『グエロス』 メキシコ映画 *ラテンビート2014 ⑥ ― 2014年10月03日 13:18
『グエロス』のルイスパラシオスはベルリン映画祭で監督デビュー
★『グエロス』が、サンセバスチャン国際映画祭SIFF「ホライズンズ・ラティノ」部門のベスト・フィルム賞に受賞しました。サンセバスチャンのグランプリ作品が、同じ年に日本の映画祭で見られるのは珍しいから、急いで紹介いたします。メキシコ映画は、ディエゴ・ルナの『セザール・チャベス』と本作の2本。今年のモントリオール映画祭のスペイン語映画は、メキシコに集中していると書いたばかりですが、『グエロス』は2月開催のベルリン映画祭「パノラマ」部門で上映、初監督作品賞を受賞しています。若い監督がモノクロで撮ったということで前から気になっていた作品。モントリオールを避けてサンセバスチャンにエントリーした。最初「オフィシャル・セレクション」が考慮されたというから、「ホライズンズ・ラティノ」部門の目玉だったのかもしれない。ラテンビートの解説に「ロード・ムービー」とありますが、メキシコ・シティから一歩も出ない。ジャンルはコメディとあるけれど、本当にコメディなの。
*なお監督名は映画クレジット表記やスペイン語圏での使用を考えて、アロンソ・ルイスパラシオスに統一します(LB公式サイト、英語圏はルイス・パラシオス)。

*グエロスGüeros*
製作:Catatonia
Films / Conaculta / Difusion Cultural UNAM
監督:アロンソ・ルイスパラシオス
脚本:アロンソ・ルイスパラシオス/ヒブランGibran・ポルテラ
撮影:ダミアン・ガルシア
音楽:トマス・バレイロ
編集:イブラン・アスアド/アナ・ガルシア
データ:メキシコ、スペイン語、2014、コメディ、モノクロ、106分
*ベルリンは大きく分けると「コンペティション→パノラマ→フォーラム→ゼネレーション」と4部門あり、第2番目のパノラマ出品でした。国際審査員によって選出される金熊・銀熊賞はコンペ作品に与えられる賞。ルイスパラシオス監督が受賞したパノラマは、この部門専任の審査員によって選出される。
*サンセバスチャンのベスト・フィルム賞は、副賞として35,000ユーロが授与される。
*ユース賞は18歳から25歳までの人の投票で決まる一種の観客賞です。
*他に、カルロヴィ・ヴァリ(チェコ)、リオデジャネイロ(ブラジル)などの国際映画祭に出品され、間もなく始まるロンドン映画祭出品が予定されている。最近頓に存在感を増してきているモレリア映画祭(メキシコ)への出品を製作者ラミロ・ルイスは希望しているようです。やはりメキシコ人に見てもらいたいということです。メキシコ公開は来年初めになる予定。

(監督と製作者ラミロ・ルイス)
キャスト:テノッチ・ウエルタ(エル・ソンブラ/ フェデ兄)、セバスティアン・アギーレ(トマス弟)、レオナルド・オルティスグリス(サントス)、イルセ・サラス(アナ)、ラウル・ブリオネス(フリア)、ラウラ・アルメラ(イサベル)、アドリアン・ラドロン(モコ)、カミラ・ロラ(アウロラ)、アルフォンソ・チャルペネル(エピグメニオ・クルス)、他
解説:大学のストライキ中、学生のソンブラとサントスは、メキシコシティーの古アパートで怠惰な日々を送っていた。ある日、ソンブラの弟トマスが部屋に転がり込んできた。3人はトマスが憧れる伝説のミュージシャンが、今や病床に伏していると知り、彼を探しに向かうが・・。学生運動で荒れる大学構内や危険なスラム街などをリアルなモノクロ映像で描き出すロード・ムービー。2014年ベルリン国際映画祭で初監督作品賞受賞。ガエル・ガルシア・ベルナルが製作に関わっている。 (ラテンビート2014公式サイトより引用)

*監督キャリア・フィルモグラフィー紹介*
*アロンソ・ルイスパラシオス Alonso Ruizpalacios:メキシコ生れ、監督、脚本家、製作者、俳優。本作の舞台背景でもあるメキシコ自治大学UNAMの学生ストライキ(1999~2000)時に在籍していたとすれば1970年末期の生れか。アソシエイト・プロデューサーのG.G.ベルナル(1978生れ)と同じ世代ではないか。カロリーナ財団の奨学生だったようで、2011年に本財団の基金を受けて本作は製作されている。この財団はスペインとイベロアメリカ諸国との連携を旨として2000年に設立され、大学の学部卒業の資格が必要な大学院大学のようです。本作は長編デビュー作ですが、既にTVシリーズ、短編を多数手掛けている。
*短編受賞作は以下の通り:
◎2008 Café paraiso グアダラハラ・メキシコ映画祭2008メキシコ短編部門でMayahuel賞/アリエル賞2009最優秀短編賞(銀賞)受賞
◎2010 El último canto del pájaro cú アリエル賞2011最優秀短編賞(銀賞)受賞

★ソンブラとサントスは、長引く学生ストライキの煽りをくって所在なくぼんやり暮らしている。支払いが滞ってアパートの電気は切られている。そんな折も折、ソンブラの弟トマスがママから「あんたとはもう一緒に暮らせないから」と言われて追い出されてくる。「何とかしなくちゃ」とソンブラとサントス、トマスが「パパがよく聴いていた伝説のミュージシャン、エピグメニオ・クルスが死の床にいるというから会いに行こう」と言う。ボブ・ディランを感激させたメキシカン・ロックの救世主なんだという、今じゃみんな忘れてしまって知らないけど。こうして若者3人のエピグメニオ探しの旅が始まる。

(左から、ソンブラ、アナ、トマス、サントス)
★メキシコ・シティは雑多な人々が暮らす大都会、「北への移民だけがテーマじゃない」と監督。「するべきことが何もないという恐怖が出発点にあり、悲惨だけのメキシコではなくもう一つのメキシコに近づいて欲しい」と。このデビュー作は「時代背景として1年間続いたUNAMの学生ストライキがある。賛成でも反対でもないことが起きてそれに巻き込まれてしまう。そのときに感じた<何もするべきことがない>という恐怖が根底にあり、学生は<早まった退職者シンドローム>と呼ばれたんです」とも。
★本作のアイデアは、ボブ・ディランのファンだという監督によると、「ミュージシャン探しの物語はボブ・ディラン自身の体験からヒントを得ました。彼が初めてニューヨークに行ったとき、ブルックリンの病院で死の床にあったというウディ・ガスリーという有名なフォーク・シンガーに会いに行ったという物語です」。ボブに多大な影響を与えたというフォーク歌手のことで、これがミュージシャン探しのアイデアの元になったということです(ウディ・ガスリー<1912~67>についてはウィキペディアに詳しい)。

(フォーク歌手、作詞作曲家、作家 ウディ・ガスリー)
★ロード・ムービーにしたのは、「メキシコ・シティは巨大都市だから深く知ることは難しい。だからロード・ムービーにして撮る価値があると常に考えていた。モノクロにしたのは、「クリエイティブな距離感をとりたかったし、ストライキに時間的位置づけをしたくなかった。モノクロで街を見始めると新しい別の顔が現れてきたんです。メキシコは色の溢れた都会だから常にネガの状態で見るようにした」。
★本作のキイワードは、「『ダック・シーズン』+『25
watts』+ヌーベルヴァーグ」だそうで、2作ともモノクロ+デビュー作です。『ダック・シーズン』(2004)は同じメキシコの監督フェルナンド・エインビッケのデビュー作、アリエル賞11部門に輝き、2006年公開された。「25 watts」(2001)はウルグアイのパブロ・ストールとフアン・パブロ・レベージャが共同監督したコメディ、ロッテルダム映画祭作品賞を受賞した。二人は2004年にカンヌ映画祭「ある視点」部門に『ウィスキー』を出品し、国際批評家連盟賞受賞、東京国際映画祭でもグランプリを受賞した。2年後フアン・パブロ・レベージャは鬼籍入りしてファンを驚かせた。彼らへのオマージュがあるかもしれない。ヌーベルヴァーグは、今月が没後30年ということで特集が組まれているトリュフォーではなく、ゴダールということです。

(「偏見のない大冒険家だった」祖母への感謝のスピーチをした監督、SIFF 授賞式)
★トライベッカ映画祭2014 最優秀撮影賞を受賞したダミアン・ガルシアの映像は洗練されていて、予告編からも想像できるようにスクリーンで見たら面白いと思います。他に監督とコラボした短編がYoutubeで見ることができます。他の監督では、ルイス・エストラーダの“El infierno”(2010)を撮っており、かなりエネルギッシュに仕事をしている。これは未公開だが『メキシコ 地獄の抗争』の邦題でDVD化されています。
★キャスト陣は、トマス役のセバスティアン・アギーレだけ長編デビューだが(短編あり)、他の主役3人は、既に実績の俳優です。
東京国際映画祭2014*スペイン語映画 ― 2014年10月05日 16:41
★ラテンビートが終わると東京国際映画祭TIFFが始まる。見落としがなければコンペ1作、ワールド・フォーカス2作、合計3作と寂しい。昨年はアマ・エスカランテの『エリ』がラテンビートと被りましたが、今年はジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガの『Flowers / Loreak』が、こちらでは『フラワーズ』の邦題で共催上映されます。
★コンペティション部門
◎『ロス・ホンゴス』オスカル・ルイス・ナビア(コロンビア≂仏≂独≂アルゼンチン)
2014、103分

