ニューディレクターズ全14作が発表*サンセバスチャン映画祭2019 ⑩ ― 2019年08月13日 14:49
全容が明らかになったニューディレクターズ部門―チリとアルゼンチンから
★7月30日、ホセ・ルイス・レボルディノス総ディレクターとニューディレクターズ部門の代表者イドイア・エルルベによって全14作品が発表になりました。スペイン語映画は、既に発表になっていたスペイン映画2作(「La inocencia」、「Las letras de Jordi」)は紹介済み、加えてアルゼンチン映画、チリ映画各1作ずつ、合計4作がノミネートされたことになりました。アジアからは関係がぎくしゃくしている日本と韓国から仲良く1作ずつ選ばれました。他、アルファベット順にブルガリア、米国、イスラエル、リトアニア、ノルウェー、イギリス、スイス、チュニスが選ばれましたが大方が合作、各国から満遍なく選ばれている印象です。
* ルシア・アレマニーの「La inocencia」の紹介は、コチラ⇒2019年07月24日
* マイデル・フェルナンデス・エリアルテ「Las letras de Jordi」は、コチラ⇒2019年07月24日
(全14作を発表する、ホセ・ルイス・レボルディノスとイドイア・エルルベ、7月30日)
◎『よあけの焚き火』(「Bonfire at Dawn」)日本、土井康一
キャスト:大蔵基誠、大倉康誠、鎌田らい樹、坂田明
*650年の伝統を守る大蔵流狂言方の父と子の物語。大蔵流狂言方の実の親子が初出演している。ドキュメンタリーとフィクションを織り交ぜている。8月9日よりフォーラム山形で上映開始、全国各地で展開中。監督(横浜1978)、スタッフ、キャスト紹介の詳細は公式サイトで。
◎「Algunas bestias / Some Beasts」チリ、ホルヘ・リケルメ・セラーノ
Cine en Construccion 35 Toulouse 受賞作品、2019年、監督第2作目、スリラー、97分
キャスト:パウリナ・ガルシア(ドロレス)、アルフレッド・カストロ(アントニオ)、コンスエロ・カレーニョ(コンスエロ)、ガストン・サルガド(アレハンドロ)、アンドリュウ・バルグステッド(マキシモ)、ミジャレイ・ロボス(アナ)、他
ストーリー:ある家族がチリ南部の海岸沿いにある無人島に、観光ホテル建設の夢を抱いて喜び勇んでやってくる。本土から彼らを船に乗せてきた男が姿を消すと、家族は島の囚われ人となってしまう。水もなく寒さと不安で気力も失せ、家族の各々が隠しもっている悪霊が露わになるなかで、共同生活は次第に困難になっていく。
*4日間で撮ったデビュー作「Camaleón」(16)がロンドン映画祭などで高評価だったことが、比較的早い第2作に繋がった。「チリ社会に根源的に存在する悪霊がテーマ」と監督。
(アルフレッド・カストロ、パウリナ・ガルシア)
◎「Las buenas intenciones / The Good Intentions」アルゼンチン、アナ・ガルシア・ブラヤ
キャスト:ハビエル・ドロラス(グスタボ)、アマンダ・ミヌヒン(アマンダ)、エセキエル・フォンタネラ、カルメラ・ミヌヒン、セバスティアン・アルセノ、ハスミン・スタート、フアン・ミヌヒン
ストーリー:1990年代のブエノスアイレス、アマンダは10歳、弟と妹がいる。子供たちは離婚した両親の家を行ったり来たりして暮らしている。父親と一緒のときは、アマンダはできる限り家事をこなして大人のように振るまわざるを得ない。それは父親が子供たちを自身よりほんの少しだけ愛しているようなとても風変わりなタイプの人間だったからだ。ある日のこと、母親が父親のきちんとできない生活からは程遠い外国を申し出る。その提案はアマンダを不安に陥れることになる。
*監督デビュー作、1974年ブエノスアイレス生れ。実際の3人姉弟が演じる。
(父親と子供たちをバックにしたポスター)
(きちんとした性格の母親)
続ホライズンズ・ラティノ部門*サンセバスチャン映画祭2019 ⑨ ― 2019年08月11日 18:48
アレハンドロ・ランデルの問題作「Monos」
⑨「La bronca」ペルー=コロンビア、ディエゴ&ダニエル・ベガ兄弟
第23回リマ映画祭2019(8月15日上映)、長編3作目、カナダで撮影された最初のペルー映画
キャスト:ホルヘ・ゲーラ、ロドリゴ・パラシオス、ロドリゴ・サンチェス・パティニョ、イサベル・ゲラード、Sandrine Poirier-Allard、シャーロット・オービン、ルナ・マセド、他
* 監督キャリア&作品紹介は、コチラ⇒2019年08月23日
⑩「Los sonámbulos / The Sleepwalkers」アルゼンチン=ウルグアイ
パウラ・エルナンデス
キャスト:エリカ・リバス、オルネジャ・デリア、マリル・マリーニ、ルイス・Ziembrowski、ダニエル・エンドレル、バレリア・ロイス、ラファエル・フェデルマン、他
*パウラ・エルナンデスの第4作目、第3作「Un amor」以来7年ぶりにメガホンをとった。
⑪「Los tiburones / The Sharks」ウルグアイ=アルゼンチン=スペイン
