カルロタ・ペレダの「Cerdita」*ゴヤ賞2023 ⑤2022年12月19日 19:17

          ラウラ・ガランのパーフォーマンスに絶句する?

   

    

 

カルロタ・ペレダのデビュー作Cerdita」は、前回触れたようにゴヤ賞2019短編映画賞受賞作Cerdita」(14)の延線上にあり、主役サラを同じラウラ・ガランが演じている。ペレダ監督が女優、モデル、メディア・パーソナリティとして活躍していたラウラ・ガランに接触したのは2017年、1986年生れの女優は既に30歳を超えていたから、10代の女の子に化けるには若干無理があったのではなかろうか。短編はメディナ・デル・カンポ映画祭2018でプレミアされ、国内は勿論フランスを含めた欧米の映画祭に出品され受賞歴を誇ることになった。短編よりさらに体重と年齢を増やした主役以外はキャストを総入れ替え、長編デビューを果たした。

  

        

             (女優ラウラ・ガラン、カルロタ・ペレダ監督、撮影リタ・ノリエガ)

 

 Cerdita」(英題「Piggy」)

製作:Morena Films(西)/ Backup Media(仏)/ Cerdita AIE /

     協賛:RTVE / Movister/ Comunidad de Madrid

監督・脚本:カルロタ・ペレダ

音楽:オリヴィエ・アルソン

撮影:リタ・ノリエガ

編集:ダビ・ペレグリア

キャスティング:パウラ・カマラ、アランサ・ベレス

プロダクション・マネージメント:サラ・E・ガルシア

プロダクション・デザイン:オスカル・センペレ

衣装デザイン:アランシャ・エスケロ

メイクアップ&ヘアー:パロマ・ロサノナチョ・ディアス

製作者:メリー・コロメル、(エグゼクティブ)ピラール・ベニト、(共同)ジャン=バティスト・ババン、デビッド・アトラン・ジャクソン、ほか

 

データ:製作国スペイン=フランス、スペイン語・英語、2022年、スリラー・ホラー、99分、撮影地エストレマドゥーラ州カセレスのビジャヌエバ・デ・ラ・ベラ、2021717日クランクイン、公開スペイン1014日、ほかカナダ、フランス、オランダ、フィンランド、米国(限定)、インターネット上映(アルゼンチン、米国)など、配給Filmax

  

映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2022でプレミア、シアトル・インデペンデントFF、ブエノスアイレス・インデペンデントFF、トランシルバニア、メルボルン、ブリュッセル、独ファンタジー・フィルムフェス、サンセバスチャン(サバルテギ-タバカレラ部門)、シッチェス、リオデジャネイロ、ベルゲン、テッサロニキ、台北・ゴールデンホース、ベルファスト、ほか多数。Grimmfest 2022 監督賞と女優賞、トゥルーズ・シネエスパーニャ2022女優賞受賞。フォルケ女優賞(受賞ならず)、フェロス賞2023(作品・監督・主演女優・助演女優・ポスターエドゥアルド・ガルシア・予告編マルタ・ロンガス)ノミネート、シネマ・ライターズ・サークル賞2023(新人監督・助演女優・新人女優・脚色)ノミネート。

   

        

     (左から、ピラール・カストロ、監督、ラウラ・ガラン、カルメン・マチ、

      サンセバスチャン映画祭2022フォトコール)

 

キャストラウラ・ガラン(サラ)、リチャード・ホームズ(見知らぬ男)、カルメン・マチ(サラの母親アスン)、イレネ・フェレイロ(クラウディア)、カミーユ・アギラル(ロチ)、クラウディア・サラス(マカ)、ホセ・パストール(ペドロ)、フリアン・バルカルセル(サラの父親トマス)、アメッツ・オチョア(サラの弟)、フェルナンド・デルガド=イエロ(フアンカルリートス)、ピラール・カストロ(エレナ)、チェマ・デル・バルコ(フアン・カルロス)、フレド・タティエン(ロチ神父)、マレナ・グティエレス(セニョーラ・マリア)、ほか

ゴチック体はゴヤ賞(監督・脚色・主演女優・助演女優・プロダクション・メイクアップ)にノミネートされている。作曲家オリヴィエ・アルソンはソロゴジェンの『ザ・ビースト』でノミネートされており、本作は残念でした。

 

ストーリー:エストレマドゥーラの真夏の暑さは地獄、サラのような体重オーバーの少女には絶え間ないイジメを意味します。彼女は外見のため自分を愛せず自分を否定して引きこもる。少女時代には仲良しだったクラウディアの仲間のロチやマカから嫌がらせを受けている。彼女たちのいじめは凄まじく尋常ではない。しかし見知らぬ男が村にやって来ていじめっ子を誘拐するのを目撃したとき、警察に届けるべきか、あるいは復讐を遂げるべきか、ジレンマに直面する。憎しみが憎しみを呼び、村は恐怖に包まれる。

 

★監督紹介:カルロタ・ペレダ1975112日マドリード生れ、監督、脚本家。映画はマドリード共同体映画視聴覚学校ECAMで学ぶ。法律を専攻していたので家族は映画に進むことに反対でした。ECAM入学も秘密でしたので学費に困り、並行してテレビ界で仕事をした。TVシリーズ「Periodistas」の脚本家としてスタートを切る。「Lex」(082話)、「Acacias 38」(1515話)、「El secreto de Puente Viej」(181910話)他を監督する。映画は以下の通りだが、共同監督作品は除外した。

    

       

      (短編映画賞のトロフィーを手にしたカルロタ・ペレダ、ゴヤ賞2019

 

2016Las rubias」(17分)が国内外の140の映画祭で上映、マドリード「短編週間」審査員賞・テレマドリード賞、メディナFFヤング審査員賞、メディナ・デル・カンポ「映画週間」ヤング審査員賞、ソリア市短編コンクール賞などを受賞した。

2018Cerditas」(14分)は、ゴヤ賞2019短編部門作品賞、ホセ・マリア・フォルケ賞短編賞、ソリア市短編コンクール・ヤング審査員賞、ドノスキノFF脚本賞、サラゴサFF作品賞、短編ファンタスティックLa vieja Encina FF観客賞、タピアレスFF審査員賞、アイダホ・ホラーFF外国部門作品賞、マドリード「短編週間」作品賞ほか、パレンシアFF観客賞、タラベラ・デ・ラ・レイナ短編FFパベス賞(作品・監督・脚本)、サントゥルシネ審査員賞、シン・シティ・ホラーFF審査員賞、各受賞。

2020There will be Monster」(5分)、アルカラ・デ・エナレス短編FF脚本賞、サン・クガ・ファンタスティック審査員賞受賞。

2022Cerdita/Piggy」割愛

2023La ermita」次回作

    

     

              (短編「Las rubias」のポスター)

 

★新人監督賞ノミネートとはいえ、TVシリーズを含めるとキャリアは長い。短編「Cerditas」の構想は、監督によると、「いじめについてのブラックユーモアとホラーをミックスした映画を作りたいと思っていた。カセレスで夏を過ごしていたのですが、暑さは尋常でなくシエスタの時間には誰も外出しません。そこで娘がシエスタをしている一番暑い時間帯にプールに出かけていた。するといつも同じ女の子を見かけました。まさかプールに入るつもり?」そこで少女は何をするつもりかというアイデアが浮かんだ。急いで坂道を上って家に着くと汗びっしょり、もう夕方には書き始めていました。監督自身も10代の頃には肥満に苦しんでいた。夏休みになると殊更辛かった。その経験を織り込んだ〈アメリカン・ゴシック〉を構想した。

 

★主役の女優探しに2年間費やした。ラウラ・ガランがキャラクターを完全に理解していたことに喜びと安堵を覚えました。「ガランのお蔭で、憎しみがさらに憎しみを生むだけであることが明らかな短編映画に纏めることができた」と監督。「スペインの映画業界はサウラやアルモドバル、ボリャインやコイシェ、ネット配信のTVシリーズのお蔭で注目を集めています。しかし忘れて欲しくないのはパコ・プラサやバラゲロのホラー映画です」とインタビューに応えている。

 

★キャスト紹介:ラウラ・ガラン1986年グアダラハラ生れ、女優、モデル、メディア・パーソナリティ。20176月、舞台演出家パトリック・ベンコモ・ウェーバーと結婚、2児の母、一人は前妻の子供。弟ハビエル・ガランも俳優。2006TVシリーズ「Brigada policial」でデビュー、映画デビューはカルロス・アウレコエチェアの短編「Yo, Ulrike, grito」(15)、「Cerdita」(18)、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)、「There will be Monster」、ダビ・ガラン・ガリンドの「Origenes secretos」(20『ヒーローの起源~アメコミ連続殺人事件』Netflix配信)、サラ・バンバ&イバン・マルティン・ルエダスの短編「Familias」(20)、次回作出演はTVシリーズ、アリツ・モレノの「Zorras」(23、8話)が進行中。見知らぬ男役のリチャード・ホームズは、ダニエル・カルパルソロの『ライジング・スカイハイ』(20)に出演している。

   

     

         (リチャード・ホームズ扮する見知らぬ殺人鬼とサラ)

 

    

(撮影中の監督とラウラ・ガラン)

   


                 (カルメン・マチ扮するサラの母親アスンとサラ)

   

   

    (フリアン・バルカルセル扮する肉屋を営む父親トマスとサラ、後方は監督)


心理的スペイン・ホラー『荒れ野』*ネットフリックス2022年01月20日 16:01

    評価が分かれるダビ・カサデムントのデビュー作『荒れ野』

    

 

   

16日、ダビ・カサデムントのデビュー作『荒れ野』(原題El páramo)のNetflix 配信が始まった。本作は昨年10月開催されたシッチェス映画祭2021でデビューを飾ったのだが、評価は大きく分かれていた。映画祭にはカサデムント監督、3人の主演者、インマ・クエスタ、ロベルト・アラモ、子役アシエル・フローレスも現地入りした。最初のタイトルは内容に近い「La bestia」(獣)であったが、8月にシッチェスFFにノミネートが決まったさいに現在のタイトルに変更したそうです。製作者によると〈荒れ野〉は「歴史を掘り下げるための重要な要素であり、撮影地としてアラゴン州のテルエルを選んだ」ということです。

 

     

(アシエル・フローレスとダビ・カサデムント、シッチェス映画祭、フォトコール)

 

  

(左から、ロベルト・アラモ、アシエル少年、インマ・クエスタ、監督、同上)

 