作品解説:スケボー少年と、その友人。グラフィティ・アートの趣味を共有するふたりは、大規模なゲリラ・ペインティング企画に参加するが…。若者文化のみならず、様々な世代の音楽、そして宗教や政治やジェンダーなど、多様な視点を自由に含み、コロンビアの今を伝えてくるユーモラスで風通しの良い青春映画。 (本映画祭公式サイトよりの引用)
*10月23日14:45~/25日17:55~/28日10:40~の3回上映
*カリ出身のルイス・ナビア監督の長編第2作、舞台もカリです。ロカルノ映画祭(スイス)特別審査員賞受賞など他多数受賞しており、TIFF3回上映は異例ではないかな。それだけの魅力を備えているということでしょう。監督の実父や大おばも出演、主役の若者二人ラスとカルビンはアマチュアの中から選ばれました。後日紹介記事をアップいたします。

★ワールド・フォーカス部門
◎『フラワーズ』ジョン・ガラーニョ/ホセ・マリ・ゴエナガ(スペイン)2014、
バスク語、99分
作品解説:差出人不明の花束が毎週届いて戸惑う人妻。建設現場の大型クレーンの操縦席から地上を観察する男…。様々な人間模様が巧みに交差し、練られた脚本と端正な映像が見事な感動をもたらす鮮やかなヒューマンドラマ。 (本映画祭公式サイトよりの引用)
*10月25日11:50~の1回上映
★ラテンビート2014作品紹介③ で紹介しています。⇒9月22日

◎『ヴォイス・オーヴァー』クリスチャン・ヒメネス(チリ≂仏≂カナダ)2014、96分
作品解説:30代の姉妹はそれぞれ問題を抱えているが、突然離婚を決意した父親に戸惑い、新たに家族と向き合うはめになる…。美しい地方都市を舞台に、4世代が同居する家族が転機を迎える様を、丁寧で繊細なタッチで描いていく秀作。 (本映画祭公式サイトよりの引用)
*10月25日20:30~/27日20:10~の2回上映

★サンセバスチャン映画祭2014 ③「オフィシャル・セレクション」で紹介しています。
⇒9月16日
*ストーリー、監督、キャストなどを簡単に紹介しています。ヒメネス監督の第3作目、彼の作品はデビュー作『見まちがう人たち』、第2作『盆栽』とすべて本映画祭で上映されるという幸運に恵まれています。プログラミング・ディレクター氏の好みでしょうかね。2回ともQ&Aに出席、地球の反対側から来日しています。

(主演ソフィア役のイングリッド・イセンセ)
『殺せ』 チリ映画 *ラテンビート2014 ⑦ ― 2014年10月08日 13:46
★チリから届いた何ともはや凄いタイトルの映画、年明け早々開催されるサンダンス映画祭でお披露目したら、ワールドシネマ部門で審査員賞を受賞してしまった。そして始まった国際舞台での快進撃、アメリカで評判になると強いということを印象づけた。肝心のチリではこれから始まる「バルディビア国際映画祭」でやっと10月10日に上映される。監督によれば、実際に起こった事件に着想を得て撮られたそうです。東京国際映画祭TIFFは、同じチリでもクリスチャン・ヒメネスのヒューマンドラマ『ヴォイス・オーヴァー』、共に「クール世代」と言われる若い監督の長編第3作目です。

*『殺せ』Matar a un hombre(To Kill a Man)*
製作:Arizona
Films / El Remanso Cine
監督・脚本・編集:アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラス
音楽:パブロ・ベルガラ
撮影:インティ・ブリオネス
音響:パブロ・ピノチェト
編集:ソレダ・サルファテ
製作者:Guillaume
de Seille / エドゥアルド・ビジャロボス
データ:チリ≂仏、スペイン語、2014、82分、スリラー・ドラマ、
撮影地:トメTomé(首都サンティアゴ南西約340キロにあるビオビオ州の港湾都市)
受賞歴:サンダンス映画祭2014「ワールドシネマ」ドラマ部門で審査員大賞受賞
ロッテルダム映画祭2014 KNF賞受賞、ビッグスクリーン賞ノミネート
カルタヘナ・デ・インディアス映画祭2014最優秀監督賞・国際批評家連盟賞受賞
マイアミ映画祭2014フューチャー・シネマ批評家賞受賞
フライブルク映画祭2014ドン・キホーテ賞受賞・特別審査員賞受賞
*他ノミネート多数、フランス、メキシコ(グアダラハラ)、イギリス、デンマーク、ハンガリー、ポーランド、カナダなど国際映画祭上映多数。ドイツDVD発売、公開はフランス(10月1日)だけのようです。チリ公開未定。
キャスト:ダニエル・カンディア(ホルヘ)、ダニエル・アンティビロ(カルレ)、アレハンドラ・ヤニェス(ホルヘ妻マルタ)、アリエル・マテルナ(息子ホルヒート)、ジェニファー・サラス(娘ニコル)、パウラ・レオンシニ(フィスカル)他
解説:森林公園で働くホルヘは、近所に住むチンピラから絡まれても抵抗できない気弱な男。ある晩、息子がチンピラのボス、カルレに撃たれ重傷を負う。ホルヘと妻は法に訴えるが、カルレはすぐに釈放されてしまう。まもなくカルレたちの執拗な嫌がらせがエスカレートし・・。家族を守るすべのない父の苛立ちや失望、そして復讐を描いたドラマ。2014年サンダンス映画祭ワールドシネマ部門で審査員賞受賞。 (ラテンビート公式サイトからの引用)
★監督・フィルモグラフィー紹介
*アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスAlejandro Fernández Almendras:監督、脚本家。チリ大学前期課程修了後、ニューヨークでジャーナリストや映画批評の仕事をしながら映画を学んだ。2001年から短編を撮り始め、長編デビューは2009年の“Huacho”がカンヌ映画祭「批評家週間」ゴールデンカメラ賞にノミネートされるなどした。

*主な短編
◎2006 Desde lejos
◎2007 Lo
que trae la lluvia イベロアメリカ短編コンペティション2007(最優秀ラテンアメリカ短編賞)、ベルリン映画祭短編部門にノミネート、ロッテルダム映画祭2007に上映された。
*全長編
◎2009
Huacho サンダンス映画祭2008 NHK賞受賞/カンヌ映画祭2009「批評家週間」ゴールデン・カメラ賞ノミネート/ハバナ映画祭2009 初監督サンゴ賞受賞 他
◎2011
Sentados frente al fuego(チリ≂独)サンセバスチャン映画祭2011「ニューディレクター」部門出品/バルディビア国際映画祭2011出品(チリ)/第27回グアダラハラ映画祭マーケット部門出品/ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ映画祭2012出品/サンフランシスコ映画祭2012出品他。チリ公開は2013年。
◎2014 Matar a un hombre 前記の通り省略

(本作と関係の深い第2作目のポスター)
★復讐:ホルヘは妻と二人の子どもと質素に暮らしている。森林公園の収入はかろうじて家族の生活を満たしている。ある晩、仕事からの帰宅途中チンピラのカルレたちに襲撃される。ここいら近辺ではよく知られたワルだ。ホルヘの息子は僅かでも盗られたものを取り戻そうとカルレと対決しようと決心するが、却って返り討ちにあって九死に一生を得る。カルレはたった2年の禁固刑を受けただけである。カルレは収監中ホルヘ一家全員の復讐を誓って出所してくる。そして執拗な嫌がらせが間断なく始まることになる。警察も司法も一家を守らなかったとしたら、ホルヘの取るべき道は、みずからの手で正義の鉄槌を下すしかない。
★監督によれば、これはチリで実際に起きた事件に着想を得て製作されたという。「ある時期テレビ漬けの日々を過ごしていたのだが、あるルポルタージュ番組、近所の不良少年を殺害した父親の話です。レポーターが刑務所に出向いて本人にインタビューする番組です。『あなたの家族はとても危険な状態にあったから、殺害したわけです。しかし時は戻せませんが、もし戻すことができたら、あなたは同じことをしますか』と最後に尋ねると、きっぱり『ノー、やりません』と答えた。それでああ、これは映画にできると考えたんです」。つまり復讐だけの物語なら掃いて捨てるほどありますよね。無法者が大手を振るう西部劇なんかその典型です。だから、この映画の真のテーマは後半部分にあるんだということです。

★悔恨:人が人を殺すことの重み、誰かの人生をおしまいにすることの正当性が存在するのか否か、というテーマでしょうね。実際の父親には会わなかったそうです。主人公に感情移入できるレベルに達するまで考えつづけ、理解するまでかなり時間が掛かったという。誰も味方になってくれないという疎外感が父親を追い詰めていく。殺害は納得できることなのか。しかし殺害を成し遂げた瞬間に感じるのは、達成感ではなく悔恨だったのかもしれない。
★手動カメラと固定カメラの使用、アップとロングショット、空、森、太陽の光線、光と闇、いつもタッグを組む撮影監督インティ・ブリオネスの映像はスクリーンで必見か。ハリウッド映画のように目眩を起こさせるようなスピード感はないが、良質のサスペンスに仕上がっているのではないか。既にゴヤ賞2015イベロアメリカ部門とオスカー賞外国語映画部門のチリ代表作品という噂も聞こえてきました。長編前2作との関連が強い印象を受けますが、スクリーン鑑賞後に触れたいと考えています。

