『ファイアー・ウィル・カム』*ラテンビート2019 ⑤ ― 2019年10月23日 15:46
悪人と蔑まれている人間を救済するための許しと家族愛の物語

(オリジナル版ガリシア語ポスター「O que arde」)
★カンヌ映画祭2019「ある視点」で審査員賞を受賞、以来カルロヴィ・ヴァリ、エルサレム、ポーランドのニュー・ホライズンズ、サラエボ、トロント、サンセバスティアン、テッサロニキ、モスクワ、チューリッヒ、ニューヨーク、釜山、ロンドン、シカゴ、などの各映画祭をめぐって、東京&ラテンビートへやってきました。秋の映画祭上映を期待して、かなり詳しい記事をアップしてきた甲斐がありました。タイトルもガリシア語、スペイン語「Lo que arde」、フランス語、英語と、その都度二転三転しながら紹介してきましたが、英語タイトル『ファイアー・ウィル・カム』に落ち着きました。しかし監督名Oliver Laxe のカタカナ表記がオリヴァー・ラクセ(パリ1982)はどうでしょうか(当ブログではオリベル・ラセまたはオリベル・ラシェで紹介)。苗字のLaxe(西語Lage)はルゴ出身の母親の姓で、ガリシア語ではラシェ、パリ生れですが5~6歳ごろに母親の故郷に戻っているガジューゴです。
*ガリシア語題「O que arde」で作品紹介、コチラ⇒2019年04月28日/05月29日

(監督、アマドール・アリアス、ベネディクタ・サンチェス、カンヌFF 2019にて)
★フランスの9月公開に続いて、スペインでも10月11日に公開された。各紙のコラムニストからは「これはいったい我々は何を見てるんだ、あんぐり口を開けたまま、鳥肌が立ち、心臓がバクバクした」と、その映像の力に驚いたコメントが寄せられている他、監督インタビュー記事も掲載された。「私と仲間は、既にロシア、イスラエル、トロント、サンセバスティアンなどで上映してきました。既にフランスでは公開され、スペインでも好意的な反応が得られた作品だと思います。それは本作がスペインで撮影した最初の映画ということ、前の2作にあった複雑さ、多義性、曖昧さを回避してバランスをとり、より多くの人々に開かれたものとしたからです。観客の心に残る長続きするエモーショナルな映画を心掛けてきましたが、現在ではよりクラシカルな物語性を付け加えました。それで正解でした」と語った。

(放火犯アマドール、映画から)
★ロシアのガレージ・ミュージアム・モスクワで特別上映したとき、観客は祖母について語り、カナダのトロントFFではパン切りについて語った。それぞれ観客は映画の中に何かを捕まえることができた。それは知識人が持っていない何かです。監督は軌道修正したことが正しかったと確信したようです。放火魔アマドールが告白した愛は、出所した後に故郷に戻って老いた母親と一緒に暮らすことだった。「私たちのうち何人が85歳になる母親の世話に戻るでしょうか、少ないです」と監督。これは前にも書いたように「辛口のメロドラマ」なのでしょう。

(撮影中のアマドール・アリアス、ベネディクタ・サンチェス、監督)
山火事のシーンはオーレンセで実際に起きた山火事のドキュメンタリー
★予告編からも山火事のシーンは鳥肌が立ちますが、これは2017年ガリシア州の中央部に位置する県都オーレンセ(西語オレンセ)で実際に起きた山火事を、本作のためにドキュメンタリーとして撮影したということです。撮影は15日間に及んだ。気候温暖化のせいもあって、スペインに止まらずポルトガル、米国、世界各地で規模の大きい山火事が起きている。

(撮影班を組んで15日間にわたって撮影したオーレンセの山火事)
★およそ2メートルという長身の監督の人生も変わりました。ルゴに戻り、コミュニティと協力して教育や演劇のプロジェクトを立ち上げている。次の脚本、モロッコである祭りを探している人々を主人公にしたロードムービーを構想中だそうです。『イージーライダー』や『マッドマックス』の中間だそうで、今度はプロの俳優を起用する由、ハイカルチャーとポピュラー・カルチャーのカクテルのような映画が好きだし、「傷ついた」人に心が動かされるとも語っている。

(撮影中の監督と主役のアマドール・アリアス)
★東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映2回。ラテンビート未定。
『猿』がロンドン映画祭で作品賞受賞*ラテンビート2019 ④ ― 2019年10月17日 13:52
アレハンドロ・ランデスの『猿』がロンドン映画祭で作品賞受賞

★例年10月に開催される英国最大規模の映画祭、第63回BFIロンドン映画祭2019(10月2日~13日)が閉幕、オフィシャル・コンペティション部門にノミネートされていたコロンビアのアレハンドロ・ランデスの『猿』(「Monos」)が最優秀作品賞を受賞しました(今年は3作品が受賞)。昨年はクリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラの『夏の鳥』が特別推薦賞(スペシャル・コメンデーション)を受賞しているから、冗談ですがコロンビアは相性がいいのかもしれない。今年は審査委員長が英国のテレビ、ドキュメンタリーや独立系の映画監督ウオッシュ・ウェストモアランドだったので、ランデス監督は秘かに期待してガラまで待機していたのではないか。20年来のパートナーだった故リチャード・グラッツァー(ALSで死去)と共同監督した『アリスのままで』は忘れられない作品でした。


(インタビューを受けるアレハンドロ・ランデス監督、BFIロンドン映画祭にて)
★サンセバスチャン映画祭(ホライズンズ・ラティノ部門)では、個人的に期待していたのですが残念賞でした。ロンドンで受賞できたのはラテンビートにとって嬉しいニュースになりました。年初のサンダンス映画祭以来、ベルリンFFパノラマ部門、カルタヘナFFと、世界の映画祭巡りをしてきたわけで、終盤での受賞は待った甲斐がありました。

『列車旅行のすすめ』*ラテンビート2019 ③ ― 2019年10月14日 16:49
アリッツ・モレノのデビュー作『列車旅行のすすめ』はサイコ・スリラー

★今年のラテンビートLBFFは東京国際映画祭TIFF(10月28日~11月5日)との共催上映が3作あるようです。TIFFワールド・フォーカス部門に、アレハンドロ・アメナバルの『戦争のさなかで』とオリヴァー・ラクセの『ファイアー・ウィル・カム』の2作、コンペティション部門にはアリッツ・モレノのデビュー作『列車旅行のすすめ』が入っています(LBFFでは共催作品としていないが、とにかく両方で上映される)。TIFFでは他にハイロ・ブスタマンテの『ラ・ヨローナ伝説』(サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」のコンペ外作品)もエントリーされている。LBFFはまだ全作が発表になっておらず途中経過です。
★さて、『列車旅行のすすめ』はジャンル分けが不可能な映画、一応サイコ・スリラーとしましたが、ブラックコメディでもあり、ホラーの要素もあり、一風変わったラブロマンスも絡まって、まるでロシアの民芸品マトリョーシカ人形のように入れ子になっています。アントニオ・オレフド・ウトリジャOrejudo Utrilla(マドリード1963)のベストセラー小説 ”Ventajas de viajar en tren”(2000年刊)の映画化、アンダルシア小説賞を受賞、ハードカバーの他、ソフトカバー、Kindleキンドルでも読めます。160ページほどの中編、翻訳書は出てないようです。映画は閉幕したばかりのシッチェス(・カタルーニャ)映画祭2019でプレミアされました(10月5日)。

(作家、文芸評論家、大学教授のアントニオ・オレフド・ウトリジャ)

