特別賞ビスナガ・シウダ・デル・パライソ*マラガ映画祭2020落穂ひろい ⑰ ― 2020年09月02日 20:04
アルゼンチンのオスカル・マルティネスもビデオ出演

(ビデオで受賞スピーチのオスカル・マルティネス、8月27日)
★特別賞のうち一番の大賞がマラガ・スール賞ですが、予定されていたガエル・ガルシア・ベルナルが来マラガできないこともあって中止になりました。そのほかハビエル・フェセル監督のマラガ栄誉賞も同様に中止、授賞式は来年回しになったのでしょうか。本当に異例ずくめのマラガでした。
★今年は特別賞ビスナガ・シウダ・デル・パライソは2人、マラガ出身の女優キティ・マンベールについてはアップ済み、彼女は、ベルナベ・リコが観客賞を受賞した「El inconveniente」出演でマラガ女優賞も受賞しましたから喜びもひとしおだったでしょう。
*キティ・マンベールの紹介記事は、コチラ⇒2020年08月27日
★もう一人がアルゼンチンの俳優、作家、舞台演出家のオスカル・マルティネス(ブエノスアイレス1949)でした。来マラガできないのでビデオ出演でした。本邦ではダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14)やガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンのシリアス・コメディ『笑う故郷』(16)で主役のノーベル賞作家を演じたことで人気度も高い。トロフィーはコロナ感染(8月10日公表)から回復したアントニオ・バンデラスの手から渡されたということです。バンデラスは「マラガの顔」だから間に合って何よりでした。
*『人生スイッチ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年07月29日
*『笑う故郷』の紹介記事は、コチラ⇒2016年10月13日/同年10月23日

(『人生スイッチ』の一場面から)

(映画祭巡りをした勲章を入れた『笑う故郷』のポスター)
★深々と椅子に腰をおろすと「じゃ、始めますか」と受賞者、成功の快楽と受賞の喜びの中で凍えていますと。アルゼンチンの季節は冬なのです。もう義務のように生きていますが、この瞬間を楽しむことが重要だと感じています。とても嬉しいですが、翌日か数日後には忘れてしまいます。皮肉屋のマルティネスらしいスピーチです。「自分はマラガには借りがあります。マラガはとても寛大で、2度も賞を頂きました」。これは2016年の助演男優賞(セバスティアン・ボレンステインの「Kóblic」『コブリック大佐の決断』DVDタイトル)と2019年の男優賞(サンティ・アモデオの「Yo, mi mujer y mi mujer muerta」)のことです。今回の受賞でトロフィーが3個、コレクションが増えました。
*「Kóblic」の紹介記事は、コチラ⇒2016年04月30日
*「Yo, mi mujer y mi mujer muerta」の受賞記事は、コチラ⇒2019年04月18日

(マラガ映画祭2019男優賞の授賞式にて)
★現在はもっぱら映画に出演していますが、俳優としてのキャリアを磨いたのは長い舞台生活でした。舞台は「役者としての道具を鍛え、演技に磨きをかける場所だから」とコメントした。自分はまだ青年だと思っており、物語に魅せられると、どの仕事に打ち込むか分からないで二者択一を迫られる。戯曲を書いたり、俳優という職業についてのエッセイも3冊出版している。71歳はまだ鼻垂れ小僧、可能性に満ちている。
リカルド・フランコ賞にタチアナ・エルナンデス*マラガ映画祭2020 ⑱ ― 2020年09月05日 09:07
映画の裏方衣装デザイナーにリカルド・フランコ賞

(トロフィーを手に受賞スピーチをするタチアナ・エルナンデス、8月28日)
★マラガ映画祭2020特別賞の最終回は、リカルド・フランコ賞、受賞者タチアナ・エルナンデス(サンタ・クルス・デ・テネリフェ1968)のご紹介。エルパイスの記事によると、プレゼンターノエミ・ルイスの「衣装は物語を理解する重要な第一歩であり、どんなフィクションでも真実を与える可能性を秘めている」という挨拶で始まった。エルナンデスの受賞スピーチは「自分がこの賞を戴くのにふさわしいかどうか、また映画を生み出す産業の一員であることを考えて、この受賞に感謝しています。この仕事を続けてこられて幸せです。多くのプロフェッショナルな仲間にお礼を言いたい」と。
★本賞の正式名はマラガ・フェスティバル・リカルド・フランコ賞といい、スペイン映画アカデミーとのコラボレーションです。従って現会長がプレゼンターになることが多い。1999年50歳で鬼籍入りした監督、脚本家、製作者のリカルド・フランコを讃える賞です。主に表舞台に登場しないシネアストが受賞するケースが多い。フランコ映画は『パスクアル・ドゥアルテ』や『エストレーリャ~星のまわりで』(ゴヤ賞1998作品・監督賞ほか受賞)がミニ映画祭で上映されている。直近の受賞者としては、2019年が脚本家のラファエル・コボス、2018年が国際級の衣装デザイナーのパコ・デルガドでした。
★サンタ・クルス・デ・テネリフェ生れだが、マドリードのコンプルテンセ大学で情報科学を学び、最初は映画を網羅した美術全体を制御するアートディレクターを目指していた。授賞式前に行われた映画祭ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルのインタビューでは「私には、仲間と一緒にやることがたくさんあると思います。今まで熱心に仕事をしてきましたが、今後も新しいプロジェクトに挑戦したい」と語っている。共同作業だから監督との相性もあり、いつも上手くいくとは限らないようです。両親を含めて家族の協力なしには続けられない仕事と語っている。「衣装で何を呼び起こしたいか、生地の特徴を生かして色彩に生命と意味を与えるようにする」、理論的にはシンプルに聞こえますが、実際はそんなに簡単ではないとも語っている。歴史物では時代考証も必要です。

(ビガルのインタビューに応じるタチアナ・エルナンデス、8月28日)

(ポスターを背にしたエルナンデス)
★時代考証が必要だったのがゴヤ賞2011衣装デザイン賞を受けた、アンドルッシャ・ワッディントンの「Lope」でした。スペイン黄金世紀を代表する劇作家ロペ・デ・ベガの伝記映画です。ワッディントン監督はブラジルの監督、2000年の「Eu Tu Eles」でカンヌ映画祭「ある視点」でスペシャル・メンションを受賞している。同年東京国際映画祭では『エゥ・トゥ・エリス』の邦題で上映された後、『私の小さな楽園』で公開された。よくできた作品で国際映画祭巡りをしているがブラジル映画なので、スペインでは「Lope」の監督として知られている。その他、タッグを組んだ監督は、ギレルモ・デル・トロの『デビルス・バックボーン』、ハビエル・フェセルの『モルタデロとフィレモン』や『カミノ』、ダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』、エミリオ・エステベスの『星の旅人たち』、ダニエル・サンチェス・アレバロの『デブたち』、アルモドバルのコメディ『アイム・ソー・エキサイテッド!』など、字幕入りで見ることができた作品を手掛けている。

