新人監督賞候補ダニ・デ・ラ・トーレ*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑨ ― 2016年01月22日 23:21
『暴走車 ランナウェイ・カー』の監督ダニ・デ・ラ・トーレ

(二人の主役を配したポスター)
★フォルケ賞結果発表で中断しておりましたが、ゴヤ賞ノミネーションに戻ります。既に限定とはいえ劇場公開&DVD発売になっております。サンセバスチャン映画祭2015以来、折りにふれご紹介しておりますが、新人監督賞を含むノミネーション8カテゴリーは無視できません。『プリズン211』で「やっと自分の演りたかった役に巡りあえた。役者になることを反対していた父親から認めてもらえた」と語っていたルイス・トサールが、アクション・スリラーに戻ってきました。

(父親役のトサールと娘役のパウラ・デル・リオ、映画から)
★ダニ・デ・ラ・トーレのキャリア&フィルモグラフィー:Dani de la Torre 、1975年ガリシアのルゴ県モンフォルテ・デ・レモス生れ、監督、脚本家、編集者、プロデューサー。ルゴ市はサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の通り道です。1997年からTVシリーズ・ドラマの製作者として出発、2004年、スペイン内戦をテーマにした短編“Minas”(16分)で監督デビュー、アルメリア国際短編映画祭で脚本賞を受賞した。同年“Lobos”、2006年“Bos días”、2010年からテレドラ“Mar lible”の監督、2015年長編デビュー作“El desconocido”がベネチア映画祭でワールドプレミア(9月2日)、引き続きサンセバスチャン映画祭の巨大スクリーン「ベロドロモ」部門で上映され(9月21日)、すかさずスペイン公開となった。ちなみにルイス・トサールもルゴ出身です。

(ダニ・デ・ラ・トーレ監督)
“El desconocido”(『暴走車 ランナウェイ・カー』)2015
製作:Vaca Films / Atresmedia Cine / La Fermel ! Productions / TVG ガリシア・テレビ
監督:ダニ・デ・ラ・トーレ
脚本:アルベルト・マリーニ
編集:ホルヘ・コイラ
録音:ダビ・マチャード、ハイメ・フェルナンデス、ナチョ・アレナス
プロダクション:カルラ・ペレス・デ・アルベニス
特殊効果:パウ・コスタ、イシドロ・ヒメネス
キャスト:ルイス・トサール(カルロス)、ハビエル・グティエレス(エル・デスコノシード)、エルビラ・ミンゲス(ベレン)、フェルナンド・カヨ(エスピノサ)、ゴヤ・トレド(マルタ)、パウラ・デル・リオ(カルロス娘サラ)、マルコ・サンス(カルロス息子マルコス)、ルイス・サエラ、アントニオ・モウレロス(アンヘル)、リカルド・デ・バレイロ(ビクトル)、マリア・メタ(フリア)、他
データ:スペイン、スペイン語、2015年、102分、アクション・スリラー、撮影地ガリシアのプラサ・デ・ビゴ、他、公開スペイン、メキシコ、ポルトガル、日本(DVDも発売)、他
★以上のデータはゴヤ賞でノミネーションを受けているカテゴリーを中心に作成しました。キャスト陣ではルイス・トサールが主演男優賞、サンセバスチャン映画祭で高い評価を受けたエルビラ・ミンゲスがやはり助演女優賞にノミネートされましたね。「エル・デスコノシード 見知らぬ男」になったハビエル・グティエレスは、ゴヤ賞2015の主演男優賞受賞者です(アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』)。

(エルビラ・ミンゲス、右隣りフェルナンド・カヨ、映画から)

(スクリーン登場は僅かだが存在感を示したハビエル・グティエレス)
★脚本を手がけたアルベルト・マリーニは、1972年イタリアのトリノ生れ、脚本家、監督、製作者。ジャウマ・バラゲロの“Mientras duermes”の脚本と製作に参画しています。これは『スリーピング・タイト 白肌の美女の異常な夜』という何やら物欲しげな邦題で公開されており、主役はルイス・トサールでした。本作は「結末に問題あり」と取り沙汰されているにもかかわらず、何故か「脚本賞」にノミネーションされております。トータルにみれば、アドレナリンがどくどく出る水準以上の出来ということでしょうか。
★1月19日結果発表になったフェロス賞は、作品賞・監督賞を含む6カテゴリーにノミネートされていましたが、いずれも無冠に終わりました。パウラ・オルティスの“La novia”が独占したことは前回記事にしたばかりです。Vaca Filmsという製作会社は、ダニエル・モンソンの『プリズン211』や『エル・ニーニョ』、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー・ミッション』、イシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』など、社会政治的ドラマ、アクション、スリラーものを得意としています。トサールはカルパルソロ以外に出演している。

(左から、ゴヤ・トレド、パウラ・デル・リオ、監督、トサール、サンセバスチャン映画祭)
★フェロス賞の結果から判断すると、ゴヤ胸像に手が届きそうなのが助演女優賞のエルビラ・ミンゲスあたりかもしれない。ここは例年芸達者が顔を揃えるカテゴリー、誰が取ってもおかしくない。フェロス賞受賞者ルイサ・ガバサが立ちはだかる激戦区です。
新人監督賞候補レティシア・ドレラ*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑧ ― 2016年01月19日 14:58
マラガ映画祭で新人脚本家賞を受賞したレティシア・ドレラ
★マラガ映画祭2015では時間切れでアップできなかった“Requisitos para ser una persona normal”という長たらしいタイトルでデビューした監督。日本ではパコ・プラサのホラー『REC 3ジェネシス』の女優として知られています。本作は4シリーズの中でも国内外ともに不評で、残念ながら「ただのゾンビ映画」と怒るホラー・ファンもおり、当たらずとも遠からずでした。しかしこの映画が縁結びの神様になって二人は結婚しました。8歳の年齢差など昨今では珍しくありませんね。

(ボルハとマリアの等身大人形に挟まれて、レティシア・ドレラ、プレス会見で)
★ゴヤ賞絡みでは作品賞の候補になっているパウラ・オルティスの“La novia”に主人公レオナルドの妻役で出演しています。出発は女優、写真でも分かるように大変な美人、そのうえ頭もよくて、「天は二物を与えず」といいますが、時にはこのような不公平が出来してしまいます。マラガ映画祭では自身が新人脚本家賞、ダビ・ガジャルトが編集賞を受賞しました。
“Requisitos para ser una persona normal”2015
製作:Corte y Confeccion de pelicuras / Estomagode la Vaca / El / テレフォニカ・スタジオ
監督・脚本:レティシア・ドレラ
撮影:マルク・ゴメス・デル・モラル
音楽:ルテア・サロム
編集:ダビ・ガジャルト
キャスティング:ミレイア・フアレス
製作者:(エグゼクティブ・プロデューサー)パコ・プラサ、(同)オリオル・マイモー、
ガブリエル・アリアス・サルガド
データ:スペイン、スペイン語、2015年、90分、ロマンティック・コメディ、撮影地バルセロナほか、スペイン公開6月4日
受賞歴・ノミネーション:マラガ映画祭2015新人脚本家賞、編集賞、撮影賞を受賞。フェロス賞2016ノミネーション「コメディ」部門作品賞、ポスター賞、予告編賞、ゴヤ賞ノミネーション新人監督賞、新人男優賞(マヌエル・ブルケ)、編集賞、いずれも発表待ち。
キャスト:レティシア・ドレラ(マリア)、マヌエル・ブルケ(ボルハ)、ミキ・エスパルベ(グスタボ)、ジョルディ・Llodra(アレックス)、カルメン・マチ(友人)、シルビア・ムン(バルバラ)、ダビ・ベルダゲル、アレクサンドラ・ヒメネス(クリスティナ)、他
*ゴチック体はゴヤ賞にノミネーションを受けたカテゴリー
プロット:30歳になる一風変わったマリアの物語。彼女には〈普通の人〉になりたいという目標がある。それにはまず普通の人とはどういう人なのかを定義しなければならないだろう。マリアは自分の人生に物事を無理に嵌めこめないほうがいいと考える。仕事を持たない、家賃を払わないため借りていたアパートを追い出され、家族との関係を絶ち、ずっと前から取るに足りないとロマンティックな恋もしていない。仕事の面接官が「じゃ、あなたのなりたい人はどんなタイプなの?」「普通の人よ」「分かったわ、じゃ普通の人ってどんな人?」・・・そこで弟アレックスの助けを借りて、〈普通の人〉の必要条件リスト作りをはじめることに。例えば、仕事、家、伴侶、社会生活、趣味などをリストアップしてみた。そんななかでマリアは減量に無我夢中のダイエット青年ボルハに出会う。彼女はボルハの減量指南、ボルハはマリアの普通の人作戦の手助けに協力することになる。

(太めのボルハ役マヌエル・ブルケとマリア役のレティシア・ドレラ、映画から)
★レティシア・ドレラのキャリアとフィルモグラフィー:1981年バルセロナ生れ、女優、脚本家、監督、プロデューサー。ロスアンゼルスのエリック・モリスの演技スタジオ、マドリードのフアン・カルロス・コラッサの学校で演技を学ぶ。声楽をスサナ・ドメニック、ジャズをカレン・タフト(マドリード)、クラシックバレエをココ・コミン(バルセロナ)などに師事する。テレビ女優として出発、人気シリーズ“Al salir de clase”(2000~02)のアンヘラ役で389話に出演、他にテレドラでは“Los Serrano”や“Hospital Central”“Guante blanco”が有名。