(”Ventajas de viajar en tren” 2015年刊のソフトカバー)
『列車旅行のすすめ』「Ventajas de viajar en tren」
製作:Morena Films / Logical Pictures / Consejería de Cultura Gobierno Vasco /
Movister+/ EITB 他
監督:アリッツ・モレノ
脚本:ハビエル・グジョンGullón (原作)アントニオ・オレフド・ウトリジャ
撮影:ハビエル・アギーレ・エラウソ
音楽:クリストバル・タピア・デ・ベール
編集:ラウル・ロペス
プロダクション・デザイン:ミケル・セラーノ
衣装デザイン:ヴィルジニー・アルバ
メイクアップ&ヘアー:セシリア・エスコ、カルメレ・ソレル、ルベン・サモス(メイク)、オルガ・クルス、(ヘアー)、他
プロダクション・マネージメント:イツィアル・オチョア、ペドロ・サンス、他
録音:アラスネ・アメストイAlazne Ameztoy、イニャーキ・ディエス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、ジョン・セラーノ
視覚効果:セリーヌ・ゴリオCeline Goriot
製作者:レイレ・アペジャニス、メリー・コロメル、フアン・ゴードン、他
データ:製作国スペイン=フランス、スペイン語、2019年、サイコ・スリラー、103分、撮影2018年秋クランイン、公開スペイン11月8日、ロシア2020年1月9日、配給Filmax
映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2019コンペティション部門、ラテンビートFF上映、東京国際映画祭コンペティション部門出品
キャスト:ルイス・トサール(マルティン・ウラレス・デ・ウベダ)、ピラール・カストロ(編集者エルガ・パト)、エルネスト・アルテリオ(精神科医アンヘル・サナグスティン)、ベレン・クエスタ(アメリア・ウラレス・デ・ウベダ)、キム・グティエレス(エミリオ)、マカレナ・ガルシア(ロサ)、ハビエル・ボテット(ガラテ)、アルベルト・サン・フアン(W)、ハビエル・ゴディノ(クリストバル・デ・ラ・ホス)、ジルベール・メルキ(レアンドロ・カブレラ)、ラモン・バレラ(マルティンの父親)、ステファニー・マグニン・ベリャ(ドクター・リナレス)、イニィゴ・アランブル(兵士)、他

(4人の主演者、アルテリオ、カストロ、クエスタ、トサール)
ストーリー:編集者エルガ・パトは、心を病んでいる夫をスペイン北部の精神科クリニックに入院させ、列車でマドリードへ戻る途中だった。アンヘル・サナグスティンと名乗る見知らぬ乗客、人格障害を分析するという精神科医と同じ車両に偶然隣り合わせた。膝の上に赤表紙の紙ばさみを載せた精神科医は、自分が扱った特異な患者の症例、ゴミに執着する非常に危険なパラノイア患者の例を饒舌に語った。アンヘルとの偶然の出会いが、エルガの人生を、いや登場人物全員の人生を取り返しのつかないものにしていく。強迫観念、妄想、倒錯、精神錯乱、凝り性などが何層にも重なり合う一連の予測不可能なプロット、不気味な話を聞けるのが「列車で旅する利点の一つ」、お薦めする次第です。

(精神分析医アンヘル・サナグスティンの話を怪しむエルガ・パト)

(饒舌男アンヘル・サナグスティン医師)
★本作にはいわゆるフツウの人間は登場しない。精神科医が語る患者はフラッシュバックで挿入され、症例も多いから場面展開が目まぐるしいということです。下のポスターからはホラーがイメージされ、予告編では、可笑しな登場人物からブラックコメディが連想できる。エルネスト・アルテリオ演ずるアンヘルは、エルガが夫を入院させたクリニックの医師らしく偶然を装っていたようだ。小説だとピラール・カストロ演ずるエルガが軸になっているようだが、映画ではコソボ戦争に従軍して左腕を失って帰還したパラノイア患者マルティンを怪演するルイス・トサールのようだ。彼のこんなヘアー・スタイルは見たことがない。その妹になるのが演技に磨きのかかったベレン・クエスタ、父親がバスク映画の重鎮ラモン・バレラ、役柄が分からない、アルベルト・サン・フアン、マカレナ・ガルシア、キム・グティエレスなど何かの作品で既にご紹介しています。ホラー映画で活躍するハビエル・ボテット、フランスからはジルベール・メルキが出演している。

(上段左から、ルイス・トサール、ピラール・カストロ、エルネスト・アルテリオ
下段左から、ベレン・クエスタ、キム・グティエレス、マカレナ・ガルシア)

(ゴミの山に思案するアンヘル・サナグスティン医師)

(マカレナ・ガルシアとハビエル・ボテット)

(役回りが目下分からないアルベルト・サン・フアン)
★監督アリッツ・モレノ(TIFFアリツ)Aritz Morenoは、1980年サンセバスティアン生れ、監督、脚本家、編集者、製作者、カメラと何でもこなす39歳。2004年、短編デビュー作「Portal mortal」(9分)が、アルメリア・ショートFFでビデオ賞を受賞、2009年ファンタジー「Cotton Candy」(11分)、2010年「¿Por que te vas ?」(8分)、犯罪スリラー「Cólera / Cholera」(7分)がシッチェスFF 2003短編ファンタジック部門に正式出品、MADホラー・フェスでは審査員賞を受賞、ルイス・トサールが主演している。長編デビュー作「Ventajas de viajar en tren」は、2回目のシッチェスFF出品作となった。

(アリッツ・モレノ監督)

(左から、マカレナ・ガルシア、ルイス・トサール、アリッツ・モレノ監督、
エルネスト・アルテリオ、ベレン・クエスタ、シッチェスFF 2019フォトコール)
★モレノ監督談によると「こういうお気に入りの小説を映画化することが夢だった。映画の絶対的な狂気、独創的な脚本を得て、テクニック面でも素晴らしいクルー、自分のデビュー作にこれ以上はないと考えるキャスト陣にも恵まれ、自分の夢を叶えることが出来た」と語った。キャスト陣を一瞥すれば、あながち大袈裟とは言えない。脚本のハビエル・グジョンは、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー・ミッション』(12)を共同執筆している。撮影監督のハビエル・アギーレ・エラウソは、「Cólera / Cholera」を手掛けている。

(ルイス・トサールと監督)

ブラジル映画 『ファヴェーラの娘』 *ラテンビート2019 ② ― 2019年10月12日 10:44
今年の「金貝賞」受賞作品「Pacificado」がラテンビートでの上映決定!

★パクストン・ウィンターズの「Pacificado」は、サンセバスチャン映画祭SSIFF 2019「セクション・オフィシアル」にノミネートされ、なんと金貝賞を受賞してしまった。言語がポルトガル語ということで当ブログでは授賞式までノーチェックでしたが、まさかの金貝賞受賞、審査委員長がニール・ジョーダンだったことを忘れていました。さらに『ファヴェーラの娘』の邦題でラテンビートLBFFで、まさかの上映となれば割愛するわけにはいきません。監督Paxton Wintersの日本語表記にはウィンタース(ズ)の両用があり、当ブログでの表記はパックストン・ウィンタースを採用しておりましたが、これからはLBFFに揃えることにしました。

(左端がダーレン・アロノフスキー、SSIFFのフォトコール)
★昨年のLBFFでは、サッカーやサンバの出てこないホームドラマ、グスタボ・ピッツィの『ベンジーニョ』が好評でした。今年はファヴェーラというリオのスラム街を舞台に、リオデジャネイロ・オリンピック後のファヴェーラに暮らす或る家族、刑期満了で出所したばかりの元リーダーの父親ジャカと内向的な娘タチを軸に物語は進行します。撮影には巨大ファヴェーラMorro dos Prazeres(モッホ・ドス・プラゼーレス)の住民が協力した。というわけで監督は、ガラ壇上から早速「モッホ・ドス・プラゼーレス」の住民に授賞式の映像を送信して共に喜びあっていた(フォト下)。まだ正式のポスターも入手できておりませんが、一応データを整理しておきます。LBFF公式サイトでストーリーが紹介されております。