 『荒れ野』El páramo / The Wasteland

製作:Rodar y Rodar Cune y Televisión / Fitzcarraldo Films

監督:ダビ・カサデムント

脚本:ダビ・カサデムント、マルティ・ルカス、フラン・メンチョン

音楽:ディエゴ・ナバロ

撮影:アイザック・ビラ

編集:アルベルト・デ・トロ

キャスティング:ペップ・アルメンゴル

プロダクション・デザイン:バルテル・ガリャル

美術:マルク・ポウ

セット:タイス・カウフマン

衣装デザイン:メルセ・パロマ

メイクアップ:(特殊メイク)ナチョ・ディアス、ヘスス・ガルシア、(アシスタント)ミリアム・ティオ・モリナ

特殊効果:The Action Unit

プロダクション・マネージメント:エドゥアルド・バリェス

製作者:ジョアキン・パドロ、マル・タルガロナ、マリナ・パドロ・タルガロナ

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、ホラー・ミステリー、92分、撮影地アラゴン州テルエル、期間6週間、配給Netflix、配信202216

映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2021正式出品

 

キャスト:アシエル・フローレス(ディエゴ)、インマ・クエスタ(母ルシア)、ロベルト・アラモ(父サルバドール)、アレハンドロ・ハワード(父の妹フアナ)、マリア・リョプ(獣ビースト)、ビクトル・ベンフメア(ボートで流れ着いた男)

 

ストーリー19世紀のスペイン、ディエゴの家族3人は打ち続く戦禍を逃れて、社会から遠く離れた荒れ野に住んでいる。この小さな家族は訪問者を受け入れず、ただ平和に暮らすことが願いだった。ある日のこと、瀕死の重症を負った一人の男がボートで流れ着く。突如として家族の平穏は破られる。一命を取りとめたにもかかわらず男が自ら命を絶つと、父サルバドールは母ルシアの反対を押しきり遺体を家族のもとに届けると荒れ野を出て行く。残された二人はひたすら帰りを待つのだが、この小さな家に暴力的な謎の生き物が出没しはじめる。成長していくディエゴの視点を通して、社会からの逃避と孤立、深い孤独と恐怖、監禁、喪失、父親の不在、心の脆さ、母の狂気と別れが描かれる。私たちは果たして現実と決別して生きられるのか。

   

          

           (母ルシア、ディエゴ、父サルバドール)

 

監督紹介ダビ・カサデムントは、19844月バルセロナ生れ、監督、脚本家、編集者、作曲家、製作者。2006年カタルーニャ映画視聴覚上級学校 ESCAC を卒業、2007年から助監督や短編、ビデオショート、ドキュメンタリーを撮り、5年の準備期間を費やしEl páramo」で長編デビューする。2014年の「La muerte dormida」(15分)がファンタスティック・シネマ・フェスティバル2015で監督部門の審査員賞、短編映画賞2015ドラマ部門SOFIEを受賞した他、ノミネーション多数。本作は現在でもYouTubeで英語字幕入りで鑑賞できる。主な短編映画は以下の通り:

2007年「Jingle Bells

2009年「Paliza a Pingu

2012年「Te he echado de menos」(ビデオショート、共同監督)

2014年「La muerte dormida

2014年「Una vida M.

2016年「Rumba Tres: De ida y vuerta」(ドキュメンタリー、共同監督)

2016年「Compta amb mi

2021年「El páramo」(長編デビュー作)

 

 

      コロナウィルスのパンデミックが脚本に変化をもたらした

 

A: ジャンル的にはホラー映画ですが、これは心理的なスリラー、ディエゴ少年のイニシエーション、多分に監督の自伝的な痕跡を感じさせます。19世紀のスペインの家族という設定が、そもそも信頼性にかけているようにも思えます。

B: 19世紀の戦争といえば、ナポレオンの侵略に反対するスペイン独立戦争(180814)、いわゆるナポレオン戦争をイメージしますが、遡りすぎます。19世紀半ばの3回にわたって繰り返されたカルリスタ戦争(183376)でしょうね。

 

A: どちらもスペイン全土に広がりましたが、特に後者は撮影地となったスペイン北部やカタルーニャ地方が戦場になった。厳密には内戦です。それより永遠に続くと思われるコロナウイリスのパンデミックをイメージした視聴者が多かったのではないか。監督も2年間のパンデミック体験を新たに脚本に取り入れたとコメントしています。

 

B: ホラーとしてはあまり怖くないのでがっかりしたホラーファンも多そうです。視聴者の「時間の無駄だった」というコメントには笑いを禁じえません。恐怖より孤立、孤独、喪失感、監禁状態の不安が強かった。

A: ディエゴ少年の視点で描かれているから、素直に少年の成長物語とも読めます。そのためには先ず庇護者であるが若干抑圧的な父親を追い出す必要があります。自立のためには父親の不在と母親との別れが求められるから、これらの要素は前半で充分予測可能なことでした。

 

     

            (ルシアに別れを告げるサルバドール)

 

B: 愛する家族を残し、見ず知らずの男の家族のためという強引な追い出し方でした。父サルバドールは息子に越えてはいけないと諭した自らつくった境界線を越えて、かつての危険な場所に戻っていく。荒れ野には二度と戻ってこないだろう。

A: 監督は15歳のとき父親を病で失っており、立ち直りに時間がかかり今でもトラウマになっていると、シッチェス映画祭のインタビューで語っています。本作は「私の一種のセラピーであって、映画が狂気から私を救ってくれた。父親はシネマニアでハリウッドのクラシック映画ファンでした。90年代には『ジュラシックパーク』『フォレストガンプ』『ブレイブハート』『タイタニック』などを父親と一緒に観のです」と語っている。

 

     

    (案山子のようなオブジェで仕切られた境界線を越えていくサルバドール)

 

B: 「映画が私を育て、人生を理解させ、幸せになることを教えてくれた」とも語っている。

A: 監督は映画を映画館で愉しむ最後の世代かもしれない。劇中のルシアと実際の母親が重なるかどうか分かりませんが、彼女の場合、夫を失うことへの不安が鬱を招き、謎のビーストの出現はルシアの絶望による幻覚かもしれない。

B: 獣は彼女自身の精神が投影されているようで、ビーストの力は本質的に心理的なものであり、本物でないことを示唆してもいる。

 

     

               (影に怯えるディエゴ)

 

A: 監督は「父親が亡くなるまでのゆっくりした衰えは永遠にあるように感じた。一緒に『エクソシスト』や『ポルターガイスト』のような古典的ホラー映画も観ました。ゴーストたちがスクリーンを駆け抜けるのが魅力だった」と。

B: 『シックス・センス』のM・ナイト・シャマランや『永遠のこどもたち』のフアン・アントニオ・バヨナのファンだそうです。しかし本作は母と息子の物語で、父親は姿を消していきます。

 

        現実との決別、狂気との闘い、純粋な暗闇

 

A: 本作はスクリーンで見るほうが奥行きが実感できそうです。いくら大型テレビに転送しても、明るい茶の間では純粋な暗闇や茫漠とした荒れ野を実感するには限界があります。監督は「スクリーンで愉しむために設計された映画がテレビで成功すること」が理想と語っていますが、本作はどうでしょうか。

B: 暗闇の中で物語は進行し、蝋燭の灯り、暖炉で燃えさかる炎、野外の撮影でも自然光で照明は極力抑えられている。光の遊びという点でロバート・エガースのホラー『ウィッチ』15)を連想した人が多かったようですが。

 

   

    (蝋燭の灯りのもと、自殺した妹フアナの話をするサルバドール)

 

A: サンダンス映画祭で監督賞を受賞している。17世紀を舞台にした魔女裁判に絡めたホラー映画、予告編しか見てないのですが、テーマは異なっています。影に隠されているものが何か、闇は恐怖であり、孤独感や喪失感かもしれない。ロベルト・アラモインマ・クエスタが、永遠の恐怖に悩まされている夫婦に命を吹き込んでいる。

B: 真っ暗闇の恐怖と、開けられた窓から射しこむ光、風と樹々の音のあいだで、私たちの緊張は和らげられる。本作は時代や出身地と関係なく、私たち全員に等しく関係する普遍的な物語です。


A: 主役ディエゴを演じたアシエル・フローレス20113月)は、ペドロ・アルモドバル『ペイン・アンド・グローリー』19)で映画デビュー、何本かTVシリーズに出演している。アルモドバル映画では、アントニオ・バンデラスが扮したサルバドールの少年時代を演じた。そこではペネロペ・クルスラウル・アレバロが両親になるという幸運に恵まれた。

 

     

 (アシエル、ペネロペ・クルス、ラウル・アレバロ、『ペイン・アンド・グローリー』)

 

B: 本作撮影当時は10歳くらいだったが、6週間に及ぶテルエルの監禁生活によく耐えた、と監督以下スタッフから褒められている。

A: 子役が大人の俳優として成功するのは難しい。現在小学校の高学年、本格的な教育はこれからです。髪も目の色もブラウン、彼の大きく開いた目に映る人影は何のメタファーか。

 

    

              (ディエゴの目に映る人影)

 

B: もう一人の子役、父サルバドールの妹フアナ役のアレハンドラ・ハワード20102月)は、バルセロナ生れ。

A: 父親はカリフォルニア生れの俳優スティーブ・ハワードでアサイヤスの『WASPネットワーク』や、TVシリーズに出演している。母親はカタルーニャ出身ということで、アレハンドラは英語、スペイン語、カタルーニャ語ができる。従って英語映画やアニメのボイスなどで活躍できる基礎ができている。

         

              

                      (フアナ役のアレハンドラ・ハワード)

 

B: 今回は小さい役でしたが、第一次世界大戦のポルトガルのファティマを舞台にしたマルコ・ポンテコルボFatima20『ファティマ』)では生き生きしている。プライム・ビデオ他で配信されている。

A: 1917年のファティマの聖母の史実を元にしたアメリカ映画です。他にマリベル・ベルドゥが主演のTVシリーズAna Tramel. El juego21)に出演、将来的には大人の女優を予感させます。

 

B: ベテラン演技派のインマ・クエスタとロベルト・アラモは、何回も登場させているので今回は割愛します。クエスタはダニエル・サンチェス・アレバロの『マルティナの住む街』11)がラテンビートで上映されたとき、一番光っていた俳優でした。期待を裏切らない女優です。

 

    

       (夫から贈られた赤いドレスを着て闘うルシアとディエゴ)

パコ・プラサの新作ホラー「La abuela」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑪2021年08月12日 18:26

      『エクリプス』のパコ・プラサの新作はホラーLa abuela

 

      

 

