ディエゴ・レルマンの『UFOを愛した男』*ネットフリックスで鑑賞2024年10月31日 11:01

         UFOを愛した男――現実と伝説化されたエピソードが衝突する

 

    

             (メインキャストをちりばめたポスター)

 

ディエゴ・レルマンUFOを愛した男が、1018日からネットフリックスで配信が始まりました。サンセバスチャン映画祭SSIFF 2024のセクション・オフィシアルにノミネートされた折、期待を込めて作品紹介をいたしました。フェイクニュースを演出する主人公ホセ・デ・ゼルの行動を批判することがテーマでないことは分かっていましたが、それでももう少し工夫が欲しかったと思いました。勿論、レオナルド・スバラリアの罪ではありません。混乱はアルゼンチンのアイデンティティーの基本、一貫性のないジグザクしたところを楽しむことをおすすめします。既に内容紹介をしておりますが、鑑賞したことではっきりしたところもありますので、データを加筆して再録します。謎の多いホセ・デ・ゼルの人物紹介記事は、以下にアップしております。

UFOを愛した男』内容紹介記事は、コチラ20240817

   

     

  (左から、レオナルド・スバラリア、ディエゴ・レルマン監督、レナータ・レルマン、

       モニカ・アジョス、SSIFF2024924日フォトコールにて)

  

 

 UFOを愛した男(オリジナル題El hombre que amaba los platos voladores

製作:El Campo Cine / Bicho Films  協賛Netflix

監督:ディエゴ・レルマン

脚本:ディエゴ・レルマン、アドリアン・ビニエス

音楽:ホセ・ビラロボス

編集:フェデリコ・ロットスタイン

撮影:ボイチェフ・スタロン

音響:レアンドロ・デ・ロレド、ナウエル・デ・カミジス、他

メイクアップ:ベアトゥシュカ・ボイトビチ

衣装デザイン:フェオニア・ベロス・バレンティナ・バリ

製作者:ニコラス・アブル、ディエゴ・レルマン

 

キャスト紹介

レオナルド・スバラリアTVレポーター&ジャーナリストのホセ・デ・ゼル)

セルヒオ・プリナ(カメラマン、カルロス・〈チャンゴ〉・トーレス)

オスマル・ヌニェス(チャンネル6ニュース部長サポリッチ/サポ)

レナータ・レルマン(ホセの娘マルティナ)

マリア・メルリノ(ホセの元妻ロキシ)

アグスティン・リッタノ(超常現象研究家シクスト・スキアフィノ)

パウラ・グリュンシュパン(TV局職員アリシア)

エバ・ビアンコ(宇宙人報道の依頼人イサドラ・ロペス・コルテセ)

エレナ・ゲレロ・ブリ(ラ・カンデラリア・ホテルの受付エレナ)

フリオ・セサル・オルメド(チーフ製作者グティエレス/グティ)

ノルマン・ブリスキ(チャンネル6CEOチェチョ)

モニカ・アジョス(踊り子モニカ/モニ)

エドゥアルド・リベット(セロ採鉱組合理事長ペドロ・エチェバリアサ)

ダニエル・アラオス(消防署長レカバレン)

ギジェルモ・アレンゴ(精神科医ドメネク)

ほか多数

 

ストーリー1986年、ジャーナリストのホセ・デ・ゼルとカメラマンのチャンゴは、うさん臭い2人の人物から奇妙な提案を受け取り、コルドバ県のラ・カンデラリアに向かうことにした。村に到着したが、丘の中腹に円形の焼け焦げた牧草地があるだけだった。しかし、その後に起きたことはアルゼンチンのテレビ史上最高の視聴率を誇ることになる。類まれな才能の持ち主にして虚言癖の天才デ・ゼルがやったことは、未確認飛行物体UFOの存在を演出することだった。実際に起きた1980年代の宇宙人訪問詐欺を題材にしたコメディ仕立てのドラマ。現実と伝説化されたエピソードの衝突。

 

 

        「視聴率50パーセントでも家では一人でした」と娘

  

A: 監督は冒頭で主人公ホセ・デ・ゼルの人物像を明らかにする。ヘビースモーカー、一人暮らし、女性にはサービス精神旺盛のお豆ちゃん、根っからの迷信家で常に不安定、1967年に起きた第三次中東戦争、いわゆる「六日間戦争」に予備役少尉として従軍、シナイ砂漠を彷徨ったこと、どうやら宇宙人の存在を信じていることなどが、当時の予備知識ゼロの観客に知らされる。

B: シナイ砂漠の件は想像の産物だった可能性があり眉唾ものらしいです。要するにニュースを報道するジャーナリストというより、広く浅くエンターテイメントの報道をする芸能記者のアイコンだった。

    

         

          (モニカ役のモニカ・アジョスとホセ・デ・ゼル)

      

A: 19824月、イギリスを向こうに回して戦ったマルビナス戦争、いわゆるフォークランド戦争の敗北は、1976年からの軍事独裁政権の崩壊、民政移管の引き金になりました。1985年には独裁政権歴代の指導者の裁判があり、国民は明るいニュースを欲していた。

