『殺せ』 チリ映画 *ラテンビート2014 ⑦2014年10月08日 13:46

★チリから届いた何ともはや凄いタイトルの映画、年明け早々開催されるサンダンス映画祭でお披露目したら、ワールドシネマ部門で審査員賞を受賞してしまった。そして始まった国際舞台での快進撃、アメリカで評判になると強いということを印象づけた。肝心のチリではこれから始まる「バルディビア国際映画祭」でやっと1010日に上映される。監督によれば、実際に起こった事件に着想を得て撮られたそうです。東京国際映画祭TIFFは、同じチリでもクリスチャン・ヒメネスのヒューマンドラマ『ヴォイス・オーヴァー』、共に「クール世代」と言われる若い監督の長編第3作目です。 


   『殺せ』Matar a un hombreTo Kill a Man

 

製作Arizona Films / El Remanso Cine

監督・脚本・編集:アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラス

音楽:パブロ・ベルガラ

撮影:インティ・ブリオネス

音響:パブロ・ピノチェト

編集:ソレダ・サルファテ

製作者Guillaume de Seille / エドゥアルド・ビジャロボス

 

データ:チリ≂仏、スペイン語、201482分、スリラー・ドラマ、

撮影地:トメTomé(首都サンティアゴ南西約340キロにあるビオビオ州の港湾都市)

受賞歴:サンダンス映画祭2014「ワールドシネマ」ドラマ部門で審査員大賞受賞

    ロッテルダム映画祭2014 KNF賞受賞、ビッグスクリーン賞ノミネート

    カルタヘナ・デ・インディアス映画祭2014最優秀監督賞・国際批評家連盟賞受賞

マイアミ映画祭2014フューチャー・シネマ批評家賞受賞

    フライブルク映画祭2014ドン・キホーテ賞受賞・特別審査員賞受賞

他ノミネート多数、フランス、メキシコ(グアダラハラ)、イギリス、デンマーク、ハンガリー、ポーランド、カナダなど国際映画祭上映多数。ドイツDVD発売、公開はフランス(101日)だけのようです。チリ公開未定。

 

キャスト:ダニエル・カンディア(ホルヘ)、ダニエル・アンティビロ(カルレ)、アレハンドラ・ヤニェス(ホルヘ妻マルタ)、アリエル・マテルナ(息子ホルヒート)、ジェニファー・サラス(娘ニコル)、パウラ・レオンシニ(フィスカル)他

 

解説:森林公園で働くホルヘは、近所に住むチンピラから絡まれても抵抗できない気弱な男。ある晩、息子がチンピラのボス、カルレに撃たれ重傷を負う。ホルヘと妻は法に訴えるが、カルレはすぐに釈放されてしまう。まもなくカルレたちの執拗な嫌がらせがエスカレートし・・。家族を守るすべのない父の苛立ちや失望、そして復讐を描いたドラマ。2014年サンダンス映画祭ワールドシネマ部門で審査員賞受賞。              (ラテンビート公式サイトからの引用)

 

★監督・フィルモグラフィー紹介

*アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスAlejandro Fernández Almendras:監督、脚本家。チリ大学前期課程修了後、ニューヨークでジャーナリストや映画批評の仕事をしながら映画を学んだ。2001年から短編を撮り始め、長編デビューは2009年の“Huacho”がカンヌ映画祭「批評家週間」ゴールデンカメラ賞にノミネートされるなどした。



*主な短編

2006 Desde lejos

2007 Lo que trae la lluvia イベロアメリカ短編コンペティション2007(最優秀ラテンアメリカ短編賞)、ベルリン映画祭短編部門にノミネート、ロッテルダム映画祭2007に上映された。

*全長編

2009 Huacho サンダンス映画祭2008 NHK賞受賞/カンヌ映画祭2009「批評家週間」ゴールデン・カメラ賞ノミネート/ハバナ映画祭2009 初監督サンゴ賞受賞 他

2011 Sentados frente al fuego(チリ≂独)サンセバスチャン映画祭2011「ニューディレクター」部門出品/バルディビア国際映画祭2011出品(チリ)/第27回グアダラハラ映画祭マーケット部門出品/ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ映画祭2012出品/サンフランシスコ映画祭2012出品他。チリ公開は2013年。

2014 Matar a un hombre 前記の通り省略 

                       (本作と関係の深い第2作目のポスター)

 

復讐:ホルヘは妻と二人の子どもと質素に暮らしている。森林公園の収入はかろうじて家族の生活を満たしている。ある晩、仕事からの帰宅途中チンピラのカルレたちに襲撃される。ここいら近辺ではよく知られたワルだ。ホルヘの息子は僅かでも盗られたものを取り戻そうとカルレと対決しようと決心するが、却って返り討ちにあって九死に一生を得る。カルレはたった2年の禁固刑を受けただけである。カルレは収監中ホルヘ一家全員の復讐を誓って出所してくる。そして執拗な嫌がらせが間断なく始まることになる。警察も司法も一家を守らなかったとしたら、ホルヘの取るべき道は、みずからの手で正義の鉄槌を下すしかない。

 

★監督によれば、これはチリで実際に起きた事件に着想を得て製作されたという。「ある時期テレビ漬けの日々を過ごしていたのだが、あるルポルタージュ番組、近所の不良少年を殺害した父親の話です。レポーターが刑務所に出向いて本人にインタビューする番組です。『あなたの家族はとても危険な状態にあったから、殺害したわけです。しかし時は戻せませんが、もし戻すことができたら、あなたは同じことをしますか』と最後に尋ねると、きっぱり『ノー、やりません』と答えた。それでああ、これは映画にできると考えたんです」。つまり復讐だけの物語なら掃いて捨てるほどありますよね。無法者が大手を振るう西部劇なんかその典型です。だから、この映画の真のテーマは後半部分にあるんだということです。

 


悔恨:人が人を殺すことの重み、誰かの人生をおしまいにすることの正当性が存在するのか否か、というテーマでしょうね。実際の父親には会わなかったそうです。主人公に感情移入できるレベルに達するまで考えつづけ、理解するまでかなり時間が掛かったという。誰も味方になってくれないという疎外感が父親を追い詰めていく。殺害は納得できることなのか。しかし殺害を成し遂げた瞬間に感じるのは、達成感ではなく悔恨だったのかもしれない。

 

★手動カメラと固定カメラの使用、アップとロングショット、空、森、太陽の光線、光と闇、いつもタッグを組む撮影監督インティ・ブリオネスの映像はスクリーンで必見か。ハリウッド映画のように目眩を起こさせるようなスピード感はないが、良質のサスペンスに仕上がっているのではないか。既にゴヤ賞2015イベロアメリカ部門とオスカー賞外国語映画部門のチリ代表作品という噂も聞こえてきました。長編前2作との関連が強い印象を受けますが、スクリーン鑑賞後に触れたいと考えています。 


ラテンビート2014(東京新宿バルト9上映日時:10111100~の1回)

 

『グエロス』 メキシコ映画 *ラテンビート2014 ⑥2014年10月03日 13:18

『グエロス』が、サンセバスチャン国際映画祭SIFF「ホライズンズ・ラティノ」部門のベスト・フィルム賞に受賞しました。サンセバスチャンのグランプリ作品が、同じ年に日本の映画祭で見られるのは珍しいから、急いで紹介いたします。メキシコ映画は、ディエゴ・ルナの『セザール・チャベス』と本作の2本。今年のモントリオール映画祭のスペイン語映画は、メキシコに集中していると書いたばかりですが、『グエロス』は2月開催のベルリン映画祭「パノラマ」部門で上映、初監督作品賞を受賞しています。若い監督がモノクロで撮ったということで前から気になっていた作品。モントリオールを避けてサンセバスチャンにエントリーした。最初「オフィシャル・セレクション」が考慮されたというから、「ホライズンズ・ラティノ」部門の目玉だったのかもしれない。ラテンビートの解説に「ロード・ムービー」とありますが、メキシコ・シティから一歩も出ない。ジャンルはコメディとあるけど、本当にコメディなの。

  

なお監督名は映画クレジット表記やスペイン語圏での使用を考えて、アロンソ・ルイスパラシオスに統一します(LB公式サイト、英語圏はルイス・パラシオス)。

 


       グエロスGüeros

製作Catatonia Films / Conaculta / Difusion Cultural UNAM

監督:アロンソ・ルイスパラシオス

脚本:アロンソ・ルイスパラシオス/ヒブランGibran・ポルテラ

撮影:ダミアン・ガルシア

音楽:トマス・バレイロ

編集:Yibra Assaud /アナ・ガルシア

製作者:ラミロ・ルイス/アロンソ・ルイスパラシオス(エグゼクティブ・プロデューサー)、ガエル・ガルシア・ベルナル(アソシエイト・プロデューサー)

