セクション・オフィシアル-コンペティション外*サンセバスチャン映画祭2018⑤ ― 2018年07月29日 11:26
エンリケ・ウルビスのTVシリーズ「Gigantes」の先行上映
★昨年から始まった第2回TVシリーズの先行上映は、『悪人に平穏なし』(11)の成功の後、しばらく音沙汰のなかったエンリケ・ウルビスとホルヘ・ドラドの「Gigantes」(スペイン、全8話)に決定、今回もホセ・コロナドとタッグを組んでいます。コロナドは2017年4月に心臓の痛みを感じて緊急入院、冠状動脈のトラブルを取りのぞくステント手術を受けています。退院後、マヌエル・リバスのアイデアとなるTVシリーズ「Vivir sin permiso」(全14話、2017~18)に主演、4人の息子をもつガリシアの麻薬王に扮した。今回の「Gigantes」も3人の息子を麻薬の「巨人」に育て上げようとする父親役で、似たような設定が気に入りませんが、春から話題になっていたドラマです。管理人贔屓のウルビスとコロナドがタッグを組んだということでアップいたします。
(ウルビス監督とホセ・コロナド)
(左からホセ・コロナド、エリザベト・Gelabert、ダニエル・グラオ、ウルビス監督、
イサク・フェリス、カルロス・リブラド、7月20日、マドリードの映画アカデミー)
◎「Gigantes」(スペイン、全8話)エンリケ・ウルビス&ホルヘ・ドラド
キャスト:ホセ・コロナド(父親アブラハム・ゲレーロ)、イサク・フェリス(長男ダニエル)、ダニエル・グラオ(次男トマス)、カルロス・リブラド’Nene’(末子クレメンテ)、エリザベト・Gelabert、ヨランダ・トロシオ、ソフィア・オリア、マヌエル・ガンセド、他多数
解説:ゲレーロ家は数十年間、マドリードの暗黒街ラ・ラティナ地区でスペインからヨーロッパ諸国にコカインを流す麻薬取引網をコントロールしていた。しかし目下のファミリーは彼らにとって極めて重要な局面に立たされていた。長男ダニエルが15年の刑期を終えて出所してきたが、父アブラハムは病に伏していた。ダニエルは一家の然るべき地位を取り戻そうとするが、彼の知っていた世界はもはや存在していなかった。三男クレメンテの姿はなく、次男トマスが一家の大黒柱になっていたからだ。父親が三兄弟に施した教育は、生き残るためには手段を択ばず、モラルの限界を超えてでも檻の中の闘犬のように、<巨人>のごとく闘うことだった。兄弟の闘いの行くつく先は、兄弟間の愛と憎しみが語られるだろう。
★三兄弟は母親の愛を知らずに育った。モンスターのような麻薬密売人の父親は、兄弟を競わせてお金の稼ぎ方と暴力の使い方を教えてきた。長男ダニエル(イサク・フェリス)は後先を考えない衝動的な性格で、父親の姿を追って生きているのだが、父親のような人生は歩みたくないというジレンマを抱えている。三男クレメンテ(カルロス・リブラド’Nene’)は家業から抜け出したいとボクシングに熱中しており、ガールフレンドもファミリーと距離をおくことを願っている。次男トマス(ダニエル・グラオ)は謎めいているが、彼ら三人の共通項は満身傷だらけという点である。ダニエル・グラオは、アルモドバルの『ジュリエッタ』でヒロインの夫を演じた俳優、イサク・フェリスは、マラガ映画祭2018で「金のビスナガ賞」を受賞したエレナ・トラぺの「Las distancias」に出演しています。カルロス・リブラドは当ブログ初登場、ボクシングの練習シーンでムキムキの肉体を披露しています。
(左から、長男ダニエル、次男トマス、三男クレメンテ)
(左から、カルロス・リブラド’Nene’、イサク・フェリス、ダニエル・グラオ)
(リブラドに演技指導をするウルビス監督)
*監督&スタッフ*
★エンリケ・ウルビス(ビルバオ、1962)と、ホルヘ・ドラド(マドリード、1976)の共同監督作品、ウルビスが全8話、ドラドが3話を担当した。ホルヘ・ドラドは、アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』(02)や『バッド・エデュケーション』(09)、ギレルモ・デル・トロの『デビルズ・バックボーン』(01)などで長いこと助監督をつとめたあと、米国との合作で撮ったサイコスリラー「Anna」(英題「Mindscape」)が、シッチェス映画祭2013にエントリーされた。言語が英語だったことも幸いして『記憶探偵と鍵のかかった少女』の邦題で翌2014年公開された。DVDも発売されたからスリラーファンにはウルビスより認知度が高いかもしれない。
★プロジェクトチームのリーダーはウルビス監督だが、オリジナルな発案者は俳優のマヌエル・ガンセドだそうで、今回は脚本と製作の他、俳優としても出演(2話)している。脚本はミシェル・ガスタンビデ、ミゲル・バロッソ、マヌエル・ガンセド、ウルビス。ウルビス監督によると「前からの仕事仲間のマヌエルから、モビスター+が<Gigantes>と名付けた彼のアイディアを買ってくれ、それを私に監督して欲しいと言ってきた。そこでTVシリーズの脚本家ミゲル・バロッソに応援を依頼、オリジナル脚本の推敲に着手した。それからは目眩がしそうなトボガンに乗ってるようなもので、最終的にはいつも私の脚本を担当してくれるミシェル・ガスタンビデに参加してもらって完成させた」と経緯を語っている。
★撮影はウナックス・メンディア、前作『悪人に平穏なし』に続いての担当、他監督作品ではシッチェス映画祭2013のオープニング作品だったエウヘニオ・ミラの「Grand Piano」(『グランドピアノ 狙われた黒鍵』)、コルド・セラの「Gernika」(16)のほか、「Gran Hotel」(11~12)のようなTVシリーズを多く手掛けている。本作ではTV用のフォーマットで撮影、主にマドリードのラバピエス地区、ラ・ラティナ地区、アンダルシアのアルメリアでも撮影した。
(左に立っているのがアブラハム役のホセ・コロナドか。第1話の冒頭部分から)
*ウルビス&コロナド関連記事*
*『貸し金庫507』の紹介記事は、コチラ⇒2014年03月25日
* ホセ・コロナドのキャリア紹介は、コチラ⇒2014年03月20日/2017年04月17日
* コルド・セラの「Gernika」紹介記事は、コチラ⇒2016年04月20日
金貝賞を争うセクション・オフィシアル*サンセバスチャン映画祭2018 ④ ― 2018年07月25日 11:43
金貝賞にイシアル・ボリャイン、イサキ・ラクエスタなどが参入!