(ゴヤ賞2011衣装デザイン賞のトロフィーを手にしたエルナンデス)
★特別賞以外でもご紹介したい作品、例えばエステバン・クレスポのスリラー「Black Beach」や、ラファエル・アスコナの同名小説を映画化したビクトル・ガルシア・レオンの「Los europeos」などですが、両作とも新たにノミネートされたもの、Netflix配信などの機会があったらアップしたい。

(ラウル・アレバロ主演の「Black Beach」のポスター)
ホライズンズ・ラティノ部門9作品*サンセバスチャン映画祭2020 ⑦ ― 2020年09月07日 16:37
ホライズンズ・ラティノのオープニングはアルゼンチン映画「El prófugo」

★ホライズンズ・ラティノ部門は、長編映画のデビュー作あるいは第2作までの作品が対象です。従って情報が少なく予告編も未完成が含まれ、紹介するには情報不足が多い。特に今回は新型コロナウイリス感染者拡大もあって、なんとか滑り込みセーフで開催されたベルリン映画祭でプレミアされたものが目立っており、急ごしらえの感が否めない。ラテンアメリカ諸国といっても、今回は21ヵ国のうちアルゼンチン、チリ、メキシコに集中した9作品が選ばれている。取りあえず2回に分けてアップいたします。
*ホライズンズ・ラティノ部門*
◎ El prófugo(The Intruder) アルゼンチン=メキシコ
監督・脚本:ナタリア・メタ、撮影:バルバラ・アルバレス、編集:エリアネ・カッツ
データ:2020年、サイコ・スリラー、90分
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2020コンペティション部門上映
キャスト:エリカ・リバス(イネス)、ナウエル・ぺレス・ビスカヤート(アルベルト)、セシリア・ロス(母マルタ)、ダニエル・エレンデル(レオポルド)、他
ストーリー:イネスは夢想好きな歌手だが映画の吹替をして働いている。楽園のような休暇のあいだ、立ち直れないほどのトラウマを抱えて苦しんでいる。それ以来、夢についてのトラブルを抱えている。容易に目が覚められない真に迫った悪夢を体験する。
*作品&監督キャリア紹介はベルリンFF2020、コチラ⇒2020年02月27日

◎ Edición ilimitada(Unlimited Edition) アルゼンチン
監督:エドガルド・コサリンスキー、サンティアゴ・ロサ、
ビルヒニア・コシン、ロミナ・パウラ
解説:4人の作家、俳優、監督、劇作家などが映画で出会う。この多様性に富んだ仕事に関わる監督の4つの短編、4つの物語、4人の登場人物(男女2名ずつ)で構成されている。作品の内容は情報が入手できず分かりませんが、4人の顔ぶれだけで興味がもたれる。出身は別として現在はアルゼンチンで活動している。エドガルド・コサリンスキー(1939)もサンティアゴ・ロサ(1971)もベテラン級、ビルヒニア・コシン(カラカス1973)は5歳でアルゼンチンに移住して両方の国籍を持っている作家、映画デビューかもしれない。ロミナ・パウラは(1979)はサンセバスチャン映画祭2019のホライズンズ・ラティノ賞を受賞している。年齢からしても4人の組み合わせがユニークです。
*サンティアゴ・ロサのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2019年02月19日
*ロミナ・パウラのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2019年09月10日
◎ La Verónica チリ
監督:レオナルド・メデル、エグゼクティブプロデューサー:フアン・パブロ・フェルナンデス
キャスト:マリアナ・ディ・ジロラモ(ベロニカ)、アントニア・Giesen、アリエル・マテルナ(ハビエル)、ホセフィナ・モンタネ、他
ストーリー:ベロニカはソーシャル・ネットワーク上の人気モデル、サッカー界の国際的なスター選手と結婚したが、10年前に起きた長女殺害の捜査のなかで第一容疑者であることが分かって窮地に陥る。捜査の圧力に晒され、夫婦関係も危機に見舞われていき、最近生まれた娘アマンダに嫉妬を感じるようになる。

(マリアナ・ディ・ジロラモ扮するベロニカ、映画から)
◎ Las Mil y Una(One in a Thousand)アルゼンチン=ドイツ、2020、120分
監督・脚本:クラリッサ・ナバス(長編2作目)
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2020パノラマ部門上映、チョンジュ映画祭作品賞受賞、グアダラハラ映画祭、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門など
キャスト:ソフィア・カブレラ(イリス)、アナ・カロリナ・ガルシア(レナタ)、マウリシオ・ビラ(ダリオ)、ルイス・モリナ(アレ)、他
ストーリー:イリスは複雑な過去をもつレナタと知り合ったとき、たちまち彼女の虜になった。恐怖を乗り越え、初恋を体験するための不安に直面しなければならないだろう。物語は敵意に張り巡らされているものの優しさに溢れている。うわさ話が時には武器にもなり変わるだろう。LGBTQIAがテーマの一つ。

◎ Mamá, Mamá, Mamá(Mum, Mum, Mum)アルゼンチン、2020、65分
監督・脚本:ソル・ベルエソ・ピチョン=リビエレ、製作者:フロレンシア・デ・ムヒカ、エグゼクティブ:ラウラ・タブロン、撮影:レベッカ・シケイラ
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2020ジェネレーション部門
キャスト:アグスティナ・ミルスタイン、マティルデ・クレイメル・チアブランド、シウマラ・カステーリョ、Chloe Cherchyk、カミラ・ソレッツィ、他
ストーリー:うだるような夏のある朝、一人の少女が自宅のプールで溺れて死んでしまう。彼女の体は母親が見つけるまでそのままにされている。母親はもう一人の娘クレオを部屋に何時間も一人にしておく。しばらくするとクレオの伯母が従姉妹3人を連れてやってくる。それぞれの少女たちは秘密のサインや儀式を共有し、特殊なミクロの宇宙に没入していく。

