カルロス・レイガダス、6年ぶりの新作*サンセバスチャン映画祭2018 ⑯ ― 2018年09月02日 15:54
レイガダス一家総出演で「Nuestro tiempo」―ホライズンズ・ラティノ第2弾
★2012年の『闇のあとの光』の後、カルロス・レイガダスは新作がなかなか完成しませんでしたが、沈黙していたわけではなく、2016年のベルリンやカンヌのフィルムマーケットではワーキングタイトル「Where Life is Born」が噂になっていた。予定していた今年のカンヌに間に合わなかったのか、ベネチア映画祭2018でワールドプレミアされることになった。最終的にタイトルは「Nuestro tiempo」(「Our Time」)になりました。他にトロント映画祭「マスターズ」部門上映も決定しています。デビュー作『ハポン』(02)以来、レイガダスを支えている制作会社Mantarraya Produccionesのハイメ・ロマンディアと、監督自身のNoDream Cinema が中心になって製作された。
*追記:東京国際映画祭2018「ワールドフォーカス」部門上映決定、邦題『われらの時代』
(ワーキングタイトル「Where Life is Born」のポスター)
「Nuestro tiempo」(「Our Time」)2018
製作:Mantarraya Producciones / NoDream Cinema / Bord Cadre Films / Film i Väst / Snowglobe Films / Le Pacto / Luxbox / Mer Films / Detalla Films
監督・脚本・編集・製作:カルロス・レイガダス
編集:(共)カルラ・ディアス
撮影:ディエゴ・ガルシア
プロダクション・デザイナー:エマニュエル・Picault
衣装デザイン:ステファニー・ブリュースターBrewster
録音:ラウル・ロカテッリ
製作者:ハイメ・ロマンディア、(以下共同製作者)エバ・ヤコブセン、ミケル・Jersin、アンソニー・Muir、カトリン・ポルス
データ:製作国メキシコ・仏・独・デンマーク・スウェーデン、スペイン語・英語、2018年、ドラマ、173分
映画祭:ベネチア映画祭コンペティション部門(上映9月5日)、トロント映画祭「マスターズ」部門(同9月9日)、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品作品
キャスト:カルロス・レイガダス(フアン)、ナタリア・ロペス(エステル)、フィリップ・バーガーズ(フィル)、ルートゥ・レイガダス、エレアサル・レイガダス
物語:闘牛用の牛を飼育しているある家族の物語。エステルは牧場を任されていおり、夫のフアンは世界的に有名な詩人であると同時に動物の選別や飼育をしている。エステルがフィルと呼ばれるアメリカ人の馬の調教師と恋に落ちると、夫は嫉妬心を抑えられない。夫婦は感情的な危機を乗りこえるために闘うことになる。
★目下のところ情報が少なくて(わざと伏せているのでしょうか)、こんなありきたりの筋書で173分も続くのかと不安ですが、そこは一筋縄ではいかないレイガダスのことだから、幾つも秘密兵器が隠されているのではないかと期待しています。監督自身が夫フアン役、いつもは編集を手掛けている監督夫人ナタリア・ロペスが妻エステルを演じている。ルートゥとエレアサルは夫妻の実子、前作『闇のあとの光』にも出演していた。6年経っているからかなり大きくなっている。
★ベネチア映画祭公式作品紹介の監督メッセージによると「私たちが誰かを愛しているとき、彼女または彼の幸福安寧をなによりも望んでいるでしょうか。あるいは、そのような寛大な無条件の行為は、自分にあまり影響を与えない程度のときだけでしょうか。要するに、愛は相対的な問題なのではないか?」とコメントしています。
(カルロス・レイガダス)
★ハイメ・ロマンディアJaime Romandia は、『ハポン』(02、カンヌFFカメラドール受賞)、『バトル・イン・ヘブン』(05、カンヌFFノミネート)、『静かな光』(07、カンヌFF審査員賞受賞)、『闇のあとの光』(12、カンヌFF監督賞受賞)とレイガダスの全作を手掛けている。ほか『ハポン』で助監督をつとめたアマ・エスカランテのデビュー作『サングレ』(04、カンヌFF「ある視点」国際映画批評家連盟賞受賞)、『よそ者』(08)、『エリ』(13、監督賞受賞)、『触手』(16、ベネチアFF監督賞受賞)、アルゼンチンの監督リサンドロ・アロンソの『約束の地』(14、カンヌFF国際映画批評家連盟賞)など、三大映画祭の話題作、受賞作をプロデュースしている。
★ナタリア・ロペスNatalia Lópezは、映画編集、製作、脚本、監督。今回本作で女優デビュー。レイガダスの『静かな光』、『闇のあとの光』、アマ・エスカランテの『エリ』、リサンドロ・アロンソの『約束の地』などの編集を手掛けるほか、短編「En el cielo como en la tierra」(06、20分)を撮っている。
(エステル役のナタリア・ロペス、映画から)
★フィリップ・バーガーズPhil (Philip) Burgersは、アメリカの俳優、脚本家、プロデューサー。代表作はアメリカTVシリーズ「The Characters」(16、全8話)の1話に出演、脚本、エグゼクティブプロデューサーとして製作も手掛ける。本作は『プレゼンツ:ザ・キャラクターズ』としてNetflixで配信されている。アメリカン・コメディ「Spivak」(18)など。レイガダスはプロの俳優は起用しない方針と思っていたが、そういうわけではなかったようです。
(フィル役バーガーズとフアン役のレイガダス、映画から)
★評価の分かれた第4作『闇のあとの光』は、カンヌ映画祭2012の監督賞受賞作品。全員一致の受賞作品は皆無だそうですが、最も審査員の意見が割れたのがレイガダスの監督賞受賞だった。カフェでは13年振りに戻ってきたレオス・カラックスに上げたかったようだ。個人的にはメディアの悪評にレイガダスはあり得ないと思っていたが、審査委員長ナンニ・モレッティによると「レイガダス、カラックス、ウルリッヒ・サイドルの三人に意見が分かれた。結局アンドレア・アーノルド監督がレイガダスを強く推して決まった」と。続いてサンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門でも上映されたが酷評が目立った。スペインではレイガダス・アレルギーが結構多い。多分『静かな光』の続きを期待していた人には不評だったのかもしれない。レイガダスが求めるものと他の監督が求めるものとは違うから評価は分かれる。監督自身はメディアの酷評を謙虚に分析していたようです。
(カンヌ映画祭監督賞受賞の『闇のあとの光』ポスター)