パコ・プラサのセクション・オフィシアルは初めて、金貝賞を競うことになった。新作La abuelaホラー、脚本を『マジカル・ガール』や『シークレット・ヴォイス』の監督カルロス・ベルムトが手掛けているのが話題を呼んでいる。祖母役にココ・シャネルのお気に入り、195060年代に世界で最も人気のあったモデルの一人、ヴェラ・バルデス(リオデジャネイロ1936)を起用、その孫娘に前回アップしたフェルナンド・レオンEl buen patrónで長編映画デビューしたアルムデナ・アモールが抜擢されている。新旧世代のコントラスト、老いの恐怖がテーマのようだ。

    

        

       (アルムデナ・アモール、プラサ監督、ヴェラ・バルデス)

 

La abuela(「Grandmother」)

製作:Apache Films / Apache AIE / Atresmedia Cine / Les Films Du Worso

監督:パコ・プラサ

脚本:カルロス・ベルムト、(アイデア)パコ・プラサ

撮影:ダニエル・フェルナンデス・アベリョ

キャスティング:フランソワ・リヴィエール

プロダクション・デザイン&美術:ライア・アテカ

衣装デザイン:ビニェト・エスコバルVinyet Escobar

メイクアップ:(特殊メイク)ナチョ・ディアス、フアン・オルモ、ルベン・セラ、他

プロダクション・マネージメント:ダビ・ラゴニグ

特殊効果:ラウル・ロマニリョス、他

録音:ガブリエル・グティエレス、他

製作者:エンリケ・ロペス・ラヴィーン(Apache Films)、ピラール・ロブラ

 

データ:製作国スペイン=フランス、スペイン語、2021年、ホラー、100分、撮影地マドリード、パリ、撮影期間2020年夏、配給ソニーSony Pictures、スペイン公開20211022日決定、公開後アマゾン・プライム・ビデオにて配信予定。

映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル正式出品

 

キャスト:アルムデナ・アモール(スサナ)、ヴェラ・バルデス(祖母ピラール)、カリナ・コロコルチコワ(エバ)、チャチャ・ホアンHuang(ウェートレス)、Michael Collisマイケル・コリス(乗客)

 

ストーリー:スサナはモデルとして働いていたパリの生活を一旦止めて、マドリードに戻らねばならなくなった。両親の死後、我が子のように育ててくれた祖母ピラールが脳溢血で倒れ、介護者を必要としていたからだ。数日間の滞在と考えていたのだが、まもなく超常的な悪夢へと変貌していく。若い女性の人生をを変えてしまう悪夢、私たちが触れたくない老いの恐怖が語られる。

 

       

                (スサナと祖母ピラール)

 

    「ジャンルシネマは比類のない創造的な自由がある」とパコ・プラサ

 

★パコ・プラサ(バレンシア1973)は、監督、脚本家、製作者、編集者。CEU サンパブロ大学、バレンシア大学で情報科学の学士号、マドリード・コミュニティ映画視聴覚上級学校ECAMの映画監督の学位を取得している。英語、フランス語に堪能、1995年監督デビュー、短編「Abuelitos」(99)や「Rompecabezas / Puzzles」(01)でキャリアをスタートさせた。2001年、長編デビュー作Los hijos de Abrahamがシッチェス映画祭2001ファンタスティック映画ヨーロッピアンのグランプリを受賞、2004年ホラーサスペンスRomasanta. La caza de la bestiaでマラガ映画祭監督賞を受賞した。しかしなんといっても彼の存在を世に示したのは、ジャウマ・バラゲロと共同で監督したホラーRECレック』07)だったでしょう。

 

     

     (単独で監督した『RECレック3 ジェネシス』のスペイン版ポスター)

 

★シリーズ・レックは4作あり、第1作と2作が共同で監督、3作目がプラサ単独(レティシア・ドレラ主演)、4作目がバラゲロ単独です。国際映画祭で合計26賞したと言われる大ヒット作でした。プラサ監督は20147月インスティテュート・セルバンテス東京で開催された<スペインホラー映画上映会>のため来日、講演している。他にアメナバルの『テシス』やバヨナの『永遠のこどもたち』などが上映された。パートナーのレティシア・ドレラの映画をプロデュースしている。

 

2017年に撮ったホラーVerónica(邦題『エクリプス』)がゴヤ賞2018で作品賞を含む7カテゴリーにノミネートされた折り、少しだけ監督紹介をしています(受賞は録音賞のみ)。「私たちは男性優位で女嫌いの社会に暮らしている」と、警鐘を鳴らしていた。ルイス・トサールを起用して撮ったスリラーQuien a hierro mataは、共演のエンリク・アウケルにゴヤ賞2020の新人男優賞をもたらした。この度ホラーに戻ってきたのが本作「La abuela」です。

『エクリプス』の紹介記事は、コチラ20180201

    

      

            (『エクリプス』のスペイン版ポスター

 

★新作のインタビューで「ジャンルシネマは、私たちに関係する問題を話すのに最適です。比類のない創造的な自由を利用して現実について語ることができる」と監督。方や脚本を手掛けたカルロス・ベルムトは、「ホラーの脚本をずっと書きたいと思っていました。チャンスが与えられて幸運でした。ホラーは現在最も革新が行われている、X線撮影が可能なジャンルの一つです。本作は、私たちの社会が怖れているあまり隠し続けているもの、それは老いです」とコメント、どうやらテーマの一つはアンタッチャブルな老後のようです。

 

      

         (タッグを組んだカルロス・ベルムトとパコ・プラサ)

 

★主役の一人84歳になるヴェラ・バルデスは、モデル引退後ブラジルに戻り舞台女優として活躍していたそうですが、ここ最近映画に出演している。パラグアイの監督パブロ・ラマルのデビュー作La última tierraに出演、監督がロッテルダム映画祭2016のタイガー賞スペシャル・メンションを受賞している。上述したようにアルムデナ・アモールは未知数、共演者のチャチャ・ホアンは、ラウラ・アルベア&ホセ・オルトゥーニョのサイコ・ホラーÁnimas18)に主人公のガールフレンド役で出演している。『アニマ』の邦題でNetflixで配信されている。

 

       

       

          (ピラール役のヴェラ・バルデス、映画から)

 

   

(撮影中のアルムデナ・アモールとプラサ監督)

  

    

          (スサナ役のアルムデナ・アモール、映画から)


近未来SF「El hoyo」*ゴヤ賞2020 ⑫2020年01月14日 14:31

        El hoyo」はシッチェス映画祭2019のグランプリ作品

 

  

   

★シネアスト紹介に時間が取られ作品紹介がストップしていました。ガルデル・ガステル=ウルティアのデビュー作El hoyoは、新人監督賞・オリジナル脚本賞・特殊効果賞の3カテゴリーにノミネートされました。タイトルの意味は地中に掘られたズバリ<>ですが、唯の穴ではなくエゴイズムの穴のようです。ホラー、SF、スリラーなどジャンル分けを拒否している風ですが一応近未来SFです。トロント映画祭ミッドナイト・マッドネス部門でワールドプレミア、観客賞受賞を皮切りに、シッチェス映画祭2019の作品賞・新人監督賞・ビジュアル効果賞・観客賞の4冠を制覇した。ゴヤ賞の他、結果待ちのスペイン映画賞のうち、フェロス賞、ガウディ賞にもノミネートされています。Netflix配信決定の記事に接し、やれ嬉しやと思いきや、よく読むとアジア諸国は除外されているのでした。

 

       

   (作品賞のトロフィーを手にした監督とスタッフ、シッチェス映画祭2019ガラ)

 

ガルデル・ガステル=ウルティアは、1974年ビルバオ生れの監督、脚本家、製作者。カテゴリー新人監督賞で触れたように短編2作を撮っている。このカテゴリーには『列車旅行のすすめ』のアリッツ・モレノもいるので予想は難しいが彼もサンセバスティアン生れとバスク出身、ベレン・フネスとサルバドール・シモーがバルセロナだから、若いシネアストはマドリード派以外から輩出しているようだ。

 

★ガステル=ウルティア監督がシッチェス映画祭で語ったところによれば、構想から4年掛かったが、撮影には「6週間しかかけられなかった」と語っている。「この映画の目論見は、愛情をもって額面通り以上に観客を誘導することなんです。主人公ゴーレンが陥っている事柄にどうやって対処するか、私たちのエゴイズムや無関心を他人の苦しみのほうへ観客を誘導させたいと思っている。人間であることは、あくまで個人的な意見ですが、ある種不幸なことなのです。この映画は泣き続け求め続けるエゴのボールの誕生に抗して闘うことについて語っています」と監督。

 

        

   (作品賞以下3つのトロフィーを手にしたガステル=ウルティア、シッチェスFF2019

 

 

 El hoyo(英題The Platform

製作:Basque Films / Mr. Miyagi Films / Plataforma La Película AIE

監督:ガルデル・ガステル=ウルティア

脚本:ダビ・デソラ、ペドロ・リベロ

撮影:ジョン・D・ドミンゲス

音楽:アランサス・カジェハ

編集:エレナ・ルイス、アリッツ・スビリャガ

美術:アセギニェ・ウリゴイティア

特殊効果&視覚効果:イニャキ・マダリアガ、マリオ・カンポイ、イレネ・リオ

製作者:カルロス・フアレス、ラケル・ぺレア、アンヘレス・エルナンデス、他

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2019年、SF、ファンタジー・スリラー、ホラー、94分、公開スペイン118日、映画館上映後Netflix配信が決定(アジアは除く)

 

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019ミッドナイト・マッドネス部門」でワールドプレミア、観客賞受賞、シッチェス映画祭2019の作品賞・新人監督賞・ビジュアル効果賞・観客賞受賞、トリノ映画祭2019脚本賞受賞。以下はノミネーション、ゴヤ賞2020新人監督賞・オリジナル脚本賞・特殊効果賞、フェロス賞2020作品賞・監督賞・脚本賞・助演女優賞(アントニア・サン・フアン)、予告編賞(ラウル・ロペス)、ポスター賞(エドゥアルド・ガルシア)、ガウディ賞2020脚本賞・視覚効果賞・作品賞(カタルーニャ語以外部門)など。

 

キャスト:イバン・マサゲー(ゴーレン)、ソリオン・エギレオル(トリマガシ)、アントニア・サン・フアン(イモギリ)、エミリオ・ブアレ(バアラト)、アレクサンドラ・マサングカイ(ミハル)、マリオ・パルド(バアラトの友人)、エリック・ゴーデ(ブランバング氏)、ほか囚人、レストラン支配人、料理人など多数

 