(映画から)
<続>ホライズンズ・ラティノ部門*サンセバスチャン映画祭2020 ⑧ ― 2020年09月09日 17:28
★ホライズンズ・ラティノ部門の残り4作のラインナップ、女性シネアストの活躍が目につきました。既に他の先行映画祭でプレミアされています。
◎ Selva trágica (Tragic Jungle)メキシコ=フランス=コロンビア 2020年
監督:ユレネ・オライソラ、脚本:ルベン・イマス、ユレネ・オライソラ、撮影:ソフィア・Oggioni、音楽:アレハンドロ・オタオラ、編集:ルベン・イマス、ユレネ・オライソラ、イスラエル・カルデナス、他
映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭オリゾンティ部門、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品
データ:ユレネ・オライソラ(メキシコシティ1983)の長編第3作目、ドキュメンタリーで出発評価を得る。他にルベン・イマスとの共同作品がある。ドラマ、96分、スペイン語、マヤ語、英語
キャスト:インディラ・ルビエ・アンドレウィン(アグネス)、ヒルベルト・バラサ(アウセンシオ)、Dale Carley(カシーケ)、ラサロ・ガビノ・ロドリゲス(エル・カイマン)、他
ストーリー:1920年、メキシコとベリーズの国境地帯、マヤのジャングルの奥深く、そこには法は存在せず神話が支配していた。ゴム栽培で働くメキシコの労働者たちは、ベリーズのミステリアスな美貌のアグネスに魅了されていた。彼女の存在が男たちの性的興奮、幻想、欲望を掻き立てていた。新しい生命力に溢れた彼らは、ジャングルの中心から見張っている伝説のXtabayを目覚めさせたことにも気づかずに運命と向き合うことになる。

◎ Sin señas particulares (Identifying Features)メキシコ=スペイン
監督:フェルナンダ・バラデス、脚本:フェルナンダ・バラデス、アストリッド・ロンデロ、撮影:クラウディア・べセリル・ブロス、編集:フェルナンダ・バラデス、アストリッド・ロンデロ、スーザン・コルダ、音楽:クラリス・ジェンセン
データ:フェルナンダ・バラデス(グアナフアト1981)は監督、脚本家、製作者、編集者、長編デビュー作、ドラマ、99分
映画祭・映画賞:SSIFF2019シネ・エン・コンストルクシオン36の受賞作、サンダンス映画祭2020ワールド・シネマ部門観客賞&審査員特別脚本賞受賞、他
キャスト:メルセデス・エルナンデス(マグダレナ)、ダビ・イジェスカス(ミゲル)、フアン・ヘスス・バレラ(ヘスス)、アナ・ラウラ・ロドリゲス、ラウラ・エレナ・イバラ、他
ストーリー:マグダレナは合衆国との国境沿いで行方不明になった息子を探すための旅に出る。マグダレナのメキシコの荒涼とした風景をめぐる道のりで、最近アメリカから退去を余儀なくされたという青年ミゲルに出会う。二人は連れ立って、マグダレナは息子を、ミゲルは失踪した母親を探す。二人の被害者は加害者たちが猛威を振るう不法地帯を一緒にさまよう。
追加情報:『息子の面影』の邦題で、ラテンビート2020の上映が決定。



◎ Todos os mortos (All The Dead Ones)ブラジル=フランス、2020
監督・脚本:カエタノ・ゴタルゴ、マルコ・デュトラ、撮影:Helena Louvarto、編集:カエタノ・ゴタルゴ、マルコ・デュトラ、ジュリアナ・ホジャス、Gui Braz
データ:カエタノ・ゴタルゴ(ビラ・ベルア1981)、マルコ・デュトラ(サンパウロ1980)、言語ポルトガル、ドラマ、120分、公開予定ブラジル、フランス
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2020コンペティション部門正式出品、リスボン・インデーズ映画祭銀賞受賞、グラマド映画祭(ブラジル)ノミネート、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門ノミネート
キャスト:カロリナ・ビアンチ(アナ・ソアレス)、Mawusi Tulani(イナ・ナシメント)、クラリッサ・キステ(マリア・ソアレス)、タイア・ぺレス(アナの母イサベル)、Rogerio Brito(アントニオ)、Agyel Augusto(イナの息子)、他
ストーリー:1899年サンパウロ、奴隷制が廃止されてから数十年経つ。町は急速に発展している。以前は領地と奴隷を所有していたソアレス一家の3人の女性がサンパウロに戻ってきたばかりである。最後の使用人が亡くなると、ブラジルの急激な変化に順応していけない。一方ソアレス農場で奴隷として働いていたナシメント一家は、自由の身にはなったが黒人の居場所がない社会に向き合っている。ブラジルの過去と現在の中で、すべての人々が生きる残るために闘っている。

(主演者5人を配したポスター)

(アナ役のカロリナ・ビアンチ)

(マリア役のクラリッサ・キステと母イサベル役のタイア・ぺレス)
◎ Visión nocturna(Night Shot)チリ 2019
監督・撮影:カロリナ・モスコソ、脚本:カロリナ・モスコソ、マリア・パス・ゴンサレス、編集:フアン・エドゥアルド・ムリーリョ、音楽:カミラ・モレノ
データ:カロリナ・モスコソ(サンティアゴ1986)は監督、編集者、チリ大学、バルセロナのポンペウ・ファブラ大学で映画を学ぶ。ドキュメンタリー、80分、本作が長編デビュー作。
映画祭・受賞歴:バルディビア映画祭2019(10月)特別審査員賞、FIDマルセーユ映画祭2020(7月)インターナショナル部門グランプリ受賞、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品
ストーリー:8歳のときサンティアゴ近郊の海辺で襲われた、若いシネアストが性暴力を受けた被害者の疵と沈黙について物語る。被害者は自分を責め、恥ずかしさのため沈黙する。実際にレイプとは一体何か、被害者に寄り添うにはどうしたらよいか、そして何時終わるのか、友情と援助、柔軟で親密さに溢れたドキュメンタリー。



★金貝賞を競うコンペティション部門のクロージング作品にフェルナンド・トゥルエバ監督の「El olvido que seremos」(Forgotten We'll Be)が選ばれました。本作は最初のエントリーには含まれていなかった作品です。カンヌ映画祭2020にコロンビア映画としてノミネートされたものですが、結局カンヌは開催されませんでしたから想定内の決定と思われます。詳細についてはアップ済みです。
*「El olvido que seremos」の内容紹介は、コチラ⇒2020年06月14日

メイド・イン・スペイン部門に8作*サンセバスチャン映画祭2020 ⑨ ― 2020年09月12日 15:02
女性シネアストの活躍が目立つメイド・イン・スペイン部門