★ラテンビート2014(東京新宿バルト9上映日時:10月11日11:00~の1回)
アレックス・デ・ラ・イグレシア『スガラムルディの魔女』*ラテンビート2014 ⑧ ― 2014年10月12日 13:04
『スガラムルディの魔女』はホラー・コメディ
★トロント国際映画祭2013年「Midnight Madness部門」のピープルズ・チョイスの次点に選ばれた記事以来、ゴヤ賞2014ノミネーション予想記事&結果(⇒1月13日・15日、2月13日)、第1回イベロアメリカ・プラチナ賞ノミネーションと何回となく登場させました。劇場公開日時も決定、公式サイトもアップされたので割愛しようと考えていましたが、データ中心に纏めたくなりました。というのも鑑賞後「面白くなかったからチケット代返して!」と要求する観客はいないでしょうから。長編第11作目、ほぼ全作が公開かDVD化されるという人気監督、今回「アレックス・デ・ラ・イグレシア特集」が組まれ、結婚したばかりのカロリーナ・バング(エバ役)とハネムーンも兼ねて再来日した。

*スガラムルディの魔女 Las brujas de Zugarramurdi(Witching and Bitching)*
製作:Enrique Cerezo Producciones Cinematográficas
S.A. /
La Fermel Production, arte France Cinéma
監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア
脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア、アレックス・デ・ラ・イグレシア
撮影:キコ・デ・ラ・リカ
編集:パブロ・ブランコ
美術:アルトゥロ・ガルシア、ホセ・ルイス・アリサバラガ
音楽:ジョアン・バレント
音響:ニコラス・デ・ポウルピケ 他
衣装デザイン:フランシスコ・デルガド・ロペス
メイクアップ・ヘアー:マリア・ドロレス・ゴメス・カストロ 他
特殊効果:フアン・ラモン・モリナ、フェラン・ピケ
プロダクション・ディレクター:カルロス・ベルナセス
製作者:エンリケ・セレソ、ベラネ・フレディアニ、フランク・リビエレ
データ:スペイン=フランス、スペイン語、2013、コメディ・ホラー、112分、映倫区分R15+
サンセバスチャン映画祭2013のコンペ外で上映(9月22日)後、スペイン公開9月27日。
キャスト:ウーゴ・シルバ(強盗ホセ・フェルナンデス・クエスタ)、マリオ・カサス(強盗トニー/アントニオ)、ハイメ・オルドーニェス(タクシー運転手マヌエル・サンチェス・ガルシア)、カルメン・マウラ(人食い魔女リーダー/グラシアナ)、テレレ・パベス(グラシアナ母マリチェ)、カロリーナ・バング(グラシアナ娘エバ)、カルロス・アレセス(魔女コンチ)、サンティアゴ・セグラ(魔女ミレン)、セクン・デ・ラ・ロサ(警部ハイメ・パチェコ)、ペポン・ニエト(警部アルフォンソ・カルボ)、マカレナ・ゴメス(ホセの元妻シルビア)、ガブリエル・デルガド(ホセとシルビアの息子セルヒオ)、ハビエル・ボテ(ルイス・ミゲル/ルイスミ)、マリア・バランコ(魔女アンシアナ)、アレクサンドラ・ヒメネス(トニーの恋人ソニア)他

受賞歴:ゴヤ賞2014、:10部門ノミネート(助演女優賞・オリジナル作曲賞・撮影賞・編集賞・美術賞・プロダクション・ディレクター賞・衣装デザイン賞・メイクアップ・ヘアー賞・音響賞・特殊効果賞)され、オリジナル作曲賞・撮影賞を除いて8部門で受賞した。
◎寸評:過去には『みんなのしあわせ』(2000)や『気狂いピエロの決闘』(2010)などが主要な作品賞に絡んだ年もありましたが、本作は素通りしました。ゴヤ賞受賞の記事にも書いたことだが、10個のなかに監督賞・作品賞が含まれていない。10個もノミネートしながら指揮官たる船長が無視されるなんておかしい。彼自身のゴヤ賞は、『ビースト、獣の日』(1995)一作だけと聞いたら「まさかぁ」とビックリする人が多いのではないか。
*ブリュッセル・ファンタジー映画祭2014:金のワタリガラス賞・ペガサス観客賞受賞
*シネマ・ライターズ・サークル賞(西)2014:助演女優賞受賞テレレ・パベス
*ファンタスポルト2014:観客審査員賞・特殊効果賞受賞
*フェロス賞(西)2014:助演男優賞マリオ・カサス・助演女優賞受賞テレレ・パベス
*フォトグラマ・デ・プラタ賞2014:フォトグラマ・デ・プラタ賞受賞
◎他ノミネートは、多数で書ききれないから省略。
プロット:妻と別れたホセは、最愛の息子セルヒオにパリのデズニーランドに連れて行くと約束していた。女たらしのトニーは、女に惚れやすくその趣向の幅も広いのだ。二人の共通項と言えば、昨今のスペインじゃ珍しくもなくなった失業者。手っ取り早く経済的問題を解決するには何をしたらいい? それは貴金属店を襲うに決まってるでしょ。まんまと強盗に成功したにわか作りの強盗団、タクシーに飛び乗って一路フランスへ高跳びしようと一目散。ところが道に迷った一行を待ちうけていたのは、ナバラの小村スガラムルディの親子三代にわたる由緒ある魔女軍団、はたして軍杯はどちらの手に。 (文責管理人)

(母子三代の魔女軍団)

(左から、テレレ・パベス、カルメン・マウラ、カロリーナ・バング)
★デ・ラ・イグレシア作品にお馴染みの面々が登場、大物サンティアゴ・セグラ、アルモドバル作品にはもう出ないがアレックスのには出ると発言していたカルメン・マウラ、『気狂いピエロの決闘』の泣きピエロ役だったカルロス・アレセス、半世紀以上にわたる女優人生を歩むテレレ・パベスの怪演も見物です。シリーズ『REC』のニーニャ・メデイロス役の大当たりから『気狂いピエロの決闘』や『刺さった男』に起用されたハビエル・ボテ、『トガリネズミの巣穴』のマカレナ・ゴメス。かてて加えてマリア・ブランコ、ペポン・ニエト・・・など。
★そして、デ・ラ・イグレシア学校の新入生が主役を演じたウーゴ・シルバとマリオ・カサスのイケメン二人、これで「お茶の間OB」になれたでしょうか。もう一人の新入生が子役のガブリエル・デルガド、子供は親を選べません。悪い星の下に生れると魔女の生贄にされかねません。

(左から、ウーゴ・シルバ、マリオ・カサス)
★デビュー作『ハイルミュタンテ!』(1993)に出てくる粉屋の主人のセリフ「40年間、好きで粉屋の社長をやってたわけじゃない」に大笑いしてから20年、貴金属店強盗たちのコスプレ(キリストと兵士)を見れば、監督が一貫して拘ってきたテーマが見えてきます。大袈裟なドンチャン騒ぎ、これでもかと言わんばかりの型にハマった特殊効果など、すでに見たり聞いたりしたことがあるような感じを受けるかもしれませんが、そんな不満はゼイタクというものです。

(キリストと兵士)
★監督、主役女優の来日で急遽アップしましたが、第2弾として本日予定されている上映後のQ&Aを交えて感想を追加いたします。
続 『スガラムルディの魔女』 *ラテンビート2014 ⑨ ― 2014年10月18日 12:18
続『スガラムルディの魔女』― 少しトンマな男が作った悪賢い女性讃歌の映画です
★『スガラムルディの魔女』の第2弾を予告しておきながら、ラテンビートが終わったら気が抜けてしまいました。アレックス・デ・ラ・イグレシアが「バスク映画祭」に初来日したのが2001年ですから一昔前になります。今回は夏に再婚したばかりのカロリーナ・バングを伴っての再来日でした。Q&Aでは「この映画が二人に幸せをもたらしてくれた」と語っていましたが、出会いは御存じのように『気狂いピエロの決闘』(2010)で、先妻アマヤ・ディエスと離婚したのも同じ年でした(1997~2010)。ゴヤ賞2014の話題作で最初に公開されるのは本作と予想しましたが見事外れて、前作『刺さった男』と同日の11月22日に公開されます。因みに1番目はマヌエル・マルティン・クエンカのロマンティック・ホラー『カニバル』でした。ムシャムシャ人肉を食べるカニバルを期待した観客には概ね不評でした。バックボーンに流れるカトリックの知識がないと良さが分からない難しい映画でした。

