イシアル・ボリャイン*ドキュメンタリーに初挑戦 ― 2014年12月04日 16:24
イシアル・ボリャイン、初挑戦のドキュメンタリー、舞台はエディンバラ
★“Katmandu, un espejo en el cielo”(2011)以来、イシアル・ボリャインのニュースが届きませんでしたが、ドキュメンタリーに初挑戦していたようです。サンセバスチャン映画祭2014で特別上映された作品。マドリード(11月1日)に続いて、1週遅れでバルセロナでも公開されました。長引く経済危機のせいでスペインでは暮らせない、つまり就職できない「挫折世代」と言われる若者たちがチャンスを求めて国を後にしています。スーツケース一つに全てを詰め込んで向かう先はスコットランドのエディンバラ市です。移民たちの証言と社会学者などの分析で構成されている。

*“En
tierra extraña”*
製作:TVE / Tormenta Films / Turanga
Films
監督・脚本・製作者:イシアル・ボリャイン
共同製作者:リナ・バデネス、クリスティナ・スマラパ
データ:スペイン、スペイン語、2014、ドキュメンタリー、72分
キャスト:アルベルト・サン・フアン
主な証言者:
グローリア:美術学校卒、32歳、エディンバラでのデザイン教師採用試験に合格して移住したが、不定期雇用で、2年前から商店の店員をしている。スペインの家族とはスカイプを利用している。金融危機が始まった初期からの移民者。「la acción de los guantes」*の活動をしている。
ソニア:清掃員として働いている37歳、「私が二十歳なら外国で働く冒険も悪くはないが、スペインには4歳の娘を残してきている」、37歳という年齢は厳しい。
マリビ:もう若くはない50歳、商人、失業中。「移民せざるを得なかったからしたのだが、これが良かったのかどうか」と嘆く。
マリア・ホセ:化学技術者、30歳、エディンバラではホテルの清掃員として働く。「私たちの両親は私たちを育てるために物凄く頑張った。しかし、いまは・・・スペインで化学技術者として働くより、ここの清掃員のほうが給料が高い」。親が頑張ったのは、子供に高い教育を受けさせるためだったが、子供が学んだキャリアは何の役にも立っていない。
ミリアン:26歳、心理学の学士号をもっている。ここでは清掃員、ウエートレス。
フラン:26歳、政治学の学士号をもっている。ソーシャルワーカー。かつて「スペインにやってきた移民たちの姿を映し出している」と分析している。

*la acción de los guantes (手袋の活動)というのは、スペインの挫折世代と言われる若い移民たちが‘Ni perdidos, ni callados’というスローガンで始めた抗議運動。手袋は団結のメタファーと思われる。エディンバラの街路の柵に置かれ(写真下)、いずれ柵は手袋で埋め尽くされる。最終的には集められエディンバラのスペイン大使館の前に置かれることになる。今ではこの活動はエディンバラで働く2万人が参加している。また、2013年4月からマドリードで始まったアルベルト・サン・フアンのコミック独り芝居“Autorretrato de un joven capitalista espanol”(スペインの若い資本主義者の自画像という意味)でも触れている。現在もロングランを続けている。ドキュメンタリーに唯一名前がクレジットされているのは、この独り芝居がドキュメンタリーに挿入されているから。

★監督がこのドキュメンタリーを撮ろうと決心したのは、エディンバラに滞在していたとき、多くのスペイン人移住者の失望、望郷、悲嘆に出会ったからだという。取材を始めて思いあたったのは、1960年代に大挙して豊かなドイツ、スイス、フランスを目指して出稼ぎに出掛けた、両親や祖父母の世代との類似性だった。あの時代よりずっと情報もあり準備をして移住を決意したはずなのに、味わう失望、フラストレーションはむしろ今のほうが大きい。若者も年とともに既に若者とはいえなくなっている。多くが大学や専門学校を卒業しているのに、そのキャリアを活かせるチャンスは故国でもエディンバラにもない。まず、自分の未来が描けないということに苦しんでいる。学士号をもちながら、多くはホテルの清掃員、商店の店員、ベビーシッターなどに従事している。

(イシアル・ボリャイン監督、サンセバスチャン映画祭にて)
★CSIC Consejo Superior de Investigaciones Cientificas 科学研究評議会の報告によると、海外への労働移民は、225,000人であるが、実際には、2013年の調査で約70万人に増加しているという。人口が約4600万の国で現在の失業者が540万人、失業率は史上初めて25%を超えた(若年失業率は55%)という。それにもかかわらず、なんら有効な手が打てないでいる政府に対する抗議活動が続くが、明りは見えない。
★『テイク・マイ・アイズ』、『花嫁の来た村』や『ザ・ウォーター・ウォー』の監督として、社会に静かに質問を投げかけ、日本でも多くのファンをもっている。彼女の複眼的な視点は、当事者を決して糾弾しないところが魅力だ。観客を引きつけるのは、遠くに住んでいて一緒に行動できなくても、このドキュメンタリーを見たり、証言を聞いたりして、一緒に考えたりすることは出来る、と語りかけるからだ。
★長引く経済危機のせいで労働市場は不安定、失業者があふれている一方で、「なぜ莫大な利益を得ている銀行家や大企業の経営者が存在しているのか」と監督は問いかけている。「どの政党も大きな失望しか与えていない。両手に札束を抱えた大勢の汚職者にいたっては、ただただ国民を当惑させるだけだ」。現政権(国民党ラホイ政権)も無能だが、もともとこの経済危機を招いたのは、長いこと政権を任されながら財政悪化を先送りした先の政権(社労党サパテロ政権)にも責任がある。
★素人考えだが、先進国は第三世界を犠牲にして莫大な利益を得て成長したが、搾取するところがなければ成長できないというのでは、何か資本主義自体に構造的な欠陥があるように思えてならない。スペインは第三世界の仲間入りをしてしまったのだろうか。スペインは経済のパイが大きいから、観光だけで食べていくのは土台無理なのではないだろうか。1960年代に移民した経験をもつグロリアの祖父ホセの「なんて忌々しい国なんだ、子どもたちが食べていけないなんて」という怒りの声が轟く。
セシリア・ロス*Zinebi 映画祭で栄誉賞受賞 ― 2014年12月07日 14:19
★Zinebiとは、バスク自治州最大の都市ビルバオ(ビスカヤ県)で開催される「ビルバオ・ドキュメンタリー&短編国際映画祭」のこと、今回56回目を迎えた老舗の映画祭(11月14日~21日)、主な上映会場はビルバオ最大のアリアガ劇場。州都は正式に存在しないのだが、バスク自治州議会が置かれているのがビトリア(アラバ県)なので、名目上の州都になっている。サンセバスチャン映画祭が開催されるのがギプスコア県、この3県で構成されている。一人あたりの所得はスペインで最も高く、GDPはマドリード州についで第2位、失業率も14.56%(全体の24.6%)と低く、比較的豊かな州である。
★ビルバオは、かつての製鉄業や造船業からの転進を図り、現在は金融業、エネルギー業、鉄道車両などが経済を牽引している。ビルバオ・グッゲンハイム美術館が開館(1997)して、観光都市としても発展、観光客の数では、現在ではリゾート地サンセバスチャンより多い。こういう豊かさが映画祭を支えているのだろう。セシリア・ロス栄誉賞受賞は先月アナウンスされていた。
★セシリア・ロス Cecilia Roth は、1958年、ブエノスアイレス生れのユダヤ系アルゼンチン人。父はユダヤ系ウクライナ人、1930年代にブエノスアイレスに移住した、作家、ジャーナリスト、編集者。母はアルゼンチンのメンドーサ生れ、セファルディの歌手。ミュージシャンのアリアス・ロットは実弟。1976年、軍事独裁政権の弾圧を逃れてスペインに一家で亡命した。私生活では3回結構しているが、現在は独身か。ミュージシャンでシネアストのフィト・パエスと再婚したとき養子をとったが、パエスが引き取ったようだ。スペイン、アルゼンチンで活躍しており、テレビ出演も多く、舞台でも活躍している。