★8月30日、メイド・イン・スペイン部門の発表がありました。長編映画7作、HBOヨーロッパのシリーズ「Escenario 0」の1作の合計8本、なかには終了したばかりのマラガ映画祭の受賞作が含まれています。例年なら3月のマラガの後にカンヌ、ロカルノ、映画賞などが入り、サンセバスチャン映画祭になるのですが、今年はマラガとサンセバスチャンやカンヌが繋がってしまった。スペインはコロナウイリス感染の第2波では、ヨーロッパで一番感染者が多く、連日約9000人ほどが陽性反応、日本の人口の半分にも満たないのに10倍以上です。夏のバカンス休暇の落とし物です。
★マラガ映画祭の受賞作は、作品賞に当たる金のビスナガ賞(スペイン部門)のピラール・パロメロ(サラゴサ1980)のデビュー作「Las niñas」、審査員特別賞のイシアル・ボリャイン(マドリード1967)「La boda de Rosa」の2作です。
*「Las niñas」の作品&キャリア紹介は、コチラ⇒2020年03月16日
*「La boda de Rosa」の作品紹介は、コチラ⇒2020年04月21日


★女性新人監督のヌリア・ヒメネス(バルセロナ1976)のデビュー作「My Mexican Bretzel」は、例年11月下旬に開催されるヒホン映画祭2019で、作品・脚本・監督の3賞、ロッテルダム映画祭2020でワールドプレミアされ、Found Footage賞、D'Aバルセロナ映画祭では観客賞を受賞している。IMDbではドキュメンタリーと紹介されていますが、ドキュメンタリーとフィクションがミックスされた、いわゆるドクドラマのようです。1940年代から60年代にわたって、ビビアン・バレットを夫のレオンが撮影したダイアリーのようですが、いったい彼女はどんな女性なのか。面白そうなのでいずれアップします。
*作品紹介は、コチラ⇒2020年09月14日

(ヴィヴィアンを配したポスター)
★次も女性監督ラウラ・エレーロ・ガルビア(トレド1985)のドキュメンタリー「La Mami」(19)、ヨーロッパ=ラテンアメリカ共同フォーラム映画祭で上映され、続いてD'Aバルセロナ映画祭、IDFAアムステルダム・ドキュメンタリー映画祭などの多くの国際映画祭で上映されている。メキシコシティのキャバレー「バルバ・アスール」を通して、踊り子たちを支え続けた女性ドーニャ・オルガ、通称ラ・マミの45年にわたる人生が語られるドキュメンタリー。ウーマン・パワーが炸裂する。

(ラ・マミことドーニャ・オルガを配したポスター)
★ハイオネ・カンボルダ(サンセバスティアン1983)のデビュー作「Arima」(19)、セビーリャ・ヨーロッパ映画祭2019「新しい波」セクションの監督賞受賞作品。予期しない2人のよそ者が現れたことによって動揺が走る4人の女性と一人の少女の人生が語られる。現実と想像、悪夢と眠り、怖れと欲望のあいだを行き来する謎に包まれた物語。ガリシア語、77分。

(メラニア・クルスを配したポスター)
★パウラ・コンス・バレラ(ア・コルーニャ1976)のデビュー作「La isla de las mentiras」(20、93分、スペイン・ポルトガル・アルゼンチン合作)は、上海映画祭2020で上映されている。1921年1月2日の明け方、ガリシアの海岸で260人の移民を乗せたサンタ・イサベル号が沈没した。実際に起きた「ガリシアのタイタニック」と呼ばれる客船難破を描いたドラマ。公開予定だったがパンデミックで中止となり、6月24日からFilminでオンライン配信されている。言語は本来ガリシア語だがスペイン語で配信されている。キャストはネレア・バロス、ダリオ・グランディネッティ、アイトル・ルナ。初長編映画だが、ドキュメンタリー映画を2017年「La batalla desconocida」と、2018年には「El caso Diana Quer, 500 días」を撮っている。時間が許せばアップしたい。

(ネレア・バロスほか主演者を配したポスター)
★トレンテ・シリーズでお馴染みのサンティアゴ・セグラ(マドリード1965)のコメディ「Padre no hay más que uno 2: La llegada de la suegra」(20)は、2019年のスペイン映画のなかで興行成績が第2位だった、「Padre no hay más que uno」の続編というか新バージョン。出演者もオール同じということです。4歳から12歳までの5人の子供たちをおいて妻が旅に出てしまう。父親のてんやわんやが語られるが、悪いことばかりではない、父と子供たちの距離が縮まって互いの理解が深まるというお話。他にトニ・アコスタ、シルビア・アブリル、レオ・アルレムなどが共演する。父親ハビエルを監督自身が演じるが、こましゃくれた子役たちの魅力に食われてしまう。本編よりも続編のほうが評判が良いようです。

(前列左から2番目がサンティアゴ・セグラ)

(2019年の「Padre no hay más que uno」のポスター)
★最後がフランスの劇作家、演出家、俳優、監督のパスカル・ランベール(ニース1962)とスペインのディエゴ・ポスティゴ(ブリュッセル1974)の「Hermanas」(89分)、作家、監督、俳優、舞台演出家がコラボして製作された、HBOヨーロッパのTVシリーズ「Escenario 0」(6作)の中の1作。2人の姉妹を演じるバルバラ・レニーとイレネ・エスコラルもグループの一員、2人は製作、脚本も手掛けている。本作は後ほどアップを予定しています。

(姉妹を演じるバルバラ・レニーとイレネ・エスコラル)
ヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑩ ― 2020年09月14日 10:33
メイド・イン・スペイン――ヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」

