ベロドロモ部門にアニメとコメディ*サンセバスチャン映画祭2019 ⑥2019年08月04日 18:05

         映画祭の一番人気は巨大スクリーンで楽しむベロドロモ部門!

 

400㎡の巨大スクリーンで上映されるベロドロモ部門は、観客数3000人が一度に楽しめるセクション。プレミア作品より一度はどこかの映画祭でエントリーされたもの、老若男女問わず楽しめる前評判の高いアニメーションなどが選ばれることが多い。第67回サンセバスチャン映画祭SSIFFでは、目下レティシア・ドレラの自作自演、TVシリーズのコメディVida perfecta25分、8話)と、ビクトル・モニゴテエドゥアルド・ゴンデルのアニメーションLa gallena turuleca(スペイン=アルゼンチン合作)がアナウンスされている。

 

★フランスで2018年から始まったTVシリーズドラマのフェスティバル、第2回カンヌ国際シリーズ・フェスティバルCannesSeries45日~10日)に出品され、作品賞に当たるシリーズ賞主演賞(演技賞)の2 冠を制したVida perfectaからご紹介します。主演賞には監督自身を含む3人の女優、レティシア・ドレラアイシャ・ビリャグランセリア・フレイジェイロが揃って受賞した。

 

     

     (シリーズ賞と主演賞のトロフィーを手に、左からアイシャ、レティシア、セリアの3人)

 

    

       

Vida perfecta(「Déjate llevar」、インターナショナル題「Perfect Life」)2019

製作:Corte y Confección de películas / Movistar

監督:レティシア・ドレラ、エレナ・マルティン、ジネスタ・ギンダルGinesta Guindal

脚本:レティシア・ドレラ、マヌエル・ブルケ

撮影:マルク・ゴメス・デル・モラル

データ:製作国スペイン、コメディドラマ、全8話、各25分のシリーズ、撮影バルセロナ。CannesSeries 正式出品(シリーズ賞・演技賞)受賞作品。20191018日より配信開始

 

キャスト:レティシア・ドレラ(マリア)、アイシャ・ビリャグラン(エステル)、セリア・フレイジェイロ(クリスティナ)、フォント・ガルシア(パブロ)、マヌエル・ブルケ(ホセ)、カルメン・マチ(マリアの母)、フェルナンド・コロモ(マリアの父)、ダビ・ベルダゲル(グスタボ)、ペドロ・カサブランク(リカルド)、ジャスミン・ロルダン(ジミー)、イツァル・カストロ、他

 

ストーリー:マリア、エステル、クリスティナ、30代の3人は人生でも最も重要で複雑と思われる危機に直面している。彼女たちは、人生がかつて期待していた幸福とはほど遠いものであったことに気づく。別の選択肢を求めて行動を起こす時である。共に社会が女性たちに伝統的に求めている生き方から離れる決心をするだろう。人生が如何に自分とは無関係な義務を圧しつけていたことに気づくことになる。人生最大の危機に見舞われた3人の女性の動機はそれぞれ異なっているが、30歳を過ぎた女性の支柱がふらつき始めたらどんな混乱が起こるか、私たちは目にすることになる。

  

    

                  (左から、マリア、エステル、クリスティナ、映画から)

 

★ストーリーだけでは特別新鮮さは感じられないが、監督のレティシア・ドレラ(バルセロナ1981)は、マリアをヒロインに、今までもスペイン女性に強制されている<ノーマルな>生き方に疑問を投げかけてきたシネアスト、本作はその延線上にあるようです。第18回マラガ映画祭2015に出品されたRequisitos para ser una persona normal2015)で長編デビュー、監督・脚本・主演と才媛ぶりを発揮して、最優秀新人脚本賞を受賞、翌年のゴヤ賞にもノミネーションされました。フェミニストとして有名ですが、今作ではクリスティナ役を演じるはずだったAina Clotetを妊娠を理由に降板させたことで、両者間のバトルがネット上でも激しく応酬され物議を醸したのでした。ここでは深入りしませんが、上記でスペイン語題を2つ載せたのは、最初のタイトルが「Déjate llevar」だったからです。

 

★ホラー映画が初めてゴヤ賞2018の作品賞にノミネートされたことで話題になった、『エクリプス』の監督パコ・プラサと結婚している。女優として出演したプラサ監督の [REC]3サンジョルディ賞トゥリア賞の女優賞を受賞している。ほかTVシリーズ出演も多く、スペインでも女優のほうが有名かもしれません。

  

   

     (主演女優3人と Movistar+のフィクション部門の長ドミンゴ・コラル、719日)

 

★マリアの母親役にベテランのカルメン・マチ、父親役にベテラン監督のフェルナンド・コロモ、『悲しみに、こんにちは』のダビ・ベルダゲル、デビュー作にも出演したマヌエル・ブルケを布陣するなど、豪華キャストでお茶の間に登場します。

 

(続)ベロドロモ部門のアニメーション*サンセバスチャン映画祭2019 ⑦2019年08月06日 15:26

           ビクトル・モニゴテのデビュー作「La gallina Turuleca

 

      

              (オリジナル・タイトルのポスター)

    

★ベロドロモ部門のもう1作はスペイン=アルゼンチン合作のアニメーション、ビクトル・モニゴテエドゥアルド・ゴンデルLa gallina Turuleca、卵は産めないが、人と話ができるだけではなく歌も歌えるという風変わりなめんどりトゥルレカのお話。もともと同じ題名の童謡があるようです。719日のノミネーション発表には、共同監督の一人スペインのビクトル・モニゴテと製作者で脚本家のパブロ・ボッシが出席しました。スペインの子供たちに人気の童謡は、YouTubeで聴くことができます。

 

      

    (左から、パブロ・ボッシとビクトル・モニゴテ、サンセバスチャン、719日)

 

 

La gallina Turuleca(オリジナル・タイトル「Turu, the wacky hen」)

製作:Brown Films AIE / Pampa Films / Tandem Films / Producciones A Fonsagrada /

   Gloriamundi Producciones / Mogambo

監督:ビクトル・モニゴテ、エドゥアルド・ゴンデル

脚本:パブロ・ボッシ、フアン・パブロ・ブスカリニ、エドゥアルド・ゴンデル

音楽:セルヒオ・モウレ・デ・オテイサ

撮影:アレハンドロ・バレンテ

プロダクション・デザイン:ビクトル・モニゴテ

美術:ベアトリス・カストロ・エレディア

プロダクション・マネージメント:フローラ・カンペロ、クリスティナ・スマラゴ、他

録音エディター:フアン・フェロ、他

製作者:アグスティン・ボッシ、クリスティナ・スマラゴ、ディエゴ・ロペス・アルバレス(以上エグゼクティブ)、パブロ・ボッシ、リカルド・マルコ・ブデー、カルロス・エルナンデス、イグナシオ・サラサル=シンプソン、他多数

アニメーション:マティ・ベンリョチ、フェルナンド・ガルシア=ソトカ、エドゥアルド・オリデン・エルミダ、他

 

データ:製作国スペイン、アルゼンチン、スペイン語、2019年、アニメーション・コメディ、配給元Filmax、スペイン公開20200101

キャスト(ボイス):エバ・アチェ(めんどりのトゥルレカ)、ホセ・モタ(悪党アルマンド)

 

