フロリアン・ガレンベルガーの”Colonia”*ナチスとピノチェト ― 2016年03月07日 16:39
「死の天使」ヨーゼフ・メンゲレ医師もコロニア・ディグニダに滞在していた!
★ルシア・プエンソの『ワコルダ』(“Wakolda”2013)の舞台はアルゼンチン、パタゴニアの風光明媚なバリローチェ、フロリアン・ガレンベルガーの“Colonia”(2015,独・ルクセンブルク・仏)の舞台はチリ中央部マウレ州リナレス県のパラル市郊外です。前者はアウシュヴィッツでユダヤ人の人体実験をおこない「死の天使」と恐れられたSS将校ヨーゼフ・メンゲレ医師がアルゼンチンに逃亡して暗躍する実話、イスラエル諜報特務庁モサドが舌を巻くほどの知的モンスターだった。後者はヒトラーユーゲント団員HJだったパウル・シェーファーが、児童の性的虐待を告発されチリに逃亡、1961年に設立した“Colonia Dignidad”(尊厳のコロニー)の真相を暴く実話。両作ともナチスと軍事独裁政権絡みの社会派ドラマです。最近、前者のメンゲレ医師が一時的にこの「コロニア」に滞在していたことが判明するなど、埋もれていたナチスや軍事独裁政権下の闇の掘り起こしが始まっています。両国はホロコーストを逃れてきた多くのユダヤ系ドイツ人と同時に、利用価値があるならばナチスであろうが積極的に受け入れてきた不思議の国といえます。
*ルシア・プエンソの『ワコルダ』の記事は、コチラ⇒2013年10月23日

(警官に追われるレナとダニエル、映画から)
★映画“Colonia”の英語題は「尊厳のコロニー」と呼ばれた悪名高き“Colonia Dignidad”の名前をそのままタイトルにしています。戦慄すべきコロニーの真相が明るみに出てからは、こちらのほうがピーンとくるでしょうか。製作にチリもスペインも参画しておりませんが、言語は英語とスペイン語、ピノチェト政権の弾圧物語なので簡単に紹介しておきたい。以前パトリシオ・グスマンのドキュメンタリー『光のノスタルジア』と『真珠のボタン』を記事にいたしました。第1部の舞台はチリ北部アタカマ砂漠、第2部はチリ南部太平洋岸、監督は中央部アンデス山脈の火口や火口湖を視野に入れて第3部を撮りたいと語っていましたが、「コロニア・ディグニダ」も登場するのではないでしょうか。1990年の民政移管後も民主化の歩みは遅々としており、ピノチェトの傷跡は国境を越えて吹きだしている感さえあります。
*主な『光のノスタルジア』の記事は、コチラ⇒2015年11月11日
*主な『真珠のボタン』の記事は、コチラ⇒2015年11月16日
“Colonia”( Colonia Dignidad)2015
監督・脚本:フロリアン・ガレンベルガー
脚本(共):トルステン・ヴェンツェル
撮影:Kolja・ブラント
プロデューサー:ベンヤミン・ヘルマン(ベンジャミン・ハーマン)
データ:製作国ドイツ=ルクセンブルク=フランス、言語英語・スペイン語、2015年、110分、スリラー、実話、軍事独裁政権、撮影地ルクセンブルク、公開ドイツ2016年2月18日、他にロシア、米国、イタリアなどの公開が予定されています。
映画祭上映:トロントFF2015でワールド・プレミア、チューリッヒFF2015、ベルリンFF2016など。
キャスト:エマ・ワトソン(レナ)、ダニエル・ブリュール(夫ダニエル)、ミカエル・ニクヴィスト(パウル・シェーファー)、リチェンダ・ケアリー(ギセラ)、他

(左から、ミカエル・ニクヴィスト、監督、リチェンダ・ケアリー、ダニエル・ブリュール、
ベンヤミン・ヘルマン。エマ・ワトソンは撮影中により欠席、トロント映画祭2015)
解説:1973年チリのサンティアゴ、ドイツ航空ルフトハンザの客室乗務員レナとアジェンデ政権を支持してチリに滞在していた写真家ダニエルの物語。レナは夫に会うためチリを訪れていた折しもピノチェト将軍率いる軍事クーデタに遭遇してしまう。1973年9月11日、二人はクーデタ勃発の同日に逮捕され国立スタジアムに連行される。レナは間もなく解放されるが、ダニエルはピノチェトの秘密警察である国家情報局の手で拉致されてしまう。やがてレナは彼の行き先が拷問施設として使用されている「コロニア・ディグニダ」であることを突き止めた。ヒトラーユーゲント団員、ドイツ空軍の衛生兵だったパウル・シェーファーと彼の追随者たちが、1961年に設立したカルト的な少数集団のコロニーである。レナはダニエルを救うべくシェーファーの信奉者と偽ってコロニー内部に潜入するが、そこはピノチェト軍事政権に協力してシェーファーが君臨する暴力と児童への性的虐待が蔓延する恐怖の拷問センターであった。誰一人逃れることができないコロニーから二人は脱出できるのだろうか。 (文責:管理人)

(シェーファー役のミカエル・ニクヴィストとレナ役のエマ・ワトソン)
★パウル・シェーファーの人物紹介:1921年ミュンヘンのトロースドルフ生れ、2010年チリのサンチャゴで没。大戦中はヒトラーユーゲント団員であり、ドイツ空軍の衛生兵だった。1959年、孤児院を併設したバプテスト教会を設立したが、児童への性的虐待を告発され、司法の手が及ぶのを恐れたシェーファーは、追随者を引き連れて民主化以前のチリに脱出する。1961年、チリ中央部マウレ州リナレス県のパラル市郊外のバイエルン村(スペイン語で「ビジャ・バビエラ」)に、カルト的少数集団「Sociedad Benefactora y Educacional Dignidad」(仮訳「慈善協会と教育的尊厳」)を設立、のち「Colonia Dignidad」(尊厳のコロニー)に変更した。経済活動は主に農作業であったが、敷地を有刺鉄線で囲い、逃亡防止の望楼を備えた暴力が支配する秘密施設であった(1966年調査時には230人ほどがいた)。

(20歳ころのパウル・シェーファー)
★1973年9月11日、ピノチェト将軍の軍事クーデタ以後、彼の秘密警察である国家情報局の拷問センターという役割が加わった。1974年、ピノチェトもコロニア・ディグニダを訪れている。この施設に連行された人の証言により、情報局員以外のコロニーのメンバーも拷問に加担したことが後に明らかになっている。民政移管された後、シェーファーは26名の児童への性的虐待の告発を受けるが、1997年5月20日に姿を消してしまう。チリのバルパライソに潜伏した後アルゼンチンに逃亡、リカルド・ラゴス政権時の2005年3月10日ブエノスアイレスで逮捕される。両国の話合いの結果、チリ警察の手でサンチャゴに移送される。2006年5月24日、性的虐待で禁錮20年、他にも武器蓄積などで7年が加算される。コロニア・ディグニダの地下兵器庫には機関銃、自動小銃、ロケット弾、更には戦車まで隠されていたという、まさに小さな地獄であった。2010年4月24日、サンチャゴの刑務所内病院で心臓病のため死亡、享年88歳でした。ここまで生き延びて来られたのは南米諸国の政治的後進性と脆弱な民主主義、緻密なナチス残党のネットワーク、何はおいてもチリの長きに渡るピノチェト独裁のおかげである。

(2005年、潜伏先のブエノスアイレスで逮捕され、チリ警察の手で移送されるシェーファー)
★フロリアン・ガレンベルガーは、1972年ミュンヘン生れ、監督、脚本家、俳優、製作者。ミュンヘン大学では哲学を専攻したが、のちミュンヘン・フィルム・スクールで映画を学ぶ。数多く撮った短編のうち“Quiero ser”(2000、“I wont to be…”)が第73回アカデミー賞短編賞、ステューデント・アカデミー賞などを受賞する。また2009年の“John Rabe”が『ジョン・ラーベ~南京のシンドラー』の邦題で公開されている。今年5月には製作に携わったクリスティアン・チューベルトの『君がくれたグッドライフ』が公開される予定。

(ブリュール、ワトソン、監督、ベルリン映画祭2016)
★ガレンベルガー監督は製作動機を「9歳のとき学校で学んだ。当時コロニア・ディグニダのことは一大スキャンダルだった。しかし今でもドイツはアンタチャブルにしていたい。却って本作を撮るために5年前現地を訪れたときのチリのほうがオープンだった」とトロント映画祭で語っていた。1972年ミュンヘン生れの監督が9歳だった1981年は、まだチリはピノチェトが支配していた時代でした。現在ではコロニア・ディグニダについての資料や研究は進んでいるのにドイツが沈黙しているのはおかしい。人権の意味からもドイツは真実を明らかにする負債を負っている、ということでしょうか。スリラー仕立ての実話に基づく恐怖ドラマでもあるが、「これは恐怖を超えた愛の物語です。今日では、夫を助けだしたいという妻のあのような行為は普通のことではありませんが、私が惹かれるのはあの女性の勇気です」と監督。ハリポタの少女エマ・ワトソンも頭の回転の早い大人の女優に成長しました。