 

データ:メキシコ、スペイン語、2014、コメディ、モノクロ、106

受賞歴:ベルリン映画祭2014 初監督作品賞、エルサレム映画祭2014 FIPRESCI 国際批評家連盟賞、トライベッカ映画祭2014 最優秀撮影賞・新人監督賞&特別審査員佳作、サンセバスチャン映画祭2014「ホライズンズ・ラティノ」 ベスト・フィルム賞&ユース賞、など

   

ベルリンは大きく分けると「コンペティション→パノラマ→フォーラム→ゼネレーション」と4部門あり、第2番目のパノラマ出品でした。国際審査員によって選出される金熊・銀熊賞はコンペ作品に与えられる賞。ルイスパラシオス監督が受賞したパノラマは、この部門専任の審査員によって選出される。

   

サンセバスチャンのベスト・フィルム賞は、副賞として35,000ユーロが授与される。

ユース賞は18歳から25歳までの人の投票で決まる一種の観客賞です。

  

他に、カルロヴィ・ヴァリ(チェコ)、リオデジャネイロ(ブラジル)などの映画祭に出品され、間もなく始まるロンドン映画祭出品が予定されている。最近頓に存在感を増してきているモレリア映画祭(メキシコ)への出品を製作者ラミロ・ルイスは希望しているようです。やはりメキシコ人に見てもらいたいということです。メキシコ公開は来年初めになる予定。

 

                             

                (監督と製作者ラミロ・ルイス)

 

キャスト:テノッチ・ウエルタ(エル・ソンブラ/ フェデ兄)、セバスティアン・アギーレ(トマス弟)、レオナルド・オルティスグリス(サントス)、イルセ・サラス(アナ)、ラウル・ブリオネス(フリア)、ラウラ・アルメラ(イサベル)、アドリアン・ラドロン(モコ)、カミラ・ロラ(アウロラ)、アルフォンソ・チャルペネル(エピグメニオ・クルス)、他

 

解説:大学のストライキ中、学生のソンブラとサントスは、メキシコシティーの古アパートで怠惰な日々を送っていた。ある日、ソンブラの弟トマスが部屋に転がり込んできた。3人はトマスが憧れる伝説のミュージシャンが、今や病床に伏していると知り、彼を探しに向かうが・・。学生運動で荒れる大学構内や危険なスラム街などをリアルなモノクロ映像で描き出すロード・ムービー。2014年ベルリン国際映画祭で初監督作品賞受賞。ガエル・ガルシア・ベルナルが製作に関わっている。                                         (ラテンビート2014公式サイトよりの引用)

 

                                     

                                                      (左から、ソンブラ、サントス、トマス)

     

   監督キャリア・フィルモグラフィー紹介

アロンソ・ルイスパラシオスAlonso Ruizpalacios:メキシコ生れ、監督、脚本家、製作者、俳優。本作の舞台背景でもあるメキシコ自治大学UNAMの学生ストライキ(19992000)時に在籍していたとすれば1970年末期の生れか。アソシエイト・プロデューサーのG.G.ベルナル(1978生れ)と同じ世代と思う。カロリーナ財団の奨学生だったようで、2011年に本財団の基金を受けて本作は製作されている。この財団はスペインとイベロアメリカ諸国との連携を旨として2000年に設立され、大学の学部卒業の資格が必要な大学院大学のようです。本作は長編デビュー作ですが、既にテレビ・シリーズ、短編を多数手掛けています。

   

短編受賞作は以下の通り:

2008 Café paraiso グアダラハラ・メキシコ映画祭2008メキシコ短編部門でMayahuel賞/

アリエル賞2009最優秀短編賞(銀賞)受賞

2010 El último canto del pájaro cú アリエル賞2011最優秀短編賞(銀賞)受賞

 


★ソンブラとサントスは、長引く学生ストライキの煽りをくって所在なくぼんやり暮らしている。支払いが滞ってアパートの電気は切られている。そんな折も折、ソンブラの弟トマスがママから「あんたとはもう一緒に暮らせないから」と言われて追い出されてくる。「何とかしなくちゃ」とソンブラとサントス、トマスが「パパがよく聴いていた伝説のミュージシャン、エピグメニオ・クルスが死の床にいるというから会いに行こう」と言う。ボブ・ディランを感激させたメキシカン・ロックの救世主なんだという、今じゃみんな忘れてしまって知らないけど。こうして若者3人のエピグメニオ探しの旅が始まる。


                                               

           (左から、ソンブラ、アナ、トマス、サントス)

  
★何もすることがなく、ただ時間つぶしをすることに恐怖を感じているソンブラ、何もしなくてもそれもいいじゃないのと現状肯定派のサントス、トマスだけが伝説のミュージシャンに会いたいという目的を持っている。ソンブラが好きらしいアナ、この4人がメインの登場人物。

 

★メキシコ・シティは雑多な人々が暮らす大都会、「北への移民だけがテーマじゃない」と監督。「するべきことが何もないという恐怖が出発点にあり、悲惨だけのメキシコではなくもう一つのメキシコに近づいて欲しい」と。このデビュー作は「時代背景として1年間続いたUNAMの学生ストライキがある。賛成でも反対でもないことが起きてそれに巻き込まれてしまう。そのときに感じた<何もするべきことがない>という恐怖が根底にあり、学生は<早まった退職者シンドローム>と呼ばれたんです」とも。

 

★本作のアイデアは、ボブ・ディランのファンだという監督によると、「ミュージシャン探しの物語はボブ・ディラン自身の体験からヒントを得ました。彼が初めてニューヨークに行ったとき、ブルックリンの病院で死の床にあったというウディ・ガスリーという有名なフォーク・シンガーに会いに行ったという物語です」。ボブに多大な影響を与えたというフォーク歌手のことで、これがミュージシャン探しのアイデアの元になったということです(ウディ・ガスリー<191267>についてはウィキペディアに詳しい)。

   

                                       

          (フォーク歌手、作詞作曲家、作家 ウディ・ガスリー)

 

★ロード・ムービーにしたのは、「メキシコ・シティは巨大都市だから深く知ることは難しい。だからロード・ムービーにして撮る価値があると常に考えていた。モノクロにしたのは、「クリエイティブな距離感をとりたかったし、ストライキに時間的位置づけをしたくなかった。モノクロで街を見始めると新しい別の顔が現れてきたんです。メキシコは色の溢れた都会だから常にネガの状態で見るようにした」。

 

★本作のキイワードは、「『ダック・シーズン』25 wattsヌーベルヴァーグ」だそうで、2作ともモノクロ+デビュー作です。『ダック・シーズン』(2004)は同じメキシコの監督フェルナンド・エインビッケのデビュー作、アリエル賞11部門に輝き、2006年公開された。「25 watts」(2001)はウルグアイのパブロ・ストールとフアン・パブロ・レベージャが共同監督したコメディ、ロッテルダム映画祭作品賞を受賞した。二人は2004年にカンヌ映画祭「ある視点」部門に『ウィスキー』を出品し、国際批評家連盟賞受賞、東京国際映画祭でもグランプリを受賞した。2年後フアン・パブロ・レベージャは鬼籍入りしてファンを驚かせた。彼らへのオマージュがあるかもしれない。ヌーベルヴァーグは、今月が没後30年ということで特集が組まれているトリュフォーではなく、ゴダールということです。

 

      

   (「偏見のない大冒険家だった」祖母への感謝のスピーチをした監督、SIFF授賞式)

 

★トライベッカ映画祭2014 最優秀撮影賞を受賞したダミアン・ガルシアの映像は洗練されていて、予告編からも想像できるようにスクリーンで見たら面白いと思います。他に監督とコラボした短編がYoutubeで見ることができます。他の監督では、ルイス・エストラーダの“El infierno”(2010)を撮っており、かなりエネルギッシュに仕事をしている。これは未公開だが『メキシコ 地獄の抗争』の邦題でDVD化されています。

 