B: 99パーセント捏造でも、宇宙人訪問は格好の話題だったに違いありません。あの白髪頭だがハンサムなホセ・デ・ゼルがホントだと言っているんだから。

     

      

      (チャンネル6のマイクを手にフェイクニュースを届けるホセ・デ・ゼル)

         

A: 映画からは「UFO を愛した男」というより「視聴率を愛した男」という印象でしたが、実際のホセ・デ・ゼルは、家族のインタビュー記事などから「マイクをこよなく愛した男」のようでした。

B: 監督の娘レナータ・レルマンが演じたマルティナの本名は、パウラ・デ・ゼル1971)、父親と同じチャンネル9のプロデューサーだったそうですが。

    

       

           (父と一緒の写真をかざす娘パウラさん)

 

A: パウラさんによると、実は2歳のとき父親の女性問題が原因で両親は離婚していたので、劇中でのマルティナ登場はフィクション部分、パウラはコルドバには行ったことがない。マリア・メルリノ扮する元妻ロキシも同じだそうです。父親は時々パウラに会いにやって来たそうですが、母親はホセとの関係を断っていた。「パパは人生の90パーセントを仕事に費やし、視聴率50パーセントでも、家に帰れば一人、淋しい人生だった」、自分は一人娘というわけではなく、異母妹がいるとも語っている。撮影前にスバラリアが訪ねてきたので情報をいろいろ提供したようです。

    

         

      (クリニックの受診を渋るホセ・デ・ゼル、娘マルティナ、元妻ロキシ)

 

        見世物は真実より優位にある――チャンネル6はフィクション

 

B: まず映画では「チャンネル6」でしたが、本当は〈Nuevediario〉「チャンネル9」ですね。

A: やはりまだ実在している人が多いから差し障りを避けるためにも変更は必要です。監督は「9180度回転させると6になる」と。 

B: 最初、ホセが持ち込んだUFO ネタをガセネタとして即座に却下したオスマル・ヌニェス扮するニュース部長サポリッチ、「視聴者は政治問題の報道に飽きあきしている。視聴者が思い描くシナリオを物語るべき」と、ホセを援護する部下のアリシアも、モデルはいるとしてもフィクション部分。

 

     

           (オスマル・ヌニェス演じるサポリッチ部長)

   

       

       (サポ部長をけしかけるパウラ・グリュンシュパン扮するアリシア)

 

A: 視聴率低迷に悩んでいるサポ部長もアリシアの「他局に取られたら」に怖気づいて前言を翻す。真実より優位にあるのがショー、お茶の間も半信半疑で楽しんだのです。パウラさんの話では、父親も経済的に苦境にあり、どうしてもネタを手放したくなかったと語っています。

B: ノルマン・ブリスキが軽妙に演じていた「チェチョ」の愛称で呼ばれていたTV局オーナーもフィクションですか。

A: チェチョのモデルは、メディア界の大物アレハンドロ・ロマイで「チャンネル9の皇帝」と呼ばれていた人物。彼との出遭いが大きい、パウラさんによると父親の「長所と短所を認めて、ずっと目をかけてくれた」ということでした。

   

   

       (チャンネル6のオーナー「チェチョ」役のノルマン・ブリスキ)

 

B: あるときは「バカ」、あるときは「天才」と言っていた。出番はここだけでしたが存在感があった。

A: 横道になりますが、つい最近マルティン・フィエロ賞2024のガラがあり、ブリスキは栄誉賞を受賞したばかり、文化軽視の現政権を皮肉たっぷりに批判したスピーチが話題になっている。芸術は政治とは無関係などくそくらえです。ついでですがレオナルド・スバラリアも2022年に製作された「Puanで助演男優賞を受賞した。

  

        フィクションと現実の境界をぼかした現代のエル・キホーテ

 

B: 実名が一致するのは、ホセ・デ・ゼルと、セルヒオ・プリナが演じたカメラマンのカルロス・〈チャンゴ〉・トーレスの二人だけのようですが。パウラさんは「叔父さんとして家族同然だった」と語っています。

A: ホセが現代のエル・キホーテなら、チャンゴはさしずめサンチョ・パンサです。二人は正反対のようにみえますが、実は深いところで似ているのです。チャンゴはホセを上から目線の男、しつこくてうざったく思っているのに離れない、彼もUFO の存在を信じているようだ。

   

      

           (カメラマン〈チャンゴ〉役のセルヒオ・プリナ)

 

B: ホセの「ついて来い、チャンゴ、ついて来い!」の名セリフは、その年の流行語になった。

A: チャンゴを演じたプリナの淡々とした演技を褒めたいですね。どこかで見たことのある顔だなぁと思いながら観ていましたが思い出せないでいた。検索してみたら、アグスティン・トスカノの「El motoarrebatador」でバイク引ったくり犯を生業にしている男を演じていた俳優でした。当ブログでも紹介しているのでした。

   

