『ワコルダ』”Wakolda”ルシア・プエンソ*第10回LBFF⑦ ― 2013年10月23日 10:39
★これ1本が見たかったという方もおられたようですが、東京会場で唯一上映されなかった作品。カンヌ映画祭2013「ある視点」部門、サンセバスチャン国際映画祭「ホライズンズ・ラティーノ」部門、その他リマ、モントリオールなどに出品され話題を呼んでいるルシア・プエンソ長編第3作め『ワコルダ』。第2作『フィッシュチャイルド―ある湖の伝説』でも若干紹介いたしましたが、改めてキャリア・作品紹介などを。ストーリーはLBFFのサイトをご参照ください。
*監督紹介*
★ルシア・プエンソは、監督・脚本家・作家・プロデューサー、1976年ブエノスアイレス生れの36歳。父親ルイス・プエンソは、1985年に撮った『オフィシャル・ストーリー』が翌年のアカデミー外国語映画賞アルゼンチン代表となり、初のオスカー像をアルゼンチンにもたらした監督。ということで日本でも1987年に公開になりました。2004年の『娼婦と鯨』以後撮っておりませんが、娘のデビュー作『XXY』や『フィッシュチャイルド』の製作に携わっています。『ワコルダ』には参加していないようですが、息子ニコラス・プエンソが撮影監督として独立、私たちはパタゴニアの「南米のスイス」と言われるバリローチェの素晴らしい映像に接することができます。以前から姉ルシアの全作にカメラ・オペレーターや撮影監督補助のような形で参加していました。プエンソ一家は家族ぐるみのシネアスト一家です。
★作家歴:処女作“El
niño pez”(2004) を刊行、5年後に映画化した(『フィッシュチャイルド』)。“Nueve minutos”(2005)、“La maldición
de Jacinta Pichimahuida”(2007)、“La furia de la langosta”(2009)、最新作“Wakolda”(2011)を今回映画化した。全作が2013年にスペインでも刊行された。
★脚本歴:“(H)
Historias cotidianas”(2000)で脚本家デビュー、父親の『娼婦と鯨』(2003、共同執筆)、ロドリーゴ・フュルトの“A través de tus ojos”(2006、共同執筆)、自作長編3作の他、TVドラマ・シリーズ、短編など。
*長編フィルモグラフィー&受賞歴*
2007“XXY”『XXY』監督・脚本 ☆ゴヤ外国映画賞、2008アリエル・イベロアメリカ賞、2008銀のコンドル賞(作品賞・脚色賞)、アテネ、カルタヘナ、エディンバラ各国際映画祭金賞、モントリオール新映画祭ケベック映画批評家賞などを受賞。
2009“El niño pez”『フィッシュチャイルド―ある湖の伝説』監督・脚本
2013“Wakolda”『ワコルダ』監督・脚本・製作 ☆サンフアン市で開催された第2回ウナスール国際映画祭で作品賞・新人監督賞・女優賞(ナタリア・オレイロ)・新人女優賞(フロレンシア・バド)受賞。
*スタッフ他*
製作国:アルゼンチン・西・仏・ノルウェーの4ヵ国。
プロダクション:アルゼンチン側からニコラス・バトレ、スタン・ヤクボヴィッツ、ルシア・プエンソ他、ノルウェー側からGudny Hummelvoll、フランス側から最近鬼籍入りしたファビエンヌ・ヴォニエが参加している。
撮影監督:ニコラス・プエンソ
音楽:アンドレス・ゴルドスタイン他 音響:フェルナンド・ソルデビラ
言語:スペイン語、ドイツ語、ヘブライ語
ロケ地:バリローチェ、リオネグロ、ブエノスアイレス
(ファビエンヌ・ヴォニエ)
*ファビエンヌ・ヴォニエ Fabienne Vonier:プロデューサー、ディストリビューター。1947年フランス領西アフリカのセネガル生れ、2013年7月30日ローヌ=アルプ地域圏Pizayで死去。享年66歳の若さはいかにも惜しまれる。『ワコルダ』の他『XXY』、スペイン語映画としては、ベニト・サンブラノの『ハバナ・ブルース』(2005)、ディエゴ・レルマンの“Mientras tanto”(2006)など。話題作としてはドゥニ・アルカンの『みなさん、さようなら』(2003)、ファティ・アキンのコメディ『ソウル・キッチン』(2009)、アキ・カウリスマキの『ル・アーヴルの靴みがき』(2012)など。
*キャスト*
アレックス・ブレンデミュールÁlex Brendemuhl(ヨーゼフ・メンゲレ)
ナタリア・オレイロNatalia Oreiro (エヴァ、リリスの母)
ディエゴ・ペレッティDiego Peretti(エンゾ、リリスの父)
フロレンシア・バドFlorencia Bado(リリス)
ギジェルモ・プェニングGuillermo Pfening(クラウス)
アナ・パウルスAna Pauls(ヌルセ)
(パウルス、ブレンデミュール、監督、プェニング カンヌにて)