★キャスト陣は、トマス役のセバスティアン・アギーレだけ長編デビューだが(短編あり)、他の主役たち3人は、IMDbから判断して、既に実績のある人たちのようです。

『ブエノスアイレスの殺人』 *ラテンビート2014 ⑤2014年09月29日 17:22

★昨年のアルゼンチン映画はルシア・プエンソの『ワコルダ』1作でしたが、今年も同じ1作品。アレックス・デ・ラ・イグレシア特集ということでスペインに偏っている印象です(お気に入り監督なのでニコニコですが)。カンヌやトロント、サンセバスチャン映画祭の話題作が見送られ、ノーマークだった『ブエノスアイレスの殺人』がエントリーされた。期せずして女性監督、初めてお目にかかるナタリア・メタのデビュー作です。LB公式サイトの解説とトレイラーがしっくりこず違和感を抱いていましたが、「大分前になりますが、アン・リーの『ブロークバック・マウンテン』を見て、こういう物語がアルゼンチンで起きたらどうなるか、ワイオミングのカウボーイを警察官に変えて」、これが本作の出発点だったという監督談話にやっと納得しました(アン・リーの映画は2005年、主役のヒース・レジャーも故人となってしまったと感無量)。

 

     Muerte en Buenos AiresDeath in Buenos Aires

 

製作:Utopica Group / Picnic producciones / La bestia films

監督・脚本:ナタリア・メタ

脚本:ラウラ・ファルイ/グスタボ・マラホビッチ/ルス・オルランド・ブレナン

製作者:ベロニカ・クラ/マリアノ・ゴールド/ファビアナ・ティスコルニア、他

音楽:ダニエル・メレロ

撮影:ロロ・プルペイロ、他

編集:エリアネ・DKarz

音響:レアンドロ・デ・ロレド

衣装デザイン:バレンティナ・バリ、他 


データ:アルゼンチン、スペイン語、2014、サスペンス、91分、撮影:20131月~2月にブエノスアイレスでロケ、製作費:約50万ドル、映倫区分R-13、アルゼンチン公開2014515

 

キャスト:デミアン・ビチル(警部チャベス)、チノ・ダリン(警官‘エル・ガンソ’ゴメス)、モニカ・アントノプロス(ドロレス・ぺトリック/ チャベスの同僚)、カルロス・カセリャ(ケビン・ゴンサレス/ ディスコ<マニラ>の歌手)、ウーゴ・アラナ(警察署長サンフィリッポ)、ホルヘリーナ・アルッツ(チャベスの妻アナ)、ネウエン・ペンソッティ(チャベスの息子ミゲル)、ファビアン・アレニリャス(警察医アンチョレナ)、エミリオ・ディシ(判事モラレス)、ジノ・レニー(仕立屋)、ウンベルト・トルトネセ(マニラの経営者モヤノ)、マルティン・ウリッチ(ハイメ・フィゲロア・アルコルタ)、特別出演ルイサ・クリオク(ブランカ・フィゲロア・アルコルタ/ 犠牲者の妹)、他

 

解説:舞台は80年代のブエノスアイレス。敏腕警部チャベスは、ある男の凄惨な殺人事件の現場に駆け付ける。そこにはガンソと呼ばれる若い警官が先に到着していた。捜査線上に浮かんだ容疑者が、ゲイの集うクラブにいることを突き止めた二人は、店に潜入する。警部チャベスには『チェ28歳の革命』でカストロを演じたメキシコの俳優デミアン・ビチル。怪しげな魅力を放つ警官ガンソ役を、アルゼンチンを代表する名優リカルド・ダリンの息子、チノ・ダリンが演じている。 
                           (ラテンビート公式サイトより引用)

 

           

                 (ディスコ<マニラ>に潜入したチャベスとエル・ガンソ)

 

★アルゼンチンの80年代前半は、70年代の「汚い戦争」といわれる軍事政権による国家テロの延長線上にあり、民政移管となった後半とはかなり異なる。1983年、鉄の女サッチャーに仕掛けたマルビナス戦争に失敗、心身ともに多くの傷跡を国民に残して軍事政権は崩壊した。脆弱とはいえ民主主義がラウル・アルフォンシン大統領の手で始まったが、アルフォンシンは一定の成果を上げたが経済政策の失敗から1989年、5ヵ月の任期を残して辞任する。ゲイの集まるクラブ内での麻薬取引の実態は、長年マル秘条項だったが、こういうクラブが事件の背景にある。民政移管されたアルフォンシン政権時代のなかば、性の解放が始まった頃に設定されているようだ。

 

      
 (ドロレス役のモニカ・アントノプロス)

★ブエノスアイレスではよく知られた名門の出の絵画コレクターの男性が、その豪華なアパートで死体となって発見される。現場で若い新米警官ゴメス‘エル・ガンソ’と家族持ちのベテラン警部チャベスが出会う。チャベスはその長いキャリア、いささか疲労気味だが、事件解決に関しては非の打ちどころのないと評判の警部だ。犯人は物取りが目的か、痴情犯罪か、はたまた雇われ暗殺者の仕業か、二人はパッショネートな殺人事件のウラに麻薬密売のネットワークが潜んでいることに気づく。こうしてチャベスとエル・ガンソの二人三脚の捜査が始まった。チャベスを支える同僚ドロレスはかなりセクシーな熟女、いささかカリカチュアされた警察署長サンフィリッポ、危うい魅力を発散するディスコ<マニラ>の歌手ケビン、そのオーナーのモヤノ、70年代のシンセサイザーのグラムロックが鳴り響くなかで物語は進行する。

 

            

                 (カルロス・カセリャ扮するゲイ歌手ケビン・ゴンサレス)

 

★監督紹介

ナタリア・メタ Natalia Meta:監督、製作協力。公表してないのか正確な生年は不詳、ただし1994年ブエノスアイレス大学哲学科入学、2001年卒業から類推して70年代半ばか。軍事クーデタが起きた当日、1976324日に生れたディエゴ・レルマン(『ある日、突然。』、“Refugiado”を511日他UP)、カンヌやトロント映画祭に出品された“Jauja”の監督リサンドロ・アロンソ522日・27UP)、チノ・ダリンの父親リカルド・ダリンが出演した“Relatos salvajes”の監督Damian Szifron(⇒56日・815UP)などと同世代ですから出遅れ感があります。 

    


製作協力として、パウラ・エルナンデスの“Un amor”(2011)、Pablo Giorgelli & Salvador Roselliの“Las acacias”(2010)がある。テレビ出演のインタビューでは、影響を受けたアルゼンチン監督として、ルクレシア・マルテル、パブロ・トラペロ、アドリアン・カエタノの三人を上げていました。ちょっと作風が違う印象ですが、いずれもアルゼンチンを代表する実力派、マルテルもトラペロもラテンビートでお馴染みの監督、アドリアン・カエタノはウルグアイのモンテビデオ生れですがアルゼンチンで映画を撮っている監督。国際的な映画祭で数々の受賞歴がある“Un oso rojo”(2002)、“Crónica de una fuga”(2006)も紹介されていない。最近はテレビ・シリーズやドキュメンタリーを撮っているが、いずれ登場することを期待します。

 

★チャベス警部デミアン・ビチル・ナヘラ Demian Bichir Najera1963年メキシコ・シティ生れの51歳、俳優、プロデューサー、脚本家。父が舞台監督、母が女優ということもあって子役時代を含めると、半世紀近いキャリアの持ち主。これから公開の作品を含めると70作を超える。アメリカ映画だがクリス・ワイツの“A Better Life”(2011)のカルロス・ガリンド役が絶賛され、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。劇場公開にはならなかったが、東京国際映画祭2011のワールド・シネマで『明日を継ぐために』の邦題で上映された。LB公式サイトにあるように『チェ28歳の革命』『チェ39歳-別れの手紙』でフィデル・カストロに扮した。最近公開された映画はオリバー・ストンのスリラー『野蛮なやつら』(2012)、ポール・フェイグのアクション・コメディ『デンジャラス・バディ』(2013)、ロバート・ロドリゲスの『マチェーテ・キルズ』(2013)など、いずれも吹替え版でテレビ放映もされた。



他にメキシコのアカデミー賞アリエル賞ノミネーションに、カルロス・カレロのブラック・コメディ“La vida conyugal”(1993)、ラファエル・モンテロのコメディ“Cilantro y perejil”(1997)などで主演男優賞にノミネートされた。他ノミネート多数。コメディからシリアス・ドラマと演技の幅は広い。見た人の話なので責任は負えませんが、10年前なら大スキャンダルになっただろうチノ・ダリンとのドキッとするシーンがある由、映画館でご確認。

 

