フアン・ディエゴ・ボット監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2022 ⑫2022年09月03日 17:18

         監督デビュー作「En los Márgenes」はスリラードラマ

 

        

 

★俳優フアン・ディエゴ・ボットのキャリアは、子役を含めると70作にもなるから、紹介は代表作、サンセバスチャン映画祭関連、ゴヤ賞など目ぼしい受賞作品に絞らざるをえないが、先ずはペネロペ・クルスとタッグを組んだデビュー作の紹介から。今年の映画国民賞受賞者ペネロペ・クルスの授与式は、本祭期間中に行われるのが恒例ですから、多分ツーショットが見られるでしょう。今回は製作者を兼ねているから、その意気込みも半端ではないようです。脚本を共同執筆したオルガ・ロドリゲスは、10年間の交際期間を経て2017年に結婚、2009年に娘が誕生していた。制作会社 Morena Films のベテラン製作者アルバロ・ロンゴリアは、ペネロペ・クルスとルイス・トサールが主演したフリオ・メデムの『あなたのママになるために』で製作者としてデビューした。ほかにアスガー・ファルハディの『誰もがそれを知っている』も手掛けています。音楽のエドゥアルド・クルス・サンチェスはペネロペ・クルスの実弟、ヌル・アル・レビは監督の実妹という具合に繋がっています。

    

       

 

En los Márgenes / On the Fringe

製作:Morena Films / Amazon Prime Video / Crea SGR / RTVE / TeleMadrid / Head Gear Films 他

監督:フアン・ディエゴ・ボット

脚本:フアン・ディエゴ・ボット、オルガ・ロドリゲス

撮影:アルナウ・バルス・コロメル

音楽:エドゥアルド・クルス

編集:マパ・パストール

キャスティング:アナ・サインス=トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ

美術:マリア・クララ・ノタリ

セットデコレーション:ビセンテ・ディアス

衣装デザイン:ワンダ・モラレス

メイクアップ:パブロ・イグレシア、マヌエラ・メリノ

プロダクション・マネージメント:エレナ・アルコレア、ジョセップ・アモロス、アレックス・ミヤタ、アントネーリョ・ノベリャーノ

製作者:アルバロ・ロンゴリア、ペネロペ・クルス、(エグゼクティブ)ステファン・ケリハーStephen Kelliher、ヤナ・ゲオルギエワYana Georgieva、ソフィー・グリーン、コンプトン・ロス、他共同製作者多数

 

データ:製作国スペイン=ベルギー、2022年、スペイン語、スリラードラマ、105分、配給プライムビデオ、スペイン公開2022107

映画祭・受賞歴:第75回ベネチア映画祭2022「オリゾンティ」部門正式出品、第70回サンセバスチャン映画祭2022「ペルラス」部門正式出品

   

キャスト:ペネロペ・クルス(アスセナ)、ルイス・トサール(ラファエル)、フアン・ディエゴ・ボット、マリア・イサベル・ディアス・ラゴ、アデルファ・カルボ、ヌル・アル・レビ、アシャ・ビリャグラン、クリスティアン・チェカ、ハビエル・ペルディゲロ(ヘスス)、セルヒオ・ビリャヌエバ、フェブリス・ブティック(バルのオーナー)、フォント・ガルシア、イレネ・ブエノ・ロヨ、ほか

  

ストーリー:家族、愛、孤独についての映画。複雑に絡みあった三つのストーリーを交錯させながら、人生の流れを永遠に変えてしまう可能性のある重要な24時間を脱して生き残ろうとする3人の登場人物のカウントダウンが描かれる。経済的なストレスが人間関係に与える影響と、愛情と連帯を原動力として前に進むタイムトライアル・スリラー。大都会の片隅に暮らす人々のエモーショナルな旅。

 

       

    

 

フアン・ディエゴ・ボット監督紹介1975年ブエノスアイレス生れ、俳優、舞台演出家、今回長編映画監督としてデビューした。ディエゴ・フェルナンド・ボットとクリスティナ・ロタの長男、アルゼンチン系スペイン人、両親姉妹とも俳優という俳優一家。マリア・ボット(ブエノスアイレス1974)、ヌル・アル・レビ(マドリード1979)、従兄アレハンドロ・ボット(ブエノスアイレス1974)も俳優。19773月、父親はビデラ軍事独裁政権によってデサパレシード、いわゆる犠牲者3万とも言われる行方不明者の一人となった。1978年、2歳になったとき、母親は新しいパートナーとの間に妊娠が分かり、二人の子供を連れてスペイン移住を決意する。翌年、妹ヌル・アル・レビが生まれた。家族はアルゼンチンとスペインの二重国籍をもっている。2021年、演劇国民賞を受賞している。現在はマドリード在住。

 

      

 

★母クリスティナ・ロタがマドリードで設立した俳優養成学校で演技を学ぶ。この学校の同窓生には、ペネロペ・クルス、アントニオ・デ・ラ・トーレ、マルタ・エトゥラ、ラウル・アレバロなど演技派を輩出している。俳優デビューは8歳、1992年アメリカ大陸到達500年を記念して製作された、リドリー・スコットの『1492:コロンブス』でコロンブスの息子ディエゴに扮した。しかし国際舞台への第一歩はモンチョ・アルメンダリスの「Historias del Kronen」(95)主演であった。カンヌFFのコンペティション部門に正式出品されたあと、本祭のメイド・イン・スペイン部門で上映され、翌年のゴヤ新人男優賞にノミネートされた。アルメンダリスの「Obaba」(05)にも起用された。

 

          

              (フアン・ディエゴ・ボット、「Historias del Kronen」から)

 

★他にサンセバスチャンFF関連では、セクション・オフィシアルにアドルフォ・アリスタラインの「MartinHache」(97)、「Roma」(『ローマ』04)、イマノル・ウリベの「Plenilunio」(99、ゴヤ賞2001主演男優賞ノミネート)、ビクトル・ガルシア・レオンの「Vete de mí」(06、ゴヤ賞2007助演男優賞ノミネート)、ペルラス部門には、ジョン・マルコヴィッチの監督デビュー作「Pasos de baile / The Dancer Upstairs」(02、『ダンス・オブ・テロリスト』)ではハビエル・バルデム扮する警部補の部下役で共演、ホアキン・オリストレルの「Los abajo firmantes」(03)はサバルテギ部門で特別上映されている。2011年にはホライズンズ・ラティノ部門の審査員を努めている。ゴヤ賞は上記を含めて5回ノミネートされているが、まだ受賞はない。以前アップしたビクトル・ガルシア・レオンの「Los Europeos」(20)では、フェロス賞2021助演男優賞を受賞したが、フォルケ賞もゴヤ賞もノミネートで終わっている。

 

★今回の「En los Márgenes」が長編デビュー作、短編ではメイド・イン・スペイン部門で上映された、ベテラン&新人総出演の感があるスペイン監督のアンソロジー「¡ Hay motivo !」(0432話)に Doble moral で参加している。これは当時の国民党党首ホセ・マリア・アスナル首相批判がテーマ、2003年のイラク侵攻、移民問題、住宅価格の高騰、メディア操作などテーマはいろいろです。他にアルバロ・ロンゴリアがプロデュースした、5人の監督が1話ずつ手掛けるアンソロジー、TVミニシリーズ「Relatos con-fin-a-dos」(2020分)があり、彼は第5Gourmet で参加、脚本も執筆した。ルイス・トサール、警官役で妹のヌル・アル・レビが出演している。コロナウイルスのパンデミックで混乱に陥った人々を扱ったコメディ、ロマンス、スリラーなど。プライムビデオで配信された。

 

キャスト紹介:主役のペネロペ・クルスルイス・トサール(ルゴ1971)は、当ブログでは常連なので割愛しますが、両人が揃って主演した『あなたのママになるために』、トサールが主演したダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』ほか、主なキャリア&フィルモグラフィー紹介は以下の通りです。

ペネロペ・クルスの紹介は、コチラ20220625

ルイス・トサールの紹介は、コチラ20160703

『エル・ニーニョ』の紹介記事は、コチラ20140920

『あなたのママになるために』の作品紹介は、コチラ20150904

 

   

                       (映画国民賞2022を受賞するペネロペ・クルス

   

         

       (『プリズン211』でゴヤ賞2010主演男優賞を受賞したトサール)