ストーリー:トゥルレカは卵を産めないめんどり、そのせいで他のにわとりからの嘲笑に苦しんでいる。しかしながら、元音楽教師イサベルがトゥルレカの特異稀な隠れた才能、人間と話ができるだけでなく歌まで上手に歌えることを発見して以来、トゥルレカの人生は永遠に変わってしまう。二人は親しくなるが、ある日のこと、イサベルがアクシデントに見舞われ記憶喪失になってしまい、大都会の病院に連れていくことになる。トゥルレカは連れていく方法を調査した結果、ダエダルス・サーカスの芸人たちの魅惑的なグループと合流することに決めた。この素晴らしい旅のなか、トゥルレカはその音楽的才能とカリスマ性でサーカスのスターとなっていく。しかし好事魔多し、この奇跡のめんどりを手に入れたい悪党アルマンド・トラマスによってサーカスは脅迫されてしまうのである。

    

    

  

       

 (めんどりのトゥルレカ、アニメーションから)

 

  

★共同監督の一人スペインのビクトル・モニゴテVitor "Monigote")は本作で監督デビューしました(monigote は愛称、でくの坊という意味)。イラストレーター、ミュージシャン、歌手、俳優、声優と多才、今回はそれに監督が加わった。「どこがでくの坊なの?」―「背は低いし、ハンサムじゃないし、貧乏だ。ブランコ曲芸師でもサッカー選手でもない・・・」からだそうです。モーターバイクで世界を走り回っている。

   

     

         (ハンサムでないのは確か、愛車とビクトル・モニゴテ)

 

ハビエル・フェセル1964年生れ)の『カミーノ』に俳優とアートディレクターで参加、「ラテンビート2009」で上映されたとき監督と一緒に来日している。その後、同監督のアニメーションMortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo14)にはボイス出演の他、美術とアニメーションを手掛け、翌年のゴヤ賞の美術部門でノミネートされた。ゴヤ賞の美術部門にアニメーションが選ばれるのは初めての快挙だった。もともとはハビエルの兄ギジェルモ・フェセル(脚本家、監督、1960年生れ)と親しく、ギジェルモのCándida06)出演が俳優デビューだった。モニゴテは年内に公開が予定されているハビエル・フェセルの『チャンピオンズ』18)でも美術を担当している。

『チャンピオンズ』の作品紹介は、コチラ2018061220190701

 

     

                                    (制作中のビクトル・モニゴテ)

     

       

     (アニメ「Mortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo」とフェセル監督) 

 

★共同監督エドゥアルド・ゴンデルEduardo Gondellは、アルゼンチンの監督、脚本家、アートディレクター、俳優。代表作はアニメーションValentina, la película0865分)、ホセ・ルイス・マッサのUn hijo genial03)の美術を手掛けている。その他、アルゼンチンのTVミニシリーズを手掛けている。

 

(エドゥアルド・ゴンデル)

  

     

       

           (英語版Valentina, la película」のポスター

 

★めんどりトゥルレカのボイス出演のエバ・アチェ(本名Eva María Hernández Villegasは、1972年セゴビア生れ、女優、コメディアン、テレビ司会者、舞台女優として出発した。主に映画よりTVシリーズ出演が多く、国営テレビの他、テレ5、アンテナ3などでテレビ司会者として活躍、お茶の間では知られた顔である。そういうこともあって、ゴヤ賞2012年と2013年授賞式に連続で総合司会者を務めた。

 

★悪党アルマンド・トラマスのボイスを受けもつホセ・モタJosé Motaは、1965年シウダレアル生れ。コメディアン、俳優、声優、監督、脚本家。サンティアゴ・セグラの「トレンテ・シリーズ」の常連。アレックス・デ・ラ・イグレシア『刺さった男』12)では、首に鉄筋が刺さってしまった男を演じ、パブロ・ベルヘル『アブラカダブラ』16)では、催眠術にハマってしまったヒロインの従兄役に扮して笑わせた。

『アブラカダブラ』のスタッフ&キャスト紹介は、コチラ20160529


ホライズンズ・ラティノ、全15作が発表*サンセバスチャン映画祭2019 ⑧2019年08月08日 14:52

       オープニング作品はパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー

 

    

 

★去る86日、ホライズンズ・ラティノ部門15作品が一挙に発表されました。うちコンペティション外2作品を含んでいます。映画祭上映、または公開が期待できる映画も混じっているセクションです。既に終了している映画祭、カンヌやサンダンスの受賞作、ベルリンやベネチアでノミネートされた作品も目につきます。アルゼンチン、ブラジル、チリ、ウルグアイ、メキシコ、キューバ、グアテマラ、ペルーの監督作品、なかには当ブログで記事に取り上げた作品も含まれており、まずはタイトル名・製作国・監督名・キャスト名を列挙しておきます。

 

オープニング作品はパトリシオ・グスマンのドキュメンタリーLa cordillera de los sueñosが選ばれていますが、本作はカンヌFFで特別上映され、最優秀ドキュメンタリー賞(ゴールデン・アイ)を受賞した作品です。15作品のうちクロージング作品に選ばれたグアテマラのハイロ・ブスタマンテLa lloronaはコンペティション外作品、他にベルリンFFのパノラマ部門で上映された作品Temblores / Tremorsも選ばれるなど、これは珍しいケースではないでしょうか。

 

La cordillera de los sueños / The Cordillera of Dreamsチリ=フランス、

  パトリシオ・グスマン  オープニング作品

  カンヌFF2019特別上映作品、ドキュメンタリー、84

『光のノスタルジア』『真珠のボタン』に続く「ピノチェト三部作」の完結編

カンヌFF2019特別上映での作品紹介は、コチラ20190515

 

     

 

La lloronaグアテマラ=フランス、ハイロ・ブスタマンテ   クロージング作品

 コンペティション外、VIIヨーロッパ・アメリカラティナ共同製作フォーラム作品

キャスト:マリア・メルセデス・コロイ、サブリナ・デ・ラ・ホス、フリオ・ディアス、マルガリタ・ケネフィック、フアン・パブロ・Olyslager、アイラ・エレア・ウルタド、マリア・テロン

 デビュー作『火の山のマリア』の作品紹介は、コチラ201508281025

 

    

 

Agosto / Augustキューバ=コスタリカ=フランス、アルマンド・カポ

 IIIヨーロッパ・アメリカラティナ共同製作フォーラム、Cine en Construcción 32作品

キャスト:ダミアン・ゴンサレス・ゲレーロ、ロラ・アモレス・ロドリゲス、ラファエル・ラエラ・スアレス、ベロニカ・ライン・ロペス、グレンダ・デルガド・ドミンゲス、他

 

     

 

Araña / Spiderチリ=アルゼンチン=ブラジル、アンドレス・ウッド

キャスト:メルセデス・モラン、マリア・ベルベルデ、マルセロ・アロンソ、ペドロ・フォンテイン、ガブリエル・ウルスア、フェリペ・アルマス、他

『マチュカ 僕らの革命』『サンティアゴの光』『ヴィオレータ、天国へ』の監督

 監督キャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ20180304

新作「Araña」の作品紹介は、コチラ⇒2019年08月16日

   

     

 

Así habló el cambista / The Moneychangerウルグアイ=アルゼンチン=独、

  フェデリコ・ベイロー

キャスト:ダニエル・エンドレル、ドロレス・フォンシ、ルイス・マチン、ベンハミン・ビクニャ、ヘルマン・デ・シルバ、他

『アクネ ACNE』『映画よ、さようなら』『信仰を捨てた男』「Belmonte」の監督

 監督キャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ20180803

 

     

 

Chicuarotesメキシコ、ガエル・ガルシア・ベルナル

 カンヌ映画祭2019特別上映作品、2019年、監督第2作目

キャスト:ベニー・エマニュエル、ガブリエル・カルバハル、レイディ・グティエレス、ドロレス・エレディア、ダニエル・ヒメネス⋍カチョ、他

カンヌFF2019特別上映での作品紹介は、コチラ20190513

  
       