★9月12日に閉幕したベネチア映画祭で黒沢清の『スパイの妻』が監督賞(銀獅子賞)を受賞しました。本作はサンセバスチャン映画祭SSIFFでもペルラス部門のオープニング作品に選ばれています。その昔、ホラー映画『回路』がカンヌ映画祭2001「ある視点」で国際批評家連盟賞を受賞したときには、黒澤明監督の縁戚関係者と間違われたが、もうそんな誤解は昔話になりました。クラスターが起きたのか起きなかったのか、とにかくベネチアは閉幕しました。
★メイド・イン・スペイン部門の中から、気になる映画を時間が許す限りアップする予定ですが、先ずヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」が邦題『メキシカン・プレッツェル』で、なら国際映画祭2020(9月18日~22日)のコンペティション部門にノミネートされておりますので、本作からスタートします。また本映画祭では「カタラン・フォーカス」として、IRLインスティテュート・ラモン・リュイスとの共催でカタルーニャの女性監督作品6作が上映されます。その中には当ブログSSIFF 2019でご紹介した、ルシア・アレマニーのデビュー作「La inocencia」(19『イノセンス』)とベレン・フネスの「La hija de un ladrón」(19『泥棒の娘~サラの選択~』)が含まれており、嬉しいサプライズです。後者は主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞(銀貝賞)を受賞、翌年のゴヤ賞2020ではベレン・フネスが新人監督賞を受賞している力作です。奈良県はコロナウイリス感染者も落ち着いているようなので無事終了することを願っています。
「My Mexican Bretzel」(『メキシカン・プレッツェル』)スペイン、2019
製作:BRETZEL & TEQUILA FILM PRODUCTIONS(ヌリア・ヒメネス)/
AVALON PRODUCTORA CINEMATOGRAFICA(マリア・サモラ、ステファン・シュミッツ)
監督・脚本:ヌリア・ヒメネス・ロラング
撮影:フランク・A・ロラング、イルセ・G・ロラング
編集:クリストバル・フェルナンデス、ヌリア・ヒメネス
音楽:NO HAY NO HAY
データ:製作国スペイン、スペイン語、2019、ドキュメンタリー・ドラマ、74分
映画祭・受賞歴:ヒホン映画祭2019スペイン映画部門の作品・監督・脚本賞受賞、ロッテルダム映画祭2020ワールドプレミア、Found Footage賞、D'Aバルセロナ映画祭2020観客賞を受賞、サンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペイン部門上映、なら国際映画祭2020コンペティション部門ノミネート、ほか
解説:映画はインテリ階級の裕福な女性ビビアン・バレットの日記と、夫のレオン・バレットが前世紀の40年代から60年代にかけて、スーパー8ミリと16ミリで妻を撮影したアーカイブ資料を結び付けている。YouTubeで流れるフィルムは撮影されたばかりのように鮮明で美しく、どのように保存されていたのか完成度の高い映像に驚かされる。無声の部分と後から追加した飛行機、車、列車、風の音で構成され、ナレーションの代わりにビビアンのエッセイ風の日記で構成されている。

*監督キャリア&フィルモグラフィー*
ヌリア・ヒメネス・ロラング(バルセロナ1976)は、監督、脚本家、製作者。ジャーナリズム、国際関係、ドキュメンタリー映画の制作を学んだ後、セミナー参加、イサキ・ラクエスタ、ビルヒニア・ガルシア・デル・ピノ、パトリシオ・グスマン、フレデリック・ワイズマンのようなシネアストが指導するクラスで知識を蓄積している。2017年短編ドキュメンタリー「Kafeneio」でデビュー、ドキュメンタリー・マドリードやMIDBOで上映された。本作『メキシカン・プレッツェル』が長編第1作。

(ヌリア・ヒメネス)
★1分程度の予告編で驚くのは、ビビアンの夫レオンが撮影したというそのヴィンテージ映像です。多くの批評家が「ダグラス・サークの映画に典型的なテクニカラーで撮られている」と口を揃える。ドイツ出身の監督だが、妻がユダヤ人だったことでアメリカに亡命、1950年代に撮ったハリウッド映画は、本邦でも何作も公開されている。当時を知るオールドファンにはロック・ハドソン、ローレン・バコールなど出演俳優の名前からして懐かしい。世界の都市、ニューヨーク、ロスアンゼルス、サンフランシスコ、バルセロナ、ベネチア、リヨンなどを訪れ、いみじくも古いヨーロッパやアメリカへのロマンティックな旅に観客を誘っている。観客賞受賞の所以です。

(ビビアンとレオン・バレット)
★映画は「嘘は真実を語るためのもう一つの方法に過ぎない」というParavadin Kanvar Kharjappali(パラバディン・カンバール・カージャッパリ?)という作家の言葉で始まるようです。ビビアンの伯父の家にあった赤表紙の本から引用したというが、グーグルで検索しても見つかりません、架空の作家のようですから。勿論ビビアンの声も聞くことができません。こういう作品は見るに限るのですが、ドキュメンタリー映画と簡単に括れない、現実とフィクションが交じり合った偽りのドキュメンタリーとでも言うしかない。海の中央にいる女性とお菓子のプレッツェルというタイトルを組み合わせたポスターも謎めいている。



パウラ・コンスの「La isla de las mentiras」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑪ ― 2020年09月16日 17:57
メイド・イン・スペイン――パウラ・コンスの「La isla de las mentiras」

★既にオンラインで配信が始まっているパウラ・コンスのスリラー「La isla de las mentiras」は、1921年1月2日の明け方に起きた<ガリシアのタイタニック>と言われる実話に基づいて製作された。船舶沈没がテーマではなく、ネレア・バロスが扮したマリアの視点で、中央から離れた閉ざされた社会の当時の女性たちの勇気や闘い、カシキスモについての、逃走についての、自由についての物語。オリジナルはガリシア語であるが、オンラインではスペイン語で配信されている。ワーキングタイトルは「El Santa Isabel」だった。

(製作発表をする、監督とネレア・バロス以下3人の主演者たち、2019年3月)
「La isla de las mentiras」(The Island of Lies)2020
製作:Agallas Films(スペイン)/ Aleph Cine(アルゼンチン)/
Euskal Irratitelebista EITB(バスク)/ Take 2000(ポルトガル)/
Historias del Tío Luis(同) 協賛INCAA / ICAA / TVE / ガリシアTV、他
監督:パウラ・コンス・バレラ
脚本:パウラ・コンス・バレラ、ルイス・マリアス
撮影:アイトル・マンチョラ
編集:フリア・フアニス
美術:アントニオ・ペレイラ
録音:シャビ・アギーレ
衣装デザイン:エバ・カミノ
メイクアップ:ラケル・フィダルゴ
プロダクション・マネジメント:カロリナ・コレイア・メンデス
製作者:ビクトリア・アイゼンスタット、マウロ・ゲバラ、ルイス・マリアス、フアン・デ・ディオス・セラノ、(エグゼクティブ)エドゥアルド・カルネロス、他
データ:製作国スペイン=アルゼンチン=ポルトガル、言語ガリシア語、2020年、実話をもとにしたスリラー・ドラマ、93分、撮影地はサルボラ島、3月公開予定だったがコロナウイリス感染拡大のため中止、7月24日よりオンラインFilmin にてスペイン語で配信開始、アルゼンチン5月14日公開。
映画祭・受賞歴:上海映画祭2020正式出品、サンセバスチャン映画祭2020「メイド・イン・スペイン部門」上映
キャスト:ネレア・バロス(マリア)、ダリオ・グランディネッティ(アルゼンチンの記者レオン)、アイトル・ルナ、ビクトリア・テイヘイロ(ホセファ)、アナ・オカ(シプリアナ)、ミロ・タボアダ(ペペ)、レイレ・ベロカル、ミゲル・ボリネス、セルソ・ブガージョ、メラ・カサル、マリア・コスタス、ロベルト・レアル、セルヒオ・キンタナ、マチ・サルガド(ルイス・セブレイロ)、アナ・サントス、ハビエル・トロサ、ほか
ストーリー:1921年1月2日の明け方、ブエノスアイレスに向かう260名の移民を乗せた蒸気船サンタ・イサベル号が大西洋に位置するガリシアのサルボラ島の海岸で遭難した。その夜、島には男たちはいなかった。というのもクリスマスを祝うため本土に渡っていたからだ。マリア、ホセファ、シプリアナの3人の女性は、助けを求める生存者の声を聞くと岩だらけの海に危険を冒して救助に向かった。霧に閉ざされた暗闇の中、小舟のオールを漕いで幼児を含めて48名を救助した。一方、アルゼンチンのジャーナリストのレオンは事故のニュースを知ると調査のために現地に赴いた。背景が少しずつ分かってくるが、その夜、島では怖ろしい或る予期せぬことが起きていたのだった。解決すべき幾つもの謎が潜んでいることが次第に分かってくる。若い進取の気性に富んだ勇敢なマリア、無口だが思慮深いガリシアに典型的な女性ホセファ、広い世界を知りたいと島を抜け出したい一番若いシプリアナの3人の女性の視点で描かれる、<ガリシアのタイタニック>事件と言われる実話をベースにしたスリラー・ドラマ。中央から離れた閉ざされた社会の女性たちの勇気や闘いについての、ボス支配のカシキスモについての、逃走や自由についての物語。 (文責:管理人)

