ダニ・デ・ラ・オルデンの「Casa en flames」*ゴヤ賞2025 ⑤ ― 2025年01月08日 22:15
カタルーニャ語映画「Casa en flames」はシリアスコメディ

(スペイン語版ポスター)
★ゴヤ賞作品賞ノミネートのダニ・デ・ラ・オルデンのシリアスコメディ「Casa en flames」の言語はカタルーニャ語、前回アップしたマルセル・バレナの「El 47」も主要言語はカタルーニャ語でした。カルラ・シモンのデビュー作『悲しみに、こんにちは』(17)の成功以来、じりじり増えている印象です。カタルーニャ語映画の興行成績ナンバーワンは、シモンの2作め「Alcarràs」(22)の240万ユーロでしたが、6月28日に本作が公開されると尻上がりに数字を更新しつづけ、9月末には270万ユーロとなり、わずか3ヵ月で抜いてしまいました。製作に途中から参加したNetflix の配信が、10月23日から始まっているので投票には有利になるでしょう。残念ながら日本語字幕入りの配信は目下ありません。

(インタビューを受けるダニ・デ・ラ・オルデンとホセ・ペレス・オカーニャ)
★セレブな離婚女性モンセが、地中海に面したコスタ・ブラバのカダケスの家に2人の子供を呼び寄せて週末を過ごそうと計画する。建物の売却やら、まだ引きずっている恨みやら、いろいろあるにはあるが、それはさておき、何者にも週末を台無しにさせないと決心しています。どこの家庭にも少しの利己主義や秘密はありますが、なんとも嫌味な登場人物がモンセの家に集合することになる。
★ゴヤ賞ノミネートは8カテゴリー、うち5部門をキャスト陣が占めている。モンセにエンマ・ビララサウ(主演女優)、息子ダビにエンリク・アウケル(助演男優)、娘フリアにマリア・ロドリゲス・ソト(助演女優)、元夫カルレスにアルベルト・サン・フアン(主演男優)、さらに助演女優賞に息子のガールフレンドらしきマルタ役のマカレナ・ガルシアという布陣です。ほかのノミネートは、作品賞、オリジナル脚本賞(エドゥアルド・ソラ)、プロダクション賞(ライア・ゴメス)の3部門です。
「Casa en flames」(西題「Casa en llamas」、英題「A House on Fire」)
製作:3Cat / Atresmedia Cine / Eliofilm(伊)/ Sábado Pliculas(西)/
Playtime Movies(西)/ ICEC / ICAA / Netflix
監督:ダニ・デ・ラ・オルデン
脚本:エドゥアルド・ソラ
音楽:マリア・キアラ・カサ
撮影:ペペ・ゲイ・デ・リエバナ
編集:アルベルト・グティエレス
プロダクション・マネージメント:ライア・ゴメス
キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ
美術:ヌリア・グアルディア
衣装デザイン:イシス・ベラスコ
メイクアップ&ヘアー:アンナ・アルバレス・デ・サルディ、エンマ・ラモス、(ヘアー)マリベル・ベルナレス
製作者:アルベルト・アランダ、アナ・エイラス、ダニ・デ・ラ・オルデン、キケ・マイジョ、アリエンス・ダムシ、ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、トニ・カリソサ、ベルナト・サウメル
データ:製作国スペイン=イタリア、2024年、カタルーニャ語80%、スペイン語20%、シリアスコメディ、105分、撮影地カタルーニャ州ジローナ(ヘローナ)、公開スペイン6月28日、Netflix配信10月23日(日本語なし)
映画祭・受賞歴:バルセロナ・サンジョルディ映画祭 BCNFF 2024でワールド・プレミア、モンテカルロ・コメディFF2024作品賞受賞、ホセ・マリア・フォルケ賞2024観客賞受賞、ディアス・デ・シネ賞(エンマ・ビララサウ)、他にゴヤ賞2025に8部門、フェロス賞2025に8部門、ガウディ賞2025に14部門にノミネートされている。
キャスト:エンマ・ビララサウ(モンセ)、エンリク・アウケル(息子ダビ)、マリア・ロドリゲス・ソト(娘フリア)、アルベルト・サン・フアン(元夫カルレス)、クララ・セグラ(ブランカ)、マカレナ・ガルシア(マルタ)、ホセ・ペレス・オカーニャ(トニ)、フィリッポ・コントリ(リカルド)、ゾエ・ミリャン(ジョアナ)、他多数
ストーリー:離婚した裕福な女性モンセは、長いあいだ母親を無視してきた2人の子供をカダケスの自宅に呼び寄せ、最後の週末を過ごす計画を立てる。自宅売却の可能性やら、恨みつらみの数々やら、どこの家族にも口に出してはいけない秘密はあるけれど、それはさておき、この週末は誰にも台無しにさせないと決心している。しかし、元夫も登場して・・・家族再会劇の行方は?
カタルーニャのブルジョア階級の欺瞞をやんわり批判
★批評家と観客の評価が分かれるのは珍しくありませんが、前者の80パーセント以上が好意的、フォルケ賞では観客賞を受賞するなど、双方に齟齬がない。キャストの演技をカンペキと褒める批評家が多数を占める。1作品で俳優賞5個ノミネートは珍しい。カタルーニャのブルジョア階級の痛烈なパロディではありますが、笑ってばかりはいられない。何しろ火の手が上がって燃えさかっている家なので本当は怖い話なのです。ダニ・デ・ラ・オルデン映画としてはレベルが高そうですが監督賞に選ばれていませんので、今回はノミネートされているキャスト陣を中心に紹介しておきます。

(モンセ役のエンマ・ビララサウ、フレームから)
★カダケスで直ぐ思い出されるのがサルバドール・ダリ、彼はユニークな建物で有名なダリ美術館のあるフィゲラス出身ですがカダケスに別荘を所有しており、夏期にはここで過ごすことが多かった。詩人のガルシア・ロルカもひと夏を過ごしている。後にダリと結婚することになるポール・エリュアールの妻ガラとの出会いもカダケスのこの別荘でした。カタルーニャのお金持ちの別荘地というわけです。撮影場所にはバルセロナのカネ・デ・マルにあるホセ・アントニオ・コデルチが設計した建物カサ・ロビラも含まれている。邸内から地中海が見渡せる豪邸が舞台なのが観客を惹きつけているのかもしれません。