 

De nuevo otra ves / Again Once Againアルゼンチン、ロミナ・パウラ

 ロッテルダム映画祭2019上映作品、女優ロミナ・パウラの監督デビュー作

キャスト:ロミナ・パウラ、モニカ・ランク、ラモン・コーエン、マリアナ・チャウド、パブロ・シガルエステバン・ビリアルディ、デニーズ(ドゥニーズ)・Groesman、他

 

     

 

El príncipe / The Princeチリ=アルゼンチン=ベルギー

  セバスティアン・ムニョス

 Cine en Construcción 34作品、監督デビュー作、ベネチアFF「批評家週間」正式出品

キャスト:アルフレッド・カストロ、フアン・カルロス・マルドナド

 

   

 

★女性監督が少ないのが気になりますが、全15作と分量が多いので2回に分けて、⑨以下は次回にアップします。パトリシオ・グスマンのドキュメンタリー三部作の完結編、しばらく製作に没頭していたアンドレス・ウッドの監督復帰、ガエル・ガルシア・ベルナルの第2作、ハイロ・ブスタマンテの2作同時上映など、秋の映画祭が楽しみになってきました。

 

続ホライズンズ・ラティノ部門*サンセバスチャン映画祭2019 ⑨2019年08月11日 18:48

          アレハンドロ・ランデルの問題作「Monos

 

La broncaペルー=コロンビア、ディエゴ&ダニエル・ベガ兄弟

 第23回リマ映画祭2019815日上映)、長編3作目、カナダで撮影された最初のペルー映画

キャスト:ホルヘ・ゲーラ、ロドリゴ・パラシオス、ロドリゴ・サンチェス・パティニョ、イサベル・ゲラード、Sandrine Poirier-Allard、シャーロット・オービン、ルナ・マセド、他

監督キャリア&作品紹介は、コチラ⇒2019年08月23日

          

    

 

 

Los sonámbulos / The Sleepwalkersアルゼンチン=ウルグアイ

  パウラ・エルナンデス

キャスト:エリカ・リバス、オルネジャ・デリア、マリル・マリーニ、ルイス・Ziembrowski、ダニエル・エンドレル、バレリア・ロイス、ラファエル・フェデルマン、他

パウラ・エルナンデスの第4作目、第3Un amor以来7年ぶりにメガホンをとった。

 

     

 

Los tiburones / The Sharksウルグアイ=アルゼンチン=スペイン

  ルシア・ガリバルディ

  Cine en Construcción 342018)の技巧賞、フィルム・ファクトリー賞受賞作品。他にサンダンスFFワールド・シネマ部門の監督賞、BAFICI審査員特別賞など受賞歴多数

キャスト:ロミナ・ベタンクール、フェデリコ・モロシニ、ファビアン・アレニジャス、バレリア・ロイス、他

監督キャリア&作品紹介は、コチラ⇒2019年09月04日

     

    

        

    

         

 

Monosコロンビア=アルゼンチン===スイス=ウルグアイ

  アレハンドロ・ランデス

 サンダンスFFワールド・シネマ部門の審査員特別賞受賞、ベルリンFFパノラマ部門上映作品、カルタヘナFFコロンビア作品賞受賞など受賞歴多数。

キャスト:ジュリアンヌ・ニコルソン、モイセス・アリアス、フリアン・ヒラルド、ソフィア・ブエナベントゥラ 、カレン・キンテロ、デイビー・ルエダ、他多数

デビュー作CocaleroLBFF2008『コカレロ』の邦題で上映されている。

長編3作目、ウィリアム・ゴールディングの小説『蠅の王』の映画化。過去に何回か映画化されている。別途作品紹介予定。

新作の紹介記事は、コチラ⇒2019年08月21日

       

          

   

                                                                 

 

Nuestras madres / Our Mothersグアテマラ=フランス=ベルギー

  セサル・ディアス  

 カンヌFF併催の「批評家週間」2019正式出品、カメラドール受賞作品、監督デビュー作

キャスト:アルマンド・エスピティア、エンマ・ディブ、アウレリア・カアルCaal、フリオ・セラノ、ビクトル・モレイラ、他

カメラドール受賞は、セサル・アセベド『土と影』15)以来4年ぶり。

監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20190507

      

       

 

  

 

Temblores / Tremorsグアテマラ=フランス=ルクセンブルク

  ハイロ・ブスタマンテ  ベルリンFFのパノラマ部門上映作品

キャスト:フアン・パブロ・Olyslager、ディアネ・バザン・エバンズ、マウリシオ・アルマス・セバドゥア、他

長編第2作目、デビュー作は『火の山のマリア』、第3作目がクロージング作品La Llorona(コンペティション外)、別途作品紹介予定。

新作の紹介記事は、コチラ⇒2019年08月19日

    

   

 

 

La ola verde (Que sea ley)アルゼンチン=ウルグアイ=フランス

  フアン・ソラナス  コンペティション外特別上映作品、カンヌFF2019特別上映作品

アルゼンチンの妊娠中絶合法化運動のドキュメンタリー

ドキュメンタリー第2作目。長編映画デビュー作Nordesteは、カンヌFF2005「ある視点」正式出品作品、第2作目Upside Down12、カナダ=フランス合作)の言語は英語。別途作品紹介予定。

 

     

 (カンヌの赤絨毯を踏む中絶合法化のシンボル緑のハンカチ運動の女性たち、519日)

 

★以上がコンペティション部門13作、特別上映、コンペティション外各1作、合計15作のラインナップです。以後、公開が期待できる作品、話題作などをできるだけ紹介したいと思います。


ニューディレクターズ全14作が発表*サンセバスチャン映画祭2019 ⑩2019年08月13日 14:49

         全容が明らかになったニューディレクターズ部門―チリとアルゼンチンから

 

730日、ホセ・ルイス・レボルディノス総ディレクターとニューディレクターズ部門の代表者イドイア・エルルベによって全14作品が発表になりました。スペイン語映画は、既に発表になっていたスペイン映画2作(La inocenciaLas letras de Jordi)は紹介済み、加えてアルゼンチン映画、チリ映画各1作ずつ、合計4作がノミネートされたことになりました。アジアからは関係がぎくしゃくしている日本と韓国から仲良く1作ずつ選ばれました。他、アルファベット順にブルガリア、米国、イスラエル、リトアニア、ノルウェー、イギリス、スイス、チュニスが選ばれましたが大方が合作、各国から満遍なく選ばれている印象です。

 

ルシア・アレマニーのLa inocencia」の紹介は、コチラ20190724

マイデル・フェルナンデス・エリアルテLas letras de Jordi」は、コチラ20190724

    

    

  (全14作を発表する、ホセ・ルイス・レボルディノスとイドイア・エルルベ、730日)

 

『よあけの焚き火』(「Bonfire at Dawn」)日本、土井康一

キャスト:大蔵基誠、大倉康誠、鎌田らい樹、坂田明 

650年の伝統を守る大蔵流狂言方の父と子の物語。大蔵流狂言方の実の親子が初出演している。ドキュメンタリーとフィクションを織り交ぜている。89日よりフォーラム山形で上映開始、全国各地で展開中。監督(横浜1978)、スタッフ、キャスト紹介の詳細は公式サイトで。

    

   

 

 

 

