G・G・ベルナル『ザ・タイガー救世主伝説』*アルゼンチン版ウエスタン2015年12月18日 13:33

                   ガエル・ガルシア・ベルナルがシャーマンに変身

 

★撮影監督のフリアン・アペステギアが、昨年から始まった「フェニックス賞」(イベロアメリカ)で最優秀撮影賞を受賞した作品です。ガラにはパブロ・ヘンドリック監督、主演のGG・ベルナルアリシー・ブラガが出席、肝心の受賞者フリアン・アペステギア欠席で、代わりに監督がフェニックスの黒い卵のトロフィーを受け取りました。124日スペインで公開され話題になっているのでアップしようと思いたちIMDbを検索したら、なんと既に今年6月に劇場公開されているではないか(!)2014年から始まった「第2回カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション映画祭」(カリコレ映画祭)に、『ザ・タイガー 救世主伝説』という邦題で上映されていたのでした。しかしこんなタイトルでは“Ardor”に辿りつけないし、そもそも映画祭もノーチェックでした。今月WOWOWでも放映、DVDも新春そうそう発売される。

 

             

                  (ポスター)

 

   Ardor(“The Ardor”、『ザ・タイガー 救世主伝説』)2014

製作:Magma Cine / Bananeira Filmes / Manny Films / Canana Films

監督・脚本:パブロ・ヘンドリック

撮影:フリアン・アペステギア

音楽:セバスティアン・エスコフェト、フリアン・ガンダラ

音響:レアンドロ・デ・ロレド、ジョージ・サルダーニャ

編集:レアンドロ・アステ

美術:ミカエラ・Saiegh

セット・デコレーション:サブリナ・カンポス

メイクアップ:マルティン・マシアス・トルヒージョ、セレステ・アリサバラガ(特殊メイク)

衣装デザイン:キカロペス

プロデューサー(共):バニア・カタニ、パブロ・クルス、GG・ベルナルほか多数

 

データ:製作国(アルゼンチン、メキシコ、ブラジル、仏、米、西)、言語(スペイン語・英語)、ウエスタン、2014年、101分、撮影地アルゼンチンのミシオネス州

 

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2014特別上映、第1回イベロアメリカ・フェニックス賞2014「最優秀撮影賞」受賞(フリアン・アペステギア)、アルゼンチン映画アカデミー(スール)賞2014には作品賞以下多数ノミネーション、アルゼンチン映画批評家協会が選ぶコンドル賞2015に助演男優賞クラウディオ・トルカチル、音楽賞セバスティアン・エスコフェト、フリアン・ガンダラ、撮影賞フリアン・アペステギアが、各銀のコンドル賞にノミネーション。

 

キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル(カイ)、アリシー・ブラガ(バニア)、チコ・ディアス(バニアの父ジョアン)、クラウディオ・トルカチル(トリキーニュ)、ホルヘ・セサン、フリアン・テジョ(バンド)、ラウタロ・ビロ(ハラ)他

 

プロット:ミシオネスの熱帯雨林を舞台に呪術をおこなう寡黙な一匹狼カイの物語。ふらりと現れたミシオネスでは、折りも折り土地の拡大を目論む権力者のために金で雇われた男たちがタバコ農場主ジョアンとその娘バニアを暴力で脅していた。カイは苦境に立たされている父娘を助ける決意を固める。しかし父親は抵抗むなしく殺害され娘は拉致されてしまう。若者は娘救出のため森林破壊者である権力者と対峙することになる。エコロジストの視点をもつ孤独な男のアルゼンチン版ウエスタン。                              (文責:管理人)

 

       

          (アリシー・ブラガ、GG・ベルナル、映画から)

 

監督キャリア&フィルモグラフィー

★パブロ・ヘンドリック Pablo Fendrik 1973年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、編集者。

2007El asaltante2009銀のコンドル賞(初監督賞)、2009スール賞(同)を共に受賞、

リマ・ラテンアメリカ映画祭初監督賞受賞、アミアン映画祭2007アミアン市賞受賞、カンヌ映画祭2007ゴールデン・カメラ賞にノミネーション、他

2008La sangre brota”カンヌ映画祭2008「批評家週間」に正式出品、ユース賞受賞、2010銀のコンドル(監督・オリジナル脚本賞)ノミネーション、2009スール賞(作品・監督・オリジナル脚本賞)ノミネーション

2014Ardor省略。

 

