フェデリコ・ベイローの第5作*サンセバスチャン映画祭2019 ㉑2019年09月16日 13:19

      ホライズンズ・ラティノ第7弾――フェデリコ・ベイローの「Así habló el cambista

 

      

        (ダニエル・エンドレルとルイス・マチンを配したポスター

   

★ウルグアイのフェデリコ・ベイロー(モンテビデオ1976)の第5Así habló el cambistaは、軍事政権が幅を利かせた1970年代を背景にしたスリラー仕立てのブラック・コメディ。主人公は投資家や旅行者にドルを売買するだけでなく資金洗浄にも手を染める両替商、たったこれだけの情報である程度ストーリーが読めてしまう。約30年前に出版されたフアン・エンリケ・グルベル同名小説の映画化です。前作Belmonteが昨年のサバルテギ-タバカレラ部門に出品された折り、次回作は「El cambista」とご紹介した作品です。結局小説と同じタイトルになったようです。本邦でもデビュー作『アクネ ACNE08)が公開され、3El Apóstata15)が邦題『信仰を捨てた男』としてNetflixにストリーミング配信されるなど、地味だがコアなファンが多い。ミニマリストの監督と言われるベイローが、ブラック・コメディとスリラーのあいだを振り子のように行ったり来たりしながら、家族ドラマという新しい分野に進出したようです。

Belmonte」紹介と監督キャリア&フィルモグラフィーについては、コチラ20180803

 

         

             (フェデリコ・ベイロー監督)

 

 

Así habló el cambista / The Moneychanger

製作:Oriental Features / Rizona Films

監督:フェデリコ・ベイロー

脚本:フェデリコ・ベイロー、アラウコ・エルナンデス・オルス、マルティン・マウレギ

原作:フアン・エンリケ・グルベルの同名小説「Así habló el cambista

音楽:エルナン・セグレト

撮影:アラウコ・エルナンデス・オルス

編集:フェルナンド・フランコ、フェルナンド・エプステイン

美術:パブロ・マエストレ・ガリィ

録音:カトリエル・ビルドソラ

特殊効果:マリアノ・サンテリィ

製作者:ディエゴ・ロビノ、サンティアゴ・ロペス・ロドリゲス、他多数

 

データ:製作国ウルグアイ、アルゼンチン、ドイツ、スペイン語、2019年、ブラック・コメディ、97分、撮影はウルグアイ。公開:アルゼンチン、ウルグアイ、メキシコ2019926

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019プラットフォーム部門、ウルグアイ・ベリャ・ウニオン、サンセバスチャン映画祭2019ホライズンズ・ラティノ部門、第57回ニューヨーク映画祭2019などに正式出品

 

キャスト:ダニエル・エンドレル(ウンベルト・ブラウセ)、ドロレス・フォンシ(妻グドルン)、ルイス・マチン(舅シュヴァインシュタイガー氏)、ベンハミン・ビクーニャ(ハビエル・ボンプランド)、ヘルマン・デ・シルバ(モアシール)、ホルヘ・ボラニ、エリサ・フェルナンデス、アレハンドロ・ブッシュ、セシリア・パトロン、他

 

ストーリー1975年モンテビデオ、ウルグアイの地域経済は多くの日和見主義者たちを惹きつけていた。社会は軍事独裁政権によって壊滅状態だった。反体制派の面々は刑務所に閉じ込められ、経済活動は隣国アルゼンチンやブラジルの支配下にあった。ウルグアイの金融市場は、お金を雲散霧消させるには格好の場所のようだった。折も折りウンベルト・ブラウセは、資金洗浄のベテランである舅シュヴァインシュタイガーの後押しをえて外貨売買のキャリアを積んでいく。ある運命的な出会いによって目が眩んだウンベルトはのっぴきならない状況に追い込まれ、今までの人生でついぞ経験したことのない危険で大掛りなマネーロンダリングを引き受けることになる。汚い家族ビジネスのみならず、裏切り、詐欺、汚職がスリラー仕立ての家族ドラマとして、フラッシュバックしながら語られる。

           

 

     アンチ・ヒーロー、ウンベルト・ブラウセにダニエル・エンドレルが挑む

 

