「Black Beach」 エステバン・クレスポの新作*ゴヤ賞2021 ⑬2021年02月27日 16:32

              アフリカで暗躍する石油カンパニーのアクション・スリラー

 

   

 

エステバン・クレスポの新作Black Beachは、ゴヤ賞ノミネート6カテゴリーと大いに気を吐いています。撮影・編集・美術・プロダクション・録音・特殊効果賞と地味な部門だが、マラガ映画祭上映後、1ヵ月後には公開されている。Netflixが絡んでおり、フランスの1月を皮切りに23日にはアメリカ、イギリスなど各国で既に配信が始まっております。日本はまだ準備中とかで待たされていますが、言語を選んで視聴できます。詳細はそれからにしたいが、ラウル・アレバロカンデラ・ペーニャ、チリのパウリーナ・ガルシアの他、アレバロのパートナーであるメリナ・マシューズがドラマでも夫婦役を演じています。一応データ、キャスト、ストーリーをご紹介しておきたい。 

          

      (エステバン・クレスポ監督、マラガ映画祭2020のフォトコールから)

 

 Black Beach

製作:LAZONA Films / David Naranjo Villalonga / Crea SGR / Scope Pictures /

    Nectar Media / Macaronesia Films / Nephilim Producciones  協賛RTVE、ICAA

監督:エステバン・クレスポ

脚本:エステバン・クレスポ、ダビ・モレノ

音楽:アルトゥーロ・カルデルス

撮影:アンヘル・アモロス

編集:ミゲル・ドブラドフェルナンド・フランコ

美術・プロダクション・デザイン:モンセ・サンス

プロダクション・デザイン:カルメン・マルティネス・ムニョス

プロダクション・マネージメント:ハルナ・セイドゥ、マクロード・アイス・インプライム、他

キャスティング:パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ、アナ・サインス=トラパガ

録音:コケ・F・ラエラセルヒオ・テストンナチョ・ロヨ・ビリャノバ

特殊効果:ラウル・ロマニリョスジャン=ルイ・ビリヤード

製作者:ダビ・ナランホ、(エグゼクティブ)ヘスス・ウリェド・ナダル、コンチャ・カンピンス(マドリードGhana)、ダビ・ラゴニグ(ベルギー)、他

 

データ:製作国スペイン=ベルギー=米、スペイン語・英語、2020年、アクション、政治スリラー、115分、撮影地グラン・カナリア、マドリード、ガーナ共和国、ブリュッセル、撮影期間201959日~71日、公開スペイン2020925日。ネット配信は20211月仏、2月伊、米、英などで開始。

映画祭・受賞歴:マラガ映画祭セクション・オフィシアル(823日上映)、ゴヤ賞20216カテゴリーにノミネーション(36日発表)

 

キャスト:ラウル・アレバロ(カルロス・フステル)、パウリナ・ガルシア(カルロスの母エレナ)、カンデラ・ペーニャ(NGOアレ/アレハンドラ)、クロード・ムスンガイ(グラハム)、バブ・チャム(ギジェルモ・ムバ将軍)、リディア・ネネ(ルシア)、メリナ・マシューズ(カルロス妻スーザン)、エミリオ・ブアレ(大統領の息子レオン)、ムーリー・ジャルジュ(グレゴリオ・ンドング大統領)、アイダ・Wellgaya(カルロスの元恋人アダ)、ジミー・カストロ(カルロスの友人カリスト・バテテ)、テレシタ・エブイ(アダの母親)、ダイロン・タジョン(カリストJr.)、フェンダ・ドラメ(アレの助手エバ)、オリビエ・ボニ、フレッド・アデニス(ダグラス)、ジョン・フランダース(ドノバン)、ルカ・ぺロス、ジュリアス・コッター(ONU職員ロナルド)、アンバー・シャナ・ウィリアムズ(アフリカ人記者)、その他大勢

 

ストーリー:カルロス・フステルは、アメリカの石油カンパニーのスペインCEOに昇進したばかり、8ヵ月になる身重の妻スーザンと国連のベテラン外交官の母親とベルギーのブリュッセルで暮らしている。贅沢三昧の上流階級に属しているが会社の共同経営者になることを期待している。妻により豊かな生活が送れるようニューヨークへの移住を計画している。そんな折も折、はるか彼方のアフリカの島国でカンパニーの技術者が、カルロスの古い友人カリスト・バテテによって誘拐される事件が起き、調停役としてカルロスに白羽の矢が立った。かつて暮らしていたアフリカに飛び、ンドング大統領の息子レオン所有の家に居を定める。スペインNGOの協力者アレと再会するが、想像以上の危険なミッションであることが分かる。元恋人のアダがカリストと結婚して息子がいること、ブラック・ビーチ刑務所に収監されていることを突き止めるカルロス。政治的対立で起きた誘拐事件は何百万もの契約を危険に晒すことになる。