(実在の魔女村、スガラムルディの洞窟)
A: Q&Aというより監督の独演会でしたね。もっともトークショーになることは想定内でしたが、制限時間を超えて制止されても・・・
B: まだ喋り足りないよ、という顔して残念そうに退場しました(笑)。
A: 上映前のベスト作品賞のコケシ授与などで時間を取られ、映画も114分とコメディにしてはかなり長めでした。アルモドバルが言うように、コメディは90分、少なくても100分以内ね。
B: そう、長すぎました。デ・ラ・イグレシア作品が初めての観客には展開が予測できなくてワクワクしますが、これは少し中だるみが気になりました。
A: トークと同じで少し遊びすぎ。彼特有のドンチャン騒ぎも騒々しさもこうテンコ盛りだと、前に観たことあるよね、聞いたことあるよね、ということになる。
B: 日本でも「お金と女は魔物」と言いますが、実体が分からないものは恐ろしくもあり妖しい魅力に富んでもいるということですね。悪賢い女たちに振り回されるトンマな男たちの映画ですと監督は解説していましたが。
A: 特別オンナが悪賢くオトコが間抜けというわけではなく、男から見ると女の考えていることは不可解だということで、歴史上の極悪人は大体男に相場が決まっています。タイトル・ロールに流れる実在した魔女連の顔ぶれも、政治家のエリザベス一世や鉄の女は別として、20世紀の魔女連の大方は愛すべき女性だったと思いますけど。
B: 列挙できませんね、公開前ですから。
スガラムルディは実在の魔女村です
A: スガラムルディは、フランスと国境を接するナバラ自治州、サン・フェルミンの牛追いで有名なパンプローナから北西83キロの位置にあり、その先はフランスという、現在では人口220人の過疎の村です。監督は100キロと言ってましたが、それだとフランスに着いてしまう。「スガラムルディの魔女」は、バスクといわず多分スペインの魔術史のなかで最も有名なケースです。
B: ロケはこのスガラムルディの洞窟で撮影されたとか、かなりの高さがありました。
A: アケラーレ(Akelarre / Aquelarres)の洞窟、または魔女の洞窟とも言うらしく、トンネルの長さ約100m、幅20m、高さは30mということですからビルの10階ぐらいに相当する。アケラーレの意味はバスク語で「雄ヤギの牧草地」で行われる魔女の集会を指す。そしてスガラムルディは、読みかじりですが、「大木にならない楡の木が沢山生えている」場所という意味らしい。
B: 魔女の集会というと黒い雄ヤギが描かれます。ゴヤの絵でも分かるように黒い雄ヤギは悪魔の代名詞です。

(「エル・アケラーレ」ゴヤ作、マドリードのラサロ・ガルディアノ美術館蔵)
B: 監督が挙げた数字と違いますね。記憶が曖昧ですが、魔女4000人のうち39名が告発され、実際に火刑になったのはたったの4名だけだから大した人数ではないと。
A: 17世紀初頭には何回か異端審問があったから年号が違うのかもしれない。いずれにしろ伝説ですから。8月14日から18日にかけてフィエスタ「聖母アスンシオン」が祝われ、多くの観光客が訪れるほか、洞窟自体も観光の目玉です。2007年、観光と文化プロモーションを兼ねた「魔女の博物館」が開館されて魔女の歴史が学べるそうです。名物料理はヒツジの焼肉、人肉は食べられません。村から5~6キロ離れたところにホテルやオスタルがあります。国際映画祭で有名なサンセバスチャンには、アケラーレ料理を出す有名レストランやホテルもありますから、ご興味のある方はどうぞ。
B: 監督が面白かった日本映画は「ゴジラ映画」(第1作は1954年)と言ってましたが。どの時期のゴジラ・シリーズを見たのでしょうか。
A: 双子の姉妹が出てくると言ってましたから、第4作『モスラ対ゴジラ』(1964)ではないかな。ザ・ピーナッツ(伊藤エミ&ユミ姉妹)が小美人に扮して歌った「モスラの歌」は大ヒットしたんでした。なんと半世紀前の映画ですね。あのサッカー王国でサッカーボールを一度も蹴ったことがないというコミック・オタクがアレックス少年でした。
楽しそうだったカルメン・マウラの貫禄
B: 魔女軍団のリーダーを演じたカルメン・マウラは本当に楽しそうでした。『みんなのしあわせ』や『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』のマウラが戻ってきたと思いました。
A: 本作が上映された2013年のサンセバスチャン映画祭の「栄誉賞」受賞者です。アルモドバルの『ボルベール 帰郷』では不本意だったのか、もう彼の映画には出ないと公言しましたが、あの映画はマウラが久方ぶりにアルモドバル映画に戻ってくるはずでしたが、表面的にはペネロペ映画になってしまいました。映画の根っこにはマウラの夫殺しが隠れており、無責任な女たらしの男への復讐劇でしたから、主役でもあったのでした。
B: でもデ・ラ・イグレシア映画には出たいと言ってました。彼女は『気狂いピエロの決闘』の製作段階では出演がアナウンスされていたのではありませんか。
A: 結局出演しなかったが、いまさら詮索しても意味がありませんね。しかし、こんな憎たらしい人食い魔女をやっても育ちの良さが隠せない。認知が始まっているらしい母親テレレ・パベスとも息があって見ごたえがありました。パベスは本作でゴヤ賞助演女優賞受賞を手にしました*。

(魔女軍団の統率者グラシアナ)
B: やっとゴヤの胸像を抱きしめることができました。ゴヤ賞受賞者のなかでもパベスの登壇は一番のハイライトでした。
A: ベテラン勢は俳優としてのピーク時にゴヤ賞が存在しなかったから、デビュー作で受賞する後輩たちを複雑な心境で眺めている。なかにはアカデミーとの不仲でゴヤ賞を無視する向きもありますけど。来日したカロリーナ・バングは1985年カナリア諸島サンタ・クルス・デ・テネリフェ生れの女優、製作者。ゴヤ賞は『気狂いピエロの決闘』で新人女優賞ノミネートだけ、TV出演も多く、ロベルト・ベリソラ監督のコメディ“Dos a la carta”(2014)が間もなくスペインで公開される。
B: 『トガリネズミの巣穴』には出演もし共同製作者でもあったのに、上映後のQ&Aでは紹介されたが登壇しなかった。
A: 主催者のミスじゃないですか。「この企画はカロリーナがもってきた」と新妻に花を持たせていたのにね。彼女に質問したい観客もいたのではと思います。<マドリードの魔女>になったマカレナ・ゴメスについては、『トガリネズミの巣穴』のQ&Aで触れます。
B: カルロス・アレセスは直ぐ分かりましたが、サンチャゴ・セグラは・・・
A: これからご覧になる方、お楽しみに。
B: 本作の受賞者はパベス以外は制作サイドに集中、あまり紹介されることのないスタッフの一人が編集賞のパブロ・ブランコ**、衣装デザイン賞のパコ・デルガード***の二人は折り紙つきの実力者。
A: 昨年『ブランカニエベス』で受賞したから今年はないと予想した撮影賞のキコ・デ・ラ・リカ****もゴヤ賞常連さんになりつつある。前回も書きましたが「面白くなかったから御代を返して」ということにはならないでしょう。
*助演女優賞受賞のテレレ・パベスTerele Pávezは、1939年ビルバオ生れ、監督と同郷だが育ったのはマドリード。デ・ラ・イグレシアがゴヤ監督賞を受賞した『ビースト、獣の日』にも出演。映画デビューが、ガルシア・ベルランガ(1921~2010)の“Novio a
la vista”(1953「一見、恋人」仮題)だから60年のキャリアの持ち主、出演映画は80数本に上る。デ・ラ・イグレシア映画の常連さんの他、彼女の最高傑作と言われているのが、マリオ・カムスの『無垢なる聖者』(“Los santos inocentes”1984)のレグラ役です。残念ながらゴヤ賞はまだ始まっておりませんでした。他にヘラルド・ベラの『セレスティーナ』(1995)など、ゴヤ賞ノミネートはすべて助演女優賞、今回三度目ではなく「五度目の正直」で宿願を果たしました。

(ゴヤ胸像を手に涙、涙のテレレ・パベスとプレゼンターのハビエル・バルデム)
**編集賞受賞のパブロ・ブランコ Pablo Blanco は、デ・ラ・イグレシアのデビュー作『ハイル・ミュタンテ!電撃XX作戦』という邦題になった“Acción mutante”でゴヤ賞1993にノミネート、ビルバオ時代からの友人エンリケ・ウルビスのヒット作『悪人に平穏なし』(2011)で受賞した。それ以前にも、ハイメ・チャバリの『カマロン』(2005、ラテンビート2006)、バジョ・ウジョアの“Airbag”(1997)でも受賞している。1981年デビューだから既に30年以上のキャリアがあり、多くが未公開作品なのが残念なくらい優れた作品が多い。短編を除外しても40作は超えるからベテランと言ってもいい。
***衣装デザイン賞受賞のパコ・デルガド Francisco Delgado López は、昨年のパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』に続いて今年も受賞した。ゴヤ賞だけでなく「ヨーロッパ映画賞2013」にも受賞したニュースは(⇒2013年11月2日)でご紹介しております。トム・フーパーのミュージカル映画『レ・ミゼラブル』(12)でオスカーにノミネートされたことで、海外でも認知度が高くなりました。デ・ラ・イグレシア作品参加は『みんなのしあわせ』(2000)から、引き続いて『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』(02)、『オックスフォード殺人事件』(08)、『気狂いピエロの決闘』(10)など。他にアルモドバルの『バッド・エデュケーション』(04)と『私が、生きる肌』(11)、アレハンドロ・G・イニャリトゥの『ビューティフル』(10)など、手掛けた多くが劇場公開されている売れっ子デザイナー。

