マヌエラ・マルテッリ、監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2022 ⑭ ― 2022年09月13日 17:23
ホライズンズ・ラティノに「1976」で監督デビューしたマヌエラ・マルテッリ
★女優として実績を残しているマヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ1983)が「1976」で長編監督デビューを果たしました。チリの1976年という年は、ピノチェト軍事独裁政権の3年目にあたり、隣国アルゼンチン同様、多くの民間人の血が流された年でもあった。マルテッリ自身は生まれていませんでしたが、ピノチェト時代(1973~90)は延々と続いたから空気は吸って育ったのです。主人公カルメンの造形は会ったことのない祖母の存在を自問したとき生まれたと語っています。アウトラインはアップ済みですが、チリ映画の現状も含めて改めてご紹介します。アメリカ公開は「1976」では映画の顔として分かりづらいということから「Chile 1976」とタイトルが変更されたようです。
「1976」
製作:Cinestacion / Wood Producciones / Magma Cine
監督:マヌエラ・マルテッリ
脚本:マヌエラ・マルテッリ、アレハンドラ・モファット
音楽:マリア・ポルトゥガル
撮影:ソレダード(ヤララYarará)・ロドリゲス
美術:フランシスカ・コレア
編集:カミラ・メルカダル
衣装:ピラール・カルデロン
録音:ジェシカ・スアレス
キャスティング:マヌエラ・マルテッリ、セバスティアン・ビデラ
メイクアップ:バレリア・ゴッフレリ、カタリナ・ペラルタ
製作者:オマール・ズニィガ、ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョ、アレハンドロ・ガルシア、アンドレス・ウッド、フアン・パブロ・グリオッタ、ナタリア・ビデラ・ペーニャ、他
データ:製作国チリ、アルゼンチン、カタール、2022年、スペイン語、スリラードラマ、95分、販売Luxbox、アメリカ公開は今冬予定。
映画祭・受賞歴:トゥールーズ(ラテンアメリカ)映画祭2022グランプリ・特別賞・ルフィルム・フランセ賞3冠、カンヌ映画祭併催の「監督週間」正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、ブリュッセル映画祭インターナショナル部門出品、エルサレム映画祭デビュー部門「インターナショナル・シネマ賞」受賞、メルボルン映画祭コンペティション部門出品、リマ映画祭作品賞を含む3冠、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品、ロンドン映画祭デビュー作部門
キャスト:アリネ・クッペンハイム(カルメン)、ニコラス・セプルベダ(エリアス)、ウーゴ・メディナ(サンチェス神父)、アレハンドロ・ゴイック(カルメンの夫ミゲル)、アマリア・カッサイ(同娘レオノール)、カルメン・グロリア・マルティネス(エステラ)、アントニア・セヘルス(ラケル)、マルシアル・タグレ(オズバルド)、ガブリエル・ウルスア(トマス)、ルイス・セルダ(ペドロ)、アナ・クララ・デルフィノ(クララ)、エルビス・フエンテス(隣人ウンベルト)、他多数
ストーリー:チリ、1976年。カルメンはビーチハウスの改装を管理するため海岸沿いの町にやってくる。冬の休暇には夫、息子、孫たちが行き来する。ファミリーの神父が秘密裏に匿っている青年エリアスの世話を頼んだとき、カルメンは彼女が慣れ親しんでいた静かな生活から離れ、自身がかつて足を踏み入れたことのない危険な領域に放り込まれていることに気づきます。ピノチェト政権下3年目、女性蔑視と抑圧に苦しむ一人の女性の心の軌跡を辿ります。
(支配階級のシンボル、パールのネックレス姿のカルメン)
チリ映画の隆盛――「クール世代」の台頭
★ピノチェト軍政下では、映画産業は長いあいだ沈黙を強いられ、才能流出が止まりませんでした。『トニー・マネロ』や『No』で知られるパブロ・ララインを中心に、若い世代が集まってグループを結成、自らを「Generation High Dedinition」(高品位があると定義された世代)「クール世代」と称した。指導者はチリ映画学校の設立者カルロス・フローレス・デルピノ*、メンバーは監督ではパブロ・ラライン、アンドレス・ウッド、セバスティアン・レリオ、アリシア・シェルソン、クリスティアン・ヒメネス、セバスティアン・シルバ、ドミンガ・ソトマヨール、アレハンドロ・フェルナンデス、ララインの実弟である製作者フアン・デ・ディオス・ラライン、撮影監督ミゲル・ジョアン・リティン、俳優アルフレッド・カストロ、アントニア・セヘルスなどが中心になっており、当ブログではそれぞれ代表作品を紹介しています。
★本作の特徴は女性スタッフの多さですが、製作者の一人ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョは『木曜から日曜まで』の監督であり、ラケル役のアントニア・セヘルスは、パブロ・ララインと結婚、彼の「ピノチェト政権三部作」すべてに出演していましたが、『ザ・クラブ』を最後に2014年離婚してしまいました。言語が共通ということもあって「クール世代」はアルゼンチン、ベネズエラ、メキシコなどのシネアストとの合作が多いことも特色です。なかにはセバスティアン・シルバ(『家政婦ラケルの反乱』)のようにゲイであるためチリ社会の偏見に耐えかねてアメリカに脱出してしまった監督もおりますが、昨今のチリ映画の隆盛はこのグループの活躍が欠かせませんでした。ラテンビート、東京国際映画祭、東京フィルメックスなどで紹介される作品のほとんどがクール世代の監督です。概ね1970年以降の生れですが、ここにマルテッリのような80年代生れが参入してきたということでしょうか。
音楽も色彩もメタファーの一つ、マルテッリの視覚言語
★カルメンは独裁政権の直接の協力者ではないが被害者でもなく、ただ傍観者である。医師である夫がピノチェトの協力者であること、それで経済的な恩恵を受けていることを知っており、政権との対立で窮地に陥ると夫の名前を利用する。ただこの共謀にうんざりしている。真珠のネックレス、カシミアのコート、流行の靴を履いているが、屈辱的な壁の花である。なりたかったのは医師であり主婦ではなかった。子育てに専念するため断念したという母親を娘は軽蔑する。
(カルメン役のアリネ・クッペンハイム、フレームから)
★カルメンは特権的な立場にあるが、逃亡者エリアスとの関係は、夫が妻を過小評価していることを利用しており危険すぎる。彼女の行動は最初政治的ではなかったが、やがて政治的なものになっていく。予告編の冒頭にある瓶のなかの金魚のようにカルメンは閉じ込められているが、飛びだせば永遠に〈行方不明者〉になる。予告編に現れる鮮やかなペンキの色は、観客を不穏な雰囲気に放り込む。受話器から聞こえるノイズ、シンセサイザーの耳障りな音楽はカルメンの危機を予感させる。メタファーを読みとく楽しみもありそうです。
(逃亡者エリアス役のニコラス・セプルベダ)
★マヌエラ・マルテッリ Manuela Abril Martelli Salamovich 監督紹介:1983年チリのサンティアゴ生れ、女優、監督、脚本家。父親はイタリア出身、母親はクロアチア出身の移民、中等教育はサンティアゴの北東部ビタクラのセント・ジョージ・カレッジで学んだ。最終学年にゴンサロ・フスティニアーノの「B-Happy」(03)のオーディションに応募、主役を射止める。本作の演技が認められハバナ映画祭2003女優賞を受賞した。高校卒業後、2002年、チリのカトリック司教大学で美術と演技を並行して専攻、2007年卒業した。2010年、フルブライト奨学金を得てアメリカに渡り、テンプル大学で映画制作を学んでいる。
★2004年、アンドレス・ウッドの「Machuca」(『マチュカ-僕らと革命』DVD)に出演、アルタソル女優賞を受賞、TVシリーズ出演をスタートさせている。2008年、ウッド監督のオファーを受けて「La buena vida」(『サンティアゴの光』ラテンビート2009)に出演、監督デビュー作「1976」のヒロイン、アリネ・クッペンハイムの娘役を演じた。ラテンビートには監督が来日、Q&Aがもたれた。セバスティアン・レリオの「Navidad」(09)他、短編、TVシリーズ出演がある。
★国際舞台に登場したのは、ロベルト・ボラーニョの短編 ”Una novelita lumpen” を映画化した、アリシア・シェルソンの「Il futuro」(13、イタリアとの合作)でした。マヌエラはヒロインのビアンカに扮し、オランダのカメレオン名優ルトガー・ハウアーと共演した。サンダンス映画祭でプレミアされ、ロッテルダム、トゥールーズ、サンフランシスコなど国際映画祭で上映された。ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭2013で銀のコロン女優賞、シェルソンが監督賞を受賞した。本邦では『ネイキッド・ボディ』の邦題で翌年DVD化されている。第57回ロカルノFF2014にノミネートされたマルティン・Rejtmanの「Dos disparos」に出演している。
(ニコラス・ヴァポリデュス、ルトガー・ハウアー、監督、マルテッリ、サンダンスFF2013)
★監督、脚本家としては、2014年の短編「Apnea」(7分、チリ=米)が、チリのバルディビアFF2014で上映された他、アルゼンチンのBAFICIブエノスアイレス・インディペンデントFF2015、トゥールーズ・シネラティーノ短編FFにも出品された。カンヌの監督週間2014「Fortnight」のプログラム、チリ・ファクトリーに選ばれ、アミラ・タジディンと「Land Tides / Marea de tierra」(チリ=仏、13分)を共同監督した。翌年の監督週間、ニューヨーク短編FF、サンダンスFF2016、ハバナFF2016に出品された。
(マヌエラ・マルテッリ、ロカルノ映画祭2014にて)
★デビュー作の製作者の一人ドミンガ・ソトマヨールの「Mar」(14)に脚本を共同執筆している。2013年よりソトマヨールが製作を手掛けることになった「1976」の最初のタイトルは、怒りまたは勇気という意味の「Coraje」だったという。また2016年にはTVシリーズ「Bala loca」(10話)のキャスティングを手掛けている。アリネ・クッペンハイム、アレハンドロ・ゴイック、マルシアル・タグレなど「1976」のほか、『サンティアゴの光』で共演したアルフレッド・カストロ、セバスティア・シルバの「La nana」(09『家政婦ラケルの反乱』ラテンビート)のカタリナ・サアベドラなどチリを代表する「クール世代」の演技派が出演している。
*カルロス・フローレス・デルピノ(タルカワノ1944)はチリの監督、脚本家、製作者。1973年の軍事クーデタで仲間が亡命するなか、チリに止まってドキュメンタリー作家として活躍、1994年、Escuela de Cine de Chileを設立、教育者として後進の指導に当たる。代表作は、チリのチャールズ・ブロンソンと言われたフェネロン・グアハルドをモデルにチリ人のアイデンティティに光を当てたドキュメンタリー「El Charles Bronson Chileno: o idénticamente igual」(76・84)と作家のホセ・ドノソについての中編ドキュメンタリー「Donoso por Donoso」(94)など。
*追加情報:第35回東京国際映画祭2022のコンペティション部門に同タイトルでノミネートされました。
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ新作*サンセバスチャン映画祭2022 ⑬ ― 2022年09月08日 15:02
イニャリトゥの新作「Bardo」はノスタルジック・コメディ?
