ドナルド・サザーランドにドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2019 ⑰2019年09月02日 11:37

        3人目のドノスティア賞は今年も英語圏の俳優が受賞します!

 

      

 

★ホライズンズ・ラティノ部門の紹介が途切れていますが、開催が近づいてきたこともあって、サバルテギ-タバカレラ部門、メイド・イン・スペインなどの全体像が見えてきました。827には3人目のドノスティア賞に、カナダ出身アメリカで活躍する俳優ドナルド・サザーランド(セント・ジョン1935)受賞の発表がありました。長い芸歴から世代によって代表作も違うと思いますが、サザーランドといえば、ロバート・アルトマンのコメディMASH マッシュ』70)を挙げない人は少ないでしょう。朝鮮戦争の野戦病院に配属された破天荒な3人の軍医の一人になった。笑い飛ばしながら戦争の愚かさと体制批判をしたアルトマンならではの反戦ブラックコメディでした。

 

        

         (ドナルド・サザーランドMASH マッシュ』から

 

★キャリア紹介は、日本語ウイキペディアで充分と思いますが、スリラー、ホラー、コメディ、ドラマとなんでもOKのマルチ俳優なのにオスカー受賞歴はゼロ、80年代に作品に恵まれなかったことや、脇役が多かったせいかもしれない。2018年にアカデミー栄誉賞を受賞したのが初のオスカー賞だった。日本語ウイキは新しい情報を載せていないことが多く、栄誉賞の記事も見当たらなかった。オスカーとは性格も選考母体も異なるゴールデン・グローブ賞には、1971年前述のMASH マッシュ』と、1981年のロバート・レッドフォード『普通の人々』で主演男優賞、1999年のロバート・タウン『ラスト・リミッツ』で助演男優賞と3回ノミネートされたが、いずれも受賞には至らなかった。2018年にチューリッヒ映画祭の栄誉賞に当たる「ライフライム・アチーブメント賞」を受賞、今年サンセバスチャンFFの栄誉賞「ドノスティア賞」を受賞する。

 

      

 

      

(チューリッヒ映画祭栄誉賞のスピーチをするサザーランド)

 

2000年、クリント・イーストウッド監督・出演した『スペース・カウボーイ』ジョー・ライト『プライドと偏見』05)では5人姉妹の父親役を演じた。ジュゼッペ・トルナトーレの『鑑定士と顔のない依頼人』13)、2015年のジョン・カサーのウエスタン『ワイルドガン』では息子キーファー・サザーランドと親子を演じた。久しぶりに認知症を患う主役を演じたのが、パオラ・ヴィルズィ『ロング、ロングバケーション』、末期ガンの妻(ヘレン・ミレン)と人生最後の旅に出る。ベネチアFFでワールド・プレミアされ、SSIFFのペルラス部門でも上映された。同じくベネチアFF2019で上映されるジェームズ・グレイSFスリラー『アド・アストラ』にも出演、ブラッド・ピットとトミー・リー・ジョーンズが父子を演じる。既に920日劇場公開も決定している。

 

     

       (『スペース・カウボーイ』のオジサン4人、右端がサザーランド) 

 

926日メイン会場のクルサールで、栄誉賞ドノスティア賞の授与式が行われる。その後、サザーランドが出演しているイタリア系アメリカ人の監督ジュゼッペ・カポトンディのスリラーThe Burnt Orange Heresyが上映される。チャールズ・ウィルフォードの同名小説(翻訳書『炎に消えた名画』)の映画化、ミック・ジャガー、クレス・バング、エリザベス・デビッキと共演する。サザーランドは隠遁生活をしている画家に扮し、ミック・ジャガーは彼のスタジオから作品を盗もうとするセレブな美術品コレクターになる。イタリアのコモ湖畔を舞台に、名画盗難をめぐる犯罪サスペンス、いずれ公開されるでしょう。本作はベネチアFFではコンペティション外ですが、クロージング作品として、映画祭最終日の97日に上映されます。舞台がイタリア、監督もイタリア系ということでクロージングに選ばれたのかもしれない。

 

        

   

         

(クレス・バングとエリザベス・デビッキ「The Burnt Orange Heresy」)

 

★今年のベネチア映画祭のオープニング作品は、是枝監督の『真実』で、上映後の「スタンディングオベーションが6分」など大々的に報じていました。金獅子賞受賞なら黒澤明の『羅生門』(1951)以来とか。

ウルグアイの新星ルシア・ガリバルディ*サンセバスチャン映画祭2019 ⑱2019年09月04日 11:53

       ホライズンズ・ラティノ第5弾――ルシア・ガリバルディの「Los tiburones

 

       

 

★女性監督が少ない今回のホライズンズ・ラティノ部門、サンダンス映画祭2019(ワールド・シネマ部門)で監督賞を受賞したルシア・ガリバルディ(モンテビデオ1986)のデビュー作Los tiburonesは、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭 BAFICI 審査員特別賞、続いて8月開催のリマ映画祭2019で審査員スペシャル・メンションを受賞したばかりです。もともとはSSIFF Cine en Construcción 342018年)の技巧賞受賞作品です。主演にウルグアイのロミナ・ベンタンクルフェデリコ・モロシニを起用、二人とも映画は初出演である。他にアルゼンチンからバレリア・ロイスファビアン・アレニジャスが脇を固めている。サンダンスFFの高評価が以後の成功を導きだしたようです。

 

      

               (ルシア・ガリバルディ監督)

 

       

      (ルシア・ガリバルディとロミナ・ベンタンクル、サンダンスFF2019にて)

 

 Los tiburones(「The Sharks」)

製作:Montelona Cine / Nephilim Producciones / Trapecio Cine

監督・脚本:ルシア・ガリバルディ

撮影:ヘルマン・ノセジャ

編集:セバスティアン・Schjaer

音楽:ファブリツィオ・ロッシ、ミゲル・レカルデ

製作者:パンチョ・マグノス、イサベル・ガルシア、他

 

データ:製作国ウルグアイ、アルゼンチン、スペイン、スペイン語、2019年、ドラマ、80分。ウルグアイ公開201966

映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2019(ワールド・シネマ部門)監督賞、BAFICI 審査員特別賞、ウルグアイ映画祭出品、シアトル映画祭出品、グアダラハラ映画祭イベロアメリカ部門の審査員特別賞と女優賞(ロミナ・ベンタンクル)、リマ映画祭2019審査員スペシャル・メンションなどを受賞している。サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ部門」正式出品。2018年サンセバスチャン映画祭Cine en Construcción 34 技巧賞受賞作品。