(本作撮影中の監督)
★長編映画デビューは2002年のエミリオ・マルティネス=ラサロの『ベッドの向こう側』、この邦題はセルバンテス文化センターで上映されたときのもので日本語字幕はなかったと思います。先述した『REC 3ジェネシス』では、トゥリア女優賞とサン・ジョルディ女優賞を受賞、未公開だがパウラ・オルティスのデビュー作“De tu ventana a la mia”(12)で演じたビオレタ役でもサン・ジョルディ女優賞を受賞した。公開作品ではアレックス&ダビ・パストール兄弟の『ラスト・デイズ』(13)に出演している。そして最新作が長編監督デビュー作でもある本作、主人公のマリアを演じている。
★監督としては、短編“Lo siento, te quiero”(09)、“A o B”(10)など、前者はガウディ賞短編部門でノミネーション、後者は2010年のファンタジック・フェスで短編ファンタジック賞を受賞した。私生活での伴侶は『REC 3ジェネシス』の監督パコ・プラサ。彼は本作のエグゼクティブ・プロデューサーの一人。彼女も彼の短編“Luna di miele”などにプロデューサーとして参画、互いにプロモーションに尽力している。プラサ監督は「スペインホラー映画上映会」(セルバンテス文化センター、2014年7月)が開催されたおり来日して、ホラー映画についてのトークに出席、『REC 3ジェネシス』も上映された。

(パコ・プラサとレティシア・ドレラ、『REC 3ジェネシス』のプレス会見で)
★スペイン公開日に集合した若いシネアストたち マラガ映画祭から程ない6月4日に公開され、ゴヤ・トレド、エドゥアルド・ノリエガ、マカレナ・ガルシアなどの俳優たち、パコ・レオン監督、勿論パコ・プラサも応援に馳せつけた。出席できなかった人は、例えばブランカ・スアレスのようにお祝いの言葉をツイートしている。各映画祭で常にベストドレッサーとして賞賛される「赤絨毯の華」も、いよいよ監督デビューした。間もなく発表になるフェロス賞にはどんなドレスで現れるのか。
★世の中に普通の人などおりません インタビューから見えてくるレティシア・ドレラの人物像はすこぶる明快です。要約すると・・・
Q「この度どうして脚本家や監督という新しい仕事を始めたのですか」
A「あら、自然の成り行きなの。私は物語を語りたい、伝えたいという必要から女優になりました。ずっと女優をしていて脚本家、監督、演技者という具合に区別する必要がないと考えるようになった。現在は女優としてTVドラ・シリーズに出演していますが、同時に脚本執筆を両立させています」
Q「この映画には自伝的な要素が含まれていますか」
A「いいえ。しかし物語の視点は疑いなくとても個人的なものです。脚本のセンセーショナルな部分は、私を含めて皆が自分の人生のどこかで出会うことだと思っています。自分の生き方を変えたい、今よりましな人生があるに違いない、よりハッピーになりたい、そんなこんなが挿入されています。絶え間ないフラストレーションに晒されていますから、幸せを熱望するのです」
Q「あなたにとって普通とはどういうことですか」
A「誰も普通の人ではありません。すべての人がかけがえのない唯一人の特別な人です」
*映画館を後にするとき、ハッピーな気分になれるようです。
新人監督賞ノミネーション”Techo y comida”*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑦ ― 2016年01月16日 11:48
混戦が予想されるカテゴリー「新人監督賞」は誰の手に?
★マラガ映画祭2015でデビューした3作品、サンセバスチャン映画祭上映1作品がノミネーションされている。以下の通り:
1)ダニエル・グスマン“A cambio de nada”マラガFF コチラ⇒4月12日にアップ
2)フアン・ミゲル・デル・カスティジョ“Techo y comida” 同上
3)レティシア・ドレラ“Requisitos para ser una persona normal”同上
4)ダニ・デ・ラ・トーレ“El desconocido”サンセバスチャンFFベロドロモ部門
『暴走車 ランナウェイ・カー』の邦題で2015年秋に劇場公開済み
★フアン・ミゲル・デル・カスティジョの“Techo y comida”はマラガでも評価の高かった作品だが、当ブログでは主役のナタリア・デ・モリーナが女優賞を受賞したことを記事にしただけでした。先日発表されたフォルケ賞2016女優賞を受賞したので、ゴヤ賞は3カテゴリーですが、まずこちらからご紹介致します。

(ポスター)
*フアン・ミゲル・デル・カスティジョJuan Miguel del Castello:監督、脚本家、編集者。カタルーニャ映像研究センターで映画監督としての実技を、後ヘレスで映像の上級技術を学ぶ。多くの短編はさまざまな映画祭で40にも及ぶ賞を貰っている。中でも35ミリで撮った“ROSARIO”(2005、14分)の評価は高く、15に上る賞を受賞した。またCanal Sur TVで放映されたTVシリーズ“Curso Dandalú”には監督と製作者を兼ね、YouTubeでの視聴者は200万回に及ぶ。さらに同局の“Taxí”や“La respuesta está en la hitoria”では編集を担当した。ビデオクリック多数、現在はアンダルシア評議会の養成学校で映画編集やポストプロダクションの養成にあたっている。長編第2作の脚本を執筆中。

(フアン・ミゲル・デル・カスティジョ、マラガ映画祭で)
“Techo y comida”2015
製作:Diversa Audiovisual
監督・脚本・編賞:フアン・ミゲル・デル・カスティジョ
音楽:ミゲル・カラバンテ・マンサノ、ダニエル・キニョネス・ペルレロ
撮影:マヌエル・モンテロ、ロドリーゴ・レセンデ
美術:パコ・カルデナス、アマンダ・ロマン
衣装デザイン:エレナ・イスキエルド、アルバ・セラ
メイクアップ&ヘアー:ラウラ・ムン
プロダクション・マネージメント:ヘルマン・ガルシア、イシドレ・モンレアル
録音:フェラン・スアレス
製作者:ヘルマン・ガルシア、アルフレッド・サンタパウ
データ:スペイン、スペイン語、2015年、90分、撮影ヘレス・デ・フロンテラ、配給元A Contracorriente Films、Sherlock Films、マドリードとバルセロナでプレミア上映11月3日、スペイン公開(限定)2015年12月4日
受賞歴:映画賞ノミネーション:マラガ映画祭2015正式出品、観客賞・女優賞、フォルケ賞2016女優賞受賞。フェロス賞作品賞・女優賞、ガウディ賞女優賞、ゴヤ賞新人監督賞・主演女優賞、オリジナル歌曲賞にノミネーション、いずれも発表結果待ちです。
キャスト:ナタリア・デ・モリーナ(ロシオ)、ハイメ・ロペス(息子アドリアン)、マリアナ・コルデロ(マリア)、メルセデス・オジョス(アントニア)、ガスパル・カムプサノ(アルフォンソ)、モンセ・トレンテ、ナタリア・ロイグ、マヌエル・タジャフェ(ナチョ)、ビダル・サンチョ、他
*ゴチック体はゴヤ賞2016にノミネーションされたカテゴリー

(デ・モリーナ、監督、ハイメ・ロペス、公開決定のプレス会見、2015年10月12日)
プロット:2012年のヘレス・デ・フロンテラ、無職のシングル・マザー、ロシオと8歳になる息子アドリアンの物語。アパートの家賃は数カ月前から滞っている。家主からは立ち退きを執拗に責め立てられているが仕事が見つからない。孤立無援の孤独のなかで、アドリアンの養育権さえ剥奪されてしまうかもしれない。屈辱と恐怖と闘っているロシオとアドリアンの人生に好転の萌しはない。この心を打つ物語は、優しさと厳しさが撚りあい、心地よくないが避けて通れない問題をテーマにしている。福祉国家を標榜する国家のシステムの不備と不名誉を暴露している。

(広告板を背負って働くサンドイッチマンのロシオ、映画から)
★タイトルの“Techo y comida”「雨露を凌ぐ家と食事」から大体のメインテーマが透けて見えてくる。2012年はスペインが国家存亡の危機にあり、ギリシャやポルトガル同様EUのお荷物だった時期、現在でも若者の失業率50パーセントは依然として変わらない。身軽な独身者は海外に仕事を求めてスーツケース1個で脱出していった。「堅実すぎる」と嫌っていたドイツにさえ活路を開くべく出掛けて行ったのだ。リアリズムで押し進む本作は、息苦しさを感じさせるから「この苛酷さは観客には耐えられないだろう」という大方の見方を裏切って、マラガでは観客賞を受賞した。観客と批評家の乖離がここでも明瞭になった。

(母子に戻って熱いチュッチュ、公開決定のプレス会見で)
★成功の鍵は、ロシオを演じたナタリア・デ・モリーナの力演にも負っているが、不安をいたずらに煽るトレメンディスモを避けたことも功を奏しているということです。マラガは国際映画祭ではなくスペイン語映画に特化しており、次の世代を担う若手監督の登竜門的役割を果たしている。そんなことが国内の若い観客を惹きつけている。勿論、映画そっちのけで赤絨毯に登場するセレブ俳優とのツーショットをスマホにおさめたい通称「映画祭のネズミ」も多いが、サンセバスチャンなどより観客層は若い。政治的メッセージをストレートに投げかけてくる映画は、近年のスペイン映画にはなかったこともよかったかもしれない。最高賞「金のジャスミン賞」を受賞したダニエル・グスマンの“A cambio de nada”も同じようなテーマを扱っていた。
*ナタリア・デ・モリーナは「主演女優賞」でご紹介します。
レオン・デ・アラノア”Un dia perfecto”*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑥ ― 2016年01月14日 16:08
かったるいけれど愛にあふれた胸をうつストーリー
★カンヌ映画祭と並行して開催される「監督週間」に出品されたときのオリジナル・タイトルは“A perfect Day”、主言語が英語だったのでスペイン映画とはいえ簡単な紹介で済ませた。スペインでは吹替え版で当初の予定より少し遅れて8月28日に公開された。やはり吹替え版にはどうしても違和感が付きまとう。しかしその後、世界各地で公開されたのは、ひとえにオリジナル言語が英語だったことによる。1995年のバルカン半島の紛争地が舞台だから重たいと思うのですが、予告編を見るとちょっと可笑しいシーンも。ジャンルはドラマティック・コメディとあり、未だに残り火が燻ぶっている紛争地を舞台に、当事国でもないスペイン人監督が撮れる可能性があるのかどうか。積み荷が重すぎて暗礁に乗り上げていないことを祈りたい。成功作『月曜日にひなたぼっこ』も深刻なテーマのわりに解毒剤のようなユーモアが散りばめられていたが、これは自国の話、新作は世界に激震を引き起こした国際紛争という大きな違いがあるからです。ノミネーション8個はエコヒイキかな?

