フアン・アントニオ・バヨナの『雪山の絆』*キャスト紹介 ― 2023年11月14日 15:20
死者にも声をあたえた ”La sociedad de la nieve” がバヨナを動かした
(ウルグアイ空軍機571便フェアチャイルドFH-227D、『生きてこそ』で使用された)
★『雪山の絆』は、ベネチア映画祭2023のクロージングでワールドプレミアされ、その後サンセバスチャン映画祭にやってきた。ベネチアにはJ. A. バヨナ監督やプロデューサー、出演者の他、遭難事故の生存者16名のうち、愛称カルリートスのカルロス・パエス・ロドリゲス、愛称ナンドのフェルナンド・パラッド、19歳だった医学生ロベルト・カネッサなど大勢で参加した。サンセバスチャン映画祭の上映はオープニングの9月22日、現地入りした数は減ったが、エンツォ・ヴォグリンチッチ(マヌ・トゥルカッティ役)、シモン・ヘンぺ(ホセ・ルイス〈コチェ〉・インシアルテ役)、エステバン・ビリャルディ(ハビエル・メトル役)、生存者のグスタボ・セルビノ、製作者ベレン・アティエンサ、サンドラ・エルミダなどが参加した。以下に製作スタッフとキャストのトレビアをアップしておきます。
(サンセバスチャン映画祭の参加者、ビクトリア・エウヘニア劇場、9月22日)
(エンツォ・ヴォグリンチッチと監督、同上)
『雪山の絆』(原題「La sociedad de la nieve / Society of the Snow」)
製作:Misión de Audaces Films / Apaches Entertainment / Benegas Brothers Productions
/ Cimarrón Cine / Telecinco / Netflix 他
監督:フアン・アントニオ・バヨナ
脚本:ベルナト・ビラプラナ、ハイメ・マルケス、ニコラス・カサリエゴ、J. A. バヨナ
原作:パブロ・ヴィエルチ(原作「La sociedad de la nieve」2009年刊)
撮影:ペドロ・ルケ
編集:ジャウメ・マルティ
音楽:マイケル・ジアッキーノ
録音:オリオル・タラゴ
キャスティング:マリア・ラウラ・ベルチ、イアイル・サイド、ハビエル・ブライアー
セット・デコレーション:アンヘラ・ナウム
製作者:ベレン・アティエンサ、サンドラ・エルミダ、J. A. バヨナ、(エグゼクティブ)サンティアゴ・ロペス・ロドリゲス、ハスミナ・トルバティ(Netflix)、他
データ:製作国スペイン=ウルグアイ=チリ=米国、2023年、スペイン語、ドラマ(実話)、144分、撮影地はスペインのシエラネバダ山脈、ウルグアイのモンテビデオ市、実際の墜落現場を含むアンデス山脈のアルゼンチンとチリ、撮影日数は138日間、製作費は6500万ユーロ以上。 配給Netflix(スペイン、米国)、Pimienta Films(メキシコ)、公開2023年12月15日、Netflix 配信2024年1月4日
映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2023アウト・オブ・コンペティション閉幕作品、サンセバスチャン映画祭(ペルラス部門)観客賞受賞、ミルバレー映画祭観客賞受賞、ミドルバーグ映画祭観客賞受賞、Camerimage カメリマージュ映画祭(ポーランドのトルン)監督賞・撮影賞(ペドロ・ルケ)ノミネート、ハリウッド・ミュージック・イン・メディア賞2023オリジナル・スコア(マイケル・ジアッキーノ)、ホセ・マリア・フォルケ賞2023ノミネート、他
★主なキャスト紹介(順不同、ゴチック体は生存者、年齢は遭難時):
エンツォ・ヴォグリンチッチ(ヌマ・トゥルカッティ、法学部24歳、12月11日没)
アグスティン・パルデッラ(フェルナンド〈ナンド〉・パラッド、機械工学部学生23歳)
マティアス・レカルト(ロベルト・カネッサ、医学部学生19歳)
トマス・ウルフ(グスタボ・セルビノ、医学部学生19歳)
ディエゴ・ベゲッツィ(マルセロ・ペレス・デル・カスティリョ、ラグビーチーム主将、
25歳、10月29日雪崩で没)