★本映画祭の今年のスペイン映画の話題作を集めた「メイド・イン・スペイン」部門11作が発表になったり、アルフォンソ・キュアロンの「Roma」がベネチア映画祭コンペティションに選ばれたり、第5回フェニックス賞2018のノミネーションが発表になったりとニュースが多く、アップ順位に迷っています。またマラガ映画祭2018のオープニング作品マテオ・ヒルの「Las leyes de la termodeinámica」が『熱力学の法則』の邦題で早くもNetflixで配信が始まっています。
イザベル・ユペール公式ポスターの顔に*サンセバスチャン映画祭2018 ⑰ ― 2018年09月03日 15:56
第66回サンセバスチャン映画祭2018の公式ポスターが決定
★第66回サンセバスチャン映画祭の公式ポスターにフランスの女優イザベル・ユペールが選ばれました。ユペールは2003年のドノスティア賞受賞者です。公式ポスターは1000部印刷され映画祭会場やその他関連施設に張り出される。そのほかカタログの表紙、ガイドブックにも使用される。公式ポスターはGetty Imagesの写真からナゴレ・ガルシア・パスクアルやチェマ・ガルシア・アミアノ他によって、TGA ドノスティアのデザイン・スタジオが作成した。
★紹介するまでもないのですが、イザベル・ユペール(パリ、1953)は、三大映画祭の受賞者として老若男女を問わずファンが多いと思います。先ず1978年、初めてクロード・シャブロルとタッグを組んだ『ヴィオレット・ノジエール』(未公開)でカンヌ映画祭女優賞、1988年同監督の『主婦マリーがしたこと』でベネチア映画祭女優賞、1995年再び『沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇』でベネチア映画祭女優賞、2001年ミヒャエル・ハネケの『ピアニスト』でカンヌ映画祭女優賞とヨーロッパ映画賞女優賞他を受賞した。2002年、フランソワ・オゾンのスリラー・コメディ『8人の女たち』では、女優8人全員がベルリン映画祭芸術貢献賞(銀熊)とヨーロッパ映画賞女優賞を受賞した。本作ではカトリーヌ・ドヌーヴと仲の悪い姉妹を演じた。1980年マイケル・チミノの『天国の門』でアメリカに進出したこともあり、製作費の10分の1も回収できなかった失敗作と言われたが、ユペール本人は国際的スターとして認知されたのではないか。
(共演のブノワ・マジメルと、『ピアニスト』から)
★2012年、ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』(カンヌFFのパルムドール受賞作品)に出演、本作はオスカー像も手にした成功作。そのほか最近の出演映画は、マルコ・ベロッキオの『眠れる美女』(12、伊仏合作)、ポール・ヴァーホーヴェンのスリラー『エル ELLE』(16)はサンセバスチャン映画祭にもエントリーされ、ゴールデン・グローブ賞、ヨーロッパ映画賞、セザール賞などの女優賞を独占した。ミア・ハンセン=ラヴの『未来よ、こんにちは』(16)、ハネケの『ハッピーエンド』(17)では『愛、アムール』と同様ジャン=ルイ・トランティニャンと父娘を演じている。
(ヴァーホーヴェンの『エル ELLE』から)
★2009年カンヌ映画祭審査委員長をつとめ、この年のパルムドールはハネケの『白いリボン』だったから彼女自らが監督にトロフィーを手渡した。同映画祭2017の「ウィメン・イン・モーション賞」を受賞している。最新作は公開されたばかりのブノワ・ジャコーの『エヴァ』、第68回ベルリン映画祭のコンペティションに正式出品された。ファム・ファタールのエヴァを演じる。
(エヴァに翻弄される共演者ギャスパー・ウリエルと、『エヴァ』から)
今年の話題作「メイド・イン・スペイン」*サンセバスチャン映画祭2018 ⑱ ― 2018年09月05日 11:53
11作品のうちデビュー作が5作も選ばれた「メイド・イン・スペイン」
★今年スペインで公開された話題作を纏めて見ることができる部門、ラテンビート以下ミニ映画祭で公開される可能性が高いので賞には絡みませんがタイトルをアップしておきます。なかには既にNetflixで放映されている作品、例えばラモン・サラサールの『日曜日の憂鬱』なども含まれています。長編デビュー作5作、ベテラン監督作品5作、ドキュメンタリー2作です。マラガ映画祭でプレミアした「Casi 40」、「Les distancies / Las distancias」、「Mi querida cofradia」ほかが含まれています。
◎「Casi 40」監督ダビ・トゥルエバ(マドリード、1969)
★マラガ映画祭2018審査員特別賞銀賞受賞作品
*紹介記事は、コチラ⇒2018年04月04日
◎「Les distancies / Las distancias」同エレナ・トラぺ(バルセロナ、1976)
★マラガ映画祭2018の最高賞「金のビスナガ」、監督賞、主演女優賞(アレクサンドラ・ヒメネス)受賞作品、長編2作目。
*紹介記事は、コチラ⇒2018年04月27日
◎「Mi querida cofradía」同マルタ・ディアス・デ・ロペ・ディアス(ロンダ、1988)
★長編デビュー作、マラガ映画祭2018の観客賞、助演女優賞(カルメン・フロレス)受賞作品
*カルメンは年配のカトリックのマラゲーニャ、人生の夢は女性初となる信徒会の名誉ある会長になること、目下奮闘中であるが、イグナシオという男性会員が・・・。
◎「La enfermedad del domingo」同ラモン・サラサール(マラガ、1973)
★ベルリン映画祭2018パノラマ部門正式出品、『日曜日の憂鬱』の邦題でNetflixで放映
*紹介記事は、コチラ⇒2018年02月22日/06月21日
◎「The Bookshop」(「La librería」イギリス合作)同イサベル・コイシェ(バルセロナ、1960)
★ゴヤ賞2018作品賞・監督賞・脚色賞受賞作品、本邦公開が予告されている。
*紹介記事は、コチラ⇒2018年01月07日/02月08日
◎「Con el viento」(「Amb el vent」アルゼンチン・仏合作)
同Meritxell Colell(バルセロナ、1983)
★長編デビュー作、短編ドキュメンタリーを撮っているほか、長編映画8作の編集を手掛けている。本作はベルリン映画祭「フォーラム」部門、グアダラハラ映画祭正式出品、マラガ映画祭2018「Zonazine」部門の作品賞受賞作品。将来が期待できる監督。
*モニカは47歳のバレリーナ、父危篤の電話をうけ、20年ぶりに生れ故郷ブルゴスに戻ってくる。既に父は亡くなっており、母親から家の売却を手伝ってほしいと頼まれる。
(コンチャ・カナル、モニカ・ガルシア)
◎「El aviso」同ダニエル・カルパルソロ(バルセロナ、1968)
