アルベルト・セラの『パシフィクション』*東京国際映画祭2022 ③ ― 2022年10月13日 16:26
ワールド・フォーカス部門――ラテンビート映画祭共催作品
★ワールド・フォーカス部門には、第19回ラテンビート映画祭 IN TIFFとして、コロンビア映画アンドレス・ラミレス・プリドの『ラ・ハウリア』(スペイン語)、同時上映のアルゼンチンからルクレシア・マルテルの短編『ルーム・メイド』(12分)、ポルトガル語映画ジョアン・ペドロ・ロドリゲス&ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタの『この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない』とロドリゲスの『鬼火』、今回アップするアルベルト・セラの『パシフィクション』(仏語・英語)がエントリーされています。
★『パシフィクション』は、カンヌ映画祭2022コンペティション部門ノミネート作品、批評家からは絶賛されましたが、万人受けする映画でないことは確かです。カンヌ以降数々の映画祭で上映されていますが、目下のところデータベースを探す限り受賞歴はないようです。当ブログでは第75回カンヌ映画祭でアウトラインはアップ済みですが、TIFF とラテンビート共催作品ということで改めてご紹介します。スペイン・プレミアはサンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペイン部門で上映されました。
*カンヌ映画祭2022の記事は、コチラ⇒2022年06月10日
(左から、パホア・マハガファナウ、ブノワ・マジメル、セラ監督、
モンセ・トリオラ、カンヌ映画祭2022、5月26日フォトコール)
『パシフィクション』(原題「Tourment sur les iles」 英題「Pacifiction」)
製作:Andergraund Films / Arte France Cinéma / Institut Catala de les Empreses Culturals ICEC / ICAA / Rosa Films / Rádio e Televisao de Portugal RTP / Tamtam Film / TV3
監督・脚本:アルベルト・セラ
撮影:アルトゥール・トルト(トール)
編集:アリアドナ・リバス、アルベルト・セラ、アルトゥール・トルト
音楽:マルク・ベルダゲル
音響:ジョルディ・リバス
プロダクション・マネジメント:Eugénie Deplus、クラウディア・ロベルト
製作者:マルタ・アルベス、ピエール=オリヴィエ・バルデ(仏)、ダーク・デッカー、ジョアキン・サピニョ(葡)、アンドレア・シュッテSchütte、アルベルト・セラ、(エグゼクティブ)モンセ・トリオラ(仏)、ローラン・ジャックマン、エリザベス・パロウスキー、ほか
データ:製作国フランス=スペイン=ドイツ=ポルトガル、フランス語・英語、2022年、スリラードラマ、165分、配給Films Boutique、公開スペイン(バルセロナ、マドリード)、アンドラ、フランス(11月9日)
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2022コンペティション部門、エルサレムFF 国際映画部門、北京FF、香港FF、トロントFF、ミュンヘンFF、サンセバスチャンFFメイド・イン・スペイン部門BFI ロンドンFF、ニューヨークFF、釜山FF、リガFF、ゲントFF、TIFF、ほか
キャスト:ブノワ・マジメル(ド・ロレール De Roller)、セルジ・ロペス(モートン)、リュイス・セラー(ロイス)、パホア・マハガファナウ(シャナ)、モンセ・トリオラ(フランチェスカ)、マルク・スジーニ(ラミラル)、マタヒ・パンブルン(マタヒ)、セシル・ギルベール(ロマネ・アティア)、バティスト・ピントー、マイク・ランドスケープ、マレバ・ウォン、アレクサンドル・メロ、ミヒャエル・ヴォーター、ラウラ・プルヴェ、ローラン・ブリソノー、サイラス・アライ、ほか
ストーリー:フランス領ポリネシアのタヒチ島で、共和国高等弁務官を務めるフランス政府高官のド・ロレールは、完璧なマナーを備えた計算高い人物である。公式のレセプションでも非合法な機関でも同じように、彼は地元住民の意見に耳を傾けることを怠らず、いつ何時でも彼らの怒りをかき立てることができるようにしています。そして非現実的な存在の潜水艦の目撃が、フランスの核実験再開を告げる可能性があるという根強い噂が広まるときには尚更です。不確実性、疑惑、不作為、フェイクニュースが蔓延する政治スリラー。
(リネンの白ジャケットで身を固めたブノワ・マジメル、フレームから)