ストーリー:近未来のある刑務所舞台、一人の男ゴーレンが真ん中に巨大な穴が開いているコンクリートの部屋で目覚めると、見知らぬ男が一緒だった。ベテランの囚人トリマガシである。地下に掘られた穴は垂直に何階にも分割され、ここはレベル18のようだ。床は階下の天井であり、天井は上階の床でもある。レベル0の居住者が社会的強者、彼らが食べ残した料理が順々に下りてくるが、止まっているのは2分だけ、猛スピードで食べなくてはならない。自分のレベルまで毎日ご馳走が下りてくることは期待できないからスピードが求められる。運次第でレベルを変えることもできるが、個々の違いを乗り越えて団結しなければ、今や正気をたもつことはできない。社会的不平等とエゴイズムむき出しの不正行為、団結と連帯が語られる。

  

          

 

      エゴイズムの穴――社会的不平等についての薄暗いメタファー

 

★インパクトのある予告編を見ただけで食欲が失せてしまうでしょうか。かなり政治的なメッセージが読み取れます。近未来がバラ色でないことは判っているが、今より富の不正な分配が進み、社会的不平等が促進されるとするなら、ばらばらに分断された個人のミッションは何か。最下位が見えない分割されたコンパートメントは、閉所恐怖症に陥りかねない。カナダのヴィンチェンゾ・ナタリが国際映画祭で数々の作品・監督賞を受賞したSFスリラーCube97『キューブ』)を思い起こさせるようなシーンが頻出するようです。本作もシッチェス映画祭1998の作品賞を受賞しています。本邦では公開後テレビ放映(吹替)もされた。

 

       

  (主役イバン・マサゲーとソリオン・エギレオル、シッチェス映画祭のフォトコール)

   

    

         (料理を貪り食う同階の住人トリガマシ、映画から)

 

イバン・マサゲー(バルセロナ1976)は、2000TVシリーズでデビューした俳優。ゴヤ賞関連ではノミネーションもありません。しかしTVシリーズでは主役を演じるほど人気がある。ギレルモ・デル・トロが「批評家からも観客からも受け入れられた初めての作品」と語った『パンズ・ラビリンス』06)でセルジ・ロペス扮する冷酷無比なビダル大尉に抵抗するマキの兵士エル・タルタ役で出演している。その特徴ある鼻ですぐ分かる。他にダビ&アレックス・パストル兄弟のSFスリラー『ラスト・デイズ』13)でホセ・コロナドやキム・グティエレスと共演している。TVシリーズのコメディGym Tony1416回)では、下町のジムのオーナー、トニー役でお茶の間の人気者になった。

 

  

                     (ゴーレン役イバン・マサゲー、映画から)

 

     

 (エル・タルタ役のイバン・マサゲーとセルジ・ロペス、『パンズ・ラビリンス』から)

 

★アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』99)で、女性に性転換した男性を演じて多くのファンの心を掴んだ、アントニア・サン・フアンが出演する。1961年グランカナリア島ラス・パルマス生れの女優、監督、脚本家。2本の長編、5本のショートを監督している。うち2005年のディエゴ・ポスティゴと共同で撮り、自身も主演したLa China20分)がNYシティ短編映画祭(外国語映画部門)作品賞、パルマ・スプリング短編映画祭で審査員賞を受賞したほか、メディナ映画祭では女優賞を受賞した。ゴヤ賞関連では『オール・アバウト・マイ・マザー』で新人賞にノミネートされ、俳優ユニオンでは助演女優賞を受賞している。劇場公開作品では、ラモン・サラサールの『靴に恋して』02)がある。他イバン・マサゲー主演のTVシリーズ「Gym Tony」(1415110話)に出演して、ジムの受付、メンテナンス責任者、同時に清掃員と三面六臂の大活躍。非常に頭の回転の速い女優で、ゴヤ賞の総合司会者を務めたことがある。

   

        

                     (イモギリ役のアントニア・サン・フアン)

 

     

    (名演技を披露したアントニア、『オール・アバウト・マイ・マザー』から)

 

 (短編La China」のポスター

  

   

★オリジナル脚本賞ノミネーションのダビ・デソラ(バルセロナ1971ペドロ・リベロ(ビルバオ1969のキャリアは、オリジナル脚本賞でご紹介しています。 

カテゴリー「オリジナル脚本賞」の記事は、コチラ20191226

*追加情報: 『プラットフォーム』の邦題でプライムビデオ他でストリーミング配信された。
  

『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』*デ・ラ・イグレシア2017年04月04日 21:03

         ドタバタ密室劇はメタファー満載のホラー・コメディ

 

 

            (監督も閉じ込められて出られません)

 

A: 「シネ・エスパニョーラ2017」という、スペイン語をちょっと齧っただけの人でも「?」なタイトルのミニ映画祭、タイトルこそヘンテコですが、スペイン語映画の最新話題作5を纏めて見られる貴重な映画祭でした。ラテンビートと違って字幕は英語版からで不満は残りますが、それを言ったらきりがないと割り切るしかありません。それでも作品それぞれに付いた長たらしい副題は蛇足だと言いたい。

B: スペイン語はまだまだマイナー言語、上映してもらえるだけで感謝したい、邦題になどイチャモンつけてる余裕がない(笑)。新作をこれだけまとめたラインナップはなかなか企画してもらえない。スリラー、アクション・コメディ好きは、そこそこ楽しめたのではないか。 

 

A: まずベルリン映画祭の特別招待作品(コンペティション外)でワールド・プレミアしたアレックス・デ・ラ・イグレシア『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』、ベルリンで監督が「この映画のテーマは思考停止だ」と語っていたように、ドッキリ映画を装いながら、普通の人間が死の恐怖にさらされたらどうなるかを描いている。

B: 前半の15分ほどはシリアス・コメディ・タッチだが、それ以降は笑うに笑えない。登場人物たちは各自現状に不満を抱いているが、そう取りたてて悪人ではない。ところが本当のテキが分からないから、一人の「思考停止」が全員に伝染病のごとく広がってしまう。敵がバルの外にいるだけなのか中にもいるのか分からない。人間のエゴイズムもテーマの一つです。

 

A: スペイン人はチームプレイが得意ではない。デュマの『三銃士』の合言葉じゃないが、「万人は一人のために、一人は万人のために」とはいかない。疑心暗鬼も伝染病のように広がります。恐怖はカビのように増殖する。ちょうど1980年代のエイズ患者バッシングのように、ハグしあった親友同士も「見知らぬ人」と握手も拒んだ。

B: 現在のマドリードのバルが舞台ですが、スペインで過去に起こったこと、また未来に起こりうることでもあり、メタファーの取り方で面白さは変わってくる。

 

         「社会的問題を描くのが第一の目的ではないが・・・」 

 

A: 監督の生れ故郷バスクでは過去に起こったテロ事件、対する国民大衆の無関心などに思いを馳せた観客もいたと思いますね。当時大人たちは、銃声が聞こえてきても関わり合いになりたくないから聞こえなかったことにした。監督によれば「社会的問題を描くのが第一の目的ではないが、背景にそれなくして私の映画は成立しない」と語っている。

B: 一瞬にして無人となった繁華街の不気味さ、国家権力に烏合するメディアの情報操作、謎の狙撃者の狙いは何か、グロテスクを排除しないアレックスの映画手法を堪能できます。

 

A: 作品紹介でも触れたように**、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』スティーヴン・キングの『ミスト』、またはブニュエルの『皆殺しの天使』からヒントを得ている。

B: いわゆる「クローズド・サークル」の代表作品ですね。

A: 特にブニュエル作品では知識階級に属する全員が思考停止になってしまう。知識など役に立たない。誰もいなくなってしまうのか、あるいは誰か残れるのか、チームプレイの不得手な人々の生き残りをかけた椅子取りゲームが後半の見所です。

 

B: スリラー劇ですからネタバレは御法度ですが、主役ブランカ・スアレスの下着姿にくぎ付けになっていると本質を見失います。今後どんな映画が公開されるか分かりませんが、少なくとも来年のゴヤ賞ノミネートは決まりだね。

A: 主役はマリオ・カサスではなさそうですね。際立っていたのがイスラエル役のハイメ・オルドーニェス、襤褸着のなかから現れる筋骨隆々にはびっくりしました。いつでも闘えるように肉体は鍛えておかねばなりませんし、見掛けで人を判断してはいけないという道徳教育の映画でもあります。 

 

  (サディスティックな監督に油まみれの下着姿にさせられたブランカ・スアレス)

 

B: 役に立つ教訓的なお話でもあります。アレックス映画ではお馴染みのセクン・デ・ラ・ロサの言い分には泣けてきます、使用人は常に辛くて弱い立場です。

A: 特に老いてますます盛んなテレレ・パベスのような強権的な雇い主の下で働くのは「一に辛抱、二に忍耐、三四が無くて、五に我慢」です。

 

B: 『グラン・ノーチェ! 最高の大晦日』につづいて出演のカルメン・マチ、頭の回転が速くてどんな役でもこなすカメレオン女優です。

A: エミリオ・アラゴンの『ペーパー・バード幸せの翼にのって』(10)がラテンビートで上映されたとき監督と一緒に来日、気軽に来場者との写真撮影にも応じていました。公開が確実なアルモドバル映画の常連さんでもあるから、ファンも多いほうかもしれない。本作はマラガ映画祭2017のオープニング作品でした。

 

    

  (セクン・デ・ラ・ロサ、マリオ・カサス、ハイメ・オルドーニェス、カルメン・マチ)

  

  *主な出演者紹介*

キャストブランカ・スアレス(客エレナ)、マリオ・カサス(客ナチョ)、セクン・デ・ラ・ロサ(バル店員サトゥル)、ハイメ・オルドーニェス(浮浪者イスラエル)、テレレ・パベス(バル店主アンパロ)、カルメン・マチ(客トリニ)、ホアキン・クリメント(客アンドレス)、アレハンドロ・アワダ(客セルヒオ)他

 

ベルリン映画祭のインタビュー記事は、コチラ2017226

**作品紹介の記事は、コチラ2017122

  

ハビエル・バルデム*古典ホラー『フランケンシュタイン』のリブートに出演?2016年07月25日 15:33

         フランケンシュタイン博士、あるいはモンスター役?