★三大映画祭にノミネートされた経験をもつ、ベテラン監督カルパルソロの最新作。日本では『パサヘス』(96、未公開・TV放映)、『インベーダー・ミッション』(12)、『バンクラッシュ』(16)などが紹介されている。公開が期待できる新作の主役は、『インベーダー・ミッション』にも出演したラウル・アレバロが起用されている。
*ダニエル・カルパルソロのキャリア紹介は、コチラ⇒2016年07月03日
(ラウル・アレバロ、アントニオ・デチェント)
◎「I Hate New York」ドキュメンタリー 同グスタボ・サンチェス(ハエン、1978)
★長編デビュー作、マラガ映画祭2018正式出品作品。2007年から2017年のあいだ、脚本なしでニューヨークのアンダーグラウンドのサブカルチャーを撮り続けた。トランスジェンダーのアマンダ・レポレほか4人のアーティストの怖れと希望を描くエモーショナルな証言で構成されている。監督はジャーナリストでもある。
*追記:ラテンビート2018上映が決定しました。
◎「Trinta lumes / Thirty Souls」同ディアナ・トウセド(ポンテべドラ、1982)
★長編デビュー作、ベルリン映画祭2018「パノラマ」部門、マラガ映画祭2018「Zonazine」部門正式出品作品。ガリシア出身だがバルセロナ自治大学付属上級映画学校ESCACで学び、バルセロナに軸足をおいている。長編ドキュメンタリー「En todas as mans」(15、ガリシア語)はガリシア限定で公開された。ほか短編ドキュメンタリーを撮っている。これまでにドキュメンタリーを含む長短編映画20作以上の編集を手掛けており、なかで昨年のカンヌ映画祭併催の「批評家週間」にエントリーされたラウラ・フェレスの短編ドキュメンタリー「Los desheredados」がDiscovery賞を受賞している。
*本作は12歳の少女アルバの物語、生と死の闘いの神秘さを知るため無邪気に出かける旅。
◎「Querido Fotogramas」ドキュメンタリー 同セルジオ・オクスマン(サンパウロ、1970)
★セルジオ・オクスマンSergio Oksmanは、監督、脚本家、製作者。サンパウロでジャーナリズムを、映画をニューヨークで学び、マドリード在住のブラジルの監督。「Una historia para Los Modlin」でゴヤ賞2013短編ドキュメンタリー賞を受賞している。本作は70年の歴史をもつ、スペインの映画月刊雑誌「Fotogramas」(1946年11月15日、バルセロナで創設)への関係者と映画ファンへのオマージュを込めて製作された。2018年6月、本拠地をバルセロナからマドリードに移したことが報じられている。
*出演者は、Toni Ulled Nadal(編集長)以下の編集者、フェルナンド・コロモ、イサベル・コイシェ、J.A.バヨナ、ゴンサロ・スアレス(以上監督)、以下順不同にマリサ・パレデス、アンヘラ・モリーナ、ホセ・サクリスタン、コンチャ・ベラスコ、カルメン・マウラ、アイタナ・サンチェス=ヒホン、エンマ・スアレス、ハビエル・バルデム、レオノル・ワトリング、ベレン・ルエダ、アナ・トレント、他多数。
*SSIFF上映9月22日、スペイン公開10月5日
(出演のマリサ・パレデス)
(「Fotogramas」の表紙を飾るのが夢だったというホセ・サクリスタン、2018年6月号)
アルゼンチンから「El motoarrebatador」*サンセバスチャン映画祭2018 ⑲ ― 2018年09月07日 16:50
ホライズンズ・ラティノ部門第3弾―バイクひったくり魔の心の遍歴
★ホライズンズ・ラティノ部門のオープニング作品パラグアイの「Las heredoras」、チリの「Marilyn」、ウルグアイの「La noche de 12 anos」、メキシコの「Nuestro tiempo」を既に紹介しているので、今回はラテンアメリカの映画大国アルゼンチンから「El motoarrebatador」をアップします。アグスティン・トスカノ監督の紹介は後述するとして、本作はカンヌ映画祭併催の「監督週間」2018正式出品、データ蒐集もしておきながら賞に絡めずお蔵入りさせてしまった作品。彼はブエノスアイレス出身のシネアストとは一味違う、トゥクマン州サン・ミゲル生れ、将来が有望視されている監督の一人。8月下旬に開催されるチリのサンティアゴ映画祭Sanficでマルセロ・マルティネシの「Las heredoras」を押さえて作品賞を受賞したばかりです。
(ミゲル役のセルヒオ・プリナ、「El motoarrebatador」から)
「El motoarrebatador」(「The Snatch Thief」)2018
製作:Rizoma Films / Murillo Cibe / Oriental Features Films /
協賛Gloria Films / INCAA / ICAU / IBERMEDIA / トゥクマン州政府
監督・脚本:アグスティン・トスカノ
撮影:アラウコ・エルナンデス・ホルツ
プロダクション・デザイン&衣装:ゴンサロ・デルガド・ガリアナ
編集:パブロ・バルビエリ・カレラ
録音:カト・ビルドソラVildosola
音楽:マキシ・プリエット
製作者:ヘオルヒナ・バイスチGeorgina Baisch(エグゼクティブ)、ナターシャ・セルビ、エルナン・ムサルッピ、セシリア・サリン、(共)サンティアゴ・ロペス
データ:製作国アルゼンチン、ウルグアイ、フランス、スペイン語、2018年、94分。ベルリナーレ・タレント・プロジェクト・マーケット、サンセバスチャン映画祭IV Foro de Coproduccion Europa-America Latina 2015 参加作品。撮影トゥクマン州サンミゲル市&郊外、公開アルゼンチン6月7日
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭併催の「監督週間」2018で5月15日上映、ワールドプレミア。チリ・サンティアゴ映画祭2018作品賞受賞、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門正式出品作品。
キャスト:セルヒオ・プリナ(ミゲル)、リリアナ・フアレス(エレナ)、レオン・セララジャン、ダニエル・エリアス(ミゲルの引ったくり仲間)、カミラ・プラアテ、ミレージャ・パスクアル、ピラール・ベヌテス・ビバルト、他
物語:ミゲルはアルゼンチン北部トゥクマンの町で「モトチョロ」をして生計を立てていた。コンビを組んでバイクに乗ったまま獲物目がけて所持品を引ったくるバイクひったくり犯だ。年配の女性エレナのバッグを盗んだとき、数メートル引きずって大怪我を負わせ、気を失ったままの女性を置き去りにしてしまう。この偶発的な出来事から罪の意識が芽生え、犠牲者を忘れることができなくなる。バッグの中のIDから病院を突き止めると秘かに訪れる。エレナは記憶喪失になっている。ミゲルは彼女の近親者になりすまして世話をしはじめる。エレナに近づけば近づくほど嘘を重ねることになるが、恐ろしくて真実は話せないミゲル。過去に苦しみながらも真の救いを得られない。