ルシア・ガリバルディ
Cine en Construcción 34(2018)の技巧賞、フィルム・ファクトリー賞受賞作品。他にサンダンスFFワールド・シネマ部門の監督賞、BAFICI審査員特別賞など受賞歴多数
キャスト:ロミナ・ベタンクール、フェデリコ・モロシニ、ファビアン・アレニジャス、バレリア・ロイス、他
* 監督キャリア&作品紹介は、コチラ⇒2019年09月04日
⑫「Monos」コロンビア=アルゼンチン=蘭=独=スイス=ウルグアイ
アレハンドロ・ランデス
サンダンスFFワールド・シネマ部門の審査員特別賞受賞、ベルリンFFパノラマ部門上映作品、カルタヘナFFコロンビア作品賞受賞など受賞歴多数。
キャスト:ジュリアンヌ・ニコルソン、モイセス・アリアス、フリアン・ヒラルド、ソフィア・ブエナベントゥラ 、カレン・キンテロ、デイビー・ルエダ、他多数
*デビュー作「Cocalero」がLBFF2008に『コカレロ』の邦題で上映されている。
*長編3作目、ウィリアム・ゴールディングの小説『蠅の王』の映画化。過去に何回か映画化されている。別途作品紹介予定。
* 新作の紹介記事は、コチラ⇒2019年08月21日
⑬「Nuestras madres / Our Mothers」グアテマラ=フランス=ベルギー
セサル・ディアス
カンヌFF併催の「批評家週間」2019正式出品、カメラドール受賞作品、監督デビュー作
キャスト:アルマンド・エスピティア、エンマ・ディブ、アウレリア・カアルCaal、フリオ・セラノ、ビクトル・モレイラ、他
*カメラドール受賞は、セサル・アセベドの『土と影』(15)以来4年ぶり。
* 監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2019年05月07日
⑭「Temblores / Tremors」グアテマラ=フランス=ルクセンブルク
ハイロ・ブスタマンテ ベルリンFFのパノラマ部門上映作品
キャスト:フアン・パブロ・Olyslager、ディアネ・バザン・エバンズ、マウリシオ・アルマス・セバドゥア、他
* 長編第2作目、デビュー作は『火の山のマリア』、第3作目がクロージング作品「La Llorona」(コンペティション外)、別途作品紹介予定。
* 新作の紹介記事は、コチラ⇒2019年08月19日
⑮「La ola verde (Que sea ley)」アルゼンチン=ウルグアイ=フランス
フアン・ソラナス コンペティション外特別上映作品、カンヌFF2019特別上映作品
*アルゼンチンの妊娠中絶合法化運動のドキュメンタリー
*ドキュメンタリー第2作目。長編映画デビュー作「Nordeste」は、カンヌFF2005「ある視点」正式出品作品、第2作目「Upside Down」(12、カナダ=フランス合作)の言語は英語。別途作品紹介予定。
(カンヌの赤絨毯を踏む中絶合法化のシンボル緑のハンカチ運動の女性たち、5月19日)
★以上がコンペティション部門13作、特別上映、コンペティション外各1作、合計15作のラインナップです。以後、公開が期待できる作品、話題作などをできるだけ紹介したいと思います。
ホライズンズ・ラティノ、全15作が発表*サンセバスチャン映画祭2019 ⑧ ― 2019年08月08日 14:52
オープニング作品はパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー
★去る8月6日、ホライズンズ・ラティノ部門15作品が一挙に発表されました。うちコンペティション外2作品を含んでいます。映画祭上映、または公開が期待できる映画も混じっているセクションです。既に終了している映画祭、カンヌやサンダンスの受賞作、ベルリンやベネチアでノミネートされた作品も目につきます。アルゼンチン、ブラジル、チリ、ウルグアイ、メキシコ、キューバ、グアテマラ、ペルーの監督作品、なかには当ブログで記事に取り上げた作品も含まれており、まずはタイトル名・製作国・監督名・キャスト名を列挙しておきます。
★オープニング作品はパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー「La cordillera de los sueños」が選ばれていますが、本作はカンヌFFで特別上映され、最優秀ドキュメンタリー賞(ゴールデン・アイ)を受賞した作品です。15作品のうちクロージング作品に選ばれたグアテマラのハイロ・ブスタマンテの「La llorona」はコンペティション外作品、他にベルリンFFのパノラマ部門で上映された作品「Temblores / Tremors」も選ばれるなど、これは珍しいケースではないでしょうか。
①「La cordillera de los sueños / The Cordillera of Dreams」チリ=フランス、
パトリシオ・グスマン オープニング作品
カンヌFF2019特別上映作品、ドキュメンタリー、84分
*『光のノスタルジア』『真珠のボタン』に続く「ピノチェト三部作」の完結編
* カンヌFF2019特別上映での作品紹介は、コチラ⇒2019年05月15日
