『グエロス』 メキシコ映画 *ラテンビート2014 ⑥2014年10月03日 13:18

『グエロス』が、サンセバスチャン国際映画祭SIFF「ホライズンズ・ラティノ」部門のベスト・フィルム賞に受賞しました。サンセバスチャンのグランプリ作品が、同じ年に日本の映画祭で見られるのは珍しいから、急いで紹介いたします。メキシコ映画は、ディエゴ・ルナの『セザール・チャベス』と本作の2本。今年のモントリオール映画祭のスペイン語映画は、メキシコに集中していると書いたばかりですが、『グエロス』は2月開催のベルリン映画祭「パノラマ」部門で上映、初監督作品賞を受賞しています。若い監督がモノクロで撮ったということで前から気になっていた作品。モントリオールを避けてサンセバスチャンにエントリーした。最初「オフィシャル・セレクション」が考慮されたというから、「ホライズンズ・ラティノ」部門の目玉だったのかもしれない。ラテンビートの解説に「ロード・ムービー」とありますが、メキシコ・シティから一歩も出ない。ジャンルはコメディとあるけど、本当にコメディなの。

  

なお監督名は映画クレジット表記やスペイン語圏での使用を考えて、アロンソ・ルイスパラシオスに統一します(LB公式サイト、英語圏はルイス・パラシオス)。

 


       グエロスGüeros

製作Catatonia Films / Conaculta / Difusion Cultural UNAM

監督:アロンソ・ルイスパラシオス

脚本:アロンソ・ルイスパラシオス/ヒブランGibran・ポルテラ

撮影:ダミアン・ガルシア

音楽:トマス・バレイロ

編集:Yibra Assaud /アナ・ガルシア

製作者:ラミロ・ルイス/アロンソ・ルイスパラシオス(エグゼクティブ・プロデューサー)、ガエル・ガルシア・ベルナル(アソシエイト・プロデューサー)

 

データ:メキシコ、スペイン語、2014、コメディ、モノクロ、106

受賞歴:ベルリン映画祭2014 初監督作品賞、エルサレム映画祭2014 FIPRESCI 国際批評家連盟賞、トライベッカ映画祭2014 最優秀撮影賞・新人監督賞&特別審査員佳作、サンセバスチャン映画祭2014「ホライズンズ・ラティノ」 ベスト・フィルム賞&ユース賞、など

   

ベルリンは大きく分けると「コンペティション→パノラマ→フォーラム→ゼネレーション」と4部門あり、第2番目のパノラマ出品でした。国際審査員によって選出される金熊・銀熊賞はコンペ作品に与えられる賞。ルイスパラシオス監督が受賞したパノラマは、この部門専任の審査員によって選出される。

   

サンセバスチャンのベスト・フィルム賞は、副賞として35,000ユーロが授与される。

ユース賞は18歳から25歳までの人の投票で決まる一種の観客賞です。

  

他に、カルロヴィ・ヴァリ(チェコ)、リオデジャネイロ(ブラジル)などの映画祭に出品され、間もなく始まるロンドン映画祭出品が予定されている。最近頓に存在感を増してきているモレリア映画祭(メキシコ)への出品を製作者ラミロ・ルイスは希望しているようです。やはりメキシコ人に見てもらいたいということです。メキシコ公開は来年初めになる予定。

 

                             

                (監督と製作者ラミロ・ルイス)

 

キャスト:テノッチ・ウエルタ(エル・ソンブラ/ フェデ兄)、セバスティアン・アギーレ(トマス弟)、レオナルド・オルティスグリス(サントス)、イルセ・サラス(アナ)、ラウル・ブリオネス(フリア)、ラウラ・アルメラ(イサベル)、アドリアン・ラドロン(モコ)、カミラ・ロラ(アウロラ)、アルフォンソ・チャルペネル(エピグメニオ・クルス)、他

 

解説:大学のストライキ中、学生のソンブラとサントスは、メキシコシティーの古アパートで怠惰な日々を送っていた。ある日、ソンブラの弟トマスが部屋に転がり込んできた。3人はトマスが憧れる伝説のミュージシャンが、今や病床に伏していると知り、彼を探しに向かうが・・。学生運動で荒れる大学構内や危険なスラム街などをリアルなモノクロ映像で描き出すロード・ムービー。2014年ベルリン国際映画祭で初監督作品賞受賞。ガエル・ガルシア・ベルナルが製作に関わっている。                                         (ラテンビート2014公式サイトよりの引用)

 

                                     

                                                      (左から、ソンブラ、サントス、トマス)

     

   監督キャリア・フィルモグラフィー紹介

アロンソ・ルイスパラシオスAlonso Ruizpalacios:メキシコ生れ、監督、脚本家、製作者、俳優。本作の舞台背景でもあるメキシコ自治大学UNAMの学生ストライキ(19992000)時に在籍していたとすれば1970年末期の生れか。アソシエイト・プロデューサーのG.G.ベルナル(1978生れ)と同じ世代と思う。カロリーナ財団の奨学生だったようで、2011年に本財団の基金を受けて本作は製作されている。この財団はスペインとイベロアメリカ諸国との連携を旨として2000年に設立され、大学の学部卒業の資格が必要な大学院大学のようです。本作は長編デビュー作ですが、既にテレビ・シリーズ、短編を多数手掛けています。

