マルティネス=ラサロの新作”Ocho apellidos catalanes”公開2015年12月09日 13:14

         1年半待たされましたがやっと“Ocho apellidos catalanes”が公開

 

★昨年のスペイン映画界の救世主Ocho apellidos vascos2014)の続編です。監督エミリオ・マルティネス=ラサロの希望というより製作者の「柳の下の二匹目の泥鰌」を狙っての企画だったようです。果たして泥鰌は「居たのか、居なかったのか」どっちなのでしょうか。クランクインの記事はアップしておりますが、改めてフィーバーぶりを。前作も日本では無視され続けておりますが(多分)、スペインでの興行成績は、毎回好評のサンティアゴ・セグラの「トレンテ」シリーズは言うまでもなく、あのフアン・アントニオ・バヨナの『インポッシブル』をも抜いたのでした。スペイン人を理解するには、格好の教材だと思うのですが、公開の道は遠そうです。

 

★スペインで映画館に足を運んだ人は延べ約1000万人、総人口4600万の国ですから、一つマルが間違っているのではないかと思うほどです。山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズは本編48作、ギネスブック入りだそうですが、それでも全作のトータル観客数は8000万、これも凄い数字ですけど、ちなみに第1作は54万人だったそうです。“Ocho apellidos vascos”の数字が如何に破格だったかが分かります。これは、映画館から何年も足が遠のいていた人、映画はテレビやDVDで観るものと決めていた人が行かないと達成できない数字です。

 

 

    (2015年興行成績ナンバーワンの結果に大喜びするスタッフ、キャストたち)

 

★第2作目、カタルーニャ編はどうだったか、思惑通り二匹目の泥鰌は居たようです。1127日、公開1週目の集計が出ました。観客動員数1,809,490人のおかげで、11,081,639ユーロ、うち観客の73%が初日に映画館に足を運んだそうです。「バスク編」のスクリーン数は350でしたが、「カタルーニャ編」は884だったそうです。封切り日は金曜日なのですが。結局2014年に引き続き、2015年も興行成績ナンバーワンになることは確実です。公開前の予想では、「バスク編5600万ユーロを超えることは不可能、うまくいって3000万ユーロ」と踏んでいたようですから期待以上の数字です。どうやら先が読めなくなってきたようだ。

 

  

(クララ・ラゴ、ダニ・ロビラ、カラ・エレハルデ、続編「カタルーニャ編」)

 

★こうなると第3作、4作・・・と欲が出て、「ガリシア編」やら「アンダルシア編」などが撮られるかもしれない。脚本は前作と同じボルハ・コベアガディエゴ・サン・ホセが共同執筆した。国粋主義者の「コルドをニューヨーク入りさせたい。ブルックリン橋を船で潜らせ、『なんてこった、こりゃポルトゥガレテの吊橋じゃないか』と歓喜の声を上げさせたい」とサン・ホセ。「ポルトゥガレテの吊橋」というのは、1893年に完成したビルバオ川に架かった吊橋、世界遺産に登録されている。しかし規模は比較にならないほど小さいから笑える。このシリーズは、主役のダニ・ロビラクララ・ラゴより、バスク・ナショナリストに凝り固まったコルト役カラ・エレハルデ(クララの父、ゴヤ助演男優賞受賞)なしでは成立しないコメディです。海外編も考えているということですかね。

★「わたしたちが好きなコメディは、ジュリア・ロバーツが出演した『ベスト・フレンズ・ウェディング』なのです。かつての恋人―しばらく会っていないが今でも愛している―の結婚式をぶち壊して自身が花嫁になりたい。このようなコメディが元になっている」とコベアガ。ハリウッドのロマンティック・コメディの古典ですね。また「バスク編」のプロットは、ジェイ・ローチの『ミート・ザ・ペアレンツ』、主人公ベン・スティラーが恋人(テリー・ポロ)の父親(デ・ニーロ、元CIAの職員)に結婚の許しを得るためニューヨークに乗り込むお話でした。吹き替えでも繰り返し放映されたヒット・コメディ。カラ・エレハルデVSデ・ニーロ、ダニ・ロビラVSベン・スティラー、クララ・ラゴVSテリー・ポロという図式です。

 

★他に、ベルランガの『ようこそマーシャルさん』(1952)、セグラの「トレンテ」シリーズ、W・ベッカーの『グッバイ、レーニン!』(独2003)、それに戦前のハリウッド映画、ジョージ・キューカーの『フィラデルフィア物語』(1940)などを上げている。戦後間もない1948年に日本でも公開され、「こんな映画を作っていた豊かな大国と戦争してたんだ」と、観客はショックを受けた。

 

★「第1作の成功がプレッシャーになっていたが、脚本は自由裁量であった。二人が恐れていたのは筋のマンネリ化、それを避けるためガラリと変えた。続編は恋の三角関係です」とサン・ホセ。スタッフもキャストもほぼ同じですが、クララ・ラゴ(アマイア)のカタルーニャでの新恋人にブルト・ロメロ、その祖母役に大ベテランのロサ・マリア・サルダが加わった。この家族は典型的なカタルーニャ気質を体現しており、バスクのクラシック・ジョークを言い換えながら笑わせる。どうやらバスクとカタルーニャの違いが分からないと笑えないのかもしれない。ジハード・テロリストについてのジョークもちょこっとあるようだ(心配?)。ロメロが演じる新恋人は、現代アーティストでヒップスターという役柄、「この役はマリオ・カサスには無理だよ、それで僕のところに回ってきたんだ」とロメロ。エル・パイス紙の購読者向けに企画された公開2日前インタビューで冗談をとばしていた(司会は本紙の批評家グレゴリオ・ベリンチョン)。

 

  

  (左から、カルメン・マチ、ブルト・ロメロ、マルティネス=ラサロ監督、1118日)

 

★このインタビューから見えてきたのは、バスク編製作中に続編が構想されていたが、「実際に私が、決心したのは第1作の大成功が分かった時点」とマルティネス=ラサロ監督。また「映画は数多くのおバカさんで成り立っている」とも語っていた。確かホセ・ルイス・ゲリンも「クレージーでないと映画は作れない」と語っていた。監督キャリアはバスク編で紹介しています。

 

カルメン・マチは続編も同じメルチェ役、バスク編ではゴヤ助演女優賞を受賞した。多くの批評家が脇役エレハルデとカルメンのベテラン勢の演技なしに大成功はなかったと口を揃えた。彼女は、2010年エミリオ・アラゴンの『ペーパーバード 幸せは翼にのって』がラテンビートで上映されたとき、監督と一緒に来日した。アルモドバル新作「フリア」(「沈黙」を改題)には出演していませんが、アルモドバルの常連さんでもある。ゴヤ賞2015ノミネーション他でキャリア紹介しています。

 

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◎バスク編の紹介記事は、コチラ⇒2014327

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追記:邦題 『オチョ・アペリードス・カタラネス』 の邦題で Netflix 配信されました。