受賞歴:“Martin (Hache)”ゴヤ賞1998主演女優賞・銀のコンドル賞女優賞・ハバナ映画祭女優賞他を受賞、さらにニューヨークのACE (Asociación de Cronistas de Espectaculo)も受賞した。『オール・アバウト・マイ・マザー』ゴヤ賞2000主演女優賞・銀のフォトグラマ賞受賞。“Un lugar en el mundo”銀のコンドル賞女優賞など。
*主なフィルモグラフィー*
1979 Las verdes praderas (緑の大草原)ホセ・ルイス・ガルシ
1980 Arrebato (激情)イバン・スルエタ
1981 Pepi, Luci,
Bom y otras chicas del montón 『ペピ、ルシ、ボン、その他の娘たち』
ペドロ・アルモドバル
1982 Laberinto de pasiones 『セクシリア』P・アルモドバル
1983 Entre tinieblas 『バチ当り修道院の最期』同上
1984 ¿ Qué he hecho yo para merecer esto ? 『グロリアの憂鬱』同上
1988 Las amores de Kafka 『カフカの恋』アルゼンチン=チェコスロバキア
ベダ・ドカンポ・フェイホー
1992 Un lugar en el mundo (世界のある所)アルゼンチン アドルフォ・アリスタライン
1997 Martín (Hache) (マルティン/アチェ)アルゼンチン=西 同上
1999 Todo sobre mi madre 『オール・アバウト・マイ・マザー』P・アルモドバル
2000 Segunda piel 『第二の皮膚』ヘラルド・ベラ(東京国際レズ&ゲイ映画祭上映邦題)
2001 Vidas privadas 『ブエノスアイレスの夜』アルゼンチン=西 フィト・パエス
2002 Hable con ella 『トーク・トゥ・ハー』P・アルモドバル
2002 Kamchatka (カムチャツカ)アルゼンチン=西=伊 マルセロ・ピニェイロ
2003 La hija del caníbal 『カマキリな女』メキシコ=西 アントニオ・セラノ
2005 Padre Nuestro (我らが父)チリ ロドリーゴ・セプルベダ
2008 El nido vacío (空っぽの巣)アルゼンチン=西=仏=伊 ダニエル・ブルマン
2013 Los amantes pasajeros 『アイム・ソー・エキサイテッド』P・アルモドバル
*公開作品と、未公開だが話題作を選んでいます。アルモドバル作品に出演しているので比較的知名度のあるほうかもしれない。『』は公開邦題、()は仮題。
*2008~13に映画出演がないのは、主にアルゼンチンのTVシリーズに出演していたからです。
★スペイン亡命後、早い時期にチャンスを掴んで成功した女優と言える。イバン・スエルタの“Arrebato” の主役に抜擢されたことが幸運を呼び込んだのではないか。スエルタ監督はサンセバスチャン生れ(1943~2009)、父親アントニオ・デ・スルエタは、サンセバスチャン映画祭のディレクターをつとめたシネアスト(1957~60)。長編はたったの2本しか撮っていない。ミュージカル“Un, dos, tres, al escondite inglés”(1969)*と10年後の“Arrebato”(写真下セシリア・ロス)の2作だけです。
*乾英一郎『スペイン映画史』(1992刊)では、『一・二・三・・・隠れんぼ』の邦題がついている。もっと評価されていい監督なのだが、本作については記述がないのが残念である。

★第1作はカンヌ映画祭で上映され話題になったが、本作はカンヌには拒まれた。しかし翌年夏マドリードで公開されるや、カルト映画として熱心なシネマニアやアバンギャルドの研究者たちが大いに興味を示し、民主主義「移行期」のスペイン映画のカリスマ的なイコンとなっており、現在でも海外の映画祭で上映されている。彼はスーパー8ミリの愛好家で、当時、8ミリで短編を撮りまくっていたアルモドバルの短編“El sueño, o la estrella”(1975)の撮影監督をしている。また、グラフィックデザイナーの才能も素晴らしく、アルモドバルの『セクシリア』、『バチ当り~』、『グロリアの憂鬱』、ブニュエルの『ビリディアナ』、『砂漠のシモン』などの映画ポスターを手掛けている。セシリアとアルモドバルの接点は、スエルタ監督かもしれない。
★今回バスクの映画祭で栄誉賞を受けるのは、セシリアにとっても感慨深いものがあるのではなかろうか。「自由がなければ、役者の仕事はできない、それを教えてくれたのがイバン・スルエタでした」と、Zinebi映画祭でも語っていました。

(自由がなければ役者の仕事は成り立たない、と語るセシリア)
ルイス・マリアスのスリラー”Fuego”*ヒホン映画祭2014 ― 2014年12月11日 19:14
ETAテロリストの犠牲者の復讐劇
★2015年公開予定が早くも今月公開に早まりました。いわゆるETAものという範疇に入りますが、テロは終息しつつあるとはいっても、当事者にとって「傷口は開いたまま」ということでしょうか。本作については製作発表のとき既に記事にしており、プロット、監督、主演のホセ・コロナドなどの紹介を簡単にしております(コチラ⇒2014・3・20)。製作発表段階の意図と完成作品に大きな違いがない印象ですので、参照頂けると嬉しい。
*"Fuego"*
製作:Deparmento de Cultura del Gobierno
Vasco / Fausto Producciones Cinematograficas 他
監督・脚本:ルイス・マリアス
撮影:パウ・モンラス
音楽:アリツ・ビリョダス Aritz Villodas
美術:ギジェルモ・リャグノ Llaguno
製作者:エドゥアルド・カルネロス
データ:製作国スペイン、スペイン語、2014年、スリラー、ETA、撮影地ビルバオ、第52回ヒホン国際映画祭2014コンペティション正式出品、2014年11月28日スペイン公開
キャスト:ホセ・コロナド(カルロス)、アイダ・フォルチ(カルロスの娘アルバ)、レイレ・ベロカル(テロリストの妻オイアナ)、ゴルカ・スフィアウレ(同息子アリツ)、ハイメ・アダリド(マリウス)他

プロット:元警察官カルロスの復讐劇。エタの自動車爆弾テロで妻を殺され、当時10歳だった娘は両脚を失う。11年後、カルロスは服役中のテロ実行犯に復讐を誓いながらバルセロナで暮らしている。自分の家族が受けた苦しみを同じだけ犯人の妻と息子に与える、「私こそが正義である」。憎しみと復讐で始まるがやがて内面の炎は悲しみとパッションに移ろっていく。登場人物たちは、それぞれ社会的イデオロギー的に異なった立場にいるため、その苦しみも複雑に交錯しながら物語は進行する。
第52回ヒホン国際映画祭2014(11月22日~29日)
★第52回ヒホン映画祭で唯一コンペに残ったスペイン映画、会場にはスタッフ、キャスト陣が揃って登場した。主役の三人のうち、コロナド、フォルチは既に登場、テロ実行犯の妻役ベロカルはまだ日本では未紹介です。スペインでもあまり知られていない女優、監督自身も脚本を手掛けたラファエル・モンレオンの“Questión de suerte”(96)で知り合った由。