★エル・ガンソ役チノ・ダリン Ricardo Alberto Darin Bas1989年ブエノスアイレス生れの25歳、俳優。父リカルド・ダリンとクリスチャン・ネームが同じことから通称‘チノ’の愛称で呼ばれている。2010TVドラ、マルティン・サバンの“Alguien que me quiera”でデビュー。映画はダビ・マルケスのコメディEn fuera de juego2012、アルゼンチン≂西)、監督はバレンシア生れのスペイン人、主役はアルゼンチンのディエゴ・ペレッティやチノ・ダリン、スペイン側はフェルナンド・テヘロ、ウーゴ・シルバなどお馴染みの俳優が出演、サッカーのコメディなのでイケル・カシージャスやマルティン・パレルモのホンモノが特別出演、父リカルド・ダリンも我が子のために出演してヨイショ。その後アルゼンチンの人気TVドラマに出演、第2作目となる本作で主役に抜擢されたシンデレラ・ボーイ。 


まだ演技力も未知数のチノ・ダリン起用の理由を質問されてたメタ監督、「チノ・ダリン無しでこの映画は作れなかった。男性の中にある欲情をかきたてることができる魅力ある俳優が必要だった。彼には心を捉えるようなイメージがあった」と語っている。最初は役人なら警官でなくてもよかったが、「ブエノスアイレスの夜の領域を融合させるには、やはり一番ぴったりなのが警察だったので、結果的にそうなった」とも。<ブエノスアイレス>は本作のキイワードの一つのようで、広義のフィルム・ノワールでもある。

 

★他にゲイの歌手になるカルロス・カセリャの怪しい魅力、御年60歳でも依然その美貌に衰えを見せないルイザ・クリオク、上流階級のポロ競技の映像美も見どころの一つか。前世紀の倫理コードでは許されなかったであろうサドマゾヒズムの大胆なシーン、「ストップ・エイズ」のキャンペーンと相まって、ホモセクシュアルは病気で治療すれば治ると考えていた1980年代のブエノスアイレスのノスタルジーもありそうだ。最初、テレビ・ドラマとして企画されたこともあって、筋がいささか盛り沢山、少しジグザグしている印象をうける。評価は毀誉褒貶、完全に二分されている。映画の好みは十人十色、自分で確かめるしかないか。

 

              

            (犠牲者の妹役になったルイサ・クリオク)


『デリリオ 歓喜のサルサ』 *ラテンビート2014 ④2014年09月25日 15:07

         チュス・グティエレスの『デリリオ 歓喜のサルサ』

★コロンビア映画ならカンヌ映画祭「批評家週間」ノミネーションのフランコ・ロジィの長編デビュー作Gente de bien”と予想していましたが外れてしまいました(⇒201458に記事UP)。昨年はアンドレス・バイスの『暗殺者と呼ばれた男』『ある殺人者の記録』と2本上映されました。また以前セルバンテス文化センターで特別上映された(213日)リカルド・ガブリエリの『ラ・レクトーラ/読者』が、10月の土曜映画上映会で再上映されます(日本語字幕付)。前回も日本語字幕がアナウンスされていましたが結果は英語でしたので要確認です(⇒2014219に記事UP)。では、サルサ・ショーのメッカ<デリリオ>へ、「ウノ・ドス・トレス・・・」、私たちも「シンコ・セイス・シエテ・・・」と、バモス・ア・バイラール。

 

    Ciudad Delirio

 製作B4-A Films / Film Fatasl / TVE

監督:チュス・グティエレス

脚本:エレナ・マンリケ/チュス・グティエレス

音楽:タオ・グティエレス

撮影:ディエゴ・ヒメネス 


キャスト:カロリナ・ラミレス(アンジー)、フリアン・ビリャグラン(ハビエル)、イングリッド・ルビオ(パロマ)、ホルヘ・エレーラ(バソ・デ・レイチェ)、ジョン・アレックス・カステリ、ミゲル・ラミロ、他

 

データ:コロンビア≂スペイン、スペイン語、コメディ、2014100分、

撮影地:カリ/バジェ・デル・カウカ、公開:コロンビア411日、スペイン95

モントリオール映画祭2014822日上映)、釜山映画祭2014104日上映)、他

 

解説:スペイン人の医師ハビエルは、仕事で訪れたコロンビアのカリでサルサスクールのオーナーであるアンジーに心奪われる。彼女は世界で最も有名なサルサショー「デリリオ」のオーディションに挑むべく生徒たちと日夜練習に励んでいた。決して交わることのなかった二つの人生が再び交差したとき、誰もが踊る街が愛と情熱に染まる!振付は明和電機とのコラボ「ROBOT!」等、世界的に活躍するスペイン人コレオグラファー、ブランカ・リーが手掛けた。 (LB公式サイトから)

 

★コロンビアと言ったらパブロ・エスコバル率いる麻薬密売組織メデジン・カルテル、首領亡き後壊滅したメデジンにとって代わって台頭したカリ・カルテルをイメージするでしょうか。それはひと昔ふた昔のハナシ、今ではサルサ・ショーのメッカはサンチャゴ・デ・カリだと言うではありませんか。でもテロリストに土地を奪われコロンビアじゅうを放浪しつづけている国内難民500万人(ONUデータ、ケタ間違っていません)、更に裁判報告書によれば、2013年コロンビアで殺害された人は14000人に上ると聞けば、依然、暴力によって簡単に命を失う危険な国の一つであることに変わりありません。

 

★コロンビアは「エストラート」と言われる階級社会で、納めた税金の額でエストラート「1から6」までの階層がある。その数字は表向きで、実際は「10以上」に分断されているという。つまり「1」にも含まれない「0」があり、お金と権力を持つ一握りの「56」も、5-、5+、6-、6+と分かれていると言うわけです。サルサ・ショー観覧には「56」階層は以前ならバカにして行かなかったが、今では特別席を設えて見に来るという。「3以下0」はいわゆる平土間で見る。コロンビアで封切られた初日には、多くの観客が鑑賞を断念したという。「もう大騒ぎだったのよ、夜のチケットをゲットするのに昼間から行列しなければならなかったんだから」、過熱していることは本当のようです。

 

★本作は昨年のコロンビアへの旅から始まったとグティエレス監督、入念なリサーチをもとに物語は構成されている(2013824日クランクイン)。内気で口数の少ないスペイン人医師ハビエルとサルサのダンサー兼振付師のコロンビア女性アンジーのロマンティック・コメディ(内気で口数の少ないスペイン男性もいるんですね)。しかしバックボーンには異なった二つの文化や価値観の違いを描くアカデミックな物語でもあるようです。それが監督の持ち味、以下の経歴をみれば頷けるはずです。 


  監督キャリア&フィルモグラフィー

チュス・グティエレス Chus Gutiérrez (本名 María Jesús Gutiérrez)は、1962年グラナダ生れ、監督、脚本家、女優。本名よりチュス・グティエレスで親しまれている。8歳のとき家族でマドリードに移転、197917歳のときロンドンに英語留学、帰国後映像の世界で働いていたが、1983年本格的に映画を学ぶためにニューヨークへ留学し、グローバル・ビレッジ研究センターの授業に出席、フレッド・バーニー・タイラーの指導のもと、スーパー8ミリで短編を撮る(“Porro on the Roof1984、他2篇)、1985年、シティ・カレッジに入学、1986年、最初の16ミリ短編“Mery Go Roundo”を撮る。ニューヨク滞在中にはブランカ・リー、クリスティナ・エルナンデス、同じニューヨークでパーカッション、電子音楽、作曲を学んでいた弟タオ・グティエレスと一緒に音楽グループ“Xoxonees”を立ち上げるなどした。2007年には、CIMAAsociacion de Mujeres de Cine y Medios Audiovisuales)の設立に尽力した。これは映画産業に携わる女性シネアストたちの平等と多様性を求める連合、現在300名以上の会員が参加している。

  


1987年帰国、長編デビュー作となるSublet91)を撮る。まだ女優だけだったイシアル・ボリャインを主人公に、製作は昨年初来日したフェルナンド・トゥルエバ夫人のクリスティナ・ウエテが手掛けた。『ベルエポック』『チコとリタ』『ふたりのアトリエ』ほか、今年梅田会場から上映される義弟ダビ・トゥルエバの『Living Is Easy with Eyes Closed』も当然製作しているベテラン・プロデューサー。カディスのアルカンセス映画祭1992金賞、バレンシア映画祭1993作品賞、1993シネマ・ライターズ・サークル賞(スペイン)、ゴヤ賞1993では新人監督賞にノミネートされた。イシアル・ボリャインもムルシア・スペイン・シネマ1993が、ベスト女優賞になる「フランシスコ・ラバル賞」を受賞した。

 