(ミゲルのバイクに引きずられるエレナ)
フィクションだが今現在アルゼンチンで起きている現実が描かれている
★アグスティン・トスカノAgustin Toscanoは、1981年サン・ミゲル・デ・トゥクマン生れ、監督、脚本家、編集者、俳優。トゥクマンの国立大学で演劇を学び、俳優として出発したが、並行して短編映画「El hostil」(06)を撮る。2009年、Zuhair Juryの「El piano mudo-Sobre el éxodo y la esperanza」に出演、これはピアニスト、ミゲル・アンヘル・エストレージャの軍事独裁時代に焦点を絞ったビオピック。長編デビュー作「Los dueños」(13)は、同郷のエセキエル・ラドスキーとの共同監督、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」2013に出品され、揃ってスペシャル・メンションを受賞した他、アルゼンチン映画批評家協会賞2015のデビュー作に贈られるオペラ・プリマ「銀のコンドル」を受賞した。
(デビュー作「Los dueños」のポスター)
(エッフェル塔をバックに、ラドスキー、トスカノ両監督、カンヌ映画祭2013にて)
★第2作目「El motoarrebatador」で一本立ちした。「motoarrebatador」はモーターバイクと貴金属品(時計、ブレスレット、ネックレスなど)を引ったくって盗む人の造語、アルゼンチンでは「motochorro モトチョロ」という。「ドラえもん」に出てくるジャイアンの名台詞「お前の物は俺の物、俺の物も俺の物」思考をもつ人は、貧富の違いとは無関係にどこにでも存在する。トゥクマンでは警察官ストが始まると、略奪行為は日常茶飯事、ミゲルが犯している盗みは珍しくないという。モトチョロがサイテイなのは自身より弱者を餌食にすることだ。本作はフィクションだが今現在アルゼンチンで起きている現実が描かれているというのが観客のコメントに多く見かけられた。監督自身の母親が襲われたことがヒントになっているようです。自分勝手な哲学で「引ったくる、逃げる、そして罪と向き合う」ミゲル、ダルデンヌ兄弟が描く世界と雰囲気が似ているか。
(本作撮影中のアグスティン・トスカノ監督)
(セルヒオ・プリナ、リリアナ・フアレス、監督、カンヌ映画祭2018にて)
★ミゲルを演じるセルヒオ・プリナは、監督デビュー作「Los dueños」にも出演しているほか、TVシリーズ・アニメーション「Muñecos del destino」(12)にボイス出演、本作にはトスカノ監督、エセキエル・ラドスキー監督、共演者のリリアナ・フアレス、ダニエル・エリアスも共演しており、このアニメ出演が接点のようです。ホルヘ・ロッカの「El mejor de nosotros」(14)は、子供のころ一緒に育った5人の若者の青春群像、その一人エル・チノに扮した。
(コメディ・アニメーション「Muñecos del destino」)
(エレナの世話を焼くミゲル、「El motoarrebatador」)
★エレナ役リリアナ・フアレスは、プリナ同様「Muñecos del destino」と「Los dueños」に出演して高い評価を受けた。本作でカンヌにも同行している。ミゲルのモトチョロ仲間になるダニエル・エリアスは短編「Pichuko」(11)を撮っており、トスカノ監督が編集を手掛けている。
(リリアナ・フアレス、「Los dueños」から)
リド島にやってきたレイガダス夫妻*ベネチア映画祭2018 ― 2018年09月12日 13:15
キュアロンの「Roma」が金獅子賞を受賞して閉幕しました。
★もたもたしているうちに、アルフォンソ・キュアロンの「Roma」が金獅子賞を受賞してベネチア映画祭は閉幕してしまいました。昨年の金獅子賞受賞者にして親友、今回の審査委員長ギレルモ・デル・トロからトロフィーを受け取りました。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督を交えた三人組は、制作会社「チャチャチャFilms」を2007年設立した。今年もメキシコ監督がベネチアを制しました。本作は Netflix が製作、キュアロン監督はカンヌを希望していたようですが、Netflix を排除しているカンヌに拒否されベネチアにもってきた。というわけで本作が Netflix 製作の金獅子賞第1号となった。これに止まらず脚本賞受賞のコーエン兄弟の西部劇「The Ballad of Buster Scruggs」もNetflix、マイク・リーの「Peterloo」はアマゾン・スタジオが製作しているらしく、動画配信の存在が大きくなってきた。これが映画の将来にとって良いことなのか悪いことなのか。「Roma」については、いずれアップする予定です。
(審査委員長デル・トロからトロフィーを受け取るキュアロン監督)
レイガダスは「Nuestro tiempo」のなかで彼の現実を押し広げた
★応援していたカンヌ映画祭の常連さんカルロス・レイガダスの長編6作め「Nuestro tiempo」は無冠に終わりました。ベネチアは初参加ですが、カンヌでなかったのはNetflixとは無関係、単に間に合わなかったからのようです。作品はサンセバスチャン映画祭2018で紹介したばかりなので割愛します。
*「Nuestro tiempo」の紹介記事は、コチラ⇒2018年09月02日
★リド島入りする前にモザイク芸術の宝庫ラヴェンナのガッラ・プラキディア(プラチディア)廟堂を訪れて、その神秘的に抽象化された廟堂内部のモザイク画にいたく感動したようです。ガッラ・プラキディアはテオドシウス1世の娘にしてホノリウス帝の異母妹、生涯カトリックに帰依していたといわれています。5世紀前半に建築され、外観は簡素だが内部のモザイク画は素晴らしく、入口上部の壁面に十字架を手にしたキリストが羊に囲まれて座っている。エル・パイス紙の記事によると、レイガダスは「モザイクだけで作られており、神の牧者が羊に囲まれて座っている。現実を押し広げたある抽象化があることに気づきます。現実の純粋なコピーではありませんが、同時代に誰でもその魅力や神秘さに触れられるような完璧さがあります」と絶賛していた。1996年ユネスコによって世界遺産に登録され、イタリア旅行のツアーコースの一つになっている。
(ナタリア・ロペスとカルロス・レイガダス、ベネチア映画祭、9月5日)
