アメナバルの新作”Regression”*2015年公開予定 ①2015年01月03日 18:37

       2015年はどんな映画を見たらいい? 第1弾はスリラー“Regression

    

★アメナバルとはいえ、タイトルから分かるように英語映画です。それにしても『アレクサンドリア』が2009年ですから、普通なら忘れられてしまいますよね。彼はスタッフは別として、同じ俳優は起用しない主義、今回の主役はもう「ハリポタ映画の子」と言われたくないエマ・ワトソンと紹介不要のイーサン・ホークです。ワトソンは1990年生れだから24歳、いくらハリポタで一財産築いてもハリポタからは距離を置きたい気持ちは分かります()

 

基本データだけアップしますと:

製作国:スペイン、米国  

監督・脚本・プロデューサー:アレハンドロ・アメナバル

製作:Mod Producciones / Himenóptero / Telefonica Studios /First Generation Films

プロデューサー(共同):ガブリエル・アリアス=サルガド/フェルナンド・ボバイラ/

シモン・デ・サンティアゴ/Axel Kuschevatzky 他

撮影:ダニエル・アランジョ

撮影地:カナダのオンタリオ州(トロント、ミシサガ、オークビル、ハミルトン、他)

言語英語、スリラー、公開予定アメリカ、イギリスで2015828日、スペイン未定

 

キャスト:エマ・ワトソン(娘アンヘラ)、イーサン・ホーク(ケナー刑事)、デヴィッド・シューリス(精神科医)、デヴィッド・デンシック(父親ジョン)、デヴォン・ボスティック(息子ロイ)、ロテール・ブリュトー 他

 

プロット:1980年代、カナダと国境を接するミネソタ州の小さな町が舞台。ケナー刑事は自分の父親を性的虐待で告発した若い娘アンヘラの事件を調べている。父親ジョンは予期しないことで逮捕され、その記憶がないにもかかわらず罪を認める。やがて精神科医の助けを借りて記憶を蘇らせた父親もケナー刑事も謎の事件に巻き込まれていく。父親とは疎遠だった息子ロイや町の住民たちも、この恐ろしい虐待の記憶が突然蘇ってきて、やがて忌まわしい陰謀の正体が明るみに出てくることになる。虐待は本当だったのか、または他に何か秘密が・・・

 

                

             (アメナバル監督とイーサン・ホーク)

 

★製作会社Mod Producciones(代表フェルナンド・ボバイラ)とHimenóptero(代表アメナバル)は、前作の『アレクサンドリア』と同じです。製作費はスペインでは破格の7000万ドルに対し、売上金は世界規模でも3900万ドルしか回収できず、アメナバルにとっては屈辱的な結果に終わった。期待したアメリカが僅かの60万、当たり前と素人でも思いますが、アメリカの若者は4世紀の権力に屈しないオンナ天文学者が主人公の映画など見ません(それが証拠に『アザーズ』はトータル21000万ドルを弾き出した)。その多くを出資したテレシンコ・シネマはさすがに今回は不参加、助成金を出したICAAも懐不如意なのか出していません。

★製作者フェルナンド・ボバイラは、「私たちが感じる深遠なそして重たい不安を描くために細心の注意を払って」取り組んだと語っています。因みにボバイラは、サンセバスチャン映画祭2014の審査委員長を務めた製作者、『アザーズ』、『海を飛ぶ夢』を手掛けている。

コチラ⇒2014年0916

 

Axel KuschevatzkyTelefonica Studiosの代表者、「トレンテ・シリーズ」第5弾、アルゼンチン≂スペイン合作の“Relatos salvajes”、同『ワコルダ』、『グランド・ピアノ狙われた黒鍵』などの成功作を手掛けているプロデューサー。

 

★主役のエマ・ワトソンEmmaWatsonは、1990年パリ生れ、両親はイギリス人で離婚後イギリスに渡り、国籍はイギリス。シリーズ「ハリポタ」のハーマイオニー役で全7作に出演している。2001年からの10年間で最高額を稼いだ女優だそうです。ハリポタのサイトで詳しい情報入手できます。「とてもエモーショナルなこと、撮影が始まりワクワクしています」と、ヨーロッパ・プレスのインタビューに答えていました。精神科医役のデヴィッド・シューリス1963、イギリス生れ)も、ハリポタのリーマス・ルービン役で出ている。父親になったデヴィッド・デンシック1974、スウェーデン生れ)は、『ドラゴン・タトゥーの女』に脇役で出演している。息子ロイ役のデヴォン・ボスティックは、カナダのモントリオール生れの23歳、ベテラン勢と若い俳優たちがどう渡りあうか楽しみです。

 

          

         (エマ・ワトソンとイーサン・ホーク“Regression”より)


ルイス・マリアスのスリラー”Fuego”*ヒホン映画祭20142014年12月11日 19:14

2015年公開予定が早くも今月公開に早まりました。いわゆるETAものという範疇に入りますが、テロは終息しつつあるとはいっても、当事者にとって「傷口は開いたまま」ということでしょうか。本作については製作発表のとき既に記事にしており、プロット、監督、主演のホセ・コロナドなどの紹介を簡単にしております(コチラ⇒2014320)。製作発表段階の意図と完成作品に大きな違いがない印象ですので、参照頂けると嬉しい。

 

     Fuego

製作:Deparmento de Cultura del Gobierno Vasco / Fausto Producciones Cinematograficas 他

監督・脚本:ルイス・マリアス

撮影:パウ・モンラスPau Monras

音楽:Aritz Villodas

美術:ギジェルモ・リャグノLlaguno

製作者:エドゥアルド・カルネロス

データ:スペイン、スペイン語、2014、スリラー、ETA、撮影地ビルバオ、第52回ヒホン国際映画祭2014コンペティション、20141128日スペイン公開

キャスト:ホセ・コロナド(カルロス)、アイダ・フォルチ(カルロス娘アルバ)レイレ・ベロカル(テロリスト妻オイアナ)、ゴルカ・スフィアウレ(同息子Aritz)、ハイメ・アダリド(マリウス)他 


プロット:元警察官カルロスの復讐劇。エタの自動車爆弾テロで妻を殺され、当時10歳だった娘は両脚を失う。11年後、カルロスは服役中のテロ実行犯に復讐を誓いながらバルセロナで暮らしている。自分の家族が受けた苦しみを同じだけ犯人の妻と息子に与える、「私こそが正義である」。憎しみと復讐で始まるがやがて内面の炎は悲しみとパッションに移ろっていく。登場人物たちは、それぞれ社会的イデオロギー的に異なった立場にいるため、その苦しみも複雑に交錯しながら物語は進行する。

 

52回ヒホン国際映画祭20141122日~29日)

★第52回ヒホン映画祭で唯一コンペに残ったスペイン映画、会場にはスタッフ、キャスト陣が揃って登場した。主役の三人のうち、コロナド、フォルチは既に登場、テロ実行犯の妻役ベロカルはまだ日本では未紹介です。スペインでもあまり知られていない女優、監督自身も脚本を手掛けたラファエル・モンレオンの“Questión de suerte”(96)で知り合った由。

 

  (左から、ベロカル、中央監督、隣りフォルチ、最右翼コロナド、ヒホン映画祭にて)

 

「傷口は開いたまま」

★本作について、「このスリラーは、バスクの歴史に基づいているが、どこでも起こりうる事件であり、特別エタものとして撮ったわけではない。何故なら激しい苦痛を感じている人の憎しみや暴力、痛みがもたらす結果を描いているからです」と、ヒホンのプレス会見で語っています。ETAの暴力について撮ることには「はっきりしたタブー」があったが、やっと解禁された。未来志向の観客が、この映画を見ることで共生を深く考えるきっかけになればと願っている。「テロの犠牲者の傷口は開いたまま癒えていない」とも語っていました。難しいですね。

 

テロの犠牲者も幸せになる価値がある

★撮影は厳しかったそうだが、結果には満足している。しかし心にしこりをもったままで希望を抱くのは厳しい。それぞれ抱えている過去、傷痕、将来への考え方が異なるから当然です。ホセ・コロナドによると「寛容で乗り越えるのは容易なことではないが、でも乗り越えようという動きが出はじめている。この映画が皆の心を動かし、よい影響を与えあうようになることを期待している」と、既にこの30年間で40作の映画に出演しているベテランもコメントを寄せている。カルロスは元警察官だから正義を行う人だが、現在は復讐者である。実際まるで「ジギルとハイド」のモデルのような役だから、最後までどちら側に自分を置いたらいいのか難しかった。役柄を落ち着かせるため、<尊敬している>エンリケ・ウルビスがやるようにバスクをあちこち歩き回りながら観察してまわったそうです。結果的には、どちら側でもない第三の生き方を見つけることになるんでしょうね。監督からは凄い集中力を求められたが関係は素晴らしかったそうで、撮影は納得いくものになったということでしょう。ゴヤ賞に絡むと予想しますが、『悪人に平穏なし』に近すぎるかな

 

ルイス・マリアスLuis Marias Amando:脚本家・監督・俳優・プロデューサー。1988年、脚本家として出発、映画&テレビの脚本多数。なかでホセ・アンヘル・マニャスの同名小説を映画化したサルバドール・ガルシア・ルイスの“Mensaka”(1998)の脚色が評価された。監督デビュー作は“X”(2002)とかなり前の作品、“Fuego”が第2作になります。TVミニシリーズ“Gernika bajo las bombas”(2エピソード2012)は、その年のサンセバスチャン映画祭で上映されました。1937426日のゲルニカ爆弾投下をテーマにしたドラマ。


1作“X”にはエンリケ・ウルビスの『貸し金庫5072002」でホセ・コロナドと共演したアントニオ・レシネスが主役を演じている。そんな繋がりで出演したのかもしれない。ウルビスは昨年『悪人に平穏なし』で登場、日本でも認知度の高い監督になりました。

 

ホセ・コロナドJosé Coronadoは、1957年マドリード生れ。つまりフランコ時代の教育を受けて育ったマドリッ子ということです。父親がエンジニアで比較的裕福な家庭環境で育った。大学では最初法学を4年間学んだが卒業できず、次に医学を志すもこれまた2年で挫折した。本人によれば大学を諦めて旅行会社、レストラン、モデル、トランプのギャンブラーなどを転々、要するにプータローをしていた。フランコ没後(1975)から約5年間の民主主義「移行期」というのは混乱期でもあった。映画の世界に入ったきっかけは、「ウィスキーのテレビ・コマーシャルのモデルに誘われ、マジョルカで撮影すると言うし、出演料が破格だったので引き受けた」そうです。その後30歳になる直前に演技の勉強を思いたち、キム・デンサラットの第1作“Waka-Waka”(87)で映画デビュー、1989『スパニッシュ・コネクション』の邦題でビデオが発売されている。初期の話題作では、イマノル・ウリベの“La luna negra”(89)、ビセンテ・アランダの“La mirada del otra”(98)、カルロス・サウラの『(ボルドーの)ゴヤ』(99)では青年時代のゴヤになった。

 

                  (撮影中のコロナド)

 

やはり今世紀に入ってからの活躍が目立ちます。主役を演じたエドゥアルド・コルテスの“La vida de nadie”(02)、エンリケ・ウルビスの『貸し金庫507』(02)、“La vida mancha”(03)とゴヤ賞主演男優賞受賞の『悪人に平穏なし』(11)、ミゲル・コルトワのETAの実話を基にした“El Lobo”(04)と“GAL”(06)、アレックス&ダビ・パストール兄弟の『ラスト・デイズ』13)、オリオル・パウロの『ロスト・ボディ』13)など、公開作品も多いほうですね。

 