②「La llorona」グアテマラ=フランス、ハイロ・ブスタマンテ クロージング作品
コンペティション外、VIIヨーロッパ・アメリカラティナ共同製作フォーラム作品
キャスト:マリア・メルセデス・コロイ、サブリナ・デ・ラ・ホス、フリオ・ディアス、マルガリタ・ケネフィック、フアン・パブロ・Olyslager、アイラ・エレア・ウルタド、マリア・テロン
* デビュー作『火の山のマリア』の作品紹介は、コチラ⇒2015年08月28日/10月25日
③「Agosto / August」キューバ=コスタリカ=フランス、アルマンド・カポ
IIIヨーロッパ・アメリカラティナ共同製作フォーラム、Cine en Construcción 32作品
キャスト:ダミアン・ゴンサレス・ゲレーロ、ロラ・アモレス・ロドリゲス、ラファエル・ラエラ・スアレス、ベロニカ・ライン・ロペス、グレンダ・デルガド・ドミンゲス、他
④「Araña / Spider」チリ=アルゼンチン=ブラジル、アンドレス・ウッド
キャスト:メルセデス・モラン、マリア・ベルベルデ、マルセロ・アロンソ、ペドロ・フォンテイン、ガブリエル・ウルスア、フェリペ・アルマス、他
*『マチュカ 僕らの革命』『サンティアゴの光』『ヴィオレータ、天国へ』の監督
* 監督キャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ⇒2018年03月04日
* 新作「Araña」の作品紹介は、コチラ⇒2019年08月16日
⑤「Así habló el cambista / The Moneychanger」ウルグアイ=アルゼンチン=独、
フェデリコ・ベイロー
キャスト:ダニエル・エンドレル、ドロレス・フォンシ、ルイス・マチン、ベンハミン・ビクニャ、ヘルマン・デ・シルバ、他
*『アクネ ACNE』『映画よ、さようなら』『信仰を捨てた男』「Belmonte」の監督
* 監督キャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ⇒2018年08月03日
⑥「Chicuarotes」メキシコ、ガエル・ガルシア・ベルナル
カンヌ映画祭2019特別上映作品、2019年、監督第2作目
キャスト:ベニー・エマニュエル、ガブリエル・カルバハル、レイディ・グティエレス、ドロレス・エレディア、ダニエル・ヒメネス⋍カチョ、他
* カンヌFF2019特別上映での作品紹介は、コチラ⇒2019年05月13日
⑦「De nuevo otra ves / Again Once Again」アルゼンチン、ロミナ・パウラ
ロッテルダム映画祭2019上映作品、女優ロミナ・パウラの監督デビュー作
キャスト:ロミナ・パウラ、モニカ・ランク、ラモン・コーエン、マリアナ・チャウド、パブロ・シガルエステバン・ビリアルディ、デニーズ(ドゥニーズ)・Groesman、他
⑧「El príncipe / The Prince」チリ=アルゼンチン=ベルギー
セバスティアン・ムニョス
Cine en Construcción 34作品、監督デビュー作、ベネチアFF「批評家週間」正式出品
キャスト:アルフレッド・カストロ、フアン・カルロス・マルドナド
★女性監督が少ないのが気になりますが、全15作と分量が多いので2回に分けて、⑨以下は次回にアップします。パトリシオ・グスマンのドキュメンタリー三部作の完結編、しばらく製作に没頭していたアンドレス・ウッドの監督復帰、ガエル・ガルシア・ベルナルの第2作、ハイロ・ブスタマンテの2作同時上映など、秋の映画祭が楽しみになってきました。
(続)ベロドロモ部門のアニメーション*サンセバスチャン映画祭2019 ⑦ ― 2019年08月06日 15:26
ビクトル・モニゴテのデビュー作「La gallina Turuleca」
(オリジナル・タイトルのポスター)
★ベロドロモ部門のもう1作はスペイン=アルゼンチン合作のアニメーション、ビクトル・モニゴテ&エドゥアルド・ゴンデルの「La gallina Turuleca」、卵は産めないが、人と話ができるだけではなく歌も歌えるという風変わりなめんどりトゥルレカのお話。もともと同じ題名の童謡があるようです。7月19日のノミネーション発表には、共同監督の一人スペインのビクトル・モニゴテと製作者で脚本家のパブロ・ボッシが出席しました。スペインの子供たちに人気の童謡は、YouTubeで聴くことができます。
(左から、パブロ・ボッシとビクトル・モニゴテ、サンセバスチャン、7月19日)
「La gallina Turuleca」(オリジナル・タイトル「Turu, the wacky hen」)
製作:Brown Films AIE / Pampa Films / Tandem Films / Producciones A Fonsagrada /
Gloriamundi Producciones / Mogambo
監督:ビクトル・モニゴテ、エドゥアルド・ゴンデル
脚本:パブロ・ボッシ、フアン・パブロ・ブスカリニ、エドゥアルド・ゴンデル
音楽:セルヒオ・モウレ・デ・オテイサ
撮影:アレハンドロ・バレンテ
プロダクション・デザイン:ビクトル・モニゴテ