(左から、ベロカル、中央監督、隣りフォルチ、最右翼コロナド、ヒホン映画祭にて)
「傷口は開いたまま」
★本作について、「このスリラーは、バスクの歴史に基づいているが、どこでも起こりうる事件であり、特別エタものとして撮ったわけではない。何故なら激しい苦痛を感じている人の憎しみや暴力、痛みがもたらす結果を描いているからです」と、ヒホンのプレス会見で語っています。ETAの暴力について撮ることには「はっきりしたタブー」があったが、やっと解禁された。未来志向の観客が、この映画を見ることで共生を深く考えるきっかけになればと願っている。「テロの犠牲者の傷口は開いたまま癒えていない」とも語っていました。難しいですね。
テロの犠牲者も幸せになる価値がある
★撮影は厳しかったそうだが、結果には満足している。しかし心にしこりをもったままで希望を抱くのは厳しい。それぞれ抱えている過去、傷痕、将来への考え方が異なるから当然です。ホセ・コロナドによると「寛容で乗り越えるのは容易なことではないが、でも乗り越えようという動きが出はじめている。この映画が皆の心を動かし、よい影響を与えあうようになることを期待している」と、既にこの30年間で40作の映画に出演しているベテランもコメントを寄せている。カルロスは元警察官だから正義を行う人だが、現在は復讐者である。実際まるで「ジギルとハイド」のモデルのような役だから、最後までどちら側に自分を置いたらいいのか難しかった。役柄を落ち着かせるため、<尊敬している>エンリケ・ウルビスがやるようにバスクをあちこち歩き回りながら観察してまわったそうです。結果的には、どちら側でもない第三の生き方を見つけることになるんでしょうね。監督からは凄い集中力を求められたが関係は素晴らしかったそうで、撮影は納得いくものになったということでしょう。ゴヤ賞に絡むと予想しますが、『悪人に平穏なし』に近すぎるかな。
★ルイス・マリアス Luis Marias Amando:脚本家・監督・俳優・プロデューサー。1988年、脚本家として出発、映画&テレビの脚本多数。なかでホセ・アンヘル・マニャスの同名小説を映画化したサルバドール・ガルシア・ルイスの“Mensaka”(1998)の脚色が評価された。監督デビュー作は“X”(2002)とかなり前の作品、“Fuego”が第2作になります。TVミニシリーズ“Gernika bajo las bombas”(2エピソード2012)は、その年のサンセバスチャン映画祭で上映されました。1937年4月26日のゲルニカ爆弾投下をテーマにしたドラマ。

*第1作“X”にはエンリケ・ウルビスの『貸し金庫507』(2002」でホセ・コロナドと共演したアントニオ・レシネスが主役を演じている。そんな繋がりで出演したのかもしれない。ウルビスは昨年『悪人に平穏なし』で登場、日本でも認知度の高い監督になりました。
★ホセ・コロナド José Coronadoは、1957年マドリード生れ。つまりフランコ時代の教育を受けて育ったマドリッ子ということです。父親がエンジニアで比較的裕福な家庭環境で育った。大学では最初法学を4年間学んだが卒業できず、次に医学を志すもこれまた2年で挫折した。本人によれば大学を諦めて旅行会社、レストラン、モデル、トランプのギャンブラーなどを転々、要するにプータローをしていた。フランコ没後(1975)から約5年間の民主主義「移行期」というのは混乱期でもあった。
★映画の世界に入ったきっかけは、「ウィスキーのテレビ・コマーシャルのモデルに誘われ、マジョルカで撮影すると言うし、出演料が破格だったので引き受けた」そうです。その後30歳になる直前に演技の勉強を思いたち、キム・デンサラットの第1作“Waka-Waka”(87)で映画デビュー、1989年『スパニッシュ・コネクション』の邦題でビデオが発売されている。初期の話題作では、イマノル・ウリベの“La luna negra”(89)、ビセンテ・アランダの“La
mirada del otra”(98)、カルロス・サウラの『(ボルドーの)ゴヤ』(99)では青年時代のゴヤになった。

(撮影中のコロナド)
*やはり今世紀に入ってからの活躍が目立ちます。主役を演じたエドゥアルド・コルテスの“La vida de nadie”(02)、エンリケ・ウルビスの『貸し金庫507』(02)、つづいて“La vida mancha”(03)とゴヤ賞主演男優賞受賞の『悪人に平穏なし』(11)、ミゲル・コルトワのETAの実話を基にした“El Lobo”(04)と“GAL”(06)、アレックス&ダビ・パストール兄弟の『ラスト・デイズ』(13)、オリオル・パウロの『ロスト・ボディ』(13)など、公開作品も多いほうです。
★アイダ・フォルチ Aida Folch:1986年、カタルーニャのタラゴナ生れ、女優。子役でフェルナンド・トゥルエバの“El embrujo de Shanghai”(02)でデビュー、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』(02)、マヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』(06)、公開されたフェルナンド・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』(12)、本作でゴヤ賞2013主演女優賞ノミネート、トゥリア賞2013女優賞を受賞した。他にアントニオ・チャバリアスの“Las vidas de Celia”(06)、パチ・アメスクア Patxi Amescuaの“25 kilates”(08)で翌年のマラガ映画祭の女優賞を受賞している。来年になるが、ホセ・コルバチョ&フアン・クルスのコメディ“Incidencias”(15)に出演している。他、短編、TVドラ多数。

★レイレ・ベロカル Leyre Berrocal:1973年ビルバオ生れ、女優、脚本家。フアン・ビセンテ・コルドバの“Entre con sol”(95)、前出のラファエル・モンレオンの“Questión de suerte”、ペドロ・ペレス・ロサドの“Agua con sal”(05)など。

(レイレ・ベロカル、“Fuego”から)
フアン・アントニオ・バヨナの『怪物はささやく』*イギリスでの撮影終了 ― 2014年12月13日 20:46
★以前フアン・アントニオ・バヨナの新作のご案内をしたときは(コチラ⇒2014年3月17日)、まだキャスト陣が決まってない段階でしたが、11月に3週間かけてイギリスでの撮影が終了、現在はバルセロナ近郊のテラッサでの撮影が始まりました。予定は3カ月、公開は再来年2016年秋と大分先になります。ベストセラー作家パトリック・ネスの小説“A Monster Calls”(“Un monstruo viene a verme”)の映画化。癌で夭折したシヴォーン・ダウドの原案をパトリック・ネスとイラストレーターのジム・ケイが完成させたもの。原作は既に2011年『怪物はささやく』として翻訳が刊行されています。

*“A Monster Calls”(“Un monstruo viene a
verme”)*
製作:Apaches Entertainment / La trini / Participant Media
/ River Road Entertainment
監督:フアン・アントニオ・バヨナ
脚本:パトリック・ネス
撮影:オスカル・ファウラ(前2作と同じ)
音楽:フェルナンド・ベラスケス(前2作と同じ)
プロダクション・デザイン:エウヘニオ・カバジェロ
製作者:ベレン・アティエンサ(アパッチ・エンターテインメント)、サンドラ・エルミダ、
ジョナサン・キング、他
配給会社:フォーカス・ヒューチャーズ/ライオンズゲイト(米国)、
ユニバーサル・ピクチャー(スペイン)など。
データ:米国=スペイン、英語、製作費2500万ユーロ、2016年秋公開(米国10月14日)
キャスト:ルイス・マクドゥーガル(コナー)、リーアム・ニーソン(イチイのモンスター)、フェリシティ・ジョーンズ(母)、シガニー・ウィーバー(祖母)、トビー・ケベル(父)、ジェラルディン・チャップリン、他
ストーリー: イチイの大木の怪物と13歳のコナー少年のファンタジー・ドラマ。両親は離婚して父親はアメリカで新しい家族と暮らしている。少年は癌と闘っている母親と一緒に暮らしており、学校ではイジメにあって孤立している。禁欲的で厳しい祖母がコナーの面倒をみるため到着した。ある夜、怪物が少年の家にやってきて、「私が先に三つの物語を語ります。それが終わったら君が四つめを語りなさい。その物語は君が心に閉じ込めている真実の物語でなければなりません。なぜなら君はそれを語るために私を呼んだのだから」と。

★キャストの顔ぶれを見れば、予告通り、大物俳優起用が頷けます。コナー少年はオーデションを受けた1000人ぐらいの中から選ばれたとか。本作より先に『パン』(ピーターパン)で来年夏以降に登場することになるでしょう。