(携帯でモッホ・ドス・プラゼーレスの住民と接続して、金貝賞受賞を一緒に喜ぶ
パクストン・ウィンターズ監督、2019年9月28日SSIFFガラにて)
『ファヴェーラの娘』(「Pacificado / Pacified」)ブラジル=米国合作 2019年
製作:Reagent Media / Protozoa Pictures / Kinomad Productions / Muskat Filmed Properties
監督:パクストン・ウィンターズ
脚本:パクストン・ウィンターズ、Wellington Magalhaes、Joseph Carter Wilson
撮影:ラウラ・メリアンス
音楽:ベト・ビリャレス、コル・アンダーソン、ミリアム・ビデルマン
編集:アイリン・ティネル、アフォンソ・ゴンサルヴェス
プロダクション・マネージメント:ティム・マイア
プロダクション・デザイン:リカルド・ヴァン・ステン
録音:ヴィトール・モラエス、デボラ・モルビ、他
製作者:ダーレン・アロノフスキー(Protozoa Pictures)、パウラ・リナレス&マルコス・テレキア(Reagent Media)、リサ・ムスカ(Muskat Filmed Properties)、パクストン・ウィンターズ(Kinomad Productions)、他エグゼクティブ・プロデューサーは割愛
データ:製作国ブラジル=米国、ポルトガル語、2019年、ドラマ、120分、撮影地リオデジャネイロの巨大ファヴェーラ「モッホ・ドス・プラゼーレス」、配給元20世紀FOX
映画祭・受賞歴:第67回サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアル部門、金貝賞(作品賞)、男優賞(ブカッサ・カベンジェレ)、撮影賞(ラウラ・メリアンス)
キャスト:カシア・ナシメント(タチ)、ブカッサ・カベンジェレ(父ジャカ)、デボラ・ナシメント(母アンドレア)、レア・ガルシア(ドナ・プレタ)、Rayane Santos(レティシア)、ホセ・ロレト(ネルソン)、他ファヴェーラの住民多数
ストーリー:13歳になるタチは内向的な少女でリオのファヴェーラに母親と暮らしている。離れて暮らす父親ジャカをよく知らない。しかし騒然としていたリオデジャネイロ・オリンピックが終わると、父親ジャカが刑期を終え14年ぶりに戻ってくるという。一方、ブラジルの警察は貧しい住民が占拠しているファヴェーラ間の平和維持に日夜苦慮していた。ジャカは暴力がらみの犯罪から足を洗い<平和な>男として生きることを決心していたが、ファヴェーラの住民は彼が再びリーダーになることを期待していた。ジャカとタチは、将来の希望を危うくするような対決への道を選ばざるを得なくなるだろう。
テキサス生れの監督パクストン・ウィンターズとブラジルの関係は?
★パクストン・ウィンターズ(テキサス1972)は、アメリカの監督、脚本家、製作者。俳優としてジャッキー・チェンが活躍する香港映画、テディ・チャンの『アクシデンタル・スパイ』(01)に出演しているという異色の監督。ドキュメンタリー「Silk Road ala Turka」は、3人のトルコのカメラマンと中国陝西省の省都西安を出発、キリギス、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン、トルコのイスタンブールまでの「絹の道」を辿る旅を撮った。ラクダのキャラバン隊を組み18ヵ月間かけたロードムービー。

(ドキュメンタリー「Silk Road ala Turka」から)
★2003年、長編映画のデビュー作「Crude」は、ロスアンゼルスFF 2003ドラマティック作品賞、シアトルFFニューアメリカン・シネマ賞を受賞、トリノFFではトリノ市賞にノミネートされた。イラクをめぐる物語「Outside the Wire」は、サンダンスのスクリーンライターズ・ラボで執筆された。またトルコのTVシリーズ「Alacakaranlik(Twilight)」(03~05)も手掛けている。トルコで外国人監督がTVシリーズを手掛けた最初の監督だった。トルコに18年間住んでいた後、ブラジルのリオに移動した。最初数か月の滞在の予定だったが、ファヴェーラのコミュニティに魅せられ、気がついたら7年経っていた。そうして完成したのが『ファヴェーラの娘』だった。「映画のアイディアは3つ、私の役割は、耳を傾けること、観察すること、質問することでした」とSSIFF上映後のプレス会見で語っていた。製作にはダーレン・アロノフスキーとの出会いが大きかった。

(デビュー作「Crude」撮影中のウィンターズ監督)
★総勢10人以上で現地入りしていたクルーは、プレス会見では監督以上に製作者の一人ダーレン・アロノフスキーに必然的に質問が集中した。アロノフスキーによると、『レクイエム・フォー・ドリーム』を出品したイスタンブール映画祭2000でパクストン・ウィンターズと偶然出会って以来の友人関係、当時ウィンターズはジャーナリストとシネアストの二足の草鞋を履いており、CNNやBBCのようなテレビ局の仕事を中東やブラジルで展開していた。Q&Aは英語、ポルトガル語、スペイン語で進行した。既にアメリカ映画に出演し、本作では一番認知度の高い出演者デボラ・ナシメント(サンパウロ1985)は英語も堪能だし、華のある女優なので会場からの質問も多く英語で対応していた。

(パクストン・ウィンターズ、SSIFFプレス会見)
★ジャカ役のブカッサ・カベンジェレBukassa Kabengele(ベルギー1973)は、コンゴ系ブラジル人の歌手で俳優。日本では歌手のほうが有名かもしれない。ベルギー生れなのは、ベルギーがコンゴ共和国独立前の宗主国の一つだったからのようで、父親のカベンジェレ・ムナンガはサンパウロ大学の人類学教授である。SSIFFでは見事最優秀男優賞(銀貝賞)を受賞した。既に帰国してガラには欠席しており、トロフィーは妻を演じたデボラ・ナシメントが受け取った。映画デビューは2001年、アンドレ・ストゥルムの「Sonhos Tropicais」、エクトル・バベンコの『カランジル』(03)、他にTVシリーズの歴史ドラマ「Liberdade, Liberdade」(16、12話)や「Os Dias Eram Assim」(17、53話)に出演している。

(ブカッサ・カベンジェレ)

(最優秀男優賞のトロフィーを受け取るデボラ・ナシメント)
★オーディションで監督の目に留まり、娘タチ役を射止めたカシア・ナシメントCassia Mascimentoをカシア・ジルと紹介しておりました。記事によって2通りあり迷いましたが、IMDbとサンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル公式サイトの後者を採用しました。しかし今回アップするにつき、SSIFF上映後のプレス会見(9月24日)で確認したところ前者だったのです。公式サイトも当てにならないということです。ファヴェーラ出身のスター誕生です。管理人はポルトガル語の発音が正確ではないが、カッシア・ナスィメントゥかもしれない。同姓のデボラ・ナシメントの本邦での表記がナシメントなので揃えることにいたしました。ドナ・プレタ(リオデジャネイロ1933)を演じたレア・ガルシアは86歳、フランスのマルセル・カミュの『黒いオルフェ』(59)でデビュー、セラフィナを演じた女優が現役なのには真底驚きました。今作はカンヌFFのパルム・ドール受賞、アカデミー外国語映画賞を受賞したことで公開された。