★ペルラス部門最後のご紹介は、メキシコのアレハンドロ・G・イニャリトゥの「Bardo, Falsa crónica de una cuantas verdades」、監督の分身とおぼしきジャーナリストでドキュメンタリー映画作家のシルベリオ・ガボにダニエル・ヒメネス=カチョが扮します。しかしコメディで観客の忍耐力をテストするような174分の長尺なんてあり得ますか? 脚本は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)の共同執筆者ニコラス・ジャコボーネ、監督と一緒に翌年のアカデミー賞ほか国際映画祭の授賞式行脚をいたしました。サンティアゴ・ミトレの「Argentina, 1985」同様、第79回ベネチア映画祭コンペティション部門で既にワールド・プレミアされています(9月1日)。さて、評判はどうだったのでしょうか。
(グリセルダ・シチリアーニ、イケル・サンチェス・ソラノ、イニャリトゥ監督、
ダニエル・ヒメネス=カチョ、ヒメナ・ラマドリッド、ベネチア映画祭2022、9月1日)
「Bardo, Falsa crónica de una cuantas verdades /
Bardo, False Chronicle of a Handful of Truths」メキシコ
製作:Estudios Churubusco Azteca SA / Redrum
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ニコラス・ジャコボーネ
音楽:ブライス・デスナー
撮影:ダリウス・コンジ
編集:モニカ・サラサール
キャスティング:ルイス・ロサーレス
プロダクション・デザイン:エウヘニオ・カバジェロ
衣装:アンナ・テラサス
メイク&ヘアー:タリア・エチェベステ(メイク)、クラウディア・ファンファン(ヘアー)他
製作者:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ステイシー・ペルキー(ペルスキー)、(エグゼクティブ)カルラ・ルナ・カントゥ、(ラインプロデューサー)ヒルダルド・マルティネス、ミシェル・ランヘル、他
データ:製作国メキシコ、2022年、スペイン語、コメディ・ドラマ、174分、撮影地メキシコシティ、配給 Netflix、2022年11月4日アメリカ限定公開、12月16日Netflixにて配信開始
映画祭・受賞歴:第79回ベネチア映画祭2022コンペティション部門正式出品(9月1日上映)、第70回サンセバスチャン映画祭2022ペルラス部門正式出品
キャスト:ダニエル・ヒメネス=カチョ(シルベリオ・ガボ)、グリセルダ・シチリアーニ(ルシア)、ヒメナ・ラマドリッド(カミラ)、イケル・サンチェス・ソラノ、アンドレス・アルメイダ(マルティン)、マル・カルラ(ルセロ)、他多数
ストーリー:シルベリオは国際的に権威のある賞の受賞者であるが、ロスアンゼルス在住のメキシコ人ジャーナリストでドキュメンタリー作家として知られている。彼は生れ故郷に戻るべきと思っているが、このような旅は、おそらく実存の限界をもたらすだろう。彼が実際に直面している不条理な記憶や怖れ、漠然とした感じの混乱と驚嘆が彼の日常生活を満たしている。激しいエモーション、度々襲ってくる大笑い、シルベリオは普遍的な謎と闘うだろうが、他にもアイデンティティ、成功、死すべき運命、メキシコ史、家族の絆、分けても妻や子どもたちとの親密な結びつきについても乗りこえるだろう。結局、現代という特殊な時代においては、人間という存在は本当に忍耐で立ち向かうしかないのだろう。彼は危機を乗りこえられるだろうか。ヨーロッパとアメリカの入植者によって侵略され、搾取され、虐待されてきたメキシコ、その計り知れない損失は返してもらっていない。
(ダニエル・ヒメネス=カチョ)
(ヒメネス=カチョとヒメナ・ラマドリッド、フレームから)
★どうやらシルベリオ・ガボは監督の分身で間違いなさそうですが、いささか胡散臭いでしょうか。プレス会見では「ピオピックを撮るのが目的ではありませんが、自身について多くのことを明かしています」と語っていました。各紙誌の評判が芳しくないのは長尺もさることながら、主人公のナルシシストぶりがハナにつき、テーマの詰め込み過ぎも視聴者を迷子にしているのではないかと推測します。監督は「前作以来7年間も撮っていなかった、プランが思い浮かばなかった」とも応えている。前作とは『レヴェナント 蘇えりし者』(16)のことで、アカデミー監督賞を受賞、主役のディカプリオも念願の主演男優賞をやっと手にした。前年の『バードマン』で作品・監督・脚本の3冠に輝いたばかりで、連続監督賞は長いハリウッド史でも珍しい快挙だった。カンヌ映画祭アウト・オブ・コンペティションでプレミアされた「Carne y Arena」(17)は、7分間の短編、他はドキュメンタリーをプロデュースしていただけでした。
(レッド・カーペットに現れた、夫人マリア・エラディア・ハガーマンと監督)
★ダニエル・ヒメネス=カチョによると監督からは、「何も準備するな!」というお達しがあって撮影に臨んだそうです。こういう映画の場合、先入観をもたずに役作りをするのは結構きついかもしれない。11月の公開後、12月16日から Netflix で配信が決定しています。アメリカ、スカンジナビア諸国を含めたヨーロッパ、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル他、アジアでは日本と韓国が入っています。後は観てからにいたします。
(ダニエル・ヒメネス=カチョとA. G. イニャリトゥ監督)
*『バードマン』の記事は、コチラ⇒2015年03月06日
*『レヴェナント』の記事は、コチラ⇒2016年03月02日
*「Carne y Arena」の記事は、コチラ⇒2017年04月16日
*追加情報:第35回東京国際映画祭2022に『バルド、偽りの記録と一握りの真実』の邦題でガラ・コレクション部門で上映されることになりました。
サンティアゴ・ミトレの「アルゼンチン1985」*サンセバスチャン映画祭2022 ⑫ ― 2022年09月06日 14:13
再びタッグを組むサンティアゴ・ミトレとリカルド・ダリン
★ペルラス部門上映のサンティアゴ・ミトレの「Argentina, 1985」は、既にベネチア映画祭コンペティション部門でワールドプレミアされ、口コミのお蔭もあってか好発進したようです。本作の主役は、2017年ラテンアメリカ初のドノスティア栄誉賞受賞者のリカルド・ダリンです。今年のペルラス部門は長尺映画が多く、本作も2時間を超える。アマゾンプライムビデオ配給のニュースに驚愕したが、どうやら採算は充分取れそうです。というのも本作は1976年の軍事クーデタ勃発から1983年の終結までのあいだに、推定30,000人とも称される民間人が誘拐殺害された、いわゆる汚い戦争を背景にしているからです。CIAの指導のもとに吹き荒れた南米の軍事独裁時代の知識が不可欠でしょう。この歴史的政治的背景を監督 & 脚本家並びにフィルム編集者が、政治闘争の縦糸と人間の横糸をどのように織り合わせることができたかが鍵です。長尺140分を長く感じたか、短く感じたが試される。
「Argentina, 1985」アルゼンチン
製作:La Unión de los Ríos / Kenya Films / Infinity Hill
監督:サンティアゴ・ミトレ
脚本:サンティアゴ・ミトレ、マリアノ・リナス(ジナス)
撮影:ハビエル・フリア
編集:アンドレス・ペペ・エストラダ
音楽:ペドロ・オスナ
プロダクション・デザイン:ミカエラ・Saiegh
衣装:モニカ・トスキ Toschi
メイクアップ&ヘアー:(メイクアップ)アンヘラ・ガラシハ、(ヘアー)ディノ・バランツィノBaranzino
製作者:アクセル・クシェヴァツキー(Infinity Hill)、ビクトリア・アロンソ、サンティアゴ・カラバンテ、リカルド・ダリン、チノ・ダリン、サンティアゴ・ミトレ、フェデリコ・ポステルナク、アグスティナ・ランビ=キャンベル(アマゾン幹部)、(エグゼクティブ)シンディ・テパーマン & フィン・グリン(制作会社 Infinity Hill)、ステファニー・ボーシェフBeauchef
データ:製作国アルゼンチン=米国、2022年、スペイン語、政治、歴史、法廷ドラマ、140分、撮影地ブエノスアイレス、配給アルゼンチンDigicine、米国プライムビデオ。公開アルゼンチン、ウルグアイ9月29日、米国9月30日、プライムビデオのストリーミング配信10月21日
映画祭・受賞歴:第79回ベネチア映画祭2022コンペティション部門ノミネーション(9月3日上映)、第70回サンセバスチャン映画祭ペルラス部門正式出品
キャスト:リカルド・ダリン(フリオ・ストラッセラ)、ピーター・ランサニ(ルイス・モレノ・オカンポ)、ノーマン・ブリスキ(ルソ)、アレハンドラ・フレヒナー(フリオの妻シルビア)、サンティアゴ・アルマス・エステバレナ(フリオの息子ハビエル)、クラウディオ・ダ・パッサノ(作家カルロス・ソミリアナ)、エクトル・ディアス(バシレ)、アレホ・ガルシア・ピントス、カルロス・ポルタルッピ(裁判長)、ブリアン・シチェルSichel(フェデリコ・コラレス)、他多数
ストーリー:本作は検察官フリオ・ストラッセラとその同僚ルイス・モレノ・オカンポの実話にインスパイアされて製作された司法ドラマ。1985年、アルゼンチン史でも最も血が流されたという軍事独裁政権の指導者たちを拉致・拷問・殺害による大量殺戮の罪で裁くため大胆にも挑戦した二人の検事の戦略が語られる。民主化とは名ばかり、国民が軍人支配の恐怖に怯えていた1985年、ストラッセラとモレノ・オカンポは、ゴリアテに立ち向かうダビデの闘いのために若く知的な法律捜査官を招集してチームを結成、老獪な首謀者たちを被告席に座らせるべく調査追及に乗り出す。
(リカルド・ダリンとピーター・ランサニ、フレームから)
★サンティアゴ・ミトレ監督紹介:1980年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、製作者。サンセバスチャン映画祭2015で第2作「Paulina」(15、邦題『パウリーナ』)がホライズンズ賞を受賞、新作「Argentina, 1985」で戻ってきました。本作は上記したようにベネチア映画祭コンペティション部門にノミネートされている。単独での長編デビュー作「El estudiante」(11、邦題『エストゥディアンテ』)は政治的寓話、3作目「La Cordillera」(17、『サミット』)、4作目「Petite fleur」(22)、5作目が本作。『パウリーナ』で主役を演じたドロレス・フォンシがパートナー。以下に監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。
*『パウリーナ』作品紹介は、コチラ⇒2015年05月21日
*『サミット』作品紹介は、コチラ⇒2017年05月18日/同年10月25日
(ドロレス・フォンシと監督、ベネチア映画祭2022レッド・カーペット、9月3日)
★本作は、脆弱ながら民主化されたアルゼンチンの司法部門が、1976年から1983年まで続いた軍事独裁政権の3人の大統領を含む9人の軍人を起訴したときに何が起きたかを描いたものです。7年間に推定30,000人と言われる民間人が「行方不明者」となった大量殺害を文民が裁く世紀の裁判でした。その主任検事に選ばれたのがフリオ・ストラッセラ(1933~2015)、彼は軍政下では二流の弁護士でした。経験豊かな一流は権力の中枢に繋がっていたため火中の栗を拾いたくなかったからでした。そして副検事に選ばれた、当時法務長官の弁護士であった若いルイス・モレノ・オカンポ(1952~)とタッグを組むことになる。この人選に被告も被告側弁護士たちも呵々大笑したのでした。チームは首謀者の軍人9人に絞り、約600人に及んだ警察官を断念して除外することになった。