アイダ・フォルチAida Folch1986年、カタルーニャのタラゴナ生れ、女優。子役でフェルナンド・トゥルエバの“El embrujo de Shanghai”(02)でデビュー、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』(02)、マヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』(06)、公開されたF・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』12)、本作でゴヤ賞2013主演女優賞ノミネート、トゥリア賞2013女優賞を受賞した。他にアントニオ・チャバリアスの“Las vidas de Celia”(06)、Patxi Amescuaの“25 kilates”(08)で翌年のマラガ映画祭の女優賞を受賞している。来年になるが、ホセ・コルバチョ&フアン・クルスのコメディ“Incidencias”(15)に出演している。他、短編、TVドラ多数。




レイレ・ベロカル
Leyre Berrocal1973年ビルバオ生れ、女優、脚本家。フアン・ビセンテ・コルドバの“Entre con sol”(95)、前出のラファエル・モンレオンの“Questión de suerte”、ペドロ・ペレス・ロサドの“Agua con sal”(05)など。

 

              (レイレ・ベロカル、“Fuego”から)

ラテンビート2014*あれやこれや ④2014年11月03日 15:07

★劇場公開に一番近いポジションを占めているのが、映画祭の目玉だったダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』です。しかし2009年の「スペイン映画祭」上映の前作『第211号監房』(“Celda 211”)は、スペイン・サイドでは日本公開がアナウンスされていたにもかかわらずポシャってしまった経緯がある。DVD化こそされましたが、なんと邦題が『プリズン211』、タイトルは自由に付けていい決まりですけどアンマリです。

 

 

     サスペンスが120分を超えると・・・

 

: 残念ながら、やはりホルヘ・ゲリカエチェバリアは来日しませんでした。

: アレックス・デ・ラ・イグレシアが来日なら一緒に来るんじゃないかと思っていましたが。

: 公開が決まっていて、モンソンが一緒ならプロモーションを兼ねて来たでしょう。それにしても本映画祭のゲストの少なさは課題の一つですね。

: スポンサーが充実している東京国際映画祭のようにはいきません。作品で勝負するしかなさそうです。

 

: さて既に、キャスト並びに監督以下スタッフを紹介しているので書くことないかなと思っていましたが(LB2014 920)、中だるみ気になって思い直しました。軽快な滑り出しにヨシヨシと身を乗り出し、これは<監房>より面白くなりそうだとワクワクしましたが、136分が長かった。

: 前作は110分、最近は2時間超える作品が少なく、特にサスペンスが120分を超えるとキツイ。主人公エル・ニーニョとムスリムの仲間ハリルの姉、麻薬の運び屋を引き受けたアミナとの愛の物語が長すぎたんじゃないですか。

: 前にも書いたことですが、「モデルは存在するが実話ではない」から愛の物語も結構です。しかし、「20年前30年前の話ではなく、現在日常的に起こっている」事件という触れ込みが途端に嘘っぽくなってしまった。前作でも感じたことですが、モンソンもゲリカエチェバリアもラブストーリーは得意じゃなさそうです。

: しかし、前作より幅広い層に受け入れられたのは、「女性を感激させるエモーショナルなスリラーだから」と監督は分析していますよ()

 

: へえ、そうですか、女性も千差万別だから。ヘスス・カストロは突然スカウトされて出演したわけで、勿論演技を学んでいたわけではない。撮影当時二十歳そこそこだったことを考慮すれば仕方ないかもしれないが、アクション・シーンの格好良さとの落差がありすぎました。

: 出演が決まってからは大車輪でランチや水上バイクの運転練習、アクション・シーンの演技指導とシゴかれ、愛の指導は時間切れだったのではないの。

: これはアクション好きの若者をターゲットに製作されたのだから、そういう意味では興行的にも大成功、観客層が女性にも広がったのはオマケかもしれない。

 

                         

                      (若者三人組、エル・コンピ、ハリル、エル・ニーニョ)

: ルイス・トサール扮するヘススとバルバラ・レニー扮するエバの関係もヤキモキさせた。ただの相棒じゃなさそうです。

: こちらは抑制型、犯人に勘づかれないよう恋人を装って腕を組んで追跡するシーンが切ない()。相手にはバレバレなんですが。それでニセの情報をつかませられ、国家に大損害を与えてしまう。

: 凄いシーンでした。本当の冷凍魚を切り刻んだのでしょうね。もう一つの愛がエル・ニーニョの仲間エル・コンピとアンダルシア娘のマリフェ、父親の職業が警官なのには笑えました。モンソン映画はコメディ部分が結構楽しい。

 

     度肝を抜く首なし死体が風に吹かれてゆらゆら

 

: 伏線として、首なし死体が橋の欄干に吊るされるシーンが出てくる。次に吊るされるのは誰だろうか。かなりシュールな映像です。

: こういう制裁の仕方は事実としてあるのでしょうか。裏切り者というより麻薬取引に失敗して組織に損害を与えた人ですね。命がけなのは、密売者、取締官の双方にある。

: 組織を危うくした者には「見せしめの制裁」を加える、これがオキテなんでしょう。

 

: いいところまで犯人を追いつめるが、あと一歩で逃げられる理由は、警察内部に裏切り者がいるというのがイロハです。仲間を疑うわけだから疑心暗鬼になる。

: まず警察腐敗は上司を疑えが定番、『L.A. コンフィデンシャル』でも『ダーティ・ハリー』でも、汚い裏切り者は上司だったからね。

: 上司役セルジ・ロペスは、『パンズ・ラビリンス』の憎きビダル大尉になった人、強面だから冷酷無比なファシスト役にはぴったりだった。悪役が多そうだね。

: パリの演劇学校で演技を学んだからフランス語ができる。フランス映画にも悪役で出演しているバルセロナ派のベテラン。イサベル・コイシェの『ナイト・トーキョー・デイ』(09、公開10)にも顔を出していた。

  


: ヘススの同僚セルヒオに扮したのがエドゥアルド・フェルナンデス、娘を費用の掛かる海外の学校に行かせている。

: 父親という役柄かもしれませんが、白髪混じりのフェルナンデスには冷酷な時の流れを感じました。トサールと同じように、どんな役をやっても地でやってると思わせるカメレオン役者。安心して見ていられる。

: エル・ニーニョ役のヘスス・カストロのゴヤ賞2015新人男優賞は太鼓判ですが、エバ役のバルバラ・レニーも助演女優賞に絡んできそうです。

: 本作というより、カルロス・ベルムトの“Magical Girl”のほうかもしれない。こちらはサンセバスチャン映画祭で作品賞と監督賞の異例のダブル受賞をした作品です。

 

     経済的困難にもめげず映画好きのスペイン人

 

: 封切り3日間で300万人が見たという本作ですが、人気は衰えていないのですか。

: 10月に入ってサンチャゴ・セグラの“Torrente 5”が公開され、観客53万人(360万ユーロ)とトップを走っています。アルベルト・ロドリゲスのスリラー“La isla mínima”(916)が80万、続く『エル・ニーニョ』が5070003作で約500万ユーロ、全興行成績の70%を占めるそうです(レントラックRentrak 105日調べ)。

: 消費税が21%と値上がりしたのにね。

: 『エル・ニーニョ』は公開1ヵ月で1400万ユーロですから、国家に充分貢献しています。

Rentrak:アメリカのメディア調査会社、視聴率データを取っている。

 

: 経済的な困難が映画産業を苦しめているというわりには、好い数字になっている。

 失業して時間があるから映画館に行ってるわけではないでしょう。

 観客が楽しんでくれる映画作りをモットーにしているモンソン監督、「これといった大宣伝はしないのに多くの観客が見てくれるのは、観客のクチコミのお蔭」と観客に感謝している。

 

 過去に密売に携わった関係者に取材して細部を固め、小道具の一つだったハシッシュ(大麻)の密輸品を押収するシーンでは治安警備隊の警官を動員してもらえた。ヘリコプターも、3トンのランチも、出動してくれた治安警備隊もホンモノだった。(前回の資料部分を下記に再録しました)

 

  <資料再録>

キャスト:ルイス・トサール(警察官ヘスス)、ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)、イアン・マクシェーン(エル・イングレス)、セルジ・ロペス(ビセンテ)、バルバラ・レニー(ヘススの相棒エバ)、ヘスス・カロッサ(エル・コンピ)、エドゥアルド・フェルナンデス(セルヒオ)、Saed Chatiby(ハリル)、ムサ・マースクリ(ラシッド)、マリアン・ビチル(アミナ)、スタントマンも含めてその他大勢。

 

プロット:エル・ニーニョは、英領ジブラルタルの国境沿いラ・リネア・デ・ラ・コンセプションに住んでいるモーターボートの修理工。ある夜、ダチのエル・コンピと出掛けたパーティの帰途、二人はムスリムの青年ハリルと出会った。彼の叔父ラシッドは麻薬密売のディーラーを生業にしている。エル・コンピに説得され、得意のモーターボートを駆使してブツをアフリカからスペインに運び込む「運び屋」を引き受ける。一方ベテラン警官のヘスス、その相棒エバは、ジブラルタルの密売組織を牛耳っているイギリス人麻薬密売人エル・イングレスの足跡を2年間ずっと追い続け包囲網を狭めていくが尻尾が掴めない。そんなとき若い二人の運び屋ニーニョとコンピの若者が網に掛かってきた。  (文責:管理人)

 

ダニエル・モンソン Daniel Monzón Jerez1968年マジョルカ島のパルマ生れ、監督・脚本家・俳優。脚本家として出発した短編を撮らない珍しい監督。

 

監督としてのフィルモグラフィー

11999El corazón del guerrero 邦題『クイーンウォリアー』アドベンチャー・ファンタジー20025月公開。

22002El robo más grande jamás contado”(アントニオ・レシネス主演のコメディ)本作からホルヘ・ゲリカエチェバリアとタッグを組み現在に至る。

32006The Kovak Box”(“La caja Kovak”西= 英合作、西語・英語・独語)、『イレイザー』の邦題でDVD化されたSFサスペンス、未公開。

42009Celda 211”『プリズン211DVD (映画祭タイトル『第211号監房』)未公開。

52014El Niño”『エル・ニーニョ』LB2014上映。

 


ホルヘ・ゲリカエチェバリア Jorge Guerricaechevarría1964年アストゥリアスのアビレス生れ、脚本家。アレックス・デ・ラ・イグレシア(ゴヤ賞にノミネートされた『ビースト 獣の日』、『みんなの幸せ』、『オックスフォード殺人事件』他、ほぼ全作)、ペドロ・アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』、モンソンの第2作から本作までを執筆している。

 

ヘスス・カストロJesús Castro1993年カディスのベへール・デ・ラ・フロンテラ生れの21歳、俳優。父親はカフェテリアを経営している。母親はヒターノ出身、弟と妹がいる。スカウト前はカディスの中央部に位置するラ・ハンダ La Jandaの高等学校 Ciclo Formativo de Grado Medio で電子工学を学んでいた。ESO(中等義務教育1216歳)資格がないと入れない。同時にディスコで働き、父親のカフェテリアでチューロを作って家族の経済を支えていたという孝行息子です。他にサンセバスチャン映画祭2014オフィシャル・セレクション正式出品のアルベルト・ロドリゲスのスリラー“La isla mínima”に出演している。

 

★第29回を迎えるゴヤ賞2015の「栄誉賞」にアントニオ・バンデラスが決定、記者会見がありました。一気に30歳ぐらい若返り、サプライズを超えて我が目を疑いました。次回は古くなってしまった<ニュース>も含めて落ち穂拾いを致します。


ラテンビート2014*あれやこれや ③2014年11月01日 14:00

★残る2作品『ブエノスアイレスの殺人』と『エル・ニーニョ』は共にサスペンス、横浜会場がこれからなので深入りできない。そうは言っても気分が切れないうちに印象を纏めておきたい。まずナタリア・メタ『ブエノスアイレスの殺人』から。

 

               ブエノスアイレスのゲイ・コミュニティが語られる

 

: 『ブエノスアイレスの殺人』に登場した若い警部の妖しい魅力に堪能できたら、それで充分でしょうか。そうはいきませんよね。しかし結末は書けないから、遠回り記事でお茶を濁すしかありません(LB2014 929)。

