ペルー映画『アンデス、ふたりぼっち』劇場公開2022年07月05日 17:48

         死後における魂の永遠性と見捨てられていく老人たちの孤独

    

      

 

★第21回リマ映画祭2017でプレミアされた今は亡きオスカル・カタコラのデビュー作「Wiñaypacha」英題「Eternity」)が、この夏『アンデス、ふたりぼっち』の邦題で公開されることになりました(730日封切り)。5年前の製作とは言え、死後における魂の永遠性、無限の時、見捨てられていく親世代の孤独、家族の崩壊、と正にテーマは今日的です。アイマラ族の祖先伝来の生き方、宗教、家族、自然、伝統、苦悩などが調和よく語られます。アイマラ語の原題〈Wiñaypacha〉は「永遠、あるいは無限の時」の意ということです。仕方ないとはいえ邦題の陳腐さが歯がゆいことです。

 

オスカル・カタコラ紹介19878月、ペルー南部プーノ県アコラ生れ、監督、脚本家、撮影監督。アルティプラノ国立大学で演劇と情報科学を学ぶ。20211126日次回作「Yana-wara」撮影中、コジャオ州コンドゥリリで虫垂炎のため急死した。従って本作は長編デビュー作にして遺作となってしまった。本作は2013年、ペルー文化省が設立した「映画国民コンクール」で助成金40万ソルを獲得、これを元手にプロジェクトを立ち上げた。プーノ県の海抜5000メートルの高地で撮影、第21回リマ映画祭2017でプレミアされた。グアダラハラ映画祭2018ではオペラ・プリマ賞など3賞を受賞している。「アジア映画が好きで、特殊効果を派手に使用するのは好みではない。商業映画は撮らないと思う」と語っており、またイタリア・ネオレアリズモの作品、特にデ・シーカの『自転車泥棒』(48)は繰り返し鑑賞したと語っていた。

   

      

    (トロフィーを手にしたオスカル・カタコラ、グアダラハラ映画祭2018にて)

 

  

 『アンデス、ふたりぼっち』(原題Wiñaypacha2017年 

製作:CINE AYMARA STUDIOS  協賛:ペルー文化省Ministerio de Cultura de Perú

監督・脚本・撮影:オスカル・カタコラ 

編集:イレネ・カヒアス

プロダクション・デザイン:イラリア・カタコラ

製作者:ティト・カタコラ

 

データ:製作国ペルー、アイマラ語、2017年、ドラマ、86分、撮影地プーノ県マクサニ地区アリンカパック、撮影期間5週間、シネ・レヒオナル。2019年のアカデミー賞国際長編映画賞とゴヤ賞イベロアメリカ映画賞のペルー代表作品に選出されたがノミネートならず。配給:ケチュア・フィルム、Colomaフィルム(仏)、アマゾン・プライム・ビデオ(メキシコ、アメリカ)、公開:ペルー、メキシコ20184月、アルゼンチン20192月、日本20227月、他

 

映画祭・受賞歴:リマ映画祭2017ペルー部門作品賞、リマ大学映画コンクール2017ペルー作品賞、マル・デ・プラタ映画祭2017正式出品、グアダラハラ映画祭2018イベロアメリカ部門のオペラ・プリマ監督第1作作品賞・撮影賞、アンダー35の監督部門FEISAL賞の3賞、モントリオール先住民映画祭ドキュメンタリー部門Teueikan賞、他2019年のアンデス映画週間、パリ・ペルー映画祭、ウエルバ映画祭などに正式出品された。

 

キャスト:ロサ・ニナ(妻パクシ)、ビセンテ・カタコラ(夫ウイルカ)

   

    

        (パクシ役のロサ・ニナとウィルカ役のビセンテ・カタコラ)

  

ストーリー:海抜5000メートルの高地で暮らす老夫婦は、アイマラ語を喋るのは恥ずかしいと町に行ったきり帰らぬ息子アンテュクを待ちわびている。アイマラの文化と伝統を守りながら、親愛なる太陽神や大地母神パチャママに日々の糧と健康を祈る。ある日のこと、底をつきそうなマッチを買いにリャマを連れて町に下りていったウィルカが夜になっても帰宅しない。雨が降りだすなかパクシもカンテラを手に山を下りていくのだが、留守中に我が子同然の羊と牧羊犬がキツネに食い殺されてしまった。唯一夫婦に残されたリャマ、病魔に襲われたウィルカ、帰らぬ息子を待つパクシに次々と悲劇が襲いかかる。死後における魂の永遠性、無限の時、見捨てられていく親世代の孤独、家族の崩壊が静かに告発される。帰らぬ息子やマッチのメタファーは何か、風光明媚な自然の裏側に隠されているものは何か、ドキュメンタリー手法を多用した政治性の強い重たいフィクション。

 

 

       〈息子不在〉のメタファーは何か―自伝的なフィクション

 

A: ドキュメンタリーの手法を取り入れたフィクションですが、監督の自伝的要素が強く、主役ウィルカを80代の母方の祖父ビセンテ・カタコラが演じている。第一条件が「アイマラ語ができる80代以上の人」だった。それでオーディションをしてキャスティングして何人かにリハーサルしてもらったが、直ぐ疲れたと言って休んでしまい撮影どころではなかった。それを見かねた祖父が買って出てくれたというわけです。父方の祖父母は既に亡くなっていた。

 

     

              (葦笛ケーナを吹くウィルカ)

 

