ルクレシア・マルテル短編『ルーム・メイド』*東京国際映画祭2022 ⑤2022年10月19日 14:48

         ラテンアメリカ諸国に巣食う社会格差やDVに焦点を当てた短編

 

      

 

ルクレシア・マルテル『ルーム・メイド』は、ワールド・フォーカス部門上映のコロンビア映画『ラ・ハウリア』(監督アンドレス・ラミレス・プリド)と併映される、メキシコ=アルゼンチン合作短編です。マルテル映画は伏線が巧妙に張り巡らされ、処々に潜んでいるメタファーの読み解きが楽しいが、『パシフィクション』のアルベルト・セラ同様、咀嚼と消化に時間がかかり万人向きとは言えない。幸いにも「サルタ三部作」を含む長編4作が、テレビ放映、あるいはラテンビートFFで上映されている。「サルタ三部作」というのは、デビュー作『沼地という名の町』(01)、『ラ・ニーニャ・サンタ』(04)、『頭のない女』(08)の3作を指し、監督の出身地アルゼンチン北部のサルタ州が舞台になっていることから名付けられた。第4作目が約十年ぶりに撮った『サマ』(17)で、アントニオ・ディ・ベネデットの同名小説 Zama の映画化でした。当ブログで作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィー、原作者などを紹介しています。

『サマ』に関するもろもろの記事は、コチラ20171013同年1020

   

       

          (長編デビュー作『沼地という名の町』のポスター)

 

ルクレシア・マルテル(サルタ1966)は、1988年短編アニメーション「El 56」でデビュー、翌年母親のフィアンセ殺害を夢想する小さな男の子のきわどい話、牛の放牧に従事する先住民コミュニティのメンバーが不法に土地を所有した人々から土地を奪還しようとする話など10編ほど短編を撮っている。長編は4作と寡作だが、ほかにTVシリーズ、TVムービー・ドキュメンタリー、アンソロジーも手掛けている。

 

      

                (ルクレシア・マルテル監督)

 

★今回の『ルーム・メイド』(12分、メキシコとの合作)は、ベネチア映画祭アウト・オブ・コンペティション部門で「Camarera de piso / Maid」としてワールドプレミアされた。本短編はメキシコ国立自治大学 UNAM から委託されフィルモテカを通じて、シンテシス・プログラムの枠組みのなかで製作されている。監督によると「私はコンテンポラリーダンスを視聴覚言語と関連づける方法を見つけるよう提案されていました」と語っている。メキシコとの合作になった経緯は分かったが、コンテンポラリーダンスと本編がどう繋がるのかイメージできない。見れば分かるのか、見ても分からないのかどちらだろう。

 

『ルーム・メイド』(原題Camarera de piso / Maid

製作:UNAM Hugo Villa Smythe(メキシコ)/ Rei Cinema(アルゼンチン)

監督・脚本:ルクレシア・マルテル

撮影:フェデリコ・ラストラ

編集:イエール・ミシェル・アティアス

プロダクション・デザイン:エドナ・モスティッツァー Mostyszczer

録音:グイド・ベレンブラム、マヌエル・デ・アンドレス

製作者:(メキシコ)フアン・アラヤ、(アルゼンチン)ベンハミン・ドメネク、サンティアゴ・ガレリ、マティアス・ロベダ

 

データ:製作国メキシコ=アルゼンチン、2022年、ドラマ、短編12

映画祭・受賞歴:第79回ベネチア映画祭2022アウト・オブ・コンペティション短編部門正式出品、東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映

キャスト:ホルヘリーナ・コントレラス(パトリ)、ダニエル・バレンスエラ(影の声)、アナベリ・アセロ、アリエル・Gigena

 

解説:ストーリーはTIFF もラテンビートもストーリー紹介文がありません。パトリはメイドになるための研修期間中で、指導者からトレーニングを受けている。しかし研修中にもかかわらず、家族から玄関先に迫ってくる危機についての電話が絶え間なく掛かってくる。電話に出ると当然のことだが上司から叱責されます。どうやらパトリはパートナー(夫?)からの虐待に苦しんでいるようです。彼女はパートナーとの接触や報復から子供を守りたいと考えているようですが・・・。UNAMの提案によるコンテンポラリーダンスは出てこないが、現在の労働圧力、ドメスティック・バイオレンス、階級格差、マッチョの犠牲者である働く母親の居場所のなさを見つめる短編になっているようです。 (文責:管理人)

 

スタッフ紹介:フィルム編集のイエール・ミシェル・アティアスは、サンティアゴ・ロサの「Breve historia del planeta verde」(ベルリン映画祭2019)の編集者、撮影監督のフェデリコ・ラストラは、マキシミリアノ・シェーンフェルドの「Jesús López(サンセバスチャン映画祭2021ホライズンズ・ラティノ部門のオープニング作品)、録音のグイド・ベレンブラムマヌエル・デ・アンドレスは『サマ』で監督とタッグを組んだメンバーとアルゼンチン・サイドで固めている。

 

キャスト紹介:メイド役のホルヘリーナ・コントレラスアナベリ・アセロは、本作でデビューしたのか本作以外の情報を入手できませんでした。ダニエル・バレンスエラはマルテル監督の『沼地という名の町』に出演しており、ほかパブロ・トラペロのデビュー作「Mundo grúa」(99)、マルセロ・ピニェイロの『逃走のレクイエム』(00)、イスラエル・アドリアン・カエタノのヒット作「Un oso rojo」(02)以下、「Crónica de una fuga」(06)など度々起用されています。主役というより脇役として存在感がある。アリエル・Gigenaは、邦題『コブリック大佐の決断』としてDVD発売された「Kóblic」(16)に出演している。というわけでアルゼンチン映画のようです。

  

    

                          (メイドのホルヘリーナ・コントレラス)

 

TIFF プログラミング・ディレクター市山尚三氏の「作品見どころ解説」によると、「びっくりする短編、電話から誰かに脅されている様子がわかり、後半はあっと驚く先が読めない短編」ということでした。

 

Breve historia del planeta verde」の作品紹介は、コチラ20190219

Jesús López」の作品紹介は、コチラ20210830

 

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