ナタリア・ベルベケ来日*トーク編 ― 2013年12月13日 10:20
★『屋根裏部屋のマリアたち』上映後、ただちにナタリアさん登場、セルバンテス文化センター所長さんの御挨拶並びにナタリアさんとインタビュアーのカレロ氏の紹介で始まりました。ナタリアさんのキャリアについては、所長さんカレロ氏ともコチラとほぼ同じ内容なので割愛致します。
★『屋根裏部屋のマリアたち』の受賞歴について両氏が触れましたので追加いたします。
2010年:サルラ映画祭(Festival de Cine Sarla 2010)、ナタリア・ベルベケ「金のサラマンダー女優賞」受賞。(サルラはフランスのアキテーヌ地域圏ドルドーニュ県にある観光地。管理人)
2011年:セザール賞助演女優賞をカルメン・マウラが受賞。他に美術賞・衣装デザイン賞がノミネートされた。(セザール賞はフランスのアカデミー賞に当たる。管理人)
2011年:ベルリン国際映画祭にコンペティション外で上映。
★フランス映画ということで監督紹介もまだでした。1956年パリ生れ、国立映画学校卒。1989年長編デビュー作を含めて未公開、今回6本目となる『屋根裏部屋のマリアたち』が初めて公開された。最新作はコメディ“Alceste a bicyclette”(“Cycling with Moliere”2013)、キャストは本作と同じファブリス・ルキーニとランベール・ウィルソン。
★ル・ゲー監督によると、自分の子供時代の思い出が根底にあるが、ブルジョワ階級の出身でスペイン人のメイドがいたこと、父親が株の仲買人だったこと以外フィクションだそうです。メイドのゴットマザー的なコンセプシオン役カルメン・マウラにはオファーをかけたが、他の出演者はオーディションで決めた。
★以下メモランダムに纏めて列挙します(若干メモに混乱があるので間違いがあるかもしれない)
アルベルト・カレロAC:スペイン側からカルメン・マウラ以下ロラ・ドゥエニャス、ベルタ・オヘアなど個性豊かな女優陣が参加しています。先ほど伺ったところではル・ゲー監督はスペイン映画をかなり見ていたということでした。ラテンビートで上映したかった映画でしたが既にフランス映画祭上映が決定していて叶いませんでした。
ナタリアベルベケNV:まず、日本の方にこの映画を見ていただけて嬉しい。監督はスペイン映画をよくご覧になっていました。彼はブルジョワ階級の出身で、家系を遡ると貴族だったということです。自分の家にもスペインのメイドがおり、とても気に入っていた経験が下地にあったそうです。それで最初のバージョンは15歳の少年がスペインのメイドに恋をするというものだった。しかし少年役にぴったりの子役が見つからずお流れになった。だからジャン=ルイには15歳の少年のまま大人になったという側面があるんです。
AC:特別に好きなシーンなどありますか。
NV:それはもう、マリアがシャワー浴びてるシーンよ、あっはっは! それに生きるということに一所懸命だったスペイン女性へのオマージュも知ってもらえたらと思う。(かなり豪快な笑い声)
AC:撮影中、困ったことがあったでしょうか。
NV:これには監督の個人的な考えが色濃くあって、「そんなことスペインでは考えられない」と異を唱えても、「いいや、これはフランス人が抱いていたスペイン観なんだから」と押し切られた。1960年代当時、ブルジョワ階級の人が家族を捨ててメイドの故郷に行くなんて結末は驚きね。あっはっは! 彼の個人的な思い入れが関係していると思います。
AC:社会的政治的なメッセージも発信されているようだが。
NV:上流階級の父親というものが抱いていた存在の軽さからくる孤独感があります。屋根裏部屋の住人がウエで階下の御主人がシタみたいな精神的な逆転が描かれている。ジャン=ルイは家族を大事にしたいが、自身は孤独で自由ではなかったということです。
AC:フランスで撮るのとスペインで撮るのとで違いはありますか。
NV:セリフの言語が(スペイン語と)違うほうが自由を感じます。別の場所で仕事をすると別の発見もありますから、とても楽しかった。
AC:映画を選ぶ基準はどんなことですか。
NV:まずシナリオ、台本が重要です。ストーリーが気に入るか、自分がやる人物はどれか、ほかの共演者はどんな人かも考えて決めます。
★他に撮影中のケータリングは美味しかったこと、カルメン・マウラが2国の違いは、製作費とプロモーションの規模の違いと話していたこと(あやふやです)、スペインとフランスの関係は良いこと、10月に公開されたフランソワ・オゾンの評判になっている『危険なプロット』(2012、“Dans la maison”、英題“In
the House”)にファブリス・ルキーニが出演していたことが話題に上りました。(スペイン題は“En la casa”、第60回サンセバスチャン映画祭2012の「金貝賞」受賞作品)。またナタリアさんの初期の作品は紹介されましたが、最近の作品についてはTVシリーズ“Doctor Mateo”以外、残念ながら言及がありませんでした。

★スペインでは2012年6月“Las chicas de la sexta planta”のタイトルで公開された。全体的な受けとめ方としては「ピレネーの向こうはアフリカというようなスペインに対する偏見は払拭されているが、相変わらずフランスとスペインにある文化の壁は乗り越えられていない」というどちらかというとネガティブなものが多かった。スペインに好意的なカリカチュアでも「それはいくらなんでもあり得ない」というシーンが多々あったというわけですね。どこにも存在しないユートピアを描いたものと考えればいいので、リアリズムを追求した映画ではないのだから個人的には酷な評価と思います。それでフランスの上流階級の人々(特に御婦人たち)の描き方もスペインのメイドたちの描き方も当時のステレオタイプにしたのでしょう。サンドリーヌ・キベルランが演じた妻シュザンヌもパリジェンヌではなく田舎育ち、背伸びしてどこか居心地が悪そうで幸せではなかった。おあいこですね。
★写真は管理人が気に入ったシーン、訪ねてきたジャン=ルイをマリアが半ば呆れて嬉しそうに微笑む最後のシーン。洗濯バサミが木製とゲイが細かい。
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