(2015年夏アメリカ公開の『パン』のポスター)
★祖母役は初めてというシガニー・ウィーバーはオファーがあったとき、監督の過去の作品から判断して、脚本を読まずにオーケーした由。読んでからこれは挑戦的なプロジェクトになると思ったそうです。「こんな才能豊かな独特の視点をもった監督の映画に参加できるとはなんと幸運なのと思った。いちいちどこがと列挙するのは難しいけど」と監督の傍らで褒めちぎった。撮影の大部分が水の中、顔は傷だらけという汚れ役に、恐る恐るオファーをかけたら一発でOKしてくれた『インポッシブル』のナオミ・ワッツの例を思い出しました。バヨナもスペインを代表する監督の仲間入りということですか。
★母親役のフェリシティ・ジョーンズ(1983バーミンガム生れ)は、『アメジング・スパイダーマンⅡ』に出ています。リーアム・ニーソン(1952北アイルランド生れ)は有名すぎて説明いりませんね。ニーソン演じるモンスター、不吉な墓場に立っているイチイの大樹は12メートル、この撮影が大変らしい。『インポッシブル』では打ちつける大波の撮影が難しかったそうですが。技術的にはジェームズ・キャメロンの『アバター』や、ピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』などを応用することになるそうです。ギジェルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』でオスカー賞(美術賞)を受賞したエウヘニオ・カバジェロが担当、鉄製の足場を組んだようです。
★「母子三部作」というのは、第1作『永遠のこどもたち』(07)と『インポッシブル』(12)のことで、本作が第3作になります。これで母子三部作は終りにするつもりだとも語っています。「この映画は、現実と虚構の間を描きますが、ジャンル的には第2作に近く、テーマ的には第1作に近い。というのもより現実的な家族を描きますが、領域的には死が身近にあり、エモーショナルな激しさを共有しているから」と監督。あるシーンを撮り終えたとき、スタジオにいた俳優やスタッフが、製作会社メディアセットの代表者のパオロ・ヴァシレまで不覚にも感動の涙を流してしまったそうです(笑)。
★『インポッシブル』も本作も、ハリウッドの「ブラック・リスト」に載っていた。つまり多額の資金供給を探している脚本のリストです。「ハリウッドのプロデューサーたちも最近は保守的になっていてリスクをとりたがらない。スーパーヒーローが出演するとか、大企業が業務委託してくれるものが優先される」と監督。賭けを望まないのがホンネのようです。本作の製作費も2500万ユーロとハンパじゃない。第2作の実績があったればこそです。米国の配給会社フォーカス・ヒューチャーズほか、上記の製作会社が出資している。

(本作撮影中のバヨナ監督)
★「この小説を読んだとき、映画にしてくれ、と本が自分を呼んでいるように感じた」と監督。また自分にとって『怪物はささやく』は、現実世界に立ち向かうのにファンタジーは必要だと教えてくれたエモーショナルな物語でもあると。翻訳書に倣って『怪物はささやく』と一応しておきますが、日本公開時の邦題がこの通りになるかどうかは分かりません。言語は残念ながら英語ですから、当ブログには該当しませんが、バヨナということで割り込ませています。
マリア・リポルの新作*モントリオール映画祭観客賞受賞作 ― 2014年12月18日 18:04
★マリア・リポルの“Rastros de sándalo” (西≂インド≂仏)については、モントリオール映画祭「フォーカス・オン・ワールド・シネマ」部門で上映、観客賞を受賞した折りにごく簡単にストーリーをご紹介しました(コチラ⇒2014・9・6)。言語がカタルーニャ語と英語ということで、当ブログには該当しない作品ですが、バジャドリード映画祭Seminciでも上映され話題になったことや、監督並びに原作者アンナ・ソレル・ポントの紹介も兼ねて記事にしました。11月下旬バルセロナ、アリカンテ、マドリードでプレミア上映された後、11月28日にスペインで公開、字幕入り上映ではなく吹替えのようです。

*“Rastros de sándalo”(Traces of Sandalwood)*
製作:Natixis Coficine /
Pontas /
監督:マリア・リポル
脚本・プロデューサー・原作:アンナ・ソレル・ポント
音楽:Zeita Montes ゼイタ・モンテス/シモン・スミス
撮影:ラケル・フェルナンデス・ヌニェス
美術:アンナ・プジョル・タウラー
編集:イレーネ・ブレクア
プロデューサー(共同):リカルド・ドミンゴ(西)/マルク・ド・Gouvenain(仏)
データ:スペイン≂インド≂フランス、カタルーニャ語/英語、2014、95分、同名小説の映画化、撮影地:ムンバイ、ハイデラバード、バルセロナなど、製作費:約180万ユーロ、2014年11月28日スペイン公開、同11月8日インド・インディペンデント映画祭上映
キャスト:ナンディタ・ダス(姉ミナ)、アイナ・クロテット(妹シータ、パウラ)、Naby Dakhil(プラカッシュ)、Subodh Maskara(サンジャイ)、Godeliv Van
den Brandt(ニッキ)他
ストーリー:母親の死によって、無理やり引き離されたインドの姉妹の物語。30年の時が流れ、今では姉ミナはボリウッド映画の大スターになっている。別れたとき幼かった妹シータのことが片時も頭から離れない。一方、今ではパウラと呼ばれているシータは、自分が養女であることも知らずに、生物学者としてバルセロナで暮らしている。姉の突然のバルセロナ到着は、インドの記憶がないパウラの世界を激しく揺さぶることになる。パウラはインドからの若い移民プラカッシュの助けを借りてアイデンティティ探しの旅に出ることになる。自分が何者であるか知らずに生きることはできるのか、二人の再会はやがて彼女たち自身の内面を探る旅となるだろう。

(ムンバイで暮らしていたころの姉妹)
★ストーリーは日常を淡々と語る方法で進行するが、さりげなさの中に複雑な感情を織り混ぜ、唯のロマンティック・メロドラマという非難から救い出している。エル・パイス紙のコラムニスト、ハビエル・オカーニャによると、それはリポル監督の素晴らしい撮影技法が甘美なメロドラマ的な欠点を覆い隠しているからだという。また完全なフィクションでありながら、原作者でもある脚本家ソレル・ポントが、インドの伝統文化を守りながらバルセロナで暮らす移民たちの家族の現実をきちんと描いたからだという。そういう緻密な取材がモントリオールの観客を感動させたのかもしれない。有名女優になった姉が、はるばるムンバイからバルセロナに生き別れの妹を探しにくるという、少し突飛なストーリーでありながら、浮足立っていないということでしょうか。オール女性スタッフとは言えないが、殆どが女性という珍しい布陣にも注目したい。

(姉ミナ役のナンディタ・ダス)
★“Rastres de sándal”は、比較的低予算で製作されたにしては良質のメロドラマと高評価です。アンナ・ソレル・ポントとAsha Miróが共同執筆したカタルーニャ語の同名小説(2007年刊)の映画化。ムンバイとバルセロナが舞台となり、撮影もインド、バルセロナと3週間ずつ、予算の関係でそれ以上の日数は掛けられなかったとエグゼクティブ・プロデューサーでもあるソレル・ポントは語っている。製作費180万ユーロのうち、バルセロナ自治州政府から7000ユーロの助成金を受けた。それっぽちと言うなかれ、そのお蔭でプロフェッショナルなスクリプト・エディター、コラル・クルスと契約できたとも語っている。
★この映画は、リポルの映画というよりソレル・ポントの映画の感が深い。文末の経歴を読んでいただければ、彼女の熱意のほどが分かります。スペインの映画界は男性優位で女性は低く見られてる。これは多くの女性シネアストの一致した声です。カンヌも似たようなものだが、ハリウッドはもっとヒドイ、女優は使い捨てが当たり前ですから。彼女によると「86回を数えるオスカー賞で、女性の監督賞受賞者は『ハート・ロッカー』(2009)のキャスリン・ビグロー唯一人しかいない」と。この第82回アカデミー賞は元夫婦対決として話題になった年、ジェームズ・キャメロンの3D『アバター』が涙を飲んだ授賞式でした。キャスリン・ビグローは、リポルと同じアメリカン・フィルム・インスティチュートAFIで学んでいますね。
★姉にナンディタ・ダスNandita Das(1969デリー生れ)、妹に“Elisa K”(2010)で主役のエリサを演じたアイナ・クロテットAina Clotetが演じています。ナンディタは役柄と同じボリウッド映画の大スターですが、アイナ・クロテットは金髪のカタルーニャ人、それでも監督はアイナに拘った。当時、彼女はロスの舞台に立っていたのでEメールでやり取りした。監督は「この役はアイナ以外に考えていない」と口説き落としたようです。 それからアイナの猛勉強が始まった。「生物学から養子縁組の制度まで勉強して、撮影に入るまでにマックスの準備をして臨んだ」と語っています。