 

キャスト:ロミナ・ベンタンクル(ロシナ)、フェデリコ・モロシニ(ホセロ)、バレリア・ロイス(ロシナの母)、ファビアン・アレニジャス(ロシナの父)、アントネジャ・アキスタパチェ(マリアナ)、他

 

ストーリー:いつもは物静かな湯治場なのだが、沿岸にサメが出没したという噂が立ち動揺していた。14歳になるロシナは、海のなかに何かがいるのを見たのだが、誰もそのことに注意を払わなかった。住宅のメンテナンス業をしている父親に連れられて仕事場に行ったとき、自分より少し年長のホセロと知り合った。汚れたプール、豪華な庭園、人気のない浜辺で、ロシナの新しい体験が始り、自分とホセロの体の隔たりを縮めたい欲求を覚えた。しかし殆ど反応がなく、彼の注意を惹くために大胆な少しみだらな計画を練り上げることにした。それは何か不思議な存在によって心を動かされる、目に見えない危険なものでなくてはならなかった。サメ警報の出ている地方のコミュニティを背景に、少女の性の目覚めが語られる。

 

     

           (ロシナ役のロミナ・ベンタンクルとホセロ役のフェデリコ・モロシニ)

 

    

(左端、フェデリコ・モロシニ、映画から)

 

★ロシナの家族は、ウルグアイの経済的な危機もあって、少なくとも平穏とは言い難い。サメの噂や水不足からくる湯治場の観光客減によって共同体にも変化の兆しがみられる。父親の仕事もプールの清掃やら、庭園の管理やらあれこれ、雇人を使ってこなしている。そのなかの青年の一人がホセロという設定のようです。小魚やそのほかの海の生物を食い漁るサメが様々なメタファーになっている。例えば獲物を待ち伏せる狩人のような少女、あるいは不機嫌、無秩序、フラストレーション、ささやかな勝利など、悲喜劇というコメントも目にしました。

 

     

 (トロフィーを手にした、製作者パンチョ・マグノスと監督、グアダラハラ映画祭2019にて)

 

 

★ベネチア映画祭も後半に入りましたが、ということはサンセバスチャン映画祭 SSIFFの開幕が近いということです。両映画祭は期間の近接だけでなく上映作品もダブっている。コンペティション外だがホライズンズ・ラティノ部門のクロージング作品、ハイロ・ブスタマンテLa Lloronaは、ベネチア・デイズのコンペティション外上映、セバスティアン・ムニョスEl príncipe(「The Prince」チリ、アルゼンチン、ベルギー)は、第34回「国際批評家週間」に正式出品されている。1970年代のチリ、首都サンティアゴ近郊の都市サンベルナルドにある刑務所に収監された20代の青年ハイメの愛と忠誠、刑務所内の権力闘争が描かれる。アルフレッド・カストロガストン・パウルスがクレジットされているので、時間があればアップします。

   

 

       (ハイメ役フアン・カルロス・マルドナドを配したポスター)

 

     

 (アルフレッド・カストロ、フアン・カルロス・マルドナド、ガストン・パウルス)

  

キュアロンの『ROMA』にFIPRESCI*サンセバスチャン映画祭2019 ⑲2019年09月05日 10:36

      今年のFIPRESCI受賞はアルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』

 

   

              (右端下がトロフィー)

 

829日、第67回サンセバスチャン映画祭のFIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞は、アルフォンソ・キュアロンROMA/ローマ』になりました。連盟の批評家のメンバー618名が投票に参加しました。201871日以降に公開された作品が対象、ファイナルにはアルモドバル「Dolor y Gloria」、ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』(20201月公開)、ヨルゴス・ランティモス『女王陛下のお気に入り』の3作が残っておりましたが、最終的に『ROMA/ローマ』に軍配が上がりました。

 

★サンセバスチャン映画祭のFIPRESCIは、1999年から始まり、過去にはアルモドバル、ハネケ、クリスティアン・ムンジウ、ゴダール、ポランスキー、エトセトラ。キュアロンの受賞は今回が初めてということでした。もう本人でさえトロフィーの数は多すぎて分からないでしょうし、飾る場所も・・・と要らぬ心配をしています。映画祭開催中のどこかで授賞式がある予定ですが、まだ未定です。


アルゼンチンからロミナ・パウラの第1作*サンセバスチャン映画祭2019 ⑳2019年09月10日 11:34

    ホライズンズ・ラティノ第6弾――ロミナ・パウラの第1作「De nuevo otra vez

 

      

 

★女優としてキャリアを積んできたロミナ・パウラの初監督作品です。いわゆる女性の危機と言われる40歳を迎え、一念発起して監督したデビュー作De nuevo otra vezのテーマは、女性の権利、母性、ゆれ動く気まぐれな欲求などを語っている。主役ロミナを自ら演じ、自身の母親と4歳になる息子も共演しており、フィクションとノンフィクションが混在しているようです。ロッテルダム映画祭2019Bright Future」部門に正式出品、他にインディリスボア・インディペンデント映画祭リスボン・シティ賞ノミネート、ウルグアイ映画祭イベロアメリカ部門作品賞を受賞している。ロミナ・パウラは、サンティアゴ・ミトレの「Estudiante」(11)でアルゼンチン・アカデミー2011の新人女優賞を受賞している。本作はラテンビート2012『エストゥディアンテ』の邦題で上映された。

 

      

           (自作を語るロミナ・パウラ、20196月)

    

      

   (エステバン・ラモチェとロミナ・パウラ、『エストゥディアンテス』から)

 

      

 De nuevo otra vez(「Again Once Again」)

製作:Varsovia

監督・脚本:ロミナ・パウラ

音楽:ヘルマン・コーエン

撮影:エドゥアルド・クレスポ

編集:エリアネ・カッツ

美術:パウラ・レペット

製作者:ルシア・チャバリ、フロレンシア・スカラノ(以上エグゼクティブ)、ディエゴ・ドゥブコブスキー

 

データ:製作国アルゼンチン、スペイン語・ドイツ語、2019年、ドラマ、84分。公開アルゼンチン201966

 