サンティアゴ・ミトレの「アルゼンチン1985」*サンセバスチャン映画祭2022 ⑫2022年09月06日 14:13

          再びタッグを組むサンティアゴ・ミトレとリカルド・ダリン

 

   

 

★ペルラス部門上映のサンティアゴ・ミトレの「Argentina, 1985」は、既にベネチア映画祭コンペティション部門でワールドプレミアされ、口コミのお蔭もあってか好発進したようです。本作の主役は、2017年ラテンアメリカ初のドノスティア栄誉賞受賞者のリカルド・ダリンです。今年のペルラス部門は長尺映画が多く、本作も2時間を超える。アマゾンプライムビデオ配給のニュースに驚愕したが、どうやら採算は充分取れそうです。というのも本作は1976年の軍事クーデタ勃発から1983年の終結までのあいだに、推定30,000人とも称される民間人が誘拐殺害された、いわゆる汚い戦争を背景にしているからです。CIAの指導のもとに吹き荒れた南米の軍事独裁時代の知識が不可欠でしょう。この歴史的政治的背景を監督 & 脚本家並びにフィルム編集者が、政治闘争の縦糸と人間の横糸をどのように織り合わせることができたかが鍵です。長尺140分を長く感じたか、短く感じたが試される。

 

 「Argentina, 1985」アルゼンチン

製作:La Unión de los Ríos / Kenya Films / Infinity Hill

監督:サンティアゴ・ミトレ

脚本:サンティアゴ・ミトレ、マリアノ・リナス(ジナス)

撮影:ハビエル・フリア

編集:アンドレス・ペペ・エストラダ

音楽:ペドロ・オスナ

プロダクション・デザイン:ミカエラ・Saiegh

衣装:モニカ・トスキ Toschi

メイクアップ&ヘアー:(メイクアップ)アンヘラ・ガラシハ、(ヘアー)ディノ・バランツィノBaranzino

製作者:アクセル・クシェヴァツキー(Infinity Hill)、ビクトリア・アロンソ、サンティアゴ・カラバンテ、リカルド・ダリン、チノ・ダリン、サンティアゴ・ミトレ、フェデリコ・ポステルナク、アグスティナ・ランビ=キャンベル(アマゾン幹部)、(エグゼクティブ)シンディ・テパーマン & フィン・グリン(制作会社 Infinity Hill)、ステファニー・ボーシェフBeauchef

 

データ:製作国アルゼンチン=米国、2022年、スペイン語、政治、歴史、法廷ドラマ、140分、撮影地ブエノスアイレス、配給アルゼンチンDigicine、米国プライムビデオ。公開アルゼンチン、ウルグアイ929日、米国930日、プライムビデオのストリーミング配信1021

 

映画祭・受賞歴:第79回ベネチア映画祭2022コンペティション部門ノミネーション(93日上映)、第70回サンセバスチャン映画祭ペルラス部門正式出品

 

キャスト:リカルド・ダリン(フリオ・ストラッセラ)、ピーター・ランサニ(ルイス・モレノ・オカンポ)、ノーマン・ブリスキ(ルソ)、アレハンドラ・フレヒナー(フリオの妻シルビア)、サンティアゴ・アルマス・エステバレナ(フリオの息子ハビエル)、クラウディオ・ダ・パッサノ(作家カルロス・ソミリアナ)、エクトル・ディアス(バシレ)、アレホ・ガルシア・ピントス、カルロス・ポルタルッピ(裁判長)、ブリアン・シチェルSichel(フェデリコ・コラレス)、他多数

 

ストーリー:本作は検察官フリオ・ストラッセラとその同僚ルイス・モレノ・オカンポの実話にインスパイアされて製作された司法ドラマ。1985年、アルゼンチン史でも最も血が流されたという軍事独裁政権の指導者たちを拉致・拷問・殺害による大量殺戮の罪で裁くため大胆にも挑戦した二人の検事の戦略が語られる。民主化とは名ばかり、国民が軍人支配の恐怖に怯えていた1985年、ストラッセラとモレノ・オカンポは、ゴリアテに立ち向かうダビデの闘いのために若く知的な法律捜査官を招集してチームを結成、老獪な首謀者たちを被告席に座らせるべく調査追及に乗り出す。

   

     

           (リカルド・ダリンとピーター・ランサニ、フレームから)

 

サンティアゴ・ミトレ監督紹介:1980年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、製作者。サンセバスチャン映画祭2015で第2作「Paulina」(15、邦題『パウリーナ』)がホライズンズ賞を受賞、新作「Argentina, 1985」で戻ってきました。本作は上記したようにベネチア映画祭コンペティション部門にノミネートされている。単独での長編デビュー作「El estudiante」(11、邦題『エストゥディアンテ』)は政治的寓話、3作目「La Cordillera」(17『サミット』)、4作目「Petite fleur」(22)、5作目が本作。『パウリーナ』で主役を演じたドロレス・フォンシがパートナー。以下に監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。

『パウリーナ』作品紹介は、コチラ20150521

『サミット』作品紹介は、コチラ20170518同年1025

    

     

    (ドロレス・フォンシと監督、ベネチア映画祭2022レッド・カーペット、93日)

 

★本作は、脆弱ながら民主化されたアルゼンチンの司法部門が、1976年から1983年まで続いた軍事独裁政権の3人の大統領を含む9人の軍人を起訴したときに何が起きたかを描いたものです。7年間に推定30,000人と言われる民間人が「行方不明者」となった大量殺害を文民が裁く世紀の裁判でした。その主任検事に選ばれたのがフリオ・ストラッセラ1933~2015)、彼は軍政下では二流の弁護士でした。経験豊かな一流は権力の中枢に繋がっていたため火中の栗を拾いたくなかったからでした。そして副検事に選ばれた、当時法務長官の弁護士であった若いルイス・モレノ・オカンポ1952~)とタッグを組むことになる。この人選に被告も被告側弁護士たちも呵々大笑したのでした。チームは首謀者の軍人9人に絞り、約600人に及んだ警察官を断念して除外することになった。

 

★裁判は1985422日に始まり、5ヵ月間にわたる裁判で839人の証人審問、同年129日に結審、元大統領ホルヘ・ビデラ(陸軍総司令官)、ビデラの腹心エドゥアルド・マセラ(海軍大将)の2人が終身刑と軍の等級剥奪、ビデラの後を継いで短期間大統領だったロベルト・ビオラ(禁固17年)、アルマンド・ランブルスキーニ提督(禁固8年)、オルランド・アゴスティ(陸軍准将、禁固4年半)の3人が有罪判決を受け、3人目の大統領だったレオポルド・ガルティエリ(陸軍総司令官)など残る4人は証拠不十分で無罪となった。がっかりした人が多かったでしょう。

 

★裁判をナンセンスな茶番劇と思っていた被告たちは、直ぐに解放されるだろうと自信をもっていた。民政化とはいえ彼らの影響力はすべての官僚機構に浸透していたからです。彼らが見誤っていたことは、アルゼンチンの未来を求める検事チームの若い情熱とエネルギーでした。チームは徹夜でファイルを読み、証人を求めて地方に飛び、一日中働くことができたからです。


★公開、または映画祭上映になった汚い戦争をテーマにした作品は、オスカー像を初めてアルゼンチンにもたらしたルイス・プエンソの『オフィシャル・ストーリー』(86)、エクトル・オリベラの『ミッドナイトミッシング』(86)、フィト・パエスの『ブエノスアイレスの夜』(01)、トリスタン・バウエルの『火に照らされて』(05)、ダニエル・ブスタマンテの『瞳は静かに』(09)、ディエゴ・レルマンの『隠れた瞳』(10)、またパブロ・トラペロの『エル・クラン』(15)を含めてもいいかもしれない。アルゼンチンの現代史に不慣れな観客のために、少し時代背景を述べておきました。

 

 

      9分間のスタンディング・オベーションに涙で抱き合うダリンとミトレ

 

★アルゼンチンの日刊紙「クラリン」情報によると、キャスト、スタッフ〈全員集合〉で現地に飛んだらしくその意気込みの凄さに呆気にとられています。コンペティション部門とオリゾンティ部門の格の違いを見せつけた印象です。アルゼンチン映画でこれほどプロデューサーの数が多いのも珍しいのだが、アルゼンチンサイドのほとんどが出席している。ベネチアといってもリド島は歩いていけないわけでローマのように簡単ではない。マスク姿は少なくコロナ感染など、どこ吹く風の感ありです。140分以上も座っていたからか上映後のスタンディング・オベーションは9分間、今まで上映されたなかでの最長記録をマーク、ダリンもミトレも涙なみだで抱き合ったと、クラリン記者も舞い上がっています。