Algunas bestias / Some Beastsチリ、ホルヘ・リケルメ・セラーノ

 Cine en Construccion 35 Toulouse 受賞作品、2019年、監督第2作目、スリラー、97

キャスト:パウリナ・ガルシア(ドロレス)、アルフレッド・カストロ(アントニオ)、コンスエロ・カレーニョ(コンスエロ)、ガストン・サルガド(アレハンドロ)、アンドリュウ・バルグステッド(マキシモ)、ミジャレイ・ロボス(アナ)、他

ストーリー:ある家族がチリ南部の海岸沿いにある無人島に、観光ホテル建設の夢を抱いて喜び勇んでやってくる。本土から彼らを船に乗せてきた男が姿を消すと、家族は島の囚われ人となってしまう。水もなく寒さと不安で気力も失せ、家族の各々が隠しもっている悪霊が露わになるなかで、共同生活は次第に困難になっていく。

4日間で撮ったデビュー作Camaleón16)がロンドン映画祭などで高評価だったことが、比較的早い第2作に繋がった。「チリ社会に根源的に存在する悪霊がテーマ」と監督。

 

    

 (アルフレッド・カストロ、パウリナ・ガルシア)

     

   

 

Las buenas intenciones / The Good Intentionsアルゼンチン、アナ・ガルシア・ブラヤ

キャスト:ハビエル・ドロラス(グスタボ)、アマンダ・ミヌヒン(アマンダ)、エセキエル・フォンタネラ、カルメラ・ミヌヒン、セバスティアン・アルセノ、ハスミン・スタート、フアン・ミヌヒン

ストーリー1990年代のブエノスアイレス、アマンダは10歳、弟と妹がいる。子供たちは離婚した両親の家を行ったり来たりして暮らしている。父親と一緒のときは、アマンダはできる限り家事をこなして大人のように振るまわざるを得ない。それは父親が子供たちを自身よりほんの少しだけ愛しているようなとても風変わりなタイプの人間だったからだ。ある日のこと、母親が父親のきちんとできない生活からは程遠い外国を申し出る。その提案はアマンダを不安に陥れることになる。

監督デビュー作、1974年ブエノスアイレス生れ。実際の3人姉弟が演じる。

    

  

 (父親と子供たちをバックにしたポスター)

 

         

                          (きちんとした性格の母親)

  

アンドレス・ウッドの新作「Araña」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑪2019年08月16日 12:43

       ホライズンズ・ラティノ第1弾――チリの監督アンドレス・ウッドの新作

 

      

 

アンドレス・ウッド久々の新作であること、ラテンビートLBFFとの深い関わりやキャストにメルセデス・モランやマリア・ベルベルデが出演ということで、チリ=アルゼンチン=ブラジル合作Araña / Spiderの紹介から。チリの監督と言えば、『No』や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』のパブロ・ララインが有名ですが、彼はデビュー作『トニー・マネロ』がカンヌ映画祭併催の「監督週間」にノミネートされたこともあって、カンヌFF出品が多い。他にベネチア映画祭やベルリン映画祭にも出品しており、今年も新作Emaはベネチアとトロントに出品された。

 

  Araña / Spider

製作:Bossa Nova Films / Magma Cine / Wood Producciones

監督:アンドレス・ウッド

脚本:ギジェルモ・カルデロン

撮影:M.I. Littin-Menz

キャスティング:ロベルト・マトゥス

美術:ロドリゴ・バサエス

製作者:パトリシオ・ペレイラ(エグゼクティブ)、パウラ・コセンサ、アレハンドロ・ガルシア、他

 

データ:製作国チリ=アルゼンチン=ブラジル、スペイン語、2019年、スリラー、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門出品、チリ公開2019815

 

キャスト:メルセデス・モラン(イネス)、マリア・バルベルデ(ヤング・イネス)、フェリペ・アルマス(イネスの夫フスト)、ガブリエル・ウルスア(ヤング・フスト)、マルセロ・アロンソ(イネスとフストの親友ヘラルド)、ペドロ・フォンテーヌ(ヤング・ヘラルド)、カイオ・ブラット(アントニオ)、マリア・ガルシア・オメグナ(ナディア)、マリオ・ホールトン(ホセ)、ハイメ・バデル(ドン・リカルド)、他

 

ストーリー1970年代の初頭、イネス、夫のフスト、夫婦の親友ヘラルドの三人は、アジェンデ政権打倒を目論む過激な国粋主義を標榜する極右グループのメンバーだった。犯罪や陰謀が渦巻くなか、彼らは歴史の流れを変えようと或る政治的犯罪に手を染めていく。同時に危険で情熱的な三角関係にもつれ込み、裏切りにより彼らは永遠に袂を分かつことになる。40年という長いあいだ、復讐と強迫観念に捉われていたヘラルドは、青春時代の国家主義的な主義主張にかき立てられていた。一方イネスは、実業家として成功を収めていた。警察は、ヘラルドと自宅に保管してある書類をを監視しており、イネスはかつての政治的性的な過去や夫フストのことが明るみに出ることを避けようと最善を尽くすだろう。サルバドル・アジェンダ政権(1970114日~1973911日)打倒を目標に生まれたパラミリタール「祖国と自由」運動を掘り下げる。二人のイネスによって物語は語られる。                            (文責:管理人)

 

       

        (左から、青春時代の仲間、イネス、ヘラルド、フストの3人)

 

         『マチュカ 僕らと革命』とは別の視点で撮った「Araña

 

アンドレス・ウッド(サンティアゴ・デ・チレ1965)は、監督、脚本家、製作者、SSIFF1997ニューディレクターズ部門に出品されたHistrias de fútbolがデビュー作。カンヌFF「監督週間」出品のMachuca04、『マチュカ 僕らと革命』)、La buena vida08、『サンティアゴの光』LBFF2009、ゴヤ賞2009イスパノアメリカ映画賞)、Violeta se fue a los cielos11、『ヴィオレータ、天国へ』LBFF)などが代表作。『サンティアゴの光』がLBFFで上映された折り来日してい。監督としては『ヴィオレータ、天国へ』を最後に、現在は製作者としてTVシリーズに力を注いでおり、今回8年ぶりに『マチュカ』とは別の視点でAraña」を撮った。

アンドレス・ウッドのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20180304

 

         

             (アンドレス・ウッド監督、20198月)

 

★「もう一つの9-11」と言われるのが1973113日に勃発したチリの軍事クーデタである。如何にしてピノチェトがクーデタを成功させ、20年近くにも及ぶ独裁政権を維持できたのか考え続けているアンドレス・ウッドが、『マチュカ 僕らと革命』とは別の視点でチリの現代史を描いている。40年の時を隔てて、キャストは各々別の俳優が演じている。ヤング・イネスはスペイン女優マリア・バルベルデ(マドリード1987)、現代のイネスはアルゼンチンのベテラン女優メルセデス・モラン(サン・ルイス1955)が扮した。バルベルデは2003年、マヌエル・マルティン・クエンカの「La flaqueza del bolchevique」で銀幕デビュー、相手役のルイス・トサールと堂々わたり合って、いきなり翌年のゴヤ賞新人女優賞を受賞したシンデレラ・ガール。LBFF2014上映の『解放者ボリバル』、Netflixマリア・リポル『やるなら今しかない』など、スペイン映画に止まらず、イタリア、イギリス、米国映画にも出演している。

マリア・バルベルデのキャリア紹介は、コチラ20150714

 

       

   (チリ公開前夜祭に登場した二人のイネス、モランとバルベルデ、2019814日)

 

