エドゥアルド・フェルナンデスに映画国民賞2025のニュース ― 2025年07月13日 18:28
「Marco」と「El 47」のエドゥアルド・フェルナンデスに映画国民賞2025

(「Marco」でゴヤ賞2025主演男優賞を受賞したフェルナンデス、右は娘グレタ)
★6月30日、今年の映画国民賞受賞者の発表がありました。選考母体はスペイン文化スポーツ教育省と映画部門はスペイン映画アカデミー、副賞は30.000ユーロ、主に前年に映画界で活躍、貢献した人が選ばれます。授与式は秋開催のサンセバスチャン映画祭期間中(2025年は9月19日~27日)と大枠は変わっておりません。エドゥアルド・フェルナンデス(バルセロナ1964)は、マルセル・バレナの「El 47」とアイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの「Marco」の演技が評価され受賞しました。昨年12月から今年にかけてスペインで開催される映画賞、前者でガウディ賞、ディアス・デ・シネ賞、後者でフォルケ賞を皮切りに、ゴヤ賞、イベロアメリカ・プラチナ賞、シネマ・ライターズ・サークル賞、フォトグラマス・デ・プラタ、スペイン俳優組合賞、フェロス賞、ディアス・デ・シネ賞、文化省が授与する金のメダル芸術功労賞と貰える賞のほとんどを制覇しておりましたので、発表を待たずとも受賞は確実視されておりました。ゴヤ胸像4個保持者はカルメン・マウラと故ベロニカ・フォルケに続く3人目とか。

(実在の詐欺師を演じた「Marco」のポスター)
★細切れにキャリア&フィルモグラフィーを紹介しておりますが、国民賞受賞を機会に公開作品もかなりありますので、代表作、受賞作を中心に紹介しておきます。1964年8月バルセロナ生れ、映画・舞台・TV俳優、2024年、短編「El otro」で監督デビュー、バジャドリード映画祭でプレミア上映されました。舞台俳優としてスタートをきる。シェイクスピアの『ハムレット』(マックス賞2013)、『テンペスト』、『ジョン王』、サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』(観客賞)などに出演している。1990年作家のエスメラルダ・ベルベルと結婚、1995年グレタ・フェルナンデス誕生、2015年離婚、現在のパートナーはアイノア・アルダノンド。

(パートナー、アイノア・アルダノンドとフェルナンデス)

(シェイクスピアの『ハムレット』から、今は亡きマリサ・パレデスと)
★TVシリーズに出演した後、1994年ロサ・ベルヘスの「Souvenir」で長編映画デビュー、マリアノ・バロッソのスリラー「Los lobos de Washington」(99)でハビエル・バルデムと共演、翌年ゴヤ新人賞にノミネート、サンジョルディ賞、オンダス賞を受賞した。マヌエル・ビセントの同名小説を映画化したビガス・ルナの「Son de mar」(01)は『マルティナは海』の邦題で公開された。本作はフェルナンデス日本初登場となった作品。アレックス・オレ、イシドロ・オルティス、カルロス・パドリサ、演劇集団ラ・フラ・デルス・バウスのホラー・ファンタジー「Faust 5.0」で現代のメフィストフェレス役でゴヤ賞2002主演男優賞受賞の他、シッチェスFF、サンジョルディ賞などを受賞した。ファウスト博士にミゲル・アンヘル・ソラが扮した。セスク・ゲイのアンサンブルドラマ「En la ciudad」でゴヤ賞2004助演男優賞を受賞、本作は『イン・ザ・シティ』の邦題でミニ映画祭で上映された。

(ゴヤ賞主演男優賞を手にした「Faust 5.0」のポスター)

(レオノール・ワトリングと共演した『イン・ザ・シティ』のポスター)
★マル・コルがゴヤ賞2010新人監督賞を受賞した「Tres dies amb la família」に主演、マラガ映画祭2009銀のビスナガ男優賞を受賞した。『家族との3日間』の邦題で東京国際女性映画祭2010で上映された。2010年は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの「Biutiful」(『ビューティフル』)、アグスティ・ビリャロンガの「Pa negra」(『ブラック・ブレッド』)と収穫の多い年となった。2011年ペドロ・アルモドバルの「La piel que habito」(『私が、生きる肌』)、2014年ダニエル・モンソンの「El niño」(『エル・ニーニョ』)でゴヤ賞2015助演男優賞にノミネート、2015年のイマノル・ウリベの「Lejos del mar」では、エレナ・アナヤとタッグをくんで ETA の元テロリストを演じた。2016年は、アルベルト・ロドリゲスのスリラー「El hombre de las mil caras」(『スモーク・アンド・ミラーズ』)で実在したスペイン政府の元諜報員フランシスコ・パエサを演じて、サンセバスチャン映画祭2016の銀貝男優賞とガウディ賞は受賞したが、ゴヤ賞は逃した。

(サンセバスチャンFF 2016 銀貝男優賞を受賞した『スモーク・アンド・ミラーズ』)
★2016年、エンリケ・セレソがプロデュースしたサルバドール・カルボの「1898, Los últimos de Filipinas」『1898:スペイン領フィリピン最後の日』に指揮官エンリケ・デ・ラス・モレナスに扮し、ルイス・トサールやハビエル・グティエレス、カラ・エレハルデなどと共演した。アレックス・デ・ラ・イグレシアの群像劇「Perfecta desconocidos」(17)、アスガー・ファルハティ「Todos lo saben」『誰もがそれを知っている』(18)、アレハンドロ・アメナバルの「Mientras dere la guerra」(『戦争のさなかで』19)では、哲学者ウナムノを毛嫌いするホセ・ミリャン・アストライ将軍に扮し、2回目のゴヤ賞助演男優賞を受賞した。

(フランコ総統の盟友、隻眼片腕のホセ・ミリャン・アストライ将軍を演じた)
★2019年、ベレン・フネスの「La hija de un ladrón」は、愛娘グレタ・フェルナンデスと初共演、グレタは銀貝女優賞を手にした。親子で銀貝賞を受賞したことになり、自身の受賞よりも何倍も嬉しかったに違いない。スペイン映画賞のノミネートの山を築いたマルセル・バレナの「Mediterráneo」(21)では、受賞こそなかったが監督との絆を固め、次の「El 47」主演に繋がった。オリオル・パウロ「Los lengrones torcidos de Dios」(22)は、邦題『神が描くは曲線で』でネット配信された。上述したアイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの「Marco」、マルセル・バレナの「El 47」の字幕入りを期待したい。2018年、バジャドリード映画祭栄誉スパイク賞を受賞した。
★主なフィルモグラフィー(短編、TVシリーズは割愛、太字代表作)
1994「Souvenir」コメディ、ロサ・ベルヘス
1999「Zapping」フアン・マヌエル・チュミリャ
1999「Los lobos de Washington」スリラー、マリアノ・バロッソ、ゴヤ賞新人賞ノミネート
2000「El portero」ゴンサロ・スアレス
2001「La voz de su amo」フィルムノワール、エミリオ・マルティネス=ラサロ
2001「Son de mar」『マルティナは海』ビガス・ルナ、ゴヤ賞助演男優賞ノミネート
2001「Faust 5.0」ファンタジー、アレックス・オレ、イシドロ・オルティス、
カルロス・パドリサ、ゴヤ賞2002主演男優賞、他受賞歴多数
2002「El embrujo de Shanghai」フェルナンド・トゥルエバ
2002「Smoking room」ロヘル・グアル、J.D. Wallovits、マラガFF 銀のビスナガ男優賞
2003「En la ciudad」『イン・ザ・シティ』セスク・ゲイ、ゴヤ賞助演男優賞、
スペイン俳優組合賞
2004「Cosas que hacen que la vida valga la pena」マヌエル・ゴメス・ペレイラ、
ゴヤ賞主演男優賞・スペイン俳優組合賞ノミネート
2005「Hormigas en la boca」マリアノ・バロッソ、マラガFF銀のビスナガ男優賞
2005「Obaba」モンチョ・アルメンダリス
2005「El método」マルセロ・ピニェイロ、スペイン俳優組合賞受賞、
ゴヤ賞主演男優賞ノミネート
2006「Ficción」セスク・ゲイ
2006「Alatriste」『アラトリステ』アグスティン・ディアス・ヤネス
2008「3 días」『アルマゲドン・パニック』フランシスコ・ハビエル・グティエレス
2009「Amores locos」ベダ・ドカンポ・フェイホー
2009「Tres dies amb la família」『家族との3日間』マル・コル、
マラガFF銀のビスナガ男優賞、ブタカ賞受賞、ガウディ賞主演男優賞、
シネマ・ライターズ・サークル賞ノミネート
2009「Luna caliente」『ザ:レイプ 獣欲』ビセンテ・アランダ
2010「Biutiful」『BIUTIFUL ビューティフル』アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、
ゴヤ賞助演男優賞ノミネート
2010「La mosquitera」コメディ、アグスティ・ビラ、ガウディ賞主演男優賞受賞、
フォルケ賞ノミネート
2010「Pa negra」『ブラック・ブレッド』アグスティン・ビリャロンガ
2011「La piel que habito」『私が、生きる肌』ペドロ・アルモドバル
2012「Miel de naranjas」イマノル・ウリベ
2012「Una pistola en cada mano」セスク・ゲイ、ガウディ賞助演男優賞
2013「Todas las mujeres」マリアノ・バロッソ、フォルケ賞・サンジョルディ賞受賞、
ゴヤ賞主演男優賞・シネマ・ライターズ・サークル賞・フェロス賞ノミネート
2014「Marsella」ベレン・マシアス
2014「El niño」『エル・ニーニョ/ザ・トランスポーター』ダニエル・モンソン
ゴヤ賞助演男優賞ノミネート
2015「Felices 140」コメディ、グラシア・ケレヘタ
2015「Truman」『しあわせな人生の選択』セスク・ゲイ
2015「Lejos del mar」スリラー、イマノル・ウリベ
2016「La noche que mi madre mató a mi padre」コメディ、イネス・パリス
2016「El hombre de las mil caras」『スモーク・アンド・ミラーズ』
アルベルト・ロドリゲス、サンセバスチャンFF銀貝男優賞、ガウディ賞、
シネマ・ライターズ・サークル賞
2016「1898:Los últimos de Filipinas」『1898:スペイン領フィリピン最後の日』
サルバドール・カルボ
2017「Perfecta desconocidos」ブラックコメディ、アレックス・デ・ラ・イグレシア
2018「Todos lo saben」『誰もがそれを知っている』アスガー・ファルハティ
ゴヤ賞助演男優賞ノミネート
2019「Mientras dere la guerra」『戦争のさなかで』アレハンドロ・アメナバル、
ゴヤ賞助演男優賞、シネマ・ライターズ・サークル賞
2019「La hija de un ladrón / A thief’s daughter」ベレン・フネス、
ガウディ主演男優賞ノミネート
2021「Mediterráneo」マルセル・バレナ、ゴヤ賞主演男優賞、フォルケ賞、ガウディ賞、
フェロス賞、イベロアメリカ・プラチナ賞、各男優賞ノミネート
2022「Los renglones torcidos de Dios」『神が描くは曲線で』オリオル・パウロ
ガウディ賞助演男優賞ノミネート
2024「Marco」アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ、ゴヤ賞主演男優賞、
フォルケ賞男優賞、プラチナ賞、シネマ・ライターズ・サークル賞、
スペイン俳優組合賞ほか多数
2024「El 47」マルセル・バレナ、ガウディ男優賞、ディアス・デ・シネ賞
★働き者ですね、出演本数の多さ、多彩さにアップして驚きました。このほかに短編、TVシリーズ、例えば最近では、Netflix 配信中の『鉄の手』(8話)、「30 Monedas」(16話、HBO MAX)に主演しており、さらに舞台にも出演しています。
★スペイン映画だけですが、サンセバスチャン映画祭2025のセクション・オフィシアル他ノミネート発表がありましたので、そろそろ作品紹介を予定しています。
◎主な関連記事
*『エル・ニーニョ』紹介は、コチラ⇒2014年09月20日/2015年01月15日
*「Lejos del mar」紹介は、コチラ⇒2014年11月30日
*「Felices 140」紹介は、コチラ⇒2015年01月07日
*「Marsella」紹介は、コチラ⇒2015年02月02日
*『スモーク・アンド・ミラーズ』紹介は、コチラ⇒2016年09月24日
*『1898:スペイン領フィリピン最後の日』紹介は、コチラ⇒2017年01月05日
*「Perfecta desconocidos」紹介は、コチラ⇒2017年02月26日
*『誰もがそれを知っている』紹介は、コチラ⇒2018年05月08日
*「La hija de un ladrón」紹介は、コチラ⇒2019年07月23日
*『戦争のさなかで』紹介は、コチラ⇒2019年11月26日
*「Mediterráneo」紹介は、コチラ⇒2021年12月13日
*「Marco」とキャリア紹介は、コチラ⇒2024年09月03日
*「El 47」紹介は、コチラ⇒2024年12月28日
ロス・ハビスの新作「La bola negra」にペネロペ・クルスが出演 ― 2025年07月04日 11:04
フェデリコ・ガルシア・ロルカの未完の小説 ”La bola negra” をベースに

(ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、グラナダの詩人ガルシア・ロルカ)
★5月19日、カンヌのイベントでロス・ハビスの新作「La bola negra」(スペイン=フランス合作)にペネロペ・クルスとシンガーソングライターのギタリカデラフエンテの出演が発表になりました。ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ(通称ロス・ハビス)が、監督、脚本、製作する映画です。ロス・ハビスの制作会社「Suma Contento」とフランスの「Le Pacte」が製作し、パートナーに Movistar Plus+ が参画、販売権はフランスのGoodfellas が取得しました。2026年公開予定で劇場公開後にモビスター・プラスが独占ストリーミング配信します。

(ペネロペ・クルス)

(スクリーン・デビューをするギタリカデラフエンテことアルバロ・ラフエンテ)
「La bola negra」
製作:Suma Contento Films / Le Pacte / Movistar Plus+
監督:ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ
脚本:ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、アルベルト・コネヘロ
音楽:ラウル・フェルナンデス・ミロ(ニックネーム ’リフリー’)
撮影:グリス・ホルダナ
編集:アルベルト・グティエレス
美術:ロジャー・ベレス
衣装デザイン:アナ・ロペス・コボス
メイクアップ:アンヘラ・センテノ、マリロ・オスナ
製作者:ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ
データ:製作国スペイン=フランス、スペイン語、ドラマ、撮影地スペイン、8月クランクイン、12週間の予定、公開予定2026年、公開後Movistar Plus+ にて独占ストリーミング配信
キャスト:ペネロペ・クルス、ミゲル・ベルナルドー、ロラ・ドゥエニャス、カルロス・ゴンサレス、アルバロ・ラフエンテ・カルボ(ギタリカデラフエンテ)
解説:ガルシア・ロルカの未完の小説「La bola negra」と、アルベルト・コネヘロの戯曲「La piedra oscura」に触発されて製作された映画。三つの異なる時代(1933、1937、2017)を舞台に、三人のゲイの人生を織り交ぜ、セクシュアリティ、社会階級、宗教、欲望、痛み、遺産をテーマにして、スペインにおけるゲイとは何か、何を意味しているかを探ります。「私たちは、最大限の敬意をはらって、内省的な探求と歴史的研究の旅に出ます。今までは女性やトランスジェンダーの人々についての物語を綴ることで、クィアであることはどういうことか検証してきました。ゲイの男性を主役に据えた作品は今回が初めてです」と、アンブロッシはモビスター・プラスのプレゼンテーションで語った。

(Movistar Plus+ のプレゼンテーション、テレフォニカビル、1月22日)
★フェデリコ・ガルシア・ロルカ(グラナダ1898~1936)の「La bola negra」は、1936年、劇作家で詩人、舞台演出家のシプリアノ・リバス・チェリフに宛てて送った4ページにわたる小説。その年の8月18日にグラナダのアルファカルの道端で暗殺集団〈黒部隊〉によって銃殺された詩人は、永久に完成させることが叶わなかった。今回〈戯曲〉と紹介されている記事も目にしましたが、ロルカの最初にして最後の小説が正しいようです。リバス・チェリフ(マドリード1891~メキシコシティ2067)は、数ある〈ロルカ伝〉のどれにも度々登場する舞台演出家で、1934年の『イエルマ』をマドリードのスペイン劇場で初演している。フランスでナチに捕らえられた後、フランコ政府に引き渡され1945年釈放、1947年に家族でメキシコに亡命、彼の地で亡くなった。小説の主人公は裕福な家庭の息子、父親は信望のある会員制社交クラブに加入させようとしているが、それには一種の踏み絵があった。賛成なら白いボール bola blanca、反対なら黒いボール bola negra を投票箱に入れる。息子は結局加入しなかった。ゲイが原因で受け入れられなかった。
*「ロルカの死をめぐる謎」については、コチラ⇒2015年09月11日

(現在発表になっているポスター)
★アルベルト・コネヘロは、1978年アンダルシア州ハエン県ビルチェス生れの劇作家、王立演劇芸術学校で舞台演出と劇作法を学び、マドリードのコンプルテンセ大学博士課程卒。戯曲 “La piedra oscura”(2013刊)は、2015年に初演(60分)され、翌年演劇界の最高賞マックス脚本賞を受賞している。舞台はサンタンデール近くの陸軍病院の病室、出演者は互いに面識のなかった2人の入院患者(30代の砲兵大佐ラファエル、若い兵士セバスティアン)。ラファエルは1937年8月18日、サンタンデールの陸軍病院で25歳で亡くなったロルカの恋人ラファエル・ロドリゲス・ラプン、その最後の日々が語られる。ラファエルは知る由もないが、奇しくも1年前のロルカの命日に旅立っている。

(アルベルト・コネヘロ)

(戯曲 “La piedra oscura” の表紙)
★スタッフ紹介:ロス・ハビスは、TVシリーズ「La Mesías」(23)のスタッフを全員呼び戻したようです。それぞれ手掛けた作品のうち当ブログで作品紹介をしているものを追加しました。
ラウル・フェルナンデス・ミロ(音楽、「Un año, una noche」ガウディ賞、『二筋の川』)
クリス・ホルナダ(撮影、「Soy Nevenka」ゴヤ賞ノミネート、『リベルタード』ガウディ賞)
アルベルト・グティエレス(編集、『ホーリー・キャンプ!』「Casa en llamas」)
ロジャー・ぺレス(美術、『ホーリー・キャンプ!』『記憶の行方』)
アナ・ロペス・コボス(衣装、『シークレット・ヴォイス』『Madre』)
アンヘラ・センテノ(メイク、「Saben aquell」『レインボー』「Libertad」)
マリロ・オスナ(メイク、『パラレル・マザーズ』『誰もがそれを知っている』『ボルベール 帰郷』など)
*以上いずれも受賞歴のあるベテランです。
★キャスト紹介:ペネロペ・クルスやロラ・ドゥエニャスの紹介は不要ですが、二人とも原作には登場しない登場人物、どのように絡ませるのか、もう少し情報が欲しいところです。ロス・ハビスはクルスとのタッグは初めて、数週間前の初会合では「子供のときから映画館でしか見たことのなかった人」を目の前にして、かなり感動したようです。ドゥエニャスの演技力については「La Mesías」で体験済み、シンガーソングライター、ギタリスト、俳優のギタリカデラフエンテ(バレンシア州カステリョン県ベニカシム1997)は、今作が映画デビューと宣伝していますが、検索かけたらホアキン・マソンの「El casoplón」というコメディに出演していました(2025年4月公開)。まだクランインしていない映画ですので、後日纏めて紹介したい。
★ロス・ハビスは、「Pedro x Javis」(25、3話)というドキュメンタリーをMovistar Plus+ で製作したばかりです。既に配信されているようです。ペドロとはペドロ・アルモドバルのこと、他の出演者は、ロス・ハビス自身、アントニオ・バンデラス、カルメン・マチ、レオノール・ワトリング、ロッシ・デ・パルマ、作曲家アルベルト・イグレシアス、撮影監督ホセ・ルイス・アルカイネ、新作「La bola negra」出演のペネロペ・クルスやロラ・ドゥエニャスは勿論のこと、アルバロ・ラフエンテ、ラウル・フェルナンデス・ミロなどもクレジットされています。とにかく二人は、好き嫌いは別として、スペインでは話題提供のシネアストです。


(撮影中のハビエル。アンブロッシ、ペドロ・アルモドバル、ハビエル・カルボ)

(アントニオ・バンデラス、ロス・ハビス、後ろ向きはホセ・ルイス・アルカイネ)

(ロス・ハビス、ペネロペ・クルス、歌手アマイア・ロメロ)

(ビビアナ・フェルナンデス、ローレス・レオン、ロッシ・デ・パルマ)
★ハビエル・アンブロッシ(マドリード1984)とハビエル・カルボ(マドリード1991)のデビュー作『ホーリー・キャンプ!』(17)の紹介記事は、コチラ⇒2017年10月07日
カルロス・セデスの『ヴューダ・ネグラ 黒蜘蛛の企み』*Netflix配信 ― 2025年06月26日 19:13
実話にインスパイアされた犯罪ドラマ――カルメン・マチが刑事役