 

★ショーン・ペンのアフリカ内戦もの『ザ・ラスト・フェイス』(“The Last Face”)が今年のカンヌ映画祭でワールド・プレミア、シャーリーズ・セロンと共演(公開が予定されている)、今年夏公開が予定されていた「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ第5は遅れて来年になる由、久々のスペイン語映画フェルナンド・レオン・デ・アラノアのEscobar(麻薬王パブロ・エスコバルのビオピック、妻ペネロペ・クルスと共演)、ダーレン・アロノフスキーの新作ジェニファーローレンスと出演、更にイランのアスガル・ファルハディの新作に夫婦で出演、来年夏にはスペインでのクランクインが予定されている。

 

★“Escobar”は、コロンビアのメデジン・カルテルの麻薬王パブロ・エスコバルの伝記映画。エスコバルの1980年代の愛人、元ジャーナリストのビルヒニア・バジェッホの同名回想録“Amando a Pablo, odiando a Escobar”(2007年刊)の映画化。バルデムがエスコバル、クルスが愛人ビルヒニアになります。

 

    

             (ハビエル・バルデムとペネロペ・クルス)

 

★そして今回アナウンスされたのが、1930年代にユニバース・ピクチャーズが製作した一連のホラー映画の一つ『フランケンシュタイン』のリブート出演のニュースです。本作はイギリスのメアリー・シェリー(17971851)が、1818年に匿名で発表したゴシック小説『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』を、1931年にジェイムズ・ホエールが映画化したもの(当時の女性作家は匿名)。ボリス・カーロフが扮した怪物の造形イメージが今日でもモンスター像として定着している。小説と映画の人物造形にはかなりの違いがあり、新作が原作重視か、あるいは映画重視かは分からない。そもそもバルデムがフランケンシュタイン博士になるのかモンスターになるのかさえ不明である。今後も紆余曲折がありそうです。製作は2019年と大分先になるようだ。

 

  

       (ボリス・カーロフ、1931年映画版のフランケンシュタインの怪物)

 

★ジェイムズ・ホエールは1935年に『フランケンシュタインの花嫁』も監督しており、モンスターは同じくボリス・カーロフが扮した。こちらには原作者のメアリー・シェリーまで登場するというもので、ますます原作から離れてしまっている。新作「フランケンシュタイン」には、両作を合体させるのかもしれない。資金力はあっても企画力が乏しくなっているせいか、リブートだのリメイクだの新鮮味に欠けるニュースのご紹介です。

 

★新作は、昨年の夏以来、アレックス・カーツとクリス・モーガンを主軸に、ユニバース・ピクチャーズが「古典モンスター映画」のリブートを企画した第3作目に当たる。第1作は『ミイラ再生』(1932)の“The Mummy”、トム・クルーズが主役のタイラー・コルトに、ラッセル・クロウがジキル博士を演じた。このジキル博士役のオファーをバルデムが断ったと聞いている。20176月公開予定。第2作が『透明人間』(1933)、ジョニー・デップが主役を演じる。

 

アスガル・ファルハディの新作の記事は、コチラ⇒2016年06月06


新人監督賞『トガリネズミの巣穴』3個*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑧2015年01月30日 17:47

                     新世代の監督たちが輩出した年でした!

    

★カルロス・サウラがフェロス賞栄誉賞受賞の折りに「新しい世代が育って、スペイン映画の未来は明るい」と述べたように、昨年は新人監督の活躍が際立った年でした。マラガ映画祭2014の大賞受賞者は全て新人監督がゲットしました。その折りサウラも旧作『従姉アンヘリカ』が「金の映画賞」を受賞するので来マラガしていたから新世代にエールを送ったのかもしれない。サウラにとって彼らは孫世代ですからね。新人監督賞ノミネーション4作品は以下の通り、(3)以外は当ブログに登場しています。

 

1カルロス・マルケス≂マルセCarlos Marqués-Marce 10.000 km

マラガ映画祭201444日&411
2 フアンフェル・アンドレスエステバン・ロエル Juanfer Andrés y Esteban Roel

Musarañas『トガリネズミの巣穴』(トロントFF2014813LB 20141022
3クーロ・サンチェス・バレラCurro Sánchez Varela Paco de Lucía: La búsqueda
4ベアトリス・サンチス Beatriz Sanchís Todos están muertos

マラガ映画祭2014411、トロントFF2014813

 


◎フアンフェル・アンドレスエステバン・ロエル 

★ラテンビート2014スクリーンで見た作品ということで贔屓目もありますが、『トガリネズミの巣穴』がトップを走っているのではないでしょうか。

MusarañasShrew’s Nest2014 スリラー・ホラー 95分 

ノミネーション3個は、新人監督賞主演女優賞(マカレナ・ゴメス)とメイク・ヘアメイク賞(ペドロ・ロドリゲス、カルメン・ベイナト、他)です。エグゼクティブ・プロデューサーにアレックス・デ・ラ・イグレシア、カロリーナ・バングという有力布陣でニュース・バリューもあり、各紙のコラムニストも好意的。トロント映画祭2014「バンガードVanguard 部門でワールド・プレミア、続いてスペインのシッチェス・ファンタジック映画祭正式出品、ラテンビートがアジアン・プレミアでした。


新人監督賞:二人とも本作が長編デビュー作、二人は共にマドリードの映画研究所の受講生。彼らの短編0362011)は、Youtube 200万回のアクセスがあり数々の賞を受賞した。本作は上述したようにデ・ラ・イグレシアがファンタジー、スリラー、ホラーと才能豊かな若い二人に資金援助をして製作された。カロリーナ・バングはデ・ラ・イグレシアの異色ラブストーリー『気狂いピエロの決闘』(2010)に曲芸師として出演、本作にも脇役で登場。短編“036”出演が機縁でプロデューサー・デビューした。 

   

                   

         (左から、エステバン・ロエル、フアンフェル・アンドレス)

 

主演女優賞マカレナ・ゴメスMacarena Gomez1978年コルドバ生れ、女優。デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』に出演、狂気の「マドリードの魔女」を演じた。スパニッシュ・ホラーには欠かせない存在になっている。未公開だが、ミゲル・マルティのコメディ・ホラー“SexyKiller, morirás por ella”(2008)が『セクシー・キラー』の邦題でDVD化された。本作は「ブリュッセル・ファンタジー映画祭」ペガサス観客賞を受賞、マカレナ自身もスペイン俳優組合賞にノミネートされた。その他、アントニア・サン・フアンの監督第2作コメディ“Del lado del verano”(2012)では主役タナに起用された。「14歳のとき女優になろうと決心した。先輩女優の演技から学ぶことが多く、特にベロニカ・フォルケから影響を受けている」と語っている。私生活ではミュージシャンのアルド・コマスと結婚、今夏ママになる予定。

 

     

 (マカレナ・ゴメス、映画から)

 

プロット:広場恐怖症のモンセ(マカレナ・ゴメス)の物語。1950年代のマドリード、母親が出産したばかりの赤ん坊を残して死んでしまうと、臆病な父親(ルイス・トサール)は耐えきれなくなって蒸発してしまう。モンセは不吉なアパートから一歩も出られず、父と母と姉の3役を背負って青春を奪われたまま、義務感から洋服の仕立てをしながら赤ん坊を育てていた。苦しみから主の祈りとアベマリアの世界に逃げ込んで、今では一人の女性に成長した妹(ナディア・デ・サンティアゴ)を通して現実と繋がっている。ある日のこと、この平穏の鎖が断ち切られる。上階の隣人カルロス(ウーゴ・シルバ)が不運にも階段から落ち、唯一這いずってこられるモンセの家の戸口で助けを求めていた。誰か特に若い男がトガリネズミの巣に入ってしまうと、たいてい二度とは出て行かれない。

 

★多くの批評家が、1960年代のマリオ・バーヴォ『血ぬられた墓標』1960)との類似性を指摘している。イギリス女優バーバラ・スティールがヒロインを演じた伝説的なイタリアン・ゴシック・ホラー映画。また、ナルシソ・イバニェス・セラドールの第1作“La residencia”(1969)、ドン・シーゲルの『白い肌の異常な夜』1971)を思い起こさせるという人も。さしずめイーストウッドがカルロス役のウーゴ・シルバというわけです。マカレナは、ホセ・ルイス・ボラウがマヌエル・グティエレス・アラゴンと撮ったスパニッシュ・ホラー“Furtivos”(1975)の主演女優ローラ・ガオスが演じた恐ろしい母親とも比較されてもいる。本作はサンセバスチャン映画祭の「金貝賞」受賞作品。しかし、なんといっても似ているのは、ロブ・ライナーの『ミザリー』1990)です。モンセの複雑な動きをする心理は、キャシー・ベイツ扮するアニーにそっくり。彼女は本作でアカデミー主演女優賞に輝いたが、それに倣ってマカレナも狙えるか、やはり“Magical Girl”のバルバラ・レニーでしょう。

  


カルロス・マルケス≂マルセ

★春4月に開催されるマラガ映画祭の大賞を独占した作品ですが、ゴヤ賞は、どうしてもアカデミー会員の記憶が薄れてしまいますから、苦戦すると思います。それでゴヤ賞狙いは秋開催のサンセバスチャンに焦点を合わせるわけです。

*“10.000 KM”のノミネーション3個は、新人監督賞新人女優賞新人男優賞

マラガ映画祭2014の作品賞「金のジャスミン賞」受賞作品。カルロス・マルケス=マルセが最優秀作品賞金賞)、最優秀監督賞最優秀新人脚本賞(共同執筆者クララ・ロケ)、ナタリア・テナが最優秀女優賞、他にFNACから批評家特別賞(マラガは作品賞以外はすべて銀賞です)を受賞。他にガウディ賞2015のカタルーニャ語以外の部門に作品賞監督賞男優賞女優賞などがノミネーションされている。発表は間もなくの21日です。

 

プロット:アレックスとセルジの二人はバルセロナで恋に落ち一緒に暮らしていたが、今は別々のアパートで孤独な一人暮らしだ。写真家のアレックスはロスアンゼルス、セルジはバルセロナ。アレックスがロスの奨学資金を貰って1年間の予定でアメリカに発ってしまったからだ。親になることも凍結した二人の会話はすべてインターネット越し、果たして10,000キロ離れた愛の行方は?