(マリア、ホセファ、シプリアナ、映画から)
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介*
★パウラ・コンス・バレラ(ア・コルーニャ1976)は、監督、ジャーナリスト、脚本家、ドキュメンタリー作家、Agallas Filmsのプロデューサー。ア・コルーニャ県生れだが、家族の祖先のコンスもバレラも映画の舞台になったポンテべドラ県出身。サンティアゴ・デ・コンポステラ大学の新聞学部でジャーナリズムを専攻(1994~98)、1998年よりポルティコ・デ・コミュニケーションの編集者や執筆者として働く。2004年マドリードに移住、クアトロTVの社会的問題をテーマにしたレポーターとなる。2009年 Agallas Films の共同設立者となる。

(撮影中のパウラ・コンス・バレラ)
★主なフィルモグラフィーは以下の通り:
2009年「13 badaladas」TVドキュメンタリー・シリーズ、監督
2015年「Lobos sucios」長編、共同脚本・エグゼクティブプロデューサー
2017年「La batalla desconocida」ドキュメンタリー、監督・脚本・エグゼクティブ
2018年「El caso Diana Quer, 500 días」ドクドラマ、監督
2020年「La isla de las mentiras」長編ドラマ、監督・脚本

(制作会社 Agallas Films の共同設立者フアン・デ・ディオスと監督)
★「Lobos sucios」は、第二次世界大戦中に、連合国側がスペインと争ったタングステン闘争についての報告書。フランコ政府は参戦しなかったが、戦略上ナチスにタングステン鉱山の採掘を認めて協力していた。「La batalla desconocida」は、前作と同じテーマで製作され、バジャドリード映画祭のドキュメンタリー部門の監督賞を受賞、他にナント映画祭、ブエノスアイレス政治映画祭などで上映された。「El caso Diana Quer, 500 días」は、ディアナ・ケル事件の警察の捜査を追った500日間のドキュメンタリー・ドラマ。今回が長編映画デビュー作とはいえ、経験豊富なシネアストであることが知れる。
20世紀初頭のガリシアの女性たちがおかれていた地位
★最近頓に輩出する女性監督のなかでも、実際の事件をベースにしてスリラー仕立てにしたドラマは珍しいのではなかろうか。この難破事件は当時のガリシア地方では知られていたようです。記事によって乗船者や生存者の人数が異なりますが、当たらずとも遠からずです。マリア16歳、ホセファ24歳、シプリアナ14歳という設定ですが、より年上に見えます。48名の救助者のなかに、当時1歳だったという女性が最後の生存者として今でも元気とか、驚くほかありません。
★マリアを演じたネレア・バロス(サンティアゴ・デ・コンポステラ1981)は、女優、看護師の資格を持っているという変り種。今回のパンデミックでは一時女優業を中断して看護師として治療に当たっているというニュースに接した。主にガリシアTV、アンテナ3、テレシンコのドラマに出演、公開作品ではアルベルト・ロドリゲスのスリラー『マーシュランド』(14)で失踪した姉妹の母親役を演じて、翌年のゴヤ賞助演女優賞を受賞している。他にNetflix配信の連続ドラマ『クリスマスのあの日私たちは』(「Dias de Navidad」全3話)の第2話にバレンティナ役で出演している。主役を演じるのは「La isla de las mentiras」が初めてか。ビクトリア・テイヘイロ(ア・コルーニャ)は、マドリードの王立芸術演劇上級学校卒、映画、TV、舞台で活躍、TVシリーズ「Aida」に出演、10年以上前から複数の演劇学校で後進の指導に当たっているベテラン、公開作品はない。アナ・オカは短編、TVシリーズ出演、本作で長編映画デビューした。

(マリアとホセファ)
★アルゼンチンのジャーナリストを演じるダリオ・グランディネッティ(ロサリオ1959)は、アルゼンチン出身だがスペインに軸足をおいている。アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』(02)、『ジュリエッタ』(16)、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(16)出演でお馴染みです。1984年、軍事独裁時代の末期、マルビナス戦争を背景にしたアレハンドロ・ドリアの「Darse cuenta」で映画デビュー、本作は銀のコンドル賞作品賞を受賞した秀作です。他にサンセバスチャン映画祭2018でベンハミン・ナイシュタットが監督賞、主演のグランディネッティが男優賞を受賞した「Rojo」出演がある。本作がオンライン配信になったことを「パンデミックで俳優は危機に陥っている。舞台ダメ、ソーシャルディスタンスで撮影もダメ、モビスター、アマゾン、HBO、ネットフリックスのようなプラットフォームに移行するしかない」と語っている。

(レオン役のダリオ・グランディネッティ)
★ガリシア出身者の他、バスク州の俳優も多く出演している。その一人がアイトル・ルナ(ギプスコア1981)だが、役回りが分からない。TVシリーズ出演が多く、『アラトリステ』(13)のテレビ版でディエゴ・アラトリステに扮している。Netflixで配信されている『海のカテドラル』(18)では、主役のアルナウ役に抜擢され、お茶の間では認知度がある。映画、テレビ出演のほか舞台にも立っている。

