イシアル・ボリャインの「Maixabel」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑧ ― 2021年08月05日 18:35
ボリャインの4回目の金貝賞を狙う映画はETAの犠牲者の実話

(主役のブランカ・ポルティリョとルイス・トサールを配したポスター)
★セクション・オフィシアルの最初のスペイン映画の紹介は、イシアル・ボリャインが今回で4回目となる金貝賞に挑戦する「Maixabel」です。原題はブランカ・ポルティリョ扮する主人公マイシャベル・ラサからとられている。2000年7月29日トロサのバルで、ETAのテロリストによって暗殺された社会主義政治家フアン・マリア・ハウレギの未亡人である。2019年にはジョン・システィアガ&アルフォンソ・コルテス=カバニリャスによってドキュメンタリー「ETA, el final de silencio: Zubiak」も製作され、第67回サンセバスチャン映画祭で上映された。ETAの犠牲者は854人といわれるが、マイシャベルは他の犠牲者家族とどこが違うのか、物語はスリラーとして始り人間の物語として終わります。

(左から、監督、マイシャベル・ラサ、ブランカ・ポルティリョ、2021年2月)
「Maixabel」
製作:Kowalski Films / FeelGood 参画RTVE / EiTB / Movistar+
協賛ICAA / バスク州政府 / ギプスコア州議会 / ギプスコア・フィルムコミッション
監督:イシアル・ボリャイン
脚本:イシアル・ボリャイン、イサ・カンポ
音楽:アルベルト・イグレシアス、EuskadikoOrkestra
撮影:ハビエル・アギーレ
編集:ナチョ・ルイス・カピリャス
美術:ミケル・セラーノ
音響:アラスネ・アメストイ
衣装デザイン:クララ・ビルバオ
メイクアップ:カルメレ・ソレル、セルヒオ・ぺレス
キャスティング:ミレイア・フアレス
プロダクション・マネージメント:イケル・G・ウレスティ、イツィアル・オチョア
製作者:コルド・スアスア(Kowalski Films)、フアン・モレノ、ギジェルモ・センペレ( FeelGood)、(ラインプロデューサー)グアダルペ・バラゲル・トレジェス
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、115分、実話、撮影地主にバスク自治州ギプスコア県、アラバ、撮影期間2021年2月~3月、配給ブエナビスタ・インターナショナル、販売フィルムファクトリー。公開SSIFFの第1回上映後の9月24に決定。
映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭2021セクション・オフィシアルノミネート、9月17日と25日に上映
キャスト:ブランカ・ポルティリョ(マイシャベル・ラサ)、ルイス・トサール(イボン・エチェサレタ)、マリア・セレスエラ(マイシャベルの娘マリア)、ウルコ・オラサバル(ルイス)、ブルノ・セビリャ(ルイチ)、ミケル・ブスタマンテ(パチ・マカサガ)、パウレ・バルセニリャ(友人)、他
ストーリー:夫が暗殺された11年後、マイシャベルは暗殺者の一人、イボン・エチェサレタから奇妙な要求を受け取る。彼はETAのテロリスト集団と関係を絶ち刑に服していた。服役中のアラバ県はナンクラレス・デ・ラ・オカ刑務所内でのインタビューを受けたいという。マイシャベルは多くの疑念と辛い痛みにも拘わらず、16歳のときから仲間になった自分の人生を終わらせたいという人物の面談を受け入れる。夫を殺害した人間と面と向かって会うことの理由を質問された彼女は「誰でも二度目のチャンスに値する」と答えた。「主人公への敬意をこめて、私たちの最近の過去を伝えたい」とイシアル・ボリャイン。

(2000年7月29日に殺害されたフアン・マリア・ハウレギの葬儀)
バスク自治政府テロ犠牲者事務局長だったマイシャベル・ラサの人生哲学
★バスクではなくマドリード生れの監督がETAのテロリズムをテーマに映画を撮り、サンセバスチャン映画祭4度目の金貝賞に挑戦する。第1回目の『テイク・マイ・アイズ』(Te doy mis ojos、03)では、主演のルイス・トサールが銀貝男優賞、ライア・マルルが銀貝女優賞を受賞した。2回目が2007年の「Mataharis」、2018年「Juli」で脚本審査員賞、そして今回作品賞をローラン・カンテやテレンス・デイビスと金貝賞を競うことになる。監督のキャリア&フィルモグラフィーについては2016年の『オリーブの樹は呼んでいる』、2020年の「La boda de Rosa」で紹介しています。
*『オリーブの樹は呼んでいる』の紹介記事は、コチラ⇒2016年07月19日
*「La boda de Rosa」の紹介記事は、コチラ⇒2020年03月21日