 

カルロス・マルケス=マルセ Carlos Marqués-Marce は、バルセロナ生れの30歳、監督、脚本家、製作他。本作が長編第1作。短編多数、IMDb では2010年の“I’ll Be Aloneから掲載されておりますが、それ以前から撮っている。アッバス・キアロスタミとビクトル・エリセがコラボで指導しているバルセロナの映画学校に参加。スペイン最大手の貯蓄銀行ラ・カイシャLa Caixa 財団の奨学資金を得て、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLAの映画&テレビ学部、監督学科のマスター・コースに留学、この時の体験が長編デビュー作に織り込まれている。ここで製作した前述の“I’ll Be Alone がロスのラテンアメリカ映画祭、その他で上映されました。他に“Caraquemada2010)、“I Felt Like Love2013)、2012年の“The Yellow Ribbon は各地の映画祭で受賞した。 

                      

                  マルケス=マルセ監督、マラガ映画祭授賞式にて)

 

La Panda のメンバー(動物のパンダではなくグループの意味)。ロスに在住しているスペイン人11名(監督、製作者、脚本家、撮影監督、編集者など)が参加している。このグループとの出会いが刺激となって本作は誕生した由。EU加盟後のスペインは、英語を学ぶのが主流、若い世代は英米を目指すようになりましたが、長編デビュー作は「絶対スペイン語で撮りたかった」と監督。

 

新人女優賞ナタリア・テナは、1984年ロンドン生れのイギリス人、イギリス育ちの女優、歌手だが、両親がスペイン系でスペイン語が堪能。クリス&ポール()・ワイツ兄弟の『アバウト・ア・ボーイ』(2002)で映画デビュー、もう「ハリーポッター」のニンファドーラ・トンクス役でお馴染み。またジョージ・RR・マーティンのファンタジー小説『氷と炎の歌』をテレビドラマ化したシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』にオシャOcha役で出演。オースティンのSXSW映画祭2014で女優賞受賞。

 

新人男優賞ダビ・ベルダゲルは、1980年、バルセロナ生れ、俳優、脚本家。2001年よりシリーズTVドラマでデビュー、マル・コルの『家族との3日間』(2009、東京国際女性映画祭タイトル)に脇役で映画出演、本作が2作目となり、オースティンのSXSW映画祭2014で男優賞受賞。カルメ・プチェの短編コメディ“Etiquetats”(2012)に脚本を共同執筆、出演もした。

 

         

             (ナタリア・テナとダビ・ベルダゲル、映画から)

 

ベアトリス・サンチス  

Todos están muertos (ドイツメキシコ≂スペインノミネーション2個は、新人監督賞主演女優賞マラガ映画祭2014審査員特別賞受賞作品、他に最優秀女優賞にエレナ・アナヤ、オリジナル・サウンドトラック賞にAkrobats が受賞、マラガ大学が選ぶ青年審査員特別賞も受賞。

 

プロット:若いころポップ・ロック歌手として輝かしい成功をおさめていたルぺの15年後が語られる。彼女の人生に過去のある幻影が忍び寄ってくる。一方、ちょうど思春期を迎えたテーンエイジャーの息子パンチョとの関係がぎくしゃくしてイライラが募ってくる。

新人監督賞ベアトリス・サンチスBeatriz Sanchís、監督、脚本家、アート・ディレクター。エレナ・アナヤとの5年間(200813)にわたるパートナー関係を解消して本作を撮った。2010年の短編“ Mi otra mitadがワルシャワ映画祭にノミネート。

 

      

        (ベアトリス・サンチェスとエレナ・アナヤ、マラガ映画祭授賞式にて)

 

主演女優賞エレナ・アナヤの紹介は省略、ペドロ・アルモドバル『私が、生きる肌』(2011)やフリオ・メデム『ローマ、愛の部屋』(2010)などで認知度バツグンだから。2012年「マラガ賞受賞者」でもある。 

        

           (エレナ・アナヤ、映画から)

アレックス・デ・ラ・イグレシア特集 『トガリネズミの巣穴』 *LB2014 ⑫2014年10月22日 22:08

         『トガリネズミの巣穴』はスペイン発ホラー・スリラー 

  

★トロント映画祭2014「バンガードVanguard 部門でワールド・プレミア、続いてスペインのシッチェス・ファンタジック映画祭正式出品、ラテンビートがアジアン・プレミアでした。「スペイン公開前に東京で上映して頂けて製作者として本当に誇りに思う」と、エグゼクティブ・プロデューサーのアレックス・デ・ラ・イグレシアEFEのインタビューに語っていましたが、日本はスペイン産ホラーのファンが多い。スペイン公開はクリスマスの1225日が決定しています。なおMusarañasShrew’s Nest)のデータは、簡単にトロント映画祭ノミネーションでアップしていますが(コチラ⇒813)、文末にキャストとプロット、監督紹介を付録として採録しました。

 


              登壇しなかったカロリーナ・バング

  

: 21時からの上映にも拘わらず結構入っていたのは、ホラー映画だったからですかね。

: デ・ラ・イグレシア来日が大きかったのじゃないですか。一口にホラーといってもタイプによりけり、『REC』シリーズはあまり怖くないですが、これはちょっと不気味。

: 『スガラムルディの魔女』でもクレームつけましたが、共同プロデューサー、出演者でもあったカロリーナ・バングをどうして登壇させなかったんですかね。シッチェス・ファンタジック映画祭のプレス会見では並んで座っていた。写真の角度がずれてバングのプレートがウーゴ・シルバの前にきてしまっていますが。

 

      
   (左から、マカレナ、シルバ、バング、デ・ラ・イグレシア、シッチェス104

 

: 今年のゲストはたったの二人と稀少価値もあったのに。デ・ラ・イグレシアが前列に座っていたバングを見やって、「この作品は彼女が持ってきた企画です」と気遣ってましたが、二人の監督の紹介すらなかった()

: プレス会見席上、デ・ラ・イグレシアは「二人はまだ駆け出しの監督ですが、この映画は<完全に>二人の監督の映画です」と、自分に質問が集中しないよう二人の才能と経験を賞讃していました。「トビー・フーバーの『悪魔のいけにえ』4回も観たという友人と一緒に楽しみを共有できた」とも。

1974年製作のホラー映画の原点、原題は直訳すると「テキサス・チェーンソー虐殺」。4000万ドルの製作費で60億(2006データ)の収益をあげたというヒット作。

 

: 二人の新人監督とは、フアンフェルことフアン・フェルナンド・アンドレスエステバン・ロエルです。共に長編デビュー作、脚本も同じです。カロリーナ・バングは以前、二人の短編0362011)に出演しており、その関わりということです。

: Youtube 200万回のアクセスがあったという短編ですね。

: デ・ラ・イグレシアが若い二人に資金援助をして製作した。デ・ラ・イグレシアはカロリーナと新しく製作会社 PokeepsieFilmsを立ち上げ、その第1作が本作。ファンタジー、スリラー、ホラーと才能豊かな二人を船出させました。

 

              

           (シッチェスに勢揃いしたスタッフとキャスト)

 

: かつてのデ・ラ・イグレシア自身がアルモドバル兄弟の「エル・デセオ」の資金援助を受け、『ハイルミュタンテ!~』をデビューさせたのでした。

: 兄弟に足を向けては寝られない。初めてシナリオを目にしたシネアストは、「これは時代をスペイン内戦後の1940年代に設定したら面白くなる」と直感したそうです。

: 結局は1950年代のマドリードになったわけですが、50年代の一般庶民は内戦を引きずって飢え死にこそしなかったが貧しかった。それにしては姉妹の部屋は広く生活に困っているふうではなかった。

 薄暗いマンションでしたが、それに比較して調度品やコーヒーセットなどは、映画の宣伝ポスターからも分かるように高級感がありましたね。驚くことに父親がカメラを持っていた!

 

         『何がジェーンに起こったか?』がアタマにあった

 

: フアンフェル・アンドレス監督によると、シナリオを書いているあいだ常に『何がジェーンに起こったか?』が念頭にあった。

: ロバート・アルドリッチの1962年製作の映画、ベティ・デイヴィスが妹、ジョーン・クロフォードが姉を演じた。その後多くの監督のみならず俳優たちにも影響を与えたクラシック名画。

: ロブ・ライナーの『ミザリー』も挙げていた。キャシー・ベイツにアカデミー主演女優賞をもたらした、怖い映画でした。

: こちらは1990年製作だし吹替え版もあるほどだから観てる人多いでしょう。この2作は「トガリネズミ」のヒントになります。それにカメラ、ホラー・スリラーですから、衝撃のラストは言えませんけど()。ジグソーパズルのように嵌めこんでみてください。

 

: ラテンビートの上映は、まだ大阪・横浜とありますからネタバレできない。シネアストのトークの全てを書いてしまうと分かってしまう。

: 本ブログは新作とか上映中のもの、特にスリラーのネタバレは避けている。何人か血は流れますが、誰とか凶器とかは書けません。ただ普通はモンスターは男性だがここでは逆転している。怖がるのは女でなく男です。

 

: 親が子供に与える虐待は、当時も実際に起こっていたことだと語っていました。

: これはフランコ体制に対するメタファーです。本作はホラーとしてはかなり政治的メッセージが濃厚で、強制された宗教教育の弊害も盛り込まれています。

 

          モンセの妹役は最初からナディアに決めていた

 

: この映画の成功はひとえにモンセ役のマカレナ・ゴメスの怪演につきます。『スガラムルディの魔女』でもマドリードの魔女を見事に演じました()

: 監督たちも「マカレナはホラー・ファンには絶大な人気があり、彼女は日常では見せない顔を出してくれると確信していた。その通りになった」と、彼女が引き受けてくれた幸運を喜んでいた。

: 真に迫った狂気の目が印象的です。

: 素顔のマカレナ・ゴメス(1978コルドバ)はとてもかわいい。ミュージシャンのアルド・コマスと結婚、マカレナは妊娠を公開したばかり。未公開ながらミゲル・マルティのコメディ・ホラー“SexyKiller, morirás por ella”(2008)が『セクシー・キラー』の邦題でDVD化されている(2010発売)。

 

: ブリュッセル・ファンタジー映画祭でペガサス観客賞を受賞、マカレナ自身もスペイン俳優組合賞にノミネートされた。

: アントニア・サン・フアンの監督第2作コメディ“Del lado del verano”(2012)では主役タナに起用された。サン・フアンはアルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』で女性に性転換したアグラード役で、観客に鮮烈な印象を残した女優。現在は女優と監督の二足の草鞋を履いている。

: 主役のセシリア・ロスやマリサ・パレデスを食ってしまった。

 

             

           (アツアツの夫アルド・コマスとのツーショット)

 

: モンセの妹役は最初からナディアに決めていた。ナディア・デ・サンティアゴは、1990年マドリード生れだから、10代の妹役はギリギリです。12歳のテレビ・デビューから数えると結構芸歴は長く本数も比例して多い。サンティアゴ・タベルネロの『色彩の中の人生』(ラテンビート2006)や『アラトリステ』(06)にも出演している。ゴヤ賞ノミネートの話題作だったエミリオ・マルティネス・ラサロの“Las 13 rosas”(07)やハビエル・レボジョの“La mujer sin piano”(09)にも。

: 初お目見えではないわけですね。 

                          

                                    (ナディア・デ・サンティアゴ、映画から)

 

: カルロス役にはウーゴ・シルバ以外に誰が考えられますか、というほどだから決まっていたのでしょう。父親ルイス・トサールはシッチェスには現れなかったから談話は取れなかったが、相変わらずのらりくらりのカメレオン俳優だ。

: 付録としてプロットを再録しましたが、果たして真実が語られているのかいないのか、劇場でお確かめ下さい。 

               
              (ルイス・トサール、映画から)