★裁判は1985年4月22日に始まり、5ヵ月間にわたる裁判で839人の証人審問、同年12月9日に結審、元大統領ホルヘ・ビデラ(陸軍総司令官)、ビデラの腹心エドゥアルド・マセラ(海軍大将)の2人が終身刑と軍の等級剥奪、ビデラの後を継いで短期間大統領だったロベルト・ビオラ(禁固17年)、アルマンド・ランブルスキーニ提督(禁固8年)、オルランド・アゴスティ(陸軍准将、禁固4年半)の3人が有罪判決を受け、3人目の大統領だったレオポルド・ガルティエリ(陸軍総司令官)など残る4人は証拠不十分で無罪となった。がっかりした人が多かったでしょう。
★裁判をナンセンスな茶番劇と思っていた被告たちは、直ぐに解放されるだろうと自信をもっていた。民政化とはいえ彼らの影響力はすべての官僚機構に浸透していたからです。彼らが見誤っていたことは、アルゼンチンの未来を求める検事チームの若い情熱とエネルギーでした。チームは徹夜でファイルを読み、証人を求めて地方に飛び、一日中働くことができたからです。
★公開、または映画祭上映になった汚い戦争をテーマにした作品は、オスカー像を初めてアルゼンチンにもたらしたルイス・プエンソの『オフィシャル・ストーリー』(86)、エクトル・オリベラの『ミッドナイトミッシング』(86)、フィト・パエスの『ブエノスアイレスの夜』(01)、トリスタン・バウエルの『火に照らされて』(05)、ダニエル・ブスタマンテの『瞳は静かに』(09)、ディエゴ・レルマンの『隠れた瞳』(10)、またパブロ・トラペロの『エル・クラン』(15)を含めてもいいかもしれない。アルゼンチンの現代史に不慣れな観客のために、少し時代背景を述べておきました。
9分間のスタンディング・オベーションに涙で抱き合うダリンとミトレ
★アルゼンチンの日刊紙「クラリン」情報によると、キャスト、スタッフ〈全員集合〉で現地に飛んだらしくその意気込みの凄さに呆気にとられています。コンペティション部門とオリゾンティ部門の格の違いを見せつけた印象です。アルゼンチン映画でこれほどプロデューサーの数が多いのも珍しいのだが、アルゼンチンサイドのほとんどが出席している。ベネチアといってもリド島は歩いていけないわけでローマのように簡単ではない。マスク姿は少なくコロナ感染など、どこ吹く風の感ありです。140分以上も座っていたからか上映後のスタンディング・オベーションは9分間、今まで上映されたなかでの最長記録をマーク、ダリンもミトレも涙なみだで抱き合ったと、クラリン記者も舞い上がっています。
(リカルド・ダリンとサンティアゴ・ミトレ、プレス会見前のフォトコール)
(ベネチアのリド島に乗り込んだ代表団、9月3日、レッド・カーペット)
★リカルド・ダリンもパフォーマンス賞のVolpi Cup ヴォルピ杯(男優賞)の候補になったようで、既に受賞したかのような書きぶりでした(発表は9月10日)。昨年ペネロペ・クルスがスペイン女優としては初めて『パラレル・マザーズ』で受賞しています。良くも悪くもリカルド抜きでは成功できなかったろうというのが、各紙誌の論評でした。理想主義者ですが、ユーモアに富み、皮肉やで心配性な年輩検事ストラッセラに扮します。フアン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』(09)でヨーロッパに紹介され知名度もありますから、あながち夢ではないでしょう。ミトレとタッグを組むのは『サミット』以来の2度目となります。相思相愛の夫人フロレンシア・バスと、今回製作者の一人となっている息子チノ・ダリン、家族揃って現地入りしていました。
(ヴォルピ杯候補となったリカルド・ダリン)
(フロレンシア、リカルド、チノのリカルド一家)
★もう一人の主役ルイス・モレノ・オカンポに扮するピーター・ランサニも「魅力的で好感のもてる演技」と高評価です。トラペロの「El cran」(15、『エル・クラン』)以来、2度目のベネチアFFです。トラペロが銀獅子監督賞を受賞した作品。1980年代の初め、軍事独裁政権時代に裕福だった一家が、民主化移行にともなって失業、悪いのは民主化とばかり誘拐ビジネスに手を染める一家の長男役でした。
(モレノ・オカンポ役のピーター・ランサニ)
★ストラッセラの妻役アレハンドラ・フレヒナーは、TVシリーズ出演が多いが、イスラエル・アドリアン・カエタノの「El otro hermano」(17、『キリング・ファミリー 殺し合う一家』)や実話に着想を得たマルコス・カルネバレの「Inseparables」(16)が代表作、後者は第73回ベネチアFFに出品されている。
(フリオ・ストラッセラの妻役アレハンドラ・フレヒナー)
★セクション・オフィシアルの追加発表に続く審査員の発表(審査委員長はアメリカの女優グレン・クローズ)、メイド・イン・スペイン部門の作品、タイム・テーブルも発表になり慌ただしくなってきました。次回は、メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの「Brado, Falsa crónica de unas cuantas verdades」です。
フアン・ディエゴ・ボット監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2022 ⑫ ― 2022年09月03日 17:18
監督デビュー作「En los Márgenes」はスリラードラマ
★俳優フアン・ディエゴ・ボットのキャリアは、子役を含めると70作にもなるから、紹介は代表作、サンセバスチャン映画祭関連、ゴヤ賞など目ぼしい受賞作品に絞らざるをえないが、先ずはペネロペ・クルスとタッグを組んだデビュー作の紹介から。今年の映画国民賞受賞者ペネロペ・クルスの授与式は、本祭期間中に行われるのが恒例ですから、多分ツーショットが見られるでしょう。今回は製作者を兼ねているから、その意気込みも半端ではないようです。脚本を共同執筆したオルガ・ロドリゲスは、10年間の交際期間を経て2017年に結婚、2009年に娘が誕生していた。制作会社 Morena Films のベテラン製作者アルバロ・ロンゴリアは、ペネロペ・クルスとルイス・トサールが主演したフリオ・メデムの『あなたのママになるために』で製作者としてデビューした。ほかにアスガー・ファルハディの『誰もがそれを知っている』も手掛けています。音楽のエドゥアルド・クルス・サンチェスはペネロペ・クルスの実弟、ヌル・アル・レビは監督の実妹という具合に繋がっています。
「En los Márgenes / On the Fringe」
製作:Morena Films / Amazon Prime Video / Crea SGR / RTVE / TeleMadrid / Head Gear Films 他
監督:フアン・ディエゴ・ボット
脚本:フアン・ディエゴ・ボット、オルガ・ロドリゲス
撮影:アルナウ・バルス・コロメル
音楽:エドゥアルド・クルス
編集:マパ・パストール
キャスティング:アナ・サインス=トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ
美術:マリア・クララ・ノタリ
セットデコレーション:ビセンテ・ディアス
衣装デザイン:ワンダ・モラレス
メイクアップ:パブロ・イグレシア、マヌエラ・メリノ
プロダクション・マネージメント:エレナ・アルコレア、ジョセップ・アモロス、アレックス・ミヤタ、アントネーリョ・ノベリャーノ
製作者:アルバロ・ロンゴリア、ペネロペ・クルス、(エグゼクティブ)ステファン・ケリハーStephen Kelliher、ヤナ・ゲオルギエワYana Georgieva、ソフィー・グリーン、コンプトン・ロス、他共同製作者多数
データ:製作国スペイン=ベルギー、2022年、スペイン語、スリラードラマ、105分、配給プライムビデオ、スペイン公開2022年10月7日
映画祭・受賞歴:第75回ベネチア映画祭2022「オリゾンティ」部門正式出品、第70回サンセバスチャン映画祭2022「ペルラス」部門正式出品
キャスト:ペネロペ・クルス(アスセナ)、ルイス・トサール(ラファエル)、フアン・ディエゴ・ボット、マリア・イサベル・ディアス・ラゴ、アデルファ・カルボ、ヌル・アル・レビ、アシャ・ビリャグラン、クリスティアン・チェカ、ハビエル・ペルディゲロ(ヘスス)、セルヒオ・ビリャヌエバ、フェブリス・ブティック(バルのオーナー)、フォント・ガルシア、イレネ・ブエノ・ロヨ、ほか
ストーリー:家族、愛、孤独についての映画。複雑に絡みあった三つのストーリーを交錯させながら、人生の流れを永遠に変えてしまう可能性のある重要な24時間を脱して生き残ろうとする3人の登場人物のカウントダウンが描かれる。経済的なストレスが人間関係に与える影響と、愛情と連帯を原動力として前に進むタイムトライアル・スリラー。大都会の片隅に暮らす人々のエモーショナルな旅。
★フアン・ディエゴ・ボット監督紹介:1975年ブエノスアイレス生れ、俳優、舞台演出家、今回長編映画監督としてデビューした。ディエゴ・フェルナンド・ボットとクリスティナ・ロタの長男、アルゼンチン系スペイン人、両親姉妹とも俳優という俳優一家。マリア・ボット(ブエノスアイレス1974)、ヌル・アル・レビ(マドリード1979)、従兄アレハンドロ・ボット(ブエノスアイレス1974)も俳優。1977年3月、父親はビデラ軍事独裁政権によってデサパレシード、いわゆる犠牲者3万とも言われる行方不明者の一人となった。1978年、2歳になったとき、母親は新しいパートナーとの間に妊娠が分かり、二人の子供を連れてスペイン移住を決意する。翌年、妹ヌル・アル・レビが生まれた。家族はアルゼンチンとスペインの二重国籍をもっている。2021年、演劇国民賞を受賞している。現在はマドリード在住。
★母クリスティナ・ロタがマドリードで設立した俳優養成学校で演技を学ぶ。この学校の同窓生には、ペネロペ・クルス、アントニオ・デ・ラ・トーレ、マルタ・エトゥラ、ラウル・アレバロなど演技派を輩出している。俳優デビューは8歳、1992年アメリカ大陸到達500年を記念して製作された、リドリー・スコットの『1492:コロンブス』でコロンブスの息子ディエゴに扮した。しかし国際舞台への第一歩はモンチョ・アルメンダリスの「Historias del Kronen」(95)主演であった。カンヌFFのコンペティション部門に正式出品されたあと、本祭のメイド・イン・スペイン部門で上映され、翌年のゴヤ新人男優賞にノミネートされた。アルメンダリスの「Obaba」(05)にも起用された。
(フアン・ディエゴ・ボット、「Historias del Kronen」から)
★他にサンセバスチャンFF関連では、セクション・オフィシアルにアドルフォ・アリスタラインの「Martin(Hache)」(97)、「Roma」(『ローマ』04)、イマノル・ウリベの「Plenilunio」(99、ゴヤ賞2001主演男優賞ノミネート)、ビクトル・ガルシア・レオンの「Vete de mí」(06、ゴヤ賞2007助演男優賞ノミネート)、ペルラス部門には、ジョン・マルコヴィッチの監督デビュー作「Pasos de baile / The Dancer Upstairs」(02、『ダンス・オブ・テロリスト』)ではハビエル・バルデム扮する警部補の部下役で共演、ホアキン・オリストレルの「Los abajo firmantes」(03)はサバルテギ部門で特別上映されている。2011年にはホライズンズ・ラティノ部門の審査員を努めている。ゴヤ賞は上記を含めて5回ノミネートされているが、まだ受賞はない。以前アップしたビクトル・ガルシア・レオンの「Los Europeos」(20)では、フェロス賞2021助演男優賞を受賞したが、フォルケ賞もゴヤ賞もノミネートで終わっている。
★今回の「En los Márgenes」が長編デビュー作、短編ではメイド・イン・スペイン部門で上映された、ベテラン&新人総出演の感があるスペイン監督のアンソロジー「¡ Hay motivo !」(04、32話)に “Doble moral” で参加している。これは当時の国民党党首ホセ・マリア・アスナル首相批判がテーマ、2003年のイラク侵攻、移民問題、住宅価格の高騰、メディア操作などテーマはいろいろです。他にアルバロ・ロンゴリアがプロデュースした、5人の監督が1話ずつ手掛けるアンソロジー、TVミニシリーズ「Relatos con-fin-a-dos」(20、20分)があり、彼は第5話 ”Gourmet” で参加、脚本も執筆した。ルイス・トサール、警官役で妹のヌル・アル・レビが出演している。コロナウイルスのパンデミックで混乱に陥った人々を扱ったコメディ、ロマンス、スリラーなど。プライムビデオで配信された。