(コロニア・ディグニダがあった場所、ビジャ・バビエラ)
期待できるスペイン映画2016 ③ ― 2016年02月26日 15:00
2016年に長編映画デビューを果たした監督
★アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』に出演していたラウル・アレバロ、1990年代にマヌエル・ゴメス・ペレイラの『電話でアモーレ』(95)、イマノル・ウリベの『ブワナ』(95)や“Plenilunio”(99)に出演していたミゲル・デル・アルコが監督デビューしました。初監督とはいえ、彼は今世紀に入ってからは脚本家として、または舞台演出家としても活躍している。

(“Las furias”のポスター)
*ミゲル・デル・アルコ“Las furias”(2016年の後半)、脚本ミゲル・デル・アルコ、製作Aqui y Alli Films / Kamikaze Producciones / TVE、撮影2015年8月10日マドリードでクランクイン(2週間)、のちカンタブリアに移動した(4週間)。
キャスト:バルバラ・レニー、ホセ・サクリスタン、カルメン・マチ、メルセデス・サンピエトロ、エンマ・スアレス、ゴンサロ・デ・カストロ、アルベルト・サン・フアン、エリザベト・ヘラベルト、他。
ストーリー:70歳代のオルガ(サンピエトロ)は、海沿いの避暑地にある別荘を売るつもりだと3人の子供に告げた。ついては各自欲しい家具調度や思い出の品があれば選ぶように言い渡す。長男エクトル(ゴンサロ・デ・カストロ)は、売却前の最後の1週間を家族みんなで楽しむことを提案する。既に15年以上連れ添っている女性との婚礼もここで挙げたい。家族は思い思いに1週間を過ごすことになるだろう、ありふれた家族の集りが描かれるのだが・・・

(カンタブリア海での撮影風景)
ミゲル・デル・アルコ:1965年マドリード生れ、監督、脚本家、俳優、舞台演出家。舞台監督としてはシェクスピア、ゴーリキーの戯曲、スタインベックの小説の翻案劇を手掛けている。前述したように俳優として出発、脚本家、TVシリーズ、舞台演出などのかたわら、短編を撮る。今回50歳にして長編映画デビュー。豪華なキャスト陣からも分かるようにスペインでの評価は高い(バルバラ・レニー、ゴヤ賞2015主演女優賞、カルメン・マチ助演女優賞、ホセ・サクリスタン、2013主演男優賞)。演劇と映画の二足の草鞋派の俳優が多いのもキャリアから推して頷ける。
★本作については、最近ご紹介した『マジカル・ガール』のなかで、バルバラ・レニーやホセ・サクリスタンが出演する映画としてアップしています。(コチラ⇒2016年2月15日)

(ミゲル・デル・アルコ監督)

*ラウル・アレバロ“Tarde para la ira”(2016年、スリラー)、共同脚本ダビ・プリド。製作者ベアトリス・ボデガス、セルヒオ・ディアス、撮影アルナウ・バルス・コロメル。予算120万ユーロ。ラウル・アレバロは脚本執筆に7年の年月をかけたが、撮影に6週間しかかけられなかったのはクレージーと嘆いている。マドリードとセゴビアのマルティン・ムニョス・デ・ラス・ポサダスというアレバロが育った町で撮影された。町の人々がエキストラとして協力しており、主人公の一人ルイス・カジェホはセゴビア出身。昨年7月マドリードでクランクインした。
キャスト:ルイス・カジェホ(クーロ)、アントニオ・デ・ラ・トーレ(ホセ)、ルス・ディアス(アナ)、アリシア・ルビオ(カルメン)、マノロ・ソト、ラウル・ヒメネス、フォント・ガルシア、他
ストーリー:クーロとホセの物語、クーロには暗い大きな秘密の過去があった。最近刑務所から出所したばかりであり、過去の亡霊にとり憑かれている。アナと一緒に人生をやり直そうと思っているが、見知らぬ男ホセと出逢うことで歯車が狂ってくる。復讐と人間に潜んでいる暴力が語られるだろう。まだ詳細が見えてこないが、ルイス・カジェホとアントニオ・デ・ラ・トーレが主役とくれば期待したくなります。監督と俳優が互いに知りすぎているのは、時にはマイナスにはたらくことが懸念されますが期待しています。カルメン役のアリシア・ルビオは恋人。

(ホセ役のアントニオ・デ・ラ・トーレ、フレームから)

(撮影中のクーロ役ルイス・カジェホ)
ラウル・アレバロは、1979年マドリード生れ、俳優、監督、脚本家。クリスティナ・ロタの演劇学校で演技を学んだ。「妹と一緒に父親のカメラで短編を撮っていた。17歳でデビューしたのも映画監督になりたかったから」という根っからの映画好き。日本デビューはダニエル・サンチェス・アレバロの第1作『漆黒のような深い青』(06)がラテンビート2007で上映されたときで、監督と「義」兄弟の契を結んでいるアントニオ・デ・ラ・トーレも共演している。サンチェス・アレバロは合計4作撮っていますが、デ・ラ・トーレと同じに全てに出演しています。ゴヤ賞絡みではサンチェス・アレバロの第2作『デブたち』(09)で助演男優賞を受賞している。
*ホセ・ルイス・クエルダ、アレックス・デ・ラ・イグレシア、アルモドバル、アントニオ・バンデラス、『マーシュランド』のアルベルト・ロドリゲス、先日ご紹介したばかりの“Cien años de perdón” のダニエル・カルパルソロなどに起用されている。舞台にも立ち、テレドラ出演も多く、NHKで放映された『情熱のシーラ』でお茶の間にも登場した。個人的には好きな作品が未公開なのが少し残念です。

(本作撮影中のラウル・アレバロ)
追加情報:邦題『物静かな男の復讐』で Netflix 配信されました。
『マジカル・ガール』がやっと公開*カルロス・ベルムト ― 2016年02月15日 13:42
マンガ・オタクが撮ったフィルム・ノワール
★前回「待ちくたびれました」と書いたカルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』の劇場公開が1カ月をきりました。既に試写会で見たブロガーのネタバレ記事まであって、「ただで見て、それはないよ」です。映画祭上映こそ枚挙に暇がないが劇場公開は数カ国、日本はその数少ないうちの一つ、殆どが原題を使用しているがフランスでは“La niña de fuego”のタイトルで公開された。昨年ゴヤ賞ノミネーションの1月段階では製作費が半分も回収できていなかったが、次回作のためにも日本公開が少しでも寄与してくれることを願いたい(日本で新作を撮る噂あり)。

(カルロス・ベルムト監督)
★原タイトル“Magical Girl”はサンセバスチャンの金貝賞・監督賞受賞作品でしたが、ゴヤ賞はバルバラ・レニーの主演女優賞1個でした。話題作ではあったがわざわざ映画館に足を運んで見る映画ではないと考えた観客が多かったということです。サンセバスチャンでも作品賞と監督賞をダブらせない方針を崩してまで両賞を受賞させたことに憤慨する向きもあり、それは製作者、監督とも承知のことだったと思います。スリラー好きなスペイン人でも二の足を踏んだようでした。2014年は空前のヒット作“Ocho apellidos vascos”、『エル・ニーニョ』や『マーシュランド』などに観客が押し寄せたことも原因かと思います。ヒロインのバルバラ・レニーのプロフィール、成功までの軌跡、作品データについては、既に詳しく記事にしております(コチラ⇒2015年1月21日、同年3月27日)。その他、日本公開公式サイトをご覧ください。

(受賞スピーチをするバルバラ・レニー、背後はプレゼンターのフアン・ディエゴ)
★以下のフィルモグラフィーから分かるように脇役が多い。しかし傾向の異なる監督からオファーを受けており、歴史物からシリアス・ドラマ、コメディまでこなせるマルチ俳優である。アルモドバルの『私が、生きる肌』のチョイ役で合格点を貰ったようだが、新作“Julieta”のヒロイン起用は噂におわった。コメディ“Todas las canciones hablan de mí”の監督ホナス・トゥルエバ(1981マドリード、フェルナンド・トゥルエバの長男)と恋人同士だった。他にも噂はあったが現在は『マジカル・ガール』で共演したイスラエル・エレハルデが新恋人、昨年ゴールインしたようです。演劇との二足の草鞋派であるカップルは “Misántropo”やパスカル・ランバートの“La clausura del amor”の舞台に共に立っている。後者は「愛の関係を終わらせるためのレシピ」がテーマとか。演技の基礎を舞台で磨いている人が多いヨーロッパの俳優は、映画と演劇の両方を手放さない。アニマラリオAnimalario(1996設立)というマドリードに本拠をおく演劇集団のメンバー、アルベルト・サン・フアン、同じアルゼンチン出身のエルネスト・アウテリオなどが所属している。

