金貝賞はブラジル映画「Pacificado」*サンセバスチャン映画祭2019 ㉖ ― 2019年10月01日 11:38
リオのスラム街を舞台に父娘のドラマが語られる「Pacificado」
(金貝賞受賞の監督とスタッフ、右から2人目がパックストン・ウィンタース監督)
★9月28日(現地)、第67回サンセバスチャン映画祭が閉幕しました。コンペティション部門、ホライズンズ・ラティノ部門、ニューディレクターズ部門ほかの受賞結果が発表され、3人目のドノスティア賞受賞者ペネロペ・クルスは、友人の一人アイルランドのU2のボーカリスト、ボノからトロフィーを受け取りました。セクション・オフィシアルから選ばれる金貝賞は、パックストン・ウィンタースのブラジル映画「Pacificado」が、作品賞・男優賞・撮影賞の3冠をゲットしました。ダーレン・アロノフスキーが製作者の一人、彼も現地入りしておりました。本作とクルスのドノスティア賞についてはいずれご紹介したい。
追加情報:ラテンビート2019で『ファヴェーラの娘』の邦題で上映決定。
(ボノとトロフィーを手にしたペネロペ・クルス、映画祭閉幕9月28日)
(左から、ダーレン・アロノフスキー、ブカッサ・カベンジェレ、デボラ・ナシメント、
カシア・ジル、パックストン・ウィンタース監督、9月24日のフォトコール)
★スペイン勢は、監督賞・脚本賞・FIPRESCI 賞の3冠の「La trinchera infinita」、バスクのトリオ監督の手に渡りました。個人的に意外だったのが、ベレン・フネスのデビュー作「La hija de un ladrón」のヒロインを演じたグレタ・フェルナンデスが女優賞に選ばれたこと。今回の女優賞はドイツ出身のニーナ・ホスの2人、女優との二足の草鞋を履くIna Weisse監督の「The Audition / Das Vorspiel」(独仏合作)でヴァイオリン教師になる。グレタは審査員の一人である先輩バルバラ・レニーからトロフィーを受け取り抱き合って喜びを分かち合いました。何かの賞に絡むと予想したアメナバルの「Mientras dure la guerra」は、ツキがありませんでした。賞の助けなど借りなくても充分と判断したのか、既にスペイン公開が始まっています。
(監督と出演者、左からホセ・M・ゴエナガ、ベレン・クエスタ、アイトル・アレギ、
アントニオ・デ・ラ・トーレ、ビセンテ・ベルガラ、ジョン・ガラーニョ、9月22日)
(父娘で共演した「La hija de un ladrón」の9月25日フォトコールで)
(「La hija de un ladrón」のベレン・フネス監督、9月25日)
★映画祭のもう一つの大賞、審査員特別賞にはフランスのアリス・ウィノクールの仏独合作「Próxima」が受賞しました。『裸足の季節』の脚本を手掛け、『博士と私の危険な関係』を監督した才媛。セクション・オフィシアルの審査員が選ぶのは、以上の7賞で、金貝賞は作品賞のみ、他は銀賞です。今年の審査員は、既にアップしておりますが、委員長ニール・ジョーダン(アイルランド、監督・脚本家)、パブロ・クルス(メキシコ、製作者)、バルバラ・レニー(スペイン女優)Lisabi Fridell(スウェーデン、撮影監督)、メルセデス・モラン(アルゼンチン女優)、Katriel Schory(イスラエル、製作者)の6名でした。今回はセクション・オフィシアルの結果だけアップしておきます。
◎作品賞(金貝賞)
*「Pacificado」 監督:パックストン・ウィンタース
◎審査員特別賞
*「Próxima」 監督:アリス・ウィノクール
◎監督賞(銀貝賞)
*アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、「La trinchera infinita」
(3 冠を果たした、バスクの監督トリオ)
◎女優賞(銀貝賞)今回は2人
*グレタ・フェルナンデス「La hija de un ladrón」
(抱き合って喜ぶ、グレタとプレゼンターのバルバラ・レニー)
(喜びのスピーチをするグレタ・フェルナンデス)
*ニーナ・ホス「The Audition / Das Vorspiel」(独仏合作)監督Ina Weisse
(茶目っ気たっぷりのニーナ・ホス)
(ヴァイオリン教師に扮するニーナ・ホス)
◎男優賞(銀貝賞)
*Bukassa Kabengele(ブカッサ・カベンジェレ)「Pacificado」
(既に帰国していたのか共演者のデボラ・ナシメントが受け取りました)
◎撮影賞
*ラウラ・メリアンス(Laura Merians)「Pacificado」
◎脚本賞
*ルイソ・ベルデホ、ホセ・マリ・ゴエナガ、「La trinchera infinita」
★以上がセクション・オフィシアルの受賞作品と受賞者でした。ホライズンズ・ラティノ、ニューディレクターズほかの部門は、次回に回します。「La trinchera infinita」と「La hija de un ladrón」の作品紹介はアップを予定しています。
受賞関連記事:管理人覚え
*「La trinchera infinita」の記事は、コチラ⇒2019年07月23日
*「La hija de un ladrón」の記事は、コチラ⇒2019年07月23日
*「Mientras dure la guerra」の作品紹介は、コチラ⇒2018年06月01日/2019年09月27日
ホライズンズ・ラティノ賞はロミナ・パウラ*サンセバスチャン映画祭2019 ㉗ ― 2019年10月03日 13:37
ホライズンズ・ラティノ賞はロミナ・パウラのデビュー作
★ラテンアメリカ諸国の作品がエントリーされる「ホライズンズ・ラティノ部門」の作品賞に、アルゼンチンのロミナ・パウラのデビュー作「De nuevo otra vez」が受賞しました。作家、舞台演出家、女優と多才な顔をもつロミナ・パウラの監督デビュー作。自分の母親と息子を登場させた。第2席に当たる特別メンションには、ペルー=コロンビア合作「La bronca」のダニエル&ディエゴ・ベガ兄弟の手に渡りました。2作とも既に作品紹介をアップしております。
★当部門からは、グアテマラのセサル・ディアスの「Nuestras madres / Our Mothers」が、スペイン協同映画賞を受賞しています。本作はカンヌ映画祭併催の「批評家週間」に出品され、新人監督に贈られるカメラドールを受賞している。ほかにはコンペティション外ですが、RTVEスペイン国営ラジオ・テレビが選ぶ「Otora Miradaもう一つの視点」に、アルゼンチンの妊娠中絶合法化運動をテーマにしたフアン・ソラナスのドキュメンタリー「La ola verde (Que sea ley)」が受賞した。カンヌ映画祭にも出品され、監督以下関係者が大挙して赤絨毯を踏んで話題になりましたが、こちらサンセバスチャン映画祭でもメイン会場のクルサール・ホールに運動のシンボル緑のリボンをして一堂に会しました。
(クルサールを緑の旗で埋め尽くした関係者たち、9月24日)
*「De nuevo otra vez」の作品紹介は、コチラ⇒2019年09月10日