映画祭・受賞歴:ロッテルダム映画祭2019Bright Future」部門に正式出品、インディリスボア・インディペンデント映画祭リスボン・シティ賞ノミネート、シンガポール映画祭正式出品、ウルグアイ映画祭イベロアメリカ部門作品賞を受賞、他

 

キャスト:ロミナ・パウラ(ロミナ)、モニカ・ランク(母親モニカ)、ラモン・コーエン・アラシ(息子ラモン)、マリアナ・チャウド(マリアナ)、パブロ・シガル(パブロ)、デニーズ(ドゥニーズ)・グロエスマン(デニーズ)、エステバン・ビグリアルディ(ハビエル)、他

 

ストーリー:ロミナは息子ラモンを連れて実家に戻ってきた。ラモンの父親とは縁を切って、一時的に母親モニカの家に身を寄せている。ブエノスアイレスを訪れてから、自分がいったい何をしたいかはっきりさせたいと考えている。ドイツ語の教師をしながら独身時代のように夜の外出を試みる。自分が何者か知る必要に迫られて、原点に立ち戻りつつ、家族の過去を再建しようとする。予測可能な困難を避けながら、自ら選んだ道で生き生きしてくる。映画的探究は勿論のこと、洞察力のある、感受性豊かなドラマになっている。家族とは、母性とは、女性の権利とは、人生の半ばでゆれ動く欲望、女性の危機が語られる。                  (文責:管理人)

 

    

      40歳は女性の曲がり角――まだ冒険の時間が残されている

 

ロミナ・パウラ(ブエノスアイレス1979)は、アルゼンチンでは幾つもの顔をもつよく知られた才媛である。作家として3冊の小説に加えて短編集1冊、戯曲家、舞台演出家、女優、主にマティアス・ピニェイロ映画の常連である。例えば「El hombre robado」(07)、「Todos mienten」(09)、「Viola」(12)、「La princesa de Francia」(14)、「Hermia & Helena」(16)とピニェイロの長編全作に起用されています。そして今回の「De nuevo otra vez」で監督と脚本家としてのキャリアが加わった。「執筆したり、演出したり、演じたりしているなかで、映画を監督したら違う何かが見えてくるのではないかと冒険がしたくなった。身近だが普遍性のあるテーマにしたいと思った」とその動機を語っています。

 

         

        (処女作「¿ Vos me querés a mí ?」の表紙、2005年刊)

 

★出発点を個人的なテーマに選んだのは何故か。それは「母親を撮ることがそもそものアイデアだったから」と日刊紙「クラリン」のインタビューで語っている。「息子と私はいつも一緒に暮らしているが、母とはまったく違う。だから母を撮る一番いい方法は、ドイツ語を話している母の家を舞台にすることだった。わたしの家族はドイツ語を使っていない。母を出演させることで何かを掴みたかった」とその理由を語っている。家族を被写体にすることの困難さや母親や息子を演じさせることで二人が変わってしまうことはなかったか、という質問には「簡単だったかどうかは分からないが、予測に反してスムーズに進行した。確かに言えるのは、二人を自由気儘にさせたので撮影中は満足していたようだった。しかし母はいくつかのシーンではドラマチックな演技をしていた。これまで彼女にそんな才能があるなんて気づかなかったが、結果的にはそれは素晴らしいサプライズだった」と応えている。然り人間は演技する動物です。

 

    

                  (ロミナ、息子ラモン、母モニカ、映画から)

 

         

        (ラモンとロミナ)

 

★本作が最初で最後のフィルムでないのは当然ですが、文学や演劇のように簡単にはいかない。制作会社探しだけでなく諸々の準備が山ほどある。本作が評価されることも重要だが、まず観客を惹きつけるアイデアが生まれることが先決でしょうか。現代は女性でも何か冒険ができそうな時代になってきたので、次回作を期待したい。

 

 

★ベネチア映画祭も金獅子賞にトッド・フィリップス『ジョーカー』を選んで終幕しました(97日)。もうこれで主役のホアキン・フェニックス2020年アカデミー男優賞受賞は決りでしょうか。スペイン語映画も大賞受賞には及びませんでしたが、コンペ外で何作か目に入りましたので別途アップします。忘れていけないのが、ペドロ・アルモドバル栄誉金獅子賞受賞でした。


第76回ベネチア映画祭2019*結果発表2019年09月12日 13:43

         なんと金獅子賞は『ジョーカー』に微笑みました!

 

97日(現地時間)第76回ベネチア映画祭2019の結果発表がありました。前回の最後に少し触れましたが、下馬評はともかく、審査委員長がルクレシア・マルテルだから金獅子賞トッド・フィリップス『ジョーカー』に微笑むなんて予想しませんでした。これで来年のアカデミー男優賞はホアキン・フェニックスに決まりでしょうか。彼の減量努力も讃えねばなりませんから。

 

      

                      (トッド・フィリップス監督とホアキン・フェニックス)

     

   

  (踊るホアキン・フェニックス、映画から)

   

審査員大賞(銀獅子)がロマン・ポランスキーJ'accuseに、その他国際批評家連盟賞なども受賞しました。1894年に起きたドレフュス冤罪事件に迫った力作で上映後の評価は高かった。しかしポランスキーが来ベネチアなら同席したくないという抗議も伝わってきたから、大賞受賞はないかなと思っていた。マルテル審査委員長もJ'accuse」上映には欠席すると事前に明言していた。しかし作品と人格は別ということで勝利の女神が微笑みました。マルテルとしてはかなり複雑な心境だったのではないでしょうか。結局監督はガラ欠席、代わりに夫人のエマニュエル・セニエがトロフィーを受け取ったようです。今作では共同プロデューサーを手掛けた俳優のルカ・バルバレスキーは「このイベントは映画祭であって道徳裁判ではない」と洩らしていたようですが。

 

        

      (J'accuse」受賞のトロフィーを手にしたエマニュエル・セニエ)

 

★同じく銀獅子の監督賞ロイ・アンダーソンAbout Endlessnessでした。最近のベネチアはアカデミー賞狙いが主流とか、受賞結果はそういう流れという印象でした。他に当ブログ関係では、パブロ・ララインEmaUNIMEDチロ・ゲーラWaiting for the BarbariansSIGNIS賞スペシャル・メンションを受賞しました。これは全キリスト教会のメディア協議会が選考母体、三大映画祭と言われるカンヌ、ベネチア、ベルリンほか、サンセバスチャン映画祭など主要な30以上の映画祭で出されている。