(カサ・ロビラ邸)

(息子ダビと娘フリア、カサ・ロビラの室内)
★モンセ役のエンマ・ビララサウ・トマスは、1959年バルセロナ生れ、映画、テレビ、舞台女優。1913年バルセロナ州議会によって設立された演劇研究所で演技を学ぶ。1980年カタルーニャTVのミニシリーズでキャリアをスタートさせ、テレビ界での活躍が続いた。長編映画デビューはジャウマ・バラゲロのホラー『ネイムレス無名恐怖』(99)、本作はシッチェス映画祭でプレミアされ、初出演で女優賞を受賞した他、ブタカ賞2000のカタルーニャ映画部門の女優賞も受賞した。次いでカンヌでワールド・プレミアされたお蔭で公開されたマリア・リポルの『ユートピア』(03)では、ナイワ・ニムリやアルゼンチンのレオナルド・スバラリアやエクトル・アルテリオと共演した。
★評価が定まったのは、パトリシア・フェレイラの「Para que no me olvides」(05)出演でした。三世代の家族関係を描いた力強いストーリー、建築科の学生、その母親と祖父、そして恋人、家族は交通事故で息子を失い、試練に立たされる。母親役で初めてゴヤ賞2006の主演女優賞にノミネートされた。受賞には至らなかったがトゥリア賞2006の女優賞、サンジョルディ賞2006のスペイン女優賞を受賞した。カタルーニャ語とスペイン語の他、フランス語もできるのが強みです。

★新作では結果が発表になったフォルケ賞はノミネートに終わり、これから始まるゴヤ賞、ガウディ賞、フェロス賞に期待がかかっている。ゴヤ賞に関しては、候補者ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアが受賞する可能性は低く、ライバルはフォルケ賞を受賞したカロリナ・ジュステでしょうか。パトリシア・ロペス・アルナイスは、最近受賞が続いているのでないと予想します。ガウディ賞は堅いでしょうがゴヤは微妙です。しかしTVシリーズ出演でお茶の間での知名度も高く、バルセロナ派の会員も増えているから蓋を開けてみないことには分からない。舞台女優としても活躍、モンジュイックのリウレ劇場で初演された、アーサー・ミラーの戯曲 "All My Sons" 主演で、2023年のブタカ賞女優賞を受賞した。

(ブタカ賞2023女優賞の受賞スピーチをするエンマ・ビララサウ)
★娘フリア役のマリア・ロドリゲス・ソトは、1986年バルセロナ生れ、映画、舞台女優。マラガ映画祭2019の作品賞である金のビスナガ賞を受賞したカルロス・マルケス=マルセの「Els dies que vindran」で長編映画デビュー、銀のビスナガ女優賞を受賞、ガウディ賞2020でも主演女優賞を受賞した。共演したダビ・ベルダゲルと結婚している。作品とキャリア紹介を受賞作にアップしております。
*「Els dies que vindran」作品紹介は、コチラ⇒2019年04月11日

(銀のビスナガ女優賞を受賞、マラガFF2019ガラにて)
★デビュー作以降のフィルモグラフィーは、カルレス・トラスの『パラメディック―闇の救急救命士』(20)の理学療法士役、クララ・ロケの『リベルタード』(21)、TVシリーズだがNetflixで視聴可能なダニエル・サンチェス・アレバロの『最後列ガールズ』(22、6話)、リリアナ・トーレスのコメディ「Mamífera」(24)ではエンリク・アウケルと夫婦役で共演している。彼女は母親になることに抵抗している妻、エンリクは父親になりたい夫を演じている。SXSW映画祭2024で特別審査員賞他を受賞している。ガウディ賞2025には二人揃って、こちらは主演俳優賞にノミネートされている。フェロス賞2025では本作で助演女優賞にノミネートです。

(母親モンセと、フレームから)
★元夫カルレス役のアルベルト・サン・フアンは、1968年マドリード生れ、俳優、脚本家。マドリードのコンプルテンセ大学でジャーナリズムを学ぶ。日刊紙「ディアリオ16」で2年間働く。一纏めの紹介はしていないが、作品ごとにアップしている。長編映画デビューは1997年、フアンマ・バホ・ウジョアのハチャメチャ・コメディ「Airbag」、公開時は批評家から酷評されたが観客は大喜び、1997年の興行成績ナンバーワンになった。次いでビデオが発売されたマヌエル・ゴメス・ペレイラの『スカートの奥で』(99)、同年ミゲル・バルデムの『世界で一番醜い女』、今世紀に入るとエミリオ・マルティネス=ラサロの『ベッドの向こう側』(02)、続編『ベッドサイド物語』(05)、ラモン・デ・エスパーニャの『優しく殺して』(03)、ジャウマ・バラゲロの長たらしい邦題が笑えるサスペンス『スリーピング タイト~白肌の美女の異常な夜』(11)、主役のルイス・トサールの妄想ぶりでブレイクした。
*「Airbag」紹介記事は、コチラ⇒2021年02月18日

(元夫カルレス役のアルベルト・サン・フアン、フレームから)
★ゴヤ賞関連では、マラガ映画祭2007でフェリックス・ビスカレットの「Bajo las estrellas」(金のビスナガ受賞作)に主演、男優賞を受賞した。そのまま人気が持続して翌年のゴヤ賞主演男優賞も受賞した。ほかフォトグラマス・デ・プラタ2008もゲットし、未公開なのが残念だったコメディドラマです。もう1作がセスク・ゲイの「Sentimental」で、2021年のゴヤ賞とガウディ賞の助演男優賞を受賞している。最新ニュースによると、『リトル・ミス・サンシャイン』のジョナサン・デイトが英語版でリメイクするということです。ダニ・デ・ラ・オルデン映画では、本作の他、Netflix配信『クレイジーなくらい君に夢中』(21)、「El test」(22)などがある。
*ビスカレットの「Bajo las estrellas」の紹介記事は、コチラ⇒2017年11月11日
*セスク・ゲイの「Sentimental」の紹介記事は、コチラ⇒2021年02月01日

