映画国民賞2018はエステル・ガルシアに*「エル・デセオ」プロデューサー2018年09月17日 14:46

         意欲溢れる女性、エステル・ガルシアが映画国民賞を受賞

 

★映画国民賞は1980年から始まり第1回はカルロス・サウラでした。女性初の受賞者は1988年のカルメン・マウラ、女性プロデューサーが受賞するのは今回が初めてです。一時期2人受賞の時代が続きましたが、1995年以降は1人に固定されています。最近の受賞者は、昨年がアントニオ・バンデラス、順に遡ると、アンヘラ・モリーナフェルナンド・トゥルエバロラ・サルバドール(脚本家)J.A.バヨナイボンヌ・ブレイク(故人)と男女交互でしたので、「もっと女性にチャンスを!」運動もあり、今年は女性を予想していました。しかし製作者は俳優や監督と違い、あまり顔が見えない存在ということもあって、エステル・ガルシアを予想していた人は多くはなかったのではないでしょうか。

 

        

         (エル・デセオのプロデューサー、エステル・ガルシア)

 

エステル・ガルシアEsther García Rodríguez(セゴビア、1956)は、製作者、プロダクション・マネージャー、本人はそう思っていないでしょうがチョイ役で10作ほど出演しているので女優です。1986年にアルモドバル兄弟の制作会社「エル・デセオ」に入社、三十数年に亘って兄弟とコラボしている製作者が今年の受賞者に選ばれました。「意志の強さと仕事に対する計り知れない可能性」が受賞理由ですが、加えて女性たちの地位向上に尽力していることが評価された。彼女ほどスペイン映画界で愛され尊敬されているプロデューサーはそんなに多くないはずです。女性プロデューサーも監督同様増加しておりますが、裏方の受賞は後に続く人にとっても励みになるでしょう。

 

★最初から映画界に興味があったわけではなく、19歳のときペドロ・オレア<マドリっ子三部作>2作目「Pim, pam, pum...! Fuego!」(75)にプロダクション助手として雇われたのがきっかけ。本作はコンチャ・ベラスコ、フェルナンド・フェルナン・ゴメスなどが出演したコメディ、その魅力にすっかりハマってしまった。それ以来、フェルナンド・トゥルエバ、フェルナンド・コロモ、マルティネス・トレスなど、新生の監督作品に参加していった。1975年というのはフランコ体制が終焉を迎えた年でした。

 

1985年、フェルナンド・トゥルエバの第3作「Sé infiel y no mires con quién」にプロダクション・マネージャーとして本格的に第一歩を踏みだす。本作はアナ・ベレン、カルメン・マウラ、ベロニカ・フォルケ、アントニオ・レシネスなど芸達者が顔を揃えたコメディでした。1986年「エル・デセオ」に入り、アルモドバルの『マタドール』にプロダクション・マネージャーのアシスタントとしてアルモドバル作品に参画した。続いて『欲望の法則』、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』『アタメ!』『ハイヒール』『私の秘密の花』・・・・そしてアカデミー賞外国語映画賞を受賞した『オール・アバウト・マイ・マザー』99)で、2個目となるゴヤ賞作品賞も受賞した。ゴヤ賞作品賞は4貰っていますが、1個目はアレックス・デ・ラ・イグレシア『ハイル・ミュタンテ!/電撃XX作戦』93)、監督も新人監督賞にノミネートされた。イサベル・コイシェ『あなたになら言える秘密のこと』05)、そしてアルモドバルの『ボルベール<帰郷>06)です。

 

      

 (『ハイル・ミュタンテ~』のポスター、アントニオ・レシネス左とフレデリック・フェデル)

    

★ゴヤ賞イベロアメリカ映画部門を加えると、アルゼンチンのダミアン・ジフロン『人生スイッチ』14)、パブロ・トラペロ『エル・クラン』15)がある。「エル・デセオ」は、積極的にラテンアメリカ映画に資金を提供しており、二人の他にメキシコのギレルモ・デル・トロ(『デビルズ・バックボーン』)、アルゼンチンのルクレシア・マルテル(『頭のない女』『サマ』)、今年のSSIFF「ペルラス部門」上映のルイス・オルテガEl ángerなどが代表作として挙げられるだろう。ゴヤ賞以外で『人生スイッチ』がフォルケ賞2015「ラテンアメリカ部門」の作品賞をアグスティン・アルモドバルと一緒に受け取った。

 

       

 (フォルケ賞2015ラテンアメリカ部門で『人生スイッチ』が受賞、A.アルモドバルとガルシア)

   

     

  (ゴヤ賞2016イベロアメリカ映画部門の『エル・クラン』が受賞、ゴヤ胸像を手にした)

 

★本邦公開のアルモドバル作品、例えば2002年の『トーク・トゥ・ハー』(02から、『バッド・エデュケーション』『抱擁のかけら』『私が、生きる肌』『アイム・ソー・エキサイテッド!』、2016年の最新作『ジュリエッタ』までの全てを手掛けている。そして映画国民賞受賞の知らせは、現在進行中のDolor y gloriaの撮影現場であるエル・エスコリアで、有線電話にて文化相からの「おめでとう」を直々に受けた。同僚のトニ・ノベリャが大声で「ちょっと、ちょっと、みんな聞いて!」と叫んでロケ隊に知らせたようだ。しかし撮影は続行され、仕事が終わった9時半に小エビとシャンペンでお祝いしたそうです(撮影期間は46日間の予定で当日は39日目だった由)。

 

            (ガルシアが手掛けたアルモドバル作品)

 

★進行中のDolor y gloria公開2019年が予定されているが、撮影現場には昨年の受賞者アントニオ・バンデラスもいて「お祝いの抱擁を受けた、勿論アグスティンからも。ペドロは感動してしまって」と彼女は喜びを語った(P.アルモドバルは1990年受賞)。映画の詳細はまだ分かりませんが、バンデラスの他、ペネロペ・クルス、ラウル・アレバロ、ノラ・ナバス、レオナルド・スバラグリア、セシリア・ロス、アシエル・エチェアンディア、フリエタ・セラノ他、豪華メンバーを揃えています。来年のカンヌを目指しているのかもしれない。

 

★自分はエル・デセオしか経験がないが「ここは仕事がしやすい。自由に作品を選ばせてくれるから・・・居心地がいい。ほかでキャリアを積んだら、と言われるが、その必要を感じない」。ガルシアにとって、受賞は付加価値がつく。「この受賞は映画製作を可能にしているグループの他のメンバーに陽が当たったと思う。だって多くの人々は誰が映画を支えているか知らないもの。プロデューサーという職業は、人の目に見えない存在、特に女性はまだまだよ」と。最後に厳しい仕事をサポートしてくれる家族への感謝の言葉で締めくくった。

 

★授賞式はサンセバスチャン映画祭期間中に行われるのが慣例、スペイン教育文化スポーツ大臣の手で授与される。交代がなければ今年6月に就任したホセ・ギラオ・カブレラ大臣になります。922日(土)が予定されており、どんな受賞スピーチをするのか見守りたい。

2014年受賞者ロラ・サルバドールの紹介記事は、コチラ⇒2014年07月24日

2015年受賞者フェルナンド・トゥルエバの紹介記事は、コチラ⇒2015年07月17日


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