*「La bronca」の作品紹介は、コチラ⇒2019年08月23日
*「Nuestras madres / Our Mothers」の作品紹介は、コチラ⇒2019年05月07日
*「La ola verde (Que sea ley)」の記事は、コチラ⇒2019年08月11日
★ニューディレクターズ作品賞は、チリのホルヘ・リケルメ・セラーノの「Algunas bestias」が受賞、アルフレド・カストロやパウリナ・ガルシアなどベテラン勢が出演、ある程度予測されていた受賞でした。ニューディレクターズ部門からは、アルゼンチンのアナ・ガルシア・ブラヤの「Las buenas intenciones」が、ユース賞を受賞しました。アルゼンチン、チリの受賞が目立ったニューディレクターズ部門でした。
*「Algunas bestias」の作品紹介は、コチラ⇒2019年08月13日
*「Las buenas intenciones」の作品紹介は、コチラ⇒2019年08月13日
★サバルテギ-タバカレラ作品賞には、ドイツ=セルビア合作、女優で監督、脚本家として活躍するドイツのアンゲラ・シャネレクの「Ich War Zuhause, aber / I Was at Home, But」が受賞、サンセバスティアン市観客賞は、かつて『最強のふたり』でファンを楽しませてくれたフランスのオリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノのコメディ「Hors Normes / Especiales」が受賞、ヨーロッパ映画に与えられるサンセバスティアン市観客賞は、ケン・ローチの「Sorry We Missed You」でした。主な受賞者は以上です。その他、幾つも賞がありますが割愛です。
主な受賞結果
◎ニューディレクターズ賞
*「Algunas bestias」 監督:ホルヘ・リケルメ・セラーノ
(ホルヘ・リケルメ・セラーノ監督)
◎ホライズンズ・ラティノ賞
*「De nuevo otra vez」 監督:ロミナ・パウラ
(喜びのロミナ・パウラ監督)
◎ホライズンズ・ラティノ特別メンション
*「La bronca」 監督:ダニエル&ディエゴ・ベガ兄弟
(主演のロドリゴ・パラシオスとダニエル&ディエゴ・ベガ兄弟)
◎サバルテギ-タバカレラ賞
*「Ich War Zuhause, aber / I Was at Home, But」 監督:アンゲラ・シャネレク
◎観客賞
*「Hors Normes / Especiales」監督:オリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノ
◎ユース賞
*「Las buenas intenciones」 監督:アナ・ガルシア・ブラヤ
◎スペイン協同賞(Cooperación española)
*「Nuestras madres / Our Mothers」 監督:セサル・ディアス
◎RTVE-Otora Mirada(もう一つの視点)賞
*「La ola verde (Que sea ley)」 監督:フアン・ソラナス
(今年の審査員の一人メルセデス・モランが緑のリボンを高く掲げてアピール)
★アルゼンチン、チリの受賞が目立ちますが、ペルー、グアテマラなどの受賞は、ラテンアメリカ諸国の緩慢でありますが静かな胎動を感じました。授賞式前に帰国してしまった受賞者もいて、あまりいい写真が検索できませんでした。
ペネロペ・クルスにドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2019 ㉘ ― 2019年10月04日 20:25
史上最年少45歳のドノスティア賞受賞者、ペネロペ・クルス
(純白のドレスに身を包んで誇りに満ち輝いていたペネロペ・クルス)
★映画祭最終日の9月28日、ギリシャ出身のフランスの監督コスタ・ガヴラス、カナダ出身の俳優ドナルド・サザーランドに続いて栄誉賞ドノスティア賞が、U2のボノによってペネロペ・クルスの手に渡されました。アイルランドのボーカリストは彼女の親しい友人の一人ということでしたが、ボノの登場には会場から驚きの声が上がりました。栄誉賞のプレゼンターは映画祭総ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノスと決まっていたから当然でした。ボノは会場の脇から出し抜けに現れ、涙の受賞者がいる壇上に登ったのでした。アイルランドの歌手は「スクリーンの中のペネロペの人生は私を惹きつける、なぜなら家族ドラマだから。私を含めて我々のようなアーティストは自分自身を見失います。ペネロペは他人になって迷うので、我々は彼女の中で迷うことになる」とスピーチした。
(プレゼンターのボノと抱き合う受賞者ペネロペ・クルス)
★受賞者は受け取ったトロフィーを「わたしの夫ハビエル・バルデムと二人の子供たちに」とスピーチ、会場にいたバルデムは立ち上がって拍手、妻を祝福していました。彼女を育ててくれた、ビガス・ルナ、ペドロ・アルモドバル、フェルナンド・トゥルエバへの感謝の言葉に続いて、スペインでは2019年に夫や恋人によるDVで死亡した女性が44人もいたことに触れ、スペインの社会的病根マチスタの横行を批判しました。受賞スピーチとしてはちょっと破格だったかもしれませんが、彼女らしかったともいえます。
(受賞スピーチをするペネロペ・クルス)
★14歳でのデビュー、今は亡きビガス・ルナに見いだされ『ハモンハモン』を撮ったのは18歳、続くフェルナンド・トゥルエバがアカデミー外国語映画賞を受賞した『ベルエポック』(92)、アルモドバルが同じオスカー賞を受賞した『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)、カンヌ映画祭女優賞をグループで受賞した『ボルベール<帰郷>』(06)、アカデミー助演女優賞を受賞したウディ・アレンの『それでも恋するバルセロナ』(08)の出演など運にも恵まれましたが、運も実力のうちでしょう。3個のゴヤ賞、フランスのセザール栄誉賞、英国のバフタ助演女優賞など受賞歴も煌びやかです。45歳という破格の若さでの受賞も、その長い芸歴や国際的な活躍を考えれば、反論の余地がないということです。
◎主なペネロペ・クルスの関係記事
*セザール栄誉賞受賞の記事は、コチラ⇒2018年03月08日
*最近のキャリア紹介記事は、コチラ⇒2019年05月20日
*アスガー・ファルハディの『誰もがそれを知っている』は、コチラ⇒2019年06月23日
*アルモドバルの「Dolor y gloria」は、コチラ⇒2019年04月22日
ドナルド・サザーランドにドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2019 ㉙ ― 2019年10月05日 16:27
エレガントな身なりで現地入りした栄誉賞受賞者ドナルド・サザーランド
(飄々と、しかし貫禄の受賞者ドナルド・サザーランド)