 ≪付 録

*監督紹介:二人はともに本作が長編デビュー作。マドリードの映画研究所のクラスメイトだった。彼らの短編0362011)は、Youtube 200万回のアクセスがあり数々の賞を受賞している。本作はデ・ラ・イグレシアがファンタジー、スリラー、ホラーと才能豊かな若い二人に資金援助をして製作された。エステバン・ロエルはテレビ俳優としても活躍しているようです。カロリーナ・バングはデ・ラ・イグレシアの異色ラブストーリー『気狂いピエロの決闘』(2010)に曲芸師として出演していた女優、プロデューサーの仕事は初めて。“036”に出演している。

 

*キャスト:マカレナ・ゴメス(モンセ)、ナディア・デ・サンティアゴ(モンセの妹)、ルイス・トサール(姉妹の父親)、ウーゴ・シルバ(隣人カルロス)、カロリーナ・バング(カルロスの婚約者)、グラシア・オラヨ(モンセの顧客)、シルビア・アロンソ(顧客の姪)、他

 

*プロット:広場恐怖症のモンセの物語。1950年代のマドリード、母親が出産したばかりの赤ん坊を残して死んでしまうと、臆病な父親は耐えきれなくなって蒸発してしまう。モンセは不吉なアパートから一歩も出られず、父と母と姉の3役を背負って青春を奪われたまま、義務感から洋服の仕立てをしながら赤ん坊を育てていた。苦しみから主の祈りとアベマリアの世界に逃げ込んで、今では一人の女性に成長した妹を通して現実と繋がっている。ある日のこと、この平穏の鎖が断ち切られる。上階の隣人カルロスが不運にも階段から落ち、唯一這いずってこられるモンセの家の戸口で助けを求めていた。誰かが特に無責任だが若い男がトガリネズミの巣に入ってしまうと、たいてい二度と出て行くことはできない。                                       (文責:管理人)

 

続 『スガラムルディの魔女』 *ラテンビート2014 ⑨2014年10月18日 12:18

       『スガラムルディの魔女』― 少しトンマな男が作った悪賢い女性讃歌の映画です

★『スガラムルディの魔女』の第2弾を予告しておきながら、ラテンビートが終わったら気が抜けてしまいました。アレックス・デ・ラ・イグレシアが「バスク映画祭」に初来日したのが2001年ですから一昔前になります。今回は夏に再婚したばかりのカロリーナ・バングを伴っての再来日でした。Q&Aでは「この映画が二人に幸せをもたらしてくれた」と語っていましたが、出会いは御存じのように『気狂いピエロの決闘』(2010)で、先妻アマヤ・ディエスと離婚したのも同じ年でした(19972010)。ゴヤ賞2014の話題作で最初に公開されるのは本作と予想しましたが見事外れて、前作『刺さった男』と同日の1122日に公開されます。因みに1番目はマヌエル・マルティン・クエンカのロマンティック・ホラー『カニバル』でした。ムシャムシャ人肉を食べるカニバルを期待した観客には概ね不評でした。バックボーンに流れるカトリックの知識がないと良さが分からない難しい映画でした。 

                                                  

              (実在の魔女村、スガラムルディの洞窟)

      

: Q&Aというより監督の独演会でしたね。もっともトークショーになることは想定内でしたが、制限時間を超えて制止されても・・・

: まだ喋り足りないよ、という顔して残念そうに退場しました()

: 上映前のベスト作品賞のコケシ授与などで時間を取られ、映画も114分とコメディにしてはかなり長めでした。アルモドバルが言うように、コメディは90分、少なくても100分以内ね。

: そう、長すぎました。デ・ラ・イグレシア作品が初めての観客には展開が予測できなくてワクワクしますが、これは少し中だるみが気になりました。

: トークと同じで少し遊びすぎ。彼特有のドンチャン騒ぎも騒々しさもこうテンコ盛りだと、前に観たことあるよね、聞いたことあるよね、ということになる。

 

: 日本でも「お金と女は魔物」と言いますが、実体が分からないものは恐ろしくもあり妖しい魅力に富んでもいるということですね。悪賢い女たちに振り回されるトンマな男たちの映画ですと監督は解説していましたが。

: 特別オンナが悪賢くオトコが間抜けというわけではなく、男から見ると女の考えていることは不可解だということで、歴史上の極悪人は大体男に相場が決まっています。タイトル・ロールに流れる実在した魔女連の顔ぶれも、政治家のエリザベス一世鉄の女は別として、20世紀の魔女連の大方は愛すべき女性だったと思いますけど。

: 列挙できませんね、公開前ですから。

 

            スガラムルディは実在の魔女村です

 

: スガラムルディは、フランスと国境を接するナバラ自治州、サン・フェルミンの牛追いで有名なパンプローナから北西83キロの位置にあり、その先はフランスという、現在では人口220人の過疎の村です。監督は100キロと言ってましたが、それだとフランスに着いてしまう。「スガラムルディの魔女」は、バスクといわず多分スペインの魔術史のなかで最も有名なケースです。

   

: ロケはこのスガラムルディの洞窟で撮影されたとか、かなりの高さがありました。

: アケラーレAkelarre / Aquelarres)の洞窟、または魔女の洞窟とも言うらしく、トンネルの長さ約100m、幅20m、高さは30mということですからビルの10階ぐらいに相当する。アケラーレの意味はバスク語で「雄ヤギの牧草地」で行われる魔女の集会を指す。そしてスガラムルディは、読みかじりですが、「大木にならない楡の木が沢山生えている」場所という意味らしい。

: 魔女の集会というと黒い雄ヤギが描かれます。ゴヤの絵でも分かるように黒い雄ヤギは悪魔の代名詞です。 

           

     (「エル・アケラーレ」ゴヤ作、マドリードのラサロ・ガルディアノ美術館蔵)

 
: そのことからスガラムルディ村は、「悪魔の大聖堂」の渾名を頂戴しています。161011月にログローニョ(ラ・リオハの県都)で行われた異端審問の記録によると、スガラムルディの魔女であると告発された40名のうち12名が火あぶりの刑に処された。しかし既に死亡していた5名は画像が燃やされたのだという。これも信頼できる証言から得られた数字ではないと断っていますが。

: 監督が挙げた数字と違いますね。記憶が曖昧ですが、魔女4000人のうち39名が告発され、実際に火刑になったのはたったの4名だけだから大した人数ではないと。

 

: 17世紀初頭には何回か異端審問があったから年号が違うのかもしれない。いずれにしろ伝説ですから。814日から18日にかけてフィエスタ「聖母アスンシオン」が祝われ、多くの観光客が訪れるほか、洞窟自体も観光の目玉です。2007年、観光と文化プロモーションを兼ねた「魔女の博物館」が開館されて魔女の歴史が学べるそうです。名物料理はヒツジの焼肉、人肉は食べられません。村から56キロ離れたところにホテルやオスタルがあります。国際映画祭で有名なサンセバスチャンには、アケラーレ料理を出す有名レストランやホテルもありますから、ご興味のある方はどうぞ。

 

: 監督が面白かった日本映画は「ゴジラ映画」(第1作は1954年)と言ってましたが。どの時期のゴジラ・シリーズを見たのでしょうか。

: 双子の姉妹が出てくると言ってましたから、第4作『モスラ対ゴジラ』(1964)ではないかな。ザ・ピーナッツ(伊藤エミ&ユミ姉妹)が小美人に扮して歌った「モスラの歌」は大ヒットしたんでした。なんと半世紀前の映画ですね。あのサッカー王国でサッカーボールを一度も蹴ったことがないというコミック・オタクがアレックス少年でした。

 

            楽しそうだったカルメン・マウラの貫禄

 

: 魔女軍団のリーダーを演じたカルメン・マウラは本当に楽しそうでした。『みんなのしあわせ』や『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』のマウラが戻ってきたと思いました。

: 本作が上映された2013年のサンセバスチャン映画祭の「栄誉賞」受賞者です。アルモドバルの『ボルベール 帰郷』では不本意だったのか、もう彼の映画には出ないと公言しましたが、あの映画はマウラが久方ぶりにアルモドバル映画に戻ってくるはずでしたが、表面的にはペネロペ映画になってしまいました。映画の根っこにはマウラの夫殺しが隠れており、無責任な女たらしの男への復讐劇でしたから、主役でもあったのでした。

: でもデ・ラ・イグレシア映画には出たいと言ってました。彼女は『気狂いピエロの決闘』の製作段階では出演がアナウンスされていたのではありませんか。

: 結局出演しなかったが、いまさら詮索しても意味がありませんね。しかし、こんな憎たらしい人食い魔女をやっても育ちの良さが隠せない。認知が始まっているらしい母親テレレ・パベスとも息があって見ごたえがありました。パベスは本作でゴヤ賞助演女優賞受賞を手にしました

 

               

               (魔女軍団の統率者グラシアナ)

 

: やっとゴヤの胸像を抱きしめることができました。ゴヤ賞受賞者のなかでもパベスの登壇は一番のハイライトでした。

: ベテラン勢は俳優としてのピーク時にゴヤ賞が存在しなかったから、デビュー作で受賞する後輩たちを複雑な心境で眺めている。なかにはアカデミーとの不仲でゴヤ賞を無視する向きもありますけど。来日したカロリーナ・バングは1985年カナリア諸島サンタ・クルス・デ・テネリフェ生れの女優、製作者。ゴヤ賞は『気狂いピエロの決闘』で新人女優賞ノミネートだけ、TV出演も多く、ロベルト・ベリソラ監督のコメディ“Dos a la carta”(2014)が間もなくスペインで公開される。

 

: 『トガリネズミの巣穴』には出演もし共同製作者でもあったのに、上映後のQ&Aでは紹介されたが登壇しなかった。

: 主催者のミスじゃないですか。「この企画はカロリーナがもってきた」と新妻に花を持たせていたのにね。彼女に質問したい観客もいたのではと思います。<マドリードの魔女>になったマカレナ・ゴメスについては、『トガリネズミの巣穴』のQ&Aで触れます。

: カルロス・アレセスは直ぐ分かりましたが、サンチャゴ・セグラは・・・

: これからご覧になる方、お楽しみに。

 

: 本作の受賞者はパベス以外は制作サイドに集中、あまり紹介されることのないスタッフの一人が編集賞のパブロ・ブランコ**衣装デザイン賞のパコ・デルガード***の二人は折り紙つきの実力者。

: 昨年『ブランカニエベス』で受賞したから今年はないと予想した撮影賞のキコ・デ・ラ・リカ****もゴヤ賞常連さんになりつつある。前回も書きましたが「面白くなかったから御代を返して」ということにはならないでしょう。

 