(左から、家族を演じたブカッサ・カベンジェレ、カシア・ナシメント、
デボラ・ナシメント、上映前のフォトコール9月24日)
★本作は4つの制作会社が担当しました(上記)。ダーレン・アロノフスキー以外はガラまで受賞を期待して残っておりました。というわけで登壇したのは、パウラ・リナレス、マルコス・テレキア、リサ・ムスカ、パクストン・ウィンターズの4人でした。マルコス・テレキアは『リオ、アイラブユー』(14)の製作者の一人、ブラジル映画祭2015で上映され、後WOWOWで放映された。ほかラウラ・メリアンスが最優秀撮影賞(銀賞)を受賞した。

(左から、ウィンターズ監督、パウラ・リナレス、マルコス・テレキア、リサ・ムスカ)

第16回ラテンビート映画祭2019上映作品発表 ① ― 2019年10月06日 17:57
いよいよ秋恒例のラテンビート開幕――ご紹介作品も何作か目につきました

★今年は新宿・大阪・横浜に京都が加わりました。東京会場の新宿バルト9は11月7日~10日、11月15日~17日の2週末です。昨年に続いてブラジル映画の特集があるようです。なかに閉幕したばかりのサンセバスチャン映画祭2019の金貝賞(作品賞)受賞作品、パックストン・ウィンタースの「Pacificado」が邦題『ファヴェーラの娘』としてエントリーされました(LBFF表記:パクストン・ウィンターズ)。まだ9作と全体像は見えてきませんが、開幕まで1ヵ月に迫りましたからもう間もなくです。
*上映作品は以下の通り9作です(10月5日現在)。分かり次第追加いたします。
◎スペイン語(ガリシア語)映画
①『戦争のさなかで』 原題「Mientras dure la guerra」
監督:アレハンドロ・アメナバル
キャスト:カラ・エレハルデ、エドゥアルド・フェルナンデス
トレビア:スペイン内戦を背景に学者ミゲル・デ・ウナムノの最期の人生が語られる。サンセバスチャンFF 2019セクション・オフィシアル出品。
*作品紹介は、コチラ⇒2018年06月01日/2019年09月27日

②『8月のエバ』 同「La virgen de agosto」
監督:ホナス・トゥルエバ
キャスト:イチャソ・アラナ、ビト・サンス、イサベル・ストフェル、ミケレ・ウロス
トレビア:カルロヴィ・ヴァリFF 2019 国際映画批評家連盟賞賞・審査員スペシャル・メンション、トゥールーズ・シネエスパーニャFF 脚本賞・女優賞受賞。『再会』がNetflixでストリーミング配信された。
*作品紹介は、コチラ⇒2019年06月03日

③『ファイアー・ウィル・カム』 同「Lo que arde / Fire Will Come」
スペイン・フランス・ルクセンブルク合作、90分、バスク語
監督:オリベル・ラセ(LBFF表記:オリヴァー・ラクセ)
キャスト:アマドール・アリアス、ベネディクタ・サンチェス、イナシオ・アブラオ
トレビア:カンヌFF 2019「ある視点」審査員賞、サンセバスチャン映画祭ペルラス部門出品、東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映
*作品紹介は、コチラ⇒2019年04月28日/05月29日

④『蜘蛛』 同「Araña / Spider」2019、チリ・アルゼンチン・ブラジル合作
監督:アンドレス・ウッド
キャスト:メルセデス・モラン、マリア・バルベルデ、フェリペ・アルマス、
マルセロ・アロンソ
トレビア:LBFF上映『マチュカ』『サンティアゴの光』『ヴィオレータ、天国へ』のアンドレス・ウッドの新作、サンセバスチャンFF 2019ホライズンズ・ラティノ部門出品
*作品紹介は、コチラ⇒2019年08月16日

⑤『猿』 同「Monos」2019、コロンビア・アルゼンチン・オランダ・ドイツ他
監督:アレハンドロ・ランデス
キャスト:ジュリアンヌ・ニコルソン、モイセス・アリアス、ホルヘ・ラモン
トレビア:サンダンスFF 2019ワールド・シネマ・ドラマ部門審査員特別賞受賞、サンセバスチャンFF ホライズンズ・ラティノ部門出品、米アカデミー国際長編映画賞コロンビア代表作品、『コカレロ』がLBFFで上映されている。
*作品紹介は、コチラ⇒2019年08月21日

⑥『列車旅行のすすめ』 同「Ventajas de viajar en tren」2019、
スペイン・フランス合作、103分、スリラー
監督:アリッツ・モレノ
キャスト:ピラール・カストロ、ルイス・トサール、エルネスト・アルテリオ、
マカレナ・ガルシア、キム・グティエレス、ベレン・クエスタ
トレビア:シッチェス・カタルーニャFF 2019 出品、モレノ監督のデビュー作、スペイン映画でお馴染みのスターが出演するエンターテイメント。東京国際映画祭コンペティション部門でも上映されます。
*作品紹介は、コチラ⇒2019年10月14日

◎第2回ブラジル映画(ポルトガル語)
①『ファヴェーラの娘』 原題「Pacificado」
監督:パックストン・ウィンタース(LBFF表記:パクストン・ウィンターズ)
キャスト:ブカッサ・カベンジェレ、カシア・ジル、デボラ・ナスシメント
トレビア:サンセバスチャンFF 2019、金貝賞(作品賞)、男優賞、撮影賞受賞。
*作品紹介は、コチラ⇒2019年10月12日

②『見えざる人生』 同「A vida invisível de Euridice Gusmao」ドイツ合作、139分
監督:カリン・アイヌーズ(カリム・アイノーズ?)
キャスト:カロル・ドゥアルテ、ジュリア・ストックラー、フェルナンダ・モンテネグロ、クリスティナ・ペレイラ
トレビア:カンヌFF 2019「ある視点」作品賞受賞作品。米アカデミー国際長編映画賞ブラジル代表作品。

③『神の愛』 同「Divino Amor / Divine Love」2019、
ウルグアイ・デンマーク・チリ他合作、101分
監督:ガブリエル・マスカロ
キャスト:ジラ・パエス、ジュリオ・マシャード、テカ・ペレイラ
トレビア:サンダンスFF 2019ワールド・シネマ・ドラマ部門出品、ベルリンFFパノラマ部門出品、グアダラハラFF FEISAL賞、ワールド・シネマ・アムステルダム特別メンション、ダーバンFF監督賞受賞などの話題作。クラウディオ・アシスの『マンゴー・イエロー』やブレノ・シウヴェイラの『フランシスコの2人の息子』で7人の子供の母親になったジラ・パエスが登場する。

★残りは発表がありしだい順次追加いたします。次回はブラジル映画『ファヴェーラの娘』をアップします。
アメナバル新作の評判は上々*サンセバスチャン映画祭2019 ㉕ ― 2019年09月27日 16:54
心に響く語り口で二つに分断された1936年のスペインへ私たちを連れ戻す

★開幕2日目の9月21日、アレハンドロ・アメナバルの新作「Mientras dure la guerra」が上映されました。監督以下、主役ミゲル・デ・ウナムノのカラ・エレハルデ、フランコ陣営の陸軍将官ホセ・ミリャン・アストレイのエドゥアルド・フェルナンデス、フランコ将軍のサンティ・プレゴ、ナタリエ・ポサ、パトリシア・ロペス・アルナイスなどが赤絨毯を踏みました。上映後の評価は高く、心に響く語り口、ウナムノとアストレイとのサラマンカ大学講堂での歴史的な一騎打ち、常に思慮分別をもちながらも大胆で、私たちを驚かせ楽しませてくれるアメナバル映画が何かの賞に絡むのは間違いない。
*「Mientras dure la guerra」の紹介記事は、コチラ⇒2018年06月01日

