ガルシア=ルルフォより一回りも年上ということもあって、個人的にはキャスティングに違和感があった。
★アブンディオ・マルティネス:ペドロが認知しない大勢の私生児の一人、ロバ追いを生業とする。フアンをコマラに案内する。主な出番は最初と最後に現れるだけと少ないが、父親を殺害する重要人物、事故で耳が不自由になる設定は何を意味するか。アブンディオの造形は、短編集『燃える平原』収録の「コマドレス坂」のレミヒオ・トリコ殺しの語り手を彷彿とさせ、彼の原型は短編にある。

(アブンディオ・マルティネス役のノエ・エルナンデス右)
サンティアゴ・コロレス(ミゲル・パラモ)
TVシリーズ、チャバ・カルタスの「El gallo de oro」(23~24、20話)レミヒオ役で18話に出演。本作で映画デビューを果たした。
★ミゲル・パラモ:ペドロが気まぐれで認知した息子、母親はお産で亡くなる。愛馬コロラドに振り落とされて17歳で死去。レンテリア神父の兄弟を殺害、レイプ魔と父親の悪の部分を受け継いだ愚息。

(マルガリータ、ダミアナ・シスネロス、ミゲル・パラモ)
★その他、スサナの父親バルトロメ・サン・フアン役のアリ・ブリックマン(チアパス州1975)は俳優、作曲家、代表作はマリアナ・チェニーリョのコメディ「Todo lo invisible」(20)で、主演、音楽、脚本も監督と共同執筆している。同監督のヒット作「Cinco dias sin Nora」にも出演、本作はアリエル賞2010作品賞以下を独占した。フアンの死の恐怖がつくりだした幻覚と思われるドニスの妹役のヨシラ・エスカルレガ(1995)は、アマゾンプライムで配信が開始されたばかりの『戦慄ダイアリー 屋根裏の秘密』に出演している。ペドロの祖母を演じたフリエタ・エグロラは、娘ナタリア・ベリスタインが監督した『ざわめき』(22)に主演している。ネットフリックスで配信されている。古くはアルトゥーロ・リプスタインの『深紅の愛』に出演している。

(穴だけの母親の写真を見つめるフアン・プレシアド)

(コマラを去るサン・フアン父娘を見送るペドロ・パラモ)

(エドゥビヘスに初夜の務めを頼むドロリータス)

(レンテリア神父にミゲルの許しを金貨で支払うペドロ)

(レンテリア神父の姪アナ)

(スサナのメディア・ルナ到着を待つペドロとダミアナ)

(スサナとレンテリア神父)
ロドリゴ・プリエトの『ペドロ・パラモ』③*監督&スタッフ紹介 ― 2024年11月26日 16:09
『ペドロ・パラモ』で監督デビューしたロドリゴ・プリエト

(Deadline のインタビューを受けるプリエト監督、2024年11月24日)
★ロドリゴ・プリエトといえば、一般的にはマーティン・スコセッシの『沈黙―サイレンス』(16)、『アイリッシュマン』(19)、最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(23)、アン・リーの『ブロークバック・マウンテン』(05)、ベネチア映画祭2007の金のオゼッラ賞受賞作『ラスト・コーション』、ベン・アフラックの『アルゴ』(12)、グレタ・ガーウィグの『バービー』とアメリカ映画の撮影監督として知られています。上記のデッドラインのインタビューで、『バービー』と『キラーズ~』の撮影の合間を縫って『ペドロ・パラモ』を何回も読み返し推敲したと語りました。

(『沈黙―サイレンス』撮影中のマーティン・スコセッシと)
★しかしスペイン語映画ファンとしては、もうアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥのデビュー作『アモーレス・ぺロス』に尽きます。2000年、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」で鮮烈デビュー、作品賞を受賞した。第1話に主演したガエル・ガルシア・ベルナルは、メディアのインタビュー攻めに「天地がひっくり返った」と語ったのでした。その後の快進撃は以下のフィルモグラフィーの通りです。2009年、ペドロ・アルモドバルの『抱擁のかけら』でタッグを組み、アルモドバル嫌いからは「どこを褒めたらいいか分からない」と酷評されましたが、プリエトの映像美は高い評価を受け、スペインのシネマ・ライターズ・サークル賞を受賞した。

(『BIUTIFULビューティフル』撮影中のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと)
★キャリア紹介:1965年メキシコシティ生れ、撮影監督、映画監督。国籍はメキシコと米国、ロサンゼルス在住。祖父はサンルイス・ポトシ市長、メキシコシティ知事、下院議長を務めた政治家、政治的対立で迫害されテキサスに亡命、後ロサンゼルスに移る。父はニューヨークで航空工学を専攻、結婚後メキシコに戻りロドリゴが誕生した。彼は1975年設立された国立機関の映画養成センターCCC(Centro de Capacitación Cinematográfica)で学んでいる。2021年ヴィルチェク財団が選考するヴィルチェク映画賞を受賞、2023年にはモレリア映画祭の審査員を務めている。監督として、2013年、製作国米国の短編「Likeness」(9分、英語)をトライベッカ映画祭に正式出品、2019年には「R&R」(6分、米、英語)を撮っている。『ペドロ・パラモ』で長編監督デビューした。