★去る7月20日、サンセバスチャン映画祭SSIFFの総ディレクター、ホセ・ルイス・レボルディノス、コミュニケーション責任者ルス・ペレス・デ・アヌシタにより、イシアル・ボリャイン、イサキ・ラクエスタ、ロドリゴ・ソロゴジェン、カルロス・ベルムトなどベテラン勢が、金貝賞を競うコンペティション部門に参入することがアナウンスされました。他にコンペティション外、サバルテギ-タバカレラ、ペルラス、前回アップのニューディレクターズを含めて、スペインの制作会社が手掛ける作品はトータルで19作品となりました。まず金貝賞を争うセクション・オフィシアルにノミネートされた4作品の基本データのご紹介です。4作というのは例年通りの本数、4監督ともコンペティション部門には複数回登場、金貝賞受賞者も混じっております。
*セクション・オフィシアル(コンペティション)*
◎ El Reino 監督:ロドリゴ・ソロゴジェン(スペイン)
キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(マヌエル・ロペス・ビダル)、モニカ・ロペス、ホセ・マリア・ポウ、ナチョ・フレスネダ(パコ)、アナ・ワヘネル、バルバラ・レニー、ルイス・サエラ、フランシスコ・レイェス、マリア・デ・ナティ、パコ・レビリャ、ソニア・アルマルチャ、ダビ・ロレンテ、アンドレス・リマ、オスカル・デ・ラ・フエンテ・マヌエル
物語:マヌエル・ロペス・ビダルは、ある政党の自治州副書記官として影響力をもっており、国政への飛躍が期待されていた。しかし親友の一人パコと共に汚職の陰謀に巻き込まれ、秘密漏洩から生き残りをかけての悪のスパイラルに陥っていく・・・
監督紹介:ロドリゴ・ソロゴジェン(ソロゴイェン、マドリード、1981)のノミネーションは、2016年の長編3作目『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強盗殺人事件』(「Que Dios nos perdone」)に続いて2回目、脚本賞を受賞している(イサベル・ペーニャとの共同執筆)。ゴヤ賞2017では主役のロベルト・アラモが主演男優賞を受賞した。短編「Madre」でゴヤ賞2018短編映画賞を受賞、マラガ映画祭2018「マラガ才能賞 エロイ・デ・ラ・イグレシア」に早くも選ばれるなど活躍が目立っている。4作目となる「El Reino」は、前作にも主演したアントニオ・デ・ラ・トーレを起用、汚職に巻き込まれていく政治家を演じる。本作の脚本もイサベル・ペーニャとの共同執筆。
*トロント映画祭2018「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」正式出品作品
*「Que Dios nos perdone」の作品紹介は、コチラ⇒2016年08月11日
* キャリア&フィルモグラフィーについては、コチラ⇒2018年03月26日
* 短編「Madre」については、コチラ⇒2018年02月10日
◎ Entre dos aguas (「Between Two Waters」) 監督:イサキ・ラクエスタ(スペイン)
キャスト:イスラエル・ゴメス・ロメロ(イスラ)、フランシスコ・ホセ・ゴメス・ロメロ(チェイト)
解説:イスラとチェイトのロマ兄弟の物語。イスラは麻薬密売の廉で刑に服している。一方チェイトは海兵隊に志願して入隊している。イスラが刑期を終えて出所、チェイトも長期のミッションを終えて、二人はサンフェルナンド島に戻ってきた。再会を果たした兄弟は、まだ二人が幼かったときに起きた父親の変死に思いを馳せる。果たして兄弟のわだかまりは回復できるのか。イスラは妻と娘たちとの関係を取り戻すために帰郷したのだが、スペインで最も失業率の高い地方でどのようにして人生を立て直そうとするのか。ラクエスタの『時間の伝説』から12年後、成人したイスラとチェイト兄弟の現在がゴメス・ロメロ兄弟によって演じられる。
監督紹介:イサキ・ラクエスタ(ジローナ、1975)のセクション・オフィシアル部門ノミネーションは、コンペティション外(2014「Murieron por encima de sus posibilidades」)を含めると3回目になる。今作は100%フィクションのコメディだったがあまり評価されなかった。初ノミネーションの「Los pasos dobles」(11)がいきなり金貝賞を受賞、今回の「Entre dos aguas」は、上述したように「La leyenda del tiempo」(06、『時間の伝説』)のその後が語られるようです。当ブログではマラガ映画祭2016に出品され、妻イサ・カンポと共同監督した『記憶の行方』(16、「La próxima piel」)を紹介しています。エンマ・スアレスにゴヤ賞2017助演女優賞をもたらした作品(邦題はNetflixによる)。
*『記憶の行方』の紹介記事、監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒2016年04月29日
◎ Quién te cantará 監督:カルロス・ベルムト(スペイン、フランス)
キャスト:ナイワ・ニムリ(リラ・カッセン)、エバ・リョラチ(ビオレタ)、ナタリア・デ・モリナ(マルタ)、カルメ・エリアス、フリアン・ビリャグラン(ニコラス)、他