2Alma gitana96)は、プロのダンサーになるのが夢の若者がヒターノの女性と恋におちるストーリー、新作『デリリオ』と同じような二つの文化の衝突あるいは相違がテーマとして流れている。他に代表作としてEl Calentito05)も高い評価を受けた。ベロニカ・サンチェスを主役にしたコメディ、モンテカルロ・コメディ映画祭2005で作品賞他受賞、マラガ映画祭2005ジャスミン賞ノミネート、トゥールーズ映画祭でタオ・グティエレスが作曲賞を受賞した。なお彼は姉の全作品にわたって音楽を担当している。


(グティエレス姉弟)

 

 
最も高い評価を受けたのが7作目となるRetorno a Hansala(“Return to Hansala08)、当時、実際に起きていた事件に着想を得て作られた。海が大荒れだった翌日、カディスのロタ海岸にはモロッコからの若者11名の遺体が流れ着いた。服装からサハラのハンサラ村の出身であることが分かる。既に移民していたリデアはその一人が弟のラシッドであることを知る。リデアは葬儀社のオーナーと遺体を埋葬するため故郷に向かう。これは異なった二つの社会、価値観、言語の違いを超えて理解は可能か、また若者を送りだしてしまうイスラム共同体の誇りについての映画でもある。

バジャドリード映画祭審査員特別賞/カイロ映画祭2008作品賞「ゴールデン・ピラミッド賞」・国際批評家連盟賞を受賞/トゥールーズ映画祭脚本賞を受賞/グアダラハラ映画祭監督・脚本賞など受賞。ゴヤ賞2009ではオリジナル脚本賞にノミネートされた。

 

 

  キャスト紹介

カロリナ・ラミレス Carolina Ramírez は、1983年サンチャゴ・デ・カリ生れの31歳。最初舞踊家を志していたが、その才能にも拘わらず舞踊家としての必要条件不足で演技者に転向した。テレビ初出演は土曜と日曜の午前ちゅう放映の子供番組にレギュラー出演する。テレノベラ“La hija del mariachi”(2006~08)の成功で、テレノベラのヒロインになる。2010年、歴史上の殉教者Policarpa Salavarrieta 愛称ラ・ポーラに題材を取った“La Pola”が大成功、コロンビアで最も愛されるスターとなった。映画デビューは、“Soñar no cuesta nada”(06)、本作が第2作目、主役のアンジー役を射止めた。他に演劇にも出演と幅広く活躍中。

 
アンジーには、コロンビアではもう伝説的なコレオグラファーになっているビビアナ・バルガスが投影されているようです。2005年ラスベガスで開催された「サルサ世界チャンピオン大会」や「ワールド・ラテン・ダンス・カップ」の優勝者、サルサ学校「Stilo y Sabor」のオーナー兼振付師です。『デリリオ』で描かれたようなレッスン風景は、ここがモデルの一つとか。街のクラブで踊られるサルサと違って、人生を変える目的でサルサを習いに来る、サルサ・ショー出演のためのダンス学校です。

(アンジーとハビエル)

                                 

 

フリアン・ビリャグラン Fulian Villagran は、1973年カディス生れの41歳。ラテンビート2006上映のアルベルト・ロドリゲスの『7人のバージン』、同2007年のダニエル・サンチェス・アレバロの『漆黒のような深い青』で既にラテンビートに登場していますが、脇役なので印象に残らなかったかも。1997年のフランセスク・ベトリウの“La Duquesa Roja”で映画デビュー、チキ・カラバンテの“Carlos contra el mundo”(02)で初の主役、ムルシア映画祭2003で金賞の「フランシスコ・ラバル賞」を受賞、本作はほかに監督賞など受賞している。

最近では、アルベルト・ロドリゲスの“Grupo 7”(12)でゴヤ賞 2013 助演男優賞受賞、シネマ・ライターズ・サークル賞 2013(スペイン)助演男優賞、スペイン俳優連盟賞 2013 助演男優賞を受賞している。他にフェリックス・ビスカレットの“Bajo las estrellas”(07)でゴヤ賞 2008 助演男優賞、シネマ・ライターズ・サークル賞2008 助演男優賞、スペイン俳優連盟賞にノミネートされている。

 

★内気で控えめな医師ハビエルは、医学会議に出向いたカリで、偶然出会ったアンジーと魅惑の一夜を過ごす。マドリードに戻ったが彼女が頭から離れず仕事が手につかない。カリで医師として働いている親友パロマを頼って、一定期間カリで仕事をしようと決心する。このパロマ役がイングリッド・ルビオ1975年バルセロナ生れ)です。テレビで活躍中、その演技力、歌唱力、モダンバレエの実力がカルロス・サウラの目にとまり『タクシー』(96)で長編デビューしました。「スペイン映画祭1997」で来日しています。脇役だから簡単に紹介すると、他にマヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』(06、翌年公開)にも彼の妹役で出演しています。フランコ末期、最後のガローテ刑で処刑された実在のアナーキスト、プッチ・アンティックの伝記映画。その残酷性ゆえにバチカンからも非難声明が出されたという。

 

      

           (左から、フリアン・ビリャグラン、監督、イングリッド・ルビオ)

 

ラテンビート2014(新宿バルト9上映日時:101118301321002回)


Flowers / Loreak *ラテンビート2014 ③2014年09月22日 22:29

★サンセバスチャン映画祭2014正式出品作品、ラテンビートでの紹介を予告していた映画です。二人の監督は共にバスク出身、最初にタッグを組んだ“80 egunean”(2010、バスク語)が国際的にも高い評価を受け、本作は共同監督第2作目、言語はバスク語なのでスペイン語字幕または英語字幕、いずれかの翻訳になると思います。サンセバスチャン上映は間もなくの922日です。

 

Flowers / Loreak

 

製作:Irusoin / Moriarti Produkzioak

監督:ジョン・ガラーニョ& ホセ・マリ・ゴエナガ

脚本:アイトル・アレギAitor Arregi ジョン・ガラーニョ/ホセ・マリ・ゴエナガ

製作者:アイトル・アレギ/ハビエル・ベルソサ Berzosa/フェルナンド・ラレンドLarrendo

撮影:ハビエル・アギーレ

音楽:パスカル・Gaigne

データスペイン、2014バスク語、99分 スペイン公開1017

チューリッヒ映画祭(928日)、ロンドン映画祭(1018日)にエントリーされている。

 

キャスト:ナゴレ・アランブル(アネ)、イツィアル・アイツプル(テレ)、イツィアル・イトゥーニョ(ルルデス)、ジョセアン・ベンゴエチェア(ベニャト)、エゴイツ・ラサ(アンデル)、ジョックス・ベラサテギ(ヘスス)、アネ・ガバライン(ハイオネ)、他

 


解説:身体に不安を抱える中年女性アネのもとに、ある日、匿名の花束が届いた。以来花束は、毎週、同じ時間に届くが、贈り主はわからない。アネは謎の人物からの花束に密かなときめきを覚える。一方、ルルデスは口うるさい義母との関係に問題を抱えていた。心に傷を負った三人の女性の人生が、花束を軸につながっていく過程を、繊細なタッチで描いたヒューマン・ドラマ。
                           (ラテンビート公式サイトより引用)

 

監督紹介

ジョン・ガラーニョJon Garano 1974年サンセバスチャン生れ、監督、脚本家、製作者、編集者。2001年短編“Despedida”でデビュー、短編、ドキュメンタリー(TVを含む)多数、短編“Miramar Street”(2006)がサンディエゴ・ラティノ映画祭でCorazón賞を受賞。長編第1作“Perurena”(2010)のプロデューサーがホセ・マリ・ゴエナガ、彼とコラボして撮った第2作“80 egunean”(“80 Days2010)が、サンセバスチャン映画祭2010の「サンセバスチャン賞」を受賞したほか、トゥールーズ・シネ・エスパニャ2011観客賞女優賞イジアル・アイツプル、マリアスン・パゴアゴ)、脚本賞を受賞したほか、受賞多数。イジアル・アイツプルは3作“Loreakでテレを演じている。

 

ホセ・マリ・ゴエナガ Jose Mari Goenaga1976年バスクのギプスコア生れ、監督、脚本家、製作者、編集者。短編“Compartiendo Glenda”(2000)でデビュー、長編第1作“Supertramps”(2004)、第2作がジョン・ガラーニョとコラボした“80 egunean”、受賞歴は同じ。本作が3作目となる。

 

     

(左ジョン・ガラーニョと右ホセ・マリ・ゴエナガ)

 