(金のオゼッラ賞を受賞した『ラスト、コーション』撮影中のアン・リーと)
★フィルモグラフィー(本邦公開作品、短編、TVシリーズ、ミュージックビデオは割愛)
1991「El jugador」メキシコ、デビュー作、監督ホアキン・ビスナー
1996「Sobrenatural」メキシコ、監督ダニエル・グルーナー、1997年アリエル賞初受賞
1996『コロンビアのオイディプス』(「Oedipo alcalde」邦題はキューバFF2009による)
コロンビア・スペイン合作、監督ホルヘ・アリ・トリアナ
*作品紹介記事は、コチラ⇒2014年04月27日
1998「Un embrujo」メキシコ、監督カルロス・カレラ、
1999年アリエル賞、サンセバスチャンFF受賞
2000『アモーレス・ぺロス』メキシコ、監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
2001年アリエル賞、ゴールデン・フロッグ賞受賞
2001『ポワゾン』米国、監督マイケル・クリストファー
2002『8 Mile』ミュージカル、米国・独、監督カーティス・ハンソン
2002『25時』米国、監督スパイク・リー
2002『フリーダ』米国・カナダ合作、監督ジュリー・テイモア
2002『彼女の恋から分かること』米国、監督ロドリゴ・ガルシア
2003『21グラム』米国、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
2004『アレキサンダー』米国、監督オリバー・ストーン
2005『ブロークバック・マウンテン』米国、監督アン・リー、アカデミー賞ノミネート
シカゴFF、ダラス・フォートワースFF、フロリダFF、各映画批評家協会賞受賞
2006『バベル』米国、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、
2007『ラスト、コーション』米国、監督アン・リー、ベネチアFF金のオゼッラ賞受賞
2009『抱擁のかけら』スペイン、監督ペドロ・アルモドバル、
シネマ・ライターズ・サークル賞受賞
2009『消されたヘッドライン』米国、監督ケヴィン・マクドナルド
2010『BIUTIFULビューティフル』スペインとの合作、スペイン語、
監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、アリエル賞受賞
2010『ウォール・ストリート』米国、監督オリバー・ストーン
2011『恋人たちのパレード』米国、監督フランシス・ローレンス
2012『アルゴ』米国、監督ベン・アフラック
2013『ウルフ・オブ・ウォールストリート』米国、監督マーティン・スコセッシ
2014『ミッション・ワイルド』米国・フランス合作、トミー・リー・ジョーンズ
2014『夏の夜の夢』米国、監督ジュリー・テイモア
2015『沈黙-サイレンス』米国、監督マーティン・スコセッシ、アカデミー賞ノミネート
2016『パッセンジャー』SF、米国、監督モルテン・ティルドゥム
2019『アイリッシュマン』米国、監督マーティン・スコセッシ、アカデミー賞ノミネート
2020『グロリアス 世界を動かした女たち』米国、監督ジュリー・テイモア
2023『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』米国、監督マーティン・スコセッシ、
アカデミー賞ノミネート、サンディエゴFF、サンタ・バルバラFF、ダブリンFF、
各映画批評家協会賞受賞
2023『バービー』米国、監督グレタ・ガーウィグ、
ナショナル・ボード・オブ・レビュー、他多数
2024『ペドロ・パラモ』メキシコ、監督、共同撮影ニコ・アギラル
★以上、公開作品、受賞作品を中心に列挙しました。映画祭ノミネートがトータル129という驚異的な数には恐れ入ります。ノミネートはオスカー賞4作(スコセッシ3作、アン・リー1作)のみアップしました。イニャリトゥがオスカーを受賞した『バードマン~』と『レヴェナント 蘇えりし者』の撮影監督はエマニュエル・ルベッキでした。プリエトと同世代の彼はオスカー像を3個も貰っています。「賞を貰うために仕事をしているわけではない」ですけど。
★脚本を共同執筆したマテオ・ヒル・ロドリゲス Mateo Gilは、1972年カナリア諸島のラス・パルマス生れ、スペインの監督、脚本家、製作者。アレハンドロ・アメナバルのデビュー作『テシス、次に私が殺される』(96)の共同脚本家、助監督としてスタートした。長編デビュー作「Nadie conoce a nadie」(99)が東京国際映画祭2000に『ノーバディ・ノウズ・エニバディ』の邦題で正式出品され、翌年『パズル』で公開された。『アモーレス・ぺロス』が作品賞を受賞した年でした。
★2004年のアメナバルの『海を飛ぶ夢』では、監督と脚本を共同執筆、ゴヤ賞オリジナル脚本賞を受賞、さらに本作はアカデミー賞2005の外国語映画賞受賞作品でした。ネットフリックスTVシリーズ『ミダスの手先』(20、6話)のクリエーター、脚本も執筆している。
(写真下は視聴覚媒体におけるアーティストの福利厚生及びプロモーションを援助する財団AISGE のインタビューを受けたときの最新フォト)