★9月26日、映画祭も終了した後のアップとなりましたが、ドナルド・サザーランドの栄誉賞ドノスティア賞の授賞式がクルサール・ホールで行われました。待ち構えていたファンのサインや自撮りにも気軽に応じていた御年84歳(1935年生れ)のベテラン俳優でした。受賞発表の際に既にキャリア&フィルモグラフィーの紹介をしております。カナダ出身ですが主に米国映画界で活躍、およそ200作に出演と聞けば、彼が映画史に残した影響の大きさに驚く。しかし、米アカデミーは彼にオスカー像を渡さなかった。その「不正」を正そうと決心したのか、やっと2年前にアカデミー栄誉賞を授与したのでした。
(総ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノスからトロフィーを受け取る受賞者)
★エレガントなジャケットでフォトコールに姿を見せたサザーランドは、エル・パイス紙のインタビューに「私はまだ引退できません、何しろ口を開けて食物を待っている家族がいるから」と応じている。というわけで、ジュゼッペ・カポトンディ監督の最新作スリラー「The burnt orange heresy」に出演、アートの世界から自ら身を引いた画家に命を吹き込んだ。本作はサンセバスチャン映画祭でドノスティア賞授賞式後に上映されました。
(杖に助けられてフォトコールに現れたドナルド・サザーランド、9月26日)
★「お気に入りの監督は?」という質問には、「好きな監督はおりません。それはまるで5人の子供の中から選ぶように言われているようなものです。どの子も大好きだし、映画を一緒に作った監督も出来上がった作品もすべて同じように大好きです。そうですね、フェデリコ・フェリーニとの仕事は良かった」と99点の答えでした。サザーランドには同じ道を選んだキーファー・サザーランドを含めて5人の子供がいる。フェデリコ・フェリーニとの仕事とは『カサノバ』(76)でジャコモ・カサノバを演じた。
★サザーランドが今一番気がかりな政治的関心は加速する気候変動ということです。「私には子供も孫もいますが、彼らが生きていけない世界を残そうとしています。250万種の鳥類が消滅し、中国では昆虫の不足により植物の花を受粉させることができず、自ら行わねばならなくなっている。これが私たちの望む世界ですか。気候変動に対して国連が行っていることは、まるでガラクタです」。経済発展は必要ですが、生態系を破壊しては元も子もないということです。我が国も以前より後ろ向きなのが気がかりです。
*キャリア&フィルモグラフィーの紹介は、コチラ⇒2019年09月02日
第16回ラテンビート映画祭2019上映作品発表 ① ― 2019年10月06日 17:57
いよいよ秋恒例のラテンビート開幕――ご紹介作品も何作か目につきました
★今年は新宿・大阪・横浜に京都が加わりました。東京会場の新宿バルト9は11月7日~10日、11月15日~17日の2週末です。昨年に続いてブラジル映画の特集があるようです。なかに閉幕したばかりのサンセバスチャン映画祭2019の金貝賞(作品賞)受賞作品、パックストン・ウィンタースの「Pacificado」が邦題『ファヴェーラの娘』としてエントリーされました(LBFF表記:パクストン・ウィンターズ)。まだ9作と全体像は見えてきませんが、開幕まで1ヵ月に迫りましたからもう間もなくです。
*上映作品は以下の通り9作です(10月5日現在)。分かり次第追加いたします。
◎スペイン語(ガリシア語)映画
①『戦争のさなかで』 原題「Mientras dure la guerra」
監督:アレハンドロ・アメナバル
キャスト:カラ・エレハルデ、エドゥアルド・フェルナンデス
トレビア:スペイン内戦を背景に学者ミゲル・デ・ウナムノの最期の人生が語られる。サンセバスチャンFF 2019セクション・オフィシアル出品。
*作品紹介は、コチラ⇒2018年06月01日/2019年09月27日
②『8月のエバ』 同「La virgen de agosto」
監督:ホナス・トゥルエバ
キャスト:イチャソ・アラナ、ビト・サンス、イサベル・ストフェル、ミケレ・ウロス
トレビア:カルロヴィ・ヴァリFF 2019 国際映画批評家連盟賞賞・審査員スペシャル・メンション、トゥールーズ・シネエスパーニャFF 脚本賞・女優賞受賞。『再会』がNetflixでストリーミング配信された。
*作品紹介は、コチラ⇒2019年06月03日
③『ファイアー・ウィル・カム』 同「Lo que arde / Fire Will Come」
スペイン・フランス・ルクセンブルク合作、90分、バスク語
監督:オリベル・ラセ(LBFF表記:オリヴァー・ラクセ)
キャスト:アマドール・アリアス、ベネディクタ・サンチェス、イナシオ・アブラオ
トレビア:カンヌFF 2019「ある視点」審査員賞、サンセバスチャン映画祭ペルラス部門出品、東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映
*作品紹介は、コチラ⇒2019年04月28日/05月29日
④『蜘蛛』 同「Araña / Spider」2019、チリ・アルゼンチン・ブラジル合作
監督:アンドレス・ウッド
キャスト:メルセデス・モラン、マリア・バルベルデ、フェリペ・アルマス、
マルセロ・アロンソ
トレビア:LBFF上映『マチュカ』『サンティアゴの光』『ヴィオレータ、天国へ』のアンドレス・ウッドの新作、サンセバスチャンFF 2019ホライズンズ・ラティノ部門出品
*作品紹介は、コチラ⇒2019年08月16日
⑤『猿』 同「Monos」2019、コロンビア・アルゼンチン・オランダ・ドイツ他
監督:アレハンドロ・ランデス
キャスト:ジュリアンヌ・ニコルソン、モイセス・アリアス、ホルヘ・ラモン
トレビア:サンダンスFF 2019ワールド・シネマ・ドラマ部門審査員特別賞受賞、サンセバスチャンFF ホライズンズ・ラティノ部門出品、米アカデミー国際長編映画賞コロンビア代表作品、『コカレロ』がLBFFで上映されている。
*作品紹介は、コチラ⇒2019年08月21日
⑥『列車旅行のすすめ』 同「Ventajas de viajar en tren」2019、
スペイン・フランス合作、103分、スリラー
監督:アリッツ・モレノ
キャスト:ピラール・カストロ、ルイス・トサール、エルネスト・アルテリオ、
マカレナ・ガルシア、キム・グティエレス、ベレン・クエスタ
トレビア:シッチェス・カタルーニャFF 2019 出品、モレノ監督のデビュー作、スペイン映画でお馴染みのスターが出演するエンターテイメント。東京国際映画祭コンペティション部門でも上映されます。
*作品紹介は、コチラ⇒2019年10月14日
◎第2回ブラジル映画(ポルトガル語)
①『ファヴェーラの娘』 原題「Pacificado」
監督:パックストン・ウィンタース(LBFF表記:パクストン・ウィンターズ)
キャスト:ブカッサ・カベンジェレ、カシア・ジル、デボラ・ナスシメント
トレビア:サンセバスチャンFF 2019、金貝賞(作品賞)、男優賞、撮影賞受賞。
*作品紹介は、コチラ⇒2019年10月12日
②『見えざる人生』 同「A vida invisível de Euridice Gusmao」ドイツ合作、139分
監督:カリン・アイヌーズ(カリム・アイノーズ?)