エステバン・ククリチカ(アドルフォ〈フィト〉・ストラウチ、農業技術者24歳)
フランシスコ・ロメロ(ダニエル・フェルナンデス・ストラウチ、農業技師26歳)
ラファエル・フェダーマン(エドゥアルド・ストラウチ、農業技術者23歳)
フェリペ・ゴンサレス・オターニョ(カルロス〈カルリートス〉・パエス、
畜産技術学部学生18歳)
アグスティン・デッラ・コルテ(アントニオ〈ティンティン〉・ビシンティン、
法学部19歳)
バレンティノ・アロンソ(アルフレッド・パンチョ・デルガド、法学部卒業生25歳)
シモン・ヘンペ(ホセ・ルイス〈コチェ〉・インシアルテ、農業技術学部学生24歳)
フェルナンド・コンティジャーニ・ガルシア(アルトゥロ・ノゲイラ、経済学部学生
25歳、11月15日没)
ベンハミン・セグラ(ラファエル・エチャバレン、畜産学部学生26歳、11月18日没)
ルチアノ・チャットン(ホセ・ペドロ・アルゴルタ、経済学部21歳)
アグスティン・ベルティ(ボビー・フランソワ、農業技術学部学生20歳)
フアン・カルーソ(アルバロ・マンジノ、畜産技術学部学生19歳)
ロッコ・ポスカ(モンチョ・サベリャ、農業技術学部学生21歳)
アンディ・プルス(ロイ・ハーレイ、工学部学生20歳)
エステバン・ビリャルディ(ハビエル・メトル、事業者37歳)
パウラ・バルディニ(リリアナ・メトル、ハビエル・メトルの妻34歳、10月29日雪崩で没)
サンティアゴ・バカ・ナルバハ(ダニエル・マスポンス、20歳、10月29日雪崩で没)
アルフォンシナ・カロシオ(スサナ・パラッド、ナンドの妹20歳、10月21日没)
イアイル・サイド(フリオ・セサル・フェラダス大佐、機長39歳、10月13日没)
マキシミリアノ・デ・ラ・クルス
カルロス〈カルリートス〉・パエス(カルリートスの父親カルロス・パエス・ビラロ)
★原作と映画は同じ必要はないが、本作はエンツォ・ヴォグリンチッチ扮するヌマ・トゥルカッティが重要な役を担っている。ベネチアでもサンセバスチャンでも脚光を浴びていた。彼は遭難後60日目に足の怪我が原因で敗血症により生還できなかった人物で最後の死者になった。カニバリズムの嫌悪感から体力が急激に衰え、体重も25キロに落ちていた。トゥルカッティのように証言が叶わなかった犠牲者を軸にしていることが『生きてこそ』との大きな違いかもしれない。彼の死去は、ただ救助を待つのではなく危険を冒してでもアクションを起こすべきという結論を導き出す切っ掛けになった。
*ヴォグリンチッチは1993年ウルグアイのモンテビデオ生れ、ヴォグリンチッチはイタリアの隣国スロベニアに多い苗字。当ブログ紹介のウルグアイ大統領ホセ・ムヒカのビオピック『12年の長い夜』(18)の警官役で映画デビュー、代表作は名プロサッカー選手の孤独を描いた「9」でグラマド映画祭2022とバリ映画祭で主演男優賞を受賞している。TVシリーズにも出演して目下売り出し中。
(ヌマ・トゥルカッティを演じたエンツォ・ヴォグリンチッチ)
★アグスティン・パルデッラは、フェルナンド〈ナンド〉・パラッドに扮した。1994年アルゼンチン生れ、「Pinamar」でグラマド映画祭2017男優賞受賞、アルゼンチン映画批評家協会賞にノミネートされた。ホラー『ブラッド・インフェルノ』(17、「Los olvidados」)が公開されている。遭難後61日目にロベルト・カネッサとティンティンと共に救援隊を組織してチリに向かった立役者の一人、『生きてこそ』ではイーサン・ホークが扮した。遭難時に22歳だったナンド・パラッドはプロデューサー、テレビ司会者、作家と活躍しており、ベネチア映画祭にも出席している。
★マティアス・レカルト(医学生ロベルト・カネッサ役)は、アルゼンチンの俳優、2019年TVシリーズ「Apache: La vida de Carios Tevez」(8話)でデビュー、「Ciegos」(19)が長編デビュー作、本作が2作目。人肉を食しても生きるべきと説得したロベルト・カネッサは、「命を救うのが私の使命だったし、遭難で得た教訓が医者になるというモチベーションを高めた」と語っている。現在ウルグアイの小児心臓外科医で、ナンドとともにベネチアFFに姿を見せている。