(AISGEのインタビューを受けるマテオ・ヒル、2024年1月14日)
★かつて「ペドロ・パラモ」を監督する企画があり脚本も執筆した。しかし資金が底をついて実現に至らなかった。舞台となるコマラの町のセットも二つ必要でしたから、ネットフリックスの資金援助がなければ難しかったと思われます。その際の脚本がたたき台になったようですが、監督と脚本家もそれぞれ異なるビジョンがあり、削除したいシーン、追加したいシーンを徹底的に議論したようです。今回は脚本を手掛けているので、脚本に絞ってキャリアを紹介したい。
(短編は割愛しました)
1996『テシス、次に私が殺される』監督アレハンドロ・アメナバルとの共同執筆
1997『オープン・ユア・アイズ』同上
1999『パズル』(TIFFタイトル「ノーバディ・ノウズ・エニバディ」)監督、
脚本はフアン・ボニジャとの共同執筆
2001『バニラ・スカイ』(『オープン・ユア・アイズ』のリメイク版)
監督、脚本キャメロン・クロウ、原案アレハンドロ・アメナバル&マテオ・ヒル
2004『海を飛ぶ夢』監督アメナバル、監督との共同執筆、
ゴヤ賞2005オリジナル脚本賞受賞
2005「El método」アルゼンチン・伊・西、監督マルセロ・ピニェイロ、監督との共同執筆
ゴヤ賞2006脚色賞受賞、アルゼンチン映画アカデミー賞脚色賞受賞
2009『アレクサンドリア』監督A・アメナバル、監督との共同執筆、
ゴヤ賞2010オリジナル脚本賞受賞
2016「Realive」SF、監督&脚本マテオ・ヒル、ファンタスポルト作品賞&脚本賞受賞
2018『熱力学の法則』監督&脚本マテオ・ヒル、マイアミFF監督賞受賞、Netflix配信
2024『ペドロ・パラモ』監督ロドリゴ・プリエト
★2011『ブッチ・キャシディ―最後のガンマン―』は監督のみで、脚本はミゲル・バロスが執筆した。トライベッカFFでプレミア、トゥリア賞2012新人監督賞受賞、ゴヤ賞2012監督賞にノミネートされた。
*「El método」の紹介記事は、コチラ⇒2013年12月19日
*『熱力学の法則』の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月02日
★音楽を手掛けたグスタボ・サンタオラジャ(ブエノスアイレス1951)は、アルゼンチンのミュージシャン、『バベル』と『ブロークバック・マウンテン』でオスカー像をゲットしたほか、オンライン映画テレビ協会賞、ほかラスベガスとサンディエゴ映画批評家協会賞など受賞歴多数。『アモーレス・ぺロス』と『BIUTIFULビューティフル』ではアリエル賞、ウォルター・サレスの『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)とダミアン・シフロンの『人生スイッチ』(14)でアルゼンチン映画批評家協会賞など活躍の舞台は国際的です。
*『人生スイッチ』での紹介記事は、コチラ⇒2015年01月19日/同年07月29日

(グスタボ・サンタオラジャ)
★次回はキャスト紹介を予定しています。
ロドリゴ・プリエトの『ペドロ・パラモ』②*原作者紹介 ― 2024年11月22日 19:25
フアン・ルルフォの『ペドロ・パラモ』の映画化
★前回ロドリゴ・プリエトが監督した『ペドロ・パラモ』の鑑賞記をアップしましたが、原作者並びに監督以下のスタッフ、キャスト紹介が積み残しになっていました。原作者の詳細な紹介までしないのですが、今回は作家の人生が映画(小説は勿論)と深く関わっているのでアップすることにしました。日本語版ウイキペディアからも情報を得られますが、生まれた年に1917年と1918年の2説あることもあり、また過去に製作された『ペドロ・パラモ』、短編集『燃える平原』に収録された短編のなかから選ばれて映画化された短編映画などを紹介したい。

(ヘビースモーカーだったフアン・ネポムセノ・カルロス・ペレス・ルルフォ・ビスカイノ)
★フアン・ルルフォ Juan Nepomuceno Carlos Perez Rulfo Vizcaino、1917年5月16日(1918年説あり)、メキシコのハリスコ州のサユラ地区アプルコ生れ(1986年1月7日、メキシコシティ没)、作家、写真家、歴史家、会社員。1922年、ホセフィナ学校に入学、初等教育を受ける。翌年6月、牧場主であった父親が殺害され、母親も4年後の1927年11月に亡くなった。学校がクリステロの反乱*(1926~29)で閉鎖されたため、1927年、叔父の判断でグアダラハラのルイス・シルバ学校に入学する。1929年、母方の祖母が住んでいたサン・ガブリエルに移り一緒に暮らすことになったが、その後グアダラハラのルイス・シルバ孤児院に預けられる。両親の死、続いて起きたクリステロの恐怖を目撃するという幸せとはほど遠い少年時代を送ったことになる。
*クリステロGuerra Cristeraの反乱:1917年メキシコ憲法第130条でカトリック教会の権力制限が強化され、政教分離に基づき国家が宗教に優先することが決定される。教会や神学校の閉鎖が相次いだ。1926年6月カジェス大統領が第130条に違反した聖職者および個人に対して特定の罰則を定めた「刑法改正法」(カジェス法)に署名、同年8月にグアダラハラで暴動が発生、内戦状態になった。多くの司祭が追放並びに殺害されたが、1929年カジェスの傀儡だったエミリオ・ボルテル・ヒル臨時大統領が譲歩して、1929年、一応の終結を見た。1938年12月、ラサロ・カルデナス大統領によりカジェス法は廃止された。他国と戦った戦争ではない内戦だったので反乱とした。
★1930年、雑誌「メキシコ」に参加する。1933年、グアダラハラ大学への入学を考えていたが、大学がストライキ中であったため、メキシコシティのコレヒオ・デ・サン・イルデフォンソ(メキシコ自治大学UNAMの大学予備校)の聴講生になり、1934年から4年間、UNAMのメキシコ哲学文学部での講義に出席した。大学進学過程を終了していなかったので入学資格はなかった。
★1937年、内務省の文書係に採用され、同年詩人のエフレン・エルナンデスと親交をもち友情を築いた。後には作家フアン・ホセ・アレオラと出合い終生友情を育んだ。翌年には内務省の委託を受けてメキシコの各地を巡る視察の旅をするという幸運に恵まれた。これはその後の彼の作品に生かされることになる。1934年ころから書き始めていた短編を雑誌に発表し始め、1941年からはグアダラハラの出入国移民局に勤務し、次いで1947年から5年間、グッドリッチ・エウスカディ社の職長として働いている。ほか1962年から没するまで、メキシコシティの国立先住民協会のエディターを務めました。1944年に知り合ったクララ・アパリシオと1947年(英語版ウイキペディア1948年)に結婚、4人の子供の父親になった。因みに1964年に生まれた末子フアン・カルロス・ルルフォ・アパリシオが、後述するように映画監督として現在活躍中である。
文学的なキャリアとレガシー、写真集の出版
★作家としては、1945年から1951年にかけて雑誌「パン・イ・アメリカ」などに発表した短編15作を収録した『燃える平原』を1953年に上梓した。なかで1950年に発表された “El llano en llamas” がタイトルに選ばれ、妻クララに捧げられている。1953年から翌年にかけて、1955年に中編小説『ペドロ・パラモ』として出版されることになるオリジナル原稿を3つの異なる雑誌に発表、1つ目のタイトルは ”Una estrella junto a la runa”(仮訳「月のかたわらの星」)、2つ目は “Los murmullos”(同「ささめき」)、3つ目が小説の舞台である田舎町の名前 ”Comala” でした。しかし最終的には主人公の名前 “Pedro Páramo” で刊行されたが、真の主人公はコマラです。