(アレハンドロ・アメナバル、SSIFFのフォトコール、9月21日)

(左からナタリエ・ポサ、エドゥアルド・フェルナンデス、監督、カラ・エレハルデ、
カルロス・セラノ、パトリシア・ロペス・アナイス、サンティ・プレゴ)
★舞台はスペインの学術都市サラマンカ、時代はスペイン内戦勃発の1936年7月17日から、ミゲル・デ・ウナムノ(ビルバオ1964)が軟禁されていた自宅で失意の最期を迎える12月31日までに焦点が当てられている。なぜアメナバルがこのカオス状態だった暗い時代を選んだのか、矛盾に満ち、辛辣で疑い深く、誠実で正直な、知の巨人の晩年に惹きつけられたのか、興味は尽きない。秋の映画祭を期待したい。

(左から、エドゥアルド・フェルナンデス、カラ・エレハルデ、監督、他)
★エル・パイスのコラムニストとして辛口批評で有名なカルロス・ボジェロによると、アメナバルの構想には、スペインが二つに分断された20世紀最大の「悲劇に誇張や善悪の二元論を持ち込まなかった。感動も強制しない。アメナバルが見せる節度は非常に考え抜かれている。フラッシュバックや夢が多用されており、なかには不必要と思われるケースもあったが」と述べている。更にウナムノのロマンスについては、哀惜を込めた描き方が平凡でお気に召さなかったようだ。観客への甘いサービスは不要ということでしょうか。
★キャスト評は、ウナムノを演じたカラ・エレハルデについては「複雑を極めたウナムノの人格をコインの裏と表のように演じ分け注目に値する出来栄えだった」と評価は高い。カラ・エレハルデ自身は「スペインはこの83年間、1ミリも前進しておりません」と手厳しい。同感する人が多いと思いますね。

(サラマンカ大学講堂で演説するミゲル・デ・ウナムノ)

(撮影中の監督とカラ・エレハルデ、2018年5月末、サラマンカでクランクイン)
★フランコ軍の陸軍将官ホセ・ミリャン・アストレイに扮したエドゥアルド・フェルナンデスについては「絶えず変化を求めてスクリーンに現れる彼は、輝いて信頼に足る役者」とこちらも高評価、アストレイはフランコの友人でスペイン・モロッコ戦争で右目と左腕を失っている。フェルナンデスは同じ金貝賞を競うセクション・オフィシアルにノミネートされているベレン・フネスの「La hija de un ladron」に実娘のグレタ・フェルナンデスと出演していて、今年は両方のフォトコール、プレス会見と大忙しである。

(フランコ役のサンティ・プレゴとアストレイ役のエドゥアルド・フェルナンデス)
★本作以外のウナムノのビオピック作品は、マヌエル・メンチョンの「La isla del viento」をご紹介しています。かなりフィクション性の高い作品ですがこちらのウナムノ役は、ホセ・ルイス・ゴメスでした。独裁者ミゲル・プリモ・デ・リベラを批判してカナリア諸島のフエルテベントゥラに追放された1924年と最晩年の1936年の2部仕立てです。
*「La isla del viento」の作品&監督紹介は、コチラ⇒2016年12月11日
★映画とはまったく関係ありませんが、アメナバルは2年半パートナーだったダビ・ブランコとの結婚を解消した由。ブランコによると、2月からは24歳の医師セサルが新恋人、3人の関係は良好だそうで、つまり幸せということです。3人揃っての写真がインスタグラムされている。時代は変わりました。

(左から、アメナバル、ダビ・ブランコ、セサル)
追加情報:ラテンビート2019で『戦争のさなかで』の邦題で上映が決定しました。
コロンビア映画「Monos」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑬ ― 2019年08月21日 16:03
ホライズンズ・ラティノ第3弾――アレハンドロ・ランデスの第3作「Monos」

★先日、ホライズンズ・ラティノ部門のラインナップをした折に、ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』(1954刊)の映画化とコメントしましたが、アレハンドロ・ランデスの「Monos」は、『蠅の王』にインスパイアされたが近い。過去にピーター・ブルック(63)とハリー・フック(90)の手で2回映画化されていますが、こちらは文字通り小説の映画化でした。最新ニュースによると、3度目の映画化をルカ・グァダニーノに交渉中という記事を目にしました。話題作『君の名前で僕を呼んで』の監督、実現すればどんな料理に仕上がるのか興味が湧く。
★アレハンドロ・ランデス(サンパウロ1980)は、監督、製作者、脚本家、ジャーナリスト。サンパウロ生れだが、父親がエクアドル人、母親がコロンビア人で、母語はスペイン語である。米国ロード・アイランドの名門ブラウン大学で政治経済を専攻した。ボリビア大統領エボ・モラレスについてのドキュメンタリー「Cocalero」でデビュー、本作はラテンビートLBFF2008で『コカレロ』の邦題で上映された。第2作の「Porfirio」は、カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品、その後トロントFFやメリーランドFFでも上映された。警察の不用意な発砲で下半身不随になったポルフィリオ・ラミレスの車椅子人生が語られる。本作はフィクションだが、本人のたっての希望でラミレス自身が主役ポルフィリオを演じている。第3作となる「Monos」は、製作国がコロンビアを含めて6ヵ国と、その多さが際立つ。米国アカデミー2020のコロンビア代表作品候補となっている。
「Monos」
製作:Stela Cine / Bord Cadre Films / CounterNarrative Films / Le Pacte 以下多数
監督:アレハンドロ・ランデス
脚本:アレハンドロ・ランデス、アレクシス・ドス・サントス
撮影:ジャスパー・ウルフ
音楽:ミカ・レビ
編集:テッド・グアルド、ヨルゴス・マブロプサリディス、サンティアゴ・Otheguy
製作者:アンドレス・カルデロン、J. C. Chandor、Charies De Viel Castel、ホルヘ・イラゴリ、Duke Merriman、グスタボ・パスミン、ジョセフ・レバルスキ、グロリア・マリア(以上エグゼクティブ)、アレハンドロ・ランデス、クリスティナ・ランデス、他多数
データ:製作国コロンビア=アルゼンチン=オランダ=ドイツ=スイス=ウルグアイ、スペイン語・英語、2019年、スリラー・ドラマ、102分、コロンビア公開2019年8月15日、他イタリア(7月11日)、以下オランダ、米国、イギリス、スウェーデン、ノルウェー、フランスなどがアナウンスされている。
映画祭・映画賞:サンダンスFFワールド・シネマ・ドラマ部門審査員特別賞、ベルリンFFパノラマ部門上映、BAFICI オリジナル作曲賞、アート・フィルム・フェスティバル作品賞ブルー・エンジェル受賞、カルタヘナFF観客賞・コロンビア映画賞、ニューポート・ビーチFF作品賞以下4冠、オデッサFF作品賞、トゥールーズ・ラテンアメリカFF CCAX賞、トランシルヴァニアFF作品賞などを受賞、ノミネーションは割愛
キャスト:ジュリアンヌ・ニコルソン(ドクター、サラ・ワトソン)、モイセス・アリアス(パタグランデ、ビッグフット)、フリアン・ヒラルド(ロボ、ウルフ)、ソフィア・ブエナベントゥラ(ランボー)、カレン・キンテロ(レイデイ、レディ)、ラウラ・カストリジョン(スエカ、スウェーデン人)、デイビー・ルエダ(ピトゥフォ)、パウル・クビデス(ペロ、ドッグ)、スネイデル・カストロ(ブーンブーン)、ウィルソン・サラサール(伝令)、ホルヘ・ラモン(金探索者)、バレリア・ディアナ・ソロモノフ(ジャーナリスト)、他
ストーリー:一見すると夏のキャンプ場のように見える険しい山の頂上、武装した8人の少年ゲリラ兵のグループ「ロス・モノス」が、私設軍隊パラミリタールの軍曹の監視のもと共同生活を送っている。彼らのミッションは唯一つ、人質として誘拐されてきたアメリカのドクター、サラ・ワトソンの世話をすることである。この危険なミッションが始まると、メンバー間の信頼は揺らぎ始め、次第に疑いを抱くようになる。 (文責:管理人)

