『SPY TIMEスパイ・タイム』*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑭2016年02月02日 21:02

         ベストセラー・コミックの映画化―落ち穂拾い

 

★男優賞は、セスク・ゲイの“Truman”から主演がリカルド・ダリン、助演がハビエル・カマラ、と決まったも同然かな? 新人は混戦状態だがパウラ・オルティスの“La novia”からアレックス・ガルシア、どちらにしろ誰でもいいか。自分が監督した“Isla Bonita”に出演したフェルナンド・コロモがノミネーションサれている。御年69歳、自作には時々顔を覗かせているが、主演は初めてというわけでノミネートされたのかしらん。新人女優賞の80歳を超えたアントニア・グスマンには負けるが、本人は「新人賞」ノミネーションにさぞかし可笑しがっているだろう。

 

ガウディ賞の結果発表があったばかりですが、こちらも主演がダリン、助演がカマラという次第、これじゃ金太郎の飴だね。セスク・ゲイがカタルーニャ語以外の作品賞、つられてドロレス・ホンシも助演女優賞を貰った。ダリンは今回も欠席したがゴヤ賞ガラも欠席かいな。バルセロナ派の映画祭だから当然といえば当然だが、アグスティ・ビリャロンガの『ザ・キング・オブ・ハバナ』が編集賞・撮影賞を含めて4個、公開中の『SPY TIMEスパイ・タイム』がプロダクション賞・美術賞を含めて5個もゲットした。要するに以上の3作品に賞が集中したということです。

 

     

     (発表前に受賞を確信しているようなセスク・ゲイとハビエル・カマラ)

 

★さて本題のSPY TIMEスパイ・タイム』、監督はスペイン映画を思いっきりおちょくった『最終爆笑計画』09)やホラー・コメディ『ゴースト・スクール』12)で既に日本上陸を果たしているハビエル・ルイス・カルデラ。スペインではTres bodas de más13)が評価され、主役のインマ・クエスタがゴヤ賞2014主演女優賞にノミネートされた。今回は“La novia”出演の関係で無理だったのかもしれない。キム・グティエレス、ロッシ・デ・パルマ、ベルト・ロメロ、シルビア・アブリルなどが重なって出演しており、なかでベルト・ロメロが新人男優賞にノミネートされた作品。監督は気の合った俳優を繰り返し起用するタイプです。

 

           

              (Tres bodas de másのポスター)

 

       

          (ポスターを背にハビエル・ルイス・カルデラ監督)

 

   Anacleto: Agente secreto SPY TIMEスパイ・タイム』2015

製作:Zeta Audiovisual / VVB Spain

監督:ハビエル・ルイス・カルデラ

脚本:フェルナンド・ナバロ、パブロ・アレン、ブレイショ・コラル

原作コミック:マヌエル・バスケス・ガジェゴ(“Anacleto: Agente secreto”)

音楽:ハビエル・ロデロ

撮影:アルナウ・バルス・コロメル

編集:アルベルト・デ・トロ

美術:ジェマ・ファウリア

メイクアップ:エリザベス・アダネス、他

プロダクション・デザイン:バルテル・ガリャルト 

録音:マルク・オルティスオリオル・タラゴ、ララ・カサノバ

特殊効果:リュイス・カステルリュイス・リベラ

製作者:ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、フランシスコ・ラモス、他

 

データ:スペイン、スペイン語、2015年、87分、コメディ・アクション、パロディ、コミック

受賞・ノミネーション:フェロス賞(コメディ賞)の4個ノミネーション、ゴヤ賞(録音賞・特殊効果賞)の2個、結果待ち

 

キャスト:イマノル・アリアス(アナクレト)、キム・グティエレス(息子アドルフォ)、カルロス・アレセス(バスケス)、アレクサンドラ・ヒメネス(カティア)、ロッシ・デ・パルマ(カティアの母)、ベルト・ロメロ(カティアの兄マルティン)、トニ・セビリャ(カティアの父)、エミリオ・グティエレス・カバ(アナクレトの上司)、シルビア・アブリル(秘書)、ホセ・コルバッチョ(ベテラン諜報員)、他

 

プロット:運悪くエリート諜報員アナクレトを父にもったがためスパイ稼業に巻き込まれていくアドルフォの物語。アドルフォ30歳、モニター監視員として平凡なサラリーマン生活をしていたが、最近恋人カティアから野心がないと三下り半を突きつけられてしまった。そんな折も折り、危険極まりない脱獄犯バスケスを頭とするギャング団の夜襲をうける。しがないソーセージ屋だと思っていた父アナクレトの正体を発見して仰天する。安楽を諦め生き残りをかけて、さらにはカティアの愛を取り戻すため、父とタッグを組んで極悪人バスケスの復讐に対峙するしかない。果たして父子の運命や如何に・・・

 

       

          (コミックのポスター、アドルフォは生れておりません)

 

マヌエル・バスケス・ガジェゴ1930マドリード~95バルセロナ)が、1964年に発表したシリーズ・コミックAnacleto: Agente secreto”(ブルゲラ社)の映画化、舞台を30年後の現代に移しているが原作の骨格は踏襲している。エリート・スパイに息子が生まれていたなどハチャメチャだが、細身の体に黒のスーツと蝶ネクタイというスタイルは変わらない。しかし映画のヒーローはアドルフォですね。バスケス・ガジェゴはアナクレトの宿敵に自分と同じ名前をつけている。これほどのワルではないが、本人も相当の食わせ者だったそうです。3回ほどブタ箱に入ったというが、そんな記録は残っていないとも、とにかく自分で伝説作りを楽しんでいたようです。ボヘミアンのアナーキスト、結婚・離婚を繰り返しそれぞれに子供がいて10人以上とか、子供のなかには20年以上会っていない娘もいるとか、破天荒な人生を歩んだようです。1995年糖尿病からくる膿塞栓症で死去した。『モルタデロとフィレモン』のフランシスコ・イバニェスとともにスペイン・コミック界に大きな影響を与えた人物だった。本作も同じブルゲラ社の雑誌に掲載された。後にフェッセルが映画化、公開されたのでご覧になった方もいるでしょうか。

 

          

              (マヌエル・バスケス・ガジェゴ

 

★バスケスを主人公にしたオスカル・アイバルEl gran Vazquez10)というコメディ伝記映画があり、「トレンテ」シリーズのサンティアゴ・セグラがバスケスに扮した。本人より細めですがセグラをおいて他にバスケスを演じられる役者はいないかもしれない。Anacleto: Agente secreto”の出版元ブルゲラ社の編集長ゴンサレス、バスケスとは正反対の価値観の総務部長ペラエス、『モルタデロとフィレモン』のフランシスコ・イバニェスなど実在の人物が登場する。サンセバスチャン映画祭2010上映、総務部長ペラエスに扮したアレックス・アングロがゴヤ賞2011助演男優賞にノミネーションされた。監督がモンテカルロ・コメディ映画祭で審査員賞、スペシャル・メンションを受賞した。アナクレトとかグラン・バスケスとかを聞いただけでワクワクできないとダメ、かなりナショナルな映画なのでスペインでしか公開されなかった。

 

★アナクレト役のイマノル・アリアス1956レオン)は、チラシにあるように『私の秘密の花』95)が一番有名なのでしょうか。あの映画の出番は少なかったし、彼の持ち味は出ていなかったと思う。公開作品は、ウンベルト・ソラス『カミーラ』81、公開92)、アルモドバル『セクシリア』82、公開95)、新しいところでは『ペーパーバード 幸せは翼にのって』13)、これはスペイン内戦を背景に監督エミリオ・アラゴン一家のサガのような作品、アリアスが達者なタップダンスを披露、ヴォードヴィリアンとしての片鱗を覗かせた。しかし、1980年代のアリアスといえば、なんといってもビセンテ・アランダのEl Lute87)とEl Lute ,mañana seré libre88)のエル・ルーテ役、実在の犯罪者エレウテリオ・サンチェスの伝記映画、収監中に猛勉強し弁護士資格をとった人物。その妻にビクトリア・アブリルが扮した。前者でサンセバスチャン映画祭の男優賞(銀貝賞)を受賞した。どうしても外せないのがイマノル・ウリベの『ミケルの死』84)、第1回スペイン映画祭1984で上映されたが未公開に終わった。まだゴヤ賞などなかったときだったのが惜しまれる。ノミネーションは複数回あるが受賞はない。もう難しいかもしれない。

 