★キャスト紹介:主役のペネロペ・クルス、ルイス・トサール(ルゴ1971)は、当ブログでは常連なので割愛しますが、両人が揃って主演した『あなたのママになるために』、トサールが主演したダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』ほか、主なキャリア&フィルモグラフィー紹介は以下の通りです。
* ペネロペ・クルスの紹介は、コチラ⇒2022年06月25日
* ルイス・トサールの紹介は、コチラ⇒2016年07月03日
*『エル・ニーニョ』の紹介記事は、コチラ⇒2014年09月20日
*『あなたのママになるために』の作品紹介は、コチラ⇒2015年09月04日
(映画国民賞2022を受賞するペネロペ・クルス)
(『プリズン211』でゴヤ賞2010主演男優賞を受賞したトサール)
ペルラス部門17作*サンセバスチャン映画祭2022 ⑪ ― 2022年08月31日 21:14
ペルラス部門は各映画祭で高評価ながらスペイン未公開作品が対象
★ペルラス部門は、この1年間に国際映画祭で高評価を受けながらもスペイン未公開の長編映画が対象です。アルマーニ・ビューティArmani Beautyが後援しています。サンセバスティアン市よりドノスティア(サンセバスティアン)観客賞には副賞として、50,000ユーロとスペイン国内での公開、ヨーロッパ映画賞には20,000ユーロが授与される。今年はアウト・オブ・コンペティションを含めて17作が選出されました。オープニングはフランソワ・オゾンの「Peter Von Kant」(ベルリンFF出品)、クロージングはアメリカのブレット・モーゲンのデヴィッド・ボウイのドキュメンタリー「Moonage Daydream」(カンヌFFアウト・オブ・コンペティション出品)です。他にクリスティアン・ムンジュウ、リューベン・オストルンド(パルムドール受賞作品)、ダルデンヌ兄弟(第75回カンヌFF記念賞受賞作)など三大映画祭の常連さんの新作がアナウンスされました。韓国映画ですが、2018年にアジアで初めてドノスティア栄誉賞を受賞した是枝裕和の『Broker ベイビー・ブローカー』も選出されています。
(フランソワ・オゾンの「Peter Von Kant」のポスター)
(ブレット・モーゲンの「Moonage Daydream」のポスター)
(是枝裕和の「Broker」のポスター)
★スペイン関連映画は、ベネチア映画祭コンペティション正式出品のサンティアゴ・ミトレの「Argentina, 1985」以下、同じくベネチアFFのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの「Bardo, Falsa, cronica de unas cuantas verdades」、なかでカンヌ映画祭に出品されたロドリゴ・ソロゴジェンの「As Bestas」やベルリンFFのイサキ・ラクエスタの「One Year, One Night」のように既に作品紹介をしている作品もあります。ベネチアFFに出品されるフアン・ディエゴ・ボットの監督デビュー作「On the Fringe」、アウト・オブ・コンペティションですが、特別上映のオリオル・パウロの「Los renglones torcidos de Dios」です。スペイン語映画の6作は以下の通り。
*ペルラス部門のスペイン語映画6作*
1)「Argentina, 1985」アルゼンチン=米国、2022、140分、ベネチアFFコンペティション出品
監督:サンティアゴ・ミトレ(ブエノスアイレス1980)、別途作品紹介を予定しています。
キャスト:リカルド・ダリン、ピーター・ランサニ、アレハンドラ・フレッチェネル、ノルマン・ブリスキ
*作品紹介は、コチラ⇒2022年09月06日
2)「Bardo, Falsa, crónica de unas cuantas verdades / Bardo, False Chronicle of a Handful of Truths」 メキシコ、2022,180分
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(メキシコシティ1963)、別途作品紹介を予定しています。
キャスト:ダニエル・ヒメネス・カチョ、グリセルダ・シチリアーニ、ヒメナ・ラマドリド、イケル・サンチェス
*作品紹介は、コチラ⇒2022年09月08日
3)「As Bestas / The Beasts」スペイン=フランス、2022,138分、フランスとの合作、カンヌ映画祭2022プレミア部門上映、11月スペイン公開予定
監督:ロドリゴ・ソロゴジェン(マドリード1981)、2018年の「El reino」でゴヤ賞監督賞・オリジナル脚本賞を受賞、2019年の『おもかげ』と2016年の『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』が公開された。
キャスト:ドゥニ・メノーシュ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラ、ディエゴ・アニド
*監督キャリア&フィルモグラフィーの主な紹介記事は、コチラ⇒2018年03月26日
*新作紹介は、コチラ⇒2022年06月10日
4)「Un año, una noche / One Year, One Night」スペイン=フランス、2022、130分、言語フランス語、ベルリン映画祭2022コンペティション部門出品
監督:イサキ・ラクエスタ(ジローナ1975)
キャスト:ナウエル・ぺレス・ビスカヤート、ノエミ・メルラン、キム・グティエレス、ナタリア・デ・モリーナ
解説:2015年に起きたパリ同時多発テロの実話にインスパイアされた作品。11月13日の夜、パリ11区にある伝説的なコンサートホール「バラクラン劇場」にISLLジハーディスト4人のテロリストが武器をもって襲撃した事件の生存者のその後が描かれる。
*作品紹介と監督フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ⇒2022年01月31日
5)「En los márgenes / On the Fringe」スペイン=ベルギー、2022,スリラードラマ、105分、10月7日公開
監督:フアン・ディエゴ・ボット(ブエノスアイレス1975)は、アルゼンチンとスペインの二重国籍をもっている。長く俳優として活躍しているが、今回本作で監督デビューした。
キャスト:ペネロペ・クルス、フアン・ディエゴ・ボット、ルイス・トサール、他
解説:家族、愛、孤独をめぐる、3人による三つの物語が絡みあって語られる。初監督作品、別途作品紹介を予定しています。
*作品紹介は、コチラ⇒2022年09月03日
6)「Los renglones torcidos de Dios / Gods Crooked Lines」スペイン、2022,ミステリー、155分
特別上映、アウト・オブ・コンペティション
監督:オリオル・パウロ(バルセロナ1975)監督、脚本家。犯罪スリラー『ロスト・ボディ』(12)で長編デビュー、第2作『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(16)は大ヒット、ミステリー『嵐の中で』(18)はNetflixストリーミングで配信された。マリオ・カサス、ホセ・コロナド、バルバラ・レニーなどが主演した『インビジブル・ゲスト悪魔の証明』の作品紹介で、監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。新作はトルクアト・ルカ・デ・テナが1979年に上梓した小説の映画化。
キャスト:バルバラ・レニー(アリス)、エドゥアルド・フェルナンデス(サムエル・アルバル)、パブロ・デルキ、アデルファ・カルボ、ロレト・マウレオン、ハビエル・ベルトラン、他
*『インビジブル・ゲスト悪魔の証明』の記事は、コチラ⇒2017年02月17日
(エドゥアルド・フェルナンデス、バルバラ・レニー)
(オリオル・パウロ監督とバルバラ・レニー)
(ロドリゴ・ソロゴジェン、イサキ・ラクエスタ、フアン・ディエゴ・ボット、オリオル・パウロ)
ニューディレクターズ部門13作*サンセバスチャン映画祭2022 ⑩ ― 2022年08月29日 15:59
日本の若手監督も含めて一挙に発表になった13作
★去る7月28日、ニューディレクターズ部門13作が出揃いました。昨年ノミネートされなかった日本からは2作が選ばれました。古川原壮志の『なぎさ』(21)、第34回東京国際映画祭ワールド・プレミア作品です。もう1作の『宮松と山下』は、佐藤雅彦、関友太郎、平瀬謙太郎の監督集団〈5月ごがつ〉のデビュー作、現在窮地に陥っている香川照之が主演しており、11月18日の公開に先駆けて、本祭でワールドプレミアとなった。
★昨年のWIP Latam 2021と WIP Europa 2021 の受賞作が揃ってノミネートされています。このセクションはデビュー作か2作までが対象、後援者のクチャバンクによるクチャバンク・ニューディレクター賞(作品賞)には副賞として50,000ユーロとスペイン国内での公開が約束されています。他にユースTCM賞があり、18歳から25歳までの学生150人が審査員です。スペイン語映画は、オール女性監督のスペイン2作と当ブログ初登場のニカラグア1作、他はフランス、モルドバ共、デンマーク、スイス、クロアチア、ロシア、韓国、インド、日本の2作です。スペイン語映画3作だけアップしておきます。
*ニューディレクターズ部門13作*
1)「La hija de todas las rabias / Daughter of Rage」ニカラグア
VIII Foro de Coproduccion Europa-America Latina 2019
WIP Latam 2021 WIP Latam Industria 2021
データ:製作国ニカラグア=メキシコ=オランダ=独=仏=ノルウェー=西、2022年、スペイン語、ドラマ、87分、脚本ラウラ・バうマイスター、撮影テレサ・クンKuhn、編集ラウル・バレラス、フリアン・サルミエント、プロダクション・マネージメント、ハビエル・ベラスケス・ドランテス、録音ガリレオ・ガラス、美術ノエミ・ゴンサレス、製作Felipa Films、製作者ロッサナ・バウマイスター、ブルナ・Haddad、マルタ・オロスコ。サンセバスチャン映画祭の援助を受けて製作され、上記のWIP Latam 2021以下を受賞している。
監督:ラウラ・バウマイスター(Baumeisterニカラグアの首都マナグア1983)、監督、脚本家。デビュー作、本作はゴミ捨て場で一人で生き延びようとする11歳の少女の物語。
(受賞スピーチをする監督、サンセバスチャン映画祭2021の授賞式)
キャスト:アラ・アレハンドラ・メダル(マリア)、ビルヒニア・セビーリャ・ガルシア(母親リリベス)、カルロス・グティエレス(タデオ)、ノエ・エルナンデス(ラウル)、ディアナ・セダノ(ロサ)
ストーリー:現在のニカラグア、11歳のマリアは母親リリベスと一緒にマナグアの大きなゴミ捨て場で暮らしている。マリアにとってここは、見つけたものは自分のものになるアミューズメントパークのようなものでした。彼女の将来は、母親が販売するために育てている血統書付きの子犬にかかっていた。子犬に毒を盛るというアクシデントが起こり、リサイクル工場で見習いで働いていたマリアをおいて、母親は町を出ることになる。数日すぎても母親は戻ってこなかった。マリアは捨てられたと思いたくないが、混乱して腹を立てていた。ある夜のこと彼女はタデオと知り合った。上品で夢見がちな少年は、母親と共にマリアを助けようと決心する。「多くのラテンアメリカの人々が自身の国の厳しい現実のなかでも前進しようとする回復力についての映画」と監督。
(マリア役アラ・アレハンドラ・メダル)
2)「Secaderos / Tobacco Barns」スペイン
