ロドリゴ・プリエトの『ペドロ・パラモ』④*キャスト紹介 ― 2024年12月04日 13:09
PG13では撮れなかった『ペドロ・パラモ』

★メキシコで『ペドロ・パラモ』を読むのは大体高校生から、早い子供で中学生くらいから手にする。ネットフリックスからプリエト監督にオファーがきたときは「PG13」だった(担当者は原作を読んでいない?)。それでは殺人、近親相姦、ヌードは撮れない。R指定を条件に引き受けたと監督。こうしてスサナ・サン・フアンを演じたイルセ・サラスのヌードが可能になったようです。
★ハリスコ州の架空の田舎町コマラを舞台に、20世紀初頭に起きたメキシコ革命とクリステロ反乱を時代背景にした『ペドロ・パラモ』のキャスト・プロフィール、並びに各登場人物の立ち位置を含めてアップします。映画では採用されなかった語り手の重要なモノローグ、コマラは「去る人には上り坂、来る人には下り坂」(断片1)の町、閉じ込められてもがく人、不幸を予感しながら再び戻る人も描かれる。
マヌエル・ガルシア=ルルフォ(ペドロ・パラモ役)
1981年グアダラハラ生れ。初期にはアメリカ映画出演が多いので、ネットフリックス配信を含めると字幕入りで鑑賞できる作品多数。黒澤明の『七人の侍』他のリメイク版『マグニフィセント・セブン』(米、16)、ケネス・ブラナーの『オリエント急行殺人事件』(17)、トム・ハンクスと共演した『オットーという男』(21)、『スイートガール』(21)、最近公開されたカルロス・サウラの『情熱の王国』(西=メキシコ合作、21)で演出家マヌエルを主演、メキシコのマノロ・カーロの『巣窟の祭典』(24)と本作でも主演している。
★ペドロ・パラモ:コマラの繁栄と没落を象徴する権力者にして渇望と絶望の語り手、男性性の賛美、言葉による妻への暴力、家父長制主義の加害者にして犠牲者。荒んだペドロの唯一の救いだったスサナ・サン・フアンへの不毛の愛、彼はスサナを迎え入れるために絶大な権力を求めるが、彼女がどういう世界に住んでいたかを永遠に理解できない不幸な孤独者。ペドロはギリシャ語の pétros「石」より派生、パラモは「荒地」を意味する。

(ペドロ・パラモ役のマヌエル・ガルシア=ルルフォ)
テノッチ・ウエルタ・メヒア(フアン・プレシアド役、ペドロの息子)
1981年メヒコ州エカテペック生れ、ガエル・ガルシア・ベルナルの『太陽のかけら』(07)、キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』(09)、エベラルド・ゴウト『クライム・シティ』(11)に主演、エドゥビヘス役のドロレス・エレディアと共演、スペインのマヌエル・マルティン・クエンカの『小説家として』(17)、ベルナルド・アレジャノのホラー『闇に住むもの』(20)、ライアン・サラゴサのホラ―『マードレス、闇に潜む声』(21,米)、再びゴウトに起用されサスペンス・ホラー『フォーエバー・パージ』(21)、ライアン・クーグラーの『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(22)ではタロカン帝国の王に扮した。公開こそされなかったが、東京国際映画祭2014で上映されたアロンソ・ルイスパラシオスのデビュー作『グエロス』に主演、監督夫人であるイルセ・サラスと共演している。本作では出会うことはなかったが父親役のマヌエル・ガルシア=ルルフォと同じ年に生まれている。かつて交際していたマリア・エレナ・リオスへの性的暴行疑惑という残念なニュースも浮上している。
*『グエロス』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月03日
★フアン・プレシアド:前半の主な語り手、ペドロとドロリータスの息子、赤ん坊のときメディア・ルナを母親と去り、母との約束により父親から略奪された財産の代償を求めるという希望をもって、下るべきでない坂を下りて来る。やがてフアンは、権力と富への渇望が痛みと絶望の遺産を残した父親の正体に近づいていく。幻視と幻聴に悩まされ死者と交流するうち、自分が生きてるのか死んでるのか分からず、やがて絶望に至る。彼の罪は幻を求めて故郷を離れて坂を下ったことである。

(フアン・プレシアド役のテノッチ・ウエルタ)
ドロレス・エレディア(エドゥビヘス・ディアダ)
1966年、バハ・カリフォルニア・スル州の州都ラパス生れ、UNAMで演劇を学んだ本格派、1990年デビューしている。アレハンドロ・スプリンガル「Santitos」で、アミアンFF1999、カルタヘナFF2000の女優賞を受賞、カルロス・キュアロン『ルド and クルシ』(08)でルド&クルシ兄弟の母親役を演じた。ロドリゴ・プラがキルケゴールの日記にインスパイアされた「Decierto adentro」(仮訳「内なる砂漠」)でグアダラハラFF2008で主演女優賞を受賞した。クリス・ワイツ『明日を継ぐために』(11)、テノッチ・ウエルタと共演した『クライム・シティ』、エイドリアン・グランバーグの『キック・オーバー』(11)、カール・フランクリン『ウルティマ、ぼくに大地の教えを』(13)、ラシッド・ブシャールの『贖罪の街』(14)はフランス映画『暗黒街の二人』のリメイク版、アレハンドラ・マルケス・アベジャ『虚栄の果て』(22)、GGベルナルの監督2作めシリアスコメディ「Chicuarotes」(19)などTVシリーズ出演も含めて国際的に活躍している。ネット配信中の作品もあるが、受賞歴のある作品は見られない。
*「Chicuarotes」の作品紹介は、コチラ⇒2019年05月13日
★エドゥビヘス・ディアダ:コマラで売春宿を兼ねたバルを営んでいた女性、フアンの母ドロリータスの親友。パラモ家の管理人フルゴルに部屋の鍵を渡したことで、図らずも殺人に手を貸してしまう。神の許しを得るために善行を積んだが、耐えきれなくて自ら命をたつ。姉マリアが死後の救済をレンテリア神父に頼むが拒まれ、まだ此の世をさまよって死者と交流する。

(エドゥビヘス役のドロレス・エレディア)
イルセ・サラス(スサナ・サン・フアン)
1981年メキシコシティ生れ、映画、TV 、舞台女優。国立演劇学校で演技を学ぶ。夫のアロンソ・ルイスパラシオスの『グエロス』でテノッチ・ウエルタと共演、アレハンドラ・マルケス・アベジャの『グッド・ワイフ』に主演、既にキャリア紹介をしています。
*『グッド・ワイフ』での紹介記事は、コチラ⇒2019年04月14日
★スサナ・サン・フアン:ペドロのこども時代からの憧れの人であり、彼が愛した唯一人の女性。肺結核を患っていた母親の死後、父バルトロメ・サン・フアンとコマラを去る。革命前夜、母親の葬儀に誰一人として弔問に訪れなかった大嫌いなコマラに戻ってくる。父親との理不尽な性的関係で死後の救済を諦めている。神父も父も共に「パードレ」、パードレはスサナにとって権力者の象徴である。父とのトラウマ克服のため狂気の世界に逃げ込んでフロレンシオという謎の夫をつくりだしている。トラウマによる想像が記憶となっている。フアンの墓の近くに埋葬されており、二人は死後の世界で繋がっている。

(狂気の世界に安住を求めるスサナ・サン・フアン)
エクトル・コツィファキス(フルゴル・セダノ、パラモ家の管理人)
1971年コアウイラ州トレオン生れ、映画、TV ,舞台俳優。UNAMの演劇学校であるCUT(大学演劇センター、1962年設立)で学ぶ(1996~2000)。TVシリーズ出演が多いが、主な代表作はルイス・エストラダの『メキシコ 地獄の抗争』(10)、ダビ・ミチャンのアクションドラマ「Reacciones adversas」(11)で主演、ディエゴ・コーエンのホラー「Luna de miel」(15)で主演、ベト・ゴメスのコメディ「Me gusta, pero me asusta」(17)と「Bendita Suegra」(23)、ナッシュ・エドガートンのダークコメディ『グリンゴ最強の悪運男』(18)、アレハンドロ・イダルゴのホラー「El exorcismo de Dios」とアクション、ホラー、コメディとこなす。TVシリーズ『ナルコス メキシコ編』に出演している。
★フルゴル・セダノ:先代ルカス・パラモ以来の未婚の管理人、ペドロに代替わりしたとき54歳と年齢が分かる悪徳管理人。借金地獄のペドロを大地主にした立役者。彼の視点は重みがある。ペドロの指示によって不動産鑑定士トリビオ・アルドルテをエドゥビヘスの店で縛り首にして殺害する。しかしペドロの土地を貰いに来たという革命軍のリーダーにあっさり射殺される。ペドロからは「役に立つ男だったが、もう老いぼれの用なし」と一顧だにされなかった。

(フルゴル・セダノ役のエクトル・コツィファキス)
ロベルト・ソサ(レンテリア神父役)
1970年メキシコシティ生れ、俳優、TVシリーズのを監督を手掛けている。1976年に子役としてスタートを切り、TVシリーズ、短編含めると166作に出演。代表作は、セバスティアン・デル・アモのヒット作、ガリシア生れながらキューバに渡り、後にメキシコにやって来てB級映画の巨匠になるフアン・オロルの伝記映画「El fantástico mundo de Juan Orol」に主役を演じ、アリエル賞2013主演男優賞、ACE賞2014主演男優賞、ドン・ルイス映画祭2013男優賞などを受賞、アレックス・コックスの「El patrullero」(日本との合作、『PNDCエル・パトレイロ』1993公開)でサンセバスチャン映画祭1992男優賞、フランシスコ・アティエの「Lolo」でシカゴ映画祭1993男優賞、他受賞歴多数。
★レンテリア神父:コマラの町の唯一人の神父。神父としての誓いを果たせるという希望をもっていたが、ペドロの金貨に負けて彼の愚息ミゲルに祝福を与えてしまう。反対に自死したエドゥビヘスには与えない。父親をミゲルに殺されたうえ、レイプされた姪と暮らしている。クリステロ内戦では反乱軍に身を投じる。本作はメキシコにおける来世に関する一連の信仰を探求しており、彼のモノローグは重要である。

(レンテリア神父役のロベルト・ソサ)
マイラ・バタジャ(ダミアナ・シスネロス役)
1990年メキシコシティ生れ、女優、短編だが脚本を執筆している。2021年タティアナ・ウエソのデビュー作、もらえる賞をすべて制覇したという問題作「Noche de fuego」で、アリエル賞2022助演女優賞、ソニア・セバスティアンの短編「Above the Desert with No Name」(23、17分)で、ロスアンゼルス映画賞2024女優賞を受賞している。TVシリーズのダークコメディ「El Mantequilla」(23,8話)では女刑事に扮する。これからが楽しみな女優の一人。
*「Noche de fuego」の作品紹介は、コチラ⇒2021年08月19日
★ダミアナ・シスネロス:メディア・ルナのパラモ家の女中頭、赤ん坊のフアン・プレシアドを一時育てていた。コマラに戻って来たフアンをメディア・ルナから迎えに来る。ペドロをあの世に招き入れる女性でもある。原作と映画の違いの一つは、原作に登場するサン・フアン家の女中、フスティナ・ディアスを省いていることです。彼女は父娘とずっと行を共にしていて、スサナの育ての親でもあった。メディア・ルナで狂気のスサナを介護していたのは、映画のようにダミアナでなくフスティナである。ジャンルが違うのですから、この程度の変更は問題ありませんが、二人は同じ女中でも本質が異なる。フスティナも幻聴に怯えているが、ダミアナのように生死の境を超えられるわけではない。

(ダミアナ・シスネロス役のマイラ・バタジャ)
ジョバンナ・サカリアス(ドロテア〈ラ・クアラカ〉)
1976年メキシコシティ生れ、女優、監督。19歳のときクラシックバレエを止め演劇を学び始め、舞台女優としてスタートする。2001年ハイメ・ウンベルト・エルモシージョの「Escrito en el cuerpo de la noche」で映画デビュー。代表作は、2018年アレハンドロ・スプリンガルのウエスタン「Sonora」で主演、ドロレス・エレディアと共演、揃ってアリエル賞にノミネートされた。マーティン・キャンベルの『レジェンド・オブ・ゾロ』(25)でバンデラスと共演、ウォルター・サレスの『オン・ザ・ロード』(12)、ブレッド・ドノフー他「Salvation」でロスアンゼルス映画祭2013の女優賞を受賞している。監督作品としては、2015年コメディ「Ramona」(10分)でアリエル賞2013短編賞、2020年長編デビュー作「Escuela para Seductores」がある。
★ドロテア〈ラ・クアラカ〉:コマラにたどり着いたフアンにエドゥビヘスの店を教える語り手。産んでもいない赤ん坊を探してコマラをうろついている。神父は天国の門は閉じられているが、主は許されると諭す。教会の広場で倒れていたフアン・プレシアドを葬り、自分も一緒の墓に眠っており、フアンの語りを聞く。施し物欲しさにミゲル・パラモに売春斡旋をしていた罪人、ミゲル亡き後、神父に懺悔する。

