コロンビア映画「Monos」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑬2019年08月21日 16:03

    ホライズンズ・ラティノ第3弾――アレハンドロ・ランデスの第3作「Monos

 

    

 

★先日、ホライズンズ・ラティノ部門のラインナップをした折に、ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』(1954刊)の映画化とコメントしましたが、アレハンドロ・ランデスMonosは、『蠅の王』にインスパイアされたが近い。過去にピーター・ブルック63)とハリー・フック90)の手で2回映画化されていますが、こちらは文字通り小説の映画化でした。最新ニュースによると、3度目の映画化をルカ・グァダニーノに交渉中という記事を目にしました。話題作『君の名前で僕を呼んで』の監督、実現すればどんな料理に仕上がるのか興味が湧く。

 

アレハンドロ・ランデス(サンパウロ1980)は、監督、製作者、脚本家、ジャーナリスト。サンパウロ生れだが、父親がエクアドル人、母親がコロンビア人で、母語はスペイン語である。米国ロード・アイランドの名門ブラウン大学で政治経済を専攻した。ボリビア大統領エボ・モラレスについてのドキュメンタリーCocaleroでデビュー、本作はラテンビートLBFF2008『コカレロ』の邦題で上映された。第2作のPorfirioは、カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品、その後トロントFFやメリーランドFFでも上映された。警察の不用意な発砲で下半身不随になったポルフィリオ・ラミレスの車椅子人生が語られる。本作はフィクションだが、本人のたっての希望でラミレス自身が主役ポルフィリオを演じている。第3作となるMonos」は、製作国がコロンビアを含めて6ヵ国と、その多さが際立つ。米国アカデミー2020のコロンビア代表作品候補となっている。

 

Monos

製作:Stela Cine / Bord Cadre Films / CounterNarrative Films / Le Pacte 以下多数

監督:アレハンドロ・ランデス

脚本:アレハンドロ・ランデス、アレクシス・ドス・サントス

撮影:ジャスパー・ウルフ

音楽:ミカ・レビ

編集:テッド・グアルド、ヨルゴス・マブロプサリディス、サンティアゴ・Otheguy

製作者:アンドレス・カルデロン、J. C. ChandorCharies De Viel Castel、ホルヘ・イラゴリ、Duke Merriman、グスタボ・パスミン、ジョセフ・レバルスキ、グロリア・マリア(以上エグゼクティブ)、アレハンドロ・ランデス、クリスティナ・ランデス、他多数

 

データ:製作国コロンビア=アルゼンチン=オランダ=ドイツ=スイス=ウルグアイ、スペイン語・英語、2019年、スリラー・ドラマ、102分、コロンビア公開2019815日、他イタリア(711日)、以下オランダ、米国、イギリス、スウェーデン、ノルウェー、フランスなどがアナウンスされている。

 

映画祭・映画賞:サンダンスFFワールド・シネマ・ドラマ部門審査員特別賞、ベルリンFFパノラマ部門上映、BAFICI オリジナル作曲賞、アート・フィルム・フェスティバル作品賞ブルー・エンジェル受賞、カルタヘナFF観客賞・コロンビア映画賞、ニューポート・ビーチFF作品賞以下4冠、オデッサFF作品賞、トゥールーズ・ラテンアメリカFF CCAX賞、トランシルヴァニアFF作品賞などを受賞、ノミネーションは割愛

 

キャスト:ジュリアンヌ・ニコルソン(ドクター、サラ・ワトソン)、モイセス・アリアス(パタグランデ、ビッグフット)、フリアン・ヒラルド(ロボ、ウルフ)、ソフィア・ブエナベントゥラ(ランボー)、カレン・キンテロ(レイデイ、レディ)、ラウラ・カストリジョン(スエカ、スウェーデン人)、デイビー・ルエダ(ピトゥフォ)、パウル・クビデス(ペロ、ドッグ)、スネイデル・カストロ(ブーンブーン)、ウィルソン・サラサール(伝令)、ホルヘ・ラモン(金探索者)、バレリア・ディアナ・ソロモノフ(ジャーナリスト)、他

 

ストーリー:一見すると夏のキャンプ場のように見える険しい山の頂上、武装した8人の少年ゲリラ兵のグループ「ロス・モノス」が、私設軍隊パラミリタールの軍曹の監視のもと共同生活を送っている。彼らのミッションは唯一つ、人質として誘拐されてきたアメリカのドクター、サラ・ワトソンの世話をすることである。この危険なミッションが始まると、メンバー間の信頼は揺らぎ始め、次第に疑いを抱くようになる。                  (文責:管理人)

 

          

 (ロス・モノスに囲まれた拉致被害者サラ・ワトソン役ジュリアンヌ・ニコルソン)

 

   コロンビアの半世紀に及ぶ内戦についての出口なしのサバイバルゲーム

 

★ストーリーから直ぐ連想されるのは、20世紀後半のコロンビアに半世紀以上も吹き荒れた内戦の傷である。比較されるのはフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』の原作となったジョセフ・コンラッドの『闇の奥』(1902刊)であろうが、原作にあるような「心の闇」は希薄のようです。本作は目眩やアドレナリンどくどくでも瞑想的ではないようだ。社会と隔絶された場所、登場人物の若者グループなど舞台装置は、ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』を思い出させる。極寒の地の厳しさのなかで、武器を持たされ軍事訓練を受ける若者のグループは、ついこの間まで存在していたコロンビアに容易に結びつく。

 

  

 

   

 (8人の武装グループ「ロス・モノス」と軍曹)

 

★コロンビア公開に際して受けたインタビューで、前から「若者を主役にして戦闘やメロドラマを織り込んだ目眩を起こさせるようなセンセショーナルな作品を探していた。私たちの映画はあまり観想的ではなくてもアドレナリンは注入したかった。ジャンル的には戦闘とアクションを取り込んで、観客は正当性には駆られないだろうから、皮膚がピリピリするようなものにしたかった」とランデス監督は語っていた。戦争映画はベトナムは米国が、アフリカはフランスが撮っているが、自分たちはコロンビア人の視点で自国の戦争映画を作る必然性があったとも語っている。

 

      

               (アレハンドロ・ランデス監督)

 

★登場人物たちの名前も、政治的に左か右か分からなくてもかまわない。「イデオロギー・ゼロを観客に放り投げたかった。所詮世界は非常に偏向して、富も理想も違いすぎている。エモーションを通して揺さぶろうとするなら、どんなメタファーが有効かだ」、「何を語るかだけでなくどう語るか」、『蠅の王』や『闇の奥』が出発点にあったようです。

 

★キャスト陣のうち、ドクター役のジュリアンヌ・ニコルソン(マサチューセッツ州メドフォード1971、代表作『薔薇の眠り』『8月の家族』)とパタグランデ役のモイセス・アリアス(ニューヨーク1994、代表作SFアクション『エンダーのゲーム』、「The King of Summer」)は、アメリカの俳優、スエカ役のラウラ・カストリジョンはスペインのTVシリーズに出演している。金探索者のホルヘ・ラモンはルクレシア・マルテルの『サマ』に出演している。そのほかは本作が2作目か初出演。

*追加情報:ラテンビート2019で『猿』の邦題で上映が決定しました。

*追加情報:2021年10月30日『MONOS 猿と呼ばれし者たち』の邦題で公開されました。