B: パクシを演じたロサ・ニナも同世代、プロではありませんが、芸術的な素質や社交的な性格から、友人に勧められた。これまで映画館に行ったことがないばかりか映画も観たこともなかったとか。

A: 監督談によると「私が何をすればいいのかよく分からないが、お役に立てると思う」と快諾してくれた。本当に幸運で信じられなかったと語っている。しかしいざ演技の準備を始めてみると、これが容易ならざることで、撮影開始まで6ヵ月以上を要した。

 

B: 二人とも即興でどんどん演じてしまうので会話が噛みあわず、これは大変と思ったそうですね。

A: 撮影方法をマスターできなかったのは当然ですよね。結果的には二人は多くの美点をもち貢献してくれた。映画をご覧になるとロサ・ニナは皺くちゃですが可愛らしい声をしています。劇中話されているアイマラ語はボリビアやペルー、チリの一部で使用、200万人の話者がいるそうで、うちペルーは30万人、主に舞台となるプーノ県で話されている。


ケチュア語と同じくアイマラ語も文字をもたない言語、現在の表記はスペイン語のアルファベットと記号を使用している。ボリビアの1984年に続いてペルーも翌年公用語に認定されている。

     

    

             (撮影中の監督とロサ・ニナ)

 

B: プーノ県はペルー南部に位置し、撮影地は標高5000メートルの高地、県都プーノ市は3800メートル、この1000メートルの高低差にプロジェクトは苦しんだ。

A: 監督の父方の祖父母は4500メートルのところに住んでおり、公用語のスペイン語を解さなかった。6歳ごろから休暇には兄弟と祖父母の家に行かされ、1年のうち34ヵ月間一緒に過ごし、結果的にアイマラ語ができるようになった。父親も叔父たちも忙しく行くことは稀で、これが〈息子不在〉のテーマになっている。

B: この体験が主人公たちの感じていた寂寥感に繋がり、監督は今では消えてしまった風習や伝統の目撃者になることができた。

   

A: この映画を作ろうと思ったきっかけは、アンデスの高地を訪れると、子供世代の高齢になった両親の放棄を間近に見ることが多かった。最初こそ年に数回帰郷したが自然に足が遠のいていった。親たちは我が子や孫たちに見捨てられたと感じ、寂しさに苦しんでいた。

B: つまり、この高齢になった親世代を見捨てることが、中心的テーマの一つと言っていい。ウィルカは息子の帰郷を既に諦めているが、パクシはそうではない。

 

A: 帰郷しない息子は、自分たちの文化遺産を継承できない子供たちのメタファー、それは視聴者であるかもしれません。継承できない子供は、生まれなかった子供と同じです。監督は「アンデスの文化と言語は社会からほとんど評価されていない」と嘆いています。

B: 社会から疎遠になっている人々をサポートする必要があります。監督自身は両親のお蔭で長老たちは尊敬されるべきであり、彼らが知恵袋であることを学びましたが、現在では少数派になっています。

A: ペルーに限らず、若い人にとって年寄りは迷惑な存在とまでは言いませんが重荷になりました。これは世界中に存在している事実です。    

 

         山は映画のもうひとりの主人公―パクシが向かう場所

 

B: 物語はサント・ロメリートの祝いの儀式から始り、夫婦は元気に長生きできるように「災難が遠ざかり、幸運が訪れるよう」に「ここには黄金の捧げもの、ここは銀の神殿です」と歌い踊る。ウィルカの吹くケーナに合わせてパクシが踊る。音楽はこれを含めて2回あるだけです。観客は風の音、小川のせせらぎ、雷鳴、雨や霰の音、炎のはぜる音、リャマや鳥の鳴き声など自然に聞こえてくるもので占められている。

   

A: この儀式からヨーロッパ大陸からもたらされたカソリックが元からあった宗教と独自に融合していることが知れる。また新しい年の始めには、コカの葉を携えて神聖な丘に登りパチャクティの儀式を行う。肥沃な畑や動物、新年になっても戻ってこない息子の健康を太陽神に祈る。また重要と思われるのがパクシがしばしば見る夢の内容に注目です。二人の咳、ウィルカの苦しそうな荒い息やいびきが伏線になってラストに雪崩れ込んでいく。

 

         

            (新年の祝いをするウィルカとパクシ)

 

B: 表層的には淡々と進んでいきますが、実はウィルカはコカの葉を通して前兆を読みとっていた。セリフを追っているだけでは本質が分からない。そして底をつき始めたマッチが大きな転回点になる。

A: マッチはグローバリゼーションの比喩、彼らはかつてはマッチという文明の利器に依存しないで暮らしていた。夫がマッチを買いに下山していくが手に入らず、妻の火の不始末のせいで物語は急展開していく。

B: 自給自足の日常のはずが、既にそうではなかったわけです。

 

        

         (マッチを買いにリャマと連れ立って下山するウィルカ)  

 

A: またアンデスの文化では、小山には男と女の性別があるということです。山は映画のもう一人の主人公、アンデスの世界観に倣って妻が向かうラストシーンに多くの観客は衝撃をうけると思います。

B: 公開前ですからこれ以上は触れることはできません。

A: 撮影場所を探すのに苦労したと語っていましたが、薄い酸素に慣れているとはいえ、5000メートル以上の高さでの撮影は大きな挑戦だったはずです。風光明媚な美しさは写真向きではありますが、その後ろに何が隠されているかを、私たちは読みとらねばなりません。

 

   

