ジュリエット・ビノシュにドノスティア栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2022 ⑯ ― 2022年09月17日 17:19
ジュリエット・ビノシュにドノスティア栄誉賞
(第70回の公式ポスターの顔でもある受賞者ジュリエット・ビノシュ)
★9月16日20時30分(現地時間)、第70回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2022が開幕しました。それは次回にまわすとして、今年のドノスティア栄誉賞は二人、フランスの女優ジュリエット・ビノシュとカナダの映画監督デヴィッド・クローネンバーグ、ビノシュはクローネンバーグの『コズモポリス』に出演している。本作はカンヌ映画祭2012コンペティション部門でプレミアされた。第70回の公式ポスターの顔でもある女優からアップします。短編、TVシリーズ出演を除いても70作以上に出演しているが、幸いフランス映画やハリウッド映画のこともあり、公開、映画祭上映、DVDなどで約80パーセントは字幕入りで観ることができているようです。授与式はメイン会場のクルサールが予定されています。
★ジュリエット・ビノシュ、1964年パリ生れの58歳、演技はコンセルヴァトワールで学んでいる。パスカル・カネの「Liberty Belle」(リバティ・ベル83)の小さな役で映画デビューした。先日スイスで自死同然の自殺幇助で鬼籍入りしたゴダールの『ゴダールのマリア』(85)やSSIFFのセクション・オフィシアルにノミネートされたジャック・ドワイヨンの『家族生活』に出演している。アンドレ・テシネの『ランデヴー』(85)で初めてセザール賞主演女優賞にノミネートされ、後に『溺れゆく女』(98)にも出演している。レオス・カラックスとの最初の作品『汚れた血』(86)、続いて『ポンヌフの恋人』(91)、後者でヨーロッパ映画賞女優賞を受賞、両作ともセザール賞主演女優賞にノミネートされた。彼とは一時期交際していた。他にルイ・マルの『ダメージ』(92)をあげておきたい。
(レオス・カラックス監督の『ポンヌフの恋人』ポスター)
★最初こそ国内映画出演でしたが、フィリップ・カウフマンの『存在の耐えられない軽さ』(88)やピーター・コスミンスキーの『嵐が丘』(92)など英語での文芸作品に主演した。しかし、彼女の存在を国際舞台に押し上げたのは『イングリッシュ・ペイシェント』(96)でした。アカデミー助演女優賞、ベルリン映画祭銀熊女優賞、英国アカデミー賞BAFTA助演女優賞、ヨーロッパ映画女優賞ほか、国際映画祭の受賞を攫った映画でした。主演女優のクリスティン・スコット・トーマスの印象を薄めてしまった。アンソニー・ミンゲラもアカデミー監督賞を受賞、作品賞をはじめ最多9部門を制覇したヒット作でした。英語圏の大物俳優、ダニエル・デイー=ルイス、レイフ・ファインズ、ジェレミー・アイアンズとの共演でした。
(ミンゲラの『イングリッシュ・ペイシェント』でオスカー像を手にしたビノシュ)
★クシシュトフ・キェシロフスキの「トリコロール三部作」の『トリコロール/青の愛』(94)では、ベネチア映画祭女優賞(ヴォルピ杯)、セザール主演女優賞を受賞、ゴールデン・グローブ賞にもノミネートされた。本作はSSIFFのサバルテギ部門で上映されている。SSIFF 1995にジャン=ポール・ラプノーの『プロヴァンスの恋』(95)がアウト・オブ・コンペティションだがクロージング作品に選ばれている。シャンタル・アケルマンの『カウチ・イン・ニューヨーク』(96)、パトリス・ルコントの『サン・ピエールの生命』(99)でダニエル・オートゥイユと、ラッセ・ハルストレムの『ショコラ』(00)でジョニー・デップと、ジョン・ブアマンの『イン・マイ・カントリー』(04)でサミュエル・L・ジャクソンと、ミヒャエル・ハネケの『コード・アンノウン』(00)や『隠された記憶』(05)も落とせないでしょう。