: 途中から犯人探しから微妙に焦点がずれてきて、本当のテーマは何なのと戸惑いました。

: 詰め込みすぎてテーマが少し拡散してしまった印象かな。最初、TVドラマ・シリーズとして企画されたことが尾を引いているのかもしれない。

: 少しジグザグしているけれど、11個ジグソーパズルのように嵌めこんでいくしかない。

 


: 軍事政権から民政移管されたラウル・アルフォンシン政権時代(198389)の80年代半ばが時代背景ということですが、今まで禁じられていた諸々のこと、性の解放、アングラで秘かに行われていたゲイ・クラブ内での麻薬取引、海外への巧妙な麻薬密輸、遅れてやってきた70年代のシンセサイザーのグラムロックと、若い観客を飽きさせない仕掛けが盛り沢山。

: 当時のゲイ・コミュニティに大胆に踏み込んでいますが、現在のように米国のトップ企業アップルのCEOがカミングアウトできる時代ではなかった。

: それに<ストップ・エイズ>の嵐が吹きまわっており、エイズと分かれば、かつてハグし合った友人でも握手を拒んだ時代でした。80年代から90年代初めはホモ排斥が最高潮だった。彼らが現在獲得しているような自由は存在していなかった。

 

: 「アン・リーの『ブロークバック・マウンテン』が本作の出発点だった。ワイオミングのカウボーイをブエノスアイレスの警察官に変えたらどうなるか」という監督談話を思い出しながら観ていた。

: アルゼンチンのゲイ・コミュニティの著者、ジャーナリストで作家のアレハンドロ・モダレジィは、「自分は映画のプロではないので映画の良し悪しについては何とも言えないが、もっとも興味深かったのは政治的文化的な要素が提起されていたこと」と前置きして、時期を80年代半ばでなく1989年と限っています。

: フィクションですから時代を忠実に反映していなくてもと思いますが、どんな理由ですか?

 

                        

                                                    (左から、チノ・ダリンとデミアン・ビチル)

: 時期を限るのは難しいが、アルフォンシン政府の内務大臣を1987年まで務めたアントニオ・トロッコリは大のホモ嫌い。在任中はゲイ・クラブの一斉検挙や手入れをして迫害した政治家で、ゲイは治療すれば治る病気と考えていた人です。ゲイの世界の情報は薄ぼんやりしていて、映画のようにゲイが受け入れられる状況ではなかったということです。

: 女性が職務とはいえ<女人禁制>のゲイ・クラブに入れるのもあり得ないか。

: モニカ・アントノプロス扮するドロレスは、ナタリア・メタ監督の視線を兼ねている。今までの女性の描き方は大方受け身のポジションにおかれたが、ドロレスはそうではなかった。もう一人、ルイサ・クリオクが演じた犠牲者の妹の人格も、良い悪いは別として計算高く利口な人物だった。女性監督の目線を感じました。 

                                     

                                                                                                   (モニカ・アントノプロス

Alejandro Modarelli : Fiestas, baños y exilios/Flores sobre el orínなど。軍靴の鳴り響く軍事独裁時代に、地下に潜ったゲイ社会の実情をテーマにした本を上梓している。後者は駅舎の公衆トイレを舞台にした軍事独裁時代のゲイたちの日常を描いた戯曲。orín’の意味は「錆」、稀に尿ですが、ここでは便器についた汚れのような意味。

 

                 チノ・ダリン無しでこの映画は作れなかった

 

: 「男性の中にある欲情を騒がせるような魅力ある俳優が必要だった。チノ・ダリンには男の心を捉えるような」魅力があったと監督。もっともらしい顔で二枚舌を使っても、どこか憎めない魅力がありました

: ウラオモテノがあると気づきつつも、つい気を許してしまう魔力を備えている。

: たった一度のチャベス警部との途方もないシーンも、10年前のアルゼンチンだったら一大スキャンダルだった、奥歯に物が挟まったような言い方ですが。

: 危うい魅力を発散するヌード・ディスコ<マニラ>の歌手ケビンのカルロス・カセリャウンベルト・トルトネセ扮するクラブ・オーナーのモヤノ、具体的なモデルがいそうですね。

 

: 80年代だけでなく、90年代から新世紀にかけてニュースとなったゲイ殺害事件も織り込まれているようです。前出のアレハンドロ・モダレジィによれば、部屋の中で殺害されるケースは、たいていハイソサエティの人だそうで、犯人は子供のいる異性愛者だったり、極右のカトリック系のグループだったり、差別は水面下で続いている。

  

: 映画に先住民やアフリカ系の人が出てこなかったように、85%が欧州系白人、先住民を含めたメスティーソが15%、ユダヤ系も一番多く、他のラテンアメリカ諸国とは一線を画している。

: 自国をヨーロッパの一部と考える優越感、しかしヨーロッパ化が不完全だったという劣等感の間で微妙に揺れ動いている。経済のアップダウンも一番激しい国で、他のラテン諸国から批判されても仕方がない面がありますね。

 

: 80年代のノスタルジーを楽しむか、70年代のグラムロックにしびれるか、または犯人が行きずりの物取りか、痴情犯罪か、雇われ暗殺者の仕業か推理しながら見るのも一興です。

: 評価は賛否両論、はっきり二分されているようです。来年のオスカー賞アルゼンチン代表作品に“Relatos salvajesWild Talesが選ばれたことはご紹介済みですが(1024)、こちらには本作の主役の一人チノ・ダリンの父親リカルド・ダリンが出演者の一人です(写真下)。


ラテンビート2014*あれやこれや ②2014年10月30日 12:18

★予想通りの出来栄えだったメキシコのアロンソ・ルイスパラシオスのコメディ『グエロス』(LB 103)とチリのアレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスのサスペンス『殺せ』(LB 108)、前者はベルリン映画祭「パノラマ」部門上映、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門のベスト・フィルム賞受賞、後者はサンダンス映画祭「ワールド・シネマ」部門の審査員大賞受賞他、オスカー賞2015、ゴヤ賞2015イベロアメリカ賞のチリ代表作品にも選ばれた、それぞれ話題作です。

 

         モノクロのコメディ『グエロス』の次回作が楽しみ

 

: 今年のラテンビートで最初に観た映画、予想通りのブラック・コメディでなかなか笑えた。

: 笑い声はあまり聞こえてこなかったが、観客には伝わらなかったのかな。

: 忍び笑いをしていたんでは。昨年、セバスティアン・シルバのコメディ『クリスタル・フェアリー』が上映されたときも会場は概ね静かだった。来日して最前列で自作を観ていた監督、「笑い声が聞こえてこなかったが面白くなかったのでしょうか」と心配そうに観客に逆質問。いえいえ、日本人は礼儀正しく控えめなんですよ()

 

            

         (自分探しの4人組、ソンブラ、アナ、トマス、サントス)

 

: これは新人監督にしては珍しいモノクロ映画、どうしてモノクロで撮ったのかは、すでに紹介記事で書きましたので繰り返しません。

: 昨年もパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』とフェルナンド・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』がモノクロでした。製作資金の捻出に悩む新人監督が、カラーよりお金の掛かるモノクロで撮るのは珍しい。

: 撮影監督ダミアン・ガルシアの映像は洗練されていて、スクリーンで見ると一段と映える。トライベッカ映画祭2014 最優秀撮影賞を受賞したことが頷けます。

 

: 未公開ですが『メキシコ 地獄の抗争』の邦題でDVD化されている、ルイス・エストラーダの“El infierno”も撮っていますね。

: これはゴヤ賞2011の「イベロアメリカ映画賞」部門のノミネート作品、こういうメキシコならではのコメディも好きですね。

: コメディ好きなんだ。主人公ソンブラの「ストにストしてる」というセリフには、笑えるし泣ける。 


: 在籍している大学の強権には反対だが、だからと言ってスト突入した学生にも与することができないノンポリ。「ストにストしてる」からといって、テキは味方じゃない。ソンブラ、サントス、アナの3人の生き方の違いも、誰が正しく誰が間違っていると決めつけないのがいい。

: やっと探し当てた「死の床にいるはずの幻のミュージシャンが」・・・これでトマスもオトナになれるのだ。

: 電気料未払いで部屋は真っ暗、音楽も聴けない、かなり切羽詰まっているはずなのにどこかぬけている。「北への移民だけがテーマじゃない」と言う監督だが、決して批判しているわけではなく、多面的なメキシコを描きたかったと語っている。伏線の張り方も巧みで、青春時代にやるべきことが見つからない恐怖がテーマだね。

: ロード・ムービーにしたのも、巨大都市メキシコを描くには最適だったと語っていました。

 

         レベルの高いチリ映画『殺せ』は単なる復讐劇ではない

 

: 2番目に見た映画が『殺せ』、これはもう一度見なおしたい。ロッテルダム映画祭では批評家の間で評価が割れたという話が頷ける内容でした。ウエスタン調の復讐劇を期待した向きには残念でした。

: 監督によると、的外れの独断的な意見や形式的な分析で困惑したとか。しかし、ビッグ・スクリーン賞は逃しましたが、ベスト・ヒューチャー・フィルム(KNF)賞を受賞したんでした。

: 昨年は同じチリの監督アリシア・シェルソンの“Il futuro”が受賞した言わば新人賞ですね。ロベルト・ボラーニョの中編小説を映画化したものでした(コチラ⇒2013823)。

: 日本では2000年に三池崇史のサイコ・ホラー『オーディション』(1999)が受賞している。本映画祭の途中退場者数の記録を打ちたてた()

 


: 話を戻すと、前回でも書いたことですが、映像の美しさ、構図の取り方、夜の照明を自然に入ってくる光に押さえたこと、クローズアップ、ロングショットの切り替えもよく、個人的には予想を裏切りませんでした。

: デビュー作以来、撮影監督のインティ・ブリオネスとはずっとコラボしている。

: これは3作目だが、1作目“Huacho”はクローズアップの多用(カンヌ映画祭2009「批評家週間」ゴールデン・カメラ賞ノミネート)、第2作目“Sentados frente al fuego”はロングショットが多い。今年東京国際映画祭TIFFで上映されたクリスチャン・ヒメネスの第3作『ヴォイス・オーヴァー』の撮影監督でもある。

: 彼ともデビュー作からコラボしている。チリでは若手から中堅まで幅広く信頼されている実力者のようです。 


: あちらはコメディで暗いシーンは少ないのですが、やはり似ていると感じました。

: 「人が人を殺すことの重み、誰かの人生をおしまいにすることの正当性はあるのか否か」がテーマだと書いていますが、これは単なる復讐劇ではない。

: 一人の人間が一人の人間を殺すことの大変さ、戦争で何万人も殺害するほうが簡単だと思えてきました。殺してからが映画の核心が始まったという印象です。

 

: 家族全員が脅迫され、息子が撃たれ、娘がレイプされたら殺していいのか。

: インタビュアーに服役中の<>は、「人を殺すことがどういうことか、あなたは御存じない」と答えた。それがキイポイントです。そういうわけで邦題の『殺せ』には少し違和感があります。映画祭での邦題のつけ方は難しいのですが、あまり踏み込まないで直訳のほうがよいケースが多いと思う。

 

: チリで実際に起きた事件、正当であると認められるような根拠のある事件でしたが、<>に安息は訪れなかった。

: 私たち人間が本来もっている、道徳とか倫理の問題だけでなく、もっと生物学的な歯止めというか抑制力について語りたかったようです。チンピラを抹殺するというより、一家を孤独感と疎外感に陥れた社会に苦しみを与えたかった。

 

: チリ映画のレベルは、近年高まっていますね。映画を海外で学んでいるシネアストが多いせいか、カルチャーショックが視野を広げている。内弁慶は歓迎されない()