★アレックス・ブレンデミュールÁlex Brendemuhl:俳優・監督・脚本家、1972年バルセロナ生れ。苗字から分かるように父親はドイツ人、母親がカタルーニャ人。バルセロナのドイツ学校で学び、バルセロナ演劇学院の劇作法の学士号を取得した。さらに5年間ファゴットと階名唱法を、3年間サックスを受講したという俳優としては変わり種。カタルーニャ語、スペイン語、ドイツ語は勿論のこと、英語、フランス語も堪能。1996年に舞台俳優として出発、その後TVドラマのシリーズ物に出演する。
*映画デビューはアグスティ・ビラの“Un banco en el arque”(1999)である。ハイメ・ロサーレスの“Las horas del dia”(2003)で翌年のバルセロナ映画祭最優秀男優賞、ベントゥラ・ドゥラルの“Las dos vidas de Andrés Rabadán”(2008)でガウディ最優秀男優賞を受賞。監督第1作として“Rumbo a peor”(2009)がカンヌ映画祭短編部門出品、翌年バレンシア映画祭最優秀ショート・フィルム賞を受賞している。さらに、ラファ・コルテス“Yo”(2007)に主演、脚本も共同執筆している。本作その他で2008年サンジョルディ賞を受賞した。日本公開作品はないようだが、東京国際映画祭2009に出品されたセバスチャン・コルデロの『激情』に出演、監督が審査員特別賞を受けた。彼自身もマラガ映画祭で助演男優賞を受賞している。
★ナタリア・オレイロ Natalia Oreiro:女優・歌手・モデルほか、1977年モンテビデオ(ウルグアイ)生れ。8歳から演劇の勉強を始め、舞台と映画とテレビで活躍。音楽分野では映画のサウンドミュージックを手掛けている。1993年よりアルゼンチンに移住している。今年のLBFFで上映が期待されたベンハミン・アビラの“Infancia clandestina”(2012)で2013年銀のコンドル最優秀女優賞を受賞した。日本では歌手のほうが有名かな。
★ギジェルモ・プェニングは、1978年コルドバ(アルゼンチン)生れの二枚目として注目されている。2012年の“Caito”で中編ながら監督・脚本家デビュー、インディペンデント・シネマ・ブエノスアイレス国際映画祭にて上映された。
★アナ・パウルスは1987年ブエノスアイレス生れ。作家・脚本家アラン・パウルスの異母妹。彼はメルセデス・ガルシア・ゲバラのデビュー作『リオ・エスコンディード』(1999、TIFF2000ラテンアメリカ映画小特集上映)の共同執筆者です。
★映画祭終了後に作品をアップする予定なので、その折りに若干ご紹介。
*トレビア*
★アウシュヴィッツと言えばアドルフ・アイヒマンですが、モサド(イスラエル諜報特務庁)が血眼で追っていたもう一人の人物が映画の主人公ヘルムート・グレゴールことヨーゼフ・メンゲレ(1911~79)でした。人類学の博士号をもつドイツ人医師は、1943年以来アウシュヴィッツで人体実験を繰り返し、「死の天使」と怖れられたナチス親衛隊SSの将校である。モサドのナチハンターが舌を巻くほどの高い知能を有するまさに知的モンスターである。アイヒマンが捕えてみれば国家の命令にひたすら忠実で有能な≪小役人≫だったことに世界は衝撃を受けたのでしたが、片やメンゲレはモサドの追手を巧みにかわしアルゼンチン、パラグアイ、ブラジルと名前を変え潜伏地を替え、追跡の手を逃れ戦後35年間を生き延びた。終焉の地はサンパウロ州ベルティオガ、海水浴中の心臓発作で溺死した。モサドにとってもブラジル政府にとっても不名誉な死でした。
★本作はアイヒマンが逮捕される1960年少し前から始まる。風光明媚なバリローチェのナウエル・ウピア湖が舞台。プエンソ監督はこの完璧を求めたドイツの生物学者の内面に深く分け入り、その閉ざされた重い扉を開けることができたのでしょうか。矛盾とパッションに満ち、嘘と真が渦巻く怪物医師の真相に迫るサスペンス。少女リリスの一家は、彼のインテリジェンス、物静かで優雅な物腰、カリスマ性、お金に魅せられていく。
★スペインでは“El médico alemán”(英題“The German Doctor”)のタイトルで10月11日公開された。映画祭上映は枚挙に暇がないが、劇場公開も年内にブラジル、フランス、来年1月から台湾、チリ、イタリア、ボリビア、カナダ、勿論アメリカも。製作費200万$も軽くクリアーできますね。既に次回作の撮影が始まっている。
★本作は2014年アカデミー外国語映画賞アルゼンチン代表作品に選ばれました。最終候補に残れば日本での公開もありでしょうか。ドイツ人コミュニティ、人形、双子研究、アイヒマン逮捕・・・それで、題名の≪ワコルダ≫って、何のこと?
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