 

        

     (ラライン監督と「Ema」主演のガエル・ガルシア・ベルナル)

 

      

    (エマ役を演じたマリアナ・ディ・ジロラモを紹介するラライン監督)

 

★オリゾンティ部門では、テオ・コート(イビサ1980)のBlanco en blancoが、監督賞と国際批評家連盟賞他を受賞したのは特筆すべきニュースかもしれない。ノーチェックでしたので後日アップします。他にロドリゴ・ソロゴジェンMadreに主演したマルタ・ニエトが女優賞を受賞した。「これは目覚めと再生について語った愛の物語です。この贈り物は私を覚醒してくれました」と受賞の喜びを語っている。

 

(テオ・コート)

      

(マルタ・ニエト)

 

  

★第34回「国際批評家週間」では、チリのセバスティアン・ムニョスEl príncipeがクィア獅子賞を受賞した。LGBTをテーマにした作品に贈られる賞、本作はサンセバスチャン映画祭のホライズンズ・ラティノ部門でも上映される予定です。

 

(セバスティアン・ムニョス)

     

★第16回「ベネチア・デイズ」では、グアテマラのハイロ・ブスタマンテLa Lloronaが監督賞を受賞した。本作もサンセバスチャン映画祭のホライズンズ・ラティノ部門コンペティション外だが、クロージング作品です。

 

 (ハイロ・ブスタマンテ)

   

 

栄誉金獅子賞ペドロ・アルモドバル、プレゼンターはマルテル審査委員長、彼女は授賞挨拶で感涙にむせんだとか。ともに抱き合って喜びに浸りました。アルモドバルの最新作Dolor y Gloriaは、アカデミー外国映画賞スペイン代表作品最終候補3作の一つに踏みとどまっています。ライバルはアメナバルMientras dure la guerraです。哲学者ウナムノの最晩年を描いた力作、SSIFF 2019のコンペティション部門にノミネートされています。両監督ともそれぞれアカデミー賞外国語映画賞のオスカー像を持っています。

 

    

    

   

(アルモドバルとプレゼンターのマルテル審査委員長)

 

★また審査委員長のルクレシア・マルテルが特別賞の一つロベール・ブレッソン賞を受賞しました。ベネチアにフランスの監督の名を冠した賞があったんですね。しかしマルテルにとってブレッソン賞はぴったりです。大役、ご苦労様でした。

 

   

フェデリコ・ベイローの第5作*サンセバスチャン映画祭2019 ㉑2019年09月16日 13:19

      ホライズンズ・ラティノ第7弾――フェデリコ・ベイローの「Así habló el cambista

 

      

        (ダニエル・エンドレルとルイス・マチンを配したポスター

   

★ウルグアイのフェデリコ・ベイロー(モンテビデオ1976)の第5Así habló el cambistaは、軍事政権が幅を利かせた1970年代を背景にしたスリラー仕立てのブラック・コメディ。主人公は投資家や旅行者にドルを売買するだけでなく資金洗浄にも手を染める両替商、たったこれだけの情報である程度ストーリーが読めてしまう。約30年前に出版されたフアン・エンリケ・グルベル同名小説の映画化です。前作Belmonteが昨年のサバルテギ-タバカレラ部門に出品された折り、次回作は「El cambista」とご紹介した作品です。結局小説と同じタイトルになったようです。本邦でもデビュー作『アクネ ACNE08)が公開され、3El Apóstata15)が邦題『信仰を捨てた男』としてNetflixにストリーミング配信されるなど、地味だがコアなファンが多い。ミニマリストの監督と言われるベイローが、ブラック・コメディとスリラーのあいだを振り子のように行ったり来たりしながら、家族ドラマという新しい分野に進出したようです。

Belmonte」紹介と監督キャリア&フィルモグラフィーについては、コチラ20180803

 

         

             (フェデリコ・ベイロー監督)

 

 

Así habló el cambista / The Moneychanger

製作:Oriental Features / Rizona Films

監督:フェデリコ・ベイロー

脚本:フェデリコ・ベイロー、アラウコ・エルナンデス・オルス、マルティン・マウレギ

原作:フアン・エンリケ・グルベルの同名小説「Así habló el cambista

音楽:エルナン・セグレト

撮影:アラウコ・エルナンデス・オルス

編集:フェルナンド・フランコ、フェルナンド・エプステイン

美術:パブロ・マエストレ・ガリィ

録音:カトリエル・ビルドソラ

特殊効果:マリアノ・サンテリィ

製作者:ディエゴ・ロビノ、サンティアゴ・ロペス・ロドリゲス、他多数

 

データ:製作国ウルグアイ、アルゼンチン、ドイツ、スペイン語、2019年、ブラック・コメディ、97分、撮影はウルグアイ。公開:アルゼンチン、ウルグアイ、メキシコ2019926

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019プラットフォーム部門、ウルグアイ・ベリャ・ウニオン、サンセバスチャン映画祭2019ホライズンズ・ラティノ部門、第57回ニューヨーク映画祭2019などに正式出品

 

キャスト:ダニエル・エンドレル(ウンベルト・ブラウセ)、ドロレス・フォンシ(妻グドルン)、ルイス・マチン(舅シュヴァインシュタイガー氏)、ベンハミン・ビクーニャ(ハビエル・ボンプランド)、ヘルマン・デ・シルバ(モアシール)、ホルヘ・ボラニ、エリサ・フェルナンデス、アレハンドロ・ブッシュ、セシリア・パトロン、他

 

ストーリー1975年モンテビデオ、ウルグアイの地域経済は多くの日和見主義者たちを惹きつけていた。社会は軍事独裁政権によって壊滅状態だった。反体制派の面々は刑務所に閉じ込められ、経済活動は隣国アルゼンチンやブラジルの支配下にあった。ウルグアイの金融市場は、お金を雲散霧消させるには格好の場所のようだった。折も折りウンベルト・ブラウセは、資金洗浄のベテランである舅シュヴァインシュタイガーの後押しをえて外貨売買のキャリアを積んでいく。ある運命的な出会いによって目が眩んだウンベルトはのっぴきならない状況に追い込まれ、今までの人生でついぞ経験したことのない危険で大掛りなマネーロンダリングを引き受けることになる。汚い家族ビジネスのみならず、裏切り、詐欺、汚職がスリラー仕立ての家族ドラマとして、フラッシュバックしながら語られる。