: 21世紀に入ってからのチリ映画の躍進は、ラテンアメリカ映画界のサプライズです。本映画祭だけに限っても、『聖家族』、『マチュカ』、『トニー・マネロ』、『サンティアゴの光』、『家政婦ラケル』、『ヴィオレータ、天国へ』、『NO』、『クリスタル・フェアリー』、『マジック・マジック』、『グロリアの青春』と粒揃いです。そういえば、春から夏にかけて旋風を巻き起こした『リアリティのダンス』のアレハンドロ・ホドロフスキー監督もチリ出身でした()

 

: TIFFでは、前出のアリシア・シェルソンの『プレイ』、同じくクリスチャン・ヒメネスの『見まちがう人たち』と『盆栽』の全3作など。

: いずれの作品も若いシネアスト・グループ「Generation HD」の監督たち。カルロス・フローレスを指導者に、『トニー・マネロ』のパブロ・ラライン監督が中心のグループです。

: そして今回、フェルナンデス・アルメンドラスの『殺せ』が加わった。

: このグループについては、『ヴォイス・オーヴァー』上映で、ヒメネス監督が三度目の来日をされたので、Q&Aの様子も含めて報告したい。『グロリアの青春』の主演女優パウリナ・ガルシアが主演者の二人の姉妹(写真下)の母親役で笑わせてくれました。


: 話が脱線気味です。デビュー作“Huacho”はサンダンス映画祭2008 NHK賞受賞(NHKは資金提供している)、ハバナ映画祭2009 初監督サンゴ賞を受賞している。(LB2014⑦参照)

: 2作目Sentados frente al fuego”(2011)もサンセバスチャン「ニューディレクター」部門、グアダラハラ「マーケット」部門、ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ他に出品されている。

: オスカー賞2015に残る可能性は低いが、ゴヤ賞イベロアメリカ賞ノミネートは期待できる。

 

: 後回しになっていたチリのバルディビア国際映画祭で上映されましたが(1010日)、劇場公開は地域限定で何とか16日に公開された。国際映画祭上映はサンダンス映画祭がワールド・プレミアだったからアメリカを含めて多く、20152月にDVD発売もアナウンスされています。

 

『殺せ』 チリ映画 *ラテンビート2014 ⑦2014年10月08日 13:46

★チリから届いた何ともはや凄いタイトルの映画、年明け早々開催されるサンダンス映画祭でお披露目したら、ワールドシネマ部門で審査員賞を受賞してしまった。そして始まった国際舞台での快進撃、アメリカで評判になると強いということを印象づけた。肝心のチリではこれから始まる「バルディビア国際映画祭」でやっと1010日に上映される。監督によれば、実際に起こった事件に着想を得て撮られたそうです。東京国際映画祭TIFFは、同じチリでもクリスチャン・ヒメネスのヒューマンドラマ『ヴォイス・オーヴァー』、共に「クール世代」と言われる若い監督の長編第3作目です。 


   『殺せ』Matar a un hombreTo Kill a Man

 

製作Arizona Films / El Remanso Cine

監督・脚本・編集:アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラス

音楽:パブロ・ベルガラ

撮影:インティ・ブリオネス

音響:パブロ・ピノチェト

編集:ソレダ・サルファテ

製作者Guillaume de Seille / エドゥアルド・ビジャロボス

 

データ:チリ≂仏、スペイン語、201482分、スリラー・ドラマ、

撮影地:トメTomé(首都サンティアゴ南西約340キロにあるビオビオ州の港湾都市)

受賞歴:サンダンス映画祭2014「ワールドシネマ」ドラマ部門で審査員大賞受賞

    ロッテルダム映画祭2014 KNF賞受賞、ビッグスクリーン賞ノミネート

    カルタヘナ・デ・インディアス映画祭2014最優秀監督賞・国際批評家連盟賞受賞

マイアミ映画祭2014フューチャー・シネマ批評家賞受賞

    フライブルク映画祭2014ドン・キホーテ賞受賞・特別審査員賞受賞

他ノミネート多数、フランス、メキシコ(グアダラハラ)、イギリス、デンマーク、ハンガリー、ポーランド、カナダなど国際映画祭上映多数。ドイツDVD発売、公開はフランス(101日)だけのようです。チリ公開未定。

 

キャスト:ダニエル・カンディア(ホルヘ)、ダニエル・アンティビロ(カルレ)、アレハンドラ・ヤニェス(ホルヘ妻マルタ)、アリエル・マテルナ(息子ホルヒート)、ジェニファー・サラス(娘ニコル)、パウラ・レオンシニ(フィスカル)他

 

解説:森林公園で働くホルヘは、近所に住むチンピラから絡まれても抵抗できない気弱な男。ある晩、息子がチンピラのボス、カルレに撃たれ重傷を負う。ホルヘと妻は法に訴えるが、カルレはすぐに釈放されてしまう。まもなくカルレたちの執拗な嫌がらせがエスカレートし・・。家族を守るすべのない父の苛立ちや失望、そして復讐を描いたドラマ。2014年サンダンス映画祭ワールドシネマ部門で審査員賞受賞。              (ラテンビート公式サイトからの引用)

 

★監督・フィルモグラフィー紹介

*アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスAlejandro Fernández Almendras:監督、脚本家。チリ大学前期課程修了後、ニューヨークでジャーナリストや映画批評の仕事をしながら映画を学んだ。2001年から短編を撮り始め、長編デビューは2009年の“Huacho”がカンヌ映画祭「批評家週間」ゴールデンカメラ賞にノミネートされるなどした。



*主な短編

2006 Desde lejos

2007 Lo que trae la lluvia イベロアメリカ短編コンペティション2007(最優秀ラテンアメリカ短編賞)、ベルリン映画祭短編部門にノミネート、ロッテルダム映画祭2007に上映された。

*全長編

2009 Huacho サンダンス映画祭2008 NHK賞受賞/カンヌ映画祭2009「批評家週間」ゴールデン・カメラ賞ノミネート/ハバナ映画祭2009 初監督サンゴ賞受賞 他

2011 Sentados frente al fuego(チリ≂独)サンセバスチャン映画祭2011「ニューディレクター」部門出品/バルディビア国際映画祭2011出品(チリ)/第27回グアダラハラ映画祭マーケット部門出品/ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ映画祭2012出品/サンフランシスコ映画祭2012出品他。チリ公開は2013年。

2014 Matar a un hombre 前記の通り省略 

                       (本作と関係の深い第2作目のポスター)

 

復讐:ホルヘは妻と二人の子どもと質素に暮らしている。森林公園の収入はかろうじて家族の生活を満たしている。ある晩、仕事からの帰宅途中チンピラのカルレたちに襲撃される。ここいら近辺ではよく知られたワルだ。ホルヘの息子は僅かでも盗られたものを取り戻そうとカルレと対決しようと決心するが、却って返り討ちにあって九死に一生を得る。カルレはたった2年の禁固刑を受けただけである。カルレは収監中ホルヘ一家全員の復讐を誓って出所してくる。そして執拗な嫌がらせが間断なく始まることになる。警察も司法も一家を守らなかったとしたら、ホルヘの取るべき道は、みずからの手で正義の鉄槌を下すしかない。

 

★監督によれば、これはチリで実際に起きた事件に着想を得て製作されたという。「ある時期テレビ漬けの日々を過ごしていたのだが、あるルポルタージュ番組、近所の不良少年を殺害した父親の話です。レポーターが刑務所に出向いて本人にインタビューする番組です。『あなたの家族はとても危険な状態にあったから、殺害したわけです。しかし時は戻せませんが、もし戻すことができたら、あなたは同じことをしますか』と最後に尋ねると、きっぱり『ノー、やりません』と答えた。それでああ、これは映画にできると考えたんです」。つまり復讐だけの物語なら掃いて捨てるほどありますよね。無法者が大手を振るう西部劇なんかその典型です。だから、この映画の真のテーマは後半部分にあるんだということです。

 


悔恨:人が人を殺すことの重み、誰かの人生をおしまいにすることの正当性が存在するのか否か、というテーマでしょうね。実際の父親には会わなかったそうです。主人公に感情移入できるレベルに達するまで考えつづけ、理解するまでかなり時間が掛かったという。誰も味方になってくれないという疎外感が父親を追い詰めていく。殺害は納得できることなのか。しかし殺害を成し遂げた瞬間に感じるのは、達成感ではなく悔恨だったのかもしれない。

 

★手動カメラと固定カメラの使用、アップとロングショット、空、森、太陽の光線、光と闇、いつもタッグを組む撮影監督インティ・ブリオネスの映像はスクリーンで必見か。ハリウッド映画のように目眩を起こさせるようなスピード感はないが、良質のサスペンスに仕上がっているのではないか。既にゴヤ賞2015イベロアメリカ部門とオスカー賞外国語映画部門のチリ代表作品という噂も聞こえてきました。長編前2作との関連が強い印象を受けますが、スクリーン鑑賞後に触れたいと考えています。 


ラテンビート2014(東京新宿バルト9上映日時:10111100~の1回)

 

『ブエノスアイレスの殺人』 *ラテンビート2014 ⑤2014年09月29日 17:22

★昨年のアルゼンチン映画はルシア・プエンソの『ワコルダ』1作でしたが、今年も同じ1作品。アレックス・デ・ラ・イグレシア特集ということでスペインに偏っている印象です(お気に入り監督なのでニコニコですが)。カンヌやトロント、サンセバスチャン映画祭の話題作が見送られ、ノーマークだった『ブエノスアイレスの殺人』がエントリーされた。期せずして女性監督、初めてお目にかかるナタリア・メタのデビュー作です。LB公式サイトの解説とトレイラーがしっくりこず違和感を抱いていましたが、「大分前になりますが、アン・リーの『ブロークバック・マウンテン』を見て、こういう物語がアルゼンチンで起きたらどうなるか、ワイオミングのカウボーイを警察官に変えて」、これが本作の出発点だったという監督談話にやっと納得しました(アン・リーの映画は2005年、主役のヒース・レジャーも故人となってしまったと感無量)。

 

     Muerte en Buenos AiresDeath in Buenos Aires

 

製作:Utopica Group / Picnic producciones / La bestia films

監督・脚本:ナタリア・メタ

脚本:ラウラ・ファルイ/グスタボ・マラホビッチ/ルス・オルランド・ブレナン

製作者:ベロニカ・クラ/マリアノ・ゴールド/ファビアナ・ティスコルニア、他

音楽:ダニエル・メレロ

撮影:ロロ・プルペイロ、他

編集:エリアネ・DKarz

音響:レアンドロ・デ・ロレド

衣装デザイン:バレンティナ・バリ、他 


データ:アルゼンチン、スペイン語、2014、サスペンス、91分、撮影:20131月~2月にブエノスアイレスでロケ、製作費:約50万ドル、映倫区分R-13、アルゼンチン公開2014515

 

キャスト:デミアン・ビチル(警部チャベス)、チノ・ダリン(警官‘エル・ガンソ’ゴメス)、モニカ・アントノプロス(ドロレス・ぺトリック/ チャベスの同僚)、カルロス・カセリャ(ケビン・ゴンサレス/ ディスコ<マニラ>の歌手)、ウーゴ・アラナ(警察署長サンフィリッポ)、ホルヘリーナ・アルッツ(チャベスの妻アナ)、ネウエン・ペンソッティ(チャベスの息子ミゲル)、ファビアン・アレニリャス(警察医アンチョレナ)、エミリオ・ディシ(判事モラレス)、ジノ・レニー(仕立屋)、ウンベルト・トルトネセ(マニラの経営者モヤノ)、マルティン・ウリッチ(ハイメ・フィゲロア・アルコルタ)、特別出演ルイサ・クリオク(ブランカ・フィゲロア・アルコルタ/ 犠牲者の妹)、他

 

解説:舞台は80年代のブエノスアイレス。敏腕警部チャベスは、ある男の凄惨な殺人事件の現場に駆け付ける。そこにはガンソと呼ばれる若い警官が先に到着していた。捜査線上に浮かんだ容疑者が、ゲイの集うクラブにいることを突き止めた二人は、店に潜入する。警部チャベスには『チェ28歳の革命』でカストロを演じたメキシコの俳優デミアン・ビチル。怪しげな魅力を放つ警官ガンソ役を、アルゼンチンを代表する名優リカルド・ダリンの息子、チノ・ダリンが演じている。 
                           (ラテンビート公式サイトより引用)