★バレンシア州パトライスで2017年8月16日に起きたアントニオ・ナバロ・セルダン刺殺事件をベースにしている。計画犯が被害者の若い未亡人、実行犯が冴えない中年の愛人というお膳立て、メディアの視聴率アップに貢献した事件でした。TV局は特集を組んだり、ドキュメンタリーを制作するなどしたので、スペインでは「パトライスの邪悪な未亡人」(“La viuda negra” de Patraix)として誰もが知っている殺人事件でした。Netflix は「サスペンス、ミステリー」ドラマと宣伝していますが、犯罪ドラマには違いありませんが、サスペンスやミステリーなど期待しないほうがいい。
★オリジナル・タイトルは「La viuda negra」ですが、邦題は思わせぶりな『ヴューダ・ネグラ 黒蜘蛛の企み』となり、なんともはや恐れ入ります。カルメン・マチやトリスタン・ウジョアがクレジットされていなければ多分見ない邦題です。英語題「A Widow’s Game」も感心しませんが、こちらのカタカナ起こしのほうが余程ましです。タイトルは自由に付けてよい決まりですが作品の顔でもあるので、無い知恵を絞らないでもらいたい。基本データ、スタッフ&キャスト、ストーリーは以下の通り。
「La viuda negura」
製作:Bambú Producciones / Netflix
監督:カルロス・セデス
脚本:ラモン・カンポス、ジェマ・R・ネイラ、ジョン・デ・ラ・クエスタ、リカルド・ジョルネ、ダビ・オレア、ハビエル・チャカルテギ
撮影:ダニエル・ソサ・セグラ
音楽:アドリアン・フォルケス、フェデリコ・フシド
編集:ディエゴ・ファハルド、アンドレス・フェデリコ・ゴンサレス
キャスティング:コンチ・イグレシアス
美術:アンヘル・アマロ
衣装デザイン:アントニオ・M・サンチェス・デ・ディオス
メイクアップ&ヘアー:イサベル・アウエルンハイマー、アリシア・ブランコ、他
製作者:ラモン・カンボス、ビクトル・ファンディーニョ
ストーリー:2017年8月16日バレンシア、マンション駐車場内で男性の血みどろの刺殺体が発見される。6ヵ所に及ぶ深い刺し傷から男性の怨恨による殺人事件と考えられた。ベテランの警部エバを筆頭にバレンシア殺人捜査課の調査が開始された。彼らは誰も予想しなかった容疑者に導かれていくことになる。若くして未亡人になってしまった〈優しくて親切な〉看護師マヘ、夫アルトゥーロとの新婚生活は1年未満であった。
データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語、サスペンス、犯罪ドラマ、122分、撮影地バレンシア州パトライス、2025年5月30日Netflix 配信開始。
キャスト紹介:実話ではあるがプライバシー保護のため殺人犯以外は仮名である。さらに殺人犯は事実に即しているが、それ以外の人物造形は脚色が施された別バージョンです。本作は捜査開始から3週間後の9月12日、別件で殉職したバレンシア殺人捜査課警部補ブラス・ガメス・オルティスに捧げられている。
カルメン・マチ(バレンシア殺人捜査課主任エバ・トーレス/実名エステル・マルドナド)
イバナ・バケロ(マヘMaje、実名マリア・ヘスス・モレノ・カント)
トリスタン・ウジョア(サルバSalva、実名サルバドール・ロドリゴ・ラピエドラ)
パブロ・モリネロ(トゥリ、トゥリエンテス)
ペペ・オシオ(ベルニ、ベルナルド/実名ブラス・ガメス・オルティス)
ラモン・ロデナス(新任刑事ハビエル・ヒル)
アレックス・ガデア(アルトゥーロ・フェレル/実名アントニオ・ナバロ・セルダン)
以下、ジョエル・サンチェス(マヘの愛人ダニエル)、ペドロ・カサブランク(判事)、パウ・デュラ、ベルタ・イバラ(エバの娘サンドラ)、タニア・フォルテア(マヘの友人ソニア)、アンパロ・フェルナンデス(アルトゥーロの母親)、ホセ・アントニオ・バヤゲス(アルトゥーロの父親)、ミケル・マルス(アルトゥーロの兄ビクトル)、インマ・サンチョ(マヘの母親)、ヘスス・カストロ(マヘの元恋人アンドレス)、テレサ・ロサノ(サルバの母親)、シスコ・ロメロ(アルトゥーロの同僚ルイス)、オスカル・パストール(サルバの友人フランセスク)、他
スタッフ紹介:カルロス・セデス(ア・コルーニャ1973)、監督、TVシリーズのクリエーター、代表作は、ロマンチックコメディ「El curb de los incomprendidos」(14)、ブランカ・スアレスとハビエル・レイを起用した「El verano que vivimos」(20)、クリエーターとして「Las chicas del cable」(17~20、『ケーブル・ガールズ』41話)、イバナ・バケロが主演した「Alta mar」(19~20、『アルタ・マール:公海の殺人』18話)、カルメン・マウラがイベロアメリカ・プラチナ賞の助演女優賞を受賞した「Tierra de mujeres」(24、3話)、カンデラ・ペーニャに同じイベロアメリカ・プラチナ賞主演女優賞をもたらした「El caso Asunta」(24、『アスンタ・バステラ事件』6話)などがある。


(トリスタン・ウジョアが主演した『アスンタ・バステラ事件』)
★Bambú Producciones は2007年、製作者で脚本家のラモン・カンボス(ア・コルーニャ1975)が中心になって設立した制作会社、他にテレサ・フェルナンデス=バルデス、主にTVシリーズのドラマや犯罪ドキュメンタリーを手掛けている。以下受賞歴のある話題作を挙げると、Netflixが初めてスペイン語のTVシリーズとして製作したのが「Las chicas del cable」(17~20、『ケーブル・ガールズ』41話)、「El caso Asunta」(24、『アスンタ・バステラ事件』6話)、「Tierra de mujeres」(24、3話)、「Gran hotel」(11~13、『グラン・オテル』38話)、「Velvet」(13~16、『ベルベット』56話)、「Fariña」(18、10話)、「Alta mar」(19~20、『アルタ・マール:公海の殺人』18話)など。

★ドキュメンタリーではスペインで起きた未解決殺人事件も含めて犯罪物を多く製作している。「El caso Alcasser」(19、『アルカセルの惨劇 少女3人殺害事件』5話)、「El caso Asunta~Operación Nenúfar」(17、4話)、「800 metros」(22、『800メートルの恐怖:バルセロナ・テロ事件』3話)、映画ではアルベルト・ピントの「Malasaña 32」(20、『スケアリー・アパートメント』)、カルロス・セデスの「El verano que vivimos」(20)、ハコボ・マルティネスの「13 Exorcismos」(22)、イサキ・ラクエスタの「Un año , una noche」(22)、最新作が「La viuda negra」である。
怪物は人里離れた廃屋には住んでいない――犯人は平凡なあなたの隣人
A: クレジットによると脚本家が6人と多く、「船頭多くして船山に上る」が危惧されたが、どうでしょうか。3部構成になっており、第1部がカルメン・マチ扮するエバ・トーレスの視点、第2部がイバナ・バケロ扮する夫殺害を計画するマヘの視点、第3部がトリスタン・ウジョア扮する実行犯サルバの視点プラス総括、犯罪ドラマにしては2時間は長すぎた。

(バレンシア殺人捜査課所属のエバ:トーレス役のカルメン・マチ)

(夫殺害の計画犯マヘ役のイバナ・バケロ)
B: 特に第2部のマヘの夫殺害の動機の掘り下げが雑で、映画というよりTVミニシリーズのような印象を受けた。早い段階でマヘがゴミ女であることは分かるが、もっと複雑な性格なのではないか。
A: まるで欲しい獲物を狙い撃つニンフォマニアのような描き方で、両親に強制された厳格な宗教的な背景への反発、スペインの地方都市に暮らす女性の息苦しさが描ききれていなかった。
B: マヘがなぜ好きでもないアルトゥーロと結婚したのか、アルトゥーロがなぜ結婚式1ヵ月前に発覚したマヘの浮気を受け入れたのか、映画からは見えてこない。

(アントニオ・ナバロ・セルダンとマリア・ヘスス・モレノ・カント)

(左アントニオとマリア、右アルトゥーロとマヘ)

(サルバ役のトリスタン・ウジョアとサルバドール・ロドリゴ・ラピエドラ)
A: 本事件は2017年8月16日に自宅マンションの駐車場で遺体が発見され、翌2018年1月10日に容疑者が逮捕されるまでを描いている。最初から犯人は未亡人マヘと割れていて難事件というほどではなかった。マヘのアリバイも稚拙で直ぐ嘘とばれてしまうものであり、6ヵ所の深い刺し傷から女性の単独犯説は初期の段階で消えた。ただ実行犯の割り出しに時間が掛かり、結果捜査班は意外な人物に辿りつく。分かってみれば、あまりの「悪の凡庸さ」に一同驚きを隠せない。
B: 実行犯サルバは、マヘが働いている病院の年配の同僚でした。同じ職場で働く看護師の妻、18歳になる息子、介護が必要な母親という〈平凡〉を絵に描いたような家庭でした。日ごろ憎からず思っていた若い女性から愛を囁かれ有頂天になって殺人を犯すには、もっと長い心の道程を描く必要があったのではないか。

(サルバとマヘ)
A: 憎しみや絶望から犯行に及ぶわけではない。実直な中年男性の心に流れる静かな隙間風、男の身勝手な正義感や見当違いの忠誠心から、いやいや犯行に引きずり込まれていく悲哀をトリスタン・ウジョアが演じていた。
B: 友人フランセスクにマヘの写真を見せておきながら、自分に捜査の手が及ぶことはないと確信している愚かさが信じられない。
A: サルバはマヘの夫アルトゥーロを実際にはよく知らないわけで、マヘからの一方的な情報で殺害を決心する。恋は盲目とはいえ、その陳腐さに呆れる。人は「自分が信じたいことだけを信じる」の見本みたいです。
事件「その後」もなかなかユニーク、マヘは刑務所内で男児を出産
B: 映画は犯人逮捕までで裁判シーンは描かれないし、メディアを喜ばせたマヘのその後も描かれない。サルバは最初、自分の単独犯を主張してマヘを庇うが、結局マヘに利用されていただけと知って共謀を認める。
A: エンディングで実際の法廷シーンが挿入され、裁判の供述前に前言を翻したことが観客に知らされます。逮捕後マヘは、男女混合のピカセンテ刑務所に収監されるのですが、入所以来相変わらず多くの男性と関係している。それを知ってやっと目が覚める。
B: 受刑者間のセックスが容認されているわけだ。
A: 2020年8月28日の裁判でマヘに唆されて殺害したことを正式に認める。金銭の授受がない「請負殺人」でした。同年11月にマヘに禁固22年、サルバに禁固17年の刑が申し渡され結審する。教唆罪は実行犯と同じ罪が科されるのですが、マヘがサルバより5年加重されたのは「親族殺人」だからです。映画の字幕ではサルバが捜査に協力的だったから減刑されたとありましたが。
B: 教唆罪も重い、マヘは司法の手が自分に及ぶとは思っていないが、事件当時既に26歳でしたから賢いのかバカなのか首を捻る。
A: 横道にそれますが、殺人事件そのものも衝撃ですが、「その後」も興味深いのです。マヘは収監中に妊娠する。子供の父親は殺人の罪で2008年から同じ刑務所に収監されているダビという受刑者。それで出産設備のある別のアリカンテ刑務所に移送され、2023年7月に総合病院で男児を出産する。出産後はアリカンテ刑務所内にある男子禁制の母子寮で、子供が3歳になる2026年まで一緒に過ごせる。現在そこにいます。
B: 生まれてくる子に罪はないというわけですね。
A: 同じ塀の中でも母子寮のほうが自由度も高く待遇もいいので、妊娠を希望する女子受刑者がいるのかもしれません。一方、ダビは既に刑期を終えて出所していますが、当然マヘとの関係は終わらせている。
B: 実話を下敷きにしているとはいえ、フィクションとして見たほうがいいですね。人々の記憶が鮮明な直近の事件ですから、映像化にはそれなりの配慮が必要です。第2部のイバナ・バケロのヌードなど本当に必要だったとは思えません。
A: 脚本執筆の分担がどうなっているのか知りたいところです。第1部の警部補ベルニ殉職のサイドストーリーなど、エンディングまで意味不明でした。「ブラス・ガメス・オルティスを偲んで」の字幕が出て、初めて分かった。主役はタイトルになった「邪悪な未亡人」マヘではなく、エバ・トーレス率いる事件解決98パーセントの「バレンシア殺人捜査班」です。

(2017年9月12日、51歳で殉職したブラス・ガメス・オルティスの葬儀)

B: 大分たっぷりめのマチがスクリーンに登場すると画面が生きいきしてくる。最初にTVミニシリーズの話があったそうですが。
A: 冒頭に出てくるマヘの遊び友達ソニア役でタニア・フォルテアの起用がアナウンスされたのです。ですから4話ぐらいのミニシリーズかと思っていました。事情はあくまで憶測でしかありませんが、何らかの理由により途中で変更されたのではないでしょうか。映画の台本を6名で執筆するなど異例です。それにソニアの描き方もステレオタイプで、わざわざ出演をアナウンスするほどではなかった。
B: 今回のネット配信で寝た子を起こされた、事件とは全く無関係のサルバの息子(実際は娘)や妻、元夫の親族のプライバシーがどうなっているのか気になります。かなりのお化粧直しはプライバシー保護の観点からも当然です。
A: そんなこんながネックになって、TVシリーズ化がおじゃんになったか。描けるのは逮捕劇までですね。捜査班の3人がマヘとサルバのプリペイド式携帯の通話記録を聞くシーンはコミカルでちょっと笑えた。マチによると「女性の観客は実話に基づいた殺人事件が好き」だそうで、ターゲットは女性のようです。「劇場に来てくれるのは70パーセント以上が女性」ともエル・パイス紙に語っている。