(妹パウラのアイナ・クロテット)
*キャリアとフィルモグラフィー*
マリア・リポルMaria
Ripoll:1965年バルセロナ生れ、監督、脚本家。ロスアンジェルス・カリフォルニア大学UCLAで演技指導と脚本作法を学んだ後、ロスのアメリカン・フィルム・インスティチュートAFI(1967設立)で演出を学ぶ。在籍中の1993年に撮った短編“Kill me later”が、ドイルのオーバーハウゼン映画祭で観客賞を受賞、以後アメリカで映画やテレビの仕事をする。1998年、ロンドンで撮影したコメディ、長編デビュー作となる“The Man with Rain in His Shoes”(Lluvia en los zapatos)が話題になる。2001年、ロスで撮影したロマンティック・コメディ“Tortilla Soup”(英語・西語)、2003年の第3作“Utopía”は『ユートピア/未来を変えろ。』の邦題で公開された。「私の映画では、有名でない俳優を起用することが重要」と語っていたのですが、当時人気絶頂だった『炎のレクイエム』のレオナルド・スバラグリアと『アナとオットー』のナイワ・ニムリが出演した映画でした。

*スペインが製作国ということもあるのか一番評価の高いのが、第4作“Tu vida en 65
minutos”(2006)。アルベルト・エスピノサ(1973年バルセロナ生れ)の有名な同名戯曲の映画化、「自分が撮れるなんて信じられない」と語っていたリポル監督、映画のキイ・ポイントは、<死>と<愛>という重いテーマでした。主役はハビエル・ペレイラ、ロドリーゴ・ソロゴジェンの“Stocholm”でゴヤ賞2014の新人男優賞を受賞しましたが、当時はまだ「有名でない俳優」でした。第5作目が本作です。第6作となるラブ・コメディ“Ahora o nunca”が来年の完成を目指して撮影中、来年のゴヤ賞ガラの総合司会者ダニ・ロビラと『解放者ボリバル』で薄命のボリバル夫人を演じたマリア・バルベルデが夫婦役、クララ・ラゴも脇役で出演します。

(左から、バルベルデ、ロビラ、ラゴ 進行中の“Ahora o nunca”)
★アンナ・ソレル・ポントAnna Soler-Pont :1968年バルセロナ生れ、作家、脚本家、プロデューサー。バルセロナ大学でアラビア哲学を学ぶかたわら、出版社で校正の仕事、編集、翻訳などに携わる。1991年10月、カイロに1ヵ月滞在、尊敬するノーベル賞作家ナギーブ・マフフーズ(1911~2006、1988年受賞)と知り合うことができた。エジプトの多くの女性作家たちと知己を得て、彼女たちからヨーロッパへの作品紹介の翻訳を依頼される。バルセロナに帰国すると作家や編集者とのコネクションを求めて、異なった文化の橋渡しに尽力する。

*1992年5月、24歳のとき自ら文学仲介業の代理店ポンタスPontas を設立する。パリ、アムステルダム、フランクフルトなどのブック・フェアに参加して、アフリカ、アラブ、アジアの無名の女性作家の作品紹介及び販売に努める。ポンタスは映画やテレビのようなオーディオビジュアルな媒体にも進出して、アニメーションも製作している。これらのビジネス全てを独学で学んだというからその才能とバイタリティには舌を巻く。1992年には、バルセロナからトルコ、クルディスタン、イラン、パキスタンを通ってインドのニューデリーまで車で走破した。これが本作にも大いに役立っている。現在は文学と映画の橋渡しの仕事に力を注いでいる。
作品:“Cuentos y leyendas de Africa”(プラネタ社)アフリカの短編のアンソロジー
“Rastros de sándalo”(2007プラネタ社)アシャ・ミロとの共著、本作の原作。
オスカー賞2015外国語映画賞プレセレクション*アルゼンチンとベネズエラ ― 2014年12月21日 15:25
★アカデミー賞2015外国語映画賞のプレセレクション9作品が発表されました(12月19日)。当ブログで度々登場したダミアン・シフロンの“Relatos salvajes”(Wild Tales アルゼンチン≂西)と意外にもアルベルト・アルベロの『解放者ボリバル』(Libertador ベネズエラ≂西)が残りました。ダビ・トゥルエバの“Vivir es facil con los ojos cerrados”(西)とアレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスの『殺せ』(Matar a un homgre チリ≂仏)は残念でした。

自分探しの旅が本命か
★今年は受賞歴なしというか初めてノミネートの国が多い印象です。本命とされている『イーダ』(Ida) のポーランドも9回ノミネートと数こそ多いのですが、受賞歴なしです。『イーダ』のように自分探しの旅が戦後の歴史と重なる映画は、高齢化の進むアカデミー会員の好むジャンルです。いずれにしても、これから5作品に絞られ、受賞に辿りつくまでには山あり谷ありでしょう。

(右リカルド・ダリン)
リカルド・ダリンはアルゼンチンのヒーロー
★人口4076万人のアルゼンチンで、入場者300万以上は『瞳の奥の秘密』(241万人)を超えますね。勿論オスカー賞を受賞してからはトータルで、3355万ドル(製作費200万ドル)の収益を上げたから比較になりませんが。アルゼンチンのアカデミー賞と言われる「スール賞」は作品賞、監督賞、主演男優(オスカル・マルティネス)、主演女優(エリカ・リバス)以下10部門を制覇するという、ゴヤ賞同様こちらも一極集中が恒例になりました(『瞳の奥の秘密』は13部門)。6話で構成されているので主演と言われても困るので一応受賞者名を入れました。

(中央アルモドバル、エリカ・リバス、サングラスのオスカル・マルティネス)
★どのエピソードも出だしは平凡に始まるが、どれもこれも次第に信じがたい危険な展開になる。例えばエリカ・リバスが花嫁になるエピソード‘Hasta que la muerte nos separe’では、人生最大の幸せの結婚式が些細なやきもちからコントロールを失っていく。またオスカル・マルティネス出演の‘La propuesta’は、交通事故をお金でもみ消そうとするのは金持ちなら誰でも考えつく。強請りがエスカレートするのもお馴染みのコース、ところがさんざお金をつぎ込んだあげくに罪を償いたいと言い出されては困るでしょ(笑)。若い監督が社会秩序を攪乱していく才能はハンパじゃない。とんでもない出来事もブラック・ユーモアのお蔭で深刻にはならない。監督と結婚したマリア・マルルは、カンヌではかなりおなかが目立っていたから生まれたかな。本作にはイサベル役で”Pasternak”に出演している。仮に最終5作品に残ることはあっても受賞はないでしょうね。
★『解放者ボリバル』はプレセレクション止まり、ゼロ回ノミネートでも映画発達途上国ベネズエラではそれなりの意味があります。かなり史実と異なっていても、祖国の英雄が世界に知られるのは、国民として誇りになります。(写真下、ボリバルになったエドガー・ラミレス)