★アルゼンチンのラファエル・フェダーマン(エドゥアルド・ストラウチ役)は俳優のほか、短編「Luis」(16、18分)をパウラ・ブニと共同で監督している。2014年「Dos disparos」でデビュー、アルゼンチン映画批評家協会賞2015シルバーコンドル新人賞にノミネート、2016年フランシスコ・マルケス&アンドレア・テスタのデビュー作「La larga noche de Francisco Sanctis」に出演、本作はカンヌ映画祭「ある視点」に正式出品され、SSIFF オリソンテス・ラティノス部門にもノミネートされた。軍事独裁政権時代をバックにしたスリラー、「Los sonámbulos」でアルゼンチン映画アカデミー賞2019新人俳優賞にノミネート、本作はパウラ・エルナンデス監督の4作目、各国の映画祭で受賞歴を重ねた映画で、こちらもSSIFFにノミネートされた。話題作の出演本数は多いがフェダーマン(フェデルマンで紹介)は賞に恵まれていない。
*「La larga noche de Francisco Sanctis」の作品紹介は、コチラ⇒2016年05月11日
(「Dos disparos」から)
★シモン・ヘンぺ(ホセ・ルイス〈コチェ〉・インシアルテ役)は、1998年ブエノスアイレス生れ、TVシリーズ「Go! Vive a Tu Manera」(19、30話)でスタート、『2人のローマ教皇』(19)にドラッグ・ディーラー役で長編デビュー、本作が2作目。〈コチェ〉インシアルテは完成前に鬼籍入りしてしまい、生前に「最初のバージョンを見せた」とバヨナ監督。シモン・ヘンぺはSSIFF に参加している。
(左から、エンツォ・ヴォグリンチッチ、グスタボ・セルビノ、
エステバン・ビリャルディ、シモン・ヘンぺ、SSIFF 2023、9月22日フォトコール)
★フェルナンド・コンティジャーニ・ガルシア(アルトゥロ・ノゲイラ役)は、ラファエル・フェダーマンと同じ「Dos disparos」で長編デビューしている。サンティアゴ・ミトレの『アルゼンチン1985~歴史を変えた裁判』(22)で証言者パブロ・ディアスを演じた他、『サミット』(17)にも出演、他に実話を映画化したルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』(18)にも出演している。アルトゥロ・ノゲイラは34日目の11月15日、足の怪我の炎症が原因で壊疽になり生還できなかった。当ブログではミトレやオルテガの作品紹介をしているが、彼については触れていない。
*『アルゼンチン1985』の主な作品紹介は、コチラ⇒2022年11月23日
(『アルゼンチン1985』から)
★アンディ・プルス(ロイ・ハーレイ役)は、イネス・マリア・バリオヌエボの「Camila saldra esta noche」(21)の小さな役でデビュー、2023年マリア・サネッティの長編デビュー作「Alemania」に出演、両作ともSSIFFオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた折、作品紹介をしているが、プルスについては触れていない。今後が期待される新人の一人。
★エステバン・ビリャルディ(ハビエル・メトル役)は、1973年ブエノスアイレス生れ、ベテラン俳優、ロドリゴ・モレノの「Un mundo misterioso」(11)に主演、「Reimon」(14)、最近では『犯罪者たち』(23)のロマン役で東京国際映画祭2023ワールド・フォーカス部門に登場した。モレノ監督のお気に入りです。他にサンティアゴ・ミトレの『エストゥディアンテ』(11)、リサンドロ・アロンソの『約束の地』(14)などに出演しているベテラン。SSIFF にも現地入りしている。
*『犯罪者たち』の作品紹介は、コチラ⇒2023年05月11日
(『犯罪者たち』でロマン役に扮した)