(『ペドロ・パラモ』の初版表紙)
★『燃える平原』の翻訳書は、アンデスの風叢書の1冊として、1990年11月に刊行され、のち文庫化された。以下の邦題は訳者杉山晃の邦訳によった。代表作は1945年「おれたちのもらった土地」、1946年「マカリオ」、1947年「おれたちは貧しいんだ」、1948年「コマドレス坂」、1950年「タルパ」とタイトルになった「燃える平原」、1951年「殺さねえでくれ」、先述したように1953年に『燃える平原』として刊行している。最初のオリジナル版のタイトルは、”Los cuentos del tío Celerino”(仮訳「セレリノおじさんの寓話」)で15作でした。セレリノ叔父は実在の人でルルフォを旅に連れだして見聞を広めてくれた人だと後年語っている。1971年に「犬の声は聞こえんか」と「マティルデ・アルカンヘルの息子」の2編が追加され、現在の17作になった。またフレディ・シソが映画化した「殺さねえでくれ」は、メキシコ革命時代にあった実話をベースにしているということです。

(『燃える平原』の表紙)
★『燃える平原』と『ペドロ・パラモ』の2冊だけでラテンアメリカ文学を代表する作家になったわけですが、ほかに短編集に入らなかった初期の作品、語り手が女性という “Un pedazo de noche”(仮訳「夜の断片」、1980年刊 “El gallo de oro y otros relatos” に収録)などがある。さらに1956年から1958にかけて2番目となる小説 “El gallo de oro” を書いた。ガルシア・マルケスとカルロス・フエンテスが脚本を共同執筆したことで知られる、ロベルト・ガバルドンが1964年に監督した『黄金の鶏』(邦題は「メキシコ映画祭1997」による、未公開)である。映画の台本として書かれたという理由で小説と見なされなかった。

(2017年刊のソフトカバー版の表紙)
★しかしルルフォによると「印刷される前に、ある映画プロデューサーがこの小説に興味をもち、映画の台本用に脚色されたのです。この作品も以前の作品同様、そのような目的で書かれたのではありません。要するに、台本としてしか私の手に戻っこず、再構築するのは容易でなくなった」。台本として書いたのではなく、これまでと同様、小説として書いたということです。この小説は1980年まで出版されなかったが、ずさんな版だったようで、本作のほかに、短編集に選ばれなかった初期作品など14編が含まれている。スペイン語版ウイキペディアによると、2010年版で多くの誤りが訂正され、独語、伊語、仏語、ポ語への翻訳が行われた。

★写真家として、6000枚のネガを残しました。作家の死後、遺族によって設立されたルルフォ財団が所蔵しており、選ばれた一部が刊行されている。”El Mexico de Juan Rulfo” (1980)、"100 Fotografias de Juan Rulfo"(2010)など。また私たちは私たちの過去を知ることが必要であると、ハリスコ州の征服と植民地化についての書籍もあり、彼は歴史家でもあった。
映像作家を刺激し続けるルルフォの作品たち
★ルルフォの作品は、短編を含むと結構の数が映画化されている。玉石混淆ですが、以下に年代順に列挙します。映像は保証の限りではありませんが、YouTubeで見ることができるものもあります。本作『ペドロ・パラモ』も、1967年にカルロス・ベロがペドロにジョン・ギャビンを起用して撮ったモノクロ版があり、カンヌ映画祭1967のコンペティション部門に選ばれている。撮影監督がメキシコ映画黄金期を代表するガブリエル・フィゲロアで、先述のガバルドンの『黄金の鶏』も彼が手掛けている。メキシコ時代のルイス・ブニュエルと『忘れられた人々』、『ナサリン』、『砂漠のシモン』など何作もタッグを組んだ撮影監督としても有名です。


(ペドロの二人の息子の出合い、フアンとアブンディオ)