(ゴヤ賞2008主演男優賞を受賞)
★息子ダビ役のエンリク・アウケル、1988年ジローナ生れ、俳優、脚本家。2009年ホアキン・オリストレルの『地中海式 人生のレシピ』で長編デビュー、その後TVシリーズ出演で知名度を上げ、パコ・プラサのガリシアの麻薬密売がらみの「Quien a hierro mata」(19)でルイス・トサールと共演、中央のマドリードで注目されるようになった。数々の受賞歴を誇り、例えばゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル賞2020では新人男優賞、ガウディ賞とフェロス賞では助演男優賞など。タイトルの意味は「剣を使う者は剣に倒れる」という格言の一部、因果応報、目には目をに近い復讐劇。以後、毎年のようにノミネート、受賞が続いている。

(マルタ役のマカレナ・ガルシアと、フレームから)
★マラガ映画祭2021短編部門のアレックス・サルダの「Fuga」で銀のビスナガ主演男優賞受賞、2022年TVシリーズ「Vida perfecta」でフェロス賞助演男優賞、オンダス賞男優賞、2024年パトリシア・フォントの「El maestro que prometió el mar」は、スペイン内戦時代の実話をもとに映画化された。理想主義的な若い教師を演じて、ゴヤ賞以下ガウディ賞、フェロス賞、サンジョルディ賞などにノミネートされた。賞には絡みませんが、ホアキン・マソンのコメディ「La vida padre」(22)では、記憶喪失の父親役カラ・エレハルデとタッグを組んでシェフ役に挑戦している。イサキ・ラクエスタの「Un año, una noche」(22)など話題作に引っ張り凧です。以上の作品はどれも字幕入りでは観られませんが、Netflixシリーズの『鉄の手』(24、8話)では脇役ですが目下配信中です。

(予期せぬ新人男優賞受賞に舞い上がるアウケル、ゴヤ賞2020ガラにて)
★マリア・ロドリゲス・ソトで紹介したように、リリアナ・トーレスの「Mamífera」では、ガウディ賞2025の主演男優賞にノミネートされている。今年も映画賞ガラで忙しいことになりそうです。コメディもドラマも演じ分けられる才能は貴重です。
★助演女優賞にマリア・ロドリゲスとダブルでノミネートされたマルタ役のマカレナ・ガルシア(マドリード1988年)は、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』で鮮烈デビュー、ゴヤ賞2013新人女優賞を受賞した。他、ロス・ハビスの『ホーリー・キャンプ!』(17)などでキャリア紹介をしています。
*マカレナ・ガルシアの紹介記事は、コチラ⇒2013年08月18日
*『ホーリー・キャンプ!』の紹介記事は、コチラ⇒2017年10月07日

(マリア・ロドリゲスとマカレナ・ガルシア、フレームから)

(『ブランカニエベス』で新人女優賞に涙の止まらないマカレナ、ゴヤ賞2013ガラ)
アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」*ゴヤ賞2025 ⑥ ― 2025年01月15日 14:41
実話から生まれたフィクション――女性警察官ETAテログループ潜入記

(主人公アランサスに扮したカロリナ・ジュステを配したポスター)
★アランチャ・エチェバリア(ビルバオ1968)と言えば、同性愛が禁じられていたロマ社会の十代のレズビアンの愛をテーマにしたデビュー作『カルメン&ロラ』でしょうか。2018年カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品され、クィア賞とゴールデンカメラにノミネートされた作品。その後、国際映画祭巡りをして数々の受賞歴を誇り、ラテンビートFF2018でも上映された。ゴヤ賞2019新人監督賞を受賞、当時エチェバリアは50歳になっており、新人監督賞としては最年長の受賞者だった。作品紹介などは以下にアップしています。『カルメン&ロラ』以降のフィルモグラフィーは、監督賞にもノミネートされているので別途紹介を予定しています。
*『カルメン&ロラ』の作品、監督キャリア紹介は、コチラ⇒2018年05月13日

(ルイス・トサール、カロリナ・ジュステ、アランチャ・エチェバリア監督)
★デビュー作に唯一人プロの俳優として出演したのが、新作「La infiltrada」(潜入者)の主人公アランサス・ベラドレ・マリンを熱演したカロリナ・ジュステでした。監督のお気に入り女優、『カルメン&ロラ』でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。新作でも既にフォルケ賞2024主演女優賞を受賞しています。キャリア紹介は後述します。勿論アランサス・ベラドレ・マリンは偽名、スペイン史上で唯一テロ組織ETA(バスク祖国と自由)への潜入を成功させて生還した女性警察官の実話に基づいて製作された。データ・バンクによると、興行成績は約800万ユーロ(830万ドル)を突破した。
「La infiltrada」(英題「Undercover」)
製作:Beta Fiction Spain / Beta Films / Bowfinger International Pictures /
Infitrada LP AIE / Esto también pasará SLU / Atresmedia Cine / Film Factory Entertainment / Movistar Plus + / ICAA 他
監督:アランチャ・エチェバリア
脚本:アメリア・モラ、アランチャ・エチェバリア
(オリジナル・アイディア)マリア・ルイサ・グティエレス
撮影:ハビエル・サルモネス、ダニエル・サルモネス
音楽:フェルナンド・ベラスケス
編集:ビクトリア・ラメルス
録音:マイテ・カブレラ、ファビオ・ウエテ、ホルヘ・カステーリョ・バリェステロス、
ミリアム・リソン
キャスティング:テレサ・モラ
メイク&ヘアー:パトリシア・ロドリゲス、パトリ・デル・モラル、マルビナ・マリアニ
(ヘアー)トノ・ガルソン
プロダクション・マネージメント:アシエル・ペレス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、ジョン・セラーノ、フリアナ・ラスンシオン
製作者:メルセデス・ガメロ(BFS)、マリア・ルイサ・グティエレス(Bowfinger)、パブロ・ノゲロレス、アルバロ・アリサ
(太字がゴヤ賞2025ノミネート者)
データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語・バスク語、実話、スリラー、118分、撮影地バスク自治州、配給:Film Factory Entertainment、公開バレンシア、セビーリャ2024年9月30日、サラゴサ10月1日、スペイン一般公開10月11日
映画祭・受賞歴:フォルケ賞2024作品賞・価値ある教育賞ノミネート、主演女優賞受賞(カロリナ・ジュステ)、ASECAN賞2024(アランチャ・エチェバリア)、ゴヤ賞2025ノミネート13部門(作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲・主演女優・助演女優、助演男優・プロダクション・撮影・編集・メイク&ヘアー・録音・特殊効果賞)、フェロス賞2025(監督・主演女優・予告編賞ハビエル・モラレス)、シネマ・ライターズ・サークル賞9部門(作品・監督・女優・助演女優・助演男優・脚本・撮影・編集・作曲賞)
キャスト:カロリナ・ジュステ(アランサス・ベラドレ・マリン)、ルイス・トサール(アンヘル)、ディエゴ・アニド(セルヒオ)、イニィゴ・ガステシ(ケパ・エチェバリア)、ナウシカ・ボニン(アンドレア)、ペペ・オシオ(ボディ)、ホルヘ・ルエダ(マリオ)、ビクトル・クラビホ(テルエル)、カルロス・トロヤ(ソイド)、アシエル・エルナンデス(ホセバ)、ペドロ・カサブランク(警察担当班長)、他多数
ストーリー:1990年代のバスクを舞台に、新米警察官アランサス・ベラドレ・マリンは或る難しいミッションを果たすため、ETAバスク愛国主義のテロ組織にスパイとして送り込まれる。それは家族や友人との関係を断ち、人生を一時停止にすることに他ならなかった。数多くのテロ攻撃を準備する2人のテロリストと同じアパートに宿泊する必要があった。時には彼らが殺害した同僚警官の死を祝って乾杯しなければならなかった。常にいつ自分の身元が割れるかという恐怖のなかでの二重生活は8年間の長期に及んだ。