(捜査班の3人、トゥリ、エバ、ベルニ、フレームから)

(ベルニ亡きあとに配属されたハビエル・ヒルとエバ)
B: マヘを演じたバケロが「マヘはとても複雑で、心に闇を抱えているように思える」と、インタビューに応えていますが、スクリーンからは見えてこなかった。
A: エバのセリフに「尽くしてくれる男を求めるタイプ」とあったが、それに「お金」をプラスしなければならない。ダニエルのようにお金持ちで未来に目を向けることのできる男性が理想的、因習が支配的な故郷ノベルダから精神的に離れられないアルトゥーロなどお呼びでなかった。殺人の決意を加速させた一因は、ダニエルとの偶然の出会いでしょうか。
B: 引き金です。殺さずとも離婚すればすむはずなのに「離婚するより未亡人に見られるほうがマシなタイプ」、バレなければ遺産も遺族年金も受け取れる。理想を言えば、夫の同僚ルイスのように交通事故死してくれることでした。夫の葬儀の空涙の名演技も実話通りなら褒めてやりたい。
A: しかし仕事もせずラクして金持ち男に寄生するタイプではない。病院と介護施設を掛け持ちして夜勤もこなす〈優しくて親切な〉看護師なのです。殺人の三大動機「ドラッグ、お金、アモール」、ドラッグはやっていなかった。マヘのなかには複数の人格が存在しているように思えます。
B: サルバのように殺人など犯しそうでない人が、いとも簡単に一線を越える恐怖、道徳的な自己欺瞞がどのように機能するのか、裁判シーンがあったら浮かび上がってきたように思った。
★キャスト紹介:
*カルメン・マチについては、マラガ映画祭2025の大賞マラガ―スール賞を受賞した折にキャリア&フィルモグラフィー紹介しています。コチラ⇒2025年04月06日

(エル・パイスのインタビューを受けるカルメン・マチ、2025年5月6日、マドリード)
*イバナ・バケロ、1994年バルセロナ生れ、ギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』(06)の赤い靴を履いた可憐な少女を演じ、子役ながらゴヤ新人女優を受賞した。大人になってからは前述したカルロス・セデスの『アルタ・マール:公海の殺人』、カタルーニャ語はもちろん英語もできるので、イサベル・コイシェのホラー「Another Me」(13)に起用されている。ほか米国コメディ『ブラックフライデー』(22、DVD)にも出演している。目標は同じ子役出身のジョディ・フォスター、ナタリー・ポートマンの由、これからです。

(夫の死に泣き崩れるマヘ)

(新任刑事ハビエル・ヒルに手錠をかけられるマヘ)
*トリスタン・ウジョア、1970年、当時両親が亡命していたフランスのオルレアンで生まれた。俳優、監督、脚本家、フランス語、スペイン語、カタルーニャ語、英語ができる。主にスペイン映画で出演している。代表作は、ジャウマ・バラゲロのホラー『ネームレス無名恐怖』(99)、フリオ・メデムの『ルシアとSEX』(01、ゴヤ賞主演男優賞ノミネート)、アントニオ・チャバリアスの「Volverás」(02、マル・デル・プラタ映画祭スペシャル・メンション、アリエル賞ノミネート)、マヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』(06)、イシアル・ボリャインの「Mataharis」(07、ゴヤ主演ノミネート)、フアン・マルティネス・モレノのスリラー「Un buen hombre」(09)、最新作はカルラ・シモンの「Romería」(25)。
TVシリーズでは「Fariña」(18、10話)、『シスター戦士』(20~22、英語、Netflix 配信)、先述したカルロス・セデスの『アスンタ・バステラ事件』でフォトグラマス・デ・プラタ賞受賞、フェロス賞とスペイン俳優連盟賞にノミネートされた。2002年、弟ダビ・ウジョアと共同で短編「Ciclo」を監督する。ついで共同で監督した「Pudor」(07)がカルロヴィ・ヴァリ、ワルシャワ、マラガ、シカゴ、各映画祭にノミネートされ、翌年のゴヤ賞新人監督賞と脚色賞にノミネートされた。現在ダビ・ウジョアは主にTVシリーズの監督として活躍している。

(犯行のチャンスを窺うサルバ)
アルモドバルの新作「Amarga Navidad」がカナリア諸島でクランクイン ― 2025年06月17日 19:12
アルモドバル新作「Amarga Navidad」は悲喜劇――痛みとユーモア

(ビクトリア・ルエンゴ、監督、パトリック・クリアド、バルバラ・レニー)
★6月9日、昨年10月に発表された新作「Amarga Navidad / Bitter Chrismas」が、カナリア諸島のランサローテ島でクランインした。ペドロ・アルモドバルの24作目となる本作は、監督自身の12編からなる短編集 “El último sueño”(Reservoir Books 2023年4月13日刊)におさめられた《Amarga Navidad》と、チャベラ・バルガスの歌曲 “Amarga Navidad” をミックスしたものがベースになっているそうです。短編集のタイトルになった《El último sueño》は、母親の死を題材にした短編集のなかでも最も完成度の高い、自身もお気に入りの1編とか。因みに第57回カンヌ映画祭2004のオープニングを飾った『バッド・エデュケーション』は、同短編集の《La visita》がベースになって映画化された。彼は2002年の自伝で既にカミングアウトしていた。

(短編集の表紙)
★イサベル・バルガス・リサノ(チャベラはイサベルの愛称)は、2019年コスタリカ生れ、17歳でメキシコに移住して活躍したメキシコの国民的な大歌手、ランチェラやボレロのシンガーソングライター、女優。2012年クエルナバカで93歳で死去するまで、メキシコの大衆に愛された歌謡を独自の解釈で個性的に歌い続けた。民間伝承の名曲「ラ・ジョローナ 泣き女」もリリースしている。50年代の後半にブレークする以前、メキシコを代表する画家ディエゴ・リベラとフリーダ・カーロ夫妻と1年ほどの短期間だが同居しており、フリーダと恋愛関係にあった。歌手でもあるアルモドバルは、チャベラに深い愛情と尊敬の念を抱いており、彼女の「優美なしわがれ声」のファンであった。新作でもサウンドトラックでチャベラの演奏が流れるようですが、既に『ジュリエッタ』や『ライブ・フレッシュ』などで採用している。


(フリーダ・カーロとチャベラ・バルガス)

(チャベラ・バルガスと監督)
★キャスト紹介:ストーリーは、クリスマスの日にパートナーに捨てられる女性エルサの物語。現在アナウンスされている出演者は、以下の通り。
バルバラ・レニー(エルサ、『神が描くは曲線で』『ペトラは静かに対峙する』
『マジカル・ガール』『日曜日の憂鬱』)
ビクトリア・ルエンゴ(『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』「Suro」)
アイタナ・サンチェス=ヒホン(『パラレル・マザーズ』『裸のマハ』『娼婦と鯨』)
ミレナ・スミット(『パラレル・マザーズ』「No matarás」TV『スノーガール』)
レオナルド・スバラリア(ラウル、『ペイン・アンド・グローリー』『UFOを愛した男』)
パトリック・クリアド(『レッド・バージン』『バード・ボックス・バルセロナ』
『ペーパー・ハウス』)
キム・グティエレス(『ラスト・デイズ』『SPY TIME スパイ・タイム』
『漆黒のような深い青』)




*バルバラ・レニーのキャリア紹介記事は、コチラ⇒2015年03月27日/2018年06月21日
*アイタナ・サンチェス=ヒホンのキャリア紹介は、コチラ⇒2024年12月17日
★スタッフ紹介:製作:El Deseo / Movister Plus+ 監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
製作者:アグスティン・アルモドバル 撮影:パウ・エステベ・ビルバ(『カニバル』『リミット』『アウェイクニング』) 美術:パブロ・ブラッティ(『抱擁のかけら』『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』『ジュリエッタ』)
★2026年公開予定、配給はワーナーブラザース・ピクチャーズ(スペイン)、公開後はモビスター・プラスのプラットフォームで独占的に配信される。カンヌに間にあえばだが、時間的にはベネチアでのプレミアの可能性が高いか。『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』で金獅子賞を受賞した折、「金獅子賞には中毒性がある」と語っていた。

(金獅子賞のトロフィーを手にして、ベネチア映画祭2024ガラ)
第12回イベロアメリカ・プラチナ賞2025*結果発表 ― 2025年06月11日 17:09
作品賞を制したのはウォルター・サレスの「Ainda estou aquí」

★4月27日(日)、第12回イベロアメリカ・プラチナ賞2025の授賞式がありました。偶数回はスペイン開催の年ということでマドリードのIFEMA Palacio Municipal *で開催されました。奇数回はラテンアメリカ諸国、昨年はメキシコのリビエラ・マヤのエルグラン・トラチコ劇場で開催されました。カテゴリーは第1回の8部門から23部門に増加しています。主宰するのは初回からEGEDA(視聴覚著作権管理協会、エンリケ・セレソ)とFIPCA(イベロアメリカ映画視聴覚製作者連盟、アイスリン・デルベス&アシエル・エチェアンディア)の2団体です。
*IFEMA(マドリード見本市協会Institución Ferial de Madrid)Palacio Municipalは、1993年完成したマドリードにあるコンベンションセンター、2019年より IFEMA が運営している。EU 首脳会議、IMF、世界銀行の会議、NATOや国連のサミットの会場としてスペインでの国際イベントが開催されている。
★総合司会者は、FIPCAのメキシコの女優アイスリン・デルベスとスペインの俳優アシエル・エチェアンディアでした。

(レッドカーペットにて)
★イベロアメリカ映画賞作品賞(フィクション部門)にウォルター・サレスの政治ドラマ「Ainda estou aquí / Aún estoy aquí / I’m Still Here」が選ばれました。アカデミー賞2025国際長編映画賞、ゴールデングローブ賞主演女優賞、ベネチア映画祭2024脚本賞、各受賞と他の追随を許さない実績から予想通りの結果でした。邦題は英語題のカタカナ『アイム・スティル・ヒア』、2025年8月8日劇場公開が決定しています。他に監督賞、主演女優賞(フェルナンダ・トーレス)の3冠でしたが二人とも欠席でした。昨年はラテンアメリカ諸国はノミネートも少なく淋しい限りでしたが、TVシリーズ部門もコロンビアの「Cien Años de Soledad」『百年の孤独』が作品賞、男優賞(クラウディオ・カターニョ)、助演男優賞(ハイロ・カマルゴ)の3冠を制し、今回は新大陸が気を吐きました。
*第12回イベロアメリカ・プラチナ賞2025受賞結果*
*映画部門*
◎作品賞(フィクション)
「El 47」スペイン、監督マルセル・バレナ
「Grand Tour」『グランド・ツアー』ポルトガル=伊=仏、監督ミゲル・ゴメス
「El Jockey」『キル・ザ・ジョッキー』アルゼンチン、監督ルイス・オルテガ
「La infiltrada / Undercover」スペイン、監督アランチャ・エチェバリア
「Ainda estou aquí / Aún estoy aquí / I’m Still Here」『アイム・スティル・ヒア』(ブラジル=フランス)製作者:マリア・カルロタ・ブルノ、ホドリゴ・テイシェイラ、マルティーヌ・ドゥ・クレルモン=トネール、監督ウォルター・サレス
*製作者ホドリゴ・テイシェイラと長女ヴェラを演じたヴァレンティナ・ハーサージュの2人が出席した。