★アドルフォ役のキム・グティエレス1981バルセロナ)はシリーズTVドラで出発、映画デビューはダニエル・サンチェス・アレバロのデビュー作『漆黒のような深い青』06DVD『蒼ざめた官能』)。イケメンだが上の前歯に隙間がありすぎて、口を開けるとおバカにみえる。初めて見たときから、「矯正しなかったのは親のせい」と親を恨んでいたのでした。しかし今回はこれが効果を上げており、作中でもからかわれていた。『マルティナの住む街』(ラテンビート)、公開作品では『ヒドゥン・フェイス』『ラスト・デイズ』などがある。二代目アナクレトとしての活躍を期待したい。

 

    

           (アナクレトとアドルフォ父子、映画から)

 

★バスケス役のカルロス・アレセス1976マドリード)は、俳優以外にアニメーションの原画家という別の顔をもっている。今は映画に話を絞るが、アレックス・デ・ラ・イグレシア作品(『気狂いピエロの決闘』『スガラムルディの魔女』『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』)の常連さん、いつも冴えない少し気弱な損な役柄が多いが、今回は人殺しなど屁とも思わない脱獄犯だ、嬉しかったに違いない。カルデラ監督作品では『最終爆笑計画』『ゴースト・スクール』に出演している。他に公開作品ではアルモドバル『アイム・ソー・エキサイテッド』、未見だがフアン・マルティネス・モレノ『人狼村 史上最悪の田舎』というアクション・ホラーにも出演している。

 

      

              (アナクレトとバスケス、映画から)

 

★公開中だからネタバレしないうちに、ここいらでチョン。


オリジナル作曲賞と歌曲賞*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑮2016年02月04日 19:55

   ルーカス・ビダル、両カテゴリーにノミネーション―落ち穂拾い

 

★授賞式も目前、そろそろ別のニュースをと思っていますが、ルーカス・ビダルオリジナル作曲賞・歌曲賞の両方にノミネーションされていました。日本ではシゲル・ウメバヤシ梅林茂の作曲賞(La novia)が話題になっているようです。1951年北九州市生れ、ニューウェーブ・ロック「EX」のリーダー、1984年グループ解散後映画音楽に転身、日本映画以外でもチャン・イーモウのLOVERS04)、『王妃の紋章』06)、トム・フォードのデビュー作『シングルマン』09)などを手がけている。コリン・ファースがベネチア映画祭男優賞・英国アカデミーBAFTA主演男優賞を受賞した話題作。東京国際映画祭などで上映後公開された。スペイン映画は初めてでしょうか。 

       

                (シゲル・ウメバヤシ梅林茂)

 

ルーカス・ビダルは、1984年マドリード生れの31歳、バークリー音楽大学の奨学金を得て米国に渡り、その後ジュリアード音楽院でも学んだ。つまりジャズとクラシックに精通しているということです。2009年頃から映画音楽の世界で活躍しはじめ、主に米国映画が多い。例えば映画が成功した『推理作家ポー 最期の5日間』12)、『ワイルド・スピード EURO MISSIONが有名、スペイン映画ではジャウマ・バラゲロの『スリーピング・タイト 白肌の美女の異常な夜』11)、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー・ミッション』12)など。前者はガウディ賞2012にノミネートされた。現在は本拠地をロスアンゼルスに定め、米国とスペインを行ったり来たりしている。2014年の第1回イベロアメリカ・プラチナ賞の授賞式にプレゼンターとしてパナマに赴いている。子供のときからピアノを弾きながら映画を見ていたという、根っからの映画好き、「音楽は数学に似ている。生涯に渡って生きる助けになる。心を高め、感情を豊かにして、辛いことも忘れさせてくれる」と語っている。ボストン・バレエ団のダンス・ミュージックを作曲したり、マテオ・ヒルの最新作Project Lazarus2016、西仏合作)の音楽を担当したりと世界を飛び回っている。これは英語映画ですが興味を唆られる作品、いずれアップしたい。

 

   

       (ルーカス・ビダル、マドリード王立劇場の1階観客席にて)

 

★ゴヤ賞ノミネーションは初めて、オリジナル作曲賞にイサベル・コイシェのNadie quiere la noche、オリジナル歌曲賞にフェルナンド・ゴンサレス・モリーナのPalmeras en la nieve、こちらにはパブロ・アルボランもノミネーション。ルス・ガバスのベストセラー小説の映画化、マリオ・カサスとアドリアナ・ウガルテが出演している。ゴヤ賞ノミネーションは5個(歌曲・美術・プロダクション・衣装デザイン・メイクアップ)です。201512月に公開されたときご紹介するつもりでしたが、今となってはもはや時間切れ、ポスターはこんな感じです。

 

    

       (マリオ・カサスとアドリアナ・ウガルテを配したポスター)

 

★また今ではアルモドバルの専属みたいになっているアルベルト・イグレシアスも久しぶりにフリオ・メデムのMa Maでオリジナル作曲賞にノミネートされています。作曲家と監督はともにサンセバスチャン生れのほぼ同世代のシネアストです。アルベルト・イグレシアスが映画音楽を最初に手がけた作品がフリオ・メデムの『バカス』(92)、翌年の第2『赤いリス』で初めてゴヤ賞を受賞しました。メデムも新人監督賞を受賞した記念すべき作品です。続いて『ティエラ―大地』96)、『アナとオットー』98)、『ルシアとSEX01)と受賞、アルモドバル作品などを含めるとゴヤ胸像10個のコレクター、調べたわけではありませんが、2桁は彼以外にいないと思います。控えめではにかみ屋のせいか受賞スピーチが短く、これは主催者だけでなく誰にとっても歓迎でしょう。アカデミー会員が「アルベルト、もう飾る棚がないから、これ以上要らないよね」と思うかどうか。ただアルモドバルの『私が、生きる肌』(11)以来遠ざかっているが。

 

  

  (イシアル・ボリャイン『雨さえも~ボリビアの熱い一日』で9個目のゴヤ胸像を手に)



異色の顔ぶれが揃いました*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑯2016年02月06日 21:31

         アントニア・グスマンは93歳でした!

 

★時間的にこれが最終回になりそうです。今年はフランス映画界のミューズ、ジュリエット・ビノシュ、御年93歳の新人アントニア・グスマン、アルゼンチンからリカルド・ダリン、目下妊娠5ヶ月という最多ノミネーションの“La novia”監督パウラ・オルティス、プロデューサー初挑戦も果たした“Ma Ma”のペネロペ・クルスなど海外勢を含めて異色の顔ぶれが揃いました。1階観客席の最前列には、ゴヤ賞ガラを取り仕切るのが今回初めてとなる映画アカデミー会長アントニオ・レシネス、ビノシュ、ダリン、クルス、ティム・ロビンス(まだ出席の確認が取れていない)が並ぶことになるらしい。他ルイス・トサールインマ・クエスタハビエル・カマラノラ・ナバスマリアン・アルバレス・・・

 

 

     (ここに5ヶ月の赤ちゃんが入っています。赤いドレスがオルティス監督)

 

★若手では“Techo y comida”のナタリア・デ・モリーナ、主演を勝ち取るには、ビノシュ、クルス、クエスタの大きな壁を越えなければならない。“Requisitos para ser una persona normal”の監督主演のレティシア・ドレラ、新人女優賞の先頭を走る“Un otoño sin Berlín”のイレネ・エスコラル、しかし二番手のアントニア・グスマンが肉薄して予断を許さないという。彼女の孫、新人監督賞を狙う“A cambio de nada”のダニエル・グスマンが受賞するとアリかもしれない。ただ新人賞は将来の可能性を判断基準にするわけだから、ニュースとしては面白いが、銀幕に再登場することが考えにくいアントニア・グスマンはないと予想します。

 

アントニア・グスマンの故郷アビラ(サンタ・テレサの生地として有名)では、全町民がテレビの前に陣取って観戦(!) するという噂、「うちの家族は、なんだってこんな面倒なことに首を突っ込んだのかと呆れているの」と、杖をついて現れた貫禄のアントニアは平静そのもの動ずることがない。80代後半かなと思って前回「80代の新人」と書きましたが、このインタビューで「93歳」と判明、歴代栄誉賞受賞者でも90代はいなかったと思います。今回の受賞者マリアノ・オソレス1926年生れの89歳、最高齢受賞かもしれない。

 

    

         (主役のミゲル・エランと祖母役のアントニア・グスマン)

 

  

              (栄誉賞受賞者マリアノ・オソレス)

 

★反対に「うちの家族は見ないと思う」と語るのがジュリエット・ビノシュ、過去にスペイン人以外の主演女優受賞者はいないし、アントニア・グスマンと同じように再登場はないでしょう。「私にスポットライトが当たっているわけではないから、静かに座っているだけ」と、例の遠慮のないコメント。作品賞5作のなかでも興行成績が最低の62.148枚しか売れなかった。奇特な人が計算したら、747人に1人の割でしか見ている人に出会えない(総人口約4640万人)。アカデミー会員は現在約1400人に増加しているが、それでも2人しか見ていない計算になる。これは冗談ですけどね。イサベル・コイシェ監督はそんなイジメでヘコむ女性ではない、「私の映画が好きな人が見てくれればいいの」と、外野の野次など何処吹く風なのでした。でも内心はショックでしょうね。

 

   

     (ジュリエット・ビノシュとイサベル・コイシェ、ベルリン映画祭にて)

 

 興行成績ランキングと候補作は重ならない?