(レニーとエレハルデ、舞台“La clausura del amor”から)
*主なフィルモグラフィー*
2001“Más pena que gloria” ビクトル・ガルシア・レオン
2005“Obaba”モンチョ・アルメンダリス、ルルデス役でゴヤ賞2006新人女優賞ノミネート。
2007“Las 13 rosas”エミリオ・マルティネス≂ラサロ (スペイン内戦がテーマ)
2008“Todos los días son tuyos”ホセ・ルイス・グティエレス・アリアス
2009“Los condenados”イサキ・ラクエスタ(サン・ジョルディ映画賞で女優賞)
2010“Todas las canciones hablan de mí”ホナス・トゥルエバ(コメディ)
2011“La piel que habito”ペドロ・アルモドバル(『私が、生きる肌』の邦題で2012公開)
2012“Dictado”アントニオ・チャバリアス(『フリア、よみがえりの少女』の邦題で2012公開)
2012“Miel de naranjas”イマノル・ウリベ
2014“Stella cadente” リュイス・ミニャロ(サンセバスチャン「メイド・イン・スペイン」)
2014“El Niño”ダニエル・モンソン(『エル・ニーニョ』の邦題でラテンビート2014上映)
ゴヤ賞助演女優賞ノミネーション
2014“Magical Girl”カルロス・ベルムト、サンセバスチャン映画祭2014金貝賞・監督賞、ゴヤ賞主演女優賞、フォルケ賞女優賞、シネマ・ライターズ・サークル賞主演女優賞などを受賞(『マジカル・ガール』の邦題で2016年公開)
2014“Murieron por encima de sus posibilidades” イサキ・ラクエスタ(コメディ)
2015“El apóstata”フェデリコ・ベイロフ(ウルグアイ=西=仏)コメディ
2016“María (y los demás”ネリー・レゲラ
2016“Oro”アグスティン・ディアス・ヤネス
2016“Las furias”ミゲル・デル・アルコ
2016“Contratiempo”オリオル・パウロ
★“El apóstata”はスペインでは未公開、後は製作中です。殆どが主役ですから2015年はハードな1年だったことがわかります。“El apóstata”のフェデリコ・ベイロフ監督はウルグアイ出身、トロント映画祭でワールド・プレミア、サンセバスチャン映画祭で国際映画批評家連盟FIPRESCI賞、審査員スペシャル・メンションを受賞している。本作には最近映画を撮っていない『カマロン』の監督ハイメ・チャバリが神父役で出演している。アルモドバルの『マタドール』にも司祭役で出ていたが、風貌がぴったりです。国際的な映画祭には招待されるがスペインは未公開、故郷ウルグアイで10月公開されている。
★久しぶりにメガホンをとったアグスティン・ディアス・ヤネスの“Oro”には、オスカル・ハエナダやラウル・アレバロが共演している。まだ詳細は分からないが長編デビュー作『死んでしまったら私のことなんか誰も話さない』、『ウエルカム!ヘヴン』、『アラトリステ』、『4人の女』の監督、個人的にはかなり期待している。『アラトリステ』の原作者ペレス・レベルテの短編の映画化です。デビュー作でゴヤ賞1996の新人監督賞・脚本賞を受賞している。ビクトリア・アブリル、フェデリコ・ルッピ、ピラール・バルデムなどベテラン俳優の演技も素晴らしかった。
★新人監督ミゲル・デル・アルコの“Las furias”には、『マジカル・ガール』のホセ・サクリスタン、アルモドバル新作の“Julieta”のヒロイン、エンマ・スアレス、“Ocho apellidos vascos”のカルメン・マチ、アルベルト・サン・フアンがクレジットされている。『ロスト・ボデイ』のオリオル・パウロの“Contratiempo”には、マリオ・カサス、ホセ・コロナドが共演、どうやって時間を作っているのか凄まじいスケジュールです。これからの映画をあれこれご紹介しましたが、どれが日本の劇場まで辿り着けるかしらね。
涙は何処からうまれるのか
★少女時代はアルゼンチン訛りのせいでイジメにあって涙を流していたバルバラ、今は演技者として嬉し泣き、悔し泣きの涙を流さなければならない。下の写真はカメラマンの求めにしたがって完成したもの。「バルバラ、カメラの方を見て、顎を少し上げて、そうそういいね。じゃ唇を心もち開けて、髪に片手を入れてみて。とてもいい、顔を左に向けて、いいやそれでは向けすぎだよ、バルバラ。ああいいね、じゃ、泣けるかな・・」。こうして出来上がった写真です。涙を流すことができたかって?

(謎めいた美しさは何処からうまれるのか、バルバラ・レニー)
新人監督賞候補ダニ・デ・ラ・トーレ*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑨ ― 2016年01月22日 23:21
『暴走車 ランナウェイ・カー』の監督ダニ・デ・ラ・トーレ

(二人の主役を配したポスター)
★フォルケ賞結果発表で中断しておりましたが、ゴヤ賞ノミネーションに戻ります。既に限定とはいえ劇場公開&DVD発売になっております。サンセバスチャン映画祭2015以来、折りにふれご紹介しておりますが、新人監督賞を含むノミネーション8カテゴリーは無視できません。『プリズン211』で「やっと自分の演りたかった役に巡りあえた。役者になることを反対していた父親から認めてもらえた」と語っていたルイス・トサールが、アクション・スリラーに戻ってきました。

(父親役のトサールと娘役のパウラ・デル・リオ、映画から)
★ダニ・デ・ラ・トーレのキャリア&フィルモグラフィー:Dani de la Torre 、1975年ガリシアのルゴ県モンフォルテ・デ・レモス生れ、監督、脚本家、編集者、プロデューサー。ルゴ市はサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の通り道です。1997年からTVシリーズ・ドラマの製作者として出発、2004年、スペイン内戦をテーマにした短編“Minas”(16分)で監督デビュー、アルメリア国際短編映画祭で脚本賞を受賞した。同年“Lobos”、2006年“Bos días”、2010年からテレドラ“Mar lible”の監督、2015年長編デビュー作“El desconocido”がベネチア映画祭でワールドプレミア(9月2日)、引き続きサンセバスチャン映画祭の巨大スクリーン「ベロドロモ」部門で上映され(9月21日)、すかさずスペイン公開となった。ちなみにルイス・トサールもルゴ出身です。

(ダニ・デ・ラ・トーレ監督)
“El desconocido”(『暴走車 ランナウェイ・カー』)2015
製作:Vaca Films / Atresmedia Cine / La Fermel ! Productions / TVG ガリシア・テレビ
監督:ダニ・デ・ラ・トーレ
脚本:アルベルト・マリーニ
編集:ホルヘ・コイラ
録音:ダビ・マチャード、ハイメ・フェルナンデス、ナチョ・アレナス
プロダクション:カルラ・ペレス・デ・アルベニス
特殊効果:パウ・コスタ、イシドロ・ヒメネス
キャスト:ルイス・トサール(カルロス)、ハビエル・グティエレス(エル・デスコノシード)、エルビラ・ミンゲス(ベレン)、フェルナンド・カヨ(エスピノサ)、ゴヤ・トレド(マルタ)、パウラ・デル・リオ(カルロス娘サラ)、マルコ・サンス(カルロス息子マルコス)、ルイス・サエラ、アントニオ・モウレロス(アンヘル)、リカルド・デ・バレイロ(ビクトル)、マリア・メタ(フリア)、他
データ:スペイン、スペイン語、2015年、102分、アクション・スリラー、撮影地ガリシアのプラサ・デ・ビゴ、他、公開スペイン、メキシコ、ポルトガル、日本(DVDも発売)、他
★以上のデータはゴヤ賞でノミネーションを受けているカテゴリーを中心に作成しました。キャスト陣ではルイス・トサールが主演男優賞、サンセバスチャン映画祭で高い評価を受けたエルビラ・ミンゲスがやはり助演女優賞にノミネートされましたね。「エル・デスコノシード 見知らぬ男」になったハビエル・グティエレスは、ゴヤ賞2015の主演男優賞受賞者です(アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』)。

(エルビラ・ミンゲス、右隣りフェルナンド・カヨ、映画から)

(スクリーン登場は僅かだが存在感を示したハビエル・グティエレス)
★脚本を手がけたアルベルト・マリーニは、1972年イタリアのトリノ生れ、脚本家、監督、製作者。ジャウマ・バラゲロの“Mientras duermes”の脚本と製作に参画しています。これは『スリーピング・タイト 白肌の美女の異常な夜』という何やら物欲しげな邦題で公開されており、主役はルイス・トサールでした。本作は「結末に問題あり」と取り沙汰されているにもかかわらず、何故か「脚本賞」にノミネーションされております。トータルにみれば、アドレナリンがどくどく出る水準以上の出来ということでしょうか。
★1月19日結果発表になったフェロス賞は、作品賞・監督賞を含む6カテゴリーにノミネートされていましたが、いずれも無冠に終わりました。パウラ・オルティスの“La novia”が独占したことは前回記事にしたばかりです。Vaca Filmsという製作会社は、ダニエル・モンソンの『プリズン211』や『エル・ニーニョ』、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー・ミッション』、イシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』など、社会政治的ドラマ、アクション、スリラーものを得意としています。トサールはカルパルソロ以外に出演している。