(ドロテア役のジョバンナ・サカリアス)
イシュベル・バウティスタ(ドロレス・プレシアド)
1994年メキシコシティ生れ、ベラクルサナ大学演劇学部卒、国立美術館演技賞受賞、2018年バニ・コシュヌーディの「Luciernagas」で映画デビュー、2023年ルイス・アレハンドロ・レムスの「El sapo de cristal」でノエ・エルナンデスと共演、TVシリーズでは征服者エルナン・コルテスを主人公にした歴史時代劇「Hernan」(8話、19)にマリンチェ役で出演している。
★ドロレス・プレシアド、ドロリータス:メディア・ルナの女あるじ、ペドロの最初の妻、フアンの母親。借金を帳消しにするためのペドロの求婚を愛と錯覚して全財産を失う。夫の言葉によるDVに耐えかね、コリマにいる姉を頼ってコマラを去り、再び戻ることができなかった。露の滴る緑豊かなコマラを息子に言い残して失意のうちに旅立つ。

(ドロリータス役のイシュベル・バウティスタ)
ノエ・エルナンデス(アブンディオ・マルティネス、ペドロの息子)
1969年イダルゴ生れ、アリエル賞主演男優賞を4回受賞するなど受賞歴多数。ホルヘ・ペレス・ソラノの「La tirisia」(14)、ガブリエル・リプスタインの『600マイルズ』(15)、セルヒオ・ウマンスキー・ブレナーの「Eight Out of Ten」(18)、2020年に製作されたヘラルド・ナランホの「Kokoloko」が大分遅れて今年受賞した他、トライベッカ映画祭2020主演男優賞も受賞している。2018年グアダラハラ映画祭のメスカル賞を受賞している。脇役だが東京国際映画祭2015で上映されたロドリゴ・プラの『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』、ラテンビートFF2011で上映されたヘラルド・ナランホの『MISS BALA/銃弾』に出演している。父親ペドロを演じたマヌエル・ガルシア=ルルフォより一回りも年上ということもあって、個人的にはキャスティングに違和感があった。
★アブンディオ・マルティネス:ペドロが認知しない大勢の私生児の一人、ロバ追いを生業とする。フアンをコマラに案内する。主な出番は最初と最後に現れるだけと少ないが、父親を殺害する重要人物、事故で耳が不自由になる設定は何を意味するか。アブンディオの造形は、短編集『燃える平原』収録の「コマドレス坂」のレミヒオ・トリコ殺しの語り手を彷彿とさせ、彼の原型は短編にある。

(アブンディオ・マルティネス役のノエ・エルナンデス右)
サンティアゴ・コロレス(ミゲル・パラモ)
TVシリーズ、チャバ・カルタスの「El gallo de oro」(23~24、20話)レミヒオ役で18話に出演。本作で映画デビューを果たした。
★ミゲル・パラモ:ペドロが気まぐれで認知した息子、母親はお産で亡くなる。愛馬コロラドに振り落とされて17歳で死去。レンテリア神父の兄弟を殺害、レイプ魔と父親の悪の部分を受け継いだ愚息。

(マルガリータ、ダミアナ・シスネロス、ミゲル・パラモ)
★その他、スサナの父親バルトロメ・サン・フアン役のアリ・ブリックマン(チアパス州1975)は俳優、作曲家、代表作はマリアナ・チェニーリョのコメディ「Todo lo invisible」(20)で、主演、音楽、脚本も監督と共同執筆している。同監督のヒット作「Cinco dias sin Nora」にも出演、本作はアリエル賞2010作品賞以下を独占した。フアンの死の恐怖がつくりだした幻覚と思われるドニスの妹役のヨシラ・エスカルレガ(1995)は、アマゾンプライムで配信が開始されたばかりの『戦慄ダイアリー 屋根裏の秘密』に出演している。ペドロの祖母を演じたフリエタ・エグロラは、娘ナタリア・ベリスタインが監督した『ざわめき』(22)に主演している。ネットフリックスで配信されている。古くはアルトゥーロ・リプスタインの『深紅の愛』に出演している。

(穴だけの母親の写真を見つめるフアン・プレシアド)

(コマラを去るサン・フアン父娘を見送るペドロ・パラモ)

(エドゥビヘスに初夜の務めを頼むドロリータス)

(レンテリア神父にミゲルの許しを金貨で支払うペドロ)

(レンテリア神父の姪アナ)

(スサナのメディア・ルナ到着を待つペドロとダミアナ)

(スサナとレンテリア神父)
ロドリゴ・プリエトの『ペドロ・パラモ』③*監督&スタッフ紹介 ― 2024年11月26日 16:09
『ペドロ・パラモ』で監督デビューしたロドリゴ・プリエト

(Deadline のインタビューを受けるプリエト監督、2024年11月24日)
★ロドリゴ・プリエトといえば、一般的にはマーティン・スコセッシの『沈黙―サイレンス』(16)、『アイリッシュマン』(19)、最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(23)、アン・リーの『ブロークバック・マウンテン』(05)、ベネチア映画祭2007の金のオゼッラ賞受賞作『ラスト・コーション』、ベン・アフラックの『アルゴ』(12)、グレタ・ガーウィグの『バービー』とアメリカ映画の撮影監督として知られています。上記のデッドラインのインタビューで、『バービー』と『キラーズ~』の撮影の合間を縫って『ペドロ・パラモ』を何回も読み返し推敲したと語りました。

(『沈黙―サイレンス』撮影中のマーティン・スコセッシと)
★しかしスペイン語映画ファンとしては、もうアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥのデビュー作『アモーレス・ぺロス』に尽きます。2000年、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」で鮮烈デビュー、作品賞を受賞した。第1話に主演したガエル・ガルシア・ベルナルは、メディアのインタビュー攻めに「天地がひっくり返った」と語ったのでした。その後の快進撃は以下のフィルモグラフィーの通りです。2009年、ペドロ・アルモドバルの『抱擁のかけら』でタッグを組み、アルモドバル嫌いからは「どこを褒めたらいいか分からない」と酷評されましたが、プリエトの映像美は高い評価を受け、スペインのシネマ・ライターズ・サークル賞を受賞した。

(『BIUTIFULビューティフル』撮影中のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと)
★キャリア紹介:1965年メキシコシティ生れ、撮影監督、映画監督。国籍はメキシコと米国、ロサンゼルス在住。祖父はサンルイス・ポトシ市長、メキシコシティ知事、下院議長を務めた政治家、政治的対立で迫害されテキサスに亡命、後ロサンゼルスに移る。父はニューヨークで航空工学を専攻、結婚後メキシコに戻りロドリゴが誕生した。彼は1975年設立された国立機関の映画養成センターCCC(Centro de Capacitación Cinematográfica)で学んでいる。2021年ヴィルチェク財団が選考するヴィルチェク映画賞を受賞、2023年にはモレリア映画祭の審査員を務めている。監督として、2013年、製作国米国の短編「Likeness」(9分、英語)をトライベッカ映画祭に正式出品、2019年には「R&R」(6分、米、英語)を撮っている。『ペドロ・パラモ』で長編監督デビューした。

(金のオゼッラ賞を受賞した『ラスト、コーション』撮影中のアン・リーと)
★フィルモグラフィー(本邦公開作品、短編、TVシリーズ、ミュージックビデオは割愛)
1991「El jugador」メキシコ、デビュー作、監督ホアキン・ビスナー
1996「Sobrenatural」メキシコ、監督ダニエル・グルーナー、1997年アリエル賞初受賞
1996『コロンビアのオイディプス』(「Oedipo alcalde」邦題はキューバFF2009による)
コロンビア・スペイン合作、監督ホルヘ・アリ・トリアナ
*作品紹介記事は、コチラ⇒2014年04月27日
1998「Un embrujo」メキシコ、監督カルロス・カレラ、
1999年アリエル賞、サンセバスチャンFF受賞
2000『アモーレス・ぺロス』メキシコ、監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
2001年アリエル賞、ゴールデン・フロッグ賞受賞
2001『ポワゾン』米国、監督マイケル・クリストファー
2002『8 Mile』ミュージカル、米国・独、監督カーティス・ハンソン
2002『25時』米国、監督スパイク・リー
2002『フリーダ』米国・カナダ合作、監督ジュリー・テイモア
2002『彼女の恋から分かること』米国、監督ロドリゴ・ガルシア
2003『21グラム』米国、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
2004『アレキサンダー』米国、監督オリバー・ストーン
2005『ブロークバック・マウンテン』米国、監督アン・リー、アカデミー賞ノミネート
シカゴFF、ダラス・フォートワースFF、フロリダFF、各映画批評家協会賞受賞
2006『バベル』米国、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、
2007『ラスト、コーション』米国、監督アン・リー、ベネチアFF金のオゼッラ賞受賞
2009『抱擁のかけら』スペイン、監督ペドロ・アルモドバル、
シネマ・ライターズ・サークル賞受賞
2009『消されたヘッドライン』米国、監督ケヴィン・マクドナルド
2010『BIUTIFULビューティフル』スペインとの合作、スペイン語、
監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、アリエル賞受賞
2010『ウォール・ストリート』米国、監督オリバー・ストーン
2011『恋人たちのパレード』米国、監督フランシス・ローレンス
2012『アルゴ』米国、監督ベン・アフラック
2013『ウルフ・オブ・ウォールストリート』米国、監督マーティン・スコセッシ
2014『ミッション・ワイルド』米国・フランス合作、トミー・リー・ジョーンズ
2014『夏の夜の夢』米国、監督ジュリー・テイモア
2015『沈黙-サイレンス』米国、監督マーティン・スコセッシ、アカデミー賞ノミネート
2016『パッセンジャー』SF、米国、監督モルテン・ティルドゥム
2019『アイリッシュマン』米国、監督マーティン・スコセッシ、アカデミー賞ノミネート
2020『グロリアス 世界を動かした女たち』米国、監督ジュリー・テイモア
2023『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』米国、監督マーティン・スコセッシ、
アカデミー賞ノミネート、サンディエゴFF、サンタ・バルバラFF、ダブリンFF、
各映画批評家協会賞受賞
2023『バービー』米国、監督グレタ・ガーウィグ、
ナショナル・ボード・オブ・レビュー、他多数
2024『ペドロ・パラモ』メキシコ、監督、共同撮影ニコ・アギラル
★以上、公開作品、受賞作品を中心に列挙しました。映画祭ノミネートがトータル129という驚異的な数には恐れ入ります。ノミネートはオスカー賞4作(スコセッシ3作、アン・リー1作)のみアップしました。イニャリトゥがオスカーを受賞した『バードマン~』と『レヴェナント 蘇えりし者』の撮影監督はエマニュエル・ルベッキでした。プリエトと同世代の彼はオスカー像を3個も貰っています。「賞を貰うために仕事をしているわけではない」ですけど。
★脚本を共同執筆したマテオ・ヒル・ロドリゲス Mateo Gilは、1972年カナリア諸島のラス・パルマス生れ、スペインの監督、脚本家、製作者。アレハンドロ・アメナバルのデビュー作『テシス、次に私が殺される』(96)の共同脚本家、助監督としてスタートした。長編デビュー作「Nadie conoce a nadie」(99)が東京国際映画祭2000に『ノーバディ・ノウズ・エニバディ』の邦題で正式出品され、翌年『パズル』で公開された。『アモーレス・ぺロス』が作品賞を受賞した年でした。
★2004年のアメナバルの『海を飛ぶ夢』では、監督と脚本を共同執筆、ゴヤ賞オリジナル脚本賞を受賞、さらに本作はアカデミー賞2005の外国語映画賞受賞作品でした。ネットフリックスTVシリーズ『ミダスの手先』(20、6話)のクリエーター、脚本も執筆している。
(写真下は視聴覚媒体におけるアーティストの福利厚生及びプロモーションを援助する財団AISGE のインタビューを受けたときの最新フォト)