       (パクシとウィルカが並んだ石積みの象徴的なオブジェ)

 

        

     (パクシが向かう場所は何処か)

 

B: 本作には政治的批判をこめたメッセージが随所に見られます。美しい山岳映画、静かな夫婦愛を描いたヒューマンドラマではありません。

A: 先住民をないがしろにする国家への批判です。ペルーは地理的に大きく分けると、首都リマがあるコスタ(12%)、日本人観光客に一番人気のマチュピチュのある高地のシエラ(28%台)、アマゾン川のセルバ(60%)の3つの地形に分類される多文化国家です。コスタ地域に30パーセント以上の国民がひしめいている。プーナという4100メートル以上の高地は、寒冷のため人が暮らすには適しないと言われ、この地域で主にケチュア語とアイマラ語が話されている。若い人は都会に出て、スペイン語とのバイリンガルです。

 

B: 監督は「ペルーには母語となる言語は約49あるが徐々に消えていってます。国家がその回復を推進し始めたのはここ数年のことで、すると保存の名目で悪用する人が現れ、微妙な問題です」と。

A: 確かにデリケートな問題を抱えていますが、ただ保存すればいいというわけではない。次世代が継承できるようサポートするシステムが必要です。しかし映画のように家族が崩壊しなければ言語も慣習も伝統も残っていくはずです。その家族の存続が難問です。

 

B: 本作は5年前の作品ということで日本語字幕付ではありませんが、既にYouTubeNetflix、プライムビデオなどで視聴可能です。

A: 管理人はYouTubeスペイン語字幕で鑑賞しましたが、映像を堪能するなら映画はスクリーンに限ります。

 

  

 関連情報

ペルーコンテンポラリー映画祭~千年の文化が宿す魂の発見」として、インスティトゥト・セルバンテス東京でペルー映画5作の上映会があります(715日~16日、日本語字幕付)。オスカル・カタコラの『アンデス、ふたりぼっち』は含まれておりませんが、製作を手掛けた叔父ティト・カタコラのドキュメンタリー「パクチャPakucha2180分)がエントリーされています。アルパカの毛刈りの儀式を追ったものです。パクチャとはアルパカの精霊ということです。本作は夭折した甥オスカル・カタコラに捧げられています。監督は他にオスカルが2007年に撮った中編「El sendero del chulo」(45分、ドラマ)の撮影も手掛けています。

日時2022716日(土)13301450

場所:インスティトゥト・セルバンテス東京 地下1階オーディトリアム

*入場無料・要予約

 

    

      

           (ありし日のオスカルとティト・カタコラ)

 

マリリンにアナ・デ・アルマス*『ブロンド Blonde』Netflix 配信2022年07月10日 11:04

          ジョイス・キャロル・オーツの同名小説の映画化――『ブロンド』

 

       

★スペインでは自分が目指したような作品に恵まれず焦っていたアナ・デ・アルマスは、数年前にスペインを見限り、英語もままならないのにハリウッドに飛び込んだ。以来着々とキャリアを築いてきたが、遂にこの度マリリン・モンローの伝記映画『ブロンド』(原題Blonde」)でヒロインのマリリンに命を吹きこむことになりました。2019年の『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』の看護師マルタ役でゴールデン・グローブ賞(コメディミュージカル部門)主演女優賞にノミネートされましたが、本作はダニエル・クレイグ扮する探偵ブランが目玉でした。しかし今度はすべてのシーンに出ずっぱりの正真正銘の主役になる。アーサー・ミラーに扮するエイドリアン・ブロディもディマジオ役のボビー・カナヴェイルも脇役に回るでしょう。ハリウッド映画ですが、キューバ出身の頑張り屋さんがヒロインということでご紹介する次第。

 

★本作はジョイス・キャロル・オーツ1938の同名小説の映画化、監督は『ジェシー・ジエームズの暗殺』(07)や『ジャッキー・コーガン』(12)のオーストラリア出身のアンドリュー・ドミニク、脚本は監督と作家が共同執筆、Netflixオリジナル映画として2022923日配信が予告されました。小説は2000年に刊行されるとベストセラーになり、翌年ピュリッツァー賞と全米図書賞にノミネートされた。作家によると「本作と Them が最も記憶に残る」作品ということです。原作は『ブロンド―マリリン・モンローの生涯』(上下巻、2003年刊)として単行本が出版されている。ノーベル文学賞候補の常連のようですが。後者Them 1970年の全米図書賞を受賞しています。映画はマリリンの詳細なエピソードとフィクションの要素で構成されています。刊行の翌年、CBSTVミニシリーズとして放映されたときのマリリン役は、オーストラリア出身のポピー・モンゴメリーでした。

 

       

     (自作の映画化を「気に入った」と語るジョイス・キャロル・オーツ)

 

     

          (新作の出来栄えに自信を見せるアンドリュー・ドミニク

 

アナ・デ・アルマスは、1988年ハバナ生れ、キューバとスペインの二重国籍を持っている。2002年キューバ国立演劇学校に入学、在学中に「まだ演技が未熟」という学校側の反対を押し切って、マヌエル・グティエレス・アラゴン『カリブの白い薔薇』06、製作スペイン)に出演した。その後、本校を自主退学してスペイン在住の祖父母を頼ってキューバを脱出、マドリードに移住した。スペイン時代の出演作には、ラテンビート映画祭2009上映のお茶の間アイドル総出演の『セックスとパーティーと嘘』(アルフォンソ・アルバセテ&ダビ・メンケス共同監督)に主演した。原題「Mentiras y gordas」には、「これはあり得ない」という意味があるようですが、英語タイトルがそのまま翻訳された。さらにコメディと紹介されたが、居場所を見つけられない若者たちの〈痛い〉ドラマでした。