(アン・ハサウェイとデルガード、アカデミー賞2013年授賞式にて)
****連続受賞を逃した撮影監督キコ・デ・ラ・リカ Kiko de la Rica は、1965年ビルバオ生れ、デ・ラ・イグレシア監督と同年生れの同郷です。最初にタッグを組んだのが『みんなのしあわせ』、この頃からメキメキ実力をつけ大作を手掛けるようになりました。『オックスフォード殺人事件』、『気狂いピエロの決闘』、『刺さった男』(11)、他にフリオ・メデムの『ルシアとセックス』(01)、未公開だがフェリックス・サブロソ&ドゥーニャ・アジャソの『チル・アウト!』(03、DVD発売08)など。2013年にパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』で受賞した。パブロ・ベルヘルの第1作“Torremolinos
73”(03)以来の信頼関係にあるようです。バスク出身監督の作品を多く手掛けている。
アレックス・デ・ラ・イグレシア特集 『メッシ』 Q&A *LB2014 ⑪ ― 2014年10月20日 11:45
★今年は「アレックス・デ・ラ・イグレシア特集」が組まれ、監督、製作に関わった4作が上映されました。新作『スガラムルディの魔女』、ドキュメンタリー『メッシ』、旧作『ビースト 獣の日』が監督作品、唯一『トガリネズミの巣穴』だけが製作者の側に立った。鑑賞しなかった旧作以外の『メッシ』と『トガリネズミの巣穴』のQ&Aに参加しましたご報告と感想、まずは鑑賞した順に『メッシ』から。
予想以上に楽しかった『メッシ』
A: コミック・オタク少年だった監督がどうしてメッシのドキュメンタリーを撮ろうとしたのか、それが一番聞きたかった。でも映画が進行するにつれて聞く必要ないな、と思いましたね。つまり二人はよく似ている、いったいどこが、その<カイブツ>ぶりですよ。
B: 製作理由を尋ねられて「製作会社メディアプロの持ち込み」と説明していました。でもちゃんとドラマになっていて、感動して泣いてるお嬢さんもいたりして。
A: ちょっとウルウルしましたね。あの日は5本予定しており、『エル・二ーニョ』で満腹するだろうから中休みしようと考えていたんです。しかし監督が来るというし、紹介記事も書いたことだし、と思い直して正解でした。(データはコチラ⇒7月3日にアップ)
B: 公開すれば『スガラムルディの魔女』より集客できると監督もメディアにアピールしていました。

A: 日本でもメッシ・ファンのサッカー少年が相当います。その証拠にメッシの名前と背番号入りのバルサのユニフォームを着たチビッコを街中で見かけます。バルサに行く前のロサリオ時代の映像が結構ありましたから子供は喜ぶかも。小学校高学年になれば全部は無理でも字幕が追えるのではないですか。大人の付き添いも必要、つまり親子で楽しめる。
B: 本格派は実際の試合を見るほうを選ぶから、「この映画でメッシがアルゼンチン出身だと初めて知りました」と質問したような方向きです。
A: さすがにこの質問にはビックリです。ワールド・カップが終わったばかりなのにね。私は、そういうサッカーオンチも見に来てくれたんだと逆に感動しました(笑)。
B: 久方ぶりの南米大会でしたのにアルゼンチンもブラジルもイマイチで歯痒かった。やはり特定の天才プレーヤーに頼るサッカーでは欧州の組織サッカーには勝てない。
A: さて本題に戻って、出演者一同を或るレストランに集めて食事しながらメッシを語ってもらう趣向。子供時代のプレイと現在のプレイを上手くダブらせ、そこにフィクション部分を挿入していくという構成でした。
B: メッシの生れたロサリオとバルセロナにある似たような2軒のレストランに集まってもらったようです。アルゼンチンとスペインでは遠すぎて一堂に会するのは無理です。
A: 説明受ければ「そういえば1軒では不自然だった」と気がつきます。編集作業は大変だったでしょう。
サッカー以外は興味がない?
B: 子供時代のエピソードが面白かった。メッシのお兄さんが子供サッカーチームのメンバー、お祖母さんが欠かさず試合にはメッシを連れて応援に行っていた。ある時、選手が一人足りなくて試合が成立しない。そこでピンチを救うべく出場した。
A: 主催者が「そんな小さい子はダメダメ」というのをお祖母さんがやっと説得して許された。そしたらなんとゴールしちゃって、やはり天才だったというオチ。
B: 今でもゴールすると写真のようなパフォーマンスがトレードマークだけど、天国で見ているお祖母ちゃんに「ゴールしたよ!」と報告してるんだとは知りませんでした。

(天国のお祖母さんにゴールを知らせている)
A: 本格ファンは御存じなんでしょうが。成長ホルモン分泌不全性低身長症の克服美談はもう有名ですけど、勉強はあまり好きでなかったし、ゲームも強くなかったみたいだ。
B: デ・ラ・イグレシア監督が一応取材を申し込んで時間と場所まで決めていたのにすっぽかした。後で理由を聞いたら、チームに相談したら「取材を受けてもいいし、他のことをしても好きにしていいよ」と言われたので、他のことをしていた(笑)。
A: サッカー以外は興味がないようだと監督も苦笑していた。
なりたい選書はマラドーナ
B: インタビュアーに「どんな選手になりたい?」と聞かれて、マラドーナを挙げていましたが祖国の英雄だから、これ以外に答えようがないですよ。
A: 十代の頃受けたインタビューだし、今も同じかどうか分からないか。
B: 共通項は小柄、背が低くても一流になれることを証明してくれている選手。
A: サッカーは背の高さや足でやるのではなくアタマでやるということが分かりました。お揃いのユニフォームを着た一粒だねが自慢のお父さん選手でもあります。

B: もう3日間寝ていないわりには元気でした。「眠らない街」新宿歌舞伎町の夜のゴールデン街も体験したようです。
A: スペインの通信社EFEの取材も受けたようで、新宿や渋谷の繁華街はニューヨークにも劣らない。仮にここで映画を撮るとしたらホラーまたはスリラーだと。はっきり言えるのは、夜の映画だ、なぜならこの街の美しさは夜とネオンにあるからだそうです。ネオンの街には妖しい刺激と活力を受けたようです。
B: ゲストに招んでくれたことを誇りに思うと、主催者への感謝も忘れなかったですね。

(目指す選手はマラドーナです、と答えるメッシ少年)
アレックス・デ・ラ・イグレシア特集 『トガリネズミの巣穴』 *LB2014 ⑫ ― 2014年10月22日 22:08
『トガリネズミの巣穴』はスペイン発ホラー・スリラー
★トロント映画祭2014「バンガードVanguard」 部門でワールド・プレミア、続いてスペインのシッチェス・ファンタジック映画祭正式出品、ラテンビートがアジアン・プレミアでした。「スペイン公開前に東京で上映して頂けて製作者として本当に誇りに思う」と、エグゼクティブ・プロデューサーのアレックス・デ・ラ・イグレシアがEFEのインタビューに語っていましたが、日本はスペイン産ホラーのファンが多い。スペイン公開はクリスマスの12月25日が決定しています。なおMusarañas(Shrew’s Nest)のデータは、簡単にトロント映画祭ノミネーションでアップしていますが(コチラ⇒8月13日)、文末にキャストとプロット、監督紹介を付録として採録しました。

登壇しなかったカロリーナ・バング
A: 21時からの上映にも拘わらず結構入っていたのは、ホラー映画だったからですかね。
B: デ・ラ・イグレシア来日が大きかったのじゃないですか。一口にホラーといってもタイプによりけり、『REC』シリーズはあまり怖くないですが、これはちょっと不気味。
A: 『スガラムルディの魔女』でもクレームつけましたが、共同プロデューサー、出演者でもあったカロリーナ・バングをどうして登壇させなかったんですかね。シッチェス・ファンタジック映画祭のプレス会見では並んで座っていた。写真の角度がずれてバングのプレートがウーゴ・シルバの前にきてしまっていますが。

B: 今年のゲストはたったの二人と稀少価値もあったのに。デ・ラ・イグレシアが前列に座っていたバングを見やって、「この作品は彼女が持ってきた企画です」と気遣ってましたが、二人の監督の紹介すらなかった(笑)。
A: プレス会見席上、デ・ラ・イグレシアは「二人はまだ駆け出しの監督ですが、この映画は<完全に>二人の監督の映画です」と、自分に質問が集中しないよう二人の才能と経験を賞讃していました。「トビー・フーバーの『悪魔のいけにえ』*を4回も観たという友人と一緒に楽しみを共有できた」とも。
*1974年製作のホラー映画の原点、原題は直訳すると「テキサス・チェーンソー虐殺」。4000万ドルの製作費で60億(2006データ)の収益をあげたというヒット作。
A: 二人の新人監督とは、フアンフェルことフアン・フェルナンド・アンドレスとエステバン・ロエルです。共に長編デビュー作、脚本も同じです。カロリーナ・バングは以前、二人の短編“036”(2011)に出演しており、その関わりということです。
B: Youtube で200万回のアクセスがあったという短編ですね。
A: デ・ラ・イグレシアが若い二人に資金援助をして製作した。デ・ラ・イグレシアはカロリーナと新しく製作会社 PokeepsieFilmsを立ち上げ、その第1作が本作。ファンタジー、スリラー、ホラーと才能豊かな二人を船出させました。