(主役5人を巧みに配したポスター)
“Un dia perfecto”(オリジナル版“A perfect Day”)2015
製作:Mediapro / Reposado Producciones / TVE
監督・脚色:フェルナンド・レオン・デ・アラノア
原作:パウラ・ファリアスの小説“Dejarse llover”
脚色(共):ディエゴ・ファリアス
音楽:Arnau Bataller
撮影:アレックス・カタラン
編集:ナチョ・ルイス・カピリャス
美術・プロダクションデザイン:セサル・マカロン
衣装デザイン:フェルナンド・ガルシア
メイクアップ&ヘアー:Caitlin Accheson
製作者:ルイス・フェルナンド・ラゴ、パトリシア・デ・ムンス、ハビエル・メンデス
データ:製作国スペイン、英語・スペイン語・セルビア語・フランス語、2015年、106分、コメディ・ドラマ、ロード・ムービー、ユーゴスラビアの戦争、撮影地グラナダのアルキフェ、グラナダ、クエンカ、マラガ、配給元ユニバーサル・ピクチャーズ、公開スペイン8月28日、他セルビア、ドイツ、オランダ、クエート、イタリア、イスラエル(以上2015年)、ブルガリア、フィンランド、米国、ハンガリー、フランス(以上2016年)など多数
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2015「監督週間」、メルボルン、サラエボ、チューリッヒ、ハンブルク、バンクーバー、ロンドン、マイアミ、シカゴ、ライデン、各映画祭に正式出品。フェロス賞2016コメディ部門の作品賞、監督、脚本、ポスターの4カテゴリー(1月19日発表)、ゴヤ賞2016作品賞を含む8カテゴリーにノミネーション(2月6日発表)、目下結果待ちです。
キャスト:ベニチオ・デル・トロ(マンブルー)、ティム・ロビンス(B)、オルガ・キュリレンコ(カティア)、メラニー・ティエリー(ソフィー)、Fedja Stukan(ダミール)、エルダー・レジドヴィック(ニコラ)、モーテン・スールバジェ(国連職員)、セルジ・ロペス(ゴジョ)、フランク・フェイズ(国連職員)、ほか
*ゴチック体はゴヤ賞にノミネーションされたカテゴリー
解説:紛争地域で国連職員が事態の好転を図るべく頭を悩ましている。協力隊員たちはそれぞれ自分自身の問題を抱え込んだまま任務についている。マンブルーはもう家に帰りたい、ソフィーは紛争地の人々を助けたい、カティはマンブルーの元カノだった、ダミールは早く戦争を終わらせたい、Bは自分が何をしたいのか分からない、ニコラはサッカーボールが欲しい・・・。彼らのミッションは紛争地帯にある大井戸から遺体を引き出すことだ。誰かが水を飲めなくするために放り込んだのだ。近隣の住民には食料調達もままならない。しかしここではどんな仕事も不可能に近い、多分、真の敵は不条理なのだ。彼らは迷路に迷い込んだモルモットよろしく、紛争地帯を右往左往する。

(デル・トロ、監督、ティム・ロビンス、スペイン公開のプレス会見で)
★オリジナル・タイトルの“A perfect Day”は、1995年のボスニア紛争中に作られたブルックリン出身のルー・リード(1942~2013)の歌詞から採られた。鬼籍入りしたばかりのデビッド・ボウイにも影響を与えたミュージシャンですね。舞台が紛争地なら登場人物たちも混乱気味、批評も毀誉褒貶、ポジとネガが混在しているようだ。「コメディではないしドラマでもない、アクションでもないし何かメッセージを発信しているわけでもない」(エル・ムンド)、「よく練られているが、何か物足りない。善悪の二元論からは逃れられているが、結果は精彩を欠いている。感動させようとする要素やシチュエーションが多すぎて、見たり聞いたりしたものと大きくかけ離れている」(エル・パイス)、誠実さは伝わってくるがきらきらしたものがないということらしい。社会批判的映画の誠実さは生き残っているが、掘り下げが不足しているのだろう。
★同じエル・パイスでも批評家が違えば評価も異なる。「辛辣なセリフは、ユーモアに富み、心地よく感動的でもあるが、それらは決して破綻しない。戦争の残虐さをスクリーンに持ち込まず、死の影はない。戦争やその結果として起きる破壊は常にフィルターがかけられている」とかなり好意的。遺恨によってむき出しになった心より隠された憎しみのほうがより危険なのではないかと考えるが。原作者のパウラ・ファリアスは、「国境なき医師団」の一人としてコソボで医療活動をしているから、そのときの体験が小説に織り込まれているのだろう。

(左から、ソフィー、カティア、ニコラ、マンブルー、映画から)
★監督はボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を頭に描いて撮ったと思うが、住民、5人のよそ者ボランティア、自分たちの立場を利用して善意を目立たせようとする国連職員、三つの関係が上手く噛み合っていないのかもしれない。カウンターカルチャー映画は常に極端な敵対者の手になることが多いが、アルバニア善、セルビア悪という二元論で片付けられるほど簡単な紛争ではない。とは言ってもどちらにも与していないと上から目線で評論家的になる。掘り下げがイマイチでも、モラルと馬鹿げたことのバランスが悪くても、痛みと喜びが縄のように撚りあった不条理劇として楽しむことはできそうだ。
★アメリカでは、朝鮮戦争を舞台にしたロバート・アルトマンの反戦コメディ『M★A★S★H』(1970)と比較する批評家が目立つ。「ハリウッドの異端児」と言われたアルトマンがハリウッドで成功した映画だ。他にはコメディではないが群像劇のマイケル・チミノの『ディア・ハンター』(1978)、こちらは1960年代末期のベトナム戦争に従軍した帰還兵の生と死、戦場での狂気を描いたもの。ロバート・デ・ニーロやメリル・ストリープが出演していて今でもテレビ放映されている。ちなみに1990年初頭に始まったユーゴスラビア戦争、特にボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を題材にした作品は五指どころか十指に余る。『ウェルカム・トゥ・サラエボ』(1997)、『サラエボの花』(2005)、『あなたになら言える秘密のこと』(同)、新しいところでは『ある愛へと続く旅』(2012)などすべて公開されている。
★パウラ・ファリアスの“Dejarse llover”(2005刊)の映画化。1968年マドリード生れの医師、1999年よりNGOの「国境なき医師団」のメンバー。コソボやアフガニスタンの紛争地、インドのグジャラート、アフリカ中部の共和国ギニアビサウのコレラ(2002)、ベネズエラの黄熱病(2004)などの医療に携わった。その経験を元に2004年“Dejate contar un cuennto”を上梓、翌年長編小説、“Dejarse llover”を刊行した。

(原作者パウラ・ファリアスとフェルナンド・レオン・デ・アラノア監督)
★フェルナンド・レオン・デ・アラノアのフィルモグラフィー:1968年マドリード生れ、監督、脚本家。マドリード・コンプルテンセ大学で映像科学を専攻。脚本家として出発した。デビュー作“Familia”(1996)が「スペイン映画祭‘98」で『ファミリア』として上映された(ゴヤ賞1997新人監督賞受賞)。第2作“Barrio”(1998)はサンセバスチャン映画祭1998監督(銀貝)賞、ゴヤ賞監督・脚本賞受賞、第3作“Los lunes al sol”(2002)は、サンセバスチャン金貝賞、ゴヤ賞監督賞、アカデミー賞スペイン代表作品に選ばれ、メキシコのアリエル賞2004にイベロアメリカ映画賞を受賞した。日本では「バスク・フィルム・フェスティバル2003」で『月曜日にひなたぼっこ』の邦題で上映された。

(ルイス・トサールとハビエル・バルデム、『月曜日にひなたぼっこ』のポスターから)
★第4作はカンデラ・ペーニャとミカエラ・ネバレスを起用して売春婦の愛と友情を描いた“Princesas”(2005)、ゴヤ賞では二人の主役が主演と助演の女優賞を独占した話題作。第5作はペルー出身のマガリ・ソリエルとセルソ・ブガジョが主演した“Amador”(2010)、ゴヤ賞と唯一縁のなかった作品。第6作が本作になる。他にドキュメンタリーの“Invisibles”(2007)が、ゴヤ賞長編ドキュメンタリー賞を受賞している。見ての通りゴヤ賞に縁の深い監督だが、今回の受賞ははっきり言って難しいと予想します。
★助演男優賞ノミネーションのティム・ロビンスの受賞はないと予想しますが(受賞はハビエル・カマラ)、スペイン映画出演は初めてではない。イサベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』の主役でした。また群像劇で思い出しましたが、アルトマンのハリウッドの内幕を暴露した『ザ・プレイヤー』(1992)では、予想外だが殺人を犯しながらもコミカルにハリウッドを泳ぎまわる主人公を演じていた。コメディアンなのかもしれない。ほかに撮影賞ノミネーションのアレックス・カタランの仕事を評価する人が多い。しかし彼は、昨年アルベルト・ロゴリゲスの“La isla mínima”で受賞しているから外れるのはないか。