★メルセデス・モランは、昨年のLBFFで上映されたアナ・カッツの『夢のフロリアノポリス』に主演、ルクレシア・マルテルの「サルタ三部作」の第1部『沼地という名の町』、第2部『ラ・ニーニャ・サンタ』の他、パブロ・ララインの『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』など、当ブログでは数回にわたってキャリア紹介をしています。リカルド・ダリンと共演することが多く、アルゼンチンではチョー有名な女優。

メルセデス・モランの主なフィルモグラフィーは、コチラ20180921

 

      

      (過去の秘密が暴露されることを怖れるイネス、メルセデス・モラン)

 

★ヘラルド役のペドロ・フォンテーヌマルセロ・アロンソはチリの俳優、ペドロ・フォンテーヌは2015年、マリア・エルビア・レイモンドの「Days of Cleo」でデビューした。プロデューサーとしてLBFF上映のクリストファー・マーレイの『盲目のキリスト』や、アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスの「Aqui no ha pasado nada」を手掛けている。マルセロ・アロンソはパブロ・ララインのデビュー作『トニー・マネロ』や「Post Mortem」の他、『ザ・クラブ』のガルシア神父や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』などに出演している演技派で、本作主演の一人。他に「Princesita」などが代表作。TVシリーズ出演が多く、チリの有名どころが総出演している観のある人気犯罪ドラマ「Prófugos」(1113)にも出演している。

  

            

  (マリア・バルベルデとペドロ・フォンテーヌ)

 

40年後のマルセロ・アロンソ)

        

      

    

        (ポスターにも採用されたヘラルド役のマルセロ・アロンソ)

 

★フスト役のガブリエル・ウルスアフェリペ・アルマスの二人もチリと、大方はチリの俳優が起用されている。ガブリエル・ウルスアは2010年、パスカル・クルムの「MP3: una pelicula de rock descargable」でデビュー、他にフアン・ギジェルモ・プラドのアクション・アドベンチャー「Puzzle negro」など。フェリペ・アルマス(サンティアゴ1957)は、主にTVシリーズに出演しているテレビ界の大物俳優。しかし目下自閉症の息子をほったらかしにしていたことで告発されており窮地に立たされている。他にドン・リカルド役のハイメ・バデル(バルパライソ1935)は、パブロ・ララインのほとんどの作品「Post Mortem」から『ザ・クラブ』『No』『ネルーダ~』などに顔を出している。

   

    

 (ヤング・イネスのマリア・バルベルデ、ヤング・フストのガブリエル・ウルスア、

      背後にグループ「PATRIA Y LIBERTAD 祖国と自由」のポスター)

 

                  

           (公開前夜祭でのフェリペ・アルマス)

 

★国家主義的な極右グループ「PATRIA Y LIBERTAD 祖国と自由」のリーダーらしきアントニオは、ブラジルのカイオ・ブラット(サンパウロ1980)が演じている。ナディアを演じたマリア・ガルシア・オメグナは美人女優として売り出し中だが、目下第一子を抱えており、夫君ゴンサロ・バレンスエラにエスコートされて前夜祭に参加、話題を集めていた。

 

 (アントニオ役のカイオ・ブラット)

 

                   

      

   

         (マリア・ガルシア・オメグナ、公開前夜祭にて)

 

関連記事(管理人覚え)

『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ20151018

『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ20171122

Aqui no ha pasado nada」の紹介記事は、チラ20160823

『盲目のキリスト』の紹介記事は、コチラ201610061021

 

*追加情報:ラテンビート2019『蜘蛛』の邦題で上映が決定しました。

ハイロ・ブスタマンテの「Temblores」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑫2019年08月19日 11:29

        ホライズンズ・ラティノ第2弾――ハイロ・ブスタマンテの第2作目「Temblores

 

         

 

ハイロ・ブスタマンテは、第3作目La Lloronaがコンペティション外ではあるが、ホライズンズ・ラティノ部門のクロージング作品に選ばれ、さらにベネチア映画祭2019の「ベニス・デイ」上映も決定しているなど脚光を浴びているグアテマラの監督。第2作となるTembloresは、既にベルリン映画祭2019「パノラマ」部門でワールド・プレミアされた。受賞には至らなかったが、テーマの一つがLGBT問題であることからテディー賞対象作品だった。グアテマラではホモセクシュアルは悪い性癖として根絶するための治療が必要と考えられている。テーマとしてはタブーの一つであると、監督はベルリンFFのインタビューに答えていた。

 

          

      (監督を挟んでパブロとイサを演じた二人の主演者、ベルリンFFにて)

 

★本作はグアテマラ社会の階級格差、宗教問題、不寛容が語られているようで、デビュー作『火の山のマリア』とテーマが被さっている印象です。結婚して二人の子供に恵まれながら、ある男性を愛してしまったことから地獄を見ることになる敬虔な福音派の信者パブロの物語。ベルリンFF以降、マイアミ映画祭、ルクセンブルク市、グアダラハラ、シアトル、トゥールーズ・ラテンアメリカ、ミネアポリス・St. ポールほか、国際映画祭上映が続いているが、若干グアテマラ社会の分かりにくさがネックになっているのか目下のところ大賞受賞には至っていない。

 

 Temblores / Tremors

製作:Tu Vas Voiir Productions / La Casa de Production / Memento Films Production /

    Iris Productions / Arte France Cinéma
監督・脚本:ハイロ・ブスタマンテ

撮影:ルイス・アルマンド・アルテアガ

音楽:パスクアル・レイェス(オリジナル・ミュージック)

編集:セサル・ディアス、サンティアゴ・Otheguy

衣装デザイン:ベアトリス・ランタン

プロダクションマネージメント:マウリシオ・エスコバル

製作者:ジェラール・ラクロア、デ・ヘスス・ペラルタ、ニコラス・スティル、エドガルド・テネンバウム、他

 

データ:グアテマラ=フランス=ルクセンブルク、スペイン語、2019年、ドラマ、107分、フランス公開201951日、グアテマラ822

映画祭・受賞歴:ベルリンFF2019 パノラマ部門、グアダラハラFFイベロアメリカ部門撮影賞(ルイス・アルマンド・アルテアガ)受賞、ミネアポリス・St. ポールFFイメージング・フィルムメーカー賞受賞、L.A.Outfest 演技賞(フアン・パブロ・オリスラガー)、マイアミFF、トゥールーズ・ラテンアメリカFF観客賞・Rail Oc 受賞、トランシルバニアFF、ワールド・シネマ・アムステルダムFF、サンセバスチャンFF ホライズンズ・ラティノ部門出品など多数。

 

キャストフアン・パブロ・オリスラガー Olyslager(パブロ)、マウリシオ・アルマス・セバドゥア(パブロの恋人フランシスコ)、ダイアン・バゼン(パブロの妻イサ)、マリア・テロン(ロサ)、サブリナ・デ・ラ・ホス(主任司祭)、ルイ・フラティ(司祭)、マグノリア・モラレス(クリスティナ)、セルヒオ・ルナ(サルバドル)、パブロ・アレナレス(アベル)、マラ・マルティネス(エバ)、他

 

ストーリー40歳になるパブロは、2人の子供のよき父親でもあり、福音派の教義を忠実に守っている敬虔な信徒でもある。しかし、ある一人の男性に魅せられたことから、彼の伝統を重んじる完璧な人生は崩れ始め、感情は信仰も含めて苦境に立たされている。彼の家族と教会が彼の治療の必要性を決定すると、治療の抑圧が強まるにつれ、不寛容という地獄の苦痛に堪えることになる。まだLGBTに対する正しい知識がなく、治療が必要な病気と考えるグアテマラ社会での、敬虔な福音派の信徒という宗教問題を絡ませて、一変したパブロの人生が語られる。  (文責:管理人)