*当ブログ関連記事
“Relatos salvajes”⇒2014年5月1日/22日カンヌ映画祭2014
2014年8月15日トロント映画祭2014
『解放者ボリバル』⇒2013年9月16日トロント映画祭2013 ④
2014年10月27日ラテンビート2014 あれやこれや ①
フォルケ賞2015ノミネーション発表*『エル・ニーニョ』 ― 2014年12月22日 18:11
★ホセ・マリア・フォルケ賞(2015年1月12日)の各候補が以下のように決定しました。スペイン映画は、男優女優を含めていずれも当ブログでご紹介済みです。いくつも賞があって混乱しますが、フォルケ賞とは:

★ゴヤ賞の前哨戦といわれるフォルケ賞の正式名は「ホセ・マリア・フォルケ賞Premios Cinematográfico José María Forqué」です。EGEDA*の初代会長だったフォルケの栄誉を讃えて創設された賞。監督ばかりが脚光を浴び、製作者が評価されないことを憂えて作られた賞。というわけで最初は作品賞のみで始まり、第9回から長編ドキュメンタリーまたはアニメーション部門が加わり、第15回から男優賞・女優賞、栄誉賞にあたる金賞(ない年もある)が加わりました。男優・女優賞の賞金3000ユーロはAISGE財団**が拠出します。120名以上の映画関係のジャーナリストが選出しています。更に今回からラテンアメリカ映画賞も新設されて規模拡大の傾向にあります。第20回は2013年12月1日~2014年11月30日の1年間に公開された作品が対象。作品賞には3万ユーロ、長編ドキュメンタリーとアニメーション賞には6000ユーロの賞金とビクトル・オチョア製作のトロフィーが授与されます。授賞式はマドリードのPalacio Municipal de Congresos で2015年1月12日に行われる予定。
*Entidad de Gestión de
Derechos de los Productores Audiovisuales の頭文字。いわゆる視聴覚製作に携わる人々の権利を守るための交渉団体です。1990年創設だが活動は1993年から。現会長はエンリケ・セレソ、副会長はアグスティン・アルモドバル。
**Artistas
Intérpretes, Sociedad de Gestión の頭文字。声優を含む俳優、舞踊家、映画監督などの権利を守る非営利団体、2002年設立、現会長は女優ピラール・バルデム(バルデム兄弟の母親)。
★ラウル・アレバロは、アルベルト・ロドリゲスの“La Isla
Mínima”でノミネートされています。マヌエラ・ベジェスは、ハビエル・フェセルの『カミーノ』でカミーノのお姉さんになった女優、現在は2014年から始まったTVドラ・シリーズ“Velvet”(アンテナ3)に出演中。

(左から、エンリケ・セレソ会長、マヌエラ・ベジェス、ラウル・アレバロ)
★最優秀作品賞(スペイン)
★最優秀作品賞(ラテンアメリカ)
Cantinflas メキシコ
Código Paz ドミニカ共和国
Hoje eu quero voltar sozinho,“The way he looks” ブラジル
Matar a un hombre チリ(『殺せ』)
Mr. Kaplan ウルグアイ
Relatos salvajes アルゼンチン
★最優秀男優賞 AISGE財団
-Javier Gutiérrez ハビエル・グティエレス (La
Isla Mínima) 監督:アルベルト・ロドリゲス
-José
Sacristán ホセ・サクリスタン (Magical
Girl) 監督:カルロス・ベルムト
-Karra
Elejalde カラ・エレハルデ (Ocho Apellidos Vascos)
監督:エミリオ・マルティネス・ラサロ
-Raúl Arévalo
ラウル・アレバロ (La
Isla Mínima) 監督:アルベルト・ロドリゲス
★最優秀女優賞 AISGE財団
Bárbara Lennie バルバラ・レニー ( Magical Girl) 監督:カルロス・ベルムト
Elena Anaya エレナ・アナヤ (Todos están muertos) 監督:ベアトリス・サンチス
Ingrid García-Jonsson イングリッド・ガルシア≂ヨンソン (Hermosa Juventud)
監督:ハイメ・ロサーレス
Natalia Tena ナタリア・テナ (10000 km) 監督:カルロス・マルケス≂マルセ
★主なノミネーションは以上のようです。結局、マラガ映画祭やサンセバスチャン映画祭での受賞作が選ばれているということで、ゴヤ賞2015も同じ可能性が高い。ラテンアメリカ部門では、チリの『殺せ』とアルゼンチンの“Relatos salvajes”以外記事にしておりません。後者はスペインとの合作なので両方にノミネーションされていますが、かつて『瞳の奥の秘密』がゴヤ賞でダブル・ノミネートでした。個人的にはどちらか一つにすべきと思います。結果は来年1月12日に、スペイン最初の映画賞発表となります。続いて「フェロス Feroz賞」が1月25日です。
第2回フェロス賞2015ノミネーション*最多は”La isla minima”の10個 ― 2014年12月23日 21:05
第 2 回フェロス賞ノミネーション
★正式名は‘Premios Feroz’*、AICE**が米国のゴールデン・グローブ賞と同じ位置づけで2013年11月に設立した映画賞。合計13部門のノミネーション発表は12月、映画記者協会のメンバー約170人が選定する。前年度の各映画祭での受賞作、劇場公開された作品(全国展開でなくてもマドリードやバルセロナなど大都市で公開)、またはオンライン配信されたものも対象作品とするようです。国際映画祭で受賞しても配給元が見つからないケースも対象になる。第1回授賞式は2014年1月27日に行われ、作品賞(ドラマ部門)はロドリーゴ・ソロゴジェンの“Stockholm”でした。
*スペイン語の「feroz」は、一般には動物が「獰猛な」、人間が「残酷な」とマイナス・イメージに使用されているが、「スペイン現代語辞典」では、「とても素晴らしい、非凡な、並外れた、見事な」という意味も採用されている。“Diccionario del Español Actual”(Manuel
Seco 他、Aguilar社1999)
**Asociación de Informadores Cinematográficos de Españaスペイン映画記者協会 の頭文字。

(フェロス賞のトロフィー)
★カテゴリー(栄誉賞と特別賞を含む)13部門(右列:第1回受賞作品&受賞者)
1 作品賞(ドラマ) “Stockholm”
2 作品賞(コメディ) “3 bodas
de más”
3 監督賞 ダビ・トゥルエバ“Vivir es
facil con los ojos cerrados”
4 脚本賞 “Vivir es fácil con los ojos cerrados”
5 主演男優賞 アントニオ・デ・ラ・トーレ『カニバル』
6 主演女優賞 マリアン・アルバレス“La herida”
7 助演男優賞 マリオ・カサス『スガラムルディの魔女』
8 助演女優賞 テレレ・パベス『スガラムルディの魔女』
9 オリジナル音楽賞 ビクトル・レイジェス『グランドピアノ~狙われた黒鍵』
10 トレーラー賞 Teaserの『アイム・ソー・エキサイテッド』
11 映画ポスター賞 Serie 10 razones の“3 bodas
de más”
栄誉賞(すべてのシネアストが対象)
特別賞(興行成績が良かった観客賞のようなものか)
★栄誉賞と特別賞は、ゴヤ賞など他の映画賞にはないものです。ゴチック体はゴヤ賞2014と受賞が重なったもの。当ブログで全ての受賞作品を紹介しております。
第2回(授賞式2015年1月25日開催)主なノミネーション
★今年は123作品中13作品に絞られています。つまり1作品が複数のカテゴリーにノミネートされているということです。受賞は割れると思いますが、フォルケ賞やゴヤ賞のノミネートとほぼ重なるラインナップという印象です。例えば、アルベルト・ロドリゲスの“La
isla minima”の内訳は、コメディ賞(コメディではない)と主演女優賞(主演女優は出てこない)以外のすべてにノミネート、主演男優賞にラウル・アレバロとハビエル・グティエレスの二人ノミネートで合計10個となりました。グティエレスは既にサンセバスチャン映画祭で男優賞を受賞しています。