 

        

     (居場所が見つけられない若者たちの群像劇「Mentiras y gordas」から)

 

2014年にはダビ・メンケスの『秘密のキッス』14)やTVシリーズで人気を得ていたが、それでは満足できない女優は、オスカー女優を夢見てロスアンゼルスに飛び立った。そこからの快進撃は日本語ウイキペディアに詳しい。先述の作品以外でイーライ・ロスの『ノック・ノック』15)、『ブレードランナー 204919)では主役レプリカントに抜擢され、当ブログでもアップしたオリヴィエ・アサイヤスのWASP ネットワーク』では、WASPのメンバーの一人をスパイと知らずに結婚する役柄だった。また今年公開されたダニエル・クレイグが最後のボンドを演じる007シリーズ『ノー・タイム・トゥ・ダイ』21)では、華麗なアクションを披露した。女優はキューバ訛りの英語の特訓を受けて矯正したということですが、ノーマ・ジーンとマリリン・モンローという二つの人格に引き裂かれたダークな人生を演じるのは冒険だったことでしょう。とにかくオスカー像を狙えるスタートラインに立ったわけですが、マリリンの壊れた内面を演じられたかどうかが評価の鍵になる。

WASP ネットワーク』の作品紹介は、コチラ20200629

 

     

Blonde」のプロジェクトの企画はおよそ12年前、紆余曲折の連続だった。2019年にアナ・デ・アルマスに最終的に決定するまで、ナオミ・ワッツやジェシカ・チャスティンなどベテランの名前が候補に挙がっていた。最終的にブラッド・ピットの独立系制作会社であるPlan B Entertainment の資金提供をうけ、『ノック・ノック』のアナ・デ・アルマスの演技を記憶していたドミニクが決心したということです。この映画は、カンヌ、トロント、ベネチアなどの各映画祭で上映される予定でした。カンヌの主任ディレクターであるティエリー・フレモーがアウト・オブ・コンペティション上映を提案したが、Netflix は断ったということです。真偽のほどは分かりませんが、両者の過去の確執を考えると、まんざら嘘でもないでしょうか。ノーカットの代わりにNC-17指定、子供は見られません。

 

     

   

ビクトル・エリセ、30年ぶりに商業映画に復帰*「Cerrar los ojos」2022年07月15日 12:10

          カンヌ映画祭2023プレミアを視野に新作「Cerrar los ojos」に着手

   

  

       (ビクトル・エリセ、201911月、ビルバオ美術館にて)

   

★先日、75日にビクトル・エリセ(ビスカヤ県カランサ、1940)が4作目となる長編映画Cerrar los ojosを準備中というニュースが駆けめぐった。プロダクションの正式なプレス会見での発表ではなく、アンダルシア州の公共テレビのカナル・スールが資金提供する11本のフィクションと18本のドキュメンタリーのなかにエリセの新作も含まれており、「ホセ・コロナドとマリア・レオンが主演します」というアナウンスをした。続いて制作会社はタンデム・フィルムズTandem Filmsのほか、マラガの制作会社ペカド・フィルムズPecado Films、エリセ自身の制作会社ノーチラスNautilusであることが明らかになった。ただし本作の準備を秘密裏に進めてきたタンデムの製作者クリスティナ・スマラガは、この報道の取材に応じなかったようです。というわけでウラがとれておらず全体像が見えておりませんが、脚本の執筆は昨年の秋から着手、共同執筆者はミシェル・ガスタンビデということも分った。今年の10月にクランクインの予定なら、2023年のカンヌ映画祭上映の可能性もゼロではないか。

     

   

               (新作を準備中のビクトル・エリセ)

    

710日付のエル・パイス紙の記事によると、物語は20124月、「Quién sabe dónde」というスタイルのテレビ番組から始まり、今は引退して漁業をしているベテラン監督、作家でもあった人物を探しあてます。家族の不幸と2作目となるはずだった大作の頓挫で沈黙していた監督役にヒネス・ガルシア・ミリャンが扮します。この監督の兵役時代からの友人であり、2作目の主人公であった俳優が姿を消してしまったことで映画は未完成になっていた。この46歳でゴヤ賞を受賞したガラン俳優役にホセ・コロナドが扮します。このカップルはガールフレンドたちも共有しており、この切っても切れない二人の友情とアバンチュールを中心に展開するようです。マリア・レオンはそのガールフレンドの一人ということでしょうか。以上の3人以外は未発表、まだIMDbがアップされておらず、本格的なキャスティングはスクリプト完成後になるのでしょうか。

 

★肝心のスクリプトは目下推敲中だそうですが、読んだ関係者は「大幅な変更はない」と保証していますので、4作目となるエリセの商業映画への復帰作は、ベテラン監督と彼の映画の主演俳優間の友情についてのノスタルジックなドラマとなりそうです。ビクトル・エリセの紹介など今更の感がありますが、1992年のドキュメンタリー『マルメロの陽光』以来、30年間長編を撮っておりません。1999年、フアン・マルセの小説 El embrujo de Shanghai の映画化の脚本に3年間費やしましたが、最終的に撮影に至りませんでした。2002年、別バージョンの脚本でフェルナンド・トゥルエバが完成させました。

     

   