    

     

     (リカルド・ダリンとサンティアゴ・ミトレ、プレス会見前のフォトコール)

  

    

    (ベネチアのリド島に乗り込んだ代表団、93日、レッド・カーペット)

 

リカルド・ダリンもパフォーマンス賞のVolpi Cup ヴォルピ杯(男優賞)の候補になったようで、既に受賞したかのような書きぶりでした(発表は910日)。昨年ペネロペ・クルスがスペイン女優としては初めて『パラレル・マザーズ』で受賞しています。良くも悪くもリカルド抜きでは成功できなかったろうというのが、各紙誌の論評でした。理想主義者ですが、ユーモアに富み、皮肉やで心配性な年輩検事ストラッセラに扮します。フアン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』(09)でヨーロッパに紹介され知名度もありますから、あながち夢ではないでしょう。ミトレとタッグを組むのは『サミット』以来の2度目となります。相思相愛の夫人フロレンシア・バスと、今回製作者の一人となっている息子チノ・ダリン、家族揃って現地入りしていました。

   

          

   (ヴォルピ杯候補となったリカルド・ダリン)

      

          

           (フロレンシア、リカルド、チノのリカルド一家)

 

★もう一人の主役ルイス・モレノ・オカンポに扮するピーター・ランサニも「魅力的で好感のもてる演技」と高評価です。トラペロの「El cran」(15、『エル・クラン』)以来、2度目のベネチアFFです。トラペロが銀獅子監督賞を受賞した作品。1980年代の初め、軍事独裁政権時代に裕福だった一家が、民主化移行にともなって失業、悪いのは民主化とばかり誘拐ビジネスに手を染める一家の長男役でした。

 

   

            (モレノ・オカンポ役のピーター・ランサニ)

 

★ストラッセラの妻役アレハンドラ・フレヒナーは、TVシリーズ出演が多いが、イスラエル・アドリアン・カエタノの「El otro hermano」(17、『キリング・ファミリー 殺し合う一家』)や実話に着想を得たマルコス・カルネバレの「Inseparables」(16)が代表作、後者は第73回ベネチアFFに出品されている。

 


       (フリオ・ストラッセラの妻役アレハンドラ・フレヒナー)

 

★セクション・オフィシアルの追加発表に続く審査員の発表(審査委員長はアメリカの女優グレン・クローズ)、メイド・イン・スペイン部門の作品、タイム・テーブルも発表になり慌ただしくなってきました。次回は、メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの「Brado, Falsa crónica de unas cuantas verdades」です。

 

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ新作*サンセバスチャン映画祭2022 ⑬2022年09月08日 15:02

     イニャリトゥの新作Bardo」はノスタルジック・コメディ?

     

 

   

★ペルラス部門最後のご紹介は、メキシコのアレハンドロ・G・イニャリトゥの「Bardo, Falsa crónica de una cuantas verdades」、監督の分身とおぼしきジャーナリストでドキュメンタリー映画作家のシルベリオ・ガボにダニエル・ヒメネス=カチョが扮します。しかしコメディで観客の忍耐力をテストするような174分の長尺なんてあり得ますか? 脚本は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』14)の共同執筆者ニコラス・ジャコボーネ、監督と一緒に翌年のアカデミー賞ほか国際映画祭の授賞式行脚をいたしました。サンティアゴ・ミトレの「Argentina, 1985」同様、第79回ベネチア映画祭コンペティション部門で既にワールド・プレミアされています(91日)。さて、評判はどうだったのでしょうか。

   

   

(グリセルダ・シチリアーニ、イケル・サンチェス・ソラノ、A. G. イニャリトゥ監督、

ダニエル・ヒメネス=カチョ、ヒメナ・ラマドリッド、ベネチア映画祭202291日)

 

 「Bardo, Falsa crónica de una cuantas verdades / Bardo, False Chronicle of a Handful of Truths」メキシコ

製作:Estudios Churubusco Azteca SA / Redrum

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ニコラス・ジャコボーネ(ジャコボーン)

音楽:ブライス・デスナー

撮影:ダリウス・コンジ

編集:モニカ・サラサール

キャスティング:ルイス・ロサーレス

プロダクション・デザイン:エウヘニオ・カバジェロ

衣装:アンナ・テラサス

メイク&ヘアー:タリア・エチェベステ(メイク)、クラウディア・ファンファン(ヘアー)他

製作者:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ステイシー・ペルキー(ペルスキー)、(エグゼクティブ)カルラ・ルナ・カントゥ、(ラインプロデューサー)ヒルダルド・マルティネス、ミシェル・ランヘル、他

 

データ:製作国メキシコ、2022年、スペイン語、コメディ・ドラマ、174分、撮影地メキシコシティ、配給 Netflix2022114日アメリカ限定公開、1216Netflixにて配信開始

映画祭・受賞歴:第79回ベネチア映画祭2022コンペティション部門正式出品(91日上映)、第70回サンセバスチャン映画祭2022ペルラス部門正式出品

 

キャスト:ダニエル・ヒメネス=カチョ(シルベリオ・ガボ)、グリセルダ・シチリアーニ(ルシア)、ヒメナ・ラマドリッド(カミラ)、イケル・サンチェス・ソラノ、アンドレス・アルメイダ(マルティン)、マル・カルラ(ルセロ)、他多数

 

ストーリー:シルベリオは国際的に権威のある賞の受賞者であるが、ロスアンゼルス在住のメキシコ人ジャーナリストでドキュメンタリー作家として知られている。彼は生れ故郷に戻るべきと思っているが、このような旅は、おそらく実存の限界をもたらすだろう。彼が実際に直面している不条理な記憶や怖れ、漠然とした感じの混乱と驚嘆が彼の日常生活を満たしている。激しいエモーション、度々襲ってくる大笑い、シルベリオは普遍的な謎と闘うだろうが、他にもアイデンティティ、成功、死すべき運命、メキシコ史、家族の絆、分けても妻や子どもたちとの親密な結びつきについても乗りこえるだろう。結局、現代という特殊な時代においては、人間という存在は本当に忍耐で立ち向かうしかないのだろう。彼は危機を乗りこえられるだろうか。ヨーロッパとアメリカの入植者によって侵略され、搾取され、虐待されてきたメキシコ、その計り知れない損失は返してもらっていない。

   


              (ダニエル・ヒメネス=カチョ)

    

   

           (ヒメネス=カチョとヒメナ・ラマドリッド、フレームから)

 

★どうやらシルベリオ・ガボは監督の分身で間違いなさそうですが、いささか胡散臭いでしょうか。プレス会見では「ピオピックを撮るのが目的ではありませんが、自身について多くのことを明かしています」と語っていました。各紙誌の評判が芳しくないのは長尺もさることながら、主人公のナルシシストぶりがハナにつき、テーマの詰め込み過ぎも視聴者を迷子にしているのではないかと推測します。監督は「前作以来7年間も撮っていなかった、プランが思い浮かばなかった」とも応えている。前作とは『レヴェナント 蘇えりし者』16)のことで、アカデミー監督賞を受賞、主役のディカプリオも念願の主演男優賞をやっと手にした。前年の『バードマン』で作品・監督・脚本の3冠に輝いたばかりで、連続監督賞は長いハリウッド史でも珍しい快挙だった。カンヌ映画祭アウト・オブ・コンペティションでプレミアされた「Carne y Arena」(17)は、7分間の短編、他はドキュメンタリーをプロデュースしていただけでした。

 

      

     (レッド・カーペットに現れた、夫人マリア・エラディア・ハガーマンと監督)

 

★ダニエル・ヒメネス=カチョによると監督からは、「何も準備するな!」というお達しがあって撮影に臨んだそうです。こういう映画の場合、先入観をもたずに役作りをするのは結構きついかもしれない。11月の公開後、1216日から Netflix で配信が決定しています。アメリカ、スカンジナビア諸国を含めたヨーロッパ、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル他、アジアでは日本と韓国が入っています。後は観てからにいたします。

    

        

          (ダニエル・ヒメネス=カチョとA. G. イニャリトゥ監督)

 

『バードマン』の記事は、コチラ20150306

『レヴェナント』の記事は、コチラ20160302

Carne y Arena」の記事は、コチラ20170416


*追加情報:第35回東京国際映画祭2022に『バルド、偽りの記録と一握りの真実』の邦題でガラ・コレクション部門で上映されることになりました。


マヌエラ・マルテッリ、監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2022 ⑭2022年09月13日 17:23

