ドロレス・フォンシの2作目「Belén」*ゴヤ賞2026 ➅ ― 2026年02月17日 17:57
イベロアメリカ映画賞ノミネート――ドロレス・フォンシの「Belén」

★アルゼンチンのドロレス・フォンシの第2作「Belén」は、サンセバスチャン映画祭2025セクション・オフィシアルでプレミア上映され、3月15日に開催される第98回アカデミー賞(国際長編映画賞部門)にアルゼンチン代表作品に選ばれていました。ショートノミネート15作には残りましたが、残念ながらノミネートは逃しました。ちなみにスペイン代表作品のオリベル・ラシェの 「Sirāt」は、映画賞と音響賞の2部門に踏みとどまりました。サンセバスチャン映画祭では作品紹介をしませんでしたが、ゴヤ賞イベロアメリカ映画賞にノミネートされましたので、遅ればせながらアップいたします。

(左から、フリエタ・カルディナリ、ドロレス・フォンシ、カミラ・プラーテ、
ラウラ・パレデス、サンセバスチャン映画祭2025フォトコール、9月22日)
★本作はおよそ10年前の2014年、アルゼンチン北西部トゥクマンで実際に起きた「乳児殺害(中絶)」の冤罪事件をベースにしています。アナ・エレナ・コレアのノンフィクション小説 “Somos Belén” (プラネタ社、2019年刊)を原作として、アルゼンチンで中絶法案成立に繋がった法廷での激しい対立を描いています。〈ベレン〉という名前は本名ではなく、この冤罪事件をきっかけに女性の人権運動が広がるにつれ、シンボル的に付けられた名前です。本名を明かすことは家族に危険が及ぶ可能性を考慮して、映画ではカミラ・プラーテ扮するフリエタの名前で登場します。監督自身が演じるソレダード・デサは、トゥクマン出身の実在の弁護士です。オスカー賞ノミネートのプロモーションに現地を訪れたデサ弁護士と監督は、メディアからの多くのインタビューを受けましたが、それはテーマが世界中の女性の権利闘争と共鳴しているからで、今の瞬間を象徴する映画だからです。

(自著 “Somos Belén” を手にしたアナ・コレアとドロレス・フォンシ)

(インタビューを受けるデサ弁護士と彼女を演じたドロレス・フォンシ、ロサンゼルス)
「Belén」
製作:Amazon MGM Studios / K & S Films
監督:ドロレス・フォンシ
脚本:ラウラ・パレデス、ドロレス・フォンシ、アグスティナ・サン・マルティン、
ニコラス・ブリトス (原作:アナ・コレア “Somos Belén” )
撮影:ハビエル・フリア
編集:アンドレス・ペペ・エストラーダ
衣装デザイン:ルシア・ガスコニ
メイクアップ & ヘアー:ディノ・バランチノ、アンヘラ・ガラシハ、フロレンシア・グロッソ
プロダクションマネジメント:ニコラス・ポラストリ
製作者:レティシア・クリスティ(K & S)、マティアス・モスティリン、ウゴ・シグマン、ロドリゴ・カラ、ディエゴ・コペリョ(コペラ)、(エグゼクティブ)アルトゥール・デル・リオ(Amazon Studios)
データ:製作国アルゼンチン、2025年、スペイン語、法廷ドラマ、105分、第98回アカデミー賞アルゼンチン代表作品(ショート15作ノミネート)、配給米アマゾンMGMスタジオ、公開アルゼンチン2025年9月18日、プライムビデオ配信:英・米・カナダ・スウェーデン・シンガポール、ウルグアイ(シネマティカ)、視聴地域が限られ、現在日本では視聴できません。
映画祭・映画賞:サンセバスチャン映画祭2025セクション・オフィシアル(助演俳優賞カミラ・プラーテ、RTVE「もう一つの視点賞」スペシャル・メンション受賞)、リオデジャネイロFF、オランダのライデンFF、シカゴFF、フォルケ賞2025ラテンアメリカ映画賞受賞、ハバナFF2025音響賞、ローズ・ドール・ラティノス2025TVストリーミング賞受賞、2026年パルマ・スプリングスFF、
キャスト:カミラ・プラーテ(ベレン/フリエタ)、ドロレス・フォンシ(弁護士ソレダード・デサ)、ラウラ・パレデス(バルバラ)、フリエタ・カルディナリ(公選弁護人ベアトリス・カマニョ)、セルヒオ・プリナ(ディエゴ)、ルイス・マチン(判事ファリア)、セサル・トロンコソ(アルフォンソ)、リリ・フアレス(マベル)、ルス・プラーテ(メチャ)、ガイア・ガリバルディ(フローラ)、マリア・マルル(クリス)、他多数
ストーリー:2014年、アルゼンチン北部トゥクマンで流産したにも拘わらず、違法な中絶〈乳児殺害〉の罪で告発、収監されたフリエタ(通称ベレン)の実話に基づいています。本作は、彼女を救うため立ち上がった勇敢な弁護士ソレダード・デサとの激しい法廷闘争が、やがて女性の権利を求める中絶合法化の大きな社会運動へと発展していく様子が語られ、法的な壁と社会の偏見に立ち向かうため連帯した女性たちを描いています。アナ・コレアの優れたノンフィクション小説がベースになっている。