データ:製作国スペイン=米国、2022年、スペイン語、ドラマ、98分、脚本アナ・アリステギ、美術ロレナ・フェルナンデス、ヌリア・ディアス・イバニェス、メラニア・バン、造形マリア・ルイサ、キャスティングはマリチュ・サンス、録音ホアキン・パチョン、メイク&ヘアーはネレア・エレーロ、製作 & 製作者Fourminds Films / La Claqueta PC(オルモ・フィゲレド・ゴンサレス=ケベド)/ La Cruda Realidad/ Un Capricho de Producciones /(米)Amplitud INC / DDT Efectos Especiales、、パオラ・サインス・デ・バランダ、撮影2021年8~9月の6週間、撮影地グラナダ県のベガ、ラス・ガビアス、フエンテ・バケロス、ラ・パスほか十数ヵ所。
監督:ロシオ・メサ(グラナダ県ラス・ガビアス1983)、監督、製作者、長編第2作目。セビーリャ大学コミュニケーション学部ジャーナリズム科卒、その後2010年アンダルシア政府から奨学金を授与され、ニューヨーク・フィルム・アカデミーのドキュメンタリー監督の修士号を取得、デビュー作「Orensanz」(13)は、現代アーティストのアンヘル・オレンサンスのビオピック、セビーリャ・ヨーロッパ映画祭プレミアされた。製作者としてはドキュメンタリーを専門とする制作会社 My Deer Films を設立、アルバロ・ゲレアの「Alma anciana」(21)はベルリン映画祭フォーラム部門で上映された。2014年ロサンゼルスに拠点を置く LA OLA を仲間と設立し代表を務めている。ロス以外のニューヨーク、メキシコシティなどの都市でスペインの前衛映画の普及に推進している。カリフォルニア在住、第2作を撮るため帰郷した。
(「Secaderos」撮影中のロシオ・メサ、2021年9月)
★第2作は、製作チームの90パーセントがアンダルシア人、スタッフは勿論のこと、約2000人がオーディションに集まり、150人に絞り込むまで1ヵ月を要したという。根気よくキャスティングに臨んでくれたマリチェ・サンスに感謝している。地元のアマチュアを起用したことで、物語がよりリアルになっている。スタッフ以外にもフリーランスのマリエタ・バウティスタ、アルバ・サビオなどの協力を得た。また映画を作る別の方法があることを教えてくれた映像作家として、『顔たち、ところどころ』を89歳で撮り、カンヌ以降、映画祭の受賞行脚をしたアニエス・ヴァルダ、ルクレシア・マルテル(『サマ』)、イタリアのアリーチェ・ロルヴァケル(『夏をゆく人々』『幸福なラザロ』)、メルセデス・アルバレスなどのドキュメンタリー作家、フィクションとノンフィクションの垣根を越えて製作している女性監督をあげている。
(主役の2人と中央が監督)
キャスト:ベラ・センテネラ(少女)、アダ・マル・ルピアニェス(思春期の娘)、タマラ・アリアス、クリスティナ・エウヘニア・セグラ・モリーナ、ホセ・サエス・コネヘロ、ジェニファー・イバニェス、ほか地元住民のエキストラ多数
ストーリー:田園の小さな村は、都会に住んでいる少女には天国であり、農村で暮らす思春期にある娘には鳥籠である。二人の視点を通して、農村の内部に入り込む。魔術的リアリズムのニュアンスを帯びた夏のタバコの乾燥工場を舞台に、二つのストーリーがパラレルに描かれる。ベガ・デ・グラナダの人々への個人的な敬意と風景に捧げられた人間関係についての群像劇。最初はドキュメンタリーとして構想されたが最終的にはドラマになった。ただし監督は、フィクションとノンフィクションを区別していない。すべては創造であるからです。
(フレームから)
「A los libros y a las mujeres canto / To Books And Women I Sing」スペイン
データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語・イタリア語、ドキュメンタリー、72分、脚本・撮影・編集・録音マリア・エロルサ & サンティ・サルバドール、製作 & 製作者 Txintxua Films コルド・アルマンドス、マリアン・フェルナンデス、撮影地ギプスコア県、ユースTCM 賞対象作品、マラガ映画祭、ビルバオ・ドキュメンタリー & 短編FFに出品、Zinebi 63 の産業セクションのネットワーキング賞を受賞。
監督:マリア・エロルサ(ビトリア-ガステイス1988)監督、脚本家。長編デビュー作。短編デビュー作はイマノル・ウリベ以下、バスクの監督オール参加15人からなる短編集「Kalebegiak」(16)、エロルサはマイデル・フェルナンデス・イリアルテと共同で「Las chicas de Pasaik」を撮った。他に短編ドキュメンタリー「Our Walls」(16)をマイデル・フェルナンデス・イリアルテと「Ancora Lucciole」(19)、コルド・アルマンドスと共同でドラマ「Breaches」(20)などを監督している。
★長編デビュー作は失われた珍しい、または忘れられた本を守っている年配の女性たちの物語。監督によると、この風変わりなタイトル〈私が謳う本と女性たち〉は紀元前1世紀のローマの詩人ウェルギリウス最後の未完の叙事詩『アエネーイス』の冒頭の1節「私が謳う武器と人間」から採られたそうです。ドキュメンタリーとしては珍しく愛らしいユーモラスな視点で描き、アーカイブ資料と女性たちの証言を組み合わせたユニークな構成。文学、映画、またイメージが私たちの生活にどのように役立つか、私たちをより自由にするかを語り、日常生活における想像力の重要性をエリート主義でない方法で伝えるには、どうしたらよいかを自問している。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ⇒2016年08月19日
(タバコを吸っているタバコ労働者の壁画の前のエロルサ)
キャスト:アントニア・デイアス(トニーナ)、ロレト・カサド(ロレト)、ヴィキ・クララムント(ヴィキ)、ヴァルトラウト・キルステ(ヴァル)、アン(ネ)・エロルサ(アンネ/アン)
ストーリー:ある女性はほとんど小型飛行機という名で知られています。別の女性は車の後部座席を書庫にしています。更に別の女性は書店の手に負えない書棚で指を骨折してしまいます。ハマキ工場で働く女性たちは物語を聞きながら作業しています。アイロン職人はアイロンをかけながら詩を思い出しています。彼女たち全員に、私は謳います。火、水、蛾、埃り、無知、熱狂に立ち向かい、匿名の女性軍団が本の保存を守っています。それは叙事詩も革命も武器もない、内に秘めたレジスタンスです。書籍保存に尽力する平凡で非暴力の女性たちへのオマージュ。アーカイブ資料と女性たちの証言で構成されている。
(指を骨折したと小指を見せる女性、フレームから)
★セクション・オフィシアルとは反対に奇しくもオール女性監督になったが、昨今のイベロアメリカ諸国の女性の台頭は目ざましい。発想の斬新さ、女性同士の団結力は見倣うべきものがある。ドノスティア栄誉賞受賞者、ジュリエット・ビノシュ、ダヴィッド・クローネンバーグの紹介、ペルラス部門ノミネートのサンティアゴ・ミトレの「Argentina、1985」、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの「Bardo, Falsa, crónica de unas cuantas verdades」、その他ロドリゴ・ソロゴジェン、イサキ・ラクエスタ、今回が監督デビューのフアン・ディエゴ・ボット(ペネロペ・クルス主演)、オリオル・パウロなどの新作紹介が残っています。
ホライズンズ・ラティノ部門 ③*サンセバスチャン映画祭2022 ⑨ ― 2022年08月25日 17:28
*ホライズンズ・ラティノ部門 ③*
9)「Carvao / Charcoal (Carbón) 」ブラジル
データ:製作国ブラジル=アルゼンチン、2022年、ポルトガル語・スペイン語、スリラードラマ、107分、脚本カロリナ・マルコヴィッチ、撮影ペペ・メンデス、編集ラウタロ・コラセ、音楽アレハンドロ・Kauderer、製作 & 製作者Cinematografica Superfilmes(ブラジル)Zita Carvalhosaジータ・カルバルホサ / Bionica Films(同)カレン・カスターニョ / Ajimolido Films(アルゼンチン)アレハンドロ・イスラエル。カルロヴィ・ヴァリ映画祭2022正式出品され、トロント映画祭上映後、サンセバスチャンFFにやってくる。
◎トレビア:主任プロデューサーのカルバルホサは、マルコヴィッチの長編2作目「Toll」を手掛けている。また主人公イレネに扮したメイヴ・ジンキングスは、クレベール・メンドンサ・フィリオの『アクエリアス』(16)でソニア・ブラガ扮するクララの娘を演じた女優。
監督:カロリナ・マルコヴィッチ(サンパウロ1982)監督、脚本家。短編アニメーション「Edifício Tatuapé Mahal」(14、10分)は、サンパウロ短編FFで観客賞、パウリニアFFでゴールデン・ガール・トロフィーを受賞、2018年の実話にインスパイアされた「O Órfao」(16分)は、カンヌFFクィア・パルマ、シネマ・ブラジル大賞、サンパウロFF観客賞他3冠、ハバナFFスペシャル・メンション、ほかビアリッツ、マイアミ、ヒューストン、クィア・リスボア、リオデジャネイロ、SXSWなどの国際映画祭巡りをした。サンセバスチャンは今回が初めてである。宗教、生と死、義務とは何かを風刺的に描いている。
(カロリナ・マルコヴィッチ)
キャスト:メイヴ・ジンキングス(女家長イレネ)、セザール・ボルドン(麻薬王ミゲル)、ジャン・コスタ(息子ジャン)、カミラ・マルディラ(ルシアナ)、ロムロ・ブラガ(夫ジャイロ)、ペドロ・ワグネル、ほか
ストーリー:2022年ブラジル、サンパウロから遠く離れた田舎町で、木炭工場の傍に住んでいる家族が、謎めいた外国人を受け入れるという提案を承諾する。宿泊客を自称していたが実は麻薬を欲しがっているマフィアだということが分かって、家はたちまち隠れ家に変わってしまった。母親、夫と息子は、農民としてのルーチンは変えないように振舞いながら、この見知らぬ客人と一つ屋根の下の生活を共有することを学ぶことになります。多額の現金と引き換えに単調さから抜け出す方法を提案されたら、人はどうするか。社会風刺を得意とする監督は、木炭産業で生計を立て、結果早死にする人々の厳しい現実を描きながらも、大胆な独創性、鋭いユーモアを込めてスリラードラマを完成させた。
(木炭にする木材を運ぶ子供たち、フレームから)
10)「1976」チリ
Ventana Sur Proyecta 2018、Cine en Construccion 2022
データ:製作国チリ=アルゼンチン=カタール、スペイン語、2022年、スリラードラマ、95分、脚本マヌエラ・マルテッリ、アレハンドラ・モファット、撮影ソレダード・ロドリゲス、美術フランシスカ・コレア、編集カミラ・メルカダル、音楽マリア・ポルトゥガル、キャスティング、マヌエラ・マルテッリ、セバスティアン・ビデラ、衣装ピラール・カルデロン、製作 & 製作者オマール・ズニィガ / Cinestaciónドミンガ・ソトマヨール / アレハンドロ・ガルシア / Wood Producciones アンドレス・ウッド / Magma Cine フアン・パブロ・グリオッタ / ナタリア・ビデラ・ペーニャ、他、販売Luxbox。カンヌ映画祭2022「監督週間」正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、エルサレム映画祭インターナショナル・シネマ賞受賞(デビュー作に与えられる賞)
監督:マヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ1983)女優、監督、脚本家、監督歴は数本の短編のあと本作で長編デビュー。女優としてスタート、2003年ゴンサロ・フスティニアーノの「B-Happy」でデビュー、ハバナ映画祭で女優賞を受賞するなど好発進、出演本数はTVを含めると30本を超える。2作目アンドレス・ウッドの『マチュカ-僕らと革命-』(04)でチリのアルタソル賞を受賞、アリネ・クッペンハイムと共演している。同監督の「La buena vida」(08)は『サンティアゴの光』の邦題で、ラテンビート2009で上映されている。当ブログでは、アリシア・シェルソンがボラーニョの小説を映画化した「Il futuro」(13、『ネイキッド・ボディ』DVD)で主役を演じた記事をアップしています(コチラ⇒2013年08月23日)。