★他、短編は割愛、なお“Ardor”は、アミアン映画祭2009で脚本制作の基金を得ている。上記のフィルモグラフィーから分かるように長編全3作がカンヌ映画祭で上映され、デビュー作が有名なノートルダム大聖堂のあるアミアン映画祭で受賞するなどフランスと縁が深い。

 

 

 (GG・ベルナル、監督、アリシー・ブラガ、クラウディオ・トルカチル、カンヌにて)

 

 *トレビア

★タイトルはスペイン語圏でも上映国によって定冠詞ELが付いたり、スペインのように“Ardor. La justicia de los debiles”と副題が入るものもあり異なる。多分過去に同題の作品があるせいかと思う。また、映画に出てくるのは〈ジャガー〉で、〈タイガー〉は出てこない。そもそも南北アメリカ大陸にタイガーは生息していない。しかしアメリカ虎とも称するから英語字幕がアメリカ・タイガーなのかもしれない。映画の顔ともいうべきタイトルの付け方は、本当に難しい。

 

★ウエスタン風にするための図式を多用する不自然な筋運びが気になるが、監督は、ジョン・ウェインやゲイリー・クーパーが活躍した初期のウエスタンではなく、淀川長治が大嫌いだったサム・ペキンパーやマカロニ・ウエスタンの確立者セルジオ・レオーネの作風を意図しているのかもしれない。またオールドファンならヴェルナー・ヘルツォークの『アギーレ / 神の怒り』1972)、もう少し若い方ならクリント・イーストウッドが自作自演した『ペイルライダー』1985)などを思い浮かべるかもしれない。カイを裸のシャーマンに造形したのは、ホドロフスキーの『リアリティーのダンス』に登場する自然破壊を嫌った裸身のシャーマンをイメージさせる。魔術的なミステリーの要素、資本主義の搾取を告発する内容なども織り込まれている。撮影監督フリアン・アペステギアの仕事の評価は高く、GG・ベルナルの演技も評価された。

 

1978年生れのガエル・ガルシア・ベルナルにとっては、勿論「蒼ざめた馬」に乗って町にやってきたプリーチャーが活躍する『ペイルライダー』だろう。日本でも76世代といわれるグループは、自由な発想を得意とし縛られるのを嫌がる。しかし古い世代のことも知っている微妙な立ち位置にいる。TVに育てられた世代だが既に卒業もしている。スペイン公開前日にエル・パイス紙のインタビューを受けたガエルは、「質の悪い開発一辺倒の権力者に立ち向かうカイのようなヒーローにとって、飛び上がるには活力が必要だ。しかし社会を批判するだけの脚本ではダメ。脚本が優れていないとヒーローにも興醒めさせられるし、一歩間違うとプロパガンダになりかねない」と語っている。

 

★映画の舞台となった「ミシオネス」は乾季のない熱帯雨林、アルゼンチンでも最も蒸し暑い州。北西をパラグアイ、北と東はブラジルと国境を接し、文化的にはブラジルに近い地域、パラグアイの公用語でもあるグアラニー語、ポルトガル語、ドイツ語が話されている。それはここに植民にしてきたのがゲルマン人だったからです。これらの白人が南米ウエスタンでの敵対者になる。先住民グアラニー族はかつてはジャングルには住んでおらず、コンキスタドールやイエズス会の神父たちに追われてジャングルの奥に逃げ込んでいったそうです。

 

      

           (裸のシャーマン、GG・ベルナル、映画から)

 

★ガエルによると、現場のジャングルに入るのに毎日50分ほど歩くという過酷な撮影だったという。ウォルター・サレスの『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004)でピラニアがいる夜のアマゾン川を泳いだ若者も大変だったようだ。将来的にはアメリカTVシリーズの刑事ドラマ『ザ・ワイヤー』のような複数の人格が物語を構成するテレドラを考えているようです。メキシコを汚染する麻薬取引、政治、犯罪、社会教育など都市が抱える問題を描きたいようだ。〈カナナ〉の主力メンバー3人は、ディエゴ・ルナにしろ、本作のプロデューサーの一人パブロ・クルスにしろ、世界の不平等には黙っていられない人たちだ。20148月に『パウリーナ』のドロレス・フォンシと離婚したばかりだが、本作で意気投合したアリシー・ブラガが新恋人という噂です。ドロレスは既に『パウリーナ』の監督サンティアゴ・ミトレと再婚している。

 

 

       (ガエルとアリシー、第1回フェニックス賞授賞式にて、2014年)

 

 

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