    ホライズンズ・ラティノに「1976」で監督デビューしたマヌエラ・マルテッリ

 

       

 

★女優として実績を残しているマヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ1983)が1976で長編監督デビューを果たしました。チリの1976年という年は、ピノチェト軍事独裁政権の3年目にあたり、隣国アルゼンチン同様、多くの民間人の血が流された年でもあった。マルテッリ自身は生まれていませんでしたが、ピノチェト時代(197390)は延々と続いたから空気は吸って育ったのです。主人公カルメンの造形は会ったことのない祖母の存在を自問したとき生まれたと語っています。アウトラインはアップ済みですが、チリ映画の現状も含めて改めてご紹介します。アメリカ公開は「1976」では映画の顔として分かりづらいということから「Chile 1976」とタイトルが変更されたようです。

 

 1976

製作:Cinestacion / Wood Producciones / Magma Cine

監督:マヌエラ・マルテッリ

脚本:マヌエラ・マルテッリ、アレハンドラ・モファット

音楽:マリア・ポルトゥガル

撮影:ソレダード(ヤララYarará)・ロドリゲス

美術:フランシスカ・コレア

編集:カミラ・メルカダル

衣装:ピラール・カルデロン

録音:ジェシカ・スアレス

キャスティング:マヌエラ・マルテッリ、セバスティアン・ビデラ

メイクアップ:バレリア・ゴッフレリ、カタリナ・ペラルタ

製作者:オマール・ズニィガ、ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョ、アレハンドロ・ガルシア、アンドレス・ウッド、フアン・パブロ・グリオッタ、ナタリア・ビデラ・ペーニャ、他

 

データ:製作国チリ、アルゼンチン、カタール、2022年、スペイン語、スリラードラマ、95分、販売Luxbox、アメリカ公開は今冬予定。

映画祭・受賞歴:トゥールーズ(ラテンアメリカ)映画祭2022グランプリ・特別賞・ルフィルム・フランセ賞3冠、カンヌ映画祭併催の「監督週間」正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、ブリュッセル映画祭インターナショナル部門出品、エルサレム映画祭デビュー部門「インターナショナル・シネマ賞」受賞、メルボルン映画祭コンペティション部門出品、リマ映画祭作品賞を含む3冠、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品、ロンドン映画祭デビュー作部門

 

キャスト:アリネ・クッペンハイム(カルメン)、ニコラス・セプルベダ(エリアス)、ウーゴ・メディナ(サンチェス神父)、アレハンドロ・ゴイック(カルメンの夫ミゲル)、アマリア・カッサイ(同娘レオノール)、カルメン・グロリア・マルティネス(エステラ)、アントニア・セヘルス(ラケル)、マルシアル・タグレ(オズバルド)、ガブリエル・ウルスア(トマス)、ルイス・セルダ(ペドロ)、アナ・クララ・デルフィノ(クララ)、エルビス・フエンテス(隣人ウンベルト)、他多数

   

ストーリーチリ、1976年。カルメンはビーチハウスの改装を管理するため海岸沿いの町にやってくる。冬の休暇には夫、息子、孫たちが行き来する。ファミリーの神父が秘密裏に匿っている青年エリアスの世話を頼んだとき、カルメンは彼女が慣れ親しんでいた静かな生活から離れ、自身がかつて足を踏み入れたことのない危険な領域に放り込まれていることに気づきます。ピノチェト政権下3年目、女性蔑視と抑圧に苦しむ一人の女性の心の軌跡を辿ります。

 

        

        (支配階級のシンボル、パールのネックレス姿のカルメン)

 

            チリ映画の隆盛――「クール世代」の台頭

 

★ピノチェト軍政下では、映画産業は長いあいだ沈黙を強いられ、才能流出が止まりませんでした。『トニー・マネロ』や『No』で知られるパブロ・ララインを中心に、若い世代が集まってグループを結成、自らを「Generation High Dedinition」(高品位があると定義された世代)「クール世代」と称した。指導者はチリ映画学校の設立者カルロス・フローレス・デルピノ、メンバーは監督ではパブロ・ラライン、アンドレス・ウッド、セバスティアン・レリオ、アリシア・シェルソン、クリスティアン・ヒメネス、セバスティアン・シルバ、ドミンガ・ソトマヨール、アレハンドロ・フェルナンデス、ララインの実弟である製作者フアン・デ・ディオス・ラライン、撮影監督ミゲル・ジョアン・リティン、俳優アルフレッド・カストロ、アントニア・セヘルスなどが中心になっており、当ブログではそれぞれ代表作品を紹介しています。 


★本作の特徴は女性スタッフの多さですが、製作者の一人ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョは『木曜から日曜まで』の監督であり、ラケル役のアントニア・セヘルスは、パブロ・ララインと結婚、彼の「ピノチェト政権三部作」すべてに出演していましたが、『ザ・クラブ』を最後に2014年離婚してしまいました。言語が共通ということもあって「クール世代」はアルゼンチン、ベネズエラ、メキシコなどのシネアストとの合作が多いことも特色です。なかにはセバスティアン・シルバ(『家政婦ラケルの反乱』)のようにゲイであるためチリ社会の偏見に耐えかねてアメリカに脱出してしまった監督もおりますが、昨今のチリ映画の隆盛はこのグループの活躍が欠かせませんでした。ラテンビート、東京国際映画祭、東京フィルメックスなどで紹介される作品のほとんどがクール世代の監督です。概ね1970年以降の生れですが、ここにマルテッリのような80年代生れが参入してきたということでしょうか。

 

         音楽も色彩もメタファーの一つ、マルテッリの視覚言語

 

★カルメンは独裁政権の直接の協力者ではないが被害者でもなく、ただ傍観者である。医師である夫がピノチェトの協力者であること、それで経済的な恩恵を受けていることを知っており、政権との対立で窮地に陥ると夫の名前を利用する。ただこの共謀にうんざりしている。真珠のネックレス、カシミアのコート、流行の靴を履いているが、屈辱的な壁の花である。なりたかったのは医師であり主婦ではなかった。子育てに専念するため断念したという母親を娘は軽蔑する。

 

           

           (カルメン役のアリネ・クッペンハイム、フレームから)

 

★カルメンは特権的な立場にあるが、逃亡者エリアスとの関係は、夫が妻を過小評価していることを利用しており危険すぎる。彼女の行動は最初政治的ではなかったが、やがて政治的なものになっていく。予告編の冒頭にある瓶のなかの金魚のようにカルメンは閉じ込められているが、飛びだせば永遠に〈行方不明者〉になる。予告編に現れる鮮やかなペンキの色は、観客を不穏な雰囲気に放り込む。受話器から聞こえるノイズ、シンセサイザーの耳障りな音楽はカルメンの危機を予感させる。メタファーを読みとく楽しみもありそうです。

   

        

            (逃亡者エリアス役のニコラス・セプルベダ)

  

マヌエラ・マルテッリ Manuela Abril Martelli Salamovich 監督紹介1983年チリのサンティアゴ生れ、女優、監督、脚本家。父親はイタリア出身、母親はクロアチア出身の移民、中等教育はサンティアゴの北東部ビタクラのセント・ジョージ・カレッジで学んだ。最終学年にゴンサロ・フスティニアーノB-Happy03)のオーディションに応募、主役を射止める。本作の演技が認められハバナ映画祭2003女優賞を受賞した。高校卒業後、2002年、チリのカトリック司教大学で美術と演技を並行して専攻、2007年卒業した。2010年、フルブライト奨学金を得てアメリカに渡り、テンプル大学で映画制作を学んでいる。

 

2004年、アンドレス・ウッドMachuca(『マチュカ-僕らと革命』DVD)に出演、アルタソル女優賞を受賞、TVシリーズ出演をスタートさせている。2008年、ウッド監督のオファーを受けてLa buena vida(『サンティアゴの光』ラテンビート2009)に出演、監督デビュー作「1976」のヒロイン、アリネ・クッペンハイムの娘役を演じた。ラテンビートには監督が来日、Q&Aがもたれた。セバスティアン・レリオの「Navidad」(09)他、短編、TVシリーズ出演がある。

 