プロット:平凡だったアネの人生に転機が訪れる。ある日、匿名の花束が家に贈り届けられ、それは毎週同じ曜日、それも同じ時刻に届けられる。やがて、その謎につつまれた花束は、ルルデスやテレの人生にも動揺を走らせることになる。彼女たちが大切にしていたある人の記憶に結びついていたからだ。忘れていたと思っていた優しい感情に満たされるが、夫婦の間には嫉妬や不信も生れてくる。結局、花束は花束でしかない。これはただの花束にしか過ぎないものが三人の女性の人生を変えてしまう物語です。                       (文責:管理人)

 

★以上のような地味な展開だと役者が上手くないと退屈して見てられない。じっくり見る映画ですね。女性たちが幸せな人生を送っているわけではないだけに、届けられる花束の上品な美しさのコントラストに魅了される。日本の生け花とは違う美しさだ。コラボして撮った“80 egunean”も老境に入った二人の女性が主人公(二人の監督にとっては母親世代になる)。

 

★本作とテイストが似ているので、80 eguneanを少しご紹介。少女だった遠い昔、親友だったアスンとマイテの二人はひょんなことから50年ぶりに邂逅する。アスンは農場をやっているフアン・マリと結婚するため田舎に引っ越して行き、両親と距離を置きたい娘は離婚を機にカリフォルニアに移り住んでいる。レズビアンのマイテはピアニストとして世界を飛び回ってキャリアを積んでいたが既に引退して故郷サンセバスチャンに戻ってきた。別々の人生を歩んだ二人も既に70歳、不思議な運命の糸に手繰り寄せられて再び遭遇する。この偶然の再会はアスンに微妙な変化をもたらすことになる、自分の結婚生活は果たして幸せだったのだろうか。マイテにサンタ・クララ島への旅を誘われると、アスンは自分探しの旅に出ることを決心する。

 

                     

                  (アスンとマイテ)

 

★アスンにイジアル・アイツプル、マイテにマリアスン・パゴアゴが扮した。前述したようにトゥールーズ・シネ・エスパニャ2011で揃って女優賞を受賞した。パゴアゴはこれがデビュー作だという。年輪を重ねた知性豊かな二人の女性のナチュラルな演技が観客賞に繋がった。2作のキャスト陣はダブっていないようですが、アイツプルのほかアネ・ガバラインの名がクレジットされています。

 

★キャスト紹介

ナゴレ・アランブル(アネ役)Nagore Aranmburu:バスクのギプスコア(アスペイティア)生れ。1998TVドラマでデビュー、フェルナンド・フランコの“La herida”(2013、ゴヤ賞2014作品賞受賞他)に出演している。 


イツィアル・アイツプル(テレ役)Itziar Aizpuru1939年生れ。2003TVドラマでデビュー、前述の作品以外の代表作はオスカル・アイバルの“El Gran Vazquez”(2010)、TVドラマ、短編多数。

 

イツィアル・イトゥーニョ(ルルデス役)Itziar Ituño1975年バスクのビスカヤ生れ。Patxi Barkoの“El final de la noche”(2003)の地方紙のデザイナー役でデビュー、サンセバスチャン映画祭のオフィシャル・コンペティション外にエントリーされているパブロ・マロの“Lasa y Zabala”に出演している(コンペ外なので未紹介、1983年のETAのテロリズムがテーマ)。バスク語のTVドラマに出演。 


*ラテンビート2014(東京バルト91013日、1回上映予定)

 

ダニエル・モンソンの新作『エル・ニーニョ』*ラテンビート2014②2014年09月20日 23:41

★今年、ハリケーン級の興行成績を上げている映画は、サンセバスチャン映画祭「メイド・イン・スペイン」で上映されるエミリオ・マルティネス・ラサロのOcho apellidos vascosがぶっちぎりで1位だと思っていたのに、『エル・ニーニョ』829日に封切られるや怪しくなってきた。日刊紙「エル・ムンド」電子版によると、週末3日間で300万人が見たという(スペインは金曜日が封切り日)。売上高285万ユーロを弾きだしたというが、これで計算合ってる? この勢いだとナンバー1になるのもそう遠くはない。夏休み最後の週末だからお財布に残っていたお金を残さず使っちゃおうと思ったのかも。

 

     El Niño

製作:Telecinco Cinema / IkiruFilms / Vaca Films

監督:ダニエル・モンソン

脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア/ダニエル・モンソン

撮影:カルレス・グシ

音楽:ロケ・バーニョス

編集:クリスティナ・パストール

製作者:アルバロ・アウグスティン/ビクトリア・ボラス(IkiruFilms)、他多数

  

 

キャスト:ルイス・トサール(警察官ヘスス)、ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)、イアン・マクシェーン(エル・イングレス)、セルジ・ロペス(ビセンテ)、バルバラ・レニー(ヘススの相棒エバ)、ヘスス・カロッサ(エル・コンピ)、エドゥアルド・フェルナンデス(セルヒオ)、Saed Chatiby(ハリル)、ムサ・マースクリ(ラシッド)、マリアン・バチル(アミナ)、スタントマンも含めてその他大勢。

 

データ2014、スペイン、スペイン語、アクション・スリラー、136分、撮影地(ジブラルタル海峡、モロッコのタンジール、スペインのアルヘシラス、タリファ、セウタ、アルメリアなど)

  

 

解説:麻薬取引に手を染めた命知らずの若者たちと、密売組織の操作に全力を注ぐ二人の警官。麻薬密売の巣窟と言われる危険なジブラルタル海峡を舞台に繰り広げられる、犯罪組織と警察の攻防を描く。『プリズン211』の主演ルイス・トサルと監督ダニエル・モンソンが再びタッグを組んだアクション&サスペンス。(ラテンビート公式サイトからの引用)

 

★こういうテーマ、ハリウッド映画や海外ドラマで飽きるほど見ているんじゃないかと思う。しかしまだ完成する前から、『プリズン211』のモンソンが5年ぶりに撮るというので、スタッフ並びにキャスト、撮影状況を含めてメディアが熱く報道していました。監督によれば、モデルは存在するが実話ではなくフィクションです。しかし20年前30年前の話ではなく、現在日常的に起こっている事柄を基礎データにして脚本が書かれたと分かれば話は別、見たくなります。

 

★『プリズン211』というのは、「スペイン映画祭2009」で『第211号監房』の邦題で上映されたCelda 2112009)のDVDタイトルです。細かいことを言えばプリズンではなく監房です。公開がアナウンスされながらDVD発売だけに終わった。ゴヤ賞2010では、作品・監督・脚色・男優賞他8部門を制したヒット作。声を潰し筋肉マンに変身して主役マラマードレを演じたトサールは、「やっと父親から俳優と認めてもらえた」と語った映画でした。製作費570万ドル、現在とは為替レートが違うから単純に比較できないが、スペインでの売上高は1300万ユーロに止まった。

   

      

(主役の二人、ヘスス・カストロとルイス・トサール)
  

プロット:エル・ニーニョは、英領ジブラルタルの国境沿いラ・リネア・デ・ラ・コンセプションに住んでいるモーターボートの修理工。ある夜、ダチのエル・コンピと出掛けたパーティの帰途、二人はムスリムの青年ハリルと出会った。彼の叔父ラシッドは麻薬密売のディーラーを生業にしている。エル・コンピに説得され、得意のモーターボートを駆使してブツをアフリカからスペインに運び込む「運び屋」を引き受ける。一方ベテラン警官のヘスス、その相棒エバは、ジブラルタルの密売組織を牛耳っているイギリス人麻薬密売人エル・イングレスの足跡を2年間ずっと追い続け包囲網を狭めていくが尻尾が掴めない。そんなとき若い二人の運び屋エル・ニーニョとエル・コンピが網に掛かってきた。 (文責:管理人)

 

ジブラルタルはイギリスの海外領土、地中海の出入り口にある要衝の地ジブラルタル海峡を望む良港をもつため、軍事・商業上重要なところでイギリス軍が駐屯している。ザ・ロックと呼ばれる岩山が総面積のほぼ半分を占めている。エル・ニーニョが暮らすラ・リネア(・デ・ラ・コンセプション)はイギリス国境沿いの町、アンダルシア州に所属し人口約65000人。

 

ダニエル・モンソン Daniel Monzón Jerez1968年マジョルカ島のパルマ生れ、監督・脚本家・俳優。脚本家として出発した短編を撮らない珍しい監督。

 

監督としてのフィルモグラフィー

11999El corazón del guerrero” 邦題『クイーン&ウォリアー』(アドベンチャー・ファンタジー)、20025月公開。

22002El robo más grande jamás contado”(アントニオ・レシネス主演のコメディ)本作からホルヘ・ゲリカエチェバリアとタッグを組み現在に至る。