 

★観客と批評家の乖離は毎年蒸し返されるテーマ、2015年のスペイン国内の観客動員数は9400万人、うち5作品の合計が110万人(!)とデータは容赦ない。セスク・ゲイの“Truman”が最高の50万人を占める、流石にこれでは少なすぎです。ノミネーション作品の最高はアニメーション賞受賞が確実視されているエンリケ・ガトAtrapa la bandera3-D)だそうです。“Las aventuras de Tadeo Jones”の監督です。しかし製作費も1250万ユーロと半端じゃない。他に観客が見ていた映画は何かというと、2014年の大当たり映画マルティネス=ラサロのコメディ“Ocho apellidos vascos”の続編Ocho apellidos catalanesアメナバルのスリラーRegresiónマリア・リポルのコメディAhora o nuncaなど、単独でいずれも5作品の合計より多い。 

 

 

             (“Atrapa la bandera”のポスター)

 

Ocho apellidos catalanes”の記事は、コチラ⇒2015129

Regresión”の記事は、 コチラ⇒20151月3

Ahora o nunca”の記事は、 コチラ⇒2015714

 

★というわけでマルティネス=ラサロとマリア・リポルの両方の主役、“Atrapa la bandera”のボイス出演のダニ・ロビラは憤懣やるかたない(連続して総合司会を務めることになっている)。「僕たちは批評家ではなく観客のために映画を作っている」と。昨年は“Ocho apellidos vascos”で新人賞を受賞、他に助演賞にカラ・エレハルデカルメン・マチが受賞した。しかし今年のノミネーションは「ゼロ」でした。バスク編は延べ1000万人を超える大ヒット作品でしたが、続編も公開1週間集計で180万弱と驚異的な数字を記録した。

 

 

           (ダニ・ロビラ、2015年ゴヤ賞ガラの総合司会者)

 

★しかし“Truman”のセスク・ゲイは、「そもそも映画賞の評価基準は観客動員数とは重ならない。別の側面から与えられるものなのです」と語る。オスカー賞だって同じですよね、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』も技術部門はあるが作品賞にはノミネートされていない。しかしヨーロッパ映画賞などのカテゴリーはなくてもいいかなと思う(廃止された時期がある)。出席者も殆どないし、“Mustang”(仏トルコ独)は授賞式には間に合わず3月公開だという。つまり映画祭上映だけで殆どの会員が見ていない映画をどうやって評価すればいいのだろうか。カテゴリーの入れ替えを含めて考え直す時期にきているということです。

 

           

                (セスク・ゲイ監督)

 

 大方の予想はガラの予定時間3時間は守られない!

 

★国民が未見の映画ではガラの視聴率も期待できない。昨年のオスカー賞受賞作品はアレハンドロ・G・イニャリトゥの『バードマン』だったが、最低の視聴率だった。なぜならみんな映画を見ていなかったからだ。だらだら続く受賞スピーチの制限時間を守って欲しい。仕事仲間への感謝の言葉はエチケットだが、両親、祖父母、兄弟、なかには子供たちにまで広げる受賞者がいる。いくら翌日仕事がない土曜日の夜でも、3時間半は超えないで欲しいというのが視聴者の願い。

 

ゴヤ賞2016結果発表 ⑰2016年02月07日 23:23

        下馬評通り“Truman”が大賞を独り占めしました

 


   (会長アントニオ・レシネス、副会長グラシア・ケレヘタと同エドモン・ロチ)

 

★今朝6時から授賞式にお付き合い、途中でくたびれたこともあって休息をとっている間に終わってしまいました。最多12個ノミネーションのパウラ・オルティスの“La novia”は、撮影賞・助演女優の2個にとどまり、やはりセスク・ゲイの“Truman”に完敗しました。作品・監督・脚本・主演男・助演男の5個、貰えなかったのは編集賞だけという効率の良さでした。海外勢は帰国するときは手ぶらが恒例でしたが、リカルド・ダリンが覆しました。しかし既にアルゼンチンの俳優という枠を超えていましたから抵抗なかったのでしょう。未だに相思相愛というリカルド夫人と一緒に来た甲斐がありました。

 

 

    (左から監督、マルタ・エステバン、リカルド・ダリン、トマス・アラガイ)

 

★フリオ・メデムの“Ma Ma”のヒロインペネロペ・クルス、アトリエ・ヴェルサーチの豪華なミラノ・ファッションを身にまとって、夫ハビエル・バルデムと赤絨毯を踏みました。残念ながら無冠に終わりました。海外での大成功を羨むスペイン人は、二人が米国暮らしであることも手伝って好意的とは言いがたい。何によらず国際的に活躍する人に対するアレルギー反応が強い。コロンビアのメデジン・カルテルの麻薬王パブロ・エスコバルの伝記映画Amando a Pablo, odiando a Escobarに揃って出ます。エスコバルの80年代の愛人、元ジャーナリストのビルヒニア・バジェッホの同名回想録(2007年刊)の映画化。バルデムがエスコバル、クルスが愛人ビルヒニアになります。“Un día perfecto”で脚色賞を受賞したフェルナンド・レオン・デ・アラノアが監督します。こちらはスペイン語で撮るようですからカテゴリー的にはスペイン映画ですかね。現在は「ポデモスPodemos」党についてのドキュメンタリーを撮っている由、次期アカデミー会長を目指しているとか。

 

 

            (ペネロペ・クルスとハビエル・バルデム)

 

★主演女優賞はフォルケ賞を受賞したナタリア・デ・モリーナの手に渡りました。「ゴヤ賞が欲しくない人なんていないでしょ」、そうですね。「ビノシュさんにお目にかかれて光栄でした」と興奮気味。ビノシュの出席は若い俳優には刺激になったようです。2014年に新人女優賞、今回主演とナタリアほど強運の人は珍しい。助演ルイサ・ガバサ、新人イレネ・エスコラルとほぼ予想は当たりました。 

     

               (ナタリア・デ・モリーナ)

 

    ノーベル賞作家と4人のオスカー賞受賞者が一堂に会しました

 

★ノーベル賞作家マリオ・バルガス=リョサが脚本賞のプレゼンターとして登場することはアナウンスされていましたが、本当に赤絨毯に現れたのでビックリでした。しっかり手を握っている女性はどなたかしら、もしかしてイサベル・プレイスラー。1951年フィリピンのマニラ生れ、テレビ司会者、ジャーナリスト、モデル。両方の国籍をもっている。二人はそれぞれ前の連れ合いと離婚して昨年結婚したばかり、同じ三婚目です。彼女の最初の夫は歌手のフリオ・イグレシアス、そんな歌手知らないという方、エンリケ・イグレシアスの父親といえば分かるでしょうか。つまりエンリケのお母さんです。とにかく華麗な人生を歩んでいる女性ですね。ノーベル賞の老作家もなかなかやりますね。二人ともアカデミー会員、新会長アントニオ・レシネスも負けず劣らずやりますね。

 

           

            (注目の的となったバルガス=リョサ御夫妻)

 

4人のオスカー賞受賞者の一人ジュリエット・ビノシュも約束通り来てくれました。スペインの映画祭ということでロエベの大胆な衣装で貫禄の登場でした。イサベル・コイシェの“Nadie quiere la noche”が4個受賞したのはちょっと意外、監督もさぞかし面目を施したことでしょう。間際まで来西がペンディングだったもう一人のオスカー俳優ティム・ロビンスもにこやかに登場、受賞はまったく期待していなかったのに律儀な人です。関係者はホッとしたかな。残りの二人はハビエル・バルデムとペネロペ・クルス夫妻です。

 

  

   (談笑するジュリエット・ビノシュ、ティム・ロビンス、ハビエル・カマラの三人)

  

        政治家の出席が多かったのは、どういうわけでしょう?