(スペイン公開に合わせて来西したティム・ロビンス、2015年8月25日)
★監督の次回作は、メデジン・カルテルのドンパブロ・エスコバルの伝記映画を撮る予定とのこと。ハビエル・バルデムとペネロペ・クルス夫婦が出演、予定だと2015年末にクランクインしているはずです。二人の共演はビガス・ルナの『ハモンハモン』以来、ウディ・アレンの『それでも恋するバルセロナ』(08)、結婚後もリドリー・スコットのスリラー『悪の法則』に出演している。
セスク・ゲイの”Truman”*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑤ ― 2016年01月09日 16:30
トルーマンて誰のこと?
★目下、賞レースの先頭を走っているのがセスク・ゲイの“Truman”ではないかと思う。5作品の中で管理人が見たいのも本作、彼は国際的な評価は高いがゴヤ賞には縁が薄い。過去に監督賞ノミネーションこそ受けているが受賞は今もってない。イサベル・コイシェの“Nadie quiere la noche”のオリジナル版は英語、キャストもスペイン人は起用されていないから、受賞は難しいと思う。『あなたになら言える秘密のこと』の例があるから断言は控えたいが。同じく主演男優賞ノミネーションのリカルド・ダリンも受賞はなく、ノミネーション止まり、アルゼンチンという国境を超えた俳優、そろそろ受賞してもいいか。助演男優賞のハビエル・カマラはダビ・トゥルエバの“Vivir es fácil con los ojos cerrados”でゴヤ胸像を貰ったばかりだが、今回も一番近い距離にいると思う。予告編を見ただけでもダリンのリズムにあわせ、その上手さが際立っている。

(トロイロを挟んでダリンとカマラ、ポスター)
“Truman”2015
製作:BD Cine / Impossible Films / Trumanfilm / INCAA /
監督・脚本:セスク・ゲイ
脚本(共):トマス・アラガイ
編集:パブロ・バルビエリ・カレラ
音楽:ニコ・コタ、トティ・ソレル
撮影:アンドレウ・レベス
美術:ホリエン・ソントJorien Sont
衣装デザイン:アナ・グエル
メイクアップ・ヘアー:セルヒオ・ロペス、Karol Tornaria
プロダクション・デザイン:イレーネ・モンカダMontcada
プロダクション・マネージメント:イシドロ・テラサ、アルバロ・サンチェス・ブストス
プロデューサー:マルタ・エステバン、ディエゴ・ドゥブコブスキィDubcovsky、
ダニエル・ブルマン
データ:製作国スペイン=アルゼンチン、スペイン語、2015年、108分、ドラマティック・コメディ、製作費約380万ユーロ、公開アルゼンチン、スペイン、ウルグアイ、スイス(2015)、公開予定ドイツ、フランス、チリ、他
受賞歴・映画祭:サンセバスチャン映画祭2015(男優賞リカルド・ダリン、ハビエル・カマラ)受賞。ゴヤ賞2016(作品賞・監督賞を含む6カテゴリー)、フェロス賞2016(作品ドラマ部門、監督賞含む6カテゴリー)、フォルケ賞2016(作品賞を含む2カテゴリー)、ガウディ賞2016(スペイン語部門、作品賞・監督賞を含む11カテゴリー)各ノミネーション。トロント、チューリヒ、ロンドン、ワルシャワ、各映画祭2015に正式出品、他
キャスト:リカルド・ダリン(フリアン・主演男優)、ハビエル・カマラ(トマス・助演男優)、ドロレス・フォンシ(フリアン従妹パウラ)、エドゥアルド・フェルナンデス(ルイス)、トロイロ(トルーマン)、アレックス・ブレンデミュール(獣医)、ペドロ・カサブランク(医師)、ホセ・ルイス・ゴメス(プロデューサー)、エルビラ・ミンゲス(フリアンの元妻グロリア)、オリオル・プラ(フリアンの息子ニコ)、スシ・サンチェス、アガタ・ロカ、シルビア・アバスカル、フランセスク・オレリャ、ハビエル・グティエレス(葬儀社の責任者)、他
プロット:竹馬の友フリアンとトマスの物語。長年カナダとスペインに別れて暮らしていた二人は、何十年ぶりかにマドリードで邂逅する。舞台俳優のフリアンは末期がんに冒されているが治療を断念している。彼はカナダで教師をしているトマスの思いがけない訪問を受ける。二人はフリアンの愛犬トルーマンと決して忘れることのできないエモーショナルな時を一緒に過ごすことになる。多分これが二人の最後の出会い、永遠の別れとなるだろう。二人はフリアンのアムステルダム留学中の一人息子に会うため突然日帰り旅行を敢行する。ブラック・ユーモアで綴る友情と死についての物語。 (文責:管理人)
*ゴチック体はゴヤ賞ノミネーションを受けたカテゴリー

(最優秀男優「銀貝賞」のトロフィーを手にした二人、サンセバスチャン映画祭にて)
*監督キャリア&主なフィルモグラフィー*
★セスク・ゲイFrancesc Gay I Puig:1967年バルセロナ生れ、監督、脚本家。バルセロナの市立視聴覚学校EMAVで映画を学ぶ。1998年長編映画“Hotel Room”(アルゼンチンのダニエル・ギメルベルグとの共同)でデビュー。2000年ロマンチック・コメディ“Krámpack”で一躍脚光を浴びる。性愛に目覚めかけた男女4人の一夏の物語。邦題『ニコとダニの夏』としてテレビ放映された。タイトルのKrámpackはニコとダニの造語、多分ドイツ語のKramとPackをつなげたものか。意味はちょっと微妙です(笑)。ゴヤ賞2001新人監督賞・脚色賞にノミネートされた他、サンセバスチャン映画祭2000セバスチャン賞、トゥリア賞、カタルーニャ作品賞、バレンシア映画祭2000初監督作品賞などを受賞した。
★本作は長編第8作目に当たるが、日本で話題になった第3作“En la ciudad”は、『イン・ザ・シティ』の邦題でセルバンテス文化センターで上映された。セスク・ゲイの得意とする、ロバート・アルトマン監督が生みの親と言われる群像劇(アンサンブル劇)の形式をとった映画(スペインでは合唱劇)。無関係だった複数の登場人物が最後には繋がっていく。本作では十数人が登場するにもかかわらず、それぞれ人格造形が見事でごっちゃにならない。しかしサンセバスチャンでもゴヤ賞2004でも監督賞・脚本賞のノミネーションに終わった。他にトゥリア賞、カタルーニャ作品賞を受賞した。キャスト陣ではエドゥアルド・フェルナンデスが助演男優賞を受賞した。
*その他は以下の通り:
2004“Canciones de amor y de droga”監督、ミュージカル
2006“Ficció / Ficción”監督・脚本・録音、ドラマ
2009“V.O.S.” 監督・脚本、コメディ
2012“Una pistola en cada mano” 監督・脚本、コメディ・ドラマ

(セスク・ゲイ監督、第63回サンセバスチャン映画祭にて)
★“Una pistola en cada mano”は高評価にもかかわらず、ゴヤ賞2013では助演女優賞にカンデラ・ペーニャがノミネートされただけ(結果は受賞)、アカデミー選考委員会はその不公平ぶりを批判された。選考は公平性が信条、ノミネートされなければ選べないというわけです。監督はスタッフ、キャストとも同じメンバーで撮るタイプです。カタルーニャ自治政府が選ぶ「映画国民賞」を受賞した“Ficció / Ficción”に出演した人で“Truman”と重なっているのが、エドゥアルド・フェルナンデス、ハビエル・カマラ、アガタ・ロカ、特にE・フェルナンデスは監督のお気に入り。共同脚本家のトマス・アラガイとは、“Krámpack”以来タッグを組んでいるし、プロデューサーのマルタ・エステバンも同じです。
★「ダリンのためのダリン映画」「こだまするメタファー」「語られているのは悲劇だが、監督は観客が微笑するのを諦めない」「悲劇をコメディに見事に移しかえた」「繊細で、微妙な変化、優しさに溢れているが、決して観客を操るようなことはしていない」「死の縁にいる人を描きながら、倫理や友情について語る素晴らしさ」「熱烈にドラマチックに輝き、そしてアイロニーに富んでいる」・・・スペイン各紙誌の批評です。大抵は意見が分かれるものですが、こぞってポジティブなのは近年なかったこと。多分、フリアンとニコの再会シーンでは、多くの観客の目が潤むのではないか。死が間近に迫っているとき、人間は何を考えるのだろうか。あるのは過去だけ、残された時間にやるべきことは何だろうか。
*トレビア*
★「誠実」のメタファーとして登場するトルーマンを演じたトロイロは、自閉症の子供と遊べるよう特別に訓練された犬だったそうです。しかしリカルド・ダリンが「悲しいことに2ヶ月前に死んでしまった」とサンセバスチャン映画祭で吐露した。じゃあ映画祭の赤絨毯を一緒に歩いていた犬はトロイロじゃなかったの?「トロイロのムスメだ」とダリン。確かに色が少し違いますね。撮影中にダリンとトロイロの間には独特な関係が生み出されていたらしく、話しているうちに鼻を詰まらせてしまったようです。それが聞いていた人たちにも伝染して皆して「オオオゥー」。死亡の知らせを聞いて「1週間泣き暮らした・・だって素晴らしい友達だったのだ」とダリン。傍らの監督も「トロイロの演技指導はリカルド任せだった。彼はすごく犬の知識に詳しく、私の出る幕はなかった」と語っていた。ダリンという役者は不思議と悪口が聞こえてこない。犬にも好かれたようで、それは扱いがとても上手くトロイロをたちまち仲間にしてしまったという。

