『SPY TIMEスパイ・タイム』*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑭2016年02月02日 21:02

         ベストセラー・コミックの映画化―落ち穂拾い

 

★男優賞は、セスク・ゲイの“Truman”から主演がリカルド・ダリン、助演がハビエル・カマラ、と決まったも同然かな? 新人は混戦状態だがパウラ・オルティスの“La novia”からアレックス・ガルシア、どちらにしろ誰でもいいか。自分が監督した“Isla Bonita”に出演したフェルナンド・コロモがノミネーションサれている。御年69歳、自作には時々顔を覗かせているが、主演は初めてというわけでノミネートされたのかしらん。新人女優賞の80歳を超えたアントニア・グスマンには負けるが、本人は「新人賞」ノミネーションにさぞかし可笑しがっているだろう。

 

ガウディ賞の結果発表があったばかりですが、こちらも主演がダリン、助演がカマラという次第、これじゃ金太郎の飴だね。セスク・ゲイがカタルーニャ語以外の作品賞、つられてドロレス・ホンシも助演女優賞を貰った。ダリンは今回も欠席したがゴヤ賞ガラも欠席かいな。バルセロナ派の映画祭だから当然といえば当然だが、アグスティ・ビリャロンガの『ザ・キング・オブ・ハバナ』が編集賞・撮影賞を含めて4個、公開中の『SPY TIMEスパイ・タイム』がプロダクション賞・美術賞を含めて5個もゲットした。要するに以上の3作品に賞が集中したということです。

 

     

     (発表前に受賞を確信しているようなセスク・ゲイとハビエル・カマラ)

 

★さて本題のSPY TIMEスパイ・タイム』、監督はスペイン映画を思いっきりおちょくった『最終爆笑計画』09)やホラー・コメディ『ゴースト・スクール』12)で既に日本上陸を果たしているハビエル・ルイス・カルデラ。スペインではTres bodas de más13)が評価され、主役のインマ・クエスタがゴヤ賞2014主演女優賞にノミネートされた。今回は“La novia”出演の関係で無理だったのかもしれない。キム・グティエレス、ロッシ・デ・パルマ、ベルト・ロメロ、シルビア・アブリルなどが重なって出演しており、なかでベルト・ロメロが新人男優賞にノミネートされた作品。監督は気の合った俳優を繰り返し起用するタイプです。

 

           

              (Tres bodas de másのポスター)

 

       

          (ポスターを背にハビエル・ルイス・カルデラ監督)

 

   Anacleto: Agente secreto SPY TIMEスパイ・タイム』2015

製作:Zeta Audiovisual / VVB Spain

監督:ハビエル・ルイス・カルデラ

脚本:フェルナンド・ナバロ、パブロ・アレン、ブレイショ・コラル

原作コミック:マヌエル・バスケス・ガジェゴ(“Anacleto: Agente secreto”)

音楽:ハビエル・ロデロ

撮影:アルナウ・バルス・コロメル

編集:アルベルト・デ・トロ

美術:ジェマ・ファウリア

メイクアップ:エリザベス・アダネス、他

プロダクション・デザイン:バルテル・ガリャルト 

録音:マルク・オルティスオリオル・タラゴ、ララ・カサノバ

特殊効果:リュイス・カステルリュイス・リベラ

製作者:ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、フランシスコ・ラモス、他

 

データ:スペイン、スペイン語、2015年、87分、コメディ・アクション、パロディ、コミック

受賞・ノミネーション:フェロス賞(コメディ賞)の4個ノミネーション、ゴヤ賞(録音賞・特殊効果賞)の2個、結果待ち

 

キャスト:イマノル・アリアス(アナクレト)、キム・グティエレス(息子アドルフォ)、カルロス・アレセス(バスケス)、アレクサンドラ・ヒメネス(カティア)、ロッシ・デ・パルマ(カティアの母)、ベルト・ロメロ(カティアの兄マルティン)、トニ・セビリャ(カティアの父)、エミリオ・グティエレス・カバ(アナクレトの上司)、シルビア・アブリル(秘書)、ホセ・コルバッチョ(ベテラン諜報員)、他

 

プロット:運悪くエリート諜報員アナクレトを父にもったがためスパイ稼業に巻き込まれていくアドルフォの物語。アドルフォ30歳、モニター監視員として平凡なサラリーマン生活をしていたが、最近恋人カティアから野心がないと三下り半を突きつけられてしまった。そんな折も折り、危険極まりない脱獄犯バスケスを頭とするギャング団の夜襲をうける。しがないソーセージ屋だと思っていた父アナクレトの正体を発見して仰天する。安楽を諦め生き残りをかけて、さらにはカティアの愛を取り戻すため、父とタッグを組んで極悪人バスケスの復讐に対峙するしかない。果たして父子の運命や如何に・・・

 

       

          (コミックのポスター、アドルフォは生れておりません)

 