           

 

     アンチ・ヒーロー、ウンベルト・ブラウセにダニエル・エンドレルが挑む

 

98日にトロント映画祭で上映されたので、ぼちぼちコメントが寄せられると思いますが、取りあえずそれは置いといて、フェデリコ・ベイローの第5作は過去の作品とは一味違うと言っても外れじゃない。ウンベルトとシュヴァインシュタイガー氏は、ビジネスでは教師と生徒の関係で始まる。最初は手ほどきとして投資家やツーリストたちにドルの売買をする両替商としてスタート、次第に政治家や時の権力者の資金洗浄に手を染めていく。完璧なアンチ・ヒーローのウンベルトを演じるのは、監督と同郷のダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976)、若干細目になってビジネス・スーツで決めている。本邦ではアルゼンチン映画だが古くはダニエル・ブルマン『僕と未来とブエノスアイレス』04)、直近ではアドリアン・カエタノ『キリング・ファミリー 殺し合う一家』に主演、2作とも公開された。俳優だけでなく監督デビューもしている。

『キリング・ファミリー~』とダニエル・エンドレルの紹介は、コチラ20170220

 

          

         (ウンベルト・ブラウセに扮したダニエル・エンドレル)

 

★デビュー作『アクネ ACNE』や『信仰を捨てた男』でもブラック・ユーモアが横溢していたが、新作でも健在のようです。1975年が中心だが、フラッシュバックで同じ軍事独裁時代の1956年、1962年、1966年が語られる。冷戦の煽りをうけてウルグアイだけでなく南米諸国はアルゼンチン、チリ、ブラジルと同じようなものだった。ウンベルトの指南役で舅を演じるアルゼンチンの俳優ルイス・マチン(ロサリオ1968)は、TVシリーズが多いのでアルゼンチンでは知られた顔です。映画では前述したアドリアン・カエタノの代表作Un oso roja02)に準主役で出ている他、ミュージシャンのフィト・パエスが当時結婚していたセシリア・ロスのために撮った『ブエノスアイレスの夜』01)に出演、共演者のガエル・ガルシア・ベルナルとドロレス・フォンシが、長続きしなかったが結婚したことでも話題になった。チリのアンドレス・ウッド『ヴィオレータ、天国へ』11)では、ヴィオレータにインタビューする記者を演じた。

 

       

    (女婿ウンベルトの御指南役のルイス・マチンとダニエル・エンドレル、映画から)

 

★ウンベルトの妻グドルンを演じたドロレス・フォンシ(アドログエ1978)は、当ブログでは何回も登場してもらっている。2014G. G.ベルナルと離婚した後、サンティアゴ・ミトレ『パウリーナ』15)で主役に抜擢され、撮影中に婚約した。同監督の『サミット』17)ではリカルド・ダリン扮するアルゼンチン大統領の娘役、セスク・ゲイ『しあわせな人生の選択』17)ではダリンの従妹役に扮した。物言う女優の代表格、新作の冷ややかで欲求不満のかたまり、情け容赦もなく陰で糸を引くグドルン役を非の打ちどころなく演じたと高評価です。

『パウリーナ』の記事は、コチラ20150521

『サミット』の記事は、コチラ201705181025

『しあわせな人生の選択』の記事は、コチラ20170804

   

        

                        

                        (夫婦を演じたダニエル・エンドレルとドロレス・フォンシ)

 

ヘルマン・デ・シルバが演じたモアシールの立ち位置がよく分からないが、アルゼンチンでは認知度の高いベテラン、ダミアン・ジフロン『人生スイッチ』14)の第5話「愚息」の庭師役でアルゼンチン・アカデミー助演男優賞を受賞、資産家の愚息が起こした妊婦轢逃げ犯の身代わりを50万ドルで請け負うが、弱みに付け込んで値段を釣り上げ、ご主人を強請るという強者に変身する役でした。当ブログで登場させたサンティアゴ・エステベスLa educación del Rey17)では、自宅に泥棒に入った少年レイを更生させようとする退職したばかりの元ガードマンを演じた。他にルクレシア・マルテル『サマ』にも出演している。

『人生スイッチ』の主な記事は、コチラ20150729

La educación del Rey」の記事は、コチラ20170917

 

        

            (ヘルマン・デ・シルバとダニエル・エンドレル、映画から)

 

★映画製作のみならずウルグアイとアルゼンチンは切っても切れない関係にある。監督と主役のエンドレルはウルグアイ出身だが、どちらかというとアルゼンチンの俳優が多勢、ウルグアイの映画市場は国土も含めて狭く、1国だけでは食べていけないということでしょう。


ダニエル・サンチェス・アレバロの新作*サンセバスチャン映画祭2019 ㉒2019年09月21日 07:24

       新作「Diecisiete」はセクション・オフィシアルのコンペティション外で上映

 

      

 

ダニエル・サンチェス・アレバロ(マドリード1970)の6年ぶりの新作Diecisieteは、スペイン映画としてはNetflixオリジナル作品4作目となる。20189月クランクインした折にざっと紹介しておきましたが、コンペティション外とはいえセクション・オフィシアルで上映が決まりました。サンセバスチャン映画祭はNetflix作品を排除しない方針、ただしセクション・オフィシアル部門でNetflixオリジナル作品が上映されるのは、本作が初めてということです。映画祭終了後の104日からスペイン限定ですが劇場公開もされ、同月18日にNetflixのストリーミング配信開始がアナウンスされています。

Diecisiete」の作品&監督キャリアの記事は、コチラ20181029

 

      

   (左から、ナチョ・サンチェス、監督、ビエル・モントロ、SSIFF 2019の発表会、719日)

 

Diecisiete

製作:Atípica Films / Netflix(スペイン)