(AISGEのインタビューを受けるマテオ・ヒル、2024年1月14日)
★かつて「ペドロ・パラモ」を監督する企画があり脚本も執筆した。しかし資金が底をついて実現に至らなかった。舞台となるコマラの町のセットも二つ必要でしたから、ネットフリックスの資金援助がなければ難しかったと思われます。その際の脚本がたたき台になったようですが、監督と脚本家もそれぞれ異なるビジョンがあり、削除したいシーン、追加したいシーンを徹底的に議論したようです。今回は脚本を手掛けているので、脚本に絞ってキャリアを紹介したい。
(短編は割愛しました)
1996『テシス、次に私が殺される』監督アレハンドロ・アメナバルとの共同執筆
1997『オープン・ユア・アイズ』同上
1999『パズル』(TIFFタイトル「ノーバディ・ノウズ・エニバディ」)監督、
脚本はフアン・ボニジャとの共同執筆
2001『バニラ・スカイ』(『オープン・ユア・アイズ』のリメイク版)
監督、脚本キャメロン・クロウ、原案アレハンドロ・アメナバル&マテオ・ヒル
2004『海を飛ぶ夢』監督アメナバル、監督との共同執筆、
ゴヤ賞2005オリジナル脚本賞受賞
2005「El método」アルゼンチン・伊・西、監督マルセロ・ピニェイロ、監督との共同執筆
ゴヤ賞2006脚色賞受賞、アルゼンチン映画アカデミー賞脚色賞受賞
2009『アレクサンドリア』監督A・アメナバル、監督との共同執筆、
ゴヤ賞2010オリジナル脚本賞受賞
2016「Realive」SF、監督&脚本マテオ・ヒル、ファンタスポルト作品賞&脚本賞受賞
2018『熱力学の法則』監督&脚本マテオ・ヒル、マイアミFF監督賞受賞、Netflix配信
2024『ペドロ・パラモ』監督ロドリゴ・プリエト
★2011『ブッチ・キャシディ―最後のガンマン―』は監督のみで、脚本はミゲル・バロスが執筆した。トライベッカFFでプレミア、トゥリア賞2012新人監督賞受賞、ゴヤ賞2012監督賞にノミネートされた。
*「El método」の紹介記事は、コチラ⇒2013年12月19日
*『熱力学の法則』の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月02日
★音楽を手掛けたグスタボ・サンタオラジャ(ブエノスアイレス1951)は、アルゼンチンのミュージシャン、『バベル』と『ブロークバック・マウンテン』でオスカー像をゲットしたほか、オンライン映画テレビ協会賞、ほかラスベガスとサンディエゴ映画批評家協会賞など受賞歴多数。『アモーレス・ぺロス』と『BIUTIFULビューティフル』ではアリエル賞、ウォルター・サレスの『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)とダミアン・シフロンの『人生スイッチ』(14)でアルゼンチン映画批評家協会賞など活躍の舞台は国際的です。
*『人生スイッチ』での紹介記事は、コチラ⇒2015年01月19日/同年07月29日

(グスタボ・サンタオラジャ)
★次回はキャスト紹介を予定しています。
ロドリゴ・プリエトの『ペドロ・パラモ』②*原作者紹介 ― 2024年11月22日 19:25
フアン・ルルフォの『ペドロ・パラモ』の映画化
★前回ロドリゴ・プリエトが監督した『ペドロ・パラモ』の鑑賞記をアップしましたが、原作者並びに監督以下のスタッフ、キャスト紹介が積み残しになっていました。原作者の詳細な紹介までしないのですが、今回は作家の人生が映画(小説は勿論)と深く関わっているのでアップすることにしました。日本語版ウイキペディアからも情報を得られますが、生まれた年に1917年と1918年の2説あることもあり、また過去に製作された『ペドロ・パラモ』、短編集『燃える平原』に収録された短編のなかから選ばれて映画化された短編映画などを紹介したい。

(ヘビースモーカーだったフアン・ネポムセノ・カルロス・ペレス・ルルフォ・ビスカイノ)
★フアン・ルルフォ Juan Nepomuceno Carlos Perez Rulfo Vizcaino、1917年5月16日(1918年説あり)、メキシコのハリスコ州のサユラ地区アプルコ生れ(1986年1月7日、メキシコシティ没)、作家、写真家、歴史家、会社員。1922年、ホセフィナ学校に入学、初等教育を受ける。翌年6月、牧場主であった父親が殺害され、母親も4年後の1927年11月に亡くなった。学校がクリステロの反乱*(1926~29)で閉鎖されたため、1927年、叔父の判断でグアダラハラのルイス・シルバ学校に入学する。1929年、母方の祖母が住んでいたサン・ガブリエルに移り一緒に暮らすことになったが、その後グアダラハラのルイス・シルバ孤児院に預けられる。両親の死、続いて起きたクリステロの恐怖を目撃するという幸せとはほど遠い少年時代を送ったことになる。
*クリステロGuerra Cristeraの反乱:1917年メキシコ憲法第130条でカトリック教会の権力制限が強化され、政教分離に基づき国家が宗教に優先することが決定される。教会や神学校の閉鎖が相次いだ。1926年6月カジェス大統領が第130条に違反した聖職者および個人に対して特定の罰則を定めた「刑法改正法」(カジェス法)に署名、同年8月にグアダラハラで暴動が発生、内戦状態になった。多くの司祭が追放並びに殺害されたが、1929年カジェスの傀儡だったエミリオ・ボルテル・ヒル臨時大統領が譲歩して、1929年、一応の終結を見た。1938年12月、ラサロ・カルデナス大統領によりカジェス法は廃止された。他国と戦った戦争ではない内戦だったので反乱とした。
★1930年、雑誌「メキシコ」に参加する。1933年、グアダラハラ大学への入学を考えていたが、大学がストライキ中であったため、メキシコシティのコレヒオ・デ・サン・イルデフォンソ(メキシコ自治大学UNAMの大学予備校)の聴講生になり、1934年から4年間、UNAMのメキシコ哲学文学部での講義に出席した。大学進学過程を終了していなかったので入学資格はなかった。
★1937年、内務省の文書係に採用され、同年詩人のエフレン・エルナンデスと親交をもち友情を築いた。後には作家フアン・ホセ・アレオラと出合い終生友情を育んだ。翌年には内務省の委託を受けてメキシコの各地を巡る視察の旅をするという幸運に恵まれた。これはその後の彼の作品に生かされることになる。1934年ころから書き始めていた短編を雑誌に発表し始め、1941年からはグアダラハラの出入国移民局に勤務し、次いで1947年から5年間、グッドリッチ・エウスカディ社の職長として働いている。ほか1962年から没するまで、メキシコシティの国立先住民協会のエディターを務めました。1944年に知り合ったクララ・アパリシオと1947年(英語版ウイキペディア1948年)に結婚、4人の子供の父親になった。因みに1964年に生まれた末子フアン・カルロス・ルルフォ・アパリシオが、後述するように映画監督として現在活躍中である。
文学的なキャリアとレガシー、写真集の出版
★作家としては、1945年から1951年にかけて雑誌「パン・イ・アメリカ」などに発表した短編15作を収録した『燃える平原』を1953年に上梓した。なかで1950年に発表された “El llano en llamas” がタイトルに選ばれ、妻クララに捧げられている。1953年から翌年にかけて、1955年に中編小説『ペドロ・パラモ』として出版されることになるオリジナル原稿を3つの異なる雑誌に発表、1つ目のタイトルは ”Una estrella junto a la runa”(仮訳「月のかたわらの星」)、2つ目は “Los murmullos”(同「ささめき」)、3つ目が小説の舞台である田舎町の名前 ”Comala” でした。しかし最終的には主人公の名前 “Pedro Páramo” で刊行されたが、真の主人公はコマラです。

(『ペドロ・パラモ』の初版表紙)
★『燃える平原』の翻訳書は、アンデスの風叢書の1冊として、1990年11月に刊行され、のち文庫化された。以下の邦題は訳者杉山晃の邦訳によった。代表作は1945年「おれたちのもらった土地」、1946年「マカリオ」、1947年「おれたちは貧しいんだ」、1948年「コマドレス坂」、1950年「タルパ」とタイトルになった「燃える平原」、1951年「殺さねえでくれ」、先述したように1953年に『燃える平原』として刊行している。最初のオリジナル版のタイトルは、”Los cuentos del tío Celerino”(仮訳「セレリノおじさんの寓話」)で15作でした。セレリノ叔父は実在の人でルルフォを旅に連れだして見聞を広めてくれた人だと後年語っている。1971年に「犬の声は聞こえんか」と「マティルデ・アルカンヘルの息子」の2編が追加され、現在の17作になった。またフレディ・シソが映画化した「殺さねえでくれ」は、メキシコ革命時代にあった実話をベースにしているということです。

(『燃える平原』の表紙)
★『燃える平原』と『ペドロ・パラモ』の2冊だけでラテンアメリカ文学を代表する作家になったわけですが、ほかに短編集に入らなかった初期の作品、語り手が女性という “Un pedazo de noche”(仮訳「夜の断片」、1980年刊 “El gallo de oro y otros relatos” に収録)などがある。さらに1956年から1958にかけて2番目となる小説 “El gallo de oro” を書いた。ガルシア・マルケスとカルロス・フエンテスが脚本を共同執筆したことで知られる、ロベルト・ガバルドンが1964年に監督した『黄金の鶏』(邦題は「メキシコ映画祭1997」による、未公開)である。映画の台本として書かれたという理由で小説と見なされなかった。

(2017年刊のソフトカバー版の表紙)
★しかしルルフォによると「印刷される前に、ある映画プロデューサーがこの小説に興味をもち、映画の台本用に脚色されたのです。この作品も以前の作品同様、そのような目的で書かれたのではありません。要するに、台本としてしか私の手に戻っこず、再構築するのは容易でなくなった」。台本として書いたのではなく、これまでと同様、小説として書いたということです。この小説は1980年まで出版されなかったが、ずさんな版だったようで、本作のほかに、短編集に選ばれなかった初期作品など14編が含まれている。スペイン語版ウイキペディアによると、2010年版で多くの誤りが訂正され、独語、伊語、仏語、ポ語への翻訳が行われた。

★写真家として、6000枚のネガを残しました。作家の死後、遺族によって設立されたルルフォ財団が所蔵しており、選ばれた一部が刊行されている。”El Mexico de Juan Rulfo” (1980)、"100 Fotografias de Juan Rulfo"(2010)など。また私たちは私たちの過去を知ることが必要であると、ハリスコ州の征服と植民地化についての書籍もあり、彼は歴史家でもあった。
映像作家を刺激し続けるルルフォの作品たち
★ルルフォの作品は、短編を含むと結構の数が映画化されている。玉石混淆ですが、以下に年代順に列挙します。映像は保証の限りではありませんが、YouTubeで見ることができるものもあります。本作『ペドロ・パラモ』も、1967年にカルロス・ベロがペドロにジョン・ギャビンを起用して撮ったモノクロ版があり、カンヌ映画祭1967のコンペティション部門に選ばれている。撮影監督がメキシコ映画黄金期を代表するガブリエル・フィゲロアで、先述のガバルドンの『黄金の鶏』も彼が手掛けている。メキシコ時代のルイス・ブニュエルと『忘れられた人々』、『ナサリン』、『砂漠のシモン』など何作もタッグを組んだ撮影監督としても有名です。


(ペドロの二人の息子の出合い、フアンとアブンディオ)


(ドロレスに求婚するようフルゴル・セダノに指示するペドロ)
★ルルフォの創作の主軸には、父親の不在と憎悪があり、背景にはメキシコ革命とクリステロの反乱の結果がある。革命によって土地所有者の権利がなくなったわけでもなく、ルルフォに限らず多くの家族の崩壊をもたらした。特別なことを何も持たない「普通の人々」を登場人物にしたルルフォの作品には、孤独が付きまとう、彼にとって書くことは苦しみであったに違いない。作家が寡作なのは、2冊ですべてを書ききったからでもあるでしょうが、この絶対的な孤独の存在も理由の一つだろうと思います。
1956年「タルパ」長編、監督、短編集『燃える平原』収録作品の脚色
1964年『黄金の鶏』(邦題メキシコFF1997による)長編、監督ロベルト・ガバルドン
1965年「La fórmula secreta」中編42分、監督ルベン・ガメス、
1980年刊の “El gallo de oro” に含まれた詩がベース
1967年「ペドロ・パラモ」監督カルロス・ベロ、カンヌFF1967正式出品
1972年「El Rincón de las Vírgenes」監督アルベルト・アイザック、
短編集収録の「アナクレト・モローネス」と「大地震の日」の脚色
1985年「殺さねえでくれ」ベネズエラ製作、監督フレディ・シソ、短編集収録作品の脚色
1986年「El imperio de la fortuna」監督アルトゥーロ・リプスタイン、
“El gallo de oro” がベース
1991年「ルビーナ」監督ルシンダ・マルティネス、短編集収録作品の脚色
1996年「Un pedazo de noche」短編30分、監督ロベルト・ロチン、初期短編の脚色
2008年「Burgatorio」(仮訳「煉獄/苦悩」)短編23分、監督ロベルト・ロチン、
短編集収録「北の渡し」、初期短編「Un pedazo de noche」、「Cleotilde」を脚色、
アリエル賞2000短編賞を受賞
2014年「マカリオ」短編24分、監督ジョエル・ナバロ、短編集収録作品の脚色
2024年『ペドロ・パラモ』監督ロドリゴ・プリエト
(以上、TVシリーズは割愛)
★映画監督になった末子フアン・カルロス・ルルフォ・アパリシオは、ドキュメンタリー映像作家として、パートナーのバレンティナ・ルダック・ナバロと二人三脚で活躍している。IMDbによると、代表作は監督が父親ルルフォを探してハリスコを旅する「Del olvido al no me acuerudo」(99)で、アリエル賞のオペラプリマ賞、編集賞ほか、モントリオールFFの初監督作品賞など多数の受賞歴がある。作家で親友だったフアン・ホセ・アレオラ、母クララなどが出演している。父親に関係する作品は本作だけのようです。2006年に撮った「En el hoyo」は、国際映画祭巡りをした話題作、アリエル賞2007のドキュメンタリー賞他、サンダンス、カルロヴィ・ヴァリ、グアダラハラ、リマ、マイアミ、各映画祭の受賞歴多数。メキシコ先住民のサンダル履きのマラソンランナーを描いた、『ロレーナ:サンダル履きのランナー』(2019、28分)が、ネットフリックスで鑑賞できる。100キロのウルトラマラソンの勝者、美しい風景と民族衣装、感動します。
★次回は監督以下、スタッフ、キャスト紹介を予定しています。
『ペドロ・パラモ』ロドリゴ・プリエトが初監督*ネットフリックスで鑑賞① ― 2024年11月17日 18:04
ペドロ・パラモの内面と外面の映像化に成功したか?