★監督自身と夫人ナタリア・ロペスが俳優デビューした経緯、その結果夫妻に起こった変化についても語っています。監督は「トラスカラ州で闘牛種を育てる牧場を経営している家族の物語、結婚15年後、妻の不倫を機に訪れた夫婦の危機を語った映画である」と紹介したようです。自身が夫フアンを演じたことで、ストーリーに誘発され、禁じられていることがもつ魅力というものが理解できたと付け加えた。夫人ナタリアもカメラの前に立つのは自身同様初めてであり、二人の子供は、メキシコシティの南方、テポストゥランにある自宅で撮影した『闇のあとの光』に出演しているので、役者としては先輩になる(笑)。
★観客の中には実人生で起こったことと解釈する人がいるかもしれないが、全く無関係である、とインタビューで否定しました。監督にとって夫婦の不満足を演じるためにカメラの前に立つなど陳腐以外の何物でもないということです。想定内の質問が出たようですね。しかしレイガダスが映画の中でより個人的な何かを求めていることは明らかでしょう。クランクインして「2週間経ったとき登場人物になりきれた。同じようなことがナタリアにも起こった」とインタビューに応えていた。最初から妻エステル役に夫人が決定していたわけではなく、プロアマ300人に面接したあとに、結局ナタリアが演じることになったようです。
★言いたいことは他にもいろいろあるが、脚本はいつものように自身が執筆、3回書き直しされ、最初のシナリオは150ページあり、4時間30分を3時間(上映時間173分)に縮めた。「子供たちを含め家族全員が出演しているが、自分は信者ではない宗教について低地ドイツ語で撮った『静かな光』より自伝的な要素は少ない」ことなども付け足した。これはチワワ州に自給自足のコミュニティを作って暮らす、アナバプテストの教派メノナイトの移民一家を描いた作品でした。
(カンヌ映画祭2007審査員賞受賞の『静かな光』スペイン語版ポスター)
★「昨今のフィクションは低迷しています。物語を重要視する映画は以前よりどんどん少なくなっていると思います。私たちが視点や感じ方、表現方法より独創性ばかり追っていると、映画はますますおかしくなって力を失っていきます」「私にとって人物の創造が究極の目標ですが、現実を展開させるときに神秘さを追うことができる。もし現実を展開させなければ、それは現実の単なるコピーでしかない。私には現代映画の最も深刻な欠点の一つに思える」とも。
★ベネチア映画祭コンペティション部門には、他にゴンサロ・トバルの「Acusada」(「The Accused」アルゼンチン=メキシコ)も出品されていましたが、こちらも無冠でした。
映画国民賞2018はエステル・ガルシアに*「エル・デセオ」プロデューサー ― 2018年09月17日 14:46
意欲溢れる女性、エステル・ガルシアが映画国民賞を受賞
★映画国民賞は1980年から始まり第1回はカルロス・サウラでした。女性初の受賞者は1988年のカルメン・マウラ、女性プロデューサーが受賞するのは今回が初めてです。一時期2人受賞の時代が続きましたが、1995年以降は1人に固定されています。最近の受賞者は、昨年がアントニオ・バンデラス、順に遡ると、アンヘラ・モリーナ、フェルナンド・トゥルエバ、ロラ・サルバドール(脚本家)、J.A.バヨナ、イボンヌ・ブレイク(故人)と男女交互でしたので、「もっと女性にチャンスを!」運動もあり、今年は女性を予想していました。しかし製作者は俳優や監督と違い、あまり顔が見えない存在ということもあって、エステル・ガルシアを予想していた人は多くはなかったのではないでしょうか。
(エル・デセオのプロデューサー、エステル・ガルシア)
★エステル・ガルシアEsther García Rodríguez(セゴビア、1956)は、製作者、プロダクション・マネージャー、本人はそう思っていないでしょうがチョイ役で10作ほど出演しているので女優です。1986年にアルモドバル兄弟の制作会社「エル・デセオ」に入社、三十数年に亘って兄弟とコラボしている製作者が今年の受賞者に選ばれました。「意志の強さと仕事に対する計り知れない可能性」が受賞理由ですが、加えて女性たちの地位向上に尽力していることが評価された。彼女ほどスペイン映画界で愛され尊敬されているプロデューサーはそんなに多くないはずです。女性プロデューサーも監督同様増加しておりますが、裏方の受賞は後に続く人にとっても励みになるでしょう。
★最初から映画界に興味があったわけではなく、19歳のときペドロ・オレアの<マドリっ子三部作>の2作目「Pim, pam, pum...! Fuego!」(75)にプロダクション助手として雇われたのがきっかけ。本作はコンチャ・ベラスコ、フェルナンド・フェルナン・ゴメスなどが出演したコメディ、その魅力にすっかりハマってしまった。それ以来、フェルナンド・トゥルエバ、フェルナンド・コロモ、マルティネス・トレスなど、新生の監督作品に参加していった。1975年というのはフランコ体制が終焉を迎えた年でした。
★1985年、フェルナンド・トゥルエバの第3作「Sé infiel y no mires con quién」にプロダクション・マネージャーとして本格的に第一歩を踏みだす。本作はアナ・ベレン、カルメン・マウラ、ベロニカ・フォルケ、アントニオ・レシネスなど芸達者が顔を揃えたコメディでした。1986年「エル・デセオ」に入り、アルモドバルの『マタドール』にプロダクション・マネージャーのアシスタントとしてアルモドバル作品に参画した。続いて『欲望の法則』、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』『アタメ!』『ハイヒール』『私の秘密の花』・・・・そしてアカデミー賞外国語映画賞を受賞した『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)で、2個目となるゴヤ賞作品賞も受賞した。ゴヤ賞作品賞は4個貰っていますが、1個目はアレックス・デ・ラ・イグレシアの『ハイル・ミュタンテ!/電撃XX作戦』(93)、監督も新人監督賞にノミネートされた。イサベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』(05)、そしてアルモドバルの『ボルベール<帰郷>』(06)です。
(アントニオ・レシネス左とフレデリック・フェデル、『ハイル・ミュタンテ~』から)
★ゴヤ賞イベロアメリカ映画部門を加えると、アルゼンチンのダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14)、パブロ・トラペロの『エル・クラン』(15)がある。「エル・デセオ」は、積極的にラテンアメリカ映画に資金を提供しており、二人の他にメキシコのギレルモ・デル・トロ(『デビルズ・バックボーン』)、アルゼンチンのルクレシア・マルテル(『頭のない女』『サマ』)、今年のSSIFF「ペルラス部門」上映のルイス・オルテガの「El ánger」などが代表作として挙げられるだろう。ゴヤ賞以外で『人生スイッチ』がフォルケ賞2015「ラテンアメリカ部門」の作品賞をアグスティン・アルモドバルと一緒に受け取った。