助演女優賞受賞のテレレ・パベスTerele Pávezは、1939年ビルバオ生れ、監督と同郷だが育ったのはマドリード。デ・ラ・イグレシアがゴヤ監督賞を受賞した『ビースト、獣の日』にも出演。映画デビューが、ガルシア・ベルランガ19212010の“Novio a la vista(1953「一見、恋人」仮題)だから60年のキャリアの持ち主、出演映画は80数本に上る。デ・ラ・イグレシア映画の常連さんの他、彼女の最高傑作と言われているのが、マリオ・カムスの『無垢なる聖者』(“Los santos inocentes1984)のレグラ役です。残念ながらゴヤ賞はまだ始まっておりませんでした。他にヘラルド・ベラの『セレスティーナ』(1995)など、ゴヤ賞ノミネートはすべて助演女優賞、今回三度目ではなく「五目の正直」で宿願を果たしました。

 

         

   (ゴヤ胸像を手に涙、涙のテレレ・パベスとプレゼンターのハビエル・バルデム)

 

**編集賞受賞のパブロ・ブランコ Pablo Blanco は、デ・ラ・イグレシアのデビュー作『ハイル・ミュタンテ!電撃XX作戦』という邦題になった“Acción mutante”でゴヤ賞1993にノミネート、ビルバオ時代からの友人エンリケ・ウルビスのヒット作『悪人に平穏なし』(2011)で受賞した。それ以前にも、ハイメ・チャバリの『カマロン』(2005、ラテンビート2006)、バジョ・ウジョアの“Airbag”(1997)でも受賞している。1981年デビューだから既に30年以上のキャリアがあり、多くが未公開作品なのが残念なくらい優れた作品が多い。短編を除外しても40作は超えるからベテランと言ってもいい。

 

***衣装デザイン賞受賞のパコ・デルガド Francisco Delgado López は、昨年のパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』に続いて今年も受賞した。ゴヤ賞だけでなく「ヨーロッパ映画賞2013」にも受賞したニュースは(2013112)でご紹介しております。トム・フーパーのミュージカル映画『レ・ミゼラブル』(12)でオスカーにノミネートされたことで、海外でも認知度が高くなりました。デ・ラ・イグレシア作品参加は『みんなのしあわせ』(2000)から、引き続いて『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』(02)、『オックスフォード殺人事件』(08)、『気狂いピエロの決闘』(10)など。他にアルモドバルの『バッド・エデュケーション』(04)と『私が、生きる肌』(11)、アレハンドロ・G・イニャリトゥの『ビューティフル』(10)など、手掛けた多くが劇場公開されている売れっ子デザイナー。 

    

               

       (アン・ハサウェイとデルガード、アカデミー賞2013年授賞式にて)

 

****連続受賞を逃した撮影監督キコ・デ・ラ・リカ Kiko de la Rica は、1965年ビルバオ生れ、デ・ラ・イグレシア監督と同年生れの同郷です。最初にタッグを組んだのが『みんなのしあわせ』、この頃からメキメキ実力をつけ大作を手掛けるようになりました。『オックスフォード殺人事件』、『気狂いピエロの決闘』、『刺さった男』(11)、他にフリオ・メデムの『ルシアとセックス』(01)、未公開だがフェリックス・サブロソ&ドゥーニャ・アジャソの『チル・アウト!』(03DVD発売08)など。2013年にパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』で受賞した。パブロ・ベルヘルの第1作“Torremolinos 73”(03)以来の信頼関係にあるようです。バスク出身監督の作品を多く手掛けている。

 

アレックス・デ・ラ・イグレシア『スガラムルディの魔女』*ラテンビート2014 ⑧2014年10月12日 13:04

          『スガラムルディの魔女』はホラー・コメディ

     

★トロント国際映画祭2013年「Midnight Madness部門」のピープルズ・チョイスの次点に選ばれた記事以来、ゴヤ賞2014ノミネーション予想記事&結果(113日・15日、213)、第1回イベロアメリカ・プラチナ賞ノミネーションと何回となく登場させました。劇場公開日時も決定、公式サイトもアップされたので割愛しようと考えていましたが、データ中心に纏めたくなりました。というのも鑑賞後「面白くなかったからチケット代返して!」と要求する観客はいないでしょうから。長編第11作目、ほぼ全作が公開かDVD化されるという人気監督、今回「アレックス・デ・ラ・イグレシア特集」が組まれ、結婚したばかりのカロリーナ・バング(エバ役)とハネムーンも兼ねて再来日した。 


   スガラムルディの魔女 Las brujas de ZugarramurdiWitching and Bitching

 

製作Enrique Cerezo Producciones Cinematográficas S.A. /

La Fermel Production, arte France Cinéma

監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア

脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア、アレックス・デ・ラ・イグレシア

撮影:キコ・デ・ラ・リカ

編集:パブロ・ブランコ

美術:アルトゥロ・ガルシア、ホセ・ルイス・アリサバラガ

音楽:ジョアン・バレント

音響:ニコラス・デ・ポウルピケ 他

衣装デザイン:フランシスコ・デルガド・ロペス

メイクアップ・ヘアー:マリア・ドロレス・ゴメス・カストロ 他

特殊効果:フアン・ラモン・モリナ、フェラン・ピケ

プロダクション・ディレクター:カルロス・ベルナセス

製作者:エンリケ・セレソ、ベラネ・フレディアニ、フランク・リビエレ

 

データ:スペイン=フランス、スペイン語、2013、コメディ・ホラー、112分、映倫区分R15+

サンセバスチャン映画祭2013のコンペ外で上映(922日)後、スペイン公開927日。

 

キャスト:ウーゴ・シルバ(強盗ホセ・フェルナンデス・クエスタ)、マリオ・カサス(強盗トニー/アントニオ)、ハイメ・オルドーニェス(タクシー運転手マヌエル・サンチェス・ガルシア)、カルメン・マウラ(人食い魔女リーダー/グラシアナ)、テレレ・パベス(グラシアナ母マリチェ)、カロリーナ・バング(グラシアナ娘エバ)、カルロス・アレセス(魔女コンチ)、サンティアゴ・セグラ(魔女ミレン)、セクン・デ・ラ・ロサ(警部ハイメ・パチェコ)、ペポン・ニエト(警部アルフォンソ・カルボ)、マカレナ・ゴメス(ホセの元妻シルビア)、ガブリエル・デルガド(ホセとシルビアの息子セルヒオ)、ハビエル・ボテ(ルイス・ミゲル/ルイスミ)、マリア・バランコ(魔女アンシアナ)、アレクサンドラ・ヒメネス(トニーの恋人ソニア)他

 


受賞歴ゴヤ賞2014、:10部門ノミネート(助演女優賞・オリジナル作曲賞・撮影賞・編集賞・美術賞・プロダクション・ディレクター賞・衣装デザイン賞・メイクアップ・ヘアー賞・音響賞・特殊効果賞)され、オリジナル作曲賞・撮影賞を除いて8部門で受賞した。

寸評:過去には『みんなのしあわせ』(2000)や『気狂いピエロの決闘』(2010)などが主要な作品賞に絡んだ年もありましたが、本作は素通りしました。ゴヤ賞受賞の記事にも書いたことだが、10個のなかに監督賞・作品賞が含まれていない。10個もノミネートしながら指揮官たる船長が無視されるなんておかしい。彼自身のゴヤ賞は、『ビースト、獣の日』(1995)一作だけと聞いたら「まさかぁ」とビックリする人が多いのではないか。

 

ブリュッセル・ファンタジー映画祭2014:金のワタリガラス賞・ペガサス観客賞受賞

シネマ・ライターズ・サークル賞(西)2014:助演女優賞受賞テレレ・パベス

ファンタスポルト2014:観客審査員賞・特殊効果賞受賞

フェロス賞(西)2014:助演男優賞マリオ・カサス・助演女優賞受賞テレレ・パベス

フォトグラマ・デ・プラタ賞2014:フォトグラマ・デ・プラタ賞受賞

◎他ノミネートは、多数で書ききれないから省略。

 

プロット:妻と別れたホセは、最愛の息子セルヒオにパリのデズニーランドに連れて行くと約束していた。女たらしのトニーは、女に惚れやすくその趣向の幅も広いのだ。二人の共通項と言えば、昨今のスペインじゃ珍しくもなくなった失業者。手っ取り早く経済的問題を解決するには何をしたらいい? それは貴金属店を襲うに決まってるでしょ。まんまと強盗に成功したにわか作りの強盗団、タクシーに飛び乗って一路フランスへ高跳びしようと一目散。ところが道に迷った一行を待ちうけていたのは、ナバラの小村スガラムルディの親子三代にわたる由緒ある魔女軍団、はたして軍杯はどちらの手に。                                                    (文責管理人)

 

                                        

                 (母子三代の魔女軍団)

 

              

       (左から、テレレ・パベス、カルメン・マウラ、カロリーナ・バング)

 

★デ・ラ・イグレシア作品にお馴染みの面々が登場、大物サンティアゴ・セグラ、アルモドバル作品にはもう出ないがアレックスのには出ると発言していたカルメン・マウラ、『気狂いピエロの決闘』の泣きピエロ役だったカルロス・アレセス、半世紀以上にわたる女優人生を歩むテレレ・パベスの怪演も見物です。シリーズ『REC』のニーニャ・メデイロス役の大当たりから『気狂いピエロの決闘』や『刺さった男』に起用されたハビエル・ボテ、『トガリネズミの巣穴』のマカレナ・ゴメス。かてて加えてマリア・ブランコ、ペポン・ニエト・・・など。

 

★そして、デ・ラ・イグレシア学校の新入生が主役を演じたウーゴ・シルバマリオ・カサスのイケメン二人、これで「お茶の間OB」になれたでしょうか。もう一人の新入生が子役のガブリエル・デルガド、子供は親を選べません。悪い星の下に生れると魔女の生贄にされかねません。

 

                            

            (左から、ウーゴ・シルバ、マリオ・カサス)

 

★デビュー作『ハイルミュタンテ!』(1993)に出てくる粉屋の主人のセリフ「40年間、好きで粉屋の社長をやってたわけじゃない」に大笑いしてから20年、貴金属店強盗たちのコスプレ(キリストと兵士)を見れば、監督が一貫して拘ってきたテーマが見えてきます。大袈裟なドンチャン騒ぎ、これでもかと言わんばかりの型にハマった特殊効果など、すでに見たり聞いたりしたことがあるような感じを受けるかもしれませんが、そんな不満はゼイタクというものです。

 

                                      

                   (キリストと兵士)

 

★監督、主役女優の来日で急遽アップしましたが、第2弾として本日予定されている上映後のQ&Aを交えて感想を追加いたします。