美術:ベアトリス・カストロ・エレディア
プロダクション・マネージメント:フローラ・カンペロ、クリスティナ・スマラゴ、他
録音エディター:フアン・フェロ、他
製作者:アグスティン・ボッシ、クリスティナ・スマラゴ、ディエゴ・ロペス・アルバレス(以上エグゼクティブ)、パブロ・ボッシ、リカルド・マルコ・ブデー、カルロス・エルナンデス、イグナシオ・サラサル=シンプソン、他多数
アニメーション:マティ・ベンリョチ、フェルナンド・ガルシア=ソトカ、エドゥアルド・オリデン・エルミダ、他
データ:製作国スペイン、アルゼンチン、スペイン語、2019年、アニメーション・コメディ、配給元Filmax、スペイン公開2020年01月01日
キャスト(ボイス):エバ・アチェ(めんどりのトゥルレカ)、ホセ・モタ(悪党アルマンド)
ストーリー:トゥルレカは卵を産めないめんどり、そのせいで他のにわとりからの嘲笑に苦しんでいる。しかしながら、元音楽教師イサベルがトゥルレカの特異稀な隠れた才能、人間と話ができるだけでなく歌まで上手に歌えることを発見して以来、トゥルレカの人生は永遠に変わってしまう。二人は親しくなるが、ある日のこと、イサベルがアクシデントに見舞われ記憶喪失になってしまい、大都会の病院に連れていくことになる。トゥルレカは連れていく方法を調査した結果、ダエダルス・サーカスの芸人たちの魅惑的なグループと合流することに決めた。この素晴らしい旅のなか、トゥルレカはその音楽的才能とカリスマ性でサーカスのスターとなっていく。しかし好事魔多し、この奇跡のめんどりを手に入れたい悪党アルマンド・トラマスによってサーカスは脅迫されてしまうのである。
(めんどりのトゥルレカ、アニメーションから)
★共同監督の一人スペインのビクトル・モニゴテ(Vitor "Monigote")は本作で監督デビューしました(monigote は愛称、でくの坊という意味)。イラストレーター、ミュージシャン、歌手、俳優、声優と多才、今回はそれに監督が加わった。「どこがでくの坊なの?」―「背は低いし、ハンサムじゃないし、貧乏だ。ブランコ曲芸師でもサッカー選手でもない・・・」からだそうです。モーターバイクで世界を走り回っている。
(ハンサムでないのは確か、愛車とビクトル・モニゴテ)
★ハビエル・フェセル(1964年生れ)の『カミーノ』に俳優とアートディレクターで参加、「ラテンビート2009」で上映されたとき監督と一緒に来日している。その後、同監督のアニメーション「Mortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo」(14)にはボイス出演の他、美術とアニメーションを手掛け、翌年のゴヤ賞の美術部門でノミネートされた。ゴヤ賞の美術部門にアニメーションが選ばれるのは初めての快挙だった。もともとはハビエルの兄ギジェルモ・フェセル(脚本家、監督、1960年生れ)と親しく、ギジェルモの「Cándida」(06)出演が俳優デビューだった。モニゴテは年内に公開が予定されているハビエル・フェセルの『チャンピオンズ』(18)でも美術を担当している。
*『チャンピオンズ』の作品紹介は、コチラ⇒2018年06月12日/2019年07月01日
(制作中のビクトル・モニゴテ)
(アニメ「Mortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo」とフェセル監督)
★共同監督エドゥアルド・ゴンデルEduardo Gondellは、アルゼンチンの監督、脚本家、アートディレクター、俳優。代表作はアニメーション「Valentina, la película」(08、65分)、ホセ・ルイス・マッサの「Un hijo genial」(03)の美術を手掛けている。その他、アルゼンチンのTVミニシリーズを手掛けている。
(英語版「Valentina, la película」のポスター)
★めんどりトゥルレカのボイス出演のエバ・アチェ(本名Eva María Hernández Villegas)は、1972年セゴビア生れ、女優、コメディアン、テレビ司会者、舞台女優として出発した。主に映画よりTVシリーズ出演が多く、国営テレビの他、テレ5、アンテナ3などでテレビ司会者として活躍、お茶の間では知られた顔である。そういうこともあって、ゴヤ賞2012年と2013年授賞式に連続で総合司会者を務めた。
★悪党アルマンド・トラマスのボイスを受けもつホセ・モタJosé Motaは、1965年シウダレアル生れ。コメディアン、俳優、声優、監督、脚本家。サンティアゴ・セグラの「トレンテ・シリーズ」の常連。アレックス・デ・ラ・イグレシアの『刺さった男』(12)では、首に鉄筋が刺さってしまった男を演じ、パブロ・ベルヘルの『アブラカダブラ』(16)では、催眠術にハマってしまったヒロインの従兄役に扮して笑わせた。
*『アブラカダブラ』のスタッフ&キャスト紹介は、コチラ⇒2016年05月29日
ベロドロモ部門にアニメとコメディ*サンセバスチャン映画祭2019 ⑥ ― 2019年08月04日 18:05
映画祭の一番人気は巨大スクリーンで楽しむベロドロモ部門!