(シッチェスに勢揃いしたスタッフとキャスト)
B: かつてのデ・ラ・イグレシア自身がアルモドバル兄弟の「エル・デセオ」の資金援助を受け、『ハイルミュタンテ!~』をデビューさせたのでした。
A: 兄弟に足を向けては寝られない。初めてシナリオを目にしたシネアストは、「これは時代をスペイン内戦後の1940年代に設定したら面白くなる」と直感したそうです。
B: 結局は1950年代のマドリードになったわけですが、50年代の一般庶民は内戦を引きずって飢え死にこそしなかったが貧しかった。それにしては姉妹の部屋は広く生活に困っているふうではなかった。
A: 薄暗いマンションでしたが、それに比較して調度品やコーヒーセットなどは、映画の宣伝ポスターからも分かるように高級感がありましたね。驚くことに父親がカメラを持っていた!
『何がジェーンに起こったか?』がアタマにあった
B: フアンフェル・アンドレス監督によると、シナリオを書いているあいだ常に『何がジェーンに起こったか?』が念頭にあった。
A: ロバート・アルドリッチの1962年製作の映画、ベティ・デイヴィスが妹、ジョーン・クロフォードが姉を演じた。その後多くの監督のみならず俳優たちにも影響を与えたクラシック名画。
B: ロブ・ライナーの『ミザリー』も挙げていた。キャシー・ベイツにアカデミー主演女優賞をもたらした、怖い映画でした。
A: こちらは1990年製作だし吹替え版もあるほどだから観てる人多いでしょう。この2作は「トガリネズミ」のヒントになります。それにカメラ、ホラー・スリラーですから、衝撃のラストは言えませんけど(笑)。ジグソーパズルのように嵌めこんでみてください。
B: ラテンビートの上映は、まだ大阪・横浜とありますからネタバレできない。シネアストのトークの全てを書いてしまうと分かってしまう。
A: 本ブログは新作とか上映中のもの、特にスリラーのネタバレは避けている。何人か血は流れますが、誰とか凶器とかは書けません。ただ普通はモンスターは男性だがここでは逆転している。怖がるのは女でなく男です。
B: 親が子供に与える虐待は、当時も実際に起こっていたことだと語っていました。
A: これはフランコ体制に対するメタファーです。本作はホラーとしてはかなり政治的メッセージが濃厚で、強制された宗教教育の弊害も盛り込まれています。
モンセの妹役は最初からナディアに決めていた
B: この映画の成功はひとえにモンセ役のマカレナ・ゴメスの怪演につきます。『スガラムルディの魔女』でもマドリードの魔女を見事に演じました(笑)。
A: 監督たちも「マカレナはホラー・ファンには絶大な人気があり、彼女は日常では見せない顔を出してくれると確信していた。その通りになった」と、彼女が引き受けてくれた幸運を喜んでいた。
B: 真に迫った狂気の目が印象的です。
A: 素顔のマカレナ・ゴメス(1978コルドバ)はとてもかわいい。ミュージシャンのアルド・コマスと結婚、マカレナは妊娠を公開したばかり。未公開ながらミゲル・マルティのコメディ・ホラー“SexyKiller, morirás por ella”(2008)が『セクシー・キラー』の邦題でDVD化されている(2010発売)。
B: ブリュッセル・ファンタジー映画祭でペガサス観客賞を受賞、マカレナ自身もスペイン俳優組合賞にノミネートされた。
A: アントニア・サン・フアンの監督第2作コメディ“Del lado del
verano”(2012)では主役タナに起用された。サン・フアンはアルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』で女性に性転換したアグラード役で、観客に鮮烈な印象を残した女優。現在は女優と監督の二足の草鞋を履いている。
B: 主役のセシリア・ロスやマリサ・パレデスを食ってしまった。

(アツアツの夫アルド・コマスとのツーショット)
A: モンセの妹役は最初からナディアに決めていた。ナディア・デ・サンティアゴは、1990年マドリード生れだから、10代の妹役はギリギリです。12歳のテレビ・デビューから数えると結構芸歴は長く本数も比例して多い。サンティアゴ・タベルネロの『色彩の中の人生』(ラテンビート2006)や『アラトリステ』(06)にも出演している。ゴヤ賞ノミネートの話題作だったエミリオ・マルティネス・ラサロの“Las 13 rosas”(07)やハビエル・レボジョの“La mujer sin
piano”(09)にも。
B: 初お目見えではないわけですね。

(ナディア・デ・サンティアゴ、映画から)
A: カルロス役にはウーゴ・シルバ以外に誰が考えられますか、というほどだから決まっていたのでしょう。父親ルイス・トサールはシッチェスには現れなかったから談話は取れなかったが、相変わらずのらりくらりのカメレオン俳優だ。
B: 付録としてプロットを再録しましたが、果たして真実が語られているのかいないのか、劇場でお確かめ下さい。

≪付 録≫
*監督紹介:二人はともに本作が長編デビュー作。マドリードの映画研究所のクラスメイトだった。彼らの短編“036”(2011)は、Youtube で200万回のアクセスがあり数々の賞を受賞している。本作はデ・ラ・イグレシアがファンタジー、スリラー、ホラーと才能豊かな若い二人に資金援助をして製作された。エステバン・ロエルはテレビ俳優としても活躍しているようです。カロリーナ・バングはデ・ラ・イグレシアの異色ラブストーリー『気狂いピエロの決闘』(2010)に曲芸師として出演していた女優、プロデューサーの仕事は初めて。“036”に出演している。
*キャスト:マカレナ・ゴメス(モンセ)、ナディア・デ・サンティアゴ(モンセの妹)、ルイス・トサール(姉妹の父親)、ウーゴ・シルバ(隣人カルロス)、カロリーナ・バング(カルロスの婚約者)、グラシア・オラヨ(モンセの顧客)、シルビア・アロンソ(顧客の姪)、他
*プロット:広場恐怖症のモンセの物語。1950年代のマドリード、母親が出産したばかりの赤ん坊を残して死んでしまうと、臆病な父親は耐えきれなくなって蒸発してしまう。モンセは不吉なアパートから一歩も出られず、父と母と姉の3役を背負って青春を奪われたまま、義務感から洋服の仕立てをしながら赤ん坊を育てていた。苦しみから主の祈りとアベマリアの世界に逃げ込んで、今では一人の女性に成長した妹を通して現実と繋がっている。ある日のこと、この平穏の鎖が断ち切られる。上階の隣人カルロスが不運にも階段から落ち、唯一這いずってこられるモンセの家の戸口で助けを求めていた。誰かが特に無責任だが若い男がトガリネズミの巣に入ってしまうと、たいてい二度と出て行くことはできない。 (文責:管理人)
ダビ・トゥルエバ新作がアカデミー賞2015のスペイン代表に決定 ― 2014年10月24日 12:44
★ラテンビート上映の『Living Is Easy with Eyes Closed』(“Vivir es fácil con los cerrados”)がアカデミー賞スペイン代表作品に決定、ダビ・トゥルエバ監督がプロモーションを兼ねてロスアンジェルス入りしました。ロスで開催された「スペイン映画祭」*のオープニング作品になりました(10月16日)。梅田ブルク7は間もなく(10月25日)、横浜ブルク13はちょっと先になります(11月8日)。このスペイン的色彩の濃い映画がノミネーション5作品まで生き残れるかどうかは難しそう。今年は最多の83カ国が参加、当ブログ紹介の作品もアルゼンチン、チリ、ベネズエラなどが顔を見せています。
*この映画祭は、スペイン映画アカデミーICAAと教育文化スポーツ省、及び視聴覚製作者の権利運営機関EGEDAが主催しています。

★この映画祭のためトゥルエバの他、“Caemina y amén”の監督パコ・レオン、エミリオ・マルティネス・ラサロのバスク・コメディ“Ocho apellidos vascos”主演女優クララ・ラゴ、ハビエル・ルイス・カルデラの“Tres bodas de más”主演男優マルティン・リバスも現地入りしてスピーチしました。いずれも今年のスペイン映画の話題作です。トゥルエバ曰く、「クララとリバスは英語でスピーチしたんだよ、観客の多くはヒスパニック系でスペイン語が分かるんだけど」。「コッチで映画に出ることを熱望してるんだ」と皮肉やのトゥルエバは冗談を飛ばしていました。他にも『スガラムルディの魔女』、ダニエル・サンチェス・アレバロの“La gran familia espanola”も上映されました(ゴヤ賞2014やマラガ映画祭などで既に紹介しています)。