(左から、ゴヤ・トレド、パウラ・デル・リオ、監督、トサール、サンセバスチャン映画祭)
★フェロス賞の結果から判断すると、ゴヤ胸像に手が届きそうなのが助演女優賞のエルビラ・ミンゲスあたりかもしれない。ここは例年芸達者が顔を揃えるカテゴリー、誰が取ってもおかしくない。フェロス賞受賞者ルイサ・ガバサが立ちはだかる激戦区です。
アメナバルの”Regression”が開幕上映*サンセバスチャン映画祭2015 ④ ― 2015年08月16日 11:48
「アメナバルが嫌いな映画祭があるかい?」とディレクター
★まあ、ないでしょうね(笑)。オープニング(9月18日)は大抵コンペティション外から選ばれますが、“Regresión”(西題)も同じコンペ外です。アメリカでは映画祭前の8月28日に公開予定、スペインは10月2日封切りがアナウンスされています。ドイツ10月1日、イギリスの10月9日と欧州各国で順次公開されます。

★今年初めに2015年公開される映画として既に記事をアップしており、キャスト、プロットなど基本データをご紹介しております。製作国は米国とスペイン、言語は英語、サンセバスチャンではスペイン語吹替え上映のようです(スペイン語の予告編あり)。製作国は米国とスペインですが、IMDbによるとスペイン、カナダとなっております。撮影がカナダのオンタリオ州ミシサガが中心だったせいかと思われます。また時代背景を1880年代とご紹介しておりますが、最近のエル・パイス紙やウィキィでは1990年代とあり、スリラーなのに肝心の内容まで錯綜しております(笑)。
*“Regression”の紹介記事は、コチラ⇒2015年1月3日

(エマ・ワトソンに演技指導をするアメナバル)
*劇場公開情報、岩波ホールで2作品一挙上映が決定*
★「ホライズンズ・ラティノ」部門でご紹介したパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー“El botón de nácar ”(2014、チリ≂西≂仏)が、『真珠のボタン』の邦題で公開されることになりました。前作『光のノスタルジア』(2010、仏≂独≂チリ)と2本立て、前作は既に公開が決定しておりました。

(『光のノスタルジア』のポスター)
★新作『真珠のボタン』が、ベルリン映画祭2015で銀熊脚本賞を受賞した折りに作品並びに監督紹介をしております。前作は公開までに時間が掛かりましたが、評価の高かったチリのドキュメンタリーが10月10日から2作揃って公開の運びとなりました(11月20日まで)。地味なドキュメンタリーが一挙公開は珍しいケースかもしれません。公式サイトが立ちあがっております。一般1回券1500円、2回券は2800円と割引になります。
*ベルリン映画祭2015パトリシオ・グスマンの記事は、コチラ⇒2015年2月26日

第72回ベネチア映画祭2015*オリゾンティ部門ノミネーション ③ ― 2015年08月10日 17:02
ロドリーゴ・プラの第4作“Un
monstruo de mil cabezas”はスリラー
★ロドリーゴ・プラはベネチア映画祭で世界に躍り出た監督、だからベネチアとは相性がいい。長編デビュー作“La zona”(2007)は、ベネチア映画祭2007で初監督作品に贈られる「ルイジ・デ・ラウレンティス賞*」、「平和のための映画賞」、「ローマ市賞」の3賞を手にした。更にトロント映画祭で審査員賞、翌年のマイアミ、サンフランシスコ両映画祭で観客賞を受賞した。
*1996年に新設された賞、イタリアのプロデューサー、ルイジ・デ・ラウレンティス(1917~92)の名をを冠した賞。ベネチア映画祭のコンペティション部門、オリゾンティ部門以下、上映された全長編作品が対象になる。

“Un
monstruo de mil cabezas”メキシコ、2015
製作:Buenaventura
監督・プロデューサー:ロドリーゴ・プラ
脚本:ラウラ・サントゥリョ
撮影:オデイ・サバレタ(初長編)
音楽:レオナルド・ヘイブルム(『マリアの選択』)、ハコボ・リエベルマン(“Desierto adentro”)
プロデューサー(共同):アナ・エルナンデス、サンディノ・サラビア・ビナイ
データ:メキシコ、スペイン語、2015、スリラー、75分、撮影地メキシコ・シティー
キャスト:ハナ・ラルイ、セバスティアン・アギーレ・ボエダ、エミリオ・エチェバリア、ダニエル・ヒメネス・カチョ、マルコ・アントニオ・アギーレ、ハロルド・トーレス、マリソル・センテノ、ウーゴ・アルボレス、他
プロット:癌でむしばまれた夫を看病する妻ソニアの物語。夫は公的医療のシステムの不備や怠慢、さらに汚職の蔓延で適切な治療を受けられない。絶望の淵にあるソニアは他の方法を取ることを決心する。息子を一緒に連れていくことにする。前作『マリアの選択』のテーマを追及する社会派スリラー。

(映画“Un
monstruo de mil cabazas”から)
トレビア:前作『マリアの選択』は、監督夫妻の故郷モンテビデオが舞台だったが、第4作はメキシコに戻ってきた。というわけでデビュー作“La zona”の主役ダニエル・ヒメネス・カチョと再びタッグを組んでいる。彼は日本で一番知られているメキシコの俳優ではないかと思う。マドリード生れのせいかアルモドバル(『バッド・エデュケーション』)、パブロ・ベルヘル(『ブランカニエベス』)などスペイン映画出演も多い。それこそ聖人から悪魔までオーケーのカメレオン俳優、アリエル賞のコレクター(5個)。他の俳優もメキシコのTVドラで活躍している人で占められている。簡単なストーリーしか発表されていないが、ウルグアイの老人医療、認知症になった親の介護問題に迫った前作『マリアの選択』に繋がる作品ではないかと思う。
★脚本を手掛けたラウラ・サントゥリョは作家でもあり、本作は2013年Estuario社から刊行された同名小説の映画化、デビュー作から監督と二人三脚で映画作りをしている(彼女は監督夫人である)。音楽監督のレオナルド・Heiblumは、『マリアの選択』以外に、マルシア・タンブッチ・アジェンデの「我が祖父、アジェンデ」やディエゴ・ケマダ≂ディエスの『金の鳥籠』などを手掛けたベテラン。

(小説“Un monstruo de mil cabazas”の表紙)
*監督キャリア
& フィルモグラフィー*
★ロドリーゴ・プラRodrigo Plá:1968年、ウルグアイのモンテビデオ生れ、監督、脚本家、プロデューサー。「エスクエラ・アクティバ・デ・フォトグラフィア・イ・ビデオ」、後「カパシタシオン・シナマトグラフィカ」センターで脚本と演出を学んだ。以下フィルモグラフィーを参照。

(『マリアの選択』のポスターをバックに監督夫妻)
1996“Novia mía”短編、第3回メキシコの映画学校の国際映画祭に出品、メキシコ部門の短編賞を受賞、フランスのビアリッツ映画祭ラテンアメリカ部門などにも出品された。
2001“El ojo en la nuca”短編、グアダラハラ映画祭メキシコ短編部門で特別メンションを受ける。ハバナ映画祭、チリのバルディビア映画祭で受賞の他、スペインのウエスカ映画祭、サンパウロ映画祭などにも出品された。
2007“La zona”長編デビュー作、監督、脚本、製作、受賞歴は上記参照
2008“Desierto adentro”監督、脚本、製作、グアダラハラ映画祭2008で観客賞ほか受賞、
アリエル賞2009で脚本賞受賞
2010“Revolución”(10名の監督による「メキシコ革命100周年記念」作品)『レボリューション』の邦題でラテンビート2010で上映
2012“La demora” 『マリアの選択』の邦題でラテンビート2012で上映、ベルリン映画祭2012「フォーラム」部門でエキュメニカル審査員賞受賞、アリエル監督賞、ハバナ映画祭監督賞、ウルグアイの映画批評家連盟の作品賞以下を独占した。
2015“Un monstruo de mil cabezas”割愛
バーニー・エリオット”La deuda”*マラガ映画祭2015 ⑥ ― 2015年04月19日 23:28
第4弾“La deuda”のテーマは「金と権力と貧困」
★“La deuda”のオリジナル・タイトルは“Oliver’s Deal”、言語は英語ですが、既にスペイン公開が5月15日に決定しているらしく吹替え版で見ることになるようです。マラガ映画祭はサンセバスチャンやシッチェスのような国際映画祭ではなくスペイン語映画に特化しているので、監督がアメリカ人、オリジナル版が英語というのは珍しいケースだと思います。前回に続いて本作も長編デビュー作、新人監督にしては大物俳優を揃えることができました。監督の興奮ぶりはキャスト紹介の監督コメントに入れました。
“La
deuda”(“Oliver’s Deal”) バーニー・エリオット 2014 西=米=ペルー
スリラー 99分
製作:Arcadia Motion Pictures(西) / Atlantic Pictures(米) / Viracocha Films(ペルー) / 他
監督・脚本:バーニー・エリオット
キャスト:スティーヴン・ドーフ(オリバー)、アルベルト・アンマン(リカルド・シスネロス)、カルロス・バルデム(ルーベン・カラベド)、デヴィッド・ストラザーン(ネイサン)、ブルック・ラングトン(ケイト)、ルチョ・カセレス(セロン医師)、ハビエル・バルデス(セニョール・ロペス)、ヘスス・アランダ(マリオ)、ニディア・ベルメホ(ロシオ)、リリアナ・トルヒーリョ(サンドラ)、デルフィナ・パレデス(グロリア)、パコ・バレラ(刑事)他