解説:リラ・カッセンは1990年代に最も成功をおさめたスペインの歌手だったが、突然謎を秘めたまま姿を消してしまった。10年後リラは華々しい舞台復帰の準備をしていたが、待ち望んだ期日の少し前に事故にあって記憶を失ってしまった。一方ビオレタは、関係がぎくしゃくしている娘マルタの意のままに操られており、辛い現実を逃れるためにできる唯一のことは、毎夜働いているカラオケでリラ・カッセンに変身することだった。ある日ビオレタは、リラ・カッセンがもとの彼女に戻れるように教えて欲しいという魅惑的な申し出を受ける。
監督紹介:カルロス・ベルムト(マドリード、1980)のノミネーションは、金貝賞受賞の第2作目『マジカル・ガール』(14「Magical girl」)に続いて2回目。異例の作品賞・監督賞のダブル受賞をうけ、授賞式では驚きとブーイングが同時におきたことは記憶に新しい。国際映画祭での数々の受賞歴を誇るが、ゴヤ賞2017では主演のバラバラ・レニーが主演女優賞を取っただけに終わった。新作は5年間銀幕から遠ざかっていたナイワ・ニムリをヒロインに迎えて撮った長編3作目、舞台復帰を目前に事故にあって記憶喪失になってしまう歌手の物語が語られる。
*トロント映画祭2018「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」正式出品作品
*『マジカル・ガール』の作品紹介の記事は、コチラ⇒2015年1月21日
* 本邦公開の記事は、コチラ⇒2016年02月15日
追記:『シークレット・ヴォイス』の邦題で、2019年1月4日公開になりました。
◎ Yuli 監督:イシアル・ボリャイン(スペイン、キューバ、イギリス、ドイツ)
キャスト:カルロス・アコスタ、サンティアゴ・アルフォンソ、ケヴィン・マルティネス、エディソン・マヌエル・オルベラ、ラウラ・デ・ラ・ウス、他
解説:タイトルの「ユーリ」はカルロス・アコスタの父親ペドロが付けた綽名から採られており、アフリカの戦いの神様オグンの息子という意味ということです。英国ロイヤル・バレエ団で黒人として初めてプリンシパル・ダンサーになったカルロス・ユニオル・アコスタ(キューバ、1973)の「No Way Home」に触発されて製作されたビオピック。アコスタ本人が出演しているがフィクションです。他にキューバの俳優が数多く出演している。アコスタのキャリアについては日本語ウイキペディアで読める。
監督紹介:イシアル・ボリャイン(マドリード、1967)のノミネーションは3回目、初ノミネーション『テイク・マイ・アイズ』(03「Te doy mis ojos」)では主演のライア・マルルとルイス・トサールがそれぞれ女優賞、男優賞を受賞した。第2回目の「Mataharis」(07)はナイワ・ニムリを主役にしたコメディだったが無冠に終わった。最新作「Yuli」は、2016年の『オリーブの樹は呼んでいる』(「El olivo」)に続いて、夫君でもあるイギリスの脚本家ポール・ラバディが執筆している。
*「El olivo」の作品紹介、監督、脚本家紹介は、コチラ⇒2016年07月19日
★以上ノミネーション4作のリストです。開幕までに気になる作品を順次アップしたいが、次回はコンペティション外で上映されるエンリケ・ウルビス&ホルヘ・ドラドの「Gigantes」(スペイン)です。
ニューディレクターズ部門ノミネーション*サンセバスチャン映画祭2018 ③ ― 2018年07月21日 14:25
奥山大史のデビュー作『僕はイエス様が嫌い』を含め13作がノミネート
★ニューディレクターズ部門は、デビュー作または第2作目までが対象になるセクション、去る7月12日にノミネーション発表がありました。スペイン3作、アルゼンチンの2作ほか、日本、デンマーク、メキシコ、ルーマニア、コソボ、ロシア、スイス、ベトナム各1作ずつ13作品の上映が決定しました(追加があるかもしれない)。デビュー作8本、第2作が5本、受賞作には50,000ユーロの副賞とスペイン一般公開が保証されます。
★奥山大史(ヒロシ・オクヤマ、1996)の長編デビュー作『僕はイエス様が嫌い』(「Jesus」)がサンセバスチャン映画祭のニューディレクターズにノミネーションされた。22歳の若さでのノミネートは多分最年少でしょう。既に「映画comニュース」などで珍しく報道されています。今年は是枝裕和監督のドノスティア栄誉賞受賞があるせいかもしれません。奥山監督はサンセバスチャン入りを楽しみにしているようです。また2019年の劇場公開も決定しているようです。
★スペイン語映画は、スペイン、アルゼンチン、メキシコの合計6作です。長編は第1作か2作でも、短編ではそれなりの実績を残している新人監督ばかりです。ロラ・ドゥエニャスとアンナ・カスティージョが母娘を演じることで、既に話題になっている「Viaje al cuarto de una madre」のような映画もありますが、現段階では作品名と監督名だけ列挙しておきます。
◎ Oreina (Ciervo) スペイン、監督:Koldo Almandoz(サンセバスチャン、1973)
◎ Julia y el zorro アルゼンチン、
監督:Ines María Barrionuevo(アルゼンチンのコルドバ、1980)
◎ La camarista メキシコ・米国合作、監督:Lila Avilés(メキシコ、1982)
◎ Apuntes para una película de atracos スペイン、
監督:Elías León Siminiani(サンタンデール、1971)
◎ Para la guerra キューバ・アルゼンチン・スペイン合作、
監督:Francisco Marise (ラプラタ、1985)