キャスト:カロル・ドゥアルテ、ジュリア・ストックラー、フェルナンダ・モンテネグロ、クリスティナ・ペレイラ
トレビア:カンヌFF 2019「ある視点」作品賞受賞作品。米アカデミー国際長編映画賞ブラジル代表作品。
③『神の愛』 同「Divino Amor / Divine Love」2019、
ウルグアイ・デンマーク・チリ他合作、101分
監督:ガブリエル・マスカロ
キャスト:ジラ・パエス、ジュリオ・マシャード、テカ・ペレイラ
トレビア:サンダンスFF 2019ワールド・シネマ・ドラマ部門出品、ベルリンFFパノラマ部門出品、グアダラハラFF FEISAL賞、ワールド・シネマ・アムステルダム特別メンション、ダーバンFF監督賞受賞などの話題作。クラウディオ・アシスの『マンゴー・イエロー』やブレノ・シウヴェイラの『フランシスコの2人の息子』で7人の子供の母親になったジラ・パエスが登場する。
★残りは発表がありしだい順次追加いたします。次回はブラジル映画『ファヴェーラの娘』をアップします。
ブラジル映画 『ファヴェーラの娘』 *ラテンビート2019 ② ― 2019年10月12日 10:44
今年の「金貝賞」受賞作品「Pacificado」がラテンビートでの上映決定!
★パクストン・ウィンターズの「Pacificado」は、サンセバスチャン映画祭SSIFF 2019「セクション・オフィシアル」にノミネートされ、なんと金貝賞を受賞してしまった。言語がポルトガル語ということで当ブログでは授賞式までノーチェックでしたが、まさかの金貝賞受賞、審査委員長がニール・ジョーダンだったことを忘れていました。さらに『ファヴェーラの娘』の邦題でラテンビートLBFFで、まさかの上映となれば割愛するわけにはいきません。監督Paxton Wintersの日本語表記にはウィンタース(ズ)の両用があり、当ブログでの表記はパックストン・ウィンタースを採用しておりましたが、これからはLBFFに揃えることにしました。
(左端がダーレン・アロノフスキー、SSIFFのフォトコール)
★昨年のLBFFでは、サッカーやサンバの出てこないホームドラマ、グスタボ・ピッツィの『ベンジーニョ』が好評でした。今年はファヴェーラというリオのスラム街を舞台に、リオデジャネイロ・オリンピック後のファヴェーラに暮らす或る家族、刑期満了で出所したばかりの元リーダーの父親ジャカと内向的な娘タチを軸に物語は進行します。撮影には巨大ファヴェーラMorro dos Prazeres(モッホ・ドス・プラゼーレス)の住民が協力した。というわけで監督は、ガラ壇上から早速「モッホ・ドス・プラゼーレス」の住民に授賞式の映像を送信して共に喜びあっていた(フォト下)。まだ正式のポスターも入手できておりませんが、一応データを整理しておきます。LBFF公式サイトでストーリーが紹介されております。
(携帯でモッホ・ドス・プラゼーレスの住民と接続して、金貝賞受賞を一緒に喜ぶ
パクストン・ウィンターズ監督、2019年9月28日SSIFFガラにて)
『ファヴェーラの娘』(「Pacificado / Pacified」)ブラジル=米国合作 2019年
製作:Reagent Media / Protozoa Pictures / Kinomad Productions / Muskat Filmed Properties
監督:パクストン・ウィンターズ
脚本:パクストン・ウィンターズ、Wellington Magalhaes、Joseph Carter Wilson
撮影:ラウラ・メリアンス
音楽:ベト・ビリャレス、コル・アンダーソン、ミリアム・ビデルマン
編集:アイリン・ティネル、アフォンソ・ゴンサルヴェス
プロダクション・マネージメント:ティム・マイア
プロダクション・デザイン:リカルド・ヴァン・ステン
録音:ヴィトール・モラエス、デボラ・モルビ、他
製作者:ダーレン・アロノフスキー(Protozoa Pictures)、パウラ・リナレス&マルコス・テレキア(Reagent Media)、リサ・ムスカ(Muskat Filmed Properties)、パクストン・ウィンターズ(Kinomad Productions)、他エグゼクティブ・プロデューサーは割愛
データ:製作国ブラジル=米国、ポルトガル語、2019年、ドラマ、120分、撮影地リオデジャネイロの巨大ファヴェーラ「モッホ・ドス・プラゼーレス」、配給元20世紀FOX
映画祭・受賞歴:第67回サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアル部門、金貝賞(作品賞)、男優賞(ブカッサ・カベンジェレ)、撮影賞(ラウラ・メリアンス)
キャスト:カシア・ナシメント(タチ)、ブカッサ・カベンジェレ(父ジャカ)、デボラ・ナシメント(母アンドレア)、レア・ガルシア(ドナ・プレタ)、Rayane Santos(レティシア)、ホセ・ロレト(ネルソン)、他ファヴェーラの住民多数
ストーリー:13歳になるタチは内向的な少女でリオのファヴェーラに母親と暮らしている。離れて暮らす父親ジャカをよく知らない。しかし騒然としていたリオデジャネイロ・オリンピックが終わると、父親ジャカが刑期を終え14年ぶりに戻ってくるという。一方、ブラジルの警察は貧しい住民が占拠しているファヴェーラ間の平和維持に日夜苦慮していた。ジャカは暴力がらみの犯罪から足を洗い<平和な>男として生きることを決心していたが、ファヴェーラの住民は彼が再びリーダーになることを期待していた。ジャカとタチは、将来の希望を危うくするような対決への道を選ばざるを得なくなるだろう。
テキサス生れの監督パクストン・ウィンターズとブラジルの関係は?