(左から、S.ドーフ、A.アンマン、C.バルデム、D.ストラザーン スペイン語版ポスター)
解説:異なった二つの国アメリカとペルー、国際金融取引を背景に異なった階級に属する男たち、一攫千金を夢見るハゲタカたちが激しく交錯する骨太な政治ドラマ。オリバーは野心満々のアメリカの実業家、彼の昔からの友人ペルー人のリカルドと一緒にある契約をまとめるつもりである。二人はかつてペルー政府が住民と交していた古い今では忘れられてしまっているある負債を悪用する計画を立てる。オリバーとリカルドは、ペルー山地の村パンパカンチャの土地が思いがけずかなり価値があることに気づく。しかしそこに農民たちの厳格な族長と大土地所有者のカラベドが立ちはだかることになる。二人ともそれぞれ自身の計画を持っていたからだ。

(オリジナル版“Oliver’s Deal”のポスター オリバー役のS.ドーフ)
*監督紹介&フィルモグラフィー*
★バーニー・エリオット Barney Elliott:2000年5月、サンフランシスコ大学メディア・コミュニケーションを卒業、その後イギリスに渡り、2003年に「ロンドン・フィルム・スクール」修士課程映画監督科を卒業。卒業後、The Art and Technique of Filmmakingで働く。監督、製作者、カメラ技師、編集者としてフィルムとビデオ両方のフォーマットづくりに取り組んだ。フィルム・スクール時代からフリーランスの編集者としてコマーシャル、ドラマ、ドキュメンタリーを手掛けており、ロンドンで仲間と共同でプロダクションAgile Films Ltd. を設立する。
*2006年、短編デビュー作となる“True Colours”(2007、英語)製作のためAgile Films Ltd.を離れる。本作は2007年1月のアンジェ映画祭(仏)で短編監督第1作に与えられる特別審査員賞を受賞する。その後90あまりの映画祭で上映、数々の受賞を果たす。「若手監督のパライソ」と称されるカンヌ映画祭の資金援助財団「シネフォンダシオン」に選ばれ、パリに5ヵ月間(2007年10月~翌年2月)滞在して“La deuda”の脚本を書くことができた。その他、ペルーで短編“Ultimo recurso”(2010、西語、9分)を撮る。バーニーは妻子と2009年10月よりペルーのリマで暮らしている。妻のバレリア・ルイスValeria Ruiz Elliott はペルーの若手監督の一人。

★トレビア
*スペイン公開は、最初4月24日とアナウンスされていましたが、配給元Alfa Picturesの関係で5月15日に変更になりました。これもあくまで予定です。
*撮影はニューヨーク、ペルーの首都リマと中央高地にあるワラス州(Huaraz / Waraq ケチュア語で‘夜が明ける’)で行われた。美しいワラスの風景も一つの見どころのようです。
*映画製作も御多分にもれず多国籍企業化して久しいが、アメリカとペルーの接点がなかなか見えてこなかったのですが、奥さんがペルーでも注目の若手監督の一人バレリア・ルイスと分かってやっと繋がりました。彼女のほうが人生においても監督としても先輩です。いずれ当ブログにも登場させる機会がくると思います。ペルーは映画後進国と言えますが、若手が欧米の映画学校に学びに出掛けており、サンセバスチャン映画祭でも高評価の作品が上映されるようになっています。このバーニー=バレリアのカップルも出会いはヨーロッパでした。
*キャスト紹介*
◎オリバー役のスティーヴン・ドーフ Stephen Dorff は、1973年ジョージア州アトランタ生れのアメリカの俳優。1985年デビュー、1994年イアン・ソフトリーの『バック・ビート』に主役スチュアート・サトクリフに抜擢される。1998年スティーヴン・ノリントンの『ブレイド』で悪役を演じた。吹替え版で放映もされ、DVDも発売されている。
*エリオット監督談「私の長編デビュー作に彼のような俳優が出演してくれたなんて本当にラッキーの一言です。電話で何度も打ち合わせに応じてくれ、私にチャンスを与えてくれた」

◎リカルド役のアルベルト・アンマン Alberto Ammann は、1978年アルゼンチンのコルドバ生れ、俳優。ダニエル・モンソンの『プリズン211』の新任看守役でゴヤ賞2010の新人男優賞を受賞した。生後1ヵ月で家族と共に軍事独裁を逃れてスペインに亡命する。父ルイス・アルベルト・アンマンはジャーナリスト、政治家で作家でもあり、民主化なった1982年帰国する。しかし数年後勉学のためスペインに戻り、フアン・カルロス・コラッサの演劇学校で俳優としての演技を学んだ。2008年TVシリーズ“Plan America”に出演、映画デビューは前述の『プリズン211』、他にキケ・マイジョの『EVA エヴァ』(ラテンビート2012上映)、ダニエル・カルパルソロの“Invasor”(12)など。

◎カラベド役のカルロス・バルデム Carlos Encinas Bardem は、1963年マドリード生れ、俳優、脚本家、作家。女優ピラール・バルデムと父ホセ・カルロス・エンシナス(1995没)の長男、オスカー俳優ハビエルは弟。1955年カンヌで国際批評家連盟賞を受賞した『恐怖の逢びき』の監督フアン・アントニオ・バルデムは伯父(2002没)。マドリード自治大学で歴史学を専攻。小説を既に数冊出版しており、1999年、“Muertes
Ejemplares”でナダル賞の審査員特別メンションを受けている。2010年にダニエル・モンソンの『プリズン211』(2009)のアパッチ役で助演男優賞にノミネート、同作でスペイン俳優組合賞、シネマ・ライターズ・サークル賞、他を受賞しています。
*本作についての記事はコチラ⇒2014年2月2日
*エリオット監督談「スペインにルーベン・カラベド役を探しに出掛けたとき、何人かに接触した。その後カルロスに会い、5分後にはもう彼に決めていた。魅力的なだけでなくポジティブでカラベドにぴったりだったし、何よりも役柄の理解が素早かったからね」

◎ネイサン役のデヴィッド・ストラザーン David Strathairn は、1949年サンフランシスコ生れのアメリカの俳優。1997年カーティス・ハンソンの『L.A. コンフィデンシャル』で脇役だが渋い演技を披露した。毎年一度はどこかで放映されていますね。2005年『グッドナイト&グッドラック』でベネチア映画祭ベスト男優賞を受賞、オスカー賞にもノミネートされた。
*エリオット監督談「カメラを前にしてもステージに立っても動じないのは、もはや語り草になっているけれど、何よりも高潔で親切、少しも偉ぶらない謙虚な紳士です」

ゴンサロ・ベンダラの”Asesinos inocentes”*マラガ映画祭2015 ⑤ ― 2015年04月16日 14:02
第3弾は大学を舞台に繰り広げられるサスペンス
★既に第43回マイアミ映画祭で英題“Innocente Killers”としてプレミアされた犯罪サスペンス、映画祭ではオベーションを受けたようです。ベンダラ監督、プロデューサーのマルタ・ベラスコ、主演のマキシ・イグレシアスとアウラ・ガリードとが駆けつけた(写真下)。7月3日スペイン公開が決定しています(配給元Filmax)。

(左から、監督、M.ベラスコ、A.ガリード、M.イグレシアス マイアミ映画祭にて)
“Asesinos inocentes” ゴンサロ・ベンダラ 2014 スペイン サスペンス 95分

製作:Aralan Films S.L. 資金参加:TVE
/ Canal Sur(RTVA) / ICAA / アンダルシア評議会文化省
監督:ゴンサロ・ベンダラ
脚本(共同):J. M. Asensio / ゴンサロ・ベンダラ
キャスト:マキシ・イグレシアス(フランシスコ・ガラルダ)、ミゲル・アンヘル・ソラ(エスピノサ教授)、アウラ・ガリード(ヌリア・アブレウ)、ルイス・フェルナンデス(アンドレス・ノガレス)、ハビエル・エルナンデス(マヌエル・バジェステロス)、アルバル・ゴルデフエラ(ラファエル・サンチェス)、カルロス・アルバレス≂ノボア(ガラルダの父)、ほか

(左から、ハビエル・エルナンデス、アルバル・ゴルデフエラ、ミゲル・アンヘル・ソラ、
ルイス・フェルナンデス、マキシ・イグレシアス、映画から)
解説:やる気のない大学生フランシスコ・ガラルダの物語。フランシスコはこの界隈の曰くありげな工場主に多額の借金をしており、脅迫まがいの返済を迫られている。手元は不如意なうえ学位試験も不合格で窮地に追い込まれている。そんな折りもおり、謎めいた心理学教授エスピノサから学位授与と借金返済の肩代わりと引き換えに「ある仕事」を提案される。ある仕事とは何と教授自身の殺害要請、サンフランシスコは即座に拒絶する。がしかし借金取りに追い詰められ出口なしのサンフランシスコは、クラスの三人の仲間を巻き添えにして危うい方向へ転がっていく。
*監督紹介&フィルモグラフィー*
ゴンサロ・ベンダラ Gonzalo Bendala は、1978年セビーリャ生れ、監督、脚本家、製作者。2004年プロデューサーのマルタ・ベラスコと製作会社 Aralan Films を設立する。短編“Días rojos”(04)、短編シリーズ・ドキュメンタリー“La Guerra Civil en Andalucía”(06)、同“Colón al descubierto”(07)、短編“Penunbra 3D”(11)、今回初の長編映画となる“Asesinos
inocentes”を撮る。製作者としては、短編“Espagueti Western”(2007)、同“La leyenda del ladrón del Arbol de los Colgados”(09)、長編“Los niños salvajes”(12)などをAralan Filmsで製作した。現在は長編第2作目となるスリラー“Cuando los ángeles duermen”を準備中。