(フリアンの愛犬トロイロの娘と一緒にダリンとカマラ、サンセバスチャンにて)
★昨年のカンヌ以来サンセバスチャンまで、サンティアゴ・ミトレの『パウリーナ』主演で話題をさらったドロレス・フォンシ、今回はノミネーションなしですが、まさにひっぱり凧の感があります。ガエル・ガルシア・ベルナルとの離婚後間もなくミトレと結婚、2000年にダニエル・ブルマンの『エスペランド・アル・メシアス』(東京国際FF)、マルセロ・ピニェイロの『炎のレクイエム』(ラテンビート)に脇役出演していたフォンシも、今や二児の母親となって逞しく成長した。

(左から、J・カマラ、ドロレス・フォンシ、R・ダリン、監督、カンタブリア海を背にして)
★本作成立の経緯やキャスティングなどを語った監督インタビューは、何かの賞に絡んだらアップすることにし、次回は作品賞のうちカンヌFFで少しだけ紹介したフェルナンド・レオン・デ・アラノアの“Un día perfecto”(オリジナル版は英語“A Perfect Day”)です。
*イサベラ・コイシェの“Nadie quiere la noche”の記事は、コチラ⇒2015年3月1日
*ダニエル・グスマンの“A cambio de nada” の記事は、コチラ⇒2015年4月12日
パウラ・オルティス”La novia”*ゴヤ賞2016ノミネーション ④ ― 2016年01月05日 16:10
最多の12個ノミネーションはサプライズではない?
★ワールド・プレミアしたサンセバスチャン映画祭であまり話題にならなかったのは、コンペティションではなく「サバルテギ」上映だったせいもある。前にも触れたがバスク語の「サバルテギ」は「自由」という意味で、このセクションには30作くらいの、それこそジャンルを問わない国際色豊かな良作が集められている。かつてハネケの『愛、アムール』、ララインの『NO』などがこのセクションで上映された。しかし話題性はコンペにかなわない。本作はフェロス賞選考あたりから急に脚光を浴びるようになった印象を受けたが、実は「コンペに選ばれなかった理由を誰も説明してくれない」と、当初から不満の声が上がっていたらしい。12個ノミネーションは不思議ではないということです。ゴヤ賞ノミネーション発表に花婿役のアシエル・エチェアンディアを抜擢したのも意図的というわけです。

(“La novia”のポスター)
“La novia”(“The Bride”)2015
製作:Get In The Picture Productions / Mantar Films / TVE、協賛ICAA 他
監督・脚色:パウラ・オルティス
脚色(共同):ハビエル・ガルシア・アレドンド
音楽:シゲル・ウメバヤシ(梅林茂)、ドミニク・ジョンソン(バックグラウンド音楽)
撮影:ミゲル・アンヘル・アモエド
編集:ハビエル・ガルシア
美術:ヘスス・ボスケ・マテ、ピラール・キンタナ
衣装デザイン:アランチャ・エスケーロ
メイクアップ・ヘアー:エステル・ギジェム、ピラール・ギジェム
プロダクション・マネージメント:ミゲル・アンヘル・ゴメス、マリアノ・リウスキィ
録音:ナチョ・アレナス、セサル・モリナ
プロデューサー:アレックス・ラフエンテ、ロサナ・トーマス 他
データ:製作国スペイン=トルコ=ドイツ、スペイン語、2015年,100分、配給BettaPictures、撮影地:カッパドキア(トルコ)、アラゴン州のサラゴサ及びロス・モネグロス、マドリード限定上映、スペイン公開12月11日
映画祭・映画賞ノミネーション:サンセバスチャン映画祭2015,シッチェス映画祭2016、他上映。ゴヤ賞12カテゴリー、フェロス賞9カテゴリー
キャスト:インマ・クエスタ(花嫁・主演)、アシエル・エチェアンディア(花婿・主演)、ルイサ・ガバサ(花婿の母・助演)、アレックス・ガルシア(レオナルド・新人)、レティシア・ドレラ(レオナルド妻)、カルロス・アルバレス=ノボア(花嫁の父)、コンスエロ・トルヒージョ(花嫁の家の女中)アナ・フェルナンデス(隣人)、マリア・アルフォンサ・ロッソ(女物乞い)、マリアナ・コルデロ(姑)、ホルヘ・ウソン、他
*ゴチック体はゴヤ賞にノミネーションされたもの。

(婚礼の日、オレンジの花冠を被った花嫁インマ・クエスタ、映画から)
解説:1933年3月に初演されたガルシア・ロルカの戯曲『血の婚礼』(“Bodas de sangre”)を土台に、自由にアレンジして映画化された作品。5年ほど前にアルメリア県で実際に起きた「ニハル事件」にヒントを得て書かれた戯曲。一人の女を二人の男が奪い合う「愛の三角関係」、片方には妻と赤子もいるから四角関係ともいえる。二人の男が死ぬのはニハル事件と同じだが、死に方は異なる。つまりテーマは挫折した愛と死、ロルカ劇として初めて大成功を収め、詩人も念願の経済的自立を確信した作品。現在でも舞台での再演、映画化、TVドラマ化と人気が高い。本作以外にもロルカの多くの作品に現れる月は悲劇的な死のシンボル、強力な性欲のシンボルとしての馬、死と脅しを意味するナイフ、死を招く物乞い、純潔を意味するオレンジの花冠など、いずれにも登場している。原作は『血の婚礼』として翻訳書も出版されている(岩波文庫、牛島信明訳)。

(月と花嫁、映画から)

(馬に跨ったアレックス・ガルシア扮するレオナルド、映画から)
*トレビア*
★ロルカ没後間もなくの1938年にアルゼンチンのエドムンド・ギブルグGuibourgがモノクロで映画化した。当時フランコを嫌ってスペインを出国、南米で仕事をしていたマルガリータ・シルグ(1988,バルセロナ)を「花婿の母」に迎えて撮った。主役は花嫁というより、アンダルシアに典型的な強すぎる「花婿の母」を演じたシルグに力点をおいている。それはロルカが意図したことでもあり、この母親像には詩人の母親が投影されている。レオナルド以外に名前がないのは象徴的といえます。シルグも結局1939年に亡命の道を選び、チリ、ウルグアイ、アルゼンチンなどで活躍、1969年モンテビデオで生涯を閉じました。スペインでは当然のことながら公開されることはなかったが、現在ではYouTubeで鑑賞できます。
★上記のアルゼンチン版は、フランコ没後の1977年、モロッコのSouheil Ben Barka がギリシャのイレーネ・パパスを起用してリメイクした。本作はカンヌ映画祭で上映されたが評価はイマイチだった。配給元は成功の確信はもてなかったが、スペインで公開したところ大衆に受け入れられ、カルト映画のカテゴリーにも影響を与えた。
★その4年後にカルロス・サウラが撮った『血の婚礼』(1981)は、1984年の「第1回スペイン映画祭」で上映され、翌年公開された。これはフラメンコ舞踊家のアントニオ・ガデス(レオナルド)とクリスティーナ・オジョス(花嫁)がフラメンコで舞台化した、そのリハーサル風景を中心に撮ったドキュメンタリー風ドラマ。サウラの「フラメンコ三部作」の第1作目。主役の二人はそれぞれ来日公演をしているフラメンコ界の大御所。他にも映画化、TVドラマ化されているのは、原作の魅力がアーチストを刺激するからだと思います。パウラ・オルティスがタイトルを変えて挑戦したのが“La novia”です。

(アントニオ・ガデスとクリスティーナ・オジョス、サウラの『血の婚礼』から)
★パウラ・オルティスPaula Ortiz:1979年サラゴサ生れの監督、脚本家、製作者。またバルセロナ大学のGrado de Comunicacion Audiovisual やサラゴサのサンホルヘ大学で教鞭をとっている。2002年サラゴサ大学のスペイン哲学を卒業、2003年バルセロナ自治大学の映画テレビ表記法でマスター取得、その後文部教育省の奨学金を得て、サラゴサ大学の博士課程に在学しながら映画スタジオで仕事をした(2004~08)。2011年、サラゴサ大学の映画史家で小説家でもあるアグスティン・サンチェス・ビダルの指導のもと、「映画脚本―理論と実践の現前化」と題した博士論文で博士号を取得した。ニューヨーク大学で監督演出、UCLAで脚本技術などを学ぶ一方、ロスアンジェルスのスクリーンライター・エキスポなどに参加、両国で開催される脚本家会議でも活躍している。2010年、仲間のキケ・モラやラウル・ガルシア他と製作会社「Amapola Films」を設立した。ビガス・ルナ工房やスペイン女性シネアスト協会のメンバー、「欧州女性オーディオビジュアル・ネット」の副会長を務める、まさに八面六臂の活躍をしている。

