『ザ・ウォーター』エレナ・ロペス・リエラ*東京国際映画祭2022 ④ ― 2022年10月17日 10:54
「ユースTIFFティーンズ」にエレナ・ロペス・リエラの『ザ・ウォーター』
★ユース部門には「チルドレン」と「ティーンズ」があり、エレナ・ロペス・リエラの『ザ・ウォーター』がエントリーされた後者は、主に高校生に観てもらいたい映画から選んでいるそうです。『ザ・ウォーター』が高校生を対象にしている作品とは思いませんが、取りあえず字幕入りで観られるのを歓迎したい。TIFFの「ひと夏の瑞々しい青春映画」という紹介文の是非は問いませんが、世代を問わない佳作であるのは間違いない。カンヌ映画祭と併催の「監督週間」でワールドプレミアされ、トロント、サンセバスチャン、ヘルシンキ、チューリッヒなど各映画祭をめぐってTIFFにやってきます。
★当ブログでは、サンセバスチャン映画祭2018サバルテギ-タバカレラ部門で上映され、スペシャル・メンションを受賞した短編ドキュメンタリー「Los que desean」(24分)を簡単に紹介しています。本作はヨーロッパ映画賞にノミネートされ、ロカルノ映画祭で短編部門(パルディ・ディ・ドマーニ)の作品賞パルディノ・ドール(Pardino d’Oro)を受賞した彼女の代表作です。
*「Los que desean」の紹介は、コチラ⇒2018年08月01日
(パルディノ・ドールのトロフィーを手にした監督、ロカルノFF 2018)
(短編「Los que desean」のフレームから)
『ザ・ウォーター』(原題「El agua」英題「The Water」)
製作:ALINA FILMS (スイス)/ Les Films du Worso(フランス)/ Suica Films(スペイン)
監督:エレナ・ロペス・リエラ
脚本:エレナ・ロペス・リエラ、フィリップ・アズリー
撮影:ジュゼッペ・トルッピ
編集:ラファエル・ルフェーブル
音楽:Mandine Knoepfel
録音:カルロス・イバニェス、マチュー・ファルナリエ、ドニ・セショー
プロダクション・デザイン:ミゲル・アンヘル・レボーリョ
メイクアップ:カトリーヌ・ジング
製作者:ユージニア・ムメンターラー、ダビ・エピニー
データ:製作国スイス=フランス=スペイン、2022年、スペイン語、ドラマ、105分、イクスミラ・ベリアク(Ikusmira Berriak)2018、2019年カンヌFFシネフォンダシオンのCNC 賞受賞、撮影地バレンシア州アリカンテ県オリウエラ、配給スペインElastica Films、公開スペイン11月4日
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭「監督週間」ゴールデンカメラ賞ノミネート、以下トロントFF、サンセバスチャンFFタバカレラ賞ノミネート、ヘルシンキFF、オウレンセFF、トゥルーズ・シネエスパーニャFFノミネート、チューリッヒFFゴールデンアイ賞ノミネート、東京国際映画祭ユース TIFF ティーンズ部門、ストックホルムFF、など。
キャスト:ルナ・パミエス(アナ)、バルバラ・レニー(母親イザベル)、ニエベ・デ・メディナ(祖母)、アルベルト・オルモ(ボーイフレンド、ホセ)、イレネ・ぺリセル、ナヤラ・ガルシア、他
ストーリー:スペイン南東部の小さな村では、夏には暴風雨により村の近くを流れる川が再び氾濫する怖れがあります。昔からの言い伝えによると、一部の女性たちは「内部に水」をもっているため、新たな洪水が起きるたびに姿を消す運命にあると、長いあいだ信じられています。死の臭いが漂う村で、アナは村人の不信の視線を感じながら母親と祖母と暮らしています。若者のグループがタバコを吸ったり、踊ったり、羽目を外して夏の倦怠感を克服しようとしています。嵐に先だつこの刺激的な雰囲気のなかで、アナはホセに恋をするのですが、同時にファンタズマを吹き飛ばすために闘うことになるだろう。若い女性の覚醒とレジスタンスが語られる。(文責:管理人)
(アナ役ルナ・パミエスと母親役のバルバラ・レニー)
(アナと祖母役のニエベ・デ・メディナ)
(アナとボーイフレンドのホセ役アルベルト・オルモ)
★エレナ・ロペス・リエラ監督紹介:1982年アリカンテ県オリウエラ生れ、ビジュアルアーティスト、監督、脚本家、女優。バレンシア大学で視聴覚コミュニケーション学の博士号を取得、その後ジュネーブ大学、マドリードのカルロスⅢ大学で学ぶ。2008年からスイスに転居、パリとジュネーブに在住、ジュネーブ大学で映画と比較文学を教えている。セビーリャ・ヨーロッパ映画祭、スイスのVisions du Réelのプログラマーを務め、 2017年から選考委員会のメンバーである。2021年サバルテギ-タバカレラ部門の審査員を務めた。新しい視聴覚機器の研究と実験をめざすアーティスト集団 lacasinegra の共同創設者の一人。「私の芸術的実践の主な目的は、動画を通して、男性と女性、現実と幻想、ドキュメンタリーとフィクションなど、学習され伝達され、繰り返される概念の境界を越えること」と語る監督は、カンヌのインタビューでは「言い伝えが現実と一体化して、誰もそれを切り離すことができない」と語っている。