(ロス・モノスに囲まれた拉致被害者サラ・ワトソン役ジュリアンヌ・ニコルソン)
コロンビアの半世紀に及ぶ内戦についての出口なしのサバイバルゲーム
★ストーリーから直ぐ連想されるのは、20世紀後半のコロンビアに半世紀以上も吹き荒れた内戦の傷である。比較されるのはフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』の原作となったジョセフ・コンラッドの『闇の奥』(1902刊)であろうが、原作にあるような「心の闇」は希薄のようです。本作は目眩やアドレナリンどくどくでも瞑想的ではないようだ。社会と隔絶された場所、登場人物の若者グループなど舞台装置は、ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』を思い出させる。極寒の地の厳しさのなかで、武器を持たされ軍事訓練を受ける若者のグループは、ついこの間まで存在していたコロンビアに容易に結びつく。


(8人の武装グループ「ロス・モノス」と軍曹)
★コロンビア公開に際して受けたインタビューで、前から「若者を主役にして戦闘やメロドラマを織り込んだ目眩を起こさせるようなセンセショーナルな作品を探していた。私たちの映画はあまり観想的ではなくてもアドレナリンは注入したかった。ジャンル的には戦闘とアクションを取り込んで、観客は正当性には駆られないだろうから、皮膚がピリピリするようなものにしたかった」とランデス監督は語っていた。戦争映画はベトナムは米国が、アフリカはフランスが撮っているが、自分たちはコロンビア人の視点で自国の戦争映画を作る必然性があったとも語っている。

(アレハンドロ・ランデス監督)
★登場人物たちの名前も、政治的に左か右か分からなくてもかまわない。「イデオロギー・ゼロを観客に放り投げたかった。所詮世界は非常に偏向して、富も理想も違いすぎている。エモーションを通して揺さぶろうとするなら、どんなメタファーが有効かだ」、「何を語るかだけでなくどう語るか」、『蠅の王』や『闇の奥』が出発点にあったようです。
★キャスト陣のうち、ドクター役のジュリアンヌ・ニコルソン(マサチューセッツ州メドフォード1971、代表作『薔薇の眠り』『8月の家族』)とパタグランデ役のモイセス・アリアス(ニューヨーク1994、代表作SFアクション『エンダーのゲーム』、「The King of Summer」)は、アメリカの俳優、スエカ役のラウラ・カストリジョンはスペインのTVシリーズに出演している。金探索者のホルヘ・ラモンはルクレシア・マルテルの『サマ』に出演している。そのほかは本作が2作目か初出演。
*追加情報:ラテンビート2019で『猿』の邦題で上映が決定しました。
*追加情報:2021年10月30日『MONOS 猿と呼ばれし者たち』の邦題で公開されました。
アンドレス・ウッドの新作「Araña」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑪ ― 2019年08月16日 12:43
ホライズンズ・ラティノ第1弾――チリの監督アンドレス・ウッドの新作

★アンドレス・ウッド久々の新作であること、ラテンビートLBFFとの深い関わりやキャストにメルセデス・モランやマリア・ベルベルデが出演ということで、チリ=アルゼンチン=ブラジル合作「Araña / Spider」の紹介から。チリの監督と言えば、『No』や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』のパブロ・ララインが有名ですが、彼はデビュー作『トニー・マネロ』がカンヌ映画祭併催の「監督週間」にノミネートされたこともあって、カンヌFF出品が多い。他にベネチア映画祭やベルリン映画祭にも出品しており、今年も新作「Ema」はベネチアとトロントに出品された。
「Araña / Spider」
製作:Bossa Nova Films / Magma Cine / Wood Producciones
監督:アンドレス・ウッド
脚本:ギジェルモ・カルデロン
撮影:M.I. Littin-Menz
キャスティング:ロベルト・マトゥス
美術:ロドリゴ・バサエス
製作者:パトリシオ・ペレイラ(エグゼクティブ)、パウラ・コセンサ、アレハンドロ・ガルシア、他
データ:製作国チリ=アルゼンチン=ブラジル、スペイン語、2019年、スリラー、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門出品、チリ公開2019年8月15日
キャスト:メルセデス・モラン(イネス)、マリア・バルベルデ(ヤング・イネス)、フェリペ・アルマス(イネスの夫フスト)、ガブリエル・ウルスア(ヤング・フスト)、マルセロ・アロンソ(イネスとフストの親友ヘラルド)、ペドロ・フォンテーヌ(ヤング・ヘラルド)、カイオ・ブラット(アントニオ)、マリア・ガルシア・オメグナ(ナディア)、マリオ・ホールトン(ホセ)、ハイメ・バデル(ドン・リカルド)、他
ストーリー:1970年代の初頭、イネス、夫のフスト、夫婦の親友ヘラルドの三人は、アジェンデ政権打倒を目論む過激な国粋主義を標榜する極右グループのメンバーだった。犯罪や陰謀が渦巻くなか、彼らは歴史の流れを変えようと或る政治的犯罪に手を染めていく。同時に危険で情熱的な三角関係にもつれ込み、裏切りにより彼らは永遠に袂を分かつことになる。40年という長いあいだ、復讐と強迫観念に捉われていたヘラルドは、青春時代の国家主義的な主義主張にかき立てられていた。一方イネスは、実業家として成功を収めていた。警察は、ヘラルドと自宅に保管してある書類をを監視しており、イネスはかつての政治的性的な過去や夫フストのことが明るみに出ることを避けようと最善を尽くすだろう。サルバドル・アジェンダ政権(1970年11月4日~1973年9月11日)打倒を目標に生まれたパラミリタール「祖国と自由」運動を掘り下げる。二人のイネスによって物語は語られる。 (文責:管理人)

(左から、青春時代の仲間、イネス、ヘラルド、フストの3人)
『マチュカ 僕らと革命』とは別の視点で撮った「Araña」
★アンドレス・ウッド(サンティアゴ・デ・チレ1965)は、監督、脚本家、製作者、SSIFF1997ニューディレクターズ部門に出品された「Histrias de fútbol」がデビュー作。カンヌFF「監督週間」出品の「Machuca」(04、『マチュカ 僕らと革命』)、「La buena vida」(08、『サンティアゴの光』LBFF2009、ゴヤ賞2009イスパノアメリカ映画賞)、「Violeta se fue a los cielos」(11、『ヴィオレータ、天国へ』LBFF)などが代表作。『サンティアゴの光』がLBFFで上映された折り来日している。監督としては『ヴィオレータ、天国へ』を最後に、現在は製作者としてTVシリーズに力を注いでおり、今回8年ぶりに『マチュカ』とは別の視点で「Araña」を撮った。
*アンドレス・ウッドのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年03月04日