(アナ・コレアと “Somos Belén” の表紙)
★本作は弁護士視点の法廷闘争がメインと推察されますが、まだ作品が視聴できないためフリエタの流産がどうして乳児殺害になったのかという経緯がよく分かりません。トゥクマン州(州都サン・ミゲル・デ・トゥクマン)は、アルゼンチンでも家父長制的な法制度が根を張った保守的な地域といわれ、女性の地位は低い。フリエタは激しい腹痛のため救急外来に搬送され、自身が妊娠22週目で流産したことを知らされます。当時彼女は27歳で妊娠していることを知らなかったという。医療従事者はフリエタが中絶を試みた可能性を疑い、警察に通報する。フリエタは目が覚めると退院どころか手錠がはめられ収監されたという、我が耳を疑う言語道断な事件です。
★監督、脚本、出演のドロレス・フォンシ(ブエノスアイレス1978)の2作目となる本作は、自身が企画して制作会社を探したというわけではなかった。ベレン事件には最初からコミットしていたが、自身で撮る予定はなかったと語っている。制作会社K & S Filmsのレティシア・クリスティから打診があり、引き受けたと語っている。
★女優としての経歴が長く、パートナーのサンティアゴ・ミトレの『パウリーナ』以下クラウディア・リョサの『悪夢は苛む』までの代表作4作を当ブログで紹介しています。監督デビュー作「Blondi」は、サンセバスチャン映画祭2023オリソンテス・ラティノス部門にノミネート、アルゼンチン映画アカデミーとコンドル賞2024初監督作品賞を受賞しています。優れた法廷闘争を描いた映画にはアカデミー賞2023国際長編映画賞にノミネートされたミトレの『アルゼンチン、1985』が記憶に新しい。比較しても始まりませんが、いずれ視聴できた折には改めてアップしたい。
*ドロレス・フォンシのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2023年07月21日
*『パウリーナ』は、コチラ⇒2015年05月21日

(デサ弁護士役ドロレス・フォンシとフリエタ役のカミラ・プラーテ、フレームから)
★ソレダード・デサ、トゥクマン州都サン・ミゲル・デ・トゥクマン生れ、トゥクマン国立大学卒、著書に ”Libertad para Belén: Grito nacional” がある。時代遅れの法律によって女性の健康やプライバシーが脅かされている現実と闘う弁護士の一人。地元トゥクマン裁判所の「8年の禁固刑」という深刻な不正義に驚愕して、フリエタの弁護を前任者から引き継いだ。デサは自分が闘っているのがフリエタだけでなく、時代遅れの法律によって長年苦しめられてきた全女性のためであることに気づいたという。激しい社会運動のさなか、2017年にデサ弁護士の努力の甲斐あって州最高裁判所は「禁固3年」に減刑、フリエタは釈放され、最終的には無罪を勝ち取った。デサ弁護士は「映画ベレンは、ハンディキャップで組み立てられた自由の物語ですが、それは多くの人々の頑張りと団結についての物語でもある」とコメントしている。

(ソレダード・デサ弁護士)

(中絶法案合法化のデモ行進)
★アナ・エレナ・コレア、ブエノスアイレス生れ、作家、弁護士、政治的コメンテーター、活動家、フェミニスト、“Somos Belén” の著者。2019年11月にブエノスアイレス大学法学部で行われた出版記念イベントにまだ就任前だったが、次期大統領アルベルト・フェルナンデス(任期2020年12月~2023年12月)も出席して、「私がここにいるのは、彼女たちの要求を支持するため」とスピーチした。就任した翌年合法化された。イベントには、アナ・コレアの他、ソレダード・デサ弁護士、中絶闘争の先駆者ネリー・ミニエルスキー弁護士(サン・ミゲル・デ・トゥクマン1929)やフォンシ監督の姿もあった。

(左から2人目、デサ弁護士、アナ・コレア、次期大統領アルベルト・フェルナンデス、
ミニエルスキー弁護士、ドロレス・フォンシ、中絶合法化のイベント、2019年11月15日)
★カミラ・プラーテ(ベレン/フリエタ)は、アグスティン・トスカノの「El Motoarrebatador / The Snatch Thief」(18)でデビュー、アルゼンチン映画アカデミー賞2019新人女優賞にノミネートされた。本作はカンヌ映画祭併催の「監督週間」でプレミアされ、同年サンセバスチャン映画祭オリソンテス・ラティノス部門にもノミネートされた。バイクひったくり犯の心の遍歴が語られる。トスカノはサン・ミゲル・デ・トゥクマン出身の監督です。2019年リリアナ・パオリネリのコメディ「Margen de error」、TVシリーズ「Tafí Viejo, verdor sin tiempo」(25)などが代表作。
*「El Motoarrebatador / The Snatch Thief」紹介記事は、コチラ⇒2018年09月07日

(「Belén」の法廷シーンから)

(銀貝助演俳優賞のトロフィーを手にしたカミラ、SSIFF2025授賞式にて)
★同じテーマの作品として、ドキュメンタリーだがSSIFF2019でご紹介したRTVEスペイン国営ラジオ・テレビが選ぶ「もう一つの視点」を受賞したフアン・ソラナスの「La ola verde(Que sea ley)」がある。カンヌ映画祭2019アウト・オブ・コンペティションで特別上映された。妊娠中絶合法化のシンボルである緑のハンカチやスカーフを身に着けてカンヌやサンセバスチャンに大挙して参加した。翌2020年、フェルナンデス大統領によってに合法化された。しかし、アルゼンチンのトランプと揶揄される現大統領ハビエル・ミレイは、中絶法の復活を豪語している。
*「La ola verde(Que sea ley)」の記事は、コチラ⇒2019年08月11日/同年10月03日
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