(ホドリゴ・テイシェイラ)

◎コメディ賞(フィクション)
「Buscando a Coque」(スペイン)監督テレサ・ベリョン、セサル・F・カルビーリョ
製作ベアトリス・ボデガス

(ベアトリス・ボデガス)

(テレサ・ベリョン、セサル・F・カルビーリョ)
◎オペラ・プリマ賞
「El ladrón de perros」(ボリビア)監督ビンコ・トミシック・サリナス


(左から、製作者ガブリエラ・マイレ、監督、製作者エダー・カンポス)
◎監督賞
アランチャ・エチェバリア(La infiltrada)
ルイス・オルテガ(「El Jockey」『キル・ザ・ジョッキー』)
ペドロ・アルモドバル(「La habitación de al lado」『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』)
ウォルター・サレス(「Ainda estou aquí」『アイム・スティル・ヒア』)


(欠席、代理は製作者ホドリゴ・テイシェイラ)
◎ドキュメンタリー賞
「El eco」(メキシコ)監督タティアナ・ウエソ


◎アニメーション賞(フィクション)
「Mariposas negras」(スペイン=パナマ)監督ダビ・バウテ


(中央がダビ・バウテ監督)
◎脚本賞
アランチャ・エチェバリア、アメリア・モラ(「La infiltrada」)
*プレゼンターは、トランプ大統領からアメリカから追放(!)を受けた話題のカルラ・ソフィア・ガスコンでした。

◎撮影賞
エドゥ・グラウ(『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』)

◎オリジナル音楽賞
アルベルト・イグレシアス(『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』)

◎編集賞
ビクトリア・ラマーズ(「La infiltrada」)


◎美術賞
エウヘニオ・カバジェロ、カルロス・Y・ジャック(『ペドロ・パラモ』、メキシコ、
監督ロドリゴ・プリエト)


(左から、エウヘニオ・カバジェロとカルロス・Y・ジャック)
◎録音賞
ディアナ・サグリスタ、アレハンドロ・カスティーリョ、アントニン・ダルマッソ、
エバ・ベリニョ(「Segundo Premio」スペイン、監督イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス)

(ディアナ・サグリスタ)
◎女優賞
フェルナンダ・トーレス(「Ainda estou aquí」ブラジル)監督ウォルター・サレス
*ノミネート:カロリナ・ジュステ(「La infiltrada」)、ウルスラ・コルベロ(「El Jockey」)、ソル・カルバリョ(「Memorias de un cuerpo que arde」)


(受賞者欠席、代理で女優のヴァレンティナ・ハーサージュが代読した)
◎男優賞
エドゥアルド・フェルナンデス(「Marco」スペイン)
監督アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ
*ノミネート:ルイス・トサール(「La infiltrada」)、マヌエル・ガルシア=ルルフォ(『ペドロ・パラモ』)、ナウエル・ペレス・ビスカヤート(「El Jockey」)


(仲良し親子、愛娘グレタ・フェルナンデスと)
◎助演女優賞
クララ・セグラ(「El 47」)


◎助演男優賞
故ダニエル・ファネゴ(「El Jockey」)
*受賞者は2024年9月に亡くなり、息子マヌエルが代理で受け取った。




(大先輩を偲んでキャスト&スタッフ揃って参加しました)
◎価値ある映画と教育プラチナ賞
「Memorias de un cuerpo que arde」(コスタリカ=スペイン、監督アントネリャ・スダサシ・フルニス)


◎観客賞
「La infiltrada」製作マリア・ルイサ・グティエレス、メルセデス・ガメロ、俳優賞には男優賞ルイス・トサール、女優賞カロリナ・ジュステが受賞しました。

*TVシリーズ部門*
◎作品賞(フィクション & ドキュメンタリー)
「Cien Años de Soledad」(『百年の孤独』8話、コロンビア、
創案者ロドリゴ・ガルシア、アレックス・ガルシア・ロペス、ラウラ・モラ・オルテガ、
Netflix)



(受賞を確信して、はるばるコロンビアから大勢で参加しました)
◎創案者(クリエーター)賞
ビセンテ・アモリム、フェルナンド・コインブラ、ルイス・ボロニェージ、
パトリシア・アンドラーデ (「Senna」『セナ』6話、ブラジル、Netflix)

(クリエーターのルイス・ボロニェージ)

◎女優賞
カンデラ・ペーニャ(「El caso Asunta」『アスンタ・バステラ事件』6話、スペイン、
創案者ラモン・カンポス、ジョン・デ・ラ・クエスタ、ジェマ・R・ネイラ、Netflix)


◎男優賞
クラウディオ・カターニョ(『百年の孤独』コロンビア)

◎助演女優賞
カルメン・マウラ(「Tierra de mujeres / Land of Women」『ランド・オブ・ウーマン』6話、米国=スペイン、創案者ラモン・カンボス、パウラ・フェルナンデス、テレサ・フェルナンデス=バルデス、Apple TV+)


(栄誉賞受賞のエバ・ロンゴリアと共演、フレームから)
◎助演男優賞
ハイロ・カマルゴ(『百年の孤独』コロンビア)

(アポリナル・モスコス役のハイロ・カマルゴ)
◎観客賞
「Cien Años de Soledad」が受賞、俳優賞は同作出演のクラウディオ・カターニョ、女優賞は「El caso Asunta」のカンデラ・ペーニャの手に渡りました。
◎栄誉賞
エバ・ロンゴリア(エヴァ、俳優、監督、製作者)、1975年テキサス州生れのメキシコ系アメリカ人、牧場主エンリケ・ロンゴリア・ジュニアと教師エラ・エバ・ミレレスの四女、テキサスA&M大学キングスビル校で学び、運動学キネシオロジーで理学士号を取得した。その後タレントコンテストに応募、ロサンゼルスに移住してチャンスを掴んだ。TVシリーズ『ビバリーヒルズ青春白書』(00)でデビュー、代表作TVシリーズ『デスパレートな妻たち』(04)のチャーミングな主婦役でブレイクした。他に『ブルックリン・ナイン・ナイン』(14~15)、映画ではユージン・アッシュの『シルヴィ~恋のメロディ~』(20)など。


★カルメン・マウラがエバ・ロンゴリアの母親役で助演女優賞を受賞したTVコメディシリーズ「Tierra de mujeres / Land of Women」に娘役で主演している。カタルーニャ州ジローナで撮影され、言語はスペイン語、英語、カタルーニャ語、エグゼクティブプロデューサーも務めている。チャリティー活動にも熱心でエバ・ロンゴリア財団を設立して、ラテンアメリカ人の教育や起業にも力を注いでいる。教育をテーマにした論文を多数執筆しており、チカーノ研究の修士号を取得している。

(プレゼンターはエンリケ・セレソ会長とサプライズのソフィア・ベルガラ)

(ソフィア・ベルガラとのツーショット)
★マドリード開催にしてはスペイン・サイドの欠席者が多すぎました。
シモン・メサ・ソトの「Un poeta」審査員賞*カンヌ映画祭2025「ある視点」 ― 2025年06月06日 11:04
シモン・メサ・ソトの第2作「Un poeta」が審査員賞

(左から、編集者リカルド・サライヴァ、製作者マヌエル・ルイス、シモン・メサ監督、
ウベイマル・リオス、撮影監督フアン・サルミエント、製作者カタリナ・ベルクフェルト、
5月20日、フォトコール)
★ラテンアメリカに「ある視点」の大賞審査員賞をもたらしたのが、コロンビアの監督シモン・メサ・ソトの「Un poeta」(ドイツ、スウェーデン合作)です。作品紹介で述べたようにホセ・ルイス・ルヘレスの「Alías María」以来、10年ぶりのことになります。詩人としては大成できなかったが、若い才能を育てることに生きがいを感じている中年教師オスカル・レストレポのメタ・サティラ。キャリア紹介はカンヌ映画祭2016短編部門に「Madre」がノミネートされた折りアップしていますが、1986年メデジン生れ、アンティオキア大学マルチメディア&視聴覚コミュニケーション卒、奨学金を得てロンドン・フィルム・スクール映画監督博士課程で学んでいる。
*「Un poeta」の紹介記事は、コチラ⇒2025年05月14日
*「Madre」作品 & キャリア紹介記事は、コチラ⇒2016年05月12日
* 長編デビュー作「Amparo」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月23日

(スタッフ&キャスト、レッドカーペットにて)
★前回の作品紹介の段階ではキャストについて情報が入手できませんでしたが、主役二人は本作で俳優デビューしたようです。監督曰く、オスカル・レストレポのキャラクターを作るために、自分の家族や教授仲間たちからインスピレーションを得た。内気で高尚だがアルコールとノスタルジーに浸っている人々です。プロの俳優の必要性を確信していましたが、そうすると映画が重たくなるだろうと考えていました。そんなとき偶然にも、友人が彼の叔父さんがドンピシャリだと推薦してくれたのが、カメラの前に立ったことなど全くないアマチュア、教員生活30年、54歳の教授ウベイマル・リオスだった。第一印象は主人公とはイメージと違っていたが、結果的には彼と一緒に仕事をすることになった。

(メサ監督と監督の分身でもあるオスカルを体現したウベイマル・リオス)
★上映される日まで「カンヌ、カンヌと騒がれても」リオスは少しも実感が湧かなかった。しかし上映後その「素晴らしさ」を実感することになった。登場人物は「とても気高く、ノーブルな人物、とても気に入ってしまった。私自身も詩が大好きなんです」とリオスはカンヌで語っている。オスカル役は人選に難航したが、女学生ユレディ(ユルレディ)は簡単に決まった。キャスティングに学校回りをしていたときにレベッカ・アンドラーデに出会った。こちらも演技の経験はなかったが、「演技に対する勘の鋭さが可能性を感じさせたので即決した」と監督。カンヌには参加しなかったようです。

(レベッカ・アンドラーデ、フレームから)
★「これは私の個人的な映画です。詩人は私自身なのです。長年コロンビアで映画を作りたいという映像作家としてのフラストレーションを描いています。勿論、映画を撮りたいと夢想するだけでできないでいる他の教師のようにはなりたくなかった」と製作の意図を語っている。「コロンビア人独特のユーモアやエモーションを取り入れ、どこかパンク的な、へんてこだが同時に美しくもあるもの、この映画は私たちコロンビア人についての物語、私たちの矛盾を心を込めて、批判も込めて語りました」とも。Cineuropaは、「メサ・ソトの才能を示した力ある模範例、慎み深い視点と独特のユーモアを込めて、主人公のフラストレーションや抵抗をとらえることができた」と評している。
★製作者については前回簡単に紹介していますが、興奮も冷めやらぬガラの翌日、シモン・メサ監督と撮影監督のフアン・サルミエント・G .(1984)が、「CAMBIO」のインタビューを受けた記事から、二人が映画について同じビジョンを共有していることが見てとれる。サルミエントはメサのデビュー作「Leidi」(14)からコラボしている。「フアンはほとんど家族同然、多くの場合ごちゃごちゃ言う必要がないんだ」と、以心伝心の間柄であることを強調する監督は、それは二人が「映画に対して同じビジョンを持っているからだと思う」と述べている。今回スタイルを変えるにあたっても、「プロセスは流動的だったが、彼が要求したことを話し合いながら私たちは決めました」と応えている。