★400㎡の巨大スクリーンで上映されるベロドロモ部門は、観客数3000人が一度に楽しめるセクション。プレミア作品より一度はどこかの映画祭でエントリーされたもの、老若男女問わず楽しめる前評判の高いアニメーションなどが選ばれることが多い。第67回サンセバスチャン映画祭SSIFFでは、目下レティシア・ドレラの自作自演、TVシリーズのコメディ「Vida perfecta」(25分、8話)と、ビクトル・モニゴテ&エドゥアルド・ゴンデルのアニメーション「La gallena turuleca」(スペイン=アルゼンチン合作)がアナウンスされている。
★フランスで2018年から始まったTVシリーズドラマのフェスティバル、第2回カンヌ国際シリーズ・フェスティバルCannesSeries(4月5日~10日)に出品され、作品賞に当たるシリーズ賞と主演賞(演技賞)の2 冠を制した「Vida perfecta」からご紹介します。主演賞には監督自身を含む3人の女優、レティシア・ドレラ、アイシャ・ビリャグラン、セリア・フレイジェイロが揃って受賞した。
(シリーズ賞と主演賞のトロフィーを手に、左からアイシャ、レティシア、セリアの3人)
「Vida perfecta」(「Déjate llevar」、インターナショナル題「Perfect Life」)2019年
製作:Corte y Confección de películas / Movistar+
監督:レティシア・ドレラ、エレナ・マルティン、ジネスタ・ギンダルGinesta Guindal
脚本:レティシア・ドレラ、マヌエル・ブルケ
撮影:マルク・ゴメス・デル・モラル
データ:製作国スペイン、コメディドラマ、全8話、各25分のシリーズ、撮影バルセロナ。CannesSeries 正式出品(シリーズ賞・演技賞)受賞作品。2019年10月18日より配信開始
キャスト:レティシア・ドレラ(マリア)、アイシャ・ビリャグラン(エステル)、セリア・フレイジェイロ(クリスティナ)、フォント・ガルシア(パブロ)、マヌエル・ブルケ(ホセ)、カルメン・マチ(マリアの母)、フェルナンド・コロモ(マリアの父)、ダビ・ベルダゲル(グスタボ)、ペドロ・カサブランク(リカルド)、ジャスミン・ロルダン(ジミー)、イツァル・カストロ、他
ストーリー:マリア、エステル、クリスティナ、30代の3人は人生でも最も重要で複雑と思われる危機に直面している。彼女たちは、人生がかつて期待していた幸福とはほど遠いものであったことに気づく。別の選択肢を求めて行動を起こす時である。共に社会が女性たちに伝統的に求めている生き方から離れる決心をするだろう。人生が如何に自分とは無関係な義務を圧しつけていたことに気づくことになる。人生最大の危機に見舞われた3人の女性の動機はそれぞれ異なっているが、30歳を過ぎた女性の支柱がふらつき始めたらどんな混乱が起こるか、私たちは目にすることになる。
(左から、マリア、エステル、クリスティナ、映画から)
★ストーリーだけでは特別新鮮さは感じられないが、監督のレティシア・ドレラ(バルセロナ1981)は、マリアをヒロインに、今までもスペイン女性に強制されている<ノーマルな>生き方に疑問を投げかけてきたシネアスト、本作はその延線上にあるようです。第18回マラガ映画祭2015に出品された「Requisitos para ser una persona normal」(2015)で長編デビュー、監督・脚本・主演と才媛ぶりを発揮して、最優秀新人脚本賞を受賞、翌年のゴヤ賞にもノミネーションされました。フェミニストとして有名ですが、今作ではクリスティナ役を演じるはずだったAina Clotetを妊娠を理由に降板させたことで、両者間のバトルがネット上でも激しく応酬され物議を醸したのでした。ここでは深入りしませんが、上記でスペイン語題を2つ載せたのは、最初のタイトルが「Déjate llevar」だったからです。
★ホラー映画が初めてゴヤ賞2018の作品賞にノミネートされたことで話題になった、『エクリプス』の監督パコ・プラサと結婚している。女優として出演したプラサ監督の [REC]3でサンジョルディ賞とトゥリア賞の女優賞を受賞している。ほかTVシリーズ出演も多く、スペインでも女優のほうが有名かもしれません。
(主演女優3人と Movistar+のフィクション部門の長ドミンゴ・コラル、7月19日)
★マリアの母親役にベテランのカルメン・マチ、父親役にベテラン監督のフェルナンド・コロモ、『悲しみに、こんにちは』のダビ・ベルダゲル、デビュー作にも出演したマヌエル・ブルケを布陣するなど、豪華キャストでお茶の間に登場します。
ペルラス部門にオリヴェル・ラセの新作*サンセバスチャン映画祭2019 ⑤ ― 2019年07月31日 11:00
公開が期待できる話題作がエントリーされるペルラス部門
★サバルテギ部門から独立したペルラス(パールズ)部門は、カンヌ映画祭の「監督週間」や「批評家週間」など、先行開催の映画祭で出品された作品から選ばれる例が多い。従って知名度のある監督作品も含まれる。昨年はラテンビート上映のアニメーションと実写『アナザー・デイ・オブ・ライフ』、6月末に公開されたハイメ・ロサーレスの『ペトラは静かに対峙する』、間もなく公開されるオルテガの『永遠に僕のもの』の3作とも字幕入りで鑑賞できました。
★今年は既に8作(米国・仏・露・中国・韓国など)が発表されています。なかでスペイン映画は、カンヌの「ある視点」で第2席に当たる審査員賞を受賞したガリシアの監督オリヴェル・ラセ(オリベル・ラシェ)の「Lo que arde」(ガリシア題「O que arde」、英題「Fire Will Come」)が選ばれています。今作はラテンビート、または東京国際映画祭などで是非上映してもらえたらと期待しています。当ブログでは2回にわたって記事をアップしています。
*「Lo que arde」の作品・監督・キャスト紹介は、コチラ⇒2019年04月28日/05月29日
(主役アマドール・アリアス、母親役ベネディクタ・サンチェス)