★国際舞台に登場したのは、ロベルト・ボラーニョの短編 Una novelita lumpen を映画化した、アリシア・シェルソンIl futuro13、イタリアとの合作)でした。マヌエラはヒロインのビアンカに扮し、オランダのカメレオン名優ルトガー・ハウアーと共演した。サンダンス映画祭でプレミアされ、ロッテルダム、トゥールーズ、サンフランシスコなど国際映画祭で上映された。ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭2013で銀のコロン女優賞、シェルソンが監督賞を受賞した。本邦では『ネイキッド・ボディ』の邦題で翌年DVD化されている。第57回ロカルノFF2014にノミネートされたマルティン・Rejtmanの「Dos disparos」に出演している。

 

 

 (ニコラス・ヴァポリデュス、ルトガー・ハウアー、監督、マルテッリ、サンダンスFF2013

 

★監督、脚本家としては、2014年の短編「Apnea」(7分、チリ=米)が、チリのバルディビアFF2014で上映された他、アルゼンチンのBAFICIブエノスアイレス・インディペンデントFF2015、トゥールーズ・シネラティーノ短編FFにも出品された。カンヌの監督週間2014Fortnight」のプログラム、チリ・ファクトリーに選ばれ、アミラ・タジディンと「Land Tides / Marea de tierra」(チリ=仏、13分)を共同監督した。翌年の監督週間、ニューヨーク短編FF、サンダンスFF2016、ハバナFF2016に出品された。

    

      

          (マヌエラ・マルテッリ、ロカルノ映画祭2014にて)

 

★デビュー作の製作者の一人ドミンガ・ソトマヨールの「Mar」(14)に脚本を共同執筆している。2013年よりソトマヨールが製作を手掛けることになった「1976」の最初のタイトルは、怒りまたは勇気という意味の「Coraje」だったという。また2016年にはTVシリーズ「Bala loca」(10話)のキャスティングを手掛けている。アリネ・クッペンハイム、アレハンドロ・ゴイック、マルシアル・タグレなど「1976」のほか、『サンティアゴの光』で共演したアルフレッド・カストロ、セバスティア・シルバの「La nana」(09『家政婦ラケルの反乱』ラテンビート)のカタリナ・サアベドラなどチリを代表する「クール世代」の演技派が出演している。

 

 

カルロス・フローレス・デルピノ(タルカワノ1944)はチリの監督、脚本家、製作者。1973年の軍事クーデタで仲間が亡命するなか、チリに止まってドキュメンタリー作家として活躍、1994年、Escuela de Cine de Chileを設立、教育者として後進の指導に当たる。代表作は、チリのチャールズ・ブロンソンと言われたフェネロン・グアハルドをモデルにチリ人のアイデンティティに光を当てたドキュメンタリー「El Charles Bronson Chileno: o idénticamente igual」(7684)と作家のホセ・ドノソについての中編ドキュメンタリー「Donoso por Donoso」(94)など。


*追加情報:第35回東京国際映画祭2022のコンペティション部門に同タイトルでノミネートされました。

 

グレン・クローズ、審査委員長をキャンセル*サンセバスチャン映画祭2022 ⑮2022年09月14日 17:32

          グレン・クローズ、家族の緊急事態対応のため来西できず!

   

          

         (グレン・クローズと新審査委員長マティアス・モステイリン) 

 

913日、開催を3日後に控えた第70回サンセバスチャン映画祭事務局は、セクション・オフィシアルの審査委員長グレン・クローズが「家族の緊急事態対応のため」来西できないことを発表しました。新しい審査委員長には、アルゼンチンの製作者マティアス・モステイリンに決定したことも同時にアナウンスされました。

 

★先週、クローズはサンセバスチャン映画祭のコンペティション部門の審査委員長として来西することに興奮しているとSNSに投稿していたばかりです。「今まで経験したことのない新しい冒険」、「大好きなサンセバスティアン、人々は素晴らしいし、優れた映画をたくさん観たいし、他の審査員たちとの出会いにワクワクしている」と、『危険な情事』のストーカー役、自ら製作や脚本も手掛けた『アルバートの人生』などの主役を演じたグレン・クローズは近況を伝えていた。しかし急遽、責任ある今回の仕事を果たすことができなくて悔やんでいると伝えてきたようです。家族の緊急事態の詳細は個人情報として明らかではありませんが、どうやら今回の不参加は動かせないようです。審査員は最低でも10日間は縛りつけられるから、とんぼ返りは許されない。

 

「映画祭に参加できなくて心から残念に思っています。家族の緊急事態が発生してその対応のため自宅を離れることができません。映画祭、審査員、多くのシネアストの方々、ドノスティア賞、映画祭の視聴者の皆さん、どうぞお許しください、皆さんと当地でご一緒できません」

 

★委員長マティアス・モステイリン以下の審査員メンバーは、キャスティング監督アントワネット・ブラ(仏)、監督で脚本家のテア・リンデブルク(デンマーク)、作家でジャーナリストのロサ・モンテロ(西)、監督・脚本家でビジュアルアーティストのレモハン・ジェレミア・モセセLemohang Jeremiah Mosese(レソト王国)、監督で脚本家のフリーヌル・パルマソン(アイスランド)、合計6名です。リンデブルクは昨年の銀貝監督賞受賞者、パルマソンは『ウィンター・ブラザーズ』(17)が「トーキョーノーザンライツフェスティバル2019」で上映されている。

 

★審査委員長マティアス・モステイリン紹介:1974年ブエノスアイレス生れ、製作者。アルゼンチンではモステイリ製作の映画は枚挙に暇がない。パブロ・トラペロのデビュー作「Mundo Grúa」(99)、ベネチア2015監督賞受賞の『エル・クラン』、カンヌの「批評家週間」2001ユース批評家賞受賞のアドリアン・カエタノの「Bolivia」や彼の代表作「Un oso rojo」(02)、ルクレシア・マルテルの『沼地という名の町』『ラ・ニーニャ・サンタ』、カルロス・ソリンの「Días de pesca」(12)、オスカーにノミネートされたダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14)、アナ・カッツの「Los Marziano」(11)、アルマンド・ボーの『エルヴィス、我が心の歌』(12)、サンティアゴ・ミトレの『サミット』(17)、ルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』(18)、セバスティアン・ボレンステインの『明日に向かって笑え!』(19)、スペインとのコラボでは、ダニエル・カルパルソロの『バンクラッシュ』(16)、アレハンドロ・アメナバルの『戦争のさなかで』(19)などがあり、本祭のセクション・オフィシアル、ホライズンズ・ラティノ、ペルラス、メイド・イン・スペイン、いずれかの部門で上映、受賞などしています。当ブログでもそれぞれ作品紹介をしています。

 

        

          (パブロ・トラペロの「El clan」日本語版ポスター)

ジュリエット・ビノシュにドノスティア栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2022 ⑯2022年09月17日 17:19

           ジュリエット・ビノシュにドノスティア栄誉賞

 

       

      (第70回の公式ポスターの顔でもある受賞者ジュリエット・ビノシュ)

 

9162030分(現地時間)、第70回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2022が開幕しました。それは次回にまわすとして、今年のドノスティア栄誉賞は二人、フランスの女優ジュリエット・ビノシュとカナダの映画監督デヴィッド・クローネンバーグ、ビノシュはクローネンバーグの『コズモポリス』に出演している。本作はカンヌ映画祭2012コンペティション部門でプレミアされた。第70回の公式ポスターの顔でもある女優からアップします。短編、TVシリーズ出演を除いても70作以上に出演しているが、幸いフランス映画やハリウッド映画のこともあり、公開、映画祭上映、DVDなどで約80パーセントは字幕入りで観ることができているようです。授与式はメイン会場のクルサールが予定されています。

 

ジュリエット・ビノシュ1964年パリ生れの58歳、演技はコンセルヴァトワールで学んでいる。パスカル・カネの「Liberty Belle」(リバティ・ベル83)の小さな役で映画デビューした。先日スイスで自死同然の自殺幇助で鬼籍入りしたゴダールの『ゴダールのマリア』85)やSSIFFのセクション・オフィシアルにノミネートされたジャック・ドワイヨンの『家族生活』に出演している。アンドレ・テシネの『ランデヴー』85)で初めてセザール賞主演女優賞にノミネートされ、後に『溺れゆく女』98)にも出演している。レオス・カラックスとの最初の作品『汚れた血』86)、続いて『ポンヌフの恋人』91)、後者でヨーロッパ映画賞女優賞を受賞、両作ともセザール賞主演女優賞にノミネートされた。彼とは一時期交際していた。他にルイ・マルの『ダメージ』92)をあげておきたい。