               (画家アントニオ・ロペス、『マルメロの陽光』から)

  

★しかし今回は上述しましたようにミシェル・ガスタンビデが共同執筆者、予断は許しませんが大いに期待できます。彼はフリオ・メデムの『バカス』(92)でシネマ・ライターズ・サークル賞、エンリケ・ウルビス『悪人に平穏なし』ではゴヤ賞2012オリジナル脚本賞を監督と受賞しています。ウルビスとはホセ・コロナドが主演した『貸し金庫507』(02)でも共同執筆しています。1958年プロヴァンス生れ、主に監督との共同執筆がもっぱらですが、相手によって仕事のやり方を選んでいる。気難しいエリセとの共同執筆はうまくいってるのでしょうか。詩人、監督、脚本の指導教官と多才な人です。

 

           冬眠していたわけではないビクトル・エリセ

 

★ビクトル・エリセのキャリア&フィルモグラフィーは後日にアップしますが、エリセは結構短編を撮っているほか、イランのアッバス・キアロスタミとのオーディオビジュアルによる書簡をやりとりしています。また2002年には、7人の監督による10分間ずつのオムニバス映画10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』に、「ライフライン」で参加した。本作の舞台はエリセが生まれた年と同じ1940年、スペインの片田舎で一つの生命が誕生する自伝的なモノクロ作品。アキ・カウリスマキ、ヴェルナー・ヘルツォークなどをおさえて7作中では最も印象深い秀作、批評家からも観客からも絶賛されました。

 

2006年、「La morte rouge」(32分)は、5歳のとき初めて見た映画を語る短編、映画とはロイ・ウィリアム・ニールのミステリー『シャーロック・ホームズ 緋色の爪』(1944)を指し、後年の自作に大きなインパクトを与えたという。2007年「Sea-Mail」(4分)と「Víctor EriceAbbas KiarostamiCorrespondencias」(96分)は、バルセロナの現代文化センターの依頼によるアッバス・キアロスタミとのビデオ往復書簡、2011年、21人の監督からなる共同作業「311 Sense of Home」は、河瀨直美の呼びかけで2011311日に起きた東日本大震災の犠牲者に捧げられた各311秒の短編でした。エリセはアナ・トレントと再びタッグを組んで参加した。

 

   

           (短編「La morte rouge」のポスター)

   

   

 (ビデオレター「Víctor EriceAbbas KiarostamiCorrespondencias」のポスター)

 

2012年、「Centro Histórico」は、ポルトガルの世界遺産ギマランイス歴史地区を題材にしたオムニバス映画。エリセの「Vidrios partidos」(「割れたガラス」)のほか、アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタマノエル・ド・オリヴェイラ4監督が参加している。本作は第13回東京フィルメックス映画祭2012の特別招待作品として上映され、翌年『ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区』の邦題で公開された。

  

    

      (ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、バジャドリード映画祭、201310月)

 

★そのほか、昨年11月にエリセは、バスクの彫刻家ホルヘ・オテイサに関するエッセイ「Piedra y cielo」を発表しました。その折りのマスメディアとの会談で、90年代から業界は根本的に変化して、リュミエール兄弟以来の映画は映画館のスクリーンで見る体験がなくなり、映画館が残骸として残った。テレビやタブレットで見ることを否定しないが、映画を見る理想の場所は映画館であると語っている。

  

★「問題は映画を製作することではなく、それが映しだされる場所なのですが、これが難問です。1992年以来、私は長編ではありませんがかなりの仕事をしてきましたが、ほとんど知られていません。私の最後の商業映画のリリースは、アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、マノエル・ド・オリヴェイラと一緒に作った「Centro Histórico」ですが、映画を上映する場所を確保するためにお金を払わねばならず、監督たちの知名度にもかかわらず、スペインではほとんど誰も見ていません。これがこの国で起こっている現実です」とも語っている。しかし新作「Cerrar los ojos」のニュースは駆けめぐり、映画界はエリセの新作を熱心に待っています。

    

★キャスト紹介は気が早いと思いますが、主役の監督役に決定しているヒネス・ガルシア・ミリャンを簡単に紹介しておきます。1964年ムルシア州プエルト・ルンブレラス生れ、映画、TV、舞台俳優、1992年デビュー。当ブログでの紹介記事は初めて、主にTVシリーズに出演、2008年「Herederos」でスペイン俳優組合TVシリーズ部門の助演男優賞を受賞している。イサベル女王の生涯を描いた「Isabel」(141113)のフアン・パチェコ役、「Matadero」(1019)のパスクアル役、直近では Netflix  初出演のメキシコを舞台にした『そしてサラは殺された』(3シーズン25話、2122)で主役のセサル・ラスカノを演じている。他に字幕入りで見られる『海のカテドラル』(8話、2018)も Netflix で配信された。

   

   

             (ヒネス・ガルシア・ミリャン)


★映画では、主に脇役ですが、チェマ・デ・ラ・ペーニャの1981223日に起きた軍部のクーデタを描いた「23-F: la pelicula」(11)でアドルフォ・スアレス首相を演じた。グラシア・ケレヘタのコメディ「Felices 140」(15)、エンリケ・ウルビスの歴史物「Libertad」(21)ほか、脇役が多いので出演数は多い。主役を演じるのは今回が初めてでしょうか。

Felices 140」の作品紹介は、コチラ20150107

Libertad」の作品紹介は、コチラ20210406

 