★11月6日ネットフリックス配信直前の11月3日、ラテンビート映画祭の特別企画としてヒューマントラストシネマ渋谷で1回切りのスクリーンでの上映会がもたれた。2021年夏、ネットフリックスがフアン・ルルフォの中編小説『ペドロ・パラモ』(“Pedro Páramo ” 1955年刊)の映画化を発表した。「ウソでしょ、いったい誰が監督するの?」。1年後、ロドリゴ・プリエトが本作で監督デビューすることが発表された。プロダクションデザインにエウヘニオ・カバジェロ、衣装デザインにアンナ・テラサスが担当することもアナウンスされた。どうやら本当だったらしく、ペドロ・パラモ役にマヌエル・ガルシア=ルルフォ、フアン・プレシアド役にテノッチ・ウエルタで、翌2023年5月クランクイン、8月に撮影が終了した。本当に驚きました。

(撮影中のロドリゴ・プリエト監督とペドロ役のマヌエル・ガルシア=ルルフォ)
★なお原作に言及するので、以下に翻訳書を明記しました。『ペドロ・パラモ』岩波文庫、1992年10月刊、杉山晃/増田義郎訳、管理人は第1刷を使用した。製作スタッフ、キャスト、ストーリーとデータのみアップしておきます。監督キャリア&フィルモグラフィー、原作者紹介は別途に予定しています。

『ペドロ・パラモ』(原題「Pedro Páramo」)
製作:Redrum Production / Woo Films
監督:ロドリゴ・プリエト
脚本:マテオ・ヒル、ロドリゴ・プリエト
原作:フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』(“Pedro Páramo ”)
音楽:グスタボ・サンタオラジャ
撮影:ニコ・アギラル、ロドリゴ・プリエト
編集:ソレダド・サルファテ
キャスティング:ベルナルド・ベラスコ
プロダクションデザイン:エウヘニオ・カバジェロ、カルロス・Y・ジャック
美術:エズラ・ブエンロストロ
衣装デザイン:アンナ・テラサス
製作者:sutacy Perskieペルスキー(Redrum Production)、 ラファエル・レイ(Woo Films)、フランシスコ・ラモス、Gildardo Martinez マルティネス
データ:製作国メキシコ、2024年、スペイン語、ドラマ、131分、撮影地メキシコ、期間2023年5月~8月、配給Netflix、配信開始2024年11月6日
映画祭・受賞歴:第49回トロント映画祭2024プラットフォーム部門プレミア上映
キャスト:
マヌエル・ガルシア=ルルフォ(ペドロ・パラモ)
テノッチ・ウエルタ(フアン・プレシアド、ペドロの息子)
ドロレス・エレディア(エドゥビヘス・ディアダ)
イルセ・サラス(スサナ・サン・フアン、ペドロの最後の妻)
エクトル・コツィファキス(フルゴル・セダノ、パラモ家の管理人)
マイラ・バタジャ(ダミアナ・シスネロス、メディア・ルナの女中頭)
ロベルト・ソサ(レンテリア神父)
ジョバンナ・サカリアス(ドロテア〈ラ・クアラカ〉、フアンと同じ墓に埋葬)
イシュベル・バウティスタ(ドロレス・プレシアド、ドロリータス、ペドロの妻、フアンの母)
ノエ・エルナンデス(ロバ追いのアブンディオ・マルティネス、ペドロの息子)
サンティアゴ・コロレス(ミゲル・パラモ、パブロが認知した息子)
ジルベルト・バラサ(ダマソ〈エル・ティルクアテ〉)
オラシオ・ガルシア・ロハス(ドニス)
ヨシラ・エスカルレガ(ドニスの妹)
アリ・ブリックマン(バルトロメ・サン・フアン、スサナの父親)
ガブリエラ・ヌニェス(マリア・ディアダ、エドゥビヘスの姉)
サラ・ロビラ(子供時代のスサナ・サン・フアン)
セバスティアン・ガルシア(子供時代のペドロ・パラモ)
マイラ・エルモシージョ(ペドロの母)
フリエタ・エグロラ(ペドロの祖母)
フェルナンダ・リベラ(マルガリータ、パラモ家の女中)
アナ・セレステ・モンタルボ(アナ、レンテリア神父の姪)
イリネオ・アルバレス(トリビオ・アルドレテ、不動産鑑定士、縛り首)
エドゥアルド・ウマラン(使い走り)
ほか多数
ストーリー:ペドロ・パラモという名の顔も知らない父親を探しておれはコマラにやって来た。しかしそこは、ひそかなささめきに包まれた死者ばかりの町であった。複数の生者と死者の声が錯綜しながら、切り離すことのできない死と生、存在しない死と生の境界、終わりのない死、人間の欲望、権力の乱用と腐敗、殺人、罪と贖罪、想像と記憶、メキシコ革命、繁栄と没落、ペドロ・パラモの不毛の愛、スサナ・サン・フアンを絶望から救う狂気の世界、ささめきに殺られたフアン・プレシアドの人生が円環的に語られる。 (文責:管理人)
本当の主人公「コマラ」の町のコントラストが語られる
A: 原作を読んだ人には物足りなく、小説はおろか原作者の名前も初めてという人には時系列がバラバラなので、なかには睡魔に襲われた人もいたのではないか。特に冒頭部分の語り手が頻繁に入れ替わることで時代が行ったり来たりするので、原作を読んでいても記憶が曖昧ですと戸惑います。
B: 原作は70の断片で構成されており、短いのはたったの3行、長いのは数ページに及ぶ。誰が語り手か分かるのと、誰の声なのか分かりづらいのもあるが、冒頭部分を見落とさないようにすれば、全部過去の話だと分かる仕掛けがしてある。
A: 映画を機会にこれから小説を読もうとするなら、作家は読者が迷子にならないよう工夫を施していますから、コツを掴むとついていけないほどではありません。点ではなく線と面で登場人物を可視化することをお奨めします。いわゆるペドロ・パラモ「人物相関図」というやつで、ハマります(笑)。
B:最初の語り手は、顔も知らない父親ペドロ・パラモを探しにコマラにやって来たフアン・プレシアド、「おれ」という一人称の語りで始まる。コマラに来る途中で、異母兄弟だというアブンディオというロバ追いに出遭い案内してもらえる。彼が町に着いたらエドゥビヘスの奥さんを訪ねるといいと教えてくれる。

(ペドロ・パラモの息子フアン・プレシアド役のテノッチ・ウエルタ)
A: フアンが最初に出合った人物が異母兄弟と知らされた私たちは呆気にとられる。どうやら異界に足を踏み入れてしまった。コマラは『百年の孤独』(1967刊)のマコンドと同じ架空の町です。コマラ以外に実際にある町の名の変形版もあったが、最終的には地域を限定したくなかったので Comalaにした。Comal はメキシコ料理の代表格トルティージャを焼く素焼きの薄い皿のことで、熱い火に焼かれる。ロバ追いがコマラは「地獄で火にあぶられる」ように暑い(熱い)とフアンに語っている。伊達にコマラにしたわけではない。
B: コマラに入ると、通りがかったショールを被った女にエドゥビヘスの家を教えてもらえ辿り着ける。このショールの女がドロテア、別称〈ラ・クアラカ〉です。ドロテアは産んでもいない息子を探すため寂れてしまってもコマラを去ることができない。一方フアンは母親の遺言を果たすため顔も知らない父親を探しにコマラにやってくる。二人ともこの世に存在しないものを探している。

(産んでもいない息子を抱えてコマラを彷徨うドロテア)
A: ドロテアはとても重要な登場人物です。半ばに大きな段落が用意されていて、教会の広場で野垂れ死にしていたフアンを埋葬した後、自身もこの世を去る。そういうわけで二人は一緒の墓に眠っている。私たちはフアンの語りの相手が自分たちではなくドロテアだったことに気づかされ、ショックで腰を抜かします。
B: フアンの母親ドロレス・プレシアド、愛称ドロリータスは、メディア・ルナの若い女あるじ、ペドロの財産目当ての求婚を愛と勘違いしてしまう甘やかされた女性です。そしてドロリータスの親友だったというドロレス・エレディア(1966生れ)扮するエドゥビヘスは、ドロレスより年も若く肌の色も少し白かった女性ですが、映画ではかなり年上で反対に見えた。

(エドゥビヘス役のドロレス・エレディア、ドロリータス役のイシュベル・バウティスタ、
赤ん坊のフアンを抱く女中のダミアナ・シスネロス役のマイラ・バタジャ)
A: 人によって自分が描いていたイメージと違うわけですが、青春時代と後年犯した罪の重さから逃れるために自死してしまうエドゥビヘスを同じ女優に演じさせたことが一因かもしれません。どんなベテラン女優でも年齢には限界があります。後半キャスト紹介を予定しておりますが、フアンより先に死んでいるアブンディオも彼より10歳くらい年上に見えます。小説と映画は別の作品という考えもありますが、本作にはキャスティングミスが幾つかある印象です。

(コマラの町を見下ろすフアンとアブンディオ役のノエ・エルナンデス)
B: 本作では二人ともペドロが父親という立ち位置は変えられません。エドゥビヘスのケースとは話が違います。ペドロとスサナは、子供時代と中年時代という違いがあるから違和感ありませんが、小説では伏線が張ってあるペドロの生来の悪の部分が見えにくかった。
A: エドゥビヘスにペドロのもう一人の息子、17歳で旅立ったミゲル・パラモの死を語らせます。それぞれ息子たちはペドロの分身ですが、ミゲルが一番悪の性格を受け継いでいます。一方ペドロに憧れの女性で最後の妻となるスサナ・サン・フアンを詩的なモノローグで語らせます。あまり幸せそうでないペドロの母親、祖母、そして祖父が既に旅立ったことなども語られて、つまり冒頭のいくつかの断片でこの作品の重要人物の大方が出揃うことになります。
B: 欠けているのはレンテリア神父とパラモ家の悪辣な管理人フルゴル・セダノ、貞操を守ったことでパラモ家の女中頭になったダミアナ・シスネロスあたりでしょうか。
A: ペドロやドロリータスのモノローグから、コマラという「露の滴る緑豊かな実りのある町」が紹介され、フアンやアブンディオが「泥と粘土に蔽われた死者の町」を紹介します。このコマラという町の二面性がペドロ・パラモを象徴しており、「コマラが本当の意味での主人公」と称される所以です。特にペドロのモノローグは詩的な抒情性に富んでいて、父親ルカス・パラモの殺害者が特定できないので、居合わせた人間を片っ端から殺してしまう残忍さと対照的です。
B: 小説と違って、映画ではあっという間に字幕が消えるので、コントラストの違いが分かりづらいかもしれません。セリフはリアリズムで押していくので、その落差が際立ちます。
A: 謎めいたセリフもあるにはありますが、概ねリアリズムです。
ペドロの偶像スサナ・サン・フアンの狂気
B: レンテリア神父は、父親をミゲル・パラモに殺された姪アナと暮らしている。神父は兄弟を殺されているわけです。アナはペドロの負の部分を受け継いだ息子ミゲルにレイプされている。
A: 告解室では「ペドロ・パラモの子供を産みました」、または「ペドロ・パラモと寝ました」という女性たちの告解をうんざりするほど聞かされます。しかしペドロは一度として許しを請いに来たことがありません。赤子に罪はないのに神父は、死んだ母親から託されたミゲルをペドロに引き取らせたのでした。
B: お産で死んだ母親の代わりにミゲルを育てたのが、パラモ家の女中頭のダミアナ・シスネロスでした。この登場人物もドロテア級の重要さを秘めています。
A: 夫の嫌がらせに心が壊れてしまっていたドロリータスが、フアンを連れて家を出るまでの短期間でしたが、母親の代わりにフアンを育てたのがダミアナでした。後で触れますが、彼女はアブンディオ・マルティネスが父親であるペドロを刺し殺す現場にいて巻き添えになって命を落とします。何が重要かと言うと、フアンとペドロ・パラモを死の世界に呼び入れ付き添っていく女性だからです。エドゥビヘスの家へメディア・ルナからフアンを迎えに駆けつけ、彼を死の世界へ導いていく女性です。登場は遅いですが女性の重要人物 5人のなかの一人です。