(フォルケ賞2015ラテンアメリカ部門の『人生スイッチ』が受賞、A.アルモドバルと)
(ゴヤ賞2016イベロアメリカ映画部門の『エル・クラン』が受賞、ゴヤ胸像を手にした)
★本邦公開のアルモドバル作品、例えば2002年の『トーク・トゥ・ハー』(02)から、『バッド・エデュケーション』『抱擁のかけら』『私が、生きる肌』『アイム・ソー・エキサイテッド!』、2016年の最新作『ジュリエッタ』までの全てを手掛けている。そして映画国民賞受賞の知らせは、現在進行中の「Dolor y gloria」の撮影現場であるエル・エスコリアで、有線電話にて文化相からの「おめでとう」を直々に受けた。同僚のトニ・ノベリャが大声で「ちょっと、ちょっと、みんな聞いて!」と叫んでロケ隊に知らせたようだ。しかし撮影は続行され、仕事が終わった9時半に小エビとシャンペンでお祝いしたそうです(撮影期間は46日間の予定で当日は39日目だった由)。
(ガルシアが手掛けたアルモドバル作品)
★進行中の「Dolor y gloria」公開は2019年が予定されているが、撮影現場には昨年の受賞者アントニオ・バンデラスもいて「お祝いの抱擁を受けた、勿論アグスティンからも。ペドロは感動してしまって」と彼女は喜びを語った(P.アルモドバルは1990年受賞)。映画の詳細はまだ分かりませんが、バンデラスの他、ペネロペ・クルス、ラウル・アレバロ、ノラ・ナバス、レオナルド・スバラグリア、セシリア・ロス、アシエル・エチェアンディア、フリエタ・セラノ他、豪華メンバーを揃えています。来年のカンヌを目指しているのかもしれない。
★自分はエル・デセオしか経験がないが「ここは仕事がしやすい。自由に作品を選ばせてくれるから・・・居心地がいい。ほかでキャリアを積んだら、と言われるが、その必要を感じない」。ガルシアにとって、受賞は付加価値がつく。「この受賞は映画製作を可能にしているグループの他のメンバーに陽が当たったと思う。だって多くの人々は誰が映画を支えているか知らないもの。プロデューサーという職業は、人の目に見えない存在、特に女性はまだまだよ」と。最後に厳しい仕事をサポートしてくれる家族への感謝の言葉で締めくくった。
★授賞式はサンセバスチャン映画祭期間中に行われるのが慣例、スペイン教育文化スポーツ大臣の手で授与される。交代がなければ今年6月に就任したホセ・ギラオ・カブレラ大臣になります。9月22日(土)が予定されており、どんな受賞スピーチをするのか見守りたい。
*2014年受賞者ロラ・サルバドールの紹介記事は、コチラ⇒2014年07月24日
*2015年受賞者フェルナンド・トゥルエバの紹介記事は、コチラ⇒2015年07月17日
全部門の審査員が決定*サンセバスチャン映画祭2018 ⑳ ― 2018年09月18日 15:49
チケット販売も始まり、開幕が近づいてきました!
★映画祭チケット販売が始まり、初日に65,135枚、昨年より5,000枚ほど多かった。是枝監督のドノスティア賞授賞式に合わせて上映される『万引き家族』は初日完売、ほか人気が高いのは、アルフォンソ・キュアロンの金獅子受賞作品「Roma」、ブラッドリー・クーパーの「A Star is Born」(『アリー/スター誕生』)、ベネチア、トロントでもガガ旋風を巻き起こし、東京国際映画祭のオープニング作品にも選ばれ、年内に公開されます。またベネチアのオープニング作品に選ばれたデイミアン・チャゼルの「First Man / ファースト・マン」も好調、アポロ11号船長アームストロングのビオピック、主役のライアン・ゴズリング本人もSSIFFに登場するとかで人気上昇、本邦公開も来年2月に決定、相変わらずUSA映画強しです。
★さて本題、若干変更のあったセクションもあったようですが、9月13日に最終発表がありました。金貝賞を競うセクション・オフィシアル、ホライズンズ・ラティノ部門、ニューディレクターズ部門、サバルテギ-タバカレラ部門、他たくさんありますが以下は割愛します。
◎セクション・オフィシアル(6人)
*製作者に贈られる金貝賞(作品賞)、以下銀貝賞(監督賞・女優賞・男優賞)、撮影賞、脚本賞、以上6賞を審査します。
アレクサンダー・ペイン(委員長)米国の監督・脚本家
Bet Rourich スペインの撮影監督 カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCAC卒
アグネス・ヨハンセン アイスランドのプロデューサー
ナウエル・ペレス・ビスカヤート フランスの俳優
ブエノスアイレス生れだがフランスで活躍、カンピヨの『BPM ビート・パー・ミニット』主演
Constantin Popescu ルーマニアの監督・脚本家、昨年「Pororoca」がSSIFF正式出品男優賞受賞
ロッシー・デ・パルマ スペインの女優
(左から上記の順番)
◎ホライズンズ・ラティノ部門(3人)
*ラテンアメリカ諸国の映画(スペイン他合作を含む)
Eugenia Mumenthaler(委員長)プロデュー
アルゼンチン生れだが国籍はスイス、2008年ジュネーブで制作会社Alina Filmを設立。
アドリアナ・パス メキシコの女優、最新作はマヌエル・マルティン・クエンカの「El autor」
フェルナンド・フランコ バルセロナ出身のスペイン監督
(左から上記の順番)
◎ニューディレクターズ部門(5人)
Katrin Pors(委員長)プロデューサー ラテンアメリカと北欧のコラボに尽力している。
ディエゴ・レルマン アルゼンチンの監督
インマ・メリノ バルセロナ出身の映画評論家・ジャーナリスト
Nashen Moodley 監督、2012年よりシドニー映画祭のディレクター、トロント、ロッテルダム、
東京などの各映画祭で審査員を務めている。
Léa Mysius ボルドー出身の監督・脚本家、デビュー作「Ava」がカンヌの「批評家週間」で評価される。
(左から上記の順番)
◎サバルテギ-タバカレラ部門(3人)
Santos Zunzunegui(委員長)
バスク大学オーディオビジュアル情報学部の名誉教授、記号論学者、アナリスト、映画史家
Juliette Duret ヨーロッパ映画アカデミーのメンバー
2013年よりブリュッセルのBOZAR(芸術センターCentre for Fine Arts)のディレクター
フィリパ・ラモス 作家・映画編集者
(左から上記の順番)
アナ・カッツの「Sueño Florianópolis」*サンセバスチャン映画祭2018 ㉑ ― 2018年09月21日 12:39
「ホライズンズ・ラティノ」第4弾―カルロヴィ・ヴァリのFIPRESCI受賞作品
