ギジェルモ・ガロエの「Ciudad sin sueño」が脚本賞*カンヌ「批評家週間」 ― 2025年05月27日 15:06
インディペンデント賞のSACD脚本賞を受賞

★去る5月21日、第64回「批評家週間」の受賞結果が発表になり、スペインから唯一ノミネートされていたギジェルモ・ガロエ(本名ギジェルモ・ガルシア・ロペス)のデビュー作「Ciudad sin sueño / Sleepless City」(西=仏合作)がSACD(Sociedad de Autores y Compositores Dramáticos)が選ぶ脚本賞を共同執筆者のビクトル・アロンソ=ベルベルと一緒に受賞しました(副賞5.000ユーロ)。授賞式は22日。ガロエはカメラ・ドールにもノミネートされていました。このような若い監督の地味な作品に多くの制作会社が資金援助をしていることに感動しますが、文化に敬意をはらう風土を羨ましくも思いました。ガロエ監督の短編「Aunque es de noche」はカンヌ映画祭2023短編部門のコンペティションでプレミアされ、翌年のゴヤ賞2024で短編映画賞を受賞しています。製作者は本作も手掛けるダビ・カサス・リエスコ、ジャスティン・ペックベルティ、マリナ・ガルシア・ロペスなどでした。新人の登竜門と言われる「批評家週間」のノミネートはデビュー作、または2作までが対象です。
*ゴヤ賞2024授賞式の記事は、コチラ⇒2024年02月14日

(受賞のお祝いを受ける監督、出演者たち、授賞式)
★10年前にカニャーダ・レアル地区を訪れて以来、毎年取材に通い、具体化してから完成までに6年かかった由。受賞スピーチでは「私は脚本賞を頂くために此処に立っていますが、この映画の脚本家は他に大勢います」と、誇りと尊厳をもって、その価値とレジェンドを支持するカニャーダ・レアルの人々の協力に謝意を述べました。EFEのインタビューにも「多くの人々が電気もなく暮らしています。生き方の喪失に直面している彼らに、多くの賛同が寄せられることを期待します」と語っています。ルイス・ブニュエルのメキシコシティのスラム街を舞台にした『忘れられた人々』(50)に重ねる批評家が散見されましたが、監督によると、タイトルをガルシア・ロルカの詩 ”Ciudad sin sueño” から採り、ブニュエルとは関係ないと応じています。

(ギジェルモ・ガロエ)
「Ciudad sin sueño / Sleepless City」
製作:Sintagma Films / Buena Pinta Media / Encanta Films / BTeam Prods / Les Valseurs /
Tournellovision / Ciudad sin sueño la película AIE
協賛 Filmin / MovisterPlus+ / RTVE / ICAA / マドリード共同体文化評議会ほか
監督:ギジェルモ・ガロエ
脚本:ギジェルモ・ガロエ、ビクトル・アロンソ=ベルベル
撮影:ルイ・ポサス
編集:ビクトリア・ラマーズ
美術:アナ・マリョ・サンギネッティ
セットデコレーター:ジョアナ・ジナート
衣装デザイン:イラチェ・サンス
メイクアップ:マルタ・ガルシア・マンサノ、マルタ・ガルシア・サンチェス
プロダクション・マネジメント:ダビ・デ・ラ・フエンテ、パコ・ウベダ、エドゥアルド・ボデガス
製作者:アレックス・ラフエンテ、マリサ・フェルナンデス・アルメンテロス、マリナ・ガルシア・ロペス、マヌエル・カルボ、ダビ・カサス・リエスコ(以上エグゼクティブ)、ジャスティン・ペックベルティ、アンヌ・ドミニク・トゥーサン、他
データ:製作国スペイン=フランス、2025年、スペイン語、ドラマ、97分、配給権:国際はベルギーのベストフレンド・フォーエバー
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭併催の第64回「批評家週間」にノミネート、SACDの脚本賞受賞
キャスト:アントニオ・フェルナンデス・ガバレ(トニ)、ビラル・セドラオウィ(トニの友人)、ヘスス・フェルナンデス・シルバ(祖父)、ルイス・ベルトロ
ストーリー:マドリード郊外にあるヨーロッパ最大の不法定住地区カニャーダ・レアルに暮らす15歳のロマの少年トニの物語。スラムの住民は施政者からの立ち退きに直面しています。親友はフランスのマルセイユに引っ越すというが、屑鉄商のトニの家族は、祖父がどんな犠牲をはらってでも離れることを拒否しています。一方、両親は市から提供される住宅に移ることを希望しており、家族は二つに引き裂かれてしまっている。祖父を誇りに思っているトニは、祖父についていきたいが、取り壊しが直ぐ近くまで迫ってきている。夜が更けるにつれ電気の通っていない暗がりで、トニは不確かな未来に立ち向かうか、幼いころの伝説に満ちた世界にしがみつくかの選択を迫られる。活気に満ちた社会派ドラマ。

(スクラップ商の祖父と少年トニ)
★本作は、スペイン映画アカデミー・レジデンシアに選ばれ、ベルリナーレの脚本ラボ、トリノ・フィルム・ラボ、カンヌのシネフォンダシオン・レジデンシアの資金援助を受けて製作された。2023年、ICCAの発展プロジェクト10作の一つに選ばれ、600.000ユーロの援助を受けている。脚本共同執筆者のビクトル・アロンソ=ベルベル(バルセロナ生れ)は最初の段階から参加、監督作品としてドキュメンタリー「Clase valiente」(17、ガウディ賞ノミネート)を撮っている。撮影監督のルイ・ポサス(ポルト生れ)は、昨年のカンヌFF 2024で監督賞を受賞したミゲル・ゴメスの「Grand Tour」(ポルトガル、邦題『グランド・ツアー』)を手掛けている。