(上段左から、ドロテア、ドロリータス、中段スサナ、下段ダミアナ、エドゥビヘスの5人)
B: ダミアナはコマラではなくメディア・ルナで眠っているから、フアンを迎えに来るのに「時間がかかってしまった」と語っている。映画はエドゥビヘスが手にする明りを蝋燭、ダミアナにはランプを持たせることで、二人が死んだ時代の違い、刻の流れを語らせているようです。ルルフォは明りとするだけで区別はしておりませんが。
A: 時代考証をしたのでしょう。小説でも二人の突然の入れ替わりの理由が分かるまで時間が必要な断片です。映画では猶更ですね。5人目となるスサナ・サン・フアンは、母親の死を機に鉱山で働いていた父バルトロメ・サン・フアンと大嫌いなコマラを去る。しかし革命の噂に不安を感じたバルトロメは、嫌な予感を振り払って、不穏になった町から未だ影響の少なかった地方の町コマラに娘と30年ぶりに戻る決心をする。
B: 実はペドロが手をまわして帰郷させたわけですね。コマラを出たのが12歳かそこいらとすると42歳くらいになっている。日本でも認知度の高いイルセ・サラスをがちがちに減量させている。

(悔い改めるべき罪は犯していないスサナ・サン・フアン)
A: 既に心が折れてしまっていたスサナに昔の面影はない。年代が特定できる手掛かりはメキシコ革命(1910~17)と、その後のクリステロスの反乱(1926~29)だけですから、逆算すると二人は1869年か1970年くらいに生まれていたことになる。母親の死が7日前とか、ペドロとドロレスの結婚式は4月3日、またはスサナ死亡は12月8日のように、月日は明確にしているが何年かは示さないので類推するしかない。おそらくスサナが戻るのは1910年以降に設定されている。

(旅立つスサナとレンテリア神父、なすすべのないペドロとダミアナ)
B: 「バルトロメと女房のスサナが戻った」とペドロに知らせるのがフルゴル・セダノ、ペドロから女房でなく娘だと訂正される。するとフルゴルもペドロのスサナへの愛を知らないことになりますね。
A: 人を介してずっと探し回っていたのに、自分の弱みを腹心の部下フルゴルにも悟られないようにしていたわけです。この用心深さ、用意周到さがなければ地方地主とはいえ権力者にはのし上がれない。父娘は近親相姦の関係にあり、ペドロにとってバルトロメは邪魔者、バルトロメにとっても憎しみそのものでしかない。ペドロは「邪魔者は消せ」とフルゴルに指示、トリビオ・アルドルテをエドゥビヘスのバルの奥の部屋で縛り首にしたように、さっそく事故に見せかけて亡き者にしてしまう。スペイン語の Fulgor の意味は皮肉にも文章語で使用する「光輝、見事」という意味なのです。
B: スサナは自分の意図に反してだが罪を犯しているので天国には行けないと思っている。トラウマを克服するための避難所として狂気の世界に逃げ込んでいる。
A: 結果、フロレンシオという想像の夫をつくり出す。小説に現れるのも名前だけで謎の人物です。スサナは父親とだけ暮らしていて、誰とも結婚していない。スサナのモノローグから、彼女が「あの人」と呼ぶ男性と海で裸で泳ぐシーンが挿入されています。スサナは実際の海を知らないはずですが、ここはトラウマがつくり出す想像が記憶の一部となっている部分で、記憶を改竄しているのではない。

(盛装してスサナを迎え入れるペドロ・パラモと女中頭ドロレス)
B: スサナのモノローグを聞いたのはフアンである。彼とドロテアはスサナの墓の近くに埋葬されているから、フアンはスサナのモノローグを聞くことができた。
A: この断片は、スサナの声をフアンとドロテアが聞くという複雑な構造をしていて、小説でも面白い部分です。ほかにもスサナが死んだ母親のことを語る部分をフアンとドロテアに語らせる断片もあります。
B: プリエト監督は、撮影監督としてスタートしただけに映像は抜群に素晴らしかったが、スサナの箇所は引っ張りすぎかな。
謎の登場人物ドニスとその妹――フアンが生み出した幻覚
A: スサナが生み出したフロレンシオのほかに、フアンが死ぬ間際に出合うドニスとその妹も謎の人物です。フアンが出合ったとき、二人が生きているのか死んでいるのか彼には分からない。
B: 私たちにも同じく分からない。フアンは二人を夫婦と思っていたが、女は「妹だ」と応えている。
A: 女は罪を犯したので「体の内側は土と粘土でどろどろしている」とフアンに語る。ルルフォによると、二人はそもそも「存在していない」とインタビューで語っている。フアンの「死の恐怖がもたらした幻覚だ」としている。フアンを捉えている死を先導する幻覚だというわけです。だから女がどろどろに溶け出すのも不思議ではないわけです。

(ヨシラ・エスカルレガが演じたドニスの妹)
B: しかし小説では、ドロテアが教会の広場で死んでいるフアンを見つけたとき、彼女はドニスが通りがかるのを見ている。ドニスも幻覚だと変に思えるが。
A: 謎の多い断片ですね。最初何が起きたのか分からない断片でも、作家は予期しないところで突然種明かしをする。しかしここはしていないのでよく質問されるそうです。複雑だが独立しているように思えます。とにかくルルフォは人が悪い作家、読者を翻弄するのが好きなのです。
B: 死者の世界では人物は時間を無視して交錯するが、死者と生者は交わらないようです。
A: もっとも死と生は切り離すことができないし、その境界もあいまいです。ペドロは息子と称するロバ追いのアブンディオに刺されて死ぬのですが、スサナを失ったときから少しずつ体の一部が死んでいく。それより前のミゲルの死から既に始まっているとも言えます。
B: メディア・ルナの玄関先に置かれた籐椅子に案山子のように座ったままのペドロは、刺される前に既に死んでいるとも解釈できる。
A: まだこちら側にいますが、ペドロより少し前に息を引き取ったダミアナ・シスネロスが、彼の肩に手を置いて「お昼ご飯もってきましょうか」と尋ねる。ペドロは「あっちへ行くよ。今行くよ」と答えるシーンでやっと此の世を去ることができた。
B: 最後のシーンには呆気にとられましたが。
A: 最後のシーンからフアン・プレシアドがコマラに到着した冒頭に戻り、円環的にぐるぐる回って終りがない小説だと思っていました。解釈は複数あって当然ですが、これでは冒頭に戻れないのではないか。積み残しのテーマが幾つかありますが、長くなったので一旦休憩して、原作者、監督、脚本家、キャスト紹介をしながら、最後のシーンにも触れたいと思います。
オリソンテス・ラティノス部門第2弾*サンセバスチャン映画祭2024 ⑬ ― 2024年08月23日 14:41
過去の受賞者フェルナンダ・バラデス、ルイス・オルテガなどの新作
★オリソンテス・ラティノス部門第2弾は、アルゼンチンに実在した美少年の殺人鬼を映画化した『永遠に僕のもの』(18)のルイス・オルテガ、2020年のオリソンテス賞を受賞した『息子のの面影』のフェルナンダ・バラデスなどが新作を発表している。それぞれ4作ともカンヌ映画祭併催の「批評家週間」、ベネチア映画祭、ベルリン映画祭、サンダンス映画祭などでワールドプレミアされた作品ですが、スペインでは未公開なので選ばれています。本祭は開催時期が遅いこともあって二番煎じの印象が付きまとい分が悪い。第2弾として4作品をアップします。
*オリソンテス・ラティノス部門 ②*
5)「Simón de la montaña / Simon of the Mountain」
アルゼンチン=チリ=ウルグアイ=メキシコ
2024年、スペイン語、ドラマ、96分、公開アルゼンチン10月17日
脚本フェデリコ・ルイス、トマス・マフィー、アグスティン・トスカノ
監督:フェデリコ・ルイス(ブエノスアイレス1990)は、監督、脚本家。ブエノスアイレス大学で社会コミュニケーションを専攻、2013年卒業制作「Vidrios」を共同監督し、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭(Bafici)でプレミアされた。ほか短編がカンヌ、トロント、マル・デル・プラタ、アムステルダム・ドキュメンタリー(IDFA)など各映画祭で受賞している。本作が単独監督デビュー作である。
映画祭・受賞歴:カンヌFF2024併催の「批評家週間」グランプリ受賞、ゴールデンカメラ賞ノミネート、上海FF上映、ミュンヘンFFシネビジョン賞作品賞受賞、リマFFドラマ部門審査員俳優賞受賞(ロレンソ・フェロ)、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:ロレンソ・フェロ(シモン)、ペウエン・ペドレ、キアラ・スピニ、ラウラ・ネボレ、アグスティン・トスカノ、カミラ・ヒラネ
ストーリー:21歳になるシモンは、引っ越しのヘルパーをしている。なんとか現実を変えたいが料理もダメ、トイレ掃除もダメ、ただベッドメーキングはできる。最近、障害をもつ子供二人と友達になったことで変化の予感がしてきた。彼らは自分たちのために設計されていない世界を一緒にナビゲートし、愛と幸福のための独自のルールを発明していく。ルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』で実在した殺人鬼を演じたロレンソ・フェロがシモンを演じている。



6)「El jockey / Kill The Jockey」
アルゼンチン=メキシコ=スペイン=デンマーク=米国
2024年、スペイン語、犯罪ドラマ、97分、脚本ファビアン・カサス、ルイス・オルテガ、ロドルフォ・パラシオス。海外販売Film Factry Entertainment、公開アルゼンチン9月26日、Disney+でストリーミング配信される予定
監督:ルイス・オルテガ(ブエノスアイレス1980)、監督、脚本家。両親とも俳優、兄セバスティアンは映画製作者など、アルゼンチンでは有名なアーティスト一家。2002年、メイド・イン・スペイン部門に長編デビュー作「Caja negra」が選ばれている。公開された『永遠に僕のもの』はカンヌの「ある視点」のあと、本祭ペルラス部門にエントリーされた。監督キャリア&フィルモグラフィーは7作目となる『永遠に僕のもの』にアップしています。新作が8作目と若い監督ながらチャンスに恵まれている。
*監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年05月15日
映画祭・受賞歴:ベネチアFF2024コンペティションでワールドプレミア(8月29日)、トロントFF「センターピース」部門出品、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:ナウエル・ペレス・ビスカヤート(レモ・マンフレディーニ)、ウルスラ・コルベロ(レモの恋人アブリル)、ダニエル・ヒメネス≂カチョ(シレナ)、マリアナ・ディ・ジロラモ(アナ)、ダニエル・ファネゴ、ロリー・セラノ、ロベルト・カルナギ、アドリアナ・アギーレ、オスマル・ヌニェス
ストーリー:伝説の騎手レモ・マンフレディーニの自己破壊的な行動は、彼の才能に影を落とし始めている。恋人のアブリルとの関係も脅かしている。騎手であるアブリルはレモの子供を宿しており、子供か名声かを選ばなければならない。かつて命を救ってくれたマフィアのボスのシレナからの借金を精算しなければならない、彼の人生でも重要なレースの日、貴重な馬を死なせてしまう深刻な事故に遭ってしまう。病院から抜け出してブエノスアイレスの街路を彷徨います。自分のアイデンティティから解放されたレモは、自分が本当は誰であるべきなのか考え始める。一方シレナは生死にかかわらず彼を見つけだすための捜索を開始する。アブリルはシレナより先に彼を見つけようとする。