ホセ・コロナド(マドリード1957)については、Netflix で配信されたミゲル・アンヘル・ビバスの『息子のしたこと』(18)、TVシリーズ『麻薬王の後継者』(1820)など、最近の出演作はアップしておりませんが、既にキャリア紹介をしています。マリア・レオン(セビーリャ1984)については、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス 沈黙の叫び』(11)他でキャリア紹介をしています。いずれキャスティングが確定してからアップします。

 

ホセ・コロナド関連記事は、コチラ2014032020170417

                 /20180729

『貸し金庫507』の紹介記事は、コチラ20140325

 

マリア・レオンの紹介記事は、コチラ2014041320150202

『スリーピング・ボイス 沈黙の叫び』の作品紹介は、コチラ20150509

 

ビクトル・エリセの第4作目「Cerrar los ojos」②2022年07月25日 17:09

       国立映画学校の実習制作「テラスにて」からCerrar los ojosまで

 

ビクトル・エリセの長編4作目となるCerrar los ojos」が映画データベースIMDbにアップされました。前回紹介した内容に止まり新味はありませんが、かつて何回かあった脚本段階での打ち切りはないと判断して、キャリア&フィルモグラフィーを列挙します。前回は『マルメロの陽光』(92)以降をご紹介しましたが、今回は国立映画研究所 IIEC1947年設立)の実習制作「テラスにて」からCerrar los ojos」までとします。日本語版ウイキペディアとスペイン語版には、製作年ほか若干の相違がありますが、概ね後者によりました。1998年、詩人のイサベル・エスクデロ、ラモン・カニェリェス監督と自身の制作会社ノーチラス・フィルムズ Nautilus Films  を設立、それ以後の作品を製作している。

 

 主なフィルモグラフィー(「」は仮訳、『』は公開・DVDの邦題)

1961 En la terraza(「テラスにて」4分、無声、モノクロ)監督・脚本

1962 Entre las vías(「レールの軌間」9分、無声、モノクロ)監督・脚本

1962 Páginas de un diarios perdido(「失われた日記のページ」12分、無声、白黒)監督・脚本

1963 Los días perdidos(中編「失われた日々」41分、モノクロ)監督・脚本

1969 Los desafíos(『挑戦』第3話、邦題DVD)監督・脚本

1973 El espíritu de la colmena(『ミツバチのささやき』97分)監督・脚本

1983 El sur(『エル・スール』94分)監督・脚本

1992 El sol del membrillo(『マルメロの陽光』135分)監督・脚本

2002  Ten Minutes del OlderThe TrumpetLifeline)監督・脚本

   (オムニバス『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』ライフライン、10分)

   スペインでは配給の問題で未公開。

2002 Alumbramiento(「誕生」10分、上記を短編として独立させたもの)

   パンプローナ開催の第3回プント・デ・ビスタ映画祭2007のクロージング作品

2006 La morte rouge(「緋色の死」34分、カラー&モノクロ)

2007 Sea-Mail(「船乗り-メール」4分、カラー)

2007 Victoe Erice: Abbas Kiarostami: Correspondencias

   (「アッバス・キアロスタミとのビデオ往復書簡」98分)

   *2005年~2007年に交わした10通のビデオレター

2011 3.11 Sense of HomeEpisodio Ana Three Minutes ドキュメンタリー、3)

2012 Centro HistóricoEpisodio Vidrios partidos)監督・脚本

   (オムニバス『ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区』割れたガラス」30分)

2019 Piedra y cielo(「石と空」ドキュメンタリー、17分) 

2023 Cerrar los ojos (製作年は未定)

 

1967 El próximo otoño(監督アントニオ・エセイサ「今度の秋」)脚本、監督との共同執筆

1968 Oscuros sueños de agosto(監督ミゲル・ピカソ「8月の暗い夢」)脚本、監督との共同執筆

1998 La promesa de Shanghai(「上海の約束」)

 1994年、フアン・マルセの小説 El embrujo de Sanghai の映画化を、プロデューサーのアンドレス・ビセンテ・ゴメスはエリセに依頼した。作家の熱意もあって3年かけて10バージョンほど脚色したが、3時間という長尺は経済的な理由で調整できず、主演の一人にフェルナンド・フェルナン・ゴメスを決定していたにもかかわらず、19993月突然中止になった。その後フェルナンド・トゥルエバの手に渡り、2002年、別バージョンで「El embrujo de Sanghai」として完成させたので、エリセの脚本は使用されなかった。

 

 

   エリアス・ケレヘタに見出された才能、オムニバス映画「Los desafíos

   

1940630日、バスク自治州ビスカヤ県カランサ生れ、監督、脚本家。一家は数ヵ月後にサンセバスティアンに引っ越し、彼の地で育った。高校卒業後、17歳でマドリードに移り、マドリード中央大学(現マドリード・コンプルテンセ大学)では、政治学と法学を専攻した。その後、1960年に国立映画研究所に入学して映画を学んだ。このイタリア映画のネオレアリズモの新しい流れを汲む映画学校の第1期生が、フアン・アントニオ・バルデムルイス・ガルシア・ベルランガである。エリセは実習制作として1961年の短編「En la terraza」と、1962年の「Páginas de un diarios perdido」を16ミリで撮り、1963年の「Los días perdidos」で監督資格をとって卒業した。

 