 

       

        (レオス・カラックス監督の『ポンヌフの恋人』ポスター

 

★最初こそ国内映画出演でしたが、フィリップ・カウフマンの『存在の耐えられない軽さ』88)やピーター・コスミンスキーの『嵐が丘』92)など英語での文芸作品に主演した。しかし、彼女の存在を国際舞台に押し上げたのは『イングリッシュ・ペイシェント』96)でした。アカデミー助演女優賞、ベルリン映画祭銀熊女優賞、英国アカデミー賞BAFTA助演女優賞ヨーロッパ映画女優賞ほか、国際映画祭の受賞を攫った映画でした。主演女優のクリスティン・スコット・トーマスの印象を薄めてしまった。アンソニー・ミンゲラもアカデミー監督賞を受賞、作品賞をはじめ最多9部門を制覇したヒット作でした。英語圏の大物俳優、ダニエル・デイー=ルイス、レイフ・ファインズ、ジェレミー・アイアンズとの共演でした。

 

    

  (ミンゲラの『イングリッシュ・ペイシェント』でオスカー像を手にしたビノシュ

 

★クシシュトフ・キェシロフスキの「トリコロール三部作」の『トリコロール/青の愛』94)では、ベネチア映画祭女優賞ヴォルピ杯)、セザール主演女優賞を受賞、ゴールデン・グローブ賞にもノミネートされた。本作はSSIFFのサバルテギ部門で上映されている。SSIFF 1995にジャン=ポール・ラプノーの『プロヴァンスの恋』95)がアウト・オブ・コンペティションだがクロージング作品に選ばれている。シャンタル・アケルマンの『カウチ・イン・ニューヨーク』96)、パトリス・ルコントの『サン・ピエールの生命』99)でダニエル・オートゥイユと、ラッセ・ハルストレムの『ショコラ』00)でジョニー・デップと、ジョン・ブアマンの『イン・マイ・カントリー』(04)でサミュエル・L・ジャクソンと、ミヒャエル・ハネケの『コード・アンノウン』00)や『隠された記憶』05)も落とせないでしょう。

      

   

         (キェシロフスキの『トリコロール/青の愛』ポスター

 

★サンセバスティアン入りは今回で4回目になるようですが、最初は2002年、ダニエル・トンプソンのラブ・コメディ『シェフと素顔と、おいしい時間』で、アウト・オブ・コンペティション部門、ジャン・レノやセルジ・ロペスが共演した。アベル・フェラーラのサスペンス『マリー』05DVD)はペルラス部門にエントリーされた。異色なのはアジアの監督とのコラボ、例えば台湾の監督ホウ・シャオシエンの『レッド・バルーン』07)やイスラエルのアモス・ギタイの『撤退』(07)、そしてイランのアッバス・キアロスタミの『トスカーナの贋作』10)では観客をアッと言わせ、カンヌFF女優賞を受賞した。またチリ鉱山の落盤事故に基づいたパトリシア・リケンの『チリ33人、希望の軌跡』15)では、アントニオ・バンデラスと共演、世界を飛び回っている。脇役だがハリウッドのスーパープロダクション製作のギャレス・エドワーズのGODZILLA ゴジラ』14)、士郎正宗の漫画を原作としたルパート・サンダースのSFアクション『ゴースト・イン・ザ・シェル』(17)に出演、主役はスカーレット・ヨハンソンでしたが、ビートたけし、桃井かおりなど日本の俳優も共演した。

 

       

         (キアロスタミの『トスカーナの贋作』フレームから)

 

★オリヴィエ・アサイヤスの『夏時間のパリ』08、ペルラス部門)、『アクトレス 女たちの舞台』14)、『冬時間のパリ』18)と立て続けに主演した。ブリュノ・デュモンの彫刻家カミーユ・クローデルのビオピック『カミーユ・クローデル』13 WOWOW)、イサベル・コイシェのNadie quiere la noche15)と、SFを含めたラブコメからシリアスドラマまで、列挙した作品のほとんどが主演で、そのバイタリティには驚嘆するばかりである。コイシェ監督が「ぶっ飛んだ女優」と賞賛したのもむべなるかなです。

 

2回目のサンセバスティアン入りは2018年、河瀨直美のVision ビジョン』とクレール・ドゥニの『ハイ・ライフ』2作品がコンペティション部門にノミネートされたからでした。ドゥニ監督は初めて英語映画に挑戦したSF ミステリーてFIPRESCI 賞を受賞した。ビノシュはドゥニ監督とは前年Un beau soleil intérieurでコラボしていた。つい最近のベルリンFF 2022のコンペティション部門に出品され銀熊監督賞を受賞したAvec amour et acharnement(英題Both Sides of the Bladeにも主演、女一人と男二人の三角関係の由、共演者はバンサン・ランドンとグレゴワール・コラン。SSIFFでもドノスティア賞作品として上映され、ドゥニ監督も17日に現地入りの予定です。

   

   

 (「Avec amour el acharnement」のフレームから)

 

      

      (最近のジュリエット・ビノシュ、第72回ベルリン映画祭2022212日)

 

3回目は2019年、是枝裕和の『真実』で監督も現地入りした(フォト下)。是枝さんて「こんな面白い映画撮るんだ」と驚いた作品でした。サフィー・ネブーの『私の知らないわたしの素顔』19)、エマニュエル・カレールの『ウイストルアム―二つの世界の狭間で』21)は、ペルラス部門のヨーロッパ映画ドノスティア市観客賞を受賞した。今年が4回目になるが、栄誉賞のほかクリストフ・オノレが金貝賞を競うLe lyceenに出演している。

    

    

   (レッド・カーペットに現れた是枝監督とビノシュ、第67SSIFF2019922日)

 

イサベル・コイシェのNadie quiere la noche」の作品紹介は、コチラ20150301

クリストフ・オノレのLe lyceen」作品紹介は、コチラ20220806

第70回サンセバスチャン映画祭2022開幕 ⑰2022年09月19日 09:45

           全員ノーマスク開催は3年ぶり、みんなで罹れば怖くない?

    

           

          (総合司会のロレト・マウレオンとパコ・レオン)

 

9162030分(現地時間)、第70回サンセバスチャン映画祭2022がサンセバスティアンのメイン会場クルサールで開幕しました。総合司会者はアナウンス通り女優のロレト・マウレオンと監督で俳優のパコ・レオンが務めました。ロレト・マウレオン(1988)はブルゴス生れですがバスク語が堪能、当ブログでもご紹介したTVシリーズ「Patria」(製作アイトル・ガビロンド)に出演してフェロス賞2021(シリーズ部門)助演女優賞を受賞しています。映画ではオリオル・パウロのミステリー「Los renglones torcidos de Dios」(22)に出演、本作は今回ペルラス部門のアウト・オブ・コンペティション部門で上映されます。ヒットメーカーのパコ・レオン(1974)はセビーリャ生れ、映画にTVシリーズに、監督 & 製作者と守備範囲は広い。ラテンビート2016KIKI~愛のトライ&エラー』で当ブログに登場しています。

 

       

 

★昨年コンペティション部門の特別枠で上映された濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』が国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞しており、その授与式がありました。コロナ隔離期間2週間だった昨年は一人で現地入りしましたが、今回は残念ながら日本語でのビデオ出演でした。デビュー作『百花』がいきなりセクション・オフィシアルににノミネートされた川村元気監督の現地入りが報道されましたがフォトが入手できませんでした。代わりと言ってはなんですが、Broker ベビー・ブローカー』ペルラス部門に選出されている是枝監督が17日一人で来西、招待客の宿泊ホテルであるマリア・クリスティナのレッドカーペットでの動画が配信され、待ち構えていたファンのサインや写真に一緒におさまっていました。

   

          

            (シャイな監督も国際舞台ではリラックス)

 

★今年は新型コロナの「パンデミックの終りが視野に入ってきた」というWHOテドロス事務局長の発言もあったように、ここでもベネチア同様コロナ前に戻り、招待客も海外勢が多くなり、カメラマンを含む映画祭関係者、レッドカーペットに押しよせたファンも全員ノーマスク、勿論会場内もマスク姿はおりませんでした。是枝監督も郷に入れば郷に従えでしたね。テドロス氏を全く信用していない石橋たたく管理人は複雑なのですが。

 