7)「Cidade; Campo」ブラジル=ドイツ=フランス
2024年、ポルトガル語、ミステリー・ドラマ、119分、脚本ジュリアナ・ロハス、製作者サラ・シルヴェイラ、音楽リタ・ザルト
監督:ジュリアナ・ロハスは、1981年サンパウロ州カンピナス生れ、監督、フィルム編集者、脚本家。サンパウロ大学の情報芸術学校で映画を専攻した。大学で出合ったマルコ・ドゥトラとのコラボレーションでキャリアをスタートさせ、数編の短編で注目を集める。2011年、ドゥトラとのデュオで長編デビュー作「Trabalhar Cansa / Hard Labor」を撮り、カンヌFF「ある視点」でプレミアの後、シッチェスFF新人監督賞、ハバナFFサンゴ賞3席、リマ・ラテンアメリカFFスペシャル・メンションなどを受賞した。2017年、ホラーファンタジー「As Boas Maneiras / Good Manners」でロカルノFF銀豹賞を受賞、翌年『狼チャイルド』の邦題で公開された。
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2024エンカウンターズ部門*監督賞受賞、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
*エンカウンターズ部門は2020年に新設されたインディペンデント作品を対象にしている。作品・監督・新人監督・審査員特別賞などがある。
キャスト:フェルナンダ・ヴィアナ(ジョアナ)、ミレッラ・ファサーニャ(フラヴィア)、ブルナ・リンツマイヤー(マラ)、カレブ・オリヴェイラ(ハイメ)、アンドレア・マルケー(タニア)、プレタ・フェレイラ(アンヘラ)、マルコス・デ・アンドラーデ(セリノ)ほか
ストーリー:都会と田舎に移住した二つの物語が語られる。一つ目はジョアナの物語、貯水池が決壊して生れ故郷の土地が浸水してしまうと、彼女は孫のハイメと暮らしている姉タニアを頼ってサンパウロに移住する。ジョアナは労働者の都会で成功するため闘うことになる。不安定な雇用のなかより良い仕事を求めて同僚と絆を深めていく。二つ目はフラヴィアの物語、疎遠にしていた父親の死後、フラヴィアは妻のマラと一緒に父の農場に移り住む。二人の女性は新たなスタートを切りますが、田舎の厳しい現実に直面してショックを受けます。自然が二人の女性をフラストレーションに向き合わせ、古い記憶と幻影に立ち向かうことを強います。


(ジョアナ、ハイメ、タニア)

(マラ、フラヴィア)

8)「Sujo / Hijo de sicario」メキシコ=米国=フランス
2024年、スペイン語、ドラマ、126分、脚本アストリッド・ロンデロ&フェルナンダ・バラデス、撮影ヒメナ・アマン、編集スーザン・コルダ、両監督、録音オマール・フアレス・エスピナ、衣装デザインはアレハ・サンチェス。スージョ役に『息子の面影』でデビューしたフアン・ヘスス・バレラが起用され、その演技が絶賛されている。
監督:アストリッド・ロンデロ(メキシコシティ1989)、監督、製作者、脚本家、共同監督のフェルナンダ・バラデスの『息子の面影』の脚本を共同執筆している。単独で監督した「Los días más oscuros de nosotras」(17)は、アリエル賞2019のオペラ・プリマ賞、主役のソフィー・アレクサンダー・カッツが女優賞にノミネートされたほか、ボゴタ、サンアントニオ、モンテレイ、サントドミンゴ・アウトフェスなどの国際映画祭で作品賞や脚本賞を受賞している。共同監督のフェルナンダ・バラデス(グアナフアト1981)は、上述したようにSSIFF 2020オリソンテス賞を受賞した『息子のの面影』を撮っている。キャリア&フィルモグラフィーについては、ロンデロ監督も含めて以下に紹介しています。両監督ともメキシコにはびこる暴力、麻薬密売、社会的不平等、女性蔑視などを映像を通じて発信し続けています。
*『息子の面影』の紹介記事は、コチラ⇒2020年11月26日
映画祭・受賞歴:サンダンスFF2024ワールドシネマ・ドラマ部門審査員グランプリ、ソフィアFFインターナショナル部門グランプリ、トゥールーズ・ラテンアメリカFFレールドック賞&シネプラス賞、スペイン・ラテンアメリカ・シネマ・フェスティバル作品賞他を受賞。ヨーテボリ、香港、マイアミ、ダラス、シアトル、シドニー、ミュンヘン、ウルグアイ、マレーシア他、各映画祭でノミネートされている。SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:フアン・ヘスス・バレラ・(スージョ)、ヤディラ・ペレス・エステバン(叔母ネメシア)、アレクシス・バレラ(ジャイ)、サンドラ・ロレンサノ(スーザン)、ハイロ・エルナンデス・ラミレス(ジェレミー)、ケヴィン・ウリエル・アギラル・ルナ(少年スージョ)、カルラ・ガリード(ロサリア)ほか
ストーリー:メキシコの小さな町、スージョが4歳だったとき、麻薬カルテルのヒットマンだった父親が残忍な方法で殺害されるのを目撃する。彼は叔母ネメシアの機転で間一髪で命を救われるが孤児となる。ネメシアは危険を避け、生れ故郷の暴力が届かないところでスージョを苦労を重ねながら育てていた。しかし彼の人生には暴力の影が付きまとい、成長するにつれ父親の過去の忘れられない暴力的な遺産にとらえられ、面と向かって立ち向かうことが自分の宿命のように思えてくる。カルテルがスージョとその友人たちを見つけだす。スージョ役に『息子の面影』でデビューしたフアン・ヘスス・バレラが起用され、その演技が絶賛されている。



(メキシコ版のポスター「Hijo de sicario」)

(アストリッド・ロンデロ、フェルナンダ・バラデス、サンダンスFF2024ガラにて)

(左から、フェデリコ・ルイス、ルイス・オルテガ、ジュリアナ・ロハス、
アストリッド・ロンデロ)
第66回アリエル賞2024(メキシコ)*ノミネーション発表 ― 2024年07月12日 11:22
リラ・アビレスの「Tótem」が最多15ノミネーション

★6月19日、第66回アリエル賞2024のノミネーション発表がありました。来月には『夏の終わりに願うこと』の邦題で劇場公開されるリラ・アビレスの「Tótem」が、作品賞、監督賞、脚本賞を含む最多ノミネーション15個とぶっちぎり、9月7日の授賞式を待つまでもなく作品賞はほぼ決まりでしょう。数が多くても空振りに終わることも多々ありますが、今回は予想通りになると思います。つづくのがダビ・ソナナの「Heroico」とエリサ・ミジェルの「Temporada de huracanes」の11個です。俳優賞は同一カテゴリーに複数ノミネートされることからカテゴリー数と一致しません。今回の「Tótem」で言うと、女優共演者賞に3人、新人俳優賞に2人が複数ノミネートされています。
*選考母体はハリスコ州政府とメキシコ映画アカデミー(AMACC)、2023年中に製作された作品が対象、授賞式は9月7日、ハリスコの州都グアダラハラのデゴジャド劇場で開催されます。

(最多15ノミネーションの日本語版「Tótem」ポスター)
★他の作品賞5作品には、タティアナ・ウエソの「El Eco」(7個)とディエゴ・デル・リオの「Todo el silencio」(6個)がノミネートされています。前者はドキュメンタリーの要素が多いことから長編ドキュメンタリー部門にもノミネートされ、後者は監督デビュー作なのでオペラ・プリマ部門にもノミネートされています。両作ともこちらで受賞する確率が高そうですが、アビレス、ミジェル、ウエソと3人の女性監督ノミネートが話題になっています。大分先になりますが、結果発表を予定しています。

(作品賞ノミネート5作品)
★当ブログで作品紹介をすることの多いイベロアメリカ映画賞には、ノータッチ作品が含まれていますが、以下の5作がノミネートされています。
「Al otro lado de la niebla」(エクアドル)監督セバスティアン・コルデロ
「La hembrita」(ドミニカ共和国)同ラウラ・アメリア・グスマン
「La sociedad de la nieve」(スペイン『雪山の絆』)同J.A. バヨナ
「Los colonos」(チリ『開拓者たち』)同フェリペ・ガルベス
「Puan」(アルゼンチン)同マリア・アルチェ & ベンハミン・ナイシュタット
◎関連記事・管理人覚え◎
*「Tótem」の紹介記事は、コチラ⇒2023年08月31日
*「Heroico」の紹介記事は、コチラ⇒2023年08月31日
*「El Eco」の紹介記事は、コチラ⇒2023年08月23日
*『雪山の絆』の紹介記事は、コチラ⇒2023年11月04日/11月14日
* 『開拓者たち』の紹介記事は、コチラ⇒2023年05月15日
*「Puan」の紹介記事は、コチラ⇒2023年07月15日
ミシェル・フランコの最新作「Memory」*ベネチア映画祭2023 ― 2024年07月08日 11:24
ジェシカ・チャステイン主演の傷ついたラブストーリー「Memory」

★昨年の第80回ベネチア映画祭2023の記事など今更の感無きにしも非ずですが、メキシコの監督ミシェル・フランコの長編8作目「Memory」の紹介です。主演がジェシカ・チャステインとピーター・サースガードということですから言語は英語です。若年性認知症を患っている主人公を演じたサースガードがベネチアの男優賞ヴォルピ杯を受賞しています。ベネチアにはサースガードと結婚した女優で2021年に『ロスト・ドーター』で監督デビューも果たしたマギー・ジレンホール(英語読みギレンホール)も出席していた。

(左から、ミシェル・フランコ監督、ジェシカ・チャステイン、
ピーター・サースガード、ベネチア映画祭2023フォトコール)
★第77回ベネチア映画祭2020で銀獅子審査員グランプリ受賞の「Nuevo orden」(20、『ニューオーダー』公開)以来、フランコ映画は記事にしておりませんでした。翌2021年、同じベネチアFFにノミネートされた7作目「Sundown」(メキシコ・スイス・スウェーデン)は、舞台をメキシコのアカプルコに設定していますが、キャストはティム・ロスとシャルロット・ゲンズブール、言語は英語とスペイン語でした。メキシコのイアスア・ラリオスがベレニス役で共演していました。ラリオスは最近発表になったアリエル賞2024で最多ノミネーション15部門のリラ・アビレスの「Tótem」に出演している演技派女優、TVシリーズ出演が多そうで受賞歴はありませんが、ポストプロダクションで主役に起用されている映画が目白押しで将来が楽しみです。
*6作目『ニューオーダー』(20)の紹介記事は、コチラ⇒2022年06月13日
*「Tótem」(23)の作品紹介は、コチラ⇒2023年08月31日
★ミシェル・フランコ(メキシコシティ1979)の主なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、以下にアップしております。監督にとどまらず制作会社「Teoréma」を設立して、プロデューサーとしてラテンアメリカ諸国(ロレンソ・ビガスの『彼方から』『箱』など)や独立系の米国映画(ソフィア・コッポラの『オン・ザ・ロック』など)に出資して映画産業の発展に寄与しています。
*4作目『ある終焉』(16)は、コチラ⇒2016年06月15日/同月18日
*5作目『母という名の女』(17)は、コチラ⇒2017年05月08日
「Memory」
製作:High Frequency Entertainment / Teoréma / Case Study Films / MUBI /
Screen Capital / The Match Factory
監督・脚本:ミシェル・フランコ
撮影:イヴ・カペ
編集:オスカル・フィゲロア、ミシェル・フランコ
キャスティング:スーザン・ショップメーカー
プロダクションデザイン:クラウディオ・ラミレス・カステリ
製作者:エレンディラ・ヌニェス・ラリオス、ミシェル・フランコ、ダンカン・モンゴメリー、アレックス・オルロフスキー
データ:製作国メキシコ、米国、2023年、英語、ドラマ、103分、撮影地ニューヨーク、公開米国、イギリス、アイルランド、イタリア、トルコ、ポーランド、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガル、デンマーク、スウェーデンなど多数
映画祭・受賞歴:第80回ベネチア映画祭2023コンペティション部門ノミネート、男優賞ヴォルピ杯受賞(ピーター・サースガード)、キャスティング・ソサエティ・オブ・アメリカ(キャスティング賞スーザン・ショップメーカー)、トロントFF、チューリッヒFF、シカゴFF、モレリアFF、ほかBFIロンドン、シンガポール、シドニー、各映画祭で上映されてる。
キャスト:ジェシカ・チャステイン(シルビア)、ピーター・サースガード(ソール・シャピロ)、メリット・ウェヴァー(シルビアの姉妹オリビア)、ジェシカ・ハーパー(シルビアの母親サマンサ)、ブルック・ティムバー(シルビアの娘アンナ)、ジョシュ・チャールズ(ソールの兄弟アイザック)、エルシー・フィッシャー(サラ)、他多数
ストーリー:シルビアとソールの物語。シルビアは10代の娘を育てているシングルマザー、ソーシャルワーカーとして忙しい毎日を送っている。克服しようとしているアルコール依存症は、幼少期の虐待の結果による。姉妹のオリビアとは関係を保っているが、母親サマンサとは疎遠になっている。ソールは最近妻を亡くして兄アイザックと暮らしている。記憶が少しずつあいまいになっていく若年性認知症に直面して落胆の日々を過ごしている。シルビアは高校の同窓会の帰途、先輩だったソールにストーカーされる。シルビアはかつて彼女をレイプしようとした少年たちの一人と間違える。二人の漂流者の意外な出会いは、シルビアの日常生活に混乱を生じさせてくる。多くの記憶を覚えている人と記憶を忘れ始めている人のあいだのラブストリー。

(ジェシカ・チャステインとピーター・サースガード、フレームから)
「チャステインはハリウッドでもっとも輝いている女優」と監督
★記憶に優れている人とすべてを忘れてしまう人との間の愛は不可能な物語になるが、その行きすぎた世界観に誠実に向き合う。最初の出会いの一連の不幸は、直ぐに誤解であることが分かる。トラウマに囚われている男と女をテーマを撮りつづけている監督にとって、それだけでは充分ではないでしょう。監督は登場人物の立ち位置を外見が異なるだけの社会的文脈に設定し、彼らの出会いにある一定の意味を与えて、心の傷を掘り下げ癒すのではなく、反対にトラウマを追加していく。