★映画評論家として「芸術と思想」や「ヌエストロ・シネ」などの雑誌に映画批評を執筆するかたわら、バシリオ・マルティン・パティノの「Tarde de domingo」の進行記録係、ミゲル・ピカソの「Oscuros sueños de agosto」やアントニオ・エセイサの「El próximo otoño」の脚本を監督と共同執筆、俳優としてマヌエル・レブエルタの映画に出演している。

 

1969年、エリセはクラウディオ・ゲリン(第1話)ホセ・ルイス・エヘア(第2話)3監督によるオムニバス映画「Los desafíos」(『挑戦』)を撮る。3人ともIIECの有望な卒業生として、当時の大物プロデューサーであったエリアス・ケレヘタが推薦した。脚本には名脚本家であったラファエル・アスコナが共同執筆者として参加している。音楽にルイス・デ・パブロ、撮影にルイス・クアドラド、編集にパブロ・G・デル・アモ、美術にはまだ監督デビューしていなかったハイメ・チャバリと、4年後の長編デビュー作『ミツバチのささやき』と同じ布陣で臨んでいる。第3話を務めたエリセは、チンパンジー連れのアメリカ人、スペイン人、キューバ人の若者グループが突然おこすハプニングを描いている。

 

      

              (唯一生き残るチンパンジーのピンキーを配したポスター)

       

3話に共通して主演したディーン・セルミエがアメリカ的生活様式と価値観を体現し、スペイン側の相克と攻撃性が語られており、3話ともに出口なしの結末である。サンセバスチャン映画祭1969監督部門の銀貝賞、シネマ・ライターズ・サークル賞では脚本賞と第2話に主演したアルフレッド・マヨが男優賞を受賞してケレヘタの期待に応えている。キャストはブニュエル映画でお馴染みのフランシスコ・ラバル、アスンシオン・バラゲル、テレサ・ラバル、フリア・グティエレス・カバ、フリア・ペーニャ、ルイス・スアレスなど、当時のスターが出演している。

   

   

               (ディーン・セルミエとピンキー)

  

2019年、エリセは「Piedra y cielo」をナバラで撮影した。これはビルバオ美術館がプロデュースしたホルヘ・デ・オテイサの彫刻作品とアギーニャ山の頂上にあるミュージシャンのアイタ・ドノスティアのモニュメントについてのビデオ・インスタレーション。「Espacio Día」(11分)と「Espacio Noche」(6分)の二部構成。映像にはピアニストのホス・オキニェナの演奏によるアイタ・ドノスティアの音楽テーマと、オテイサの詩の断片が挿入されている。20191113日ビルバオ美術館でプレミアされた。オテイサはギプスコア県(オリオ1908~サンセバスティアン2003)出身のバスクを代表する彫刻家で詩人。ナバラにホルヘ・オテイサ美術館がある。

 

★長編3作(『ミツバチのささやき』『エル・スール』『マルメロの陽光』)については、いずれアップするとしても既に語りつくされている感があり、今回は受賞歴にとどめます。監督は常々フィクションとドキュメンタリーは同じと語っておりますので、『マルメロの陽光』は区別しませんでした。

   

『ミツバチのささやき』El espíritu de la colmena1973

 サンセバスチャン映画祭1973金貝賞

 シカゴ映画祭1973シルバー・ヒューゴ

 シネマ・ライターズ・サークル賞1974 作品賞・監督賞・男優賞(フェルナンド・F・ゴメス)

 フォトグラマス・デ・プラタ賞1974俳優賞(アナ・トレント)

 ACE1977女優賞(アナ・トレント)、監督賞

 

  

     

        (フランケンシュタインに出会った瞬間のアナ・トレント)

  

『エル・スール』El sur1983

 シカゴ映画祭1983ゴールド・ヒューゴ

 サンジョルディ賞1984作品賞

 サンパウロ映画祭1984批評家賞

 ASECAN(アンダルシア・シネマ・ライターズ)1984 スペインフィルム賞

 フォトグラマス・デ・プラタ賞1984作品賞

 シネマ・ライターズ・サークル賞1985監督賞

 他、カンヌ映画祭1983コンペティション部門にノミネートされ好評をえる。フォトグラマス・デ・プラタ賞にイシアル・ボリャインがノミネートされた。

 

      

     

          (15歳の少女を演じたイシアル・ボリャイン)

 

『マルメロの陽光』El sol del membrillo1992

 カンヌ映画祭1992審査員賞・国際映画批評家連盟賞FIPRESCI

 シカゴ映画祭1992ゴールド・ヒューゴ

 サンジョルディ賞1993 特別賞

 ADIRCAE1993 監督賞

 ASECAN1994 スペインフィルム賞

 トゥリア賞1994 スペインフィルム賞

 ACE1996 作品賞

 

      

   

                (画家アントニオ・ロペス)

 

★他に栄誉賞として、1993年映画国民賞、1995年芸術功労賞金のメダル、2012年スペイン映画史家協会栄誉賞、2014年ロカルノ映画祭生涯功労賞としてヒョウ賞を受賞している。

        

         

      (トロフィーを手にしたビクトル・エリセ、ロカルノ映画祭2014


第70回サンセバスチャン映画祭2022*ドノスティア栄誉賞発表 ①2022年07月26日 18:04

ドノスティア栄誉賞にダヴィッド・クローネンバーグとジュリエット・ビノシュ

 

      

      (第70SSIFFの顔はフランス女優ジュリエット・ビノシュ)

 