 

★ゴヤ賞は19873月17日、当時の国王フアン・カルロス1世御夫妻を招いて、マドリードのロペ・デ・ベガ劇場で開催されました。当時173人だったアカデミー会員も1400人にふくれ上がり一大イベントとなりました。現在は王室関係者の姿はありませんが、代わりに政治家の出席が目立ちました。混迷を深めている政治状況が背景にあるようです。国民党PPの教育文化スポーツ大臣のメンデス・デ・ビゴ、社会労働党PSOEの書記長ペドロ・サンチェス、ポデモス党首パブロ・イグレシアス、市民党シウダダノス党首アルベール・リベラ、つまりスペインの現在の4政党が招待されました。現政権のPPは別として、他の政党も招待したのは異例なのか、去年はPP だけだったというのは管理人の記憶違いかな。下の写真ではにこやかですが、実際は膝を蹴り合っています。三人の共通点はイケメンで若いことだけでしょうか。映画のフィエスタとはいえ、映画界も政治と無縁では成り立たない。

 

   

    (左から、パブロ・イグレシアス、ペドロ・サンチェス、アルベール・リベラ)

 

ゴヤ賞2016受賞者一覧

作品賞  “Truman”マルタ・エステバン(製作)

監督賞     セスク・ゲイ “Truman

新人監督賞  ダニエル・グスマン “A cambio de nada

脚本賞  セスク・ゲイ、トマス・アラガイ “Truman

脚色賞  フェルナンド・レオン・デ・アラノア “Un día perfecto

 

主演男優賞  リカルド・ダリン “Truman

主演女優賞  ナタリア・デ・モリーナ “Techo y comida

助演男優賞  ハビエル・カマラ “Truman

助演女優賞  ルイサ・ガバサ  La novia

新人男優賞  ミゲル・エラン “A cambio de nada

新人女優賞  イレネ・エスコラル  Un otoño sin Berlín

 

オリジナル作曲賞  ルーカス・ビダル “Nadie quiere la noche

オリジナル歌曲賞  ルーカス・ビダル、パブロ・アルボラン “Palmeras en la nieve

プロダクション賞  アンドレス・サンタナ、アルタ・ミロ “Nadie quiere la noche

撮影賞  ミゲル・アンヘル・アモエド  La novia

編集賞  ホルヘ・コイラ “El desconocido”『暴走車 ランナウェイ・カー』

美術賞  アントン・ラグナ “Palmeras en la nieve

 

衣装デザイン賞  クララ・ビルバオ Nadie quiere la noche

メイクアップ&ヘアー賞  パブロ・ペロナ、パコ・ロドリゲス“Nadie quiere la noche

録音賞  ダビ・マチャード、ハイメ・フェルナンデス、ナチョ・アレナス“El desconocido

特殊効果賞  リュイス・カステル、リュイス・リベラ“Anacleto, agente secreto

       『SPY TIME スパイ・タイム』

 

アニメーション賞  “Atrapa la bandera”エンリケ・ガト 

ドキュメンタリー賞  “Sueños de sal”アレフレッド・ナバロ 

イベロアメリカ映画賞  El clan”(アルゼンチン)パブロ・トラペロ 

ヨーロッパ映画賞  “Mustang”(トルコ=仏=独)Deniz Gamze Erguven

 

短編映画賞  “El corredor ホセ・ルイス・モンテシノス

短編アニメーション賞  “Alike D・マルティネス・ララ、R・カノ・メンデス

短編ドキュメンタリー賞  “Hijos de la Tierra アレックス・オミル・ツバウ

 

   

                 (栄誉賞受賞のマリアノ・オソレス

 

  

       (オリジナル歌曲賞のルーカス・ビダルとパブロ・アルボラン)

 

          

           (新人監督賞のダニエル・グスマン)

 

           

            (新人男優賞のミゲル・エラン)

    

 20141月に結党したスペインの政党(左翼大衆主義、反体制主義)、英語の「We can」に当たる。党首はパブロ・イグレシアス、ガラにも出席していました。市民党シウダダノスはカタルーニャ州を中心に活動している中道左派の政党、20056月結党。党首はアルベール・リベラ。

 

 

視聴率を更新して終了いたしました*ゴヤ賞20162016年02月12日 17:03

              視聴率25.8%は2011年以来の高視聴率

 

 

 (香水専門店PARFUMSと高級靴磨きメーカーSAPHIRの広告がある赤絨毯、26日開場前)

 

A: 2010年の26.4%以来低迷していた視聴率を昨年やっと24.7%に回復させ、今回はそれを上回りました。上出来だったと新会長アントニオ・レシネスと司会者ダニ・ロビラを褒めたいところですが、そう簡単な話ではないらしい。放映中からツイッターが大賑わい、ロビラに対する批判、非難の石礫、失望落胆したはいいとして、中には侮辱的な内容もあって、翌日には「私にとって総合司会をしたことはなんの価値もないこと」と逆ツイートする始末。

B: 2010年はモンソンの『プリズン211』が受賞した年、その頃はツイッターも今ほどではなかったのでしょう。失業率は若干回復したとはいえ、長引く失業に不満のはけ口を求めていた若者が多かったのでしょうか。消費税IVA21%を非難するシネアストたちに共感するも、そのきらびやかなセレブたちへの反感も見え隠れしているようです。

 

      

           (毀誉褒貶入り混じった総合司会者ダニ・ロビラ)

 

A: 昨年はアルモドバルが教え子バンデラスに栄誉賞を手渡すというサプライズ、空前のヒット作サンチェス=ラサロの Ocho apellidos vascos”がノミネーションを受けるなど盛り沢山だった。スペイン人の4人に1人が見たというコメディ、主役のダニ・ロビラが新人賞、共演者のカラ・エレハルデとカルメン・マチがそれぞれ助演賞を受賞した。

B: 自分が見た映画がノミネートされていれば結果が気になりますよ。視聴率も映画次第です。

A: 今回2度めの司会を仰せつかったのも昨年の実績あればこそでしたが、“Ocho apellidos vascos”の続編カタルーニャ編は好成績だったがノミネートされなかった。

 

        今年のハイライトはマリオ・バルガス=リョサ?

 

B: 今回ほど脚本賞・脚色賞にライトが当たった年はないでしょう。なにしろノーベル賞作家バルガス=リョサがプレゼンターでしたから。

A: それも新婚ホヤホヤのカップル、新夫人も話題のセレブとくれば、ゴシップ好きにはたまらない。老作家曰く「映画は始めに脚本家ありき」とか。これは過去の話、今は「製作会社ありき」ではないでしょうか。

 

B: 若者が脚本家チェザレ・ザバッティーニ(190289)に憧れて、映画の都チネチッタを目指した頃の話ですね。

A: 1950年代にその映画実験センターで学んだ若者にガルシア・マルケスやトマス・グティエレス・アレアなどがいました。マルケスは作家に転身してノーベル賞作家になり、アレアはキューバを代表する大監督になりました。

B: 最近は監督が脚本を執筆することが多くなっており、セスク・ゲイも両手に花でした。台本ホンがよくないと話しにならないのは今も昔も変わりません。

A: スペインでは2008年に亡くなったラファエル・アスコナあたりが、監督に手を出さなかった最後の人でしょうか。ゴヤ賞脚本家賞のレプリカのコレクターでもありました。脚本のセスク・ゲイ、脚色のフェルナンド・レオン・デ・アラノアがノーベル賞作家からゴヤ胸像を手渡されました。

 

      

            (セスク・ゲイとマリオ・バルガス=リョサ)

 

    

  

(フェルナンド・レオン・デ・アラノアとマリオ・バルガス=リョサ)

 

          一番の名演技は犬のトルーマンTruman

 

B: “Truman”以外は沈黙してしまった今年のゴヤ賞、最多ノミネーション12個の“La novia”関係者の落胆は理解できますね。インマ・クエスタが主演を取るかと思っていましたが。

A: 最近ではフェルナンド・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』が13個ノミネーションでゼロという例がありました。ルイサ・ガバサ助演女優賞、ミゲル・アンヘル・アモエド撮影賞と受賞できてゼロではなかった。特に女優陣の演技が光っていたというのが総評のようでした。

B: ロルカの『血の婚礼』は、劇場で見た印象が強いから却ってマイナスに作用したのかもしれない。

 

       

               (助演女優賞のルイサ・ガバサ)

 