 

           

                 (ディスコ<マニラ>に潜入したチャベスとエル・ガンソ)

 

★アルゼンチンの80年代前半は、70年代の「汚い戦争」といわれる軍事政権による国家テロの延長線上にあり、民政移管となった後半とはかなり異なる。1983年、鉄の女サッチャーに仕掛けたマルビナス戦争に失敗、心身ともに多くの傷跡を国民に残して軍事政権は崩壊した。脆弱とはいえ民主主義がラウル・アルフォンシン大統領の手で始まったが、アルフォンシンは一定の成果を上げたが経済政策の失敗から1989年、5ヵ月の任期を残して辞任する。ゲイの集まるクラブ内での麻薬取引の実態は、長年マル秘条項だったが、こういうクラブが事件の背景にある。民政移管されたアルフォンシン政権時代のなかば、性の解放が始まった頃に設定されているようだ。

 

      
 (ドロレス役のモニカ・アントノプロス)

★ブエノスアイレスではよく知られた名門の出の絵画コレクターの男性が、その豪華なアパートで死体となって発見される。現場で若い新米警官ゴメス‘エル・ガンソ’と家族持ちのベテラン警部チャベスが出会う。チャベスはその長いキャリア、いささか疲労気味だが、事件解決に関しては非の打ちどころのないと評判の警部だ。犯人は物取りが目的か、痴情犯罪か、はたまた雇われ暗殺者の仕業か、二人はパッショネートな殺人事件のウラに麻薬密売のネットワークが潜んでいることに気づく。こうしてチャベスとエル・ガンソの二人三脚の捜査が始まった。チャベスを支える同僚ドロレスはかなりセクシーな熟女、いささかカリカチュアされた警察署長サンフィリッポ、危うい魅力を発散するディスコ<マニラ>の歌手ケビン、そのオーナーのモヤノ、70年代のシンセサイザーのグラムロックが鳴り響くなかで物語は進行する。

 

            

                 (カルロス・カセリャ扮するゲイ歌手ケビン・ゴンサレス)

 

★監督紹介

ナタリア・メタ Natalia Meta:監督、製作協力。公表してないのか正確な生年は不詳、ただし1994年ブエノスアイレス大学哲学科入学、2001年卒業から類推して70年代半ばか。軍事クーデタが起きた当日、1976324日に生れたディエゴ・レルマン(『ある日、突然。』、“Refugiado”を511日他UP)、カンヌやトロント映画祭に出品された“Jauja”の監督リサンドロ・アロンソ522日・27UP)、チノ・ダリンの父親リカルド・ダリンが出演した“Relatos salvajes”の監督Damian Szifron(⇒56日・815UP)などと同世代ですから出遅れ感があります。 

    


製作協力として、パウラ・エルナンデスの“Un amor”(2011)、Pablo Giorgelli & Salvador Roselliの“Las acacias”(2010)がある。テレビ出演のインタビューでは、影響を受けたアルゼンチン監督として、ルクレシア・マルテル、パブロ・トラペロ、アドリアン・カエタノの三人を上げていました。ちょっと作風が違う印象ですが、いずれもアルゼンチンを代表する実力派、マルテルもトラペロもラテンビートでお馴染みの監督、アドリアン・カエタノはウルグアイのモンテビデオ生れですがアルゼンチンで映画を撮っている監督。国際的な映画祭で数々の受賞歴がある“Un oso rojo”(2002)、“Crónica de una fuga”(2006)も紹介されていない。最近はテレビ・シリーズやドキュメンタリーを撮っているが、いずれ登場することを期待します。

 

★チャベス警部デミアン・ビチル・ナヘラ Demian Bichir Najera1963年メキシコ・シティ生れの51歳、俳優、プロデューサー、脚本家。父が舞台監督、母が女優ということもあって子役時代を含めると、半世紀近いキャリアの持ち主。これから公開の作品を含めると70作を超える。アメリカ映画だがクリス・ワイツの“A Better Life”(2011)のカルロス・ガリンド役が絶賛され、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。劇場公開にはならなかったが、東京国際映画祭2011のワールド・シネマで『明日を継ぐために』の邦題で上映された。LB公式サイトにあるように『チェ28歳の革命』『チェ39歳-別れの手紙』でフィデル・カストロに扮した。最近公開された映画はオリバー・ストンのスリラー『野蛮なやつら』(2012)、ポール・フェイグのアクション・コメディ『デンジャラス・バディ』(2013)、ロバート・ロドリゲスの『マチェーテ・キルズ』(2013)など、いずれも吹替え版でテレビ放映もされた。



他にメキシコのアカデミー賞アリエル賞ノミネーションに、カルロス・カレロのブラック・コメディ“La vida conyugal”(1993)、ラファエル・モンテロのコメディ“Cilantro y perejil”(1997)などで主演男優賞にノミネートされた。他ノミネート多数。コメディからシリアス・ドラマと演技の幅は広い。見た人の話なので責任は負えませんが、10年前なら大スキャンダルになっただろうチノ・ダリンとのドキッとするシーンがある由、映画館でご確認。

 

★エル・ガンソ役チノ・ダリン Ricardo Alberto Darin Bas1989年ブエノスアイレス生れの25歳、俳優。父リカルド・ダリンとクリスチャン・ネームが同じことから通称‘チノ’の愛称で呼ばれている。2010TVドラ、マルティン・サバンの“Alguien que me quiera”でデビュー。映画はダビ・マルケスのコメディEn fuera de juego2012、アルゼンチン≂西)、監督はバレンシア生れのスペイン人、主役はアルゼンチンのディエゴ・ペレッティやチノ・ダリン、スペイン側はフェルナンド・テヘロ、ウーゴ・シルバなどお馴染みの俳優が出演、サッカーのコメディなのでイケル・カシージャスやマルティン・パレルモのホンモノが特別出演、父リカルド・ダリンも我が子のために出演してヨイショ。その後アルゼンチンの人気TVドラマに出演、第2作目となる本作で主役に抜擢されたシンデレラ・ボーイ。 


まだ演技力も未知数のチノ・ダリン起用の理由を質問されてたメタ監督、「チノ・ダリン無しでこの映画は作れなかった。男性の中にある欲情をかきたてることができる魅力ある俳優が必要だった。彼には心を捉えるようなイメージがあった」と語っている。最初は役人なら警官でなくてもよかったが、「ブエノスアイレスの夜の領域を融合させるには、やはり一番ぴったりなのが警察だったので、結果的にそうなった」とも。<ブエノスアイレス>は本作のキイワードの一つのようで、広義のフィルム・ノワールでもある。

 

★他にゲイの歌手になるカルロス・カセリャの怪しい魅力、御年60歳でも依然その美貌に衰えを見せないルイザ・クリオク、上流階級のポロ競技の映像美も見どころの一つか。前世紀の倫理コードでは許されなかったであろうサドマゾヒズムの大胆なシーン、「ストップ・エイズ」のキャンペーンと相まって、ホモセクシュアルは病気で治療すれば治ると考えていた1980年代のブエノスアイレスのノスタルジーもありそうだ。最初、テレビ・ドラマとして企画されたこともあって、筋がいささか盛り沢山、少しジグザグしている印象をうける。評価は毀誉褒貶、完全に二分されている。映画の好みは十人十色、自分で確かめるしかないか。

 

              

            (犠牲者の妹役になったルイサ・クリオク)


ダニエル・モンソンの新作『エル・ニーニョ』*ラテンビート2014②2014年09月20日 23:41

★今年、ハリケーン級の興行成績を上げている映画は、サンセバスチャン映画祭「メイド・イン・スペイン」で上映されるエミリオ・マルティネス・ラサロのOcho apellidos vascosがぶっちぎりで1位だと思っていたのに、『エル・ニーニョ』829日に封切られるや怪しくなってきた。日刊紙「エル・ムンド」電子版によると、週末3日間で300万人が見たという(スペインは金曜日が封切り日)。売上高285万ユーロを弾きだしたというが、これで計算合ってる? この勢いだとナンバー1になるのもそう遠くはない。夏休み最後の週末だからお財布に残っていたお金を残さず使っちゃおうと思ったのかも。

 

     El Niño

製作:Telecinco Cinema / IkiruFilms / Vaca Films

監督:ダニエル・モンソン

脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア/ダニエル・モンソン

撮影:カルレス・グシ

音楽:ロケ・バーニョス

編集:クリスティナ・パストール

製作者:アルバロ・アウグスティン/ビクトリア・ボラス(IkiruFilms)、他多数

  

 

キャスト:ルイス・トサール(警察官ヘスス)、ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)、イアン・マクシェーン(エル・イングレス)、セルジ・ロペス(ビセンテ)、バルバラ・レニー(ヘススの相棒エバ)、ヘスス・カロッサ(エル・コンピ)、エドゥアルド・フェルナンデス(セルヒオ)、Saed Chatiby(ハリル)、ムサ・マースクリ(ラシッド)、マリアン・バチル(アミナ)、スタントマンも含めてその他大勢。

 

データ2014、スペイン、スペイン語、アクション・スリラー、136分、撮影地(ジブラルタル海峡、モロッコのタンジール、スペインのアルヘシラス、タリファ、セウタ、アルメリアなど)

  

 

解説:麻薬取引に手を染めた命知らずの若者たちと、密売組織の操作に全力を注ぐ二人の警官。麻薬密売の巣窟と言われる危険なジブラルタル海峡を舞台に繰り広げられる、犯罪組織と警察の攻防を描く。『プリズン211』の主演ルイス・トサルと監督ダニエル・モンソンが再びタッグを組んだアクション&サスペンス。(ラテンビート公式サイトからの引用)

 

★こういうテーマ、ハリウッド映画や海外ドラマで飽きるほど見ているんじゃないかと思う。しかしまだ完成する前から、『プリズン211』のモンソンが5年ぶりに撮るというので、スタッフ並びにキャスト、撮影状況を含めてメディアが熱く報道していました。監督によれば、モデルは存在するが実話ではなくフィクションです。しかし20年前30年前の話ではなく、現在日常的に起こっている事柄を基礎データにして脚本が書かれたと分かれば話は別、見たくなります。

 

★『プリズン211』というのは、「スペイン映画祭2009」で『第211号監房』の邦題で上映されたCelda 2112009)のDVDタイトルです。細かいことを言えばプリズンではなく監房です。公開がアナウンスされながらDVD発売だけに終わった。ゴヤ賞2010では、作品・監督・脚色・男優賞他8部門を制したヒット作。声を潰し筋肉マンに変身して主役マラマードレを演じたトサールは、「やっと父親から俳優と認めてもらえた」と語った映画でした。製作費570万ドル、現在とは為替レートが違うから単純に比較できないが、スペインでの売上高は1300万ユーロに止まった。

   

      

(主役の二人、ヘスス・カストロとルイス・トサール)
  

プロット:エル・ニーニョは、英領ジブラルタルの国境沿いラ・リネア・デ・ラ・コンセプションに住んでいるモーターボートの修理工。ある夜、ダチのエル・コンピと出掛けたパーティの帰途、二人はムスリムの青年ハリルと出会った。彼の叔父ラシッドは麻薬密売のディーラーを生業にしている。エル・コンピに説得され、得意のモーターボートを駆使してブツをアフリカからスペインに運び込む「運び屋」を引き受ける。一方ベテラン警官のヘスス、その相棒エバは、ジブラルタルの密売組織を牛耳っているイギリス人麻薬密売人エル・イングレスの足跡を2年間ずっと追い続け包囲網を狭めていくが尻尾が掴めない。そんなとき若い二人の運び屋エル・ニーニョとエル・コンピが網に掛かってきた。 (文責:管理人)

 