◎ Viaje al cuarto de una madre スペイン・フランス合作、
監督:Celia Rico Clavellino(セビーリャ、1982)
河瀨直美『Vision ビジョン』がノミネート*サンセバスチャン映画祭2018 ② ― 2018年07月16日 14:41
金貝賞を競うセクション・オフィシアルに7作品が発表になった
★第66回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2018(9月21日~29日)のドノスティア賞(栄誉賞)に是枝裕和監督が選ばれたニュースに続いて、今度は河瀨直美の『ビジョン』がコンペティション部門に正式出品が決定した。目下はクレール・ドニ、キム・ジウン、バレリア・サルミエントなどの監督7作品が発表されただけですが、今後数週間のうちに全体像が発表になるようです。
(ロバート・パティンソン、クレール・ドニの「High Life」から)
★河瀨直美(奈良、1969)の最新作『Visionビジョン』は、すでに6月8日に全国ロードショーされております。奈良を舞台にジュリエット・ビノシュ、永瀬正敏、岩田剛典、夏木マリなどが出演している。シニア層が多い河瀨映画に、岩田剛典が起用されたことで若い女性層を取り込めるか。監督については今更ご紹介するまでもありませんが、SSIFFは2010年に続いて2回目、エントリー作品『玄牝 げんぴん』が国際映画批評家連盟賞Fipresciを受賞していますが、カンヌやベネチアでないので、日本ではあまり報道されませんでした。
★今回の目玉になるかもしれないのが、フランスのクレール・ドニ(パリ、1948)のSF「High Life」(独仏英ポーランド他)、ロバート・パティンソン、ジュリエット・ビノシュ、ミア・ゴスが出演している。ドニ監督は、『ショコラ』でデビュー、『美しき仕事』『パリ、18区、夜。』など、SSIFF は初ノミネーション、監督が近未来映画を手掛けるのは珍しい。ビノシュはセビーリャ・ヨーロッパ映画祭2017正式出品のロマンティックでないコメディ「Un sol interior」に続いての出演です。彼女はゴヤ賞2016に、イサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」で主演女優賞にノミネートされた折り来西して、関係者やファンの熱烈な歓迎を受けました。コイシェから「クレージーでぶっ飛んだ女優」と称賛されたビノシェ、彼女ほど偏見なく国境を越えて活躍する女優を他に知りません。今回2作品ノミネーションですから来サンセバスチャンを期待していいかもしれない。
(クレール・ドニとジュリエット・ビノシュ、第70回カンヌ映画祭)
★チリのバレリア・サルミエント(バルパライソ、1948)の「Le cahier noir / The Black Book」(仏ポルトガル)、カミロ・カステロ・ブランコの小説「Livro Negro de Padre Dinis」に着想を得て製作された。チリで哲学と映画を学んでいるが、ピノチェトの軍事クーデタ後の1974年にフランスに亡命して、以来フランス語で製作している。前回のノミネーションは約20年前の「Elle」(1995)、SSIFF 初登場は、1984年「ニューディレクターズ部門」にノミネートされた「Notre marriage / Mi boda contigo」(仏ポルトガル)で監督賞を受賞している。
★ベンハミン・ナイシュタット(ブエノスアイレス、1986)の長編3作目「Rojo」、軍事独裁が始まる直前の1970年代のアルゼンチンについて語る。ダリオ・グランディネッティ(『人生スイッチ』『ジュリエッタ』)、アンドレア・フリゲリオ、アルフレッド・カストロ(『ザ・クラブ』『彼方から』)が出演。ナイシュタット監督については、長編第2作「Historia del miedo」(アルゼンチン・ウルグアイ・独仏)が第64回ベルリン映画祭2014のコンペティション部門にノミネートされた折りキャリア紹介をしております*。彼も映画大学卒業後、フランスの「ル・フレノワ国立現代アートスタジオ」の奨学金を得て、2009年から2年間学んでいる。
*ベンハミン・ナイシュタットのキャリア紹介は、コチラ⇒2014年02月24日
(左から、監督、主役のジョナサン・ダ・ローザ他、ベルリン映画祭2014にて)
★他に韓国のキム・ジウン(ソウル、1964)の「La brigada del lobo」、押井守のアニメ『人狼 JIN-ROH』の韓国版らしい。オーストリアからMarkus Schleinzer(ウィーン、1971)の第2作「Angelo」、デビュー作「Michael」は、カンヌ映画祭2011に正式出品されている。キャスティング・ディレクターとしてのキャリアが長い。
★スイスからはサイモン・ジャケメ(Simon Jaquemet チューリッヒ、1978)の「Der unschuldige / The Innocent」、2014年の「ニューディレクターズ部門」に「Chrieg / War」がノミネートされている。スイスで使用される一種の方言スイスドイツ語映画です。以上ヨーロッパ3作、アジア2作、ラテンアメリカ2作、合計7作です。全体像が分かるまでには数週間かかるようです。字幕はスペイン語と英語入りと思いますが、詳細はいずれアップされます。
是枝裕和監督、ドノスティア賞を受賞*サンセバスチャン映画祭2018 ① ― 2018年07月03日 06:44
アジア初の受賞者、パルムドールの威力は絶大?