 

             

            (教会で祈りを捧げるパブロ一家と信徒たち)

 

       デビュー作『火の山のマリア』と同じスタッフで撮ったTemblores

 

★カミングアウトしたことで人生が一変する男の悲劇が語られるようだが、グアテマラ社会の情報が少ないなか、国際映画祭で受賞しまくったデビュー作のようなサプライズには乏しいようだ。スタッフのメンバーは、プロデューサー以下、音楽(パスクアル・レイェス)、撮影監督(ルイス・アルマンド・アルテアガ)とも前作と同じメンバーです。編集者の一人セサル・ディアスは同じ部門にノミネートされているNuestras madres / Our Mothersの監督、『火の山のマリア』に引き続いて参画している。グアテマラのような市場の小さい映画発達途上国では、スタッフは互いに協力し合わざるをえないのかもしれない。

 

★キャスト陣のうち、主人公パブロ役のフアン・パブロ・オリスラガーは、2004年、エリアス・ヒメネス・Trachtenbergの「La casa de enfrente」でデビュー、代表作は、同監督の「VIPLa otra casa」(07)、ライ・フィゲロアの「La bodega」(10)、「Toque de Queda」(11)、ホンジュラス映画、フアン・カルロス・ファンコニの「El Xendra」(12)に出演、ハイロ・ブスタマンテの3作目La Llorona」にも出演している。各作品ともグアテマラ内戦、政権の汚職、刑務所が舞台だったりと重いテーマの作品ばかりです。パブロが愛するフランシスコ役のマウリシオ・アルマス・セバドゥアは映画初出演のようです。

  

            

                (パブロとフランシスコ)

 

★パブロの妻を演じたダイアン・バゼンは本作でデビュー、前作でマリアの母親を演じて貫禄の演技をしたマリア・テロンがクレジットされている。彼女はLa Llorona」にも出演している。本作でデビューした主任司祭役のサブリナ・デ・ラ・ホスの演技を褒めている記事があったが、予告編からもその凄みのある演技が伝わってくる。彼女もLa Llorona」にクレジットされている。ホモセクシュアル矯正施設のような存在に驚きを禁じ得なかった。また2人の子役の演技も高評価です。IMDb情報では、他のキャストもほとんどが本作が映画デビューのようです。

 

(パブロと妻イサ役ダイアン・バゼン)

     

                      

  

      

(パブロの家族、妻イサと2人の子供)

 

    

 

   

 (悪い性癖の治療を受けている患者たち、中央が主任司祭のサブリナ・デ・ラ・ホス)

   

★パブロとフランシスコのバックグラウンドが非常に異なっていること、二人が異なった信仰を持っていることなど、厳しい階級格差や信仰問題の存在が希薄な本邦での公開は難しいかもしれない。どちらかというと第3作目となるLa Lloronaのほうが期待できるのではないか。

 

『火の山のマリア』の作品、監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20150828

『火の山のマリア』のLBFFの記事は、コチラ20151025


コロンビア映画「Monos」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑬2019年08月21日 16:03

    ホライズンズ・ラティノ第3弾――アレハンドロ・ランデスの第3作「Monos

 

    

 

★先日、ホライズンズ・ラティノ部門のラインナップをした折に、ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』(1954刊)の映画化とコメントしましたが、アレハンドロ・ランデスMonosは、『蠅の王』にインスパイアされたが近い。過去にピーター・ブルック63)とハリー・フック90)の手で2回映画化されていますが、こちらは文字通り小説の映画化でした。最新ニュースによると、3度目の映画化をルカ・グァダニーノに交渉中という記事を目にしました。話題作『君の名前で僕を呼んで』の監督、実現すればどんな料理に仕上がるのか興味が湧く。

 

アレハンドロ・ランデス(サンパウロ1980)は、監督、製作者、脚本家、ジャーナリスト。サンパウロ生れだが、父親がエクアドル人、母親がコロンビア人で、母語はスペイン語である。米国ロード・アイランドの名門ブラウン大学で政治経済を専攻した。ボリビア大統領エボ・モラレスについてのドキュメンタリーCocaleroでデビュー、本作はラテンビートLBFF2008『コカレロ』の邦題で上映された。第2作のPorfirioは、カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品、その後トロントFFやメリーランドFFでも上映された。警察の不用意な発砲で下半身不随になったポルフィリオ・ラミレスの車椅子人生が語られる。本作はフィクションだが、本人のたっての希望でラミレス自身が主役ポルフィリオを演じている。第3作となるMonos」は、製作国がコロンビアを含めて6ヵ国と、その多さが際立つ。米国アカデミー2020のコロンビア代表作品候補となっている。

 

Monos

製作:Stela Cine / Bord Cadre Films / CounterNarrative Films / Le Pacte 以下多数

監督:アレハンドロ・ランデス

脚本:アレハンドロ・ランデス、アレクシス・ドス・サントス

撮影:ジャスパー・ウルフ

音楽:ミカ・レビ

編集:テッド・グアルド、ヨルゴス・マブロプサリディス、サンティアゴ・Otheguy

製作者:アンドレス・カルデロン、J. C. ChandorCharies De Viel Castel、ホルヘ・イラゴリ、Duke Merriman、グスタボ・パスミン、ジョセフ・レバルスキ、グロリア・マリア(以上エグゼクティブ)、アレハンドロ・ランデス、クリスティナ・ランデス、他多数

 

データ:製作国コロンビア=アルゼンチン=オランダ=ドイツ=スイス=ウルグアイ、スペイン語・英語、2019年、スリラー・ドラマ、102分、コロンビア公開2019815日、他イタリア(711日)、以下オランダ、米国、イギリス、スウェーデン、ノルウェー、フランスなどがアナウンスされている。

 

映画祭・映画賞:サンダンスFFワールド・シネマ・ドラマ部門審査員特別賞、ベルリンFFパノラマ部門上映、BAFICI オリジナル作曲賞、アート・フィルム・フェスティバル作品賞ブルー・エンジェル受賞、カルタヘナFF観客賞・コロンビア映画賞、ニューポート・ビーチFF作品賞以下4冠、オデッサFF作品賞、トゥールーズ・ラテンアメリカFF CCAX賞、トランシルヴァニアFF作品賞などを受賞、ノミネーションは割愛

 

キャスト:ジュリアンヌ・ニコルソン(ドクター、サラ・ワトソン)、モイセス・アリアス(パタグランデ、ビッグフット)、フリアン・ヒラルド(ロボ、ウルフ)、ソフィア・ブエナベントゥラ(ランボー)、カレン・キンテロ(レイデイ、レディ)、ラウラ・カストリジョン(スエカ、スウェーデン人)、デイビー・ルエダ(ピトゥフォ)、パウル・クビデス(ペロ、ドッグ)、スネイデル・カストロ(ブーンブーン)、ウィルソン・サラサール(伝令)、ホルヘ・ラモン(金探索者)、バレリア・ディアナ・ソロモノフ(ジャーナリスト)、他

 

ストーリー:一見すると夏のキャンプ場のように見える険しい山の頂上、武装した8人の少年ゲリラ兵のグループ「ロス・モノス」が、私設軍隊パラミリタールの軍曹の監視のもと共同生活を送っている。彼らのミッションは唯一つ、人質として誘拐されてきたアメリカのドクター、サラ・ワトソンの世話をすることである。この危険なミッションが始まると、メンバー間の信頼は揺らぎ始め、次第に疑いを抱くようになる。                  (文責:管理人)

 

          