ジブラルタルはイギリスの海外領土、地中海の出入り口にある要衝の地ジブラルタル海峡を望む良港をもつため、軍事・商業上重要なところでイギリス軍が駐屯している。ザ・ロックと呼ばれる岩山が総面積のほぼ半分を占めている。エル・ニーニョが暮らすラ・リネア(・デ・ラ・コンセプション)はイギリス国境沿いの町、アンダルシア州に所属し人口約65000人。

 

ダニエル・モンソン Daniel Monzón Jerez1968年マジョルカ島のパルマ生れ、監督・脚本家・俳優。脚本家として出発した短編を撮らない珍しい監督。

 

監督としてのフィルモグラフィー

11999El corazón del guerrero” 邦題『クイーン&ウォリアー』(アドベンチャー・ファンタジー)、20025月公開。

22002El robo más grande jamás contado”(アントニオ・レシネス主演のコメディ)本作からホルヘ・ゲリカエチェバリアとタッグを組み現在に至る。

32006The Kovak Box”(“La caja Kovak”西= 英合作、西語・英語・独語)、『イレイザー』の邦題でDVD化されたSFサスペンス、未公開。

42009Celda 211”『プリズン211DVD (映画祭タイトル『第211号監房』)未公開。

52014El Nino

 

柳の下に泥鰌が2匹、関係者の笑いは止まらない。観客が楽しんでくれる映画作りをモットーにしているモンソン監督、今回もその言葉通りに推移しているようです。これといった大宣伝はしないのに多くの観客が見てくれるのは、「全て観客のクチコミのお蔭、本当に誇りに思っています」(監督談話)だそうです。Ocho apellidos vascos同様成功の決め手はクチコミ、スペイン映画産業にとって、これほどの成功は異例の現象だという。アクション映画が大好きな若者をターゲットに製作されたが、観客層は老若男女と幅広く、「観客は笑うべきところで笑ってくれている」と監督。

    

                 

              (ダニエル・モンソン監督)

 

『プリズン211』も「冷酷で、胡散臭く、限りなくダーク」だったが、幅広い観客層に受け入れられたが、本作はそれを超えている。それは「女性を感激させるエモーショナルなスリラーだから」だと監督は分析しています。更に映画に重厚さをもたらした理由として、ルイス・トサール、エドゥアルド・フェルナンデス、バルバラ・レニーなどのベテラン勢に加えて、新星ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)を上げています。エル・コンピに扮するヘスス・カロッサ、年若い運び屋を演じたこの二人の「ヘスス」の好演が成功に貢献しているとか。

 

製作費約600万ユーロで撮られた。こんな額で完成できたのは「奇跡」とモンソン、「英語で撮るなら資金を出すという製作会社のオファーを断った」理由は、スペイン語に拘ったからだ。ここらへんが世代の違う『インポッシブル』のフアン・アントニオ・バヨナ(1975)との違いですね。過去に密売に携わった関係者にも取材して細部を固め、小道具の一つだったハシッシュ(大麻)の密輸品を押収するシーンでは治安警備隊の警官を動員してもらえた。ヘリコプターもホンモノ、3トンのランチもホンモノ、出動してくれた治安警備隊もホンモノだったようです。だからウソっぽくないのは当然です。勿論、共同執筆者のホルヘ・ゲリカエチェバリアの助けなしには完成できなかったという。

    

      

 (エル・ニーニョが操縦するランチを追うホンモノの国家警察のヘリコプター)

 

ホルヘ・ゲリカエチェバリア Jorge Guerricaechevarría1964年アストゥリアスのアビレス生れ、脚本家。アレックス・デ・ラ・イグレシア(ゴヤ賞にノミネートされた『ビースト 獣の日』、『みんなの幸せ』、『オックスフォード殺人事件』他、ほぼ全作)、ペドロ・アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』、モンソンの第2作から本作までを執筆している。

 

      

  (ホルヘ・ゲリカエチェバリア)

★ルイス・トサールは、『プリズン211』で紹介記事が既に書かれていますし、彼は単独できちんと紹介すべき役者なのでここでは割愛です。前作ではイシアル・ボジャインの『花嫁の来た村』や『テイク・マイ・アイズ』の印象を一変して、「こういうトサールを見たかった」ファンを喜ばせた。彼を語るとしたら『プリズン211』が一番相応しい。エル・イングレス役のイアン・マクシェーンはイギリス人、ラシッド役のムサ・マースクリはマルセーユ生れのフランス人と国際色も豊か、演技に文句のつけようがないエドゥアルド・フェルナンデス、バルバラ・レニー、セルジ・ロペスとそれぞれ危なげがない。

     

                                 

                          (ルイス・トサール右)

 

★新星ヘスス・カストロ Jesús Castro1993年カディスのベへール・デ・ラ・フロンテラ生れの21歳、俳優。父親はカフェテリアを経営している。母親はヒターノ出身、弟と妹がいる。スカウト前はカディスの中央部に位置するラ・ハンダ La Janda の高等学校 Ciclo Formativo de Grado Medio で電子工学を学んでいた。ESO(中等義務教育1216歳)資格がないと入れない。同時にディスコで働き、父親のカフェテリアでチューロを作って家族の経済を支えていたという孝行息子です。

 


モンソンによると、なかなか主役が見つからずカディスの中学校、高等学校、ジムなどを駆けめぐって探したという。そんなとき1枚の写真に出会い、鋭い視線、その背後に覗く胡散臭さ、それは並はずれていたという。それがヘスス・カストロ、やあ、運命を感じます。それからランチの運転、水上バイクの運転、アクション・シーンの演技指導とシゴキが始まったということです。「彼のように現れるだけで部屋を照らすような俳優はそうザラにはいない」とモンソン。他にサンセバスチャン映画祭2014オフィシャル・セレクション正式出品のアルベルト・ロドリゲスのスリラー“La isla mínima”に出演している(コチラ⇒916)。上映前なのでここらへんで。

 

★ラテンビート2014新宿バルト9上映日時(101113301218302回上映)

フアン・ホセ・カンパネラ 『瞳の奥の秘密』2014年08月09日 12:47

★フアン・ホセ・カンパネラの近況記事を前々回アップした流れで、彼の代表作『瞳の奥の秘密』を再考してみました。これは以前カビナさんブログにコメントしたものに新たに加筆訂正をして再構成した改訂版です(従って部分的にカビナ・ブログと連動しております)。200912月に開催された「スペイン映画祭」直後にコメントしたもので、まだオスカー賞も日本公開も視野に入っていない時期のものがベースになっております。まさか監督がオスカーを手にするなんて思いもしませんでした。

 

    El secreto de sus ojos”The Ssecret of Their Eyes”

製作:Tornasol Eilms, Haddock Films, 100 Bares, Televisión Federal(Telefe),
          Televisión Española(TVE)

製作者:ヘラルド・エレーロ、ダニエラ・アルバラード 他

監督・脚本・製作・編集:フアン・ホセ・カンパネラ

脚本・原作:エドゥアルド・サチェリ(原作La pregunta de sus ojos

撮影:フェリックス・モンティ

音楽:フェデリコ・フシド、エミリオ・Kauderer

美術:マルセロ・ポント・ベルジェス

視覚効果(特撮):ロドリーゴ・トマッソ

 


データ:アルゼンチン≂スペイン、スペイン語、製作2009年、製作費300万ドル、129分、撮影地:最高裁判所、レティロ駅、パトリシオス公園、チビルコイ(ブエノスアイレス郊外)、スタジオ他、日本公開20108

受賞歴:第82回アカデミー賞外国語映画賞/第24回ゴヤ賞イスパノアメリカ映画賞・新人女優賞(ソレダ・ビジャミル)/メキシコ・アリエル賞/クラリン・エンターテインメント賞(以上2010)/ハバナ映画祭2009監督賞・観客賞他。英バフタ賞、仏セザール賞、ヨーロッパ映画賞、伊ドナテッロ賞などノミネーション多数。

 

キャスト:リカルド・ダリン(ベンハミン・エスポシト)/ソレダ・ビジャミル(イレーネ・メネンデス・ヘスティングス)/ギジェルモ・フランセージャ(パブロ・サンドバル)/ハビエル・ゴディノ(イシドロ・ゴメス)/カルラ・ケベード(リリアナ・コロト)/パブロ・ラゴ(リリアナ夫リカルド・モラレス)/マリオ・アラルコン(フォルトゥーナ判事)/マリアノ・アルヘント(ロマーノ)/ホセ・ルイス・ヒオイア(バエス警部)他

 

プロット舞台は1999年のブエノスアイレス。刑事裁判所を定年退職したベンハミンは、19746月に起きた謎に包まれた女性レイプ殺人事件をめぐる小説を書こうと決意する。かつての職場を訪れ、元上司の検事イレーネと再会したベンハミンは、殺人事件の裏側に潜む恐怖を迫うことが、長年自らに封印してきたイレーネへの愛であることに気づかされる。25年前の過去をフラッシュバックさせながら、さらにベンハミンの進行中の小説を絡ませるという複雑な三重構造を見事なエンターテインメントとして作り上げた。最後に衝撃の愛のかたちに出会うことになる。(文責管理人)

 

    カンパネラ監督はご不満でした!

 

A: カビナさんブログでは、タイトルのsus ojos の瞳が「誰の瞳」かで始めました。というのもスペイン語のsu(sus)は、彼の・彼女の・あなたの・それの、各複数と多義にわたり、文脈から判断するわけです。大変便利な反面曖昧でもあるんです。結果、英語タイトルは、”The Secret of Their Eyes” になりましたが、カンパネラ監督は納得していません。

B: カビナさんが翻訳してくれたインタビュー記事によればそうですね。

A: まあ監督としては、ちゃんと私の映画を見てくれたら幾らなんでもTheirにはならないでしょう、と言いたいわけです。これを受けてかどうか分かりませんが、アメリカ公開タイトルは、Her Eyesに変更された。しかし「彼女」はどの彼女? 今では犯人ゴメスの目が正解でした。

 

B: 「彼女」だとますます分からなくなって・・・イレーネ、殺害されたリリアナ、その夫モラレス、犯人と複数の目のほうがまだよかったかも。英題が混乱したのも映画の作り方に原因があったと思う。

A: 後でフラッシュバックと分かる冒頭部分、イレーネの目がクローズアップされ、ベンハミンは愛するひとの目が語りかけてくる問いを読み取ろうとします。これは叶わぬ「愛の物語」なんだからイレーネの瞳なんだ、殺人事件とは無関係なんだと。でも原作のタイトルは「秘密」じゃないんですね。

B: 原作は ”La pregunta de sus ojos”2005刊)、どうして変えたんでしょうか。今じゃ小説も映画に合わせているようです。

 

A: とにかく日本語は「誰の瞳か」なんて考えなくてもタイトル付けができて幸いでした。しかし、定冠詞losではなく所有形容詞susなんだから挑戦すべきでした。

B: 先ほど冒頭部分のフラッシュバックの話が出ましたが、あのフフイに転勤するベンハミンとそれを見送るイレーネの別離シーンは実際にあったことではなく、彼が書き始めている小説の再現シーンじゃないかな。

A: もう一度後半にも少し違って出てくる。実際にはあのようなロマンチックな別離はなかった。女は男と違ってもっとプラグマティズムです(笑)。フフイは首都から遠く離れたチリと国境を接した州ですから辛い都落ちです。この映画のフラッシュバックには、事実と虚構の2種類あって気をつける必要があります。さらにモラレスの犯人ゴメスを「車のトランクに押し込めて殺害した」という虚偽の証言も含まれています。リリアナが殺害された621日の朝食風景やサンドバル殺害の様子は、ベンハミンの小説の一部というか彼の想像です。彼はロマンチストで犯罪小説向きではない(笑)。 

                                 (レティロ駅での別離シーン)

 

B: 書き出しの5行でストップしている(笑)。フラッシュバックが多すぎました。技術的なことは分かりませんが、デジタルだと長回しもできるし、挿入も簡単なんでしょうか。

