金熊賞はイランのモハマド・ラスロフ*ベルリン映画祭2020 ― 2020年03月02日 17:40
コロンビアのカミロ・レストレポの「Los conductos」が第1回作品賞を受賞

(金熊賞のトロフィーを手にしたバラン・ラスロフとプロデューサー)
★第70回ベルリナーレがあっという間に閉幕してしまいました。金熊賞は下馬評通りイラン映画「There is No Evil」のモハマド・ラスロフ監督の手に渡りました。とはいえ例のごとく監督は政府により拘留中で出国できず、2人のプロデューサーと監督の娘で女優のバラン・ラスロフが登壇して受け取りました。第2席に当たる特別審査員賞(銀熊賞)には、エリザ・ヒットマンの「Never Rarely Sometimes Always」が受賞、「これがベルリナーレかな」と感じたことでした。

(特別審査員賞のエリザ・ヒットマン)
★コンペティション部門のスペイン語映画は、ナタリア・メタの第2作「El prófugo」(アルゼンチン=メキシコ)1作のみでしたが無冠でした。パノラマ部門、フォーラム部門を見回しても、大きな賞に絡む作品はなく、全セクションを通じて選ばれるオペラ・プリマの第1回作品賞に、コロンビアの監督カミロ・レストレポの「Los conductos」(コロンビア=ブラジル=仏)が受賞、副賞の5万ユーロをゲットしました。批評家のあいだでは注目されていた作品でした。

(カミロ・レストレポ監督)
★映画の新たな可能性を模索するのが目的で新設されたエンカウンター部門(今年は15作品)で上映されたアルゼンチンのマティアス・ピニェイロの「Isabella」がスペシャル・メンションを受けました。作家性の強いアート作品を撮る監督で、日本でもコアなファンが多い。2017年にはアップリンク渋谷とアテネ・フランセ文化センター共催の「マティアス・ピニェイロ映画祭」が開催され、監督も来日してファンのQ&Aに応じている。当時最新作であった『エルミア&エレナ』(16)を含めて5作が字幕付きで上映されるというミニ映画祭でした。「イザベラ」は彼のシェイクスピア劇シリーズの第5作目に当たり、喜劇「Measure for Measure」がベースになっている。邦訳としては野上弥生子の『尺には尺を』が有名だが、木下順二訳の『策には策を』もある。かつては喜劇に分類されていたが、現在では問題劇なのではないかと言われている。筋が込み入って必ずしもハッピーエンドではない。本作はもう少し情報が欲しいところですが、いずれ監督インタビューなどをご紹介したい。相変わらずフェルナンド・ロケットの映像が素晴らしい。主演は常連のマリア・ビジャールとアグスティナ・ムニョス。


(左マリア・ビジャール、アグスティナ・ムニョス)

(右から2人目がマティアス・ピニェイロ監督、ビエンナーレ2020フォトコール)
ピラール・パロメロの第1作「Las niñas」――90年代スペインを覆う社会的な陰
★フォーラム部門の「Tagesspiegel Readers審査員賞」を受賞したのがウルグアイはモンテビデオ生れのアレックス・ピペルノ監督デビュー作「Chico ventana también quisiera tener un submarino」(「Window Boy Would Also Like to Have a Submarine」ウルグアイ=アルゼンチン=ブラジル=オランダ=フィリピン合作)という長たらしいタイトルの映画、ジャンルはコメディ、ファンタジー、ロマンスです。船員の主人公が船室のドアを開けるとフィリピンの村に入り込むというわけで、スペイン語以外にフィリピン語も話される。これは心惹かれる作品、アップしたい。


(船室のドアの向こうは・・・映画から)
★同じフォーラム上映だが賞には絡めなかった、スペインの若い監督3人の作品。まずガリシア出身のロイス・パティニョの「Lúa vermella」、ビルバオ出身のハビエル・フェルナンデス・バスケスの「Anunciaron tormenta」、最後がセウタ出身のイレネ・グティエレスの「Entre perro y lobo」の3作。

(「Lúa vermella」から)

(「Anunciaron tormenta」から)

(「Entre perro y lobo」から)
★その他「ゼネレーションKplus」でピラール・パロメロの「Las niñas」が上映された。1992年のサラゴサが舞台、宗教学校に通う父親を知らない11歳の少女セリアが主人公、シングルマザーとしてセリアを育てている母親にナタリア・デ・モリーナ、セリア役のアンドレア・ファンドスの演技が評判になっている。カルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』(17)を製作した、バレリー・デルピエールが手掛けている。

(母親役のナタリア・デ・モリーナとセリア役のアンドレア・ファンドス)
★ヒラリー・クリントンの半生を描くドキュメンタリーが特別上映され、ヒラリー自身も現地入りして、混迷を深める民主党大統領候補選びに言及するなど、ヒラリー人気は依然として高い。ドキュメンタリーのプロモーションのみならず、民主党の宣伝にも尽力していました。評判がイマイチだったサリー・ポッターの「The Roads Not Taken」に主演しているハビエル・バルデムもニューヨークから現地入り、プレス会見では現在撮影中のTVシリーズ、メキシコ征服のエルナン・コルテス役についても語ったようです。

(ヒラリー・クリントン)

(お疲れ気味のハビエル・バルデム)

(ハビエル・バルデムとその娘を演じるエル・ファニング、映画から)
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