ゴチック体はゴヤ賞ノミネーションを受けている印。

 

 

        タイトル「Black Beach」は赤道ギニアの最恐の刑務所の名前

 

★タイトルのBlack Beachブラック・ビーチというのは、かつての植民地時代にアフリカ中部に位置する赤道ギニア共和国の首都マラボに建設された刑務所の名前、スペイン語でPlaya Negraと言い、地下牢のある世界でも最恐の刑務所の一つであった。独立前はスペイン、フランス、ポルトガルが宗主国、従って現在の公用語も3語である。現大統領テオドロ・オビアン・ンゲマが当時の刑務所長でした。常に即決裁判、政治的な反主流派に対しては残酷な拷問などを科した。

    

★クレスポ監督がこのタイトルを選んだのは、現在でも金権政治を行っているとか暴君であるとか明白ではないにしろ、符合する事実もあるからです。というのも2016年副大統領に就任した息子が高級車に目がなく、2019年スイス検察の公金横領事件の捜査打ち切りの司法取引に応じて高級車25台を没収され競売にかけられた事件が報じられた。背景には石油の利権に群がる欧米の強国が片棒を担いでいる。

 

★スリラーであることから結末を書くことは控えたいが、遠いアフリカの小国を背景に登場人物が入れ乱れ、政治的、部族的対立、ONUの画策などが複雑に絡み合ってアクション映画では一概に括れない。有能なビジネスマンがセンチメンタルな過去と向き合う倫理的なメロドラマの部分もあり、加えて家族の相克、無実の民の死屍累々、親しい友人の死など、テーマは盛りだくさんです。ヤッピー世代のオデュッセイア、カルロスは無事に帰還できるのか。

 

             

           (カルロスとグラハム役のクロード・ムスンガイ)

 

★過去にも同じようなテーマを扱った映画はかなり多い。アフリカで暗躍する多国籍企業をテーマにしたジョン・ル・カレの小説の映画化、フェルナンド・メイレレスの『ナイロビの蜂』05)では、レイチェル・ワイズがアカデミー賞助演女優賞を受賞した。同じ年には舞台は中東の架空の国シリアナの石油利権をめぐる陰謀を描いたスティーヴン・ギャガンの政治スリラー『シリアナ』も製作され、こちらはCIA工作員役のジョージ・クルーニーがアカデミー賞&ゴールデン・グローブ賞の助演男優賞を受賞している。

 

ラウル・アレバロは、1979年マドリード近郊のモストレス生れの監督、俳優。キャリア&フィルモグラフィーは、2016年の初監督作品Tarde para la ira邦題『物静かな男の復讐』でアップしています。彼は本作でゴヤ賞2017新人監督賞を受賞している。バツグンの演技で存在感を示したカンデラ・ペーニャイシアル・ボリャインLa boda de Rosaで主演女優賞にノミネーションされています。スーザン役のメリナ・マシューズ(バルセロナ1986)は、アレバロの現パートナーということですが、以前のアリシア・ルビオとは別れたようですね。

ラウル・アレバロの主な紹介記事は、コチラ20170109

 

     

     

          (ラウル・アレバロとカンデラ・ペーニャ、映画から)

 

★監督紹介:エステバン・クレスポは、1971年マドリード生れ、監督、脚本家、2012年に撮った短編6作目Aquel no era yo25分)が、米アカデミー賞2014にノミネートされたことで、オスカー賞ノミネート監督としばしば紹介される。本作はゴヤ賞2013短編映画賞受賞の他、マラガ映画祭2012銀のビスナガ短編賞CinEuphoria2014、メディナ映画祭ほか、国内外の受賞歴を誇る。アフリカの少年兵の記事にインスパイアされて製作した。英語の分かる子供たちを選んで起用、アフリカを再現しているが、実際の撮影はトレドとその近郊の農場で、新作と同じアンヘル・アモロスが手掛けた。

  

       

                   (ゴヤ賞2013短編映画賞のトロフィーを手にした監督

    

       

       (アフリカの少年兵をテーマにしたAquel no era yo」のポスター

 

★短編の受賞歴は以下の通り:

2005年「Amar」ポルト短編映画祭2006大賞受賞

2009年「Lala」メディナFF観客賞、ラルファス・デル・ピ映画祭監督賞ほかを受賞

2011年「Nadie tiene la culpa」ラルファス・デル・ピFF観客&脚本賞、

    モントリオール映画祭2011審査員賞を受賞

2012Aquel no era yo」上記

 

★長編デビュー作Amarはマラガ映画祭2017にノミネートされ、本邦では『禁じられた二人』という全く意味不明の邦題でNetflixで配信された。ない知恵を絞らないで欲しい。2005年に同タイトルで短編を撮っている。個人的には評価できなかったので紹介を断念したが、功績は新人マリア・ペドラサとポル・モネンを世に送り出したこと。新作が第2作目になります。

 

            

              (長編デビュー作Amar」のポスター

  

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