★フィルモグラフィー:2015年、短編「Pueblo」(27分)がカンヌ映画祭「監督週間」にノミネートされ、スペインの最初の女性監督となった。2016年、第2作目となる「Las vísceras」(英題「The entrails」16分)、「はらわた」というタイトルの本作は監督の故郷を舞台にしたドキュメンタリー、ロカルノ映画祭短編部門に正式出品された。第3作目が上記のドキュメンタリー「Los que desean」(英題「Those Who Lust」24分、スイスとの合作)である。長編デビュー作『ザ・ウォーター』は、サンセバスチャンFFのイクスミラ・ベリアク2018に選ばれ、REC Grabaketa Estudioa賞を得る。さらに2019年カンヌFFのシネフォンダシオンCNC賞を取得して『ザ・ウォーター』の製作資金となった。因みに一緒に受賞したのが『悲しみに、こんにちは』(17)の監督カルラ・シモンで、彼女の第2作目「Alcarras」(22)の製作資金となった。
(エレナ・ロペス・リエラとカルラ・シモン)
★本作はスペイン南東部、オレンジとタバコ栽培が主産業の監督の生れ故郷、〈ヨーロッパで最も汚染された川の一つ〉と言われるセグラ川が流れるベガ・バハ・デル・セグラで撮影された。現実と幻想の境界が混在する小さな村で、視聴者は17歳のアナに出会います。ここでは川は常に死と関わり合っており、母親は最近の洪水で行方不明になっていた。プロフェッショナルな俳優は母親役のバルバラ・レニーと祖母役のニエベ・デ・メディナ以外は、アナ役のルナ・パミエス以下すべてアマチュアだそうです。監督の母親や従姉たちも出演しているということです。ニエベ・デ・メディナ(マドリード1962)は、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』でルイス・トサールと夫婦役を演じ、シネマ・ライターズ・サークル賞やACE賞の助演女優賞、スペイン俳優組合新人・助演女優賞などを受賞しているベテラン演技派です。監督が信頼を寄せる撮影監督ジュゼッペ・トルッピはデビュー作以来、全作を手掛けている。
(撮影中の監督、カウンターの中に見えるのがルナ・パミエス)
★劇中で語られる水にまつわる伝説を信じている女性たちによって同じように育てられたという監督は、「恐怖を植え付ける方法はいくらでも存在します。レイプされるから夜は外出するな、アルコールは飲むな」、つまりレイプされるのは女性が夜歩きしたり飲酒をしたせいだという論法です。娘への愛から発したことも暴力になり得る。このような負の遺産は女性たちの心の中に内面化していくが、「母親や祖母たちもその考え方の犠牲者だ」と語る監督は、物語を3世代の女性に焦点を当てた理由を述べている。また映画製作の動機を「晩御飯のメニューを話しながら、祖母が医者に行く代わりに民間療法師に頼る話をする、二つに違いはなく、言い伝えと現実が混然一体となっているのが日常」だったことをあげている。昔話や占星術、宗教を必要とする人々が存在するのは普遍的です。
(サンセバスチャン映画祭でインタビューをうける監督、9月18日)
★「女性蔑視の社会で育った私は、今の10代の若者とは違って、自分のことを恥ずかしく思っていて、ほとんど前屈みで過ごした。マッチョ文化の悪影響は女性に限らず男性にとっても不幸です。幸い今の男の子は違います」と次の世代に希望を託しているようです。しかし「10代の演技経験のない若者を監督するのはもう大変で、ショックの連続でした。彼らは映画を観ることはなく、もっぱらネットフリックスでTVシリーズを見ているだけでしたから」と。30代にとって20代がエイリアンなら、10代の若者は何に譬えればいいのでしょうか。
★「ひと夏の瑞々しい青春映画」ではありますが、視点を変えると奥はかなり深そうです。映画の観方はそれぞれ違い、観た人が各々判断すればいい。
★映画祭のQ&A登壇者に、コンペティション部門の『1976』のマヌエラ・マルテッリ監督、『ザ・ビースト』にはスペイン・サイドの主演者ルイス・サエラ、『マンティコア』のカルロス・ベルムト、ワールド・フォーカス部門の『ラ・ハウリア』の製作者ジャン・エティエンヌ・ブラットとルー・シコトー、審査員でもあるポルトガルのジョアン・ペドロ・ロドリゲスの名前がアナウンスされています。
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