(アンドレス・ウッド監督、2019年8月)
★「もう一つの9-11」と言われるのが1973年11月3日に勃発したチリの軍事クーデタである。如何にしてピノチェトがクーデタを成功させ、20年近くにも及ぶ独裁政権を維持できたのか考え続けているアンドレス・ウッドが、『マチュカ 僕らと革命』とは別の視点でチリの現代史を描いている。40年の時を隔てて、キャストは各々別の俳優が演じている。ヤング・イネスはスペイン女優マリア・バルベルデ(マドリード1987)、現代のイネスはアルゼンチンのベテラン女優メルセデス・モラン(サン・ルイス1955)が扮した。バルベルデは2003年、マヌエル・マルティン・クエンカの「La flaqueza del bolchevique」で銀幕デビュー、相手役のルイス・トサールと堂々わたり合って、いきなり翌年のゴヤ賞新人女優賞を受賞したシンデレラ・ガール。LBFF2014上映の『解放者ボリバル』、Netflixのマリア・リポル『やるなら今しかない』など、スペイン映画に止まらず、イタリア、イギリス、米国映画にも出演している。
*マリア・バルベルデのキャリア紹介は、コチラ⇒2015年07月14日

(チリ公開前夜祭に登場した二人のイネス、モランとバルベルデ、2019年8月14日)
★メルセデス・モランは、昨年のLBFFで上映されたアナ・カッツの『夢のフロリアノポリス』に主演、ルクレシア・マルテルの「サルタ三部作」の第1部『沼地という名の町』、第2部『ラ・ニーニャ・サンタ』の他、パブロ・ララインの『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』など、当ブログでは数回にわたってキャリア紹介をしています。リカルド・ダリンと共演することが多く、アルゼンチンではチョー有名な女優。
*メルセデス・モランの主なフィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年09月21日

(過去の秘密が暴露されることを怖れるイネス、メルセデス・モラン)
★ヘラルド役のペドロ・フォンテーヌとマルセロ・アロンソはチリの俳優、ペドロ・フォンテーヌは2015年、マリア・エルビア・レイモンドの「Days of Cleo」でデビューした。プロデューサーとしてLBFF上映のクリストファー・マーレイの『盲目のキリスト』や、アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスの「Aqui no ha pasado nada」を手掛けている。マルセロ・アロンソはパブロ・ララインのデビュー作『トニー・マネロ』や「Post Mortem」の他、『ザ・クラブ』のガルシア神父や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』などに出演している演技派で、本作主演の一人。他に「Princesita」などが代表作。TVシリーズ出演が多く、チリの有名どころが総出演している観のある人気犯罪ドラマ「Prófugos」(11&13)にも出演している。

(マリア・バルベルデとペドロ・フォンテーヌ)


(ポスターにも採用されたヘラルド役のマルセロ・アロンソ)
★フスト役のガブリエル・ウルスアとフェリペ・アルマスの二人もチリと、大方はチリの俳優が起用されている。ガブリエル・ウルスアは2010年、パスカル・クルムの「MP3: una pelicula de rock descargable」でデビュー、他にフアン・ギジェルモ・プラドのアクション・アドベンチャー「Puzzle negro」など。フェリペ・アルマス(サンティアゴ1957)は、主にTVシリーズに出演しているテレビ界の大物俳優。しかし目下自閉症の息子をほったらかしにしていたことで告発されており窮地に立たされている。他にドン・リカルド役のハイメ・バデル(バルパライソ1935)は、パブロ・ララインのほとんどの作品「Post Mortem」から『ザ・クラブ』『No』『ネルーダ~』などに顔を出している。

(ヤング・イネスのマリア・バルベルデ、ヤング・フストのガブリエル・ウルスア、
背後にグループ「PATRIA Y LIBERTAD 祖国と自由」のポスター)

(公開前夜祭でのフェリペ・アルマス)
★国家主義的な極右グループ「PATRIA Y LIBERTAD 祖国と自由」のリーダーらしきアントニオは、ブラジルのカイオ・ブラット(サンパウロ1980)が演じている。ナディアを演じたマリア・ガルシア・オメグナは美人女優として売り出し中だが、目下第一子を抱えており、夫君ゴンサロ・バレンスエラにエスコートされて前夜祭に参加、話題を集めていた。


(マリア・ガルシア・オメグナ、公開前夜祭にて)
◎関連記事(管理人覚え)
*『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年10月18日
*『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ⇒2017年11月22日
*「Aqui no ha pasado nada」の紹介記事は、コチラ⇒2016年08月23日
*『盲目のキリスト』の紹介記事は、コチラ⇒2016年10月06日/10月21日
*追加情報:ラテンビート2019で『蜘蛛』の邦題で上映が決定しました。
カルロヴィ・ヴァリ映画祭2019にホナス・トゥルエバの新作 ― 2019年06月03日 16:20
ホナス・トゥルエバの「La virgen de agosto」がカルロヴィ・ヴァリ映画祭へ

★第54回カルロヴィ・ヴァリ映画祭2019(6月28日~7月6日)のセクション・オフィシアルにホナス・トゥルエバの新作「La virgen de agosto」がノミネートされました。当ブログではフェルナンド・トゥルエバを父親にもつ新鋭ということで、「Los exiliados románticos」(15)と「La Reconquista」(16)を紹介しております。後者は後にNetflix で『再会』という邦題で配信されました。英語題「The Reunion」の直訳がそのまま採用されました。オリジナルの「La Reconquista」にはもう少し深い意味が込められていたのですが、作品紹介記事もあらかた表層的で活かされませんでした。
*「Los exiliados románticos」の作品紹介は、コチラ⇒2015年04月23日
*「La Reconquista」(『再会』)の作品紹介は、コチラ⇒2016年08月11日

(新作「La virgen de agosto」のイチャソ・アラナ)
★カルロヴィ・ヴァリ映画祭ノミネーションの「La virgen de agosto」は、昨年の盛夏、暑さにうだるマドリードの数ヵ所、サン・カジェタノ、サン・ロレンソ、ラ・パロマなどで撮影開始、それなりにメディアに宣伝してもらっていました。特にナバラ・ニュースでは、主人公エバを演じたイチャソ・アラナ(1985)がナバラ州タファリャ出身ということもあって詳細を報じていた。前作『再会』で主役を演じたイチャソ・アラナを今回も起用、本作で脚本を監督と共同執筆、脚本家デビューも果たした。本人談によると、演劇では脚本も演出も既に体験済みだそうですが、映画の脚本は全く別の経験で、チャンスをくれたトゥルエバ監督に感謝している。日記体で語られる映画のようです。
(ホナス・トゥルエバとイチャソ・アラナ)
「La virgen de agosto」(「The August Virgin」)
製作:Los Ilusos Films
監督:ホナス・トゥルエバ
脚本:ホナス・トゥルエバ、イチャソ・アラナ
撮影:サンティアゴ・ラカ(『再会』、カルラ・シモン『悲しみに、こんにちは』他)
編集:マルタ・ベラスコ(『再会』、カルロス・ベルムト『シークレット・ヴォイス』他)
美術:ミゲル・アンヘル・レボリョ(『再会』)
プロダクション・マネージメント:ペレ・カポティリョ
助監督:ロレナ・エルナンデス・ツデラ(『再会』)
データ・映画祭:製作国スペイン、スペイン語、2019年、ドラマ、撮影地マドリードのサン・カジェタノ、サン・ロレンソ、ラ・パロマなど。第54回カルロヴィ・ヴァリ映画祭コンペティション部門出品、スペイン公開2019年8月16日決定、配給BTeam Pictures
キャスト:イチャソ・アラナ(エバ)、ビト・サンス(アゴス)、ジョー・マンホン Joe Manjón(ジョー)、イサベル・ストフェル(オルカ)、ルイス・エラス(ルイス)、ミケレ・ウロス(ソフィア)、フランセスコ・カリル(フランセスコ)、ソレア・モレンテ(自身)他
プロット:間もなく33歳になろうとしているエバは、自分の人生が期待したようにいかないことを知っていた。エバには他のやり方で物事を感じる必要があり、それには暑いマドリードの夏をチャンスの時と考えた。8月にマドリードに留まる決心は、信仰の行為「信徳」なのだ。盛夏のマドリードは「ロメリア」の季節、昼も夜もフィエスタや夏祭りが盛りだくさんだから、出会いや偶然が待っている。もう青春時代は過ぎてしまったけれど、8月の満月の夜には何かが起きるだろう。エバにはまだ時間があるんだし、好運が訪れることだろう。 (文責:管理人)
★ホナス・トゥルエバによると「ここ数年前から夏が来ると、暑いマドリードを避けて友人や家族は避暑に出かけてしまう。しかし私はここに残ることを選択し、本作の構想を温めてきた」。「気の置けないチームだけで撮りたいと思っていた」ということですが、スタッフ、キャスト欄を見れば一目瞭然、前作『再会』のスタッフメンバーが多くを占めている。「旧知の友人あるいは新しい人々に出会うと、会話は別のリズムやトーンが生まれ、すべてが変わって特別な魔法にかかる」と監督。
★共演者のビト・サンスは、モノクロで撮った第2作目「Los ilusos」(13)出演をきっかけに、先述の「Los exiliados románticos」、監督の父親フェルナンド・トゥルエバの「La reina de España」(16)や叔父ダビ・トゥルエバの「Casi 40」(18)などトゥルエバ一家の作品の他、エミリオ・マルティネス=ラサロの「Mi amor perdido」(18)、マテオ・ヒルの『熱力学の法則』(18 Netflix)では主役を演じている。
*マテオ・ヒルの『熱力学の法則』作品紹介は、コチラ⇒2018年04月02日