監督:ダニエル・サンチェス・アレバロ

脚本:ダニエル・サンチェス・アレバロ、アラセリ・サンチェス

音楽:フリオ・デ・ラ・ロサ

撮影:セルジ・ビラノバ

編集:ミゲル・サンス・エステソ

キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ

衣装デザイン:アルベルト・バルカルセル

メイクアップ&ヘアー:アナ・ロペス=プイグセルベル(メイク)、ベレン・ロペス=プイグセルベル(ヘアー)、マリア・マヌエラ・クルス(メイク)

プロダクション・マネージメント:アリシア・ユベロ、イバン・ベンフメア⋍レイ

視覚効果:アナ・ルビオ、クリスティナ・マテオ、他

製作者:ホセ・アントニオ・フェレス、クリスティナ・サザーランド

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2019年、ドラマ、サンセバスチャン映画祭2019コンペティション部門外、スペイン限定公開104日、Netflixストリーミング配信開始1018

 

キャスト:ビエル・モントロ(エクトル)、ナチョ・サンチェス(兄イスマエル)、ロラ・コルドン(祖母クカ)、カンディド・ウランガ(司祭)、イチャソ・アラナ(エステル)、ホルヘ・カブレラ(センター教官)、チャニ・マルティン(従兄弟イグナシオ)、イニャゴ・アランブル(ラモン)、マメン・ドウチ(裁判官)、カロリナ・クレメンテ(従姉妹ロサ)、アーロン・ポラス(パイサノ)、ハビエル・シフリアン(自動車解体業者)、ダニエル・フステル(ガソリンスタンド員)、パチ・サンタマリア、他

 

ストーリー17歳になるエクトルが少年センターに入所して2年が経つ。動物を利用して社会復帰を目指すセラピーに参加する。そこでエクトルと同じように内気で打ち解けない犬オベハと出会い、離れられない関係を結ぶようになる。ところがある日、オベハが姿を消してしまう。飼い主にもらわれていったからだ。エクトルは悲しみに暮れ、彼を探しにセンター逃亡を決心する。このようにして、兄イスマエル、祖母クカ、1匹の犬、1頭の雌牛などを巻き込んで予想外の旅が始まることになる。カンタブリアの景色をバックにしたロード・トリップ。

 

        

           (性格が対照的な兄弟、イスマエルとエクトル)

 

★エクトルは祖母クカが入所している養護施設に潜んでいたのを探しに来た兄イスマエルに発見される。早くセンターに戻らなければ少年でいられなくなる、というのは18歳の誕生日目前だったからだ。「17歳」というタイトルには意味があったわけです。今回、フランコ時代から数々のTVシリーズに出演していたロラ・コルドンが祖母役として共演するのも話題の一つです。また主役級の2匹の犬は前もって調教されていたのではなく、家庭で飼われていたということです。性格が対照的な二人の兄弟が旅をするカンタブリアの風景、登場する動物たちの魅力も見逃せない。

 

     

             (登場する1頭の雌牛というのはこれか?)

 

★主役エクトルを演じるビエル・モントロは、2009年短編「Angeles sin cielo」でデビュー、TVシリーズに出演していた2014年、アンドレ・クルス・シライワの「L'altra frontera」(「La otra frontera」)でアドリアナ・ヒルと母子を演じた。アルゼンチンとの合作、マルティン・オダラ『黒い雪』(17)で主役のレオナルド・スバラグリアの少年時代を演じ、妹との近親相姦という役柄と彫りの深い風貌から強い印象を残した。その他、代表作はペドロ・B・アブレウのコメディ「Blue Rai」、ダニ・ロビラがスペイン版スーパーマンになったコメディ「Superlópez」(18)にも小さい役だが出演している。評価はこれからです。

 

       

            (エクトルと「僕の犬オベハ」、映画から)

 

        

     (国営TV局のインタビューを受ける、監督とビエル・モントロ、201810月)

 

★イスマエルを演じるナチョ・サンチェス(アビラ1992)は、本作が長編映画初出演だが、演劇界の最高賞といわれるマックス賞の主演男優賞をIván y los Perros2018)のイバン役で受賞している。本作は、Hattie Naylor が書いたロシアのドッグ・ボーイとして知られるイヴァン・ミシュコブの実話 Ivan and the Dogs を舞台化したもので、2017年にイギリスで映画化されている。4歳で親に捨てられ6歳で保護されるまで野犬と暮らしていた少年の痛ましい記憶を語る独り芝居。サンチェスは受賞当時は弱冠25歳、最年少の受賞者だった。他にTVシリーズ「El ministerio del tiempo」(162話)、「La zona」(171話)、「La catedral del mar」(181話)、本作はNetflixで『海のカテドラル』として配信された。

 

      

(独り芝居「Iván y los Perros」のナチョ・サンチェス)

 

      

                  (第21回マックス賞の授賞式のナチョ、2018618日)

 

6年ぶりの長編ということは、そのあいだ監督は何をしていたのか。第2作目となる La isla de Alice2015年刊)というスリラー小説を書いていた。8万部も売れたそうで、賞は逃したが第64回プラネタ賞の最終候補にもなった。監督と脚本家を兼ねるのは昨今では珍しくないが、作家となるとそう多くはない。何はともあれ映画界に戻ってくれたのは喜ばしい。

 

★フィルモグラフィー紹介は前回の記事とダブるが、脚本家として10年のキャリアを積んだ後、長編デビューした『漆黒のような深い青』06)がゴヤ賞新人監督賞を受賞した後の躍進は目覚ましいものがあった。『デブたち』09)、『マルティナの住む街』11)、La gran familia española13)、そして沈黙した。やっと5作目Diecisiete」が登場した。もともと脚本家としてTVシリーズFarmacia de guardia954話)で出発しており、デビュー作まではTVシリーズの脚本を執筆しながら短編を撮っていた。なかにはゴヤ賞短編映画賞ノミネーション、オスカー賞プレセレクション、La culpa del alpinistaのようにベネチア映画祭2004コンペティションに選ばれた短編もある。秋開催のラテンビートに来日したこともあり、本邦でもお馴染みの監督といえる。

 

★スクリーンでは観られないが、Netflix 配信が始まったら続きをアップしたい。ダニエル・サンチェス・アレバロ映画の常連さん、義兄弟の契りを結んだアントニオ・デ・ラ・トーレ、ほかラウル・アレバロキム・グティエレスインマ・クエスタなどが登場しない新作が待ち遠しい。

    