   

短編受賞作は以下の通り:

2008 Café paraiso グアダラハラ・メキシコ映画祭2008メキシコ短編部門でMayahuel賞/

アリエル賞2009最優秀短編賞(銀賞)受賞

2010 El último canto del pájaro cú アリエル賞2011最優秀短編賞(銀賞)受賞

 


★ソンブラとサントスは、長引く学生ストライキの煽りをくって所在なくぼんやり暮らしている。支払いが滞ってアパートの電気は切られている。そんな折も折、ソンブラの弟トマスがママから「あんたとはもう一緒に暮らせないから」と言われて追い出されてくる。「何とかしなくちゃ」とソンブラとサントス、トマスが「パパがよく聴いていた伝説のミュージシャン、エピグメニオ・クルスが死の床にいるというから会いに行こう」と言う。ボブ・ディランを感激させたメキシカン・ロックの救世主なんだという、今じゃみんな忘れてしまって知らないけど。こうして若者3人のエピグメニオ探しの旅が始まる。


                                               

           (左から、ソンブラ、アナ、トマス、サントス)

  
★何もすることがなく、ただ時間つぶしをすることに恐怖を感じているソンブラ、何もしなくてもそれもいいじゃないのと現状肯定派のサントス、トマスだけが伝説のミュージシャンに会いたいという目的を持っている。ソンブラが好きらしいアナ、この4人がメインの登場人物。

 

★メキシコ・シティは雑多な人々が暮らす大都会、「北への移民だけがテーマじゃない」と監督。「するべきことが何もないという恐怖が出発点にあり、悲惨だけのメキシコではなくもう一つのメキシコに近づいて欲しい」と。このデビュー作は「時代背景として1年間続いたUNAMの学生ストライキがある。賛成でも反対でもないことが起きてそれに巻き込まれてしまう。そのときに感じた<何もするべきことがない>という恐怖が根底にあり、学生は<早まった退職者シンドローム>と呼ばれたんです」とも。

 

★本作のアイデアは、ボブ・ディランのファンだという監督によると、「ミュージシャン探しの物語はボブ・ディラン自身の体験からヒントを得ました。彼が初めてニューヨークに行ったとき、ブルックリンの病院で死の床にあったというウディ・ガスリーという有名なフォーク・シンガーに会いに行ったという物語です」。ボブに多大な影響を与えたというフォーク歌手のことで、これがミュージシャン探しのアイデアの元になったということです(ウディ・ガスリー<191267>についてはウィキペディアに詳しい)。

   

                                       

          (フォーク歌手、作詞作曲家、作家 ウディ・ガスリー)

 

★ロード・ムービーにしたのは、「メキシコ・シティは巨大都市だから深く知ることは難しい。だからロード・ムービーにして撮る価値があると常に考えていた。モノクロにしたのは、「クリエイティブな距離感をとりたかったし、ストライキに時間的位置づけをしたくなかった。モノクロで街を見始めると新しい別の顔が現れてきたんです。メキシコは色の溢れた都会だから常にネガの状態で見るようにした」。

 

★本作のキイワードは、「『ダック・シーズン』25 wattsヌーベルヴァーグ」だそうで、2作ともモノクロ+デビュー作です。『ダック・シーズン』(2004)は同じメキシコの監督フェルナンド・エインビッケのデビュー作、アリエル賞11部門に輝き、2006年公開された。「25 watts」(2001)はウルグアイのパブロ・ストールとフアン・パブロ・レベージャが共同監督したコメディ、ロッテルダム映画祭作品賞を受賞した。二人は2004年にカンヌ映画祭「ある視点」部門に『ウィスキー』を出品し、国際批評家連盟賞受賞、東京国際映画祭でもグランプリを受賞した。2年後フアン・パブロ・レベージャは鬼籍入りしてファンを驚かせた。彼らへのオマージュがあるかもしれない。ヌーベルヴァーグは、今月が没後30年ということで特集が組まれているトリュフォーではなく、ゴダールということです。

 

      

   (「偏見のない大冒険家だった」祖母への感謝のスピーチをした監督、SIFF授賞式)

 

★トライベッカ映画祭2014 最優秀撮影賞を受賞したダミアン・ガルシアの映像は洗練されていて、予告編からも想像できるようにスクリーンで見たら面白いと思います。他に監督とコラボした短編がYoutubeで見ることができます。他の監督では、ルイス・エストラーダの“El infierno”(2010)を撮っており、かなりエネルギッシュに仕事をしている。これは未公開だが『メキシコ 地獄の抗争』の邦題でDVD化されています。

 

★キャスト陣は、トマス役のセバスティアン・アギーレだけ長編デビューだが(短編あり)、他の主役たち3人は、IMDbから判断して、既に実績のある人たちのようです。