(ルイス・トサールとカロリナ・ジュステ、フレームから)

(潜入者との連絡担当官アンヘルを演じたルイス・トサール)
実在したアランサス・ベラドレ・マリンの肖像
★アランサス・ベラドレ・マリンは偽名(本名エレナ・テハダ)、22歳でアビラの警察アカデミーを卒業後、ETA の潜入部隊のメンバーに選ばれる。家族との関係を断ち、エタのメンバーに彼女が彼らの目的に共鳴してグループに入ったと信じ込ませることに成功する。リオハの県都ログローニュの良心的兵役拒否運動に潜入して、エタメンバーとの緊密な関係を築いた。1998年9月16日、ETAは「停戦協定」を結ぶが、これは組織立て直しの時間稼ぎの休戦であった。停戦中にもかかわらず彼らは秘密裏にテロ活動を継続しながら再武装に従事した。グループ内で特権的な立場にあったアランサスは、将来の重要なテロ計画書と協力者の情報を入手した。これにより、政府と治安部隊はETA の最も活動的なグループの一つである「ドノスティ・コマンド」を解体させるに至った。この情報はETAの内部構造理解にも寄与した。エタ組織への潜入に成功した唯一人のスペイン人警察官。アランサスは、現在国家警察に勤務しているが、スペインを去り、海外の大使館で家族と新しい人生を歩んでいる。
「2017年に警察官の友人を通じて知った」と製作者グティエレス
★エチェバリア監督によると「プロデューサーからアランサスの話を聞いたとき、私の心は直ぐに90年代の無意味な対立で罪のない犠牲者が増え続けていたバスクに戻りました。20歳を越したばかりの未だ経験の浅い女性警官が、たった一つのミスが死を意味する殺人者たちの世界に潜入した事実に驚きました。直ぐに監督したいと言いました。私たちの最近の辛い過去を思い出すために、彼女が現在どこにいようとも、感謝を捧げたいと思ったのです」と語った。
★プロデューサーとはBowfinger International Picturesのマリア・ルイサ・グティエレス、「私たちは、観客がこの匿名の女性の物語を知るに値すると信じています。公の援助なしに一般市民のために命を危険にさらして闘わねばならなかった。ある意味で彼女は人生の過去と未来を犠牲にして任務を果たした。ETA のテロリストのグループを解体し、さらには国家安全保障に貢献した。私は匿名で闘わざるを得なかった人々の視点で語られた映画を見たことがありませんでした。何故ならそれはタブーだったからです。今やっと語ることができる時代になったのです」。そして「潜入捜査をしていた8年間、彼女が抱えていた矛盾、恐怖、前進し続ける理由を観客に伝えたい」とグティエレスは付け加えた。

(ビクトル・クラビホ、助演女優賞ノミネートのナウシカ・ボニン)
★BFSの最高経営責任者CEOメルセデス・ガメロ、「この映画は、複雑な女性の多面的な視点から語られる。それは時代の肖像画にもなり、映画館で壮大な物語を楽しみたいと思う多世代の観客の興味を引くでしょう」と述べた。俳優たちが実在した人物に会うことが、如何に価値があるかを強調した。何故なら「それは作品に真実味を与えるからです」と。
★エチェバリア監督によると、「この作戦に関わった人々と接触し、綿密なリサーチ作業をした。ルイス・トサールが演じた潜入者との連絡担当者であるマニピュレーター、作戦に参加した警察官、テロ・グループを脱退したエタの元メンバーを取材した。本物のアランサスにアクセスする機会もあったが、敢えてしなかった」と。チャンスが訪れたときには、脚本が完成していて「私たちのアランサス」が既に出来上がっていたからのようです。実話から生まれた映画でもフィクションということでしょうか。
潜入することに同意したアランサスの「公共の利益」とは?
★エチェバリア監督がこの作品で追求したテーマの一つは、「何故若い警察官がこのような危険な任務に参加することに同意したのか」であった。家族、友人、ボーイフレンド、フィエスタなどと関係を断ち、ライオンの檻に飛び込むことにしたのか。彼女は「公共の利益」のためにそうしたのだが、「今日の私たちが理解するのは難しい」と監督。「医師として地球上の危険な地域を訪れ、他者を助ける国境なき医師団の仕事は理解できても、彼女のケースは難しい・・・」と。また潜入者が若い女性警官でなく男性だったら映画にしたか、という問いには「男性でも同じですが、彼女がスパイだと気づかれなかったのは、おそらく女性だったからだろう」と答えている。
★ビルバオ出身の監督は、「バスク地方の紛争は、私たちスペイン人がつい最近体験したことなのを忘れないでほしい。何が起こったのかを若い世代に伝える必要があります。この映画は対立が理解されるようにするという意図をもっています。アランサスを通してバスク地方の特に紛争の時代を政治的社会的に描きたかった」と製作意図を語っている。未だフランコ独裁政権だった1968年から2010年までの犠牲者は、829人が殺害され、2018年に解散するまで22,000以上が負傷している。
★当ブログでは、テーマをETAのテロに据えた作品として、イシアル・ボリャインの「Maixabel」(2021年08月05日)、アイトル・ガビロンドのTVシリーズ「Patria」8話(2020年08月12日)、ボルハ・コベアガの「Negociador」(2015年01月11日)、ルイス・マリアスの「Fuego」(2014年12月11日)などを紹介しています。
キャスト紹介:カロリナ・オルテガ・ジュステ、1991年エストレマドゥラ州バダホス生れ、映画、TV、舞台女優、マドリードの王立高等演劇学校RESAD(1831年設立)とラ・マナダ演劇研究センターで演技を学ぶ。2014年、TVシリーズ出演でキャリアをスタートさせる。長編映画デビューはアランチャ・エチェバリアの『カルメン&ロラ』(18)出演でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。エチェバリア監督の信頼が厚く、引き続き「La familia perfecta」(21)、「Chinas」(23)と4作に起用されている。