(才色兼備のパウラ・オルティス、デビュー作のポスターを背にして)
★長編デビュー作は人気のマリベル・ベルドゥを起用した“De tu ventana a la mía”(2011)、自身が設立した「Amapola Films」が製作した。ゴヤ賞2012で新人監督賞と歌曲賞にノミネーション、ベルドゥも助演女優賞にノミネートされた。ほか、レティシア・ドレラがサンジョルディ女優賞、オルティスがバジャドリード映画祭の新人監督に贈られる「ピラール・ミロー賞」を受賞した。国際的には上海映画祭審査員スペシャル・メンション、トゥールーズ(スペイン)映画祭でミゲル・アンヘル・アモエドが撮影賞を受賞した。二人とも本作に参加している。
★花嫁役のインマ・クエスタ(主演女優賞)、花婿役のアシエル・エチェアンディア(主演男優賞)、レオナルド役のアレックス・ガルシア(新人男優賞)の三人は揃ってノミネーションを受けている。上記のレティシア・ドレラ(レオナルドの妻)は女優業のほか、今年マラガ映画祭で監督デビュー、その“Requisitos para ser una persona normal”は、マラガ映画祭の新人脚本家賞(銀賞)を受賞、今回ゴヤ新人監督賞にもノミネートされた。混戦が予想されるカテゴリーの一つです。ドレラもオルティスに負けない才色兼備のシネアスト、新人監督賞の項で改めてご紹介したい。

(左から、A・エチェアンディア、I・クエスタ、A・ガルシア)

(監督と主演を兼ねたデビュー作“Requisitos para ser una persona normal”から)
*関連記事・管理人覚え
ロルカの死をめぐる新資料の記事は、コチラ⇒2015年9月11日
世代交代が進むスペイン映画界*2016年に見たい映画はどれか ― 2016年01月01日 15:30
スペイン映画はジャンルの垣根を取っぱらう?
★2015年のスペイン映画は、前年のようなヒット作が現れなかったせいか盛り上がらなかった。これは年初から予測されたことで驚かないが、思えば2014年が異例の年だったのだ。またベテラン勢、例えばイサベル・コイシェやアレハンドロ・アメナバルが海外の俳優を起用して〈英語〉で撮ったことも原因の一つでした。国際化を非難する気は毛頭ありませんが、吹き替えを嘘っぽく感じるようになったシネマニア、字幕入り映画を敬遠しがちな一般の映画ファンの存在は今後の課題、国際化のスピードに追いついていけないからです。サンセバスチャン映画祭の不振から当然予測されたことなのですが、スペイン映画アカデミーの前途は明るいとはいえない。しかし、マラガ映画祭では新人監督の台頭が目立ち世代交代の萌しを感じた。それが今年のゴヤ賞にはっきり現れたように思います。

(ジュリエット・ビノシュとイサベル・コイシェ、ベルリン映画祭にて)
★ゴヤ賞2016のノミネーションを一瞥して感じるのは、「スペイン映画アカデミーが意識して世代交代に舵をとった」ということでした。作品賞5作品のうち若手の監督パウラ・オルティスと新人ダニエル・グスマンの二人がノミネートされている。特に前者の第2作目“La novia”は最多の12個、サンセバスチャン映画祭「サバルテギ」部門上映後、つい最近の12月11日に封切られたばかりです。人気のマリベル・ベルドゥを主役にしたデビュー作“De tu ventana a la mía”(2011)が高い評価を受けて、第2作が待たれていた監督ですが、管理人にはちょっとしたサプライズです。4月に開催されたマラガ映画祭の作品賞・監督賞ほかを受賞した後者“A cambio de nada”も作品賞のノミネーションは予想しませんでした。

(パウラ・オルティス監督)
★下の写真はサンセバスチャン映画祭2015のときに撮られたもので、アグスティ・ビリャロンガ、イマノル・ウリベ、フェルナンド・コロモなどのベテランは別として、多くが1960年代~70年代後半に生まれたシネアストです。ゴヤ賞2016に絡んだ監督の顔も散見されますが、これからのスペイン映画界の担い手たちと称して間違いない。生年順に列挙しますと(生年・出身地・作品、ノミネーション数)、
*フェルナンド・コロモ(1946,マドリード、“Isra bonita”)1個
*アグスティ・ビリャロンガ(1953、パルマ・デ・マジョルカ、
『ザ・キング・オブ・ハバナ』)3個
*アレックス・デ・ラ・イグレシア(1965,ビルバオ、
『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』)4個
*セスク・ゲイ(1967、バルセロナ、“Truman”)7個
*アシエル・アルトゥナ(1969,ギプスコア、“Amama”)1個
*マルク・レチャ(1970、バルセロナ、“Un dia perfecto para volar”)無し
*ダニ・デ・ラ・トーレ(1975、ルゴ、『暴走車 ランナウェイ・カー』)8個
*パウラ・オルティス(1979、サラゴサ、“La novia”)12個
★写真には写っていないがノミネーション受けた主な監督には、
*フリオ・メデム(1958,サンセバスチャン、“Ma ma”)3個
*イサベル・コイシェ(1960,バルセロナ、“Nadie quiere la noche”)9個
*フェルナンド・レオン・デ・アラノア(1968,マドリード、“Un dia perfecto”)8個
*ダニエル・グスマン(1973,マドリード、“A cambio de nada”)6個
*フアン・ミゲル・デル・カスティージョ(1975、“Techo y comida”)3個
*ハビエル・ルイス・カルデラ(1976,バルセロナ、『SPY TIMEスパイ・タイム』)2個
*ボルハ・コベアガ(1977,サンセバスチャン“Negociador”)1個
*レティシア・ドレラ(1981、バルセロナ、“Requisitos para ser una persona normal”)3個

(サンセバスチャン映画祭の宣伝に集合したシネアストたち、2015年9月)
など。かつての若き獅子たち、メデムやコイシェ、レオン・デ・アラノアはベテラン監督入りしている感がある。コメディやスリラーが映画産業の要になっているのは事実だが、「適正な資金があれば、良質の映画を作るのにジャンルなんか関係なく上手くやっていける」(ダニ・デ・ラ・トーレ)、デ・ラ・イグレシアも「わたしたちの映画が評価されるのはその異質性だ。それぞれ自分のゴールを目指そう。違いこそ重要だ」と語っている。
★1月下旬に劇場公開されるハビエル・ルイス・カルデラの『SPY TIMEスパイ・タイム』は、フランコ政権下に出版されたマヌエル・バスケス・ガジェゴのコミックの映画化、スペインでは9月に公開され、お堅い批評家、コメディ・アクション大好きな観客両方に受け入れられた。主人公アナクレトにイマノル・アリアス、その息子にキム・グティエレスと文句なしの演技派を起用した。ルイス・カルデラ作品は何本か公開されていて、日本でもファンが多い。年末ジャンボもお年玉ハガキも当たらなかったのでスカッとしたい方にお薦めです。これからゴヤ賞ノミネーション作品のご紹介を授賞式に間に合うようアップしていきますが、本作も魅力の一端をと思っています。

(アナクレト父子、『SPY TIMEスパイ・タイム』ポスター)
★当ブログも今年で3回めの新年を迎えることができました。記述などに間違いがありましたらご指摘ください。ノミネーション12個に敬意を表してパウラ・オルティスの“La novia”から、ぼつぼつ始めます。
第30回ゴヤ賞2016*ノミネーション発表 ② ― 2015年12月23日 10:54
パウラ・オルティスの“La novia”が最多の12個ノミネーション

2016年に節目の30回を迎えるゴヤ賞は、2月6日にマドリードのPalacio Municipal de Congresosで開催されます。“La novia”が最多の12個というのは多いのか少ないのか、これといったヒット作がなかったせいかバラけた印象を受けます。フォルケ賞やフェロス賞ともダブる作品が目につくのは例年通りです。バルセロナ派のセスク・ゲイの“Truman”6個は少ないかも。アカデミー会員がマドリード派に多く、ゴヤ賞はどうしてもマドリード派に偏りがちです。それで対抗馬としてガウディ賞があるわけです。まだ先のことなので今回はリストだけをアップして、授賞式に間に合うよう個別にご紹介していきます(パブロ・トラペロの「ザ・クラン」のように既にアップ済みの作品はデータだけを再録します)。
*フォルケ賞ノミネーションの記事は、コチラ⇒201512月12日
*フェロス賞ノミネーションの記事は、コチラ⇒201512月18日