★ちょっとびっくりしました。サンセバスチャン映画祭SIFFは9月下旬開催ですから、まだ先の話と思っていましたが、先月29日に「是枝監督ドノスティア賞受賞」の記事が目に飛び込んできました。ドノスティア賞はいわゆる栄誉賞または功労賞にあたり、SIFFの数ある賞のうちでも一番大きい賞です。例年だと8月から9月にかけて発表されるので、6月29日は異例の早さです。節目の年には複数選ばれ、昨年の第65回はフランスからアニエス・ヴァルダ、イタリアからモニカ・ベルッチ、ラテンアメリカ初の受賞者リカルド・ダリンの3人でした。今年もあと一人ぐらい増えるかもしれません。受賞者の多くはハリウッドで活躍しているシネアストです。第66回の開催期間は9月21日~29日です。
*ドノスティア賞2018受賞者の記事は、コチラ⇒2017年09月30日
(エル・パイス紙にはこんな是枝監督の写真が掲載されました)
★授与式の日程は未定ですが、ビクトリア・エウヘニア劇場でトロフィーが渡されます。当日には『万引き家族』が「Un asunto de familia」のスペイン語題で上映されるようです。スペイン語に<万引き>「買うふりをして店のものをそっと盗む」という単一単語はなく、直訳すると「家族のある商売」ぐらいでしょうか。商売も不正取引など汚いイメージの場合に使用する単語です。というわけでこの家族の商売がよからぬことであることが分かります。因みにフランス語題は「Une affaire de famille」、英語題は「Shoplifters」です。サンセバスチャン映画祭の第一報がこんな形で始まるのは、今後多分ないでしょう。
★サンセバスチャン映画祭での是枝映画は10本あり、第2作目『ワンダフルライフ』(98)がコンペティション部門に出品されたのを皮切りに、2006年『花よりもなほ』、2008年『歩いても歩いても』、2011年『奇跡』(脚本賞)ほか、サバルテギ特別上映で最近の5作(『そして父になる』『海街diary』など)が上映されています。この2本は観客賞も受賞している。スペインでも宮崎駿、河瀨直美などと同じように馴染みのある監督の一人です。
★是枝監督については受賞記事よりも「文科相の祝意を拒んだ」とか、「安倍首相が祝意を表さない」とか場外戦のほうが賑やかですが、封切り3週間で200万人はこれまた驚きです。パルムドールの威力は大したものです。「高がカンヌ、されどカンヌ」です。まだまだ記録は更新されることでしょう。
「ある視点」にアルゼンチンの「El Ángel」*カンヌ映画祭2018 ⑤ ― 2018年05月15日 17:48
ルイス・オルテガの第7作目「El Ángel」は実話の映画化
(映画祭用のフランス語のポスター)
★ルイス・オルテガの「El Ángel」(アルゼンチン=スペイン合作)は、アルゼンチンの1971年から72年にかけて、金品強盗を目的に11人もの人間を殺害した美青年カルロス・ロブレド・プッチの実話に材をとったビオピックです。既にカンヌでは上映され、観客並びに批評家の評判はまずまずのようでした。当時その美しい風貌から「死の天使」または「黒の天使」と恐れられた殺人鬼カルリートスに扮したロレンソ・フェロの妖しい魅力も大いに役立ったのではないか。お披露目にはスペイン・サイドの製作を手掛けたエル・デセオのペドロ・アルモドバルも登壇してサプライズを提供したようです。彼は昨年のコンペティション部門の審査委員長を務めたカンヌの常連です。
(赤絨毯に勢揃いした出席者、左から、ピーター・ランサニ、メルセデス・モラン、
チノ・ダリン、オルテガ監督、セシリア・ロス、ペドロ・アルモドバル、ロレンソ・フェロ)
「El Ángel」(「The Angel」)2018
製作:El Deseo / Kramer & Sigman Films / Underground Contenidos / Telefé
協賛INCAA
監督:ルイス・オルテガ
脚本(共):セルヒオ・オルギン、ルイス・オルテガ、ロドルフォ・パラシオス
撮影:フリアン・アペステギア
編集:ギリェ・ガッティGuille Gatti
メイクアップ:マリサ・アメンタ
衣装デザイン:フリオ・スアレス
美術:フリア・フレイド
プロダクション・マネージメント:メルセデス・タレジィ
製作者:(エグゼクティブ)ハビエル・ブライアー、ミカエラ・ブジェ。ウーゴ・シグマン、セバスティアン・オルテガ、マティアス・モステイリン、Axel Kuschevatzky、レティシア・クリスティ、パブロ・クレル(以上アルゼンチン)、アグスティン・アルモドバル、ペドロ・アルモドバル、エステル・ガルシア(以上スペイン)
データ:製作国アルゼンチン=スペイン、スペイン語、2018年、ビオピック、犯罪、120分、撮影地ブエノスアイレス、配給20世紀フォックス。カンヌ映画祭2018「ある視点」正式出品、公開アルゼンチン2018年8月9日
キャスト:ロレンソ・フェロ(カルリートス、カルロス・ロブレド・プッチ)、セシリア・ロス(カルリートスの母親アウロラ)、チノ・ダリン(ラモン)、ピーター・ランサニ(ミゲル・プリエト)、ルイス・ニェッコ(エクトル)、マレナ・ビリャ(マリソル/マグダレナ)、ダニエル・ファネゴ(ホセ)、メルセデス・モラン(ラモンの母親アナ・マリア)、ウィリアム・Prociuk、他
ストーリー・解説:カルリートスは天使のような顔をした17歳、その魅力には皆まいってしまう。欲しいものすべてを手にできる。高校でラモンと知り合い、彼らはコンビを組んで危険だが素晴らしいゲームに取り掛かる。手始めに盗みと詐欺で腕を磨きつつ、ホシが割れるのを警戒して目撃者を殺害、たちまち連続強盗殺人へとエスカレートするのに時間はかからなかった。ストーリーは差別的な社会を風刺しながら、タランティーノ・スタイルで終始軽快に進行するだろう。
スクリーンの殺人劇はフィクションの世界で起きたことらしい?