(“La isla minima”出演のラウル・アレバロ左とハビエル・グティエレス右)
★今年のスペイン映画界は、消費税増税にもかかわらず「黄金の年」であった。例えば、エミリオ・マルティネス≂ラサロの大ヒット“Ocho apellidos vascos”(5600万ユーロ)、ダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』(1620万)、サンチャゴ・セグラのトレンテ・シリーズ第5弾“Torrente V :Operacion Eurovegas”(1070万)、“La isla minima”(600万)などが挙げられる。一番貢献した“Ocho apellidos vascos”は、コメディ賞、助演女優賞(カルメン・マチ)、助演男優賞(カラ・エレハルデ)とトレーラー賞の4個、次の『エル・ニーニョ』は、助演男優賞にエドゥアルド・フェルナンデスとヘスス・カロサの二人、オリジナル音楽賞のロケ・バニョスの3個です。サンチャゴ・セグラの「トレンテ4」は、スペイン映画界の救世主と感謝されたのにゴヤ賞ノミネーションはゼロでした。今回の“Torrente V :Operacion Eurovegas”はフェロス賞にも嫌われ、多分ゴヤ賞にも嫌われると思います。

(左から、カルメン・マチとカラ・エレハルデ)
★興行的には貢献しているとは言えないが、映画記者に好かれたのが、サンセバスチャンで異例の金貝賞と監督銀貝賞のダブル受賞をしたカルロス・ベルムトの“Magical Girl”です(本来はダブル受賞なし)。ドラマ部門作品、監督、主演女優、主演男優、助演男優、脚本、トレーラー、ポスターの8個。また興行成績も200万ユーロと貢献度が高かったパコ・レオンのカルミナ第2弾“Carmina y amén”は、コメディ部門作品、監督、主演女優、助演女優以下7個と健闘しています(個人的に応援している)。

(“Magical Girl”のカルロス・ベルムト監督)

(“Carmina y amén”のカルミナ・バリオスとマリア・レオン母娘)
★ラテンビートと東京国際映画祭で共催上映されたバスク映画『フラワーズ』が期待以上の6個、ドラマ部門作品、監督・脚本(ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガ)、助演女優(イジアル・アイツプル)、音楽(パスカル・ゲーニェ)、ポスター。マラガ映画祭のグランプリ、カルロス・マルケス≂マルセの“10,000 KM”も6個、ドラマ部門作品、監督、脚本、主演女優(ナタリア・テナ)、主演男優(ダビ・ベルダゲル)、トレーラー。

(『フラワーズ』のテレ役イジアル・アイツプル)
★ハイメ・ロサーレスの“Hermoso
juventud”がドラマ部門作品、脚本、主演女優(イングリッド・ガルシア・ヨンソン)の3個、同じくホルヘ・トレグロッサの“La vida inesperada”がコメディ作品、主演男優(ハビエル・カマラ)、音楽(ルシオ・ゴドイ他)の3個、ハビエル・フェセルの久々のモルタデロ&フィレモン・シリーズ“Mortadelo y Filemon contra Jimmy el cachondo”が、コメディ作品と音楽(ラファエル・アルナウ)の2個などです。
★もう間もなく発表になるはずですが、栄誉賞と特別賞はまだです。ゴチック体は当ブログで紹介した作品です。
パコ・レオン*フアナ・マシアスのコメディに出演 ― 2014年12月27日 23:34
パコ・レオン、後ろを振り向かない
★監督業と俳優業の「二足の草鞋」人生もバランスよく進行中、レオン家のサーガ<カルミナ>シリーズ第2弾“Carmina y amén”の収益200万ユーロは、充分お釣りがきた(製作費65万)。しかしデビュー作“Carmina o revienta”の製作費はたったの5万ユーロ、収益66万4000ユーロを弾きだした。内訳は、インターネット配信6万回、DVD7万部、映画館が20館で1万7000人だったという。この数字は確実に映画を映画館で見ないという人々が増えてきたことを物語っている。第2作はTelecinco Cinema など製作会社との問題をクリアーして、1日限定無料上映に漕ぎつけた(公開1日前の4月29日、125館)が、これで映画館に観客が戻ってくるとは思えない。しかし映画という「製品販売の新しい革新的な方法」の一つかもしれないし、「初めてのケースは上手くいったように見える、少なくとも多くの人々が映画を見に行ったのだから。この試みが興行収益に寄与したかどうかは知らないが、やってみることに価値がある」と、エルパイス紙の映画コラムニストのカルロス・ボジェロは語っている。

(レオン監督、妹マリア、母親カルミナ、マラガ映画祭2014にて)

(劇場公開前の1日限定無料上映のポスター)
パコ・レオン、ルイスマに別れを告げる
★2005年から始まり今年4月末にクランクアップしたTVシリーズ“Aída”のルイスマLuisma 役にとうとう別れを告げた。本名のパコ・レオンよりルイスマ・ガルシア・ガルシアのほうが有名だった。それもそのはず全237話に出ずっぱり、主役のカルメン・マチ(アイーダ役)だって101話なのだ。特にテレビしか見ない人はルイスマしか知らないとインタビューに答えている。最近の10年間でもっとも成功した俳優の一人に挙げられている。「多くを学び、素晴らしい仲間に出会えた、慌ただしかったことを否定しないが、私は過去を振り返らない主義なんだ」と、元麻薬常用者でいささか脱線気味だったお茶の間のヒーロー、ルイスマを振り返っていた。この長期にわたったTVシリーズの成功は、「ひとえにルイスマを演じたパコ・レオンの魅力、本人とはまったく対照的な人格だったが」とボジェロも評価する。

(ルイスマ役のパコ・レオン)
★テレビ出演前は演劇でもダンスでも、交替で出演する「その他大勢の一人」にすぎなかった。成功のステップは、2003年の暮れから始まったTVシリーズ“Home Zapping”(~2006、41話)に出演したことで、ここでの演技が認められてルイスマ役を射止めた。2007年には別のTVシリーズに掛け持ちで出演していたから慌ただしかったに違いない。
パコ・レオン、カルミナの第3部は撮りますか?
★映画出演では、既に日本に登場しています。ミゲル・マルティの『セクシー・キラー リベンジ・オブ・デッド』(2008、未公開、DVD)、2009年にはホアキン・オリストレルの“Dieta mediterránea”(邦題『地中海式 人生のレシピ』2013年10月公開)の2作。2014年のゴヤ賞作品賞ノミネーション確実と予想していたのに洩れてしまった、ハビエル・ルイス・カルデラのコメディ“Tres bodas de más”などに出演しています。そして6月にフアナ・マシアスの第2作コメディ“Embarazados”に出演が予告されておりましたが、予告通り11月中旬にサンセバスチャン入り、撮影が開始されました。
★クランクインしたばかりですが、サンセバスチャン撮影のあとマドリードに移る。40歳になって初めて親になろうと決心する夫婦の混乱ぶりが語られる。フアナ・マシアス監督によると、「今まで観客が見たことのないパコ・レオンの魅力をお見せする」らしい。お相手は来年には本作を含めて4本の新作に出演、目下引っ張り凧のアレクサンドラ・ヒメネス、公開作品はナチョ・G・ベリジャの『シェフズ・スペシャル』(08)、ハビエル・ルイス・カルデラの『ゴースト・スクール』(12)や『最終爆笑計画』(09、未公開DVD)など、コメディ・ファンにはお馴染みです。完成したら改めてアップいたします。脇役にカラ・エレハルデ、イングリッド・ガルシア・ヨンソン、二人とも第2回フェロス賞にノミネートされています(コチラ⇒2014・12・23)。この第1回の総合司会者がアレクサンドラ・ヒメネスでした。