(キェシロフスキの『トリコロール/青の愛』ポスター)
★サンセバスティアン入りは今回で4回目になるようですが、最初は2002年、ダニエル・トンプソンのラブ・コメディ『シェフと素顔と、おいしい時間』で、アウト・オブ・コンペティション部門、ジャン・レノやセルジ・ロペスが共演した。アベル・フェラーラのサスペンス『マリー』(05、DVD)はペルラス部門にエントリーされた。異色なのはアジアの監督とのコラボ、例えば台湾の監督ホウ・シャオシエンの『レッド・バルーン』(07)やイスラエルのアモス・ギタイの『撤退』(07)、そしてイランのアッバス・キアロスタミの『トスカーナの贋作』(10)では観客をアッと言わせ、カンヌFFの女優賞を受賞した。またチリ鉱山の落盤事故に基づいたパトリシア・リケンの『チリ33人、希望の軌跡』(15)では、アントニオ・バンデラスと共演、世界を飛び回っている。脇役だがハリウッドのスーパープロダクション製作のギャレス・エドワーズの『GODZILLA ゴジラ』(14)、士郎正宗の漫画を原作としたルパート・サンダースのSFアクション『ゴースト・イン・ザ・シェル』(17)に出演、主役はスカーレット・ヨハンソンでしたが、ビートたけし、桃井かおりなど日本の俳優も共演した。
(キアロスタミの『トスカーナの贋作』フレームから)
★オリヴィエ・アサイヤスの『夏時間のパリ』(08、ペルラス部門)、『アクトレス 女たちの舞台』(14)、『冬時間のパリ』(18)と立て続けに主演した。ブリュノ・デュモンの彫刻家カミーユ・クローデルのビオピック『カミーユ・クローデル』(13 WOWOW)、イサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」(15)と、SFを含めたラブコメからシリアスドラマまで、列挙した作品のほとんどが主演で、そのバイタリティには驚嘆するばかりである。コイシェ監督が「ぶっ飛んだ女優」と賞賛したのもむべなるかなです。
★2回目のサンセバスティアン入りは2018年、河瀨直美の『Vision ビジョン』とクレール・ドゥニの『ハイ・ライフ』の2作品がコンペティション部門にノミネートされたからでした。ドゥニ監督は初めて英語映画に挑戦したSF ミステリーてFIPRESCI 賞を受賞した。ビノシュはドゥニ監督とは前年「Un beau soleil intérieur」でコラボしていた。つい最近のベルリンFF 2022のコンペティション部門に出品され銀熊監督賞を受賞した「Avec amour et acharnement」(英題Both Sides of the Blade)にも主演、女一人と男二人の三角関係の由、共演者はバンサン・ランドンとグレゴワール・コラン。SSIFFでもドノスティア賞作品として上映され、ドゥニ監督も17日に現地入りの予定です。
(「Avec amour el acharnement」のフレームから)
(最近のジュリエット・ビノシュ、第72回ベルリン映画祭2022、2月12日)
★3回目は2019年、是枝裕和の『真実』で監督も現地入りした(フォト下)。是枝さんて「こんな面白い映画撮るんだ」と驚いた作品でした。サフィー・ネブーの『私の知らないわたしの素顔』(19)、エマニュエル・カレールの『ウイストルアム―二つの世界の狭間で』(21)は、ペルラス部門のヨーロッパ映画ドノスティア市観客賞を受賞した。今年が4回目になるが、栄誉賞のほかクリストフ・オノレが金貝賞を競う「Le lyceen」に出演している。
(レッド・カーペットに現れた是枝監督とビノシュ、第67回SSIFF2019、9月22日)
*イサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」の作品紹介は、コチラ⇒2015年03月01日
*クリストフ・オノレの「Le lyceen」作品紹介は、コチラ⇒2022年08月06日
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