マヌエル・バスケス・ガジェゴ1930マドリード~95バルセロナ)が、1964年に発表したシリーズ・コミックAnacleto: Agente secreto”(ブルゲラ社)の映画化、舞台を30年後の現代に移しているが原作の骨格は踏襲している。エリート・スパイに息子が生まれていたなどハチャメチャだが、細身の体に黒のスーツと蝶ネクタイというスタイルは変わらない。しかし映画のヒーローはアドルフォですね。バスケス・ガジェゴはアナクレトの宿敵に自分と同じ名前をつけている。これほどのワルではないが、本人も相当の食わせ者だったそうです。3回ほどブタ箱に入ったというが、そんな記録は残っていないとも、とにかく自分で伝説作りを楽しんでいたようです。ボヘミアンのアナーキスト、結婚・離婚を繰り返しそれぞれに子供がいて10人以上とか、子供のなかには20年以上会っていない娘もいるとか、破天荒な人生を歩んだようです。1995年糖尿病からくる膿塞栓症で死去した。『モルタデロとフィレモン』のフランシスコ・イバニェスとともにスペイン・コミック界に大きな影響を与えた人物だった。本作も同じブルゲラ社の雑誌に掲載された。後にフェッセルが映画化、公開されたのでご覧になった方もいるでしょうか。

 

          

              (マヌエル・バスケス・ガジェゴ

 

★バスケスを主人公にしたオスカル・アイバルEl gran Vazquez10)というコメディ伝記映画があり、「トレンテ」シリーズのサンティアゴ・セグラがバスケスに扮した。本人より細めですがセグラをおいて他にバスケスを演じられる役者はいないかもしれない。Anacleto: Agente secreto”の出版元ブルゲラ社の編集長ゴンサレス、バスケスとは正反対の価値観の総務部長ペラエス、『モルタデロとフィレモン』のフランシスコ・イバニェスなど実在の人物が登場する。サンセバスチャン映画祭2010上映、総務部長ペラエスに扮したアレックス・アングロがゴヤ賞2011助演男優賞にノミネーションされた。監督がモンテカルロ・コメディ映画祭で審査員賞、スペシャル・メンションを受賞した。アナクレトとかグラン・バスケスとかを聞いただけでワクワクできないとダメ、かなりナショナルな映画なのでスペインでしか公開されなかった。

 

★アナクレト役のイマノル・アリアス1956レオン)は、チラシにあるように『私の秘密の花』95)が一番有名なのでしょうか。あの映画の出番は少なかったし、彼の持ち味は出ていなかったと思う。公開作品は、ウンベルト・ソラス『カミーラ』81、公開92)、アルモドバル『セクシリア』82、公開95)、新しいところでは『ペーパーバード 幸せは翼にのって』13)、これはスペイン内戦を背景に監督エミリオ・アラゴン一家のサガのような作品、アリアスが達者なタップダンスを披露、ヴォードヴィリアンとしての片鱗を覗かせた。しかし、1980年代のアリアスといえば、なんといってもビセンテ・アランダのEl Lute87)とEl Lute ,mañana seré libre88)のエル・ルーテ役、実在の犯罪者エレウテリオ・サンチェスの伝記映画、収監中に猛勉強し弁護士資格をとった人物。その妻にビクトリア・アブリルが扮した。前者でサンセバスチャン映画祭の男優賞(銀貝賞)を受賞した。どうしても外せないのがイマノル・ウリベの『ミケルの死』84)、第1回スペイン映画祭1984で上映されたが未公開に終わった。まだゴヤ賞などなかったときだったのが惜しまれる。ノミネーションは複数回あるが受賞はない。もう難しいかもしれない。

 

★アドルフォ役のキム・グティエレス1981バルセロナ)はシリーズTVドラで出発、映画デビューはダニエル・サンチェス・アレバロのデビュー作『漆黒のような深い青』06DVD『蒼ざめた官能』)。イケメンだが上の前歯に隙間がありすぎて、口を開けるとおバカにみえる。初めて見たときから、「矯正しなかったのは親のせい」と親を恨んでいたのでした。しかし今回はこれが効果を上げており、作中でもからかわれていた。『マルティナの住む街』(ラテンビート)、公開作品では『ヒドゥン・フェイス』『ラスト・デイズ』などがある。二代目アナクレトとしての活躍を期待したい。

 

    

           (アナクレトとアドルフォ父子、映画から)

 

★バスケス役のカルロス・アレセス1976マドリード)は、俳優以外にアニメーションの原画家という別の顔をもっている。今は映画に話を絞るが、アレックス・デ・ラ・イグレシア作品(『気狂いピエロの決闘』『スガラムルディの魔女』『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』)の常連さん、いつも冴えない少し気弱な損な役柄が多いが、今回は人殺しなど屁とも思わない脱獄犯だ、嬉しかったに違いない。カルデラ監督作品では『最終爆笑計画』『ゴースト・スクール』に出演している。他に公開作品ではアルモドバル『アイム・ソー・エキサイテッド』、未見だがフアン・マルティネス・モレノ『人狼村 史上最悪の田舎』というアクション・ホラーにも出演している。

 

      

              (アナクレトとバスケス、映画から)

 

★公開中だからネタバレしないうちに、ここいらでチョン。