(アランサスを演じたカロリナ・ジュステ、「La infiltrada」から)
★他にカルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(「Quién te cantará」18)、ダニエル・カルパルソロのアクション・スリラー『ライジング・スカイハイ』(「Hasta el cielo」20)、セクン・デ・ラ・ロサのデビュー作「El cover」(21)出演でベルランガ賞2021助演女優賞を受賞した。マラガ映画祭2021に正式出品され観客賞を受賞したカロル・ロドリゲス・コラスの「Chavalas」、ハイメ・ロサ―レスの「Girasoles silvestres」(22)、ダビ・トゥルエバが実在したカタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラを描いた「Saben aquell」は、サンセバスチャン映画祭2023で上映、カタルーニャ語を短期間でマスターして撮影に及んで高評価を得た。ゴヤ賞2024主演女優賞にノミネートされるも受賞できなかったが、ガウディ賞とサンジョルディ賞を受賞した。新作「La infiltrada」では上述したフォルケ賞受賞の他、本命視されているゴヤ賞、フェロス賞の主演女優賞にノミネートされている。

(フォルケ賞のトロフィーを手にしたカロリナ・ジュステ、2024年フォルケ賞ガラ)
★太字のタイトル名は作品紹介をしています。ヒット作のTVシリーズ、舞台出演は割愛します。最近短編映画「Ciao Bambina」(24)を監督している。
*「Saben aquell」の紹介記事は、コチラ⇒2023年12月30日
*「Girasoles silvestres」の紹介記事は、コチラ⇒2022年08月01日
*「El Cover」の紹介記事は、コチラ⇒2021年05月18日
*「Hasta el cielo」の紹介記事は、コチラ⇒2020年08月22日
巨大なゴヤ胸像のレプリカがグラナダに到着*ゴヤ賞2025 ⑦ ― 2025年01月17日 15:20
ゴヤ賞ガラを盛り上げようとゴヤの胸像のレプリカがグラナダに到着!

(ホアキナ・エグアラス大通りに置かれたレプリカ)
★第39回ゴヤ賞授賞式まで1ヵ月となった1月8日、グラナダの町に巨大なゴヤの胸像のレプリカ8個が到着した。レプリカの一つはホアキナ・エグアラス大通りに面したアンダルシア評議会州政府地方支所前に設置された。その他、観光名所のサン・ニコラス展望台、ヌエバ広場、グロリエタ・デ・アラビア、パセオ・デル・ビオロンなどに設置されたようです。また、巨大ゴヤ像に呼応して、同日「La Emoción de los Goya」のタイトルのもと、ゴヤ賞38年史を祝って過去38年間のゴヤ賞ガラのエモーショナルなフォト38枚が、グラナダのカレラ・デ・ラ・ビルヘン通りに展示された(ガラの終了する2月9日まで)。写真家はアルベルト・オルテガ、カルロス・アルバレス、エンリケ・シドンチャなど10名が手掛けた。グラナダ市民や訪問客が楽しめるようにということですが、巨大ゴヤ胸像にはびっくりです。

(ホセ・コロナドが『悪人に平穏なし』でゴヤ賞2012主演男優賞を受賞したときのフォト)
★新年3日には、ガラの総合司会を務めるマリベル・ベルドゥとレオノル・ワトリングがゴヤ賞宣伝に現地を訪れ、『テルマ&ルイーズ』よろしく、グラナダの文化遺産のスポットをオープンカーで走り回った。またホセ・コロナドの特別コラボレーションもアナウンスされた。コロナドのフォトが先頭を飾った理由が分かりました。

(どちらがテルマで、どちらがルイーズでしょうか)

(マリベル・ベルドゥとレオノル・ワトリング)
★1月14日には、ノミネート者を招いて行われる恒例の簡単な前夜祭が開催された。作品賞にノミネートされた監督5名、ダニ・デ・ラ・オルデン、マルセル・バレナ、ハビエル・マシぺ、アランチャ・エチェバリア、イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスも参加した。以下に小さくて分かりにくいですが、各チームのフォトをアップしておきます。写真家は上記のアルベルト・オルテガです。

(マルセル・バレナの「El 47」のチーム)

(イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスの「Segundo premio」のチーム)

(アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」のチーム)

(ダニ・デ・ラ・オルデンの「Casa en flames」のチーム)

(ハビエル・マシぺの「La estrella azul」のチーム)
第17回ガウディ賞2025結果発表*作品賞は「El 47」と「Polvo seran」 ― 2025年01月21日 19:14
予想通りマルセル・バレナの「El 47」が7冠を制す