(本作撮影中のゴンサロ・ベンダラ監督)
★トレビア
*心理学教授エスピノサ役のミゲル・アンヘル・ソラ(1950ブエノスアイレス)はアルゼンチンの俳優、スペインとの合作映画にも多く出演している。劇場公開された出演作品には、フェルナンド・E・ソラナスの『タンゴ―ガルデルの亡命』(85)と『スール その先は・・愛』(88)、カルロス・サウラの『タンゴ』(1998、西≂アルゼンチン)など。他に『オフィシャル・ストーリー』(85)で初めてアルゼンチンにオスカー賞をもたらしたルイス・プエンソの『娼婦と鯨』(05、西≂アルゼンチン、未公開、DVD発売)にも出演している。最近はTVのシリーズドラマの出演が多く、“Atreverse”(1990~92、Telefé)で念願のマルティン・フィエロ賞を1990年と1991年連続受賞している。海外を含めて映画祭での受賞歴は数えきれないが、評価が高かった“Casa de fuego”(94 アルゼンチン)や“Fausto 5.0”(01 西)は未公開です。舞台俳優でもある。

(若い恋人ミア・マエストロとミゲル・アンヘル・ソラ 『タンゴ』より)
*フランシスコ・ガラルダ役のマキシ・イグレシアス Maxi Iglesias(Maximiliano Teodoro Iglesias
Acevedo)は、1991年マドリード生れの24歳、俳優、モデル、テレビ共同制作者。2005年テレシンコの人気テレドラ・シリーズ“Hospital Central”でデビュー、同年TVEの長寿テレドラ“Cuéntame cómo pasó”にも出演したが、彼をお茶の間の人気者にしたのは“Física o químico”(2008~11、アンテナ3)の主役セサル・カバノ役、57話に出ている。2014年から同じアンテナ3の新シリーズ“Volver”にも主役で出演している。映画ではお茶の間のアイドル総出演となったアルフォンソ・アルバセテ他の“Mentiras y gordas”(09)に出演(邦題『セックスとパーティーと嘘』としてラテンビート2009上映)、本作は「映画はDVDかテレビ放映と決めていた若者たちを映画館に呼び戻した」と話題になった作品。若者をターゲットにした雑誌“¡ QMD !”(¡ Qué Me Dices !)のモデルをしている。マリオ・カサスやウーゴ・シルバの次世代のヒーローとなれるか。

(TVドラ“Física
o químico”でのマキシ・イグレシアス)
*アウラ・ガリードAura Garrido は、1989年マドリード生れ。オリオル・パウロのスリラー『ロスト・ボディ』(12、翌年公開)やロドリーゴ・ソロゴイェンの“Stockholm”(13)に出演している。以下の記事は“Stockholm”紹介の折りに経歴をアップしたものコチラ⇒2014年6月17日
★父親は作曲家で指揮者、母親は画家、母方の祖母と叔母はオペラ歌手だったという芸術一家の出身。4歳からピアノ、5歳でバレエ、女優の道をまっしぐらに歩んできた。テレドラ・シリーズ“De repente, los Gómez”(09)でデビュー、映画初出演のフアナ・マシアスの“Planes para mañana”(10)でゴヤ賞2011の新人女優賞にノミネート、他マラガ映画祭助演女優賞とスパニッシュ・シネマ・ムルシア・ウイークでパコ・ラバル賞を受賞している。ハビエル・ルイス・カルデラの“Promoción fantasma”(12)は『ゴースト・スクール』の邦題で、「スクリーム・フェスト・スペイン2013」ミニ映画祭で上映された。オリオル・パウロの“El cuerpo”(2012、邦題『ロスト・ボディ』)にも出演、本作での演技が認められ「ビルバオ・ファンタスティック映画祭2013」で新人に与えられるFantrobia賞を受賞。“Stockholm”では、マラガ映画祭2013で最優秀女優賞を受賞しており、マラガは縁起の良い映画祭。

(Stockholm”でのアウラ・ガリード)
本命か”La isla minima”17個*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑥ ― 2015年01月24日 21:22
銀貝賞、フォルケ賞作品賞、アルベルト・ロドリゲス
★作品賞最後の紹介はアルベルト・ロドリゲスの第6作“La isla mínima”です。ノミネーション17個とやたら数が多いが、何個くらい受賞できるのだろうか(カテゴリー的には主演男優賞に2人ノミネーションだから16です)。おおよそ『エル・ニーニョ』と競合しているから仲良く半分こするのか(笑)。監督賞、撮影賞、脚本賞は狙っているでしょうね。まだキャストが決まらない2013年夏から記事にしているので、個人的思い入れも大きくて冷静な判断できない。

★『7人のバージン』(2005)を「ラテンビート2006」で見て以来、第4作“After”(2009)、第5作“Grupo 7”(2012)と、ずっと気になっていた監督です。特に“Grupo 7”は実話に着想を得たフィクション、ゴヤ賞2013の話題作でしたが、不運にも対抗馬が『インポッシブル』と『ブランカニエベス』という大作に対抗できませんでした。しかし興行成績は『インポッシブル』には遠く及びませんでしたが、『ブランカニエベス』を倍以上引き離して映画界に貢献しました。今回ノミネーション17個は以下の通り:
*“La isla mínima”*
作品賞:Antena 3 Films(ミケル・レハルサ他)/Atipica Films(ホセ・アントニオ・フェレス)/
Sacromonte Films(ヘルバシオ・イグレシアス)
監督賞:アルベルト・ロドリゲス
脚本賞:ラファエル・コボス/アルベルト・ロドリゲス
編集賞:ホセ・M・G・モヤノ
撮影賞:アレックス・カタラン
オリジナル作曲賞:フリオ・デ・ラ・ロサ
プロダクション賞:マヌエラ・オコン
衣装デザイン賞:フェルナンド・ガルシア
メイク・ヘアメイク賞:ヨランダ・ピーニャ
美術賞:ペペ・ドミンゲス・デル・オルモ
特殊効果賞:ペドロ・モレノ/フアン・ベントゥラ
録音賞:ダニエル・デ・サヤス/ナチョ・ロヨ≂ビリャノバ/ペラヨ・グティエレス
主演男優賞:ラウル・アレバロ/ハビエル・グティエレス
助演男優賞:アントニオ・デ・ラ・トーレ
助演女優賞:メルセデス・レオン
新人女優賞:ネレア・バロス
データ:スペイン、スペイン語、2014、スリラー、105分 撮影地セビーリャ他、配給:ワーナー・ブラザーズ・ピクチャー、2015年興行成績600万ユーロ(約100万人)、スペイン公開9月26日、DVD発売2015年1月23日
受賞歴:サンセバスチャン映画祭2014、審査員最優秀撮影賞(銀貝賞)アレックス・カタラン/最優秀男優賞(銀貝賞)ハビエル・グティエレス/Feroz
Zinemaldia 賞アルベルト・ロドリゲス
フォルケ賞2015、最優秀作品賞、最優秀男優賞(ハビエル・グティエレス)
キャスト:ラウル・アレバロ(刑事ペドロ)、ハビエル・グティエレス(刑事フアン)、アントニオ・デ・ラ・トーレ(ロドリゴ)、ネレア・バロス(ロシオ)、メルセデス・レオン、ヘスス・カストロ(キニ)、ヘスス・カロッサ、サルバドル・レイナ、マノロ・ソロ(新聞記者)、セシリア・ビジャヌエバ(マリア)、フアン・カルロス・ビジャヌエバ(アンドラーデ判事)、アナ・トメノ、他
プロット:1980年、アンダルシア、グアダルキビール河沿いの低湿地帯。時が止まったような打ち捨てられた小村のお祭りの最中、二人の少女が行方不明になる。しかし誰も気に留めなかった、若者たちはみんなこの重苦しい村から出たがっていたからである。少女たちの母親ロシオは、地方判事アンドラーデが失踪事件に関心を示していることを知る。やがてマドリードの殺人課の刑事ペドロとフアンが派遣されてくる。性格も捜査方法も非常に異なっていたが、二人とも警察主要部との関係が上手くいっていなかった。この地域の主産業であるコメの刈入れ時で、農民たちのストが起こり不穏な空気につつまれていた。捜査は「沈黙の壁」と嘘の情報に困難を極めたが、次第に以前から若者の多くが行方不明になっていることが分かってくる。更に主産業がコメ以外に麻薬密売であることも明らかになってくる。ペドロとフアンは死の恐怖に直面しながらも、重要なことは犯人を上げることであった。