追記:Netflixでは、邦題『SEVENTEEN セブンティーン』で配信開始されました。


第67回サンセバスチャン映画祭2019開幕 ㉓2019年09月24日 19:24

          開幕のスピーチは「映画祭は観客なしには開催できない」と観客に感謝

 

      

 

★去る920日(現地時間)、メイン会場のクルサール・ホールで映画祭の開会式が開催されました。カジェタナ・ギジェン・クエルボロレト・マウレオンの総合司者で開幕しました。映画批評家への感謝に続けて「映画を観るために映画館に足を運んでくれる人々なしには映画祭は開催できない」と一般観客への感謝の辞で締めくくられました。

 

★セクション・オフィシアル部門の審査委員長ニール・ジョーダン1950)が、審査員を代表して挨拶した。アイルランドを代表する監督、脚本家、作家でもあるジョーダン映画は、イギリスや米国との合作ではあるが、ジャンルを問わない。『ことの終わり』や『プルートで朝食を』ほか、イザベル・ユペールが主演したスリラー『グレタ GRETA』(18)まで、恋愛ドラマ、ファンタジー・ホラー、コメディと幅広くカバーしている。

メキシコのプロデューサーパブロ・クルス、スペインの女優バルバラ・レニー、スウェーデンの撮影監督 Lisabi Fridell、アルゼンチンの女優メルセデス・モラン、イスラエルのプロデューサー Katriel Schory の合計6人です。

 

      

 

★オープニング作品、ロジャー・ミッチェルBlackbirdは、ビレ・アウグストのデンマーク映画『サイレント・ハート』(14)のリメイクだそうです。本邦未公開作品ですが、「トーキョーノーザンライツフェスティバル2016」で初上映された。本作はサンセバスチャン映画祭2014に出品され、主役のパプリカ・スティーンが銀貝賞の女優賞を受賞している。リメイク版では、スーザン・サランドンが演じる。彼女は来セバスティアンしてないようだが、監督と共演者のサム・ニールが宣伝に努めていた。上映後の批評家の感触は良く、スペイン公開が決定している(公開日未定)、スペインのタイトルはLa decisión」になる。

 

       

    (ロジャー・ミッチェル監督とサム・ニール、サンセバスチャン映画祭920日)

 

★カメラの放列に敷かれていたのは、ペルラス部門のオープニング作品Sebergに抜擢されたクリステン・スチュワートでした。監督はオーストラリア出身のベネディクト・アンドリュース、ジーン・セバーグ(アイオワ州1938)の伝記映画でクリステンはセバーグになる。オットー・プレミンジャー17歳で見いだされて『聖女ジャンヌ・ダーク』でデビュー、フランスに渡って『悲しみよこんにちは』や『勝手にしやがれ』で一世を風靡した、オールドファンには懐かしい女優。本作は6070年代のラディカルな公民権運動や反戦運動に参加、ブラック・パンサーをサポートしたため、FBIからマークされた時代に焦点が当てられている。

   

  

 

   

   (ベネディクト・アンドリュース監督とクリステン・スチュワート、SSIFF 920日)

 

★コンペティションにノミネートされている、アレハンドロ・アメナバルのクルー、バスクの監督トリオ、ホセ・マリア・ゴエナガアイトル・アレギジョン・ガラーニョのクルー、レティシア・ドレラのクルーなどが続々とセバスティアン入りしている。日本からも昨年のドノスティア賞受賞者是枝裕和監督が到着、『真実』出演のジュリエット・ビノシェとのツーショットが配信されている他、チロ・ゲーラ監督、カンヌ映画祭を総指揮しているティエリー・フレモーアントニオ・レシネス21日に最初のドノスティア賞を手にするコスタ・ガヴラス監督とスタッフ一同も現地入りしている。次回はコスタ・ガヴラスの授与式。


コスタ・ガヴラスに栄誉賞ドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2019 ㉔2019年09月25日 16:04

              コスタ・ガヴラスのスピーチはスペイン語、短くてエモーショナル

 

   

 

921日ビクトリア・エウヘニア劇場で、コスタ・ガヴラスがドノスティア賞のトロフィーを本映画祭の総指揮者ホセ・ルイス・レボルディノスから受け取りました。レボルディノスより監督のキャリア紹介があり、その後代表作がメモランダムにスクリーンに映し出されました。初期の三部作『Z』、『告白』、『戒厳令』の他、『ミッシング』、『マッド・シティ』、『ザ・キャピタル マネーにとりつかれた男』(2012年の金貝賞受賞作品)、『ホロコースト―アドルフ・ヒトラーの洗礼―』、『ミュージックボックス』など公開作品の多くが現れ、トロフィーに値するシネアストの感を深くしました。

 

      

  (ホセ・ルイス・レボルディノスからトロフィーを受け取るコスタ・ガヴラス、921日)

 

★登場したコスタ・ガヴラスのスピーチは、短かっただけでなくエモーショナルで、これぞ受賞スピーチのお手本と感じいりました。監督はスペイン語も流暢ですから、スピーチが短かったのはスペイン語だったからではないのでした。舞台には授与式のあと特別上映されるAdults in the Room(仏=ギリシャ)に出演のヴァレリア・ゴリノ2人も登壇、それぞれ簡単なスピーチをしました。彼女はイタリア女優ですが、母親がギリシャ人でアテネとナポリで育ったからギリシャ語も堪能です。本作は終了したばかりのベネチア映画祭のコンペティション外で既にワールド・プレミアされています。

 

       

            (コスタ・ガヴラスとヴァレリア・ゴリノ)

 

監督が初めてギリシャ語で撮ったAdults in the Room」は、いわゆる「現代のギリシャ悲劇」と称されたギリシャ金融危機2015を乗り切った、当時の元財務大臣ヤニス・バルファキスの回想録Adults in the Room: My Battle With Europes Deep Establishmentがベースになって映画化された。欧州連合の債務に抵抗したギリシャの人々の半年間の闘いの記録。フランスで故国の窮状をニュースで知るにつけ構想を固めていった。原作は『黒い 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命』として翻訳書が刊行されている(明石書店、2019420日刊)。

        

        

              (新作「Adults in the Room」から)

 