(「Los ilusos」のビト・サンスとフランセスコ・カリル)
★「Los ilusos」には、ビト・サンスの他、イサベル・ストフェル、ミケレ・ウロスも共演した。トゥールーズ・シネエスパーニャでは作品賞に当たる「金のバイオレット」を受賞した。『再会』の主人公オルモに扮したトゥルエバ常連の一人フランセスコ・カリルも男優賞を受賞するなど、海外でも評価された作品である。ミケレ・ウロスはイチャソ・アラナと同郷のナバラ出身、彼女は今回共演できることを喜んでいる。

(新作「La virgen de agosto」のイチャソ・アラナとルイス・エラス)

(前作『再会』のイチャソ・アラナとフランセスコ・カリル)
追加情報:ラテンビート2019で『8月のエバ』の邦題で上映が決定しました。
オリベル・ラセの 「O que arde」 が審査員賞*カンヌ映画祭2019 ⑬ ― 2019年05月29日 11:58
スペイン映画は「ある視点」部門でも評価されました!

(英語タイトルのポスター)
★オリベル・ラシェの「O que arde」(英題「Fire Will Come」)が「ある視点」部門の第2席に当たる審査員賞を受賞した。主役を演じたアマドール・アリアス、その老親役のベネディクタ・サンチェスなども現地入りした。5月21日の上映前のフォトコールでは、御年81歳(!)という遅咲きの新人ベネディクタ・サンチェスも最初こそたくさんのカメラマンに取り囲まれ緊張していたが、彼らの要望に応えてダンスまで披露するにいたった(!)。母親をフォローアップした息子アマドール・アリアスも、共に今回で俳優デビュー、監督はかなり上背がありバランスをとるため台の後ろでは膝を曲げていた。

(膝を曲げた監督とベネディクタ・サンチェス&アマドール・アリアス、21日のフォトコール)

(カメラマンの求めに応じてダンスを披露するお茶目なベネディクタ・サンチェス)
★上映後の各紙誌の評判はオール・ポジティブ評価、結果発表を待つまでもなく何かの賞に絡むのは想定されていた。「こんな小品が受賞できるなんて」と監督、ご謙遜でしょう。「現在のスペインでは、作家性の強い映画作りは何かしら問題を抱えている。この状況を変えていくためにも賞を勝ち取ろう」と監督。モロッコに10年ほど暮らした後、長年構想を練っていた新作をガリシアで撮るためにルゴ近郊の山村の我が家に帰ってきた。「我が家であると同時に我が家でもないのです。というのもシネアストは常に外国人だから、映画作りには距離をおくべきと思っています」と数日前に語っていた。

(カンヌ入りしたオリベル・ラセ以下スタッフ、キャスト一同)
★オリベル・ラシェ(パリ1982、37歳)はカンヌに縁の深い監督、デビュー作「Todos vosotros sois capitanes」(10)は、監督週間に出品され国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞、第2作「Mimosas」(16)は批評家週間のグランプリ、第3作が本作である。本作について、「家族をめぐる物語性のある映画にした・・・自身は放火魔を正当化していないが、現実には痛みの鎖を断ち切りたい困難な世界が存在している。それで弁証法的ではないが、観客はすべてを理解しようと試みるだろう」と語っていた。アマドールの内面は複雑で、とくに新しい火事が起きてからの反応が見どころとなる。
★本作では溢れんばかりのビジュアルな力が強いが、音、音楽も入念に練ったという。例えばカナダのシンガーソング・ライター、吟遊詩人とも言われたレナード・コーエンの「スザンヌ」を一例に上げている。歌詞は分からないがとても気に入っており、好きになるのに意味など分からなくてもいい。「それは映画についても同じことが言えます。私たちはとても合理主義者で、すべてを理解したがりますが、それは意味がありません」ときっぱり。吟遊詩人は2016年ロサンゼルスの自宅で急死、享年82歳だった。癌を患っていたそうだが新作を発表しつづけていたから、訃報のニュースは世界を駆けめぐった。しかし日本での扱いは小さく、もっと評価されるべきとファンは急逝を惜しんだ。

(山火事のシーンから)
★自分は「映像重視の監督だが、新作はよりクラシックに、と同時に前衛的に撮ったと思う。さまざまな二分法、例えば明暗、単純で複雑、円熟と未熟というようにです」と。ルゴ近郊の山村ナビア・デ・スアルナを撮影地に選んだのは、ここが監督の母親の生れ故郷だったから。フランスから5~6歳のころ戻ったとき、「ここには道路がなく、今思うとまるで中世に戻ったようだった。祖父母たちはいい人たちだったが、素っ気なくて自分たちの不運を嘆いていた。現実を受け入れ、質素に暮らし、自分たちは取るに足りない存在と感じていた」と語る監督、1980年代後半のガリシアの山村はマドリードやバルセロナとはかなり差があったということです。時間が経ってもガリシア人の複雑で屈折した気質は変わらない。それが作品に織り込まれているようです。

★今は映画から少し距離をおきたいということです。ここガリシアに腰を落ち着けて考えたいことがあるという。するべきことは何か、「ここのコミュニティのためにしたいことがある。映画は神経症を理解したり、人がどうして愛を必要とするのか理解するのに役立つが・・・円熟とは愛が必要でないと気づくときです。それは既に愛に囲まれているからなのです。所詮、私は愚か者でありつづけている。今よりひどい映画を作るくらいなら愚かでいるほうが好きなんだ」。じゃ第4作は何時になるのか?
★レバノンの監督ナディーヌ・ラバキ審査委員長以下、アルゼンチンの監督リサンドロ・アロンソ(『約束の地』15)他の審査員に感謝です。字幕入り上映を期待します。
* 第2作「Mimosas」とキャリア紹介は、コチラ⇒2016年05月22日
*「O que arde」の作品紹介は、コチラ⇒2019年04月28日
追加情報:ラテンビート2019で『ファイアー・ウィル・カム』の邦題で上映が決定しました。東京国際映画祭との共催です。
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