A: “Truman”の主役は間もなく死を迎えるという瀕死の人、これはかなり厳しく辛い物語です。しかしシニカルだが信じられないほど知的で、痛々しいけれど気品があり、人生に「アディオス」することが決定的な男を演じたリカルド・ダリンの手に主演男優賞が手渡された。ダリンのような魅力的な役者がそんなにいるとは思えません。

B: 文句なしの助演男優賞だったハビエル・カマラ、常に融通無碍、薄くてつやがあるキャラコ布地のような役者、求められる色模様に染まることができる。そういう俳優はたくさんいるけれど、彼は別格だと思います。

 

A: この役は彼をおいて他に誰も演じられないと思わせてしまう。それに口はきけないけれど、そこにいるだけで観客を魅了したのが犬のトルーマンでした。撮影後に亡くなりダリンに1週間も涙を流させた。これは是非どこかて公開して欲しい。

 

        

              (主演男優賞リカルド・ダリン)

 

   

 

      (助演男優賞ハビエル・カマラ)

 

      出席者の涙腺をゆるませた新人監督賞ダニエル・グスマン

 

B: 祖母アントニアをエスコートして赤絨毯に現れたダニエル・グスマン監督、下馬評通りレプリカを手にしました。アントニアお祖母さんは残念でしたが。

A: 4月開催のマラガ映画祭は、ゴヤ賞まで時間があいて不利なことが多い。時間のスピードが早くて記憶していられない。下町独特の会話が評価されていましたが、その誠実な映画作りが好感されたのだと思います。

 

        

              (新人監督賞ダニエル・グスマン)

 

B: テーマ的に今回脚色賞を受賞したフェルナンド・レオン・デ・アラノアが撮ったBarrio1998)を思い起こした人が多かったようです。

A: 彼は本作で新人監督賞と脚本賞を受賞した。他にアチェロ・マニャスEl Bola2000)も忘れられない。作品賞・脚本賞・新人監督賞を受賞、こちらはフォルケ賞も受賞した作品でした。当時12歳だったフアン・ホセ・バジェスタの名子役ぶりが目に焼きついています。

B: 子供ながら新人男優賞を受賞したのでした。『キャロルの初恋』、『7人のバージン』(サンセバスチャン映画祭2005銀貝男優賞)、最近テレビ主演が多いのか、映画賞からは遠ざかっています。

 

A: そろそろ幕を下ろしましょうか。アルモドバルの新作“Julietaが、若干後ろへずれ込みましたが、48日に封切られます。前の“Silencio”を改題したのは、スコセッシの「沈黙」との混同を避けるため、邦題はどうなるのでしょうか。

B: 昨年夏公開が大幅に遅れたカルロス・ベルムト『マジカル・ガール』がやっと公開されます

A 「もんどり打つ面白さ!」とチラシにありますが、はてさて、そんな映画だったかしらん。とにかく待ちくたびれました。

 

アルモドバルの新作“Julieta”の主な記事は、コチラ⇒2015451121

ベルムトの『マジカル・ガール』の記事は、コチラ⇒20149162015121

312日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEM2


『マジカル・ガール』がやっと公開*カルロス・ベルムト2016年02月15日 13:42

        マンガ・オタクが撮ったフィルム・ノワール

 

★前回「待ちくたびれました」と書いたカルロス・ベルムト『マジカル・ガール』の劇場公開が1カ月をきりました。既に試写会で見たブロガーのネタバレ記事まであって、「ただで見て、それはないよ」です。映画祭上映こそ枚挙に暇がないが劇場公開は数カ国、日本はその数少ないうちの一つ、殆どが原題を使用しているがフランスでは“La niña de fuego”のタイトルで公開された。昨年ゴヤ賞ノミネーションの1月段階では製作費が半分も回収できていなかったが、次回作のためにも日本公開が少しでも寄与してくれることを願いたい(日本で新作を撮る噂あり)。

 

           

                (カルロス・ベルムト監督)

 

★原タイトルMagical Girlはサンセバスチャンの金貝賞・監督賞受賞作品でしたが、ゴヤ賞はバルバラ・レニーの主演女優賞1個でした。話題作ではあったがわざわざ映画館に足を運んで見る映画ではないと考えた観客が多かったということです。サンセバスチャンでも作品賞と監督賞をダブらせない方針を崩してまで両賞を受賞させたことに憤慨する向きもあり、それは製作者、監督とも承知のことだったと思います。スリラー好きなスペイン人でも二の足を踏んだようでした。2014年は空前のヒット作“Ocho apellidos vascos”、『エル・ニーニョ』や『マーシュランド』などに観客が押し寄せたことも原因かと思います。ヒロインのバルバラ・レニーのプロフィール、成功までの軌跡、作品データについては、既に詳しく記事にしております(コチラ⇒2015121同年327)。その他、日本公開公式サイトをご覧ください。

 

   

   (受賞スピーチをするバルバラ・レニー、背後はプレゼンターのフアン・ディエゴ)

 

★以下のフィルモグラフィーから分かるように脇役が多い。しかし傾向の異なる監督からオファーを受けており、歴史物からシリアス・ドラマ、コメディまでこなせるマルチ俳優である。アルモドバルの『私が、生きる肌』のチョイ役で合格点を貰ったようだが、新作“Julieta”のヒロイン起用は噂におわった。コメディTodas las canciones hablan de mí”の監督ナス・トゥルエバ(1981マドリード、フェルナンド・トゥルエバの長男)と恋人同士だった。他にも噂はあったが現在は『マジカル・ガール』で共演したイスラエル・エレハルデが新恋人、昨年ゴールインしたようです。演劇との二足の草鞋派であるカップルは Misántropo”やパスカル・ランバートの“La clausura del amor”の舞台に共に立っている。後者は「愛の関係を終わらせるためのレシピ」がテーマとか。演技の基礎を舞台で磨いている人が多いヨーロッパの俳優は、映画と演劇の両方を手放さない。アニマラリオAnimalario1996設立)というマドリードに本拠をおく演劇集団のメンバー、アルベルト・サン・フアン、同じアルゼンチン出身のエルネスト・アウテリオなどが所属している。

 

  

        (レニーとエレハルデ、舞台La clausura del amor”から

 

 

主なフィルモグラフィー

2001Más pena que gloria ビクトル・ガルシア・レオン

2005Obaba”モンチョ・アルメンダリス、ルルデス役でゴヤ賞2006新人女優賞ノミネート。

2007Las 13 rosas”エミリオ・マルティネス≂ラサロ (スペイン内戦がテーマ)

2008Todos los días son tuyosホセ・ルイス・グティエレス・アリアス

2009Los condenadosイサキ・ラクエスタサン・ジョルディ映画賞で女優賞

2010Todas las canciones hablan de mí”ホナス・トゥルエバコメディ

2011La piel que habitoペドロ・アルモドバル『私が、生きる肌』の邦題で2012公開

2012Dictado”アントニオ・チャバリアス(『フリア、よみがえりの少女』の邦題で2012公開

2012Miel de naranjas”イマノル・ウリベ

2014Stella cadente リュイス・ミニャロ(サンセバスチャン「メイド・イン・スペイン」)

2014El Niño”ダニエル・モンソン(『エル・ニーニョ』の邦題でラテンビート2014上映)

ゴヤ賞助演女優賞ノミネーション

2014Magical Girlカルロス・ベルムト、サンセバスチャン映画祭2014金貝賞・監督賞ゴヤ賞主演女優賞フォルケ賞女優賞シネマ・ライターズ・サークル賞主演女優賞などを受賞(『マジカル・ガール』の邦題で2016年公開)

2014Murieron por encima de sus posibilidades イサキ・ラクエスタコメディ

2015El apóstata”フェデリコ・ベイロフ(ウルグアイ=西=仏)コメディ

2016María (y los demás”ネリー・レゲラ

2016Oro”アグスティン・ディアス・ヤネス

2016Las furias”ミゲル・デル・アルコ

2016Contratiempo”オリオル・パウロ

 

★“El apóstata”はスペインでは未公開、後は製作中です。殆どが主役ですから2015年はハードな1年だったことがわかります。El apóstataのフェデリコ・ベイロフ監督はウルグアイ出身、トロント映画祭でワールド・プレミア、サンセバスチャン映画祭で国際映画批評家連盟FIPRESCI賞、審査員スペシャル・メンションを受賞している。本作には最近映画を撮っていない『カマロン』の監督ハイメ・チャバリが神父役で出演している。アルモドバルの『マタドール』にも司祭役で出ていたが、風貌がぴったりです。国際的な映画祭には招待されるがスペインは未公開、故郷ウルグアイで10月公開されている。