(左側は総ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノス、中央が監督、2019年7月19日)
サバルテギータバカレラ部門*サンセバスチャン映画祭2019 ④ ― 2019年07月29日 12:35
ジャンルを問わないサバルテギ部門にスペイン語映画は4作
★サバルテギZabaltegi部門は、2016年からサバルテギ-タバカレラと名称が変わりました。というのも上映がタバカレラ・センターに変わったからです。かつてのスペイン煙草専売公社(タバカレラTabakalera)だった建物を2010年から5年がかりで大改装、サンセバスチャンの現代文化国際センターに生まれ変わり、2015年9月11日に開館、サバルテギは2016年から常設のシネコンを利用しています。シネコンの他、展覧会などができる展示場、レストラン、ホテル、博物館のような機能も兼ね備えており、市の観光スポットになっています。サバルテギはバスク語で「自由」という意味、その名の通り言語、ドラマ、ドキュメンタリー、アニメーション、長短編などジャンルを問わないので本数も多い。
★今年はスペイン映画は、短編、TVシリーズ、ドキュメンタリー、アニメーションを含む以下の4作がアナウンスされました。
◎「El fiscal, la presidenta y el espia」西=独、監督ジャスティン・ウエブスター
*TVシリーズ全6話、ドキュメンタリー。ジャスティン・ウエブスターはバルセロナ在住のイギリスの監督。キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2016年03月27日でご紹介しています。
(ジャスティン・ウエブスター監督)
ストーリー:あるテロリストを捜査中だった検察官アルベルト・ニスマンは、イランと共謀していたアルゼンチンの女性大統領を告発した。4日後の2015年1月18日、浴室で頭を一発の弾丸で打ち抜かれて死亡しているのが発見される。ニスマンはブエノスアイレスで死んだのだが、殺害されたのか自殺だったのかをめぐって謎は深まり、真相はイスラエル、イラン、米国を巻き込んで全世界を駆けめぐることになる。
(在りし日のアルベルト・ニスマン検察官)
◎「Leyenda dorada」スペイン、監督チェマ・ガルシア・イバラ&イオン・デ・ソサ
*2019年、短編11分、ベルリン映画祭2019短編部門出品、ワールドプレミア
ストーリー:夏のある日、市民プールで。暑い、若者たち、家族連れ、夫婦、ひと泳ぎ、バルで生ビール、サンドイッチ。一人の女霊媒師がスペイン地図の上で振り子を揺らしながら或る人物を見つけ出そうとしている。日常の中に非日常がしみこんでくる。男の子がまさに溺れそうになっている、誰かがプールの水の上を歩いて彼の傍までやって来て助けようとしている。奇跡とは他の水浴者たちがこのことを自然に受け入れていることである。夏の午後は何事もなかったかのように続いている。
★ チェマ・ガルシア・イバラ Chema Garcia Ibarra(エルチェ1980)は、監督と脚本を担当した。イオン・デ・ソサ Ion de Sosa(サンセバスチャン1981)は、監督と撮影を担当した。
◎「Lursaguak / Escenas de vida」スペイン、監督Izibene Oñederra イシベネ・オニェデラ?
*2019年、短編、アニメーション
ストーリー:Hélene Cixousが言うように、私たちはこの時代をはっきり自覚して生きている。千年至福説を信じる文化の理論的な根拠は、無名の一種の数百万のモグラのようなものによって損なわれている。
(Izibene Oñederra監督)
◎「Urpean Lurra」スペイン、監督マディ・バルベル
*2019年、ドキュメンタリー、2018年の前作「592 metroz goiti(Above 592 metres)」の続編
ストーリー:約20年前、イトイス・ダムはナバラのピレネー山脈の斜面にあった7つの村と3つの自然保護区を水浸しにした。環境保護団体「イトイスと連帯」は、ダム建設反対の闘いをビデオに撮って記録した。今日、かつての住民たちは水没してしまった自分たちの土地を夢想しています。彼らの声と表情は、現在に至るまで続く、個人的なあるいは集団的な苦悩を釈明するために絡みあっている。
★マディ・バルベル Maddi Barber(パンプローナ1988)は、ナバラのドキュメンタリー監督、前作「592 metroz goiti」もサバルテギ-タバカレラ部門で上映された。タイトルの数字592メートルはイトイス・ダムの最深度ということです。
(撮影中のマディ・バルベル監督)
(前作「592 metroz goiti」のポスター)
ニューディレクターズ部門*サンセバスチャン映画祭2019 ③ ― 2019年07月24日 19:12
スペインからは監督デビュー作2作品がノミネーション
★昨年の「ニューディレクターズ部門」ノミネーションは7月12日には全作品が発表になっておりましたが、今年はスペイン映画の2本がアナウンスされているだけです。監督デビュー作から2作までが対象で、2作ともデビュー作ということです。昨年は奥山大史の『僕はイエス様が嫌い』が受賞しました。
「La inocencia」ルシア・アレマニー Lucía Alemany スペイン、ドラマ
キャスト:カルメン・アルファ、ライア・マルル、セルジ・ロペス、ジョエル・ボスケド
ストーリー:年頃の娘リスは、サーカスの芸人になる夢を抱いて故郷を出たがっている。しかし夢を叶えるには両親を説得しなければならないことも分かっている。夏のある日、リスは女友達と遊んだり、少し年上のボーイフレンドといちゃついたりして過ごした。二人は秘密の関係を隣り近所の噂にならないようにしなければならなかった。両親に気づかれないようにしていたが、楽しかった夏が終わり秋になると、彼女は自分が妊娠していることに気づいた。主役のカルメン・アルファは15歳でデビューした。
(主役のカルメン・アルファを配したポスター)
「Las letras de Jordi」マイデル・フェルナンデス・エリアルテ Maider Fernandez Iriarte