★以上のプロットから推察できるように、性格の異なる二人の刑事が事件の裏側から真相を突き止めていくアメリカの人気TVドラマ『トゥルー・ディテクティブ』“True Detective” シリーズを思い浮かべる人が多いかもしれない。マシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソンのダブル主演、事件解決だけではなく、地方の町に潜んでいる日常的な深い闇を暴きだして、政治のみならず貧困、差別、汚職、麻薬取引などを描いて全米の話題作となっている。骨格が相似していますね。
★しかし、ロドリゲス監督によると、「2009年の数ヵ月、(共同執筆の)ラファエル・コボスとロベルト・ボラーニョの小説『2666』やジョン・スタージェスの『日本人の勲章』(1955米国)、ラディスラオ・バフダの“El cebo”(1958西独)などから着想を得て、フィルム・ノワールの共同執筆を考えていた」と語っています。ボラーニョの小説はメキシコのシウダー・フアレスの女性連続殺人事件をめぐる第4部「犯罪の部」、『日本人の勲章』は真珠湾攻撃を理由に日本人移民が人種差別で殺害される事件、スペンサー・トレイシーがアカデミー男優賞を受賞、吹替え版でテレビ放映もされた映画です。またバフタはハンガリー生れの監督ですが各国で映画を撮っており、これは西ドイツ映画、スイスの片田舎で少女が殺害される。(1942年にスペインに帰化、日本では『汚れなき悪戯』が公開されている。)いずれも孤立した地方の共同体で起きた陰惨な殺人事件の裏側を主人公が解明していくストーリー。
★「私とコボスはフィルム・ノワールと探偵小説の大ファンなんだ。1930~40年代を舞台にした映画ピラール・ミロとか“El cebo”のラディスラオ・バフタ、『日本人の勲章』などを見ていった。共に背景に社会政治的な内容の濃いスリラーで、これらは本作に大きな影響を与えています」と、サンセバスチャン映画祭のインタビューで語っています。ミロの作品は多分『クエンカ事件』などを指していると思う。外部からやってきたスペンサー・トレイシーが本作の二人の刑事に重なるわけです。監督はレイモンド・チャンドラーやマヌエル・バスケス・モンタルバンの推理小説の熱狂的なファンで、その影響が随所に現れているとも語っています。
★この映画には大きく分けて二つの視点がある、デモクラシーを支持する側の視点、フランコの旧体制を守ろうとする側の視点。スペインの1980年代というのは、いわゆる「民主主義移行期」にあたるが、都会と違ってアンダルシアのような地方のコミュニティは、40年代とあまり変わっていなかった、とセビーリャを舞台に映画を撮りつづけている監督は指摘している。また、セビーリャの写真家アティン・アヤAtin Aya*の展覧会で見たグアダルキビールの湿地帯で暮らす人々の素晴らしい写真に打たれたという。これも映画製作の大きな理由であった。
*1955年セビーリャ生れ(2007年没)、写真家。グラナダ大学で心理学、ナバラ大学で社会科学を専攻、1981年、マドリードのフォト・センターで写真を学んだ。1992年セビーリャ万博の正式に選ばれた写真家のメンバーだった。
監督賞:アルベルト・ロドリゲス Alberto Rodriguez Librero、1971年セビーリャ生れ、監督、脚本家。セビーリャ大学の情報科学部で映像と音響学を専攻、アマチュア・レベルのビデオを撮り始める。1997年、サンティアゴ・アモデオと3万ペセタで短編“Banco”を撮り、1999年に400万ペセタをかけ別バージョンで撮ったものが評価され15個の賞を受賞する。長編は以下の通り:
2000年“El factor Pilgrim” サンセバスチャン映画祭2000新人監督に与えられる審査員スペシャル・メンションを受賞
2002年“El traje”
2005年 “7 Virgenes” サンセバスチャン映画祭2005に正式出品、主演のフアン・ホセ・バジェスタが最優秀男優賞(銀貝賞)を受賞。(『七人のバージン』の邦題でラテンビート上映)
2009年“After” ローマ映画祭、トゥルーズ映画祭に出品
2012年“Grupo 7” フィルム・ノワール、 サンセバスチャン映画祭2012「メイド・イン・スペイン」上映、ゴヤ賞2013ノミネーション16個(受賞は2個)。
2014年 本作

★撮影賞:アレックス・カタラン、サンセバスチャン映画祭「審査員最優秀撮影賞」(銀貝賞)を受賞している。ロドリゲス監督のデビュー作を除いて5作品を専属的に手掛けている。最近の代表作は。イシアル・ボリャイン(『雨さえも~』)、フリオ・メデム(『ローマ、愛の部屋』)、ハビエル・フェセル(『カミーノ』)など。
*撮影は、2013年10月から11月にかけて行われた。この湿地帯には三つの島があり、その中で一番小さい島‘la isla mínima’が舞台となっている。クランクインの10月の昼間の気温は42度、11月下旬の夜間には零下4度にまで下がり、高温、乾燥、寒さ、おまけに都会にはいない虫の存在もスタッフ、キャスト両方を苦しめ、かなり過酷なものだったという。稲刈りなんかもしたらしい。セビーリャの中心地から30キロ南方の湿地帯で主に撮影された。水田地帯というのは春から夏にかけて緑一面に被われ、収穫時の秋には黄金色に染まる。このさびれた湿地帯、ジメジメした水田、河も登場人物の一つであるようだ。ドキュメンタリーの手法で撮られているが全くのフィクション、監督はサンセバスチャンでアレックスが評価されたことが「特に嬉しかった」と述べていた。

(登場人物の一つ、グアダルキビール河の低湿地帯)
主演男優賞:ハビエル・グティエレスJavier Gutiérrez :1971年、ガリシアのア・コルーニャ生れ、俳優、サウンドトラック、監督。2000年テレドラに出演、映画デビューはエミリオ・マルティネス≂ラサロの“El otro lado de la cama”(2002)。受賞歴は、2012年シリーズTVドラ“Aguila Roja”(2009~14)でスペイン俳優組合賞男優賞を受賞。本作によりサンセバスチャン映画祭2014最優秀男優賞、フォルケ賞2015最優秀男優賞を貰っているほか、フェロス賞及びシネマ・ライターズ・サークル賞にもノミネートされており、一番受賞に近い。俳優たちのセリフ、表情、視線、間の取り方に釘付けになった批評家も多く、中でもグティエレスの演技は飛びぬけていた由。酷暑の撮影中、疲れと脱水症状で倒れた甲斐がありました。その他代表作は以下の通り:
2004年“Crimen ferpecto”監督アレックス・デ・ラ・イグレシア
2005年“Torrente 3”同サンチャゴ・セグラ
2006年『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト:ベビー・ルーム』同デ・ラ・イグレシア
2011年“Torrente 4”同サンチャゴ・セグラ
*ラウル・アレバロRaúl Arévalo は、1979年マドリード生れ、俳優。ダニエル・サンチェス・アレバロの『漆黒のような深い青』『デブたち』『マルティナの住む街』、イシアル・ボリャイン『雨さえも~』、アルモドバル『アイム・ソー・エキサイテッド』などでお馴染みの俳優、ゴヤ賞2010『デブたち』で助演男優賞を受賞している。本作でフェロス賞にもノミネートされており、コメディでの演技を嫌う向きも、今回は合格点をつけている。

(主役二人がノミネーション、グティエレスとアレバロ)
助演男優賞・同女優賞・新人女優賞:出番の少ない脇役連の演技が光っていると評判の3人、アントニオ・デ・ラ・トーレ、メルセデス・レオン、ネレア・バロスの評価が高く、揃ってノミネーションを受けた。
*アントニオ・デ・ラ・トーレは、マヌエル・マルティン・クエンカの『カニバル』(2013)ほか何回か紹介しているし、今回は受賞はないと思います。“Ocho apellidos vascos”のカラ・エレハルデの手に渡ると予想。
*メルセデス・レオンMercedes Leónは、コルド・イサギーレの“Amor en off”(1992)でデビュー、主にシリーズのTVドラに出演している。ゴヤ賞ノミネーションは初。
*ネレア・バロスNerea Barrosは、1981年、サンチャゴ・デ・コンポステラ生れ、女優。代表作としてハビエル・ベルムデスの“León y Olvido”(2004)、TVドラ“Matalobos”(2009~10)や“Volver
a casa”(2010)に出演、今回は失踪した少女の母親役です。1月25日発表の第2回フェロス賞助演女優賞にもノミネートされている。ゴヤ賞は初。このカテゴリーは予測が難しい、誰が取ってもおかしくないし、4人全員に挙げたいくらいです。

(夫婦役アントニオ・デ・ラ・トーレとネレア・バロス、映画から)