 (ロス・モノスに囲まれた拉致被害者サラ・ワトソン役ジュリアンヌ・ニコルソン)

 

   コロンビアの半世紀に及ぶ内戦についての出口なしのサバイバルゲーム

 

★ストーリーから直ぐ連想されるのは、20世紀後半のコロンビアに半世紀以上も吹き荒れた内戦の傷である。比較されるのはフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』の原作となったジョセフ・コンラッドの『闇の奥』(1902刊)であろうが、原作にあるような「心の闇」は希薄のようです。本作は目眩やアドレナリンどくどくでも瞑想的ではないようだ。社会と隔絶された場所、登場人物の若者グループなど舞台装置は、ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』を思い出させる。極寒の地の厳しさのなかで、武器を持たされ軍事訓練を受ける若者のグループは、ついこの間まで存在していたコロンビアに容易に結びつく。

 

  

 

   

 (8人の武装グループ「ロス・モノス」と軍曹)

 

★コロンビア公開に際して受けたインタビューで、前から「若者を主役にして戦闘やメロドラマを織り込んだ目眩を起こさせるようなセンセショーナルな作品を探していた。私たちの映画はあまり観想的ではなくてもアドレナリンは注入したかった。ジャンル的には戦闘とアクションを取り込んで、観客は正当性には駆られないだろうから、皮膚がピリピリするようなものにしたかった」とランデス監督は語っていた。戦争映画はベトナムは米国が、アフリカはフランスが撮っているが、自分たちはコロンビア人の視点で自国の戦争映画を作る必然性があったとも語っている。

 

      

               (アレハンドロ・ランデス監督)

 

★登場人物たちの名前も、政治的に左か右か分からなくてもかまわない。「イデオロギー・ゼロを観客に放り投げたかった。所詮世界は非常に偏向して、富も理想も違いすぎている。エモーションを通して揺さぶろうとするなら、どんなメタファーが有効かだ」、「何を語るかだけでなくどう語るか」、『蠅の王』や『闇の奥』が出発点にあったようです。

 

★キャスト陣のうち、ドクター役のジュリアンヌ・ニコルソン(マサチューセッツ州メドフォード1971、代表作『薔薇の眠り』『8月の家族』)とパタグランデ役のモイセス・アリアス(ニューヨーク1994、代表作SFアクション『エンダーのゲーム』、「The King of Summer」)は、アメリカの俳優、スエカ役のラウラ・カストリジョンはスペインのTVシリーズに出演している。金探索者のホルヘ・ラモンはルクレシア・マルテルの『サマ』に出演している。そのほかは本作が2作目か初出演。

*追加情報:ラテンビート2019で『猿』の邦題で上映が決定しました。

*追加情報:2021年10月30日『MONOS 猿と呼ばれし者たち』の邦題で公開されました。


ペルーのベガ兄弟の「La bronca」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑭2019年08月23日 17:19

        ホライズンズ・ラティノ第4弾――ペルー映画「La bronca

  

      

 

★去る821日閉幕した第23回リマ映画祭PUCPダニエル&ディエゴ・ベガ兄弟3作目La broncaが、ペルー映画批評家協会APRECIを受賞しました。トロフィーはダニエル・ベガ監督とホルヘ・ゲーラが登壇してトロフィーを受け取りました。2014年に第2El mudo受賞して以来2回目となります。他にロドリゴ・パラシオス主演男優賞、ペルー映画に与えられる文化省賞の第3を受賞しました。ベガ兄弟のデビュー作Octubreは、カンヌ映画祭2010「ある視点」に出品され、いきなり審査員賞を受賞しました。同年のサンセバスチャン映画祭にも出品されたこともあってか、ラテンビートLBFF 201010月の奇跡』として上映される予定でしたが、理由は分かりませんが土壇場で取り止めになったのでした。偶然赤ん坊を拾ったことで人生が一変してしまう独り身の質屋を営む中年男の話でした。では、二人が共同監督した第3作目La bronca」を紹介します。

 

    

(トロフィーを披露する、ダニエル・ベガ監督と主演のホルヘ・ゲーラ、リマ映画祭にて)

 

    

          (主演男優賞受賞のロドリゴ・パラシオス)

 

 

La bronca(「The Clash」)

製作:Maretazo Cine(ペルー)/ Tondero Films(同)/ 1976 Productions(カナダ)/

      Día Fragma Fábrica de Películas(コロンビア)

監督・脚本:ダニエル・ベガ・ビダル、ディエゴ・ベガ・ビダル

撮影:ディエゴ・ロメロ・スアレス=ジャノス(リャノス)

録音:パブロ・ビジェガス(ビリェガス)

美術:マキシム・ノルマンド

編集:マルティン・グティエレス

製作者:ニコラス・Comeau1976 Productions)、ダニエル・ガルシア(Día Fragma Fábrica de Películas)、ミゲル・ヴァリャダレス(Tondero Films)、ベガ兄弟(Maretazo Cine

 

データ:製作国ペルー=コロンビア、スペイン語・英語、2019年、102分、製作発表20168月、2017年初めクランクイン

映画祭・受賞歴:第23回リマ映画祭2019正式出品、APRECI賞・ペルー文化省賞3席、主演男優賞受賞。第67回サンセバスチャン映画祭2019「ホライズンズ・ラティノ部門」出品

 

キャスト:ホルヘ・ゲーラ(ロベルト)、ロドリゴ・パラシオス(父親ボブ・モントーヤ)、ロドリゴ・サンチェス・パティニョ、イザベル・ゲラール、シャーロット・オービン、サンドリーヌ・ポワリエ=アラール Sandrine Poirier-Allard、ルナ・マセド

 

ストーリー1990年始初頭のペルーは政治的混乱に陥っていた。アルベルト・フジモリが軍と警察の支持のもと、国会を解散させるためにアウトゴルペを画策していたからだ。18歳になるロベルトは人生に行き詰っていた。何年も前に無秩序なペルーを捨て、カナダのモントリオールに移住した父親ボブ・モントーヤを頼って故郷を後にする。父親はカナダ人の新しい家族と暮らしていた。誇り高い父親は、自身の先入観から北米人が理想とする考えを息子にも強要した。父と子の再会は、逃れられない激しさをもって永遠に結ばれるだろう。90年代初頭、ペルーに吹き荒れた恐怖、苦悩、痛み、裏切りは、多くのペルー人のディアスポラを生んだ。カナダで撮影された最初のペルー映画。                                (文責:管理人)

 

     

           (ロベルト役のホルヘ・ゲーラ、映画から)

 

 

         カナダで撮影された最初のペルー映画「La bronca

 

★ダニエル・ベガによると「この物語は泡のように暮らしている中流階級の家族に焦点を合わせている」と語っている。キャストの大多数は、主演者ロドリゴ・パラシオスホルヘ・ゲーラを含めてペルー人を起用、言語はスペイン語と英語、カナダで撮影された最初のペルー映画。舞台となるモントリオールはフランスから移住してきた人が多く、公用語は英語とフランス語、従ってキャストにもフランス映画またはTVシリーズに出ている俳優が目に付く。

 

      

                (カナダの新しい家族)

 

★デビュー作Octubreは上記の他、カルタヘナFF監督賞、マル・デ・プラタFFラテンアメリカ作品賞、オデッサFF審査員特別賞などを受賞している。2作目となるEl mudoは、サンセバスチャン映画祭の「Cine en Construcción 23」作品、BAFICI FFの監督賞、ロカルノFFに出品され、主演のフェルナンド・バシリオが男優賞を受賞するなどしている。他に第3作の製作資金のため、共同で米国TVシリーズEl Chapo20174話のみ)の脚本執筆と監督を手掛けている。エル・チャポとはメキシコの実在の麻薬密売者の綽名、Netflix で配信された。他にダニエル・ベガは単独でコメディIntercambiados19)を撮っている。短編、ドキュメンタリーなど。