★実在の連続強盗殺人犯カルロス・エドゥアルド・ロブレド・プッチ(1952年1月22日、ブエノスアイレス生れ)のビオピックという触れ込みだが、どうやら映画の殺人劇はフィクションの世界で起きたことらしい。1971年5月3日を皮切りに、無関係な人々11名の殺害、数えきれない強盗、万引き、誘拐レイプ、とアルゼンチン犯罪史上稀にみるモンスターを、映画は単なる悪者と決めつけていないようです。天使のような顔をした青年の犯罪は当時のアルゼンチン社会を震撼させるに十分だったのだが。1972年2月4日、最後となった強盗殺人の翌日逮捕されたときには20歳になったばかりだった。
(カルリートス役のロレンソ・フェロ、映画から)
★カルロス・ロブレド・プッチのビオピックとは言え、何処から何処まで史実と重なるのか、監督が描きたかったテーマが充分に見えてこない段階での紹介は危険かもしれない。ウイキペディアにも詳しい情報が掲載されているが、スペイン語版、英語版で若干食い違いもあり、11名殺害の詳細を語っても意味がないようです。しかしその殺害方法は残忍である。泣き叫ぶ生後2~3か月ばかりの赤ん坊にさえ銃弾を浴びせたり、殺害前にレイプしたり、足手まといになりそうな共犯者まで殺害する邪悪さには吐き気を催す。被害者家族の多くがまだ存命していることから、終身刑で服役中とはいえ、単なるエンターテインメントでないことを祈りたい。監督は取材に刑務所に通いつめ、10回ほどインタビューしたということです。ラテンアメリカ諸国はEU諸国と同様に死刑廃止国、66歳になるカルロスは健康不安を抱え何度も恩赦を請求しているが当然却下、獄中46年はアルゼンチン犯罪史上最長だそうです。
(1972年2月4日、逮捕されたときのカルロス・ロブレド・プッチ)
オルテガ家はアーティスト一家、兄弟が協力して製作した「El Ángel」
★ルイス・オルテガ Luis Ortega Sslazarは、1980年ブエノスアイレス生れの37歳、監督、脚本家。シンガーソングライターで俳優の父パリート・オルテガと女優の母エバンヘリナ・サラサールの6人兄弟姉妹の5番目、それぞれ映画プロデューサーであったり歌手であったりの有名なアーティスト一家。父親は後に政界に進出、1990年代出身地ツクマンの州知事になった。映画はブエノスアイレスの映画大学で学んだ。現在『パウリナ』や『サミット』の監督サンティアゴ・ミトレと5回目の結婚をしたドロレス・フォンシとは一時期(1999~2004)結婚していた。ガエル・ガルシア・ベルナルと結婚する前ですね。
(オルテガ兄弟、左が製作者の兄セバスティアン、右が弟ルイス)
★2002年に「Caja negra」(「Blackbox」)で長編デビューする。本作のヒロインが当時結婚していたドロレス・フォンシである。第2作「Monobloc」(04)には母親が出演して銀のコンドル賞助演女優賞を受賞した。2009年「Los santos sucios」(「The Dirty Santos」)、2011年「Verano maldito」、2012年「Dromómanos」、2014年「Lulú」、最新作となる「El Ángel」は第7作目になる。若い監督だが親のバックもあり、年齢に比して経験は豊かです。
★2015年のTVミニシリーズ全6話「Historia de un clan」は、パブロ・トラペロがベネチア映画祭2015で監督賞を受賞した『エル・クラン』のテレビ版である。映画の長男アレハンドロ役を演じたピーター・ランサニをTVではチノ・ダリンが演じ、母親エピファニア役を本作カルリートスの母親役セシリア・ロスが演じた。TVミニシリーズも最新作も監督の兄セバスティアン・オルテガが製作している。セシリア・ロスは息子にピアノを習わせ溺愛する母親役、劇中でもピアノのシーンが出てくるが、カルロス本人は嫌いだったようです。本作では音楽が重要な意味をもつとか。
(デビュー作「Caja negra」のポスター)
(TVミニシリーズ「エル・クラン」、左から2人目長男役のチノ・ダリン、
母親役のセシリア・ロス、主人公プッチオ役のアレハンドロ・アワダ)
★カンヌにはチノ・ダリンの父親リカルド・ダリンもアスガー・ファルハディの「Todos lo saben」で現地入りしており、上映日11日には夫妻で息子の晴れ姿を見に馳せつけた。アルゼンチンの日刊紙「クラリン」によると、オルテガ監督が「このような(素晴らしい)プロデューサーたち、俳優たちと映画を撮れるとは夢にも思わなかった」とスペイン語で挨拶、次にマイクを手渡されたスペイン・サイドのプロデューサー、アルモドバルは英語で「今宵はアルゼンチンの人々のためにあり、私が横取りしたくない」と口にしつつ、例のごとく長引きそうになるのを「映画祭総代表のティエリー・フレモー氏がからかったので2分で終わった」と記者は報じていた。アルモドバルは「どうぞ皆さん、お楽しみください」と締めくくった。
(少々緊張して神経質になっていたルイス・オルテガ監督)
(左から、ロレンソ・フェロ、アルモドバル、セシリア・ロス、オルテガ監督)
(左から、ピーター・ランサニ、メルセデス・モラン、監督、L.フェロ、C. ロス、C. ダリン)
★ルイス監督インタビューなど情報が入りはじめています。多分今年のアルゼンチン映画の目玉になりそうです。公開は無理でも映画祭上映、またはDVDはありかなと思っていますので、いずれアップすることに。
*追記:邦題『永遠に僕のもの』で2019年8月16日より劇場公開
パノラマ部門にチリとアルゼンチン映画*ベルリン映画祭2018 ④ ― 2018年02月25日 17:46
アルゼンチンからサンティアゴ・ロサの「Malambo, el hombre bueno」