(製作者マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、監督、フアン・サルミエント、ガラにて)
★インタビュアーの「主役が女性から男性に変わったことが関連しているか」という質問には、「それはあまり関係ない。変化は私の関心が男性のジレンマを掘り下げることに関係している。私たちは芸術の重要性と衝撃について個人的に多くの問題に直面している。特に芸術的なビジョンを実現する上での経済的な圧力を前にしている」と監督。この映画は「シモン個人の危機を反映しているか」という質問には「イエス」と即答している。「年齢の危機、芸術的ビジョン、経済の安定、映画を作り続けるために欠くことのできない頑固さをどうやって維持していくのか」と吐露している。

(主人公オスカルは監督のアルターエゴ、5月20日)
★コロンビア人特有の文化的なユーモアがふんだんに盛り込まれているようだが、ローカルだけでなくインターナショナルにも理解できるようにした。観客がアクセス可能なしっかりした価値をもった映画を作ることを目標にしたとコメントしている。過去のコロンビア映画から影響を受けたものはないが、「ズームのカメラを使用したアメリカのジェリー・シャッツバーグが撮った70年代の映画に影響を受けた」と。具体的に作品名は挙げなかったが、第26回カンヌ映画祭1973のパルムドールを受賞した『スケアクロウ』などを指しているのだろうか。1970年、フェイ・ダナウェイとタッグを組んだ『ルーという女』でデビューした監督、検索したら97歳でご健在でした。フランスのピエール・フィルモンのドキュメンタリー『ヴィルモス・ジグモンドとの緊密な出会い』(16)に出演している。
★2021年の長編デビュー作「Amparo」から撮影監督だけでなく製作も手掛けるようになったフアン・サルミエントは、監督から渡された脚本に目を通して直ぐ「変化を感じた」と語っている。「最初に何を求めているかがはっきりすると、自然に問題が浮きあがってくる。視点は既に充分だった。仕事のやり方は、調和が取れてくるとだんだん落ち着いてくる」と語った。また撮影には本物らしさのタッチとパンクを醸すよう80年代のドキュメンタリーに影響を及ぼした70年代の美学を選択した。「本物らしさとどぎつい美しさをわざと無頓着に反映させた美学に焦点を合わせたことで作品に魂を入れることができた」と語っている。16ミリを採用したのは、「過去のプロジェクトでは恒常的に資金不足で使いたくても使えなかったが、今回は経済的な問題がなかったので採用することができた」と応じていた。秋の映画祭上映を期待したい。
ディエゴ・セスペデスのデビュー作が「ある視点賞」受賞*カンヌ映画祭2025 ― 2025年06月01日 17:05
デビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」が「ある視点賞」の快挙

★今年のカンヌ映画祭「ある視点」はラテンアメリカにとって大収穫の年でした。チリの若干30歳のディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamenco」が最高賞の作品賞(副賞30.000ユーロ)、2席に当たる審査員賞にコロンビアのシモン・メサ・ソトの「Un poeta」が受賞しました。このブログも既に十年を超えましたが、記憶を辿るかぎり初めてのことです。両作とも作品紹介記事をアップしておりますが、カンヌでのプレス会見記事から、詳細が分かるにつれ間違いも見つかる半面、疑問も解消されました。カンヌはほとんどがワールドプレミアなので情報に混乱があるからです。今回はセスペデスの作品賞受賞に絞ってアップいたします。
*作品紹介とセスペデス監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2025年05月12日

(参加したスタッフ&キャスト一同、レッドカーペットにて)
★受賞理由は、映画は「セスペデス監督の並外れた独創性や過酷さと感性に溢れています。世界レベルでのエイズの危機を語るのに、人間性の不在を描き、スクリーンに現れる登場人物を見ると、私たちの心は幸せに満たされます。生々しく力のある作品なのですが、楽しみにも溢れ、エネルギーを備えています」と、審査委員長モリー・マニング・ウォーカー(イギリスの監督、脚本家、撮影監督、『ハウ・トゥ・ハヴ・セックス』で2023年のグランプリ受賞者)が称賛しました。

(プレゼンターは審査員の一人アルゼンチンの俳優ナウエル・ぺレス・ビスカヤート)

(受賞スピーチをするセスペデス監督、リディア役のタマラ・コルテス、
ラ・フラメンコ役のマティアス・カタラン)
★監督を支えつづける製作者のジャンカルロ・ナシは「1000作を超える応募作から選ばれただけでなく受賞できたのは、ロッテリア(宝くじ)に当たったようなものです。国境を行き来すること数年がかりでした。ディエゴには転機になる作品、受賞はご褒美です」とコメント。軍事独裁政権を20年近く守ってきた不寛容なお国柄ゆえ、諸手を上げては喜べないでしょう。一部の人々にとっては不愉快で不都合な映画であり、カンヌなど「どこの国のお祭りですか」ですから。

(左から、パウラ・ディナマルカ、タマラ・コルテス、マティアス・カタラン、監督、
ペドロ・ムニョス、フランシスコ・ディアス、5月16日、フォトコール)
★他の人々と同じように愛し合ってどうしていけないのか、と立腹している人々と作った映画、監督がカンヌで語ったところによると、「私が生まれたころ、両親はサンティアゴの郊外でヘアサロンを経営していました。ところが働いていたゲイの美容師全員がエイズで亡くなってしまいました。そのことが母親に深く影響し、この病気に対して大きな恐怖心を抱くようになりました。私はエイズが恐ろしいという考えをもって育ったのです。しかし、大きくなるにつれ自分がゲイであると理解するようになると、世界が広がり始めました。私が輝く存在と見なす反体制派の人々に出会ったことが、私の視点を変えました。それがこの映画の最も重要な側面の一つだと思います。血縁はないが愛のある家族の創造を通じて、これらの人々がどのように生き延び、どのように生き残るために互いを助け合ったかを描くということです」と。

(セスペデス監督)
★一番の不安は、主人公リディアを演じるのが、11歳の女の子(タマラ・コルテス)ということだったそうです。しかし彼女は「樫の木のように強く、熱心で、安定して」おり、何度もテイクを撮らなければならない複雑なシーンでも1度で完璧に演じた。タマラの才能、技術にはとても感動したとも語った。クィアのコミュニティを統べる女族長のようなママ・ボア役のパウラ・ディナマルカはほぼアマチュアでしたが、知人のトランスジェンダーの女性に触発されてキャラクターを作り上げた。パウラの顔、自然な存在感、怒り、そして愛が「映画の本質を秘めた小瓶を満たしている」と絶賛している。悲劇を背負うには幼すぎるが、悲しんでばかりいるには成熟しすぎてしまった少女に、生き残るだけでなく抵抗することも教えた登場人物です。

(将来を思案する12歳の少女リディア、フレームから)
★ラ・フラメンコ役のマティアス・カタランは魅力的なプロフェショナルの俳優、主役を演じるのは今作が初めて、「彼はこのキャラクターに全てを捧げた」と監督、フアン・フランシスコ・オレアの「Oro Amargo」(24)、他TVシリーズ出演。ラ・フラメンコの恋人ヨバニを演じたペドロ・ムニョスもプロの俳優、「目と体を通して表現できる能力をもっており、信じられないほど強力」と監督。チリでは才能がありながらチャンスが与えられない演技者が多いとも述べている。ムニョスはグスタボ・メサの演劇学校「Imagen」で演技を学んだ後、2013年にチリのラス・アメリカス大学で舞台芸術の学位を取得、振付家でもある。チリの劇団「Ia re-sentida」の創設メンバーで、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アジアなど国際的に活躍している。

(マティアス・カタラン、セスペデス監督、製作者ジャンカルロ・ナシ)
★ストーリーをアップしながら違和感のあった一つが、子供のリディアがどうして謎の病気をナビゲートするのかという疑問でした。ネタバレになりますが、ラ・フラメンコは恋人ヨバニの暴力で命を落としてしまう。全くの孤児になってしまった自身を守るため、恐怖や偏見、華やかな衣装の重みで崩壊しつつあるクィアのコミュニティを調べ始めるようです。予告編に現れるリディアは大人びていて12歳とは思えない。本作は寓話的なミステリーであるだけでなく、エイズ危機の解説、クィアの恐怖と欲望、社会的な圧力のもとでの愛の歪曲についてが語られるようです。
オリベル・ラシェの「Sirat」が審査員賞*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月29日 18:50
パルムドールは予想通りジャファール・パナヒの「Un Simple Accident」

(ジャファール・パナヒ、カンヌFF 授賞式、5月24日)
★今年のカンヌは「パナヒのためのカンヌ」と言われて、受賞は発表を待つまでもなく受賞は確実視されていたらしい。なんせ審査委員長はジュリエット・ビノシュですからね。これでジャファール・パナヒは三大映画祭の最高賞(金獅子、金熊)を獲得、グランドスラムを達成した。 反イランの監督作品が受賞したことでイラン外務省がたまりかねて抗議したとか、授賞式当日に自称「無政府主義者」のテロリストによる変電所放火で大規模停電が起きたりとか、映画祭も政治絡みで物騒になってきました。何はともあれ政治的心理ドラマ「Un Simple Accident」は受賞に値する作品であることに間違いなさそう、昨年よりよほどましか。
★グランプリは、誰が計測してるのかスタンディングオベーションが19分だったというヨアキム・トリアーの「Sentimental Value」(ノルウェー、仏、デンマーク、独)、審査員賞は、オリベル・ラシェの「Sirat」(西、仏)とマーシャ・シリンスキーの「Sound of Falling」(独)の2作品、監督賞はクレベール・メンドンサ・フィリオの「O Secreto Agente / The Secret Agent」(ブラジル、仏、独、オランダ)でした。男優賞(ワグネル・モウラ)の他、FIPRESCI賞も受賞して最多受賞作となりました。かつてのカンヌ1作1賞の原則は反故になっています。彼は2019年『バクラウ 地図から消された村』で審査員賞を受賞しています。
オリベル・ラシェの「Sirat」が審査員賞

★星取表が星2つ(イマイチ)と4つ(イイね)に分かれ、賞に絡むのは難しいかなと予想していました。「リベラシオン」紙は星4つだったが、映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」と強力なメディアである「フィガロ」紙は星2つだった。しかし家族についての、喪失についてのロードトリップは多くの人の心に刺さったようで概ね好意的な評価でした。スタンディングオベーション同様当てになりません。

(審査員賞受賞のラシェ監督、5月24日)

(監督、セルジ・ロペス、ブルノ・ヌニェス、フォトコール)

(映画祭参加者一同)
★カルラ・シモンの「Romería」は無冠に終わりました。どちらかというと物語が分かりやすい分、好意的な評が多かったが、少しインパクトに欠けていたのではないでしょうか。「ガーディアン」紙、「スクリーン・インターナショナル」、「リベラシオン」、「ザ・ニューヨーカー」誌、「フィガロ」などは3星、「カイエ・デュ・シネマ」は2星でした。「ハリウッド・リポーター」誌はシモン監督にインタビューを試みているが、評価は公表しなかった。

(監督、製作者マリア・サモラ、新人リュシア・ガルシアとミッチ・ロブレス、
レッドカーペット)

(トリスタン・ウジョアと監督)
★シモン監督は妊娠8カ月目とかで大義そう、帰国したら「家でゆっくりしたい」と語っていた。ベルリン映画祭2022で『太陽と桃の歌』が金熊賞を受賞した折は、第1子をお腹に抱えていた。今年のカンヌはレッドカーペットでのスケスケの露出度の高いドレス、ボリュームのありすぎる長いトレーンが禁止されましが、間際だったこともあり控えのドレスがなかったり、着るものぐらい自由にさせてという勇敢な女性たちで、守られたとは言いがたい。リュシア・ガルシアのドレスもかなりスケスケですね。
★幼いころにエイズで両親を亡くしたシモンは、「両親の物語を再構築しようとすると、いつも痛みが走ります。家族の記憶の重要性、自分のアイデンティティをどのように形成するかについての映画です。他人を通じて自分のアイデンティティを作ることはできなくとも、創造を通じて発明することができる。映画はそのために存在し、存在しないイメージを創りだすことができる」とカンヌのインタビューで語った。長年苦しんできた家族のフラストレーションから解放されたのでしょうか。