(スペイン映画祭でのダビ・トゥルエバ)
★最終候補に残るには、少なくともロスで1週間以上の一般公開が必要条件です(アメリカ主催の映画祭上映、映画祭で受賞してもダメ)。勢い配給会社の力関係が決め手になるようです。トゥルエバ作品は、Outsider Picturesと小さいところなので、とても難しいと悲観的。それでも「この映画はアメリカ人好みではないかもしれないが、アカデミーのメンバーはシネアストで無知ではない。彼らはスペインの歴史にも詳しく、サウラからアルモドバルの映画を見てきているからね。会員は一般の米国人とは違って、エリート集団だ」と望みを託している。一般の米国人はエリートではない?
★会員の加齢が進んで最近の受賞作を見ると、老いとか死がテーマになっていると強い。例えば『みなさん、さようなら』(03)、『海を飛ぶ夢』(04)、『おくりびと』(08)、『愛、アムール』(12)、または信念を持って権力と闘う人がテーマ『善き人のためのソナタ』(06)、『瞳の奥の秘密』(09)など。発表は来年1月中頃、監督にとって今年は長い冬になりそうです。
*ラテンアメリカ諸国の代表映画リスト*
◎ アルゼンチンRelatos salvajes(Wild Tales)ダミアン・ジフロン (西合作)
カンヌFF ⇒5月22日/トロントFF ⇒ 8月15日

◎
ウルグアイ Mr. Kaplan アルバロ・Brechner
◎
エクアドル En la tierra de
los Sueños(Silence in Dreamland)ティト・モリナ
◎
キューバ Conducta(Behavior)エルネスト・ダラナス
マラガ映画祭2014「ラテンアメリカ部門」で作品賞・監督賞他を受賞(⇒4月4日)
ダラナスは2回目、『壊れた神々』(2008、ラテンビート2009)がキューバ代表作品だった。

◎
コスタリカ Princesas rojas (Red Princesses)ラウラ・アストルガ(ベネズエラ合作)
マラガ映画祭(⇒4月4日)、ベルリン映画祭、グアダラハラ映画祭、各出品
◎
コロンビア Mateo マリア・ガンボア(仏合作)
◎
チリ Matar a un hombre(To Kill a Man)アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラス
ラテンビート2014で『殺せ』の邦題で上映 ⇒10月8日

◎
ベネズエラ Libertador(The Liberator)アルベルト・アルベロ(西合作)
ラテンビート2014で『解放者ボリバル』の邦題で上映
トロントFF 2013 「ガラ・プレゼン」⇒2013年9月16日

◎
ペルー El evangelio de la carne エドゥアルド・メンドーサ・エチャベ
◎
ボリビア Olvidados カルロス・ボラド
◎
メキシコ Cantinflas セバスティアン・デル・アモ
★今年のメキシコは良作揃いで予想できませんでしたが、“Cantinflas”は意外でした。ペルーはモントリオール映画祭2014「ワールド・コンペ」出品の“Perro Guardián”(監督:バチャ・カラベド他)を予想しておりました(⇒9月4日)。ショートリスト9作品は12月中、ノミネーションは年が明けた1月中頃になるはずです。
ラテンビート2014*あれやこれや ① ― 2014年10月27日 22:56
★新宿会場バルト9上映前に記事にした10作品のうち、『Flowers』を台風直撃で断念、25日やっと東京国際映画祭TIFFで観てきました(UPはTIFFコーナーで)。アレックス・デ・ラ・イグレシア特集の作品はQ&Aのかたちで既にアップ済み、残る6作品の感想を「とても良かった(期待以上だった)」あるいは「期待したほどじゃなかった(普通)」など、あれやこれやと落ち穂拾いします。
もう少しヒネリがあると思っていた「デリリオ」
A: 10月11日(土)上映5本のうち『デリリオ―歓喜のサルサ』(LB④9・25)が一番席が埋まっていた。これを意外と感じたのは管理人だけかしら。チュス・グティエレス監督の持ち味である「二つの文化や価値観の違い」の描かれ方が曖昧だったせいか。
B: 期待しすぎ、“Retorna
a Hansala”(2008)のイメージが強かったのではないか。
A: 社会的不平等や政治腐敗をやんわり批判するのにロマンティック・コメディは最適なんですが。
B: 全く描かれなかったわけではないし、ダメ男に見切りをつけ、サルサのダンサー兼振付師として、頑張って娘を育てている主人公アンジーに共感する女性観客は多かったのではないか。サルサのレベルについては知識がありませんが、とても愉しめました。

A: 当たり前の話ですが、街中のクラブで踊られるサルサとサルサ・ショー用のサルサはまったく別のものですね。
B: クラブであんなに飛んだり跳ねたりしたら周りに怪我人続出です(笑)。タンゴやフラメンコも同じことがいえます。
A: TIFFで同じカリを舞台にした映画『ロス・ホンゴス』を観たのですが、あれもカリ、これもカリ、同じ都会でもさまざまな顔を持っているから、一つだけで分かったと思わないことですね。
B: 政治や歴史の本を読まなくても、映画は楽しみながら他国の理解を深められる素晴らしいガイドブックです。心の窓を開けて、知るのではなく自然体で感じることが大切。
観客が望んだ英雄像を描いた「解放者ボリバル」
A: アルベルト・アルベロの『解放者ボリバル』(トロント④2013・9・16)は、オスカー賞2015ベネズエラ代表作品に選ばれましたが、どうせ選ぶなら昨年にすればよかった。
B: トロント映画祭2013のガラ・プレゼン、2013年は「ボリバル生誕230年」ということで盛り上がった年でした。
A: ボリバルになったエドガー・ラミレスは、オリヴィエ・アサイヤスの『カルロス』で、伝説のテロリスト「ザ・ジャッカル」を演じた俳優。なかなかの力演でしたが、ボリバルはもっと複雑な人物だったのではないか。勿論これは役者の責任ではないが。
B: 監督は、ベネズエラ国民なら誰でも知ってる英雄、何を入れて何を省くか、テーマが大きすぎて何から手をつけていいか悩んだそうです。

(資産家のお坊ちゃんでしかなかった頃のボリバルと未来の妻マリア・テレサ・デ・トロ)
A: それにしてはフィクション部分が多すぎました。史実とは開きがあって、まだプリンスだったときのスペイン国王フェルナンド7世と今のテニスみたいな競技をするなんて全く根拠がない(笑)。当時、貴族の間で大流行していたのは本当ですが。
B: 伯父さんと違って、そもそも彼はスペイン宮廷に出入りできなかった。しかし将来ボリバルが戦うことになる人物ですから伏線を張りたかったのでしょう。
A: 細かいことですが、フランス語は堪能でも英語は映画のように流暢には話せなかったそうです。扮したラミレスは、武官だった父親が欧州各国を転任したことで英伊独仏とできるから吹替えなしでした。
B: 新婚早々黄熱病であえなく亡くなってしまうマリア・テレサの美しさは飛びぬけている。
A: マヌエル・マルティン・クエンカの長編第1作“La flaqueza del bolchevique”(03)でデビューしたときは、「スペインの名花」と言われた少女マリア・バルベルデ(1987マドリード)も大人の女性になりました。この愛妻の早すぎた死をずっとボリバルは引きずっていたと言われている。
B: ボリバルが新妻の紹介を兼ねてイマノル・アリアス扮する植民地行政官ドミンゴ・デ・モンテベルデを昼食に招くシーン、アリアスは実に憎たらしかった(笑)。
A: 贔屓の俳優ですけど。あのシーンもフィクション、軍人政治家でしたから立派な軍服姿のドミンゴ・デ・モンテベルデはボリバルの家族とは会っていない。資産家とはいえ統治国のトップが昼食に出向くはずがない、そういう時代です。ボリバルの少年時代からの恩師シモン・ロドリゲスもマリア・テレサと面識がなかった。彼は1802年当時にはカラカスではなくヨーロッパ、多分パリ在住だった。
B: 監督がラテンアメリカから選んだのが、人生後半にエクアドルのキトで出会うマヌエラ・サエンス役のフアナ・アコスタ。実在の女性で、ボリバルの永遠の<愛人>と言われた女性。

(雪のアンデス越えをした解放者ボリバル)
A: エクアドルのマヌエリータを演じたフアナ・アコスタは、美人量産国コロンビアはカリ生れ(1976)、アルゼンチンの俳優エルネスト・アルテリオと結婚、子供もおります。
B: 同じくラテンアメリカからは、ボリバルが唯一信頼していたというスクレ将軍には、ベネズエラのエーリッヒ・Wildpred、似せるため髪の毛を巻き毛にしたそうです。
A: 彼がボリバルと初めて会ったときは16歳で、まだ映画のような成人ではなかった。最後の別れも直接の別れではなく、スクレが訪ねたときには、ボリバルは既に出発してしまっていた。
B: アイルランド出身のボリバルの副官ダニエル・オレリー将軍にはイギリスのイワン・レオン、ジェームズ・ルーク大佐にはスコットランド出身のゲイリー・ルイスなど国際色豊か。
A: ストーリーも虚実豊か。実はアンデス越えを指揮したのはボリバルではなく配下のパラモ・デ・ピスバだった。そういうわけで彼は映画には登場しなかった。ダニー・ヒューストン扮する英国人など実在していた証拠がない、あの戦場にボリバルはいなかった、あの頃はまだ誰々とは出会っていなかった、エトセトラ、エトセトラ。伝記映画にはよくある話です。