(「Juli」ノミネートでインタビューを受けるボリャイン監督、SSIFF 2018)
★上述したように報道ジャーナリストのジョン・システィアガとアルフォンソ・コルテス=カバニリャス監督のドキュメンタリー「ETA, el final de silencio」(7編)が製作され、2019年10月31日から12月12日まで毎週放映された。第1編がこの「Zubiak」で<橋>という意味です。ルポルタージュとして放映されたのでIMDbには登録されていないようだが、マイシャベル・ラサとイボン・エチェサレタの和解を描いている。システィアガはバスク大学でジャーナリズムを専攻、国際関係学の博士号を取得している。ルワンダ、北アイルランド、コロンビア、コソボ、アフガニスタン他、世界各地の紛争地に赴いてルポルタージュを制作している。


(マイシャベルの家で語り合うマイシャベルとエチェサレタ、ドキュメンタリー)
★ブランカ・ポルティリョ(マドリード1963)が、グラシア・ケレヘタの「Siete mesas de billar francés」(07)で銀貝女優賞を受賞して以来、14年ぶりにSSIFF に戻ってきました。翌年のゴヤ賞主演女優賞はノミネートに終り、目下ゴヤ受賞歴はありません。もともと舞台女優として出発、ギリシャ悲劇、シェイクスピア劇、ロルカ劇に出演、演劇の最高賞といわれるMax賞は5回受賞している。最近ではTVシリーズ出演や監督業に専念していた。「マイシャベルになるのは名誉なことです」とツイートしている。

(マイシャベルに扮したポルティリョ、映画から)
★映画は上述以外では、主な代表作としてマルコス・カルネバルの『エルサ&フレド』、ミロス・フォアマンの『宮廷画家ゴヤ』、ペドロ・アルモドバルの『ボルベール』(カンヌ映画祭グループで女優賞)や『抱擁のかけら』、アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』では異端審問官役で男性に扮した。他にアレックス・デ・ラ・イグレシアの『刺さった男』、2020年にはグラシア・ケレヘタの「Invisibles」にカメオ出演している。多彩な芸歴で紹介しきれないがアウトラインだけでお茶をにごしておきます。

(二人の主役、ポルティリョとトサール、映画から)
★ルイス・トサール(ルゴ1971)は、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』で助演男優賞、ボリャインの『テイク・マイ・アイズ』とダニエル・モンソンの『プリズン211』でゴヤ賞主演男優賞と3回受賞している。脇役時代が長かったので出演作は3桁に及ぶ。何回も登場させているので割愛したいが、本作のように実在しているモデルがいる役柄は多くないのではないか。舞台俳優としても活躍、最近Netflixで配信されたTVシリーズ『ミダスの手先』(6話)では主役のメディア会社の社長を演じていた。製作者デビューも果たしている。最近の当ブログ登場は、アリッツ・モレノのブラック・コメディ『列車旅行のすすめ』、パラノイア患者役の怪演ぶりで楽しませた。
*簡単なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2016年07月03日
*『列車旅行のすすめ』の紹介記事は、コチラ⇒2019年10月14日

(撮影中の監督とルイス・トサール)
★サウンドトラックは、ゴヤ胸像のコレクター、11個を手にしたアルベルト・イグレシアス、オスカー賞にも3回ノミネートされている。キャスト陣では、マイシャベルの娘に新人マリア・セレスエラ、監督、脚本家のウルコ・オラサバルやミケル・ブスタマンテと、バスクを代表するシネアストを俳優として起用している。ブルーノ・セビリャは、エレナ・トラぺ映画やTVシリーズ、ホラー映画『スウィート・ホーム』に出演している。
最近のコメント