Patria」の作品紹介は、コチラ20200812

Los renglones torcidos de Dios」の作品紹介は、コチラ20220831

KIKI~愛のトライ&エラー』の作品紹介は、コチラ20161008

 

★以下の写真は、16日から17日にかけて事務局がアップした、主要なシネアストたちです。アップは恣意的です(順不同)。

 

   

    (アルベルト・ロドリゲス監督)

     

   

                 (主演のミゲル・エランとハビエル・グティエレス)

 


  (オープニング作品「Modelo 77」出演者一同、アルベルト・ロドリゲス監督、

   ミゲル・エラン、ハビエル・グティエレス、他)

   

     

           (2022映画国民賞受賞者のペネロペ・クルス)

   


     (フアン・ディエゴ・ボットのデビュー作「En los márgenes」に主演、

      共演のルイス・トサール、監督と)

 

  

       (フランソワ・オゾン、ペルラス部門「Peter Von Kant」監督)

 

   

     (イサキ・ラクエスタ、ペルラス部門「Un año una noche」の監督)

   

  

         (ナウエル・ぺレス・ビスカヤート、「Un año una noche」に主演)

   

  

   (ファンの写真におさまるノエミ・メルラン、「Un año una noche」に主演)

   

  

       (ナタリア・デ・モリーナ、「Un año una noche」に出演)

 

    

(マリアン・マティアス、コンペティション部門「Runner」監督)

 

   

        (ホアキン・サビーナ、デ・アラノア監督、レイバ、

 ベロドロモ上映のフェルナンド・レオン・デ・アラノア「Sintiéndolo mucho」)

 

  

  (プレス会見のディエゴ・レルマン、コンペティション部門「El suplente」監督)

   

   

          (おめでたらしいバルバラ・レニー、「El suplente」に出演)

 

   

       (アルフレッド・カストロ、「El suplente」に出演)

   

  

              (リカルド・ダリン、

 ペルラス部門、サンティアゴ・ミトレの「Argentina, 1985」に主演、製作)

   

  

        (共演のピーター・ランサニとリカルド・ダリン)

 

   

     (マヌエラ・マルテッリ、ホライズンズ・ラティノ部門「1976」監督)

 

   

   

(フアン・パブロ・ゴンサレス、ホライズンズ・ラティノ部門「Dos estaciones

 監督、主演テレサ・サンチェス、助演タティン・ベラ)

   

  

  (ハイメ・ロサーレス、コンペティション部門「Girasoles silvestres」監督)

 


(アンナ・カスティーリョ、「Girasoles silvestres」主演)

    

  

               (オリオル・プラ、「Girasoles silvestres」主演)

   

  

(オリビア・ワイルド、ペルラス部門『ドント・ウォーリー・ダーリン』監督、出演)

 

      

      (審査委員審査員一同、中央がマティアス・モステイリン委員長)

   


       (審査員委員長マティアス・モステイリン)

    


                     (審査員アントワネット・ブラ)

  

   

   (同テア・リンデブルク)

  


           (同フリーヌル・パルマソン)

   

  

                  (同レモハン・ジェレミア・モセセ)

      

  

              (同ロサ・モンテロ)

  

      

                     (ユース賞の若い審査員たち)

  

   

     (数年前からコラボしているカンヌ映画祭とSSIFFの総指揮者

      ティエリー・フレモーとホセ・ルイス・レボルディノス)

 

ジュリエット・ビノシュ、栄誉賞ガラ*サンセバスチャン映画祭2022 ⑱2022年09月20日 15:01

      ジュリエット・ビノシュ、イサベル・コイシェの手からトロフィーを

   

     

 

918日クルサール、フランス女優ジュリエット・ビノシュは映画祭の最高賞であるドノスティア栄誉賞を受賞しました。セレモニー後、クレール・ドゥニの「Avec amour el acharnement / Both Side of The Blade」(22、西題「Fuego」)が上映されました。トロフィーを手渡したのはイサベル・コイシェ、監督は「Nadie quiere la noche」(15)でビノシュとコラボしていました。ドゥニ監督も17日に現地入りしてガラを客席から見守ったようです。

 

   

    (コイシェ監督からトロフィーを受け取る受賞者ジュリエット・ビノシュ)

   

    

   (クレール・ドゥニ監督とビノシュ)

 

★受賞スピーチは、家族、友人、近親者、仕事仲間に感謝の言葉を述べた後、自分が愛してやまない映画作家たちの作品を上映してくれたサンセバスチャン映画祭にも感謝しました。「私は今、家にいるような温かさを感じています。ここに居られてとても光栄です」と。「また、忠実な旅の仲間である沈黙にも感謝しています。沈黙は存在です。ショットの前、演技の前に、沈黙は強さであり、その強さから感情や感覚を呼び起こし、それは意志とは関係なく現れます。沈黙がなければ言葉はありません。沈黙がなければ精神は存在せず、その沈黙が監督や俳優たち、スタッフたちと共有されると、金色の糸が織られ、後に映画になります。そこには女優になりたいという私の夢のすべての意味が、生きた作品として具現化されています」とスピーチした。ちょっと難しかったですね。

    

      

              (うるうるだった受賞スピーチ)

 

★一方プレゼンターのコイシェ監督は、「彼女と一緒に仕事をしていると、映像、言葉、フレームを越えていく或る不思議な、まるで魔法にかかったような気になります。彼女の顔から光が発しているように感じるというのは本当なんです。しかしその光は信じられないほど寛容で、彼女と一緒に映画を作っているすべての人に浸透していくのです。彼女が演じる登場人物はそれぞれ全く異なっていても、みんなその稀有な並外れた光に触れているように思うのです」と、その魅力を称えました。

 

     

 

★ガラの進行役はエネコ・サガルドイ(『アルツォの巨人』の主役)で、「巨大な才能、スクリーンを超えたカリスマ性、そして彼女のキャリアを築いた一連の勇敢な選択」とフィルモグラフィーを定義した。

   

   

           (ガラ進行役のエネコ・サガルドイ) 

 

★今年は、セクション・オフィシアルにクリストフ・オノレの「Le lycéen / Winter Boy」がノミネートされており、19日午後10時から上映された。オノレ監督、主役のポール・キルヒャーヴィンセント・ラコステなども現地入りして、選ぶのに迷うほど写真がアップされていました。

 

      

                (クリストフ・オノレ監督)

 

      

  

   

    

     (左から、ポール・キルヒャー、ビノシュ、ヴィンセント・ラコステ、19日)     


川村元気の『百花』がワールド・プレミア*サンセバスチャン映画祭2022 ⑲2022年09月22日 15:01

      コンペティション部門――川村元気の『百花』ワールド・プレミア

    


 

920日、川村元気『百花』がワールド・プレミアされました。参加したのは川村監督と主役の原田美枝子のお二人、残念ながら菅田将暉は欠席でした。プレス会見は大盛況というほどではありませんでしたが、Q&Aの内容は深く、心強い通訳氏のお蔭もあってか、途切れなく終わることができました。挨拶はレディファーストなのか監督より先に原田さんに振られ、覚えたてのスペイン語でなんとか自己紹介できました。続く監督も自己紹介はスペイン語で、たどたどしくても記者連に好印象を与えました。これは会見を成功させるためにも大切ですね。以下のQ&Aは順序通りでなく、管理人が恣意的に纏めたものです。

   

    

 

★先ず監督に原田さんを主役に選んだ理由についての質問がありました。「自分が長編映画を撮るとしたら、黒澤明の映画に出演していた原田さんを起用したいと常々思っていました」。『乱』とか『夢』のことでしょうか、具体的なタイトルの言及はありませんでした。また「彼女の体験、認知症になった母親のドキュメンタリーをビデオで撮っていたことも理由の一つかもしれない」と。原田さんから時々「こういうとき黒澤さんなら・・・」とプレッシャーをかけられたと答えて会場を沸かせていました。原田さんに黒澤映画についての質問があり、スペインでの人気ぶりが窺えました。『乱』はサンセバスチャン映画祭1985でヨーロッパに紹介されましたが、参加者にリアルタイムで観ていた人はいないでしょう。多分2017年の4Kデジタル版『乱4K』(「Ran」)を見ているのではないでしょうか。

 

