パウラ・オルティス”La novia”*ゴヤ賞2016ノミネーション ④2016年01月05日 16:10

        最多の12個ノミネーションはサプライズではない?

 

★ワールド・プレミアしたサンセバスチャン映画祭であまり話題にならなかったのは、コンペティションではなく「サバルテギ」上映だったせいもある。前にも触れたがバスク語の「サバルテギ」は「自由」という意味で、このセクションには30作くらいの、それこそジャンルを問わない国際色豊かな良作が集められている。かつてハネケの『愛、アムール』、ララインの『NO』などがこのセクションで上映された。しかし話題性はコンペにかなわない。本作はフェロス賞選考あたりから急に脚光を浴びるようになった印象を受けたが、実は「コンペに選ばれなかった理由を誰も説明してくれない」と、当初から不満の声が上がっていたらしい。12個ノミネーションは不思議ではないということです。ゴヤ賞ノミネーション発表に花婿役のアシエル・エチェアンディアを抜擢したのも意図的というわけです。

 

               (“La novia”のポスター)

 

  La novia(“The Bride”)2015

製作:Get In The Picture Productions / Mantar Films / TVE、協賛ICAA

監督・脚色:パウラ・オルティス

脚色(共同)ハビエル・ガルシア・アレドンド

音楽:シゲル・ウメバヤシ(梅林茂)、ドミニク・ジョンソン(バックグラウンド音楽)

撮影:ミゲル・アンヘル・アモエド

編集:ハビエル・ガルシア

美術:ヘスス・ボスケ・マテピラール・キンタナ

衣装デザイン:アランチャ・エスケーロ

メイクアップ・ヘアー:エステル・ギジェムピラール・ギジェム

プロダクション・マネージメント:ミゲル・アンヘル・ゴメス、マリアノ・リウスキィ

録音:ナチョ・アレナスセサル・モリナ

プロデューサー:アレックス・ラフエンテ、ロサナ・トーマス 

 

データ:製作国スペイン=トルコ=ドイツ、スペイン語、2015年,100分、配給BettaPictures、撮影地:カッパドキア(トルコ)、アラゴン州のサラゴサ及びロス・モネグロス、マドリード限定上映、スペイン公開1211

映画祭・映画賞ノミネーション:サンセバスチャン映画祭2015,シッチェス映画祭2016、他上映。ゴヤ賞12カテゴリー、フェロス賞9カテゴリー

 

キャストインマ・クエスタ(花嫁・主演)、アシエル・エチェアンディア(花婿・主演)、ルイサ・ガバサ(花婿の母・助演)、アレックス・ガルシア(レオナルド・新人)、レティシア・ドレラ(レオナルド妻)、カルロス・アルバレス=ノボア(花嫁の父)、コンスエロ・トルヒージョ(花嫁の家の女中)アナ・フェルナンデス(隣人)、マリア・アルフォンサ・ロッソ(女物乞い)、マリアナ・コルデロ(姑)、ホルヘ・ウソン、他

ゴチック体はゴヤ賞にノミネーションされたもの。

 

   

     (婚礼の日、オレンジの花冠を被った花嫁インマ・クエスタ、映画から)

 

解説19333月に初演されたガルシア・ロルカの戯曲『血の婚礼』(“Bodas de sangre”)を土台に、自由にアレンジして映画化された作品。5年ほど前にアルメリア県で実際に起きた「ニハル事件」にヒントを得て書かれた戯曲。一人の女を二人の男が奪い合う「愛の三角関係」、片方には妻と赤子もいるから四角関係ともいえる。二人の男が死ぬのはニハル事件と同じだが、死に方は異なる。つまりテーマは挫折した愛と死、ロルカ劇として初めて大成功を収め、詩人も念願の経済的自立を確信した作品。現在でも舞台での再演、映画化、TVドラマ化と人気が高い。本作以外にもロルカの多くの作品に現れるは悲劇的な死のシンボル、強力な性欲のシンボルとしての、死と脅しを意味するナイフ、死を招く物乞い、純潔を意味するオレンジの花冠など、いずれにも登場している。原作は『血の婚礼』として翻訳書も出版されている(岩波文庫、牛島信明訳)。

 

          

                 (月と花嫁、映画から)

 

  

       (馬に跨ったアレックス・ガルシア扮するレオナルド、映画から)

 