★1月19日、バルセロナ国際会議センターで第17回ガウディ賞2025の結果発表がありました。予想通りというか下馬評通りというか、カタルーニャ語部門はマルセル・バレナの「El 47」でした。カタルーニャ語以外では、カルロス・マルケス=マルセのミュージカル・ドラマ「Polvo serán / They Will Be Dust」、新作はスペイン語で撮りましたが、彼はバルセロナ生れのカタルーニャ語の監督です。両カテゴリーともバルセロナ派が受賞したことになった。ガウディ賞の選考母体はカタルーニャ映画アカデミーですから、当然の結果とも言えます。
★「El 47」は、作品賞のほか主演男優・助演女優・プロダクション・衣装デザイン・視覚効果・メイクアップ&ヘアーの7冠、観客特別賞を含めると8冠でした。主演男優賞のエドゥアルド・フェルナンデスは、フォルケ賞をアイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの「Marco」で受賞しています。同じ年に主演と助演にノミネートされることはありますが、2作品で主演受賞は記憶にありません。助演女優賞のクララ・セグラは、昨年エレナ・マルティンの「Creatura」で受賞したばかりでした。今回は出席できず彼女の娘を演じたゾエ・ボナフォンテが代理でトロフィーを受け取りました。

(両手にトロフィーを手にしたマルセル・バレナ監督)
★「Polvo serán / They Will Be Dust」は、脚本はカルロス・マルケス=マルセ監督とクララ・ロケ(『リベルタード』)、コラル・クルス(『エクリプス』)の共同執筆、アンヘラ・モリーナ、スペインに移住したアルゼンチンのアルフレッド・カストロを主演に、人生の終末を描いた重いテーマをミュージカル・ドラマにした作品。トロント映画祭2024プラットフォーム賞、第69回バジャドリード映画祭銀の穂賞、ローマ映画祭ではアンヘラ・モリーナが女優賞を受賞している。作品賞以下、美術・編集・オリジナル音楽賞の4冠でした。

(カルロス・マルケス=マルセ監督)
★「Segundo premio」は、イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスが監督賞、バダホス出身の日系人タクロウ・タケウチTakuro Takeuchiが撮影賞、他に録音賞の3冠を受賞した。
★「Casa en flames」(監督ダニ・デ・ラ・オルデン)は、エンマ・ビララサウの主演女優賞、エンリク・アウケルの助演男優賞、エドゥアルド・ソラのオリジナル脚本賞の3冠でした。今回は未だガラのビデオを観てないのですが、アンダルシアからの移住者である「チャルネゴ charnego」のエドゥアルド・ソラの受賞スピーチが会場を沸かせたようです。チャルネゴというのはスペイン国内の非カタルーニャ語圏から移住した人を指す単語、彼の家族は全員カタルーニャ語が話せず、移住者に手を差し伸べてくれた公共教育のお蔭で今日があると感謝のスピーチをして、会場から拍手喝采を受けたようです。脚本家の受賞スピーチが話題になるのは珍しい。
*第17回ガウディ賞2025結果発表*
◎作品賞(カタルーニャ語部門)
「El 47」(監督マルセル・バレナ、製作者ラウラ・フェルナンデス・エスペソ、
ハビエル・メンデス)

(マルセル・バレナ監督)

◎作品賞(非カタルーニャ語部門)
「Polvo serán / They Will Be Dust」(監督カルロス・マルケス=マルセ、
製作者トノ・フォルゲラ、アリアドナ・ドット、ジョバンニ・ポンピリ、ダビ・エピネイ、他)

(カルロス・マルケス=マルセ監督)

(アンヘラ・モリーナはエンマ・ビララサウに敗れました)
◎監督賞
イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス(「Segundo premio」)

(登壇したのはポル・ロドリゲス)
◎新人監督賞
セリア・ヒラルド(「Un lugar Común」)

◎主演女優賞
エンマ・ビララサウ(「Casa en flames」)

◎主演男優賞
エドゥアルド・フェルナンデス(「El 47」)

◎助演女優賞
クララ・セグラ(「El 47」)

(受賞者欠席のため代理でトロフィーを受け取ったゾエ・ボナフォンテ)
◎助演男優賞
エンリク・アウケル(「Casa en flames」)

◎新人俳優賞
ラウラ・ヴァイスマールWeissmahr(「Salve Maria」監督マル・コル)

◎オリジナル脚本賞
エドゥアルド・ソラ(「Casa en flames」)

(カタルーニャの手厚い公共教育に感謝の辞を述べた受賞者)
◎脚色賞
マル・コル&バレンティナ・ビソ(「Salve Maria」)

(受賞スピーチをするバレンティナ・ビソ)

(右が監督・脚本家のマル・コル)
◎編集賞
キアラ・ダイネゼ(「Polvo serán」)

◎オリジナル音楽賞
マリア・アルナル(「Polvo serán」)

◎撮影賞
タクロウ・タケウチ(「Segundo premio」)

◎プロダクション賞
カルロス・アポリナリオ「El 47」

◎美術賞
ライア・アテカ(「Polvo serán」)

◎衣装デザイン賞
オルガ・ロダル&イランツェ・オルティス(「El 47」)

(左オルガ・ロダル、イランツェ・オルテス)
◎メイクアップ&ヘアー賞
カロル・トルナリア(「El 47」)

◎録音賞
ディアナ・サグリスタ、アレハンドロ・カスティーリョ、アントニン・ダルマッソ、
エバ・バリニョ(「Segundo premio」)

(3人で登壇したが入手できたディアナ・サグリスタのフォト)

(エバ・バリニョ、アレハンドロ・カスティーリョ、ディアナ・サグリスタ)
◎視覚効果賞
ラウラ・カナルス&イバン・ロペス・エルナンデス(「El 47」)
◎ドキュメンタリー賞
「Diari de la meva sextorsió」(監督・脚本パトリシア・フランケサ、製作パトリシア・フランケサ、ミレイア・グラエル・ビバンコス)

◎アニメーション賞
「Mariposas negras」(監督ダビ・バウテ、製作エドモン・ロッチ、他多数)

◎短編映画賞
「El príncep」(監督・脚本アレックス・サルダ、
製作カルロタ・コロモ、アドリア・ラウエルタ、マルタ・クルアニャス、ハビ・バラ)

(左側がアレックス・サルダ)
◎ヨーロッパ映画賞
『落下の解剖学』フランス、2023年(監督ジュステーヌ・トリエ、脚本アルチュール・アラリ&トリエ監督、製作マリー・アンジュ・ルシアーニ&ダビド・ティオン)

