マイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』*サンセバスチャン映画祭2024 ⑩2024年08月14日 18:28

    アルベルディの「El lugar de la otra」の邦題は『イン・ハー・プレイス』

       

           

            (メルセデス役のエリサ・スルエタ)

 

★サンセバスチャン映画祭の公式発表では、ネットフリックス作品についての記載はありませんでしたが、マイテ・アルベルディ監督自身のバラエティ誌などのインタビュー記事から周知のことでした。先日ネットフリックスから邦題『イン・ハー・プレイス』と配信日(1011日)が発表になりましたので、最初から邦題での作品紹介にしました。オスカー賞2021ドキュメンタリー部門ノミネートの『83歳のやさしいスパイ』や「La memoria infinita」(23)のドキュメンタリー作家として、イベロアメリカのみならず国際的にも認知度をあげています。新作「El lugar de la otra」でフィクションにデビューしました。もっとも監督自身はドキュメンタリーとフィクションを区別しておりませんが、製作の規模や方法の違いには苦労したようです。

  

   

   (監督を挟んで二人の主役、エリサ・スルエタとフランシスカ・ルーウィン

 

 『イン・ハー・プレイス』

  (原題El lugar de la otra」、英題「In Her Place 

製作:Fabula

監督:マイテ・アルベルディ

脚本:マイテ・アルベルディ、イネス・ボルタガライ、パロマ・サラス

原作:アリア・トラブッコ・セランの Las homicidas

音楽:ホセ・ミゲル・ミランダ、ホセ・ミゲル・トバル

撮影:セルヒオ・アームストロング

編集:アレハンドロ・カリージョ・ペノビ、ハビエル・エステベス、ヘラルディナ・ロドリゲス

プロダクションデザイン:ロドリゴ・バサエス・ニエト

衣装デザイン:ムリエル・パラ

メイクアップ:カロリナ・フェルナンデス

録音:ミゲル・オルマサバル

美術:パメラ・チャモロ

プロダクション・マネジメント:ジョナサン・ホタ・オソリオ

製作者:フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、ロシオ・ハドゥエ、(エグゼクティブ)マリアンヌ・ハルタード、(共同)セルヒオ・カルミー、クリスティアン・ドノソ

 

データ:製作国チリ、2024年、スペイン語、歴史ドラマ、90分、撮影地サンティアゴ・デ・チレ、SSIFF上映後、チリで劇場公開され、その後 Netflixでストリーミング配信される(1011日)

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2024セクション・オフィシアル作品、923日上映

 

キャスト:エリサ・スルエタ(メルセデス)、フランシスカ・ルーウィン(作家マリア・カロリナ・ヘール)、マルシアル・タグレ(判事)、パブロ・マカヤ(メルセデスの夫エフライン)、ガブリエル・ウルスア(書記ドミンゴ)、ニコラス・サアベドラ(ロベルト・プマリノ)他

  

ストーリー1955年チリ、人気作家マリア・カロリナ・ヘールが恋人を殺害したとき、この容疑者の保護を担うことになった裁判官の内気な書記メルセデスは、この事件に夢中になった。作家のアパートを訪れた後、メルセデスはその家に自由のオアシスを見つけると、自分の人生、アイデンティティ、そして社会における女性の地位役割について疑問をもつようになる。このエキサイティングなドラマは、実際にあった殺人事件に基づいているが、メルセデス自身の居場所探しの物語でもある。

     

       

       (マリア・カロリナ・ヘール役のフランシスカ・ルーウィン)

   

 

      架空の登場人物メルセデスの視点で描くチリ社会の階級主義

 

★今作のベースになったアリア・トラブッコ・セラン Las homicidas(仮題「殺害する女性たち」)は、20世紀にチリの女性によって犯された4つの象徴的な殺人事件を分析している。殺人事件そのものだけでなく、社会、メディア、権力者たちがどのように反応したかを詳述したノンフィクション。その一つホテル・クリヨンの衆人環視のなかで行われた殺害事件を扱った、人気作家マリア・カロリナ・ヘールの恋人殺害事件にインスパイアされて映画化された。殺害に至るまでとその後の出来事、当局による逮捕、裁判、司法手続き、メディアの報道の仕方などが語られている。作家が加害者であることは明白であるが、同時により陰湿な種類の暴力の被害者、犠牲者であることが語られる。

 

        

   (英語版の表紙)

 

★トラブッコ・セラン(チリ1983)は、フルブライト奨学金を得て、ニューヨーク大学でクリエイティブライティングの修士号を取得する。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのスペイン語とラテンアメリカ研究の博士号を取得、2018年のデビュー作 La restaThe Remainder)は批評家から高く評価され、2019年のマン・ブッカー国際賞の最終選考に残った。2作目が Las homicidas2019年刊)です。現在サンティアゴとロンドンの両方に在住している。

 

★メルセデスは架空の人物で、アルベルディ監督によると「メルセデスの視点は、私たち女性の視点でもあります。彼女は夫と子供2人と狭いアパートで暮らしている。犯罪者である作家のアパートは自宅では得られない静けさの漂うオアシスだった・・・メルセデスは進化し創造するための自身の居場所を見つけようとする。この映画はチリ社会に蔓延し続ける階級主義と家父長制についても描いています」とコメントしている。存在さえ無視されていた50年代のチリ女性の居場所探しがテーマの一つのようです。


★また今回初めてタッグを組むラライン兄弟の制作会社「Fabula」とネットフリックスについては、「私の初めてのフィクションで素晴らしいパートナーになってくれた。彼らは私の視点、ビジョンを尊重して、この新しい世界を巧みに導いてくれた」と語っている。

    

      

  (左から、トラブッコ・セラン、マリア・カロリナ・ヘール、アルベルディ監督)

 

★ドキュメンタリーとフィクションの違いについては「ドキュメンタリーは少人数だが数年がかりとなる。フィクションは短期間の撮影で終わったが、俳優が約50人、スタッフを含めるとチーム全体は80人にもなり大変だった」とその違いに苦労したそうです。

   

       

     

            (メルセデス役のエリサ・スルエタ)

 

SSIFFで上映後、1011日にはストリーミング配信されますので、映画祭新情報、キャスト&スタッフ紹介は鑑賞後にアップしたいと思います。