(ドロレスに求婚するようフルゴル・セダノに指示するペドロ)
★ルルフォの創作の主軸には、父親の不在と憎悪があり、背景にはメキシコ革命とクリステロの反乱の結果がある。革命によって土地所有者の権利がなくなったわけでもなく、ルルフォに限らず多くの家族の崩壊をもたらした。特別なことを何も持たない「普通の人々」を登場人物にしたルルフォの作品には、孤独が付きまとう、彼にとって書くことは苦しみであったに違いない。作家が寡作なのは、2冊ですべてを書ききったからでもあるでしょうが、この絶対的な孤独の存在も理由の一つだろうと思います。
1956年「タルパ」長編、監督、短編集『燃える平原』収録作品の脚色
1964年『黄金の鶏』(邦題メキシコFF1997による)長編、監督ロベルト・ガバルドン
1965年「La fórmula secreta」中編42分、監督ルベン・ガメス、
1980年刊の “El gallo de oro” に含まれた詩がベース
1967年「ペドロ・パラモ」監督カルロス・ベロ、カンヌFF1967正式出品
1972年「El Rincón de las Vírgenes」監督アルベルト・アイザック、
短編集収録の「アナクレト・モローネス」と「大地震の日」の脚色
1985年「殺さねえでくれ」ベネズエラ製作、監督フレディ・シソ、短編集収録作品の脚色
1986年「El imperio de la fortuna」監督アルトゥーロ・リプスタイン、
“El gallo de oro” がベース
1991年「ルビーナ」監督ルシンダ・マルティネス、短編集収録作品の脚色
1996年「Un pedazo de noche」短編30分、監督ロベルト・ロチン、初期短編の脚色
2008年「Burgatorio」(仮訳「煉獄/苦悩」)短編23分、監督ロベルト・ロチン、
短編集収録「北の渡し」、初期短編「Un pedazo de noche」、「Cleotilde」を脚色、
アリエル賞2000短編賞を受賞
2014年「マカリオ」短編24分、監督ジョエル・ナバロ、短編集収録作品の脚色
2024年『ペドロ・パラモ』監督ロドリゴ・プリエト
(以上、TVシリーズは割愛)
★映画監督になった末子フアン・カルロス・ルルフォ・アパリシオは、ドキュメンタリー映像作家として、パートナーのバレンティナ・ルダック・ナバロと二人三脚で活躍している。IMDbによると、代表作は監督が父親ルルフォを探してハリスコを旅する「Del olvido al no me acuerudo」(99)で、アリエル賞のオペラプリマ賞、編集賞ほか、モントリオールFFの初監督作品賞など多数の受賞歴がある。作家で親友だったフアン・ホセ・アレオラ、母クララなどが出演している。父親に関係する作品は本作だけのようです。2006年に撮った「En el hoyo」は、国際映画祭巡りをした話題作、アリエル賞2007のドキュメンタリー賞他、サンダンス、カルロヴィ・ヴァリ、グアダラハラ、リマ、マイアミ、各映画祭の受賞歴多数。メキシコ先住民のサンダル履きのマラソンランナーを描いた、『ロレーナ:サンダル履きのランナー』(2019、28分)が、ネットフリックスで鑑賞できる。100キロのウルトラマラソンの勝者、美しい風景と民族衣装、感動します。
★次回は監督以下、スタッフ、キャスト紹介を予定しています。
『ペドロ・パラモ』ロドリゴ・プリエトが初監督*ネットフリックスで鑑賞① ― 2024年11月17日 18:04
ペドロ・パラモの内面と外面の映像化に成功したか?

★11月6日ネットフリックス配信直前の11月3日、ラテンビート映画祭の特別企画としてヒューマントラストシネマ渋谷で1回切りのスクリーンでの上映会がもたれた。2021年夏、ネットフリックスがフアン・ルルフォの中編小説『ペドロ・パラモ』(“Pedro Páramo ” 1955年刊)の映画化を発表した。「ウソでしょ、いったい誰が監督するの?」。1年後、ロドリゴ・プリエトが本作で監督デビューすることが発表された。プロダクションデザインにエウヘニオ・カバジェロ、衣装デザインにアンナ・テラサスが担当することもアナウンスされた。どうやら本当だったらしく、ペドロ・パラモ役にマヌエル・ガルシア=ルルフォ、フアン・プレシアド役にテノッチ・ウエルタで、翌2023年5月クランクイン、8月に撮影が終了した。本当に驚きました。

(撮影中のロドリゴ・プリエト監督とペドロ役のマヌエル・ガルシア=ルルフォ)
★なお原作に言及するので、以下に翻訳書を明記しました。『ペドロ・パラモ』岩波文庫、1992年10月刊、杉山晃/増田義郎訳、管理人は第1刷を使用した。製作スタッフ、キャスト、ストーリーとデータのみアップしておきます。監督キャリア&フィルモグラフィー、原作者紹介は別途に予定しています。