(メルセデス・レオン、映画から)
*脚本賞:共同脚本執筆のラファエル・コボスは“7 Virgenes”“Grupo 7”でも監督とタッグを組んでいる脚本家。今回は期待しているでしょう。
*関連記事・管理人覚え
“Grupo 7”紹介⇒2013年8月18日
“La isla mínima”予告記事 ⇒2013年8月20日
サンセバスチャン映画祭2014 ⇒2014年9月16日/9月30日
フォルケ賞2014 ⇒2015年1月14日
『カニバル』トロント映画祭⇒2013年9月8日
”Magical Girl” 7個*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑤ ― 2015年01月21日 14:25
サンセバスチャンの「金貝賞」受賞作品
★作品賞ノミネーション第4作目は、カルロス・ベルムトの第2作“Magical Girl”、ジャンルはミステリーです。サンセバスチャン映画祭のオフィシャル・セレクションに正式出品され、なんと最優秀作品賞(金貝賞)と最優秀監督賞(銀貝賞)両方を受賞してしまった。元来、本映画祭はカンヌ同様、作品賞とその他の銀貝賞をダブらせないのが基本方針と聞いている。とにかく、1997年のクロード・シャブロルの『最後の賭け』以来のことだそうですから17年ぶりです。当然、この奇妙なダダイズム映画のダブル受賞を非難する観客の声も出たようです。当ブログではサンセバスチャン映画祭で紹介しています。
(サンセバスチャンの「金貝賞」は作品賞のみで以下は全て銀貝賞です)
*カテゴリー7部門ノミネーションは以下の通り:

* Magical Girl *
Films Distribution / Canal+España 1 / TVE 他
監督・脚本:カルロス・ベルムト
主演男優賞:ルイス・ベルメホ
主演女優賞:バルバラ・レニー
助演男優賞:ホセ・サクリスタン
新人男優賞:イスラエル・エレハルデ
*以下は最終ノミネーションに残れなかったカテゴリー
撮影賞:サンティアゴ・ラカRacaj、
編集賞:エンマ・トゥセル
プロダクション賞:モンセ・ラクルス
メイク・ヘアメイク賞:イニャーキ・マエストレ
特殊効果賞:ゴンサロ・コルト
助演女優賞:エリザベト・ヘラベルト
データ:スペイン=フランス、スペイン語、2014、スリラー、撮影地:マドリード、セゴビア、
製作費:約50万ユーロ
映画祭上映:2014年(サンセバスチャン、トロント、チューリッヒ、シッチェス、釜山プサン、テッサロニキ)、2015年(パーム・スプリングス、ロッテルダム)他
受賞歴:サンセバスチャン映画祭金貝賞、監督(銀貝)賞、アルカラ・デ・エナレス映画祭観客賞
スペイン公開10月17日、テッサロニキ映画祭上映後ギリシャで公開11月18日
キャスト:ルイス・ベルメホ(ルイス)、ホセ・サクリスタン(ダミアン)、バルバラ・レニー(バルバラ)、イスラエル・エレハルデ(アルフレド)、エリザベト・ヘラベルト(アダ)、ルシア・ポリャン(アリシア)他
プロット:文学教師のルイスは失業中、彼の12歳になる娘アリシアは末期ガンで余命いくばくもない。アリシアの最後の願いは日本のアニメTVシリーズ『マジカル・ガールYukiko』の衣装を着ること、なんとか叶えてやりたい。その高価な衣装のためルイスは恐ろしいネットに深く入り込むことになる。ダミアンとバルバラを巻き添えに、彼らの運命も永遠に変えてしまうだろう。

(『マジカル・ガールYukiko』 映画から)
★作品賞:ペドロ・エルナンデス・サントスは、2010年設立の製作会社Aquí
y Allí Filmsの代表者。若い才能を発掘して社会変革をモットーにしている。第1作は、アントニオ・メンデス・エスパルサの“Aquí y allá”(2012、西=米=メキシコ)、サンセバスチャンで上映された後、東京国際映画祭2012「ワールド・シネマ」部門でも『ヒア・アンド・ゼア』の邦題で上映され、本作が第2作目になります。
*評価の高い割には興行成績は伸びず17万ユーロ、製作費を回収できていません。スリラー好きの国民ですが、2014年ランキング150位にも入っていないという厳しさです(この数字は外国映画も含んでいると思います)。サンセバスチャン映画祭の快挙を裏切る数字ですが、ゴヤ賞如何では伸びるかもしれません。“Ocho apellidos vascos”、セグラの「トレンテ5」、『エル・ニーニョ』、“La lsla
minima”などに流れてしまったのでしょう。

(金貝賞、監督賞ダブル受賞を喜ぶ二人、サンセバスチャン映画祭授賞式にて)
マンガ愛好家、出発はイラストレーター
★監督賞・脚本賞:カルロス・ベルムトCarlos Vermutは、1980年マドリード生れ、監督、脚本家、漫画家、プロデューサー。美術学校でイラストを学び、「エル・ムンド」紙のイラストレーターとして働く。2006年、最初のコミック“El banyan rojo”がバルセロナのコミック国際フェアで評価された。彼の漫画家としての才能と経験は本作にも活かされている。デビュー作はミステリー・コメディ“Diamond flash”(2011)。他に短編映画3作、コミック3作、2012年刊行の“Cosmic Dragon”は、鳥山明の『ドラゴンボール』のオマージュとして描かれたようです。
「スター誕生」となるか
★主演女優賞:バルバラ・レニー Barbara Lennie Holguín は、1984年マドリード生れ、女優、舞台俳優。生れはスペインだが家族はアルゼンチン人、誕生後一家でブエノスアイレスに帰国、6歳のとき再びスペインに戻っている。王立演劇学校で演技を学び、16歳でビクトル・ガルシア・レオンの“Más pena que gloria”(2001)で映画デビュー。フェルナンド・トゥルエバの長男ホナス・トゥルエバが脚本デビュー、監督と共同執筆している。ダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』で助演女優賞にもノミネートされていますが、本命は当然こちらです。フォルケ賞最優秀女優賞を受賞したばかりで、流れとしては受賞の可能性が高く、各紙「スター誕生」を予想しており、2014年最も輝いた女優の一人。過去にダブル受賞は1回だけあり、1987年ベロニカ・フォルケが“La vida alegre”で主演、“Moros y Cristianos”で助演を受賞しています。
代表的な出演作は以下の通り:
2005年“Obaba”モンチョ・アルメンダリス、ルルデス役でゴヤ賞2006新人女優賞ノミネート。
2007年“Las 13 rosas”エミリオ・マルティネス≂ラサロ (スペイン内戦物)
2008年“Todos los días son tuyos”ホセ・ルイス・グティエレス・アリアス
2009年“Los condenados”イサキ・ラクエスタ(サン・ジョルディ映画賞で女優賞)
2010年“Todas las canciones hablan de mí”ホナス・トゥルエバ(コメディ)
2011年“La piel que habito”ペドロ・アルモドバル(『私が、生きる肌』の邦題で2012公開)
2012年“Dictado”アントニオ・チャバリアス(『フリア、よみがえりの少女』邦題で2012公開)
同 “Miel de naranjas”イマノル・ウリベ
2014年“Stella cadente” リュイス・ミニャロ(サンセバスチャン「メイド・イン・スペイン」)
同 “El Niño”ダニエル・モンソン(『エル・ニーニョ』の邦題でラテンビート2014上映)
同 “Magical Girl”省略
同 “Murieron por
encima de sus posibilidades” イサキ・ラクエスタ(コメディ)

(最近のバルバラ・レニー)
★以上でも分かるように、脇役が多いが傾向の異なる監督からオファーを受けている。歴史物からシリアス・ドラマ、コメディまでこなせるマルチ俳優。アルモドバルの『私が、生きる肌』のチョイ役で合格点を貰ったようで、次回作“Silencio”がアナウンスされたばかりですが、噂ではオファーがあるのではないかということです。新作は「ウーマンもの」に回帰するとか。ホナス・トゥルエバ(1981マドリード)とは一時恋人同士だったが、現在は本作にも共演して新人賞ノミネートのイスラエル・エレハルデが恋人、舞台でも共演している。ガラのレッド・カーペットは彼のエスコートが期待されている(笑)。

(舞台“Misántropo”でのイスラエル・エレハルデとバルバラ・レニー)
*2007年より間断なくシリーズTVドラにも出演、歴史物“Isabel”(2012~13)で人気を博す。今年から始まった“El incidente”にも出演している。2008年からは舞台でも活躍しており、特に“Misántropo”は、2013年以来のロングランを続けている。バルバラにとって2014年は素晴らしい年になったが、「自分が演じたいと思うような役柄に出会うことは、そんなに簡単なことではない」、本作については「スペインの危機的な現実をダイレクトにテーマにした作品ではないが、どの時代にもある表面には現れてこない危機が、気分的にも経済的にも落ち込んでいるマドリードが描かれている」と語っている。
*今年公開される予定の映画は、ウルグアイの監督フェデリコ・ベイロフの“El apóstata”、『アクネACNE』(2008)がカンヌやトロントなど有名映画祭に招待された。4年後短期間だが劇場公開されている。
★本ブログお馴染みの助演男優賞のホセ・サクリスタン、今回受賞は難しい主演男優賞のルイス・ベルメホ、ヘスス・カストロ受賞確実の新人男優賞のイスラエル・エレハルデは割愛。

(ホセ・サクリスタン、映画から)

(ルイス・ベルメホ、映画から)
サンセバスチャン映画祭2014⇒9月16日
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