★アルフォンシナ・カロシオ(スサナ・パラッド役)は、ウルグアイの監督ギジェルモ・カサノバの「Otra historia del mundo」(17)でデビュー、ホラー・スリラー『ヴァーダラック呪われた血族』(20)、メルセデス・コスコの監督第1作「Nina & Emma」(23)で主演するなど作品に恵まれている。本作では20歳で亡くなったナンド・パラッドの妹スサナ・パラッドを演じている。兄妹の母親も乗っていたが墜落時に即死している。
★パウラ・バルディニ(リリアナ・メトル役)は、ディエゴ・カプランのロマンス・コメディ「2+2」(12)、『愛と情事のあいだ』としてDVDで発売された。TVシリーズ出演が多いが、セバスティアン・デ・カロのコメディ「Claudia」(19)でドロレス・フォンシと共演している。リリアナ・メトルは、夫ハビエルとは異なって人肉を拒否していたが、10月29日の雪崩で死去している。
★イアイル・サイド(フリオ・セサル・フェラダス大佐役)は、アルゼンチンの俳優、キャスティング・ディレクター。本作では機長役とキャスティングも手掛けている。『犯罪者たち』やアリエル・ウィノグラードの「Sin hijos」(15)に出演、「Dos disparos」のキャスティングを担当している。フェラダス機長はアンデス越え29回のベテランだったが、悪天候にもかかわらず副操縦士の操縦訓練をしていたことも事故の原因のひとつだった。
★アグスティン・デッラ・コルテ(アントニオ〈ティンティン〉・ビシンティン役)は本作がデビュー作、ティンティンは、救援隊の一人としてナンドとカネッサとチリに向かうが、足りなくなりそうな食料を二人に託して途中で引き返している。
★カルロス〈カルリートス〉・パエス(カルリートスの父親カルロス・パエス・ビラロ役)は、生存者の中で唯一人、息子の生還を待ちわびる父親役でほんの少しだけ出演している。1953年生れのカルリートスは遭難時には18歳だったが山中で誕生日を迎えている。現在ライターの仕事をしている。カルリートス役はフェリペ・ゴンサレス・オターニョが演じている。2020年に映画デビュー、TVシリーズに出演している。
★リストではっきりするのは生存者が一人を除いて体力のある若いラグビー選手たちだったことが分かる。ラグビーのクラブチームの仲間同士で絆はすでに固く結ばれていた。同じ言語を話し、少年時代からの友達だった。二人の医学生(カネッサとSSIFF に現地入りしたグスタボ・セルビノ)が治療に当たったことやカニバリズムが関係していたのは事実ですが、それだけでは生き残れなかったことは想像に難くありません。「私が死んだら、生きのびるために私の体を使ってかまわない」ということが関係していると思います。
(医学生だったグスタボ・セルビノ、SSIFF 2023、9月22日フォトコール)
★バヨナ監督は「人生を肯定する映画」と、サンセバスチャン映画祭で語っています。またパブロ・ヴィエルチの原作 ”La sociedad de la nieve” は、辛くて一気に読み通せなかったが、「とても内省的な作品」と評している。原作と映画の大きな違いは、原作では救出後モンテビデオに戻った生存者の苦しみも書かれているが、映画は救出されたところで終わっている。
★トレビア:撮影ユニットは3チーム、メインはバヨナが率いるスペインのシエラネバダ山脈(2022年1月10日から4月29日まで)、第2ユニットはアルゼンチンの監督アレハンドロ・ファデルが率いてチリの風景を撮影した(2021年8月)。第3ユニットが最も危険な山岳地帯のシーンを任された。胴体の残骸のレプリカは3個作製され、1個は駐車場に建てられた格納庫に置かれ、2個目は人工雪に埋もれた胴体を移動できるようクレーンに支えられていた。もう一つは激突したとき氷河に滑落した機体の片割れのレプリカが、海抜約3000mのタルン(tarn氷河によって作られた山中の小さな湖)の上に置かれた。3チームのスタッフは300人に及んだということですから半端なお金ではありません。果たして資金が回収できるでしょうか。来年1月4日に配信後、観賞記を予定しています。
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