 

★久しぶりにメガホンをとったアグスティン・ディアス・ヤネスのOroには、オスカル・ハエナダやラウル・アレバロが共演している。まだ詳細は分からないが長編デビュー作『死んでしまったら私のことなんか誰も話さない』、『ウエルカム!ヘヴン』、『アラトリステ』、『4人の女』の監督、個人的にはかなり期待している。『アラトリステ』の原作者ペレス・レベルテの短編の映画化です。デビュー作でゴヤ賞1996の新人監督賞・脚本賞を受賞している。ビクトリア・アブリル、フェデリコ・ルッピ、ピラール・バルデムなどベテラン俳優の演技も素晴らしかった。

 

★新人監督ミゲル・デル・アルコのLas furiasには、『マジカル・ガール』のホセ・サクリスタン、アルモドバル新作のJulieta”のヒロイン、エンマ・スアレス、Ocho apellidos vascos”のカルメン・マチ、アルベルト・サン・フアンがクレジットされている。『ロスト・ボデイ』のオリオル・パウロのContratiempoには、マリオ・カサス、ホセ・コロナドが共演、どうやって時間を作っているのか凄まじいスケジュールです。これからの映画をあれこれご紹介しましたが、どれが日本の劇場まで辿り着けるかしらね。

 

           涙は何処からうまれるのか

 

★少女時代はアルゼンチン訛りのせいでイジメにあって涙を流していたバルバラ、今は演技者として嬉し泣き、悔し泣きの涙を流さなければならない。下の写真はカメラマンの求めにしたがって完成したもの。「バルバラ、カメラの方を見て、顎を少し上げて、そうそういいね。じゃ唇を心もち開けて、髪に片手を入れてみて。とてもいい、顔を左に向けて、いいやそれでは向けすぎだよ、バルバラ。ああいいね、じゃ、泣けるかな・・」。こうして出来上がった写真です。涙を流すことができたかって?  

  

        (謎めいた美しさは何処からうまれるのか、バルバラ・レニー)

 

アルモドバル新作”Julieta”*女性ドラマに回帰2016年02月19日 17:54

    短いながら公式の予告編がアップされました

            

    

               (二人のフリエタ、ポスター)

 

★スペイン公開は予定より3週間遅れの48とアナウンスされました。途中でタイトルが“Silencio”から“Julieta”に変更されるなどのアクシデントもありましたが、いよいよ公開です。アルモドバルの第20作目となる本作は、1985年と2015年をつなぐ女性の人生が語られます。ヒロインのフリエタを二人の女優が演じます。その一人エンマ・スアレスをゴヤ賞ノミネーションのプレゼンターに送り込むなど準備万端、アルモドバル・アレルギーの辛口批評が楽しみです。最近ではコラムニストだけでなく覆面ツイッターも無視できなくなりました。ゴヤ賞授賞式の総合司会者ダニ・ロビラが血祭りにあげられたばかりです。ダビ・トゥルエバやホルヘ・サンスが「よくやったよ、ダニ」と援護射撃をしていましたが、空恐ろしい世の中になりました。トゥルエバが「君のために言うけど、ツイッターは見るな」と賢い助言をしていました。今年も200分の長時間、並の知力や体力では引き受けられません。

 

       Julieta” 2016

製作:エル・デセオ

監督・脚本・製作者:ペドロ・アルモドバル

製作者:アグスティン・アルモドバル、エステル・ガルシア

音楽:アルベルト・イグレシアス

撮影:ジャン=クロード・ラリュー

編集:ホセ・サルセド

プロダクション・デザイン:antxonアンチョン・ゴメス

美術:カルロス・ボデロン

衣装デザイン:ソニア・グランデ

メイクアップ:アナ・ロペス=プイグセルベル、マリア・マヌエラ・クルス

プロダクション・マネージメント:トニ・ノベリャ

録音:ホセ・ルイス・フェルナンデス、ミゲル・バルボサ、他

視覚効果:ネストル・キンタナ、ラモン・ラモス、他

 

データ:スペイン、スペイン語、“Silencio”を改題、2016年、撮影地:マドリード、リアス・アルタス(ア・コルーニャ)、ラ・カンピーニャ・デ・セビーリャ、ラ・シエラ・デ・ウエルバ、ピレネー(アラゴン)など。配給ソニー・ピクチャーズ・クラシックス、公開:スペイン48日、ポルトガル421日、メキシコ56日、フランス518日、イギリス826日が予定されている。

 

キャスト紹介

エンマ・スアレス2015年、現代を生きる円熟期のフリエタ)

アドリアナ・ウガルテ1985年の若いフリエタ)

ミシェル・ジェンナー(子供時代の友達、現在モード雑誌の編集者ベア)

サラ・ヒメネス(若い頃のベア)

ロッシ・デ・パルマ(無愛想で気の強い使用人)

スシ・サンチェス(フリエタの母)

ホアキン・ノタリオ(フリエタの父)

インマ・クエスタ(ショアンの愛人、フリエタの友人、彫刻家)

ダリオ・グランディネッティ(円熟期のフリエタの恋人ロレンソ)

ナタリエ・ポサ(妥協しないモラルを重んじる女性)

ダニエル・グラオ(フリエタの夫ショアン、ガリシアの漁師)

プリスシリャ・デルガド(フリエタとショアンの娘アンティア)

ブランカ・パレス(成人したアンティア)

ピラール・カストロ(旅の途中に偶然出会った道連れ)

マリア・メラ、他

 

                   

                                           (エンマ・スアレスとミシェル・ジェンナー)

 

解説2015年マドリード、フリエタは解決の糸口が見えない喪失の痛みを抱えて暮らしていた。彼女が一番幸せであった1980年代、ガリシアの漁師とのあいだに生まれた小さい娘アンティア、しかし幸せは思いがけない悲劇的な結末を迎える。大切な人々の愛を諦めて生きるフリエタ、奇跡しかフリエタを救えない、しかし奇跡も時には起きるのである。狂気の瀬戸際にいるフリエタは、どうやって痛みを乗り越えていくのだろうか。「沈黙」を守ることが彼女の引きずっている不幸の源なのか、運命に翻弄されて彷徨するフリエタ、罪の複雑さ、はかりしれない秘密をめぐる物語。                                 (文責:管理人)

 

        3年ぶりの新作、日本公開は2017年でしょうか

 

100秒足らずの予告編を見るかぎりプロットの詳細はまだ推測の域を出ない。出演者がロッシ・デ・パルマしかアナウンスされていなかった時からご紹介してきました。最近では失望させられることが多かったアルモドバル作品の第20作目、女性メロドラマ回帰とはいえ、いわゆるアルモドバル学校の生徒さん総出演ではないことに期待してのご紹介でした。サプライズはあるのかないのか。もともとプロットの新鮮さで勝負する監督ではないのでそれは問わないことにします。ロケ地に北スペインを選んでいることに興味が惹かれます。ピレネー山脈、ガリシアの海は殊のほか美しいが、ヒロインが訪れる場所だそうです。

 

      

               (最近のペドロ・アルモドバル)

 

★以下は当ブログで未紹介、プロット上、重要と思われる出演者のキャリア紹介です。

ダニエル・グラオ1976年バルセロナ生れ、ギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの“Palmeras en la nieves”ではアドリアナ・ウガルテと共演している。

ブランカ・パレス1991年生れ、2011年テレビ・ドラマでデビュー、ルベン・ドス・サントスの“Pasion criminal ”(2015)で映画デビュー、本作が2作目。

プリスシリャ・デルガド2002年、プエルトリコのサンフアン生れ、2009年テレビでデビュー、『スガラムルディの魔女』にエキストラ出演、ラモン・テルメンスの“The Evil That Men Do”(2015、製作はスペイン、言語は英語)でメキシカン・カルテルのボスの娘役で出演、対立カルテルから誘拐される。本作が2作目。

 

★既に当ブログで折りにふれご紹介してきたキャストは以下の通りです。

エンマ・スアレスコチラ⇒201545

アドリアナ・ウガルテコチラ⇒201545

ロッシ・デ・パルマ:キャリア紹介と「アルモドバル新作発表」の記事をアップしております。

コチラ⇒2015315

 

    

             (気難しい使用人、ロッシ・デ・パルマ)

 