(撮影中のガロエ監督と撮影監督のルイ・ポサス)
★監督紹介:ギジェルモ・ガロエ(本名 Guillermo García López ギジェルモ・ガルシア・ロペス)、1985年マドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督。マドリードのコンプルテンセ大学視聴覚コミュニケーション卒、最初建築家を目指していたが、直ぐにオーディオビジュアルの世界に転向した。TVEでドキュメンタリー製作に従事した。最初の長編ドキュメンタリー「Frágil equilibrio」(後述)を発表する。2020年、ジローナ芸術プリンセス賞を受賞している。
★ガロエ監督と言えば、先述した「Aunque es de noche」(15分)に尽きます。カンヌ映画祭を皮切りに多くの国際映画祭の受賞歴を誇っている。ゴヤ賞の他、サンセバスチャン映画祭サバルテギ-タバカレア部門ノミネート、アルカラ・デ・エナレス短編映画祭2024の短編賞と男優賞(主演のアントニオ・フェルナンデス・ガバレ)受賞、アルメリア映画祭2023の監督賞、イベロアメリカ短編FF主演男優賞(アントニオ・フェルナンデス・ガバレ)、フォルケ賞2023短編映画賞、メディナ映画祭撮影賞などをそれぞれ受賞している。この短編の延長線上にあるのが長編デビュー作である「Ciudad sin sueño」です。

(短編「Aunque es de noche」のポスター)
★2022年「Lo-Tech Reality」(米西仏合作、SF、8分)ビルバオ・ドキュメンタリー&短編映画祭2022、バレンシア・シネマ・ジュピター映画祭2023などでノミネート。ポルトガルのマリアナ・バルトロと共同監督したポルトガル映画「As Gaivotas Certam o Céu / Las gaviotas gortan el cielo」(仮題「空を切り裂くカモメたち」)は、カンヌ映画祭「監督週間」2023で正式上映された後、ビスタ・クルタVista Curt 2023ユース審査員賞などを受賞した。
★ドキュメンタリー「Frágil equilibrio」は、アムステルダム・ドキュメンタリー映画祭IDFA2016でプレミアされ、バジャドリード映画祭でスペイン・ドキュメンタリー賞を受賞したほか、エジンバラ、テッサロニキ、ヒホン、各映画祭で上映され、翌年のゴヤ賞ドキュメンタリー賞を受賞している。これは最近89歳で鬼籍入りしたばかりのウルグアイの元大統領「世界で最も質素な大統領」と慕われたホセ・ムヒカの機能不全の世界についての深い洞察が語られるドキュメンタリー。他共同監督作品、クララ・ラゴ、レティシア・ドレラ、イレネ・エスコラの3女優が、それぞれ大西洋の3つの場所を訪れる内省的な旅が語られるTVドキュメンタリー「Atlánticas」(18、3話)も撮っている。従って長編デビュー作とはいえ新人監督のイメージとはほど遠い円熟した作品になっているようです。
★キャスト紹介:アントニオ・フェルナンデス・ガバレ(トニ役)は、今回のカンヌには参加しなかったようですが、ガロエの「Aunque es de noche」では13歳のトニノ少年を演じている。そのほかはアマチュアのカニャーダ・レアルの人々。監督とアントニオの相互理解なくして本作は生まれなかった。ロベルト・ロッセリーニの『ドイツ零年』(48)の主人公エドムンド少年の絶望を彷彿させる、またはトニとグレーハウンドの愛犬との堅い絆を、ケン・ローチの『ケス』(69、公開1996年)の孤独な少年とケスと名付けられたハヤブサとの絆に、トニとその友人の関係をジャン・ヴィゴの『新学期 操行ゼロ』(33、公開1946年)に出てくる寄宿学校の二人の少年の友情を思い出すなど、多くの批評家の心を掴んだようです。祖父役のヘスス・フェルナンデス・シルバと、親友役のビラル・セドラオウィは、カンヌのフォトコールに参加していました。

(ほっそりした愛犬とトニ、フレームから)

(トニと「マルセイユに移住する」という親友)

(撮影中の監督とヘスス・フェルナンデス・シルバ)
★「批評家週間」の審査委員長がロドリゴ・ソロゴジェンということで何かの賞に絡むとは予想していました。「Screendaiiy」のジョナサン・ホランドはスラム街に暮らす人々への監督の「愛情に貫かれたまなざし、喪失、回復力、希望についての普遍的なメッセージを伝えている」とコメントし、そのほか「IndieWire」などの評価は概ねポジティブでした。
★パルムドールの結果発表もあり、オリベル・ラシェの「Sirat」が審査員賞を受賞しました。星取票が真っ二つに割れていたので、ダメかなと思っていました。他「ある視点」部門も、チリのディエゴ・セスペデスが最高賞の作品賞、コロンビアのシモン・メサ・ソトが審査員賞と上出来でした。当ブログも十年を超えましたが、こんなことは初めて、次回にアップを予定しています。
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