★前作『リベルテ』よりもストーリーテリングに重きをおいて少しは親しみやすくなっているようですが、正統的な物語システムとは異なっているようで、逆により複雑になっている印象をうけます。「類似作品を見つけることは不可能」と批評家、困りますね。カンヌでは165分の長尺にもかかわらず、上映後のオベーションは7分間と、批評家やシネマニアには受け入れられましたが、万人受けでないことは明らかでしょう。フランスで小説家として成功して故郷に戻ってきた女性との奇妙なロマンスも語られるようですが、エロティシズムは潜在的、前作『リベルテ』とは打って変わってセックスシーンはスクリーンから除外されている。予告編から想像できるのは、何の対策も持ち合わせていない政治家たちを批判しているようです。タイトルとは異なり不穏な雰囲気が漂っている。
★監督紹介:1975年カタルーニャのジローナ県バニョラス生れ、監督、脚本家、製作者、舞台演出家。2003年、故郷ジローナ県の小村クレスピアを舞台にアマチュアを起用したミュージカル「Crespia」(84分)で長編デビューをする。2006年、第2作『騎士の名誉』がカンヌFF と併催の「監督週間」で上映され、批評家の注目を集める。2009年からガウディ賞に発展するバルセロナ映画賞カタルーニャ語作品賞・新人監督賞受賞、トリノFF脚本賞他、ウィーンFFFIPRESCI 賞などを受賞する。2008年の『鳥の歌』(モノクロ、カンヌ監督週間)は、名称が変わった第1回ガウディ賞のカタルーニャ語部門の作品賞と監督賞を受賞した。2010年コメディ「Els noms de Crist」(仮題「キリストの名前」ロッテルダムFF2012出品)、2011年ドキュメンタリー『主はその力をあらわせり』、2013年、女性遍歴のすえ最後の日々を送るカサノヴァと不死を生きるドラキュラの出会いを退廃と暴力で描いた『私の死の物語』(ロカルノFF)で金豹賞を受賞し、大きな転機となる。
(金豹賞のトロフィーを手にした監督、ロカルノ映画祭2013)
★2016年『ルイ14世の死』(カンヌ特別招待作品)は、シネフォリア映画賞グランプリ以下、ジャン・ヴィゴ賞、エルサレムFFインターナショナル作品賞など数々の国際映画賞を受賞した。2017年11月、監督を招いて開催された広島国際映画祭で「アルベルト・セラ監督特集」が組まれ本作と『鳥の歌』、引き続きアテネ・フランセ文化センターでは、『騎士の名誉』、『私の死の物語』にドキュメンタリをー加えた5作が上映された。翌2018年の劇場公開(5月26日シアター・イメージフォーラム)に先駆けて、「〈21世紀の前衛〉アルベルト・セラ お前は誰だ!?」(19日~25日)と銘打ったセラ特集上映会が開催され、ドキュメンタリーを含む過去の4作が同館でレジタル上映された。監督は会期中に再び来日している。
(ジャン・ヴィゴ賞受賞のセラ監督)
★2019年『リベルテ』(原題「Liberaté」138分)は、カンヌ映画祭「ある視点」にノミネートされ、特別審査員賞を受賞した他は、ガウディ賞、シネフォリオ映画賞、モントリオールFF、ミュンヘンFFともノミネートに止まった。前年2月、ベルリンのフォルクスビューネ劇場で、セラ自身の演出で初演されたものがベースになっている。晩年のヴィスコンティが寵愛したヘルムート・バーガーが両方に主演している。本作に出演者のうちマルク・スジーニ、リュイス・セラー、ラウラ・プルヴェ、バティスト・ピントー、モンセ・トリオラなどが新作と重なっている。なお邦題は、2020年3月アンスティチュ・フランセ関西でR16の制限付きで上映されたときに付けられた。
*『私の死の物語』の紹介記事は、コチラ⇒2013年08月25日
*『リベルテ』作品紹介&監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒2019年04月25日
★セラの全作品を手掛けるモンセ・トリオラは、カタルーニャ出身のプロデューサー、女優でもある。制作会社 Andergraund Films の代表者。女優としてはセラのデビュー作「Crespia」以下、『騎士の名誉』、『鳥の歌』、「キリストの名前」、『私の死の物語』、『リベルテ』、『パシフィクション』に出演、新作では故郷に戻ってきた作家を演じるようです。「ヨーロッパには、アングロサクソン諸国とは違って、他国との共同製作の伝統があり、弱小のプロジェクトにとっては大変働きやすい」と語っている。下の写真は『リベルテ』がノミネートされたガウディ賞2020のフォトコール、衣装デザイナーのローザ・タラットが衣装賞を受賞した。
(左から、モンセ・トリオラ、セラ監督、ローザ・タラット、ガウディ賞2020ガラ)
★チケット発売は10月15日と目前ですが、ラテンビート2022のサイトは Coming soon です。
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