スペイン、ドキュメンタリー
ストーリー:51年前に生まれたジョルディは脳性麻痺だった。話すことはできないが、ボードを介してコミュニケーションはとれる。この方法でこの映画の監督マイデルに語ったのは、21歳だったときは神が感じられた。しかし最近、両親の家からホームに引っ越して来てからは、神を感じられない。年に一度、ルルドの聖地に巡礼の旅に出かける。そこでいつの日か、神が彼のもとへ戻ってくるかどうか分からないが、神との繋がりを探している。本映画祭のレジデンス・イクスミラ・ベリアクのプログラムで完成させた。2017年REC賞を受賞している。
(アルファベット・ボードでコミュニケーションするジョルディ)
(2017年REC賞、左が製作者レイレ・アペリャニスとフェルナンデス・エリアルテ監督)
アメナバル新作ほか3作がノミネーション*サンセバスチャン映画祭2019 ② ― 2019年07月23日 15:37
金貝賞を競うコンペティション部門にスペイン映画は3作品
(セクション・オフィシアルのポスター)
★去る7月19日、第67回サンセバスチャン映画祭2019(9月20日~28日)の金貝賞を競うコンペティション部門他のノミネーションが一部発表になりました。映画祭総ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノス、TVEの映画&TVムービーのサブディレクターマイテ・L.・ピソネロ、ICAA総ディレクターベアトリス・ナバス、スペイン映画アカデミー副会長ラファエル・ポルテラ出席のもとスペイン映画のノミネーション3作、その他ニューディレクターズ以下のセクションが発表になりました。
(左から、レボルディノス、ピソネロ、ナバス、ポルテラの4氏、7月19日)
★まだ全体像は見えてきませんが、スペインからはアレハンドロ・アメナバルの哲学者ウナムノの最晩年を描いた「Mientras dure la guerra」、『フラワーズ』や『HANDIA アルツォの巨人』で話題を集めたバスク出身の監督トリオ、ジョン・ガラーニョ、アイトル・アレギ、ホセ・マリ・ゴエナガの「La trinchera infinita」、ベレン・フネスのデビュー作「La hija de un ladrón」の3作です。映画祭に間に合うよう順次紹介していけるよう準備中です。
★アメナバルの新作「Mientras dure la guerra」については、サラマンカでのクランクインに合わせて作品紹介をしておりますが、改めてアップしたいと考えています。主人公となるミゲル・デ・ウナムノの最後の数ヵ月、市民戦争勃発から最期までが語られます。ウナムノにカラ・エレハルデが扮します。アメナバルはキャストに同じ俳優は起用しないので、エレハルデ以下アメナバル映画にオール初出演となります。
*「Mientras dure la guerra」の作品紹介は、コチラ⇒2018年06月01日
(撮影中のアメナバル監督とカラ・エレハルデ)
★バスク出身の監督トリオの新作「La trinchera infinita」は、スペイン内戦後30年間も隠れ住んでいた共和派のトポtopoといわれる人物の物語ということです。topoの第一義はモグラのことで普通は弱視の人やスパイを指しますが、スペイン史では内戦後隠れ住んでいた共和派のことです。主役のトポに15キロ体重を増やして臨んだアントニオ・デ・ラ・トーレ(『デブたち』では33キロ増量した実績がある)、移動が制限されたトポたちは一般に体重が増えてしまったそうです。妻役のベレン・クエスタは、28歳から60歳までを演じるのでメイクが大変だったとか。キャストからも分かるように今回はバスク語でなくスペイン語で撮った。今秋10月31日公開が決定している。
(トリオ監督、ホセ・マリ・ゴエナガ、アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ)
(撮影中のアントニオ・デ・ラ・トーレとベレン・クエスタ)
★当ブログ初登場のベレン・フネス(バルセロナ1984)は、長らく助監督をしながら短編を発表、今回長編デビューを果たした。「La hija de un ladrón」は、主役の窃盗マヌエルにエドゥアルド・フェルナンデス、その娘サラにグレタ・フェルナンデスと実際の父と娘を起用している。父親フェルナンデスは、アメナバルの新作にウナムノと対立するミリャン・アストライ役を演じているから、今回はダブル出演となる。彼は既に『スモーク・アンド・ミラーズ』で男優賞(銀貝賞)を受賞している。目下売り出し中の娘フェルナンデスは『エリサ&マルセラ』のマルセラ役で知名度が上がってきた。本作では常に刑務所暮らしの父親をもつ22歳の子持ち役に挑戦している。
(父親マヌエル、娘サラ、年の離れた弟、映画から)
★コンペティション外には Netflix オリジナル作品、ダニエル・サンチェス・アレバロの新作「Diecisiete」が選ばれました。本作はいずれ Netflixでストリーミング配信になります。他に特別上映作品にアルゼンチン=スペイン合作のセバスティアン・ボレンステイン(ブエノスアイレス1963)の「La odesea de los giles」がアナウンスされた。本作はリカルド・ダリンが製作と出演を兼ねており、息子チノ・ダリンもクレジットされています。アルゼンチンが経済危機に陥り、ペソが大暴落した2001年が舞台。ボレンステインはリカルド・ダリンのために撮った辛口コメディ「Un cuento chino」(11)や当ブログで紹介した「Kóblic」(15)でもダリンとタッグを組んでいる監督です。
*「Diecisiete」の紹介記事は、コチラ⇒2018年10月29日
*「Kóblic」の紹介記事は、コチラ⇒2016年04月30日
(サンチェス・アレバロを挟んで主演のナチョ・サンチェスとビエル・モントロ、7月19日)
オリベル・ラセの 「O que arde」 が審査員賞*カンヌ映画祭2019 ⑬ ― 2019年05月29日 11:58
スペイン映画は「ある視点」部門でも評価されました!