★パクストン・ウィンターズ(テキサス1972)は、アメリカの監督、脚本家、製作者。俳優としてジャッキー・チェンが活躍する香港映画、テディ・チャンの『アクシデンタル・スパイ』(01)に出演しているという異色の監督。ドキュメンタリー「Silk Road ala Turka」は、3人のトルコのカメラマンと中国陝西省の省都西安を出発、キリギス、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン、トルコのイスタンブールまでの「絹の道」を辿る旅を撮った。ラクダのキャラバン隊を組み18ヵ月間かけたロードムービー。
(ドキュメンタリー「Silk Road ala Turka」から)
★2003年、長編映画のデビュー作「Crude」は、ロスアンゼルスFF 2003ドラマティック作品賞、シアトルFFニューアメリカン・シネマ賞を受賞、トリノFFではトリノ市賞にノミネートされた。イラクをめぐる物語「Outside the Wire」は、サンダンスのスクリーンライターズ・ラボで執筆された。またトルコのTVシリーズ「Alacakaranlik(Twilight)」(03~05)も手掛けている。トルコで外国人監督がTVシリーズを手掛けた最初の監督だった。トルコに18年間住んでいた後、ブラジルのリオに移動した。最初数か月の滞在の予定だったが、ファヴェーラのコミュニティに魅せられ、気がついたら7年経っていた。そうして完成したのが『ファヴェーラの娘』だった。「映画のアイディアは3つ、私の役割は、耳を傾けること、観察すること、質問することでした」とSSIFF上映後のプレス会見で語っていた。製作にはダーレン・アロノフスキーとの出会いが大きかった。
(デビュー作「Crude」撮影中のウィンターズ監督)
★総勢10人以上で現地入りしていたクルーは、プレス会見では監督以上に製作者の一人ダーレン・アロノフスキーに必然的に質問が集中した。アロノフスキーによると、『レクイエム・フォー・ドリーム』を出品したイスタンブール映画祭2000でパクストン・ウィンターズと偶然出会って以来の友人関係、当時ウィンターズはジャーナリストとシネアストの二足の草鞋を履いており、CNNやBBCのようなテレビ局の仕事を中東やブラジルで展開していた。Q&Aは英語、ポルトガル語、スペイン語で進行した。既にアメリカ映画に出演し、本作では一番認知度の高い出演者デボラ・ナシメント(サンパウロ1985)は英語も堪能だし、華のある女優なので会場からの質問も多く英語で対応していた。
(パクストン・ウィンターズ、SSIFFプレス会見)
★ジャカ役のブカッサ・カベンジェレBukassa Kabengele(ベルギー1973)は、コンゴ系ブラジル人の歌手で俳優。日本では歌手のほうが有名かもしれない。ベルギー生れなのは、ベルギーがコンゴ共和国独立前の宗主国の一つだったからのようで、父親のカベンジェレ・ムナンガはサンパウロ大学の人類学教授である。SSIFFでは見事最優秀男優賞(銀貝賞)を受賞した。既に帰国してガラには欠席しており、トロフィーは妻を演じたデボラ・ナシメントが受け取った。映画デビューは2001年、アンドレ・ストゥルムの「Sonhos Tropicais」、エクトル・バベンコの『カランジル』(03)、他にTVシリーズの歴史ドラマ「Liberdade, Liberdade」(16、12話)や「Os Dias Eram Assim」(17、53話)に出演している。
(ブカッサ・カベンジェレ)
(最優秀男優賞のトロフィーを受け取るデボラ・ナシメント)
★オーディションで監督の目に留まり、娘タチ役を射止めたカシア・ナシメントCassia Mascimentoをカシア・ジルと紹介しておりました。記事によって2通りあり迷いましたが、IMDbとサンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル公式サイトの後者を採用しました。しかし今回アップするにつき、SSIFF上映後のプレス会見(9月24日)で確認したところ前者だったのです。公式サイトも当てにならないということです。ファヴェーラ出身のスター誕生です。管理人はポルトガル語の発音が正確ではないが、カッシア・ナスィメントゥかもしれない。同姓のデボラ・ナシメントの本邦での表記がナシメントなので揃えることにいたしました。ドナ・プレタ(リオデジャネイロ1933)を演じたレア・ガルシアは86歳、フランスのマルセル・カミュの『黒いオルフェ』(59)でデビュー、セラフィナを演じた女優が現役なのには真底驚きました。今作はカンヌFFのパルム・ドール受賞、アカデミー外国語映画賞を受賞したことで公開された。
(左から、家族を演じたブカッサ・カベンジェレ、カシア・ナシメント、
デボラ・ナシメント、上映前のフォトコール9月24日)
★本作は4つの制作会社が担当しました(上記)。ダーレン・アロノフスキー以外はガラまで受賞を期待して残っておりました。というわけで登壇したのは、パウラ・リナレス、マルコス・テレキア、リサ・ムスカ、パクストン・ウィンターズの4人でした。マルコス・テレキアは『リオ、アイラブユー』(14)の製作者の一人、ブラジル映画祭2015で上映され、後WOWOWで放映された。ほかラウラ・メリアンスが最優秀撮影賞(銀賞)を受賞した。
(左から、ウィンターズ監督、パウラ・リナレス、マルコス・テレキア、リサ・ムスカ)
『列車旅行のすすめ』*ラテンビート2019 ③ ― 2019年10月14日 16:49
アリッツ・モレノのデビュー作『列車旅行のすすめ』はサイコ・スリラー
★今年のラテンビートLBFFは東京国際映画祭TIFF(10月28日~11月5日)との共催上映が3作あるようです。TIFFワールド・フォーカス部門に、アレハンドロ・アメナバルの『戦争のさなかで』とオリヴァー・ラクセの『ファイアー・ウィル・カム』の2作、コンペティション部門にはアリッツ・モレノのデビュー作『列車旅行のすすめ』が入っています(LBFFでは共催作品としていないが、とにかく両方で上映される)。TIFFでは他にハイロ・ブスタマンテの『ラ・ヨローナ伝説』(サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」のコンペ外作品)もエントリーされている。LBFFはまだ全作が発表になっておらず途中経過です。
★さて、『列車旅行のすすめ』はジャンル分けが不可能な映画、一応サイコ・スリラーとしましたが、ブラックコメディでもあり、ホラーの要素もあり、一風変わったラブロマンスも絡まって、まるでロシアの民芸品マトリョーシカ人形のように入れ子になっています。アントニオ・オレフド・ウトリジャOrejudo Utrilla(マドリード1963)のベストセラー小説 ”Ventajas de viajar en tren”(2000年刊)の映画化、アンダルシア小説賞を受賞、ハードカバーの他、ソフトカバー、Kindleキンドルでも読めます。160ページほどの中編、翻訳書は出てないようです。映画は閉幕したばかりのシッチェス(・カタルーニャ)映画祭2019でプレミアされました(10月5日)。
(作家、文芸評論家、大学教授のアントニオ・オレフド・ウトリジャ)
(”Ventajas de viajar en tren” 2015年刊のソフトカバー)