    

        

    (左からディエゴ、ダニエルのベガ兄弟、2014El mudoAPRECI賞を受賞)

 

    

     

          

        

 

821日、ペルラス部門に10作が追加されました。日本からも是枝裕和監督のLa vérité / The Truth、邦題『真実』1011日公開が決まっています。もう1作が100億円突破の新海誠監督のアニメーション『天気の子』が選ばれていました。他にパブロ・ララインEmaと、初めてチロ・ゲーラが英語で撮ったWaiting for the Barbariansが含まれています。

 

次回はホライズンズ・ラティノ部門は小休止して、819日に発表になった二人目のドノスティア賞栄誉賞)を受賞することになったギリシャ出身の主にフランスで活動している監督コスタ・ガヴラスについてアップします。


コスタ・ガヴラスにドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2019 ⑮2019年08月25日 15:37

           パルム・ドール、金熊賞、金貝賞を受賞した監督にドノスティア賞

 

      

 

919日、一人目のペネロペ・クルスに続いて、ギリシャ出身だがフランスで活動している監督コスタ・ガヴラスにサンセバスチャン映画祭の栄誉賞ドノスティア賞が贈られることがアナウンスされました。初期のイヴ・モンタンを起用して撮った『Z』(69)、『告白』(70)、『戒厳令』(72)の三部作をリアルタイムで観たオールドファン、『ミッシング』(82)を皮切りに『マッド・シティ』(97)などを堪能したハリウッド映画ファン、またはフランス映画祭で上映された『斧』や『西のエデン』で初めてガヴラス映画を観た若いファンにも嬉しいニュースに違いない。因みにフランス映画『ザ・キャピタル マネーにとりつかれた男』(12)は、第60回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2012の金貝賞受賞作品でした。

    

    

                  (三部作の1作目『Z』のポスター)

 

★授賞式は921日、ビクトリア・エウヘニア劇場で、当日には新作Adults in the Room19、フランス=ギリシャ、言語は英語・ギリシャ語)の特別上映があります。ギリシャ出身の監督が初めてギリシャ語で撮った作品ということです。本作は「ギリシャ危機2015」当時、チプラス政権の財務大臣(任期121日~76日)だったヤニス・バルファキスの回想録Adults in the Room: My Battle With Europes Deep Establishment2017年刊)がベースになっている。同年チューリッヒで舞台化されているそうです。831日、ベネチア映画祭でワールド・プレミアされ、本映画祭上映後、929日にギリシャで公開される予定。 

 

     

              (新作Adults in the Room」から

 

★ベネチア映画祭では新作Adults in the Roomが上映されるだけでなく、野心的な作品を撮り続けている監督に贈られる「監督・ばんざい!賞」も授与されます。「人は決して生まれた国を忘れません。特にギリシャのような国ではそうです。そこから逃げてきたのは、私のような社会階級の若者には神政デモクラシーの服従しかなかったからです」と、22歳でパリに脱出した当時を語った監督、ギリシャ経済危機をテーマに再び自分の激情を表現するために故国に戻ってきた。新作はギリシャ語で撮る最初の作品になる。今年86歳になったガヴラスは、2018830日、AP通信が死亡説を流して大騒ぎになったが、実は本作製作中だったのでした。

 

      

 (Adults in the Room」撮影中の監督とバルファキス財務大臣役のクリストス・ロウリス

 

コスタ・ガヴラス(ルトラ・イレアス1933、国籍ギリシャ、フランス)については、日本版ウィキペディアで主な作品は紹介されているので、キャリアは改めてご紹介するまでもありませんが、なかで当ブログと関係深いのが三部作の一つ、1970年のウルグアイの首都モンテビデオを舞台にした『戒厳令』(仏伊合作)です。本作はイタリア系アメリカ人ダン・アンソニー・ミトリオンが、都市ゲリラグループ「トゥパマロス」に誘拐され、最終的には殺害されるという実際にあった事件がモデルになっています。フランスのルイ・デリュック受賞作品。

  

     

★映画ではミトリオンは技師フィリップ・マイケル・サントーレとなり、シャンソン歌手として成功していたイヴ・モンタンが扮した。一人の新聞記者がこの事件を調査する課程で、サントーレが技師ではなく、南米の赤化を食い止めるためウルグアイの公安当局に派遣された、元CIAの諜報員であったことが分かってくる。当時はウルグアイだけでなく、アメリカの裏庭と称された南米諸国には、左翼弾圧を目的に送り込まれてくるCIAメンバーは、アルゼンチン、チリ他、南米全体に及んでいた。彼らはビジネスマンや技術者、領事館職員など仮の姿で入国、思想教育やベトナム戦争で培った拷問のノウハウを伝授したりした。これは後の歴史が証明していることです。世界は米ソ冷戦時代真っただ中だったのです。

「トゥパマロス」については、アルバロ・ブレッヒナーの『12年の長い夜』で紹介しています。

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     (イヴ・モンタンと目出し帽を被ったトゥパマロスのメンバー、映画から)

 

★もう一つが、アメリカ映画界の足掛かりを掴んだ最初の英語作品、ジャック・レモンを主役に撮った、政治スリラー『ミッシング』(米仏合作)です。1973911日、ピノチェトによって起されたチリの軍事クーデタのさなか行方不明になったチリ在住のアメリカ人チャールズ・ホーマン失踪事件を描いている。トマス・ハウザーのThe Execution of Chales Homan: An American Sacrifice1978年刊)の映画化。ジャック・レモンはチャールズの父親に扮した。シシー・スペイセクが義父と一緒にチャールズ捜索をする妻を演じた。カンヌ映画祭1982パルム・ドール、ジャック・レモンが男優賞を受賞した他、翌年のアカデミー賞では脚色賞を受賞した。

    

   

  (『ミッシング』のポスター、主演のジャック・レモンとシシー・スペイセク)

 

1989年には『ミュージックボックス』89、米)が第40回ベルリン映画祭の金熊賞を受賞した。198911月にベルリンの壁が崩壊した後に開催された最初の映画祭でした。ハンガリーのユダヤ人虐殺をテーマにした法廷ドラマ、ユダヤ人虐殺犯の容疑をかけられたハンガリー移民の父を弁護するため立ち上がった娘が見た真実とは、果たして父は有罪なのか無罪なのか、二転三転するスリリングなストーリー、弁護士の娘にジェシカ・ラングが扮してアカデミー主演女優賞にノミネートされた。ミュージックボックスとは決め手となるオルゴールから付けられた。

    

    

 

★また劇場未公開ながら人気ランキング上位なのがAmen.02、仏独米ルーマニア合作)、邦題は『ホロコースト―アドルフ・ヒトラーの洗礼―』と非常に長いタイトルが付けられた。ナチズムが吹き荒れた時代のヴァチカンの沈黙がテーマでした。ポーランドのトレブリンカ絶滅収容所での大量虐殺を幇助したクルト・ゲルシュタインにウルリッヒ・トゥクルを起用した。何度もTV放映されているからご覧になった方が多いと思います。

   

    

 

        

           (撮影中の左から、監督、マチュー・カソヴィッツ、ウルリッヒ・トゥクル)

 

1998年、長年の業績に対してルネ・クレール賞。1982年から87年までと、2007年以降シネマテーク・フランセーズの理事長を務めている。