◎別途詳しい作品紹介、キャリア&フィルモグラフィーを予定しています。
*作品紹介は、コチラ⇒2022年09月13日
キャスト:アリネ・クッペンハイム(カルメン)、ニコラス・セプルベダ(エリアス)、ウーゴ・メディナ(サンチェス司祭)、アレハンドロ・ゴイック(カルメンの夫ミゲル)、カルメン・グロリア・マルティネス(エステラ)、アントニア・セヘルス(ラケル)、アマリア・カッサイ(カルメンの娘レオノール)、他多数
ストーリー:チリ、1976年。カルメンはビーチハウスの改装を管理するため海岸沿いの町にやってくる。冬の休暇には夫、息子、孫たちが行き来する。ファミリーの司祭が秘密裏に匿っている青年エリアスの世話を頼んだとき、カルメンは彼女が慣れ親しんでいた静かな生活から離れ、自身がかつて足を踏み入れたことのない危険な領域に放り込まれていることに気づきます。ピノチェト政権下3年目、女性蔑視と抑圧に苦しむ一人の女性の心の軌跡を辿ります。
(カルメン役のアリネ・クッペンハイムとエリアス役のニコラス・セプルベダ)
(パールのネックレスが象徴する裕福な中流階級に属するカルメン)
11)「Tengo sueños eléctricos」コスタリカ
Ventana Sur Proyecta 2020
データ:製作国ベルギー=フランス=コスタリカ、スペイン語、2022年、ドラマ、102分、Proyecta 2021のタイトルは「Jardín en llamas」。脚本バレンティナ・モーレル。カンヌ映画祭と併催の第61回「批評家週間」正式出品、第75回ロカルノ映画祭に出品され、国際コンペティション部門の監督賞、主演女優賞(ダニエラ・マリン・ナバロ)、主演男優賞(レイナルド・アミアン)の3賞を得た。
(トロフィを手にした3人、右端が監督、ロカルノFFにて)
監督:バレンティナ・モーレル(サンホセ1988)、監督、脚本家。パリに留学後、ベルギーのブリュッセルのINSASで映画制作を学んだ。コスタリカとフランスの二重国籍をもっている。短編「Paul est la」は2017年のカンヌ・シネフォンダシオンの第1席を受賞した。第2作「Lucía en el limbo」(19、20分)はコスタリカに戻って、スペイン語で撮った。体と心の変化に悩む10代の少女の物語、カンヌ映画祭と併催の第58回「批評家週間」に出品されたほか、トロント、メルボルンなど国際短編映画祭に出品されている。長編デビュー作「Tengo sueños eléctricos」は、第61回「批評家週間」や、ロカルノ映画祭に出品されている。監督はCineuropaのインタビューに「私は父娘関係を探求する映画をそれほど多く見たことがなかったので、それを描こうと思いました」と製作動機を語っている。「これは少女が大人になる軌跡を描いたものではなく、自分の周囲に大人がいないことに気づいた少女の軌跡です」と。また麻薬関連の物語や魔術的リアリズムをテーマにした異国情緒を避けたかったとも語っている。芸術家であった両親の生き方からインスピレーションを得たようです。
(バレンティナ・モーレル、ロカルノFFにて)
キャスト:レイナルド・アミアン・グティエレス(エバの父親)、ダニエラ・マリン・ナバロ(エバ)、ビビアン・ロドリゲス、アドリアナ・カストロ・ガルシア
ストーリー:エバは16歳、母親と妹と猫と一緒に暮らしている。しかし引き離された父親のところへ引っ越したいと思っている。母親が離婚以来混乱して、家を改装したがったり、猫を邪険にしたりすることにエバは我慢できない。ここを出て、猫のように混乱して第二の青春時代を生きている父親と暮らしたい。アーティストになりたい、愛を見つけたいという望みをもって再び接触しようとする。しかし、泳ぎを知らない人が大洋を横断するように、エバもまた何も知らずに父親の暴力を受け継ぎ苦しむことになるだろう。彼にしがみつき、十代の生活の優しさと繊細さのバランスをとろうとしています。思春期が必ずしも黄金時代ではないことに気づいた少女の肖像画。
(エバ役のダニエラ・マリン・ナバロ)
(ダニエラ・マリン・ナバロとレイナルド・アミアン・グティエレス)
12)「La jauría」コロンビア
データ:製作国フランス=コロンビア、スペイン語、2022年、ドラマ、86分、脚本アンドレス・ラミレス・プリド、音楽ピエール・デブラ、撮影バルタサル・ラボ、編集Julie Duclaux、ジュリエッタ・ケンプ、プロダクション・デザイン、ジョハナ・アグデロ・スサ、美術ダニエル・リンコン、ジョハナ・アグデロ・スサ、製作 Alta Rocca Filmsフランス / Valiente Graciaコロンビア / Micro Climat Studios フランス、 製作者ジャン=エティエンヌ・ブラット、ルー・シコトー、アンドレス・ラミレス・プリド。配給Pyramide International
*カンヌ映画祭2022「批評家週間」グランプリとSACD賞受賞、エルサレム映画祭2022特別賞受賞、ニューホライズンズ映画祭(ポーランド)、トロント映画祭出品
監督:アンドレス・ラミレス・プリド(ボゴタ1989)監督、脚本家、製作者。本作はトゥールーズのCine en Construccionに選ばれた長編デビュー作。ティーンエイジャーの少年少女をテーマにした短編「Mirar hacia el sol」(13、17分)、ベルリン映画祭2016ジェネレーション14 plusにノミネートされ、ビアリッツ・ラテンアメリカFF、釜山FF、カイロFFなどで短編作品賞を受賞した「El Edén」(16、19分)、カンヌ映画祭2017短編部門にノミネートされた「Damiana」(17、15分)を撮っている。
キャスト:ジョジャン・エステバン・ヒメネス(エリウ)、マイコル・アンドレス・ヒメネス(エル・モノ)、ミゲル・ビエラ(セラピストのアルバロ)、ディエゴ・リンコン(看守ゴドイ)、カルロス・スティーブン・ブランコ、リカルド・アルベルト・パラ、マルレイダ・ソト、ほか
ストーリー:エリウは、コロンビアの密林の奥深くにある未成年者リハビリセンターに収監され、親友エル・モノと犯した殺人の罪を贖っている。ある日、エル・モノが同じセンターに移送されてくる。若者たちは彼らの犯罪を復元し、遠ざかりたい過去と直面しなければならないだろう。セラピーや強制労働の最中、エリウは人間性の暗闇に対峙し、あまりに遅すぎるが以前の生活に戻りたいと努めるだろう。暴力の渦に酔いしれ閉じ込められている、コロンビアの農村出の7人の青年群像。
(エリウ役のジョジャン・エステバン・ヒメネス)
(センターの本拠地である遺棄された邸宅に監禁されている青年たち)
★以上12作がホライズンズ・ラティノ部門にノミネートされた作品です。セクション・オフィシアルは16作中、女性監督が2人とアンバランスでしたが、こちらは半分の6監督、賞に絡めば映画祭上映もありかと期待しています。
(カロリナ・マルコヴィッチ、マヌエラ・マルテッリ、バレンティナ・モーレル、
アンドレス・ラミレス・プリド)
*追加情報:第35回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門(ラテンビートFF共催)でアンドレス・ラミレス・プリドのデビュー作が『ラ・ハウリア』として上映決定。
ホライズンズ・ラティノ部門②*サンセバスチャン映画祭2022 ⑧ ― 2022年08月22日 13:43
*ホライズンズ・ラティノ部門 ②*
5)「Un varón」コロンビア
WIP Latam 2021作品
データ:製作国コロンビア=フランス=オランダ=ドイツ、2022年、スペイン語、ドラマ、81分、製作Medio de Contención Producciones コロンビア/ Black Forest Filmsドイツ / Fortuna Filmsオランダ / In Vivo Films フランス/ RTVC Play 他、脚本ファビアン・エルナンデス、撮影ソフィア・オッジョーニ、音響イサベル・トレス他、音楽マイク&ファビアン・クルツァー、編集エステバン・ムニョス、プロダクション・デザイン、フアン・ダビ・ベルナル、製作者マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、クレア・シャルル=ジェルヴェ、他。撮影地ボゴタ。カンヌ映画祭2022「監督週間」(英題「A Male」)でプレミア、グアダラハラ映画祭インターナショナル部門出品、
監督:ファビアン・エルナンデス(ボゴタ1985)監督、脚本家、公立学校で映画の教鞭をとる。本作は長編デビュー作。2015年、制作会社Niquel Films 設立、自身の短編「Mala maña」(15)、「Tras la montña」(16)、「Golpe y censura」(18)、「Las ánimas」(20)を撮る。監督「わたしの作品は、コロンビアの他の映画とはアプローチの仕方が異なり、より深いです。人々や地域を尊重しています」と語っている。
(カンヌで使用された英題「A Male」のポスター)
キャスト:ディラン・フェリペ・ラミレス(カルロス)
ストーリー:カルロスはボゴタの中心街にある青少年の保護施設に住んでいる。クリスマスには家族と一緒に過ごしたいと切望している。休暇に向けて施設を出ると、カルロスは最強のアルファ・マッチョの法則が支配するバリオの暴力に向き合うことになります。また彼は、自分がそういう人物になれることを証明しなければなりません。彼の内面はこれらの男らしさと矛盾していますが、ここで生き延びるためには決心しなければなりません。カルロスの心はこの狭間でぶつかり合っています。自分の感受性、脆弱性を認め、本当の男らしさとは何かを求めている。
(路上で銃の取り扱い方を伝授されるカルロス、フレームから)
6)「Dos estaciones」メキシコ
Foro de Coproducción Europa-América Laten 2019 WIP Latam 2021作品
データ:製作国メキシコ=フランス=アメリカ、2022年、スペイン語、ドラマ、99分、脚本フアン・パブロ・ゴンサレス、アナ・イサベル・フェルナンデス、イラナ・コールマン、音楽カルミナ・エスコバル、撮影ヘラルド・ゲーラ、編集フアン・パブロ・ゴンサレス、リビア・セルパ、製作者イラナ・コールマン、ブルナ・ハダッド、ジェイミー・ゴンサルベス他、製作In Vivo Filmsフランス / Sin Sitio Cine、配給Luxbox。 サンダンス映画祭ワールド・シネマ部門でプレミア、主役テレサ・サンチェスが審査員特別賞を受賞、その他、ボストン・インディペンデントFF審査員大賞、ロスアンゼルス・アウトフェス審査員大賞、サンディエゴ・ラティノ、ヒューストン・ラティノ、シカゴ・ラティノなど映画祭出品多数。テレサ・サンチェスは、有望な若手監督ニコラス・ペレダの「Minotauro」(15)、「Fauna」(20)などの常連です。
監督:フアン・パブロ・ゴンサレス(ハリスコ1984)監督、脚本家、本作は長編デビュー作、短編デビュー作「The Solitude of Memory」(14)はモレリア映画祭でプレミアされた。「Las nubes」(17)、瞑想的なスタイルを確立したと評価されたドキュメンタリー「Caballerango」(18)他。デビュー作のフィクションの感性とノンフィクションの要素の融合は、前作のドキュメンタリーの手法を受け継いでいるようです。
キャスト:テレサ・サンチェス(マリア・ガルシア)、ラファエラ・フエンテス(ラファエラ)、マヌエル・ガルシア・ルルフォ、タティン・ベラ(トランスジェンダーの美容師タティン)
ストーリー:ロス・アルトス・デ・ハリスコにある伝統的なテキーラ工場の相続人であるセニョーラ・マリアは、外国企業の進出が強まる市場で受け継いだ工場の存続に努力しています。彼女は新しい管理者にラファエラを雇い、危機を乗り越えようと情熱を傾けている。しかし、長びく大災害と予期せぬ洪水がプランテーションに取り返しのつかない損害を与えたとき、マリアは地域コミュニティの富と誇りを救うため、彼女が手にしているすべてをかけて対応せざるを得なくなる。マッチョ文化が長いあいだ支配されてきた場所にも、社会的な変化のいくつかが語られる。