32006The Kovak Box”(“La caja Kovak”西= 英合作、西語・英語・独語)、『イレイザー』の邦題でDVD化されたSFサスペンス、未公開。

42009Celda 211”『プリズン211DVD (映画祭タイトル『第211号監房』)未公開。

52014El Nino

 

柳の下に泥鰌が2匹、関係者の笑いは止まらない。観客が楽しんでくれる映画作りをモットーにしているモンソン監督、今回もその言葉通りに推移しているようです。これといった大宣伝はしないのに多くの観客が見てくれるのは、「全て観客のクチコミのお蔭、本当に誇りに思っています」(監督談話)だそうです。Ocho apellidos vascos同様成功の決め手はクチコミ、スペイン映画産業にとって、これほどの成功は異例の現象だという。アクション映画が大好きな若者をターゲットに製作されたが、観客層は老若男女と幅広く、「観客は笑うべきところで笑ってくれている」と監督。

    

                 

              (ダニエル・モンソン監督)

 

『プリズン211』も「冷酷で、胡散臭く、限りなくダーク」だったが、幅広い観客層に受け入れられたが、本作はそれを超えている。それは「女性を感激させるエモーショナルなスリラーだから」だと監督は分析しています。更に映画に重厚さをもたらした理由として、ルイス・トサール、エドゥアルド・フェルナンデス、バルバラ・レニーなどのベテラン勢に加えて、新星ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)を上げています。エル・コンピに扮するヘスス・カロッサ、年若い運び屋を演じたこの二人の「ヘスス」の好演が成功に貢献しているとか。

 

製作費約600万ユーロで撮られた。こんな額で完成できたのは「奇跡」とモンソン、「英語で撮るなら資金を出すという製作会社のオファーを断った」理由は、スペイン語に拘ったからだ。ここらへんが世代の違う『インポッシブル』のフアン・アントニオ・バヨナ(1975)との違いですね。過去に密売に携わった関係者にも取材して細部を固め、小道具の一つだったハシッシュ(大麻)の密輸品を押収するシーンでは治安警備隊の警官を動員してもらえた。ヘリコプターもホンモノ、3トンのランチもホンモノ、出動してくれた治安警備隊もホンモノだったようです。だからウソっぽくないのは当然です。勿論、共同執筆者のホルヘ・ゲリカエチェバリアの助けなしには完成できなかったという。

    

      

 (エル・ニーニョが操縦するランチを追うホンモノの国家警察のヘリコプター)

 

ホルヘ・ゲリカエチェバリア Jorge Guerricaechevarría1964年アストゥリアスのアビレス生れ、脚本家。アレックス・デ・ラ・イグレシア(ゴヤ賞にノミネートされた『ビースト 獣の日』、『みんなの幸せ』、『オックスフォード殺人事件』他、ほぼ全作)、ペドロ・アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』、モンソンの第2作から本作までを執筆している。

 

      

  (ホルヘ・ゲリカエチェバリア)

★ルイス・トサールは、『プリズン211』で紹介記事が既に書かれていますし、彼は単独できちんと紹介すべき役者なのでここでは割愛です。前作ではイシアル・ボジャインの『花嫁の来た村』や『テイク・マイ・アイズ』の印象を一変して、「こういうトサールを見たかった」ファンを喜ばせた。彼を語るとしたら『プリズン211』が一番相応しい。エル・イングレス役のイアン・マクシェーンはイギリス人、ラシッド役のムサ・マースクリはマルセーユ生れのフランス人と国際色も豊か、演技に文句のつけようがないエドゥアルド・フェルナンデス、バルバラ・レニー、セルジ・ロペスとそれぞれ危なげがない。

     

                                 

                          (ルイス・トサール右)

 

★新星ヘスス・カストロ Jesús Castro1993年カディスのベへール・デ・ラ・フロンテラ生れの21歳、俳優。父親はカフェテリアを経営している。母親はヒターノ出身、弟と妹がいる。スカウト前はカディスの中央部に位置するラ・ハンダ La Janda の高等学校 Ciclo Formativo de Grado Medio で電子工学を学んでいた。ESO(中等義務教育1216歳)資格がないと入れない。同時にディスコで働き、父親のカフェテリアでチューロを作って家族の経済を支えていたという孝行息子です。

 


モンソンによると、なかなか主役が見つからずカディスの中学校、高等学校、ジムなどを駆けめぐって探したという。そんなとき1枚の写真に出会い、鋭い視線、その背後に覗く胡散臭さ、それは並はずれていたという。それがヘスス・カストロ、やあ、運命を感じます。それからランチの運転、水上バイクの運転、アクション・シーンの演技指導とシゴキが始まったということです。「彼のように現れるだけで部屋を照らすような俳優はそうザラにはいない」とモンソン。他にサンセバスチャン映画祭2014オフィシャル・セレクション正式出品のアルベルト・ロドリゲスのスリラー“La isla mínima”に出演している(コチラ⇒916)。上映前なのでここらへんで。

 

★ラテンビート2014新宿バルト9上映日時(101113301218302回上映)

ラテンビート2014*ラインナップ ①2014年09月17日 14:03

★今年は17本、日本映画とアレックス・デ・ラ・イグレシアの旧作『ビースト 獣の日』を除いた15本を順不同にアップしていきます。既に本ブログに登場した作品を列挙しますと:

 

1解放者ボリバルLibertador アルベルト・アルベロ監督 2013 ベネズエラ≂スペイン 119

トロント国際映画祭2013 「ガラ・プレゼンテーション」 部門上映作品。監督以下のスタッフ、キャスト陣も紹介しております。昨年のラテンビート上映を期待してアップしたもの、1年待たされました。 2013916 


2グエロス Gueros アロンソ・ルイス・パラシオス監督 2014 メキシコ 106

サンセバスチャン国際映画祭2014 「ホライズンズ・ラティノ」部門上映のコメディ作品。

 ⇒201499 


3殺せ Matar a un hombre アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラス監督 2014 

チリ≂フランス 82

サンセバスチャン国際映画祭2014 「ホライズンズ・ラティノ」部門上映作品。
 ⇒
201499
 


4Living Is Easy with Eyes Closed / Vivir es fácil con los ojos cerrados ダビ・トゥルエバ監督 2013 スペイン 105

ゴヤ賞2014の作品・監督・脚本・主演男優・新人女優・オリジナル作曲賞と主要6冠を独占した本映画祭の目玉。ただし新宿会場では上映されず梅田から、関東近辺の方は横浜会場で。飛び飛びに書きちらしているので再構成したものをシンガリにアップいたします。メインは作品並びに監督・キャスト陣の紹介をした130です。 2014121 / 130 / 26 / 213

 


5スガラムルディの魔女 Las brujas de Zugarramurdi アレックス・デ・ラ・イグレシア監督 2013 スペイン 114分 

ゴヤ賞ではノミネーションが主要賞から外れて大いに不満でしたが、公開確実と予想しました。映倫区分R-15で公開が決定、公式サイトも立ちあがっております。

113日は助演女優賞受賞のテレレ・パベスの紹介、同15日は監督と編集賞受賞のパブロ・ブランコを紹介しております。  2014113 / 115 / 213

 


6トガリネズミの巣穴 Musarañas エステバン・ロエル&フアン・フェルナンド(フアンフェル)・アンドレス共同監督 2014 スペイン 95

*トロント国際映画祭2014「バンガード」部門上映作品、二人の監督とも本作でデビュー、アレックス・デ・ラ・イグレシアがエグゼクティブ・プロデューサーということで話題になっているホラー・スリラー。 2014813

 


7メッシ Messi アレックス・デ・ラ・イグレシア監督 2014 スペイン≂アルゼンチン 93

サッカーボールを一度も蹴ったことがないというサッカー・オンチの監督が撮ったドキュメンタリーだが、マルク・バラゲルがメッシを演じた再現ドラマを含んでいる。ワールドカップ2014に合わせてブラジルで72日公開された。 201473 



印は簡単紹介なので書き加えるかもしれません。

 

★次回からは、話題作、個人的に見たい映画をご紹介していきます。ダニエル・モンソンの5年ぶりの新作『エル・二ーニョ』がエントリーされたのにはビックリ、スペインでも公開されたばかりで、話題沸騰です。ルイス・トサールの<マラマードレ>にしびれた方、エル・ニーニョに扮するイケメン新人ヘスス・カストロのアクションも大掛かりです。