★ノミネーションを発表する、”La novia”出演のアシエル・エチェアンディア とアルモドバルの新作”Julieta”(”Silencio”改題、2016年3月公開予定)のヒロインになるエンマ・スアレス。エチェアンディアは主演男優賞にノミネートされた。
ゴヤ賞2016ノミネーション・リスト
最優秀作品賞
A cambio de nada ★ ◎ドラマ部門
La novia ◎ドラマ部門
Nadie quiere la noche (Nobody wants the night)
Truman ★ ◎ドラマ部門
Un día perfecto ◎コメディ部門
最優秀監督賞
パウラ・オルティスPaula Ortiz La novia ◎
イサベル・コイシェ Isabel Coixet Nadie quiere la noche (Nobody wants the night)
セスク・ゲイ Cesc Gay Truman ◎
フェルナンド・レオン・デ・アラノア Fernando León de Aranoa Un día perfecto ◎
最優秀新人監督賞
ダニエル・グスマン Daniel Guzmán A cambio de nada ◎
ダニ・デ・ラ・トーレ Dani de la Torre El desconocido ◎
レティシア・ドレラ Leticia Dolera Requisitos para ser una persona normal
フアン・ミゲル・デル・カスティジョ Juan Migul del Castillo Techo y comida
最優秀脚本賞
ダニエル・グスマン A cambio de nada ◎
アルベルト・マリニ El desconocido
ボルハ・コベアガ Negociador
セスク・ゲイ&トマス・アラガイ Truman ◎
最優秀脚色賞
ダビ・イルンダイン David Ilundain B
アグスティ・ビリャロンガ Agustí Villaronga El rey de la Habana 『ザ・キング・オブ・ハバナ』
ハビエル・ガルシア・アレドンド、パウラ・オルティス Javier García Arredondo La novia ◎ 脚本
フェルナンド・レオン・デ・アラノア Un día perfecto ◎ 脚本
最優秀主演男優賞
ペドロ・カサブランク Pedro Casablanc B ★ ◎
ルイス・トサール Luis Tosar El desconocido ★ ◎
アシエル・エチェアンディア Asier Etxeandia La novia ◎
リカルド・ダリン Ricardo Darín Truman ★ ◎
最優秀主演女優賞
インマ・クエスタ Inma Cuesta La novia ◎
ペネロペ・クルス Penélope Cruz Ma Ma ★ ◎
ジュリエット・ビノシュ Juliette Binoche Nadie quiere la noche (Nobody Wants the Night) ★
ナタリア・デ・モリーナ Natalia de Molina Techo y comida ★ ◎
最優秀助演男優賞
フェリペ・ガルシア・ベレス Felipe García Vélez A cambio de nada
マノロ・ソロ Manolo Solo B
ハビエル・カマラ Javier Cámara Truman ★ ◎
ティム・ロビンス Tim Robbins Un día perfecto
最優秀助演女優賞
エルビラ・ミンゲス Elvira Mínguez El desconocido ◎
マリアン・アルバレス Marian Álvarez Felices 140 ◎
ノラ・ナバス Nora Navas Felices 140 ★ ◎
ルイサ・ガバサ Luisa Gavasa La novia ◎
最優秀新人男優賞
ミゲル・エラン Miguel Herrán A cambio de nada
フェルナンド・コロモ Fernando Colomo Isla Bonita
アレックス・ガルシア Álex García La novia
マヌエル・ブルケ Manuel Burque Requisitos para ser una persona normal
最優秀新人女優賞
アントニア・グスマン Antonia Guzmán A cambio de nada
イライア・エリアス Iraia Elias Amama
ヨルダンカ・アリオサ Yordanka Ariosa El rey de La Habana 『ザ・キング・オブ・ハバナ』
イレネ・エスコラル Irene Escolar Un otoño sin Berlín ★ ◎
最優秀オリジナル作曲賞
サンティ・ベガ Santi Vega El teatro de más allá. Chavín de Huántar
シゲル・ウメバヤシ Shigeru Umebayashi La novia ◎
アルベルト・イグレシアス Alberto Iglesias Ma Ma ◎
ルーカス・ビダル Lucas Vidal Nadie quiere la noche (Nobody Wants the Night) ◎
最優秀オリジナル歌曲賞
“So Far and Yet so Close” アントニオ・メリベオ Antonio Meliveo El país del miedo
“Cómo me mata el tiempo” ルイス・イバルス Luis Ivars Matar el tiempo
“Palmeras en la nieve” ルーカス・ビダルLucas Vidal & パブロ・アルボラン Pablo Alborán
Palmeras en la nieve
“Techo y comida” ダニエル・キニョネス・ペルレロ、ミゲルカラバンテ・マンサノ
Daniel Quiñones Perulero & Miguel Carabante Manzano Techo y comida.
最優秀プロダクション賞
カルラ・ペレス・デ・アルベニス Carla Pérez de Albéniz El desconocido
アンドレス・サンタナ、マルタ・ミロ Andrés Santana & Marta Miró Nadie quiere la noche)
トニ・ノベリャ Toni Novella Palmeras en la nieve
ルイス・フェルナンデス・ラゴ Luis Fernández Lago Un día perfecto
最優秀撮影賞
ジョセプ・マリア・シベット Josep María Civit El rey de La Habana 『ザ・キング・オブ・ハバナ』
ミゲル・アンヘル・アモエド Miguel Ángel Amoedo La novia
ジャン・クロード・ラリュー Jean Claude Larrieu Nadie quiere la noche
アレックス・カタラン Álex Catalán Un día perfecto
最優秀編集賞
ホルヘ・コイラ Jorge Coira El desconocido
ダビ・ガジャルト David Gallart Requisitos para ser una persona normal
パブロ・バルビエリ Pablo Barbieri Truman
ナチョ・ルイス・カピリャス Nacho Ruiz Capillas Un día perfecto
最優秀美術賞
ヘスス・ボスケ・マテ、ピラール・キンタナ Jesús Bosqued Maté y Pilar Quintana La novia
アルトゥロ・ガルシア、ホセ・ルイス・アリサバラガ Arturo García & José Luis Arrizabalaga
Mi gran noche 『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』
アライン・バイネ Alain Bainée Nadie quiere la noche (Nobody Wants the Night)
アントン・ラグナ Antón Laguna Palmeras en la nieve
最優秀衣装デザイン賞
パオラ・トレス Paola Torres Mi gran noche 『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』
クララ・ビルバオ Clara Bilbao Nadie quiere la noche (Nobody Wants the Night)
ロレス・ガルシア・ガレアン Loles García Galeán Palmeras en la nieve
フェルナンド・ガルシアFernando García Un día perfecto
最優秀メイク &ヘアメイク賞
エステル・ギジェム、ピラール・ギジェム Esther Guillem & Pilar Guillem La novia
アナ・ロサノ、フィト・デリバルダ、他 Ana Lozano, Fito Dellibarda Ma Ma
パブロ・ペロナ、パコ・ロドリゲス・H、他Pablo Perona, Paco Rodríguez H. Nadie quiere la noche
アリシア・ロペス、マノロ・ガルシア、他 Alicia López, Manolo García Palmeras en la nieve
最優秀録音賞
マルク・オルテス、オリオル・タラゴ、他 Marc Orts, Oriol Tarragó Anacleto, agente secreto
ダビ・マチャード、ハイメ・フェルナンデス、他 David Machado, Jaime Fernández El desconocido
セサル・モリナ、ナチョ・アレナス、他 César Molina, Nacho Arenas La novia
ダビ・ロドリゲス、セルヒオ・ブルマン、他 David Rodríguez, Sergio Bürmann Mi gran noche
最優秀特殊効果賞
リュイス・カステル、リュイス・リベラ Lluís Castells & Lluis Rivera Anacleto, agente secreto
イシドロ・ヒメネス、パウ・コスタ Isidro Jiménez & Pau Costa El desconocido
クーロ・ムニョス、フアン・ラモン・モリナ Curro Muñoz & Juan Ramón Molina Mi gran noche
クーロ・ムニョス、レジェス・アバデス Curro Muñoz & Reyes Abades Tiempo sin aire
最優秀長編アニメーション賞
Atrapa la bandera
Meñique
Noche ¿de paz?
Yoko eta Lagunak (Yoko y sus amigos)
最優秀長編ドキュメンタリー賞
Chicas nuevas 24 horas
I am your Father ★
Sueños de sal
The Propaganda Game
最優秀イベロアメリカ映画賞
El clan パブロ・トラペロ Pablo Trapero (アルゼンチン) ★
La Once マイテ・アルベルディ Maite Alberdi (チリ)
Magallanes, サルバドール・デル・ソラル Salvador del Solar (ペルー) ★
Vestido de novia マリリン・ソラヤ Marilyn Solaya (キューバ)
最優秀ヨーロッパ映画賞
Camino a la escuela Pascal Plisson (フランス)
Leviatán Andrei Zvyagintsev (ロシア)
Macbeth Justin Kurzel (イギリス)
Mustang Deniz Gamze Ergüven (フランス)
最優秀短編映画賞
Cordelias グラシア・ケレヘタ Gracia Querejeta
El corredor ホセ・ルイス・モンテシノス José Luis Montesinos ★
El Trueno Rojo アルバロ・ロン Álvaro Ron
Inside the Box ダビ・マルティン・ポラス David Martín-Porras ★ ◎
Os meninos do rio ハビエル・マシペ・コスタ Javier Macipe Costa ★
最優秀短編アニメーション賞
Alike D・マルティネス・ララ、R・カノ・メンデス Daniel Martínez Lara & Rafael Cano Méndez
Honorio. Dos minutos de sol フランコスカ・ラミレス・ビリャベルデ、
フランシスコ・ヒスベルト・ピコ Francosca Ramírez Villaverde & Francisco Gisbert Picó
La noche del océano マリア・ロレンソ・フェルナンデス María Lorenzo Hernández
Víctimas de Guernica フェラン・カウム Ferrán Caum
最優秀短編ドキュメンタリー賞
Hijos de la Tierra アレックス・オミル・ツバウ Álex O’Mill Tubau & Patxi Uriz Domezáin
Regreso a la Alcarria トマス・シマデビリャ Tomás Cimadevilla
Ventanas ピラール・ガルシア・エレヒド Pilar García Elegido
Viento de atunes アルフォンソ・オドネル Alfonso O’Donnell
★印はフォルケ賞、◎はフェロス賞と重なっているもの、ただし脚本だけで脚色がない場合は脚本に統一して注記を入れた。
人名はカタカナ変換が分からない場合は原綴のママです。
*栄誉賞 マリアノ・オソレス監督
追加しますが、コチラ2015年11月18日に既にご紹介しています。
ゴヤ賞2016 「栄誉賞」 はマリアノ・オソレス監督が受賞 ① ― 2015年11月18日 17:33
ゴヤ賞2016「栄誉賞」はコメディ監督マリアノ・オソレス
★ゴヤ賞授賞式は来年2月と大分先ですが、ゴヤ賞2016の「栄誉賞」はコメディ監督マリアノ・オソレスが選ばれました。昨年のアントニオ・バンデラスのように日本での知名度はありませんが、スペイン人で彼の映画を見たことがない人は少ない。ゴヤ賞とは無縁の監督でしたが、40年間で96作、低予算、短期間で1年間に5作品撮った年もあるとか。どの作品も観客に受け入れられた、つまり映画館に足を運んだ観客は延べ8700万人、総人口の倍近いそうです。スペイン人がコメディ好きなのは、暗い時代が長かったから、せめて映画館の中だけでも笑いたかったのかもしれません。