『列車旅行のすすめ』「Ventajas de viajar en tren」
製作:Morena Films / Logical Pictures / Consejería de Cultura Gobierno Vasco /
Movister+/ EITB 他
監督:アリッツ・モレノ
脚本:ハビエル・グジョンGullón (原作)アントニオ・オレフド・ウトリジャ
撮影:ハビエル・アギーレ・エラウソ
音楽:クリストバル・タピア・デ・ベール
編集:ラウル・ロペス
プロダクション・デザイン:ミケル・セラーノ
衣装デザイン:ヴィルジニー・アルバ
メイクアップ&ヘアー:セシリア・エスコ、カルメレ・ソレル、ルベン・サモス(メイク)、オルガ・クルス、(ヘアー)、他
プロダクション・マネージメント:イツィアル・オチョア、ペドロ・サンス、他
録音:アラスネ・アメストイAlazne Ameztoy、イニャーキ・ディエス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、ジョン・セラーノ
視覚効果:セリーヌ・ゴリオCeline Goriot
製作者:レイレ・アペジャニス、メリー・コロメル、フアン・ゴードン、他
データ:製作国スペイン=フランス、スペイン語、2019年、サイコ・スリラー、103分、撮影2018年秋クランイン、公開スペイン11月8日、ロシア2020年1月9日、配給Filmax
映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2019コンペティション部門、ラテンビートFF上映、東京国際映画祭コンペティション部門出品
キャスト:ルイス・トサール(マルティン・ウラレス・デ・ウベダ)、ピラール・カストロ(編集者エルガ・パト)、エルネスト・アルテリオ(精神科医アンヘル・サナグスティン)、ベレン・クエスタ(アメリア・ウラレス・デ・ウベダ)、キム・グティエレス(エミリオ)、マカレナ・ガルシア(ロサ)、ハビエル・ボテット(ガラテ)、アルベルト・サン・フアン(W)、ハビエル・ゴディノ(クリストバル・デ・ラ・ホス)、ジルベール・メルキ(レアンドロ・カブレラ)、ラモン・バレラ(マルティンの父親)、ステファニー・マグニン・ベリャ(ドクター・リナレス)、イニィゴ・アランブル(兵士)、他
(4人の主演者、アルテリオ、カストロ、クエスタ、トサール)
ストーリー:編集者エルガ・パトは、心を病んでいる夫をスペイン北部の精神科クリニックに入院させ、列車でマドリードへ戻る途中だった。アンヘル・サナグスティンと名乗る見知らぬ乗客、人格障害を分析するという精神科医と同じ車両に偶然隣り合わせた。膝の上に赤表紙の紙ばさみを載せた精神科医は、自分が扱った特異な患者の症例、ゴミに執着する非常に危険なパラノイア患者の例を饒舌に語った。アンヘルとの偶然の出会いが、エルガの人生を、いや登場人物全員の人生を取り返しのつかないものにしていく。強迫観念、妄想、倒錯、精神錯乱、凝り性などが何層にも重なり合う一連の予測不可能なプロット、不気味な話を聞けるのが「列車で旅する利点の一つ」、お薦めする次第です。
(精神分析医アンヘル・サナグスティンの話を怪しむエルガ・パト)
(饒舌男アンヘル・サナグスティン医師)
★本作にはいわゆるフツウの人間は登場しない。精神科医が語る患者はフラッシュバックで挿入され、症例も多いから場面展開が目まぐるしいということです。下のポスターからはホラーがイメージされ、予告編では、可笑しな登場人物からブラックコメディが連想できる。エルネスト・アルテリオ演ずるアンヘルは、エルガが夫を入院させたクリニックの医師らしく偶然を装っていたようだ。小説だとピラール・カストロ演ずるエルガが軸になっているようだが、映画ではコソボ戦争に従軍して左腕を失って帰還したパラノイア患者マルティンを怪演するルイス・トサールのようだ。彼のこんなヘアー・スタイルは見たことがない。その妹になるのが演技に磨きのかかったベレン・クエスタ、父親がバスク映画の重鎮ラモン・バレラ、役柄が分からない、アルベルト・サン・フアン、マカレナ・ガルシア、キム・グティエレスなど何かの作品で既にご紹介しています。ホラー映画で活躍するハビエル・ボテット、フランスからはジルベール・メルキが出演している。
(上段左から、ルイス・トサール、ピラール・カストロ、エルネスト・アルテリオ
下段左から、ベレン・クエスタ、キム・グティエレス、マカレナ・ガルシア)
(ゴミの山に思案するアンヘル・サナグスティン医師)
(マカレナ・ガルシアとハビエル・ボテット)
(役回りが目下分からないアルベルト・サン・フアン)
★監督アリッツ・モレノ(TIFFアリツ)Aritz Morenoは、1980年サンセバスティアン生れ、監督、脚本家、編集者、製作者、カメラと何でもこなす39歳。2004年、短編デビュー作「Portal mortal」(9分)が、アルメリア・ショートFFでビデオ賞を受賞、2009年ファンタジー「Cotton Candy」(11分)、2010年「¿Por que te vas ?」(8分)、犯罪スリラー「Cólera / Cholera」(7分)がシッチェスFF 2003短編ファンタジック部門に正式出品、MADホラー・フェスでは審査員賞を受賞、ルイス・トサールが主演している。長編デビュー作「Ventajas de viajar en tren」は、2回目のシッチェスFF出品作となった。
(アリッツ・モレノ監督)
(左から、マカレナ・ガルシア、ルイス・トサール、アリッツ・モレノ監督、
エルネスト・アルテリオ、ベレン・クエスタ、シッチェスFF 2019フォトコール)
★モレノ監督談によると「こういうお気に入りの小説を映画化することが夢だった。映画の絶対的な狂気、独創的な脚本を得て、テクニック面でも素晴らしいクルー、自分のデビュー作にこれ以上はないと考えるキャスト陣にも恵まれ、自分の夢を叶えることが出来た」と語った。キャスト陣を一瞥すれば、あながち大袈裟とは言えない。脚本のハビエル・グジョンは、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー・ミッション』(12)を共同執筆している。撮影監督のハビエル・アギーレ・エラウソは、「Cólera / Cholera」を手掛けている。
(ルイス・トサールと監督)
『猿』がロンドン映画祭で作品賞受賞*ラテンビート2019 ④ ― 2019年10月17日 13:52
アレハンドロ・ランデスの『猿』がロンドン映画祭で作品賞受賞
★例年10月に開催される英国最大規模の映画祭、第63回BFIロンドン映画祭2019(10月2日~13日)が閉幕、オフィシャル・コンペティション部門にノミネートされていたコロンビアのアレハンドロ・ランデスの『猿』(「Monos」)が最優秀作品賞を受賞しました(今年は3作品が受賞)。昨年はクリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラの『夏の鳥』が特別推薦賞(スペシャル・コメンデーション)を受賞しているから、冗談ですがコロンビアは相性がいいのかもしれない。今年は審査委員長が英国のテレビ、ドキュメンタリーや独立系の映画監督ウオッシュ・ウェストモアランドだったので、ランデス監督は秘かに期待してガラまで待機していたのではないか。20年来のパートナーだった故リチャード・グラッツァー(ALSで死去)と共同監督した『アリスのままで』は忘れられない作品でした。