★「主人公のモデルは自分の祖母ですが、私は祖母が認知症になったことが受け入れられなくて、昔の記憶を思い起こさせようと努力した。例えば子供のとき最初に買ってもらった玩具は赤い車だったのですが、祖母は青い飛行機だったという。家に帰って写真で確認したら青い飛行機でした。記憶が曖昧だったのは祖母ではなく自分だった。記憶は書き換えながら、現実と非現実の境目を曖昧にしていく。いま緊張しながら会見に臨んでいますが、昨晩食べたハモンセラーノを思い出したりするように頭はでたらめに働く」とユーモアも交えていました。ロジカルなものとエモーショナルなものの境界も曖昧だとも語っていた。

   

   

            (緊張しながら質問に応える川村監督)

 

★自身の小説の映画化についての質問、「小説は後の映画化を考えて書いているのか、小説と映画の違いについて、アニメーションにするという選択肢もあったか」。監督「映画化するつもりで小説を書いたことはありません。今まで小説を5作書いており、これは4作目になります。小説は言葉で表現し、映画は映像と別のものです。映画化を考えたのは祖母が亡くなってから、溝口健二の映画を観ていて撮ろうと考えました」。スペインでは監督はアニメの製作者として知られているのでアニメ化についての質問があったようです。しかし答えるまでもないのか飛ばされてしまいました。

 

★女優について「最初に監督から、1シーン1カットで撮りたいと言われたとき、これは大変なことになると戸惑った。しかし話しているうちに奥に深い意味があることが分かってきた。母親のドキュメンタリー撮影の体験から、記憶を失っていく様子を映像にするのは難しいことも分かっていた。私はセリフの少ない映画が好きで、というのも言葉というのは氷山の一角でしかなく、多くは言葉にできないものだからです」と、ベテランらしい貫禄でした。他にも1シーン1カットについての質問があり、撮影監督今村圭佑のリリカルな映像を褒める人が多かった。通訳氏は日本語が堪能だけでなく、邦画にも詳しく作品をよく理解しているのでした。

    

  

              (認知症の母親に扮した原田美枝子)

 

★「黄色のポスター、(赤絨毯でも)黄色の着物を着ていたが、この黄色に何か意味があるのか」という質問には、「私の好みというわけではないから監督に聞いて」と。監督は「時間を交錯させるため、濃い黄色は過去、現実に近づくにつれだんだん薄くなって最後には白にした」と答えていた。映画のテーマの一つは〈許し〉だが、「祖母は好きな人ができて家出したことがあったと話してくれた。娘である母にも言わなかった秘密を私に打ち明けた」と。

 

       ニューディレクターズ部門――監督集団「5月」の『宮松と山下』

 

920日、監督集団「5月(ごがつ)」の『宮松と山下』もワールド・プレミアされました。主役の香川照之は目下窮地に立っているせいか不参加でした。3人の監督、佐藤雅彦関友太郎平瀬謙太朗の三氏が揃って現地入りしていました。佐藤氏は東京芸術大学大学院映像研究科教授(2006~21、現名誉教授)、若い二人は彼の教え子、『百花』の川村元気も3氏との共同監督作品があり、平瀬謙太朗は『百花』の脚本を手掛けている。


★プレミア上映では会場から笑い声があがって受け入れられていたようです。会場の通訳は『百花』と同じ人が担当していました。殺され役のエキストラ俳優というストーリーが面白く、来る日も来る日も真面目に殺され続ける宮松役を香川照之が演じる。その宮松には過去の記憶がないという斬新さに興味がそそられます。1118日公開予定。

   

     

        (左から、関友太郎、平瀬謙太朗、佐藤雅彦教授、

      宿泊ホテルのマリア・クリスティナのバルコニーにて、920日)

   

  

                  (どの写真も3人一緒、9月20日フォトコール

 

★今回はサバルテギ-タバカレラ部門は割愛していますが、深田隆之の中編『ナナメのろうか』(44分、モノクロ)が正式出品され、監督が現地入りしていました。こちらは既に公開されています。

   

        

       

                (深田隆之監督、921日)

 

第35回東京国際映画祭2022*ラインナップ発表 ①2022年09月24日 15:09

           コンペティション部門3作を含む8作が上映される

 

       

 

921日、35回東京国際映画祭 TIFF 2022ラインナップの発表会がありました。今年は1024日~112日までと若干早い。当ブログ関連作品はコンペティション部門3作、ガラ・セレクション部門1作、ワールド・フォーカス部門(ラテンビート映画祭共催)のポルトガル映画2作を含む4作、漏れがなければ合計8作です。うち5作が既に作品紹介をしています。未紹介のスペイン映画、カルロス・ベルムト『マンティコア』は、トロント映画祭コンテンポラリー・ワールド・シネマ tiff でワールド・プレミアされています。スペイン・プレミアは多分サンセバスチャン映画祭終了後に開催されるシッチェス映画祭と思います。

 

★サンセバスチャン映画祭が終了後にアップ予定ですが、一応タイトルだけ列挙しておきます。 

   

コンペティション部門

1)1976(「1976」)チリ=アルゼンチン=カタール、スペイン語、ドラマ、97

 監督マヌエラ・マルテッリ

作品紹介は、コチラ⇒2022年09月13日 

    

     

 

2)『ザ・ビースト』(「As Bestas / The Beastas」)スペイン=フランス、スペイン語・フランス語・ガリシア語、ドラマ、138

 監督ロドリゴ・ソロゴジェン

作品紹介は、コチラ⇒2022年06月10日 

   


    

3)『マンティコア』(「Manticora / Manticore」)スペイン、スペイン語、ドラマ、116分 

 監督カルロス・ベルムト

作品紹介は、コチラ⇒2022年10月08日

 

  


      

ガラ・コレクション部門

4)『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(「Bardo, Falsa cronica de una cuantas verdades」)メキシコ、スペイン語、ドラマ、174

 監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

作品紹介は、コチラ⇒2022年09月08日

      


      

ワールド・フォーカス部門(第19回ラテンビート映画祭IN TIFF)共催

5)『ラ・ハウリア』La jauría」)コロンビア=フランス、スペイン語、ドラマ、88

 監督アンドレス・ラミレス・プリド

作品紹介は、コチラ⇒2022年08月25日 

   


       

*『ルーム・メイド』Maid短編)アルゼンチン=メキシコ、スペイン語、12分、併映

 監督ルクレシア・マルテル

作品紹介は、コチラ⇒2022年10月19日

 

 

6)『パシフィクション』(「Pacifiction / Tourment sur les iles」)スペイン=フランス=ドイツ=ポルトガル、仏語・英語、ドラマ、165

 監督アルベルト・セラ

作品紹介は、コチラ⇒2022年10月13日 

      


      

7)『この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない』(「Where Is This Streetor With No Before And After」)ポルトガル=フランス、ポルトガル語、ドキュメンタリー、88分、カラー&モノクロ

 監督ジョアン・ペドロ・ロドリゲスジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタ

    


     

8)『鬼火』(「Fogo-Fátua / Will-o-the Wisp」)ポルトガル=フランス、ポルトガル語・英語、ドラマ、67

 監督ジョアン・ペドロ・ロドリゲス

作品紹介は、コチラ⇒2022年10月25日

   


    

 

TIFFの『マンティコア』紹介文は、「ゲームのデザイナーとして働く若い男性とボーイッシュな少女との恋愛の行方を描く」とテーマの本質が若干ずれていることもあり、いずれ作品紹介を予定しています。タイトルが「マンティコア」、監督が『マジカル・ガール』のベルムトですから、青年と少女の恋の行方のはずがない。確かに二人は恋をするのですが・・・。ゲーム・デザイナーのフリアン役に、ダニエル・サンチェス・アレバロの『SEVENTEENセブンティーン』(19)で主役を演じたナチョ・サンチェスが扮するのも魅力の一つ、フィルム・ファクトリーが販売権を独占したということですから公開が期待できます。

    

     

         (ナチョ・サンチェスを配した、トロント映画祭のポスター)

 

★ポルトガルの『この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない』は、パウロ・ローシャの傑作『青い年』(65)をめぐるドキュメンタリー、先ずそちらから見る必要がありそうです。上記のように邦題は直訳なので、原題探しで迷子にならなくて助かります。また新型コロナウイルス対策として、映画祭スタッフは「マスクの常時着用」、抗原検査ほかを実施する(921日の決定)。チケット一般販売は1015日から。

   
*追加情報
:「ユースTIFF ティーンズ」部門に、スペインのエレナ・ロペス・リエラのデビュー作『ザ・ウォーター』が漏れていました。追加しておきました。

作品紹介は、コチラ⇒2022年10月17日