インマ・クエスタ 1980年バレンシア生れ。舞台出身、2006年テレドラ出演、映画デビューはシリーズ・テレドラ“Aguila Roja”(2011)の映画化に出演、ダニエル・サンチェス・アレバロ『マルティナの住む街』、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』他、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー・ミッション』、ハビエル・ルイス・カルデラのコメディ“Tres bodas de más”、最新作はフェロス賞2016主演女優賞受賞、ゴヤ賞2016主演女優賞ノミネーションのパウラ・オルティスの“La novia”など、コメディもこなせる実力派。

La novia”の記事は、コチラ⇒201615

 

      

          (フリエタの誠実で不実な女友達、インマ・クエスタ)

 

スシ・サンチェス1955年バレンシア生れ、大柄で主役には恵まれないが、映画、演劇、テレビと活躍の場は広い。公開作品ではベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』、ビセンテ・アランダの『女王フアナ』のイサベル女王役、同監督の『カルメン』、ラモン・サラサールの『靴に恋して』。アルモドバルの『私が、生きる肌』と『アイム・ソー・エキサイテッド』は本作と同じ母親役だった。ラモン・サラサールの最新作“10.000 noches en ninguna parte”でアルコール中毒の母親を演じて、ゴヤ賞2014助演女優賞にノミネーションされた。クラウディア・リョサの『悲しみのミルク』にヒロインのマガリ・ソリエルを家政婦として雇うピアニスト役、これは主役級に近かった。

『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』の記事は、コチラ⇒201559

    

      

            (母親役のスシ・サンチェスとフリエタのアドリアナ・ウガルテ)

 

ダリオ・グランディネッティ1959年アルゼンチンのサンタフェ生れ。アルモドバル作品では『トーク・トゥ・ハー』に出演、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』の第1話など。『人生スイッチ』の劇場公開に合わせた記事で若干載せておりますが、公式サイトにキャリア紹介があります。

『人生スイッチ』の記事は、コチラ⇒2015729

 

ナタリエ・ポサ 1972年マドリード生れ。テレビ界で活躍の後El otro lado de la cama”(2002で映画デビュー、マヌエル・マルティン・クエンカの“La flaquesa del bolchevique”に出演。ゴヤ賞はダビ・セラノの“Días de fútbol”(2003)で助演女優賞、マヌエル・マルティン・クエンカの“Malas temporadas”(2005)で主演女優賞、マリアノ・バロソの“Todas las mujeres”(2013)で助演女優賞にノミネートされている実力派。守りに入らない女優です。以上はマルティン・クエンカの“Malas temporadas”(邦題『不遇』は仮題)で紹介した記事を再構成したものです。

『不遇』の記事は、コチラ⇒201461172

 

     

             (ナタリエ・ポサとエンマ・スアレス)

 

タイトル変更の記事は、コチラ⇒20151121

 

★スペイン公開後の記事がアップされたら再登場させます。


期待のスペイン映画2016のリスト ①2016年02月21日 18:26

             素晴らしい年になることを願って

 

★前回、アルモドバルの新作“Julieta”公開の記事をアップしましたが、エコヒイキなく他の監督作品もご紹介したい。2016年公開作品だけでなく、今年クランクインする作品も含めます。リストの中には既に関連記事として題名や監督名、キャスト名をご紹介しているものもあります。劇場公開、映画祭上映、DVD発売など、かつて日本語字幕で鑑賞できた監督中心のリストです。つまり日本公開が期待できるもの、公開してほしいものを選んでいます。(順不同)

 

ペドロ・アルモドバル Julieta”(48日公開)、紹介記事は、コチラ⇒2016年0218

 

フェルナンド・レオン・デ・アラノア Podemos”、IMDbはアップされていないが、2014117日設立の政党「ポデモス」についてのドキュメンタリー、政党のポジションは左派。現在国民党PP、社会労働党PSOEに続く第3党、ソーシャルネットを利用する若い層の支持者が増加中。党首はパブロ・イグレシアス、1978年マドリード生れの37歳、マドリードのコンプルテンセ大学政治科学の博士号取得。監督談によると、「政党キャンペーン映画ではない」ということです。エイミー・ライス&アリシア・サムズのドキュメンタリー『バラク・オバマ 大統領への軌跡』(2009WOWOW放映)に近い作品のようです。公開は厳しいと思いますが、スペインは昨年12月の総選挙後、PPPSOEも過半数に及ばなかったので未だに組閣できないでいます。どこかと連立を組むしかないのですが、2カ月の期限が目前、そうすると再選挙になります。PSOEとポデモスも隔たりがあって組閣は難航しています。

ゴヤ賞2016授賞式の記事紹介は、コチラ⇒20162月7日

 

           

               (党首パブロ・イグレシアス)

 

アルベルト・ロドリゲスEl hombre de las mil caras”(923日公開、スリラー)。『マーシュランド』の監督、キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(パエサ役)、カルロス・サントス(ロルダン役)、ホセ・コロナド(ヘスス・カモエス)、マルタ・エトゥラ(ロルダン妻)。スペイン秘密諜報員フランシスコ・パエサと治安警備隊長ルイス・ロルダンの関係をめぐる実話物。いわゆる1994年の「ロルダン事件」(147万ユーロの横領事件)にテーマを絞っているようです。パエサは偽の死亡説を流して生き延び、現在パリに在住、ロルダンは1995年禁錮31年の刑で服役したが15年に減刑され、2010年出所した。いずれ作品紹介を予定しています。

 

       

          (中央がロルダン役のカルロス・サントス 映画から)

 

        

           (スペイン秘密諜報員フランシスコ・パエサ本人)

 

アレックス・デ・ラ・イグレシアEl bar”(今秋公開、コメディ・スリラー)。早撮りで有名な監督だから、まだ撮影中なのに秋公開が決定しています。今作もデ・ラ・イグレシア映画お馴染みの顔ぶれ、マリオ・カサス、ブランカ・スアレス、テレレ・パベス、セクン・デ・ラ・ロサ、カロリナ・バングの他に、ホセ・サクリスタン、カルメン・マチなども出演している。コアなファンをもっている監督ゆえ映画祭上映、劇場公開は期待していいでしょう。

 

     

         (監督とマリオ・カサス、カルメン・マチなどの出演者)

 

イシアル・ボリャインEl olivo”(56日公開、コメディ)。脚本は『ザ・ウォーター・ウォー』と同じポール・ラヴァティ、キャスト:ハビエル・グティエレス(アルマの叔父)、アナ・カスティージョ(アルマ)、ニコライ・ウィル、マヌエル・クカラ、フアンマ・ララ、他。アルマは数年前から口を利かなくなった祖父をとても愛していた。遂に食事を摂らなくなったとき、かつて家族が売ってしまった樹齢千年のオリーブの木を取り戻そうと決心する・・・。

 

        

             (アルマと祖父、オリーブの木の下で)

 

       

         (イシアル・ボリャイン監督とハビエル・グティエレス)

 

フアン・アントニオ・バヨナUn monstruo viene a verme”(107日、米国=スペイン合作、英語、『怪物はささやく』仮題)。既に記事をアップしております。

コチラ⇒20143月17121320151126

  

      

           (イチイの大木を見上げるコナー少年、映画から)

 

ダニエル・カルパルソロ “Cien años de perdón”(34日公開、アルゼンチン=西=仏合作、犯罪サスペンス)。『インベーダー・ミッション』の監督、脚本ホルヘ・ゲリカエチェバリア、キャスト:ルイス・トサール(エル・ガジェーゴ)、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ(エル・ウルグアージョ)、ラウル・アレバロ、ホセ・コロナド、マリアン・アルバレス、妻のパトリシア・ビコ、他。ある雨の朝、武装した6人の男たちがバレンシアの銀行本部に侵入した・・・。これは公開が期待できるでしょうか。

 

         

               (出演者を配したポスター)

 

★来年あたり、日本で公開できそうな作品を選びました。J. A. バヨナ以外はスペイン語映画です。秋公開が多いのは、サンセバスチャン、シッチェス、バジャドリードなどの映画祭を意識しているせいかと思います。アルベルト・ロドリゲスの新作は1980年代から90年代後半を背景にしている。スペイン現代史の中でも、特に激動の時代でした。生存している実在のスパイや政治家が登場するので興味がわきます。フランスの監督ミゲル・クルトワがスペイン語で撮った政界、司法界、警察を巻き込んでの一大スキャンダルをテーマにしたGAL2006)と時代が重なります。ルイス・ロルダンもスクリーンには顔を出しませんが名前が出てきます。そんなに昔の話ではないですね。

 

期待できるスペイン映画2016 ②2016年02月24日 11:51

            パコ・レオンの第3作めはロマンチック・コメディ

 