★ドノスティア賞授賞式数時間前にエル・パイス紙のインタビューに語ったところによると、監督を魅了したのは、バルファキスの不屈のレジスタンス精神だったと語っている。「バルファキスは英雄ではなく、抵抗する人です。それが私を魅了しました。人生で最も重要なのは抵抗です。それは自身を社会を変える唯一の方法だからです。抵抗するには常にそれなりの根拠があるのです」と。当時のIMF専務理事クリスティーヌ・ラガルドの発言「この部屋に必要なのは大人です」がヒントになったそうです。それも男性だけでなくより多くの大人の女性たちが権力の中枢に入ることが唯一の希望だと付け足した。

 

      

    (新作のインタビューに応えるコスタ・ガヴラス、サンセバスチャン映画祭2019

 

★映画は殆ど不安が支配しており、現代のギリシャ悲劇そのもの、数人の政治家、それを支える権力のある組織、資本家が数百万のギリシャ国民の希望を打ち砕いた。ここ数年間で約50万人が故国を離れた。「政治家は恐怖に目覚めたが、彼らは国民が求めたものに応えられなかった。しかし私たちにもこのような危機を出来させた責任がある。彼らが真実を知らせたら、私たちは彼らに投票しない。私たちも甘い白鳥の歌を常に聴きたがっているからです」と残念がる。現実に目をふさぎ、耳に心地よい話ばかりを聞きたがった国民にも責任の一端がある。現在は右も左も道に迷っており方向が見えない。「常に事実は知らせるべきだが、変革には責任と長い痛みをともなうこともはっきり言うべきです」と。1018日スペイン公開が決定している。

 

キャリア&フィルモグラフィー、Adults in the Room」の記事は、コチラ20190825

 

アメナバル新作の評判は上々*サンセバスチャン映画祭2019 ㉕2019年09月27日 16:54

      心に響く語り口で二つに分断された1936年のスペインへ私たちを連れ戻す

 

     

 

★開幕2日目の921日、アレハンドロ・アメナバルの新作Mientras dure la guerraが上映されました。監督以下、主役ミゲル・デ・ウナムノのカラ・エレハルデ、フランコ陣営の陸軍将官ホセ・ミリャン・アストレイのエドゥアルド・フェルナンデス、フランコ将軍のサンティ・プレゴナタリエ・ポサパトリシア・ロペス・アルナイスなどが赤絨毯を踏みました。上映後の評価は高く、心に響く語り口、ウナムノとアストレイとのサラマンカ大学講堂での歴史的な一騎打ち、常に思慮分別をもちながらも大胆で、私たちを驚かせ楽しませてくれるアメナバル映画が何かの賞に絡むのは間違いない。

Mientras dure la guerra」の紹介記事は、コチラ20180601

 

      

        (アレハンドロ・アメナバル、SSIFFのフォトコール、921日)

 

       

(左からナタリエ・ポサ、エドゥアルド・フェルナンデス、監督、カラ・エレハルデ、

 カルロス・セラノ、パトリシア・ロペス・アナイス、サンティ・プレゴ)

 

★舞台はスペインの学術都市サラマンカ、時代はスペイン内戦勃発の1936717日から、ミゲル・デ・ウナムノ(ビルバオ1964)が軟禁されていた自宅で失意の最期を迎える1231日までに焦点が当てられている。なぜアメナバルがこのカオス状態だった暗い時代を選んだのか、矛盾に満ち、辛辣で疑い深く、誠実で正直な、知の巨人の晩年に惹きつけられたのか、興味は尽きない。秋の映画祭を期待したい。

 

     

     (左から、エドゥアルド・フェルナンデス、カラ・エレハルデ、監督、他)

 

★エル・パイスのコラムニストとして辛口批評で有名なカルロス・ボジェロによると、アメナバルの構想には、スペインが二つに分断された20世紀最大の「悲劇に誇張や善悪の二元論を持ち込まなかった。感動も強制しない。アメナバルが見せる節度は非常に考え抜かれている。フラッシュバックや夢が多用されており、なかには不必要と思われるケースもあったが」と述べている。更にウナムノのロマンスについては、哀惜を込めた描き方が平凡でお気に召さなかったようだ。観客への甘いサービスは不要ということでしょうか。

 

★キャスト評は、ウナムノを演じたカラ・エレハルデについては「複雑を極めたウナムノの人格をコインの裏と表のように演じ分け注目に値する出来栄えだった」と評価は高い。カラ・エレハルデ自身は「スペインはこの83年間、1ミリも前進しておりません」と手厳しい。同感する人が多いと思いますね。

   

       

        (サラマンカ大学講堂で演説するミゲル・デ・ウナムノ) 

 

  

  (撮影中の監督とカラ・エレハルデ、20185月末、サラマンカでクランクイン)

    

★フランコ軍の陸軍将官ホセ・ミリャン・アストレイに扮したエドゥアルド・フェルナンデスについては「絶えず変化を求めてスクリーンに現れる彼は、輝いて信頼に足る役者」とこちらも高評価、アストレイはフランコの友人でスペイン・モロッコ戦争で右目と左腕を失っている。フェルナンデスは同じ金貝賞を競うセクション・オフィシアルにノミネートされているベレン・フネスLa hija de un ladronに実娘のグレタ・フェルナンデスと出演していて、今年は両方のフォトコール、プレス会見と大忙しである。

 

      

  (フランコ役のサンティ・プレゴとアストレイ役のエドゥアルド・フェルナンデス)

 

★本作以外のウナムノのビオピック作品は、マヌエル・メンチョンLa isla del vientoをご紹介しています。かなりフィクション性の高い作品ですがこちらのウナムノ役は、ホセ・ルイス・ゴメスでした。独裁者ミゲル・プリモ・デ・リベラを批判してカナリア諸島のフエルテベントゥラに追放された1924年と最晩年の1936年の2部仕立てです。

La isla del viento」の作品&監督紹介は、コチラ20161211

 

 

★映画とはまったく関係ありませんが、アメナバルは2年半パートナーだったダビ・ブランコとの結婚を解消した由。ブランコによると、2月からは24歳の医師セサルが新恋人、3人の関係は良好だそうで、つまり幸せということです。3人揃っての写真がインスタグラムされている。時代は変わりました。

 

  

         (左から、アメナバル、ダビ・ブランコ、セサル)

    

追加情報:ラテンビート2019で『戦争のさなかで』の邦題で上映が決定しました。

        東京国際映画祭2019 「ワールド・フォーカス部門」 共催上映です。