ルクレシア・マルテルの「Nuestra tierra」*SSIFF2025 ⑪2025年09月13日 11:01

      オリソンテス・ラティノス部門――マルテルの初長編ドキュメンタリー

    

        

     

★今年は時間的に余裕をもってご紹介できると思っていましたがダウン、開幕が目前になってしまいました。全部門の審査員メンバー発表、ジェニファー・ローレンス(ケンタッキー州ルイスビル1990)の若干35歳にしてのドノスティア栄誉賞受賞、サバルテギ-タバカレア部門、メイド・イン・スペイン部門、短編部門Nest、ベロドロモ部門、バスク映画部門など、ほぼ全作品が出揃いました。カンヌ映画祭2025で「ある視点」賞を受賞したチリのディエゴ・セスペデスの長編デビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」が、第6回目を迎えたLGBTIQA+作品に与えられるセバスティアン賞 Gehitu を受賞したことも発表になっています。13作がノミネートされ、オリソンテス・ラティノス部門からは、本作とブラジル映画、マリア・クララ・エスコバルマルセロ・ゴメスの「Dolores」の2作が対象作品でした。

    

     

     (セバスティアン賞受賞作「La misteriosa mirada del flamenco」)

 

       

                                              (ブラジル映画「Dolores」)

 

★前回の続きとして、オリソンテス・ラティノス部門ノミネートのルクレシア・マルテルの初長編ドキュメンタリー「Nuestra tierra」から再開します。2009年に起きたアルゼンチン北部チュシャガスタの先住民コミュニティのリーダー、ハビエル・チョコバル殺害と、植民地主義のルーツ、真実の不正義の物語を記録したものです。既にベネチア映画祭2025アウト・オブ・コンペティションで、831日ワールド・プレミアされています。類似作品として、チリのフェリペ・ガルベス(サンティアゴ・デ・チレ1983)の「Los colonos / The Settlers」がある。東京国際映画祭2023で『開拓者たち』の邦題で上映された。1901年から1908年のパタゴニアを舞台にしたティエラ・デル・フエゴ島の先住民セルクナム虐殺をテーマにしている。

    

      

                   (ルクレシア・マルテル、ベネチア映画祭2025にて)

 

 「Nuestra tierra / Landmarks

製作国:アルゼンチン、米国、メキシコ、フランス、オランダ、デンマーク

監督:ルクレシア・マルテル(アルゼンチンのサルタ1966

脚本:ルクレシア・マルテル、マリア・アルチェ

撮影:エルネスト・デ・カルバーリョ

編集:ジェロニモ・ペレス・リオハ、ミゲル・シュアードフィンガー

音楽:アルフォンソ・オルギン

録音:グイド・ベレンブルム、マヌエル・デ・アンドレス、他 

製作:Rei Pictures(アルゼンチン)/ Louverture Films(米国)

共同製作:Piano / Lemming Film(オランダ)/ Pio & Co / Snowglobe

継続時間:122分、スペイン語

 

キャスト:ハビエル・チョコバル、他コミュニダード・チュシャガスタ

  

ストーリー2009年、アルゼンチン北部のチュシャガスタの先住民コミュニティのメンバーを立ち退かせようと武装した3人の男がやってきた。彼らは対立のなか、土地の所有権を主張するリーダーであるハビエル・チョコバルを殺害する。このあからさまな犯罪の様子はビデオに収録されていたが、犯人は野放しのまま、裁判にかけられるまでに9年もの年月を擁しました。この象徴的な殺人事件をとりまくドキュメンタリーは、コミュニティの声と写真を法廷の映像と組み合わせて、ラテンアメリカにおける植民地主義のルーツ、殺人、不平等、土地の収奪の何世紀にもわたる歴史を探ります。

   

     

   

  

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭831日ワールドプレミア、トロント映画祭98日、サンセバスチャン映画祭9月、カムデン映画祭911日、バンクーバー映画祭104日、ニューヨーク映画祭107日、BFIロンドン映画祭1016日、他

 

監督紹介ルクレシア・マルテル1966年アルゼンチン北部サルタ出身、代表作は「サルタ三部作」といわれる『沼地という名の町』(2001La Ciénaga)、『ラ・ニーニャ・サンタ』(2004La niña santa)、『頭のない女』(2006La mujer sin cabeza)の他、第4作が約十年ぶりに撮った話題作『サマ』(2017Zama)がある。寡作な映像作家だが、アルゼンチン映画を代表する作品を手掛けている。詳細については当ブログに紹介記事をアップしています。また東京国際映画祭2022に短編『ルーム・メイド』(12分、Camarera de piso)が上映されている。咀嚼に時間のかかる気難しい監督で万人向きではないが、ファンは多い。短編、ドキュメンタリー、テレビシリーズ、アンソロジーなども手掛けている。

   

  

           (撮影中のルクレシア・マルテル)

    

   

      (ダニエル・ヒメネス=カチョがサマを演じた「Zama」のポスター)

 

★マルテル監督は、深く共感的でありながら根本的に感傷的ではないアプローチで展開させ、不公平さを描いている。2009年の殺害事件を追ってプロジェクトを起ち上げ、翌年から殺害犯の裁判に出席、2018年、サンダンス・ドキュメンタリー・プログラムとインスティテュート・オブ・コンテンポラリーアーツの助成金を授与された。コロナウイルス感染症パンデミックの影響で未完成のまま、ロカルノ映画祭2020フィルム・アフター・トゥモロー部門でパルド賞を受賞している。

 

★撮影監督エルネスト・デ・カルバーリョ、フィルム編集のペレス・リオハミゲル・シュアードフィンガー、録音のグイド・ベレンブルムマヌエル・デ・アンドレスなどとは、前作『サマ』でタッグを組んでいる。

 

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