★スペイン最大の国際映画祭サンセバスチャン映画祭 SSIFF のニュースが入ってきています。今年も対面イベントとして916日から24日までの9日間です。例年通りメイン会場はクルサール・ホール、第70回という節目の年になりますが、10年前のようにはいかないでしょう。今年の映画祭の顔にはフランス女優ジュリエット・ビノシュが選ばれ、ポスター制作者は同じフランス出身、ニューヨークで活躍する写真家ブリジット・ラコンブです。各セクションの公式ポスター、ドノスティア栄誉賞(デヴィッド・クローネンバーグとジュリエット・ビノシュ)、セクション・オフィシアル以下サバルテギ-タバカレラ部門などのノミネーションが発表になっています。ただし目下のところはスペイン映画だけですが、ぼちぼち紹介し始めます。

 

         

              (各セクションの公式ポスター)

 

77日にアナウンスされたセクション・オフィシアルのオープニング作品は、アルベルト・ロドリゲスの久々の新作「Modelo 77Prison 77」、アウト・オブ・コンペティション上映作品、当ブログでもお馴染みのミゲル・エラン、ハビエル・グティエレス、ヘスス・カロサ、フェルナンド・テヘロ、ハビ・サエスの男性陣に、カタリナ・ソペラナがクレジットされています。1977年、バルセロナのモデロ刑務所で起きた実話にインスパイアされた作品、友情、団結、自由が語られる。ダニエル・モンソンの『プリズン211』(09)とは切り口が異なるプリズンもの。

 

      

        (左から、監督、ハビエル・グティエレスとミゲル・エラン)

 

★金貝賞を競うセクション・オフィシアルには、フェルナンド・フランコミケル・グレアピラール・パロメロハイメ・ロサーレス4作品と特別上映のイサベル・コイシェ、アウト・オブ・コンペティションには、上記のアルベルト・ロドリゲスの「Modelo 77Prison 77」ほか、ロドリゴ・ソロゴジェンラウル・アレバロイサ・カンポアルベルト・ロドリゲスイサキ・ラクエスタ5監督による5章からなる「ApagónOffworld」がエントリーされている。

 


      (左から、フランコ、グレア、パロメロ、ロサーレス、コイシェ)

 

   

    (左から、ソロゴジェン、アレバロ、カンポ、ロドリゲス、ラクエスタ)

 

★次回から、ドノスティア栄誉賞受賞者のキャリア&フィルモグラフィー、セクション・オフィシアルの作品紹介をしていきます。

   

フェルナンド・トゥルエバの『あなたと過ごした日に』劇場公開2022年07月28日 17:09

      コロンビアのエクトル・アバド・ファシオリンセのベストセラー小説の映画化

 

      

 

★当ブログでは原題の「El olvido que seremos」で紹介していたコロンビア映画が邦題『あなたと過ごした日に』で劇場公開されています。アンティオキアの作家エクトル・アバド・ファシオリンセのベストセラー小説 El olvido que seremos の映画化、製作はコロンビアのカラコルTV(副社長ダゴ・ガルシア)だが、監督にビリー・ワイルダーを師と仰ぐフェルナンド・トゥルエバ、作家の父親エクトル・アバド・ゴメスハビエル・カマラ、脚色に監督の実弟ダビ・トゥルエバ、編集にトゥルエバ映画を数多く手掛けているマルタ・ベラスコなどスペインサイドが受けもった。キャストはカマラ以外オールコロンビアという合作映画。1987年、メデジンの中心街で私設軍隊パラミリタールの凶弾に倒れた、医師で国内外の人権擁護に尽力したアバド・ゴメスの生と死が描かれている。

   

       

            (作家エクトル・アバド・ファシオリンセ)

 

★おそらく邦題には苦労したと思われますが、『あなたと過ごした日に』では味もそっけもない。原題はホルヘ・ルイス・ボルヘスのソネットAqui, hoy の冒頭の1行目「Ya somos el olvido que seremos」から採られている強いて訳せば「我らは既に忘れ去られている」か。知人友人に贈る詩集として300部限定で出版されたものです。小説刊行後にその存在を疑問視する事態になった経緯があり、それが活かされなかったのが残念です。人間は何でも直ぐ忘れてしまうのですが、邦題もこれではいずれ忘却の彼方に消えてしまうでしょう。

 

★本作はカンヌ映画祭2020コンペティション部門に選ばれた作品でしたが、カンヌが対面イベントの開催を見送ったため、サンセバスチャン映画祭でプレミアされた。セクション・オフィシアルでもアウト・オブ・コンペティション上映になったのは、既にコロンビアで公開されていたことがあった。クロージング作品に選ばれた。オンライン上映となったラテンビート映画祭2020では、Forgotten We'll Beの英題でオープニング作品として唯一つ新宿バルト9での特別上映でした。またゴヤ賞2021のイベロアメリカ映画賞にコロンビアを代表してノミネートされ、結果受賞しました。本作の公式サイトは、主人公エクトル・アバド・ゴメス以下、スタッフ陣紹介も含めて非常に充実しています。当時のコロンビアの時代背景が知りたい方にお薦めです。

   

    

  (トゥルエバ監督とハビエル・カマラ、サンセバスチャン映画祭2020、フォトコール)

 

作品紹介、作家紹介、製作余話などの記事は、コチラ20200614

サンセバスチャン映画祭2020の記事は、コチラ20201010

ラテンビート2020の特別上映の記事は、コチラ20201023

ゴヤ賞2021の授賞式の記事は、コチラ20210308

 

『あなたと過ごした日に』公開

東京都写真美術館ホール(恵比寿)、2022720日~、全国順次公開