★「ホライズンズ・ラティノ」部門12作品のうち3作が女性監督、うちアルゼンチンのアナ・カッツの新作コメディ「Sueño Florianópolis」は、カルロヴィ・ヴァリ映画祭2018に正式出品され、既に国際映画批評家連盟賞 FIPRESCI ほか審査員特別賞、主演のメルセデス・モランが女優賞を受賞している。アナ・カッツは過去にもサンセバスチャン、カンヌ、サンダンスなどの映画祭にエントリーされている監督、紹介がアルゼンチンに偏ってしまうので迷っていましたが、やはり今年の目玉の一つであるのでアップすることにしました。
(喜びのアナ・カッツとメルセデス・モラン、カルロヴィ・ヴァリFF2018)
「Sueño Florianópolis」(「Florianópolis Dream」)2018
製作:Bellota Films(仏、ドミニク・Barneaud)/
El Campo Cine(アルゼンチン、ニコラス・Avruj)/ Laura Cine(同、アナ・カッツ)/
Groch Films(ブラジル、カミラ・Groch)/ Prodigo Films(同、ベト・ガウス)
監督・脚本・製作:アナ・カッツ
脚本:(共)ダニエル・カッツ(アナ・カッツ「Los Marziano」)
撮影:グスタボ・ビアッツィBiazzi(サンティアゴ・ミトレ『パウリナ』
『エストゥディアンテス』)
編集:アンドレス・タンボルニノ(アナ・カッツ「Mi amiga del parque」)
美術:ゴンサロ・デルガド(『ウィスキー』)
音楽:エリコ・テオバルド(ブラジル)、マクシミリアノ・シルベイラ
(「Mi amiga del parque」)
製作者:ニコラス・Avruj(エグゼクティブ、アルゼンチン『家族のように』)、ディエゴ・レルマン(アルゼンチン)、カミラ・Groch(ブラジル)、ベト・ガウス(同)、フランセスコ・シビタ(同)、ドミニク・Barneaud(仏)ほか
データ:製作国アルゼンチン=ブラジル=フランス、スペイン語・ポルトガル語、2018年、コメディ・ドラマ、106分
映画祭・受賞歴:カルロヴィ・ヴァリ映画祭2018(7月4日)、国際映画批評家連盟賞・審査員特別賞・女優賞受賞。トロント映画祭(9月6日)、サンセバスチャン映画祭(9月24日)、シカゴ映画祭(10月12日)、他
キャスト:グスタボ・ガルソン(夫ペドロ)、メルセデス・モラン(妻ルクレシア)、ホアキン・ガルソン(息子フリアン)、マヌエラ・マルティネス(娘フロレンシア、フロール)、マルコ・ヒッカ(ブラジル人マルコ)、アンドレア・ベルトラン(マルコの元恋人ラリッサ)、カイオ・ホロヴィッツ(マルコの息子セザル)、他
物語:1992年夏、ルクレシアとペドロの夫婦は、二人のティーンエイジャーの子供フリアンとフロレンシアを連れて休暇を過ごすため、蒸し暑いブエノスアイレスを逃れてブラジルのリゾート地フロリアノポリスにやって来た。夫婦は少し前から別居をしていたがバカンスの計画は中止しなかった。ブラジル人のマルコの別荘を借り、マルコの元ガールフレンドのラリッサともどもバカンスを満喫することに。浜辺では波乗り、カラオケ、水中散歩、言葉の壁を越えて幾つか恋も生まれ、子供たちは子供たちで、大いにブラジルの休暇を楽しんでいたが、陽気なサンバのリズムにも次第に飽きがきて・・・思わぬ事態に遭遇することに。
(左から、メルセデス・モラン、監督、ニコラス・Avruj、カルロヴィ・ヴァリFF2018)
★1990年代のアルゼンチンでは、夏のバカンスはブラジルのリゾート地に行くのが中流階級のステータスだったらしい。国家破産を何度も繰り返し、国際的な援助のお蔭で救われても「喉元過ぎれば熱さを忘れる」が得意な国民は、プライドばかり高く実績に見合わない贅沢好き。現在も通貨ペソの下落でIMFに泣きついている。アルゼンチンはラテンアメリカでは、ブラジルと並んで映画先進国、大いに楽しませてもらっているが、政治経済的には問題国、隣国からは嫌われている。本作のコメディもそんな意地悪な視点から見ると面白いかもしれない。
(ブラジルのリゾート地フロリアノポリスにやって来た家族)
★アナ・カッツ Ana Katz は、1975年ブエノスアイレス生れ、監督、製作者、女優。
2002年「El juego de la silla」
(デビュー作、SSIFFシネ・エン・コンストルクシオン参加、メイド・イン・スぺインの
スペシャル・メンション受賞、2003年サバルテギ・ニューディレクターズに正式出品)
2007年「Una novia errante」
(シネ・エン・コンストルクシオンIndustria賞受賞、カンヌFF「ある視点」出品)
2011年「Los Marziano」(SSIFFコンペティション部門正式出品)
2014年「Mi amiga del parque」
(シネ・エン・コンストルクシオン出品、サンダンスFF2016、審査員賞・脚本賞受賞)
2018年「Sueño Florianópolis」省略
★女優としては、自作の「El juego de la silla」「Una novia errante」「Mi amiga del parque」のほか、フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストールの『ウィスキー』(04)、パコ・レオンの『KIKI~愛のトライ&エラー~』(ラテンビート2016)などに出演している。私生活ではウルグアイ出身の俳優、監督ダニエル・エンドレルと2007年に結婚、『ウィスキー』では二人ともチョイ役だが共演している。
(ベレン・クエスタ、パコ・レオン、アナ・カッツ、『KIKI~愛のトライ&エラー~』)
(ダニエル・エンドレルとアナ・カッツ)
★脚本を共同執筆したダニエル・カッツは弟、他に「Los Marziano」も手掛けているほか、「Una novia errante」のアシスタント監督、「Mi amiga del parque」に出演している。
★本映画祭では3回上映(9月24日~26日)され、Q&Aには監督、メルセデス・モラン、マヌエラ・マルティネス、製作者のカミラ・Groch、美術を手掛けたゴンサロ・デルガドが登壇予定。デルガドはモンテビデオ出身のアート・ディレクター、監督、脚本家、俳優。美術では『ウィスキー』を手掛けている他、2016年、コメディ「Las toninas van al Este」を女優のベロニカ・ぺロッタと共同で監督、脚本も共同執筆、共に出演、ぺロッタは主役でした。子供を演じた二人は夫ペドロ役のグスタボ・ガルソンの実の子供だそうです。
*追記:ラテンビート2018に邦題『夢のフロリアノポリス』で上映が決定しました。
オープニング・ガラ情報*サンセバスチャン映画祭2018 ㉒ ― 2018年09月23日 18:08
9月21日、ベレン・クエスタの司会で開幕しました