『ペドロ・パラモ』(原題「Pedro Páramo」)
製作:Redrum Production / Woo Films
監督:ロドリゴ・プリエト
脚本:マテオ・ヒル、ロドリゴ・プリエト
原作:フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』(“Pedro Páramo ”)
音楽:グスタボ・サンタオラジャ
撮影:ニコ・アギラル、ロドリゴ・プリエト
編集:ソレダド・サルファテ
キャスティング:ベルナルド・ベラスコ
プロダクションデザイン:エウヘニオ・カバジェロ、カルロス・Y・ジャック
美術:エズラ・ブエンロストロ
衣装デザイン:アンナ・テラサス
製作者:sutacy Perskieペルスキー(Redrum Production)、 ラファエル・レイ(Woo Films)、フランシスコ・ラモス、Gildardo Martinez マルティネス
データ:製作国メキシコ、2024年、スペイン語、ドラマ、131分、撮影地メキシコ、期間2023年5月~8月、配給Netflix、配信開始2024年11月6日
映画祭・受賞歴:第49回トロント映画祭2024プラットフォーム部門プレミア上映
キャスト:
マヌエル・ガルシア=ルルフォ(ペドロ・パラモ)
テノッチ・ウエルタ(フアン・プレシアド、ペドロの息子)
ドロレス・エレディア(エドゥビヘス・ディアダ)
イルセ・サラス(スサナ・サン・フアン、ペドロの最後の妻)
エクトル・コツィファキス(フルゴル・セダノ、パラモ家の管理人)
マイラ・バタジャ(ダミアナ・シスネロス、メディア・ルナの女中頭)
ロベルト・ソサ(レンテリア神父)
ジョバンナ・サカリアス(ドロテア〈ラ・クアラカ〉、フアンと同じ墓に埋葬)
イシュベル・バウティスタ(ドロレス・プレシアド、ドロリータス、ペドロの妻、フアンの母)
ノエ・エルナンデス(ロバ追いのアブンディオ・マルティネス、ペドロの息子)
サンティアゴ・コロレス(ミゲル・パラモ、パブロが認知した息子)
ジルベルト・バラサ(ダマソ〈エル・ティルクアテ〉)
オラシオ・ガルシア・ロハス(ドニス)
ヨシラ・エスカルレガ(ドニスの妹)
アリ・ブリックマン(バルトロメ・サン・フアン、スサナの父親)
ガブリエラ・ヌニェス(マリア・ディアダ、エドゥビヘスの姉)
サラ・ロビラ(子供時代のスサナ・サン・フアン)
セバスティアン・ガルシア(子供時代のペドロ・パラモ)
マイラ・エルモシージョ(ペドロの母)
フリエタ・エグロラ(ペドロの祖母)
フェルナンダ・リベラ(マルガリータ、パラモ家の女中)
アナ・セレステ・モンタルボ(アナ、レンテリア神父の姪)
イリネオ・アルバレス(トリビオ・アルドレテ、不動産鑑定士、縛り首)
エドゥアルド・ウマラン(使い走り)
ほか多数
ストーリー:ペドロ・パラモという名の顔も知らない父親を探しておれはコマラにやって来た。しかしそこは、ひそかなささめきに包まれた死者ばかりの町であった。複数の生者と死者の声が錯綜しながら、切り離すことのできない死と生、存在しない死と生の境界、終わりのない死、人間の欲望、権力の乱用と腐敗、殺人、罪と贖罪、想像と記憶、メキシコ革命、繁栄と没落、ペドロ・パラモの不毛の愛、スサナ・サン・フアンを絶望から救う狂気の世界、ささめきに殺られたフアン・プレシアドの人生が円環的に語られる。 (文責:管理人)
本当の主人公「コマラ」の町のコントラストが語られる
A: 原作を読んだ人には物足りなく、小説はおろか原作者の名前も初めてという人には時系列がバラバラなので、なかには睡魔に襲われた人もいたのではないか。特に冒頭部分の語り手が頻繁に入れ替わることで時代が行ったり来たりするので、原作を読んでいても記憶が曖昧ですと戸惑います。
B: 原作は70の断片で構成されており、短いのはたったの3行、長いのは数ページに及ぶ。誰が語り手か分かるのと、誰の声なのか分かりづらいのもあるが、冒頭部分を見落とさないようにすれば、全部過去の話だと分かる仕掛けがしてある。
A: 映画を機会にこれから小説を読もうとするなら、作家は読者が迷子にならないよう工夫を施していますから、コツを掴むとついていけないほどではありません。点ではなく線と面で登場人物を可視化することをお奨めします。いわゆるペドロ・パラモ「人物相関図」というやつで、ハマります(笑)。
B:最初の語り手は、顔も知らない父親ペドロ・パラモを探しにコマラにやって来たフアン・プレシアド、「おれ」という一人称の語りで始まる。コマラに来る途中で、異母兄弟だというアブンディオというロバ追いに出遭い案内してもらえる。彼が町に着いたらエドゥビヘスの奥さんを訪ねるといいと教えてくれる。

(ペドロ・パラモの息子フアン・プレシアド役のテノッチ・ウエルタ)
A: フアンが最初に出合った人物が異母兄弟と知らされた私たちは呆気にとられる。どうやら異界に足を踏み入れてしまった。コマラは『百年の孤独』(1967刊)のマコンドと同じ架空の町です。コマラ以外に実際にある町の名の変形版もあったが、最終的には地域を限定したくなかったので Comalaにした。Comal はメキシコ料理の代表格トルティージャを焼く素焼きの薄い皿のことで、熱い火に焼かれる。ロバ追いがコマラは「地獄で火にあぶられる」ように暑い(熱い)とフアンに語っている。伊達にコマラにしたわけではない。
B: コマラに入ると、通りがかったショールを被った女にエドゥビヘスの家を教えてもらえ辿り着ける。このショールの女がドロテア、別称〈ラ・クアラカ〉です。ドロテアは産んでもいない息子を探すため寂れてしまってもコマラを去ることができない。一方フアンは母親の遺言を果たすため顔も知らない父親を探しにコマラにやってくる。二人ともこの世に存在しないものを探している。

(産んでもいない息子を抱えてコマラを彷徨うドロテア)
A: ドロテアはとても重要な登場人物です。半ばに大きな段落が用意されていて、教会の広場で野垂れ死にしていたフアンを埋葬した後、自身もこの世を去る。そういうわけで二人は一緒の墓に眠っている。私たちはフアンの語りの相手が自分たちではなくドロテアだったことに気づかされ、ショックで腰を抜かします。
B: フアンの母親ドロレス・プレシアド、愛称ドロリータスは、メディア・ルナの若い女あるじ、ペドロの財産目当ての求婚を愛と勘違いしてしまう甘やかされた女性です。そしてドロリータスの親友だったというドロレス・エレディア(1966生れ)扮するエドゥビヘスは、ドロレスより年も若く肌の色も少し白かった女性ですが、映画ではかなり年上で反対に見えた。