(フォトコール、5月21日)

(カルラ・シモン、プレス会見にて)
*「Sirat」の作品紹介は、コチラ⇒2025年05月01/同年05月03日
*「Romería」の作品紹介は、コチラ⇒2025年05月08日
★次回は「ある視点」部門の作品賞受賞者、チリのディエゴ・セスペデス、審査員賞受賞者、コロンビアのシモン・メサ・ソトを予定しています。
ギジェルモ・ガロエの「Ciudad sin sueño」が脚本賞*カンヌ「批評家週間」 ― 2025年05月27日 15:06
インディペンデント賞のSACD脚本賞を受賞

★去る5月21日、第64回「批評家週間」の受賞結果が発表になり、スペインから唯一ノミネートされていたギジェルモ・ガロエ(本名ギジェルモ・ガルシア・ロペス)のデビュー作「Ciudad sin sueño / Sleepless City」(西=仏合作)がSACD(Sociedad de Autores y Compositores Dramáticos)が選ぶ脚本賞を共同執筆者のビクトル・アロンソ=ベルベルと一緒に受賞しました(副賞5.000ユーロ)。授賞式は22日。ガロエはカメラ・ドールにもノミネートされていました。このような若い監督の地味な作品に多くの制作会社が資金援助をしていることに感動しますが、文化に敬意をはらう風土を羨ましくも思いました。ガロエ監督の短編「Aunque es de noche」はカンヌ映画祭2023短編部門のコンペティションでプレミアされ、翌年のゴヤ賞2024で短編映画賞を受賞しています。製作者は本作も手掛けるダビ・カサス・リエスコ、ジャスティン・ペックベルティ、マリナ・ガルシア・ロペスなどでした。新人の登竜門と言われる「批評家週間」のノミネートはデビュー作、または2作までが対象です。
*ゴヤ賞2024授賞式の記事は、コチラ⇒2024年02月14日

(受賞のお祝いを受ける監督、出演者たち、授賞式)
★10年前にカニャーダ・レアル地区を訪れて以来、毎年取材に通い、具体化してから完成までに6年かかった由。受賞スピーチでは「私は脚本賞を頂くために此処に立っていますが、この映画の脚本家は他に大勢います」と、誇りと尊厳をもって、その価値とレジェンドを支持するカニャーダ・レアルの人々の協力に謝意を述べました。EFEのインタビューにも「多くの人々が電気もなく暮らしています。生き方の喪失に直面している彼らに、多くの賛同が寄せられることを期待します」と語っています。ルイス・ブニュエルのメキシコシティのスラム街を舞台にした『忘れられた人々』(50)に重ねる批評家が散見されましたが、監督によると、タイトルをガルシア・ロルカの詩 ”Ciudad sin sueño” から採り、ブニュエルとは関係ないと応じています。

(ギジェルモ・ガロエ)
「Ciudad sin sueño / Sleepless City」
製作:Sintagma Films / Buena Pinta Media / Encanta Films / BTeam Prods / Les Valseurs /
Tournellovision / Ciudad sin sueño la película AIE
協賛 Filmin / MovisterPlus+ / RTVE / ICAA / マドリード共同体文化評議会ほか
監督:ギジェルモ・ガロエ
脚本:ギジェルモ・ガロエ、ビクトル・アロンソ=ベルベル
撮影:ルイ・ポサス
編集:ビクトリア・ラマーズ
美術:アナ・マリョ・サンギネッティ
セットデコレーター:ジョアナ・ジナート
衣装デザイン:イラチェ・サンス
メイクアップ:マルタ・ガルシア・マンサノ、マルタ・ガルシア・サンチェス
プロダクション・マネジメント:ダビ・デ・ラ・フエンテ、パコ・ウベダ、エドゥアルド・ボデガス
製作者:アレックス・ラフエンテ、マリサ・フェルナンデス・アルメンテロス、マリナ・ガルシア・ロペス、マヌエル・カルボ、ダビ・カサス・リエスコ(以上エグゼクティブ)、ジャスティン・ペックベルティ、アンヌ・ドミニク・トゥーサン、他
データ:製作国スペイン=フランス、2025年、スペイン語、ドラマ、97分、配給権:国際はベルギーのベストフレンド・フォーエバー
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭併催の第64回「批評家週間」にノミネート、SACDの脚本賞受賞
キャスト:アントニオ・フェルナンデス・ガバレ(トニ)、ビラル・セドラオウィ(トニの友人)、ヘスス・フェルナンデス・シルバ(祖父)、ルイス・ベルトロ
ストーリー:マドリード郊外にあるヨーロッパ最大の不法定住地区カニャーダ・レアルに暮らす15歳のロマの少年トニの物語。スラムの住民は施政者からの立ち退きに直面しています。親友はフランスのマルセイユに引っ越すというが、屑鉄商のトニの家族は、祖父がどんな犠牲をはらってでも離れることを拒否しています。一方、両親は市から提供される住宅に移ることを希望しており、家族は二つに引き裂かれてしまっている。祖父を誇りに思っているトニは、祖父についていきたいが、取り壊しが直ぐ近くまで迫ってきている。夜が更けるにつれ電気の通っていない暗がりで、トニは不確かな未来に立ち向かうか、幼いころの伝説に満ちた世界にしがみつくかの選択を迫られる。活気に満ちた社会派ドラマ。

(スクラップ商の祖父と少年トニ)
★本作は、スペイン映画アカデミー・レジデンシアに選ばれ、ベルリナーレの脚本ラボ、トリノ・フィルム・ラボ、カンヌのシネフォンダシオン・レジデンシアの資金援助を受けて製作された。2023年、ICCAの発展プロジェクト10作の一つに選ばれ、600.000ユーロの援助を受けている。脚本共同執筆者のビクトル・アロンソ=ベルベル(バルセロナ生れ)は最初の段階から参加、監督作品としてドキュメンタリー「Clase valiente」(17、ガウディ賞ノミネート)を撮っている。撮影監督のルイ・ポサス(ポルト生れ)は、昨年のカンヌFF 2024で監督賞を受賞したミゲル・ゴメスの「Grand Tour」(ポルトガル、邦題『グランド・ツアー』)を手掛けている。

(撮影中のガロエ監督と撮影監督のルイ・ポサス)
★監督紹介:ギジェルモ・ガロエ(本名 Guillermo García López ギジェルモ・ガルシア・ロペス)、1985年マドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督。マドリードのコンプルテンセ大学視聴覚コミュニケーション卒、最初建築家を目指していたが、直ぐにオーディオビジュアルの世界に転向した。TVEでドキュメンタリー製作に従事した。最初の長編ドキュメンタリー「Frágil equilibrio」(後述)を発表する。2020年、ジローナ芸術プリンセス賞を受賞している。
★ガロエ監督と言えば、先述した「Aunque es de noche」(15分)に尽きます。カンヌ映画祭を皮切りに多くの国際映画祭の受賞歴を誇っている。ゴヤ賞の他、サンセバスチャン映画祭サバルテギ-タバカレア部門ノミネート、アルカラ・デ・エナレス短編映画祭2024の短編賞と男優賞(主演のアントニオ・フェルナンデス・ガバレ)受賞、アルメリア映画祭2023の監督賞、イベロアメリカ短編FF主演男優賞(アントニオ・フェルナンデス・ガバレ)、フォルケ賞2023短編映画賞、メディナ映画祭撮影賞などをそれぞれ受賞している。この短編の延長線上にあるのが長編デビュー作である「Ciudad sin sueño」です。

(短編「Aunque es de noche」のポスター)
★2022年「Lo-Tech Reality」(米西仏合作、SF、8分)ビルバオ・ドキュメンタリー&短編映画祭2022、バレンシア・シネマ・ジュピター映画祭2023などでノミネート。ポルトガルのマリアナ・バルトロと共同監督したポルトガル映画「As Gaivotas Certam o Céu / Las gaviotas gortan el cielo」(仮題「空を切り裂くカモメたち」)は、カンヌ映画祭「監督週間」2023で正式上映された後、ビスタ・クルタVista Curt 2023ユース審査員賞などを受賞した。
★ドキュメンタリー「Frágil equilibrio」は、アムステルダム・ドキュメンタリー映画祭IDFA2016でプレミアされ、バジャドリード映画祭でスペイン・ドキュメンタリー賞を受賞したほか、エジンバラ、テッサロニキ、ヒホン、各映画祭で上映され、翌年のゴヤ賞ドキュメンタリー賞を受賞している。これは最近89歳で鬼籍入りしたばかりのウルグアイの元大統領「世界で最も質素な大統領」と慕われたホセ・ムヒカの機能不全の世界についての深い洞察が語られるドキュメンタリー。他共同監督作品、クララ・ラゴ、レティシア・ドレラ、イレネ・エスコラの3女優が、それぞれ大西洋の3つの場所を訪れる内省的な旅が語られるTVドキュメンタリー「Atlánticas」(18、3話)も撮っている。従って長編デビュー作とはいえ新人監督のイメージとはほど遠い円熟した作品になっているようです。
★キャスト紹介:アントニオ・フェルナンデス・ガバレ(トニ役)は、今回のカンヌには参加しなかったようですが、ガロエの「Aunque es de noche」では13歳のトニノ少年を演じている。そのほかはアマチュアのカニャーダ・レアルの人々。監督とアントニオの相互理解なくして本作は生まれなかった。ロベルト・ロッセリーニの『ドイツ零年』(48)の主人公エドムンド少年の絶望を彷彿させる、またはトニとグレーハウンドの愛犬との堅い絆を、ケン・ローチの『ケス』(69、公開1996年)の孤独な少年とケスと名付けられたハヤブサとの絆に、トニとその友人の関係をジャン・ヴィゴの『新学期 操行ゼロ』(33、公開1946年)に出てくる寄宿学校の二人の少年の友情を思い出させるなど、多くの批評家の心を掴んだようです。祖父役のヘスス・フェルナンデス・シルバと、親友役のビラル・セドラオウィは、カンヌのフォトコールに参加していました。

(ほっそりしたグレーハウンドの愛犬とトニ)

(トニと「マルセイユに移住する」という親友)

(撮影中の監督とヘスス・フェルナンデス・シルバ)
★「批評家週間」の審査委員長がロドリゴ・ソロゴジェンということで何かの賞に絡むとは予想していました。「Screendaiiy」のジョナサン・ホランドはスラム街に暮らす人々への監督の「愛情に貫かれたまなざし、喪失、回復力、希望についての普遍的なメッセージを伝えている」とコメントし、そのほか「IndieWire」などの評価は概ねポジティブでした。
★パルムドールの結果発表もあり、オリベル・ラシェの「Sirat」が審査員賞を受賞しました。星取票が真っ二つに割れていたので、ダメかなと思っていました。他「ある視点」部門も、チリのディエゴ・セスペデスが最高賞の作品賞、コロンビアのシモン・メサ・ソトが審査員賞と上出来でした。当ブログも十年を超えましたが、こんなことは初めて、次回にアップを予定しています。
セバスティアン・レリオの新作「La Ola」カンヌプレミアに*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月21日 17:11
チリの政治的ミュージカル「La Ola」がカンヌ・プレミア部門で上映決定