(シルビアとソール、フレームから)
★インタビューでジェシカ・チャステイン起用の理由を質問された監督は、「チャステインが今ハリウッドでもっとも輝いている女優だから」と応じている。彼女が相手役ソールにピーター・サースガードを推薦したそうで、本作が二人の初共演の由。ジェシカ・チャステインは1977年カリフォルニア州サクラメント生れ、女優、製作者。キャスリン・ビグローの『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)主演でゴールデングローブ賞を受賞、製作も兼ねたマイケル・ショウォルターの『タミー・フェイの瞳』(21)でアカデミー主演女優賞を受賞している。

★女性の権利を守る活動家でもあり、映画で語られる現実とかけ離れた女性像に落胆しているフェミニスト。昨年、全米映画俳優組合のストライキ中にベネチア映画祭に出席するに際し、かなり躊躇した由。組合員がストライキ中に過去現在にかかわらず「出演した映画の宣伝をすることは禁じられている」からです。しかし本作が資金不足のインディペンデント映画であったことで了解されたという。というわけで「SAG-AFTRA ON STRIKE」*とプリントされたTシャツを着てフォトコールに出席した。
*SAG-AFTRA(サグ・アフトラ)映画俳優組合・米テレビ・ラジオ芸術家連盟、米国の労働組合。

(ジェシカ・チャステイン、ベネチア映画祭2023、9月8日、フォトコール)
★ピーター・サースガードは、1971年イリノイ州ベルビル生れ、俳優。ビリー・レイの『ニュースの天才』(03)で全米映画批評家協会助演男優賞受賞、サム・メンデスの『ジャーヘッド』(05)、イギリス映画でロネ・シェルフィグの『17歳の肖像』(09)、ロバート・F・ケネディに扮したパブロ・ララインの『ジャッキー/ファーストレディ』(16)、他ヴィーナ・スードの『冷たい噓』(20)に主演、上述したように妻マギー・ジレンホールが監督デビューした『ロスト・ドーター』にも出演、本作でジレンホールがベネチア映画祭2021の脚本賞を受賞しており、夫妻にとってベネチアは幸運を呼ぶ映画祭となった。『ジャーヘッド』で共演したジェイク・ギレンホールは義弟になる。

(マギー・ジレンホールとピーター・サースガード、ベネチア映画祭2023)

(ヴォルピ杯のピーター・サースガード、同映画祭授賞式)
★スタッフ紹介:メキシコ・サイドの製作者エレンディラ・ヌニェス・ラリオスは、フランコと一緒に『ニューオーダー』、ソフィア・コッポラの『オン・ザ・ロック』や、サンセバスチャンFF2023 オリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた、ダビ・ソナナの「Heroico / Heroic」を手掛けている。米国のダンカン・モンゴメリーは、チャーリー・マクダウェルの『運命のイタズラ』(22)、サンセバスチャン映画祭2015で監督のピーター・ソレットがセバスティアン賞を受賞した『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』(15)などが字幕入りで鑑賞できる。

(右2人目がエレンディラ・ヌニェス、右端は映画祭ディレクターの
ダニエラ・ミシェル、モレリア映画祭2023フォトコール)
★フランコが信頼して撮影を任せているのがイヴ・カペ、1960年ベルギー生れ、フランコ映画では『ある終焉』、『母という名の女』、『ニューオーダー』、「Sundown」と連続してタッグを組んでいる。公開作品が多いフランス、ベルギー映画では、レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』(12)を筆頭に、時系列に列挙するとマルタン・プロボの『ヴィオレット ある作家の肖像』(13)、『ルージュの手紙』(17)、セドリック・カーンのコメディ『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』(19)、エマニュエル・ベルコの『愛する人に伝える言葉』(22)などがある。
アロンソ・ルイスパラシオスにバレンシア・ルナ賞*シネマ・ジュピター ― 2024年06月29日 17:59
『グエロス』のアロンソ・ルイスパラシオスがバレンシア・ルナ賞

(受賞者アロンソ・ルイスパラシオス、バレンシアFF 6月21日)
★6月21日、2014年『グエロス』で鮮烈デビューを果たした、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオス監督(メキシコシティ1978)が、バレンシアの第39回シネマ・ジュピター・フェスティバルで「バレンシア・ルナ賞」を受賞しました。本賞は過去のキャリアよりこれからの活躍が期待される独創的なシネアストに与えられる賞です。マラガ映画祭の特別賞の一つ「才能賞」に似ています。昨年トロフィーを受け取るためにバレンシアにやってきたのは、今年のカンヌ映画祭で「Anora」(10月30日公開予定)で初めてパルムドールに輝いたショーン・ベイカー(ニュージャージー1971)でした。
★フェスティバルは、授賞理由として作品が「新鮮さ、知性、ヒューマニズム」に貢献し、「非常に異なるキャラクター、特に互いに相反する精神に対しても惜しみない理解を示した」こと、「現代メキシコの有為転変の大いなる記録者であり、皮肉やユーモアを失うことなく日々の不条理を活写した」ことなどをあげております。ルイスパラシオスは「とても感動して興奮しています。大人になりたくない登場人物という点で、私の映画には青春の要素があると思います。テーマの一つにピーターパン症候群のようなものがあります」と語っている。
★メキシコのボブ・ディランを探すロードムービー『グエロス』の登場人物がそうでした。デビュー作の成功で、第2作「Museo」にガエル・ガルシア・ベルナルを起用することができました。既に作品紹介で書きましたように、この物語は1985年のクリスマスイブにメキシコ人類学歴史博物館で起きた150点にものぼる美術品盗難事件にインスパイアされたもので、ベルリン映画祭で脚本賞を受賞しました。つづく第3作「Una película de policías」も、ベルリン映画祭2021の映画貢献銀熊賞を受賞、『コップ・ムービー』の邦題でNetflixで配信されています。ドキュメンタリーとジャンル分けされていますが、個人的にはドラマドキュメンタリー(ドクドラ)、フィクション性の高いユニークなドラマの印象です。2人の警察官に扮するモニカ・デル・カルメンとラウル・ブリオネスの演技に注目です。
*『グエロス』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月03日
*「Museo」の作品紹介は、コチラ⇒2018年02月19日
*「Una película de policías」『コップ・ムービー』の紹介は、コチラ⇒2021年08月28日

(第4作「La cocina」のポスター)
★第4作がアメリカで撮った「La cocina」(24、139分、モノクロ、メキシコ=米国合作)で、言語は英語とスペイン語、前作『コップ・ムービー』主演のラウル・ブリオネスと『ドラゴン・タトゥーの女』やトッド・ヘインズの『キャロル』でカンヌ映画祭2015女優賞を手にしたルーニー・マーラが主演しています。いずれ作品紹介を予定していますが、イギリスのアーノルド・ウェスカーの戯曲 “The Kitchen” (1957)がベースになっている。20世紀半ばのロンドンから現代のニューヨークのタイムズスクエアに舞台を移しかえている。ランチタイムのラッシュ時に、世界中の文化が混ざりあうレストランの厨房で働く移民の料理人たちの生活を描いた群像劇。監督はロンドンの王立演劇学校で演技を学んでいたとき、レストランでアルバイトしていたときの経験が役に立ったと語っています。本作はベルリンFFコンペティションでプレミアされ、トライベッカ映画祭のワールド・ナラティブ・コンペティションにもノミネートされました。いずれ公開されるでしょう。

(左から、製作者ラミロ・ルイス、アンナ・ディアス、ラウル・ブリオネス、
ムーニー・マーラ、ルイスパラシオス監督、ベルリン映画祭2024のフォトコール)
「メキシコで文化が贅沢品でないと見なされることを願っています」と監督
★「ハリウッドで仕事をしても、自分はメキシコを離れることはありません。ハリウッドに移住してグリンゴの物語を撮ることに興味はありません」と強調している。先だってのメキシコ大統領選挙で勝利を手にした新大統領クラウディア・シェインバウムが10月1日付で就任します。彼女の助言者である現大統領アンドレス・ロペス・オブラドールとの決別を願う監督は、「女性が遂にこのような権力の座についたことは喜ばしい。人によってはいろいろ感情が入り混じることですが、メキシコが必要としていたことです。現大統領との繋がりが深いため事態はより複雑ですが、関係を断ち切ることを願っています。彼から独立して自由になることを信じています」と。

(バレンシア・ルナ賞の受賞スピーチをするルイスパラシオス監督)
★現大統領の6年の任期が「文化に背を向けてきた」と指摘する監督は、「文化が贅沢だと見るのを止める」よう求めた。文化が贅沢品で生活必需品ではないという文化軽視は、多かれ少なかれどこの国でもスペインでも日本でも見られる現象ですが、監督は「メキシコ映像ライブラリーが果たす役割の重要性」を受賞スピーチで強調しました。メキシコに変化があることを認める監督は、それでも「道のりはまだ遠い」と語り、映画を作るのはお金がかかることなので誰でも可能ではないが、「映画は私にとって抗議の手段なのです」ともコメントしている。
★私生活では女優イルセ・サラスとの間に2人の息子がいる。『グエロス』や「Museo」出演の他、『グッド・ワイフ』(18)、TVシリーズ『犯罪アンソロジー:大統領候補の暗殺』(19)、ロドリゴ・ガルシアの『Familia:我が家』(23)主演などで、日本では監督より認知度が高いかもしれない。

(監督とイルセ・サラス、ベルリン映画祭2018)
オリソンテス・ラティノス部門③*サンセバスチャン映画祭2023 ⑪ ― 2023年08月31日 11:11
ルシア・プエンソの新作「Los impactados」がノミネート
★オリソンテス・ラティノス部門の最終グループで、SSIFF がプレミアというのはアルゼンチンのルシア・プエンソの5作目「Los impactados」のみ、他はベルリンとかカンヌでプレミアされている。本祭は三大映画祭と言われるカンヌ、ベネチア、ベルリンのほか、トロントの後ということもあって、どうしても新鮮味に欠けます。ルシア・プエンソは4作目「La caída」(22)がプライムビデオで『ダイブ』という邦題で目下配信中です。2007年に『XXY』で鮮烈デビューを果たして以来、問題作を撮り続けている監督の成長ぶりが見られる力作です。新作は本祭がプレミアということもあり賞に絡むのではないかと予想しています。他にリラ・アビレスの「Tótem / Totem」は、世界の映画祭巡りで受賞歴多数です。
*オリソンテス・ラティノス部門 ③*
9)「Heroico / Heroic」メキシコ
監督:ダビ・ソナナ(メキシコ・シティ1989)は、2019年デビュー作「Mano de obra / Workforce」がセクション・オフィシアルにノミネートされている。今回2作目「Heroico / Heroic」がオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた。サンダンス映画祭でプレミア、ベルリン映画祭パノラマ部門正式出品のあとSSIFFにやってきました。より良い未来を求めて軍人学校に入学した反戦主義者の青年を軸にドラマは展開します。現代メキシコに蔓延する体系的な暴力が語られる。


(ダビ・ソナナ監督、サンセバスチャン映画祭2019にて)
データ:製作国メキシコ、2023年、スペイン語・ナワトル語、ミステリードラマ、88分
キャスト:サンティアゴ・サンドバル・カルバハル(ルイス)、フェルナンド・クアウトル、モニカ・デル・カルメン、エステバン・カイセド、カルロス・ヘラルド・ガルシア、イサベル・ユディセ
ストーリー:アメリカ先住民のルーツをもつルイス・ヌメズは18歳、よりよい未来を確実にするため軍人学校への入学を申し込む。彼と同じような新入生は、やがて完璧な兵士に変身させようと設計された、暴力が日常的である残酷なヒエラルキー・システムに自分たちが放り込まれたことを理解するだろう。

10)「Los colonos / The Settlers」チリ=アルゼンチン=オランダ=フランス=イギリス=デンマーク=台湾=スウェーデン、8ヵ国合作映画
監督:フェリペ・ガルベス(サンティアゴ1983)のデビュー作。1901年から1908年のパタゴニアを舞台にしたティエラ・デル・フエゴ島の先住民セルクナム虐殺が物語られる。
★本作はカンヌ映画祭2023「ある視点」でプレミアされたおり、作品&監督紹介を既にアップ済みです。オスカー賞2024のチリ代表作品。
*作品&監督紹介記事は、コチラ⇒2023年05年15日