★アルゼンチンからはサンティアゴ・ロサの「Malambo, el hombre bueno」(「Malambo, the Good Man」)が単独でノミネートされている。「Malamboマランボ」というのはアルゼンチン伝統の男性だけのフォルクローレ、発祥はガウチョのタップ・ダンス、従ってすべてではないがガウチョの衣装とブーツを着て踊り、毎年チャンピオンを選ぶマランボ大会が開催されている。本作はドキュメンタリーの手法で撮っているがドラマです。主役のマランボ・ダンサーにガスパル・ホフレJofreが初出演する。監督のサンティアゴ・ロサは、1971年アルゼンチンのコルドバ生れ、過去には「Extraño」(03、ロッテルダム映画祭タイガー賞他)、「Los labios」(10、BAFICI映画祭監督賞、カンヌ映画祭「ある視点」出品)、「La Paz」(13、BAFICI映画祭作品賞)などのほか受賞歴多数のベテラン監督。ベルリナーレでは2月16日上映されました。
(サンティアゴ・ロサ監督)
チリからマルティン・ロドリゲス・レドンドのデビュー作「Marilyn」
★ご紹介したいのはマルティン・ロドリゲス・レドンド(1979)のデビュー作「Marilyn」(17、アルゼンチンとの合作)、前回のベルリナーレでは、チリの『ナチュラルウーマン』(セバスティアン・レリオ、2月24日公開)が気を吐きましたが、今回はコンペティションにノミネーションがなく、パノラマにも本作のみです。初監督作品賞、テディー賞対象作品です。監督については詳細が入手できていませんが、ブエノスアイレスにある映画研究センターCIC(El Centro de Investigación Cinematográfica)で映画製作を学んだアルゼンチンの監督のようです。脚本がINCAAのオペラ・プリマ賞を受賞、共同製作イベルメディアの援助、2014年サンセバスチャン映画基金、2013年メキシコのオアハカ脚本ラボ、その他の資金で製作された。2016年の短編「Las liebres」が、BAFICI映画祭、ハバナ映画祭、BFI Flare ロンドンLGBT映画祭で上映されている。
(マルティン・ロドリゲス・レドンド監督)
データ:製作国チリ=アルゼンチン、スペイン語、2017年、実話、90分。
製作:Quijote Films(チリ)、Maravillacine(アルゼンチン)
監督:マルティン・ロドリゲス・レドンド
脚本:マルティン・ロドリゲス・レドンド、マリアナ・ドカンポ
編集:フェリペ・ガルベス
撮影:ギジェルモ・サポスニク
キャスト:ヴァルター(ウォールター)・ロドリゲス(マルコス、綽名マリリン)、カタリナ・サアベドラ(母オルガ)、ヘルマン・デ・シルバ(父カルロス)、イグナシオ・ヒメネス(兄カルリート)、ほか
物語:高校を優秀な成績で卒業した青年マルコは地方の農場で暮らす両親と兄のもとに帰ってくる。兄カルリートは牛の乳しぼりやパトロンが盗んできた牧牛の世話をしており、母オルガは婦人服仕立てで得たわずかなお金を暮らしにあてていた。父カルロスが亡くなると、さらに困難の日々が待っていた。ある同性愛者の集まりで自身のホモセクシュアルに目覚める。マルコスは農園の仕事が好きになれず、隠れて化粧をしたり女装をすることで息をついていた。この内気な若者も仲間からマリリンと呼ばれるようになる。カーニバルの季節がやってくると、踊りのステップを踏むことで自身の体を解き放ち喜びに酔いしれる。世間の冷たい目の中で窮地に立たされるマルコス、苦痛を和らげてくれる若者とのつかの間の愛の行方は・・・小さな村社会の差別と不寛容が語られる。
(カーニバルで自身を解き放つマルコス=マリリン、映画から)
(恋人とマルコス、映画から)
★実話に基づいているそうです。「チリ社会は保守的な人が多い。都会では年々LGBT(レスビアン・ゲイ・両性愛・性転換)に対する理解が得られるようになったが、地方では差別や不寛容に晒されている」とチリのプロデューサーのジャンカルロ・ナッシ。母オルガを演じたカタリナ・サアベドラは、セバスティアン・シルバの「La nana」(2009『家政婦ラケルの反乱』)で異才を放った女優。このシルバ監督も同性愛者で、不寛容なチリを嫌って脱出、現在はブルックリンでパートナーと暮らして英語で映画製作をしている。才能流出の一人です。
★セバスチャン・レリオの『ナチュラルウーマン』のテーマもLGBT、今回コンペティション部門にノミネートされたパラグアイのマルセロ・マルティネシの「Las herederas」もLGBTでした。こちらは評価も高く、観客の受けもまずまずだった。監督以下スタッフ、主演女優3人もプレス会見に臨み、各自パラグアイ社会の女性蔑視、性差別の風潮を吐露していました。初参加のパラグアイ映画に勝利の女神が微笑むことを祈りたい。いよいよ今夜受賞結果が発表になり、ベルリナーレ2018も終幕します。
(女優賞に絡めるか、アナ・ブルンとアナ・イヴァノヴァ、「Las herederas」から)
★フォーラム部門にノミネートされたチリのアニメーション、クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャの「La casa lobo」(「The Wolf House」2月22日上映)が評判になっています。おとぎ話に見せかけているが、実はピノチェト時代にナチスと手を組んで作った、宗教を隠れ蓑にした拷問施設コロニア・ディグニダが背景にあるようです。賞に絡んだらアップしたいアニメーションです。
初めてパラグアイ映画が金熊賞を競う*ベルリン映画祭2018 ① ― 2018年02月16日 16:16
マルセロ・マルティネシの長編第1作「Las herederas」がノミネーション
★第68回ベルリナーレ2018(2月15日から25日)のコンペティション部門に、初めてパラグアイからマルセロ・マルティネシの「Las herederas」がノミネートされました。コンペティション部門は19作、スペイン語映画はパラグアイの本作と、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオスの「Museo」の2作品です。次回アップいたしますが、モノクロで撮ったデビュー作『グエロス』(14)はパノラマ部門で初監督作品賞を受賞しています。「Las herederas」は、パラグアイの首都アスンシオンに暮らす上流階級出身の60代の二人の女性が主人公です。金熊賞以外の国際映画批評家連盟賞、初監督作品賞、テディ賞などの対象作品のようです。コンペティション以外のパノラマ、フォーラム各部門にスペインやアルゼンチンからも何作か気になる作品が選ばれています。
