ミゲル・ゴメスの「Grand Tour」が監督賞*カンヌ映画祭2024受賞結果2024年06月07日 10:48

            ポルトガルのミゲル・ゴメスの「Grand Tour」が監督賞

 

       

     (トロフィーを手にしたミゲル・ゴメス、カンヌ映画祭2024ガラにて)

 

★カンヌ映画祭2024は、コンペティション部門の監督賞に「Grand Tour」(ポルトガル=伊=仏ほか)のミゲル・ゴメスを選びました。初期の短編、ドキュメンタリーを含めると既に17作を数えますが、劇場公開は第3作『熱波』1作のみ、今回カンヌFFの監督賞受賞作が『グランド・ツアー』の邦題で2025年公開が決定しています。先輩監督ペドロ・コスタ(『ヴァンダの部屋』『ホース・マネー』他)の後押しもあって、ミニ映画祭で特集が組まれるほどシネマニアのあいだでは人気の監督です。しかしスペイン語以上にマイナーなポルトガル語映画、公開に先立ってキャリア&フィルモグラフィーの予習をしてみました。

    

 

  

       

   (左から、クリスタ・アルファイアチ、ゴメス監督、ゴンサロ・ワディントン、

       カンヌ映画祭2024レッドカーペット、523日)

 

★簡単なストーリー:『グランド・ツアー』の舞台は1917年、公務員のエドワード(ゴンサロ・ワディントン)は、ヤンゴンでの結婚式の当日、婚約者のモリー(クリスタ・アルファイアチ)からの逃亡を企てます。しかし彼との結婚を決意したモリーは夫の逃亡を面白がり、シンガポール、バンコク、サイゴン、マニラ、大阪、上海とアジアの各都市を横断する彼の冒険を尾行することにします

ヤンゴンは2006年までミャンマー(旧称ビルマ)の首都だった大都市、英語風に訛ってラングーンで知られる。旧称サイゴンはベトナムのホーチミン市。

 

         

      

★というわけで監督と撮影隊は、ミャンマー、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、日本の各都市を移動した。コロナ禍で予定されていた中国上海での撮影は中止となったが、封鎖ぎりぎりセーフだった日本の京都鴨川での撮影はできフォトが公開されている。カラー&モノクロ、コダックフィルム16mmで撮影され、撮影監督は『ブンミおじさんの森』(10)のサヨムプー・ムックディプロム、ゴメス監督お気に入りの『自分に見合った顔』、『私たちの好きな八月』や『熱波』のルイ・ポサス、初参加のGui Liang 桂亮グイ・リャン、クランクインは2020年初頭、監督によると4年の歳月を要したということです。

   

     

       (右端が京都の鴨川で撮影中のゴメス監督、2020年2月)

 

★日本側製作者として今夏7月に公開されるサスペンス・ドラマ『大いなる不在』の近浦啓監督が参画しています。本作はサンセバスチャン映画祭2023で藤竜也が銀貝賞の最優秀主演俳優賞、監督もギプスコア学芸協会賞を受賞した作品、藤竜也の受賞スピーチが絶賛されたことは当ブログで紹介しています。間もなく封切られます。

              

ミゲル・ゴメス Miguel Gomes は、1972年リスボン生れ、監督、脚本家、フィルム編集者。リスボン映画演劇上級学校(Escola Superior de Teatro e Cinema di Lisbona)で学び、映画評論家としてキャリアをスタートさせる。イタリアのネオリアリズムとフランスのヌーベルバーグの影響を受けたニューシネマ運動の世代に属している。短編デビューは1999年の「Entretanto」(仮題「合い間」)以下9編、2004年の「A Cara que Mereces」で長編デビュー、第2『私たちの好きな八月』は、カンヌFF2008併催の「監督週間」に正式出品され注目される。2010年、日本ポルトガル修好通商条約150周年を記念して、東京国立近代美術館フィルムセンターが企画した「マノエル・ド・オリヴェイラとポルトガル映画の巨匠た」で、ジョアン・セーザル・モンテイロペドロ・コスタパウロ・ローシャなどと並んで若手監督の一人として本作が紹介された。この映画祭は当時ちょっとしたポルトガル映画旋風を巻き起こした。