(エドゥビヘス役のドロレス・エレディア、ドロリータス役のイシュベル・バウティスタ、
赤ん坊のフアンを抱く女中のダミアナ・シスネロス役のマイラ・バタジャ)
A: 人によって自分が描いていたイメージと違うわけですが、青春時代と後年犯した罪の重さから逃れるために自死してしまうエドゥビヘスを同じ女優に演じさせたことが一因かもしれません。どんなベテラン女優でも年齢には限界があります。後半キャスト紹介を予定しておりますが、フアンより先に死んでいるアブンディオも彼より10歳くらい年上に見えます。小説と映画は別の作品という考えもありますが、本作にはキャスティングミスが幾つかある印象です。

(コマラの町を見下ろすフアンとアブンディオ役のノエ・エルナンデス)
B: 本作では二人ともペドロが父親という立ち位置は変えられません。エドゥビヘスのケースとは話が違います。ペドロとスサナは、子供時代と中年時代という違いがあるから違和感ありませんが、小説では伏線が張ってあるペドロの生来の悪の部分が見えにくかった。
A: エドゥビヘスにペドロのもう一人の息子、17歳で旅立ったミゲル・パラモの死を語らせます。それぞれ息子たちはペドロの分身ですが、ミゲルが一番悪の性格を受け継いでいます。一方ペドロに憧れの女性で最後の妻となるスサナ・サン・フアンを詩的なモノローグで語らせます。あまり幸せそうでないペドロの母親、祖母、そして祖父が既に旅立ったことなども語られて、つまり冒頭のいくつかの断片でこの作品の重要人物の大方が出揃うことになります。
B: 欠けているのはレンテリア神父とパラモ家の悪辣な管理人フルゴル・セダノ、貞操を守ったことでパラモ家の女中頭になったダミアナ・シスネロスあたりでしょうか。
A: ペドロやドロリータスのモノローグから、コマラという「露の滴る緑豊かな実りのある町」が紹介され、フアンやアブンディオが「泥と粘土に蔽われた死者の町」を紹介します。このコマラという町の二面性がペドロ・パラモを象徴しており、「コマラが本当の意味での主人公」と称される所以です。特にペドロのモノローグは詩的な抒情性に富んでいて、父親ルカス・パラモの殺害者が特定できないので、居合わせた人間を片っ端から殺してしまう残忍さと対照的です。
B: 小説と違って、映画ではあっという間に字幕が消えるので、コントラストの違いが分かりづらいかもしれません。セリフはリアリズムで押していくので、その落差が際立ちます。
A: 謎めいたセリフもあるにはありますが、概ねリアリズムです。
ペドロの偶像スサナ・サン・フアンの狂気
B: レンテリア神父は、父親をミゲル・パラモに殺された姪アナと暮らしている。神父は兄弟を殺されているわけです。アナはペドロの負の部分を受け継いだ息子ミゲルにレイプされている。
A: 告解室では「ペドロ・パラモの子供を産みました」、または「ペドロ・パラモと寝ました」という女性たちの告解をうんざりするほど聞かされます。しかしペドロは一度として許しを請いに来たことがありません。赤子に罪はないのに神父は、死んだ母親から託されたミゲルをペドロに引き取らせたのでした。
B: お産で死んだ母親の代わりにミゲルを育てたのが、パラモ家の女中頭のダミアナ・シスネロスでした。この登場人物もドロテア級の重要さを秘めています。
A: 夫の嫌がらせに心が壊れてしまっていたドロリータスが、フアンを連れて家を出るまでの短期間でしたが、母親の代わりにフアンを育てたのがダミアナでした。後で触れますが、彼女はアブンディオ・マルティネスが父親であるペドロを刺し殺す現場にいて巻き添えになって命を落とします。何が重要かと言うと、フアンとペドロ・パラモを死の世界に呼び入れ付き添っていく女性だからです。エドゥビヘスの家へメディア・ルナからフアンを迎えに駆けつけ、彼を死の世界へ導いていく女性です。登場は遅いですが女性の重要人物 5人のなかの一人です。

(上段左から、ドロテア、ドロリータス、中段スサナ、下段ダミアナ、エドゥビヘスの5人)
B: ダミアナはコマラではなくメディア・ルナで眠っているから、フアンを迎えに来るのに「時間がかかってしまった」と語っている。映画はエドゥビヘスが手にする明りを蝋燭、ダミアナにはランプを持たせることで、二人が死んだ時代の違い、刻の流れを語らせているようです。ルルフォは明りとするだけで区別はしておりませんが。
A: 時代考証をしたのでしょう。小説でも二人の突然の入れ替わりの理由が分かるまで時間が必要な断片です。映画では猶更ですね。5人目となるスサナ・サン・フアンは、母親の死を機に鉱山で働いていた父バルトロメ・サン・フアンと大嫌いなコマラを去る。しかし革命の噂に不安を感じたバルトロメは、嫌な予感を振り払って、不穏になった町から未だ影響の少なかった地方の町コマラに娘と30年ぶりに戻る決心をする。
B: 実はペドロが手をまわして帰郷させたわけですね。コマラを出たのが12歳かそこいらとすると42歳くらいになっている。日本でも認知度の高いイルセ・サラスをがちがちに減量させている。