「Las herederas」(「The Heiresses」)
製作:La Babosa Cine(パラグアイ)/ Pandara Films(独)/ Mutante Cine(ウルグアイ)/
Esquina Filmes(ブラジル)/ Norksfilm(ノルウェー)/ La Fábrica Nocturna(仏)
監督・脚本・製作者:マルセロ・マルティネシ
撮影:ルイス・アルマンド・アルテアガ
編集:フェルナンド・エプスタイン
プロダクション・デザイン:カルロス・スパトゥッザSpatuzza
衣装デザイン:タニア・シンブロン
メイクアップ:ルチアナ・ディアス
プロダクション・マネージメント:カレン・フラエンケル
助監督:フラビア・ビレラ
製作者:セバスティアン・ペーニャ・エスコバル、他共同製作者多数
データ:製作国パラグアイ・独・ウルグアイ・ブラジル・ノルウェー・仏、言語スペイン語・グアラニー語(パラグアイの公用語)、2018年、ドラマ、95分、撮影地首都アスンシオン、製作費約514.000ユーロ、ベルリン映画祭上映は2月16日
キャスト:アナ・ブルン(チェラ)、マルガリータ・イルン(チキータ)、アナ・イヴァノーヴァ(アンジー)、ニルダ・ゴンサレス(家政婦パティ)、マリア・マルティンス(ピトゥカ)、アリシア・ゲーラ(カルメラ)、イベラ、ノルマ・コダス、マリッサ・モヌッティ、アナ・バンクス、他多数
プロット:裕福な家柄の生れのチェラとチキータの物語。内気だが誇り高いチェラ、外交的なチキータ、居心地よく暮らすに充分な資産を相続した二人はアスンシオンで30年間も一緒に暮らしていた。しかし60代になり時とともに経済状態は悪くなる一方だった。いずれこのままでは相続した多くの資産を売らざるを得なくなるだろう。そんな折も折、チキータが詐欺で逮捕されてしまうと、チェラは予想もしなかった現実に直面する。初めて車の運転を習い、ひょんなことから裕福なご婦人方のグループ専用の白タクの無免許ドライバーになる。新しい人生が始まるなかで、チェラはやがて若いアンジーと出会い絆を強めていく。このようにして孤独のなかにもチェラの親密で個人的な革命が始まることになるだろう。 (文責:管理人)
(チキータ役マルガリータ・イルンとチェラ役アナ・ブルン、映画から)
(アンジー役アナ・イヴァノーヴァとチェラ、映画から)
*監督フィルモグラフィー*
★マルセロ・マルティネシMarcelo Martinessiは、1973年アスンシオン生れの監督、脚本家。アスンシオンのカトリック大学でコミュニケーション学を学び、その後ニューヨーク、ロンドン、マドリードで映画を学んだ。社会的なテーマ、アイデンティティを模索する短編やドキュメンタリーを撮る。2009年にモノクロで撮った短編「Karai Norte」は、パラグアイの詩人カルロス・ビリャグラ・マルサルの作品をもとにしている。1947年に起きたパラグアイ内戦中に偶然出会った男と女の物語。ベルリナーレの短編部門に初めて出品されたパラグアイ映画である。他にグアダラハラ映画祭2009イベロアメリカ短編作品賞受賞、グラウベル・ローシャ賞、AXN映画祭2010短編作品賞を受賞、5000米ドルの副賞を貰った。フィルモグラフィーは以下の通り:
2009年Karai Norte(Man of the North)短編19分グアラニー語、監督・脚本・編集
2010年Calle última (Ultima Street)短編20分グアラニー語、監督
ベルリナーレ2011ジェネレーション部門、ウエルバ・イベロアメリカ映画祭2011
短編映画賞、ビアリッツ映画祭ラテンアメリアシネマ部門出品
2012年El Baldio、短編10分
2016年La voz perdida (The Lost Voice)短編ドキュメンタリー12分、監督・脚本・編集・製作
2018年Las herederas 省略
(短編ドキュメンタリー「La voz perdida」のポスター)
★第73回ベネチア映画祭2016オリゾンティ部門の短編作品賞を受賞したドキュメンタリー「La voz perdida」が最も有名。クルグアティCuruguatyの農民大虐殺について、インタビューで構成されたドキュメンタリー、パラグアイ現代史の負の部分を描いた。予想外の受賞と述べた監督、海外暮らしが長いが子供のときから聞きなれた言葉でパラグアイの暗黒の政治を描きたいとインタビューに応えている。
(トロフィーを手に喜びの監督、ベネチア映画祭2016にて)
★コンペティション部門は初めてながら以上のようにベルリナーレの常連の一人、初監督作品が金熊賞に輝く例は皆無ではない。何かの賞に絡むことは間違いないと予想します。キャストの殆どが女優、主役のチェラ役アナ・ブルンは、映画は初出演だが舞台女優としてのキャリアは長いということです。チキータ役のマルガリータ・イルンも舞台が長く映画は2作目、若い女性アンジー役のアナ・イヴァノヴァ、この3人が絡みあってドラマは進行する。
(本作撮影中の監督)
★今年の審査委員長は、ドイツの監督トム・ティクヴァ(『ラン・ローラ・ラン』1998)、他スペイン・フィルモテカのディレクターであるホセ・マリア(チェマ)・プラド(マリサ・パレデスの夫君)は、スペインの顔として各国際映画祭に出席している。日本からは坂本龍一が審査員に選ばれている。当ブログではパラグアイ映画はアラミ・ウジョンのドキュメンタリー「El tiempo nublado」(2015)1作だけという寂しさです。本作が金熊賞以外でも何かの賞に絡んだら、秋のラテンビートも視野に入れて改めてアップいたします。
*パラグアイ映画の紹介記事は、コチラ⇒2015年12月13日
*追記: 『相続人』 の邦題でラテンビート2018上映が決定しました。
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