     

      

          (ゴメス監督、カンヌFF2024,フォトコール)

 

★カンヌ映画祭2015併催の「監督週間」にノミネートされた「アラビアン・ナイト三部作」(6時間21分)は、「第2回広島国際映画祭2015」(1120日~23日)で特集が組まれ、3分割された第1部~第3部が一挙上映された。ゴメス監督も来日してQ&Aに参加、前作の『熱波』もエントリーされた。後に「イメージフォーラム・フェスティバル2019」が企画され、東京初上映となったが、その他ミニ映画祭での上映もあり、マイナーながら日本語字幕入りで鑑賞できた監督。公開作品は上記したように『熱波』のみ、2025年の「グランド・ツアー」が待たれるところである。2012年ポルトガルは、スペイン同様経済危機に見舞われ、EUのお荷物といわれた。監督によると「貧乏であることの唯一のメリットは、大ヒット作を放つ義務から解放され、少し自由が得られることです」と皮肉っている。

   


 (公開された『熱波』ポスター)

 

因みにアントワーン・フークアの『サウスポー』(15)にジェイク・ギレンホールの対戦相手として共演しているミゲル・ゴメス(Gómez)は、1985年コロンビアのカリ生れの俳優です。米国のTVシリーズに出演している。またホラーコメディ『パラノーマル・ショッキング』(10)の監督は、コスタリカのミゲル・アレハンドロ・ゴメス(Gómez / Gomez サンホセ1982)で別人です。メジャーな名前なのでネットでの紹介記事に混乱が見られます。以下に主なフィルモグラフィーをアップしておきます。目下配信されている動画は見つかりませんでした。

 

 *主なフィルモグラフィー(短編割愛、主な受賞歴)

2004A Cara que Mereces」『自分に見合った顔』ポルトガル、108分、監督・脚本

  インディリスボア・インディペンデントFF作品・批評家賞

2008Aquele Querido Mes de agosto」『私たちの好きな八月』同上、147分、監督・脚本

BAFICIブエノスアイレス国際インディペンデントFF2009作品賞、

バルディビアFF国際映画賞、ポルトガルのゴールデングローブ2019作品賞、

グアダラハラFF特別審査員賞、サンパウロFF2008批評家賞、

ビエンナーレ2008FIPRESCI賞、カンヌFF2008併催の「監督週間」正式出品

2012Tabu」『熱波』ポルトガル・独・ブラジル、118分、公開2013、監督・脚本・編集

ベルリンFF2012FIPRESCI賞&アルフレッド・バウアー賞受賞、ゲントFF作品賞、

ポルトガルのゴールデングローブ2013作品賞、ラス・パルマスFF2012観客賞他、

ポルトガル映画アカデミー ソフィア賞2013編集賞、他多数

2015As Mil e Uma Noites: Volume 1, O Inquieto

  『アラビアン・ナイト 1部休息のない人々』ポルトガル・仏・独・スイス、

  125分、監督・脚本

As Mil e Uma Noites: Volume 2, O Desolado

『アラビアン・ナイト 2部孤独な人々』同上、132分、監督・脚本

As Mil e Uma Noites: Volume 3, O Encantado

『アラビアン・ナイト 3部魅了された人々』ポルトガル・仏・独、125分、同上

以上「三部作」はカンヌFF2015併催の「監督週間」正式出品された。

ポルトガルのゴールデングローブ2016作品賞、シドニーFF2015作品賞、

コインブラFF2015監督・脚本賞、セビーリャ・ヨーロッパFF作品賞、

シネヨーロッパ賞2016トップテン入り、他

2021Diários de Otsoga」『ツガチハ日記』モーレン・ファゼンデイロとの共同監督、脚本

ポルトガル・仏、102分、カンヌFF2021併催の「監督週間」正式出品、

マル・デル・プラタFF2021監督賞、イメージフォーラム・フェスティバル2022上映

2024Grand Tour」『グランド・ツアー』ポルトガル・仏・伊・独・日本・中国、129分、

  監督・脚本、カンヌFF2024監督賞、2025公開予定

2023年にスペインのヒホン映画祭栄誉賞を受賞している。