トレビア

★ロルカ没後間もなくの1938年にアルゼンチンのエドムンド・ギブルグGuibourgがモノクロで映画化した。当時フランコを嫌ってスペインを出国、南米で仕事をしていたマルガリータ・シルグ(1988,バルセロナ)を「花婿の母」に迎えて撮った。主役は花嫁というより、アンダルシアに典型的な強すぎる「花婿の母」を演じたシルグに力点をおいている。それはロルカが意図したことでもあり、この母親像には詩人の母親が投影されている。レオナルド以外に名前がないのは象徴的といえます。シルグも結局1939年に亡命の道を選び、チリ、ウルグアイ、アルゼンチンなどで活躍、1969年モンテビデオで生涯を閉じました。スペインでは当然のことながら公開されることはなかったが、現在ではYouTubeで鑑賞できます。

 

★上記のアルゼンチン版は、フランコ没後の1977年、モロッコのSouheil Ben Barka がギリシャのイレーネ・パパスを起用してリメイクした。本作はカンヌ映画祭で上映されたが評価はイマイチだった。配給元は成功の確信はもてなかったが、スペインで公開したところ大衆に受け入れられ、カルト映画のカテゴリーにも影響を与えた。

 

★その4年後にカルロス・サウラが撮った『血の婚礼』(1981)は、1984年の「第1回スペイン映画祭」で上映され、翌年公開された。これはフラメンコ舞踊家のアントニオ・ガデス(レオナルド)とクリスティーナ・オジョス(花嫁)がフラメンコで舞台化した、そのリハーサル風景を中心に撮ったドキュメンタリー風ドラマ。サウラの「フラメンコ三部作」の第1作目。主役の二人はそれぞれ来日公演をしているフラメンコ界の大御所。他にも映画化、TVドラマ化されているのは、原作の魅力がアーチストを刺激するからだと思います。パウラ・オルティスがタイトルを変えて挑戦したのがLa noviaです。

 

  

    (アントニオ・ガデスとクリスティーナ・オジョス、サウラの『血の婚礼』から)

 

パウラ・オルティスPaula Ortiz1979年サラゴサ生れの監督、脚本家、製作者。またバルセロナ大学のGrado de Comunicacion Audiovisual やサラゴサのサンホルヘ大学で教鞭をとっている。2002年サラゴサ大学のスペイン哲学を卒業、2003年バルセロナ自治大学の映画テレビ表記法でマスター取得、その後文部教育省の奨学金を得て、サラゴサ大学の博士課程に在学しながら映画スタジオで仕事をした(200408)。2011年、サラゴサ大学の映画史家で小説家でもあるアグスティン・サンチェス・ビダルの指導のもと、「映画脚本―理論と実践の現前化」と題した博士論文で博士号を取得した。ニューヨーク大学で監督演出、UCLAで脚本技術などを学ぶ一方、ロスアンジェルスのスクリーンライター・エキスポなどに参加、両国で開催される脚本家会議でも活躍している。2010年、仲間のキケ・モラやラウル・ガルシア他と製作会社「Amapola Films」を設立した。ビガス・ルナ工房やスペイン女性シネアスト協会のメンバー、「欧州女性オーディオビジュアル・ネット」の副会長を務める、まさに八面六臂の活躍をしている。

 

   

      (才色兼備のパウラ・オルティス、デビュー作のポスターを背にして)

 

★長編デビュー作は人気のマリベル・ベルドゥを起用したDe tu ventana a la mía2011)、自身が設立したAmapola Films」が製作した。ゴヤ賞2012で新人監督賞と歌曲賞にノミネーション、ベルドゥも助演女優賞にノミネートされた。ほか、レティシア・ドレラがサンジョルディ女優賞、オルティスがバジャドリード映画祭の新人監督に贈られる「ピラール・ミロー賞」を受賞した。国際的には上海映画祭審査員スペシャル・メンション、トゥールーズ(スペイン)映画祭でミゲル・アンヘル・アモエドが撮影賞を受賞した。二人とも本作に参加している。

 

★花嫁役のインマ・クエスタ(主演女優賞)、花婿役のアシエル・エチェアンディア(主演男優賞)、レオナルド役のアレックス・ガルシア(新人男優賞)の三人は揃ってノミネーションを受けている。上記のレティシア・ドレラ(レオナルドの妻)は女優業のほか、今年マラガ映画祭で監督デビュー、そのRequisitos para ser una persona normalは、マラガ映画祭の新人脚本家賞(銀賞)を受賞、今回ゴヤ新人監督賞にもノミネートされた。混戦が予想されるカテゴリーの一つです。ドレラもオルティスに負けない才色兼備のシネアスト、新人監督賞の項で改めてご紹介したい。 

  

       (左から、A・エチェアンディア、I・クエスタ、A・ガルシア)

 

 

   (監督と主演を兼ねたデビュー作“Requisitos para ser una persona normalから

 

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ロルカの死をめぐる新資料の記事は、コチラ⇒2015911


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