(英語タイトルのポスター)
★オリベル・ラシェの「O que arde」(英題「Fire Will Come」)が「ある視点」部門の第2席に当たる審査員賞を受賞した。主役を演じたアマドール・アリアス、その老親役のベネディクタ・サンチェスなども現地入りした。5月21日の上映前のフォトコールでは、御年81歳(!)という遅咲きの新人ベネディクタ・サンチェスも最初こそたくさんのカメラマンに取り囲まれ緊張していたが、彼らの要望に応えてダンスまで披露するにいたった(!)。母親をフォローアップした息子アマドール・アリアスも、共に今回で俳優デビュー、監督はかなり上背がありバランスをとるため台の後ろでは膝を曲げていた。
(膝を曲げた監督とベネディクタ・サンチェス&アマドール・アリアス、21日のフォトコール)
(カメラマンの求めに応じてダンスを披露するお茶目なベネディクタ・サンチェス)
★上映後の各紙誌の評判はオール・ポジティブ評価、結果発表を待つまでもなく何かの賞に絡むのは想定されていた。「こんな小品が受賞できるなんて」と監督、ご謙遜でしょう。「現在のスペインでは、作家性の強い映画作りは何かしら問題を抱えている。この状況を変えていくためにも賞を勝ち取ろう」と監督。モロッコに10年ほど暮らした後、長年構想を練っていた新作をガリシアで撮るためにルゴ近郊の山村の我が家に帰ってきた。「我が家であると同時に我が家でもないのです。というのもシネアストは常に外国人だから、映画作りには距離をおくべきと思っています」と数日前に語っていた。
(カンヌ入りしたオリベル・ラセ以下スタッフ、キャスト一同)
★オリベル・ラシェ(パリ1982、37歳)はカンヌに縁の深い監督、デビュー作「Todos vosotros sois capitanes」(10)は、監督週間に出品され国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞、第2作「Mimosas」(16)は批評家週間のグランプリ、第3作が本作である。本作について、「家族をめぐる物語性のある映画にした・・・自身は放火魔を正当化していないが、現実には痛みの鎖を断ち切りたい困難な世界が存在している。それで弁証法的ではないが、観客はすべてを理解しようと試みるだろう」と語っていた。アマドールの内面は複雑で、とくに新しい火事が起きてからの反応が見どころとなる。
★本作では溢れんばかりのビジュアルな力が強いが、音、音楽も入念に練ったという。例えばカナダのシンガーソング・ライター、吟遊詩人とも言われたレナード・コーエンの「スザンヌ」を一例に上げている。歌詞は分からないがとても気に入っており、好きになるのに意味など分からなくてもいい。「それは映画についても同じことが言えます。私たちはとても合理主義者で、すべてを理解したがりますが、それは意味がありません」ときっぱり。吟遊詩人は2016年ロサンゼルスの自宅で急死、享年82歳だった。癌を患っていたそうだが新作を発表しつづけていたから、訃報のニュースは世界を駆けめぐった。しかし日本での扱いは小さく、もっと評価されるべきとファンは急逝を惜しんだ。
(山火事のシーンから)
★自分は「映像重視の監督だが、新作はよりクラシックに、と同時に前衛的に撮ったと思う。さまざまな二分法、例えば明暗、単純で複雑、円熟と未熟というようにです」と。ルゴ近郊の山村ナビア・デ・スアルナを撮影地に選んだのは、ここが監督の母親の生れ故郷だったから。フランスから5~6歳のころ戻ったとき、「ここには道路がなく、今思うとまるで中世に戻ったようだった。祖父母たちはいい人たちだったが、素っ気なくて自分たちの不運を嘆いていた。現実を受け入れ、質素に暮らし、自分たちは取るに足りない存在と感じていた」と語る監督、1980年代後半のガリシアの山村はマドリードやバルセロナとはかなり差があったということです。時間が経ってもガリシア人の複雑で屈折した気質は変わらない。それが作品に織り込まれているようです。
★今は映画から少し距離をおきたいということです。ここガリシアに腰を落ち着けて考えたいことがあるという。するべきことは何か、「ここのコミュニティのためにしたいことがある。映画は神経症を理解したり、人がどうして愛を必要とするのか理解するのに役立つが・・・円熟とは愛が必要でないと気づくときです。それは既に愛に囲まれているからなのです。所詮、私は愚か者でありつづけている。今よりひどい映画を作るくらいなら愚かでいるほうが好きなんだ」。じゃ第4作は何時になるのか?
★レバノンの監督ナディーヌ・ラバキ審査委員長以下、アルゼンチンの監督リサンドロ・アロンソ(『約束の地』15)他の審査員に感謝です。字幕入り上映を期待します。
* 第2作「Mimosas」とキャリア紹介は、コチラ⇒2016年05月22日
*「O que arde」の作品紹介は、コチラ⇒2019年04月28日
追加情報:ラテンビート2019で『ファイアー・ウィル・カム』の邦題で上映が決定しました。東京国際映画祭との共催です。
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