(ヒメネス、監督、レオン、“Embarazados”記者会見、サンセバスチャンにて)
★カルミナ・シリーズの第3部はないとアナウンスされたようですが、カルミナに代表されるようなアンチ・ブルジョアへの挑発が好きなレオン監督だから期待する向きもあるようだ。いずれにしろコメディ・ドラマを内面化する才能に優れているから、撮るにしろ撮らないにしろ今後が楽しみな40歳です。“Carmina
y amén”はマラガ映画祭で紹介しておりますが(コチラ⇒2014・4・13)、フェロス賞にも7部門ノミネーション、予想通りならゴヤ賞も期待できますので、ラテンビート2015上映を願って再度アップいたします。
今年はスペイン映画界は「黄金の年」だった ― 2014年12月30日 23:07
スペイン製映画が健闘した1年だった
★間もなく2014年も幕を閉じますが、ハリウッドに負けず劣らずメイド・イン・スペイン映画が健闘した年でした。全体の25.5%は37年ぶり「夢でしか見たことのない」数字だそうです。37年前の1977年がどういう年であったかといえば、フランコ没後2年、民主主義移行期、検閲制度廃止(1976年4月)後に作られた映画が上映された年ということです。
1977年にブレークした映画
★まず、スペイン映画界を長らく牽引してきたフアン・アントニオ・バルデム(1922~2002)監督のシリアス・ドラマ“El puente”(仮題「夏季休暇」)、これはゴヤ賞2014作品・監督賞を含めて6賞を勝ちとったダビ・トゥルエバの“Vivir es fácil con los ojos cerrados”(ラテンビート上映)にアイデアを与えたという作品です。マヌエル・グティエレス・アラゴン(1942~)の“Camada negra”(映画講座邦題『黒の軍団』、ベルリン映画祭監督部門の銀熊賞)、フェルナンド・フェルナン≂ゴメスの“Mi hija Hildegart”(仮題「わが娘ヒルデガルト」)、ビセンテ・アランダの“Cambio de sexo”(同「性転換」)、ほかハイメ・チャバリ、フェルナンド・コロモ、エトセトラ。
★また今年“Ocho
apellidos vascas”で5600万ユーロという驚異的な収益金を上げたエミリオ・マルティネス≂ラサロが“Las palabras de Max”(同「マックスの言葉」)でデビューしている。他にもホセ・ルイス・ガルシが“Asignatura pendiente”(同「保留科目」)でデビューし、しばらく検閲に苦しんでいた、スペインで一番愛された映画監督と言われるルイス・ガルシア・ベルランガ(1922~2009)の「ナシオナル」三部作の第1作ブラック・コメディ“La escopeta nacional”(78、仮題「国民銃」)がクランクインして話題を呼んだ年でもあった。
25.5%は今年だけ?
★25.5%は2013年の89%増、金額的にいうと、1億2300万ユーロだそうで、2100万人がスペイン映画を見た勘定になるらしい(消費税増税21%は2013年4月からだから単純に比較できないと思うが)。その内訳がびっくりもの、第1位“Ocho apellidos vascos”が前述のように5600万(約1000万人)、第2位モンソンの『エル・ニーニョ』1620万ユーロ(270万人)、第3位セグラのトレンテ・シリーズ“Torrente V”1070万ユーロ(180万人)、第4位アルベルト・ロドリゲスの“La isla mínima”600万ユーロ(100万人)、最近公開されたハビエル・フェセルのシリーズ“Mortadelo y Filemón contra Jimmy el Cochondo”が11月28日封切りわずか12日目でチケット売上げが48万枚にも驚きます(3Dのアニメーション)。日本でもいずれ劇場公開間違いなしです。

(フェセル監督を挟んでモルタデロとフィレモン)
全館満席だった「映画フィエスタ」
★ベスト・テンが大方を占めたということはこれまた由々しきこと、ほうっておいていいのかどうか。誰がみても2015年が25.5%を超えられないことは自明のことですから知恵を絞らないといけない。2009年から始まった映画フィエスタ(年1回)を今年は3月末と10月末の2回開催した。これは3日間に限り半額以下の2.90ユーロで見られるという「映画の日」(第7回は10月27日~29日の3日間、平日にもかかわらず最高の219万6000人が全国361館のスクリーンで見た!)。これは値段が手頃なら観客を映画館に呼び戻せるということです。

(マドリードの映画館での行列、10月28日)
★また“Ocho apellidos vascos”の快進撃にはバスク自治州政府の熱意と努力も大いに功績があった。マドリード公開時には、「バスクの食と映画」のようなキャンペーン行事を行い、ビトリア市長、バスクの有名シェフ、出演者のカラ・エレハルデが応援に駆け付けて宣伝に一役買った。他にも「ロケ地巡り」の撮影バスツァーを企画、映画のリピーターが押し寄せたとか(笑)。パコ・レオンが“Carmina y amén”の「1日限定の無料上映会」をしたり、それなりの新機軸を出したお蔭だと思います(コチラ⇒12月27日)。

(左ビトリア市長ハビエル・マロト、右カラ・エレハルデ、料理は残念ながらフォト)
トレンタッソ torrentazo とは?
★サンチャゴ・セグラのトレンテ・シリーズは毎回大当たりする、それでトレンタッソという新造語ができてしまった。新作“Torrente V:Operación Eurovegas”は、ハリウッド・スターのアレック・ボールドウィンを起用したり、盛大に物を壊したせいか製作費が850万ユーロ掛かっている。1070万ではとても喜べない。もっとも10月初めの公開だからこれから数字は伸びると思います。『トレンテ4 』(2011、ラテンビート上映)は、封切り3日間で110万人、840万ユーロを叩きだした。トータルでは1957万ユーロ(製作費1000万)、これは2011年のスペイン製映画の総売上高の5分の1に相当するという。ウディ・アレンのアカデミー賞脚本賞受賞の『ミッドナイト・イン・パリ』でさえ790万ユーロと後塵を拝した。

(サンチャゴ・セグラ監督とアレック・ボールドウィン)
★ゴヤ賞2012の大賞(作品・監督・脚本・主演男優など6部門)制覇のエンリケ・ウルビスの『悪人に平穏なし』(400万)、アルモドバルの『私が、生きる肌』(460万)などと比較しても、貢献度はピカイチだった。しかしゴヤ賞はノミネーションさえゼロだった。「清く正しく美しく」はありませんが、多くの観客が楽しんだのです。トレンテ・シリーズにはもっと敬意をはらってほしい。

★第1作にあたる“Torrente, el brazo tonto de la rey”(98)で新人監督賞を受賞しているからゴヤ賞無冠というわけではありませんが、ハビエル・カマラのコメディアンとしての才能に目が止まった作品でした。ゴヤ賞がらみでは、1993年に撮った短編“Perturbado”で短編映画賞、今年のラテンビートで再上映されたアレックス・デ・ラ・イグレシアの『ビースト獣の日』(95)で新人男優賞を貰っている。この二人ほど才能豊かなシネアストは他にそんなにいないのではないか。2015年には揃って50歳になる、大暴れして欲しい。
鬼が笑うノミネーション予想
★“Ocho apellidos vascos”は、フォルケ賞に作品賞と男優賞(カラ・エレハルデ)、今年から始まったフェロス賞に作品賞(コメディ部門)、助演男優・女優とトレーラー賞の4個にノミネートされている。ゴヤ賞の作品賞はドラマとコメディに分かれていないのでノミネーションはアリと思うが受賞は難しいかな。期待できるのは助演の2人カラ・エレハルデとカルメン・マチでしょうか。主演の2人ダニ・ロビラとクララ・ラゴもノミネーションはアリでしょう。作品賞はフォルケ賞に重なるような気がする。発表前にアレコレ言っても始まらないから新春を待つことに。
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