El motoarrebatador」の作品紹介記事は、コチラ20180907

★サンセバスチャン映画祭2018オリソンテス・ラティノス部門にノミネートされ、オリソンテス賞スペシャルメンションを受賞、主役のミゲルを演じたセルヒオ・プリナがリマ・ラテンアメリカ映画祭、ハバナ映画祭で男優賞を受賞している。なら国際映画祭2018で『ザ・スナッチ・シィーフ』の邦題で上映された。ほかにマラガ映画祭2021フアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」(20)にも出演している。

 

B: UFOが着陸したと思われる牧草地、円形の黒こげのある丘も、同じコルドバ県ですが実際とは違うということですが。

A: 劇中のホセが登っていくコメルナ山ではなく、実際は海抜1979mの Cerro Uritorco ウリトルコ山ということです。当時とは景観が変わってしまっていて撮影地には適さなかった。それに消防署長以下、一般住民も大勢インチキに関わっていましたから。

  

          「メシア主義」の存在とフェイクニュースの関係

 

B: セロ採鉱組合の目的が、かつては金の採掘で活気があった土地を買い占めた不動産会社の観光事業のやらせだったことが分かってからも、ホセはUFOの存在を裏付ける証拠改竄にムキになる。

A: 監督は「メシア主義」」の存在とフェイクニュースが関係していると指摘しています。救世主の到来を信ずることは、ユダヤ教の信仰のなかでも重要です。シナリオには幾つも穴があるけれども、宇宙から到来する存在の根拠に乏しい信念が、ホセの合理主義的思考を蝕んでいると語っています。

   

   

   (UFO報道の仕掛け人、セロ採鉱組合役人を名乗るイサドラ役のエバ・ビアンコ)

  

B: 最後のシーンには唖然としました。本作は言うまでもなく、ホセ・デ・ゼルの人生を掘り下げるのがテーマではありません。

A: 深入りしたくありませんが、ホセは母親フローラがマイトレ劇場を経営していたので、後にアメリカに渡った女優の叔母さんに育てられたということです。その劇場のチケット売りをしていたが仕事が適当だったので辞めさせられた。その後、イスラエルのキブツにいた父親サミュエルに呼び寄せられてイスラエルに渡っている。謎が多くてどこまでが本当か分かりませんが、20代半ばで第三次中東戦争(1967)に従軍したのもそういう関係でしょうか。

 

B: その時まで父親がキブツにいたなんて知らなかったと言っている。ウイキペディア情報では、職業は「ジャーナリスト、軍人」です。帰国後、時期は不明ですが友人の紹介で「Gente」誌に就職している。ジャーナリスト誕生です。

A: 劇中でも息切れするほどの13箱のヘビースモーカー、そのうえコーヒー中毒者でもあり、112杯ぐらい飲んでいた。緊張からくるストレスで心も病んでいた。一番華やかだった時代は、チャンネル9に報道記者として在籍していた、1984年から1994年の10年間、1997年、罹患していたパーキンソン病と肺癌ではなく食道癌で56年の人生を駆け抜けた。旅立つときは「ママ、パパ、もう直ぐそっちに行くよ・・・行くから待ってて」と言ったとか。イスラエル人墓地に眠っている。

    

    

   (妻殺害でサンタフェ刑務所に収監されていたミドル級チャンピオンのボクサー

   カルロス・モンソンにインタビューするホセ・デ・ゼル、手にチャンネル9のマイク

 

A: ホセになりきったレオナルド・スバラリア(ブエノスアイレス1970)は度々紹介しておりますが、マラガ映画祭2017の大賞マラガ-スール賞を受賞した折にキャリアをアップしております。『10億分の1の男』で鮮烈デビューして以来、リカルド・ダリンに継ぐ知名度を保っています。

B: 監督は以前からタッグを組みたかったらしく、レオもオファーを待っていた。

 

A: ホセ役に「体型は拘らないが白髪頭は譲れないと考えていた」と監督。脚本は未完成だったが、即座にOK の返事がきた。

B: 前述したように「Puan」でマルティン・フィエロ助演男優賞を受賞したばかり、2025年の主演を期待したい。

 

A: ほかに超常現象や心霊現象を調べているシクスト・スキアフィノに扮したアグスティン・リッタノはサンティアゴ・ミトレの『アルゼンチン1985』、レルマンの『代行教師』、フェリペ・ガルベスの『開拓者たち』、管理人は未見ですが、デミアン・ラグナのホラー『テリファイド』に出演している。消防署長のダニエル・アラオスはマリアーノ・コーン&ガストン・ドゥプラットの『ル・コルビュジエの家』の怪演でアルゼンチン・アカデミー賞2010の主演&新人男優賞のダブル受賞を果たし、レルマンの『家族のように』にも出演している。

B: いつの時代でも「信じたいものを信じ、見たいものを見る」のが人間のようです。

    

   

            (本作撮影中のディエゴ・レルマン監督)


主な監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2017年09月03日10月23日

主なレオナルド・スバラリアの紹介記事は、コチラ⇒2017年03月13日


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