A: もう少し刈り込んで2時間ぐらいに短縮したほうがよかった。複雑な時代背景や厳しい社会情勢は別として、要するにこの映画のテーマは、愛であり、友情であり、正義とは何かです。20世紀後半の民主主義とは名ばかりのアルゼンチンを生き抜いてきた二人の男の「究極の愛の物語」なんです。ベンハミンは気づかない振りしてますが、イレーネの愛を確かめるために書こうとするのであって、その逆ではありません。

 

B: ベンハミンが冒頭部分で「Temo」(怖い)とメモを走り書きしますが、最後にこのメモに「Te Amo」(愛している)と「A」を書き入れます。彼が現役時代に使用していたタイプライターは壊れていて「A」が印字されなかったことが伏線としてあった。これは「愛は成就されます」という観客へのメッセージです。

A: イレーネが待っていたのはその「Te Amo」です。だからその後のシーンはカットです。

B: 階級差、学歴差を超えるのに25年もかかった。

 

                                         (「A」を書き入れたメモ)

 

    事件を時系列に並び替えてみよう

 

A: リリアナ殺害事件は1974621日、第41代フアン・ドミンゴ・ペロン大統領(197374、享年78)政権時代に起きた。ペロンは71日に心臓発作で急死するから、この月日は重要ですね。副大統領だった妻マリア・エステラ・マルティネス・デ・ペロン、通称イサベリータが即日大統領に就任する。

B: 誤認逮捕というかデッチ上げ逮捕などがあって、真犯人のゴメスが逮捕されるのが1年後。

A: モラレスがニュース番組で、服役中のはずのゴメスがイサベリータ大統領のボディガードとして娑婆に戻っているのを見てベンハミンに電話をかける。ここが何時かですね。

: 1975年後半から軍事クーデタが起きる翌年324日の間が想定できます。モラレスが逮捕後のゴメスの処遇を追跡していないのを奇異に感じた人が多いのではと思う。あれだけ犯人捜しに人生をかけていたのに。

 

A: 裁判などなかったと言いたいのかも。ゴメスが所属していた非公式の私設警察(fuerza parapolicial)は、ペロン政権から引き続き社会福祉大臣だったホセ・ロペス・レガJosé López Regaが、イサベリータの要請で創設、総指揮した秘密警察のようなものです。ですからゴメス逮捕以前からあった組織です。

B: カンパネラ監督もインタビュアーにロペス・レガについてのMarcelo Larraquyの著書を薦めていましたね。

A: 彼はトリプルAAlianza Argentina Anticomunista)という右派のテロ組織の創設者としても有名。一方イサベリータは夫より強権的な体制を敷き、就任後には反政府派を弾圧、人権活動家の投獄・殺害を行い、支持母体であるペロニスタ陣営からも反感を買ったお粗末な大統領でした。強権的なうえに経済・政策にも疎く、取り巻きも脳なし揃いだったから、「軍事クーデタが起きても国民は驚かなかった」と歴史書に書かれる始末でした。

 

B: だからゴメスのような極悪人が必要だった。ベンハミンとイレーネが抗議しに行ったのが、その社会福祉省です。二人が乗ったエレベーターにゴメスが無理矢理ドアをこじ開けて乗り込んできて、リボルバーかなにかを取り出す息づまるシーンがありました。

A: 名場面の一つです。これは偶然ではなくロマーノが脅すよう連絡したのですね。アルゼンチンでも、そういう目にあった観客が当時を思い出して身震いしたそうです。

B: 誤認逮捕で左遷されたはずのロマーノが返り咲いている。彼のような打たれ強いヘイコラ役人が必要悪として存在するのも万国共通です。

 

                 (左から、銃をもてあそぶゴメス、イレーネ、ベンハミン)

 

A: 原作では殺人事件発生が1968年、犯人の身元割り出しから逮捕に漕ぎつけたのが1973年。映画では殺害が1974621日、犯人逮捕が1年後、とちょっと強引な筋運びです。今の子供たちは学校で国家が正義を行わなかった時代「軍事独裁の時代」19761983)と教えられている。だがそうなるにはそれなりの前哨戦があったことを知らせたかった、と監督は語っています。

B: 主人公たちは、アルゼンチンのデモクラシーが名ばかりで、軍事独裁の危険を肌で感じていました。

A: 監督は「学校が教えないなら市井のオジサンが教えないと」とも語っています。ペロン→イサベリータ→軍事独裁→デモクラシーと4つの時代にまたがった激動のアルゼンチンを描きたかったのだと思います。

  

   
     魅力のポイント、選りすぐりの脇役陣

 

B: この映画の見どころの一つは、主役は勿論ですが、脇役陣の充実です。ベンハミンのライバル、ロマーノ役などやりたくない役でしたが、マリアノ・アルヘントの憎々しさ横柄ぶりは上出来でした。

: ベンハミンたちがせっかく逮捕したゴメスをペロン党のシカリオとして雇い入れる。いわばイレーネやベンハミンへの報復、まさに権力闘争です。

: 復讐として殺人犯を自由にしてライバルを脅す。何でもありの時代でした。アルゼンチンの俳優は尻込みしたのかゴメス役にはスペインのハビエル・ゴディノ、悪役をやると映画と現実を錯覚して憎まれるから辛いところ。

A: モラレス役のパブロ・ラゴの情熱を秘めた目、ベンハミンはレティロ駅で犯人を追い続けるモラレスの亡き妻への一途な愛に、自分のイレーネへの想いを重ねて再調査に着手する。鋭い目と重厚な声は適役でした。 

                                                     (モラレス役のパブロ・ラゴ

B: ベンハミンは10年後の1985年にフフイから帰京するとイレーネは結婚、二人の子供の母親になっている。1975年以降、モラレスもゴメスも行方知れずになっている。自分に残された人生にも小説の完成にもリリアナ殺害事件の真相解明は欠かせない。そしてブエノスアイレス郊外に引っ越していたモラレスの居場所を突き止める。後半のモラレスの物静かだが頑として譲らないその眼光にはは衝撃を受けます。

A: スリラー仕立ての展開は飽きさせませんでした。ベンハミンを突き動かしていた情熱は、自分の身代りになって殺害されてしまった相棒サンドバルの「誰もパッションを変えることはできない」という言葉でした。

B: 本作でもっとも絶賛された俳優は、サンドバル役のギジェルモ・フランセージャでした。テレビ界の大物コメディアンだそうです。牛乳ビンの底みたいなレンズのメガネをかけて、ガス抜きして笑わせました。

 

A: この作品がコメディ・ドラマのフィルム・ノワールと言われる所以です。

B: コメディ犯罪映画というのもおかしい。カビナさんブログにもピーター・セラーズのブラック・ユーモアとの指摘がありましたが、『ピンク・パンサー』のクルーゾー警部を思い出しました。第1作目の『ピンクの豹』ではクルーゾー警部は脇役のはずが主役を食ってしまうほどの名演技でした。 

          (右:サンドバル役のギジェルモ・フランセージャ)  

A: どの俳優も適材適所の感がありますが、特にフランセージャの演技を褒める批評家や観客が多かった。それだけ人気もあったということで、彼の起用は大当たりでした。機知に富み、友情に熱く、仕事も粘りがあって緻密、論理的な思考もできるが、唯一の欠点はアルコールに飲まれていたことでした。これがサンドバルのパッションでしたし、ゴメスのパッションはサッカーでした。

B: バエス警部役のホセ・ルイス・ヒオイアもテレビ界の喜劇俳優とか、分別臭い顔してにこりともしませんでした。映画出演は初めてだそうです。カンパネラはTVドラマを数多く手掛けているから抜かりがない。

 

A: ベンハミンは司法刑事、日本でいうと私服で犯罪捜査を行う司法警察職員に近くノンキャリア組。一方イレーネはコーネル大学出身の裁判官秘書官、出世が約束されたキャリア組、年下ながらベンハミンやサンドバルの上司として登場する。端から階級差や学歴差を観客に印象づける。

B: イレーネは美貌にして才識兼備、時代の空気を正確に察知し、世の中を複眼的に観察できる。恋愛と結婚は別と考え、親の決めた相手を受け入れる。

A: イレーネの長所は、長い目で見れば短所でもありますね。ソレダ・ビジャミルは声に張りがあって、上背があるせいか堂々としている。スクリーンで見るのはこれが初めてです。リカルド・ダリンはルシア・プエンソの『XXY』がラテンビート2007で上映、カンパネラの4作品に出演、ご紹介するまでもないですね。

アナ・ピーターバーグの『偽りの人生』(Todos tenemos un plan 2012)が2013年公開された。ヴィゴ・モーテンセンが一卵性の双子を演じ、ビジャミルは弟の妻に扮した。公開作品はこの2作だけ。

 

    130万の観客が映画館に足を運んだ

 

B: アルゼンチンでは2009813日に封切られ、5週目統計が130万人。海外に目を向けると、トロント映画祭(912)1週間遅れでサンセバスティアン映画祭、リオデジャネイロ映画祭(928)、そしてスペイン公開は925日でした。

A: 130万のなかにリピーターがいるのは、寄せられたコメントからも窺えます。本映画祭でも上映されたダニエル・モンソンの『第211号監房』が1週間統計で20万人、トップを走り続けていたアメナバルのAgora(公開邦題『アレクサンドリア』)を押さえての快挙と報じられましたが、それを超えています。

B: 多分、大方の観客はこの時代の空気を吸っていた人々でしょう。

 

A: 出演者も同様で、リカルド・ダリン、ギジェルモ・フランセージャ、マリアノ・アルヘント、マリオ・アラルコン(フォルトゥナ判事)などが1950年代生れ。一回り下がソレダ・ビジャミル、パブロ・ラゴ、ゴメス役のハビエル・ゴディノはスペイン人だから除外するとして、カンパネラ監督自身は1959年生れです。ただし原作者のエドゥアルド・サチェリは1967年生れ、2005年の出版ですから執筆は40歳前となります。

B: 意外に若い、サチェリについては後で触れるとして、犯罪者が大手を振って自由に町を闊歩し、無実の人は刑務所に収監されていたと言われる時代を知っている人々が行列したということです。

 

A: 見ても幸せになれない人まで見に来てくれたし、なかには「こんな映画は成功しない」と忠告する人もいたと監督は語っています。映画の成功は、咽喉に刺さった小さなトゲを抜く時が、やっとアルゼンチンにも訪れたということかもしれません。脆弱ながら民主化されて約20年、長くかかりました。

B: 「あれは私のことだ」と、登場人物の誰かれに重ね合わせて見た観客も多かった。映画が自分の現実にあまりに近くて、区別するのに時間がかかったという人も。

A: 小説を読んで映画化されるのを待っていた、反対に映画を見て小説を手に取ったという人も。また「小説のほうがずっと面白い」と言う人、さまざまです。サンセバスティアン映画祭では金貝賞こそ逃しましたが、観客、審査員ともに好評でした。細かいことを言えば不満は多々ありますが。

B: 不要なフラッシュバックとか、サッカー場の雑踏に張り込むとか、刑事たちが犯人の顔を知らないで張り込むとか、ちょっとあり得ない。

 

    撮影技術のレベルの高さ

 

A: 撮影技術のレベルの高さ、特にサッカー場の特撮を担当したロドリーゴ・トマッソについては賞讃の言葉が多い。

B: お金と時間をかけただけのことがあった。映画を映画館で見る醍醐味ですね。アルゼンチンでは初めての試みだったようです。

A: カンパネラは新しいことが大好き人間です。あのシーンを見ると、アルゼンチン人がサッカーに寄せるパッションとか国民性まで分かります。

B: バルでのサンドバルとサッカー狂との丁々発止は、ここに辿りつくまでの前段として挿入されていた。 

                                      (逮捕劇が繰りひろげられたサッカー場のシーン)

 