(ダニー・ヒューストン、実在しなかったといわれる英国人)
B: 一万人のエキストラ、何百頭もの馬、セットも大掛かり、スペインのマドリード、カディス、セビリャのカルモナでも撮っている。
A: 製作費はトータルで約5000万ドル、その中にはベネズエラ政府から提供された資金も含まれている。スペインやドイツが約3000万ユーロを負担したという。
B: だからあのような大掛かりな撮影も可能になったというわけですね。
A: 何はともあれ、製作費は回収できなくても、ベネズエラの若い観客には受け入れられたようです。2013年製作された他のボリバル映画はイマイチで、アルベロ<ボリバル>が一番評価が高かったようです。映画は少年時代から始まっており、もっと時代とかテーマを絞ったほうがよかったかもしれない。なお、監督の他作品紹介、音楽監督、エドガー・ラミレスについてはトロント映画祭2013にアップしております。
ラテンビート2014*あれやこれや ② ― 2014年10月30日 12:18
★予想通りの出来栄えだったメキシコのアロンソ・ルイスパラシオスのコメディ『グエロス』(⇒LB
⑥10月3日)とチリのアレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスのサスペンス『殺せ』(⇒LB ⑦10月8日)、前者はベルリン映画祭「パノラマ」部門上映、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門のベスト・フィルム賞受賞、後者はサンダンス映画祭「ワールド・シネマ」部門の審査員大賞受賞他、オスカー賞2015、ゴヤ賞2015イベロアメリカ賞のチリ代表作品にも選ばれた、それぞれ話題作です。
モノクロのコメディ『グエロス』の次回作が楽しみ
A: 今年のラテンビートで最初に観た映画、予想通りのブラック・コメディでなかなか笑えた。
B: 笑い声はあまり聞こえてこなかったが、観客には伝わらなかったのかな。
A: 忍び笑いをしていたんでは。昨年、セバスティアン・シルバのコメディ『クリスタル・フェアリー』が上映されたときも会場は概ね静かだった。来日して最前列で自作を観ていた監督、「笑い声が聞こえてこなかったが面白くなかったのでしょうか」と心配そうに観客に逆質問。いえいえ、日本人は礼儀正しく控えめなんですよ(笑)。

(自分探しの4人組、ソンブラ、アナ、トマス、サントス)
A: これは新人監督にしては珍しいモノクロ映画、どうしてモノクロで撮ったのかは、すでに紹介記事で書きましたので繰り返しません。
B: 昨年もパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』とフェルナンド・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』がモノクロでした。製作資金の捻出に悩む新人監督が、カラーよりお金の掛かるモノクロで撮るのは珍しい。
A: 撮影監督ダミアン・ガルシアの映像は洗練されていて、スクリーンで見ると一段と映える。トライベッカ映画祭2014 で最優秀撮影賞を受賞したことが頷けます。
B: 未公開ですが『メキシコ 地獄の抗争』の邦題でDVD化されている、ルイス・エストラーダの“El infierno”も撮っていますね。
A: これはゴヤ賞2011の「イベロアメリカ映画賞」部門のノミネート作品、こういうメキシコならではのコメディも好きですね。
B: コメディ好きなんだ。主人公ソンブラの「ストにストしてる」というセリフには、笑えるし泣ける。

A: 在籍している大学の強権には反対だが、だからと言ってスト突入した学生にも与することができないノンポリ。「ストにストしてる」からといって、テキは味方じゃない。ソンブラ、サントス、アナの3人の生き方の違いも、誰が正しく誰が間違っていると決めつけないのがいい。
B: やっと探し当てた「死の床にいるはずの幻のミュージシャンが」・・・これでトマスもオトナになれるのだ。
A: 電気料未払いで部屋は真っ暗、音楽も聴けない、かなり切羽詰まっているはずなのにどこかぬけている。「北への移民だけがテーマじゃない」と言う監督だが、決して批判しているわけではなく、多面的なメキシコを描きたかったと語っている。伏線の張り方も巧みで、青春時代にやるべきことが見つからない恐怖がテーマだね。
B: ロード・ムービーにしたのも、巨大都市メキシコを描くには最適だったと語っていました。
レベルの高いチリ映画『殺せ』は単なる復讐劇ではない
A: 2番目に見た映画が『殺せ』、これはもう一度見なおしたい。ロッテルダム映画祭では批評家の間で評価が割れたという話が頷ける内容でした。ウエスタン調の復讐劇を期待した向きには残念でした。
B: 監督によると、的外れの独断的な意見や形式的な分析で困惑したとか。しかし、ビッグ・スクリーン賞は逃しましたが、ベスト・ヒューチャー・フィルム(KNF)賞を受賞したんでした。
A: 昨年は同じチリの監督アリシア・シェルソンの“Il futuro”が受賞した言わば新人賞ですね。ロベルト・ボラーニョの中編小説を映画化したものでした(コチラ⇒2013・8・23)。
B: 日本では2000年に三池崇史のサイコ・ホラー『オーディション』(1999)が受賞している。本映画祭の途中退場者数の記録を打ちたてた(笑)。

A: 話を戻すと、前回でも書いたことですが、映像の美しさ、構図の取り方、夜の照明を自然に入ってくる光に押さえたこと、クローズアップ、ロングショットの切り替えもよく、個人的には予想を裏切りませんでした。
B: デビュー作以来、撮影監督のインティ・ブリオネスとはずっとコラボしている。
A: これは3作目だが、1作目“Huacho”はクローズアップの多用(カンヌ映画祭2009「批評家週間」ゴールデン・カメラ賞ノミネート)、第2作目“Sentados frente al fuego”はロングショットが多い。今年東京国際映画祭TIFFで上映されたクリスチャン・ヒメネスの第3作『ヴォイス・オーヴァー』の撮影監督でもある。
B: 彼ともデビュー作からコラボしている。チリでは若手から中堅まで幅広く信頼されている実力者のようです。

A: あちらはコメディで暗いシーンは少ないのですが、やはり似ていると感じました。
B: 「人が人を殺すことの重み、誰かの人生をおしまいにすることの正当性はあるのか否か」がテーマだと書いていますが、これは単なる復讐劇ではない。
A: 一人の人間が一人の人間を殺すことの大変さ、戦争で何万人も殺害するほうが簡単だと思えてきました。殺してからが映画の核心が始まったという印象です。
B: 家族全員が脅迫され、息子が撃たれ、娘がレイプされたら殺していいのか。
A: インタビュアーに服役中の<男>は、「人を殺すことがどういうことか、あなたは御存じない」と答えた。それがキイポイントです。そういうわけで邦題の『殺せ』には少し違和感があります。映画祭での邦題のつけ方は難しいのですが、あまり踏み込まないで直訳のほうがよいケースが多いと思う。
B: チリで実際に起きた事件、正当であると認められるような根拠のある事件でしたが、<男>に安息は訪れなかった。
A: 私たち人間が本来もっている、道徳とか倫理の問題だけでなく、もっと生物学的な歯止めというか抑制力について語りたかったようです。チンピラを抹殺するというより、一家を孤独感と疎外感に陥れた社会に苦しみを与えたかった。
B: チリ映画のレベルは、近年高まっていますね。映画を海外で学んでいるシネアストが多いせいか、カルチャーショックが視野を広げている。内弁慶は歓迎されない(笑)。
A: 21世紀に入ってからのチリ映画の躍進は、ラテンアメリカ映画界のサプライズです。本映画祭だけに限っても、『聖家族』、『マチュカ』、『トニー・マネロ』、『サンティアゴの光』、『家政婦ラケル』、『ヴィオレータ、天国へ』、『NO』、『クリスタル・フェアリー』、『マジック・マジック』、『グロリアの青春』と粒揃いです。そういえば、春から夏にかけて旋風を巻き起こした『リアリティのダンス』のアレハンドロ・ホドロフスキー監督もチリ出身でした(笑)。
B: TIFFでは、前出のアリシア・シェルソンの『プレイ』、同じくクリスチャン・ヒメネスの『見まちがう人たち』と『盆栽』の全3作など。
A: いずれの作品も若いシネアスト・グループ「Generation
HD」の監督たち。カルロス・フローレスを指導者に、『トニー・マネロ』のパブロ・ラライン監督が中心のグループです。
B: そして今回、フェルナンデス・アルメンドラスの『殺せ』が加わった。
A: このグループについては、『ヴォイス・オーヴァー』上映で、ヒメネス監督が三度目の来日をされたので、Q&Aの様子も含めて報告したい。『グロリアの青春』の主演女優パウリナ・ガルシアが主演者の二人の姉妹(写真下)の母親役で笑わせてくれました。

B: 話が脱線気味です。デビュー作“Huacho”はサンダンス映画祭2008 でNHK賞受賞(NHKは資金提供している)、ハバナ映画祭2009 初監督サンゴ賞を受賞している。(LB2014⑦参照)
A: 第2作目“Sentados frente al fuego”(2011)もサンセバスチャン「ニューディレクター」部門、グアダラハラ「マーケット」部門、ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ他に出品されている。
B: オスカー賞2015に残る可能性は低いが、ゴヤ賞イベロアメリカ賞ノミネートは期待できる。
A: 後回しになっていたチリのバルディビア国際映画祭で上映されましたが(10月10日)、劇場公開は地域限定で何とか16日に公開された。国際映画祭上映はサンダンス映画祭がワールド・プレミアだったからアメリカを含めて多く、2015年2月にDVD発売もアナウンスされています。
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