(ゴヤ賞2016の栄誉賞に選ばれたマリアノ・オソレス監督)
★1926年マドリード生れ、監督、脚本家。両親は俳優だったが監督の道を選んだ。俳優を選んだのは兄弟のホセ・ルイスとアントニオ、最近では姪のエンマ・オソレス、アドリアナ・オソレスなど。「考え深い人で、とても控えめだが、人々を幸せにできる人。驚くべきことは、常に誇りをもって映画に取り組んだ監督、受賞にふさわしい人は彼以外にいない」と映画アカデミー会長アントニオ・レシネスの弁。ゴヤ賞が近づいたら、改めてご紹介いたします。
『ザ・キング・オブ・ハバナ』*ラテンビート2015 ③ ― 2015年09月17日 16:17
キングもハバナも出てこない『ザ・キング・オブ・ハバナ』
★間もなく開催されるサンセバスチャン映画祭正式出品映画です。そちらで少し記事をアップしておりますが(コチラ⇒8月4日)、ラテンビート上映ということなので改めてご紹介いたします。アグスティ・ビリャロンガ監督といえば『ブラック・ブレッド』、これは「ラテンビート2011」の目玉でした。主役のフランセスク・コロメル少年が来日舞台挨拶いたしましたが、まあ子供のことですから何てことありませんでしたが。大成功以後沈黙していた監督がやっと新作を撮りました。実際のキングもハバナも登場しません。舞台背景が「石器時代に逆戻り」と言われた1990年代後半のハバナですから、キューバ・ファンの方には思い出すのも辛い時代かもしれません。キューバ映画芸術産業庁ICAICからハバナでの撮影を拒否され、セントロ・ハバナが舞台なのに撮影地はドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴです。

“El Rey de La Habana” 『ザ・キング・オブ・ハバナ』2015
製作:Canal+España / Esencia Films(ドミニカ共和国)/ Pandora Cinema(スペイン)/ Ibermedia /
Tusitara Producciones Cinematográficas(スペイン) 他
監督・脚本:アグスティ・ビリャロンガ
原作:ペドロ・フアン・グティエレス(同名小説)
撮影:ジョセプ・M・Civit
音楽:ジョアン・バレント
編集:ラウル・ロマン
美術:アライン・オルティス
衣装:マリア・ジル
メイクアップ:ルシア・ソラナ(特殊メイク)
製作者:セリネス・トリビオ(エグゼクティブ)、ルイサ・マティエンソ
データ:スペイン=ドミニカ共和国、スペイン語、2015、キューバの作家ペドロ・フアン・グティエレスの同名小説の映画化、撮影地:ドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴ、サンセバスチャン映画祭2015コンペがワールド・プレミア(9月25日)
キャスト: マイコル・ダビ・トルトロ(レイナルド)、ヨルダンカ・アリオサ(マグダ)、エクトル・メディナ・バルデス(ユニスレイディ)、リェアナ・ウィルソン(フレデスビンダ)、チャネル・テレロ(ジャミレ)、ジャズ・ビラ(ラウル)他

(マグダとレイナルド、映画から)
プロット:少年院から逃亡した若者レイナルドの物語。いまや自由を勝ちえてロンやユーモアを取り戻したレイナルドだが、空腹と悲惨が充満しているハバナの街路を生き残りをかけて彷徨っていた。しかし同じ境遇のマグダに出会うことで、生きる希望と勇気を見出すだろう。愛とセックスと優しさ、そして若者たちに襲いかかる失望、人並みの家族をもちたいというレイナルドの意思と切望に現実のキューバ社会が立ちはだかる。果たして彼は自分を取り巻く貧困とモラルから脱出できるだろうか。(文責:管理人)
*トレビア*
★どういう経緯でハバナでなくドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴで撮影されたのか。理由は至極簡単明瞭、キューバ当局が拒絶したからです。多分ビリャロンガの脚本がお気に召さなかったのではないでしょうか。キューバの作家ペドロ・フアン・グティエレスが1999年に発表した同名小説の映画化です。原作をダイジェスト版で読んだだけ、映画はまだ見ていない段階であれこれ言うのは控えねばなりません。しかし撮影を拒否するほど内容が変わってしまっているとは思えません。ラテンビートで鑑賞後(10月12日クロージング作品)再登場させるつもりです。目下は前座としてアップしておきます。
★原作者のペドロ・フアン・グティエレスは1950年マタンサス生れ、小説家、詩人、ジャーナリスト。世間の「カリブのブコウスキー、ハバナのヘンリー・ミラー」でイメージしにくいなら、「レイナルド・アレナスのようにラディカル、ソエ・バルデス以上に攻撃的」なら、なんとなく作風が想像できるでしょうか。1998年、ハバナ三部作の“Trilogia sucia de La
Habana”(Anclado en tierra de nadie、Nada que hacer、Sabor a mi)でデビュー、本作は長編第2作目です。第3作“Animal tropical”(2000)がスペインのアルフォンソ・ガルシア≂ラモス小説賞、第5作“Carne de perro”(2003)がイタリアの世界スール小説賞を受賞、母国より海外での評価が高い。いずれもテーマはキューバ社会の悲惨を弾劾している。そんな作家がアレナスやバルデスのように亡命することなく、セントロ・ハバナに住みつづけていられるのが不思議に思えます。

(自宅の屋根裏部屋からハバナ市を見渡している作家、2014年撮影)
★原作は200ページほどだから中編か。第三者の語り手が主人公レイナルドの視点で、サン・レオポルド地区に暮らすムラートの青年の人生を最初から最後まで語っていく。この肉など口にしたことのない若者はとりたてて美男というわけではないが、名をReinaldoまたは Rey、ある理由でEl Rey de La Habanaという渾名で呼ばれている。最下層出身の青年には王冠もなく権力もなく、あるのは空腹のみ、皮肉から付けられたキングである。まだ「ハバナのキング」の片鱗もうかがえない子供時代から物語は始まる。突然家族のすべてを失い、13歳で少年院送りとなる。そこでの大きな勝利はどんな犠牲を払ってでも同性愛者の餌食にならないことだ。命をかけて誓うが行きつく先は愛すべきゴキブリの巣窟、薄暗い独房だ。16歳で逃亡しても荒廃したハバナの街で待っているのは恐ろしい死だ。薄暗く、汚れ、疲弊した、危険な都会、これが1990年代のハバナの姿だと、語り手は章の区別もなく一気に語っていく。
★かなり際どいストーリーだが、これはあくまでフィクションであってドキュメンタリーではないことです。セントロ・ハバナにサン・レオポルドというバリオが実際にあるのかどうか。サン・ミゲル、サン・ラファエルなど「サン」のつくバリオは多数あるが、見落としの可能性もあるかもしれないが架空のバリオではないかと思う。レイナルドのように身寄りがなく、誰も助けてくれない、身分証明書もなく、おまけに殆ど読み書きができない若者にとって、少年院もシャバも同じかもしれない。ICAICに撮影申請と共に提出された脚本が「あまりに人種差別的、性差別的、戯画化的、捉え方も表面的で悪すぎる」として拒否されたのは、ドラマとドキュメンタリーとの混同があるように思える。これは鑑賞後に書くべきことだが、異なる文化圏の監督に自国の過去の悲惨をとやかく言われるのは看過できない、という思いがあるのかもしれない。
★監督によれば、この映画のアイデアは、プロデューサーのルイサ・マティエンソから「とっても気に入った小説があって映画化できないだろうか。あなたがキューバに大いに関心をもっているのを知ってるので」とコメントを求められたことから始まった。原作を読み、とても興奮したので、デビュー作“Trilogia sucia de La Habana”も読んだ。映画化に向けて作者のペドロ・フアン・グティエレスとも話し合い、脚本は自分一人で書くことに決めた。ハバナでキャスティングも行い、おおまかなロケ地の撮影もしたうえで、舞台は当然セントロ・ハバナなのだからと撮影許可を申請したが通らなかったということです。それでドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴに変更、結果的にはそれが正解だったという。
★製作過程はかなり複雑だったようですが、最初はドミニカ共和国での撮影は恐怖だったと語る。何故なら限られた製作費で、比較にならないほど豊かな国ドミニカ共和国の首都で90年代のハバナを再現できるかどうか心配だったのだ。しかし豊かな国でも光と影はつきもので杞憂に過ぎなかったのだが、驚いたのはこの国の若いシネアストたちのレベルの高さだったという。ICAICの意向も分からなくもないが、やはり異国からの「旅人の視線」を忘れないで欲しかったと思う。

(左から、マイコル・ダビ、監督、ヨルダンカ・アリオサ、サント・ドミンゴにて)
★ラテンビートで上映される時には、サンセバスチャンの受賞結果が分かっています。今年はスペイン語作品ノミネーションは6作と多いのですが、2年連続でスペイン語映画が金貝賞を受賞しているので微妙です。サンセバスチャン映画祭のワールド・プレミアから間をおかず、こうして日本で上映されるのは本当に珍しいことです。金貝賞以外でも何かの賞に絡めば、『ブラック・ブレッド』同様、公開が期待できるかもしれません。後は鑑賞着に書くことにして、今はこれくらいにしておきます。
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