(断髪したセニョーラ・マリアの目、フレームから)
7)「Mi país imaginario / My Imaginary Country」チリ
オープニング作品
データ:製作国チリ、2022年、スペイン語、ドキュメンタリー、83分、撮影サミュエル・ラフ、編集ローレンス・マンハイマー、音楽Miranda & Tobal、製作者レナーテ・ザクセ、アレクサンドラ・ガルビス、製作Arte France Cinéma / Atacama Productions、配給Market Chile、販売 Pyramide International。カンヌ映画祭2022コンペティション部門セッション・スペシャル特別上映、エルサレム映画祭(ベスト・ドキュメンタリー賞)を経て、サンセバスチャン映画祭上映となった。フランスでは8月にリミテッド上映だがチケット売れ切れの盛況だったが、チリのサンティアゴでのプレミア上映は、観客全員がマスクを着用、十数人を超えることはなかったという。
(製作者レナーテ・ザクセ、監督、製作者アレクサンドラ・ガルビス、カンヌFF2022にて)
監督:パトリシオ・グスマン(サンティアゴ1941)は、監督、脚本家、フィルム編集、撮影監督、ドキュメンタリー作家、現在はパリ在住。キャリア&フィルモグラフィー紹介、特に「チリ三部作」は以下にアップしています。本祭との関りは、2015年ホライズンズ・ラティノ部門に『真珠のボタン』、2019年に『夢のアンデス』(「La cordillera de los Suños」)が正式出品されています。
*『光のノスタルジア』(10)の紹介記事は、コチラ⇒2015年11月11日
*『真珠のボタン』(15)の紹介記事は、コチラ⇒2015年02月26日/同年11月16日
*『夢のアンデス』(19)の紹介記事は、コチラ⇒2019年05月15日
主な女性出演者:女優で劇作家ノナ・フェルナンデス、撮影監督ニコル・クラム、ジャーナリストのモニカ・ゴンサレス、政治学者クラウディア・ハイス、チェス競技者ダマリス・アバルカ、元憲法制定会議議長エリサ・ロンコンほか多数
解説:「2019年10月、予想外の革命、社会的激動、150万人の民衆がサンティアゴの街頭で、もっとデモクラシーな社会、誇りのもてるより良い生活、より良い教育と医療制度、そして新しい憲法を要求してデモ行進をしました。チリはかつての記憶を取り戻したのです。1973年の学生闘争以来、私が待ち望んでいた出来事が遂に実現したのです」と語ったグスマンは、抗議行動を記録するために、在住しているフランスからチリに撮影クルーを組織しました。1年後、監督はインタビューを実施し、新憲法のための国民投票を撮影するため故国に戻ってきました。半世紀の間の時代の変化を体験した監督は、新作では著名な女性作家、ジャーナリスト、シネアストなどの視点を多く取り入れました。海外での評価は高かったが、故国では厳しかったようです。内からと外からの視点は違うということでしょうか。
◎賞には絡まないと思いますが、いずれ詳しい紹介記事を予定しています。
(闘いを決心した目出し帽着用の20代の女性、フレームから)
(「2019年10月18日バンザイ」のステッカーを掲げるデモ参加者)
8)「Vicenta B.」キューバ
WIP Latam 2021 EGEDAプラチナ賞受賞作品
データ:製作国キューバ=フランス=米国=コロンビア=ノルウェー、2022年、スペイン語、ドラマ、75分、脚本カルロス・レチュガ、ファビアン・スアレス、撮影デニセ・ゲーラ、編集ジョアンナ・モンテロ、音楽サンティアゴ・バルボサ、ハイディ・ミラネス、音響ベリア・ディアス、製作・製作者Cacha Films(キューバ)クラウディア・カルビーニョ、ROMEO(コロンビア)コンスエロ・カスティーリョ、Promenades Films(フランス)サミュエル・ショーヴァン、Dag Hoel Filmproduksjon(ノルウェー)ダグ・ホエル、販売Habanero(ブラジル)。トロント映画祭2022正式出品。
監督:カルロス・レチュガ(ハバナ1983)監督、脚本家、本作は長編3作目、WIP Latam 2021 EGEDA(視聴覚著作権管理協会)プラチア賞受賞作品。また第2作目「Santa y Andrés」は2016年のホライズンズ・ラティノ部門に選出されている。本作は第38回ハバナ映画祭で上映するよう選出されていたにも拘らず、ICAIC のお気に召さず拒否された。当ブログで作品紹介記事をアップしています。
*「Santa y Andrés」の作品、監督キャリア紹介は、コチラ⇒2016年08月27日
(WIP Latam 2021 EGEDAプラチア賞、サンセバスティアンFF2021授賞式にて)
◎監督によると「ビセンタは、孤独な母親が多い国の物語です。現在キューバには考え方が違うという理由だけで多くの若者が投獄されています」と、昨年7月11日に同時多発的に起きた大規模な抗議デモで拘束された人々の脱出劇について言及した。またハバネロ・フィルム・セールスのパートナーであるパトリシア・マルティンは、本作のように「政治について明確に語っていない場合でも、根本的に政治的です」と述べている。
キャスト:リネット・エルナンデス・バルデス(ビセンタ・ブラボ)、ミレヤ・チャップマン、Aimee Despaigne、アナ・フラビア・ラモス、ペドロ・マルティネス
ストーリー:ビセンタ・ブラボは、人の運勢をカードで占ったり将来を洞察できる特殊な才能をもっているサンテラである。毎日、悩みを抱えた人々が解決を求めてやってくる憩いの場になっている。ビセンタは一人息子とは上手くやっていたが、それもこれも彼がキューバを出たいと決心するまでのことでした。これがすべての崩壊の始りだった。自分のまわりで何が起きているのか、解決の糸口が見つからないまま危機に陥ってしまう。天賦の贈り物を失ったビセンタは、誰もが信仰を失ったように思われる国の内面への旅に出発するだろう。黒人や貧しい女性の実存が脅かされるとどうなるか、魂の探求、信仰の危機、家族の孤立に光が当てられている。
(フレームから)
(左から、ファビアン・エルナンデス、フアン・パブロ・ゴンサレス、パトリシオ・グスマン、カルロス・レチュガ)
ホライズンズ・ラティノ部門12作*サンセバスチャン映画祭2022 ⑦ ― 2022年08月18日 10:58
ラテンアメリカ諸国から選ばれた12作が発表になりました
★8月11日、ホライズンズ・ラティノ部門12作(2021年は10作)が例年より遅れて発表になりました。オープニング作品はチリのドキュメンタリー作家パトリシオ・グスマンの「Mi país imaginario」、クロージングはエクアドルのアナ・クリスティナ・バラガンの「La piel pulpo」となりました。スペイン語、ポルトガル語に特化したセクションです。新人の登龍門的役割もあり、今回も多くは1980年代生れの監督で占められています。作品名、監督名、本祭との関りをアップしておきます。あまり選出されることのないエクアドル、コスタリカ、久しぶりにキューバの2作がノミネートされています。3分割して紹介、時間の許す限りですが、賞に絡みそうな作品紹介を別個予定しています。
*ホライズンズ・ラティノ部門 ①*
1)「La piel pulpo / Octopus Skin」エクアドル=ギリシャ=メキシコ=独=仏
クロージング作品、WIP Latam 2021作品、2022年、スペイン語、ドラマ、94分、脚本アナ・クリスティナ・バラガン。撮影地プンタ・ブランカ
監督:アナ・クリスティナ・バラガン(エクアドル、キト1987)、2021年、エリアス・ケレヘタ・シネ・エスコラの大学院課程で学ぶ。本祭との関りは、2016年のデビュー作「Alba」がホライズンズ審査員スペシャル・メンションを受賞しています。最新の「La hiedra」は、Ikusmira Berriakイクスミラ・ベリアク・レジデンス2022に選出されている。
*「Alba」の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月09日
キャスト:イサドラ・チャベス(イリス)、フアン・フランシスコ・ビヌエサ(アリエル)、Hazel Powell、クリスティナ・マルチャン(母親)、アンドレス・クレスポ、マカレナ・アリアス、カルロス・キント
ストーリー:双子のイリスとアリエルは17歳、母親と姉のリアと一緒に、軟体動物や小鳥、爬虫類が棲息する島のビーチに住んでいます。10代の姉弟たちは大陸から孤立して育ち、普通の親密さの限界を超えた関係のなかで、自然との結びつきは超越的です。海のはるか向こうにかすかに見えるものを求めて、イリスは島を出て町に行こうと決心します。町のショッピングセンター、騒音、不在の父親探し、弟との別れ、母親の不在は、姉弟への愛と自然の中でのアイデンティティの重要性を明らかにしていく。
(イサドラ・チャベス、フレームから)
2)「Sublime」アルゼンチン
データ:ベルリン映画祭2022ジェネレーション14プラスのプレミア作品、製作国アルゼンチン、2022年、スペイン語、ドラマ、100分、音楽エミリオ・チェルヴィーニ、製作Tarea Fina / Verdadera Imagen、撮影地ブエノスアイレス
監督:マリアノ・ビアシン(ブエノスアイレス1980)のデビュー作、脚本、製作を手掛けている。本作は第10回Sebastiane Latino 賞受賞ほかが決定しており、別途に作品紹介を予定しています。
キャスト:マルティン・ミラー(マヌエル)、テオ・イナマ・チアブランド(フェリペ)、アスル・マッゼオ(アスル)、ホアキン・アラナ(フラン)、ファクンド・トロトンダ(マウロ)、ハビエル・ドロラス(マヌエルの父)、カロリナ・テヘダ(マヌエルの母)、ほか多数
ストーリー:マヌエルは16歳、海岸沿いの小さな町に住んでいる。彼は親友たちとバンドを組み、ベースギターを弾いている。特にフェリペとは小さい頃からの固い友情で結びついている。マヌエルがフェリペとの友情以外の何かを感じ始めたとき、二人の関係はどうなりますか、友情を危険に晒さず別の局面を手に入れられますか。二人は他者との絆が失われる可能性や他者からの拒絶に直面したときの怖れを共有しています。思春期をむかえた若者たちの揺れる心を繊細に描いた秀作。
3)「Ruido / Noise」メキシコ
データ:製作国メキシコ=アルゼンチン、スペイン語、2022年、ドラマ、105分、脚本ナタリア・ベリスタイン&ディエゴ・エンリケ・オソルノ、製作Woo Films、
監督:ナタリア・ベリスタイン(メキシコシティ1981)、長編3作目、デビュー作「No quiero dormir sola」は、ベネチア映画祭2012「批評家週間」に正式出品され、同年モレリア映画祭のベスト・ヒューチャーフィルム賞を受賞、アリエル賞2014のオペラプリマ他にノミネート、俳優の父アルトゥーロ・ベリスタインが出演している。2作目は「Los adioses」は、マラガ映画祭2017に正式出品されている。他TVミニシリーズ、短編多数。新作は行方不明の娘を探し続ける母親の視点を通して、現代メキシコの負の連鎖を断ち切れない暴力を描いている。母親を演じるフリエタ・エグロラは実母、アルトゥーロ・リプスタインの『深紅の愛』に出演している。
(ナタリア・ベリスタイン監督)
キャスト:フリエタ・エグロラ(フリア)、テレサ・ルイス(アブリル・エスコベド)、エリック・イスラエル・コンスエロ(検事アシスタント)
ストーリー:フリアは母親である、いやむしろ、女性たちとの闘いをくり広げている、この国では珍しくもない暴力によって人生をずたずたに引き裂かれた多くの母親たち、姉妹たち、娘たち、女友達の一人と言ったほうがよい。フリアは娘のヘルを探している。彼女は捜索のなかで知り合った他の女性たちの物語と闘いを語ることになるだろう。
(フリア役のフリエタ・エグロラ、フレームから)
4)「El caso Padilla / The Padilla Affair」キューバ
データ:製作国スペイン=キューバ、スペイン語、フランス語、英語、ノンフィクション、モノクロ、78分、脚本監督、製作Ventu Productions、(エグゼクティブプロデューサー)アレハンドロ・エルナンデス