A: 原作者エドゥアルド・サチェリは前述したように1967年生れ。第1作は“Esperandolo a Tito y otros cuentos de futbol(2000)というサッカーをめぐる物語のようです。ディエゴ・マラドーナに捧げられた短編(‘Me van a tener que disculpar’)が含まれているようです。歴史学を専攻し、現に大学や高校で歴史を教えています。

B: 70年代にはホンの子供だったのに詳しいのは専門家だからなんだ。

A: 小説では1968年から76年の事件と前述しました。現在は同じようなので映画が25年前に対して原作は30年前となるようです。ベンハミンの名字も‘Chaparro(上背が低い、ずんぐりした人の意味)で、終わり方も違うようです。

B: 映画の‘Esposito’も<捨て子>で、どっちにしろ実際にある名字でしょうか。

 


A: サチェリは脚本を監督と共同執筆していますが、ほんとに骨の折れる難しい仕事だったと述懐しています。カンパネラが1年もかけて推敲に推敲を重ねたこと、互いに議論をした結果、彼の視点を通したことで、登場人物の人格もより深く複雑になったとも語っています。

B: 映画の成功で単行本も増刷され、相乗効果があった。

A: 想像以上のサプライズだったとか。サチェリは監督とは対照的に物静かでちょっとはにかみ屋さん。人生の先輩者としての礼節という面もあるのか、共同作業で学んだことは数限りないと感謝の言葉を口にしています。

 

B: カンパネラ監督の撮影現場は、「まさにお祭り騒ぎの賑やかさ」と、リカルド・ダリンがエル・パイスの記者に語っています。

A: サンセバスティアン映画祭2009に来西した時の記事、「大声で叫んだり、泣き落しにかかったりしたあげく、役者たちを魅了してしまう」、彼の映画を見れば納得です。

B: 2009年はフェルナンド・トゥルエバ監督の『泥棒と踊り子』も上映されましたから、ダリンにとっては嬉しい年になりました。「スペイン映画祭2009」でも両方上映され、ダリン・ファンにとっても嬉しい年でした。

A: トゥルエバ監督は「静の人」だから、ダリンも面食らったのでは()。監督は、モラレス夫婦が『三ばか大将』を見ながらお昼を食べるというセリフを何気なく挿入してアメリカ映画への目配せをしたり、誤認逮捕したボリビア人の職人を拷問して自白を強要したり、「大統領は宣伝家」とペロニスタを揶揄している。拷問、暗殺は過去のことになったとはいえ、軍事独裁を許した責任の一端は国民にもあったと言いたげです。


イサベル・コイシェの新作はサイコ・スリラー”Another Me”2014年07月27日 17:38

★最近「ミス・ワサビ」ことイサベル・コイシェの話題が聞こえないなぁと思っていたら、ホラー映画Another Me2013、英≂西)が、スペイン題Mi otro yo627日公開されました。残念ながら言語は英語です。6月末のことだから、もうニュースじゃないか。その後、立て続けに新作がアナウンスされています。コイシェも1960年生れだから人生の折り返し点に差しかかってきた。

    

                        

            (ソフィー・ターナー、Another Meから

 

★イマイチだった『エレジー』(2008)に続いて『ナイト・トーキョー・デイ』(2009)ではガックリしてしまったのですが、新作は面白そうです。『ナイト・トーキョー・デイ』以来、ガルソン判事のドキュメンタリー、ドラマではAyer no termina nuncaYesterday Never Ends)が「ベルリン映画祭2013」のコンペに出品され、「マラガ映画祭2013」でもエントリーされた。コイシェが銀のジャスミン監督賞、カンデラ・ペーニャが同女優賞、ジョルディ・アサテギが同撮影監督賞・編集賞のダブル受賞をしてマラガでは話題になりましたがヒットしなかった。わが子を失ったことで壊れてしまった夫婦が、5年後にバルセロナで再会するという地味な内容というか、デジャヴュのせいか、経済危機のせいか歓迎されなかったようです。夫婦を演じたのがペーニャとハビエル・カマラと申し分なかったのですが。

 

★さて、前作とがらりとスタイルを変えて登場したAnother Meは、例年11月開催の「ローマ映画祭2013」でプレミアされた。主にイギリスの俳優を起用(言語が英語ですから)、撮影もウェールズの首都カーディフで行われた。オリジナル・タイトルはPanda eyesでしたがAnother Meに改題された。いわゆるドッペルゲンガーもの(英語だとダブルといってる、要するに「もう一人の自分を幻視する」こと)。ホラーというよりコイシェ風に味付けされたサイコ・スリラーの印象です。思えば彼女のデビュー作Demasiado viejo para morir joven1989)はスリラーでした。「コイシェ、激しい妄想に取りつかれるサイコ・スリラーに初めて挑戦」と書かれていますが、「再び」が正しそうです。ホラー大好き日本、既にどこかが配給権取ってるのかな。

 

Another MeMi otro yo

製作Rainy Day Films /  Tornasol Films

監督・脚本:イサベル・コイシェ

原作:キャサリン・マクフェイルの同名小説Another Me

撮影:ジャン≂クロード・ラリュー

音楽:マイケル・プライス


データ:英≂西合作 言語:英語 2013 ミステリー 撮影地:ウェールズのカーディフ 86

 

キャスト:ソフィー・ターナー(フェイ)/ジョナサン・リース・マイヤーズ(教師ジョン)/クレア・フォラーニ(フェイの母アン)/リス・エヴァンス(フェイの父ドン)/グレッグ・Sulkin(ドリュー)/ジュラルディン・チャップリン(ブレナン夫人)/イバナ・バケロ(Kaylie)/レオノール・ワトリング他

 

プロット:高校生フェイの人生は完璧のように思われたが、すべてが思いがけないやり方で少しずつ変わり始めていた。ある日のこと、フェイは何者かに付け狙われているような感覚を覚えた。それは彼女そっくりのもう一人の自分、次第にフェイの内面に入りこみ彼女を脅かすようになった。アイデンティティばかりでなく人生そのものが崩壊していくなかで、フェイの過去の秘密が明かされてゆく・・・

 

★日本のホラー映画『リング』(1998)にインスパイアーされたと言われていますが、監督自身によると「リングはそんなに怖くなかったの。より大きい影響を受けた映画は、スウェーデンのヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが2004年に発表したサスペンス小説“Let the Right One in”を映画化したもの」という。いわゆるヴァンパイア映画でスウェーデンのトーマス・アルフレッドソンが監督した。シッチェス映画祭2008で上映され、日本では『ぼくのエリ200歳の少女』の邦題で2010年公開ヒットした。2010年に英語版をマット・リーヴスが舞台をニューメキシコに移してLet Me inとして リメイクした。こちらも『モールス』の邦題で2011年公開された。スペインではどちらのタイトルもDéjame entrarで、題名からだけではどちらを指すか分からない(困ったもんだ)。

 

★以前から自分の好みとは無関係のジャンルで撮りたいと模索していた。若者の世界に引きつけられていて、たまたまそういう時、テレビで故ロバート・マリガンの“The Other1972、スペイン題El otro)を見た。とても怖かったと語っています。日本では『悪を呼ぶ少年』の邦題で公開、じわじわと恐怖が湧きおこるスリラー映画の佳作。マリガン監督はサマセット・モームの『月と六ペンス』を映画化したり、ゲイリー・クーパーを主役にした『アラバマ物語』などでオールド・ファンには懐かしい。

 

★今までの個人的な好みが強く、デリケートで、少しもったいぶったカルト的映画とは違った本作は、広い層に受け入れられているようです。あるコラムニストは、荘子の説話「胡蝶の夢」に言及している。荘子が胡蝶が飛んでいる夢を見て目覚めたが、「果たして自分が夢を見て蝶になったのか、あるいは蝶が夢を見て自分になったのか」と自問する説話です。自分をフェイ、胡蝶を分身に置き換えると分かりやすい。分身がフェイの内面に入りこんできてしまう。

 

★監督はアルゼンチンの作家フリオ・コルタサルの『コーラ看護婦』に触発されて、『あなたになら言える秘密のこと』を撮ったというほどのコルタサル・ファンです。彼の分身ものとは少し違いますが、ドッペルゲンガー、鏡、悪夢、写真、空想と共通項が多い。過去に戻ろうとしても一回りしてくると現実に戻ってくる。メビウスの帯のように無限に繰り返され、逃げ口は閉ざされている。逃げても追いかけてくる怖い話です。 

                                                                                   

                                    (右側がジュラルディン・チャップリン)

★主役のソフィー・ターナーは、人気テレドラ・シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のサンサ役でお馴染みですね。1996年生れの17歳と演技は未知数ですが、コイシェによれば、「ワルキューレのようにエネルギーに溢れ、それでいてよく秩序を守り、純粋よ」と高評価、「リス・エヴァンスは雰囲気作りが上手くセット以外でもお父さんのようだった」。他にコイシェがすべてのジャンルを網羅できると信頼しているのがジュラルディン・チャップリン、「そのインテリジェンスとエネルギーには脱帽」とぞっこん。次回作にも出演の予定。友人でカメオ出演しているのがレオノール・ワトリング、「もっと重要な役をやりたかったのに」と監督に文句言ってたらしいけど、「いずれ彼女を主役に撮るつもりだ」とコイシェ。ジュリエット・ビノシェを主役にしたNobody Wants the Night2015予定)の後になるようだ。デル・トロの『パンズ・ラビリンス』(2006)の美少女イバナ・バケロも大人になって出演しています。

『ゲーム・オブ・スローンズ』については、10,000 KMの主演女優ナタリア・テナのところで触れています(411⇒コチラ)。

 

    

(監督が手を焼いた、ジョナサン・リース・マイヤーズ)

 

★反対に二度と仕事をしたくないのがジョナサン・リース・マイヤーズ、「勿論イケメンよ、しかし秩序は乱すし、悩みの種だった。可能性を秘めてるけど、コミュニケートするのが難しかった。忍耐に忍耐を重ねて完成させたの。今までこんな経験したことなかった」と不満を吐露した。はっきりものを言うコイシェだが、自作に起用したばかりの俳優について、しかも公開インタビューの席での発言にしては珍しい。ウディ・アレンの『マッチポイント』(2005)の冷酷な殺人犯役が記憶にありますが、扱いにくかったようです。ローマ映画祭にも現れませんでしたね、お互い顔を合わせたくなかったのでしょう。

 

                                       

                   (左から、ワトリング、グレッグ、監督、ソフィー、
                                        クレア・フォラーニか。ローマ映画祭にて)

 

世界を駆け巡るミス・ワサビ

★次回作はLearning to drive、『エレジー』に出演したベン・キングズレーがパトリシア・クラークソンとタッグを組んで、ニューヨークでの撮影も昨年終了した。今年中に完成の予定。クラークソンは『アンタッチャブル』でデビュー、『エデンより彼方に』などが代表作。サラ・ケルノチャンの同名エッセイの映画化。やはり言語は英語です。ケルノチャンはロバート・ゼメキスが監督した『ホワット・ライズ・ビニース』(2000)の原作者、ハリソン・フォードとミシェル・ファイファーが主演したサスペンス・スリラーでした。

 

★現在は先述のNobody Wants the NightNadie quiere la noche)がカナリア諸島で進行中、ジュリエット・ビノシェ、ガブリエル・バーン、『ナイト・トーキョー・デイ』の菊池凛子、脚本はミゲル・バロスと国際色豊か。バロスはマテオ・ヒルが監督した『ブラックソーン』(2011)の脚本家、伝説の無法者ブッチ・キャシディの伝記映画。コイシェは「脚本は何回も満足いくまで書き直す、これも4年前から温めていたプロジェクトです。3年前にアビニョン演劇祭でビノシェに会い、出演が決まった」という。こちらも英語です。

 

★いつも上手くいくとは限らない、例えばロベルト・サビアーノの小説の映画化を企画してイタリア語を勉強していたが実現に至らなかったそうです。サビアーノはベストセラー小説『死都ゴモラ』の著者、2008年に映画化された『ゴモラ』もヒット、ナポリのマフィア組織を糾弾したことで脅迫を受けていた。