(インタビューを受けるアレハンドロ・ランデス監督、BFIロンドン映画祭にて)
★サンセバスチャン映画祭(ホライズンズ・ラティノ部門)では、個人的に期待していたのですが残念賞でした。ロンドンで受賞できたのはラテンビートにとって嬉しいニュースになりました。年初のサンダンス映画祭以来、ベルリンFFパノラマ部門、カルタヘナFFと、世界の映画祭巡りをしてきたわけで、終盤での受賞は待った甲斐がありました。
グアテマラ映画 『ラ・ヨローナ伝説』 *東京国際映画祭2019 ④ ― 2019年10月20日 18:25
ハイロ・ブスタマンテの第3作『ラ・ヨローナ伝説』がコンペティション部門上映
★デビュー作『火の山のマリア』(15)が公開され、本邦でも幸運なスタートを切ったハイロ・ブスタマンテの第3作目『ラ・ヨローナ伝説』(「La Llorona」)がコンペティション部門にノミネートされました。当ブログではサンセバスチャン映画祭2019「ホライズンズ・ラティノ部門」で第2作目「Temblores」を紹介、第3作はクロージング作品ではあったがコンペ外ということで割愛しました。ラテンアメリカ諸国で現在に至るまで語り継がれてきた「ラ・ヨローナ(泣く女)」の伝説を取り込んで、1980年代グアテマラに吹き荒れた先住民ジェノサイドを告発する社会派スリラーです。いわゆるファンタジー・ホラーではないが、その要素を内包しながら、30年後によみがえる先住民女性たちの復讐劇でもあるようです。
(ハイロ・ブスタマンテ監督、ベネチア映画祭2019「ベニス・デイズ」にて)
*デビュー作『火の山のマリア』の作品紹介は、コチラ⇒2015年08月28日/10月25日
*第2作「Temblores」の監督キャリア&作品紹介は、コチラ⇒2019年08月19日
『ラ・ヨローナ伝説』(「La Llorona」「The Weeping Woman」)2019年
製作:El Ministerio de Cultura Y Deportes de Guatemala / La Casa de Producción / Les Films du Volcan
監督・脚本:ハイロ・ブスタマンテ
撮影:ニコラス・ウォン
音楽:パスクアル・レイェス
編集:ハイロ・ブスタマンテ、グスタボ・マテウ
プロダクション・デザイン:セバスティアン・ムニョス
助監督:メラニー・ウォルター
製作者:ハイロ・ブスタマンテ、グスタボ・マテウ、その他
データ:製作国グアテマラ=フランス合作、スペイン語、マヤ語(カクチケル、イシル)、2019年、スリラードラマ、97分
映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2019「ベニス・デイズ」出品、作品賞Fedeora賞、GdA監督賞受賞、トロントFF、ミラノFF、エル・グーナFF(エジプト)、ベルゲンFFシネマ才能賞受賞、サンセバスティアンFF「ホライズンズ・ラティノ部門」ヨーロッパ⋍ラテンアメリカ協業作品賞受賞、チューリッヒFF「ヒューチャー・フィルム部門」、ロンドンFF、ヘントFF、シカゴFF、東京国際FFコンペティション部門、ストックホルムFFなど各映画祭に出品または出品予定。
キャスト:マリア・メルセデス・コロイ(アルマ)、サブリナ・デ・ラ・ホス(ナタリア)、マルガリタ・ケネフィック(カルメン)、フリオ・ディアス(退役将軍エンリケ・モンテベルデ)、マリア・テロン(バレリアナ)、フアン・パブロ・オリスラガーOlyslager(レトナ)、アイラ・エレア・ウルタド(サラ)、ペドロ・ハビエル・シルバ・リラ(警察官)、他
ストーリー:「お前が泣けば殺してしまうよ」という言葉が耳に響いてくる。アルマと彼女の子供たちはグアテマラの武力紛争で殺害された。そして30年後、ジェノサイドを指揮した退役将軍エンリケに対する刑罰訴訟の申立てが開始された。しかし裁判は無効となり、彼は無罪放免となった。ラ・ジョローナの魂は解き放たれ、生きている人々のあいだを彷徨い歩く亡霊のようになった。ある夜のこと、エンリケは泣き声を耳にするようになる。妻と娘はエンリケがアルツハイマー認知症になったのではないかと疑い始める。新しく雇われた家政婦アルマは、正義がなされなかった復讐を果たすためエンリケの家にやって来たのだ。1982年から83年にかけて、1ヵ月に3000人のペースでマヤ族を殺害したという先住民ジェノサイドを告発する社会派スリラー。
グアテマラ先住民ジェノサイドとジョローナ伝説のメタファー
★36年間吹き荒れたグアテマラの武力抗争(1960~1996)は、最初はイデオロギー対立で始まったのだが、ある時期からマヤ先住民ジェノサイドに変容する。それが1970年代終りから80年代前半にあたり、当時の指揮官がリオス・モント将軍、作品ではエンリケ・モンテベルデ将軍、約20万人とも調査が進むなかで25万人ともいわれる犠牲者のうち15万人が、この時期に集中して殺害されたという。うち女性が5分の4というのが何を意味するのか、ジェノサイドといわれる所以です。30年後というのが現在を指すようです。同胞セサル・ディアスの「Nuestras madres」(カンヌFFカメラドール受賞)も同時代を背景に同じテーマを扱っている。まだ真相は解明されたとは言えず、真の意味の和解はできていない。社会再生への道程は長い。
*セサル・ディアスの「Nuestras madres」の紹介記事は、コチラ⇒2019年05月07日
(エンリケの自宅前で抗議の声を上げる女性たち、映画から)
★マヤ語は21種類あり、本作で使用されたカクチケル語は、『火の山のマリア』でも使用されていた比較的話者の多いマヤ語の一つ。マヤ語使用者が人口の60%あるというのもジェノサイドの遠因の一つかもしれない。ラテンアメリカ諸国に生き残っている <ラ・ヨローナ伝説> は、メキシコから南米のアルゼンチン、チリまで、国によって、地域によって少しずつ異なるが存在する。表記は <ジョローナ伝説> のほうが一般的かと思われる(llo-の発音は地域によって違いがあるが、リョあるいはジョに近い)。ストーリーにも違いがあり、共通項は女性が高位の男性に思いを寄せ子供を生むが、いずれ捨てられて子供を水辺に沈めて自分も死のうとするが死にきれず、後悔と自責の念に駆られて彼の世と此の世を亡霊のように彷徨うというもの。水辺は川、湖、海などのバリエーションがあり、女性は先住民、女性より高位の男性とはヨーロッパから来た白人というケースが多い。この伝説のメタファーは簡単ではない。
(映画『ラ・ヨローナ伝説』から)
★キャスト陣に触れると、アルマ役のマリア・メルセデス・コロイは、『火の山のマリア』で主役のマリアを演じたほか、メキシコのTVシリーズ「Malinche」で征服者コルテスの通訳マリンチェを演している。メキシコではマリンチェは同胞を裏切りスペイン側についた極悪人の烙印を押されていたが、昨今では当然のことながら再評価が行われている。マリンチェはコルテスに献上された贈り物で、裏切りの代名詞とはかけ離れている。アステカ王国のナワトル語、マヤ語、スペイン語を駆使した聡明な女性で、コルテスとのあいだに男児を設けているが認知されていない。彼女も子殺しはしなかったがラ・ジョローナの一人である。他にこの秋公開されるポール・ワイツの『ベル・カント とらわれのアリア』(18、米国)でテロリストの一人になる。渡辺謙やジュリアン・ムーアとの共演はプラスに働くだろう。