ダビ・トゥルエバ”Vivir es facil con los ojos cerrados”*ゴヤ賞2014ノミネーション2014年01月30日 23:13

★作品賞にノミネートされている5作品のうち未紹介アラカルト(3

 


Vivir es fácil con los ojos cerradosLiving is Easy With Eyes Closed”)

製作:フェルナンド・トゥルエバ P.C. S.A.
(クリスティナ・ウエテ フェルナンデス=マキエイラ)
作品賞ノミネート

監督・脚本:ダビ・トゥルエバ 監督賞・オリジナル脚本賞ノミネート

撮影:ダニエル・ビラル

音楽:パット・メセニー オリジナル作曲賞ノミネート

他のゴヤ賞ノミネート、主演男優賞(ハビエル・カマラ)、新人女優賞(ナタリア・デ・モリーナ)、衣装デザイン賞(ララ・ウエテ)の合計7部門ノミネート、ウエテ姉妹が揃ってノミネートされています。

 

キャスト:ハビエル・カマラ(アントニオ)、ナタリア・デ・モリーナ(ベレン)、フランセスク・コロメール(フアンホ)、ホルヘ・サンス(フアンホ父)、アリアドナ・ヒル(フアンホ母)、ロヘリオ・フェルナンデス(ブルーノ)、ラモン・フォントセレ(ラモン)他

ザ・ビートルズのジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、ポール・マッカートニーの映像も登場する。

 

データ:スペイン・スペイン語 2013 コメディ 108分 
撮影地アルメリア県(アンダルシア州)
 1031日公開

サンセバスチャン映画祭2013コンペティション正式出品。

パーム・スプリングス映画祭2014「ラテン映画賞」受賞。カリフォルニア州のパーム・スプリングス市で1月に開催される国際映画祭。アマ・エスカランテの『エリ』と賞を分かち合いました。

 

プロット1966年、ジョン・レノンが映画撮影のためアルメリアにやって来る。ビートルズの歌を教材に英語を教えていた高校教師のアントニオは、彼のヒーローに会おうと決心、休暇をとって旅に出る。道中家出してきた16歳フアンホと、何かから逃げてきた若い娘ベレンが仲間に加わり、1966年のアルメリアは3人にとって生涯忘れられない季節になる。

 


ダビ・トゥルエバ David Rodriguez Trueba 1969年マドリード生れ、監督・脚本家・作家・俳優・ジャーナリスト。トゥルエバ8人兄弟の末っ子、『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』(ラテンビート2013上映)で初来日したオスカー賞監督フェルナンド・トゥルエバは実兄。母親に甘やかされて7歳まで学校に行かなかった話は有名。父親はタイプライターの訪問販売業を営み、そのタイプライターで幼少時から物を書いていたという早熟な子供だった。マドリード・コンプルテンセ大学ジャーナリズム情報科学科卒業。1992年米国に渡り「アメリカン・フィルム・インスティチュート」脚本科に入学。

(写真はトゥルエバ監督、ロケ地アルメリアの海岸にて)

 

ゴヤ賞トレビア:テレビ映画Felicidades, Alberti1991)の脚本家として出発、長編映画La buena vida1996)がデビュー作、ゴヤ賞1997新人監督賞・脚本賞にノミネートされた他、カルロヴィー・ヴァリー映画祭特別審査員賞、トゥリア賞(第1作に与えられる賞)を受賞した。2003年の話題作Soldados de Salaminaは、ハビエル・セルカスの同名小説の映画化、オスカー賞スペイン代表作に選ばれるも最終候補に残れなかった。またコペンハーゲン映画祭脚本賞、トゥリア賞(スペイン映画部門)を受賞したが、ゴヤ賞はノミネートに終わっている。大学在学中に脚本を書き始め、エミリオ・マルティネス・ラサロに認められ、後に彼の『我が生涯最悪の年』(1994の脚本を書き、ゴヤ賞1995脚本賞にノミネートされている。これまた受賞に至らずゴヤは「道険し」の感がありますね。

Los peores anos de nuestra vida日本スペイン協会創立40周年記念を祝して開催された「スペイン映画祭1997」で上映されたときの邦題。フアンホの両親役に扮するホルヘ・サンスとアリアドナ・ヒルが恋人役で出演している。ヒルはトゥルエバ監督と結婚していたが別れたようだ。

 

★ビートルズ・ファンなら題名を見て、ジョン・レノンの「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」(1967)から取られたことが分かるでしょう。ビートルズ映画を撮った監督リチャード・レスターの『ジョン・レノンの僕の戦争』撮影のため、レノンは実際にアルメリアに滞在していた。しかしこれはレノンの伝記映画ではない。1960年代スペインの、ちっとも言うことを聞かない生徒にうんざりした英語教師と出奔女性と家出少年三人の物語だ。時代は1966年と監督の生れる前のスペイン、民主主義の足音も遥か彼方、スペインは灰色に沈んでいた。アルメリアの人々は農業と漁業に従事して生活は貧しく、自由に憧れる若者にとってビートルズはまさにヒーロー、希望の星でもあった。

原題How I Won the War1967イギリス、パトリック・ライアンの同名小説の映画化。未公開だったがビデオが発売されたときに付けられた邦題(廃盤)。戦争の愚かさをブラック・ユーモアで笑い飛ばした映画で、本作のメタファーにもなっている。

 

 

 
        (写真左からフランセスク・コロメール、ハビエル・カマラ、ナタリア・デ・モリーナ)

 

★英語教師アントニオにはモデルがいる。監督によれば、ずっと以前のことだがアドルフォ・イグレシアスという記者が書いた「カルタヘナの英語教師」という記事を目にした。フアン・カリオンという美声の英語教師がビートルズの歌を使って英語を教えている。そしてジョン・レノンが映画撮影のためアルメリアにやって来るというので会いに出掛けた、という記事だ。そこに先輩監督フアン・アントニオ・バルデムがフランコ没後の第1作として撮ったコメディEl puente1977、仮題「夏季休暇」)がひらめいた。主役のアルフレッド・ランダが夏季休暇を利用してバイクでマドリードからトレモリーノスへ旅をする話で、一種のロードムービー。そこでトゥルエバはカルタヘナ(ムルシア州)をアルバセテ(カスティリャ=ラマンチャ州)に変更してオリジナル脚本を書いたというわけです。

直訳だと「橋」ですが、休日に挟まれた平日に「橋」をかけて連休にする意味もあり、ここでは「夏季休暇」にした。読みかじりですが本作にもモデルがいたようです。横道になりますが、モスクワ映画祭グランプリ受賞作品、主役のアルフレッド・ランダが一躍注目を集め、この成功はマリオ・カムスの『無垢なる聖者』(1984)、ホセ・ルイス・クエルダの『にぎやかな森』(1987)へと繋がっていく。

 

★舞台となるアルメリア(県都)もかれこれ40年も経てば様変わりしていて、60年代を再現するのは難しかった。ここには2日間しかいなかった。ロケ地探しには苦労したようで、アルメリア県内の内陸部のタベルナス、ロダルキラル、地中海沿いのカボ・デ・ガタなどで撮影は行われた。

 


★新人女優賞にノミネートのナタリア・デ・モリー Natalía de molina は、アンダルシアの観光地ハエン近郊のリナレス生れ、グラナダで育った(正確な生年がIMDbでもアップされていないが、201311月に受けたインタビューで23歳と答えているので1990年ごろか)。俳優・歌手・バレエダンサー(短編で共演しているセリナ・デ・モリーナとは姉妹)。マラガ高等演劇芸術学校で2年間ミュージカルの基礎を学んだ後、マドリードに出て、演劇学校ガレージ・リュミエールGaraje Lumiere やスタジオ・コラッサEstudio Corazzaで演技を学ぶ。長編第1作でゴヤ新人女優賞にノミネートされた。インタビュアーから「スター誕生ですね」と言われて、「そうなれば嬉しい」と答えている。今年の新人女優賞は激戦だからどうでしょうか。

本作では独身で妊娠してしまった21歳のマラゲーニャ役、アンダルシア訛りが出来ることが出演の幸運を呼び込んだ。写真でも分かるようにナタリー・ポートマンに似ているが、よく言われるとのこと。彼女も踊れて演技できるから「とても光栄に思っている」由。

 


★フアンホ役のフランセスク・コロメールは、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』の少年アンドレウで既に新人男優賞をゲットしています。3年ですっかり若者になりましたが、あの独特の目ですぐ分かります。今回はカツラなしで登場のハビエル・カマラはご紹介するまでもないですね。