『殺せ』 チリ映画 *ラテンビート2014 ⑦2014年10月08日 13:46

★チリから届いた何ともはや凄いタイトルの映画、年明け早々開催されるサンダンス映画祭でお披露目したら、ワールドシネマ部門で審査員賞を受賞してしまった。そして始まった国際舞台での快進撃、アメリカで評判になると強いということを印象づけた。肝心のチリではこれから始まる「バルディビア国際映画祭」でやっと1010日に上映される。監督によれば、実際に起こった事件に着想を得て撮られたそうです。東京国際映画祭TIFFは、同じチリでもクリスチャン・ヒメネスのヒューマンドラマ『ヴォイス・オーヴァー』、共に「クール世代」と言われる若い監督の長編第3作目です。 


   『殺せ』Matar a un hombreTo Kill a Man

 

製作Arizona Films / El Remanso Cine

監督・脚本・編集:アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラス

音楽:パブロ・ベルガラ

撮影:インティ・ブリオネス

音響:パブロ・ピノチェト

編集:ソレダ・サルファテ

製作者Guillaume de Seille / エドゥアルド・ビジャロボス

 

データ:チリ≂仏、スペイン語、201482分、スリラー・ドラマ、

撮影地:トメTomé(首都サンティアゴ南西約340キロにあるビオビオ州の港湾都市)

受賞歴:サンダンス映画祭2014「ワールドシネマ」ドラマ部門で審査員大賞受賞

    ロッテルダム映画祭2014 KNF賞受賞、ビッグスクリーン賞ノミネート

    カルタヘナ・デ・インディアス映画祭2014最優秀監督賞・国際批評家連盟賞受賞

マイアミ映画祭2014フューチャー・シネマ批評家賞受賞

    フライブルク映画祭2014ドン・キホーテ賞受賞・特別審査員賞受賞

他ノミネート多数、フランス、メキシコ(グアダラハラ)、イギリス、デンマーク、ハンガリー、ポーランド、カナダなど国際映画祭上映多数。ドイツDVD発売、公開はフランス(101日)だけのようです。チリ公開未定。

 

キャスト:ダニエル・カンディア(ホルヘ)、ダニエル・アンティビロ(カルレ)、アレハンドラ・ヤニェス(ホルヘ妻マルタ)、アリエル・マテルナ(息子ホルヒート)、ジェニファー・サラス(娘ニコル)、パウラ・レオンシニ(フィスカル)他

 

解説:森林公園で働くホルヘは、近所に住むチンピラから絡まれても抵抗できない気弱な男。ある晩、息子がチンピラのボス、カルレに撃たれ重傷を負う。ホルヘと妻は法に訴えるが、カルレはすぐに釈放されてしまう。まもなくカルレたちの執拗な嫌がらせがエスカレートし・・。家族を守るすべのない父の苛立ちや失望、そして復讐を描いたドラマ。2014年サンダンス映画祭ワールドシネマ部門で審査員賞受賞。              (ラテンビート公式サイトからの引用)

 

★監督・フィルモグラフィー紹介

*アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスAlejandro Fernández Almendras:監督、脚本家。チリ大学前期課程修了後、ニューヨークでジャーナリストや映画批評の仕事をしながら映画を学んだ。2001年から短編を撮り始め、長編デビューは2009年の“Huacho”がカンヌ映画祭「批評家週間」ゴールデンカメラ賞にノミネートされるなどした。



*主な短編

2006 Desde lejos

2007 Lo que trae la lluvia イベロアメリカ短編コンペティション2007(最優秀ラテンアメリカ短編賞)、ベルリン映画祭短編部門にノミネート、ロッテルダム映画祭2007に上映された。

*全長編

2009 Huacho サンダンス映画祭2008 NHK賞受賞/カンヌ映画祭2009「批評家週間」ゴールデン・カメラ賞ノミネート/ハバナ映画祭2009 初監督サンゴ賞受賞 他

2011 Sentados frente al fuego(チリ≂独)サンセバスチャン映画祭2011「ニューディレクター」部門出品/バルディビア国際映画祭2011出品(チリ)/第27回グアダラハラ映画祭マーケット部門出品/ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ映画祭2012出品/サンフランシスコ映画祭2012出品他。チリ公開は2013年。

2014 Matar a un hombre 前記の通り省略 

                       (本作と関係の深い第2作目のポスター)

 

復讐:ホルヘは妻と二人の子どもと質素に暮らしている。森林公園の収入はかろうじて家族の生活を満たしている。ある晩、仕事からの帰宅途中チンピラのカルレたちに襲撃される。ここいら近辺ではよく知られたワルだ。ホルヘの息子は僅かでも盗られたものを取り戻そうとカルレと対決しようと決心するが、却って返り討ちにあって九死に一生を得る。カルレはたった2年の禁固刑を受けただけである。カルレは収監中ホルヘ一家全員の復讐を誓って出所してくる。そして執拗な嫌がらせが間断なく始まることになる。警察も司法も一家を守らなかったとしたら、ホルヘの取るべき道は、みずからの手で正義の鉄槌を下すしかない。

 

★監督によれば、これはチリで実際に起きた事件に着想を得て製作されたという。「ある時期テレビ漬けの日々を過ごしていたのだが、あるルポルタージュ番組、近所の不良少年を殺害した父親の話です。レポーターが刑務所に出向いて本人にインタビューする番組です。『あなたの家族はとても危険な状態にあったから、殺害したわけです。しかし時は戻せませんが、もし戻すことができたら、あなたは同じことをしますか』と最後に尋ねると、きっぱり『ノー、やりません』と答えた。それでああ、これは映画にできると考えたんです」。つまり復讐だけの物語なら掃いて捨てるほどありますよね。無法者が大手を振るう西部劇なんかその典型です。だから、この映画の真のテーマは後半部分にあるんだということです。

 


悔恨:人が人を殺すことの重み、誰かの人生をおしまいにすることの正当性が存在するのか否か、というテーマでしょうね。実際の父親には会わなかったそうです。主人公に感情移入できるレベルに達するまで考えつづけ、理解するまでかなり時間が掛かったという。誰も味方になってくれないという疎外感が父親を追い詰めていく。殺害は納得できることなのか。しかし殺害を成し遂げた瞬間に感じるのは、達成感ではなく悔恨だったのかもしれない。

 

★手動カメラと固定カメラの使用、アップとロングショット、空、森、太陽の光線、光と闇、いつもタッグを組む撮影監督インティ・ブリオネスの映像はスクリーンで必見か。ハリウッド映画のように目眩を起こさせるようなスピード感はないが、良質のサスペンスに仕上がっているのではないか。既にゴヤ賞2015イベロアメリカ部門とオスカー賞外国語映画部門のチリ代表作品という噂も聞こえてきました。長編前2作との関連が強い印象を受けますが、スクリーン鑑賞後に触れたいと考えています。 


ラテンビート2014(東京新宿バルト9上映日時:10111100~の1回)