(アルマ役のマリア・メルセデス・コロイ、映画から)
★『火の山のマリア』でマリアの母親を演じたマリア・テロンは、数少ないプロの女優の一人だった。先住民の知識に乏しかったブスタマンテ監督にマヤの文化や伝統を伝える役目を果たして脚本の書き直しに寄与している。またカクチケル語とスペイン語ができたことから、監督とスペイン語を解さない出演者たちのまとめ役でもあった。第2作目「Temblores」とブスタマンテ全作に出演している。
(家政婦アルマのマリア・メルセデス・コロイとマリア・テロン、映画から)
(マリア・テロンとマリア・メルセデス・コロイ、『火の山のマリア』から)
★「Temblores」の主任司祭役で映画デビューしたサブリナ・デ・ラ・ホスは、そのスタニスラフスキー・メソッド仕込みの演技力で注目を集めている。エンリケの娘ナタリアは教養の高い医師、父親の過去を知って苦しむ。プロの体操選手になることが夢だった少女は、長じてアートに目覚め体操を断念、ジョージア州のサヴァンナ大学で芸術史を専攻、かたわら写真、グラフィックデザインも学ぶ。ジョージア、アトランタ、グアテマラ、パナマなどでデザイナーの仕事をしているが、スタニスラフスキー・メソッドも学んでいる。2作品の出演だから評価はこれから。
(エンリケの娘ナタリア役のサブリナ・デ・ラ・ホス、映画から)
(ベルリン映画祭2019「Temblores」のサブリナ・デ・ラ・ホス)
★エンリケ・モンテベルデ将軍役のフリオ・ディアスは本作で映画デビュー、フアン・パブロ・オリスラガーは、「Temblores」の主役パブロを演じた俳優、ペドロ・ハビエル・シルバ・リラも「Temblores」にバーテンダー役で出演しているなど、両作に出演している俳優が多い。
(エンリケ将軍役フリオ・ディアスを採用したポスター)
★編集と製作を監督と共同で手掛けたグスタボ・マテウは、監督、脚本家、編集者、製作者。『火の山のマリア』の配給を手掛けている。本作の製作を担当した La Casa de Producciónの総マネジャーとして、ブスタマンテ監督と共に働いている。ベネチア映画祭2019「ベニス・デイズ」に授賞式まで残り、GdA(Giornate degli Autori)監督賞受賞(副賞2万ユーロ)のトロフィーを代わりに受け取った。
(GdA監督賞受賞のトロフィーを手にしたグスタボ・マテウ)
★TIFF での上映は3回、10月31日、11月3日、11月5日、チケット発売中。ハイロ・ブスタマンテ監督が来日、Q&Aがアナウンスされている。
追記:2020年7月、『ラ・ヨローナ~彷徨う女~』の邦題で公開されました。
『ファイアー・ウィル・カム』*ラテンビート2019 ⑤ ― 2019年10月23日 15:46
悪人と蔑まれている人間を救済するための許しと家族愛の物語
(オリジナル版ガリシア語ポスター「O que arde」)
★カンヌ映画祭2019「ある視点」で審査員賞を受賞、以来カルロヴィ・ヴァリ、エルサレム、ポーランドのニュー・ホライズンズ、サラエボ、トロント、サンセバスティアン、テッサロニキ、モスクワ、チューリッヒ、ニューヨーク、釜山、ロンドン、シカゴ、などの各映画祭をめぐって、東京&ラテンビートへやってきました。秋の映画祭上映を期待して、かなり詳しい記事をアップしてきた甲斐がありました。タイトルもガリシア語、スペイン語「Lo que arde」、フランス語、英語と、その都度二転三転しながら紹介してきましたが、英語タイトル『ファイアー・ウィル・カム』に落ち着きました。しかし監督名Oliver Laxe のカタカナ表記がオリヴァー・ラクセ(パリ1982)はどうでしょうか(当ブログではオリベル・ラセまたはオリベル・ラシェで紹介)。苗字のLaxe(西語Lage)はルゴ出身の母親の姓で、ガリシア語ではラシェ、パリ生れですが5~6歳ごろに母親の故郷に戻っているガジューゴです。
*ガリシア語題「O que arde」で作品紹介、コチラ⇒2019年04月28日/05月29日
(監督、アマドール・アリアス、ベネディクタ・サンチェス、カンヌFF 2019にて)
★フランスの9月公開に続いて、スペインでも10月11日に公開された。各紙のコラムニストからは「これはいったい我々は何を見てるんだ、あんぐり口を開けたまま、鳥肌が立ち、心臓がバクバクした」と、その映像の力に驚いたコメントが寄せられている他、監督インタビュー記事も掲載された。「私と仲間は、既にロシア、イスラエル、トロント、サンセバスティアンなどで上映してきました。既にフランスでは公開され、スペインでも好意的な反応が得られた作品だと思います。それは本作がスペインで撮影した最初の映画ということ、前の2作にあった複雑さ、多義性、曖昧さを回避してバランスをとり、より多くの人々に開かれたものとしたからです。観客の心に残る長続きするエモーショナルな映画を心掛けてきましたが、現在ではよりクラシカルな物語性を付け加えました。それで正解でした」と語った。
(放火犯アマドール、映画から)
★ロシアのガレージ・ミュージアム・モスクワで特別上映したとき、観客は祖母について語り、カナダのトロントFFではパン切りについて語った。それぞれ観客は映画の中に何かを捕まえることができた。それは知識人が持っていない何かです。監督は軌道修正したことが正しかったと確信したようです。放火魔アマドールが告白した愛は、出所した後に故郷に戻って老いた母親と一緒に暮らすことだった。「私たちのうち何人が85歳になる母親の世話に戻るでしょうか、少ないです」と監督。これは前にも書いたように「辛口のメロドラマ」なのでしょう。
(撮影中のアマドール・アリアス、ベネディクタ・サンチェス、監督)
山火事のシーンはオーレンセで実際に起きた山火事のドキュメンタリー
★予告編からも山火事のシーンは鳥肌が立ちますが、これは2017年ガリシア州の中央部に位置する県都オーレンセ(西語オレンセ)で実際に起きた山火事を、本作のためにドキュメンタリーとして撮影したということです。撮影は15日間に及んだ。気候温暖化のせいもあって、スペインに止まらずポルトガル、米国、世界各地で規模の大きい山火事が起きている。
(撮影班を組んで15日間にわたって撮影したオーレンセの山火事)
★およそ2メートルという長身の監督の人生も変わりました。ルゴに戻り、コミュニティと協力して教育や演劇のプロジェクトを立ち上げている。次の脚本、モロッコである祭りを探している人々を主人公にしたロードムービーを構想中だそうです。『イージーライダー』や『マッドマックス』の中間だそうで、今度はプロの俳優を起用する由、ハイカルチャーとポピュラー・カルチャーのカクテルのような映画が好きだし、「傷ついた」人に心が動かされるとも語っている。
(撮影中の監督と主役のアマドール・アリアス)
★東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映2回。ラテンビート未定。
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