(受賞者欠席のため映画 WebサイトFilminの創設者ジャウマ・リポルが代理で受け取った)
◎観客特別賞
「El 47」(マルセル・バレナ)

(モデルになったマノロ・ビダルの孫娘ジョアナ・ビダルも登壇した)
★以上です。ざっと見渡すと受賞作にはゴヤ賞にもノミネートされているカテゴリーが多そうですが、果たしてどのくらい重なるでしょうか。
★今回主要メンバーで参加しましたが無冠に終った、ピラール・パロメロの「Los destellos」のチームは、ゴヤ賞でも5カテゴリーにノミネートされています。脚色賞のパロメロ、主演女優賞のパトリシア・ロペス・アルナイス、助演男優賞のアントニオ・デ・ラ・トーレ、新人女優賞のマリナ・ゲロラなどです。

(ロペス・アルナイス、監督、デ・ラ・トーレ、製作者のバレリー・デルピエール)
アランチャ・エチェバリア監督紹介*ゴヤ賞2025 ⑧ ― 2025年01月25日 15:43
「La infiltrada」で初の監督賞ノミネート――アランチャ・エチェバリア

(アランチャ・エチェバリア監督)
★アランチャ・エチェバリア(ビルバオ1968)、監督、脚本家、製作者。マドリードのコンプルテンセ大学で映像科学を専攻、同大学のCMAでオーディオビジュアル制作を学んだ。その後オーストラリアのシドニー・コミュニティ・カレッジで映画製作を学んでいる。1991年、映画と広告宣伝を両立させ、オーディオビジュアル業界でのキャリアを築いてきた。2010年、アマチュアだけを起用して撮った「Panchito」でテレマドリード賞を受賞、つづく「Cuestión de pelotas」は、スポーツの才能がありながら清掃員として雇用される女子サッカー選手に関するドキュメンタリー、これにより王立サッカー連盟は女性たちの雇用の正規化を余儀なくされた。

(主演の二人、『カルメン&ロラ』から)
★2013年、サイコスリラー「De noche y de pronto」(20分、主演ハビエル・ゴディノ)が翌年のゴヤ賞短編映画部門にノミネート、モリンズ映画祭審査員賞、ロスのイーテリア・フィルム・ナイト・フェスティバルで短編賞を受賞した。コメディ「Yo, presidenta」には、プロの俳優(チュス・ランプレアベ、ビト・サンス、サブリナ・プラガ、タバタ・セレソなど)を起用した。「El último bus」では、タバタ・セレソやハビエル・ゴディノを再び起用したホラーを撮った。エチェバリアの短編作家としてのキャリアは長く、専門家の評価は高い。そして2018年、カンヌ映画祭併催の「監督週間」に正式出品された『カルメン&ロラ』で50歳にしてゴヤ賞2019新人監督賞を受賞した。その他、例年3月に開催される「メディナ・デル・カンポ映画週間」は21世紀の監督Roel賞を授与、グアダラハラFF、トゥールーズFF、パームスプリングスFF、バジャドリードFFで授与式がある女性監督に贈られるドゥニア・アヤソ賞など受賞歴多数。
*『カルメン&ロラ』の作品紹介は、コチラ⇒2018年05月13日

(ゴヤ胸像を手にしたアランチャ・エチェバリア、ゴヤ賞2019ガラ)

(21世紀の監督Roel賞のトロフィーを手に、メディア・デル・カンポ映画週間2019ガラ)
★長編2作目「La familia perfecta」(脚本オラッツ・アロヨ)は、裕福な家族(ベレン・ルエダとゴンサロ・デ・カストロ夫婦)と労働者階級(ホセ・コロナドとペパ・アニオルテの夫婦)の子供たちが結婚したことで衝突するコメディ。カロリナ・ジュステがコロナドの娘役で出演している。階級格差の設定がいささかステレオタイプ的、不要と思われる登場人物の多さが損をしている。コメディの110分は長すぎて疲れます。Netflixで配信されていますが日本語字幕はなく、西語、英語、独語他で鑑賞できます。コロナド・ファンならお奨めかもしれない。

★3作目「Chinas」は、マドリードの中国人コミュニティのウセラ地区が舞台、中国の他ラテンアメリカやアジア、アフリカからの移民が多いバリオである。今回監督は脚本も手掛けている。ここで二つの家族、一つは中国移民の4人家族、9歳のルシアとティーンエージャーのクラウディアと両親、もう一つがレオノール・ワトリングとパブロ・モリネロの夫婦が養女にした中国生れの9歳のシャンの家族。9歳の二人の少女が学校で出合うことでドラマが始まる。監督は中国出身の3人の少女のアイデンティティを探求している。ゴヤ賞2024、新人男優賞(フリオ・フー・チェンJulio Hu Chen)、新人女優賞(Xinyi Ye、Yeju Ji)、オリジナル歌曲賞(マリナ・エルロップ)がノミネートされた。俳優賞ノミネートの3人は、スペイン俳優組合賞をそれぞれ受賞している。その他ディアス・デ・シネ賞の観客賞受賞作品。

★4作目「Polítecamente incorrectos」は、再びオラッツ・アロヨの脚本による政治風刺コメディ、次の総選挙で左派と保守派の2大政党が対決する。出演者アドリアナ・トレベハノは左派政党を応援、フアンル・ゴンサレスは保守派を応援している。二人は政治信条は異なるが惹かれあっているという設定。エレナ・イルレタ、ゴンサロ・デ・カストロが脇を固めて概ね演技は評価されたものの全体としては評価は低かった。それぞれ政治家にはモデルがいるようです。

