カンヌ映画祭欠席に関するエリセ監督の公開書簡*カンヌ映画祭2023 ― 2023年05月30日 14:16
泥沼化の様相を示しはじめた両者の言い分
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(特別ゲストのジェーン・フォンダからトロフィを受けとったジュスティーヌ・トリエ)
★5月27日、カンヌ映画祭はパルムドールにジュスティーヌ・トリエのスリラー「Anatomy of a Fall」(仏)を選んで閉幕しました。女性監督の受賞は76回にして3人目(!)。是枝チームの『怪物』も脚本賞(坂元裕二)とクィア・パルム賞(是枝裕和)を受賞、ヴィム・ヴェンダースの「Perfect Days」(日本)に公衆トイレの清掃員役で主演した役所広司が男優賞を受賞するなど、日本勢には収穫のあるカンヌでした。坂元氏は帰国しており、監督が代理で受け取った。スペインはコンペティション部門ノミネートはありませんでしたが、カンヌFF併催の「監督週間」にノミネートされていたエレナ・マルティン・ヒメノの「Creatura」が、2003年に新設された「最優秀ヨーロッパ映画賞」を受賞しました。
*「Creatura」の作品紹介は、コチラ⇒2023年05月22日
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(脚本賞を代理で受け取った是枝監督と男優賞受賞の役所広司)
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(帰国した監督からトロフィを受け取った坂元裕二)
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(赤いドレスがエレナ・マルティン・ヒメノ監督、カンヌFF5月22日)
★スペインでは5月24日に、ビクトル・エリセ監督のカンヌ欠席の続報がエル・パイス紙に掲載され、何やら不穏な空気が漂っています。誰もが予想したように矢張り見解の相違というか舞台ウラのゴタゴタがあったようです。というのもエリセ監督が「カンヌ映画祭欠席についての公開書簡」をエル・パイスに寄稿したことで明るみに出ました。書簡の大要は、選考システムに疑問を呈しているのではなく、「Cerrar los ojos」(スペイン、アルゼンチン)がどのセクションで上映されるのかについてのカンヌ側の、具体的には総代表ティエリー・フレモーの情報不足を問題にしています。しかしカンヌの主催者はエリセとの対話の欠如を否定して、公開書簡に「私たちは驚いています」と反応した。
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★書簡の要点は以下の通り(文責&ゴチック体は管理人):
*カンヌへの欠席は、4月28日にティエリー・フレモー宛に手紙で伝えている。
*コンペティション関係者の情報筋の話として、「Cerrar los ojos」をコンペに含めなかったのは、本作が「完成していなかったから」というものでした。しかしそれは間違いです。
*3月24日、映画の最終カットを含む QuickTime でカンヌの選考委員会に作品を送ったが、etalonaje digital(作品全体のトーン決定や前後のカットの色味を合わせること)に対応する補正は行われていなかった。・・・これは進行中の作品においては一般的なことで、選考委員会によって受け入れられた。
*その後、DCP(デジタル・シネマ・パッケージ、デジタルで上映する際の標準的な配信形式)が収録され、パラシオ・デ・フェスティバルで上映された。従って、数日前まで「完成」していなかったため委員会が見ることができなかったと断言したり、それが理由でコンペに入らなかったと言うのは誤りです。カンヌ・プルミェール部門上映が準備できていたなら、どうしてコンペ部門に間に合わなかったのかと疑問に思う人は少なくないでしょう。
管理人:4月13日、コンペティション部門とカンヌ・プルミェール部門は同日発表された。以上が書簡の前半部分です。しかしエリセの主張するように対話不足があっても選ばれていたら・・・と考えると心境は複雑です。
*コンペティション部門の決定を待っていた3月から4月にかけて、「監督週間」の総代表ジュリアン・レジル氏とフランス専門批評学部長ジャン・ナルボーニ氏から「監督週間」の特別セッションでの上映を提案された。直ぐにティエリー・フレモーに手紙を認め、コンペに選ばれない場合には、他の選択肢を検討できるよう事前に知らせてくれと伝えました。これは慣例です。カンヌの「監督週間」、またはカンヌ以外のロカルノ、ベネチア映画祭を検討したいからです。しかし一向に梨のつぶてでした。
*最終的な結果を4月13日朝の公式プレス会見で私は初めて知りました。最初に書いた通り4月28日、プレゼンテーションに出席しない理由を説明した手紙でフレモーに伝えました。
*コンペティション部門に選ばれなかったことに対する抗議や拒絶とはほとんど無関係です。
★エリセは「監督週間」にも作品を送っていたことになり、当委員会が数週間も「プロトコルの時間がなくなるまで、提案を保ち続けた」とも書いている。「この特別セッションには前例があり、それはフランシス・フォード・コッポラである」ともエリセは書いている。カンヌ側の公式発表は、コンペティションに含めないという決定は「通常のルート内で行われた」と回答し、エリセが主張している対話の欠如はなかったとした。論点がずれて嚙み合いませんね、監督は選考システムに疑問を呈しているわけではないからです。こういう泥仕合は楽しくありませんから終わりにしますが、今後に禍根を残さないか、特にこれから始まるサンセバスチャン映画祭SSIFFが気になります。ここ数年フレモー氏はこのスペインの映画祭に欠かさず足を運んでいるからです。
★カンヌのセクションには、コンペティション、特別セッション、コンペティション外、カンヌ・プルミェール、新人枠の「ある視点」などに分かれていますが、コンペとコンペ以外では数段の差があります。ですから4月13日の発表前にエリセの新作を観ていたスペインの批評家、海外メディア関係者に動揺が走ったそうです。当然コンペに選ばれると思っていたからでしょうか。ノミネートされた「カンヌ・プルミェール」部門は、2021年新設されたもので上映回数もたったの2回、ワールドプレミアこそドビュッシー劇場でしたが、2回目は車での移動が必要だったそうです。
★SSIFFの代表ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノス氏は、「選考プロセスは、監督でなく製作者と話し合います。映画祭のプログラマーは、映画の販売権を持っている人物と必ず面会する。その人物が監督であることは殆どない。しかしエリセのケースでは彼も共同プロデューサーであるから、この言い訳は通用しません」と、エル・パイスに語っている。選考委員会は映画祭の規模によりさまざまだそうで、SSIFFの場合は「12人で構成」されている。レボルディノス氏は、カンヌが受け取った作品の数を知るには、「昨年SSIFFで3990本、そのうち短編が600本だったと言えば十分でしょう」とコメントした。コロナ下でもすごい数です。カンヌは桁が違うのでしょう。
★コンペに選ばれる作品は「フランスとの強い繋がりがあるのは明らか、フランスとの共同製作か、フランスの販売代理店が背後にいるかのどちらか」とアルベルト・セラ。昨年コンペ入りした彼の新作『パシフィクション』は、フランスとの共同製作、言語もフランス語と英語でした。ロドリゴ・ソロゴジェンの『ザ・ビースト』は、フランスとの合作でしたが、エリセと同じカンヌ・プルミェール部門でした。因みに前回のパルムドールは、スウェーデンのリューベン・オストルンドの『逆転のトライアングル』、これもフランスとの合作、芸術性が大切なのは当たり前ですが産業も考慮しなければ勝ち残れません。個人的には鑑賞できればよいのですが、時間が少しかかるかもしれません。カンヌは終わりにしてサンセバスチャン映画祭(9月22日~30日)の情報を発信する予定です。
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