★アカデミー賞2018国際長編映画賞を受賞した『ナチュラルウーマン』の監督セバスティアン・レリオの新作ミュージカル「La Ola / The Wave」が、カンヌ・プレミア部門にノミネートされました。ラライン兄弟の制作会社「ファブラ」が手掛けています。2018年にチリを席巻した女性に対する暴力に抗議する大衆デモにインスパイアされて製作されたミュージカル。音楽映画とは縁遠い印象のチリで生まれたことが興味深いですが、レリオはミュージックビデオを多数手がけています。この大衆デモはチリのフェミニスト運動を刺激し、女性の権利に関する憲法改正に繋がった。監督は「スペクタルと政治をミックスさせ、私たちが生きている政治的な不協和音を反映させようと、歌、ダンス、パフォーマンスを使って私たち全員に影響を与える緊急の問題を語るなど、ミュージカルというジャンル内で独自の働き方を見つけた。100人を超えるチリの若手アーティストを紹介できたことを誇りに思う」と「バラエティ」誌に語っている。主人公フリアに新星ダニエラ・ロペスを起用した。

(撮影中のセバスティアン・レリオ監督)
「La Ola / The Wave」
製作:Fabula / Fremantle / Participante
監督:セバスティアン・レリオ
脚本:ホセフィナ・フェルナンデス、マヌエラ・インファンテ、セバスティアン・レリオ、パロマ・サラス
音楽:アニタ(アナ)・ティジュー、カミラ・モレノ、ハビエラ・パラ、マシュー・ハーバート
撮影:ベンハミン・エチャサレタ
美術:タチアナ・モーレン
キャスティング:エドゥアルド・パシェコ
特殊効果:フアン・フランシスコ・ロサス、オスカル・リオス・キロス
製作者:フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、ロシオ・ハドゥエ、セバスティアン・レリオ、(エグゼクティブ)ロベルト・ケッセル
データ:製作国チリ=米国、2025年、スペイン語、ミュージカル・ドラマ、129分、撮影地サンティアゴ、期間9週間、配給 FilmNation Entertainment
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2025カンヌ・プレミア部門正式出品(2025年5月16日)
キャスト:ダニエラ・ロペス(フリア)、アンパロ・ノゲラ、ネストル・カンティジャーナ、タマラ・アコスタ(秘書)、スサナ・イダルゴ(ピエダッド)、アマリア・カッサイ、フロレンシア・ベルナル(レオ)、レナータ・ゴンサレス・スプラリャ、エンツォ・フェラーダ・ロサティ、アブリル・アウロラ、ルカス・サエス・コリンズ、ロラ・ブラボ、パウリナ・コルテス、ティアレ・ルス、他チリのミュージシャン多数
ストーリー:ひたむきな音楽学生であるフリアは、大学のキャンパスで盛り上がっているフェミニスト運動に参加します。多くの仲間が受けている女性への嫌がらせや虐待に抗議しようと立ち上がったグループの取りくみに賛同しているからです。抗議デモの興奮の渦のなか、フリアは友人たちと踊ったり歌ったりすることで自分自身が受けた虐待の経験を振り返ります。彼女は思いきって自分の物語を共にしようとしているなかで、思いがけず抵抗する社会で変化を求める運動の中心人物になっていることに気づきます。


(フリア役の新人ダニエラ・ロペス)
★監督紹介:セバスティアン・レリオ、1974年アルゼンチンのメンドサ生れ、2歳のとき母親の故国チリに移住、父親はアルゼンチン人だが彼の国籍はチリ。監督、脚本家、製作者、フィルム編集者。既に『ナチュラルウーマン』(17,原題「Una mujer fantástica」)や、19世紀の飢饉で荒廃したアイルランドを舞台にしたミステリー『聖なる証 あかし』(22、原題「The Wonder」)でキャリア&フィルモグラフィーは紹介しています。
*『ナチュラルウーマン』の主な作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2018年03月16日
*『聖なる証』の作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2022年12月05日
*『聖なる証』の紹介記事は、コチラ⇒2022年08月06日

(ダニエラ・ベガを配したスペイン語版ポスター)
★長編デビュー作「La Sagrada Familia」は養父の苗字カンポスでクレジットされている。サンセバスチャン映画祭2005でプレミアされ、その後、国際映画祭巡りをして国内外の受賞歴多数。ラテンビート映画祭2006で『聖家族』の邦題で上映された。本作の主人公は新作「La Ola」に出演しているネストル・カンティジャーナである。2作目が「Navidad」(カンヌ映画祭2009)、3作目「El año del tígre」(11)、4作目が国際的に多くの観客の共感を呼んだ「Gloria」(13)で、主演のパウリナ・ガルシアがベルリン映画祭で主演女優賞を受賞し、『グロリアの青春』の邦題で公開された。本作はジュリアン・ムーアをヒロインに2018年、米国で「Gloria Bell」としてリメイクされ、『グロリア 永遠の青春』として公開された。他に2017年、正統派ユダヤ教のコミュニティを舞台にした二人のレスビアンの信仰と性を描いた「Disobedience」(邦題『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』)、チリにオスカー像を運んできた『ナチュラルウーマン』、前作『聖なる証』、9作目となる「La Ola」となる。チリ映画としては字幕入りで観ることのできた幸運な監督の一人です。

(オスカー像を手にしたセバスティアン・レリオ)
★共同脚本家のマヌエラ・インファンテは、「私が大学の教師をしていたとき、約100人くらいの女子学生が本館を包囲しました。私は彼女たちから多くのことを学んだのです。そのときの経験を実際に取り入れました。フェミニストの蜂起の後に何が起こるかは、この映画の基礎の一部です」と回想している。レリオは「ポスト#MeToo 時代の相互合意、個人または集団の声の政治的可能性について話すというアイデアに魅了されている」。世界を変えることを決意した仮面の女性のバンドが酔わせる力を通じて、変化の緊急性と現状との衝突を探求している。
★ミュージシャン紹介:アニタ(アナ)・ティジューは、フランスのリール生れ(1977)、作曲家、ミュージシャン、俳優、ラテン・グラミー賞、TVシリーズ「La Jauría」(全16話、19~22)に女優としてエピソード5話に出演している。ハビエラ・パラは、ララインの『NO ノー』(12)、ゴンサロ・フスティニアノの「B-Happy」(03)を手掛けている。カミラ・モレノは「ファブラ」が最初にプロデュースしたTVシリーズ「Prófugos」(「逃亡者」26話、11~13)、ビデオクリップ「Camila Moreno: Millones」(09)作曲家、女優でもある。そして『ナチュラルウーマン』や『聖なる証』のマシュー・ハーバートが統率している。
★スタッフ紹介:パブロ & フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟が2004年に設立した「ファブラ」は、世界的な制作、配給事業を展開しているフリーマントルとファーストルックと契約を結び、チリだけでなく資金不足に苦しんでいるラテンアメリカ諸国のシネアストたちに資金提供をして、ラテンアメリカで最も映画を量産している制作会社です。パブロ・ララインの監督キャリア&フィルモグラフィーについては度々アップしているので割愛します。今回は製作者としてどんな作品を手掛けているか紹介したい。チリは右も左も上流階級は保守的と揶揄されるお国柄ですが、ラライン家は上流階級に属し、チリでは知らない人はいないと言われる政治家一家です。若いシネアスト育成にも資金援助を惜しまないのは褒めてもいい。

(『グロリアの青春』主演のパウリナ・ガルシア)
★自作以外に手掛けた映画は、セバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』以下、「El año del tígre」、『グロリアの青春』、『グロリア 永遠の青春』、オスカル・ゴドイの「Ulises」(11)、マリアリー・リバスの「Joven y alocada」(12、『ダニエラ 17歳の本能』DVD)、チリの不寛容に見切りをつけてアメリカに移住してしまったセバスティアン・シルバの「Crystal Fairy y el cactus mágico」(13、『クリスタル・フェアリー』ラテンビート)、「Nasty Baby」(15)、セバスティアン・セプルべダの「Las Niñas Quispe」(13)は、ベネチア映画祭2013の「批評家週間」でプレミアされ、撮影監督のインティ・プリオネスが撮影賞を受賞するなど受賞歴多数。1974年にチリの高地で羊飼いをして暮らす三姉妹に起きた悲劇的な実話に基づいている。

(セバスティアン・シルバの『クリスタル・フェアリー』)
★『83歳のやさしいスパイ』でブレイクしたマイテ・アルベルディのドキュメンタリー「La memoria infinita」(23、『エターナルメモリー』)、続く彼女のフィクション第1作「El lugar de la otra」(24、『イン・ハー・プレイス』)、アクションものでは、アレクサンダー・ウィットの「Sayen: La ruta seca」(23、『サイエン 死の砂漠』)、「Sayen: La cazadora」(24、『サイエン 最後の戦い』)、2020年の新型コロナウイルス感染で身動きできなくなっていたときに手掛けた短編コレクション『HOMEMADE ホームメード』、ガスパル・アンティーリョの「Nadie sabe que estoy aqui」(『誰も知らない僕の歌』)をトライベッカ映画祭2020(オンライン上映)でデビューさせたことなどは、あまり知られていないと思います。アンティーリョはニュー・ナラティブ部門の監督賞を受賞しています。共同脚本家のホセフィナ・フェルナンデスが脚本を監督と共同執筆している他、「ファブラ」のTVシリーズを手掛けている。「ホームメード」にはレリオも参加しています。『エターナルメモリー』、『イン・ハー・プレイス』は、紹介記事をアップしています。
*『HOMEMADE ホームメード』の紹介記事は、コチラ⇒2020年07月12日
*「Nadie sabe que estoy aqui」の作品紹介は、コチラ⇒2020年05月11日

(マイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』)
★2020年代から量産しているのがTVシリーズ、アントニア・セヘルスやダニエラ・ベガを主軸「La Jauría」(16話、19~22)、メキシコの「Señorita 89」(全8話、22~24)は、ミス・メキシコ・コンテストを巡るドラマ、「42 Días en la Oscuridad」(6話、22,『暗闇の42日間』)には、アンパロ・ノゲラ、ネストル・カンティジャーナが味のある演技をしている。2015年のFIFA 汚職スキャンダルの根底にある実際の陰謀を探るコメディ「El Presidente」(16話、20~22、『腐敗のゲーム~エル・プレシデンテ』)、カリスマ的なスケーターである若い強盗の犯罪ドラマ「Baby Bandito」(8話、24、『ベビー・バンディートの信じられない話』)などがある。
★最新作はメキシコの「Familia de medianoche」(10話、24、『ミッドナイト・ファミリー 真夜中の救急隊』)は毀誉褒貶で、くだらないアメリカ製の医療ドラマよりよほど優れていると高評価の半面、インスパイアされたルーク・ローレンツェンのドキュメンタリー「Midnight Family」(19、『ミッドナイト・ファミリー』)を1作見るだけで充分という評もある。このドキュメンタリーは国際映画祭のドキュメンタリー部門を制覇している。ドキュメンタリーとTVシリーズを比較しても始まらないが、TVシリーズのだらだら引き伸ばしが癇に障る人にはお奨めできない。
★「ファブラ」の紹介が長くなりましたが、チリと言わずラテンアメリカで最も重要な制作会社です。ラライン兄弟とセバスティアン・レリオの共通項は〈威厳をもった不服従〉とでも言っておきましょうか。ラライン監督は、「El Conde」(23、『伯爵』)に続いて、世紀の歌姫マリア・カラスの晩年を描いた「Maria」がベネチア映画祭2024にノミネートされた。Netflix 作品だが日本語版はないようです。「9.11」以後のアメリカが舞台の新作「The True American」(英語)がアナウンスされている。

(パブロ&フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟)
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