(ネレア・バロスとアイトル・ルナ)
★本作は主役となる3人の登場人物の他、スタッフにも女性シネアストが多く参加している。パウラ・コンス監督によると「女性たちが自分自身を信頼することが重要であり、それぞれ得意な分野を主張することが必要です。本作は私たち若い世代の女性たちが祖母世代へ贈るオマージュです」と。
第17回ラテンビートはオンラインで開催 ― 2020年09月19日 14:48
第17回ラテンビートはオンライン上映で開催のニュース

(過去のラテンビートのポスター)
★今年のラテンビートは「コロナ禍で中止は仕方ないかな」と思っておりましたが、オンライン開催のニュースをMarysol さんのブログで知りました。公式サイトも既にアップされています。開催は11月19日~12月19日(変更の可能性あり)、上映作品などの詳細は目下情報ありません。オンライン化のプラットフォーム構築に掛かる費用等を、クラウドファンディングでご賛同ご支援をお願いしています。
第17回ラテンビート公式サイトは、コチラ⇒http://www.lbff.jp/
★コロナ禍が表面化しなかった2月開催のベルリン映画祭、3月開催が予告されながら土壇場で延期になったマラガ映画、ノミネーションが発表になっただけで中止に追い込まれたカンヌ映画祭、これから始まるサンセバスチャン映画祭など、当ブログではラテンアメリカ映画を含めてスペイン語映画をアップしてきました。字幕入り上映は全く期待できないなかで、多分25作ぐらいはご紹介したと思います。オンライン上映でもいいから、せめて2作でも3作でもいいから、という思いです。現地時間18日開催のサンセバスチャンFF上映作品は、今後も続けてアップしたいと考えています。
オープニング・セレモニー*サンセバスチャン映画祭2020 ⑫ ― 2020年09月21日 17:45
マスクを付けたり外したり、なにかと忙しいオープニング・セレモニー

(ライトアップされた第68回サンセバスチャン映画祭のメイン会場クルサール)
★9月18日、オープニングにあわせて宿泊ホテルのマリア・クリスティナに到着したスターたちには、少し肌寒いのか、思い思いのマスク着用のジャケット姿が目に付いた。さすがにフォトコールにはマスクを外してカメラにおさまっていた。例年ならホテル前もヤジウマやパパラッチでいっぱいでしたが、今年は柵の中は撮影を許可されたカメラマンのみでした。
★ジャスト21:00から開始されたオープニング・セレモニーの司会者は、司会者としては超ベテランの女優カエタナ・ギジェン・クエルボ、バスク州ギプスコア出身の女優ミレン・ガスタニャガ、マドリード生れの女優インマ・クエバス、『アルツォの巨人』で巨人ホアキンを演じたエネコ・サガルドイの4人。それぞれ癖のある実力者を選んでいた。ミレンはバスク・テレビの番組で「スペイン人は田舎者で、文化的には時代遅れの人」と評して話題になった女優。歯に衣着せぬ人らしく今回も自由奔放な司会者ぶりだった。

(左から2人目が貫禄のカエタナ・ギジェン・クエルボ、右端がミレン・ガスタニャガ)
★開催を断念したカンヌ映画祭のディレクターであるティリー・フレモーも来セバスティアンして登壇、カンヌでノミネーションされた17作品が上映されることへの感謝の辞を述べた。

(流暢なスペイン語で感謝の辞を述べるカンヌFFディレクター、ティエリー・フレモー)

(左端は本映画祭ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノス、ティリー・フレモー)
★オフィシャル・セレクション部門の審査員5人が登壇、委員長ルカ・グァダニーノが挨拶のスピーチをした。TVシリーズ「We Are Who We Are」がコンペティション外で特別上映される。メキシコの監督ミシェル・フランコ、イギリスの俳優ジョー・アルウィン、プロデューサーのマリサ・フェルナンデス・アルメンテロス、衣装デザイナーのレナ・Mossum 5審査員。

(左から、フェルナンデス・アルメンテロス、フランコ、グァダニーノ、Mossum、アルウィン)

(審査委員長ルカ・グァダニーノ)

(ペルラス部門の開幕作品「Nuevo orden / New Orden」が上映されるミシェル・フランコ)

(ジョー・アルウィン)

(マリサ・フェルナンデス・アルメンテロス)

(レナ・Mossum)
★セクション・オフィシアル部門のオープニング作品「Rifkin's Festival」の主演者、米国のジーナ・ガーションとエレナ・アナヤ、製作者のジャウマ・ロウレスの3人が登壇、疲れ知らずの監督と言われるウディ・アレンは不参加でした。監督と共演者ウォーレス・ショーンは、上映後のプレス会見ではニューヨークからテレマティクスで参加していた。

(左から、エレナ・アナヤ、ジャウマ・ロウレス、ジーナ・ガーション)



(テレマティクス参加のウディ・アレン監督)
★ミュージックやダンスなどでつなぐのは例年通りだが、入場者が半分ほどに制限されているせいか、客席は概してお行儀よかった。司会者が客席の通路に降りるときは、マスクをするのでなかなかシュールでした。米国のシングソングライター、ピート・シガーの不朽の名曲、世界一有名な反戦歌とも称される「花はどこへ行った」が演奏されるなどした。予定通りの50分で終了した。
★以下は17日から20日にかけて配信された、その他のフォト(順不同)。出演者の他、プレゼンターとして参加するシネアストたちです。ジョニー・デップのように海外勢も結構名前が挙がっており、国際映画祭らしい雰囲気が漂ってきました。ジョニーはイギリスの監督ジュリアン・テンプルのドキュメンタリー「Crock of Gold: A Few Rounds with Shane MacGowan」(コンペティション)に「Pogues」のリードシンガーでソングライターのシェン・マガウアンと共演しているほか、製作者でもある。コロナ感染者が連日1万人増加では、終幕後がどうなっているか心配してもしようがないようです。


(カエタナ・ギジェン・クエルボ)


(19日、マリア・クリスティナ・ホテルに到着したバルバラ・レニー)

(相変わらず人気の高いジョニー・デップ、パパラッチがいないからトラブルもなく・・・)

(セクション・オフィシアルの「Akelarre」監督のパブロ・アグエロ、19日)

(A・ブレンデミュール、同)

(「El verano que vivimos」監督のカルロス・セデス、20日)