(映画祭メイン会場クルサール国際会議場)
★第66回サンセバスチャン映画祭2018が開幕しました。参加者の現地入りを待ち構えていたファンは、スマホでカシャカシャ。カンヌ映画祭は今年から赤絨毯に登場するシネアストたちとの自撮りを禁止しましたが、サンセバスチャンはオーケーです。ファンの要望に応えて握手やサイン、自撮り姿もあちこちで見られました。やはり若い女性がイケメン男優をお目当てに前列に陣取っているので賑やかです。
★場慣れしているはずの是枝裕和監督も単独のせいかシャイなのか、ファンの歓迎には控えめでした。『万引き家族』は合計5回上映されるなど人気のほどが分かります。第2回目23日にビクトリア・エウヘニア劇場で上映された後に、ドノスティア賞が授与される予定です。
★映画祭事務局が用意した開幕式当日の公式サイトのなかに、この夏7月17日鬼籍入りしたイボンヌ・ブレイクスペイン映画アカデミー名誉会長への哀悼と功績を讃えたビデオがありました。なりてのなかった会長職を引き受け、その激務の中で倒れたシネアストでした。
★オープニング・ガラ本番は、若手女優ベレン・クエスタの総合司会で、ほかベテランのカジェタナ・ギジェン・クエルボもアシスト、映画祭総ディレクター、ホセ・ルイス・レボルディノスのもと映画祭事務局の裏方としても重責を担っているナゴレ・アランブルがバスクを代表して進行役を務めました。ベレン・クエスタは『ホーリー・キャンプ』や『KIKI~恋のトライ&エラー~』、ナゴレ・アランブルは『フラワーズ』で既に当ブログに登場、カジェタナ・ギジェン・クエルボはご紹介するまでもありません。
(ベレン・クエスタとナゴレ・アランブル)
(カジェタナ・ギジェン・クエルボ)
★オープニング作品「El amor menos pensado」のフアン・ベラ監督以下リカルド・ダリン、メルセデス・モランほかスタッフ、セクション・オフィシアルの審査委員長アレクサンダー・ペイン以下審査員一同も登壇して、それぞれ短いスピーチをしました。ホライズンズ・ラティノの紹介は、オープニング作品に選ばれた「Las herederas」のパラグアイの監督マルセロ・マルティネシが登壇しました。
(挨拶のスピーチをするリカルド・ダリン、後方が共演のメルセデス・モラン、他)
(セクション・オフィシアル審査委員長アレクサンダー・ペイン)
(なんといっても人気の高い審査員の一人ロッシー・デ・パルマ)
(ホライズンズ・ラティノ部門を代表して登壇したマルセロ・マルティネシ監督)
★最初のドノスティア賞のトロフィーを手にしたダニー・デヴィートは、「今宵、クルサールの大舞台に登壇できて感激で興奮しています」と涙目で挨拶、プレゼンターのフアン・アントニオ・バヨナとハグしておりました。小柄なJ.A.バヨナが膝をまげておりましたから、公式な身長よりも更に低くなったようでした。2分も満たないスピーチも好感され、会場からスタンディング・オベーションを受けておりました。本当に素敵な男性です。インタビューでは故国の大統領について危惧しておりましたが、それは別の話です。
(ドノスティア賞一番手ダニー・デヴィートとフアン・アントニオ・バヨナ)
★ダニー・デヴィートがボイスを担当する、カレイ・カークパトリックの「Smollfoot」(スペイン語字幕)はメイン会場(22:00~)で上映されました。本作は23日(12:00)にバスク語字幕で、同日(17:00)ベロドロモ・アントニオ・エロルサではスペイン語吹替で、都合3回上映される予定。
(ファンの歓声に応えるダニー、ボタンが1個ぐらい掛け違っていても気にしません)
◎関連記事(管理人覚え)
* 故イボンヌ・ブレイクの記事は、コチラ⇒2018年07月20日
*「El amor menos pensado」の紹介記事は、コチラ⇒2018年08月30日
* ダニー・デヴィートの紹介記事は、コチラ⇒2018年08月14日
*「Las herederas」の紹介記事は、コチラ⇒2018年02月16日
第15回ラテンビート2018開催のニュース ① ― 2018年09月24日 16:36
東京会場は東京国際映画祭と日程が重なります
★なかなか発表にならなかったラテンビート映画祭の11月開催がアナウンスされました。例年より遅く開催されるようです。東京国際映画祭TIFF(10月29日~11月8日)と東京会場(バルト9)の前半は完全にかぶります。それはともかく上映予告作品は、目下は6作です。昨年の「夏、1993」(『悲しみに、こんにちは』)のようなドタキャンがあるかもしれませんが、スペイン語映画、ポルトガル語映画、うち5作は当ブログで既に内容紹介をしております。
東京会場バルト9 11月01日(木)~04日(日)/ 11月09日(木)~11日(日)
◎『アブラカダブラ/ABRACADABRA』スペイン、2017年、パブロ・ベルヘル
★『ブランカニエベス』から5年ぶりに撮ったコメディ、マリベル・ベルドゥ、アントニオ・デ・ラ・トーレ、ホセ・モタ、ホセ・マリア・ポウなど演技派ベテランを揃えている。
*紹介記事は、コチラ⇒2016年05月29日/2017年07月05日
◎「I Hate New York」スペイン、2018年、グスタボ・サンチェス
★マラガ映画祭2018、サンセバスチャン映画祭「メイド・イン・スペイン」上映、ニューヨークのアンダーグラウンドで暮らすトランスジェンダーのアーティスト4人を描いたドキュメンタリー。J.A.バヨナ兄弟がエグゼクティブプロデューサーを務めている。
*紹介記事は、コチラ⇒2018年09月05日
(マラガ映画祭に駆けつけてプロモーションするJ.A.バヨナ)
◎「相続人/Las herederas」(仮)パラグアイ、2018年、マルセロ・マルティネシ
★ベルリン映画祭2018アルフレッド・バウアー賞・国際映画批評家連盟賞・女優賞受賞作品、サンセバスチャン映画祭同「ホライズンズ・ラティノ」部門オープニング作品
*紹介記事は、コチラ⇒2018年2月16日/02月27日
◎「サビ/Ferrugem」ブラジル、ポルトガル語、2018年、 アリ・ムルチバ
★英題「Rust」、サンダンス映画祭2018ワールドプレミア、第40回グラマド映画祭作品・脚本・録音賞受賞、シアトル映画祭イベロアメリカ部門作品賞受賞、サンセバスチャン映画祭2018ホライズンズ・ラティノ部門正式出品作品
(主演のティファニー・ドプケとクラリッサ・キスチに挟まれた監督、「Ferrugem」のイベント)
◎『夢のフロリアノポリス』(アルゼンチン、ブラジル、仏)2018年、アナ・カッツ
*紹介記事は、コチラ⇒2018年09月21日
◎『カルメン&ロラ』(スペイン)2018年、アランチャ・エチェバリア
*紹介記事は、コチラ⇒2018年05月13日
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