監督:パベル・ジルー Giroud (ハバナ1973)は、サンセバスチャン映画祭2008「バスク映画の日」に「Omertá」が上映された。同じく「El acompañante」がヨーロッパ=ラテンアメリカ共同製作フォーラム賞を受賞した他、マラガFF、マイアミFF 2016で観客賞、ハバナFF(ニューヨーク)でスター賞を受賞している。新作は1971年春、キューバで起きたエベルト・パディーリャ事件を扱ったノンフィクション。
(エベルト・パディーリャ)
解説:1971年の春ハバナ、詩人のエベルト・パディーリャが、ある条件付きで釈放された。彼は約束を果たすためキューバ作家芸術家連盟のホールに現れ、彼自身の言葉で「心からの自己批判」を吐きだした。彼は反革命分子であったことを認め、彼の詩人の妻ベルキス・クサ=マレを含む、会場に参集した同僚の多くを名指しで共犯者であると非難した。1ヵ月ほど前、パディーリャはキューバ国家の安全を脅かしたとして告発され妻と一緒に逮捕された。これは全世界の革命に賛同していたインテリゲンチャを驚かせた。革命の指導者フィデル・カストロへの最初の書簡で、パディーリャの自由を要求した。彼の唯一の罪は、詩的な作品を通して異議を唱えたことでした。作家の過失の録画が初めて一般に公開される。ガブリエル・ガルシア・マルケス、フリオ・コルタサル、マリオ・バルガス=リョサ、ジャン=ポール・サルトル、ホルヘ・エドワーズ、そしてフィデル・カストロの証言があらわれる。表現の自由の欠如や入手のための文化集団の闘争は、現在に反響する。キューバの過去を探求する驚くべきドキュメンタリー。
*「パディーリャ事件」の紹介記事は既にアップしておりますので割愛します。
(アナ・C.・バラガン、マリアノ・ビアシン、ナタリア・ベリスタイン、パベル・ジルー)
追加情報:ナタリア・ベリスタイン監督の「Ruido / Noise」が、2023年1月11日より邦題『ざわめき』でNetflix配信が開始されました。
セクション・オフィシアル最終回*サンセバスチャン映画祭2022 ⑥ ― 2022年08月14日 11:28
◎第70回セクション・オフィシアル追加作品◎
★セクション・オフィシアル追加作品の最終回はベテラン監督編、国際映画祭では度々目にする顔ぶれが選ばれています。デンマークからは東京国際映画祭2019の東京さくらグランプリ受賞作品『わたしの叔父さん』のフラレ・ピーダセンの「Resten af livet / Forever」、本祭以外にもカンヌやベルリンなどの受賞歴を誇る韓国のホン・サンスの「Top / Walk Up」、ベルリンFF2022コンペティション部門で上映された「Limini」と、もともとは一つの映画だったというオーストリアのウルリヒ・ザイドルの「Sparta」、チェコのペトル・ヴァーツラフの「Il Boemo」は、18世紀後半チェコ出身でローマで活躍、チェコで初めて国際的な作曲家になったヨゼフ・ミスリヴェチェクの伝記映画、あの天才モーツアルトが賛辞を贈っていたという、管理人も初めて目にする作曲家の名前、だから映画は楽しい。各国とも金貝賞受賞と期待が高まっているようです。今回をもってセクション・オフィシアルは終りです。
13)「Resten af livet / Forever」 デンマーク
監督:フラレ・ピーダセンFrelle Petersen(オベンロー1980)は、「Onkel / Uncle」が『わたしの叔父さん』の邦題で東京国際映画祭2019で上映され、東京さくらグランプリを受賞、劇場公開になった。ほか「アート・オブ・クライング」(06)など。新作は南ユトランド半島を舞台に家族の喪失と再生が語られる。本国では既に公開され、「人生を肯定的に描いて勇気を与えてくれる、今年最高のデンマーク映画」と絶賛されている。『わたしの叔父さん』で好評だったイェデ・スナゴーが主演している。
データ:製作国デンマーク、デンマーク語、2022年、ドラマ、110分、公開デンマーク2022年7月7日。
キャスト:イェデ・スナゴー(リリー)、オレ・ソレンセン(エゴン)、メッテ・ムンク・プラム(マレン)
ストーリー:厳しい自然の力が猛威をふるう沼地と北海に近い南ユトランド半島でくり広げられる、人生を肯定する家族の物語。エゴンとマレンの老夫婦は、成人した二人の子供と石造りの戸建ての家で静かに暮らしていた。しかし息子を失うという耐えがたい悲劇が家族を襲ったとき、突然敷物の下に隠れていたものが顔を出します。残された家族の喪失と再生が語られる。監督が構想した三部作(第1部「Onkel」)の2作目ということです。
(リリー役のイェデ・スナゴーとマレン役のムンク・プラム)
14)「Top / Walk Up」 韓国
監督:ホン・サンスHong Sangsoo(ソウル1960)は、監督、脚本家、製作者。本祭との関りでは、2016年コンペティション部門の『あなた自身とあなたのこと』が銀貝(監督)賞、2017年サバルテギ-タバカレラ部門ノミネートの『それから』(17)、続く2020年には『逃げた女』でスペシャル・メンションを受賞している。前者はカンヌFF、後者はベルリンFFで銀熊(監督)賞受賞作品。最近では『夜の浜辺でひとり』(17)、『あなたの顔の前に』(21)など多数劇場公開されている。今回の新作で2回目の金貝賞を競うことになる。キャスティングはサンス映画の常連さんで固めており、主役にクォン・ヘヒョを据えている。
データ:製作国韓国、韓国語、2022年、ドラマ、97分、トロント映画祭2022上映後、サンセバスチャン映画祭、10月にはニューヨーク映画祭に選出されている。配給The Cinema Guild(USA)
キャスト:クォン・ヘヒョ(ビョンス)、イ・ヘヨン、パク・ミソ(ジョンス)、ソン・ソンミ、チョ・ユンヒー、ほか
ストーリー:中年の映画監督ビョンスは、インテリアデザイナー志望の娘ジョンスと一緒に、何年ぶりかで、既にデザイン界では実績のある旧友の所有するビルを訪ねていく。デザイナーは二人に改装された各階を案内する。2階にはレストランと調理スタジオ、地下には彼女のオフィス、3階は住まい、3人は各階の部屋をちらっと覗いていく。映画はこんな雰囲気で始り、その後再び階下から上階に上がっていく。
(クォン・ヘヒョ、フレームから)
15)「Sparta」 オーストリア
監督:ウルリヒ・ザイドル(ウィーン1952)は、監督、脚本家、製作者。本祭との関りは、レトロスペクティブ部門やサバルテギ-タバカレラ部門で上映されているが、コンペティション部門は今回の「Sparta」が初めて。代表作は『ドッグ・デイズ』がベネチアFF2001審査員特別賞、ヒホンFFアストゥリアス・グランプリを受賞している。「パラダイス」(2012~13)で愛、神、希望を語った三部作は、世界三大映画祭に出品されそれぞれ高い評価を受けた。新作「Sparta」と姉妹映画の関係にある「Rimini」(22)は、ベルリナーレでプレミアされ、ディアゴナーレで最優秀長編映画賞に選ばれたほか、パリックFFでFIPRESCI 賞を受賞している。これら2作は元々一つの作品として出発したが、コロナ感染の影響の遅れもあって2作に分割された姉妹映画です。
(ウルリヒ・ザイドル、第72回ベルリナーレ2022,2月15日)
データ:製作国オーストリア=フランス=ドイツ、2022年、ドラマ、101分。製作Coproduction Office / Arte France Cinéma / Société Parisienne de Production / Seidi Film / Bayerischer Rundfunk TV、他、脚本は監督自身と監督夫人ヴェロニカ・フランツ、撮影ヴォルフガング・セイラー、美術アンドレアス・ドンハウザーとレナーテ・マルティン、衣装ターニャ・ハウスナー、製作者フィリップ・ボベール&監督、(エグゼクティブ)アンドレアス・ロアルドほか、撮影地オーストリア、イタリア、ルーマニア、ドイツ、期間2017年春から2018年までの85日間、公開オーストリアは2023年が予定されている。撮影中の2017年11月にハンス・ミヒャエル・レーベルクが鬼籍入りしている。主役は前作にも出演しているゲオルク・フリードリヒ。
キャスト:ゲオルク・フリードリヒ(エヴァルト)、ハンス・ミヒャエル・レーベルク(父)、フロンティナ・エレナ・ポップ、マリウス・イグナット、オクタヴィアン・ニコラエ・コーシス
ストーリー:エヴァルトは数年前にルーマニアに引っ越してきた。40代を迎え新たなスタートを切りたいと、ガールフレンドとも別れて、より奥地に移動することにした。地元の少年たちと一緒に朽ち果てた校舎を要塞に変えていく。子供たちはこの新しい生活を大いに楽しんでいますが、村人のあいだで不信感が高まっていきます。それは彼が長いあいだ封印してきた真実に立ち向かわざることになるだろう。前作「Rimini」の姉妹作品であり、過去からの遁走の不可能性についての、自分自身を襲った痛みについての、ザイドル自身の結論が語られるのだろうか。
(フレームから)
16)「Il Boemo」 チェコ
監督:ペトル・ヴァーツラフPetr Václav(プラハ1967)は、監督・脚本家、2003年からパリ在住、二重国籍を持っている。本祭との関りは、第2作「Parallel Worlds」(01)がニュー・ディレクターズ部門に出品されている。新作「Il Boemo」は、チェコ生れだがイタリアに渡って1770年代のイタリアオペラで活躍した作曲家ヨゼフ・ミスリヴェチェク(1737~87ローマで死去)の伝記映画。
データ:製作国チェコ=イタリア=スロバキア、2022年、イタリア語、伝記映画、141分、脚本ペトル・ヴァーツラフ、撮影ディエゴ・ロメロ、編集パオロ・コッティニョーラほか、メイク部門テレサ・バシリほか、製作Mimesis Film / Dugong Films / Sentimentalfilm / Czech Film Fund、チェコTVほか。公開チェコ10月20日
キャスト:ヴォイチェフ・ダイク(ヨゼフ・ミスリヴェチェク)、エレナ・ラドニッチ、バルバラ・ロンキ(カテリナ)、ラナ・ブラディ、カレル・ローデン、フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)、シモーナ・シャトゥロヴァー(ソプラノ)、リノ・ムゼッラ、フィリップ・アマデウス・ハーン(青年モーツアルト)
ストーリー:1764年、ヨゼフは1年以上もベネチアで不安定な生活を送っていた。オペラの作曲家を目指していたが、才能のある作家たちで町は溢れており、彼を受け入れる門は閉ざされているようだった。しかし彼がバイオリニストの仕事を探しているとき、ある裕福な若い女性との出会いで軌道に乗ります。彼女のお蔭でサロンで演奏するチャンスを得ることができます。しかし彼の本当の幸運は、彼がある放縦な侯爵夫人の愛人になったときに訪れます。彼女は洗練されたマナーを教え、彼に宗教的不寛容から解放された快楽主義的な生活を紹介します。ヨゼフはヨーロッパ最大の劇場であるサン・カルロのためにオペラを書くという信じられない依頼を受けます。
(左から、ヴォイチェフ・ダイク、ヤン・マコラ、監督)
◎トレビア記事◎
*ヴァーツラフ監督談「ヨゼフは優れた作曲家というだけでなく、何よりも優れた心理学者、ドラマトゥルギーであった。登場人物の葛藤を強調し、感性やジレンマを伝える術を知っていた。若いモーツアルトが魅了されたのは、まさにこの劇的な才能への称賛でした」と主人公の魅力を語っている。
*また製作者のヤン・マコラは「前例のない準備期間、撮影から完成まで10年がかりでした。歴史的推敲、独自性の強調、全員が取り組んだ現代性への努力が実った」と語っている。
*主役を演じたヴォイチェフ・ダイクは歌手でもあり、母語のほかドイツ語、イタリア語が堪能で、全編イタリア語で撮ったが支障がなかった。プロフェッショナルなオペラ歌手、フランスのカウンターテナーのフィリップ・ジャルスキー、ソプラノのシモーナ・シャトゥロヴァーも出演、オーケストラはプラハ・バロック交響楽団、指揮者はヴァーツラフ・ルクスでした。
(左から、フラレ・ピーダセン、ホン・サンス、ウルリヒ・ザイドル、ペトル・ヴァーツラフ)
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