(悔い改めるべき罪は犯していないスサナ・サン・フアン)
A: 既に心が折れてしまっていたスサナに昔の面影はない。年代が特定できる手掛かりはメキシコ革命(1910~17)と、その後のクリステロスの反乱(1926~29)だけですから、逆算すると二人は1869年か1970年くらいに生まれていたことになる。母親の死が7日前とか、ペドロとドロレスの結婚式は4月3日、またはスサナ死亡は12月8日のように、月日は明確にしているが何年かは示さないので類推するしかない。おそらくスサナが戻るのは1910年以降に設定されている。

(旅立つスサナとレンテリア神父、なすすべのないペドロとダミアナ)
B: 「バルトロメと女房のスサナが戻った」とペドロに知らせるのがフルゴル・セダノ、ペドロから女房でなく娘だと訂正される。するとフルゴルもペドロのスサナへの愛を知らないことになりますね。
A: 人を介してずっと探し回っていたのに、自分の弱みを腹心の部下フルゴルにも悟られないようにしていたわけです。この用心深さ、用意周到さがなければ地方地主とはいえ権力者にはのし上がれない。父娘は近親相姦の関係にあり、ペドロにとってバルトロメは邪魔者、バルトロメにとっても憎しみそのものでしかない。ペドロは「邪魔者は消せ」とフルゴルに指示、トリビオ・アルドルテをエドゥビヘスのバルの奥の部屋で縛り首にしたように、さっそく事故に見せかけて亡き者にしてしまう。スペイン語の Fulgor の意味は皮肉にも文章語で使用する「光輝、見事」という意味なのです。
B: スサナは自分の意図に反してだが罪を犯しているので天国には行けないと思っている。トラウマを克服するための避難所として狂気の世界に逃げ込んでいる。
A: 結果、フロレンシオという想像の夫をつくり出す。小説に現れるのも名前だけで謎の人物です。スサナは父親とだけ暮らしていて、誰とも結婚していない。スサナのモノローグから、彼女が「あの人」と呼ぶ男性と海で裸で泳ぐシーンが挿入されています。スサナは実際の海を知らないはずですが、ここはトラウマがつくり出す想像が記憶の一部となっている部分で、記憶を改竄しているのではない。

(盛装してスサナを迎え入れるペドロ・パラモと女中頭ドロレス)
B: スサナのモノローグを聞いたのはフアンである。彼とドロテアはスサナの墓の近くに埋葬されているから、フアンはスサナのモノローグを聞くことができた。
A: この断片は、スサナの声をフアンとドロテアが聞くという複雑な構造をしていて、小説でも面白い部分です。ほかにもスサナが死んだ母親のことを語る部分をフアンとドロテアに語らせる断片もあります。
B: プリエト監督は、撮影監督としてスタートしただけに映像は抜群に素晴らしかったが、スサナの箇所は引っ張りすぎかな。
謎の登場人物ドニスとその妹――フアンが生み出した幻覚
A: スサナが生み出したフロレンシオのほかに、フアンが死ぬ間際に出合うドニスとその妹も謎の人物です。フアンが出合ったとき、二人が生きているのか死んでいるのか彼には分からない。
B: 私たちにも同じく分からない。フアンは二人を夫婦と思っていたが、女は「妹だ」と応えている。
A: 女は罪を犯したので「体の内側は土と粘土でどろどろしている」とフアンに語る。ルルフォによると、二人はそもそも「存在していない」とインタビューで語っている。フアンの「死の恐怖がもたらした幻覚だ」としている。フアンを捉えている死を先導する幻覚だというわけです。だから女がどろどろに溶け出すのも不思議ではないわけです。

(ヨシラ・エスカルレガが演じたドニスの妹)
B: しかし小説では、ドロテアが教会の広場で死んでいるフアンを見つけたとき、彼女はドニスが通りがかるのを見ている。ドニスも幻覚だと変に思えるが。
A: 謎の多い断片ですね。最初何が起きたのか分からない断片でも、作家は予期しないところで突然種明かしをする。しかしここはしていないのでよく質問されるそうです。複雑だが独立しているように思えます。とにかくルルフォは人が悪い作家、読者を翻弄するのが好きなのです。
B: 死者の世界では人物は時間を無視して交錯するが、死者と生者は交わらないようです。
A: もっとも死と生は切り離すことができないし、その境界もあいまいです。ペドロは息子と称するロバ追いのアブンディオに刺されて死ぬのですが、スサナを失ったときから少しずつ体の一部が死んでいく。それより前のミゲルの死から既に始まっているとも言えます。
B: メディア・ルナの玄関先に置かれた籐椅子に案山子のように座ったままのペドロは、刺される前に既に死んでいるとも解釈できる。
A: まだこちら側にいますが、ペドロより少し前に息を引き取ったダミアナ・シスネロスが、彼の肩に手を置いて「お昼ご飯もってきましょうか」と尋ねる。ペドロは「あっちへ行くよ。今行くよ」と答えるシーンでやっと此の世を去ることができた。
B: 最後のシーンには呆気にとられましたが。
A: 最後のシーンからフアン・プレシアドがコマラに到着した冒頭に戻り、円環的にぐるぐる回って終りがない小説だと思っていました。解釈は複数あって当然ですが、これでは冒頭に戻れないのではないか。積み残しのテーマが幾つかありますが、長くなったので一旦休憩して、原作者、監督、脚本家、キャスト紹介をしながら、最後のシーンにも触れたいと思います。
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