★続編として当ブログには登場しているが日本ではあまり馴染みのない監督パコ・レオン、俳優と監督を両立させながら独自のポリシーで映画作りをしている。将来的にはスペイン映画の中核になるだろうと予想しています。もう一人がオスカル・サントス、1972年ビルバオ生れのバスクの監督、少し強面ですが両人ともイケメンの範疇に入りますでしょうか。今年話題をさらいそうなエンターテインメント作品のご紹介です。

 

パコ・レオンKiki, el amor se hace41日、コメディ)、パコ・レオンの3作目、監督・脚本・俳優と3役をこなす。共同脚本フェルナンド・ペレス、他、撮影キコ・デ・ラ・リカ、編集アルベルト・デ・トロ。出演はゴヤ賞2016主演女優賞のナタリア・デ・モリーナとアレックス・ガルシアを中心に、5つの異なった愛が錯綜する「機知に富んだロマンチック」コメディ。他にカンデラ・ペーニャ、ルイス・カジェホ、ルイス・ベルメホ(『マジカル・ガール』)、アレクサンドラ・ヒメネス、マリ・パス・サヤゴ、フェルナンド・ソト、他。アレクサンドラ・ヒメネスはフアナ・マシアスの新作コメディEmbarazados129日公開)にレオン監督と夫婦役を演じた。また監督はホアキン・オリストレルの寓話『地中海式 人生のレシピ』(09)にも出演していましたね。未公開ですが監督デビュー作Carmina y revientaがなんといっても痛快でした。

  

○パコ・レオンの主な紹介記事は、コチラ⇒20144132015319

○フアナ・マシアスの“Embarazados”の紹介記事は、コチラ⇒20141227

 

 

 
(出演者を配したポスター、クマ、ワニ、ライオンなど描かれているのは各々の愛のかたちか)

 

 

 

(左から、C・ペーニャ、レオン監督、ナタリア・デ・モリーナ、L・カジェホ、A・ヒメネス)

 

 

★オスカル・サントス“Zipi y Zape y la isla del Capitán2016年、アドベンチャー)。前作“Zipi y Zape y el club de la canica”(13)の続編、トロント映画祭で上映された話題作。双子のジッピとザッペ兄弟の冒険物語。脚本ホセ・エスコバル、ホルヘ・ララ、オスカル・サントス、音楽は前回と同じフェルナンド・ベラスケスが担当。ジッピとザッペ兄弟は別の子役たちが演じている。珍しいのはエレナ・アナヤが出演していることです。サントス監督は『命の相続人』10、“El mal ajeno”)がラテンビートで上映されているだけと思います。

Zipi y Zape y el club de la canica”の紹介記事は、コチラ⇒2013914

 

 

(ポスターを背景に監督やエレナ・アナヤを取り囲んだ出演者たち)

  

期待できるスペイン映画2016 ③2016年02月26日 15:00

         2016年に長編映画デビューを果たした監督

 

★アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』に出演していたラウル・アレバロ1990年代にマヌエル・ゴメス・ペレイラの『電話でアモーレ』(95)、イマノル・ウリベの『ブワナ』(95)や“Plenilunio”(99)に出演していたミゲル・デル・アルコが監督デビューしました。初監督とはいえ、彼は今世紀に入ってからは脚本家として、または舞台演出家としても活躍している。

 

            

                (“Las furias”のポスター)

 

ミゲル・デル・アルコLas furias”(2016年の後半)、脚本ミゲル・デル・アルコ、製作Aqui y Alli Films / Kamikaze Producciones / TVE、撮影2015810日マドリードでクランクイン(2週間)、のちカンタブリアに移動した(4週間)。

キャスト:バルバラ・レニー、ホセ・サクリスタン、カルメン・マチ、メルセデス・サンピエトロ、エンマ・スアレス、ゴンサロ・デ・カストロ、アルベルト・サン・フアン、エリザベト・ヘラベルト、他。

ストーリー:70歳代のオルガ(サンピエトロ)は、海沿いの避暑地にある別荘を売るつもりだと3人の子供に告げた。ついては各自欲しい家具調度や思い出の品があれば選ぶように言い渡す。長男エクトル(ゴンサロ・デ・カストロ)は、売却前の最後の1週間を家族みんなで楽しむことを提案する。既に15年以上連れ添っている女性との婚礼もここで挙げたい。家族は思い思いに1週間を過ごすことになるだろう、ありふれた家族の集りが描かれるのだが・・・

 

            

               (カンタブリア海での撮影風景)

 

ミゲル・デル・アルコ1965年マドリード生れ、監督、脚本家、俳優、舞台演出家。舞台監督としてはシェクスピア、ゴーリキーの戯曲、スタインベックの小説の翻案劇を手掛けている。前述したように俳優として出発、脚本家、TVシリーズ、舞台演出などのかたわら、短編を撮る。今回50歳にして長編映画デビュー。豪華なキャスト陣からも分かるようにスペインでの評価は高い(バルバラ・レニー、ゴヤ賞2015主演女優賞、カルメン・マチ助演女優賞、ホセ・サクリスタン、2013主演男優賞)。演劇と映画の二足の草鞋派の俳優が多いのもキャリアから推して頷ける。

★本作については、最近ご紹介した『マジカル・ガール』のなかで、バルバラ・レニーやホセ・サクリスタンが出演する映画としてアップしております(コチラ⇒2016215)。

 

 

               (ミゲル・デル・アルコ監督)

 

   

             

     

ラウル・アレバロTarde para la ira”(2016年、スリラー)、共同脚本ダビ・プリド。製作者ベアトリス・ボデガス、セルヒオ・ディアス、撮影アルナウ・バルス・コロメル。予算120万ユーロ。ラウル・アレバロは脚本執筆に7年の年月をかけたが、撮影に6週間しかかけられなかったのはクレージーと嘆いている。マドリードとセゴビアのマルティン・ムニョス・デ・ラス・ポサダスというアレバロが育った町で撮影された。町の人々がエキストラとして協力しており、主人公の一人ルイス・カジェホはセゴビア出身。昨年7月マドリードでクランクインした。

キャストルイス・カジェホ(クーロ)、アントニオ・デ・ラ・トーレ(ホセ)、ルス・ディアス(アナ)、アリシア・ルビオ(カルメン)、マノロ・ソト、ラウル・ヒメネス、フォント・ガルシア、他

ストーリー:クーロとホセの物語、クーロには暗い大きな秘密の過去があった。最近刑務所から出所したばかりであり、過去の亡霊にとり憑かれている。アナと一緒に人生をやり直そうと思っているが、見知らぬ男ホセと出逢うことで歯車が狂ってくる。復讐と人間に潜んでいる暴力が語られるだろう。まだ詳細が見えてこないが、ルイス・カジェホとアントニオ・デ・ラ・トーレが主役とくれば期待したくなります。監督と俳優が互いに知りすぎているのは、時にはマイナスにはたらくことが懸念されるが。カルメン役のアリシア・ルビオは恋人。

 

 

   (ホセ役のアントニオ・デ・ラ・トーレ、映画から)

 

                                         

                                                (クーロ役のルイス・カジェホ、撮影中)

 

ウル・アレバロは、1979年マドリード生れ、俳優、監督、脚本家。クリスティナ・ロタの演劇学校で演技を学んだ。「妹と一緒に父親のカメラで短編を撮っていた。17歳でデビューしたのも映画監督になりたかったから」という根っからの映画好き。日本デビューはダニエル・サンチェス・アレバロの第1『漆黒のような深い青』06)がラテンビート2007で上映されたときで、監督と「義」兄弟の契を結んでいるアントニオ・デ・ラ・トーレも共演している。サンチェス・アレバロは合計4作撮っていますが、デ・ラ・トーレと同じに全てに出演しています。ゴヤ賞絡みではサンチェス・アレバロの第2『デブたち』09)で助演男優賞を受賞している。ホセ・ルイス・クエルダ、アレックス・デ・ラ・イグレシア、アルモドバル、アントニオ・バンデラス、『マーシュランド』のアルベルト・ロドリゲス、先日ご紹介したばかりのCien años de perdón のダニエル・カルパルソロなどに起用されている。舞台にも立ち、テレドラ出演も多く、NHKで放映された『情熱のシーラ』でお茶の間にも登場した。個人的に好きな作品が未公開なのが少し残念です。

           

             

                            (本作撮影中のラウル・アレバロ)

  

追記:邦題『物静かな男の復讐』で Netflix 配信されました。