98日にトロント映画祭で上映されたので、ぼちぼちコメントが寄せられると思いますが、取りあえずそれは置いといて、フェデリコ・ベイローの第5作は過去の作品とは一味違うと言っても外れじゃない。ウンベルトとシュヴァインシュタイガー氏は、ビジネスでは教師と生徒の関係で始まる。最初は手ほどきとして投資家やツーリストたちにドルの売買をする両替商としてスタート、次第に政治家や時の権力者の資金洗浄に手を染めていく。完璧なアンチ・ヒーローのウンベルトを演じるのは、監督と同郷のダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976)、若干細目になってビジネス・スーツで決めている。本邦ではアルゼンチン映画だが古くはダニエル・ブルマン『僕と未来とブエノスアイレス』04)、直近ではアドリアン・カエタノ『キリング・ファミリー 殺し合う一家』に主演、2作とも公開された。俳優だけでなく監督デビューもしている。

『キリング・ファミリー~』とダニエル・エンドレルの紹介は、コチラ20170220

 

          

         (ウンベルト・ブラウセに扮したダニエル・エンドレル)

 

★デビュー作『アクネ ACNE』や『信仰を捨てた男』でもブラック・ユーモアが横溢していたが、新作でも健在のようです。1975年が中心だが、フラッシュバックで同じ軍事独裁時代の1956年、1962年、1966年が語られる。冷戦の煽りをうけてウルグアイだけでなく南米諸国はアルゼンチン、チリ、ブラジルと同じようなものだった。ウンベルトの指南役で舅を演じるアルゼンチンの俳優ルイス・マチン(ロサリオ1968)は、TVシリーズが多いのでアルゼンチンでは知られた顔です。映画では前述したアドリアン・カエタノの代表作Un oso roja02)に準主役で出ている他、ミュージシャンのフィト・パエスが当時結婚していたセシリア・ロスのために撮った『ブエノスアイレスの夜』01)に出演、共演者のガエル・ガルシア・ベルナルとドロレス・フォンシが、長続きしなかったが結婚したことでも話題になった。チリのアンドレス・ウッド『ヴィオレータ、天国へ』11)では、ヴィオレータにインタビューする記者を演じた。

 

       

    (女婿ウンベルトの御指南役のルイス・マチンとダニエル・エンドレル、映画から)

 

★ウンベルトの妻グドルンを演じたドロレス・フォンシ(アドログエ1978)は、当ブログでは何回も登場してもらっている。2014G. G.ベルナルと離婚した後、サンティアゴ・ミトレ『パウリーナ』15)で主役に抜擢され、撮影中に婚約した。同監督の『サミット』17)ではリカルド・ダリン扮するアルゼンチン大統領の娘役、セスク・ゲイ『しあわせな人生の選択』17)ではダリンの従妹役に扮した。物言う女優の代表格、新作の冷ややかで欲求不満のかたまり、情け容赦もなく陰で糸を引くグドルン役を非の打ちどころなく演じたと高評価です。

『パウリーナ』の記事は、コチラ20150521

『サミット』の記事は、コチラ201705181025

『しあわせな人生の選択』の記事は、コチラ20170804

   

        

                        

                        (夫婦を演じたダニエル・エンドレルとドロレス・フォンシ)

 

ヘルマン・デ・シルバが演じたモアシールの立ち位置がよく分からないが、アルゼンチンでは認知度の高いベテラン、ダミアン・ジフロン『人生スイッチ』14)の第5話「愚息」の庭師役でアルゼンチン・アカデミー助演男優賞を受賞、資産家の愚息が起こした妊婦轢逃げ犯の身代わりを50万ドルで請け負うが、弱みに付け込んで値段を釣り上げ、ご主人を強請るという強者に変身する役でした。当ブログで登場させたサンティアゴ・エステベスLa educación del Rey17)では、自宅に泥棒に入った少年レイを更生させようとする退職したばかりの元ガードマンを演じた。他にルクレシア・マルテル『サマ』にも出演している。

『人生スイッチ』の主な記事は、コチラ20150729

La educación del Rey」の記事は、コチラ20170917

 

        

            (ヘルマン・デ・シルバとダニエル・エンドレル、映画から)

 

★映画製作のみならずウルグアイとアルゼンチンは切っても切れない関係にある。監督と主役のエンドレルはウルグアイ出身だが、どちらかというとアルゼンチンの俳優が多勢、ウルグアイの映画市場は国土も含めて狭く、1国だけでは食べていけないということでしょう。


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