パスカル・ランベールの「Hermanas」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑬ ― 2020年09月24日 10:53
メイド・イン・スペイン――TVシリーズ「Escenario 0」の第1作「Hermanas」

(イレネ・エスコラルとバルバラ・レニーを配置した「Hermanas」のポスター)
★HBO(Home Box Office)ヨーロッパ製作のTVシリーズ「Escenario 0」(全6作)の第1作パスカル・ランベール&ディエゴ・ポスティゴの「Hermanas」がメイド・イン・スペイン部門で上映されました。フランスはニース生れの劇作家、舞台演出家、監督のランベールは来西しなかったようで、フォトコールに現れた監督はポスティゴだけでした。ポスティゴはブリュッセル生れだがスペインで活躍している。本作はもとはフランスの舞台で演じられていた作品で、スペインではイレネ・エスコラルとバルバラ・レニーが姉妹を演じていた。二人以外の女優も演じているようです。しかしコロナによるパンデミックで劇場が閉鎖され、テレビ化の企画が持ち上がって撮られた。全6作は監督も出演者もそれぞれ異なるが、イレネ・エスコラルは3作に出演している。

(パスカル・ランベールを囲んで)

(イレネ・エスコラルとバルバラ・レニー、「Hermanas」のフォトコール、9月20日)

(マドリードのEl Pavón Kamikaze劇場のポスター、2018年12月)
「Hermanas」(TVシリーズ「Escenario 0」の第1話)
製作:HBO EUROPE
監督:パスカル・ランベール、ディエゴ・ポスティゴ
脚本:パスカル・ランベール
撮影:サンティアゴ・ラカホ
編集:マルタ・ベラスコ
音楽:Sin Música
プロデューサー:ミゲル・サルバト
データ:製作国スペイン、2020年、89分、配給HBO ESPAÑA
キャスト:バルバラ・レニー、イレネ・エスコラル
ストーリー:二人の姉妹のあいだに起きる無数の対立が描かれ、非難と愛を絡ませた冷酷なストーリーが展開される。同じ肉体から発せられる二つの存在のあいだで結束し敵対する。からだをぶつけ合っての死闘。これらの姉妹は私自身の姿であり、我々自身がそれぞれ無数に持っているものである。この無数とは強要、真実、闘いと呼ばれるものである。
★日本で問題化される家族の対立では、姉妹より自分の果たせなかった夢を一人娘に託す母と娘のケースが多い。二人というのは冷静な中立者がいないから社会が成立しない。家族間の対立は狭い密封された空間で起きるから表面化するのに時間がかかる。憎しみと愛が複雑に絡み合ってどうしても深刻化する。夫婦なら別れることも可能だが親子はそう簡単にいかない。両親からも世間からも暗黙のうちに優劣が比較されがちな二人姉妹はこじれると収拾がつかない。3人以上いれば2人が対立しても残る一人が仲介役となる。映画より舞台のほうが面白そうです。

(ぶつかり合う二人の姉妹、バルバラとイレネ)
★姉役のバルバラ・レニー(マドリード1984)は、本邦ではカルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』で知名度を上げた女優。マドリード生れだが、両親がアルゼンチンの軍事独裁政権を逃れてスペインに亡命中に生れた。その後、両親と一緒に帰国したので幼少期はアルゼンチンで育った。以前キャリア&フィルモグラフィーを紹介したことがあるので詳細は割愛するが、当時は『マジカル・ガール』で共演したイスラエル・エレハルデが相思相愛のパートナーでしたが、2017年に関係を解消して、現在は共同監督のディエゴ・ポスティゴがパートナー、彼の娘二人とマドリードで暮らしている。
*バルバラ・レニーの主なキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2015年03月27日
★ディエゴ・ポスティゴは、2005年にアントニア・サン・フアンと共同監督した短編「La China」がニューヨークシティ短編映画祭作品賞、パルマ・スプリング短編映画祭審査員賞を受賞、「Run a Way」(12)、「Ruido」(13)などの短編を撮っており、海外での受賞歴多数。2017年二人の娘を残して乳がんで亡くなったビンバ・ボゼーと結婚していた(2006~13)。ローマ生れのモデル出身の女優、スペイン映画に出演している不思議な魅力を放つ女性だった。祖母はフアン・アントニオ・バルデムの『恐怖の逢びき』のヒロインを演じたルチア・ボゼーです。バルバラはポスティゴの家族(娘2人)と一緒に暮らしており、彼のティーンエイジャーになった長女ドラも、最近映画デビューした。

(幸せそうなバルバラとポスティゴ)

(『ペトラは静かに対峙する』のポスターを背に、マドリード公開2018年10月)
★イレネ・エスコラル(マドリード1988)は、女優で最近脚本も執筆する才媛。19世紀から続く舞台俳優の名門一家グティエレス・カバの血を引く。大叔母フリア・グティエレス・カバ、大伯父エミリオ・グティエレス・カバは、共にゴヤ賞やマラガ映画祭の特別栄誉賞の受賞者。祖母イレネも大女優だったが1995年に死去している。映画、TVシリーズ、舞台と引っ張り凧、
*グティエレス・カバ一族の紹介記事は、コチラ⇒2019年03月17日

(左から、大叔父エミリオ、イレネ・エスコラル、大叔母フリア)

(マラガ映画祭2019特別賞受賞の大叔母フリアとイレネ)
★カルロス・サウラやビセンテ・アランダの作品に脇役で出演しはじめ、ホセ・ルイス・クエルダの話題作「Los girasoles ciegos」(07)、アルバロ・フェルナンデス・アルメロのコメディ『迷えるオトナたち』(14、Netflix)、コルド・セラの「Gernika」(16)、イレネが主役を演じたララ・イサギレの「Un otoño sin Berlin」が、サンセバスチャン映画祭2015でイリサル賞を受賞して注目された。翌2016年のゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル賞の新人女優賞も受賞した。他にNetflix関連ではサム・フエンテスの『オオカミの皮をまとう男』(17)、マテオ・ヒルの『熱力学の法則』(18)などが字幕入りで観ることができる。
*『熱力学の法則』の作品紹介は、コチラ⇒2018年04月02日
★目下の話題作は今年から始まったTVシリーズの「Dime quién soy」(9話)で主役を演じている。またHBO EUROPE製作のTVシリーズ「Escenario 0」では、ナオ・アルベト&マルセル・ボラスの「Mammón」と、カルラ・シモンの「Vania」の2作に出演、バルバラ・レニー他と脚本も共同執筆している。前者にはカルメン・マチやルイス・トサール、後者にはアリアドナ・ヒルやルイス・ベルメホが共演している。
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