★長編5作目「La infiltrada」でゴヤ賞2025の作品賞、監督賞、脚本賞を含む13カテゴリーにノミネートされた。『カルメン&ロラ』で新人監督賞を受賞しているが、監督賞ノミネートは初めてです。体重オーバーで健康が心配ですが、ダイエットは難しそうです。以下に主なフィルモグラフィーをアップしておきます。
*「La infiltrada」の作品紹介は、コチラ⇒2025年01月15日
◎主なフィルモグラフィー(アンソロジー、TVシリーズは除く)
2010「Panchito」短編、テレマドリード賞受賞
2010「Cuestión de pelotas」ドキュメンタリー
2012「Don Enrique de Guzmán」短編
2013「De noche y de pronto」短編、ゴヤ賞2014短編映画賞ノミネート
2015「Yo, presidenta」短編(19分)、メディナ・デル・カンポ映画週間でプロジェクト賞受賞
2015「El solista se la orquesta」短編ドキュメンタリー
2016「El último bus」短編(17分)短編ホラー
2017「7 from Etheria」(女性監督7人のアンソロジー)
2018「#SHE」
2018「Carmen y Lola」『カルメン&ロラ』長編デビュー、ゴヤ賞2019新人監督賞受賞
2021「La familia perfecta」『The Perfect Family』コメディ、長編2作目、
Netflix(日本語字幕なし)
2023「Chinas」長編3作目
2024「Polítecamente incorrectos」長編4作目
2024「La infiltrada」長編5作目
カルラ・ソフィア・ガスコンとフェルナンダ・トーレス*アカデミー賞2025 ― 2025年01月28日 17:11
主演女優賞にカルラ・ソフィア・ガスコンとフェルナンダ・トーレスがノミネート

(ゴールデングローブ賞作品賞のトロフィーを手にしたカルラ・ソフィア・ガスコン)
★1月23日、第97回アカデミー賞2025のノミネート発表がありました(授賞式は3月2日、日本は翌日午前中)。山火事がロス全体に広がったため発表が遅れていましたが、ガラは予定通り開催の予定です。作品賞だけ10作、他のカテゴリーは5作品です。作品賞に当ブログ紹介のジャック・オーディアールの「Emilia Pérez」(フランス、スペイン語、『エミリア・ぺレス』3月28日公開)と、ウォルター・サレス「Ainda estou aqui / Aún estoy aquí」(ブラジル、ポルトガル語、『アイム・スティル・ヒア』2025年公開予定)の2作が踏みとどまりました。2作とも国際映画賞部門にもノミネートされています。なかでも前者は12部門(13個)と最多ノミネートになりました。ノミネート数で決まるわけではありませんが1つか2つ取りたいところです。
*『エミリア・ぺレス』の作品&キャスト紹介は、コチラ⇒2024年06月04日

(監督とキャスト陣、ゴールデングローブ賞2025ガラ)
★予想では、作品賞はショーン・ベイカーの『アノーラ』が頭一つ抜けでているようですが、本命不在の年だそうです。テレビ視聴率は期待できないかもしれない。『エミリア・ぺレス』は、先だって1月5日開催されたゴールデングローブ賞の映画部門(コメディ&ミュージカル)で作品賞・非英語作品賞・助演女優賞・歌曲賞を受賞しています。カルラ・ソフィア・ガスコンも主演女優賞にノミネートされていましたが、『サブスタンス』のデミ・ムーアが受賞、カルラと共演したゾーイ・サルダナが助演女優賞を受賞して涙のスピーチをしました。満場一致の高評価で彼女のアカデミー賞受賞は期待できそうです。

(オスカー像も夢ではないゾーイ・サルダナ、ゴールデングローブ賞2025ガラ)
★主演女優賞は、『アノーラ』のマイキー・マディソンが有力で、カルラも『アイム・スティル・ヒア』のフェルナンダ・トーレスも涙を飲む確立が高そうです。仮にカルラが受賞すると、スペイン人ではウディ・アレンの『それでも恋するバルセロナ』(08)で受賞したペネロペ・クルス以来となります。1972年マドリード生れ、国籍はスペインですが2009年メキシコに転居、2018年に女性への性別転換手術を受けたトランスジェンダー、仏教徒の由、ゴールデングローブ賞にも黄色の袈裟風のドレスで登壇しました。『エミリア・ぺレス』は、国際映画賞、助演女優賞、歌曲賞(「エル・マル」歌手ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、「ミ・カミーノ」歌手セレナ・ゴメス)などが有力視されています。異色ミュージカルとして話題になっていますが、評価は賛否両論、舞台となったメキシコでは麻薬マフィアやトランスジェンダーの描き方にブーイングと評判は良くない。しかし投票権があるのはアカデミー会員(現在9905人、うち20%以上が海外の有権者)でメキシコの視聴者ではないから分かりません。
二人のフェルナンダ、母モンテネグロ、娘トーレス

★ウォルター・サレスの1970年代の軍事独裁政権時代を舞台にした政治ドラマ『アイム・スティル・ヒア』は、作品賞、国際映画賞、主演女優賞の3カテゴリーにノミネートされています。カルラ・ソフィア・ガスコンと同じく受賞は厳しいと思います。フェルナンダ・トーレス(リオデジャネイロ1965)は、ゴールデングローブ賞の映画部門(ドラマ)で主演女優賞を受賞しました。ニコール・キッドマン、アンジェリーナ・ジョリー、ティルダ・スウィントンなどをおさえての受賞でした。ゴールデングローブ賞受賞が火付け役になってノミネートされたようですが、今後のプロモーション次第で混戦模様になりそうです。ジーナ・ローランズ級の演技力と絶賛されています。
*『アイム・スティル・ヒア』の紹介記事は、コチラ⇒2024年09月06日

(トロフィーを手にしたフェルナンダ・トーレス、ゴールデングローブ賞2025ガラ)
★受賞スピーチで「このトロフィーを母に捧げたいと思います。皆さまご存じないでしょうが、私の母は25年前、この同じ場所にいたのです」と。母親とはフェルナンダ・モンテネグロのこと、本作でも二人は共演しています。1999年、ウォルター・サレスの『セントラル・ステーション』(98)でブラジル人初の主演女優賞ノミネートでした。アカデミー賞にもノミネートされたほか、ベルリン映画祭、バフタ賞、ハバナ映画祭など国内外の国際映画祭での受賞歴多数。サレス監督にとっても国際舞台へ躍りでるきっかけになった映画でした。
★100年近いアカデミー賞の歴史でも、母娘揃って主演女優賞にノミネートされたのは2組だけ、ジュディ・ガーランド(『スタア誕生』)とライザ・ミネリ(『キャバレー』受賞)親子、2組めがこの「二人のフェルナンダ」です。母娘揃ってガラに姿を現すでしょうか。モンテネグロは1929年生れだから95歳になる。

(二人のフェルナンダ、モンテネグロが女優賞を受賞したベルリン1998ガラ)
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