(フェリペ・ガルベス監督)
11)「Los impactados」アルゼンチン
監督:ルシア・プエンソ(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、作家、製作者。父ルイス・プエンソは、『オフィシャル・ストーリー』(85)でアルゼンチンに初めてオスカーをもたらした監督。ルシアは2001年脚本家としてキャリアをスタートさせる。2013年のオリソンテス・ラティノス部門に長編3作目「El médico alemán Wakolda」(邦題『ワコルダ』)がノミネートされている。第2次世界大戦中、多くのユダヤ人をアウシュビッツで人体実験を繰り返して「死の天使」と恐れられていたナチスの将校ヨーゼフ・メンゲレ医師の実話を映画化した作品。久しくTVシリーズに専念していて、4作目が待たれていたのが上述の『ダイブ』でした。メキシコで起きた実話に着想を得て製作された。製作にも参画している主役のカルラ・ソウサの魅力もさることながら、性加害者のコーチにエルナン・メンドサを迎えるなどかなり見ごたえがあります。勝利が究極の夢である高飛込競技の少女がコーチから性被害を受けていた実話をもとに、ヒロインの栄光と挫折、最後に勝ち取る解放が語られる。
★今回の5作目「Los impactados」は、嵐で雷に打たれことで心身に変化をきたした少女の物語という定義は表層的で、かなり政治的なメッセージが込められているサイコスリラーです。プエンソに影響を与えた監督は、デイヴィッド・リンチを筆頭に、フランソワ・オゾン、オリヴィエ・アサイヤス、ミヒャエル・ハネケ、クレール・ドニなどの作品ということです。主役アダのキャラクターは複雑で、超自然的な要素が設定されており、彼女を苦しめる幻覚や爆発が心的外傷後に起きるストレスなのかどうかは明らかにされない。プエンソの当ブログ登場は、以下にアップしています。
*監督キャリア&『ワコルダ』(ラテンビート2013)紹介は、コチラ⇒2013年10月23日
*『フィッシュチャイルド』(ラテンビート2009)紹介は、コチラ⇒2013年10月11日


(ルシア・プエンソ監督)
データ:製作国アルゼンチン、2023年、スペイン語、サイコスリラー、90分
キャスト:マリアナ・ディ・ジロラモ(アダ)、ヘルマン・パラシオス(フアン)、ギジェルモ・プフェニング(ジャノ)、オスマル・ヌニェス(コーエン)、マリアナ・モロ・アンギレリ(オフェリア)
ストーリー:アダが野原で雷に打たれた5週間後に昏睡から目覚めると、彼女はすっかり変わってしまっていた。身体的にも精神的にもバランスを崩して苦しんでいます。さらに目に見える明らかな後遺症があり、制御できない一連の奇妙な症状、例えば視覚や聴覚を通しての幻覚、時間の混乱は、彼女を以前の生活から遠ざけ、彼女が愛する人々からの孤立へと駆り立てます。落雷の衝撃を受けた人たちのグループの支援、落雷によって引き起こされる身体的精神的な影響を理解することに専念する医師との信頼を通して、アダはリターンできない旅に誘い出されることになるだろう。


(アダ役で飛躍的な成長を遂げたと高評価のマリアナ・ディ・ジロラモ)
12)「Tótem / Totem 」メキシコ
監督:リラ・アビレス(メキシコ・シティ1982)は、監督、脚本家、製作者。2018年ニューディレクターズ部門に「La camarista / The Chambermaid」が選ばれている。2020年オリソンテス賞の審査員として現地入りしている。脚本リラ・アビレス、音楽トマス・ベッカ、撮影ディエゴ・テノリオ、編集オマール・グスマン。ドイツを皮切りに、米国、アジア、アフリカ諸国の映画祭巡りをしている。
*受賞歴:ベルリン映画祭2023コンペティション部門、エキュメニカル審査員賞受賞、香港映画祭ヤングシネマ部門金の火の鳥賞、北京映画祭監督賞・音楽賞、エルサレム映画祭監督賞、リマ映画祭作品賞・撮影賞などの受賞歴多数。

(リラ・アビレス監督と主役のナイマ・センティエス、ベルリン映画祭2023)

データ:製作国メキシコ=デンマーク=フランス、2023年、スペイン語、ドラマ、95分、撮影地メキシコシティ
キャスト:ナイマ・センティエス(ソル)、モンセラト・マラニョン(叔母ヌリア)、マリソル・ガセ(叔母アレハンドラ)、サオリ・グルサ(エステル)、マテオ・ガルシア(父トナティウ)、テレサ・サンチェス(クルス)、イアスア・ラリオス(ルチア)、アルベルト・アマドル(ロベルト)、フアン・フランシスコ・マルドナド(ナポ)、他多数
ストーリー:7歳になるソルは、父親を驚かすびっくりパーティーの準備を手伝うため、祖父の家に来ています。日が経つにつれ、状況はゆっくりと不思議なカオスの大混乱の雰囲気に包まれ、家族の絆をたもつ土台が砕かれていく。ソルは彼女の世界が劇的な変化を遂げるところにちょうどさしかかっていることをやがて理解するでしょう。人生を祝うことで神秘的な道が開かれていく。7歳の少女の視点で生と死、時間が語られる。


(ソルを演じたナイマ・センティエス、フレームから)

(左から、ダビ・ソナナ、フェリペ・ガルベス、ルシア・プエンソ、リラ・アビレス)
オリソンテス・ラティノス部門 ②*サンセバスチャン映画祭2023 ⑩ ― 2023年08月23日 14:51
タティアナ・ウエソが2作目「El eco / The Echo」で戻ってきた!
★サンセバスチャン映画祭 SSIFF も開幕1ヵ月をきり、連日のごとくニュースが配信されています。例えばセクション・オフィシアルのオープニング作品は宮崎駿の『君たちはどう生きるか』、クロージング作品はイギリスの監督ジェームズ・マーシュの「Dance First」、マーシュ監督は英国史上、最高額、最高齢の金庫破りだったオールドボーイ窃盗団の実話に基づいて描いた『キング・オブ・シーヴズ』(18)が2021年に公開されている。両作ともアウト・オブ・コンペティション部門ノミネート作品であるため金貝賞には絡みません。さらに「ペルラク」部門18作品、「ネスト」部門12作品も相次いで発表されました。更に8月22日にはドノスティア栄誉賞の二人目の受賞者にビクトル・エリセがアナウンスされるなど急に慌ただしくなってきました。エリセはともかくとして、今年は時間的余裕がなく、アップはスペイン語、ポルトガル語映画に限らざるを得ません。今回はオリソンテス・ラティノ部門の続き、ドラマ2作、ドキュメンタリー2作の合計4作をアップします。
*オリソンテス・ラティノス部門 ②*
5)「Clara se pierde en el bosque / Clara Gets Lost in the Woods」
アルゼンチン
監督:カミラ・ファブリ(ブエノスアイレス1989)、監督、脚本家、戯曲家、女優として多方面で活躍しているアルゼンチン同世代の期待の星。女優としてミゲル・コーハン、ベロニカ・チェン、フアン・ビジェガスの「Las Vegas」(18)、アレハンドロ・ホビックやルシア・フェレイラの短編に主演している。


(カミラ・ファブリ監督)
データ:脚本はカミラ・ファブリとマルティン・クラウトが共同執筆、2023年、スペイン語、ドラマ、86分、長編デビュー作。
キャスト:カミラ・ペラルタ(クララ)、アグスティン・ガリアルディ(ミゲル)、フリアン・ラルキエル・テラリーニ(イバン)、フロレンシア・ゴメス・ガルシア(エロイサ)、ソフィア・パロミノ(フアナ)、マイティナ・デ・マルコ(パウリナ)、ペドロ・ガルシア・ナルバイツ(フアン)、マルティア・チャモロ(マルティナ)、カミラ・ファブリ(イネス)、フリアン・インファンティノ(マルティン)、ほか
ストーリー:クララは都会を離れて郊外に家族と小旅行中に、幼馴染の友人マルティナからの母性のアイディアを前面に押し出したメッセージを受けとった。マルティナとはレプブリカ・クロマニョン・クラブで起きた悲劇の一夜を共にしていた。一連のWhatsApp Messengerのテキスト、ホームビデオ、家族とランチする現在と現実のショット、危機と悲劇によって荒廃した都会での彼女自身や友人たちの思春期がつぶさに語られる。レプブリカ・クロマニョン・クラブの悲劇というのは、2004年12月30日の夜にブエノスアイレスのオンセ地区で開催されていたロック・イベント中に193人の命が奪われた大火災をさす。

(撮影中の監督とクララ役のカミラ・ペラルタ)
6)「El castillo / The Castle」アルゼンチン=フランス=スペイン
ドキュメンタリー
監督:マルティン・ベンチモル(ブエノスアイレス1985)、作品紹介、監督のキャリア&フィルモグラフィーは、以下にアップ済みです。
*作品紹介は、コチラ⇒2023年07月21日


7)「El Eco / The Echo」メキシコ=ドイツ
監督:タティアナ・ウエソ(サンサルバドル1972)監督、脚本家。監督のキャリア&フィルモグラフィーは、SSIFF 2021の同部門のオリソンテス賞以下3冠に輝いた「Noche de fuego」にアップしています。新作は、架空の要素が多く含まれているが、メキシコ高地にある村エルエコの子供たちを描いている。監督はメキシコ北部のある村に逗留して、ほぼ1年間掛けて撮影している。監督の子供時代の体験が投影されている。ウエソはエルサルバドル出身だが、4歳のとき両親に連れられてメキシコに移住している。2011年の「El lugar más pequeño」、2016年の「Tempestad」、新作「El Eco」をもって「痛みとトラウマ」三部作を完結したことになる。
*「Noche de fuego」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月19日

データ:脚本タティアナ・ウエソ、2023年、スペイン語、ドキュメンタリー、102分。本作は既にベルリン映画祭2023でプレミアされ、エンカウンターズ部門の監督賞とドキュメンタリー賞を受賞している他、香港映画祭ドキュメンタリー賞ノミネート、シアトル映画祭ノミネート、カルロヴィ・ヴァリ映画祭、リマ映画祭ドキュメンタリー賞、エルサレム映画祭シャンテル・アケルマン賞を受賞している。

(タティアナ・ウエソ、ベルリン映画祭2023ドキュメンタリー作品賞のガラから)
キャスト:モンセラ・エルナンデス(モンセ)、マリア・デ・ロス・アンヘレス・パチェコ・タピア(祖母アンヘレス)、ルス・マリア・バスケス・ゴンサレス(ルス)、サライ・ロハス・エルナンデス(サライ)、ウィリアム・アントニオ・バスケス・ゴンサレス(トーニョ)、他多数
ストーリー:メキシコ北部の人里離れた村エル・エコは、子沢山の家族が多く、生活は貧しく、子供たちは羊と年長者たちの世話をしています。孫娘は祖母が死ぬまで世話をしなければなりません。霜と旱魃が村を苦しめます。子供たちは両親の話す言葉と沈黙から、死、病気、愛を理解することを学びます。エコは魂のなかにあるもの、周りの人々からうける確実な暖かさ、人生で直面する反逆と眩暈について、成長についての物語です。

8)「Estranho caminho / A Strange Path(Extraño camino)」ブラジル
WIP Latam 2022 作品
監督:グト・パレンテ(セアラ州都フォルタレザ1983)は、監督、脚本家、撮影監督、俳優。長編10作目になる。WIP Latem 2022の最優秀賞作品賞受賞作。
*脚本グト・パレンテ、撮影リンガ・アカシオ、美術タイス・アウグスト、録音ルカス・コエーリョ、編集ビクトル・コスタ・ロペス、ティシアナ・アウグスト・リマ、タイス・アウグスト、グト・パレンテ。トライベッカ映画祭2023では、父親ジェラルド役のカルロス・フランシスコが説得ある演技で主演男優賞を受賞している。


(デビッド役のルカス・リメイラ)
データ:製作国ブラジル、2023年、ポルトガル語、ミステリー、85分、トライベッカ映画祭2023で国際コンペティション部門の作品賞、脚本賞、監督賞、カルロス・フランシスコが主演男優賞を受賞するなど4冠を制した。撮影地フォルタレザ。セアラ州文化省からの資金提供を受けている。

(父親役のカルロス・フランシスコ)
キャスト:ルカス・リメイラ(デビッド)、カルロス・フランシスコ(父ジェラルド)、リタ・カバソ(テレサ)、タルツィア・フィルミノ(ドナ・モサ)、レナン・カピバラ(レナン)、アナ・マルレネ(マリアナ先生)、他多数
ストーリー:若い映画背作者デビッドは、映画祭で自作を発表するため生れ故郷のブラジルに向かっています。到着すると新型コロナのパンデミックが急速に全国に広がり始めていた。映画祭は中止され、空港が封鎖されたため帰国便もキャンセルされてしまう。デビッドは滞在先を必要としており、十年以上話していない風変わりな男である父親ジェラルドを訪ねることにする。彼が父親のアパートに到着すると、奇妙なことが起こり始めます。デビッドの軌跡を辿るドラマ。和解の痛み、不条理の喜びの表現などが描かれる。

(カミラ・ファブリ、マルティン・ベンチモル、タティアナ・ウエソ、グト・パレンテ)
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